説明

放散による化学物質の発生部位の探索装置

【課題】、構造が単純で1個当たりの製造コストが嵩まない上後処理も容易で、しかも化学物質の捕集効率が良く発生部位の探索を容易にするものは従来無かった。
【解決手段】支持具21のベース部23と閉鎖カバー3の本体5は磁性体で構成され、固定具は閉鎖カバー及び支持具の磁性体との間に磁気吸引作用を発生させる磁石29で構成されており、閉鎖カバー3の本体5の外面と内面の対向する位置に磁石29と支持具21のベース部23がそれぞれ当接されると、磁気吸引作用により支持具21が閉鎖カバー3に固定され、しかも拡散サンプラー15はその軸方向が閉鎖カバー3の開口部9に略平行に支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般住宅の天井や側壁などから空気中に放散された化学物質の発生部位を探索するのに便利な装置に係り、特に、拡散サンプラーを利用して化学物質の発生部位を探索する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、一般住宅の天井や側壁などの建材には、人体に有害なホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのカルボニル化合物や、トルエン、キシレンなどの揮発性有機化合物が含まれているものが使用されている場合がある。
最近の気密性の高い住宅では、これらの化学物質は室内の空気中に一旦放散されてしまうと、長く室内に浮遊してしまうことになる。
そのため、先ずそれら化学物質の発生部位を探索し、次に天井、側壁、床、家具等の発生部位に対応した低減化対策を採ることが求められている。
【0003】
而して、従来は、吸引ポンプを利用して広い範囲の空気を吸引して空気中の化学物質を捕集していており、この方法では捕集された化学物質の発生部位を探索することは困難である。
また、公定法として、側壁などを構成する建材の小片をチャンバーに入れ、空気を当該チャンバーに連続的に送り込むことにより、その小片から放散された化学物質の同定と濃度測定をする方法が規定されているが、この方法ではチャンバーに送り込む空気の流量をポンプにより高度に制御しなければならず、装置が大掛かりになりコスト増を招くだけでなく、そもそも、一般住宅の壁材などの一部を切除して測定用の小片をつくることなどはできない。
【0004】
最近では、吸引ポンプを使用しないで化学物質を捕集できるよう、ガス状の化学物質の拡散現象を利用して捕集する拡散サンプラーが利用されている。
例えば、特許文献1には、ケーシングの開口部を側壁などの建材に当接して閉鎖すると共に、そのケーシングの内部に上記した拡散サンプラーを配置して、当該ケーシングの開口部に対向する建材部分から空気中に放散された化学物質を選択的に捕集する方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2002−122521号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の方法を実施するために提案されている捕集装置は、化学物質の放散速度を算出することを最終目的としているため、棒状の拡散サンプラーをケーシングに一体に形成された幅狭の筒状部に挿入させて当該ケーシングの内部に差し入れる比較的複雑な構造になっており、装置の1つ当たりの製造コストが嵩む。また、捕集作業後にその幅狭の筒状部に吸着してしまった化学物質を洗浄等の後処理により完全に除去するのは簡単ではなく、その化学物質の残留汚染の危険性が出てくる。
的確な発生部位の探索用には、多数の部位に捕集装置を同時に設置して化学物質を捕集することが求められるが、上記した製造コスト面や再利用面を考慮すると、上記したような捕集装置を発生部位の探索用に安易に使用するのは躊躇される。
【0007】
さらに、ケーシング内で拡散サンプラーは検出部位の平面に対して垂直に吊下げ支持されており、化学物質の発生部位からの放散方向に対して拡散サンプラーの拡散・捕集方向が垂直に交差してしまう。加えて、ケーシングには有る程度の高さが必要になり、その結果開口部の面積に対する高さが相対的に大きくなり、化学物質の発生面積に対して放散空間が大きくなってしまう。
その結果、化学物質の捕集効率が悪くなり、発生部位を探索するのに高精度の微量分析が必要となる。
【0008】
