説明

放熱構造体、パワーモジュール、放熱構造体の製造方法およびパワーモジュールの製造方法

【課題】冷熱サイクルにおける接合強度が高く、かつ冷却効率の高い放熱構造体、パワーモジュール、放熱構造体の製造方法およびパワーモジュールの製造方法を提供する。
【解決手段】パワーモジュール1は、絶縁性を有するセラミックス基板10と、該セラミックス基板10の表面にろう材により接合された金属又は合金からなる金属部材50と、該金属部材50の表面に、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速し、表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって形成された放熱部40とを備え、放熱部40内部にはヒートパイプ60が埋設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁基板に金属を積層した放熱構造体、パワーモジュール、放熱構造体の製造方法およびパワーモジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、産業用、自動車用などの電力制御からモータ制御まで、幅広い分野に使用される省エネルギー化のキーデバイスとして、パワーモジュールが知られている。パワーモジュールは、基材である絶縁基板(例えばセラミックス基板)の一方の面に、ろう付された金属板からなる回路パターン上に半田付によりチップ(トランジスタ)を配設し、他方の面に、ろう付された金属板を介して半田付により放熱板を配設した装置である(例えば、特許文献1参照)。放熱板としては、例えば、熱伝導率の高い金属又は合金の部材が用いられる。このようなパワーモジュールにおいては、チップから発生した熱を、金属板を介して放熱板に移動させ外部に放熱することにより、冷却を行うことができる。
【0003】
また、半導体素子等の発熱量の多い部品を実装する回路基板の冷却する技術として、回路パターンが形成された回路基板表面にヒートパイプを接続した回路基板のヒートパイプ式冷却装置や、ヒートパイプを埋め込んだ回路基板の製造方法(例えば、特許文献2または3参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4270140号公報
【特許文献2】特開平06−181396号公報
【特許文献3】特開平03−255690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の半導体モジュールは、所定の板厚の窒化珪素からなるセラミックス基板と所定の板厚の銅または銅合金からなる金属板とをろう付接合し、さらに前記金属板を介して銅または銅合金からなる放熱板(チップ)を半田付によりセラミックス基板に接合することにより冷熱サイクルにおける接合強度等の耐性を向上することができる。しかしながら、前記半導体モジュールは、接合時の熱膨張率の差によるひずみの影響を抑制するために、金属板と放熱板を構成する材料を同一の金属(銅)又は合金(銅合金)とする必要があった。
【0006】
また、特許文献2または3は、ヒートパイプの使用により冷却効率を高めることができるものの、ヒートパイプを半田付により基板上に接合する場合は、熱によりヒートパイプに損傷を与える恐れがあり、ヒートパイプを基板の内部に埋設する場合は、基板の厚さが厚くなりチップ等の実装の際問題となることがあった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、金属板と放熱板とを異なる材料とした場合であっても、冷熱サイクルにおける接合強度が高く、かつ、熱によってヒートパイプを損傷することなく、ヒートパイプを接合可能な放熱構造体、パワーモジュール、放熱構造体の製造方法およびパワーモジュールの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る放熱構造体は、絶縁性を有するセラミックス基板と、前記セラミックス基板の表面にろう材により接合された金属又は合金からなる金属部材と、前記金属部材の表面に、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速し、前記表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって形成された金属皮膜層と、棒状の一端部に外部から吸熱する吸熱部と、他端部に外部に放熱する放熱部とを有し、温度調整可能なヒートパイプと、を備え、前記吸熱部は前記金属皮膜層内部に埋設されたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の放熱構造体は、上記発明において、前記セラミックス基板は窒化物系セラミックスからなることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の放熱構造体は、上記発明において、前記ろう材は、アルミニウム系ろう材であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の放熱構造体は、上記発明において、前記ろう材は、ゲルマニウム、マグネシウム、珪素、銅からなる群より選択される少なくとも1種類の金属を含有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の放熱構造体は、上記発明において、前記金属部材は、アルミニウム、銀、ニッケル、金、銅からなる群より選択される金属、または該金属を含有する合金からなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の放熱構造体は、上記発明において、前記金属皮膜層は、銅、アルミニウム、銀からなる群より選択される金属、または該金属を含有する合金からなることを特徴とする。
