説明

整流器用変圧器

【課題】整流器用変圧器の低圧巻線の外側冷却媒体流路幅と、内側冷却媒体流路幅が異なる巻線の冷却構造において、低圧巻線の温度上昇を低減する。
【解決手段】本発明は、鉄心と高圧巻線の間に低圧巻線を配置した整流器用変圧器であって、前記低圧巻線を冷却する為に前記低圧巻線の内側及び外側に設けられた、異なった流路幅の冷却媒体流路を、内側及び外側とも略等しくなるように、間隔調整部材を前記低圧巻線と前記鉄心を包括するように配置された絶縁筒との間に配置したことを特微とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電力を生成する整流器に、電力を供給するための整流器用変圧器の、巻線の冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電鉄用に直流電力を供給するための整流器用変圧器では、従来から絶縁性のある冷却媒体として、鉱油系絶縁油が用いられてきた。近年になっては、より引火点の高いシリコーン液と耐熱性の高い絶縁材料を用いて、整流器用変圧器の運転温度を高めることにより、コンパクトで難燃性の変圧器が開発されてきている。
【0003】
一方、電鉄用の整流器用変圧器は短時間ではあるが、定格の数倍以上の電流を負荷に供給することもある。このような短時間大電流負荷の供給時でも、変圧器の内部を所定の温度範囲に収める冷却設計が必要である。
【0004】
よって、熱の発生源である巻線の局部的な温度上昇を避け、できるだけ巻線を均一に冷却する必要がある。例えば、巻線を構成しているディスクコイル間にスペーサを挟んで積み上げ、更に所々に折流板と呼ばれるガイドを、冷却媒体が流れる方向を変化させるように配置しているものもある。これらの折流板により、冷却媒体が偏って流れるのを防ぎ、巻線全体をできるだけ均一に冷却をするような構造としているのである。
【0005】
下記特許文献1では、折流板である水平スペーサの形状を工夫することにより、冷却媒体の流れを変化させ、巻線の局部的な温度上昇を低減している。また特許文献2では、冷却媒体流路内の所々に流路を狭める部材を設け、冷却媒体の流速分布を均一化させて、局部的な温度上昇を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−151206号公報
【特許文献2】特開平10−106848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で述べられている水平スペーサを用いることにより、所々で冷却媒体流路を閉塞させて、冷却媒体をディスクコイルの冷却に効果のある水平流を発生させ、ディスクコイルの冷却をすることは可能である。
【0008】
しかし、図8に示した一般的な電鉄用の整流器用変圧器では、鉄心1から外側に向かって、絶縁筒4a、冷却媒体流路8a、低圧巻線2(一般的に上側低圧巻線と下側低圧巻線で構成されている)、冷却媒体流路8b、絶縁筒4b、高圧巻線部位6のような構成をしている。
【0009】
また、このような構成になっている整流器用変圧器では、低圧巻線2から引き出されたリード線7は、外部端子に接続するために、構造上どうしても冷却媒体流路8aを通らなければならない。
【0010】
更に前記リード線7と鉄心1及び低圧巻線2の間は、製品仕様を満足するための絶縁距離を確保する必要もある。つまり前記のような整流器用変圧器では、冷却媒体流路8aの流路幅d1は、低圧巻線2と絶縁筒4bで作る冷却媒体流路8bの流路幅d2よりも広くなってしまうのである。つまり流路幅d1≫流路幅d2となるのである。
【0011】
そこで、特許文献1に示したような対策が、上記のような整流器用変圧器に対して効果が期待できるか、シミュレーションモデルで検証してみた。これを図9に示した。検証した項目は、ディスクコイルの温度上昇と冷却媒体の流速である。シミュレーションでは、リード線7の占める体積割合は極わずかであるため省略した。巻線を構成するディスクコイルには、a1からa8まで記号を割り当て、またディスクコイルの隙間である水平流路にも、b1からb7までの記号を割り当てて、流速と温度上昇を調べてみた。
【0012】
