説明

教師データの登録支援装置

【課題】この種のニューラルネットワークを有する欠陥種別判別システムにおいて、誤った教師データを登録することに基づく学習処理時間のロスを回避すること。
【解決手段】入力手段により入力された欠陥種別名の特徴量列とデータベースに登録された複数の欠陥種別名のそれぞれに対応する特徴量列とを、予め各画像的特徴毎に定義された量子化単位にて照合する照合手段と、照合手段による照合の結果、入力された欠陥種別名の特徴量列と一致する登録済特徴量列が存在しないときには、入力された欠陥種別名の特徴量列とその欠陥種別名の特徴量列として既に登録されている特徴量列の平均値との量子化単位における一致度を算出する演算手段と、演算手段により算出された一致度を操作者に提示する提示手段と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、欠陥種別判別システム(例えば、連続抄紙ライン等に適用)を構成するニューラルネットワークに含まれる各種演算係数を最適化するための学習処理に必要な教師データの登録操作を支援するために使用される教師データの登録支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
検査対象物(例えば、抄紙ラインを流れる帯状紙等)を撮影することにより得られた画像中から切り出された欠陥相当画像から二値化画像を生成する二値化画像生成手段と、二値化画像生成手段により生成された二値化画像から様々な画像的特徴のそれぞれに関する特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、特徴量抽出手段により抽出された様々な画像的特徴のそれぞれに関する特徴量に基づいて欠陥種別(虫、淡い欠陥、黒点、穴、薄破れ等)を判別するニューラルネットワークとを有する欠陥種別判別システムは、従来より知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この種の欠陥種別判別システムにおける欠陥種別判別精度を上げるためには、ニューラルネットワークに含まれる各ニューロンの演算係数(例えば、結合係数W、ニューロン状態Sの判定閾値等)を最適化せねばならない。この最適化のための学習処理は、操作者により登録された教師データ(欠陥種別名とそれに対応する入力特徴量列)に基づいて学習処理を実行することにより実現される。
【0004】
従来、教師データの登録処理は、与えられた入力特徴量列に対応する欠陥種別名を入力すると言った操作により行われている。このとき、与えられた入力特徴量列に相当する欠陥種別名の判定は、画面上に表示された欠陥相当画像に基づく操作者の視覚的判断に委ねられていた。
【特許文献1】特開平10−302049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、欠陥相当画像とそれに対応する欠陥種別名との間には必ずしも厳密に一義的な関係は存在しないため、上述の視覚的判断にのみ頼った欠陥種別名の判定方法にあっては、欠陥種別名の視覚的な判断誤りにより、不適切な教師データを登録する虞があった。このような誤った教師データが登録されると、ニューロンの演算係数最適化のための学習演算処理において、いつまで経っても学習演算処理が収束せずに、無駄に時間が費やされる結果となる。殊に、この種の学習演算処理は、各ニューロンの結合係数や閾値を僅かずつ変更しては、規定の演算動作を繰り返すものであるから、教師データが正しく登録されたとしても、数十分程度はかかるものであり、誤った教師データを与えることによる時間の損失は、作業能率の大幅な低下に繋がりかねない。
【0006】
この発明は、上述の問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、この種のニューラルネットワークを含む欠陥種別判別システムにおいて、誤った教師データを登録することに基づく学習処理時間のロスを回避することが可能な教師データの登録支援装置を提供することにある。
【0007】
この発明のさらに他の目的並びに作用効果については、明細書の以下の説明を参照することにより、当業者であれば容易に理解されるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の教師データの登録支援装置は、検査対象物を撮影することにより得られた画像中から切り出された欠陥相当画像から二値化画像を生成する二値化画像生成手段と、二値化画像生成手段により生成された二値化画像から様々な画像的特徴のそれぞれに関する特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、特徴量抽出手段により抽出された様々な画像的特徴のそれぞれに関する特徴量に基づいて欠陥種別を判別するニューラルネットワークとを有する欠陥種別判別システムにおいて、前記ニューラルネットワークに含まれる各種演算係数を最適化するための学習処理に必要な教師データの登録操作を支援するために使用される。