【0014】
また、本発明のパワーモジュールは、上記のいずれか一つに記載の放熱構造体と、前記セラミックス基板の、前記金属皮膜層が形成された面と対向する面上に、ろう材により接合された金属又は合金からなる第2金属部材と、前記第2金属部材上に形成された回路層と、前記回路層上に実装されたパワーデバイスと、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明のパワーモジュールは、上記発明において、前記回路層は、マスクを介して、前記第2金属部材の表面に、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速し、前記表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって形成されたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の放熱構造体の製造方法は、絶縁性を有するセラミックス基板の表面に、金属又は合金からなる金属部材をろう材により接合する金属部材接合工程と、棒状の一端部に外部から吸熱する吸熱部と、他端部に外部に放熱する放熱部とを有し、温度調整可能なヒートパイプの該吸熱部を前記金属部材上に配置し、前記ヒートパイプの吸熱部を配置した金属部材上に、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速して、固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって金属皮膜層を形成する皮膜形成工程と、含むことを特徴とする。
【0017】
また、本発明の放熱構造体の製造方法は、上記発明において、前記金属部材接合工程は、前記セラミックス基板の表面にろう材を配置するろう材配置工程と、前記ろう材上に前記金属部材を配置する金属部材配置工程と、前記ろう材及び前記金属部材が順次配置された前記セラミックス基板を熱処理する熱処理工程と、含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の放熱構造体の製造方法は、上記発明において、前記ろう材配置工程は、ろう材ペーストの前記セラミックス基板への塗布工程と、ろう材箔の前記セラミックス基板上への載置工程と、蒸着法若しくはスパッタ法による前記セラミックス基板へのろう材の付着工程との内のいずれかの工程を含むことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の放熱構造体の製造方法は、上記発明において、前記熱処理工程は真空中又は不活性ガス雰囲気中で行われることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の放熱構造体の製造方法は、上記発明において前記ろう材は、アルミニウム系ろう材であり、ゲルマニウム、マグネシウム、珪素、銅からなる群より選択される少なくとも1種類の金属を含有することを特徴とする。
【0021】
また、本発明の放熱構造体の製造方法は、上記発明において、前記金属部材の厚さが1mm以下であることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の放熱構造体の製造方法は、上記発明において、前記皮膜形成工程は、前記金属部材の表面に、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速し、前記表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって金属皮膜層を形成する第1皮膜形成工程と、前記第1皮膜形成工程で形成した金属皮膜を切削して、前記ヒートパイプを配置する溝部を形成する溝部形成工程と、前記溝部に前記ヒートパイプを配置した後、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速し、前記表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって金属皮膜層を形成する第2皮膜形成工程と、を含むことを特徴とする。
【0023】
