説明

整流子電動機の電機子

【課題】風損が少なく、巻線の固定が確実な整流子電動機の電機子を提供する。
【解決手段】整流子電動機1の電機子20は、シャフト21と、シャフト21に固定されるロータコア30及び整流子40と、ロータコア30のスロット31に巻回され、整流子40に接続される巻線50とを備える。巻線50の巻回終了後、スロット31に巻線固定用の糸60を巻回し、その後、ワニス等で巻線50と糸60の固着処理が行われる。糸60は巻線50の上から、巻線50の巻回パターンを踏襲して巻回される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は整流子電動機の電機子に関する。
【背景技術】
【0002】
整流子電動機は高速回転を要求される機器に用いられる。家庭用電気機器では電気掃除機やミキサーなどが主な応用例である。
整流子電動機は、固定子と、それに対して回転する電機子を備える。電機子は、シャフトと、シャフトに固定されるロータコア及び整流子と、ロータコアのスロットに巻回され、整流子に接続される巻線を備える。
巻線には必ず凹凸が発生する。高速回転する電機子にあってはこの凹凸が風損をもたらし、電動機の効率が低下する。この問題には様々な対策が考えられている。例えば特許文献1には、電気掃除機の電動送風機に用いられる整流子電動機において、電機子のファン側巻線部の外周に風損低減カバーを取り付けた構造が開示されている。特許文献2に記載された整流子電動機では、電機子のコイルエンドを覆うように電気絶縁性樹脂を塗布し、表面の平滑化を図っている。
また整流子電動機の電機子は高速回転することから巻線に強い遠心力がかかるので、遠心力でロータコアのスロットから巻線が飛び出すのを防止する対策が必要となる。一般的に行われるのは、ワニスを含浸させてコイルを固めたり、ロータコアのスロットにウェッジを挿入して蓋をしたりすることである。特許文献1記載の整流子電動機では風損低減カバーにウェッジが一体成形されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−8425号公報(国際特許分類:H02K27/00、H02K23/64)
【特許文献2】特開2009−303440号公報(国際特許分類:H02K3/38、H02K15/12)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
銅損を少なくすることで整流子電動機の効率を向上させるため、近年では太い巻線が用いられるようになっている。巻線が太いとコイルの凹凸も大きくなり、風損が拡大する。ワニスを含浸させて巻線を固着する処理を行う場合、凹凸が大きければ含浸状態が不均一となり、未固着箇所が発生したり、アンバランスが生じたりする。またスロット内の空間の大きさも、巻線が太いとばらつきやすくなり、空間が狭すぎてウェッジを挿入できないとか、逆に空間が広すぎて挿入したウェッジが脱落するという問題が発生する。
本発明は上記の点に鑑みなされたものであり、風損が少なく、巻線の固定が確実な整流子電動機の電機子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の好ましい実施形態によれば、整流子電動機の電機子は、シャフトと、前記シャフトに固定されるロータコア及び整流子と、前記ロータコアのスロットに巻回され、前記整流子に接続される巻線とを備え、前記巻線の巻回終了後、前記スロットに巻線固定用の糸を巻回し、その後、前記巻線と前記糸の固着処理が行われる。
本発明の好ましい実施形態によれば、上記構成の整流子電動機の電機子において、前記糸は前記巻線の上から、巻線巻回パターンを踏襲して巻回される。
本発明の好ましい実施形態によれば、上記構成の整流子電動機の電機子において、前記糸の巻回開始位置が前記巻線の巻回開始位置からほぼ直角にずらされている。
本発明の好ましい実施形態によれば、上記構成の整流子電動機の電機子において、前記糸は、前記巻線の上から、一方向に順次巻回位置がずれて行く形で巻回されて巻線全体をカバーする。
本発明の好ましい実施形態によれば、上記構成の整流子電動機の電機子において、前記糸は、前記ロータコアのティース中、前記巻線より半径方向外側に露出した部分に巻回され、前記ティース同士の間隔を狭めて前記巻線の移動を防ぐものである。