【0009】
この教師データの登録支援装置は、既に登録済みの教師データに相当する欠陥種別名並びにその特徴量列が登録されたデータベースと、新たに登録するための教師データに相当する欠陥種別名並びにその特徴量列を入力するための入力手段と、入力手段により入力された欠陥種別名の特徴量列とデータベースに登録された複数の欠陥種別名のそれぞれに対応する特徴量列とを、予め各画像的特徴毎に定義された量子化単位にて照合する照合手段と、照合手段による照合の結果、入力された欠陥種別名の特徴量列と一致する登録済特徴量列が存在しないときには、入力された欠陥種別名の特徴量列とその欠陥種別名の特徴量列として既に登録されている特徴量列の平均値との量子化単位における一致度を算出する演算手段と、演算手段により算出された一致度を操作者に提示する提示手段と、を含んでいる。
【0010】
このような構成によれば、照合手段による照合の結果、入力された欠陥種別名の特徴量列と一致する登録済特徴量列が存在しないときに、新たな登録が可能となることに加えて、登録に先立って、その教師データ(欠陥種別名とその特徴量列)の確かさが一致度として操作者に提示されるため、欠陥種別名に相応しくない特徴量列が教師データとして誤って登録され、それにより学習処理に支障を来すと言った不具合が回避される。
【0011】
この発明の教師データの登録支援装置にあっては、さらに、照合手段により量子化単位における照合一致が判定された登録済み特徴量列に対応する欠陥種別名が入力された特徴量列に対応する欠陥種別名と不一致のときには所定の出力動作を行う出力手段と、を含んでいてもよい。
【0012】
このような構成によれば、照合手段により量子化単位における照合一致が判定された登録済み特徴量列に対応する欠陥種別名が、入力された特徴量列に対応する欠陥種別名と不一致のときには、所定の出力動作を行う出力手段を含んでいるため、特徴量列同士がほぼ同一であるにも拘わらず、それら二つの欠陥相当画像に対して異なる欠陥種別を誤って割り当てようとしたときには、その旨を示す所定の出力動作が行われることとなり、それに基づいて操作者は自己の判断の誤りに気がつくことができる。
【0013】
上述の装置にあっては、所定の出力動作が、操作者に対する警告動作であってもよい。このような構成によれば、特徴量列同士がほぼ同一であるにも拘わらず、それら二つの欠陥相当画像に対して異なる欠陥種別を割り当てようとしたときには、その旨を示す警告動作が行われることとなり、それに基づいて操作者は自己の判断の誤りに気がつくことができる。ここで、警告動作には、ブザーやランプの点灯のほか、画像表示器の画面上に警告文を表示すること、等を含めることができる。
【0014】
上述の装置にあっては、所定の出力動作が、操作者に対する、欠陥種別名の不一致に係る二つの特徴量列に相当する図表の提示であってもよい。このような構成によれば、それら二つの特徴量列をより詳細に照合することにより、操作者は欠陥種別名の割り当て適否を判断することができる。
【0015】
上述の装置にあっては、各図表にはその基礎とされた欠陥相当画像が付加されていてもよい。このような構成によれば、欠陥相当画像同士の照合により、操作者は欠陥種別名の割り当て適否をより厳密に判断することができる。
【0016】
上述の装置にあっては、提示される図表がレーダチャートであってもよい。このような構成によれば、特徴量列を構成する各特徴量同士の比較を視覚を通じてより精密に行なうことにより、操作者は欠陥種別名の割り当て適否を判断することができる。
【0017】
上述の各装置において、前記検査対象物は連続製造工程に置かれたシート状物体(例えば、鋼板やフィルム等)であってもよい。特に、前記シート状物体が連続抄紙ラインに置かれた帯状紙であるときには、食品向け用途の紙における品質向上に寄与するところが大きいと言う利点がある。なお、照合手段により量子化単位における照合一致が判定された登録済み特微量列に対応ずる欠陥種別名が、入力された特微量列に対応する欠陥種別名と一致するときには、入力された欠陥種別名の特微量列とその欠陥種別名の特微量列として既に登録されている特微量列の平均値との量子化単位における一致度を算出し、算出された一致度を創作者に提示してもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、この種のニューラルネットワークを有する欠陥種別判別システムにおいて、誤った教師データを登録することに基づく学習処理時間のロスを回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、この発明の好適な実施の一形態を添付図面を参照しながら詳細に説明する。連続抄紙ラインと本発明装置との関係を示すシステム構成図が図1に示されている。
