説明

放電ランプ

【課題】
発光管両端の封止管に導電性の保温膜を設け、両端部が封止管に巻回されて、電極とは電気的に独立したトリガーワイヤーを有する放電ランプにおいて、陰極側金属箔の箔浮きや剥離を防止すること。
【解決手段】
トリガーワイヤーの陽極側の端部に電気的に接続された導電性の陽極側保温膜が、陽極側の封止管内の金属箔に対向する領域には存在しないようにしたことを特徴とする。具体的には、トリガーワイヤーと電気的に接続された陽極側保温膜が陽極側の封止管内の集電板より、発光管側の領域にのみ設けられていることを特徴とし、また、トリガーワイヤーの陽極側端部が、陽極側保温膜とは電気的に独立していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は放電ランプに関し、特に、半導体露光、LCD露光用などの光源として利用される放電ランプに係るものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体やLCDの製造工程においては、基板に回路パターンを焼き付けるために紫外線が利用されており、この紫外線を発する光源としては、水銀が封入された発光管の内部に陽極と陰極が配置されて直流点灯される放電ランプが用いられている。
【0003】
このような放電ランプを、図4、図5、図6を用いて説明する。
図4は、従来の放電ランプの説明図であり、図5は、その陽極側の拡大断面図、図6は、その陰極側の拡大断面図である。
放電ランプ1は、内部に水銀が封入された発光管10内に陽極21と陰極22が対向して配置され、発光管10の両端に封止管11、12が連設されている。
陽極21と陰極22はそれぞれ内部リード31、32で支持されており、それぞれの内部リード31、32には、封止管11、12の内部に配置された集電板41、42が接続されている。
また、封止管11、12の内部において、集電板41、42には金属箔51、52が接続されている。
【0004】
陽極21側の封止管11の外表面には導電性の陽極側保温膜61が設けられており、陰極側22の封止管12の外表面には導電性の陰極側保温膜62が設けられている。
なお、該陰極側保温膜62は封止管32の外表面のみならず、発光管10の陰極側外表面の一部に亘って設けられるのが通常である。
ランプ消灯後は、陽極に比べて陰極が早く冷却し温度が相対的に低くなるので、発光管10の陰極22側の部分が陽極21側より早く冷却されて、発光管10の陰極21側の根元に水銀が溜まる傾向にあり、この陰極側保温膜62は、このような水銀の凝縮を防ぐものである。
一方、陽極側保温膜61は、安定点灯時に水銀蒸気が陽極21側の封止管11内に侵入し、これが凝縮することを防ぐためのものである。
【0005】
また、このような放電ランプにおいては、通常、ブレークダウン電圧を下げるために、発光管10の外表面に沿ってトリガーワイヤー70が配設されている。該トリガーワイヤー70の両端部71、72はそれぞれの封止管11、12に巻回され、中間部73が発光管10の外表面に沿って配設されている。
そして、このトリガーワイヤー70は、陽極21および陰極22とは電気的に独立した状態とされている。
【0006】
ここで、トリガーワイヤー70を電気的に独立した理由は以下である。
トリガーワイヤー70を陰極22に電気的に接続された状態にすると、発光管10を構成しているガラスに含まれるプラス電荷を帯びたアルカリ金属(例えば、Mg)が、発光管に沿ったトリガーワーヤ70方向に誘引され、発光管10の光放射領域に失透が生じ、放射光が減衰するという問題がある。
また、トリガーワイヤー70を陽極21に電気的に接続された状態にすると、トリガーワイヤー70の陰極側の封止部12に巻回された端部72が陽極電位となり、陰極側の封止部12を構成しているガラスに含まれるプラス電荷を帯びたアルカリ金属(例えば、Mg)が、斥力(反発力)によって、陰極側の封止部12内に配置された金属箔52方向に移動し、金属箔52が剥がれるという問題がある。
これらの問題を解消するために、トリガーワイヤー70は、陽極21および陰極22とは電気的に独立した構造をとっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−079979
