説明

放散ガス排出装置及び放散ガス捕集方法

【課題】試料から放散される極性化合物の評価において高感度、且つ高精度な評価装置及び方法を提供することを目的とする。
【解決手段】収納容器2をガラス状カーボン製とし、収納容器2内に試料1を設置し、これにキャリアガスを導入し、収納容器2からキャリアガスを排出し、排出ガス中の試料1から放散された極性化合物を測定する。次に、試料1を収納容器2から取り出し、収納容器2を加熱して容器内面に吸着している残留極性化合物を放出してこれを測定する。この方法によれば、試料1から放散される極性化合物の高感度且つ高精度な測定が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放散ガス排出装置及び放散ガス捕集方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の最先端半導体素子の開発において、半導体素子の製造環境や保管する環境中の汚染を低減する必要性が高まっている。そのため、例えばクリーンルームや、住居などの建物の中に残留したり、時間の経過とともに空気中に放散される化学物質の成分等を測定することが重要となっている。
【0003】
例えば、建築部材から放散されるガス(以下放散ガスという)を捕集し、放散ガス中の有機化合物等を評価する方法として、容器に建築部材を設置し、清浄ガスを容器内に導入した後、容器を所定の温度で加熱して、試料からの放散ガスを採取し測定する方法が知られている。
【0004】
例えば特許文献1では試料を炉で高温加熱することにより吸着した有機化合物を試料から放散させ、更に放散ガスを捕集するためのトラップ管に濃縮させると共に、トラップ管の加熱によりトラップ管に吸着した有機化合物を脱着させる方法が開示されている。
【0005】
このように分析の対象とする試料を収納する容器には(以下収納容器という)ステンレス、あるいはガラス、石英等の容器が従来用いられていた。しかし、このような材料を使用した収納容器の場合、放散ガス成分の一部、特に極性化合物が収納容器などの内面に吸着するという問題があった。
【0006】
更に、収納容器内面に吸着した放散ガスの脱着のために加熱を行う(以下熱脱着という)場合に、例えば、石英などを使用した従来の収納容器を使用すると、吸着している放散ガスが加熱によって変性してしまい、測定を困難にすることがある。特に微量な分析を行う場合には、放散ガスが収納容器の表面に吸着したり、加熱によって変性したりすることで分析結果に多大な影響を与え、分析の精度が著しく低下するという問題があった。
【特許文献1】特開2000−187027公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、試料からの放散ガスを測定する微量分析等の使用に適した、収納容器に残留する放散ガス量の少ない放散ガス排出装置及び放散ガス捕集方法を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明による放散ガス排出装置は、捕集剤に通じる排出口を有し、試料を収納するガラス状カーボン製の収納容器と、前記試料から放散する放散ガスを前記排出口から排出させる排出手段と、前記試料を取り出した後の前記収納容器を加熱する加熱手段とを有することを特徴とする。
【0009】
また、前記試料からの前記放散ガスは極性化合物であることが好ましい。
【0010】
本発明による放散ガス捕集方法は、ガラス状カーボン製の収納容器内に収納される試料から揮発性の放散ガスを放散させる工程と、前記収納容器内の前記放散ガスを排出させる工程と、排出された前記放散ガスを捕集する工程と、前記試料を取り出した前記収納容器を加熱し、前記収納容器内面に残留する前記放散ガスの残留ガスを排出し、排出された前記残留ガスを捕集する工程とを有することを特徴とする。
【0011】