また、本発明のパワーモジュールの製造方法は、上記のいずれか一つに記載の方法により放熱構造体を製造する放熱構造体製造工程と、前記セラミックス基板の、前記金属皮膜層が形成された面と対向する面に、金属又は合金からなる金属部材をろう材により接合する第2金属部材接合工程と、前記第2金属部材接合工程で接合した金属部材上に、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速し、前記表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって回路層を形成する回路層形成工程と、前記回路層上にパワーデバイスを実装するパワーデバイス実装工程と、を含み、前記放熱構造体製造工程の金属部材接合工程と前記第2金属部材接合工程とを同時に行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、セラミックス基板の表面に金属又は合金からなる金属部材をろう材にて接合し、この金属部材の表面に、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速し、固相状態のままで吹き付けて堆積させるコールドスプレー法によって金属皮膜層を形成するので、金属皮膜層と中間層は、互いに塑性変形が生じ、強固な金属結合がなされると共に、粉末が中間層に衝突する際に中間層がセラミックス基板に向かって押圧される。それにより、セラミックス基板と金属皮膜層との間の密着強度が高い積層体を得ることができる。さらに、本発明は、コールドスプレー法により前記金属皮膜層内部にヒートパイプの吸熱部を埋設するので、ヒートパイプに損傷を与えることなくヒートパイプと金属皮膜との接合強度を保持できるとともに、放熱効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る放熱構造体であるパワーモジュールの構成を示す断面図である。
【図2】図2は、セラミックス基板と金属部材との接合部の拡大断面図である。
【図3】図3は、図1に示すパワーモジュールの作製方法を示すフローチャートである。
【図4A】図4Aは、本発明の実施の形態に係る放熱部材の作製工程を説明する断面図である。
【図4B】図4Bは、本発明の実施の形態に係る放熱部材の作製工程を説明する断面図である。
【図5】図5は、コールドスプレー装置の概要を示す模式図である。
【図6A】図6Aは、本発明の実施の形態の変形例に係る放熱部材の作製工程を説明する断面図である。
【図6B】図6Bは、本発明の実施の形態の変形例に係る放熱部材の作製工程を説明する断面図である。
【図6C】図6Cは、本発明の実施の形態の変形例に係る放熱部材の作製工程を説明する断面図である。
【図6D】図6Dは、本発明の実施の形態の変形例に係る放熱部材の作製工程を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、以下の説明において参照する各図は、本発明の内容を理解し得る程度に形状、大きさ、及び位置関係を概略的に示してあるに過ぎない。即ち、本発明は各図で例示された形状、大きさ、及び位置関係のみに限定されるものではない。
【0027】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係る放熱構造体であるパワーモジュールの構成を示す断面図である。図2は、セラミックス基板と金属部材との接合部の拡大断面図である。図1に示すパワーモジュール1は、絶縁基板であるセラミックス基板10と、セラミックス基板10の一方の面に金属部材50を介して形成された回路層20と、回路層20上に半田C1によって接合されたチップ30と、セラミックス基板10の回路層20とは反対側の面に金属部材50を介して設けられた放熱部材40とを備える。
【0028】
セラミックス基板10は、絶縁性材料からなる略板状の部材である。絶縁性材料としては、例えば、窒化アルミニウム、窒化珪素等の窒化物系セラミックスや、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、ステアタイト、フォルステライト、ムライト、チタニア、シリカ、サイアロン等の酸化物系セラミックスが用いられる。耐久性、熱伝導性等の観点から窒化物系セラミックスが好ましい。
【0029】
回路層20は、例えば、アルミニウムや銅等の良好な電気伝導度を有する金属又は合金からなる。この回路層20には、チップ30等に対して電気信号を伝達するための回路パターンが形成されている。
【0030】
チップ30は、ダイオード、トランジスタ、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)等の半導体素子によって実現される。チップ30は、高電圧で使用が可能なパワーデバイスであってもよく、チップ30は、使用の目的に合わせてセラミックス基板10上に複数個設けられても良い。
【0031】
放熱部材40は、後述するコールドスプレー法によって形成された金属皮膜層であり、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銀、銀合金等の良好な熱伝導性を有する金属又は合金からなり、内部にヒートパイプ60が埋設されている。
【0032】
