説明

敗血症治療における経口用ラクトフェリン

【課題】菌血症、敗血症、敗血症性ショックまたは多臓器不全および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)等の関連する状態を予防または治療する方法を提供する。
【解決手段】細菌により誘導された全身性炎症応答性症候群の後続症を予防または治療するために、ラクトフェリンの組成物単独、またはこれを標準的な治療または金属キレート剤と併用して経口投与する。特に、組換えヒトラクトフェリン単独、またはこれと金属キレート剤または他の治療的診療行為と組み合わせた治療的使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照によりここに組み込まれる2002年12月6日出願の米国仮出願第60/431,393号および2003年8月27日出願の同第60/498,327号の優先権を主張する。
【0002】
本発明は、ラクトフェリン(LF)の組成物単独、またはこれを標準的治療またはEDTA(エチレンジアミン四酢酸)等の金属キレート剤と組み合わせて経口投与することにより菌血症、敗血症、敗血症性ショック、または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)等と関連する状態を治療する方法に関する。さらに具体的には、本発明は、ラクトフェリン組成物単独、またはこれを金属キレート剤または標準的治療と組み合わせて経口投与することにより、内毒素血症、グラム陰性およびグラム陽性菌血症、敗血症、敗血症性ショック、またはARDS等と関連する状態を予防または治療する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
敗血症は感染プロセスに対する全身性炎症応答症候群(SIRS)と定義される。敗血症は体内のいずれかを起源とする可能性のある細菌感染の結果である。代表的な部位は尿生殖路、肝臓または胆管、胃腸管および肺である。これよりも一般的でない部位としては静脈内ライン、外科創傷、褥瘡性潰瘍及び床ずれである。感染は通常は陽性血液培養物によって確認される。感染は敗血症性ショックと呼ばれるショックを導きうる。敗血症性ショックはしばしば院内感染性グラム陰性菌により引き起こされ、通常、免疫弱体化患者や慢性病の患者で起こる。しかし、1/3の患者においては、それはグラム陽性菌やカンジダ菌により引き起こされる。敗血症の診断は、頻脈(心拍数>90bpm)、過呼吸(呼吸回数>20/分またはpCO2exp<35mmHg)、熱(>38.3℃)または低体温症(<36℃)および白血球増加(>12,000/μL)または白血球減少(<4,000/μL)という4つの基準のうち少なくとも2つの基準の存在に基づく。
【0004】
米国では毎年約750,000件の敗血症があり、そのうち少なくとも225,000が致命的である。抗血栓症性、抗炎症性および前繊維素溶解性を示す組か換えヒト活性化タンパク質Cがこれまで敗血症に認証されている唯一の医薬である。
【0005】
菌血症と敗血症(SIRS)から起こる敗血症性ショックの病因は完全には理解されていない。感染生物により作られる細菌毒素は複雑な免疫学的反応を引き起こす。腫瘍壊死因子、ロイコトリエン、リポキシゲナーゼ、ヒスタミン、ブラジキニン、セロトニンおよびインターロイキン−2等の多くのメディエーターがエンドトキシン(グラム陰性腸内細菌の細胞壁から放出されるリポ多糖類の脂質画分)に加えて関連付けられている。最初に、動脈と細動脈の血管拡張が起こり、正常または増加した心臓の血液排出量(ただし、心拍数が増加する場合、その排出は減少することもある)とともに末梢動脈抵抗が低下する。その後、心臓の血液排出量が減少し、末梢動脈抵抗が増加する。増加した心臓の血液排出量にもかかわらず、毛細交換血管への血流が損なわれ、結局は一つ以上の内臓器官の不全を引き起こす。
【0006】
実験動物、例えばエンドトキシンを注射したマウスにおいて、内毒素血症およびエンドトキシン誘導死は酸化的破壊と炎症メディエーターの過剰産生を伴う。腹腔内に投与されたラクトフェリンは主に細菌のエンドトキシンへの結合を通して内毒素血症の結果に影響を与えると記述されている(Kruzel MLら、2002年)。非経口的なラクトフェリンの他の効果も記述されており、例えば、リポ多糖(LPS)誘発1時間前のラクトフェリンの腹腔内投与は、LPS注射の2時間後に、いくつかのメディエーターの阻害、すなわち、TNF−αが82%、IL−6が43%、IL−10が47%阻害を生じ、さらにショックの6時間後に一酸化窒素(NO)の減少(80%)を生じた。LPS投与の18時間前のラクトフェリンの予防的な腹腔内投与はTNF−α(95%)およびNO(62%)の同様な減少をもたらした。同様に、ラクトフェリンをエンドトキシンショックの誘導後に治療薬として腹腔内に投与した場合、血清中のTNF−αとNOの顕著な減少が明らかとなった。
【0007】
経口ラクトフェリンは、成熟した消化管から顕著な程度まで全身に吸収されることはないことが文献に報告されており(Heyman Mら、1992年;Fransson GBら、1983年;Holloway NMら、2002年)、文献では、ラクトフェリンの役割の大きな部分は全身を循環するエンドトキシンの結合に関連すると想定している。例えば、GLP薬物動態研究がアカゲザルで行われ、rhLFの経口的利用能が調べられた。4mL/kgの標準的な投与容量が経口強制飼養により投与された。比較は、静脈内投与rhLFの薬物動態で行われた。rhLFの経口投与量は1000mg/kgであった。この経口投与後、rhLFの血漿中濃度は、投与前の内因性ラクトフェリンの値よりも有意に高いものではなかった。hLFの計算された絶対的な生物学的利用能は0.5%未満であった(Fransson GBら、1983年;Heymen Mら、1992年)。
【0008】
ラクトフェリンは、単一鎖の金属結合性糖タンパク質である。単球、マクロファージ、リンパ球、刷子縁細胞等の多くの細胞種がラクトフェリンレセプターを有することが知られている。ラクトフェリンはBリンパ球とTリンパ球の両者に不可欠な成長因子であることに加えて、ラクトフェリンは宿主(ホスト)の主要な防御機構に関連した多様な機能を有する。例えば、ラクトフェリンはナチュラルキラー(NK)細胞を活性化し、コロニー刺激活性を誘導し、多形核好中球(PMN)を活性化し、顆粒球形成を調節し、抗体依存細胞の細胞毒性を増強し、リンホカイン活性化キラー(LAK)細胞活性を促進し、マクロファージ毒性を増強すると報告されている。
【0009】
組換えヒトラクトフェリンは、アスペルギルス(米国特許第6,080,559号)、ウシ(米国特許第5,919,913号)、コメ、トウモロコシ、サッカロマイセス(米国特許第6,228,614号)およびPichia pastoris(米国特許第6,455,687号、同6,277,817号、同6,066,469号)等の多様な原核または真核生物での発現後に精製されたとして既に記載されている。全長ヒトラクトフェリン発現の発現系も記載されている(例えば、米国特許第6,100,054号)。どの場合も、その教示の一部は、全長cDNAの発現およびリーダーペプチドのプロセシング後にN末端がアミノ酸グリシンであるそのままのタンパク質の精製である。Nuijensら(米国特許第6,333,311号)は、別に、ヒトラクトフェリンの変異体を記載しているが、彼らの注目はラクトフェリンのN末端領域に見いだされたアルギニン残基の欠失または置換に限定されている。
【0010】
本発明は、全身性菌血症、敗血症、敗血症性ショックまたは関連する状態の治療または予防として経口用ラクトフェリン組成物を用いる最初のものである。さらに、本発明は、全身性菌血症、敗血症、敗血症性ショックまたは関連する状態を治療するために、ラクトフェリンを金属キレート剤と併用して用いる最初のものである。さらに、本発明は、全身性菌血症、敗血症、敗血症性ショックまたは関連する状態を治療するために、ラクトフェリンを既存の治療と併用して用いる最初のものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6,080,559号
【特許文献2】米国特許第5,919,913号
【特許文献3】米国特許第6,228,614号
【特許文献4】米国特許第6,455,687号
【特許文献5】米国特許第6,277,817号
【特許文献6】米国特許第6,066,469号
【特許文献7】米国特許第6,333,311号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Kruzel ML, et al. Clin Exp Immunol 2002; 130:25-31
【非特許文献2】Heyman M and Desjeux J-F, J Pediatr Gastroenterol Nutr 1992; 15:48-57
【非特許文献3】Fransson GB, et al., Nutr Res 1983; 3:373-84
【非特許文献4】Holloway NM, et al., Am J Vet Res 2002 Apr; 63(4):476-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、菌血症、敗血症、敗血症性ショックまたは多臓器不全および急性呼吸窮迫症候群(ARDS)等の関連する状態を予防または治療する方法に関する。治療方法はラクトフェリン組成物単独またはそれを金属キレート剤と組み合わせた経口投与を含む。
【課題を解決するための手段】
【0014】
薬学的に許容される担体に分散させるラクトフェリン組成物はラクトフェリン、または少なくともN末端グリシン残基が切断されるか置換されたN末端ラクトフェリン変異体を含む。ラクトフェリンは哺乳類のラクトフェリンであり、さらに具体的には、ラクトフェリンはヒトまたはウシのものである。さらに、ラクトフェリンは組換えラクトフェリンである。N末端ラクトフェリン変異体としては、N末端のグリシン残基を少なくとも欠くか、またはN末端のグリシン残基が置換された変異体が含まれる。置換はN末端のグリシン残基を天然または人工のアミノ酸残基に置換することを含む。例えば、置換はN末端のグリシン残基を陽性アミノ酸残基または陰性アミノ酸残基で置換するか、またはN末端のグリシン残基をグリシン以外の中性アミノ酸に置換することを含んでもよい。他のN末端ラクトフェリン変異体としては、一つ以上のN末端残基を欠くか、N末端に一つ以上の置換を有するラクトフェリンが含まれる。具体的な実施態様において、N末端ラクトフェリン変異体は、少なくとも1%のラクトフェリン組成物、少なくとも5%のラクトフェリン組成物、少なくとも10%のラクトフェリン組成物、少なくとも25%のラクトフェリン組成物、少なくとも50%のラクトフェリン組成物またはこれらの間のいずれかの範囲のラクトフェリン組成物から構成される。
