説明

散乱光検出装置および散乱光検出方法

【課題】測定対象物に互いに波長の異なる複数種類の測定光を切り替えて照射することにより測定対象物から生じる散乱光を、精度良く検出する。
【解決手段】測定対象物を支持する支持部と、支持部に支持された測定対象物に複数の測定光をそれぞれ照射可能な、互いに異なる位置に配置された複数の光源と、複数の測定光により照射された測定対象物からそれぞれ生じる散乱光を検出する検出器と、測定光の測定対象物への光路を含まない領域であって、散乱光を検出可能な領域である測定領域内に検出器を移動可能な移動機構とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定光を測定対象物に照射し、測定対象物により散乱された散乱光を検出する散乱光検出装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、測定光を測定対象物に照射し、測定対象物により散乱された散乱光を検出することにより、種々の検査が行われており、一例として、検体の小滴を乾式分析素子に点着供給して検体中に含まれている特定の化学成分または有形成分を定量分析する比色測定法や検体に含まれる特定イオンのイオン活量を測定することのできる電解質測定法が行われている。
【0003】
比色タイプの乾式分析素子を使用する比色測定法は、検体を乾式分析素子に点着した後、これをインキュベータ内で所定時間恒温保持して呈色反応(色素生成反応)させ、次いで検体中の所定の生化学物質と乾式分析素子に含まれる試薬との組み合わせにより予め選定された波長を含む測定用照射光をこの乾式分析素子に照射してその光学濃度を測定し、この光学濃度から、予め求めておいた光学濃度と所定の生化学物質の物質濃度との対応を表す検量線を用いて該生化学物質の濃度を求めるものである。一方、電解質タイプの乾式分析素子を使用する電位差測定法は、上記の光学濃度を測定する代わりに、同種の乾式イオン選択電極の2個1組からなる電極対に点着された検体中に含まれる特定イオンの活量を、参照液を用いてポテンシオメトリで定量分析することにより求めるものである。
【0004】
上記いずれの方法においても、液状の検体は検体容器(採血管等)に収容して装置にセットするとともに、その測定に必要な乾式分析素子を装置に搭載し、乾式分析素子を搭載位置から点着部およびインキュベータへ搬送する一方、点着機構の点着ノズルによって検体を搭載位置から点着部へ供給して乾式分析素子へ点着するものである。
【0005】
上記のような測定対象物に測定光を照射し、測定対象物で発生した散乱光を検出器で測定して分析を行う装置では、測定される光に測定光がノイズ成分として混ざることにより散乱光のみを精度よく検出することができないという問題があった。
【0006】
この問題に対し、特許文献1は、入射光などの非特異的散乱光の包絡線の外側に検出器を配置して、散乱光を測定することを提案している。
【0007】
また、特許文献2は、光が照射された試料の発する光を検出器で受光して分析する分析装置において、試料を透過した透過光の光路に、検出器に透過光が入り込まないように回転駆動可能な遮光板を備えることを開示している。
【0008】
特許文献3は、被測定面にレーザ光が照射されて生じた散乱光のうち、散乱角度θの散乱光束のみを、対物レンズによって特定の位置に集光し、特定の位置と略同位置に設けた散乱角度制限絞りを通過した散乱光を受光する。そして、散乱角度制限絞りの開口部の形状を調整することによって、散乱光の受光可能散乱角度範囲を制御することを開示している。
【0009】
特許文献4は、散乱光を効率良く受光するために、光ファイバの各々の集光端付近の部分を、その光軸が光散乱源に向かって伸びるように支持することによって、散乱光がファイバ軸に対して実質的に平行の方向から各ファイバに入るようにできることを開示している。また、入射光を受け取るための軸方向集光コンポーネントを設け、入射光が反射して散乱光に混入することを防ぐことを開示している。
【0010】
また、特許文献5には、光学フィルタにより、励起光をカットする手法が開示されている。
光源から出力された捕捉光が、レンズで平行光化されたのちダイクロイックミラーで反射されて、対物レンズを介してプラズモン活性基体の試料接触面上に照射される。その後、検出器手前に配置された捕捉光カットフィルタを経て散乱光が検出器に検出される。ここで、捕捉光カットフィルタが検出器手前に配置されることにより、捕捉光の反射光が検出器に入射するのを防ぎラマン散乱光のみを精度よく検出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−244270号公報
【特許文献2】特開2007−17310号公報
【特許文献3】特開2006−58224号公報
【特許文献4】特開2005−536740号公報
【特許文献5】特開2009−42112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、測定対象物に互いに波長の異なる複数種類の測定光を切り替えて照射することにより測定対象物から生じる散乱光をそれぞれ検出する場合には、複数種類の測定光の光路がそれぞれ異なるため、測定光の全てに対して特許文献1乃至4に記載された方法を適用可能な装置構成を実現することは容易ではない。
【0013】
また、特許文献5の方法は、蛍光やラマン散乱光などの測定光と散乱光とで波長が異なっている場合には有効であるが、測定光と波長シフトがない散乱光を検出する場合には適用することができない。
【0014】
本発明はかかる点に鑑み、互いに異なる位置に配置された複数の光源から互いに異なる波長を有する複数種類の測定光を切り替えて用いる場合に、測定光と散乱光の波長シフトの有無に拘わらず散乱光を常に精度良く検出可能な散乱光検出装置および散乱光検出方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明による散乱光検出装置は、測定対象物に互いに波長の異なる複数種類の測定光を切り替えて照射することにより前記測定対象物から生じる散乱光をそれぞれ検出する散乱光検出装置であって、前記測定対象物を支持する支持部と、前記支持部に支持された前記測定対象物に前記複数の測定光をそれぞれ照射可能な、互いに異なる位置に配置された複数の光源と、前記複数の測定光により照射された前記測定対象物からそれぞれ生じる散乱光を検出する検出器と、前記測定光の前記測定対象物への光路を含まない領域であって、前記散乱光を検出可能な領域である測定領域内に前記検出器を移動可能な移動機構と、を備えたことを特徴とするものである。
【0016】
