放水管
【課題】 内部での異物の過剰な堆積を防止できる放水管を提供する。
【解決手段】 放水管1は、海底に横置され、閉ざされた末端2aに向けて排水を導く母管2と、この母管2の末端2aに至るまで所定間隔をあけて連なり、各々が母管2の上部から外部の水中へ突出する複数の枝管3と、より成り、母管2内の排水が各枝管3の下端3aから各枝管3内に流入して外部の水中に放出される。母管2内における排水の流速が掃流限界速度以下になる所定領域Rより下流に存在する枝管3Aが各々母管2の内部に延出しており、この延出した枝管3Aの下端3Aaが母管2の中心を越えた下方に位置する。
【解決手段】 放水管1は、海底に横置され、閉ざされた末端2aに向けて排水を導く母管2と、この母管2の末端2aに至るまで所定間隔をあけて連なり、各々が母管2の上部から外部の水中へ突出する複数の枝管3と、より成り、母管2内の排水が各枝管3の下端3aから各枝管3内に流入して外部の水中に放出される。母管2内における排水の流速が掃流限界速度以下になる所定領域Rより下流に存在する枝管3Aが各々母管2の内部に延出しており、この延出した枝管3Aの下端3Aaが母管2の中心を越えた下方に位置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型プラントからの放水管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、火力や原子力による発電プラント、鉄鋼プラント、化学プラント等の大型プラント(以下、単に「プラント」と記すことがある)においては、稼動の過程で大量の熱が必然的に発生するため、これを目的に応じて冷却することが不可欠である。例えば発電プラントにおいては、蒸気タービンで仕事を終えた大量の蒸気を復水器で冷却して水に戻し、この水を再び蒸気タービンへの蒸気の源ととして活用している。その冷却は、主に海中から取り込んだ海水を冷媒体とした熱交換によって行われ、ここで熱を受け取って実質加熱された海水は、温排水として、放水管を通じて沖合まで導かれ海中に放出される。
【0003】
図16及び図17に従来の放水管の構造を示す。図16及び図17に示すように、従来の放水管1は、母管2と複数の枝管3より成る(例えば特許文献1参照)。具体的には、母管2は、直径が2〜3m程度の太い金属管であって、末端2aが蓋で閉ざされており、海底に横置された状態で砂の中に埋設されている。各枝管3は、母管2よりはある程度細い直径が0.5〜1m程度の金属管であって、母管2の末端2aに至るまで5〜10m程度の所定間隔をあけて連なるように、各々が母管2の管壁の上部(図では頂上部)から鉛直上方へ突設されている。各枝管3の下端3aは、母管2の上部付近で母管2の内部へ開口し、他方上端3bは、海底の砂より突出して水中(海中)へ開口している。なお、実際には、各枝管3の上端3bはそのまま鉛直上方へ向けて開口しているわけではなく、水平方向へ折り曲げられて左右交互に逆向きになるように開口している。
【0004】
このような構成のもと、プラントにて熱交換を経た温排水は、ポンプ等によって送出され、母管2を通じてその末端2aに向けて導かれる。その際、母管2内の温排水は、各枝管3内にその各下端3aから流入し、その各上端3bから外部の水中に放出される。
【0005】
ここで、枝管3をある所定間隔をあけて複数設けた上で、温排水の放出口となる各上端3bを海底付近に開口させているが、これは、温排水の放出先である海域への環境保全に配慮したものである。つまり、温排水の放出が仮に海面付近で一個所に集中した場合、その海域の海面温度が局所的に過剰に上昇し、ひいては生態系に悪影響を及ぼすおそれがあるが、温排水の放出口を海面よりほど遠い海底付近に間隔をあけて複数設けることで、温排水が広範囲に分散して放出され、しかも、放出された温排水が海面付近に上昇する過程で十分に熱拡散することから、海面温度の上昇を抑制できるようになる。
【特許文献1】特開2001−317026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、母管2内には、外部の海中に浮遊している砂や小石等の異物が、温排水の放出が行われないプラント停止時に各枝管3を通じて不用意に進入したり、プラント稼動時に冷媒体としての海水に不用意に取り込まれてそのまま温排水と一緒に導かれたりする。そして、母管2内の異物は、そのほとんどが温排水と一緒に各枝管3を通じて放出される一方、年月の経過とともに、放出されなかった一部が母管2内の末端2a付近に徐々に堆積していく(図16中の符号「X」で示す部分参照)。これは、母管2内における温排水の流速が下流に行くほど低下するからであり、その流速が掃流限界速度以下になる所定領域Rより下流、すなわち母管2内の末端2a付近において、異物の堆積が生じる。ここでいう温排水の掃流限界速度とは、母管2内の底面上に存在する異物を押し流すことのできる最小の流速をいう。