その結果、図5のグラフに実線で示したように、水平流路b1からb7を流れる冷却媒体の流速は、折流板bに近いほど遅く、必ずしも流速は均一ではないことがわかった。また温度に関しても、図4のグラフに示したように、折流板b付近のディスクコイルa1の温度が、局部的に上昇するという問題が判明した。
【0013】
一方では、特許文献2に記載されているように、巻線と絶縁筒で作る冷却媒体流路部に流路幅を狭める部材を設け、垂直方向に流れる冷却媒体の流量を減少させ、水平方向への流量を増加させる方法も検討されている。しかし、特許文献1のように、所々で冷却媒体流路を閉塞させる場合に比べ、垂直流路を流れる冷却媒体の流量が多くなり、逆に水平流が少なくなるので、必ずしもディスクコイルの冷却に、十分な効果が得られるとは限らない。
【0014】
これらの事より、ディスクコイルやその付近にある絶縁物が熱により劣化し、信頼性が低下する可能性がある。また、温度上昇を抑えるために冷却装置の容量を増やして、強制的に冷却する方法も考えられるが、結果として製品のコスト上昇が避けられない。
【0015】
本発明は、以上のような問題点を鑑みてなされたもので、鉄心と高圧巻線間に低圧巻線を配置した整流器用変圧器で、複数のディスクコイルで構成された低圧巻線の温度上昇を均一化する冷却構造を持った、整流器用変圧器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、鉄心と高圧巻線部位の間に低圧巻線を配置した整流器用変圧器であって、前記鉄心と前記低圧巻線間には、前記鉄心を包括するように絶縁筒が配置され、一方前記低圧巻線の鉄心とは反対側に、前記低圧巻線を包括するように絶縁筒が配置され、前記低圧巻線はディスクコイル間にスペーサ及び折流板を挟み込んで積み上げ、前記低圧巻線の上下を巻線支持部材で固定して構成されおり、前記低圧巻線から引き出されたリード線が、前記鉄心を包括するように配置された絶縁筒と、前記低圧巻線との間の冷却媒体流路に配置されたものにおいて、間隔調整部材を前記冷却媒体流路内に配置してできた冷却媒体流路8cの流路幅と、前記低圧巻線を包括するように配置された絶縁筒との間の冷却媒体流路8bの流路幅が、略等しくなるようにしたことを特徴とする。
【0017】
また本発明は、間隔調整部材としてコルゲートボード使用したことを特徴とする。
【0018】
更に本発明は、間隔調整部材としてプレスボードを使用したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の間隔調整部材により、鉄心側の絶縁筒と低圧巻線間の冷却媒体流路幅が狭まり、低圧巻線に対して垂直方向に流れる冷却媒体の流速が早まる。その影響で、ディスクコイルに対して水平方向に流れる冷却媒体の流速も増し、特に折流板付近の流速が早まり、局部的なディスクコイルの温度上昇を低減することができる。よって、巻線を構成するディスクコイルや絶縁物の高温劣化を抑制し、信頼性を維持することができる。
【0020】
また、温度上昇が抑制できるため、温度に関して許容値からの十分な裕度が確保できる場合は、冷却装置の容量を上げずに、実使用温度を上げての運用も可能となる。つまり、製造コストを上げずに変圧器の容量を上げることも可能なのである。
【0021】
更に、プレスボードが配置されることで上記の効果に加え、変圧器内の冷却媒体の量を削減することができ、価格の高い冷却媒体の場合、例えばシリコーン液などを使用した場合は、大幅な製造コストの低減も可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、実施例1の整流器用変圧器の縦断面図である。
【図2】図2は、図1のA−A断面図である。
【図3】図3は、図1のB部拡大及び冷却媒体流模擬図である。
【図4】図4は、ディスクコイルの温度上昇を示すグラフである。
【図5】図5は、冷却媒体の流速分布を示すグラフである。
【図6】図6は、実施例2の整流器用変圧器の縦断面図である。
【図7】図7は、図6のC−C断面図である。
【図8】図8は、従来の整流器用変圧器の縦断面図である。
【図9】図9は、従来例のシミュレーションモデル及び冷却媒体流模擬図である。
