説明

敷物へ薬剤を噴霧する薬剤噴霧装置

【課題】床面に敷設した敷物を床面から取り外さないで、床面に敷設したままで撥水剤や抗菌剤などの薬剤を噴霧しようとする場合において、敷物の内部にまで薬剤を行き渡らせることができ、薬剤の機能が敷物において効果的にしかも長期間に亘って発揮されるようにすることができる薬剤噴霧装置を提供すること。
【解決手段】敷物Cへ薬剤を噴霧する装置であって、薬剤を収容する薬剤タンク14を備えた装置本体11と、前記装置本体11に取り付けられた薬剤噴霧部とを備えており、前記薬剤噴霧部が、前記薬剤タンク14からの薬剤を敷物に噴霧するスプレーノズル15と、前記スプレーノズル15の先端が前記敷物C内部に食い込むように押圧する押圧部18とを有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばホテルや劇場などの公共施設の室内や廊下の床面、或いは自動車や列車、航空機などの乗り物の床面に敷設された敷物に薬剤を噴霧する薬剤噴霧装置に関する。詳細には敷物の内部にまで薬剤を行き渡らせることができる薬剤噴霧装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えばホテルや劇場などの公共施設の室内や廊下の床面、或いは自動車や列車、航空機などの乗り物の床面に敷設される敷物は、多くの利用者が利用するために汚れやすく、また雨天時には濡れやすいことから、撥水防汚加工が施されたカーペットが多く使用されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
また、公共施設の室内や廊下の床面、或いは自動車や列車、航空機などの乗り物の床面に敷設される敷物は、食物や飲物を溢したり、利用者が嘔吐したりすることも多いことから、これらを想定して上記機能に加えて抗菌、防ダニ、防かび等機能を付与したカーペットも多用されている(例えば特許文献2参照)。
【0004】
ところが、これら多種の機能が付与された敷物であっても、公共施設や乗り物に敷かれる敷物の場合、使用頻度が高いことから、数ヶ月から半年程でその性能が損なわれてしまうので、上記機能の再付与はできないものの、敷物のクリーニングを数ヶ月から半年毎に行う必要があった。また、数年毎には新しい敷物に換える必要もあった。
【0005】
ホテルなどの公共施設に敷かれる敷物の多くは高価でありしかもはその敷設面積が大きく、乗り物に敷かれる敷物の場合には、床面に固定されているため、新しい敷物に換える場合、多くの費用と時間を必要とすることから、頻繁に新しい敷物に採り換えることはできず、敷設されてある場所でのクリーニングとなる。この場合、スチームを用いたクリーニング方法が多く利用されている(例えば特許文献3参照)。
【0006】
従来は、一旦、クリーニングが終了すると、次のメンテナンスの時期までそのままで置かれるため、それまでの間に水分を吸収した敷物は、細菌の温床となり、これに伴う悪臭の発生も問題となっていた。特に嘔吐などによる敷物の汚れは、悪臭や見栄えが悪くなるだけではなく、大腸菌、緑濃菌、O−157などの細菌の二次感染という問題もあり、頻繁にクリーニングを行うことができない公共施設や乗り物に敷かれる敷物では、大きな問題となっていた。
【0007】
このような事情から、クリーニング後の敷物に撥水剤や抗菌剤などの薬剤を噴霧して再機能化するという手段も講じられている。この場合、敷物上面から単に薬剤をスプレー散布するという方法以外、特に効果的な方法は提案されていないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−129572号
【特許文献2】特開2002−348770号
【特許文献3】特開2002−210420号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、床面に敷設した敷物を床面から取り外さないで、床面に敷設したままで撥水剤や抗菌剤などの薬剤を噴霧しようとする場合に、敷物上面から単に薬剤をスプレー散布しただけでは、敷物表面がパイル等の表面材で高密度に覆われていることから、敷物内部にまで薬剤を行き渡らせることができないという不具合が生じることになる。
【0010】
大腸菌、緑濃菌、O−157などの細菌の繁殖や悪臭の発生は、敷物表面よりも水分が保持されやすく、薬剤が行き届き難い敷物内部で起き易いことから、長期間に亘って薬剤の機能を確実に発揮させるためには、薬剤を敷物内部に行き渡らせる必要がある。
【0011】
本発明は、このような技術的課題に鑑みなされたものであり、床面に敷設した敷物を床面から取り外さないで、床面に敷設したままで撥水剤や抗菌剤などの薬剤を噴霧しようとする場合において、敷物の内部にまで薬剤を行き渡らせることができ、薬剤の機能が敷物において効果的にしかも長期間に亘って発揮されるようにすることができる薬剤噴霧装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、敷物へ薬剤を噴霧する装置であって、薬剤を収容する薬剤タンクを備えた装置本体と、前記装置本体に取り付けられた薬剤噴霧部とを備えており、前記薬剤噴霧部が、前記薬剤タンクからの薬剤を敷物に噴霧するスプレーノズルと、前記スプレーノズルの先端が前記敷物内部に食い込むように押圧する押圧部とを有していることを特徴とする薬剤噴霧装置をその要旨とした。
【0013】
請求項2に記載の発明は、薬剤噴霧部が、薬剤タンクからの薬剤を敷物に噴霧する先端部が略L字状に折れ曲がる複数のスプレーノズルを有しており、
前記複数のスプレーノズルが間隔をおいて並設されており、敷物表面の密度の高低に応じて前記複数のスプレーノズル相互の間隔を拡開閉塞動させるようにしたことを特徴とする薬剤噴霧装置をその要旨とした。
【0014】
請求項3に記載の発明は、薬剤噴霧部が、複数のスプレーノズルを支持するノズル支持部を備えており、前記ノズル支持部が、複数のスプレーノズルの基端部を回動可能に支持する基端部支持部と、前記複数のスプレーノズルが貫通し、その先端が放射状に拡がるようにガイドする多数のガイド孔を有するガイド部とからなり、前記ガイド部を前記複数のスプレーノズルに沿って前記基端部支持部に接近離間させることで、前記複数のスプレーノズルの先端相互の間隔を拡開閉塞動させるようにしたことを特徴とする薬剤噴霧装置をその要旨とした。
【0015】
請求項4に記載の発明は、押圧部が、敷物表面の密度の高低に応じて荷重を増減して荷重調整が可能に設けられており、該押圧部によって荷重調整された荷重がスプレーノズルの先端に付加され、その先端が前記敷物内部に食い込むように押圧されることを特徴とする薬剤噴霧装置をその要旨とした。
【0016】
請求項5に記載の発明は、薬剤噴霧部が、敷物の薬剤が噴霧される部分を覆うカバーを備えていることを特徴とする薬剤噴霧装置をその要旨とした。
【0017】
請求項6に記載の発明は、薬剤噴霧部が、装置本体側に折り畳み可能に取り付けられていることを特徴とする薬剤噴霧装置をその要旨とした。
【0018】
請求項7に記載の発明は、装置本体に車輪を取り付けて走行可能としたことを特徴とする薬剤噴霧装置をその要旨とした。
【0019】
請求項8記載の発明は、敷物へ噴霧する薬剤が、感温点が10〜45℃である感温吸排水性ポリマーを含む吸排水性溶媒液と、下記化学式1で表されるフタロシアニン化合物を含む抗菌消臭溶媒液とからなることを特徴とする薬剤噴霧装置をその要旨とした。
【化1】

【0020】
請求項9記載の発明は、薬剤を構成する感温点が10〜45℃である感温吸排水性ポリマーを含む吸排水性溶媒液と、フタロシアニン化合物を含む抗菌消臭溶媒液とが、それぞれ別々の薬剤タンクに収容されており、前記各薬剤タンクから前記吸排水性溶媒液及び吸排水性溶媒液が混合状態で複数のフレキシブルチューブを介して複数のスプレーノズルへと圧送されるようにしたことを特徴とする薬剤噴霧装置をその要旨とした。
【発明の効果】
【0021】
本発明の薬剤噴霧装置にあっては、薬剤を収容する薬剤タンクを備えた装置本体と前記装置本体に取り付けられた薬剤噴霧部とを備えており、前記薬剤噴霧部が、前記薬剤タンクからの薬剤を敷物に噴霧するスプレーノズルと、前記スプレーノズルの先端が前記敷物内部に食い込むように押圧する押圧部とを有していることから、薬剤タンク内からの薬剤が敷物の内部で噴霧されることになり、この結果、該薬剤を敷物内部にまで行き渡らせることができ、薬剤の機能が敷物において効果的にしかも長期間に亘って発揮されるようにすることができる。
【0022】
敷物の表面にはパイルが所望の密度で打ち込まれており、その密度は用途や使用状態に応じて様々に異なっており、その密度の高低により、スプレーノズルの先端を敷物の内部に食い込ませて薬剤を噴霧したときに、該薬剤の敷物内部への行き渡り易さも相違することになる。すなわち敷物の表面密度が高ければ、該薬剤は敷物内部へ行き渡り難く、敷物の表面密度が低ければ、行き渡り易くなるのである。
【0023】
本発明の薬剤噴霧装置における押圧部は、敷物の表面密度に応じて荷重を増減して荷重調整が可能とする態様を採ることができ、この場合、該押圧部によって荷重調整された荷重がスプレーノズルの先端に付加され、その先端が前記敷物内部に食い込むように押圧されるので、該薬剤を確実に敷物内部に行き渡らせることができる。
【0024】
また本発明の薬剤噴霧装置にあっては、薬剤タンクからの薬剤を敷物に噴霧する先端部が略L字状に折れ曲がる複数のスプレーノズルを有しており、前記複数のスプレーノズルが間隔をおいて並設されており、敷物表面の密度の高低に応じて前記複数のスプレーノズル相互の間隔を拡開閉塞動できるようにした態様を採ることもできる。この場合、敷物の表面の密度に応じて、高密度の場合はスプレーノズル相互の間隔を狭くし、密度の場合はスプレーノズル相互の間隔を広くするなど、敷物表面の密度の高低に応じてスプレーノズル相互の間隔を調整することができ、より効率的な薬剤の噴霧を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の薬剤噴霧装置の一例を示し、該薬剤噴霧装置の複数のスプレーノズルの先端部相互の間隔を狭めた状態を示す斜視図。
【図2】本発明の薬剤噴霧装置において、複数のスプレーノズルの先端部を放射状に拡げた状態を示す斜視図。
【図3】同じく図1に示す装置を示す側面図。
【図4】同じく図1に示す装置の薬剤噴霧部を装置本体側に折り畳んだ状態を示す側面図。
【図5】本発明の薬剤噴霧装置の使用状態を示す拡大側面図。
【図6】本発明の薬剤噴霧装置の別例を示す斜視図。
【図7】同じく図6に示す装置の正面図。
【図8】同じく図6に示す装置の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の薬剤噴霧装置(以下、単に装置という)を図面に従ってさらに詳しく説明する。本発明の装置により薬剤を噴霧する敷物としては特に限定されないが、例えばホテルや劇場などの公共施設の室内や廊下の床面、或いは自動車や列車、航空機などの乗り物の床面に敷設された敷物がより好ましい。公共施設の室内や廊下の床面に敷設される敷物の場合、その多くは高価でありしかもはその敷設面積は大きく、頻繁に取り外してクレーニングしたり、新しい敷物に採り換えることができないからである。乗り物に敷かれる敷物の場合には、床面に固定されているため、取り外したり、新しい敷物に換える場合、多くの費用と時間を必要とすることからである。
【0027】
図1〜図5に示す装置10は、装置本体と薬剤噴霧部とを備えている。装置本体11は柱状をなし、その上部にハンドル13が設けられ、該装置本体11の長さ方向ほぼ中央には薬剤を収容する薬剤タンク14がバンド等11aで取り外し可能に取り付けられる。装置本体11の下部には一対の回転軸11bが設けられ、各回転軸11bには車輪12を取り付けられており、装置本体11上部のハンドル13を握って操作することで、該装置本体11を前後左右に走行させることができるようになっている。
【0028】