【0007】
このような母管2内の異物の堆積が過剰になると、末端2a付近の各枝管3への流路が塞がれてしまうのは勿論のこと、放水管1全体として各枝管3からの温排水の放出量のバランスが崩れてしまい、温排水の放出された海域の環境に思わぬ悪影響が生じるおそれがある。そのため、母管2内の異物の過剰な堆積を防止することは重要である。
【0008】
これに対して従来の放水管1では、ある期間毎、例えばプラントの保守点検毎に、プラントを停止させた上で、作業者であるダイバーが母管2内に入り、堆積異物をバキュームホース等によって外部へ汲み出して清掃していた。しかし、この清掃作業は、海底で行われることから危険を伴うし、多大な費用も発生する。また、プラントを停止させない限り行えないという不便さもある。
【0009】
そこで本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、内部での異物の過剰な堆積を防止することができる放水管を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明による放水管は、排水を導く横置きの母管と、この母管に沿って間隔をあけて連なり、各々が母管の管壁から外部の水中へ突出する複数の枝管と、より成り、母管内の排水が各枝管の下端から各枝管内に流入して外部の水中に放出される放水管であって、母管内下部の枝管下方の渦流強化もしくは流速を早めるため母管内に渦流強化手段もしくは流速増加手段を設けたことを特徴とする。例えば、渦流強化手段として、母管内における排水の流速が掃流限界速度以下になる所定領域より下流に存在する枝管が各々母管の内部に延出しており、この延出した枝管の下端が母管の中心を越えた下方に位置させる。このようにすると、母管内を流れる排水は、母管の内部に延出した各枝管の下端から母管内の底面に至る間において渦流となり、その各枝管内に流入するようになる。その際、渦流は母管内で堆積する様相にある異物を巻き上げ、巻き上げられた異物は渦流の排水と一緒に各枝管内に流入し、外部の水中に放出される。
【0011】
また、母管内における排水の流速が掃流限界速度以下になる所定領域より下流に存在する枝管各々の上流近傍に、渦流強化手段として、母管の一側から母管の内部に突出する突出板を備えてもよい。このようにすると、母管内を流れる排水には、母管の内部に突出した各突出板の下流において、カルマン渦列が生成されるようになる。カルマン渦列は母管内で堆積する様相にある異物を巻き上げ、巻き上げられた異物は排水と一緒に各枝管内に流入し、外部の水中に放出される。
【0012】
また、母管内における排水の流速が掃流限界速度以下になる所定領域において、流速増加手段として、母管内における排水の流路を上下に分割するとともにその下部側の流路を次第に縮小させる分割板を備えてもよい。このようにすると、母管内を流れる排水は、分割板と母管内の底面との間で形成される下部側の流路において、流速が増すようになる。流速が増した排水は母管内で堆積する様相にある異物を噴き上げ、噴き上げられた異物は排水と一緒に各枝管内に流入し、外部の水中に放出される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の放水管によれば、母管内に不用意に進入した異物は排水と一緒に各枝管から外部へ放出されるため、母管内に異物が過剰に堆積することはまったく無い。従って、排水の放出された海域を永続的に好環境に保つことができるし、異物の清掃作業も一切不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳述する。先ず、本発明の第1実施形態である放水管について説明する。図1は第1実施形態の放水管の構造を示す縦断面図、図2は図1のA−A断面図である。なお、図中で図16及び図17と同じ名称で同じ機能を果たす部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。後述する第2〜第4実施形態においても同様とする。
【0015】