【特許文献2】特開2001−236924
【0008】
トリガーワイヤーに関する先行文献は、特許文献1に示す。
保温膜に関する先行文献は、特許文献2に示す。
【0009】
しかして、上記先行技術文献は、それぞれトリガーワイヤーと、保温膜に関する発明であるがゆえに、特許文献1には保温膜に関する記載がなく、また特許文献2にはトリガーワイヤーに関する記載がないものの、これらを必要としないという意味ではなく、この種ランプにおいては両者を必要とするものである。この両者を備えた放電ランプとして図4に示すようなものが知られていて、その構造については上記した通りである。
図5に示すように、トリガーワイヤー70の両端部71、72は封止管11、12に巻回されているので、その陽極側端部71は陽極側保温膜61と接触する構造になっていて、このためトリガーワイヤー70の陽極側端部71は、陽極側保温膜61と電気的に接続された構造になっている。
一方で、同図に示すように、封止管11に設けた陽極側保温膜61は該封止管11内の金属箔51と、石英ガラス製の封止管11を介して対向した状態になっている。
【0010】
このような放電ランプでは、点灯中は金属箔51を介して陽極21に給電されるが、該金属箔51と陽極側保温膜61とは封止管11を介して対向しているために、封止管11が誘電体となり、陽極側保温膜61がほぼ陽極電位となる。
そして、トリガーワイヤー70は、陽極側保温膜61と電気的に接続された構造になっているために、トリガーワイヤー70も陽極側保温膜61と同程度の陽極電位となる。
【0011】
更に、図6に示すように、トリガーワイヤー70の反対側の陰極側端部72は、陰極側の封止管12に固定されており、このトリガーワイヤー70の陰極側端部72が陽極電位となる。
その結果、図6に示したように、陰極側の封止部12に埋設された金属箔52の端部近傍に、陽極電位となっているトリガーワイヤー70の端部72が位置することになり、陰極側の封止部12を構成しているガラスに含まれるプラス電荷を帯びたアルカリ金属(例えば、Mg)が、斥力(反発力)によって、金属箔52方向に移動し、金属箔52が浮き、最終的に剥離するという問題があった。
【0012】
さらには、トリガーワイヤー70の端部72は、封止部12に巻回された構造であるために、陰極側保温膜62と接触して電気的に接続された構造になっており、陰極側保温膜62も陽極電位となる。
この結果、金属箔52に更に近づいた位置にある陰極側保温膜62も陽極電位となるため、上記のプラス電荷のアルカリ金属(例えば、Mg)の斥力(反発力)による影響が、一層大きくなり、より金属箔52方向に移動する傾向にある。そのため、金属箔52の箔浮きや剥離が一層促進されるという不都合が生じている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この発明が解決しようとする課題は、陽極側封止管と陰極側封止管に導電性の保温膜が設けられ、陽極および陰極とは電気的に独立したトリガーワイヤーを備えてなる放電ランプにおいて、陰極側封止管内の金属箔の箔浮きや剥離を生じることのない放電ランプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、この発明に係る放電ランプは、トリガーワイヤーの端部に電気的に接続された陽極側保温膜が、陽極側の封止管内の金属箔に対向する領域には存在しないようにしたことを特徴とする。
【0015】
また、前記トリガーワイヤー端部と電気的に接続された陽極側保温膜が、前記陽極側の封止管内の集電板より、前記発光管側の領域にのみ設けられていることを特徴とする。
【0016】
更に、上記トリガーワイヤーと電気的に接続された陽極側保温膜とは前記発光管の反対側の位置に第2の保温膜が設けられていることを特徴とする。
【0017】
更にまた、前記トリガーワイヤーの陽極側の端部は、前記陽極側保温膜と電気的に独立していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