ヒートパイプ60は、両端が閉鎖された真空状態の内部空間を形成する筒状をなし、一端部に外部から吸熱する吸熱部と、他端部に外部に放熱する放熱部とを有している。ヒートパイプ60の内部空間には、壁面にウィックと呼ばれる毛細管構造が形成され、液体(例えば、水と少量のアルコール)が封入されている。
【0033】
放熱部材40内には、ヒートパイプ60の吸熱部が埋設されている。ヒートパイプ60の吸熱部では、チップ30が発生し、セラミックス基板10を介して放熱部材40側に伝導された熱により、内部に封入されている液体は沸点以下で気化し、該気化熱により放熱部材40は冷却される。蒸発した気体は、放熱部側に移動し、再び液体に戻り、ウィックの毛細管現象によって吸熱部に移動する。ヒートパイプ60では、内部に封入された液体が、吸熱部と放熱部との間で蒸発と凝縮とを繰り返すことで迅速な熱伝達を行うことができる。
【0034】
本実施の形態では、ヒートパイプ60の吸熱部をセラミックス基板10に近接するように放熱部材40の内部に設置しているので、吸熱の効率をさらに向上することができる。ヒートパイプ60は、セラミックス基板10の大きさ、実装するチップ30の個数等に応じて、放熱部材40内に複数埋設してもよい。なお、ヒートパイプ60の放熱部周辺には、複数の放熱フィンを設置等してもよい。
【0035】
金属部材50は、セラミックス基板10の表面にろう材51により接合される。金属部材50は、セラミックス基板10と金属または合金からなる回路層20、またはセラミックス基板10と金属または合金からなる放熱部材40とを接合する際の、接合強度を向上しうる。
【0036】
金属部材50は、厚さが例えば0.01mm〜0.2mm程度の箔状の圧延部材である。本実施の形態においては、このように厚さの小さい部材を用いることにより、セラミックス基板10との接合や、その他の熱処理工程の際、金属部材50とセラミックス基板10との間における熱膨張率の差に起因する破損を防止することとしている。なお、ろう材51上に配置する金属部材50としては、箔状に限定されず、厚さが約1mm以下であれば、板状の金属部材を配置しても良い。
【0037】
金属部材50としては、セラミックス基板10に対してろう付による接合が可能であり、且つ、後述するコールドスプレー法による皮膜形成が可能な程度の硬度を有する金属または合金が用いられる。この硬度の範囲はコールドスプレー法における成膜条件等によっても異なるため、一概には定められないが、概ね、ビッカース硬度が100HV以下の金属部材であれば適用することができる。具体的には、アルミニウム、銀、ニッケル、金、銅、又はこれらの金属を含む合金等が挙げられる。硬度および加工性等の観点からアルミニウム又はアルミニウム合金が好ましい。
【0038】
ろう材51は、セラミックス基板10の種類や、金属部材50の種類に応じて選択することができる。ろう材51は、アルミニウムを主成分とし、ゲルマニウム、マグネシウム、珪素、銅から選択される少なくとも1種の金属を含有するアルミニウム系ろう材が好ましい。
【0039】
ろう材51をセラミックス基板10表面に配置する方法としては、公知の種々の方法が用いられる。例えば、有機溶剤及び有機バインダーを含むペースト状のろう材をスクリーン印刷法によってセラミックス基板10に塗布しても良い。また、箔状のろう材(ろう材箔)をセラミックス基板10上に載置しても良い。或いは、蒸着法やスパッタ法等によりろう材をセラミックス基板10の表面に付着させても良い。
【0040】
金属部材50とセラミックス基板10とのろう付けは、使用するろう材51、金属部材50およびセラミックス基板10によっても変動するが、真空中または窒素ガス等の不活性雰囲気中で、500℃〜630℃の温度範囲、好ましくは550℃〜600℃の温度範囲で加熱することにより行う。
【0041】
次に、パワーモジュール1の作製方法について、図3〜図6Bを参照しながら説明する。図3は、図1に示すパワーモジュール1の作製方法を示すフローチャートである。図4Aおよび図4Bは、本発明の実施の形態に係る放熱部材40の作製工程を説明する断面図である。
【0042】
まず、スクリーン印刷等によりセラミックス基板10の表面にろう材51を配置する(ステップS1)。
【0043】
続いて、ろう材51上に金属部材50を配置する(ステップS2)。
【0044】
ろう材51および金属部材50を表面に配置したセラミックス基板10を所定時間、所定温度に保持して真空中において熱処理を施す(ステップS3)。この熱処理により、ろう材51が溶融し、セラミックス基板10と金属部材50との接合体が得られる。
【0045】
図2に示すように、セラミックス基板10の両面に金属部材50を接合する場合には、ろう材51を両面に配置したセラミックス基板10を2枚の金属部材50によって挟んだものを熱処理することにより、セラミックス基板10の両面に金属部材50を接合することができる。なお、セラミックス基板10の両面に、異なるろう材により異なる金属または合金からなる金属部材50を接合する場合は、熱処理温度が高いものから順にセラミックス基板10に接合すればよい。なお、図2では、セラミックス基板10の両面に金属部材50を接合しているが、少なくとも放熱部材40を形成する側に金属部材50がろう材51により接合されていればよい。