本発明の好ましい実施形態によれば、上記構成の整流子電動機の電機子において、前記スロット毎の前記糸の巻数が、前記スロット毎の前記巻線の線量のばらつきを補正するように設定される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によると、巻線の巻回終了後、ロータコアのスロットに糸を巻回して巻線を固定するものであるから、スロット内の空間の大きさにばらつきがあったとしても、問題なく固定処理を行うことができる。また、巻線の上から糸を巻回するものとすれば、巻線の凹凸を糸で覆い隠して、風損を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】整流子電動機の電機子の側面図で、上半分を断面で表現したものである。
【図2】本発明の第1実施形態に係る電機子の製作手法の説明図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る電機子の製作手法の説明図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る電機子の製作手法の説明図である。
【図5】本発明に係る整流子電動機を組み込んだ電動送風機の側面図で、上半分を断面で表現したものである。
【図6】図5の丸囲み箇所の拡大図である。
【図7】図5の電動送風機のファンカバーの側面図で、上半分を断面で表現したものである。
【図8】図5の電動送風機のケーシング本体の正面図である。
【図9】改良を施した整流子の断面図である。
【図10】図9の整流子の正面図である。
【図11】図10の部分拡大図である。
【図12】図11と同様の部分拡大図で、研磨後の状態を示すものである。
【図13】図9の改良を備えない整流子の、図11に対応する部分拡大図である。
【図14】図13の整流子の、図12に対応する部分拡大図である。
【図15】改良を施した他の整流子の断面図である。
【図16】図15の整流子の正面図である。
【図17】他の改良を施した整流子を備える整流子電動機を組み込んだ電動送風機の側面図で、上半分を断面で表現したものである。
【図18】図17の改良を施していない整流子電動機を組み込んだ電動送風機の側面図で、上半分を断面で表現したものである。
【図19】他の改良を施した整流子の上半分の断面図で、(a)はフック変形前、(b)はフック変形後の状態を示すものである。
【図20】図19の改良を施した整流子を備える電機子の側面図で、上半分を断面で表現したものである。
【図21】他の改良を施した整流子の上半分の断面図で、(a)はフック変形前、(b)はフック変形後の状態を示すものである。
【図22】他の改良を施した整流子の上半分の断面図で、(a)はフック変形前、(b)はフック変形後の状態を示すものである。
【図23】改良を施した他の整流子の上半分の断面図である。
【図24】他の改良を施した整流子の上半分の断面図で、(a)はフック変形前、(b)はフック変形後の状態を示すものである。
【図25】他の改良を施した整流子の上半分の断面図で、(a)はフック変形前、(b)はフック変形後の状態を示すものである。
【図26】他の改良を施した整流子の上半分の断面図で、(a)はフック変形前、(b)はフック変形後の状態を示すものである。
【図27】図24から図26の改良を備えない整流子の上半分の断面図で、(a)はフック変形前、(b)はフック変形後の状態を示すものである。
【図28】図24から図26の改良を備えない整流子の上半分の断面図で、(a)はフック変形前、(b)はフック変形後の状態を示すものである。
【図29】改良を施したブラシユニットを備える整流子電動機を組み込んだ電動送風機の側面図で、上半分を断面で表現したものである。
【図30】図29のブラシユニットに含まれるカーボンブラシの図で、(a)は側面図、(b)は(a)と直角の方向から見た側面図、(c)は正面図である。
【図31】図29の改良を施していないブラシユニットを備える整流子電動機を組み込んだ電動送風機の側面図で、上半分を断面で表現したものである。
【図32】図31と同様の電動送風機の側面図で、使用程度が進んだ状態を示すものである。
【図33】図31のブラシユニットに含まれるカーボンブラシの図で、(a)は側面図、(b)は(a)と直角の方向から見た側面図、(c)は正面図である。
【図34】改良を施した固定子の正面図である。
【図35】図34の固定子の斜視図で、巻線前の状態を示すものである。
【図36】図34の改良を施していない固定子の正面図である。
【図37】図36の部分拡大図である。
【図38】図34の改良を施していない他の固定子の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の第1実施形態に係る整流子電動機の電機子の構造を、図1と図2に図5を参照しつつ説明する。
図5に示すように、整流子電動機1は電気掃除機用の電動送風機100の中に組み込まれるものであり、固定子10と、その中で回転する電機子20が二大構成要素となる。固定子10はステータコアに巻線を巻回して構成され、電機子20はロータコアに巻線を巻回して構成される。続いて電機子20の詳細構造を図1と図2に基づき説明する。