【0015】
経口投与されるラクトフェリンの量は一日あたり約1mg〜約100g、より好ましくは一日あたり約10mg〜約10gである。特に、組成物は約0.1%〜100%のラクトフェリン濃度を有する溶液、カプセルまたは錠剤である。
【0016】
さらなる実施態様において、薬学的に許容される担体に分散させた金属キレート剤もラクトフェリン組成物とともに投与することができる。好ましい金属キレート剤として、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)または[エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)]四酢酸(EGTA)が挙げられるが、これらに限定されない。さらに好ましくは、金属キレート化剤はEDTAである。EDTAの投与量は一日あたり約0.01μg〜約20gである。投与される組成物中、ラクトフェリンに対するEDTAの比率は1:10,000〜約2:1である。
【0017】
本発明の一つの実施態様は、対象者の菌血症の改善をもたらすのに効果的な量のラクトフェリン組成物を対象に経口的に投与する工程を含む菌血症の治療方法である。この改善とは、敗血症を減弱し、敗血症性ショックを減弱し、臓器不全を減弱し、罹患率を減少し、および/または死亡率を減少することをいう。さらに具体的には、経口投与は経鼻胃チューブを介して行う。さらに、ラクトフェリン組成物は抗生物質と併用して投与することができる。
【0018】
経口投与のために、制酸剤をラクトフェリン組成物と組み合わせて投与できる。ラクトフェリンは徐放性処方物に処方することができる。さらに、放出が小腸または大腸で生じるラクトフェリン組成物を処方することができる。投与される組成物は液体処方、腸溶コーティングを有する固体処方または腸溶コーティングを有さない固体処方である。
【0019】
本発明のもう一つの実施態様は、胃腸管内のラクトフェリン量を高める量のラクトフェリン組成物量を対象に経口投与することにより対象の粘膜免疫系を補強する工程を含む菌血症の治療方法である。さらに具体的には、経口投与は経鼻胃チューブを介して行う。
【0020】
さらに、もう一つの実施態様は、対象者にラクトフェリン組成物を経口投与する工程を含む対象の胃腸管における粘膜免疫応答系の増強方法である。ラクトフェリンは胃腸管のインターロイキン18を刺激する。インターロイキン18は免疫細胞の産生や活性を促進する。ラクトフェリンは炎症性サイトカインの産生や活性を減少させる。
【0021】
もう一つの実施態様は、対象の菌血症を予防または減弱するのに効果的な量のラクトフェリンと金属キレート剤を有する組成物を前記対象に経口投与する工程を含む、菌血症にかかる危険性のある対象の菌血症の予防方法である。さらに具体的には、経口投与は経鼻胃チューブを介して行う。菌血症にかかる危険性のある対象とは免疫機能が弱体化した対象である。
【0022】
特定の実施態様は、対象の死亡率を低下するために菌血症を減弱するのに有効な量のラクトフェリン組成物を前記対象に経口投与する工程を含む、菌血症を有する対象の死亡率を低下する方法である。
【0023】
別の実施態様は、対象の敗血性状態の改善をもたらすのに効果的な量のラクトフェリン組成物を前記対象に経口投与する工程を含む、対象者の敗血性状態の治療方法である。この改善は循環する細菌のレベルを減少し、敗血症性ショックを減弱し、臓器不全を減弱し、罹患率を減少し、または死亡率を減少することをいう。
【0024】
さらなる実施態様は、対象の死亡率を低下するために敗血症を減弱するのに有効な量のラクトフェリン組成物を前記対象に経口投与する工程を含む、敗血症を有する対象者の死亡率を低下する方法である。組成物は、循環するサイトカインのレベルを減少する。例えば、サイトカインはIL−4、IL−6、TNF−αおよびIL−10からなる群から選択される。さらに、本方法は、ラクトフェリン組成物を、承認された敗血症治療薬、例えば(活性化)ドロトレコギン アルファ(Drotrecogin alfa)またはキシグリス(登録商標)(Xigris)と併用して投与することを含む。
【0025】
もう一つの実施態様は、対象の死亡率を低下するために急性肺障害(ALI)または急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を減弱するのに有効な量のラクトフェリン組成物を対象に経口投与する工程を含む、ALIまたはARDSを有する対象者の死亡率を低下する方法である。さらに、本方法は、ラクトフェリン組成物を、ALI/ARDSの標準的な治療、例えば低換気量換気または界面活性剤と併用して投与することを含む。
【0026】
上記記載は、以下の発明の詳細な説明がさらによく理解できるように本発明の特徴と技術的利点をむしろ広く概説したものである。本発明の請求の範囲の主題を形成する本発明のさらなる特徴と利点を以下に説明する。開示された概念や具体的な実施態様は、本発明の同じ目的を実施するための他の構成の修正または設計の基礎として容易に利用してよいことが理解されよう。また、そうした等価な構成物が添付の請求の範囲に示された発明から離れるものではないことが理解されよう。構成と操作方法の両方に関して本発明に特徴的と思われる新規な特徴は、さらなる目的と利点とともに、添付の図面と関連付けて考慮した場合の下記の説明からさらによく理解されよう。しかし、各図面は例示と説明の目的のみに提供されるのであって、本発明の限定を規定するものではないことは明確に理解すべきである。
【0027】
本発明のさらに完全な理解のために、添付の図面に関連させた下記の説明を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】LPS誘導内毒素血症モデルマウスの死亡率の低下に対する、種々の投与量および用法でのrhLFの経口および静脈内投与の効果の比較を示す。
【図2】敗血症における死亡率と主要サイトカインの減少を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
多様な実施態様と改良が、発明の範囲と精神から離れることなく本出願で開示された発明に対して行いうることは当業者に容易に明らかである。
【0030】
ここで用いられるように、請求の範囲および/または明細書において「含む」との用語と関連させて用いられる単語の「a」または「an」は「一つ」を意味するが、「一つ以上」、「少なくとも一つの」および「少なくとも一つ以上の」の意味とも一致する。さらに、「有する」、「含む」および「からなる」との用語はそれぞれ交換可能で、当業者はこれらの用語が制約のない用語であることを認識する。
【0031】
ここで用いられる「抗菌物質」との用語は、例えば抗生物質、殺菌剤および防腐剤のような宿主に対する損傷なしに微生物の生育を阻害する物質と定義される。
【0032】
ここで用いられる「抗生物質」との用語は、宿主に対する損傷なしに微生物の生育を阻害する物質と定義される。例えば、抗生物質は細胞壁合成、タンパク質合成、核酸合成を阻害するか、細胞膜の機能を変更する。使える可能性のある抗生物質の種類としては、マクロライド類(例えば、エリスロマイシン)、ペニシリン類(例えば、ナフシリン)、セファロスポリン類(例えば、セファゾリン)、カルベペネム類(例えば、イミペネム、アズトレオナム)、他のベータタクラム抗生物質、ベータラクタム阻害剤(例えば、スルバクタム)、オキサリン類(すなわちリネゾリド)、アミノグリコシド類(例えば、ゲンタマイシン)、クロラムフェニコール、スルホンアミド類(例えば、スルファメトキサゾール)、糖ペプチド(例えば、バンコマイシン)、キノロン類(例えば、シプロフロキサシン)、テトラサイクリン類(例えば、ミノサイクリン)、フシジン酸、トリメトプリム、メトロニダゾール、クリンダマイシン、ムピロシン、リファマイシン類(例えば、リファンピン)、ストレプトグラミン類(例えば、キヌプリスチンおよびダルフォプリスチン)、リポタンパク質(例えば、ダプトマイシン)、ポリエン類(例えば、アムフォテリシンB)、アゾール類(例えば、フルコナゾール)およびエキノカンジン類(例えば、カスポフンギンアセテート)が挙げられるが、これらに限定されない。ここで用いられる「罹患率」との用語は病気になっている状態または条件である。さらに、罹患率は発生率、例えば特定の集団に対する関係において病気の対象者または病気の症例の数をもいう。
【0033】
ここで用いる「菌血症」との用語は細菌感染の病巣または対象の血液中に細菌を有すると定義される。
【0034】
ここで用いられる「ケモカイン」との用語は、細胞、例えば食細胞やリンパ球の移動と活性化に関与する小さいサイトカインをいう。当業者は、ケモカインが炎症および免疫応答プロセスにおいて中心的な役割を果たしていることをよく理解している。
【0035】
ここで用いられる「サイトカイン」との用語は、他の細胞の挙動に影響を与える細胞、例えば細胞増殖を促進または阻害する細胞により作られたタンパク質をいう。例えば、リンパ球により作られるサイトカインはリンホカインまたはインターロイキンとしばしば呼ばれる。当業者はサイトカインという用語は他の細胞の挙動に影響を与えうる細胞により作られたタンパク質を言及する文献に用いられる一般名であることを理解している。
【0036】
ここで用いられる「効果的な量」または「治療効果のある量」との用語は病気の症状または状態の改善または治癒をもたらす量をいう。
【0037】
ここで用いられる「エンドトキシン」との用語は周囲の培地に自由に放出されない細菌毒素をいう。
【0038】
ここで用いられる「内毒素血症」との用語は血液におけるエンドトキシンの存在をいう。
【0039】
ここで用いられる「グラム陰性菌」との用語は、グラム染色により赤い染色を呈すると分類された細菌と定義される。グラム陰性菌はペプチドグリカンの単層と、リポ多糖、リポタンパク質およびリン脂質の外層とからなる壁のある薄い細胞膜を有する。例示的な生物として、Escherichia、Shigella、Edwardsiella、Salmonella、Citrobacter、Klebsiella、Enterobacter、Hafnia、Serratia、Proteus、Morganella、Providencia、Yersinia、Erwinia、Buttlauxella、Cedecea、Ewingella、Kluyvera、TatumellaおよびRahnellaが挙げられるが、これらに限定されない。腸内細菌科ではない他の例示的なグラム陰性生物として、Pseudomonas aeruginosa、Stenotrophomonas maltophilia、Burkholderia、Cepacia、Cardenerella、VaginalisおよびAcinetobacter種が挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