【0046】
金属部材50の接合後、図4Aに示すように、金属部材50上にヒートパイプ60の吸熱部を配置する(ステップS4)。
【0047】
続いて、図4Bに示すように、コールドスプレー法によりヒートパイプ60を配置した金属部材50上に金属皮膜層を積層し、放熱部材40を形成する(ステップS5)。図5は、金属皮膜層の形成に使用されるコールドスプレー装置の概要を示す模式図である。
【0048】
図5に示すコールドスプレー装置70は、圧縮ガスを加熱するガス加熱器71と、金属皮膜層の材料の粉末を収容し、スプレーガン73に供給する粉末供給装置72と、加熱された圧縮ガス及びそこに供給された材料粉末を基材に噴射するガスノズル74と、ガス加熱器71及び粉末供給装置72に対する圧縮ガスの供給量をそれぞれ調節するバルブ75及び76とを備える。
【0049】
圧縮ガスとしては、ヘリウム、窒素、空気などが使用される。ガス加熱器71に供給された圧縮ガスは、例えば50℃以上であって、金属皮膜層の材料粉末の融点よりも低い範囲の温度に加熱された後、スプレーガン73に供給される。圧縮ガスの加熱温度は、好ましくは300〜900℃である。
一方、粉末供給装置72に供給された圧縮ガスは、粉末供給装置72内の材料粉末をスプレーガン73に所定の吐出量となるように供給する。
【0050】
加熱された圧縮ガスは末広形状をなすガスノズル74により超音速流(約340m/s以上)にされる。この際の圧縮ガスのガス圧力は、1〜5MPa程度とすることが好ましい。圧縮ガスの圧力をこの程度に調整することにより、金属部材50に対する金属皮膜層の密着強度の向上を図ることができるからである。より好ましくは、2〜4MPa程度の圧力で処理すると良い。スプレーガン73に供給された粉末材料は、この圧縮ガスの超音速流の中への投入により加速され、固相状態のまま、セラミックス基板10上の金属部材50に高速で衝突して堆積し、皮膜を形成する。なお、材料粉末をセラミックス基板10に向けて固相状態で衝突させて皮膜を形成できる装置であれば、図5に示すコールドスプレー装置70に限定されるものではない。
【0051】
なお、金属皮膜層として放熱部材40に加え、回路層20を形成する場合には、例えば、金属部材50の上層に回路パターンが形成されたメタルマスク等を配置し、例えば、コールドスプレー装置70等により、回路層20を形成する金属または合金の粉末を用いて皮膜形成を行えば良い。
【0052】
さらに、必要に応じてチップ30等の部品を半田で回路層20に接合する。これにより、図1に示すパワーモジュール1が完成する。
【0053】
本実施の形態では、セラミックス基板10上に放熱部材40をコールドスプレー法により形成している。コールドスプレー法は、金属粉末の噴射温度が低いため熱応力の影響が緩和され、相変態がなく酸化も抑制された金属皮膜を得ることができる。特に、基材と皮膜となる材料がともに金属である場合、基材に皮膜となる粉末が衝突することで、粉末と基材との間に塑性変形が生じ、アンカー効果を得ることができる。また、塑性変形が生じる領域では、基材に粉末が衝突した際に、互いの酸化皮膜が破壊され、新生面同士による金属結合が生じ、高い密着強度の積層体が得られるという効果も期待されている。しかしながら、セラミックス基板10に、コールドスプレー法により直接金属粉末を噴射した場合、塑性変形が金属側のみで生じ、セラミックスと金属との間の十分なアンカー効果が得られず、セラミックスと金属皮膜との間の密着強度が弱いという問題があった。
【0054】
本出願人らは、セラミックス基板10の表面に、所定の金属又は合金からなる金属部材50をろう材51により接合し、金属部材50を介してコールドスプレー法により放熱部材40を形成することにより、密着強度を向上できることを見出した。
【0055】
本実施の形態においては、セラミックス基板10の表面に、ろう材51により金属部材50を接合し、この金属部材50上にヒートパイプ60を配置した後、コールドスプレー法により金属皮膜層を積層して放熱部材40を形成する。このため、材料粉末が金属部材50およびヒートパイプ60に衝突した際に十分なアンカー効果が生じ、金属部材50に強固に密着した金属皮膜層が形成される。また、材料粉末の衝突の際に、中間層50およびヒートパイプ60にセラミックス基板10方向の押圧力が加えられるので、セラミックス基板10に対する金属部材50の接合強度が向上する。その結果、セラミックス基板10と金属部材50と金属皮膜層とが強固に密着した放熱構造体を得ることができる。
従って、このような放熱構造体をパワーモジュール1に適用することにより、モジュール全体の機械的強度を向上させることができる。
【0056】
また、本実施の形態によれば、回路層20や放熱部材40を、機械締結部材や半田やシリコングリース等を用いることなく配設することができる。従って、従来よりも熱伝導性に優れ、構造も簡素となり、サイズを小型化することができる。また、パワーモジュール1のサイズを従来と同程度にする場合には、放熱部材40等の主要な構成部分が占める割合を大きくすることができる。