また、前記放散ガスは極性化合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、試料からの放散ガスを測定する微量分析等の使用に適した、収納容器に残留する放散ガス量の少ない放散ガス排出装置及び放散ガス捕集方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明者らは、試料からの放散ガス、特に極性化合物を含む放散ガスがガラス状カーボン表面へ吸着しても脱着が容易であることに気づき、本発明に至った。
【0014】
以下に試料からの放散ガスの排出装置に関して図1を用いて説明する。
【0015】
放散ガスの排出装置は、例えば建築用の部材を試料1とし、この試料1を収納する収納容器2と、収納容器2の温度調節を行うための加熱装置3と、放散ガスの回収を促すキャリアガスを導入するためのガス導入口4と、キャリアガスを収納容器2より排出するためのガス排出口5と、排出されたキャリアガスから放散ガスを捕集するための捕集剤6を備えた捕集管7と、収納容器2内に存在するキャリアガス及び放散ガス等のガスを吸引するためのポンプ8と、収納容器2から排出させるキャリアガス等のガスの総量を測定する積算流量計9からなる。
【0016】
本実施形態において、収納容器2はガラス状カーボンを使用している。ガラス状カーボンは、収納容器2から放散ガスを熱脱着する場合に、放散ガスが収納容器2の内面に化学的に吸着しにくいという点で優れた特性を有している。収納容器2の内面に放散ガスが吸着しにくいことは、熱脱着時に変性する可能性のある放散ガスの量自体が減少するため、微量分析を行う場合に適している。
【0017】
収納容器2に使用するガラス状カーボンは表面の粗さ(Ra)0.1μm以下であることが好ましい。収納容器2は後述するように加熱して放散ガスの熱脱着を行うため、収納容器の内面の粗さ(Ra)0.1μm以下の平滑性を持たせることで、放散ガスの熱脱着性が向上する。また、収納容器は試料からの放散ガスの測定する工程において、容器の洗浄を行う場合があり、従って、容器の内部は凹凸のない平準な面を有していることで操作性がよくなり好ましい。また、外周は加熱装置3の内面に接しやすい形状であることが好ましい。
【0018】
収納容器の容量は特に限定されないが、例えば、縦30cm、横30cmの試料片を入れる場合、容量100〜200Lの収納容器を用いることが好ましい。この大きさで使用する場合、放散ガスあるいはキャリアガス等のガスを流通させることが可能となり、内部のガスが混合できる状態で試料が配置できる。その結果、放散ガスが十分排出できるようになる。例えば2cm角程度の小さな試料であれば、10〜30mLの容量の収納容器を使用することも可能である。
【0019】
また、収納容器の厚さは1mm〜10mm、好ましくは2mm〜5mmであると、容易に破損することがなく収納容器としての操作性がよく、また収納容器内に熱が伝わりやすくなり、加熱時間が短くなるために好ましい。また、容器自体の材質がガラス状カーボンのみである場合だけでなく、耐火度が1000℃から1200℃の耐火物を使用した容器を支持体とし、その内面をガラス状カーボンで被覆することで同様に微量元素量分析に適用できる。
【0020】
耐火物とは、例えば、Si34、AlN、BN、TaN、NbNのような窒化物、TaC、HfC、TiC、WC、SiC、B4Cのような炭化物、W2B、Mo32、ZrB2、TiB2、HfB2、TaB2のようなホウ化物、SiO2、Al23、ZrO2のような酸化物、MoSI2、WSi2、Zr3Si3、Ta5Si3のようなケイ化物などで、これらを立体容器に成形した容器の内表面に、ガラス状カーボンの原料を塗布し、不活性ガス中で焼成する、あるいは、立体容器表面にガラス状カーボンをスパッタリングして被覆加工するなどによって、微量分析用容器として用いることが可能である。
【0021】
また、キャリアガスを導入する導入口や排出口は他の機材と接続しやすいような形状であることが好ましい。
【0022】