【0020】
同図において、1は連続抄紙ラインの後段に備え付けられているワインダマシン、2はワインダ操業支援装置、3はシート検査装置である。当業者にはよく知られているように、ワインダ操業支援装置2を構成するWCSサーバPC5はプログラマブル・コントローラ(PLC)4を介してワインダマシン1の動作を制御する。シート検査装置3にはカメラ、光源、画像処理(欠陥検出)ボード、各種処理PCが含まれており、そこで検出した欠陥の情報や画像データがデータ処理PC6のデータベースに保存される。同時に、このデータはWCSサーバPC5にも保存される。これらの画像データを用いて欠陥の種別判別が行われる。
【0021】
WCSサーバPC5は、本発明の欠陥種別判別システムを構成する。すなわち、この欠陥種別判別システムは、検査対象物である紙の表面を撮影することにより得られた画像中から切り出された欠陥相当画像から2値化画像を生成する2値化画像生成手段と、2値化画像生成手段により生成された2値化画像から様々な画像的特徴のそれぞれに関する特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、特徴量抽出手段により抽出された様々な画像的特徴のそれぞれに関する特徴量に基づいて欠陥種別を判別するニューラルネットワークとを含んでいる。
【0022】
より具体的には、欠陥種別判別システムの構成図が図2に示されている。同図において、検査対象物を撮影することにより得られた画像中から切り出された欠陥画像10は、欠陥色の判別部11において、明または暗画像と明暗混合画像とに分類される。
【0023】
明暗混合画像は、明側画像2値化部12と暗側画像2値化部14とに並列に供給される。明側画像2値化部12は、明暗混合画像の中で明側画像の2値化処理を担う。同様に、暗側画像2値化部14は、明暗混合画像中の暗側画像の2値化処理を担う。これら明側及び暗側画像2値化部12,14から得られる2値化画像は、2値化画像合成部15において合成され、特徴抽出の基礎となる最終的な2値化画像が求められる。一方、欠陥色の判別部11において分類された明または暗画像は、画像2値化部13に送られ、ここで2値化画像に変換される。こうして2値化画像合成部15及び画像2値化部13にて得られた2値化画像は、画像前処理部16へと送られる。
【0024】
画像前処理部16は、先の処理で生成された2値化画像に対し、所定の前処理を行う。この前処理は特徴量抽出のためのものである。すなわち、画像前処理部16において前処理された2値化画像は特徴量抽出部17へと送られ、ここで濃淡特徴量及び形状特徴量が抽出される。
【0025】
1次ニューラルネットワーク判別処理部18は、特徴量抽出部17によって抽出された形状特徴量及び濃淡特徴量に基づき、欠陥種別判別を行う。こうして、種別判別出力21が生成出力される。
【0026】
一方、この実施形態においては、さらに2次ニューラルネットワーク判別処理部20が設けられる。この2次ニューラルネットワーク判別処理部20は、画像前処理部16から得られる濃淡ヒストグラムと1次ニューラルネットワーク判別処理部18からの処理結果データに基づき、さらに別の切り口から、欠陥種別判別処理を実行する。
【0027】
こうして得られた1次ニューラルネットワーク判別処理部18の判別結果、並びに、2次ニューラルネットワーク判別処理部20の判別結果、に基づいて最終的な欠陥種別判別出力21が生成される。尚、例外処理部19は、画像前処理部16の前処理結果に基づき、例外処理信号を生成する。この例外処理信号が種別判別出力21となる。また、ここで言う種別判別出力21としては、虫、淡い欠陥、黒点、穴、薄破れ等が含まれている。
【0028】
このような欠陥種別判別システムによれば、連続抄紙ラインのオペレータは、種別判別出力21によって、連続抄紙ライン上を流れる帯状紙の何れの箇所に、虫、淡い欠陥、黒点、穴、薄破れ等の欠陥が存在するかを確実に認識することができる。そして、この判別結果に基づき、ワインダマシンを逆転するなどによって、その欠陥箇所を探査し、これを適宜除去する。
【0029】