【0057】
さらに、本実施の形態によれば、放熱部材40内にヒートパイプ60を埋設しているため、回路層20において発生した熱をヒートパイプ60によりさらに効率よく放熱することが可能となる。また、ヒートパイプ60の接合をコールドスプレー法により行うため、高い接合強度での接合を可能にするとともに、ヒートパイプ60の熱損傷を防止することができる。
【0058】
本実施の形態においては、セラミックス基板10の両側に金属部材50を形成しているが、セラミックス基板10の放熱部材40側のみに金属部材50を形成することとしても良い。
【0059】
また、本実施の形態では、ヒートパイプ60を直接金属部材50上に配置し、コールドスプレー法により金属皮膜層を積層して、放熱部材40を形成しているが、一旦金属部材50上に金属皮膜層を一部積層した後、ヒートパイプ60を配置するようにしてもよい。
【0060】
図6A〜図6Dは、本発明の実施の形態の変形例に係る放熱部材の作製工程を説明する断面図である。
【0061】
図6Aに示すように、金属部材50上に、図5に示すコールドスプレー装置70等により放熱部材40を構成する金属皮膜層を形成する。形成した金属皮膜層に、図6Bに示すように、切削等によりヒートパイプ60Aを配置する溝部61を形成する。
【0062】
続いて、図6Cに示すように、溝部61にヒートパイプ60Aを載置する。溝部61の形状は、ヒートパイプ60Aの形状に合うように形成されるため、例えば、図6Cに示すような、断面円形のヒートパイプ60Aでも所定位置に配置することが容易になるという効果を有する。
【0063】
ヒートパイプ60Aの配置後、図6Dに示すように、さらにコールドスプレー装置70等により、金属皮膜層を積層して、放熱部材40を形成すればよい。
【0064】
上記実施の形態においては、積層体の基材として絶縁性を有する窒化物系セラミックスや酸化物系セラミックスを挙げたが、炭化物系セラミックス等の導電性の基材に対しても同様の方法により積層体を作製することができる。
【0065】
また、上記実施の形態において、ろう材51としてアルミニウムろう材、金属部材50としてアルミニウムを用いた場合、金属部材50とろう材51とはアルミニウムを主成分とするほぼ一様な層として観察されることが多い。しかしながら、金属部材50およびろう材51に対する元素分布分析やSEMによる金属組織観察等により、板状のアルミニウム部材に由来し、ほぼアルミニウムからなる金属部材50層と、アルミニウムろう材に由来し、アルミニウム以外の成分(ゲルマニウム、マグネシウム、珪素、銅等)を含有するろう材51層とを識別できる場合もある。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のように、本発明にかかる放熱構造体、パワーモジュール、放熱構造体の製造方法およびパワーモジュールの製造方法は、高い放熱特性と耐久性が要求される分野に有用である。
【符号の説明】
【0067】
1 パワーモジュール
10 セラミックス基板
20 回路層
30 チップ
40 放熱部材
50 金属部材
51 ろう材
60 ヒートパイプ
70 コールドスプレー装置
71 ガス加熱器
72 粉末供給装置
73 スプレーガン
74 ガスノズル
75、76 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性を有するセラミックス基板と、
前記セラミックス基板の表面にろう材により接合された金属又は合金からなる金属部材と、
前記金属部材の表面に、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速し、前記表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって形成された金属皮膜層と、
棒状の一端部に外部から吸熱する吸熱部と、他端部に外部に放熱する放熱部とを有し、温度調整可能なヒートパイプと、
を備え、前記吸熱部は前記金属皮膜層内部に埋設されたことを特徴とする放熱構造体。
【請求項2】
前記セラミックス基板は窒化物系セラミックスからなることを特徴とする請求項1に記載の放熱構造体。
【請求項3】
前記ろう材は、アルミニウム系ろう材であることを特徴とする請求項1または2に記載の放熱構造体。
【請求項4】
前記ろう材は、ゲルマニウム、マグネシウム、珪素、銅からなる群より選択される少なくとも1種類の金属を含有することを特徴とする請求項3に記載の放熱構造体。
【請求項5】
前記金属部材は、アルミニウム、銀、ニッケル、金、銅からなる群より選択される金属、または該金属を含有する合金からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の放熱構造体。
【請求項6】
前記金属皮膜層は、銅、アルミニウム、銀からなる群より選択される金属、または該金属を含有する合金からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の放熱構造体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一つに記載の放熱構造体と、