本第1実施形態の放水管1では、図1及び図2に示すように、母管2内における温排水の流速が掃流限界速度以下になる所定領域Rに着目し、この所定領域Rより下流に存在する枝管3(以下、所定領域Rの上流に存在する枝管3と区別するために、符号に「A」を付す)について、次のような構成にする。各枝管3Aを母管2の上部から内部に鉛直下方へ延出させ、この延出した枝管3Aの下端3Aaを母管2の中心を越えた下方に位置させるようにする。なお、図1では、母管2の末端2aより3つ分の枝管3Aが所定領域Rの下流に存在、すなわちその3つ目の枝管3Aの上流に所定領域Rが存在する状態を示している。
【0016】
このような構成にすると、母管2内を流れる温排水は、母管2の内部に延出した各枝管3Aの下端3Aaから母管2内の底面2bに至る間において渦流となり、その各枝管3A内に流入するようになる。その際、渦流は母管2内の所定領域Rの下流で堆積する様相にある異物を巻き上げ、巻き上げられた異物は渦流の温排水と一緒に各枝管3A内にその各下端3Aaから流入し、その各上端3Abから外部の水中に放出される。そのため、母管2内に異物が過剰に堆積することはまったく無い。従って、温排水の放出された海域を永続的に好環境に保つことができるし、従来のような異物の清掃作業も一切不要となる。
【0017】
ここで、本第1実施形態の変形例として、図3及び図4に示すように、母管2の内部に延出した各枝管3Aの下端3Aaに、複数より成る羽根4を備えるとよい。この羽根4は、各枝管3A内に導入される温排水へ旋回力を与えて、渦流を強力にするため、異物の放出につながる巻き上げ効果の向上が期待できるからである。
【0018】
次に、本発明の第2実施形態である放水管について説明する。図5は第2実施形態の放水管の構造を示す縦断面図、図6は図5のC−C断面図である。
【0019】
本第2実施形態の放水管1では、図5及び図6に示すように、母管2内における所定領域Rより下流に存在する枝管3A各々の上流近傍において、次のような構成にする。母管2の一側から母管2の内部に突出する突出板5を備える。ちなみに、これらの各突出板5は、図6に示すように、母管2の左側から一律に連なって突出しているが、図7に示すように、左右交互に突出していても構わない。
【0020】
このような構成にすると、母管2内を流れる温排水には、母管2の内部に突出した各突出板5の下流において、カルマン渦列が生成されるようになる。カルマン渦列は母管2内の所定領域Rの下流で堆積する様相にある異物を巻き上げ、巻き上げられた異物は温排水と一緒に各枝管3A内に流入し、外部の水中に放出される。そのため、第1実施形態と同様に、母管2内に異物が過剰に堆積することはまったく無い。
【0021】
なお、このような第2実施形態の構成(突出板5の付加)を第1実施形態の構成(枝管3Aの延出)に適用することも可能である。異物の放出が相乗効果で期待できるからである。
【0022】
次に、本発明の第3実施形態である放水管について説明する。図8は第3実施形態の放水管の構造を示す縦断面図、図9は図8のD−D断面図である。
【0023】
本第3実施形態の放水管1では、図8及び図9に示すように、母管2内の所定領域Rにおいて、次のような構成にする。母管2内における温排水の流路を上下に分割する分割板6を備える。この分割板6は、これにより形成された上下の流路のうちの下部側の流路を次第に縮小させ、これに応じて他方の上部側の流路を次第に拡大させるものであって、簡便には、図8に示すように、下部側の流路を下流へ向けて先細りとなるよう傾斜した単なる平板である。但し、図10又は図11に示すように、滑らかに湾曲した湾曲板であっても構わない。
【0024】
このような構成にすると、母管2内を流れる温排水は、分割板6と母管2内の底面2bとの間で形成される下部側の流路において、流速が増すようになる。流速が増した温排水は母管2内の所定領域Rの下流で堆積する様相にある異物を噴き上げ、噴き上げられた異物は温排水と一緒に各枝管3A内に流入し、外部の水中に放出される。そのため、第1実施形態と同様に、母管2内に異物が過剰に堆積することはまったく無い。
【0025】
なお、このような第3実施形態の構成(分割板6の付加)を第1実施形態の構成(枝管3Aの延出)に適用することも可能である。異物の放出が相乗効果で期待できるからである。
【0026】
次に、本発明の第4実施形態である放水管について説明する。図12は第4実施形態の放水管の構造を示す縦断面図、図13は図12のE−E断面図である。
【0027】