この種の欠陥種別判別システムにおける欠陥種別判別精度を上げるためには、ニューラルネットワーク18,20に含まれる各ニューロンの演算係数(例えば、結合係数W、ニューロン状態Sの判定閾値等)を最適化せねばならない。この最適化のための学習処理は、操作者により登録された教師データ(欠陥種別名とそれに対応する入力特徴量列)に基づいて学習処理を実行することにより実現される。本発明の教師データの登録支援装置は、前記ニューラルネットワークに含まれる各種演算係数を最適化するための学習処理に必要な教師データの登録操作を支援するものである。
【0030】
この教師データの登録支援装置は、先に述べたように、既に登録済みの教師データに相当する欠陥種別名並びにその特徴量列が登録されたデータベースと、新たに登録するための教師データに相当する欠陥種別名並びにその特徴量列を入力するための入力手段と、入力手段により入力された欠陥種別名の特徴量列とデータベースに登録された複数の欠陥種別名のそれぞれに対応する特徴量列とを、予め各画像的特徴毎に定義された量子化単位にて照合する照合手段と、照合手段による照合の結果、入力された欠陥種別名の特徴量列と一致する登録済特徴量列が存在しないときには、入力された欠陥種別名の特徴量列とその欠陥種別名の特徴量列として既に登録されている特徴量列の平均値との量子化単位における一致度を算出する演算手段と、演算手段により算出された一致度を操作者に提示する提示手段と、照合手段により量子化単位における照合一致が判定された登録済み特徴量列に対応する欠陥種別名が入力された特徴量列に対応する欠陥種別名と不一致のときには所定の出力動作を行う出力手段とを含んでいる。
【0031】
このような教師データの登録支援装置を実現するための教師データの登録支援処理の詳細が図3のフローチャートに示されている。この教師支援処理は、教師データの入力に応答して実行を開始される。なお、教師データにおける「欠陥種別名」の決定は、画面に表示された欠陥画像に基づく操作者の視覚的な判断に委ねられている。
【0032】
すなわち、教師データDが入力されると、当該教師データDの取り込みが行われる(ステップ301)。ここでは、新規に入力される教師データDは欠陥種別名[Name]と特徴量列[c1,c2,…cn]の組合せとして表されている。すなわち、c1が第1特徴、c2が第2特徴、cnが第n特徴として表されている。
【0033】
次いで、新規に入力される教師データを構成する特徴量列[c1,c2,…cn]とデータベースに格納された各欠陥種別毎の特徴量列[ck1,ck2,…ckn(k=1,2・・・kmax)]との逐一照合処理が実行される。すなわち、まずポインタkを1にセットしたのち(ステップ302)、ポインタkの値を+1づつ更新させながら(ステップ309)、順次登録データDkを読み込み、教師データDの特徴量列[c1,c2,…cn]と登録データの特徴量列[ck1,ck2,…ckn]との照合が行われる(ステップ304)。
【0034】
このとき、照合結果が不一致のときには(ステップ305NO)、ポインタkの値を+1ずつインクリメントしては(ステップ309)、次の登録データを読み出しては(ステップ303)、両者の照合を行う(ステップ304)。これに対して、両者の一致が判定されたときには(ステップ305YES)、教師データDの欠陥種別名[Name]と登録データDkの欠陥種別名[Namek]との一致がさらに判定される。ここで、両者が一致した場合には(ステップ306YES)、同様にして、ポインタkの値を+1更新しては(ステップ309)、次の登録データDkに関して、照合処理(ステップ304)、一致判定処理(ステップ305)が、ポインタkの値が最終値kmaxに達するまでの間(ステップ308)実行される。
【0035】
これに対して、照合結果が一致で(ステップ305)、なおかつ教師データDの欠陥種別名[Name]と登録データDkの欠陥種別名[Namek]とが不一致と判定されると(ステップ306NO)、所定の出力処理が実行される(ステップ307)。
【0036】
出力処理の詳細を示す説明図が図4に示されている。この例にあっては、出力処理が開始されると、まずオペレータに対して所定の警告表示及び警告ブザーの鳴動が行われ(ステップ401)、その後オペレータからの図表要求操作を待って(ステップ402)、必要に応じて教師データDと登録データDkとをレーダチャートを用いて左右に並べて表示する処理が実行される(ステップ403)。レーダチャートによる表示態様の詳細については、後に図7を参照して詳細に説明する。
【0037】