【図10】図10は、図3のディスクコイル積み上げ状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0023】
本発明の実施例1について説明する。図1は、本発明を適用した整流器用変圧器の縦断面図であり、巻線とその冷却構造のみを示している。鉄心1と高圧巻線部位6間には、鉄心1側から絶縁筒4aが鉄心1を包括するように配置されている。その外側に本発明の間隔調整部材20が絶縁筒4aを包括するように配置してあり、冷却媒体流路8cの間隔をおいて低圧巻線2が配置され、更に冷却媒体流路8bの間隔をおいて、低圧巻線2を包括するように絶縁筒4bが配置されている。
【0024】
まず前記低圧巻線2の構成を説明する。低圧巻線は、一般的に上側低圧巻線と下側低圧巻線で構成されているが、上下の巻線は巻線方向が違う以外、ほぼ同じ構成である。よって、下側低圧巻線の説明だけで、上側低圧巻線の構成説明は省略する。
【0025】
B部拡大を図3に示し、ディスクコイル積み上げ状態を図10に示した。まず折流板5bと折流板5aで挟まれた区間を折流区と呼ぶ。図10に示したように、ディスクコイル2aの間にスペーサ9を挟んで、ディスクコイル2aを複数段積み上げ、1つの折流区を作る。
【0026】
この折流区を複数積み上げたものが、下側低圧巻線である。なおディスクコイル2aを積み上げて行く際には、後述の間隔調整部材と高さをあわせながら積み上げることが好ましい。このようにして、下側低圧巻線及び上側圧巻線を積み上げ、最後に巻線支持部材3と図示しない固定具で低圧巻線2を固定する。
【0027】
次に本発明に使用する間隔調整部材20であるが、円筒状であって絶縁筒4aの外周にできるだけ絶縁筒4aとは隙間無く配置し、少なくとも低圧巻線2の折流区に対向する範囲において、絶縁筒4aを包括するように配置する。
【0028】
間隔調整部材20について更に詳しく説明をする。これは、絶縁部材を筒状に加工して複数積み上げたものであって、例えばコルゲートボードを積み上げて構成されている。
【0029】
まず固定部材上に折流板5bを配置し、さらにコルゲートボード20aを積み上げ、またその上に折流板5bを配置し、またコルゲートボード20aを積み上げ、このように複数のコルゲートボード20aを積み上げる。この際、前記低圧巻線2と高さを合わせながら積み上げることが好ましい。そして最後に、間隔調整部材20の上下を支持部材で固定する。
【0030】
このようにすると、間隔調整部材20と低圧巻線2との間には、冷却媒体流路8cが形成される。本発明では、鉄心方向に対して冷却媒体流路8cの流路幅d2と冷却媒体流路8bの流路幅d3が略同一になるように、間隔調整部材20の寸法を調整して配置することが特徴である。
【0031】
ここで、図3を使い冷却媒体の流れを説明する。冷却媒体は、折流区の下方より冷却媒体流路8bに流れ込み、積み上げられたディスクコイル2aの水平流路に分流する。分流した冷却媒体は、それそれのディスクコイル2aで発生した熱を奪いながら、再び冷却媒体流路8cに結流して次の折流区へ向かう。
【0032】
シミュレーションで確認した本実施例による冷却改善の効果を、従来技術と比較して説明する。図5は、従来例の最高流速を100%として、各ディスクコイル2a間の流速を比較表示している。点線は本実施例、実線は従来例による結果である。従来例では、水平流路b1、b2での流速が遅かったが、本実施例では最大で10%程度流速が増した。
【0033】
図4は、低圧巻線2のディスクコイル2aの温度分布である。従来例の最高温度上昇を100%として比較表示している。点線は本実施例、実線は従来例による結果である。従来例ではディスクコイルa1で、局部的に温度上昇した部分が見られたが、本実施例では最大で約10%以上の温度上昇が抑制できた。
【0034】
巻線の局部的な温度上昇が抑制できる理由を説明する。図5より従来例では水平流路b7において、冷却媒体の流速が最高になり、折流区の中央から上の水平流路に多くの冷却媒体が流れる傾向が見られた。
【0035】