ここで用いられる「グラム陽性菌」との用語は、グラム染色を用いて青い染色を呈すると分類された細菌をいう。グラム陽性菌は、ペプチドグリカンの複数の層とテイコ酸の外層とからなる厚い細胞膜を有する。例示的な生物として、Staphylococcus aureus、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、連鎖球菌、腸球菌、コリネバクテリアおよびBacillus種が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
ここで用いられる「免疫弱体化された」との用語は、感染に対する通常の防御の一つ以上の機構が低下した前存在状態を病原体暴露時に有する対象と定義される。免疫弱体化された条件は免疫系の欠陥または不全によるか、または感染の受けやすさを強める他の因子、例えば免疫抑制剤によるものでよい。そのような分類は評価の概念的な基礎を与えるが、感染した免疫弱体化個人はしばしばあるグループやそれ以外のグループに完全に当てはめられるものではない。体の防御機構の二つ以上の欠陥が影響されているかもしれない。例えば、免疫弱体化状態は、内在する中央系統、または静注薬物乱用による他の種類の損傷から起こりえ、または二次的な悪影響、栄養失調により引き起こされ、または結核、インフルエンザ、Staphylococcus aureusまたは性感染病、例えば梅毒、または肝炎のような他の病原菌に感染することにより引き起こされうる。
【0042】
ここで用いられる「ラクトフェリン」または「LF」との用語は天然または組み換えラクトフェリンをいう。天然のラクトフェリンは哺乳類の乳または初乳または他の天然源からの精製により得ることができる。組み換えラクトフェリン(rLF)は組換え発現または遺伝子組み換えが行われている動物、植物、真菌、細菌または他の原核または真核生物種での直接の生産または化学合成により作ることができる。
【0043】
ここで用いられる「ラクトフェリン組成物」との用語は、ラクトフェリン、ラクトフェリンの一部、N末端ラクトフェリン変異体またはその組み合わせを有する組成物をいう。
【0044】
ここで用いられる「死亡率」(“mortality”)との用語は、死を免れない状態または死を引き起こす状態をいう。さらに、死亡率は、死亡比、一定の集団に対する死亡比または死者の数の比率をいう。
【0045】
ここで用いられる「罹患率」(“morbidity”)との用語は、病気に罹っている状態である。さらに、罹患率は、一定の集団に対する病気の対象の比率または病気の症例の比率をいう。
【0046】
ここで用いられる「金属キレート剤」との用語は、金属と結合する化合物をいう。本発明に用いることのできる金属キレート剤としては、二価金属キレート剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、[エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)]四酢酸(EGTA)、1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N',N'−四酢酸(BAPTA)、ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)またはその塩が挙げられる。
【0047】
ここで用いられる「N末端ラクトフェリン変異体」との用語は、少なくともN末端グリシンが切り取られているか、および/または置換されているラクトフェリンをいう。N末端ラクトフェリン変異体としては、一つ以上のN末端アミノ酸残基、例えば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15または16個のN末端アミノ酸残基の欠失および/または置換等が挙げられるが、これらに限定されない。よって、N末端ラクトフェリン変異体は、1〜16個のN末端アミノ酸残基の少なくとも欠失または末端切除および/または置換を有する。ラクトフェリンの少なくともN末端グリシンの欠失および/または置換は全長ラクトフェリンと同じ生物学的効果を媒介し、および/または例えば多様なサイトカイン(例えば、IL−18、MIP−3α、GM−CSFまたはIFN−γ)の産生を促進することにより、多様なサイトカイン(例えば、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−10およびTNF−α)を阻害することにより、敗血症を減弱し、敗血症性ショックを減弱し、臓器不全を減弱し、罹患率を減少し、および/または死亡率を減少することにより、ラクトフェリンの生物学的活性を高めることができる。
【0048】
ここで用いられる「経口投与」との用語は、経口、腔口、腸内、直腸または胃内投与が挙げられる。
【0049】
ここで用いられる「薬学的に許容される担体」との用語はすべての種類の溶媒、分散媒体、コーティング剤、抗菌抗真菌剤、等張剤、吸収遅延剤等が挙げられる。薬学活性物質のためにそのような媒体や物質の使用は当該分野においてよく知られている。慣用の媒体または物質が本発明のベクターや細胞に適合しない場合を除いて、治療組成物でのその使用が意図される。補助的な活性成分も組成物に配合することができる。
【0050】
ここで用いられる「予防する」との用語は病状を進展する危険性または病状に関するパラメーターまたは進行または他の異常な状態または有害な状態を最小化、低下または抑制することをいう。
【0051】
ここで用いられる「敗血症」との用語は宿主の免疫系の重度の障害が、炎症メディエーターの局所感染病巣から全身循環への広範囲の「波及」を妨げられない伝染性プロセスに対する全身性炎症応答症候群と定義される。
【0052】
ここで用いられる「敗血症性ショック」との用語は、全身性炎症応答が、重要臓器の機能不全(例えば、ARDSにおける肺)に至る敗血症の結果である。
【0053】
ここで用いられる「対象」との用語は、ラクトフェリン組成物がここで記載される方法にしたがって経口投与される哺乳類の対象を意味するために使われる。当業者は、哺乳類の対象が、ヒト、サル、ウマ、ブタ、ウシ、イヌ、ネコ、ラットおよびマウスを含むがこれらに限定されないことを理解する。特定の実施態様において、本発明の方法はヒト対象を治療するために用いられる。さらなる実施態様において、対象は菌血症または敗血症にかかる危険性がある。よって、対象はそれらの病気の状態または潜在的な病気の状態を認識していてもしていなくてもよく、それらが処置(治療処置または予防処置)の必要性があることに気付いていてもいなくてもよい
【0054】
ここで用いられる「治療する」または「処置する」および「治療」または「処置」との用語は、対象が病気の改善を得るように治療効果のある量の組換えヒトラクトフェリン組成物を対象に投与することをいう。この改善は菌血症、敗血症、敗血症性ショックまたはそれらの結果に関連する症状の改善または治療をいう。改善とは観察可能または測定可能な改善、例えば循環する細菌の減少レベル、死亡率の低下、罹患率の低下、臓器不全の進展の減弱、入院日数の短縮、集中治療室等での集中治療日数の短縮または削減、または機械的人工呼吸装置またはPaO2/FiO2比等の支持治療の利用の低減または削除である。よって、当業者は処置が病気の状態を改善するものであってもよいが、病気の完治でなくてもよいことを理解する。
【0055】
A.ラクトフェリン
本発明によるラクトフェリンは、例えば哺乳類の乳等の、しかしこれに限定されない天然源から単離、精製により得ることができる。ラクトフェリンは、好ましくは、ウシまたはヒトのラクトフェリン等、哺乳類のラクトフェリンである。好ましい実施態様において、ラクトフェリンは、遺伝子組み換えが行われた動物、植物、真核生物での組み換え発現または直接の生産等の当該分野でよく知られ、使用される遺伝子工学技術を用いて組み換えて作られるか、または化学合成で作られる。例えば、参照によりここに組み込まれる米国特許第5,571,896号、同5,571,697号および同5,571,691号を参照されたい。
【0056】
ある特徴において、本発明は天然のLFおよび/またはrLFを超える増強された生物学的活性、例えばサイトカインまたはケモカインを促進および/または阻害する能力を有するラクトフェリン変異体を提供する。特に、本発明は、少なくともN末端のグリシン残基が置換および/または切り取られたラクトフェリンの変異体を提供する。N末端ラクトフェリン変異体は天然に存在するものであってもよいし、一つ以上のアミノ酸の置換または欠失により修飾してもよい。
【0057】
欠損変異体は、参照によりここに組み込まれる米国特許第6,333,311に記載のように、ラクトフェリンのタンパク質分解および/または末端切除ラクトフェリンをコードするポリヌクレオチドの発現により作ることができる。
【0058】
置換変異体は、典型的にはタンパク質内の一箇所以上の部位で一アミノ酸の別のものへの交換を行っている。置換は保存的なもの、すなわち一アミノ酸を同じ形と荷電のものと交換してもよい。保存的な置換は当該分野でよく知られており、例えば、アラニンのセリンへの置換(以下、同様)、アルギニンのリジン、アルパラギンのグルタミンまたはヒスチジン、アスパルテートのグルタメート、システインのセリン、グルタミンのアスパラギン、グルタメートのアスパルテート、グリシンのプロリン、ヒスチジンのアルパラギンまたはグルタミン、イソロイシンのロイシンまたはバリン、ロイシンのバリンまたはイソロイシン、リジンのアルギニン、メチオニンのロイシンまたはイソロイシン、フェニルアラニンのチロシン、ロイシンまたはメチオニン、セリンのスレオニン、スレオニンのセリン、トリプトファンのチロシン、チロシンのトリプトファンまたはフェニルアラニン、ならびにバリンのイソロイシンまたはロイシンへの置換が挙げられる。
【0059】
そのような置換を行うために、アミノ酸のハイドロパシー・インデックスを考慮してよい。相互に作用する生物学的機能をタンパク質に付与する際のハイドロパシーアミノ酸の重要性は一般に当該分野では理解されている(Kyte and Doolittle、1982年)。アミノ酸の相対的ハイドロパシー特性は得られるタンパク質の二次構造に寄与し、この二次構造は他の分子、例えば酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原等に対する該タンパク質の相互作用を定めると解釈されている。
【0060】