加熱装置3は収納容器に吸着した放散ガスを熱脱着させるために加熱する装置で、放散ガスの揮発に要する温度、200〜500℃程度までの温度を保持できる恒温槽、例えば、ドライバス、オーブンなどを使用することが好ましい。後述するように、収納容器を加熱することによって洗浄する際にはこの加熱装置3を用いてもよい。
【0023】
キャリアガスは、試料から放散するガス(放散ガス)の捕集を促すためのガスであり、収納容器等への吸着性の低いガスならどのようなガスでもいいが、ヘリウムガス、窒素ガス、及び高純度空気を使用することが好ましい。特に、高温加熱時には、空気中に含まれる酸素により、分析の対象となる放散ガスの成分の酸化が生じることがあるため、ヘリウムガスや窒素ガスを使用することが好ましい。
【0024】
放散ガスを捕集するための捕集剤6は、例えば、ガス状物質を吸着可能な多孔質体で、具体的にはTenax(登録商標)TA、ポーラスポリマー、グラファイトカーボン、カーボンモレキュラーシーブなどが使用可能で、これらのうち数種類を多層に充填して使用しても良い。
【0025】
また、捕集剤を充填する捕集管7は300℃から400℃程度の使用温度領域における耐熱性があればよく、例えばガラス、ステンレス等を使用できる。捕集管の代わりに、フィルターホルダーや、カートリッジ式で、内部に吸着剤を備えた捕集管などで捕集することも可能である。
【0026】
キャリアガス及び放散ガス等収納容器内のガスを排出させる手段であるポンプ8は、所定の吸引圧で所定量のガスを引けるものならばどのようなものでも良く、キャリアガス等の総量を測定する積算流量計9も、所定流速を測定できる範囲のものであればどのようなものでもよい。
【0027】
次に、放散ガスの排出装置を使用した場合の捕集方法について説明する。
【0028】
まず、分析対象とする放散ガスの成分をできるだけ低減し、分析の精度を向上させるため、収納容器あるいは捕集剤を備えた捕集管を洗浄する。洗浄は加熱によって行われ(以下加熱洗浄という)、以下の手順によって行われる。
【0029】
まず、収納容器あるいは捕集管に高純度ヘリウムガスを導入した状態で加熱装置により200℃〜500℃、好ましくは、300℃〜400℃の範囲で容器を3〜4時間加熱する。その結果、使用前に収納容器内に付着する不純物が脱着され、放散ガス捕集時の不純物の混入が低減される。その後収納容器あるいは捕集管を室温まで冷却する。収納容器あるいは捕集管にキャリアガスとして高純度空気を導入し、排出されたキャリアガス中に分析に影響を与える成分が残存するか否か、分析を始める前の濃度(以下バックグラウンドという)を測定する。分析の対象とする物質のバックグラウンドが分析によって評価する濃度より十分低い場合には、加熱洗浄をした収納容器あるいは捕集管を使用して分析の操作に用いることができる。
【0030】
一方、分析によって評価する濃度より高い場合には、更に次のように洗浄する。
【0031】
まず、収納容器あるいは捕集管を硫酸と過酸化水素水の混合溶液に浸漬する。その後、収納容器あるいは捕集管を純水に浸漬し、超音波洗浄を行う。この洗浄に使用する硫酸は、硝酸または塩酸を用いて行っても良い。
【0032】
次に収納容器あるいは捕集管をメタノール、アセトンによって洗浄する。この洗浄に用いる有機溶剤はヘキサン、ジクロロメタン、アセトニトリル、テトラヒドロフランなどを使用することもできる。
【0033】
その後は再び加熱洗浄し、前述したようにバックグラウンドを測定し、分析の対象とする物質のバックグラウンドが分析によって評価する濃度より十分低いか否かの確認を行ってから使用する。
【0034】
収納容器あるいは捕集管の洗浄後すぐに使用しない場合は活性炭入りのデシケータ内で保管することが好ましい。
【0035】
放散ガスを捕集するために、捕集管に収納する捕集剤も同様に加熱洗浄をすることが好ましい。例えば、TENAX(登録商標)TAの場合、250℃〜300℃好ましくは280℃で4〜6時間、好ましくは5時間加熱洗浄をし、収納容器あるいは捕集管と同様にバックグラウンドを確認する。