本発明による散乱光検出方法は、互いに異なる位置に配置された複数の光源から測定対象物に互いに波長の異なる複数種類の測定光を切り替えて照射することにより前記測定対象物から生じる散乱光をそれぞれ検出器により測定する散乱光検出方法であって、前記測定対象物に前記測定光を照射する工程と、前記測定光の光路を含まない領域であって、前記散乱光を検出可能な領域である測定領域内に前記検出器を前記複数種類の測定光ごとに移動する工程と、前記測定光により照射された前記測定対象物から生じる散乱光を検出する工程とを備えたことを特徴とするものである。
【0017】
上記「測定光の光路」は、測定光が測定対象物を透過するものである場合には、測定対象物に対する入射光および透過光の光路を意味し、測定光を測定対象物により全反射するものである場合には、測定対象物に対する入射光および反射光の光路を意味する。
【0018】
また、「測定領域内に前記検出器を移動可能な」および「検出器を前記複数種類の測定光ごとに移動する」とは、検出器を測定領域内に相対的に移動可能であれば、検出器を移動させてもよく、検出器が測定領域内に含まれるように光源を移動させてもよく、光源と検出器の両方を移動させてもよい。
【0019】
また、本発明にかかる散乱光検出装置において、前記支持部が前記測定対象物を支持する支持面を備えるものであり、前記複数の光源が、前記測定対象物を通り、前記支持面に垂直な軸を中心とした同心円状に配置されて、前記複数の測定光を前記測定対象部に交互に切り替えて照射可能なものであり、前記移動機構が、該切り替えられて照射する光源からの測定光により前記測定対象物から生じる散乱光を検出する位置に移動するものであることが好ましい。
【0020】
前記「支持面」は、測定対象物を支持する平面であればよく、例えば、測定対象物に測定光が照射される領域に支持部の開口部を設けている場合、測定対象物の端部など測定物の一部だけを支持するものであってもよい。
【0021】
また、上記場合、前記移動機構が、前記軸を回転軸として回転可能な検出器支持部材を備え、前記検出器支持部材を回転させることにより検出器を回転移動するものであることが好ましい。さらに、この場合、前記検出器を複数備え、前記検出器支持部材に前記複数の検出器を前記軸の周りに同心円状に配置してもよい。
【0022】
また、本発明にかかる散乱光検出装置における前記移動機構は、前記検出器を移動可能な範囲のうち、前記入射光と前記測定対象物とが交差する領域に最も近い位置に検出器を移動させて前記散乱光を検出するものであることが好ましい。
【0023】
また、本発明にかかる散乱光検出装置において、前記測定領域は、前記光源から前記測定対象物に照射される入射光と、該照射された入射光が前記測定対象物の表面である反射面により反射された反射光とを含む入射面領域を除いた領域であることが好ましい。
【0024】
上記「入射面」は、測定光の光軸上の光線または相対的光強度分布のピーク位置の光線に基づいて定義される。また、入射面領域は、測定光が所定の幅を持った光である場合、上記入射面を中心に前記所定の幅の厚みを持つ領域を意味する。
【0025】
また、上記の場合、本発明にかかる散乱光検出装置における前記移動機構が、前記検出器を移動可能な範囲のうち、前記入射面領域から最も離れた位置に検出器を移動させて前記散乱光を検出するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
上記のような本発明による散乱光検出装置および散乱光検出方法によれば、測定対象物に前記測定光を照射し、測定光の光路を含まない領域であって、散乱光を検出可能な領域である測定領域内に検出器を前記複数種類の測定光ごとに移動して、測定光により照射された前記測定対象物から生じる散乱光を検出することにより、測定光と波長シフトがない散乱光を検出する場合や複数種類の測定光がそれぞれ切り替えられて照射される場合においても、常に測定光の入り込まない測定領域内で精度よく散乱光を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態における散乱光検出装置の概略構成を示す部分断面正面図
【図2】図1の散乱光検出装置の素子搬送位置での点着機構を除く要部機構の平面図
【図3】図1の散乱光検出装置の乾式分析素子の搬送経路部分の断面正面図
【図4】本発明の一実施形態における散乱光の測定領域を説明する図
【図5】図1の散乱光検出装置の測定部の要部機構の断面図
【図6】図5の測定部の光源と検出器の配置を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。この実施形態では本発明を適用した生化学分析装置(散乱光検出装置)について説明する。図1は、第1の実施形態による生化学分析装置の概略構成を示す部分断面正面図、図2は、図1の生化学分析装置の素子搬送位置での点着機構を除く要部機構の平面図、図3は、第1の実施形態の生化学分析装置の点着部を含む乾式分析素子の搬送経路部分の要部を示す断面正面図、図5は、第1の実施形態における測定部の概略図、図6は、図5の測定部の光源と検出器の配置を示す平面図である。
【0029】
図1〜図3、図5および図6により生化学分析装置1の全体構成を説明する。この生化学分析装置1の測定機構は、サンプルトレイ2、点着部3、第1のインキュベータ4、第2のインキュベータ5、点着機構6、素子搬送機構7、移送機構8、チップ廃却部9、素子廃却機構10および各種機構を制御する制御部(不図示)などを備えてなる。
【0030】
図2に示すようにサンプルトレイ2は円形で、検体を収容した検体容器11、未使用の乾式分析素子12(比色タイプの乾式分析素子および電解質タイプの乾式分析素子)を収容した素子カートリッジ13、消耗品(ノズルチップ14、希釈液容器15、混合カップ16および参照液容器17)を搭載する。なお、検体容器11は検体アダプタ18を介して搭載され、ノズルチップ14はチップラック19に多数収納されて搭載される。
【0031】
点着部3は、サンプルトレイ2の中心線の延長上に配置され、搬送された乾式分析素子12に血漿、全血、血清、尿などの検体の点着が行われるもので、点着機構6によって比色測定タイプの乾式分析素子12には検体を、電解質タイプの乾式分析素子12には検体と参照液を点着する。この点着部3に続いてノズルチップ14が廃却されるチップ廃却部9が配置されている。
【0032】
第1のインキュベータ4は円形で、チップ廃却部9の延長位置に配置され、比色タイプの乾式分析素子12を収容して所定時間恒温保持し、比色測定を行う。第2のインキュベータ5(図2参照)は、点着部3の側方における隣接位置に配設され、電解質タイプの乾式分析素子12を収容して所定時間恒温保持し、電位差測定を行う。
【0033】