図3に戻って、ステップ304における照合処理及びステップ305における一致判別処理は、本発明にあっては、図6及び図7に示されるように、量子化単位において行われる。すなわち、本発明にあっては、図6(a)に示されるように、特徴量0〜0.19,0.2〜0.39,0.4〜0.59,0.6〜0.79,0.8〜1.00といったように、特徴量レンジ0.00〜1.00の間は5段階の量子化区分に分けられており、各段階はレベル1,レベル2,レベル3,レベル4,レベル5といった指標により量子化されている。例えば、欠陥Aについて、特徴量である面積が0.15、面積比が0.55、円形度が0.65、フェレ比が0.85、丸さ度が0.35であると想定すれば、先の量子化単位を用いることによって、面積はレベル1、面積比はレベル3、円形度はレベル4、フェレ比はレベル5、丸さ度はレベル2といったように表すことができる。
【0038】
そして、この量子化単位(レベル1〜レベル5)を用いて、先ほどの照合処理(ステップ304)及び一致判別処理(ステップ305)が実行される。その結果、この照合処理(ステップ304)並びに一致判別処理(ステップ305)は、ある程度の冗長度をもって行われる。すなわち、教師データDの特徴量列[c1,c2,…cn]と登録データDkの特徴量列[ck1,ck2,…ckn]との照合は、0.2幅の冗長性をもたせて行われる。
【0039】
このような構成によれば、照合手段により量子化単位における照合一致が判定された登録済み特徴量列に対応する欠陥種別名が、入力された特徴量列に対応する欠陥種別名と不一致のときには、所定の出力動作を行うようにしたため、特徴量列同士がほぼ同一であるにも拘わらず、それら2つの欠陥相当画像に対して誤って異なる欠陥種別を割り当てようとしたときには、その旨を示す所定の出力動作が行われることとなり、それに基づいて操作者は自己の判断の誤りに気がつくことができ、必要な修正操作が促される。
【0040】
このことが、図7の照合処理の説明図にさらに詳しく説明されている。同図(a)はデータベース内の登録状態を示している。また、同図(b)はこれから登録しようとする欠陥に関する特徴量列を示している。
【0041】
いま仮に、データベース内には、欠陥A,欠陥B,欠陥Cがすでに3通りずつ登録されており、欠陥Aは特徴量列{(1,3,4,5,2),(1,3,4,5,3),(1,3,4,5,4)}、欠陥Bは特徴量列{(2,3,4,5,1),(2,4,4,5,1),(2,5,4,5,1)}、欠陥Cは特徴量列{(5,5,1,3,2),(5,5,2,2,3),(5,5,1,2,3)}を有する。
【0042】
このとき、新たに欠陥Cを登録しようとしたとき、その特徴量列(2,3,4,5,1)が、すでに登録している欠陥Bの特徴量列(2,3,4,5,1)と一致したものと想定する。このとき、両者の特徴量列は量子化単位において一致するのに対し、両者の欠陥種別名は一方が欠陥Bであるのに他方が欠陥Cとなって相違する。
【0043】
このような場合、先に示した図3のフローチャートにおいて、ステップ305は『一致』、かつステップ306は『不一致』と判定され、その結果所定の出力処理が実行される(ステップ307)。そして、先に図4を参照して説明したように、警告表示及び警報ブザーの鳴動(ステップ401)並びにオペレータの要求操作に応じて、教師データDと登録データDkとをレーダチャートにより並べて表示する処理(ステップ403)が実行される。
【0044】
このようにして、レーダチャートにより並べて表示された特徴量列の一例が図9に示されている。同図(a)と同図(b)とを比較して明らかなように、レーダチャート902aとレーダチャート902bとでは各特徴量毎の相違が図形上の相違として表されており、そのため両者の特徴別相違点をオペレータは容易に認識することができる。しかも、各レーダチャートのそれぞれ902a,902bには、さらに対象となる欠陥画像901a,901bが付加されているため、欠陥相当画像とそれに対応する特徴別特徴量の値の相違を容易に視覚的に認識することができる。
【0045】
次に、図3に戻って、新規に登録しようとする教師データが既に登録済みの教師データのいずれにも一致しないときには(ステップ308YES)、図5へと進んで、入力された欠陥種別名の特徴量列とその欠陥種別名の特徴量列として既に登録されている特徴量列の平均値との量子化単位における一致度を算出する処理が実行される。
【0046】
すなわち、先ず最初に、既に登録されている欠陥の中から、これから登録する欠陥に対して設定された欠陥種別の特徴量を求める処理が実行される(ステップ501)。続いて、設定した欠陥種別の各特徴量毎の平均を5段階でレベル分け(量子化)する処理が実行される(ステップ502)。続いて、設定した欠陥種の特徴量の平均とこれから登録する欠陥とでパターン照合を行う処理が実行される(ステップ503)。続いて、照合結果の判定処理が実行される(ステップ504)。