各アミノ酸はそれらの疎水性と荷電特性に基づいてハイドロパシー・インデックスが割り当てられ(Kyte and Doolittle、1982年)、それらは以下の通りである:イソロイシン(+4.5)、バリン(+4.2)、ロイシン(+3.8)、フェニルアラニン(+2.8)、システイン/シスチン(+2.5)、メチオニン(+1.9)、アラニン(+1.8)、グリシン(−0.4)、スレオニン(−0.7)、セリン(−0.8)、トリプトファン(−0.9)、チロシン(−1.3)、プロリン(−1.6)、ヒスチジン(−3.2)、グルタミン酸塩(−3.5)、グルタミン(−3.5)、アスパラギン酸塩(−3.5)、アスパラギン(−3.5)、リジン(−3.9)およびアルギニン(−4.5)。
【0061】
あるアミノ酸は、類似のハイドロパシー・インデックスまたはスコアを有する他のアミノ酸により置換され、類似の生物学的な活性を有するタンパク質をもたらし、例えば、生物学的に機能的に等価なタンパク質を得ることは当該分野において公知である。そのような置換を行う際に、ハイドロパシー・インデックスが±2以内であるアミノ酸同士の置換が好ましく、該指数が±1以内であるアミノ酸同士の置換が特に好ましく、該指数が±0.5以内であるアミノ酸同士の置換がさらに好ましい。
【0062】
同様なアミノ酸同士の置換が親水性に基づき行えることも当該分野では理解される。参照によりここに組み込まれる米国特許第4,554,101号は、隣接するアミノ酸の親水性により支配されるタンパク質の最大の局所的な平均親水性はタンパク質の生物学的性質に関連することを記載している。米国特許第4,554,101号に詳細に記載されているように、下記の親水性値がアミノ酸残基に付与されている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アルパラギン酸塩(+3.0±1);グルタミン酸塩(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);トリプトファン(−3.4)。
【0063】
さらに、アミノ酸は類似の親水性値を有する別のものに置換することができ、生物学的に等価で免疫学的に等価なタンパク質を得ることが理解される。そのような置換において、親水性値が±2以内であるアミノ酸同士の置換が好ましく、該値が±1以内であるアミノ酸同士の置換が特に好ましく、該値が±0.5以内であるアミノ酸同士の置換がさらに好ましい。
【0064】
よって、本発明において、置換変異体または置換が標準的な変異誘発技術、例えば参照によりここに組み込まれる米国特許第5,220,007号、同5,284,760号、5,354,670号、同5,366,878号、同5,389,514号、同5,635,377号、同5,789,166号および同6,333,311号に記載の部位特異的変異誘発を用いて作ることができる。少なくともN末端グリシンアミノ酸残基を20種類の天然アミノ酸のいずれか、例えば正電荷アミノ酸(アルギニン、リジンまたはヒスチジン)、中性アミノ酸(アラニン、アスパラギン、システイン、グルタミン、グリシン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン)および/または負電荷アミノ酸(アスパラギン酸またはグルタミン酸)に置換することが考えられる。さらに、N1〜N16の範囲内のいかなるアミノ酸残基も置換できることが考えられる。多様なサイトカイン(例えば、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−10およびTNF−α)を阻害することにより、敗血症を減弱し、敗血症性ショックを減弱し、臓器不全を減弱し、罹患率を減少し、および/または死亡率を減少することにより、多様なサイトカイン(例えば、IL−18、MIP−3α、GM−CSFまたはIFN−γ)の産生を促進する生物学的および/または機能的活性をタンパク質が保持するかぎり、N末端アミノ酸残基の少なくとも16残基までを置換できることが考えられる。よって、本発明のN末端ラクトフェリン変異体はラクトフェリンの機能的な等価物と考えられる。
【0065】
機能的な等価物として、等価な生物学的活性の許容されるレベルを保持し、および/またはラクトフェリン分子の生物学的活性を増強しながら、分子の一定の部分になされる置換の数には制限があるという概念は「生物学的に機能的な等価物」の定義に内在するものであることは当業者よりよく理解されている。よって、ここでは、生物学的に機能的な等価物は、選択されたアミノ酸(またはコドン)が置換されてよいタンパク質と定義される。機能的な活性は、多様なサイトカインまたはケモカインを刺激または阻害し、および/または敗血症を減弱し、敗血症性ショックを減弱し、臓器不全を減弱し、罹患率を減少し、および/または死亡率を減少するラクトフェリンの能力と定義される。
【0066】
さらに、N末端アミノ酸残基は、修飾および/または異常アミノ酸によって置換することができる。修飾および/または異常アミノ酸を限定することなく例示する表を以下に示す。
【表1】

【0067】
ラクトフェリン調製物(ラクトフェリン組成物)中のN末端ラクトフェリン変異体(欠失および/または置換)の存在および相対的な比率は、標準的な方法を用いるエドマン分解法によるN末端アミノ酸配列の決定により行ってよい。N末端ラクトフェリン変異体の相対的な比率は、少なくとも1%のラクトフェリン組成物、少なくとも5%のラクトフェリン組成物、少なくとも10%のラクトフェリン組成物、少なくとも25%のラクトフェリン組成物、少なくとも50%のラクトフェリン組成物またはこれらの間のいずれかの範囲のラクトフェリン組成物を含む。
【0068】
本方法において、該タンパク質は、塩基性条件下でアミノ末端のアミノ酸残基と反応するフェニルイソチオシアネート(PITC)と反応させて、フェニルチオカルバミル誘導体(PCTタンパク質)を形成する。次に、トリフルオロ酢酸は最初のアミノ酸をそのアニリノチアリノン誘導体(ATZアミノ酸)として開裂し、新しいアミノ末端を次の分解サイクルのために残す。
【0069】
さらに、N末端ラクトフェリン変異体の比率もダンシル化反応を用いることによりさらに正確に行うことができる。簡単に述べると、タンパク質とアルカリ性条件(pH10)で反応させたダンシルクロライドをもちいてタンパク質をダンシル化する。ダンシル化の後、反応混合物を乾燥してペレットとし、次に6N塩酸で完全に加水分解する。N末端アミノ酸の比率は、公知のダンシル化アミノ酸の標準的構成と比較してインライン蛍光光度計を用いてRP HPLCにより同定する。
【0070】
B.医薬組成物
本発明は、薬学的担体に分散したラクトフェリン組成物を含む組成物に関する。本発明の組成物に含まれるラクトフェリンは、ラクトフェリンまたは少なくともN−1末端のグリシン残基が切り取られるか、置換されたN末端ラクトフェリン変異体を含む。さらに具体的には、N‐末端ラクトフェリン変異体は、組成物の少なくとも1%、組成物の少なくとも5%、組成物の少なくとも10%、組成物の少なくとも25%、組成物の少なくとも50%またはこれらの間のいずれかの範囲の組成物を構成する。
【0071】
さらに、組成物は薬学的担体に分散した金属キレート剤と組み合わせたラクトフェリンを含む。よって、本発明は薬学的担体に分散した金属キレート剤を有する、または有さないラクトフェリン組成物に関する。両組成物(例えば、ラクトフェリンのみ、または金属キレート化剤と組み合わされたラクトフェリン)は本発明の範囲内にあり、所望の応答の種類により交換可能に用いることができることを当業者は理解する。金属キレート剤のラクトフェリン組成物への添加は金属イオンの封鎖を増強し、よって免疫系を強化し、またはラクトフェリンの効果を増強すると考えられる。
【0072】
ラクトフェリンと組み合わせて用いることのできる金属キレート剤としては、二価金属キレート剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、[エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)]四酢酸(EGTA)、1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N',N'−四酢酸(BAPTA)、ヒドロキシエチレントリアミン二酢酸(HEDTA)またはその塩が挙げられる。さらに好ましくは、EDTAがラクトフェリンと組み合わせて用いられる。
【0073】
さらに、本発明によると、投与に適する本発明の組成物は不活性希釈液を有する、または有さない薬学的に許容される担体中に提供される。担体は吸収でき、液体、半液体、例えばペースト、または固体担体を含む。慣用の媒体、物質、希釈液または担体が受容者またはそこに含まれる組成物の治療有効性に対して有害な場合を除けば、本発明の方法を実施するために投与可能な組成物にそれを使用することは適切である。担体または希釈液の具体例としては、脂肪、油、水、生理食塩水、脂質、リポソーム、樹脂、結合剤、賦形剤等、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0074】
本発明によれば、組成物は慣用で実用的な方法で、例えば、溶液、懸濁液、エマルジョン化、混和、カプセル化、吸収等により担体と組み合わせる。そのような操作は当業者にとって日常的である。
【0075】
本発明の特定の実施態様において、組成物は半固体または固体担体と組み合わせるか、または完全に混合させる。この混合は破砕等の慣用の方法で実施することができる。また、治療活性の損失、例えば胃内での変性から組成物を守るために安定化剤を混合工程で加えることもできる。組成物に使用される安定化剤の具体例としては、緩衝剤、グリシンやリジン等のアミノ酸、デキストロース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、スクロース、マルトース、ソルビトール、マンニトール等の炭水化物、タンパク質分解酵素阻害剤等が挙げられる。さらに、二価金属キレート剤、例えばEDTAを本発明の組成物を安定化するために用いることができると考えられる。さらに好ましくは、経口投与組成物のために、安定剤は胃酸分泌に対するアンタゴニストを含むことができる。
【0076】
半固体または固体担体に組み合わされる経口投与用組成物はさらに硬質または軟質ゼラチンカプセル、錠剤または丸剤等に処方することができる。さらに好ましくは、ゼラチンカプセル、錠剤または丸剤は腸溶性に被覆されている。腸溶コーティングは、pHが酸性である胃または上部腸管における組成物の変性を防止する。例えば、米国特許第5,629,001号を参照されたい。小腸に到達すると、そこの塩基性pHはコーティングを溶かし、ラクトフェリン組成物が放出され、特殊化細胞、例えば外皮腸管細胞およびPeyerのパッチM細胞により吸収される。
【0077】
もう一つの実施態様において、粉末化組成物を、安定化剤を有するまたは有さない、例えば水または生理食塩水等の液体担体と組み合わせる。
【0078】