電機子20は、シャフト21と、シャフト21に固定されるロータコア30及び整流子40と、ロータコア30のスロット31に巻回され、整流子40に接続される巻線50を備える。シャフト21にはロータコア30と整流子40を挟む形でベアリング22、23が取り付けられる。ベアリング22、23にはボールベアリングまたはローラベアリングが用いられる。電動送風機100のケーシング101にはベアリング22、23の支持部と固定子10の支持部が形成されており、これにより電機子20は、固定子10の内部に回転自在に支持される。
ロータコア30は、スロット31と、スロット31同士の間のティース32の形状をプレス加工で打ち抜いた鉄心を積層したものであり、ロータコア30の両側に合成樹脂製のインシュレータを重ね、スロット31には絶縁紙を入れて、ロータコア30に巻線50が接触することのないようにした上で、巻線50が巻回される。
巻線50は、特定位置のスロット31と、そこから何個か離れたスロット31とにエナメル線を所定回数巻いてコイルとすることを繰り返して形成される。コイルは、それ以前に形成されたコイルの上に巻かれて行くため、後の方になるほど一巻きに要する線量が多くなる。これは必然的に巻線重量と巻線抵抗のアンバランスを引き起こすので、それを防止するため、通常は2個のノズルを用いて2方面で対称的に巻線50の巻回を行い、アンバランスの解消を図るようにしている。図2にも対称巻回で巻線50を完成させた状態が示されている。
個々のコイルの端は整流子40の方に引き出され、整流子セグメント41にフュージング(fusing)で接続される。フュージングとは、電流を流して圧力を加えることにより、金属同士を接合する手法である。
対称巻回でアンバランスを解消するとは言っても、線量が少なくて済む巻き始めのコイルから線量が多くならざるを得ない巻き終わりのコイルまで、スロット31毎にコイルの線量が異なることは避けられず、これにより、ロータコア30からはみ出す巻線50に凹凸が発生し、風損をもたらす。また、凹凸が大きいため、コイルを固着するワニスの含浸状態も不均一となり、アンバランスの拡大、未固着部の発生といった問題を引き起こす。銅損低減のため巻線50の線径を大きくすれば、屈曲のしにくさから凹凸がさらに拡大する。最終のコイルと整流子40との接続については、最も膨らんだコイルから線を引き出して整流子40に接続するものであるため、線が遠心力を受けやすく、外れやすいという問題もある。
上記のような不都合を解消するため、本発明では巻線50の巻回が終了した後、糸60をスロット31に巻回して巻線50を固定する。糸60は合成繊維または天然繊維を撚糸したものであり、巻線50よりも細く軽いものを選ぶ。巻線50の上から糸60をびっしりと巻き付け、その上でワニス含浸や合成樹脂塗布により巻線50と糸60を固着する固着処理を行う。
上記のように巻線50の上から糸60を巻回することにより、巻線50が保護され、巻線50に傷がつくことが少なくなる。また、巻線50が遠心力で外側に飛び出すことが防がれる。巻線50よりも細い糸60がびっしりと巻き付けられることにより、巻線50の表面の凹凸がなだらかになり、風損が低減される。糸60の間にはワニスや合成樹脂が浸透しやすいので、ワニスの含浸処理や合成樹脂の塗布処理も容易であり、処理後の面が平滑であることから、風損は一層低減される。
糸60の巻回は、第1実施形態では巻線50の巻回パターンを踏襲して行われる。すなわち2個のノズルを用いて2方面で対称的に糸60の巻回が行われる。但し糸60の巻回開始位置は、巻線50の巻回開始位置からほぼ直角にずらすものとする。このようにすることにより、巻線50のコイルの中で最も膨らんでいる最終コイルと直角をなす位置に、糸60のコイルの中で最も膨らんでいる最終コイルが位置することになるから、巻線50と糸60を合わせたコイルの膨らみが均一化される。これにより電機子20の外形は一層平滑化の方向に向かい、風損を低減できる。また、巻線50のコイルの膨らみが大きいということは、スロット31の空間がそれだけ圧迫されるということであり、スロット31毎に空間の広さがばらつくということであるが、糸60のコイルの膨らみのばらつきでそれを相殺できる。これはワニス含浸にも改善効果をもたらす。
スロット31毎の巻線50の線量のばらつきの補正については、上記のように糸60の巻回開始位置を巻線50の巻回開始位置からほぼ直角にずらすやり方の他、スロット31毎の巻線50の線量のばらつきを補正するようにスロット31毎の糸60の巻数を設定するというやり方でも対処できる。これにより、巻線50の線量のばらつきを一層完全に補正できる。