本第4実施形態の特徴は、第3実施形態を変形した点にある。つまり、本実施形態の放水管1では、図12及び図13に示すように、母管2の末端2aを閉ざす蓋の下部から斜め上方へ突出する補助管7を備える。この補助管7の下端7aは、母管2の末端2aの下部で内部へ開口し、他方上端7bは、各枝管3の上端3bと同じく海底の砂より突出して水中へ開口している。
【0028】
このような構成にすると、分割板6によって流速が増した温排水により、母管2内の異物は所定領域Rの下流で噴き上げられるわけであるが、その異物は流速が増した温排水の後押しを受けながら、補助管7内にその各下端7aから流入し、その各上端7bから外部の水中に放出される。つまり、各枝管3Aに加えて補助管7からの異物の放出が期待できる。
【0029】
なお、本第4実施形態の変形例として、図14に示すように、補助管7をその下端7aにおいて滑らかに湾曲させてもよいし、図15に示すように、補助管7の下端7aに、補助管7の形状に沿うガイドベーン8を備えてもよい。
【0030】
その他本発明は上記の各実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。例えば、上記の各実施形態では各枝管3が母管2の管壁から鉛直上方へ突設されているが、斜めに突設されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、大型プラントからの温排水の放水管に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態である放水管の縦断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】第1実施形態の放水管の変形例を示す縦断面図である。
【図4】図3のB−B断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態である放水管の縦断面図である。
【図6】図5のC−C断面図である。
【図7】第2実施形態の放水管の変形例を示す図5のC−C断面相当図である。
【図8】本発明の第3実施形態である放水管の縦断面図である。
【図9】図8のD−D断面図である。
【図10】第3実施形態の放水管の変形例を示す縦断面図である。
【図11】第3実施形態の放水管の他の変形例を示す縦断面図である。
【図12】本発明の第4実施形態である放水管の縦断面図である。
【図13】図12のE−E断面図である。
【図14】第4実施形態の放水管の変形例を示す縦断面図である。
【図15】第4実施形態の放水管の他の変形例を示す縦断面図である。
【図16】従来の放水管の縦断面図である。
【図17】図16のF−F断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 放水管
2 母管
3 枝管
4 羽根
5 突出板
6 分割板
7 補助管
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型プラントからの放水管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、火力や原子力による発電プラント、鉄鋼プラント、化学プラント等の大型プラント(以下、単に「プラント」と記すことがある)においては、稼動の過程で大量の熱が必然的に発生するため、これを目的に応じて冷却することが不可欠である。例えば発電プラントにおいては、蒸気タービンで仕事を終えた大量の蒸気を復水器で冷却して水に戻し、この水を再び蒸気タービンへの蒸気の源ととして活用している。その冷却は、主に海中から取り込んだ海水を冷媒体とした熱交換によって行われ、ここで熱を受け取って実質加熱された海水は、温排水として、放水管を通じて沖合まで導かれ海中に放出される。
【0003】
図16及び図17に従来の放水管の構造を示す。図16及び図17に示すように、従来の放水管1は、母管2と複数の枝管3より成る(例えば特許文献1参照)。具体的には、母管2は、直径が2〜3m程度の太い金属管であって、末端2aが蓋で閉ざされており、海底に横置された状態で砂の中に埋設されている。各枝管3は、母管2よりはある程度細い直径が0.5〜1m程度の金属管であって、母管2の末端2aに至るまで5〜10m程度の所定間隔をあけて連なるように、各々が母管2の管壁の上部(図では頂上部)から鉛直上方へ突設されている。各枝管3の下端3aは、母管2の上部付近で母管2の内部へ開口し、他方上端3bは、海底の砂より突出して水中(海中)へ開口している。なお、実際には、各枝管3の上端3bはそのまま鉛直上方へ向けて開口しているわけではなく、水平方向へ折り曲げられて左右交互に逆向きになるように開口している。