この発明によれば、トリガーワイヤーの端部に電気的に接続された陽極側保温膜が、陽極側の封止管内の金属箔に対向する領域には存在しないので、該陽極側保温膜が陽極側封止管内の金属箔を介して陽極電位となることがなく、したがって、トリガーワイヤー自身の陰極側端部が陽極電位となることがなく、かつ、該陰極側端部に接続する陰極側保温膜も陽極電位になることがないので、ガラス内のアルカリ金属に対して斥力が作用することなく、陰極側封止管内の金属箔を箔浮きさせたり、剥離させたりすることがないという作用効果を奏するものである。
その結果、長時間ランプを点灯しても、封止管内の金属箔の箔浮きや箔剥がれが抑制され、封止管が破損することがない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の第1の実施例の陽極側の拡大断面図
【図2】第2の実施例の拡大断面図
【図3】第3の実施例の拡大断面図
【図4】従来の放電ランプ
【図5】図4の陽極側の拡大断面図
【図6】図4の陰極側の拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1の実施例>
この発明の放電ランプの構造は、図4に示す従来の放電ランプとの対比において、陽極側保温膜61を設ける位置だけが異なるものであり、異なる構造のみを図面を用いて説明する。
【0021】
図1は、本発明の放電ランプであって、陽極側の拡大断面図である。
図1に示すように、導電性の陽極側保温膜61aは、陽極側の封止管11の内部に配置された集電板41より発光管10側のみに形成されており、封止管11内の金属箔51に対向する領域には存在しないように形成されている。
そして、トリガーワイヤー70の陽極側の端部71は、陽極側保温膜61aが形成された部分の封止管11に巻回されて固定されており、封止管11の外表面に形成された陽極側保温膜61aと接触して電気的に接続されている。
この結果、陽極側保温膜61aと金属箔51が、ガラス製の封止管11を介して対向して配置されることがなく、ずれた位置関係になることにより、該陽極側保温膜61aの陽極電位を従来構造(図5)の場合の陽極電位より大幅に低く抑えることができ、トリガーワイヤー70の陰極側の端部72および陰極側保温膜62の電位も同様に大幅に低く抑えることができるようになる。
【0022】
その結果、陰極側の封止部12を構成しているガラスに含まれるプラス電荷を帯びたアルカリ金属(例えば、Mg)への斥力(反発力)を弱めることができ、アルカリ金属(例えば、Mg)が陰極側の封止管12内の金属箔52方向に移動することが防げて、金属箔52の浮きや剥がれを長時間に亘り抑えることができ、封止管の破損を防止できるものである。
なお、図1では、陽極側保温膜61aの端部と集電板41の位置が略一致しているものが示されているが、保温膜61aの本来の保温機能が果たせるのであれば、必ずしも両端が一致している必要はない。
【0023】
<第2の実施例>
図2は、他の実施例であり、陽極側の封止管11の外表面には、トリガーワイヤー70の端部71に接続された陽極側保温膜61aとは離間した位置に第2の導電性の保温膜61bが設けられている。この第2の保温膜61bは、集電板41にほぼ対向する位置から金属箔51にかけて設けられていて、トリガーワイヤー70には接続されていない。
その結果、第2の保温膜61bによって、発光管10から内部リード31周囲の空隙から集電板41近傍にかけて侵入する水銀の凝縮をより効果的に防止することができる。
なお、その一実施形態を示すと、陽極側保温膜61aの端部と集電板41の離間距離L1は25mmであり、陽極側保温膜61bの端部と第2の保温膜41の離間距離L2は5mmである。
【0024】
ところで、上記実施例2においては、第2の保温膜61bも導電性材料からなるものを例示したが、当該第2の保温膜61bは、必ずしも導電性材料からなるものである必要はなく、絶縁性のセラミック系材料からなるものであってもよい。この場合には、該第2の保温膜61bは、導電性の陽極側保温膜61aと離間している必要はなく、互いに接触する位置関係に設けられていてもよい。
なお、該セラミック系材料からなる絶縁性保温膜は、保温機能においては導電性保温膜よりも劣るものであり、陽極側保温膜61aや陰極側保温膜62を絶縁性材料から形成することは実用上問題があって採用できないが、保温効果を求める上で補助的な意味合いをもつ上記第2の保温膜61bの材料としては採用できるものである。
【0025】