続いて、本発明の第2実施形態に係る整流子電動機の電機子の構造を、図3を参照しつつ説明する。第2実施形態が第1実施形態から変わった点は、糸60の巻回の仕方である。第1実施形態では、2個のノズルを用いて2方面で対称的に糸60を巻回したが、第2実施形態ではノズルの数を1個とし、巻線50の上から一方向に順次巻回位置がずれて行く形で糸60を巻回して巻線50全体をカバーするものとする。これにより、電機子20のコイル部の表面の糸筋方向が1方向となるため、そこに接触する風の流れが整流され、風損を低減できる。
続いて、本発明の第3実施形態に係る整流子電動機の電機子の構造を、図4を参照しつつ説明する。第3実施形態の変更点も糸60の巻回の仕方である。第3実施形態では、ロータコア30のティース32の中で、巻線50より半径方向外側に露出した部分に糸60を巻回する。これにより、ティース32同士の間隔を狭めて巻線50の移動を防ぐ。
ティース32はT字形であり、巻線50の上にオーバーハングする箇所は絶縁紙で覆われていない。第3実施形態では、ティース32の中で絶縁紙による被覆のない箇所と巻線50との間に糸60が介在する形になるので、絶縁が十分確保される。
第1実施形態から第3実施形態まで、糸60の巻回で巻線50を固定するものであり、
スロット31に残された空間形状が不整であってもフレキシブルに対応でき、ウェッジを挿入する場合のように、空間が広すぎてウェッジが脱落する、あるいは空間が狭すぎてウェッジの挿入が困難であるといったことはない。また、巻線50の巻回装置に手を加えた巻回装置で糸60を巻回することができるので、ウェッジの挿入装置のように全く別種の装置を導入する必要がない。
整流子電動機1が組み込まれる電動送風機100の構造について説明する。電動送風機100のケーシング101は、整流子電動機1を収納したケーシング本体110にファンカバー120を組み合わせて構成される。ケーシング本体110とファンカバー120はいずれも板金のプレス成型品からなる。電機子20のシャフト21の先端はケーシング本体110の前面から突出し、これに遠心ファン130が固定される。
ケーシング本体110の前面には合成樹脂製のディフューザー140がねじ止め固定される。ディフューザー140はファンカバー120に囲い込まれるものであり、ディスク141と、ディスク141の前面に形成された複数のディフューザー翼142と、ディスク141の後面に形成された複数のリターンガイド143を備える。ディフューザー翼142は遠心ファン130を囲むように全部で15枚設けられており、ディフューザー翼142の間のディフューザー通路144も15個存在する。
ファンカバー120はケーシング本体110の前端に形成されたフランジ111に取り付けられる。フランジ111の外周部には、図6に示すように前方が低く後方が高くなった切り起こし部112が形成され、ファンカバー120の外周部には、切り起こし部112に対応する角形の貫通穴121が形成されている。ファンカバー120を、内面がディフューザー140に当たるところまで押し込むと、貫通穴121が切り起こし部112に係合し、ファンカバー120は前方に抜けなくなる。これによりファンカバー120はねじなしでケーシング本体110に固定される。
ファンカバー120の中心には遠心ファン130への入口となる吸気口122が形成されており、ファンカバー120の外周には、貫通穴121に加えて、ディフューザー通路143から吐出された空気の一部を外に出すスリット123が形成されている。スリット123の数はディフューザー通路144と同じく15である。
整流子電動機1を駆動し、遠心ファン130を回転させると、吸気口122を通じて遠心ファン130に空気が吸い込まれる。遠心ファン130から吐出された空気はディフューザー翼142で整流され、ディフューザー140の外周に吐出される。吐出された空気の一部はスリット123からファンカバー120の外に出る。残りの空気はリターンガイド143の間を通って整流子電動機1に達し、整流子電動機1の各所の隙間を通り抜ける。これにより整流子電動機1は冷却される。整流子電動機1を通り抜けた空気はケーシング本体110の排気口113から排出される。
スリット123の数が奇数なので、それをディフューザー通路144にきちんと合わせるため、ファンカバー12は決まった角度でケーシング本体110に取り付けられねばならない。180°回転した状態で取り付けることは許されない。このことが保証されるよう、貫通穴121と切り起こし部112の組み合わせの配置に工夫をこらす。すなわち、図8に示すように、貫通穴121と切り起こし部112の組み合わせ4組を、90°の等角度間隔で配置するのでなく、90°、80°、110°、80°の不等角度間隔で配置する。これにより、ファンカバー120をケーシング110に対し一定角度にしないかぎり、全ての貫通穴121が切り起こし部112に合うということがなくなるので、ファンカバー120の正しい取り付けが保証される。