【0047】
ここで、図8(a)に示されるように、欠陥種別名A同士でパターンが100%一致していると判定された場合には(ステップ505)、所定の画面上には、全ての特徴量が一致していることを示す二重丸印が表示される(ステップ508)。また、図8(b)に示されるように、欠陥種別名A同士でパターンが80%以上一致していると判定された場合には(ステップ506)、所定の画面上には、80%の特徴量が一致していることを示す丸印が表示される(ステップ509)。さらに、図8(c)に示されるように、欠陥種別名A同士でパターンが80%以上一致していないと判定された場合には(ステップ507)、所定の画面上には、80%の特徴量が一致していないことを示す×印が表示される(ステップ509)。
【0048】
なお、図9の例にあっては、図9(a)と図9(b)とを比較するだけではなく、図9(a),(b)のそれぞれの中で、これから登録しようとする欠陥の特徴量(レーダチャートの塗りつぶし)と登録済の平均の特徴量(レーダチャートの直線)とを比較するものである。すなわち、同図(a)はこれから登録しようとする特徴量(レーダチャートの塗りつぶし)と登録済の平均の特徴量(レーダチャートの特徴)とが合っていない場合、同図(b)はこれから登録しようとする特徴量(レーダチャートの塗りつぶし)と登録済の平均の特徴量(レーダチャートの直線)とが合っていない場合である。
【0049】
以上の説明で明らかなように、本発明の教師データの登録支援装置は、既に登録済みの教師データに相当する欠陥種別名並びにその特徴量列が登録されたデータベース(図7(a)参照)と、新たに登録するための教師データに相当する欠陥種別名並びにその特徴量列(図7(b)参照)を入力するための入力手段と、入力手段により入力された欠陥種別名の特徴量列とデータベースに登録された複数の欠陥種別名のそれぞれに対応する特徴量列とを、予め各画像的特徴毎に定義された量子化単位(図6(a)参照)にて照合する照合手段(図3ステップ304,305参照)と、照合手段による照合の結果、入力された欠陥種別名の特徴量列と一致する登録済特徴量列が存在しないときには(図3ステップ308NO)、入力された欠陥種別名の特徴量列とその欠陥種別名の特徴量列として既に登録されている特徴量列の平均値との量子化単位における一致度を算出する演算手段(図5ステップ501,502,503)と、演算手段により算出された一致度を操作者に提示する提示手段(図5ステップ505〜507、508〜510)とを具備するものであるから、照合手段による照合の結果、入力された欠陥種別名の特徴量列と一致する登録済特徴量列が存在しないときに限り、新たな登録が可能となることに加えて、登録に先立って、その教師データ(欠陥種別名とその特徴量列)の確かさが一致度として操作者に提示されるため、欠陥種別名に相応しくない特徴量列が教師データとして誤って登録され、それにより学習処理に支障を来すと言った不具合が回避される。
【0050】
加えて、この発明の教師データの登録支援装置にあっては、照合手段により量子化単位における照合一致が判定された登録済み特徴量列に対応する欠陥種別名が、入力された特徴量列に対応する欠陥種別名と不一致のときには所定の出力動作を行う出力手段(図3ステップ307参照)とを含んでいる。
【0051】
そのため、照合手段により量子化単位における照合不一致が判定された登録済み特徴量列に対応する欠陥種別名が、入力された特徴量列に対応する欠陥種別名と不一致のときには、所定の出力動作を行う出力手段(ステップ307)を含んでいるため、特徴量列同士がほぼ同一であるにも拘わらず、それら2つの欠陥相当画像に対して異なる欠陥種別を割り当てようとしたときには、その旨を示す所定の出力動作が行われることとなり、それに基づいて操作者は自己の判断の誤りに気がつくことができる。
【0052】
従って、この発明によれば、誤った教師データを登録することに基づく学習処理時間のロスを回避することが可能となる。すなわち、誤った教師データが登録されると、ニューロンの演算係数最適化のための学習演算処理において、いつまでたっても学習演算処理が収束せずに、無駄に時間が費やされる結果となる。殊に、この種の学習演算処理は、各ニューロンの結合係数や閾値を僅かずつ変更しては、規定の演算動作を繰り返すものであるから、教師データが正しく登録されたとしても、数十分程度はかかるものであり、誤った教師データを与えることによる時間の損失は、作業能率の大幅な低下に繋がりかねない。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】連続抄紙ラインと本発明装置との関係を示すシステム構成図である。