本発明のラクトフェリンの量は約1gから約100gのラクトフェリンまで変更してもよい。好ましい実施態様において、本発明の組成物は約0.0001%〜約30%のラクトフェリン濃度を含む。さらに好ましくは、ラクトフェリンは10mg〜10gのラクトフェリンの範囲で経口投与される。ラクトフェリンは、ラクトフェリンまたは少なくともN‐1末端グリシン残基が切り取られているか、および/または置換されているラクトフェリンを含んでいてもよい。
【0079】
さらに好ましくは、本発明の組成物は、例えばエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、[エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)]四酢酸(EGTA)、1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N',N'−四酢酸(BAPTA)、ヒドロキシエチレントリアミン二酢酸(HEDTA)またはその塩等の、しかしこれらに限定されない金属キレート剤を含有する。組成物中の金属キレート剤の量は約1ng〜約20gの範囲で変更してよい。好ましい金属キレート剤はEDTAである。
【0080】
処方後、溶液を、投与処方に適合する方法で、また症状の改善または治療をもたらすのに治療効果のある量で投与する。処方物は、摂取可能な溶液、医薬放出カプセル等の多様な投与形態で容易に投与される。投与量の変更は治療される対象の状態にしたがって行うことができる。投与責任者はいずれにしても個々の対象に対して適当な投与量を決定することができる。
【0081】
C.治療および/または予防
本発明に従い、上記の薬学的担体のいずれかの中に供給される組成物は菌血症、敗血症、敗血症性ショックまたは続発症と疑われる、またはそれを有する対象に経口投与する。これらの条件はグラム陰性菌、グラム陽性菌または体の病巣中のカンジダ菌等の他の病原菌により引き起こされ、全身炎症応答症候群となるか、なっっている危険性を有する。当業者は、対象に投与すべき組成物の治療効果および/または予防効果のある量を、局所効果、薬物動態、吸収、代謝、投薬方法、年齢、体重、重症度および治療に対する応答性等、いくつかの考慮事項に基づいて決定できる。組成物の経口投与として、経口、腔口、腸内、直腸または胃内投与が挙げられる。
【0082】
菌血症はグラム陰性菌またはグラム陽性菌により引き起こされうる。グラム陰性菌は、ペプチドグリカンの単一層とリポ多糖、リポタンパク質およびリン脂質の外層からなる壁のある薄い細胞膜を有する。例示的なグラム陰性菌としては、Escherichia、Shigella、Edwardsiella、Salmonella、Citrobacter、Klebsiella、Enterobacter、Hafnia、Serratia、Proteus、Morganella、Providencia、Yersinia、Erwinia、Buttlauxella、Cedecea、Ewingella、Kluyvera、TatumellaおよびRahnella等の腸内細菌が挙げられるが、これらに限定されない。腸内細菌科ではない他の例示的なグラム陰性菌として、Pseudomonas aeruginosa、Stenotrophomonas maltophilia、Burkholderia、Cepacia、Gardenerella、VaginalisおよびAcinetobacter種が挙げられるが、これらに限定されない。グラム陽性菌はペプチドグリカンの複数の層とテイコ酸の外層からなる厚い細胞膜を有する。例示的なグラム陽性菌としては、Staphylococcus aureus、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、連鎖球菌、腸球菌、コリネバクテリアおよびBacillus種が挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
例えば、菌血症は、感染した口部組織の外科操作または通常の歯科操作により、感染した下部尿路へのカテーテル挿入、膿瘍の切開および排膿、および内在する装置、特に静脈内および心臓内カテーテル、尿道カテーテルおよび人工肛門形成装置とチューブの移植により引き起こされよう。感染の原発部位は、通常、肺内、泌尿生殖器又は胃腸管内、または褥瘡を有する患者の皮膚等の軟組織内である。慢性病および免疫弱体化対象において、グラム陰性菌血症は健康な対象よりもよく起こる。さらに、これらの免疫弱体化対象は好気性細菌、嫌気性生物および菌類により起こされる血流感染にかかるだろう。
【0084】
敗血症性ショックの素因としては、糖尿病;肝硬変;白血球減少状態、特に潜在する腫瘍または細胞毒性薬による治療に関連した状態;泌尿器管、胆管または胃腸管の先行する感染;カテーテル、排膿管および他の外来材料等の侵入装置;および抗生物質、コルチコステロイドまたは人工呼吸装置による前処理が挙げられる。敗血症性ショックは新生児、対象者>35歳、妊婦および隠れた病気または治療の医原性合併症により免疫弱体化した者にさらによく起こる。
【0085】
さらなる実施態様において、組成物は制酸剤に併せて投与する。よって、制酸剤は組成物の経口投与前、または実質的に同時に、またはその後に投与する。組成物投与の直前または直後の制酸剤の投与は、消化管でのラクトフェリンの不活性化度を低下させるのに役立つだろう。適当な制酸剤の具体例としては、重炭酸ナトリウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、三ケイ酸マグネシウム、炭酸マグネシウムおよび水酸化アルミニウムゲルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0086】
本発明により、上記方法が菌血症、敗血症、敗血症性ショック、関連する状態またはそれらの続発症の予防に用いられる。特定の実施態様において、疾患は抗生物質の使用から起こる内毒素血症およびその後のエンドトキシンの放出、ならびに陽性と判断された菌血症の危険性により特徴付けられる。
【0087】
さらに、もう一つの実施態様は、対象に菌血症の予防をもたらすのに十分な量のラクトフェリン組成物を対象に投与する工程を含む、菌血症にかかる危険性のある対象での菌血症の予防方法である。ラクトフェリン組成物は、菌血症を患っている対象に治療的利益を有するのみならず、菌血症、敗血症、敗血症性ショックおよび関連する状態を患う危険性のある対象の予防的性質も有すると考えられる。危険性のある対象はそれらの病気の状態または潜在的な病気の状態を認識していてもしていなくてもよく、それらが処置の必要性があることに気付いていてもいなくてもよい。
【0088】
菌血症、敗血症、敗血症性ショックおよび/または関連する状態を患う危険性のある対象は免疫弱体化および/または慢性病にあると考えられる人である。免疫弱体化対象は、感染に対する通常の防御の一つ以上の機構を低下させる前存在状態を病原体暴露時に有する。免疫弱体化された状態は免疫系の欠陥または不全によるか、または感染のしやすさを強める他の因子、例えば免疫抑制剤によるものでよい。
【0089】
予防的には、ラクトフェリン組成物は、循環する細菌のレベル、対象が敗血症、敗血症性ショック、臓器不全を進展させる危険性を減少させ、菌血症に関連する罹患率や死亡率を減少することができると考えられる。
【0090】
本発明の好ましい実施態様において、組成物は菌血症にかかる危険性を減少、低下、抑制または無効とし、既に存在する菌血症、敗血症、敗血症性ショックまたは関連する状態の効果を最小化するために効果的な量で投与される。組成物中のラクトフェリンの量は約1mg〜約100gの範囲で変更できる。好ましくは、経口投与される組成物は一日あたり10mg〜10gのラクトフェリンの範囲を含有する。さらに好ましくは、本発明の組成物は、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)または[エチレンビス(オキシエチレンニトリロ)]四酢酸(EGTA)、1,2−ビス(2−アミノフェノキシ)エタン−N,N,N',N'−四酢酸(BAPTA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)またはその塩等の金属キレート剤を含有するがこれに限定されない。組成物中の金属キレート剤の量は約0.01μg〜約20gで変更できる。好ましい金属キレート剤はEDTAである。さらに好ましくは、経口投与される組成物はラクトフェリンに対してEDTAを1:10,000〜約2:1の比率で含有する。
【0091】
治療の処方計画も同様に変更してよく、細菌感染の段階とその結果に依存する。臨床医は、存在する細菌感染の肯定的な決定、抗生物質の使用および治療処方物の知られた効能および毒性(もしあれば)に基づいて、使用に対する最良の処方計画に対して決定を行うことが最もふさわしいであろう。rhLFの使用での指導原理は、菌血症、敗血症または敗血症性ショックが進行する最も初期の徴候で治療を施して菌血症の進展を弱め、敗血症と敗血症性ショックから生じる臓器の障害の程度を低減することである。
【0092】
改善とは観察可能または測定可能な改善である。よって、当業者は処置が患者または対象の状態を改善することもあるが、病気の完治ではないこともあることを理解する。ある特徴において、組成物は循環している細菌のレベルを低下、減少、抑制または無効にするために有効な量で投与される。さらなる特徴において、改善は、例えば、循環する細菌レベルの減少、敗血症の進展の減弱、敗血症性ショックの進展の減弱、臓器不全の進展の減弱、菌血症に関連する罹患率の減少および菌血症に関連する死亡率(死)の減少のいずれかからなってよい。よって、ラクトフェリンの投与後、上記状態のいずれかが改善するならば、ラクトフェリンの量は効果的な量と考えられる。さらに、ラクトフェリンの投与はまた敗血症、敗血症性ショックおよびそれに関連する他の状態の進展を減弱するだろう。
【0093】
ある特徴において、組成物は、敗血症または敗血症性ショックの重症度を低下、減少、抑制または無効にするのに効果的な量で投与される。さらなる特徴において、改善は、例えば死亡率の低下、罹患率の低下、進展臓器不全の減弱、入院日数の減少または集中治療室等での集中治療日数の短縮または削減、または機械的人工呼吸装置等の支持治療の利用の低減または削除、またはARDS等の続発症の発生の減少のいずれかからなってよい。治療開始前の臓器不全を有する患者の生存および臓器不全の予防と好転も評価される。よって、ラクトフェリンの投与後、上記状態のいずれかが改善するならば、ラクトフェリンの量は効果的な量と考えられる。
【0094】