前記セラミックス基板の、前記金属皮膜層が形成された面と対向する面上に、ろう材により接合された金属又は合金からなる第2金属部材と、
前記第2金属部材上に形成された回路層と、
前記回路層上に実装されたパワーデバイスと、
を備えることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項8】
前記回路層は、マスクを介して、前記第2金属部材の表面に、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速し、前記表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって形成されたことを特徴とする請求項7に記載のパワーモジュール。
【請求項9】
絶縁性を有するセラミックス基板の表面に、金属又は合金からなる金属部材をろう材により接合する金属部材接合工程と、
棒状の一端部に外部から吸熱する吸熱部と、他端部に外部に放熱する放熱部とを有し、温度調整可能なヒートパイプの該吸熱部を前記金属部材上に配置し、前記ヒートパイプの吸熱部を配置した金属部材上に、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速して、固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって金属皮膜層を形成する皮膜形成工程と、
を含むことを特徴とする放熱構造体の製造方法。
【請求項10】
前記金属部材接合工程は、
前記セラミックス基板の表面にろう材を配置するろう材配置工程と、
前記ろう材上に前記金属部材を配置する金属部材配置工程と、
前記ろう材及び前記金属部材が順次配置された前記セラミックス基板を熱処理する熱処理工程と、
を含むことを特徴とする請求項9に記載の放熱構造体の製造方法。
【請求項11】
前記ろう材配置工程は、ろう材ペーストの前記セラミックス基板への塗布工程と、ろう材箔の前記セラミックス基板上への載置工程と、蒸着法若しくはスパッタ法による前記セラミックス基板へのろう材の付着工程との内のいずれかの工程を含むことを特徴とする請求項10に記載の放熱構造体の製造方法。
【請求項12】
前記熱処理工程は真空中又は不活性ガス雰囲気中で行われることを特徴とする請求項10または11に記載の放熱構造体の製造方法。
【請求項13】
前記ろう材は、アルミニウム系ろう材であり、ゲルマニウム、マグネシウム、珪素、銅からなる群より選択される少なくとも1種類の金属を含有することを特徴とする請求項12に記載の放熱構造体の製造方法。
【請求項14】
前記金属部材の厚さが1mm以下であることを特徴とする請求項9〜13のいずれか一つに記載の放熱構造体の製造方法。
【請求項15】
前記皮膜形成工程は、
前記金属部材の表面に、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速し、前記表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって金属皮膜層を形成する第1皮膜形成工程と、
前記第1皮膜形成工程で形成した金属皮膜を切削して、前記ヒートパイプを配置する溝部を形成する溝部形成工程と、
前記溝部に前記ヒートパイプを配置した後、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速し、前記表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって金属皮膜層を形成する第2皮膜形成工程と、
を含むことを特徴とする請求項9〜14のいずれか一つに記載の放熱構造体の製造方法。
【請求項16】
請求項9〜14のいずれか一つに記載の方法により放熱構造体を製造する放熱構造体製造工程と、
前記セラミックス基板の、前記金属皮膜層が形成された面と対向する面に、金属又は合金からなる金属部材をろう材により接合する第2金属部材接合工程と、
前記第2金属部材接合工程で接合した金属部材上に、金属又は合金からなる粉末をガスと共に加速し、前記表面に固相状態のままで吹き付けて堆積させることによって回路層を形成する回路層形成工程と、
前記回路層上にパワーデバイスを実装するパワーデバイス実装工程と、
を含み、前記放熱構造体製造工程の金属部材接合工程と前記第2金属部材接合工程とを同時に行うことを特徴とするパワーモジュールの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【公開番号】特開2013−74199(P2013−74199A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213303(P2011−213303)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000004640)日本発條株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】