<第3の実施例>
図3は、更に他の実施例であり、陽極側保温膜61aは、金属箔51と対向する位置に設けられてはいるが、トリガーワイヤー70の端部71が位置する領域には設けられていない。従って、陽極側保温膜61aとトリガーワイヤー70とは電気的に独立しているので、たとえ陽極側保温膜61aが陽極電位と近くなっても、トリガーワイヤー70は陽極電位とはならず、図5に示す従来構造の場合と比較して、大幅に低く抑えることができる。
これにより、トリガーワイヤー70の陰極側の端部72および陰極側保温膜62の電位も陽極電位となることがなく、従来技術より大幅に低く抑えることができるようになる。
こうすることにより、金属箔52の浮きや剥がれを長時間に亘り抑えることができ、封止管が破損しないという効果は、上記実施例と同様である。
なお、その一実施形態を示すと、陽極側保温膜61aの端部とトリガーワイヤー70の端部71の離間距離L3は5mmである。
【0026】
なお、上記実施例における導電性の陽極側保温膜61aと陰極側保温膜62の材質としては以下のものがある。
金を混入した天然樹脂を封止管及び発光管の一部に塗布し、これを焼成することにより、天然樹脂が蒸発して、封止管及び発光管の表面に、金化合物の保温膜ができるものであり、この膜を一般には水金膜と呼ぶ。また、金以外に、白金を用いる場合もある。
【0027】
<実験例>
(ランプ仕様)
発光管:発光管部最大外径;約80mm、内容積;200cc、陰極側封止管部(シール部)外径;約29mm
陰極(材質;エミッタ物質としてトリウムが含有されたトリエーテッドタングステン、全長(軸方向長さ); 26 mm、胴部の直径;15mm
陽極(材質;タングステン、全長(軸方向長さ); 38mm、胴部の直径;25mm
陰極と陽極との電極間距離;7.6mm
封入ガス:キセノンガス、封入ガス圧;1.2×105Pa
水銀量:30mg/cc
点灯電圧:82V
点灯電流:61A
入力電力:5kW
金属箔:材質;モリブデン、厚さ;40μm、全長(軸方向長さ);60mm、幅(周方向長さ);10mm、枚数5枚
【0028】
<実験結果>
この実験は、1000時間点灯後の陰極側封止管の金属箔の箔剥がれを調べたもので、その結果は以下の通り。
【0029】
【表1】

【符号の説明】
【0030】
10 発光管
11 陽極側封止管
12 陰極側封止管
21 陽極
22 陰極
31、32 内部リード
41、42 集電板
51、52 金属箔
61a 陽極側保温膜
61b 第2の保温膜
62 陰極側保温膜
70 トリガーワイヤー
71、72 端部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に陽極と陰極が対向配置された発光管と、
該発光管の両端に連設された封止管と、
該封止管の内部に配置されて、前記陽極と前記陰極をそれぞれ支持する内部リードと、
該内部リードに接続された集電板と、
前記封止管の内部に配置されて、前記集電板に接続された金属箔と、
前記陽極側の封止管の外表面に設けられた導電性の陽極側保温膜と、
前記陰極側の封止管の外表面に設けられた導電性の陰極側保温膜と、
両端部が前記それぞれの封止管に巻回され、中間部が前記発光管の外表面に沿って配設され、前記陽極および前記陰極とは電気的に独立したトリガーワイヤーと、
を備えてなる放電ランプにおいて、
前記トリガーワイヤーの陽極側の端部に電気的に接続された陽極側保温膜が、陽極側の封止管内の金属箔に対向する領域には存在しないようにしたことを特徴とする放電ランプ。
【請求項2】
前記トリガーワイヤーの陽極側の端部と電気的に接続された陽極側保温膜が、前記陽極側の封止管内の集電板より、前記発光管側の領域にのみ設けられていることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。
【請求項3】
前記陽極側の封止管の外表面には、前記陽極側保温膜とは前記発光管の反対側の位置に第2の保温膜が設けられていることを特徴とする請求項2に記載の放電ランプ。
【請求項4】
前記トリガーワイヤーの陽極側の端部は、前記陽極側保温膜と電気的に独立していることを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate