説明

故障ホイストの操作装置及び操作方法

【課題】故障ホイストを修理・作業場所まで臨時に移動可能として、ホイストの修理作業を容易にする。
【解決手段】ホイスト故障時に、ホイスト側制御器40から外部に取り出されている巻上げモータ/ブレーキ46及び走行モータ/ブレーキ48の主操作回路50からの分岐線52に接続されたコネクター54に、ホイスト10の巻上げ、走行を司る制御部分を有する補助操作回路62を有した故障ホイストの操作装置(60)のカップラー66を接続し、該接続回路を介して、前記故障ホイスト10に電源を投入して、故障ホイストをホイスト操作用操作盤68により再操作可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、故障ホイストの操作装置及び操作方法に関し、特に、ホイスト故障時の修理作業を容易にするため、故障ホイストを修理作業場所まで臨時に移動させることができる故障ホイストの操作装置、並びに、故障ホイストを修理作業が可能な場所まで臨時に移動させ、その後、所定の安全な環境下で修理作業を行うことが出来る故障ホイストの操作方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホイストは、ワイヤロープを巻いた巻きドラムを巻上電動機で回転制御し、ワイヤロープを介してフックに吊った荷物を上げ、下げ、又、走行電動機で左右に走行移動して吊り荷を運搬するものであり、ホイスト操作用操作盤(以下、単にペンダントスイッチという)を介して前記運転操作が行われ、各種工場に於いて多数のこれらホイストが使用されている。
【0003】
これらのホイストは、故障時の対策として、以下に掲げる特許文献1、2の提案がなされている。
【0004】
特許文献1においては、吊り荷を保持した状態で故障を生じた際に、危険なため人力操作により吊り降ろし操作を可能とする非常吊り降ろし装置を備えるホイストが提案されており、特許文献2では、過剰巻上げ時に電源の非常遮断装置が作用した際、迅速に解除・復旧することを可能とする復旧手段を設置した非常遮断装置を備えたホイストが提案されている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−316377号公報
【特許文献2】実用新案登録番号第2577006号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は吊り荷を緊急に吊り降ろすことができるため、安全面で非常に役立つが、大型のホイスト適用には、吊り荷荷重が人力で操作するのは過大である他、吊り荷を故障位置で降ろすことが出来ないなどの問題がある。又、吊り荷をホイスト故障位置でしか降ろせないという問題もあるため、吊り降ろす機能を有していたとしても吊り降ろし操作ができない事態も生じた。更に、吊り荷を降ろすことはできても、後述するようにホイストの修理・復旧が、ホイストを設置している高所となって、修理・復旧作業が高所作業となるために、作業性が悪く、修理・復旧作業時間が長く係り、かつ安全面で問題があったものである。
【0007】
特許文献2においては、過剰巻上げ時の問題は解決されるが、高価なホイストにならざるを得ず、又、既存ホイストには簡単に適用できない問題があった。
【0008】
本発明は、上掲の制約のない、故障ホイストの操作装置及び操作方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、ホイストの主電源の接続・遮断を司る接触器下流側で巻上げモータ/ブレーキ及び走行モータ/ブレーキの主操作回路から分岐させ、ホイスト側制御器外に取り出したコネクター部と、前記ホイストを外部から操作する前記巻上げモータ/ブレーキ及び走行モータ/ブレーキの補助操作回路と、ホイスト操作用操作盤と、前記ホイスト側制御器から外部に取り出されているコネクターと接続できるカップラー部を装備し、更に前記ホイストに補助操作回路を介して電源を供給する電源盤から成ることを特徴とする故障ホイストの操作装置である。
【0010】
又、請求項2の発明は、ホイスト故障時に、ホイスト側制御器から外部に取り出されている巻上げモータ/ブレーキ及び走行モータ/ブレーキの主制御回路からの分岐線に接続されたコネクターに、ホイストの巻上げ、走行を司る制御部分を有する補助操作回路を有した故障ホイストの操作装置のカップラーを接続し、該接続回路を介して、前記故障ホイストに電源を投入して、故障ホイストをホイスト操作用操作盤により再操作することを特徴とする故障ホイストの操作方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、故障ホイストの再操作が可能になるため、ホイスト故障発生時の約80%に達する制御系の故障による修理・復旧作業を、所定の作業場で安全に行うことが出来るようになる。又、ホイスト故障発生時には、本発明による故障ホイストの操作装置を持参して、故障現場に出動すれば、故障ホイストを速やかに所定作業場所に移動させることが出来、他の仕事に支障を与えることも無くなる。
【0012】
更に、単一の操作装置で、他のホイストも操作できるため、安価に実施でき経済的にも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
ホイストの故障原因を発明者が調査してみたところ、図1に示すように、シャフト磨耗、ギア磨耗など機器寿命によるものはごく一部であって、接触器やペンダントスイッチなど電気系のトラブルが82.8%にも達することが判明した。即ち制御器側のトラブルによる故障が主たる原因である。
【0014】
そして、ホイスト故障時は、ホイスト点検のために設置してある作業場まで移動できないので故障発生場所での修理となり、ホイスト設置高さまで達する作業用の足場を組み作業を行う必要がある。ホイスト故障時の対応について、図を用いて説明する。図2中、(A)は、故障ホイスト10の修理のため、昇降式簡易デッキ20を移動させ、作業員30が上って修理する例を、(B)、(C)、(D)は、別の手段として、それぞれ、高所作業車22、足場組み24、梯子26を使用して作業員30が修理する例を示す。これら作業は、発生個所において作業を行う高所作業となって、安全上の問題をはらんでいた。
【0015】
図2(E)は、作業員30がホイスト設置場所まで上がって修理する例と異なり、ホイスト10を所定の修理・点検場所32まで移動させ修理する例を示すが、ホイスト10が操作できないため、図中で示すチェーンブロック34にてホイスト10を右方に横引きして、所定の位置(所定の修理・点検場所)まで移動させ修理を行う例を示す。この所定の修理・点検場所32にて行う故障ホイストの修理は安全であるが、故障ホイスト10の移動に労力と時間を要し、所定の修理・点検場所32から遠方では、チェーンブロック34によるホイスト10の横引き作業自体が高所作業となって危険作業となり、適用場所が限られていた。
【0016】
なお、12は、ホイスト10の走行用ガータ、14はフック、16は吊り荷を示し、図中、ホイストを操作するペンダントスイッチなどは省略している。
【0017】
又、ホイストの形態には2通り有り、単にホイストの走行用ガータ12上をホイスト10が走行する簡易タイプは、吊り荷の昇降を大きく取るため、ホイストの走行用ガータ12が天井に接近して設けられており、ホイストの走行用ガータ12と天井との空間が狭く、仮に図2に示すように昇降式簡易デッキ20、高所作業車22、足場組み24、梯子26を使用して作業場所を確保しても、狭隘な空間での修理・復旧作業が要求されるものでもあった。
【0018】
本発明においては、これら問題を解決するため、故障ホイストを走行可能にすることに着眼した。
【0019】
即ち、上掲したように、ホイストの故障は制御器側の原因が大半である。これを克服して、故障したホイストを走行操作できるようにすることを本発明において解決することにした。
【0020】
前記制御器の故障に対しては2重回路などを装備することが考えられるが、保有ホイストすべてに装備することとなると経済的問題が大きい。従って、本発明においては、ホイストの巻上げ、走行を司る制御部分を有する補助操作回路を有した制御器である故障ホイストの操作装置(以下、ポータブル制御盤と称す)を用い、故障ホイストの巻上げ、巻き下げ、走行及び停止を制御して、吊り荷がある場合は安全な場所に安全に降ろすこと、及び、故障ホイストを、ホイスト点検のために予め設置してある作業場まで移動させ、所定作業場において修理・復旧作業することを可能にする。
【0021】
以下、実施例を説明する。
【0022】
図3は、本発明のポータブル制御盤を示す説明図である。
【0023】
図中、左方は、ホイスト側制御器40を略示している。該ホイスト側制御器40内の前記電気系のトラブル発生時は、ホイスト側制御器40の左側に示す主電源42の接続を司る接触器(マグネット・コンダクタ)44が主電源42を遮断してホイストを非常停止させる。
【0024】
本発明では、前記主電源42の接続・遮断を司る接触器(マグネット・コンダクタ)44の下流側で巻上げモータ/ブレーキ46及び走行モータ/ブレーキ48の主操作回路50から分岐する分岐線52をホイスト側制御器40外に取り出し、端部にコネクター54を設け、ポータブル制御盤60と接続できるコネクター部としてホイスト側制御器40外に垂下した状態で設置する。
【0025】
一方、ポータブル制御盤60には、前記巻上げモータ/ブレーキ46及び走行モータ/ブレーキ48を操作できる補助操作回路62が設けられ、該ポータブル制御盤60に電源を供給する電源盤64が接続されているとともに、前記ホイスト側制御器10から外部に取り出されているコネクター54と接続できるカップラー66が装備されている。該ポータブル制御盤60にも、前記ホイスト側制御盤40と同じ制御回路を装備させることが、故障時の操作安全面から好ましい。
【0026】
ホイスト故障時は、前記ホイスト側制御器40から外部に取り出されているコネクター54とポータブル制御盤60側のカップラー66を接続する。すると、故障ホイスト側制御器40の巻上げモータ/ブレーキ46及び走行モータ/ブレーキ48の回路には、分岐線52を介して前記ポータブル制御盤60に接続された電源盤64から電源が供給され、故障ホイストの巻上げモータ/ブレーキ46及び走行モータ/ブレーキ48の操作が可能となって、前記ポータブル制御盤60を介して吊り荷16の吊り上げ、吊り降ろし操作ができるようになる。このポータブル制御盤60を介するホイスト操作により、故障時吊り荷を吊下している際は、安全な場所に一旦吊り荷を降ろす操作が可能となる。即ち、走行操作と吊り降ろし操作によって、安全な場所へ移動して吊り荷を降ろすことができる。
【0027】
その後、走行モータ/ブレーキ操作により、故障ホイストを、ホイストの修理・点検のために予め設置してある所定の作業場まで移動させ、当該所定の作業場において修理・復旧作業を行う。
【0028】
図4は、ホイスト10の故障時に、ポータブル制御盤60を接続した状況を示す説明図であり、56はホイスト側ペンダントスイッチを示す。ホイスト10からは、ホイスト側制御器40から外部に取り出され、常時は垂下した状態となっているコネクター54に、ポータブル制御盤60のカップラー66が接続されている。コネクター54は、ほぼホイスト側ペンダントスイッチ56に近接する位置まで垂下された状態に常時はされており、故障発生時に、カップラー66が接続される。この時、地上側で作業員30により、コネクター54にポータブル制御盤60のカップラー66が接続され、高所作業は発生しない。
【0029】
コネクター54にカップラー66が接続された後は、ポータブル制御盤60側のペンダントスイッチ68の操作により、故障したホイスト10を操作する。63は、ポータブル制御盤60に給電するホイスト操作用電源盤64から伸びる給電線を示す。故障ホイスト10は、巻上げモータ/ブレーキ及び走行モータ/ブレーキが、ホイスト操作用電源盤60から給電されて復旧し、ポータブル制御盤60側のペンダントスイッチ68により、フック部分(図示省略)が昇降可能となり、またホイスト10の走行操作も復旧することができる。
【0030】
本発明を図5を用いて更に説明する。
【0031】
本発明になる故障ホイストの操作装置ならびに故障ホイストの操作方法による、故障ホイスト発生時には、図5(A)、(B)、(C)、(D)の手順で故障ホイストの修理・復旧を行うことができる。
【0032】
即ち、図5(A)において、ホイスト10に故障が発生、故障ホイスト10が吊り荷16を吊下状態であっても、直ちに処置可能である。図中符号は同符号を付している。
【0033】
まず、図5(B)に示すように、ホイスト10の故障場所に出動する。そして、ホイスト10から垂下しているコネクター54にカップラー66を接続する。接続は地上側で可能であり、高所作業は発生しない。なお、本図で示すポータブル制御盤60には移動用車輪61が装備されている例を示しているが、可搬式構造としてもかまわない。故障ホイスト10の操作は、前記コネクター54とカップラー66の接続により、電源盤64から給電が開始され、ポータブル制御盤60により再操作が可能となる。
【0034】
この再操作機能を利用して、まず、ペンダントスイッチ68により、吊り荷16を降ろすことができる安全な場所までホイスト10を走行させ、図5(C)に示すように、吊り荷16を降ろし、ホイスト10のフック14から取り外して、フック14を所定位置まで上昇させる。
【0035】
その後、図5(D)に示すように、ホイスト10を移動(矢印)させ、ホイスト本来の修理・点検場所32に到達させる。修理・点検場所32は、ホイスト修理・点検のための空間、場所を保有しており、所定の安全環境下での作業が可能となって、迅速なる修理ができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】ホイストの故障発生部位の調査結果を示す図
【図2】ホイスト故障時の従来の修理方法を示す図
【図3】本発明に係る故障ホイストの操作装置の実施形態を示す斜視図
【図4】同じく故障ホイストの操作方法を示す正面図
【図5】同じく本発明による修理方法を示す図
【符号の説明】
【0037】
10…ホイスト
12…走行用ガータ
14…フック
16…吊り荷
30…作業員
40…ホイスト側制御器
42…主電源
44…接触器
46…巻上げモータ/ブレーキ
48…走行モータ/ブレーキ
50…主操作回路
52…分岐線
54…コネクター
56…ホイスト側ペンダントスイッチ(ホイスト操作用操作盤)
60…ポータブル制御盤
62…補助操作回路
64…電源盤
63…給電線
66…カップラー
68…ポータブル制御盤側ペンダントスイッチ(ホイスト操作用操作盤)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホイストの主電源の接続・遮断を司る接触器の下流側で巻上げモータ/ブレーキ及び走行モータ/ブレーキの主操作回路から分岐させ、ホイスト側制御器外に取り出したコネクター部と、
前記ホイストを外部から操作する前記巻上げモータ/ブレーキ及び走行モータ/ブレーキの補助操作回路と、
ホイスト操作用操作盤と、
前記ホイスト側制御器から外部に取り出されているコネクターと接続できるカップラー部を装備し、
更に前記ホイストに補助操作回路を介して電源を供給する電源盤から成ることを特徴とする故障ホイストの操作装置。
【請求項2】
ホイスト故障時に、ホイスト側制御器から外部に取り出されている巻上げモータ/ブレーキ及び走行モータ/ブレーキの主操作回路からの分岐線に接続されたコネクターに、ホイストの巻上げ、走行を司る制御部分を有する補助操作回路を有した故障ホイストの操作装置のカップラーを接続し、
該接続回路を介して、前記故障ホイストに電源を投入して、故障ホイストをホイスト操作用操作盤により再操作することを特徴とする故障ホイストの操作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−273547(P2006−273547A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−98490(P2005−98490)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000200334)JFEメカニカル株式会社 (48)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)