【0036】
放散ガスの捕集は一般的に室温27〜29℃を基本とし、相対湿度45%〜55%で捕集され、捕集方法の詳細は次の通りである。
【0037】
例えば建築資材の一片を試料として、室温においてこの試料からの放散ガスを捕集する場合、まずこの試料を収納容器に入れ、蓋をして密閉する。試料を入れた収納容器を加熱例えばドライバス等の装置内に設置し、室温(27℃〜29℃)になるように調節しながらキャリアガス、例えば高純度空気をガス導入口から導入する。
【0038】
試料1片からの放散ガスを得るためには3〜3.5リットルのキャリアガスを収納容器へ流入させることがよく、収納容器内部に毎分50ml〜60mlの流速で5〜6分間、高純度空気を流通させる。
【0039】
捕集剤を入れた捕集管は収納容器のガス排出口に接続されており、試料から放散されるガスを採取する。
【0040】
その後、試料を収納容器から取り出し、キャリアガスを不活性ガス、例えば、高純度ヘリウムガスに変える。後述する収納容器の加熱を行う際に、高純度空気が残留していると放散ガスが酸化される可能性があるため、キャリアガスを高純度空気から不活性ガスに変えることが良い。またこの時、捕集管を新しい捕集剤を入れた新しい捕集管に取り替えても良い。
【0041】
収納容器の表面に吸着している放散ガスの成分(放散ガスの残留ガス)を脱着するために、再度容器を密閉し、捕集管が取り付けられていることを確認し、高純度ヘリウムガスを収納容器内に導入する。
【0042】
ドライバスの温度を放散ガスが脱着するのに必要な温度、300〜400℃に加熱し、3〜3.5リットルのガスを流通させることがよく、収納容器内部に毎分50ml〜60mlの流速で5〜6分間、高純度空気を流通させる。キャリアガスとして使用するヘリウムガスは窒素ガスに替えても良い。
【0043】
所定量の高純度ヘリウムガスを収納容器内へ流通させた後、捕集管を取り外す。
【0044】
取り外した捕集管は加熱脱離装置付きの測定装置、例えばガスクロマトグラフィー質量分析装置(以下GC/MSという)を用いて測定を行う。
【0045】
このような手順で試料から放散されるガス(放散ガス)を捕集し、放散ガスの成分の測定を行う。
【0046】
特に、試料を収納容器から取り出し、収納容器を所定温度で加熱する工程において、従来の収納容器では、収納容器の表面(内面)に放散ガス中の、特に極性化合物が化学的に吸着するという問題があった。また、これらの極性化合物が収納容器表面に吸着した場合、非極性化合物を脱着させるのに必要な温度で加温しても収納容器表面に残留することがあった。本実施形態で示すガラス状カーボンで形成される収納容器を使用した場合、放散ガスの成分、特に極性化合物が収納容器表面に化学的に吸着することがなく、また非極性化合物においても脱着が容易で、収納容器表面に残留しにくい。そのため試料からの放散ガスを測定するための収納容器として、ガラス状カーボンを使用した収納容器を用いれば、高精度の分析を行うことが可能である。
【0047】
また、本実施形態で説明する放散ガスの排出装置及び放散ガスの捕集方法に用いられる試料は、特に限定されないが、電子産業用製造装置とその部材、電子産業用搬送装置とその部材、建材、住宅機器部材、家具、繊維製品または樹脂成形品をあげることができる。
【0048】
建材としては、壁材、床材、天井材、パーティションパネル、シーリング材、コーキング材、フィルター、ダクト、タイル、畳、建具、接着剤、断熱材、防音材または塗料などをあげることができる。特にクリーンルーム用の建材としては、壁材、床材、天井材、パーティションパネル、シーリング材、コーキング材、フィルター、ファンフィルターユニット、配管、ダクト、接着材または塗料などの部材をあげることができる。
【0049】