ここに示した貫通穴121と切り起こし部112の組み合わせの数と角度間隔は一例であり、これに限定されるものではない。ディフューザー翼142とディフューザー通路144の数も一例であり、これに限定されるものではない。
整流子電動機1には、様々な改良を施すことができる。図9以下の図に基づきそれを説明する。
図9から図12に示すのは整流子40の改良である。整流子40は、銅合金からなる整流子セグメント41と、黄銅または焼結合金からなるブッシュ42を合成樹脂のベース43にインサート成型したものである。整流子セグメント41には巻線50をからませるためのフック44が形成されている。
隣接する整流子セグメント41の間には、図10に示すようにスリット45が形成されている。スリット45へと落ち込む整流子セグメント41の角を、図11に示すように丸め、アール部41aとしたのが改良点である。アール部41aは、インサート成形後の整流子40をグラインダーホイールのような研削工具で研削するとき、研削工具の進行方向に対し後方、研削終端側となる方の角に設けられる。
高速回転の整流子電動機では、整流子の真円度が悪いと火花が多く飛んでカーボンブラシの寿命が短くなり、早期に異常停止することがある。これを回避するため、成型後の整流子40の表面を研削して真円度を数μm程度にまでにするのが一般的である。しかしながら研削を行うと整流子セグメントの角にバリやカエリが発生する。図13には、図11の構造との効果を比較するため、整流子セグメント41の角にアール部のない整流子40が描かれている。このような整流子40を研削すると、研削工具の研削終端側となる側の整流子セグメント41の角に、図14に示す通りバリ(カエリ)Bが生じる。バリBのある整流子40が整流子電動機1に組み込まれると、運転時の遠心力でバリBが外側に飛び出し、実質的な真円度を悪化させる。これにより火花が多く発生することとなり、カーボンブラシを早期に消耗させる。
これに対し、整流子セグメント41の角に図11に示すようなアール部41aを設けておけば、研削によりバリが発生すること自体は避けられないにせよ、図12に示す通り、バリBの大きさを小さくすることができる。小さいバリBは、遠心力で外側に飛び出したとしても真円度をそれほど悪化させず、それに起因する火花の発生も少なくて済む。従って、図13、14に示す、何の手だても施さない場合に比べ、カーボンブラシ寿命を延ばすことができる。なお、アール部41aを面取り部で置き換えることもできる。
図15及び図16には整流子40の他の改良を示す。これは、整流子セグメント41にフック44が設けられていない整流子40について、整流子セグメント41の角にアール部41aを形成したものである。
図17に整流子40の他の改良を示す。この改良はスリット45の幅に関するものである。すなわち、スリット45の電機子軸線方向の幅を、カーボンブラシ70の幅だけにとどめ、残りの箇所は合成樹脂のベース43で埋められているものとした。通常の整流子40では、図18に示す通り、スリット45の幅はカーボンブラシ70の幅よりも広くなっている。カーボンブラシ70からはみ出したスリット45は空気抵抗の増大をもたらし、整流子電動機1の効率を悪化させる。スリット45の幅をカーボンブラシ70の幅と同じにしてはみ出しをなくすことにより、この問題を解決できる。
図19と図20に整流子40の他の改良を示す。これは、整流子セグメント41同士の間隙が、巻線50を接続する側、すなわちフック44のある側はスリット45でなく合成樹脂のベース43で埋められた形になるものとし、この箇所のベース43に穴46を形成したものである。
穴46の目的はワニス対策である。整流子電動機1では、巻線50の移動を防ぎ、巻線50を保護し、また巻線50の温度上昇を抑制するため、ワニス処理が施される。電機子20が高速回転するものにあっては、ワニス処理を十分にしておかないと、巻線50が移動して断線やレアショートを引き起こすとか、巻線50の凹凸を十分に埋めきれず、風損を低減できないといった結果を招くことがある。そのため、できるだけ多量のワニスを含浸させることとされているが、そのようにすると、ワニスが巻線50を伝って整流子40に届き、スリット45に入ることがある。スリット45にワニスが入ると、それがカーボンブラシ70と接触して火花を発生させ、カーボンブラシ70の寿命を短くする。
