説明

放電電極、放電装置および空気浄化装置

【課題】電気的信頼性などを向上させることができる、放電電極、放電装置および空気浄化装置を提供することである。
【解決手段】本発明の実施形態の放電電極によれば、導電性を呈する板状の基材を有する正電極と、導電性を呈する板状の基材を有する負電極と、を備え、前記正電極および前記負電極の少なくともいずれかは、前記基材の表面に被覆された誘電体をさらに有し、前記正電極および前記負電極は、前記正電極の側面と、前記負電極の側面と、所定の距離を有して対向し、かつ、それら対向する側面の間に誘電体が位置する前記正電極側面と前記負極の側面との間に、前記誘電体が位置する状態で、前記正電極の側面と前記負電極の側面との間で放電させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放電電極、放電装置および空気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、オゾナイザで発生させたオゾンを用いて空気中の臭気成分や有害物質などを分解する空気浄化装置がある。このようなオゾンを用いた空気浄化装置には、オゾン発生用の放電電極が設けられ、放電電極に高電圧を印加して放電を生じさせ、この放電によりオゾンなどを発生させる。このような用途に用いられる放電電極は、セラミックやガラスなどの無機質材料により形成された誘電体を正負電極間に有する。セラミックやガラスなどの構造体としては、3次元多孔質体や基板などが用いられている。
【0003】
しかしながら、誘電体は、セラミックなどの脆性材料により形成されているため金属などと比較すると破損しやすいという問題がある。これにより、保持部材を増加する必要性が生じたり、組立性の向上が困難であるなどの問題がある。また、高電圧が印加される正電極の金属が露出している場合には、異常放電発生のおそれがあるなどの電気的信頼性の課題がある。空気浄化装置に使用される放電電極には、電気的信頼性の向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−100031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、電気的信頼性を向上させることができる、放電電極、放電装置および空気浄化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態の放電電極によれば、導電性を呈する板状の基材を有する正電極と、導電性を呈する板状の基材を有する負電極と、を備え、前記正電極および前記負電極の少なくともいずれかは、前記基材の表面に被覆された誘電体をさらに有し、前記正電極および前記負電極は、前記正電極の側面と、前記負電極の側面と、所定の距離を有して対向し、かつ、それら対向する側面の間に誘電体が位置する前記正電極側面と前記負極の側面との間に、前記誘電体が位置する状態で、前記正電極の側面と前記負電極の側面との間で放電させる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施の形態にかかる放電電極を表す斜視模式図である。
【図2】図1に表した切断面A−Aにおける断面模式図である。
【図3】本発明の他の実施にかかる放電電極を表す断面模式図である。
【図4】本実施形態にかかる放電電極を上方から眺めた平面模式図である。
【図5】図4に表した範囲Bを拡大して眺めた拡大模式図である。
【図6】保持部材の具体例を例示する断面模式図である。
【図7】本発明者が実施した解析のモデルを例示する斜視模式図である。
【図8】本解析において設定した電極および保持部材の材料および物性値を表す表である。
【図9】本解析の結果の一例を例示するグラフ図である。
【図10】本発明者が実施した性能試験の結果の一例を例示するグラフ図である。
【図11】本発明の実施の形態にかかる空気浄化装置を表す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる放電電極を表す斜視模式図である。
また、図2は、図1に表した切断面A−Aにおける断面模式図である。
【0009】
本実施形態にかかる放電電極100は、正電極110と、負電極120と、保持部材130と、を備える。