電子産業用製造装置としては、露光装置、CVD装置、拡散装置などを挙げることができる。その部材としては、筐体、電気回路基板、配線、配管またはモーターなどの部材をあげることができる。電子産業用搬送器具としては、ウェハーキャリヤケース、搬送用ロボットなどを挙げることができる。その部材としては、ウェハーキャリヤケースやウェーハ用カセットなどの部材をあげることができる。
【0050】
住宅機器部材としては、システムキッチン、ユニットバス、洗面化粧台、ブラインド、アコーディオンカーテンおよび間仕切りなどを、家具としては、タンス戸棚などの収納具、机、テーブル、椅子などをあげることができる。
【0051】
繊維製品としては、衣類、カーテンまたはカーペットなどをあげることができる。樹脂成形品としては、壁紙、テーブルクロス、玩具、哺乳瓶、食器、食品容器、食品包装材または自動車内装材などをあげることができる。
【0052】
本実施形態で示すガラス状カーボンで形成される収納容器を使用した放散ガスの排出装置による放散ガスの測定に関して評価した例を以下に示す。
【実施例1】
【0053】
試料から放散されるガス中の特に極性化合物の放散ガスの排出装置に対する残留率を測定し、収納容器への脱着の容易性を評価するために以下のような試験を行った。
【0054】
(実験1)
極性化合物の代表例として、アセトフェノン、ミリスチン酸、ドデカナール、アジピン酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジブチル(BHT)、リン酸トリフェニル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DOP)の標準物質(以下単に標準物質という)を用い、収納容器内へこれらの標準物質を添加し放散ガスを以下の方法で捕集後、収納容器の表面への残留率を測定した。
【0055】
使用する収納容器の材質は表面の粗さはRa=0.1μm以下のガラス状カーボンである。収納容器は30mLの容量をもっており、収納容器の内部は平滑で、加熱装置と接する収納容器底部のガラス状カーボンの厚さは3mmであった。
【0056】
放散ガスの排出装置は、ガラス状カーボン製収納容器と、収納容器の温度調節を行うためのドライバスと、排出された放散ガスを捕集するための捕集剤を備えた捕集管と、収納容器内に存在するキャリアガス及び放散ガス等のガスを吸引するためのポンプ、及び、試料へ流入させ、排出させるキャリアガスの総量を測定する積算流量計からなる。
【0057】
まず、ガラス状カーボンで形成される収納容器の洗浄を行う。洗浄は加熱洗浄により、次のように行う。
【0058】
収納容器に高純度ヘリウムガスを導入した状態でドライバスに設置し、350℃で3時間加熱する。その後室温まで冷却し、キャリアガスを高純度空気に換えてバックグラウンドを測定する。測定の対象となる極性化合物のバックグラウンドが検出されていないことを確認し、収納容器内に標準物質を1ng添加し、密閉した後、室温(27℃)のドライバスに設置した。
【0059】
高純度空気をキャリアガスとし、収納容器のガス導入口から導入し、ガス採取口からポンプで吸引することで、収納容器内部に流通するキャリアガスの流速を毎分50ml調整した。キャリアガスを収納容器内に導入し5分間放置した。
【0060】
その後、ガス採取口とポンプの間にTenax(登録商標)TAをガラス管に充填したものを捕集管として設置し、試料から放散されるガスを3リットル採取した。
【0061】
室温にて放散ガスを含んだキャリアガスを捕集後、試料を収納容器から取り出して、再度容器を密閉した。新たにTenax(登録商標)TAをガラス管に充填した捕集管を設置して高純度ヘリウムガスを容器内に導入した。高純度ヘリウムガスを容器に導入した状態で300℃のドライバスに設置し、収納容器から脱着させた放散ガスを含むキャリアガスを3リットル排出させ、放散ガスを捕集した。
【0062】
捕集管に採取したガス成分は加熱脱着装置付きのGC/MS装置にて測定した。ガス成分の測定結果、即ち放散ガス中の各物質の検出量から、収納容器へ残留している各物質の残留率を算出し、表1に示す。ここで、残留率とは実験開始前に添加した各物質の添加量を1とし、この添加量に対する検出量の割合を減算し、百分率で示したものである。