ここで、スリット45の手前に穴46があれば、巻線50を伝ってきたワニスを穴46で吸収し、スリット45へのワニス流入をくい止めることができる。そのため、スリット45に入ったワニスが火花を発生させ、カーボンブラシ70の寿命を短くするといった事態を回避できる。また、巻線50の接続のためフュージングを行う際に発生する熱とそれによる膨張、及びガスを穴46で吸収したり、逃がしたりすることができ、ベース43の合成樹脂が劣化する程度を軽減できる。
図19と図20の改良の変形例を図21から図23に示す。図21では、(a)の開き状態にあるフック44の先端よりもむしろ穴46の方がロータコア30のある側から離れる位置設定となっている。図22では穴46が図21よりもさらにロータコア30から離れた位置に移動し、(b)のようにフュージングのためフック44を変形させたときでさえ、フック44の先端が穴46の中に位置するようにしている。図23は整流子セグメント41にフック44が設けられていない整流子40に穴46を形成したものである。
図24に整流子40の他の改良を示す。これは、整流子セグメント41同士の間隙が、巻線50を接続する側、すなわちフック44のある側はスリット45でなく合成樹脂のベース43で埋められた形になるものとし、この箇所のベース43に、整流子セグメント41よりも外側に突出する突起部47を形成したものである。突起部47の中で、ロータコア30から遠い方の端は、フック44の先端よりもさらにロータコア30から遠ざかっている。
突起部47の目的は、図19の改良の穴46と同じく、ワニス対策である。整流子セグメント41同士の間隙の中で、巻線50を接続する側がスリット45でなく合成樹脂のベース43で埋められた形になっていたとしても、図27と図28の構造例のように整流しセグメント41の表面と面一になっていれば、ワニスの侵入をくい止めることは難しい。
これに対し、整流子セグメント41よりも外側に突出する突起部47が存在すれば、巻線50を伝って整流子40に届いたワニスは突起部47でせき止められ、スリット45に入ることが防止される。
図24の改良の変形例を図25及び図26に示す。図25では、突起部47の上面が傾斜し、ロータコア30の側は低く、スリット45の側は高くなっている。これにより、ワニスをロータコア30の側に押し戻す働きを高めることができる。図26では、図25の形状の突起部47を、ベース43に一体成型するのでなく、その形状のマイカ片28をインサート成型することにより形成している。
図29及び図30に示すのはカーボンブラシ70の改良である。カーボンブラシ70は黄銅等電気を良く伝える金属からなる筒状のブラシホルダ71に入れられ、ブラシユニット72を形成している。ブラシユニット72は合成樹脂製の絶縁ホルダ73に入れられてケーシング本体110にねじ止め固定される。
カーボンブラシ70は細長い直方体形状であり、整流子40に接触しない方の端には給電用のピグテール74の一端が接続されている。ピグテール74は細い銅線を撚り合わせたものであり、柔軟性に富む。ピグテール74の他端はブラシホルダ71に接続される。ピグテール74が接続されたブラシホルダ71の端とカーボンブラシ70の間には圧縮コイルスプリング75が挿入され、カーボンブラシ70は整流子40に接触する方向に附勢される。
図30に示すように、カーボンブラシ70の長手方向の対向2側面には溝76が形成される。溝76はカーボンブラシ70を空冷するためのものであり、整流子40に接触する方の端から、ピグテール74が接続された方の端に向かって延びる。溝76はピグテール74が接続された方の端まで突き抜けることはなく、その手前で終了する。ブラシホルダ71の端には溝76に入り込むフック77が形成されている。
カーボンブラシ70は、当初は図30に示す長さを有しているが、長く使用するにつれ摩耗して短くなって行く。図29に示す程度にまで短くなると、フック77が溝76の端に当たり、カーボンブラシ70はそれ以上ブラシホルダ71から押し出されなくなる。
カーボンブラシ70に上記のような改良を施していない整流子電動機1の例を図31から図33に示す。その中のカーボンブラシ70は、空冷用の溝76がカーボンブラシ70の端から端まで貫通しており、ブラシホルダ71にはフック77は形成されていない。このカーボンブラシ70が摩耗して短くなった場合、最終的にはピグテール74がぴんと張り詰め、カーボンブラシ70はそれ以上ブラシホルダ71から押し出されなくなるのであるが、何らかの手違いでピグテール74が長すぎた場合、カーボンブラシ70が完全に摩耗するか、完全摩耗の直前で砕け散るということがあり得る。そのようなことになると、図32に示すように、圧縮コイルスプリング75が整流子40に直接接触する。これにより異常音が発生するのみならず、整流子40の表面が傷ついてしまう。一旦整流子40の表面が傷つくと、その後新しいカーボンブラシ70がブラシホルダ71に入れられても、異常火花が発生し、カーボンブラシ70は早期に消耗してしまう。