素子搬送機構7(図3参照)は、詳細は示していないが、前記サンプルトレイ2の内部に配設され、このサンプルトレイ2の中心と第1のインキュベータ4の中心とを結び、点着部3およびチップ廃却部9を通る直線状の素子搬送経路R(図2)に沿って、乾式分析素子12をサンプルトレイ2から点着部3へ、さらに第1のインキュベータ4へ搬送する素子搬送部材71(搬送バー)を備える。素子搬送部材71はガイドロッド38により摺動自在に支持され、不図示の駆動機構によって往復移動操作され、先端部は縦板34のガイド穴34aに挿入され、このガイド穴34aを摺動する。
【0034】
移送機構8は点着部3を兼ねて設置され、点着部3から第2のインキュベータ5へ、素子搬送経路Rと直交する方向に、電解質タイプの乾式分析素子12を移送する。
【0035】
点着機構6は上部に配設され、昇降移動する点着ノズル45が前述の素子搬送経路Rと同一直線上を移動し、検体および参照液の点着、希釈液による検体の希釈混合を行う。点着ノズル45は、先端にノズルチップ14を装着し、該ノズルチップ14内に検体、参照液等を吸引し吐出するもので、その吸引吐出を行う不図示のシリンジ手段が付設され、使用後のノズルチップ14はチップ廃却部9で外されて落下廃却される。
【0036】
素子廃却機構10(図2参照)は第1のインキュベータ4に付設され、測定後の比色タイプの乾式分析素子12を第1のインキュベータ4の中心部に押し出して落下廃棄する。なお、前記素子搬送機構7によって廃却することもできる。また、第2のインキュベータ5で測定した後の電解質タイプの乾式分析素子12は、前記移送機構8によって廃却穴69に廃棄される。
【0037】
また、サンプルトレイ2の近傍には、血液から血漿を分離する不図示の血液濾過ユニットが設置されている。
【0038】
上記各部の機構を、以下に具体的に説明する。まず、サンプルトレイ2は、正転方向および逆転方向に回転駆動される円盤状の回転ディスク21と、その中央部の円盤状の非回転部22とを有する。
【0039】
回転ディスク21には、図2に示すように、各検体を収容した採血管等の検体容器11を検体アダプタ18を介して保持するA〜Eの5つの検体搭載部23と、これに隣接して各検体の測定項目に対応して通常複数の種類が必要とされる未使用の乾式分析素子12を積み重ねた状態で収容した素子カートリッジ13を保持する5つの素子搭載部24と、多数のノズルチップ14を保持孔に並んで収容したチップラック19を保持する2つのチップ搭載部25と、希釈液を収容した3つの希釈液容器15を保持する希釈液搭載部26と、希釈液と検体とを混合するための混合カップ16(多数のカップ状凹部が配置された成形品)を保持するカップ搭載部27とが円弧状に配置されている。
【0040】
また、非回転部22には、素子搬送経路Rの延長上で点着ノズル45の移動範囲に、参照液を収容した参照液容器17を保持する筒状の参照液搭載部28が設けられ、この参照液搭載部28には、参照液容器17の開口部を開閉する蒸発防止蓋35(図1)が設置されている。
【0041】
蒸発防止蓋35は、下端が非回転部22に揺動可能に枢支された揺動部材37に保持され、閉方向に付勢されている。揺動部材37の上端係止部37aが点着機構6の移動フレーム42の下端角部42aと当接可能であり、参照液の吸引時に近接移動した移動フレーム42により揺動部材37が開方向に揺動され、蒸発防止蓋35が参照液容器17を開口して点着ノズル45による参照液吸引が可能となる。その他の状態では蒸発防止蓋35が参照液容器17の開口部を閉塞して参照液の蒸発を防止し、その濃度変化による測定精度の低下を阻止する。
【0042】
前記回転ディスク21は、外周部が支持ローラ31で支持され、中心部が不図示の支持軸に回転自在に保持されている。また、回転ディスク21の外周には、不図示のタイミングベルトが巻き掛けられ、駆動モータによって正転方向または逆転方向に回転駆動される。非回転部22は上記支持軸に回転不能に取り付けられている。
【0043】
前記素子カートリッジ13は、図3に示すように、上方から未使用の乾式分析素子12が混在状態で通常複数枚重ねられて挿入される。前記素子搭載部24に装填されると、下端部が素子搭載部24の底壁24aに保持され、素子搬送面と同一高さに最下端部の乾式分析素子12が位置し、最下端部の前面側には1枚の乾式分析素子12のみが通過し得る開口13aが、後面側には素子搬送部材71が挿通可能な開口13bが形成されている。
【0044】
また、乾式分析素子12の下面に付与された素子情報を素子カートリッジ13の下方から読み取れるように、素子カートリッジ13の底面には窓部13cが、素子搭載部24の底壁24aにも窓部24bがそれぞれ形成されている。
【0045】
そして、サンプルトレイ2の下方に、乾式分析素子12の不図示のドット配列パターンによる素子情報を読み取る読取機33が設置されている。この読取機33は、図3に示す素子搬送位置から、サンプルトレイ2の作動により、回転ディスク21が回動し、図5に示すように、検体容器11(検体搭載部23)が点着ノズル45の移動経路(素子搬送経路R)上の吸引位置に移動したときに、その検体の測定に使用する乾式分析素子12を収容した素子カートリッジ13(素子搭載部24)が移動した位置の下方に設置されている。つまり、図示の場合、読取機33は、検体搭載部23と素子搭載部24との位相ピッチだけ素子搬送経路Rからずれた位相角度で、素子搭載部24の回転位置に設置されている。なお、図3では回転ディスク21を一部切除して読取機33を示し、図3では読取機33を便宜的に素子搬送経路Rにある素子搭載部24の下方に示している。
【0046】
上記読取機33は、ドット記録方式に対応してCCDカメラで構成される。この読取機33による乾式分析素子12の素子情報の読み取りは、対応する検体容器11からの検体吸引および乾式分析素子12の搬送に先行して行う。そして、乾式分析素子12に付与された素子情報の読み取りによって得られた6桁または4桁の数字から試薬種別情報、試薬ロット情報等を求めることができ、さらに、記録パターン等から、表裏および前後方向が認識できる。これにより、セット不良が検出でき、ワーニングを発することが可能である。
【0047】
また、前記検体アダプタ18は筒状に形成され、上部から検体容器11が挿入される。この検体アダプタ18は、不図示の識別部を有し、検体の種類(処理情報)、検体容器11の種類(サイズ)等の情報が設定され、測定の初期時点でサンプルトレイ2の外周部に配設された識別センサ30(図2)によってその識別が読み取られ、検体の希釈の有無、血漿濾過の有無などが判別されると共に、検体容器11のサイズに伴う液面変動量が算出され、それに応じた処理制御が行われる。血漿濾過が必要な検体容器11に対しては、アダプタ18に検体容器11を挿入した上に、濾過フィルターを備えたホルダーがスペーサ(いずれも不図示)を介して装着される。
【0048】