【0004】
このような構成のもと、プラントにて熱交換を経た温排水は、ポンプ等によって送出され、母管2を通じてその末端2aに向けて導かれる。その際、母管2内の温排水は、各枝管3内にその各下端3aから流入し、その各上端3bから外部の水中に放出される。
【0005】
ここで、枝管3をある所定間隔をあけて複数設けた上で、温排水の放出口となる各上端3bを海底付近に開口させているが、これは、温排水の放出先である海域への環境保全に配慮したものである。つまり、温排水の放出が仮に海面付近で一個所に集中した場合、その海域の海面温度が局所的に過剰に上昇し、ひいては生態系に悪影響を及ぼすおそれがあるが、温排水の放出口を海面よりほど遠い海底付近に間隔をあけて複数設けることで、温排水が広範囲に分散して放出され、しかも、放出された温排水が海面付近に上昇する過程で十分に熱拡散することから、海面温度の上昇を抑制できるようになる。
【特許文献1】特開2001−317026号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、母管2内には、外部の海中に浮遊している砂や小石等の異物が、温排水の放出が行われないプラント停止時に各枝管3を通じて不用意に進入したり、プラント稼動時に冷媒体としての海水に不用意に取り込まれてそのまま温排水と一緒に導かれたりする。そして、母管2内の異物は、そのほとんどが温排水と一緒に各枝管3を通じて放出される一方、年月の経過とともに、放出されなかった一部が母管2内の末端2a付近に徐々に堆積していく(図16中の符号「X」で示す部分参照)。これは、母管2内における温排水の流速が下流に行くほど低下するからであり、その流速が掃流限界速度以下になる所定領域Rより下流、すなわち母管2内の末端2a付近において、異物の堆積が生じる。ここでいう温排水の掃流限界速度とは、母管2内の底面上に存在する異物を押し流すことのできる最小の流速をいう。
【0007】
このような母管2内の異物の堆積が過剰になると、末端2a付近の各枝管3への流路が塞がれてしまうのは勿論のこと、放水管1全体として各枝管3からの温排水の放出量のバランスが崩れてしまい、温排水の放出された海域の環境に思わぬ悪影響が生じるおそれがある。そのため、母管2内の異物の過剰な堆積を防止することは重要である。
【0008】
これに対して従来の放水管1では、ある期間毎、例えばプラントの保守点検毎に、プラントを停止させた上で、作業者であるダイバーが母管2内に入り、堆積異物をバキュームホース等によって外部へ汲み出して清掃していた。しかし、この清掃作業は、海底で行われることから危険を伴うし、多大な費用も発生する。また、プラントを停止させない限り行えないという不便さもある。
【0009】
そこで本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、内部での異物の過剰な堆積を防止することができる放水管を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明による放水管は、排水を導く横置きの母管と、この母管に沿って間隔をあけて連なり、各々が母管の管壁から外部の水中へ突出する複数の枝管と、より成り、母管内の排水が各枝管の下端から各枝管内に流入して外部の水中に放出される放水管であって、母管内下部の枝管下方の渦流強化もしくは流速を早めるため母管内に渦流強化手段もしくは流速増加手段を設けたことを特徴とする。例えば、渦流強化手段として、母管内における排水の流速が掃流限界速度以下になる所定領域より下流に存在する枝管が各々母管の内部に延出しており、この延出した枝管の下端が母管の中心を越えた下方に位置させる。このようにすると、母管内を流れる排水は、母管の内部に延出した各枝管の下端から母管内の底面に至る間において渦流となり、その各枝管内に流入するようになる。その際、渦流は母管内で堆積する様相にある異物を巻き上げ、巻き上げられた異物は渦流の排水と一緒に各枝管内に流入し、外部の水中に放出される。
【0011】
また、母管内における排水の流速が掃流限界速度以下になる所定領域より下流に存在する枝管各々の上流近傍に、渦流強化手段として、母管の一側から母管の内部に突出する突出板を備えてもよい。このようにすると、母管内を流れる排水には、母管の内部に突出した各突出板の下流において、カルマン渦列が生成されるようになる。カルマン渦列は母管内で堆積する様相にある異物を巻き上げ、巻き上げられた異物は排水と一緒に各枝管内に流入し、外部の水中に放出される。
【0012】
また、母管内における排水の流速が掃流限界速度以下になる所定領域において、流速増加手段として、母管内における排水の流路を上下に分割するとともにその下部側の流路を次第に縮小させる分割板を備えてもよい。このようにすると、母管内を流れる排水は、分割板と母管内の底面との間で形成される下部側の流路において、流速が増すようになる。流速が増した排水は母管内で堆積する様相にある異物を噴き上げ、噴き上げられた異物は排水と一緒に各枝管内に流入し、外部の水中に放出される。
【発明の効果】
【0013】
本発明の放水管によれば、母管内に不用意に進入した異物は排水と一緒に各枝管から外部へ放出されるため、母管内に異物が過剰に堆積することはまったく無い。従って、排水の放出された海域を永続的に好環境に保つことができるし、異物の清掃作業も一切不要となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳述する。先ず、本発明の第1実施形態である放水管について説明する。図1は第1実施形態の放水管の構造を示す縦断面図、図2は図1のA−A断面図である。なお、図中で図16及び図17と同じ名称で同じ機能を果たす部分には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。後述する第2〜第4実施形態においても同様とする。
【0015】
本第1実施形態の放水管1では、図1及び図2に示すように、母管2内における温排水の流速が掃流限界速度以下になる所定領域Rに着目し、この所定領域Rより下流に存在する枝管3(以下、所定領域Rの上流に存在する枝管3と区別するために、符号に「A」を付す)について、次のような構成にする。各枝管3Aを母管2の上部から内部に鉛直下方へ延出させ、この延出した枝管3Aの下端3Aaを母管2の中心を越えた下方に位置させるようにする。なお、図1では、母管2の末端2aより3つ分の枝管3Aが所定領域Rの下流に存在、すなわちその3つ目の枝管3Aの上流に所定領域Rが存在する状態を示している。
【0016】
このような構成にすると、母管2内を流れる温排水は、母管2の内部に延出した各枝管3Aの下端3Aaから母管2内の底面2bに至る間において渦流となり、その各枝管3A内に流入するようになる。その際、渦流は母管2内の所定領域Rの下流で堆積する様相にある異物を巻き上げ、巻き上げられた異物は渦流の温排水と一緒に各枝管3A内にその各下端3Aaから流入し、その各上端3Abから外部の水中に放出される。そのため、母管2内に異物が過剰に堆積することはまったく無い。従って、温排水の放出された海域を永続的に好環境に保つことができるし、従来のような異物の清掃作業も一切不要となる。
【0017】
ここで、本第1実施形態の変形例として、図3及び図4に示すように、母管2の内部に延出した各枝管3Aの下端3Aaに、複数より成る羽根4を備えるとよい。この羽根4は、各枝管3A内に導入される温排水へ旋回力を与えて、渦流を強力にするため、異物の放出につながる巻き上げ効果の向上が期待できるからである。
【0018】
次に、本発明の第2実施形態である放水管について説明する。図5は第2実施形態の放水管の構造を示す縦断面図、図6は図5のC−C断面図である。
【0019】
本第2実施形態の放水管1では、図5及び図6に示すように、母管2内における所定領域Rより下流に存在する枝管3A各々の上流近傍において、次のような構成にする。母管2の一側から母管2の内部に突出する突出板5を備える。ちなみに、これらの各突出板5は、図6に示すように、母管2の左側から一律に連なって突出しているが、図7に示すように、左右交互に突出していても構わない。
【0020】
このような構成にすると、母管2内を流れる温排水には、母管2の内部に突出した各突出板5の下流において、カルマン渦列が生成されるようになる。カルマン渦列は母管2内の所定領域Rの下流で堆積する様相にある異物を巻き上げ、巻き上げられた異物は温排水と一緒に各枝管3A内に流入し、外部の水中に放出される。そのため、第1実施形態と同様に、母管2内に異物が過剰に堆積することはまったく無い。
【0021】
なお、このような第2実施形態の構成(突出板5の付加)を第1実施形態の構成(枝管3Aの延出)に適用することも可能である。異物の放出が相乗効果で期待できるからである。
【0022】
次に、本発明の第3実施形態である放水管について説明する。図8は第3実施形態の放水管の構造を示す縦断面図、図9は図8のD−D断面図である。
【0023】