【0063】
(比較実験2)
(実験1)のガラス状カーボン製収納容器と比較するために、石英製の収納容器を用い、(実験1)と同様に、収納容器の洗浄を行い、試料として(実験1)と同じ標準物質を1ng添加して用い、(実験1)と同様の手順で試料からの放散ガスを捕集、GC/MS装置にて測定した。ガス成分の測定結果、即ち放散ガス中の各物質の検出量から、収納容器へ残留している各物質の残留率を算出し、結果を表1に併記する。
【表1】

【0064】
表1に放散ガスの成分、特に極性化合物の収納容器に対する残留率を示した。
【0065】
(実験1)は(比較実験1)の場合よりも収納容器への放散ガスの成分の残留率が1/2以下に低減されており、ガラス状カーボン製の収納容器が特に有効であることが明らかである。ガラス状カーボン製の収納容器を用いることにより、高感度かつ高精度な評価が可能である。特にフタル酸−2−ジエチルヘキシル(DOP)等の極性化合物では残留率が2%以下になり、微量分析に有効である。
【実施例2】
【0066】
(実験2)
試料としてクリーンルーム内の空気から不純物を取り除くために使用されていたフィルター濾材を2cm×2cmに切り取って使用し、微量な極性化合物の測定を行った。収納容器にはガラス状カーボン製収納容器(30ml)を用い、(実験1)と同様に収納容器の洗浄を行い、(実験1)と同様の手順で試料からの放散ガスを捕集、GC/MS装置にて測定した。測定結果として、放散ガス中に検出された物質とその濃度(μg/m)を表2に示す。
【0067】
(比較実験2)
(実験2)のガラス状カーボン製収納容器と比較するために、石英製の収納容器を用い、(実験1)と同様に収納容器の洗浄を行い、試料として(実験2)と同じフィルター濾材を用い、(実験1)と同様の手順で試料からの放散ガスを捕集、GC/MS装置にて測定した。測定結果として、放散ガス中に検出された物質とその検出量(μg/m)を表2に併記する。
【表2】

【0068】
表2にフィルター濾材からの放散ガス成分とその検出量(μg/m)示した。
【0069】
(実験2)では、ガラス状カーボン製容器を用いたほうが(比較実験2)より検出量が多く、特にフタル酸エステルなどの極性があり、揮発性の低い化合物で顕著であった。
【0070】
また、収納容器内部の温度変化を測定したところ、図2に示したような結果が得られた。図2にから明らかなように、(実験2)の場合のほうが早く所定温度で安定する。ガラス状カーボン製の収納容器は、測定対象とする物質に適した温度に調整するのに要する時間が従来の収納容器よりも短時間であるため、測定対象物質の変性を低減することも可能であり、微量な分析に適した材質である。ガラス状カーボンの表面は無孔質、且つ不活性であり、従来の収納容器と比べて、微量の放散ガス評価において問題となる容器内壁への吸着や容器内壁での変性を著しく低減することが可能である。
【実施例3】
【0071】
(実験3)
電化製品から放散される極性化合物(放散ガス)の評価をガラス状カーボンを表面に被覆した容器(ガラス状カーボン製容器)を使用して行った。使用したガラス状カーボンの表面の粗さはRa=0.1μmで、SiO2を支持体とする150リットルの容器表面にガラス状カーボンを1mm被覆させたものである。
【0072】
試料はノート型パーソナルコンピューター(上部(モニター部);縦;26cm、横;42cm、厚さ;約1cm、下部(キーボード部);縦;27cm、横;32cm、厚さ;4cm)を使用した。
【0073】
まず、ガラス状カーボン容器の加熱洗浄行った。ガラス状カーボン製容器に高純度ヘリウムガスを導入した状態で恒温槽に設置し、350℃で3時間加熱した。その後室温(27℃)まで冷却し、キャリアガスを高純度空気に換えてバックグラウンドを測定し、バックグラウンドが評価可能なレベルより低い値であることを確認した。