それ故、本発明は、上記した課題を解決するために、構造が単純で1個当たりの製造コストが嵩まない上後処理も容易で、しかも化学物質の捕集効率が良く発生部位の探索を容易にする、新規且つ有用な探索装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、空気中に放散されている化学物質を拡散現象を利用して捕集する棒状の拡散サンプラーと、逆さカップ状をなし下端開口部が検出部位の平面に当接されると内部に三次元閉鎖空間を生成する閉鎖カバーと、前記サンプラーを支持する支持部と前記支持部に接続され前記閉鎖カバーの内面に当接されるベース部を有する支持具と、前記支持具を前記閉鎖カバーの内面に対して当接した状態で固定する固定具とを備えた放散による化学物質の発生部位の探索装置において、前記支持具のベース部と当該ベース部が当接される閉鎖カバー部分は磁性体で構成され、前記固定具は前記閉鎖カバー及び支持具の磁性体との間に磁気吸引作用を発生させる磁性体で構成されており、前記閉鎖カバーの外面と内面の対向する位置に前記固定具と前記支持具がそれぞれ当接されると、磁気吸引作用により前記支持具が前記閉鎖カバーに固定され、しかも前記サンプラーはその軸方向が前記閉鎖カバーの開口部に略平行に支持されることを特徴とする探索装置である。
【0010】
請求項2の発明は、請求項1に記載した放散による化学物質の発生部位の探索装置において、固定具の磁性体は永久磁石で構成されていることを特徴とする探索装置である。
【0011】
請求項3の発明は、請求項1または2に記載した放散による化学物質の発生部位の探索装置において、支持具の支持部はベース部から略垂直に下方に延びる2つのアームを含み、サンプラーは前記アームにより着脱自在に吊り下げ支持されることを特徴とする探索装置である。
【0012】
請求項4の発明は、請求項3に記載した放散による化学物質の発生部位の探索装置において、アームの下端はループ状の吊り下げ用係止部となっており、棒状サンプラーはその係止部に着脱自在に挿通されて係止されることを特徴とする探索装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の放散による化学物質の発生部位の探索装置は、構造が単純で1個当たりの製造コストが嵩まない上後処理も容易で、しかも化学物質の捕集効率が良く発生部位の探索を容易にするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態に係る放散による化学物質の探索装置1の構造を、図面に従って説明する。
図1は探索装置1の使用時の全体の斜視図を示し、図2は分解斜視図を示す。
符号3は逆カップ状の閉鎖カバーを示し、その本体5は薄肉で背の低い略矩形に一体成型されている。その天井7は略扁平になっており、外縁部分は丸みが付けられている。また、本体5の下端開口部9をなす環状縁は天井7と略平行になっている。サイズ的には、縦横10cm程度、高さ4cm程度である。
本体5は磁性ステンレス鋼材により構成されている。ステンレス鋼材は化学物質が比較的吸着し難いことから利用されている。
符号11は環状のポリエチレン製パッキンを示す。なお、素材であるポリエチレン材は化学物質の放散が無いため採用されており、化学物質の放散が無ければ他の素材であってもよい。このパッキン11の断面は略L形になっており、下面13は平坦な平面状になっている。パッキン11の内周側凹部に本体5の下端開口部9の環状縁が着脱自在に内嵌されて環状カバー3をなしている。
【0015】
符号15は拡散サンプラー、略してサンプラーを示し、このサンプラー15は円柱(棒)状をなす外観のカートリッジ式フィルターである。このサンプラー15は化学物質として主にホルムアルデヒドを捕集することを目的とするものであり、露出している外周部分17は多孔質膜で構成され、内部にはジニトロフェニルヒドラジン含浸シリカゲル(粒状)が詰められている。また、サンプラー15の軸方向両端はキャップ19により封止められている。
なお、上記したカートリッジ式フィルター自体は市販されているものをそのまま使用できる。室内に化学物質が放散されているか否かを測定するために、従来から、室内の適当な場所に一定時間放置するような使い方がなされている。
【0016】
符号21は支持具を示し、この支持具21は金属製のベース部23と2つのアーム(支持部)25とが一体に形成されている。
ベース部23は薄板で帯状に形成されている。
2つのアーム25は同じ形状に構成されており、ベース部23の下面の両端付近からそれぞれ下方に垂直に延びており、その下端はループ状の吊り上げ用係止部27になっている。ベース部23とアーム25は半田付けにより連結され一体になっている。
支持具21のうちベース部23は鉄材にクロムメッキ処理された磁性体材で構成されている。
【0017】
符号29は円板状磁石を示し、この磁石29は永久磁石で構成されている。永久磁石の磁性は、閉鎖カバー3の本体5を構成する磁性ステンレス鋼材や支持具21のベース部23を構成する鉄材に近づくとそれらとの間に磁気吸引作用を発生させるものであればよく、素材の種類は問わない。
【0018】
次に、探索装置1を使用した発生部位の探索方法を説明する。
先ず、支持具21のアーム25のループ状係止部27にサンプラー15を挿通させる。サンプラー15は可撓性を有するので、図3に示すように、キャップ19を一旦抜いて、サンプラー15を係止部27に差し入れた後に再びキャップ19を嵌めることで、サンプラー15を支持させる。
支持時にはサンプラー15はベース部23から離間した位置に支持されており、サンプラー15の外周部分17は全周方向に開放、即ち露出されている。
また、サンプラー15の軸方向(X−X)は支持具21のベース部23の長手方向に略平行になっている。
【0019】
次に、サンプラー15が支持された状態のまま支持具21のベース部23を閉鎖カバー3の本体5の天井7の内面に当接させると共に、そのベース部23と天井7を介して対向するよう、円板状磁石29を天井7の外面に当接させる。円板状磁石29を当接させると、円板状磁石29の接近による磁気吸引作用の発生により、支持具21のベース部23は閉鎖カバー3の本体5の天井7に固定される。
【0020】
図4は、支持具21の固定後に閉鎖カバー3を逆さカップ状にして机31に載置された状態を示す。
この図から明らかなように、載置されただけの状態でも、閉鎖カバー3の下面をなすパッキン11の下面13と机31の上面33との間に隙間は生じていない。また、サンプラー15の軸方向(X−X)は閉鎖カバー3の下面をなすパッキン11の下面13と略平行になっている。即ち、机31の上面33に対してサンプラー15が水平になっている。
【0021】
上記の作業をした後に、探索対象である化学物質、この実施の形態ではホルムアルデヒド(A)の発生部位と疑われる部位(検出部位)、閉鎖カバー3のパッキン11の底面13が当接するよう、設置する。
図5は机31に設置した例を示す。この例では、不用意に移動するのを避けるために、C字状の錘35を閉鎖カバー3上に載せている。
図6は側壁37に設置した例を示す。この例では、4個の金具39を使用する。金具39はベース面の一端部から斜め上方に小片部が立ち上がっており、小片部とベース面との間に谷部が形成されている。金具39のベース面を図示しない両面テープを介して側壁37に貼り付け、対向配置された金具39のそれぞれの谷部に輪ゴム41を掛け渡して閉鎖カバー3を輪ゴム41の付勢力を利用して側壁37側に押し付けることにより固定している。
図7は天井43に設置した例を示す。この例では、閉鎖カバー3に突っ張り棒のような棒45を当てて固定している。
いずれの設置態様でも、閉鎖カバー3の金属製の本体5ではなく、プラスチック製のパッキン11が机31などに当接するので設置や取り外し時に不用意に机31などを傷つける恐れはない。
なお、上記の設置例を示す図では、視認上の便宜のために、1個ずつしか探索装置1が設置されていないが、通常は、机、側壁、天井などの適当な部位(平面)に間隔を適当にあけながら多数設置する。
【0022】
上記した図5から図7のいずれの設置例でも、サンプラー15の軸方向(X−X)は、机31、側壁37、天井43の当接面に対して平行になっている。
上記のように検出部位に閉鎖カバー3が当接されると、図8に示すように、閉鎖カバー3と当接した検出部位47とにより画定される三次元閉鎖空間49が形成される。パッキン11の下面13と机31の上面33などの検出部位の平面は面接触しており、しかも錘29などの押し付け部材が併用されていることから、この閉鎖区間49の閉鎖性、即ち気密性は高い。
【0023】
閉鎖空間49の局所空気中には検出部位47からホルムアルデヒド(A)が放散された場合にはその放散されたホルムアルデヒド(A)が浮遊するが、それ以外の部位からホルムアルデヒド(A)が放散されてもその閉鎖空間49には侵入してこない。
また、ホルムアルデヒド(A)のような化学物質は発生部位の平面から主に垂直に上昇しながら放散していくが、サンプラー15が検出部位47の平面に水平に支持されているので、矢印に示すような放散方向と捕集方向(半径)とが一致する。しかも、サンプラー15の外周部分17は全周にわたって閉鎖空間49内に開放されている。従って、閉鎖空間49内の局所空気に含まれるホルムアルデヒド(A)を歩留まり良く捕集できる。
【0024】
探索装置1を所定の時間設置して捕集作業を終了すると、サンプラー15を支持具21から取り外した後に、定法によりサンプラー15内からジニトロフェニルヒドラジン含浸シリカゲル(粒状)を取り出し、溶媒によりホルムアルデヒド(A)の抽出操作を行い、ホルムアルデヒド(A)の量を測定し、その量の多かった部位を発生部位と推定することになる。上記の作業により、発生部位の探索作業は終了する。
一方、閉鎖カバー3の本体5と支持具21は個々に洗浄・加熱処理を行って吸着した化学物質を除去し、次の捕集作業に備える。閉鎖カバー3の本体5は単純な箱形で凹凸も無く、支持具21も比較的単純な構造をしており、いずれのサイズも小さい。従って、洗浄や加熱処理は容易である。
【0025】
以上、本発明の実施の形態について詳述してきたが、具体的構成は、この実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
例えば、サンプラーの種類は捕集目的の化学物質に対応して選択されるものであり、ジニトロフェニルヒドラジン含浸シリカゲル(粒状)カートリッジ以外にも、活性炭カートリッジなど種々のものを利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
化学物質の発生部位を探索するためには、発生部位と思わしき部位毎に装置を設置する必要があり、作業効率を考慮すれば、一度に多数の装置を設置することになる。従って、装置の構成パーツを最小限に抑えて1個当たりのコストを抑えると共に、繰り返し使用できることが求められる。
本発明の探索装置は、上記した求めに答えることができるものである。
また、本発明の探索装置は、サイズも小さく軽量であり、搬送し易く、しかも現場での設置作業や取り外し作業が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る放散による化学物質の発生部位の探索装置の全体の斜視図である。
【図2】図1の探索装置の分解斜視図である。
【図3】支持具へのサンプラーの取り付け方法の説明図である。
【図4】図1の探索装置の断面図である。
【図5】図1の探索装置の設置例を示す図である。
【図6】図1の探索装置の設置例を示す図である。
【図7】図1の探索装置の設置例を示す図である。
【図8】図1の探索装置による捕集メカニズムの説明図である。
【符号の説明】
【0028】
1‥‥放散による化学物質の探索装置
3‥‥閉鎖カバー 5‥‥本体
7‥‥天井 9‥‥開口部
11‥‥パッキン 13‥‥下面
15‥‥拡散サンプラー 17‥‥外周部分
19‥‥キャップ 21‥‥支持具
23‥‥ベース部 25‥‥アーム
27‥‥吊下げ用係止部 29‥‥円板状磁石
31‥‥机 33‥‥上面
35‥‥錘 37‥‥側壁
39‥‥金具 41‥‥輪ゴム
43‥‥天井 45‥‥棒
47‥‥検出部位 49‥‥三次元閉鎖空間
X−X‥‥サンプラーの軸方向
A‥‥ホルムアルデヒド(放散された化学物質)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中に放散されている化学物質を拡散現象を利用して捕集する棒状の拡散サンプラーと、逆さカップ状をなし下端開口部が検出部位の平面に当接されると内部に三次元閉鎖空間を生成する閉鎖カバーと、前記サンプラーを支持する支持部と前記閉鎖カバーの内面に当接されるベース部を有する支持具と、前記支持具を前記閉鎖カバーの内面に対して当接した状態で固定する固定具とを備えた放散による化学物質の発生部位の探索装置において、
前記支持具のベース部と当該ベース部が当接される閉鎖カバー部分は磁性体で構成され、前記固定具は前記閉鎖カバー及び支持具の磁性体との間に磁気吸引作用を発生させる磁性体で構成されており、
前記閉鎖カバーの外面と内面の対向する位置に前記固定具と前記支持具がそれぞれ当接されると、磁気吸引作用により前記支持具が前記閉鎖カバーに固定され、しかも前記サンプラーはその軸方向が前記閉鎖カバーの開口部に略平行に支持されることを特徴とする探索装置。
【請求項2】
請求項1に記載した放散による化学物質の発生部位の探索装置において、固定具の磁性体は永久磁石で構成されていることを特徴とする探索装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載した放散による化学物質の発生部位の探索装置において、支持具の支持部はベース部から略垂直に下方に延びる2つのアームを含み、サンプラーは前記アームにより着脱自在に吊り下げ支持されることを特徴とする探索装置。
【請求項4】
請求項3に記載した放散による化学物質の発生部位の探索装置において、アームの下端はループ状の吊り下げ用係止部となっており、棒状サンプラーはその係止部に着脱自在に挿通されて係止されることを特徴とする探索装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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