ある特徴において、組成物はALIまたはARDSの重症度を低下、減少、抑制または無効にするのに効果的な量で投与される。さらなる特徴において、改善は、例えば死亡率の低下、進展臓器不全の減弱、入院日数の減少または集中治療室等での集中治療日数の短縮または削減、または機械的人工呼吸装置またはPaO2/FiO2比等の支持治療の利用の低減または削除のいずれかからなってよい。よって、ラクトフェリンの投与後、上記状態のいずれかが改善するならば、ラクトフェリンの量は効果的な量と考えられる。
【0095】
特定の実施態様において、組成物は単回投与または複数回投与で与えられる。単回投与は、毎日、または毎日数回、または毎週複数回投与してよい。さらなる実施態様において、ラクトフェリンは一連の投与で与えられる。一連の投与は、毎日、または毎日複数回、週に一回、または毎週複数回投与してよい。さらなる実施態様において、ラクトフェリンは経鼻胃チューブを介した持続注入として与えられる。
【0096】
本発明のさらなる実施態様は、胃腸管でラクトフェリンの量を増加させることにより粘膜の免疫系を増強する工程を含む、菌血症、敗血症、敗血症性ショック、関連した状態またはそれらの続発症の治療方法である。ラクトフェリンは好ましくは経口投与される。
【0097】
また、さらなる実施態様は、本発明の組成物を対象に経口投与する工程を含む、対象の胃腸管での粘膜免疫応答を強化する方法である。組成物はラクトフェリン単独、もしくはEDTA等の金属キレート剤と組み合わせて含有する。免疫応答は、サイトカインおよび/またはケモカインを刺激するラクトフェリンにより強化されると考えられる。例示的なサイトカインとして、免疫細胞を増強し、免疫細胞の産生を促進することが知られている、胃腸管中のインターロイキン−18とGM−CSFが挙げられる。例えば、インターロイキン−18はナチュラルキラー細胞またはTリンパ球を増強する。特定の実施態様において、インターロイキン−18(IL−18)はCD4+、CD8+およびCD3+細胞を増強する。IL−18は、インターロイキン−12とインターロイキン−2と相乗的に作用してリンパ球IFN−ガンマ産生を促進するTh1サイトカインであることが当業者に知られている。例えば、IL−12、IL−1b、MIP−3α、MIP−1αまたはIFN−γ等の、しかしこれらに限定されない他のサイトカインやケモカインも増強されるだろう。例えば、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6、IL−10、TFN−αまたはマトリクスメタロプロテイナーゼ等の、しかしこれらに限定されない他のサイトカインや酵素が阻害されるだろう。ラクトフェリンは、炎症に関与する細胞を抑制するTNF−αの産生を阻害することも意図されている。また、ラクトフェリンは、インターロイキン−18、および炎症性サイトカイン、例えばIL−4、IL−5、IL−6、IL−8およびTNF−αを阻害する経口投与後のTh1応答を刺激すると考えられている。
【0098】
本発明のラクトフェリン組成物はサイトカインまたはケモカインの阻害をもたらすこともできる。サイトカインとしては、インターロイキン−2(IL−2)、インターロイキン−4(IL−4),インターロイキン−5(IL−5)、インターロイキン−10(IL−10)および腫瘍壊死因子アルファ(TNF−α)が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、ラクトフェリン組成物はマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)の生産を阻害することもできる。
【0099】
さらなる実施態様において、サイトカイン、例えばインターロイキン−18または顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子は免疫細胞の産生または活性を促進することができる。免疫細胞としては、Tリンパ球、ナチュラルキラー細胞、NK−T細胞、マクロファージ、樹枝状細胞および多形核細胞が挙げられるが、これらに限定されない。さらに具体的には、多形核細胞は好中球であり、Tリンパ球はCD4+、CD8+およびCD3+T細胞からなる群から選択される。
【0100】
さらに、EDTA等の金属キレート剤と組み合わせたラクトフェリンの経口投与は、封鎖される金属イオンの量を高め、ラクトフェリンの免疫系増強における有効性を高めると考えられる。
【0101】
D.併用治療
組成物の有効性を高めるために、これらの組成物と本発明の方法を、菌血症、敗血症、敗血症性ショックおよび関連する状態の治療または予防に効果的な公知の物質、例えば細菌感染治療に公知の物質、抗生物質、敗血症の治療に公知の物質、例えば(活性化)ドロトレコギン アルファ(Drotrecogin alpha)および炎症を治療する物質と組み合わせることが望ましいこともある。いくつかの実施態様において、薬理学的治療剤等の、しかしこれに限定されない慣用の治療または物質を本発明の組成物と併用してよいことが意図される。
【0102】
本発明の組成物は、数分から数週間の間隔で、他の物質と他の物質の前に、または同時におよび/または後に適用してよい。本発明の組成物と他の物質とを細胞、組織または生物に別々に適用する場合の実施態様において、組成物と物質が細胞、組織または生物に対して有利に組み合わせられた効果を発揮できるように、各投薬時の間で顕著な時期が過ぎないことを一般に確保する必要がある。
【0103】
組成物と一つ以上の物質の多様な併用投与計画が用いられる。本発明の組成物と物質はいかなる順番でも、組合せでも投与できることを当業者は認識している。他の特徴において、一つ以上の物質は、組成物の投与と実質的に同時、または約数分〜数時間〜数日〜数週間以内およびそれらから導き出せるいかなる範囲内で、その前および/またはその後に投与してもよい。
【0104】
毒性がある場合はそれを考慮して、組成物の細胞、組織または生物への投与は心臓血管治療学の投与の一般的なプロトコールに従えばよい。治療サイクルは必要なだけ繰り返されることが期待される。特別な実施態様において、多様な追加物質が本発明と併用して適用することが意図される。
【0105】
薬理学的治療剤および投与、投与量等の方法は当業者によく知られており(例えば、参照により本明細書の関連する部分に組み込まれる“Physicians Desk Reference”, Goodman & Gilman's “The Pharmacological Basis of Therapeutics”, “Remington's Pharmaceutical Sciences”および“The Merck Index, Eleventh Edition”を参照)、ここでの開示を参照して本発明と組み合わせてよい。治療される対象の状態によって、投与量の変更が必要となるだろう。投与責任者はいずれにしても個々の対象に対して適当な投与量を決定し、そのような個々の決定は当業者の技量の範囲にある。
【0106】
本発明に用いうる薬理学的治療剤の限定するものではない具体例としては、抗菌剤、抗敗血症剤、抗炎症剤、抗血栓症/繊維素溶解剤、血液凝集剤、抗不整脈剤、抗高血圧剤、血管収縮剤、または代謝性アシドーシスの治療剤が挙げられる。本発明のある特徴において、抗菌剤、例えば抗生物質が本発明の組成物と併用して用いられる。使用することのできる具体的な抗生物質の例として、エリスロマイシン、ナフシリン、セファゾリン、イミペネム、アズトレオナム、ゲンタマイシン、スルファメトキサゾール、バンコマイシン、シプロフロキサシン、トリメトプリム、リファンピン、メトロニダゾール、クリンダマイシン、テイコプラニン、ムピロシン、アジスロマイシン、クラリロマイシン、オフロキサシン、ロメフロキサシン、ノルフロキサシン、ナリジキシン酸、スパルフロキサシン、ペフロキサシン、アミフロキサシン、ガチフロキサシン、モキシフロキサシン、ゲミフロキサシン、エノキサシン、フレロキサシン、ミノサイクリン、リネゾリド、テマフロキサシン、トスフロキサシン、クリナフロキサシン、スルバクタム、クラブラン酸、アンホテリシンB、フルコナゾール、イトラコナゾール、ケトコナゾールおよびニスタチンが挙げられるが、これらに限定されない。参照によりここに組み込まれるSakamotoらの米国特許第4,642,104号に挙げられた抗生物質の他の例は容易にそれら自体を当業者に示唆するだろう。抗敗血症剤として、(活性化)ドロトレコギン アルファ(Drotecogin alpha)が挙げられるが、これに限定されない。ALIおよびARDSの治療に用いられる物質として、界面活性剤の肺内注入およびロイコトリエン修飾剤が挙げられるが、これらに限定されない。抗炎症剤として、非ステロイド系抗炎症剤(例えば、ナプロキセン、イブプロフェン、セレオキシブ)およびステロイド系抗炎症剤(例えば、グルココルチコイド)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0107】
本発明に用いることができる非薬理学的診療行為の非限定的な例として、敗血症と敗血症性ショックにおける臓器支持等の支持的治療やALIやARDSでの低換気量換気プロトコールが挙げられる。
【実施例】
【0108】
以下の実施例は本発明の好適な実施例を示すために含まれるものである。下記の実施例に開示される技術は、本発明の実施でよく機能すると発明者により発見された技術を示すものであるので、その実施の好適な態様を構成すると考えられるということは当業者によって理解される。しかし、当業者は本発明を鑑みて、多くの変更が、開示された特定の実施態様に対して行うことができ、発明の精神と範囲を離れることなく類似または同様な結果を得ることができることを理解する。
【0109】
実施例1
マウスにおけるリポ多糖誘導敗血症性ショック−モデルの特性付け
本実験において、LPSの投与量と試験動物の死亡率との関係を調べた。10匹のC57BL/6Jマウス(18±1g)群を用いた。動物には、D(+)ガラクトサミン(20mg/マウス、静脈内(IV))での前処理直後に異なる投与量の大腸菌リポ多糖(LPS、30、20、15および10ng/マウス、静脈内(IV))とビヒクル(生理食塩水、0.2ml/マウス)を与えた。死亡率は3日間にわたって12時間毎に記録した。表2は、20〜30ng/マウスのLPSが100%の死亡率をもたらし、15ng/マウスのLPSが50%の死亡率をもたらしたことを示している。
【表2】

【0110】
実施例2
敗血症のマウスLPSモデルにおける静脈内投与したrhLFの効果
リポ多糖(大腸菌由来LPS、20ng/動物のLD100、静脈内(i.v.))とガラクトサミン(20mg/動物、i.v.)とによる誘発の60分前およびこの誘発の10分後に、ビヒクルと試験物質(rhLF)を18〜20gの体重の8匹のC57BL/6Jのオスマウスに静脈内投与した。表3に示されたように、RhLFは、LPSにより誘導された死亡率を38%低下させた。