点着部3および移送機構8は、サンプルトレイ2と第1のインキュベータ4との間に素子搬送経路Rと直交する方向に長い支持台61を備え、その上に移動可能に摺動枠62が設置されている。この摺動枠62には、点着用開口63a(図3)が形成された第1素子押え63および第2素子押え64が隣接して一体に移動可能に装着されている。第1素子押え63(第2素子押え64も同様)は、支持台61に面する底面に、前記素子搬送経路Rに沿って乾式分析素子12が通過する凹部63bを有する。また、摺動枠62は、一端部がガイドバー65に案内され、他端部側の長溝62aにピン66が係合され、さらに、ラックギヤ62bに駆動モータ68の駆動ギヤ67が噛合して移動される。支持台61には、第2のインキュベータ5および廃却穴69が設置されている。
【0049】
図2のように、第1素子押え63が点着部3に位置している際には、点着後の比色タイプの乾式分析素子12は素子搬送機構によって押し出されて第1のインキュベータ4に移送される。一方、電解質タイプの乾式分析素子12への点着が行われると、摺動枠62が移動されて点着後の乾式分析素子12は第1素子押え63に保持されたまま支持台61上を滑るように第2のインキュベータ5に移送され、電位差測定が行われる。その際には、第2素子押え64が点着部3(点着位置)に移動し、その後に搬送される比色タイプの乾式分析素子12に対する検体の点着および第1のインキュベータ4への搬送が可能である。第2のインキュベータ5での測定が完了すると、摺動枠62がさらに移動されて測定後の乾式分析素子12を廃却穴69に移送して落下廃却する。
【0050】
なお、比色タイプの乾式分析素子12を搬送する際には第2素子押え64を点着部3に移動させておき、電解質タイプの乾式分析素子12が搬送されるときのみ、第1素子押え63を点着部3に移動させるようにしてもよい。
【0051】
また、上記撮像部材33は、ドット配列パターンの読み取りのほか、他の情報の読み取りを行うようになっている。そのために、不図示の追加光源が設置されている。この追加光源としては、赤外用光源、劣化検出用光源、など特定波長を有する光源が検出態様に応じて設置される。この情報読取機による点着情報、その他の読み取りについては後述する。
【0052】
点着機構6(図1)は、固定フレーム40の水平ガイドレール41に、横方向に移動可能に保持された移動フレーム42を備え、この移動フレーム42に昇降移動可能に2本の点着ノズル45が設置されている。移動フレーム42には中央に縦ガイドレール43が固着され、この縦ガイドレール43の両側に2つのノズル固定台44が摺動自在に保持されている。ノズル固定台44の下部には、それぞれ点着ノズル45の上端部が固着され、上部に上方に延びる軸状部材が駆動伝達部材47に挿通されている。ノズル固定台44と駆動伝達部材47との間に介装された圧縮バネにより、ノズルチップ14の嵌合力を得るようになっている。ノズル固定台44は駆動伝達部材47と一体に上下移動可能であると共に、点着ノズル45の先端部にノズルチップ14を嵌合する際に、圧縮バネの圧縮でノズル固定台44に対して駆動伝達部材47が下降移動可能である。上記駆動伝達部材47は、上下のプーリ49に張設されたベルト50に固定され、不図示のモーターによるベルト50の走行に応じて上下移動する。なお、ベルト50の外側部位には、バランスウェイト51が取り付けられ、非駆動時の点着ノズル45の下降移動が防止される。
【0053】
また、移動フレーム42は不図示のベルト駆動機構によって横方向に駆動され、2つのノズル固定台44は独自に上下移動するように、その横移動および上下移動が制御され、2つの点着ノズル45は、一体に横移動すると共に、独自に上下移動するようになっている。例えば、一方の点着ノズル45は検体用であり、他方の点着ノズル45は希釈液用および参照液用である。
【0054】
両点着ノズル45は棒状に形成され、内部に軸方向に延びるエア通路が設けられ、下端にはピペット状のノズルチップ14がシール状態で嵌合される。この点着ノズル45にはそれぞれ不図示のシリンジポンプ等に接続されたエアチューブが連結され、吸引・吐出圧が供給される。また、この吸引圧力の変化に基づき検体等の液面検出が行えるようになっている。
【0055】
チップ廃却部9は、搬送経路Rを上下方向に交差して設けられ、上部材81および下部材82を備える。このチップ廃却部9における支持台61には、楕円形に開口された落下口83が形成されている。上部材81は支持台61の上面に固着され、落下口83の直上部位には係合切欠き84が設けられ、下部材82は支持台61の下面に落下口83の下方を囲むように筒状に形成され、落下するノズルチップ14をガイドするようになっている。
【0056】
そして、ノズルチップ14が装着されている点着ノズル45を、上部材81内に下降させてから横方向に移動させ、その係合切欠き84にノズルチップ14の上端を係合してから、点着ノズル45を上昇移動させてノズルチップ14を抜き取り、外れたノズルチップ14は落下口83を通して落下廃却される。
【0057】
比色測定を行う第1のインキュベータ4は、外周部に円環状の回転部材87を備え、この回転部材87は内周下部に固着された傾斜回転筒88が下部のベアリング89に支持されて回転自在である。回転部材87の上部に上位部材90が一体に回転可能に配設されている。上位部材90の底面は平坦であり、回転部材87の上面には円周上に所定間隔で複数(図1の場合13個)の凹部が形成されて両部材87,90間にスリット状空間による素子室91が形成され、この素子室91の底面の高さは搬送面の高さと同一に設けられている。また、傾斜回転筒88の内孔は測定後の乾式分析素子12の廃却孔92に形成され、素子室91の乾式分析素子12がそのまま中心側に移動されて落下廃却される。
【0058】
上位部材90には図示しない加熱手段が配設され、その温度調整によって素子室91内の乾式分析素子12を所定温度に恒温保持する。また上位部材90には、図4に示すように、素子室91に対応して乾式分析素子12のマウントを上から押えて検体の蒸発防止を行う押え部材93が配設されている。上位部材90の上面には保温カバー94が配設される一方、この第1のインキュベータ4は全体が遮光カバー95によって覆われる。さらに、回転部材87の各素子室91の底面中央には測光用の開口91aが形成され、この開口91aを通して図2に示す長孔の下方に配設された測定部96による乾式分析素子12の散乱光の濃度の測定が行われる。第1のインキュベータ4の回転駆動は、不図示のベルト機構により行われ、往復回転駆動される。
【0059】