【0074】
次に、試料の放散ガスを評価するために試料を容器内に次のように設置した。ノート型パーソナルコンピューターの上部(モニター部)は開閉式であり、通常使用する状態とするため、モニター部を上げた。電源は入れた状態で設置し、ガラス状カーボン製容器内で密閉し、更に室温(27℃)の恒温槽に設置した。
【0075】
まず、ガラス状カーボン製容器のガス導入口から高純度空気を導入し、ガス採取口から容器内部に流速1.25リットル/minで導入できるようにポンプで吸引した。高純度空気を2時間導入した後、更に24時間後、ガス採取口とポンプの間にTenaxTAをガラス管に充填した捕集管を設置し、試料から放散されるガスを3リットル採取した。
【0076】
試料から放散されたガスを室温(27℃)で捕集後、試料を容器から取り出して、再度容器を密閉し、捕集管を設置して高純度ヘリウムガスを容器内に導入した。ヘリウムガスを容器に導入した状態で300℃の恒温槽に設置し、ガスを3リットル捕集した。
【0077】
捕集管に採取したガスは熱脱着装置付きガスクロマトグラフィー/質量分析装置にて測定した。結果を表3に示す。
【0078】
(比較実験3)
(実験3)におけるガラス状カーボン製容器と比較するために、SUS製容器を用いて、(実験3)と同様に収納容器の洗浄を行い、試料として(実験3)と同じノート型パーソナルコンピューターを用い、(実験3)と同様の手順で試料からの放散ガスを捕集、GC/MS装置にて測定した。測定結果として、放散ガス中に検出された物質とその検出量(μg/m)を表3に併記する。
【表3】

【0079】
表3から、特に、BHT、DOPなどの極性化合物に関して、ガラス状カーボン製容器はSUS製容器と比較し、1.3〜1.4の量の検出が得られることが判明した。ガラス状カーボンの表面は無孔質、且つ不活性であり、従来の収納容器と比べて、微量の放散ガス評価において問題となる容器内面への吸着や容器内面での変性を著しく低減することが可能であり、微量分析用として有効である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施例1を示すブロック図。
【図2】本発明の実施例2の効果を説明する図。
【符号の説明】
【0081】
1・・・試料、2・・・収納容器、3・・・加熱装置、4・・・ガス導入口、5・・・ガス排出口、6・・・捕集剤、7・・・捕集管、8・・・ポンプ、9・・・積算流量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
捕集剤に通じる排出口を有し、試料を収納するガラス状カーボン製の収納容器と、
前記試料から放散する放散ガスを前記排出口から排出させる排出手段と、
前記試料を取り出した後の前記収納容器を加熱する加熱手段と
を有することを特徴とする放散ガス排出装置。
【請求項2】
前記試料からの前記放散ガスは極性化合物であることを特徴とする請求項1記載の放散ガス排出装置。
【請求項3】
ガラス状カーボン製の収納容器内に収納される試料から揮発性の放散ガスを放散させる工程と、
前記収納容器内の前記放散ガスを排出させる工程と、
排出された前記放散ガスを捕集する工程と、
前記試料を取り出した前記収納容器を加熱し、前記収納容器内面に残留する前記放散ガスの残留ガスを排出し、排出された前記残留ガスを捕集する工程と、
を有することを特徴とする放散ガス捕集方法。
【請求項4】
前記放散ガスは極性化合物であることを特徴とする請求項3記載の放散ガス捕集方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−84440(P2006−84440A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272209(P2004−272209)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】