しかし本発明による間隔調整部材20を配置すると、図5の点線で示したように水平流路b1、b2付近の流速が上がることにより、この付近の水平流量も増加したものと考えられる。このことにより、図4の点線で示したように、ディスクコイルa1及至a4付近での温度上昇が抑制されるものと考えられる。逆に水平流路b4及至b7の流速はわずかに低減が見られるので、ディスクコイルa5及至a8にもわずかな温度上昇が見られる。しかし、大幅な温度上昇にはなっていない。つまり、ディスクコイル全体の温度上昇が平均化したのである。
【0036】
よって、本発明を適用することにより低圧巻線2の局部的な温度上昇が低減でき、絶縁物の高温劣化を抑制し、信頼性を維持することができる。また、許容温度の裕度を十分に確保できる場合は、冷却装置の容量を変えることなく、変圧器の容量が大きくできる。つまり製造コストを上げずに、容量の大きな変圧器を提供することも可能なのである。
【0037】
なお、間隔調整部材20は、コルゲートボード20aを4部位に分けて構成したが、部位数は製品に合わせて適宜調整加工してもよい。また本発明では、折流区内は8枚のディスクコイル2aで検証した。一般的に折流板が増えれば水平流を増やすことは可能であるが、コストが増加する。一方、折流板を減らすと効果が薄れる。よって、実用的な範囲として、1つの折流区内は8枚程度のディスクコイルで構成する事が好ましい。
【0038】
なお、実施例1で使用した間隔調整部材20は、コルゲートボード20aであって、図2に示したように低圧巻線2から引き出されたリード線7は、コルゲートボード20aの空隙を利用して、上下に引き出す構成としている。
【実施例2】
【0039】
図6は、実施例2の縦断面図である。実施例1では、間隔調整部材としてコルゲートボード20aを用いたが、その他の部材で構成することもできる。例えば、間隔調整部材30として、プレスボード30aを配置することも可能である。この場合、低圧巻線2から引き出されたリード線7は、プレスボード30aに切り欠き部を設け、その間隙を通して引き出す構造としている。その他の構成は、実施例1と同じである。
【0040】
このようにするとプレスボード30aは体積も占有するため、実施例1の効果に加え、変圧器内の冷却媒体の量を削減することもできる。つまり、価格の高い冷却媒体の場合、例えばシリコーン液などを使用した場合は、大幅な製造コスト低減も可能になる。
【符号の説明】
【0041】
1 鉄心
2a ディスクコイル
2 低圧巻線
3 巻線支持部材
4a、4b 絶縁筒
5a、5b 折流板
6 高圧巻線部位
7 リード線
8b、8c 冷却媒体流路
9 スペーサ
20a コルゲートボード
20 間隔調整部材
30a プレスボード
30 間隔調整部材
d1、d2、d3 流路幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心と高圧巻線部位の間に低圧巻線を配置した整流器用変圧器であって、前記鉄心と前記低圧巻線間には、前記鉄心を包括するように絶縁筒が配置され、一方前記低圧巻線の鉄心とは反対側に、前記低圧巻線を包括するように絶縁筒が配置され、前記低圧巻線はディスクコイル間にスペーサ及び折流板を挟み込んで積み上げ、前記低圧巻線の上下を巻線支持部材で固定して構成されおり、前記低圧巻線から引き出されたリード線が、前記鉄心を包括するように配置された絶縁筒と、前記低圧巻線との間の冷却媒体流路に配置されたものにおいて、間隔調整部材を前記冷却媒体流路内に配置してできた冷却媒体流路8cの流路幅と、前記低圧巻線を包括するように配置された絶縁筒との間の冷却媒体流路8bの流路幅が、略等しくなるようにしたことを特徴とする整流器用変圧器。
【請求項2】
請求項1に記載の整流器用変圧器であって、間隔調整部材としてコルゲートボードを使用した整流器用変圧器。
【請求項3】
請求項1に記載の整流器用変圧器であって、間隔調整部材としてプレスボードを使用した整流器用変圧器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−114307(P2012−114307A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−263094(P2010−263094)
【出願日】平成22年11月26日(2010.11.26)
【出願人】(501383635)株式会社日本AEパワーシステムズ (168)
【Fターム(参考)】