正電極110は、板状を有し、例えばホーロー基板などと呼ばれる基板により形成されている。すなわち、図2に表したように、正電極110は、基材111と、誘電体113と、を有する。基材111は、金属などの導電性を有する材料により形成されている。誘電体113は、ガラスを含む材料により形成され、基材111の表面を被覆している。ここで、本願明細書において、「ガラス」とは、ケイ酸塩を含む材料により形成された物質をいうものとする。誘電体113は、例えば電気泳動法などにより基材111の表面にコーティングされ、その後に焼結されてなる。誘電体113が電気泳動法により基材111の表面にコーティングされた場合には、誘電体113の膜厚は、基材111の表面の全面に亘って略均一となる。誘電体113の膜厚は、例えば約120μm(マイクロメートル)〜150μm程度である。但し、誘電体113の膜厚は、これだけに限定されるわけではない。
【0010】
負電極120は、正電極110と同様に、板状を有し、例えばホーロー基板などと呼ばれる基板により形成されている。すなわち、図2に表したように、負電極120は、基材121と、誘電体123と、を有する。基材121および誘電体123は、正電極110に関して前述した基材111および誘電体113とそれぞれ同様である。
【0011】
なお、正電極110および負電極120は、ホーロー基板に限定されるわけではない。正電極110および負電極120は、例えばセラミックなどの誘電体の表面に金属を含有するペーストが印刷され、その印刷されたペーストが絶縁膜で被覆されたものでもよい。
【0012】
保持部材130は、正電極110および負電極120を保持あるいは支持している。図2に表したように、保持部材130は、例えば上下に分割された第1の部材131と第2の部材133とを有し、正電極110および負電極120を挟設して保持あるいは支持する。但し、保持部材130は、これだけに限定されず、例えば輪状を有し、正電極110および負電極120の端部から中央部へスライドされて正電極110および負電極120を保持あるいは支持してもよい。保持部材130は、例えば樹脂やゴムなどの絶縁材料により形成されることがより望ましい。
【0013】
図2に表したように、正電極110および負電極120は、互いの板厚面115、125が対向した状態で保持部材130により保持されている。ここで、本願明細書において「板厚面」とは、基板の板厚を形成する面をいうものとする。つまり、「板厚面」とは、板状の基板の主面と交差する側面を意味する。
【0014】
正電極110の基材111に高電圧が印加され、負電極120の基材121がグランドに導通されると、正電極110と負電極120との間に放電が生ずる。このとき、正電極110の基材111と、負電極120の基材121と、の間に誘電体113、123が介在するため、正電極110と負電極120との間において誘電体バリア放電が生ずる。この放電により空気中の酸素分子が解離し、他の酸素分子と再結合することでオゾンが発生する。
【0015】
このとき、前述したように、正電極110の板厚面115と、負電極120の板厚面125と、は、互いに対向している。つまり、正電極110および負電極120の主面が互いに対向した場合と比較して、正電極110と負電極120の両電極間に加わる電圧が同じであれば両電極間の電界は強くなる。または、同じ電界強度を得るための電圧は低くなる。したがって、放電開始電圧は低くなり、より低い電圧でオゾンを発生させることができる。
【0016】
また、板厚面115、125と並行する方向(上下方向:図1参照)と比較すると、正電極110および負電極120の主面と並行する方向には、反りなどの変形が生じにくい。そのため、正電極110と、負電極120と、の間の距離D1は、より安定して、略一定に保たれる。これにより、放電が均一になりやすく、より安定的となる。なお、正電極110と、負電極120と、の間の距離D1は、電源の適正負荷容量ならびに、放電開始電界を考慮し、適宜設定される。正電極110と、負電極120と、の間の距離D1は、例えば約0mm(ミリメートル)〜1mm程度である。但し、正電極110と、負電極120と、の間の距離D1は、これだけに限定されるわけではない。
【0017】
前述したように、誘電体113、123が電気泳動法により基材111、121の表面にそれぞれコーティングされた場合には、誘電体113、123の膜厚は、基材111、121の表面の全面に亘ってそれぞれ略均一となる。そうすると、正電極110と、負電極120と、の間の距離D1は、略一定になりなやすい。これにより、放電が均一になりやすく、より安定的となる。
【0018】
また、前述したように、基材111、121の表面は、誘電体113、123によりそれぞれ被覆されている。そのため、放電により発生したオゾンと、基材111、121と、の接触が抑制される。そのため、基材111、121の表面が酸化することを抑制することができる。これによれば、基材111、121が酸化することで放電が不均一になったり、あるいは基材111、121に由来する金属が被処理体(例えば空気など)に混入することを抑制することができる。また、高電圧が印加された基材111、121が誘電体113、123によりそれぞれ保護されているため、異常放電の発生を抑制し、塵や埃や結露水などの付着による電気回路の短絡を抑制することができる。つまり、電気的信頼性を向上させることができる。さらに、基材111、121の表面が酸化することを抑制できるため、正電極110および負電極120の寿命を向上させることができる。
【0019】
また、正電極110および負電極120のそれぞれの基材111、121は、金属などの導電性を有する材料により形成されているため、セラミックなどよりも高い強度を有する。そのため、放電電極100の強度を向上させることができる。さらに、ガラスを含む誘電体113、123により被覆された基材111、121は、セラミックよりも高い延性を有する。そのため、放電電極100の組立工程において、正電極110や負電極120が破損することを抑制し、組立性を向上させることができる。
【0020】
図3は、本発明の他の実施にかかる放電電極を表す断面模式図である。
なお、図3は、図1に表した切断面A−Aにおける断面模式図に相当する。
本実施形態にかかる放電電極100aでは、正電極110の基材111の表面は、誘電体113により被覆されている一方で、負電極120の基材121の表面は、誘電体123により被覆されていない。つまり、負電極120の基材121は、露出している。放電によりオゾンが発生するため、負電極120の基材121は、アルミニウムやステンレスや防錆処理が施された金属などにより形成されることがより望ましい。その他の構造は、図1および図2に関して前述した放電電極100の構造と同様である。
【0021】
本実施形態によれば、負電極120の構造の簡略化を図ることができる。これにより、放電電極100aの構造の簡略化および組立性のさらなる向上を図ることができる。なお、図3に表した放電電極100aでは、正電極110の基材111の表面は、誘電体113により被覆されている一方で、負電極120の基材121の表面は、誘電体123により被覆されていないが、これだけに限定されるわけではない。例えば、負電極120の基材121の表面が誘電体123により被覆されている一方で、正電極110の基材111の表面が誘電体113により被覆されていなくともよい。
【0022】
一方、図1および図2に関して前述した放電電極100では、正電極110および負電極120の基材111、121のそれぞれの表面に誘電体113、123がそれぞれ形成されている。そのため、基材111と基材121との間に介在する誘電体113、123の膜厚は、図3に表した放電電極100aにおける誘電体113の膜厚よりも厚い。これにより、放電による絶縁破壊をより抑制することができ、正電極110および負電極120の寿命を向上させることができる。また、正電極110および負電極120のいずれか一方の誘電体に亀裂などの欠陥が生じた場合でも、他方の誘電体に欠陥がなければ放電電極100の動作に支障はない。これにより、電気的信頼性をより向上させることができる。
【0023】
図4は、本実施形態にかかる放電電極を上方から眺めた平面模式図である。
また、図5は、図4に表した範囲Bを拡大して眺めた拡大模式図である。
正電極110は、一端部において導通部117を有する。放電の際に基材111に電気を導通させるため、誘電体113は、導通部117には形成されていない。言い換えれば、導通部117には、ホーロー層が形成されておらず、金属などの導電性を有する材料が露出している。導通部117においては、正電極110の製造工程において例えばマスクなどにより誘電体113が形成されなくともよいし、正電極110の製造後に誘電体113が除去されてもよい。なお、焼結の際に基材111の表面に酸化層が生ずる場合には、その酸化層を除去することがより望ましい。
【0024】
負電極120は、正電極110と同様に、一端部において導通部127を有する。負電極120の導通部127の構造や形成方法については、正電極110の導通部117の構造や形成方法と同様である。
【0025】
図5(a)に表したように、主面に対して垂直な方向(上下方向:図1参照)にみたときに、互いに対向する板厚面115、125の形状は、直線状である。
【0026】
あるいは、図5(b)に表したように、主面に対して垂直な方向(上下方向:図1参照)にみたときに、正電極110の板厚面115および負電極120の板厚面125の少なくともいずれかの形状は、凹凸形状である。すなわち、正電極110の板厚面115および負電極120の板厚面125の少なくともいずれかには、凸部115aが形成されている。
【0027】
あるいは、図5(c)に表したように、主面に対して垂直な方向(上下方向:図1参照)にみたときに、正電極110の板厚面115および負電極120の板厚面125の少なくともいずれかの形状は、例えば棘や針などのような尖形状である。すなわち、正電極110の板厚面115および負電極120の板厚面125の少なくともいずれかには、尖形部115bが形成されている。
【0028】
板厚面115および板厚面125の少なくともいずれかに凸部115aや尖形部115bが形成された場合には、正電極110と、負電極120と、の間の距離D1が略一定に保たれやすい。すなわち、凸部115aの頂面と、負電極120の板厚面125と、の間の距離が略一定に保たれやすい。また、尖形部115bの尖端と、負電極120の板厚面125と、の間の距離が略一定に保たれやすい。そのため、放電が均一になりやすく、より安定的となりやすい。また、電界が凸部115aおよび尖形部115bに集中し強くなるので、凸部115aおよび尖形部115bから放電しやすい。そのため、オゾンが発生しやすい。また、放電が起こりやすくなるため、放電に必要な電圧を低減することができる。
【0029】
なお、図5(b)および図5(c)では、正電極110の板厚面115のみに、凸部115aや尖形部115bが形成された場合を例示しているが、これだけに限定されず、凸部115aや尖形部115bは、負電極120の板厚面125に形成されていてもよい。また、正電極110および負電極120は、板状ではなくワイヤ状を有していてもよい。
【0030】
導通部117、127には、金属などの導電性を有する材料が露出した状態で高電圧が印加される。そのため、導通部117と導通部127との間において、放電が発生する可能性がある。放電は、図4に表した放電部101のように、正電極110と負電極120とが例えば約0mm〜1mm程度にまで近接した部分で発生することが望ましい。放電部101では、正電極110と負電極120とが一定の距離を維持しつつ延在している。そのため、図4に表したように、正電極110の導通部117と、負電極120の導通部127と、の間には、放電部101における電極間距離D1よりも長い距離を設ける必要がある。正電極110の導通部117と、負電極120の導通部127と、の間の距離D2は、例えば約15mm程度である。但し、導通部117と導通部127との間の距離D2は、これだけに限定されず、供給電圧に応じて適宜設定されることがより望ましい。また、図示しない電源からの供給形態によっては、沿面放電が発生する場合がある。この場合には、さらに沿面距離を確保する必要がある。このとき、沿面距離を確保する方向は、正電極110および負電極120の長手方向および短手方向のいずれの方向でもよい。
【0031】
放電部101における板厚面115と板厚面125との間の距離D1は、導通部117と導通部127との間の距離D2よりも短い。そのため、図4に表したように、正電極110および負電極120は、導通部117、127から放電部101に向かって傾斜した部分を有する。傾斜の角度が緩やかであるほど、正電極110および負電極120の製造時の取り数は、より増加する。これにより、コスト低減を図ることができる。一方、傾斜の角度が急になるほど、放電するエリアが拡大する。これにより、発生するオゾンの範囲が拡大される。
【0032】
正電極110は、導通部117とは反対側に形成された端面119を有する。また、負電極120は、導通部127とは反対側に形成された端面129を有する。端面119、129において、金属などの導電性を有する材料が露出している場合には、導通部117、127に関して前述したように、端面119と端面129との間において放電が発生する可能性がある。そのため、図4に表したように、正電極110の端面119と、負電極120の端面129と、の間には、放電部101における電極間距離D1よりも長い距離を設ける必要がある。正電極110の端面119と、負電極120の端面129と、の間の距離D3は、例えば約5mm程度である。但し、端面119と端面129との間の距離D3は、これだけに限定されず、供給電圧に応じて適宜設定されることがより望ましい。なお、端面119および端面129には、絶縁体が形成されていてもよい。
【0033】
なお、正電極110および負電極120の板幅D4は、例えば約2mm程度である。また、正電極110および負電極120の長手方向における傾斜部103の長さD5は、例えば約15mm程度である。また、正電極110および負電極120の長手方向における放電部101の長さD6は、例えば約150mm程度である。但し、これらの寸法は、これだけに限定されず、適宜変更可能である。
【0034】
図6は、保持部材の具体例を例示する断面模式図である。
なお、図6は、図1に表した切断面A−Aにおける断面模式図に相当する。
本具体例の保持部材130は、上下に分割された第1の部材131と第2の部材133とを有する。第1の部材131は、突起部131aを有する。一方、第2の部材133は、突起部131aと嵌合可能な孔133aを有する。
【0035】
図6に表したように、正電極110および負電極120は、互いの板厚面115、125が対向した状態で第1の部材131と第2の部材133との間に挟設される。このとき、突起部131aと孔133aとが嵌合することにより、第1の部材131と第2の部材133とは、相対的に位置決めされる。
【0036】
正電極110と、負電極120と、の間の距離D1は、例えば治具などにより適宜決定される。そして、正電極110および負電極120は、上下の主面において、図示しない接着剤により第1の部材131および第2の部材133にそれぞれ接着されている。これにより、正電極110および負電極120は、保持部材130に対して位置決めされている。なお、正電極110と、負電極120と、の間の距離D1を決定する治具は、正電極110および負電極120と、保持部材130と、の接着工程の後に適宜取り外される。
【0037】
保持部材130は、中央部に第1の空間135を有する。第1の空間135は、正電極110および負電極120の放電部101の周辺に形成されている。これにより、正電極110と負電極120との間の放電による絶縁破壊や沿面放電が生ずることを抑制することができる。
また、保持部材130と、正電極110および負電極120の板厚面115、125とは反対側のそれぞれの側面と、の間には、第2の空間137が存在する。これによれば、正電極110と、負電極120と、の間の距離D1を、供給電圧に応じて治具などに適宜設定変更することができる。
【0038】
次に、本発明者が実施した解析結果の一例について、図面を参照しつつ説明する。
図7は、本発明者が実施した解析のモデルを例示する斜視模式図である。
また、図8は、本解析において設定した電極および保持部材の材料および物性値を表す表である。
また、図9は、本解析の結果の一例を例示するグラフ図である。
なお、図9に表したグラフ図の横軸は、振動の周波数を表し、縦軸は、1G(重力加速度(m/s))に対する正負電極の変位(mm)を表している。
【0039】
本発明者は、本解析において、放電電極100の左右方向(図7(a)参照)に振動を与えた。このとき、正電極110、負電極120、保持部材130の材料および物性値は、図8に表した如くである。また、全モードにおける減衰係数を3%とした。正電極110および負電極120の変形状態の一例は、図7(b)に表した如くである。そして、本発明者は、放電電極100の解析モデルに振動を与えたときの図7(a)に表した部分P1、P2、P3のそれぞれの変位(振幅)を測定した。
【0040】
正電極110および負電極120の部分P1、P2、P3のそれぞれの変位の一例は、図9に表した如くである。これによれば、部分P1、P2、P3の振動方向の変位は、周波数が増加するにつれて減少し、また、局所的に増加していないことが分かる。つまり、共振は生じていないことが分かる。そのため、振動が生ずる環境下において本実施形態にかかる放電電極100が使用された場合でも、より安定した放電が発生することが分かる。また、振動方向と直交する方向(上下方向)の部分P1、P2、P3の変位は、周波数が変化しても比較的安定していることが分かる。本解析結果によれば、本実施形態にかかる放電電極100は、振動に対してより高い耐久性を有することが分かる。
【0041】
次に、本発明者が実施した性能試験の結果の一例について、図面を参照しつつ説明する。
図10は、本発明者が実施した性能試験の結果の一例を例示するグラフ図である。
なお、図10(a)は、放電時間とオゾン発生量との関係を例示するグラフ図であり、図10(b)は、放電時間と放電電圧との関係を例示するグラフ図である。
【0042】
図10(a)に表したように、本実施形態にかかる放電電極100によれば、放電時間(動作時間)が経過しても、オゾン発生量の変化が比較的小さいことが分かる。つまり、放電時間が経過しても、オゾン発生量が比較的安定していることが分かる。これによれば、本実施形態にかかる放電電極100では、放電むらが比較的少なく、安定した放電を実行可能であることが分かる。
【0043】
また、図10(b)に表したように、本実施形態にかかる放電電極100によれば、放電時間が経過しても、放電電圧の変化が比較的小さいことが分かる。つまり、放電時間が経過しても、放電電圧が比較的安定していることが分かる。これによれば、本実施形態にかかる放電電極100では、例えば異常放電などの異常が発生するなどの不具合は、生じていないことが分かる。
また、本実施形態では、前述の放電電極の実施形態に加えて、前述の放電電極が、さらに、この放電電極の正電極、及び負電極との間に電圧を供給する電源部を備えることで、放電装置を構成することが可能である。この場合、所定の位置において、放電電極100の正電極110、および負電極120の間に所定の電圧を供給する電源部を配置することで、その構成が可能となる。ここでは、放電装置は、オゾン分解モジュール等を有しない放電装置(所謂、オゾナイザ)や、基材の表面を改質する表面処理(改質)装置などを含むものとする。
【0044】
次に、本発明の実施の形態にかかる空気浄化装置について、図面を参照しつつ説明する。
図11は、本発明の実施の形態にかかる空気浄化装置を表す断面模式図である。
本実施形態にかかる空気浄化装置200は、放電電極100と、光触媒モジュール210と、オゾン分解触媒モジュール220と、電源部230と、筐体240と、を備える。
【0045】
放電電極100は、図1〜図10に関して前述した如くである。
図11に表した矢印A1のように、被処理体は、空気浄化装置200の上方から下方へ向かって流れる。本願明細書においては、説明の便宜上、被処理体の上流側の方向を上方とし、被脱臭体の下流側の方向を下方とする。
【0046】
オゾン分解触媒モジュール220は、例えば主としてアルミニウムを含む材料により形成され、ハニカム形状を有する。基体(例えばアルミニウムなど)の表面には、オゾン分解触媒が担持されている。オゾン分解触媒モジュール220は、放電電極100の放電により発生したオゾンや空気中に含まれる臭気成分や有害物質などを吸着することができる。放電電極100の放電により発生したオゾンは、オゾン分解触媒モジュール220により吸着され還元される際に、オゾン分解触媒モジュール220の表面近傍に存在する気体中に含まれる臭気成分や有害物質などを分解することができる。また、放電電極100の放電により発生したオゾンは、オゾン分解触媒モジュール220に吸着された臭気成分や有害物質などを分解し、オゾン分解触媒モジュール220から脱離させることができる。そのため、オゾン分解触媒モジュール220に吸着された臭気成分や有害物質などが残存し続けることを抑制することができる。これにより、オゾン分解触媒モジュール220の寿命を向上させることができる。
【0047】
光触媒モジュール210は、オゾン分解触媒モジュール220の基体(例えばアルミニウムなど)の表面に光触媒を担持されてなる。つまり、本実施形態にかかる空気浄化装置200では、オゾン分解触媒モジュール220の基体と、光触媒モジュール210の基体と、が共有化されている。これにより、空気浄化装置200の小型化や、薄型化や、圧力損失の低減などを図ることができる。
【0048】
放電電極100の放電により発生した光は、光触媒モジュール210の光触媒を活性化させる。そして、活性化した光触媒の作用により、光触媒モジュール210の表面近傍に存在する気体中に含まれる臭気成分や有害物質などを分解することができる。そのため、臭気成分や有害物質などの分解性能をより向上させることができる。
【0049】
筐体240は、放電電極100と、光触媒モジュール210と、オゾン分解触媒モジュール220と、を内蔵する。図11に表したように、筐体240の上下面は、網状となっている。つまり、筐体240は、上方から下方へ向けて空気などの気体を通過させることができる。そのため、筐体240は、振動や荷重により撓みを生ずる場合がある。これに対して、本実施形態にかかる空気浄化装置200では、図11に表したように、放電電極100の保持部材130は、筐体240と光触媒モジュール210とに接触している。なお、前述したように、オゾン分解触媒モジュール220の基体と、光触媒モジュール210の基体と、は共有化されているため、保持部材130が光触媒モジュール210と接触することは、保持部材130がオゾン分解触媒モジュール220と接触することと同等である。
【0050】
これにより、空気浄化装置200全体の強度を向上させることができる。また、組立性およびメンテナンス性を向上させることができる。さらに、筐体240と、正電極110および負電極120と、間の距離が略一定に保たれるため、正電極110および負電極120の少なくともいずれかと、筐体240と、の間において異常放電が発生することを抑制することができる。これにより、電気的信頼性を向上させることができる。
また、筐体240は、放電電極100の放電により発生する電磁波を遮蔽することができる。
【0051】