【図2】欠陥種別判別システムの構成図である。
【図3】登録支援処理の説明図(その1)である。
【図4】出力処理の詳細を示す説明図である。
【図5】登録支援処理の説明図(その2)である。
【図6】特徴量のレベル分けの説明図である。
【図7】登録済欠陥と新規登録欠陥との特徴量列照合処理の説明図である。
【図8】録済欠陥平均値と新規登録欠陥との特徴量列照合処理の説明図である。
【図9】レーダチャートの一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0054】
1 ワインダマシン
2 ワインダ操業支援装置
3 シート検査装置
4 プログラマブル・コントローラ(PLC)
5 WCサーバPC
6 データ処理PC
7 ネットワーク
10 欠陥画像
11 欠陥色の判別部
12 明側画像2値化部
13 画像2値化部
14 暗側画像2値化部
15 2値画像の合成部
16 画像前処理部
17 特徴量抽出部
18 1次ニューラルネットワーク判別処理部
19 例外処理部
20 2次ニューラルネットワーク判別処理部
21 種別判別出力
901a、901b 欠陥相当画像
902a,902b レーダチャート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物を撮影することにより得られた画像中から切り出された欠陥相当画像から二値化画像を生成する二値化画像生成手段と、二値化画像生成手段により生成された二値化画像から様々な画像的特徴のそれぞれに関する特徴量を抽出する特徴量抽出手段と、特徴量抽出手段により抽出された様々な画像的特徴のそれぞれに関する特徴量に基づいて欠陥種別を判別するニューラルネットワークとを有する欠陥種別判別システムにおいて、
前記ニューラルネットワークに含まれる各種演算係数を最適化するための学習処理に必要な教師データの登録操作を支援するために使用される教師データの登録支援装置であって、
既に登録済みの教師データに相当する欠陥種別名並びにその特徴量列が登録されたデータベースと、
新たに登録するための教師データに相当する欠陥種別名並びにその特徴量列を入力するための入力手段と、
入力手段により入力された欠陥種別名の特徴量列とデータベースに登録された複数の欠陥種別名のそれぞれに対応する特徴量列とを、予め各画像的特徴毎に定義された量子化単位にて照合する照合手段と、
照合手段による照合の結果、入力された欠陥種別名の特徴量列と一致する登録済特徴量列が存在しないときには、入力された欠陥種別名の特徴量列とその欠陥種別名の特徴量列として既に登録されている特徴量列の平均値との量子化単位における一致度を算出する演算手段と、
演算手段により算出された一致度を操作者に提示する提示手段と、
を具備する、ことを特徴とする教師データの登録支援装置。
【請求項2】
照合手段により量子化単位における照合一致が判定された登録済み特徴量列に対応する欠陥種別名が、入力された特徴量列に対応する欠陥種別名と不一致のときには、所定の出力動作を行う出力手段を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の教師データの登録支援装置。
【請求項3】
所定の出力動作が、操作者に対する警告動作である、ことを特徴とする請求項2に記載の教師データの登録支援装置。
【請求項4】
所定の出力動作が、操作者に対する、欠陥種別名の不一致に係る二つの特徴量列に相当する図表の提示である、ことを特徴とする請求項2に記載の教師データの登録支援装置。
【請求項5】
各図表にはその基礎とされた欠陥相当画像が付加されている、ことを特徴とする請求項4に記載の教師データの登録支援装置。
【請求項6】
提示される図表がレーダチャートである、ことを特徴とする請求項4に記載の教師データの登録支援装置。
【請求項7】
前記検査対象物が連続製造工程に置かれたシート状物体である、ことを特徴とする請求項1〜7に記載の教師データの登録支援装置。
【請求項8】
前記シート状物体が連続抄紙ラインに置かれた帯状紙である、ことを特徴とする請求項7に記載の教師データの登録支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−11574(P2006−11574A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−184412(P2004−184412)
【出願日】平成16年6月23日(2004.6.23)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】