ここで、図4を用いて散乱光の測定領域の概念を説明する。図4は、測定領域の例を示す斜視図である。図4においては、測定光の光路がxz平面に含まれ、測定対象物(本実施形態においては乾式分析素子12)の表面の、測定光を反射する反射面RPがxy平面に含まれるようにxyz座標系により光路の概略を示す。図4では、説明のために光源LAから照射された測定光の光路CA、CA’、光源LBから照射された測定光の光路CB、CB’を示し、光源LAから照射された測定光の光軸上の光線をlaで示す。
【0060】
図4に示すように、光源LAから照射された測定光は、乾式分析素子12の下面(反射面)RPに入射光として入射し、乾式分析素子12の下面(反射面)RPにおいて反射されて、反射光として進む。すると、反射面RP上の入射光が照射された照射領域Aから散乱光が各方向に広がる。
【0061】
検出器Sは、照射領域Aにより散乱された散乱光のみを検出することが好ましい。このため、散乱光測定の際に、測定光が測定対象物に入射する入射光の光路CAまたは測定光が測定対象物により反射した反射光の光路CA’に検出器が位置すると、測定光と散乱光の両方を検出してしまい、測定光がノイズとして検出されてしまうため、精度よく測定を行うことができない。
【0062】
このため、測定光が測定対象物に入射する入射光の光路CAまたは測定光が測定対象物により反射した反射光の光路CA’を除いた領域で、散乱光測定を行うことが好ましい。また、測定光は、測定対象物を集中的に照射する光強度分布を有するものであれば、いかなる光強度分布を示すものであってもよい。
【0063】
そして、散乱光検出装置が、複数の異なる種類の測定光を照射する複数の光源LA、LBを備えている場合には、光源LAにより測定光を照射している場合には、測定光の光路である入射光の光路CAおよび反射光の光路CA’を除いた領域において散乱光の検出を行い、光源LBにより測定光を照射している場合には、測定光の光路である入射光の光路CBおよび反射光の光路CB’を除いた領域において散乱光の検出を行うことが好ましい。このため、互いに異なる複数種類の波長の測定光を切り替えて用いて測定対象物の散乱光を検出する場合に、全ての散乱光の光路に含まれない位置に検出器を配置して散乱光の検出を行うことが考えられる。しかしながら、多数の種類の光源を設けた散乱光検出装置においては、どこに検出器を配置しても、いずれかの測定光の光路に含まれてしまう可能性がある。また、全ての測定光に対してそれぞれ特許文献1乃至4の方法を適用するような装置構成を実現することは容易ではない。
【0064】
本発明では、上記事情に鑑み、光源LAを用いて散乱光測定を行う際には、測定光の入射光の光路CAおよび反射光の光路CA’からなる光路を含まない領域に検出器Sを移動して散乱光の測定を行い、光源LBを用いて散乱光測定を行う際には、測定光の入射光の光路CBおよび反射光の光路CB’からなる光路CBを含まない領域Bである測定領域内に検出器Sを移動して散乱光の測定を行う。もし、光源LA、LB以外にさらに光源を備えた場合であっても、測定光の照射に応じて、その測定光の光路を含まない領域である測定領域に検出器Sを移動して散乱光の検出を行う。
【0065】
上記の方法によれば、互いに異なる種類の測定光を切り替えて照射して散乱光の測定を行う場合においても、常にその測定光の光路を含まない領域である測定領域内において散乱光の測定を行うことができる。このため、多数の光源からそれぞれ異なる種類の測定光が照射される場合であっても、測定光がノイズとして検出されることを好適に回避することができ、高いSN比で散乱光を精度よく検出することができる。また、光源の数に対応した数の検出器を設ける必要がないため、少ない検出器で効率よく、複数の光源に対する散乱光の検出を行うことができる。
【0066】
また、測定光の光路を含まない領域Bにおいて、検出器の移動可能な範囲のうち、入射光と反射面RPとが交差する照射領域Aにできるだけ近い位置で散乱光を検出することがさらに好ましい。測定対象である散乱光が照射領域Aにより散乱されるため、照射領域Aの近傍で散乱光を検出することにより、ノイズに対する測定対象である散乱光の割合をさらに高めることができ、より高SN比で精度よく散乱光の測定を行うことができるからである。また、照射領域Aのうち、測定光の光軸と反射面RPとの交点、または、測定光の光強度分布のピークと反射面RPの交点にできるだけ近い位置で散乱光を検出することが好ましい。測定光の光軸または測定光の光強度分布のピークと反射面RPとの交点付近においては、照射領域Aのうち、特に測定光の相対的光強度分布の強い部分が集中して照射される領域であるため測定対象である散乱光の割合がさらに高く、より好適に散乱光の測定を行うことができる。
【0067】
なお、測定光の光路を算出する際に、測定光が裾の広がった光強度分布を有するものである場合には、相対的光強度が所定値以上となる測定光の主要部分に基づいて算出する。例えば、レーザ光の場合には、相対的光強度が1/e以上となる部分を測定光の主要部分とし、LED光の場合には、所定値は1/10以上となる部分を測定光の主要部分として光路を算出することができる。
【0068】
検出器Sは、光路を含まない領域B内に移動できるものであれば、任意の移動機構により、任意の経路を通って移動してよい。例えば、所定の区間を水平に往復可能なスライド部に検出器を固定し、スライド部を平行移動するように駆動することにより、検出器を移動してもよい。また、回転部材に検出器を固定し、回転部材を回転駆動することにより、検出器を移動してもよい。また、検出器の配置や駆動機構は、測定領域に検出器を移動可能であれば、任意に構成してよい。また、検出器を測定領域内に相対的に移動可能であれば、検出器を移動させてもよく、検出器が測定領域内に含まれるように光源を移動させてもよく、光源と検出器の両方を移動させてもよい。
【0069】
検出器の種類は、装置の用途に応じた任意の種類を用いることができる。例えば、CCDなどの固体撮像素子を用いてもよく、位置検出器(PSD)を用いてもよい。
【0070】
また、検出器の数は、装置の目的や用途に応じて複数設けてもよく、1つだけ設けてもよい。検出器を1つだけ設けた場合には、配線や制御などを煩雑にする必要がないため、簡易な構造で、低コストに装置を製造できる、また、複数設けた場合には、複数の検出器を同時に用いて散乱光の検出を行うことにより、散乱光が弱い場合などでも、より精度よく散乱光を検出することができる。
【0071】
さらに、本実施形態では、測定領域を、さらに、光源から前記測定対象物に照射される入射光と、照射された入射光が測定対象物の表面である反射面により反射された反射光とを含む入射面領域Eを除いた領域とする。図4に示すように、測定対象物が配置された面である反射面RPに入射する光軸上の入射光線laと、この入射光線laが反射面RPから反射した反射光線la’を含む面が入射面EPである。入射面領域Eは、測定光が所定の幅Wを有する光である場合、入射面EPを中心とした所定の幅W分の厚みを持つ領域である。図4では、入射光線laがXZ平面に含まれるため、入射面EPはXZ平面に平行な平面であり、入射面領域Eは、入射面EPを中心としてy方向に厚みWを持った領域である。本実施形態では、測定光の光路を含まない領域Bから入射面領域Eをさらに除いた領域B1を測定領域とする。
【0072】
例えば、測定光が周縁部分において光強度が徐々に減少するような裾の広がった強度分布を示している場合、測定光の周縁部分(光強度分布の裾の部分)が、反射面RPのうち、測定対象物以外の部分(非測定対象領域)に反射または散乱される場合があり、このような非測定対象領域により反射または散乱された光は、ノイズとして検出器Sに検出される可能性がある。本実施形態における乾式分析素子12を用いた散乱光の検出においては、乾式分析素子12のうち、検体が乾式分析素子12に備えられた試薬層に展開された領域から生じる散乱光を検出対象としており、それ以外の領域における反射光または散乱光はノイズとなる。このような非測定対象領域により生じた反射光または散乱光(ノイズ)を低減するために、先述の測定光の光路を含まない領域Bから入射面領域Eをさらに除いた領域を測定領域とすることが有効である。入射面領域Eは、測定光の周縁部分が通過する領域を多く含むため、上記のような非測定対象領域により反射または散乱された測定光がノイズとして入り込みやすいからである。
【0073】
また、素材や表面形状の違いにより、測定対象物に散乱された散乱光と非測定対象領域において散乱された散乱光が広がる領域が互いに異なっている場合もある。このような場合には、測定対象物に散乱された散乱光が測定可能な光強度を維持しつつ広がっている領域であって、かつ、入射面領域Eに含まれない領域で散乱光を測定することにより、測定対象物に散乱された散乱光に対して非測定対象領域において散乱された散乱光(ノイズ)の割合を低減することができる。測定対象物に散乱された散乱光の広がる領域に対して、非測定対象領域において散乱された散乱光の広がる領域から相対的に離れた位置で測定することになるからである。なお、測定対象物に散乱された散乱光の広がる領域として、例えば、照射領域Aを中心として反射面RPから半球状に広がる領域が考えられる。
【0074】
また、先述の領域B1のうち、入射面領域Eからできるだけ離れた位置で散乱光を検出することが好ましい。この場合には、入射面領域Eから離れた位置で散乱光を測定することにより、入射面領域Eに含まれるノイズを検出しにくくなるため、測定光が照射される照射領域Aから測定対象である散乱光に対する、ノイズの割合を低減することができ、より高SN比で精度よく散乱光の測定を行うことができる。
【0075】
図2および図5を用いて、本実施形態の測定部96の構成を具体的に説明する。図5は、本実施形態の測定部96の断面図である。図5に示すように、測定部96には、図2に示す長孔および乾式分析素子12が載置される素子室91の下面(支持面)の開口91aを介して、乾式分析素子12の下面に対して、それぞれ波長の異なる測定光を入射させるLED等からなる複数の光源L1、L2、L3、…、L8と、これらの光源が回転軸Fを中心に同心円状に配置された下方ほど径が狭くなるような円錐管形状の光源支持部111と、乾式分析素子12から生ずる散乱光を受光するための検出器S1、S2と、上記検出器S1、S2を回転軸Fをはさんで対向して支持する円盤状の検出器配置部112aを有する検出器支持部材112と、検出器支持部材112の下端部の外周に取り付けられた駆動ギアを、不図示の回転駆動機構により駆動させることにより光源に対して検出器を回転移動させる移動機構を備えている。なお、軸Fは、素子室91の下面に直交し、乾式分析素子12の検体が点着された領域を通る位置に位置する。
【0076】
回転軸Fに対して対向する光源は、それぞれ同じ波長の測定光を照射する光源であり、それぞれの測定項目に応じて、ペアで用いられる。例えば、測定項目I1の際には、光源L1とL5とが同時に測定対象物である乾式分析素子12の下面RPに対して測定光を照射する。また、測定光を照射する一対の光源は、測定対象物の下面である反射面RPに対してほぼ同じ角度で同じ領域が照射領域となるように固定されている。このように、これらの一対の光源をそれぞれ軸Fに対して対称に設けているので、一対の光源による各光路(光源L1の入射光l1および光源L5の反射光l5’、光源L1の入射光l1’および光源L5の反射光l5)は、逆向きであるがほぼ一致し、一対の光源L1、L5による入射面領域Eもほぼ同じ領域となる。
【0077】
本実施形態では、測定光ごとに、測定光の光路と測定光に対応する入射面領域を除いた領域である測定領域に検出器を回転移動させて散乱光を検出する。さらに、検出器を、検出器の移動可能な範囲のうち、入射面領域Eから最も離れた位置に移動させて散乱光を検出する。図6に示すように、例えば、光源L1およびL5により測定光を照射する場合には、光源L1およびL5の光路と、光源L1およびL5の測定光にそれぞれ対応する入射面領域E以外の領域である測定領域のうち、最も入射面領域Eから離れた位置に検出器S1、S2を移動させて検出を行い、同様に、光源L2およびL6により測定光を照射する場合には、測定領域のうち、最も光源L2、L6による入射面領域Eから離れた図6の太線で示す位置に検出器S1、S2を移動させて検出を行う。
【0078】
具体的には、散乱光検出処理に先立って、測定光ごとに、用いられる一対の光源の各位置および反射面に対する入射角度から光路および入射面領域Eを算出し、散乱光を好適に検出可能な散乱光検出可能領域のうち、これらを含まない測定領域をそれぞれ算出する。そして、算出された測定領域ごとに、検出器の移動可能な範囲内で最も入射面領域Eから離れた位置を測定位置として決定する。そして、測定項目に応じて、使用する光源と、決定した測定位置とをそれぞれ対応づけて検出器決定情報として生化学分析装置1の制御部に備えられたメモリに記憶しておく。そして、測定項目が決定すると、制御部は検出器移動情報に基づいて、測定光の種類に応じて対応する測定位置に検出器を移動して測定光の検出を行う。なお、各光源はLED光源を用い、その光路は相対的光強度分布の1/10に基づいて算出する。また、検出器S1およびS2は、2次元位置検出器(2次元PSD)である浜松ホトニクス社製のS1880をそれぞれ用いる。なお、散乱光検出可能領域として、予め測定した試験データに基づいて照射領域Aの近傍の領域が設定されているものとする。
【0079】
廃却機構10は、外周側から中心方向に素子室91内に進退移動する廃却バー101を備えている。この廃却バー101は後端部が水平方向に走行するベルト102に固定され、駆動モータ103の駆動によるベルト102の走行に応じ、素子室91から測定後の乾式分析素子12を押し出して廃却する。なお、廃却孔92の下方には測定後の乾式分析素子12を回収する回収箱が配設される。
【0080】
また、イオン活量を測定する第2のインキュベータ5は、前述の摺動枠62の第1素子押え63が上位部材となり、その底部の凹部によって測定本体97の上面との間に1つの素子室が形成される。この第2のインキュベータ5には、図示しない加熱手段が配設され、その温度調整によって乾式分析素子12のイオン活量を測定する部分を所定温度に恒温加熱する。さらに、測定本体97の側辺部にはイオン活量測定のための3対の電位測定用プローブ98が出没して乾式分析素子12のイオン選択電極に接触可能に設けられている。
【0081】
なお、不図示の血漿濾過ユニットは、サンプルトレイ2に保持された検体容器11(採血管)の内部に挿入され上端開口部に取り付けられたガラス繊維からなるフィルターを有する不図示のホルダーを介して血液から血漿を分離吸引し、ホルダー上端のカップ部に濾過された血漿を保持するようになっている。
【0082】
上記のような生化学分析装置1の動作、測定条件の設定等は、不図示の筐体20に設置された不図示の操作パネル55からの入力によって行われる。この操作パネル55(インターフェース)は、表示画面、スタートキー、ストップキー、検体キー、消耗品キー、手動キー、緊急キー、キャリブレーションキー、テンキー、印刷キーなど、指先で押して各種の指示操作を行う操作キーが配設されている。この操作パネル55は、不図示の制御部に接続され、そこに登録されている制御プログラムに基づく測定演算処理が設定され、自動測定動作、手動測定動作、緊急測定動作、キャリブレーション動作、印刷動作などが選択実行され、測定値に基づき前記素子情報に対応する分析情報によって分析結果を(成分濃度)を算出するようになっている。そして、測定結果を出力記録するため、設定値の確認などのために、これらのデータをプリンタ57によって印刷する。
【0083】
次いで、前述の生化学分析装置1の全体動作について説明する。まず、分析を行う前に、サンプルトレイ2の各搭載部23〜28に、各検体を収容した検体容器11、乾式分析素子12を装填した素子カートリッジ13、ノズルチップ14を収容したチップラック19、混合カップ16、希釈液容器15および参照液容器17を搭載して、測定準備を行う。
【0084】
その後、分析処理をスタートする。まず、血漿濾過が必要な検体の場合には、血液濾過ユニットにより、検体容器11内の全血を濾過して血漿成分を得る。次に、回転ディスク21を回転させて測定する検体の素子カートリッジ13を点着部3に対応する素子取り出し位置に停止させ、乾式分析素子12を素子搬送機構によって素子カートリッジ13から取り出して点着部3に搬送する。なお、点着部3に搬送される前に、乾式分析素子12に付与された分析情報が読み取られ、その後の動作が制御される。
【0085】
そして、測定項目が比色測定の場合は、素子押え64が点着部に位置している状態で、乾式分析素子12の搬送を行い、続いてサンプルトレイ2を回転させて点着ノズル45の下方にチップラック19のノズルチップ14を移動させ、点着ノズル45に装着する。続いて検体容器11を移動させ、点着ノズル45を下降してノズルチップ14に検体を吸引し、点着ノズル45を点着部3に移動して、乾式分析素子12に検体を点着する。次に、素子室91を回転して、所定時間恒温保持した後、挿入された乾式分析素子12を順次測光部96による測定位置に移動させ、乾式分析素子12の反射光学濃度の測定が行われる。
【0086】
測定項目に応じた波長の測定光に対応した光源L1およびL5が決定すると、制御部は、検出器移動情報に基づいて、移動機構を駆動することにより、検出器配置部112aが回転駆動されて、検出器S1およびS2を測定位置に移動する。次いで、図6に示すように、光源L1およびL5から同時に測定光が照射され、照射領域Aから発生した散乱光を検出器S1およびS2で検出する。
【0087】
測定終了後、測定済みの乾式分析素子12は中心側に押し出して廃却する。測定結果を出力し、使用済みのノズルチップ14をチップ廃却部9で点着ノズル45から外して下方に落下廃却し、処理を終了する。この比色測定の間は、第2のインキュベータ5においては、前述のように、下ブロック71を上昇させて上ブロック63を予熱している。
【0088】
次いで、検査項目が希釈依頼の場合、例えば血液の濃度が濃すぎて正確な検査を行うことができないような場合には、その乾式分析素子12を点着位置に搬送した後、ノズルチップ14を点着ノズル45に装着し、点着ノズル45を下降してノズルチップ14に検体を吸引する。吸引した検体をノズルチップ14から混合カップ16に分注した後、使用済みのノズルチップ14を外す。次いで、新しいノズルチップ14を点着ノズル45に装着し、希釈液容器15からノズルチップ14に希釈液を吸引する。吸引した希釈液をノズルチップ14から混合カップ16に吐出する。そして、ノズルチップ14を混合カップ16内に挿入して吸引と吐出とを繰り返して撹拌を行う。撹拌を行った後、希釈した検体をノズルチップ14に吸引し、その点着ノズル45を点着部3に移動して、乾式分析素子12に検体を点着する。以下同様に、恒温保持、測光、素子廃却、結果出力およびチップ廃却を行って処理を終了する。
【0089】
次いで、イオン活量の測定の場合は、前述のように上ブロック63を点着部3へ移動させて、電解質タイプの乾式分析素子12を点着位置へ搬送した後、まず、一方の点着ノズル45にノズルチップ14を装着し、検体を吸引する。次に、他方の点着ノズル45にノズルチップ14を装着し、参照液容器17から参照液を吸引する。次いで、一方の点着ノズル45により検体を乾式分析素子12の一方の液供給孔に点着し、さらに、他方の点着ノズル45により参照液を乾式分析素子12の他方の液供給孔に点着する。
【0090】
そして、検体および参照液が点着された乾式分析素子12が、点着部3から上ブロック63と共に摺動枠62の移動によって第2のインキュベータ5に移送され、下ブロック71の上昇で恒温保持しつつ電位測定用プローブ78によってイオン活量の測定を行う。測定終了後、測定後の乾式分析素子12を摺動枠62の移動によって廃却穴69に移送して廃却する。そして測定結果を出力し、両方の使用済みのノズルチップ14を両点着ノズル45から外して廃却し、処理を終了する。
【0091】
上記の実施形態によれば、測定光と波長シフトがない散乱光を検出する場合や複数種類の測定光がそれぞれ切り替えられて照射される場合においても、常にその測定光の光路を含まない領域である測定領域内において散乱光の測定を行うことができる。このため、測定光がノイズとして検出されることを好適に回避することができ、散乱光のみを精度よく検出して高いSN比を維持することができる。また、光源の数に対応した数の検出器を設ける必要がないため、少ない検出器で効率よく、複数の光源に対する散乱光の検出を行うことができる。