電源部230が正電極110と負電極120との間に高電圧を供給すると、正電極110と負電極120との間に放電が生ずる。このとき、正電極110の基材111と、負電極120の基材121と、の間に誘電体113、123が介在するため、正電極110と負電極120との間において誘電体バリア放電が生ずる。この放電により空気中の酸素分子が解離し、他の酸素分子と再結合することでオゾンが発生する。電源部230は、筐体240の内部に設置されてもよいし、筐体240の外部に設置されてもよい。
【0052】
なお、本実施形態では、放電電極100を備える空気浄化装置200が、空気清浄機や脱臭装置などのように臭気成分や有害物質など分解する装置である場合を例に挙げて説明したが、空気浄化装置200は、これだけに限定されるわけではない。
以上、本発明の実施形態では、電気的信頼性を向上させることができる、放電電極、放電装置および空気浄化装置を提供する。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
100 放電電極、 100a 放電電極、 101 放電部、 103 傾斜部、 110 正電極、 111 基材、 113 誘電体、 115 板厚面、 115a 凸部、 115b 尖形部、 117 導通部、 119 端面、 120 負電極、 121 基材、 123 誘電体、 125 板厚面、 127 導通部、 129 端面、 130 保持部材、 131 第1の部材、 131a 突起部、 133 第2の部材、 133a 孔、 135 第1の空間、 137 第2の空間、 200 空気浄化装置、 210 光触媒モジュール、 220 オゾン分解触媒モジュール、 230 電源部、 240 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を呈する板状の基材を有する正電極と、
導電性を呈する板状の基材を有する負電極と、
を備え、
前記正電極および前記負電極の少なくともいずれかは、前記基材の表面に被覆された誘電体をさらに有し、
前記正電極および前記負電極は、前記正電極の側面と、前記負電極の側面と、所定の距離を有して対向し、かつ、それら対向する側面の間に誘電体が位置する前記正電極側面と前記負極の側面との間に、前記誘電体が位置する状態で、前記正電極の側面と前記負電極の側面との間で放電させる放電電極。
【請求項2】
前記正電極および前記負電極は、ホーロー基板である請求項1記載の放電電極。
【請求項3】
前記正電極および前記負電極のいずれか一方は、ホーロー基板であり、
前記正電極および前記負電極のいずれか他方は、前記基材が露出してなる請求項1記載の放電電極。
【請求項4】
前記正電極と前記負電極とは、両者が一定の距離を維持しつつ延在する放電部を有する請求項1〜3のいずれか1つに記載の放電電極。
【請求項5】
前記正電極の前記導通部と、前記負電極の前記導通部と、の距離は、前記放電部における前記正電極と前記負電極との距離よりも大きく、
前記正電極および前記負電極は、前記導通部から前記放電部へ向かって傾斜した部分を有する請求項3記載の放電電極。
【請求項6】
前記正電極および前記負電極の主面に対して垂直な方向にみたときに、前記正電極および前記負電極の対向するそれぞれの側面の少なくともいずれかは、直線状、凹凸状、および尖形状のいずれかである請求項1〜5のいずれか1つに記載の放電電極。
【請求項7】
前記正電極および前記負電極は、前記導通部とは反対の側に形成された端面を有し、
前記正電極の端面と、前記負電極の端面と、の距離は、前記放電部における前記正電極と前記負電極との距離よりも大きい請求項3または5に記載の放電電極。
【請求項8】
前記正電極および前記負電極を保持する保持部材をさらに備え、
前記保持部材は、前記正電極と前記負電極との間において放電を生ずる放電部の周辺に空間を有する請求項1〜7のいずれか1つに記載の放電電極。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1つに記載の放電電極と、
前記正電極と前記負電極との間に電圧を供給する電源部と、
を備えたことを特徴とする放電装置。
【請求項10】
請求項9記載の放電装置と、
オゾン分解触媒が担持されたオゾン分解触媒モジュールと、
を備えた空気浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−73698(P2013−73698A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209970(P2011−209970)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】