【表3】

【0111】
実施例3
敗血症のマウスLPSモデルにおける経口投与したrhLFの効果
リポ多糖とガラクトサミンとによる誘発の1、6および12時間後に、組み換えヒトラクトフェリンを5および1.5mg/マウス(経口、PO)と1.5と0.5mg/マウス(IV)の投与量でそれぞれ経口および静脈内投与した。図1は、経口投与rhLFが静脈内投与rhLFに匹敵する防御をもたらしたことを示す。
【0112】
実施例4
LPS誘導敗血症性ショックにおける経口rhLFの用量依存的防御
実施例1に記載のように、LPSとガラクトサミンを用いてそれぞれ10匹の各マウスからなる4群に敗血症性ショックを誘導した。次に、これらマウスの群に、LPS投与の1時間後、6時間後および12時間後に強制飼養で経口投与するプラシーボまたはrhLF(1投与あたり1.5mg、5mgまたは10mg)の3投与量のいずれかを与えた。表4に示すように、経口rhLFはLPS誘導致死に対して用量依存的防御をもたらした。
【表4】

【0113】
実施例5
LPS誘導敗血症ショックにおける異なる投与計画により投与された経口rhLFの有効性
実施例1に記載のように、LPSとガラクトサミンを用いてそれぞれ8〜10匹の各マウスからなる4群に敗血症性ショックを誘導した。次に、これらマウスの群に、異なる4投与計画の一つにより強制飼養で経口投与するプラシーボまたは5mg/投与のrhLFを与えた。表5に示すように、経口rhLFは、予防的または治療的のいずれかで、試験されたすべての投与計画において投与されたときに、LPS誘導致死に対する防御をもたらした。
【表5】

【0114】
実施例6
菌血症のマウスモデルにおけるrhLFの防御効果
22±2gの体重の10匹のICRのオスとメスのマウスの群を用いた。各動物に、5%ムチンを含有する0.5ml脳−心臓注入培養液に懸濁した大腸菌(ATCC25922; 1〜3×105CFU/マウス)を腹腔内に接種した。
【0115】
ビヒクルまたはrhLF(10mg/マウス)を大腸菌投与の1、6、12および24時間後に投与し、死亡率を7日間にわたって調べた。表6に示すように、RhLFで処置した動物は、プラシーボ処置動物に比べて死亡率の10%低下を示した。
【表6】

【0116】
実施例7
菌血症の亜致死マウスモデルにおけるhrLFの防御効果
22±2g体重の10匹のICRのオスとメスのマウスの群を用いた。各動物に、5%ムチンを含有する0.5ml脳−心臓注入培養液に懸濁した大腸菌(ATCC25922)の亜致死投与量を腹腔内に接種する。
【0117】
試験物質のrhLFまたはビヒクルを下記の投与量と投与スケジュールを用いて投与する: 群1、細菌接種の1、6、12および24時間後に10mg/マウス;群2、細菌接種の1、6、12、24、48および72時間後に10mg/マウス;群3、ビヒクル対照、細菌接種の1、6、12、24、48および72時間後に投与; N=10群; 全N=30匹。死亡率はそれ以降の7日間にわたって毎日記録する。
【0118】
実施例8
菌血症の亜致死マウスモデルにおける抗生物質と併用したhrLFの防御効果
22±2g体重の10匹のICRのオスとメスのマウスの群を用いた。各動物に、5%ムチンを含有する0.5ml脳−心臓注入培養液に懸濁した大腸菌(ATCC25922)の亜致死投与量を腹腔内に接種する。動物はカナマイシン抗生物質を100mg/kg/日の投与量で処置する。
【0119】
試験物質のrhLFまたはビヒクルを下記の投与量と投与スケジュールを用いて投与する: 群1、細菌接種の1、6、12および24時間後に10mg/マウス;群2、細菌接種の1、6、12、24、48および72時間後に10mg/マウス;群3、ビヒクル対照、細菌接種の1、6、12、24、48および72時間後に投与; N=10群; 全N=30匹。死亡率はそれ以降の7日間にわたって毎日記録する。
【0120】
実施例9
菌血症のヒヒモデルにおける経口hrLF投与の防御効果
見込みのあるランダム化されたプラシーボ対照研究において、経口rhLFの有効性を、生きた大腸菌を注入した、絶えず機器を取り付けた抗生物質治療下にあるオスのヒヒにおいて72時間にわたって調べる。
【0121】
組み換えヒトラクトフェリンを抗生物質の投与時に予防的に投与する。ヒヒはランダムにプラシーボを与えるか、または100、200または400mg/kg/日の投与量でrhLFを経口投与する。
【0122】
主要な効果指標は死亡率である。主要な罹患率は二次的評価項目と考えられる。rhLF投与の安全性も監視する。
【0123】
治療の薬理学的効果は、処置の多様な時点で集めた血清中の重要なサイトカイン、すなわちIL−18、IL−1、IL−2、IL−4、IL−5、IL−8、IL−10、IL−12、IFN−ガンマおよびTNF−アルファの濃度変化を測定することにより評価する。
【0124】
実施例10
菌血症、敗血症および敗血症性ショックにおけるEDTAを共に投与した場合のrhLFの防御効果
リポ多糖とガラクトサミンとの誘発の1時間後、6時間後および12時間後に、組換えヒトラクトフェリンをEDTAと共に1:1の重量比で、経口または静脈内に、それぞれ5および1.5mg/マウスのrhLFと5と1.5mg/マウスのEDTAの投与量で(経口(PO))、およびそれぞれ1.5および0.5mg/マウスのrhLFと1.5と0.5mg/マウスのEDTAの投与量で(静脈内(IV))共に投与する。死亡率は3日間にわたって記録する。ビヒクル処置群に比べて死亡率の50%以上(≧50%)の減少が顕著な防御を示す。
【0125】
実施例11
菌血症と敗血症を治療するために投与されたrhLFの安全性に関する臨床研究
研究のために、患者を、菌血症の症状の存在、すなわち熱>華氏101度(38.3℃)、寒気、不快感、腹部の痛み、吐き気、嘔吐、下痢、不安感、息切れおよび困惑に基づいて選択する。ほとんどの細菌感染はスタフィロコッカス、シュードモナス、ヘモフィラスおよび大腸菌による。その後の敗血症性ショックは通常免疫弱体化または慢性病患者で起こる。
【0126】
敗血症の診断は、頻脈((心拍数>90bpm)、過呼吸(呼吸回数>20/分またはpCO2exp<35mmHg)、熱(>38℃)または低体温症(<36℃)および白血球増加(>12,000/μL)または白血球減少(<4,000/μL)という基準のうち少なくとも2つの基準の存在に基づき行う。
【0127】
組換えヒトラクトフェリンを、潜在する感染を治療するために抗生物質の投与時、またはそれ以降であって症状が存在する最初の時期に予防的に投与する。患者はプラシーボまたは3日間にわたり100、200または400mg/kg/日の投与量で経口投与される、段階的に増加させた量のrhLFを受ける。プロトコールは最低投与量から始め、投与の安全性を次の投与量に進む前に評価する。p.o.投与のできない患者に対しては、経鼻胃チューブを用いて同一投与レベルで96時間の注入を用いる。
【0128】
この研究の主要な効果指標は、菌血症と敗血症を有する患者に投与されるrhLFの安全性の評価である。
【0129】
実施例12
敗血症におけるrhLFの防御効果を示す臨床研究−投与量の範囲
研究のために、患者を、菌血症の症状の存在、すなわち熱>華氏101度(38.3℃)、寒気、不快感、腹部の痛み、吐き気、嘔吐、下痢、不安感、息切れおよび困惑に基づいて選択する。ほとんどの細菌感染はスタフィロコッカス、シュードモナス、ヘモフィラスおよび大腸菌による。その後の敗血症性ショックは通常免疫弱体化または慢性病患者で起こる。
【0130】
敗血症の診断は、頻脈((心拍数>90bpm)、過呼吸(呼吸回数>20/分またはpCO2exp<35mmHg)、熱(>38℃)または低体温症(<36℃)および白血球増加(>12,000/μL)または白血球減少(<4,000/μL)という基準のうち少なくとも2つの基準の存在に基づき行う。
【0131】
組換えヒトラクトフェリンを、潜在する感染を治療するために抗生物質の投与時、またはそれ以降であって症状が存在する最初の時期に予防的に投与する。患者はプラシーボを受けるか、または100、200または400mg/kg/日の投与量でrhLFを経口投与される。p.o.投与のできない患者に対しては、同一投与量で96時間の経鼻胃注入を用いる。
【0132】
主要な効果指標は死亡率である。主な罹患率は二次的評価項目と考えられる。rhLF投与の安全性も監視する。患者は少なくとも90日間は追跡調査される。
【0133】
治療の薬理学的効果は、処置の多様な時点で集めた血清中の重要なサイトカイン、すなわちIL−18、IL−1、IL−2、IL−4、IL−5、IL−8、IL−10、IL−12、IFN−ガンマおよびTNF−アルファの濃度変化を測定することにより評価する。
【0134】
実施例13
菌血症と敗血症におけるrhLFの防御効果を示す臨床研究
フェーズ3研究
研究のために、患者を、菌血症の症状の存在、すなわち熱>華氏101度(38.3℃)、寒気、不快感、腹部の痛み、吐き気、嘔吐、下痢、不安感、息切れおよび困惑に基づいて選択する。ほとんどの細菌感染はスタフィロコッカス、シュードモナス、ヘモフィラスおよび大腸菌による。その後の敗血症性ショックは通常免疫弱体化または慢性病患者で起こる。
【0135】
敗血症の診断は、頻脈((心拍数>90bpm)、過呼吸(呼吸回数>20/分またはpCO2exp<35mmHg)、熱(>38℃)または低体温症(<36℃)および白血球増加(>12,000/μL)または白血球減少(<4,000/μL)という基準のうち少なくとも2つの基準の存在に基づき行う。
【0136】
このランダム化された二重盲検の複数投与のプラシーボ対照の多施設研究において、組み換えヒトラクトフェリンを菌血症および/または敗血症の症状を有するICU患者に投与する。患者はランダムにプラシーボを与えるか、または400mg/kg/日の割合でrhLFを経口投与される。p.o.投与のできない患者に対しては、同一投与量で96時間の経鼻胃注入を用いる。
【0137】
主要な効果指標は処置患者の全原因の28日死亡率である。二次的な有効性の変数は28日間の追跡調査の間の死亡までの時間、および解放時(90日間まで)の患者の状態である。主な罹患率は二次的評価項目と考えられる(複数臓器不全スコア(MODS)および敗血症関連臓器不全評価(SOFA))。治療開始前の臓器不全を有する患者の生存および臓器不全の予防と好転も評価する。患者は少なくとも90日間追跡調査される。
【0138】
実施例14
菌血症と敗血症におけるrhLF/キシグリス(登録商標)併用の防御効果を示す臨床研究−フェーズ2研究
研究のために、患者を、菌血症の症状の存在、すなわち熱>華氏101度(38.3℃)、寒気、不快感、腹部の痛み、吐き気、嘔吐、下痢、不安感、息切れおよび困惑に基づいて選択する。ほとんどの細菌感染はスタフィロコッカス、シュードモナス、ヘモフィラスおよび大腸菌による。その後の敗血症性ショックは通常免疫弱体化または慢性病患者で起こる。