【0092】
また、測定領域が入射面領域Eを除いた領域であるため、非測定対象領域により反射または散乱された光によるノイズをさらに抑制でき、さらに高いSN比を実現することができる。
【0093】
また、回転部材87(支持部)が乾式分析素子12を支持する支持面を備えるものであり、複数の光源が、乾式分析素子12の検体が点着された部分を通り、支持面に垂直な軸Fを中心とした同心円状に配置されて、複数の測定光を乾式分析素子12に交互に切り替えて照射可能なものであり、移動機構が、切り替えられて照射する光源L1、L2、…、L8からの測定光により測定対象物から生じる散乱光を検出する位置に移動するものであるため、光源から測定対象物までの距離が一定となり、測定条件を均一化できるため好ましい。
【0094】
また、移動機構が、軸を回転軸として回転可能な検出器支持部材112を備え、検出器支持部材112を回転させることにより検出器を回転移動するものであるため、簡易な構成により、測定光ごとに光路を含まない領域において散乱光を検出する装置を実現できる。また、移動機構を簡易な構成にできるため、比較的コンパクトな装置サイズで、低コストに装置を製造することができる。また、乾式分析素子12の検体が点着された部分を通り、支持面に垂直な軸Fを中心として検出器を回転移動するため、どの測定光を用いている場合であっても測定対象物から各検出器までの距離が略同一となり、測定条件を均一化できるため好ましい。
【0095】
さらに、検出器を複数備え、検出器支持部材112に複数の検出器を軸Fの周りに同心円状に配置したため、検出器が1つである場合よりも散乱光を精度よく検出することができる。また、測定光の種類よりも少ない数の検出器を備えたため、測定光ごとに検出器を備えた場合よりも省コスト性が高い。
【0096】
また、上記のように、複数の光源を波長の種類ごとのグループに分けて、測定光ごとに各光源のグループを切り替えて用いる場合、同時に用いられる光源の光路の一部又は全部が重複するようにしたため、同時に用いられる光源がそれぞれ異なる光路を有する場合よりも測定光の光路を小さくできるため、装置内に限られたスペースしかない場合であっても、測定領域を確保しやすい。
【0097】
なお、上述した各実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で任意に変形および応用が可能である。また、測定光を測定対象物に照射し、測定対象物から生じる散乱光を測定する装置であれば、いかなる種類の測定装置に対しても本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0098】
1 生化学分析装置
2 サンプルトレイ
3 点着部
4 第1のインキュベータ
5 第2のインキュベータ
6 点着機構
12 乾式分析素子(分析チップ)
96 測光部
111 光源支持部
112 検出器支持部材
112a 検出器配置部
A 照射領域
C1、C1’、C5、C5’、CA、CA’、CB、CB’ 光路
E 入射面領域
EP 入射面
LA、LB、L1、L2、…L8 光源
RP 反射面
S、S1、S2 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物に互いに波長の異なる複数種類の測定光を切り替えて照射することにより前記測定対象物から生じる散乱光をそれぞれ検出する散乱光検出装置であって、
前記測定対象物を支持する支持部と、
前記支持部に支持された前記測定対象物に前記複数の測定光をそれぞれ照射可能な、互いに異なる位置に配置された複数の光源と、
前記複数の測定光により照射された前記測定対象物からそれぞれ生じる散乱光を検出する検出器と、
前記測定光の前記測定対象物への光路を含まない領域であって、前記散乱光を検出可能な領域である測定領域内に前記検出器を移動可能な移動機構と、
を備えたことを特徴とする散乱光検出装置。
【請求項2】
前記支持部が前記測定対象物を支持する支持面を備えるものであり、
前記複数の光源が、前記測定対象物を通り、前記支持面に垂直な軸を中心とした同心円状に配置されて、前記複数の測定光を前記測定対象部に交互に切り替えて照射可能なものであり、前記移動機構が、該切り替えられて照射する光源からの測定光により前記測定対象物から生じる散乱光を検出する位置に移動するものであることを特徴とする請求項1記載の散乱光検出装置。
【請求項3】
前記移動機構が、前記軸を回転軸として回転可能な検出器支持部材を備え、前記検出器支持部材を回転させることにより検出器を回転移動するものであることを特徴とする請求項2記載の散乱光検出装置。
【請求項4】
前記検出器を複数備え、前記検出器支持部材に前記複数の検出器を前記軸の周りに同心円状に配置したことを特徴とする請求項2または3記載の散乱光検出装置。
【請求項5】
前記移動機構が、前記検出器を移動可能な範囲のうち、前記入射光と前記測定対象物が交差する領域に最も近い位置に検出器を移動させて前記散乱光を検出するものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の散乱光検出装置。
【請求項6】
前記測定領域は、前記光源から前記測定対象物に照射される入射光と、該照射された入射光が前記測定対象物の表面である反射面により反射された反射光とを含む入射面領域を除いた領域であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の散乱光検出装置。
【請求項7】
前記移動機構が、前記検出器を移動可能な範囲のうち、前記入射面領域から最も離れた位置に検出器を移動させて前記散乱光を検出するものであることを特徴とする請求項6項記載の散乱光検出装置。
【請求項8】
互いに異なる位置に配置された複数の光源から測定対象物に互いに波長の異なる複数種類の測定光を切り替えて照射することにより前記測定対象物から生じる散乱光をそれぞれ検出器により測定する散乱光検出方法であって、
前記測定対象物に前記測定光を照射する工程と、
前記測定光の光路を含まない領域であって、前記散乱光を検出可能な領域である測定領域内に前記検出器を前記複数種類の測定光ごとに移動する工程と、
前記測定光により照射された前記測定対象物から生じる散乱光を検出する工程とを備えたことを特徴とする散乱光検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−76608(P2013−76608A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215985(P2011−215985)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】