これに対し、図29及び図30に示す改良を実施すれば、カーボンブラシ70は消滅するまで使い込まれることはないから、圧縮コイルスプリング75が整流子40に接触して整流子40に傷をつけるといった事態を招かずに済む。
図34及び図35に示すのは固定子10の改良である。対比説明のため、図36から図38には改良を施さない固定子10を図示する。
固定子10は電機子20をステータコア11の2個のティース12で囲むものであり、ステータコア11はティース12の形状をプレス加工で打ち抜いた鉄心を積層して形成される。ステータコア11の両側に合成樹脂製のインシュレータ13を重ね、ティース12の両側のスロット14に絶縁紙15を入れて、ステータコア11に巻線が接触することのないようにした上で、巻線16が巻回される。
整流子電動機1の効率を向上させるため、巻線16には線径の太いものが選定される傾向にあるが、線径が太くなれば太くなるほどコンパクトに固く巻くことが困難になり、図36及びその拡大図である図37に示すように、巻線16がスロット14からはみ出すといったことが起こる。スロット14からはみ出した巻線16は往々にしてティース12に接近し、絶縁距離が不足することになる。この問題への対処法として、図38に示すように絶縁紙15を長くすることも考えられるが、単に絶縁紙15を長くしただけであると、その端が容易に動き、同図の右上の部分に矢印Aで示す箇所のように、ティース12と絶縁紙15の間に巻線16が噛み込みやすくなる。巻線16の噛み込みが生じた固定子10は耐圧不良で排除せざるを得ず、製造の歩留まりが低下する。
そこで図34及び図35に示す改良では、インシュレータ13の端に溝17を形成し、この溝17に絶縁紙15の端を挟み込んだ。これにより、絶縁紙15を長くしても端が動かなくなり、ティース12と絶縁紙15の端の間に巻線16が噛み込むといった事態を防ぐことができる。
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明の範囲はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えて実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0009】
本発明は整流子電動機に広く利用可能である。
【符号の説明】
【0010】
1 整流子電動機
10 固定子
20 電機子
21 シャフト
30 ロータコア
31 スロット
32 ティース
40 整流子
50 巻線
60 糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、前記シャフトに固定されるロータコア及び整流子と、前記ロータコアのスロットに巻回され、前記整流子に接続される巻線とを備えた整流子電動機の電機子において、
前記巻線の巻回終了後、前記スロットに巻線固定用の糸を巻回し、その後、前記巻線と前記糸の固着処理を行ったことを特徴とする整流子電動機の電機子。
【請求項2】
前記糸は前記巻線の上から、巻線巻回パターンを踏襲して巻回されることを特徴とする請求項1に記載の整流子電動機の電機子。
【請求項3】
前記糸の巻回開始位置が前記巻線の巻回開始位置からほぼ直角にずらされていることを特徴とする請求項2に記載の整流子電動機の電機子。
【請求項4】
前記糸は、前記巻線の上から、一方向に順次巻回位置がずれて行く形で巻回されて巻線全体をカバーすることを特徴とする請求項1に記載の整流子電動機の電機子。
【請求項5】
前記糸は、前記ロータコアのティース中、前記巻線より半径方向外側に露出した部分に巻回され、前記ティース同士の間隔を狭めて前記巻線の移動を防ぐものであることを特徴とする請求項1に記載の整流子電動機の電機子。
【請求項6】
前記スロット毎の前記糸の巻数が、前記スロット毎の前記巻線の線量のばらつきを補正するように設定されることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の整流子電動機の電機子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公開番号】特開2011−234523(P2011−234523A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103170(P2010−103170)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000214892)三洋電機コンシューマエレクトロニクス株式会社 (1,582)
【Fターム(参考)】