【0139】
敗血症の診断は、頻脈((心拍数>90bpm)、過呼吸(呼吸回数>20/分またはpCO2exp<35mmHg)、熱(>38℃)または低体温症(<36℃)および白血球増加(>12,000/μL)または白血球減少(<4,000/μL)という基準のうち少なくとも2つの基準の存在に基づき行う。
【0140】
このランダム化された二重盲検の複数投与のプラシーボ対照の多施設研究において、組換えヒトラクトフェリンを菌血症および/または敗血症の症状を有するICU患者に投与する。患者は、ランダムにキシグリス(登録商標)(ドロトレコギン アルファ、活性化型)を24μg/kg/時間で96時間にわたって注入を受けるか、キシグリス(登録商標)(ドロトレコギン アルファ、活性化型)の24μg/kg/時間での96時間にわたるの注入とともに、rhLFを400mg/kg/日で経口投与される。p.o.投与のできない患者に対しては、同一投与量で96時間の経鼻胃注入を用いる。
【0141】
主要な効果指標は処置患者の全原因での28日死亡率である。二次的な有効性の変数は28日間の追跡調査の間の死亡までの時間、および解放時(90日間まで)の患者の状態である。主な罹患率は二次的評価項目と考えられる(複数臓器不全スコア(MODS)および敗血症関連臓器不全評価(SOFA))。治療開始前の臓器不全を有する患者の生存および臓器不全の予防と好転も評価する。患者は少なくとも90日間追跡調査される。
【0142】
実施例15
ARDSにおけるrhLFの防御効果を示す臨床研究−フェーズ2研究
このランダム化され、管理された研究において、各患者はランダムにrhLFの12mL/kgまたは6mL/kgの換気処置群またはプラシーボ群に割り当てられる。rhLF治療群はプラシーボ対照で二重盲検である。
【0143】
RhLFは抗炎症性および免疫調節性を有し、先の研究ではARDS予防の有効性を示唆している。この研究は、急性の肺障害またはARDSの発生後の初期においてrhLFの経口投与が死亡率や罹患率を低下するかどうかを調べるために設計される。
【0144】
患者はランダムにプラシーボを受けるか、または400mg/kg/日の比率でrhLFを経口投与される。
【0145】
p.o.投与のできない患者に対しては、同一投与量で96時間の経鼻胃注入を用いる。
【0146】
主要な効果指標は死亡率である。主な罹患率は二次的評価項目と考えられる。患者は少なくとも90日間は追跡調査される。
【0147】
実施例16
敗血症における死亡率と主要サイトカインの減少
LPS誘導敗血症における経口rhLFの防御効果は公知のサイトカインモジュレーターに関連付けられた。マウスはLPS(20ng IV)+ガラクトサミンで処置した。動物は、LPS誘発時を基準にして、プラシーボ(−1、+1、+6、+12時間)または強制飼養によりrhLF(5mg/投与)を経口的に与えた。死亡率は72時間まで測定したが、すべての死は24時間以内に起こった。循環するサイトカインはLPS誘発の45分後にELISAで測定した。サイトカイン群は一群あたり4匹の動物であった。全28匹(12匹のプラシーボ、16匹のrhLF)を生存に関して追跡調査を行った。片側p値でプラシーボ動物とrhLF動物とを比較した。個々のサイトカインに関する値は平均として示す。初期の実験に一致して、rhLF処置動物は死亡率の顕著な59%の減少を示した。さらに、IL−4、IL−6およびIL−10の循環レベルの減少が観察され(図2)、すべてのTh2サイトカインは敗血症の病態生理学で一定の役割を果たしていることが報告されている。
【0148】
実施例17
L005対L006の抗敗血症活性
N−1端切除物の比率が異なるrhLFの3バッチの生物学的活性をLPS誘導敗血症のマウスモデルを用いて比較した。LPS(20ng/動物IV)とガラクトサミン(20mg/動物IV)との誘発の1時間後、6時間後および12時間後に、18〜20g体重の10匹のC57BL/6Jのオスマウス群にプラシーボまたはrhLF(5mg/投与)を経口投与した。死亡率は72時間にわたって12時間毎に監視した。表7に示されるように、広範に変化する濃度のN−1端切除物を有するrhLFの異なるバッチはすべて、LPS誘導致死に対して同様な防御を示した。
【表7】

【0149】
実施例18
経口rhLFのマウスにおける生物学的利用能の欠如
特別に合成した14C標識rhLF(Perkin−Elmer Life Sciences)をCD−1マウスに経口投与してタンパク質吸収の程度を決定した。マウスに14C−rhLFを接種し、血液と組織試料を下記の表8に示すように集めた。
【表8】

【0150】
示された時間で、マウスを安楽死させて、血液と組織を分析のために集めた。タンパク質分解を妨げるプロテアーゼ阻害剤を含有する緩衝液中で組織をホモゲナイズした。血液を処理して血漿を得た。血漿と組織ホモゲネート試料をシンチレーションカウンターで計測し、PAGEクロマトグラフィーを行って試料成分を大きさにより分離した。ゲル内容物を、リン画像スクリーンにさらされる膜上にブロットして、14C標識バンドを検出した。このスクリーンはわずか500cpmの検出を可能とした。記録されたカウントの値は下記の表9に示す。
【表9】

【0151】
経口投与後、カウントは血漿や組織に見られたが、これは胃や小腸中のrhLFの知られた分解に一致する。PAGEゲル上に見られる検出できるそのままのrhLFは存在せず、検出限界内において、rhLFタンパク質は経口投与後に吸収されないことが確認された。
【0152】
実施例19
ヒトにおける経口rhLFの生物学的利用能の欠如
組換えヒトラクトフェリンは健康なヒト対象の別々の5群に経口投与された。これらの5群は、(合計35対象者を用いた)rhLFとプラシーボに関して6:1の比率でダンダム化した。投与量を下記の表10に示す。
【表10】

【0153】
血液試料は、群1に関して0〜48時間で集め、群2と群5に関して1日目と7日目の投薬間隔にわたって集めた。血漿LFは、妥当性が確認されたELISA法を用いて測定した。LF濃度の値はrhLF処置対象とプラシーボ対象の両方で高い対象間の変動性を示した。ELISAは内因性ラクトフェリンと組換えヒトラクトフェリンの両者を測定するので、経口投与後のrhLFの吸収の程度のみが内在性LF産生と代謝回転の対象間変動性に対して推定できた。LFの血液レベルとrhLFの投与量との関連は明らかではなかった。反復の連日投与の7日目にLFレベルの測定可能な増加はなかった。これらのデータに基づいて、rhLFの経口生物学的利用能は<0.5%と推定された(Mojaverian Pら)。
【0154】
引用文献
本明細書に示したすべての特許と刊行物は本発明に関する当業者のレベルを示すものである。すべての特許と刊行物は、それぞれ個々の刊行物が編入されるように具体的にかつ個々に示されているのと同じ程度に参照によりここに組み込まれる。
米国特許第5,571,691号
米国特許第5,571,697号
米国特許第5,571,896号
米国特許第5,629,001号
Kruzel ML, et al. Clin Exp Immunol 2002; 130:25-31
Heyman M and Desjeux J-F, J Pediatr Gastroenterol Nutr 1992; 15:48-57
Fransson GB, et al., Nutr Res 1983; 3:373-84
Holloway NM, et al., Am J Vet Res 2002 Apr; 63(4):476-8
Mojaverian P. et al. Proceedings of the Annual Meeting of the American Association of Pharmaceutical Scientists, 2003.
【0155】
本発明とその利点を詳細に説明したが、多様な変化、置換および変更が、添付の説明により定義されたように本発明の精神と範囲から離れることなくここで行うことができる。さらに、本出願の範囲は、明細書に説明された製法、機械、製造、物質組成、手段、方法および工程の特定の実施態様に限定されるものではない。当業者は、本発明の開示から、ここに記載された対応する実施態様と実質的に同じ機能を実施し、実質的に同じ結果を達成する現存するか、後に開発された製法、機械、製造、物質組成、手段、方法および工程が本発明にしたがって利用してよいことを容易に理解するだろう。したがって、添付の説明は、その範囲内で、製法、機械、製造、物質組成、手段、方法または工程等を包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
敗血症性ショックを治療または予防する為の経口用組成物であって、ヒトラクトフェリンを含有する、経口用組成物。
【請求項2】
前記治療または予防が、罹患率を減少させることである、請求項1記載の経口用組成物。
【請求項3】
前記治療または予防が、死亡率を減少させることである、請求項1または2記載の経口用組成物。
【請求項4】
前記敗血症性ショックが、臓器不全である、請求項1から3までのいずれかに記載の経口用組成物。
【請求項5】
前記治療または予防が、臓器不全を減弱させることである、請求項1から4までのいずれかに記載の経口用組成物。
【請求項6】
前記ラクトフェリンの1日当たりの投与量が約10mg〜約10gになるように調整される請求項1から5までのいずれかに記載の経口用組成物。
【請求項7】
前記経口用組成物が、少なくとも、敗血症性ショックの1時間後、6時間後、および12時間後に投与されるものである、請求項1から6までのいずれかに記載の経口用組成物。
【請求項8】
請求項1から7までに記載の経口用組成物と抗生物質とを組み合わせてなる、敗血症性ショックを治療または予防する為の薬剤。
【請求項9】
請求項1から7までに記載の経口用組成物とドロトレコギンアルファとを組み合わせてなる、敗血症性ショックを治療または予防する為の薬剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−68666(P2011−68666A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265361(P2010−265361)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【分割の表示】特願2005−508468(P2005−508468)の分割
【原出願日】平成15年12月5日(2003.12.5)
【出願人】(505098694)エイジェニックス インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】