本第3実施形態の放水管1では、図8及び図9に示すように、母管2内の所定領域Rにおいて、次のような構成にする。母管2内における温排水の流路を上下に分割する分割板6を備える。この分割板6は、これにより形成された上下の流路のうちの下部側の流路を次第に縮小させ、これに応じて他方の上部側の流路を次第に拡大させるものであって、簡便には、図8に示すように、下部側の流路を下流へ向けて先細りとなるよう傾斜した単なる平板である。但し、図10又は図11に示すように、滑らかに湾曲した湾曲板であっても構わない。
【0024】
このような構成にすると、母管2内を流れる温排水は、分割板6と母管2内の底面2bとの間で形成される下部側の流路において、流速が増すようになる。流速が増した温排水は母管2内の所定領域Rの下流で堆積する様相にある異物を噴き上げ、噴き上げられた異物は温排水と一緒に各枝管3A内に流入し、外部の水中に放出される。そのため、第1実施形態と同様に、母管2内に異物が過剰に堆積することはまったく無い。
【0025】
なお、このような第3実施形態の構成(分割板6の付加)を第1実施形態の構成(枝管3Aの延出)に適用することも可能である。異物の放出が相乗効果で期待できるからである。
【0026】
次に、本発明の第4実施形態である放水管について説明する。図12は第4実施形態の放水管の構造を示す縦断面図、図13は図12のE−E断面図である。
【0027】
本第4実施形態の特徴は、第3実施形態を変形した点にある。つまり、本実施形態の放水管1では、図12及び図13に示すように、母管2の末端2aを閉ざす蓋の下部から斜め上方へ突出する補助管7を備える。この補助管7の下端7aは、母管2の末端2aの下部で内部へ開口し、他方上端7bは、各枝管3の上端3bと同じく海底の砂より突出して水中へ開口している。
【0028】
このような構成にすると、分割板6によって流速が増した温排水により、母管2内の異物は所定領域Rの下流で噴き上げられるわけであるが、その異物は流速が増した温排水の後押しを受けながら、補助管7内にその各下端7aから流入し、その各上端7bから外部の水中に放出される。つまり、各枝管3Aに加えて補助管7からの異物の放出が期待できる。
【0029】
なお、本第4実施形態の変形例として、図14に示すように、補助管7をその下端7aにおいて滑らかに湾曲させてもよいし、図15に示すように、補助管7の下端7aに、補助管7の形状に沿うガイドベーン8を備えてもよい。
【0030】
その他本発明は上記の各実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。例えば、上記の各実施形態では各枝管3が母管2の管壁から鉛直上方へ突設されているが、斜めに突設されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、大型プラントからの温排水の放水管に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1実施形態である放水管の縦断面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】第1実施形態の放水管の変形例を示す縦断面図である。
【図4】図3のB−B断面図である。
【図5】本発明の第2実施形態である放水管の縦断面図である。
【図6】図5のC−C断面図である。
【図7】第2実施形態の放水管の変形例を示す図5のC−C断面相当図である。
【図8】本発明の第3実施形態である放水管の縦断面図である。
【図9】図8のD−D断面図である。
【図10】第3実施形態の放水管の変形例を示す縦断面図である。
【図11】第3実施形態の放水管の他の変形例を示す縦断面図である。
【図12】本発明の第4実施形態である放水管の縦断面図である。
【図13】図12のE−E断面図である。
【図14】第4実施形態の放水管の変形例を示す縦断面図である。
【図15】第4実施形態の放水管の他の変形例を示す縦断面図である。
【図16】従来の放水管の縦断面図である。
【図17】図16のF−F断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 放水管
2 母管
3 枝管
4 羽根
5 突出板
6 分割板
7 補助管
【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水を導く横置きの母管と、この母管に沿って間隔をあけて連なり、各々が母管の管壁から外部の水中へ突出する複数の枝管と、より成り、母管内の排水が各枝管の下端から各枝管内に流入して外部の水中に放出される放水管であって、
母管内下部の枝管下方の渦流強化もしくは流速を早めるため母管内に渦流強化手段もしくは流速増加手段を設けたことを特徴とする放水管。
【請求項2】
渦流強化手段として、母管内における排水の流速が掃流限界速度以下になる所定領域より下流に存在する枝管が各々母管の内部に延出しており、この延出した枝管の下端が母管の中心を越えた下方に位置させたことを特徴とする請求項1に記載の放水管。
【請求項3】
前記延出した枝管の下端に、この枝管内に導入される排水へ旋回力を与える羽根を備えたことを特徴とする請求項2に記載の放水管。
【請求項4】
前記母管内における前記延出した枝管各々の上流近傍に、渦流強化手段として、前記母管の一側から前記母管の内部に突出する突出板を備えたことを特徴とする請求項2又は3に記載の放水管。
【請求項5】
前記母管内の前記所定領域において、流速増加手段として、前記母管内における排水の流路を上下に分割するとともにその下部側の流路を次第に縮小させる分割板を備えたことを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の放水管。
【請求項6】
母管内における排水の流速が掃流限界速度以下になる所定領域より下流に存在する枝管各々の上流近傍に、渦流強化手段として、母管の一側から母管の内部に突出する突出板を備えたことを特徴とする請求項1に記載の放水管。
【請求項7】
母管内における排水の流速が掃流限界速度以下になる所定領域において、流速増加手段として、母管内における排水の流路を上下に分割するとともにその下部側の流路を次第に縮小させる分割板を備えたことを特徴とする請求項1に記載の放水管。
【請求項8】
前記母管の閉ざされた末端の下部に開口し、外部の水中へ上方に向けて突出する補助管を備えたことを特徴とする請求項5又は7に記載の放水管。
【請求項1】
排水を導く横置きの母管と、この母管に沿って間隔をあけて連なり、各々が母管の管壁から外部の水中へ突出する複数の枝管と、より成り、母管内の排水が各枝管の下端から各枝管内に流入して外部の水中に放出される放水管であって、
母管内下部の枝管下方の渦流強化もしくは流速を早めるため母管内に渦流強化手段もしくは流速増加手段を設けたことを特徴とする放水管。
【請求項2】
渦流強化手段として、母管内における排水の流速が掃流限界速度以下になる所定領域より下流に存在する枝管が各々母管の内部に延出しており、この延出した枝管の下端が母管の中心を越えた下方に位置させたことを特徴とする請求項1に記載の放水管。
【請求項3】
前記延出した枝管の下端に、この枝管内に導入される排水へ旋回力を与える羽根を備えたことを特徴とする請求項2に記載の放水管。
【請求項4】
前記母管内における前記延出した枝管各々の上流近傍に、渦流強化手段として、前記母管の一側から前記母管の内部に突出する突出板を備えたことを特徴とする請求項2又は3に記載の放水管。
【請求項5】
前記母管内の前記所定領域において、流速増加手段として、前記母管内における排水の流路を上下に分割するとともにその下部側の流路を次第に縮小させる分割板を備えたことを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の放水管。
【請求項6】
母管内における排水の流速が掃流限界速度以下になる所定領域より下流に存在する枝管各々の上流近傍に、渦流強化手段として、母管の一側から母管の内部に突出する突出板を備えたことを特徴とする請求項1に記載の放水管。
【請求項7】
母管内における排水の流速が掃流限界速度以下になる所定領域において、流速増加手段として、母管内における排水の流路を上下に分割するとともにその下部側の流路を次第に縮小させる分割板を備えたことを特徴とする請求項1に記載の放水管。
【請求項8】
前記母管の閉ざされた末端の下部に開口し、外部の水中へ上方に向けて突出する補助管を備えたことを特徴とする請求項5又は7に記載の放水管。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2006−118587(P2006−118587A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306562(P2004−306562)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】
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