また装置本体11は、薬剤タンク14内の薬剤を後述する複数のスプレーノズル15へと圧送する空気圧ポンプ(図示しない)とを備えている。薬剤タンク14の下部には、空気圧ポンプ(図示しない)からの圧縮空気と混合して薬剤を霧状にして圧送する混合部14cが設けられており、この混合部14cには複数のフレキシブルチューブ16が取り付けられ、これら複数のフレキシブルチューブ16を介して複数のスプレーノズル15へと薬剤が圧送されるようになっている。
【0029】
また、フレキシブルチューブ16の端部に繋がる薬剤タンク14の混合部14cにはバルブ(図示しない)が配されており、前記バルブ(図示しない)の開閉操作を行う操作レバー17が装置本体11を操作するハンドル13に設けられており、作業者は、ハンドル13を操作して該装置本体11を前後左右に走行させると共に、ハンドル13に設けたレバー17を操作することで、ワイヤ17aを介してバルブ(図示しない)の開閉操作を行うことで薬剤の噴霧の開始、停止を手元で操作できるようになっている。
【0030】
薬剤噴霧部は、薬剤を敷物に噴霧する複数のスプレーノズル15と、前記各スプレーノズル15の先端が前記敷物C内部に食い込むように押圧する押圧部18とを有している。複数のスプレーノズル15の先端部15aは略L字状に折れ曲がり、その先端15cは針状をなしており、前記装置本体11下部に設けたノズル支持部19によって支持されるようになっている。図1〜図5に示す装置10の場合、装置本体11に設けたノズル支持部19は、基端部支持部20とガイド部21とからなり、基端部支持部20は、ヒンジ20cを介して折り畳み可能に設けた2枚の板からなる支持板20aを有し、装置本体11側の一枚が装置本体11下部に取り付けられ、ヒンジ20cを介して反対側の板には、前記複数のスプレーノズル15の基端部を回動可能に支持する3つの回動支持部20bが設けられている。
【0031】
また、支持板20aのヒンジ20cを介して装置本体11の反対側の板には、くの字状に折れ曲がる回動アーム22の一端が回動可能に取り付けられており、回動アーム22の他端が装置本体11下部に回動可能に取り付けられている。そして、作業時にはこの回動アーム22が回動支持部20bを支え、作業終了後には、図4に示すように、前記回動支持板20aをヒンジ20cを介して折り畳んで、支持板20aの装置本体11の反対側の板を上方に回動させることで、前記回動アーム22がくの字状に折れ曲がり、回動支持部20bに支持される複数のスプレーノズル15がガイド部21と共に装置本体11側に折り畳まれるようになっている。
【0032】
ガイド部21は、前記複数のスプレーノズル15が貫通し、略L字状をなす先端部15aが放射状に拡がるようにガイドする多数のガイド孔21aを有しており、このガイド部21を前記複数のスプレーノズル15に沿って前記回動支持部20bに接近離間させることで、図1及び図2に示すように前記複数のスプレーノズル15の先端部15a相互の間隔が拡開閉塞動するようになっている。
【0033】
回動支持部20bには、長孔23を有する3つの支持アーム24がガイド部21に向かって延設されている。前記ガイド部21の上面にはねじ穴(図示しない)が設けられており、支持アーム24の長孔23内の所望の位置でボルトネジ25を挿入し、ガイド部21のねじ穴(図示しない)にネジ止めすることで、回動支持部20bとガイド部21の間隔が固定され、ガイド部21の多数の孔21aを貫通する複数のスプレーノズル15の略L字状をなす先端部15a相互の間隔が所望の間隔に固定されるようになっている。尚、支持アーム24の数は3つに限らず、1つでも2つでも4つ以上でも良い。
【0034】
図5に示すように敷物Cの表面には、その用途や使用状態に応じて様々な密度でパイルPが打ち込まれている。このため、敷物Cの表面の密度の高低により、複数のスプレーノズル15の先端15cを敷物Cの内部に食い込ませて薬剤を噴霧したときに、該薬剤の敷物C内部への行き渡り易さも相違することになる。すなわち敷物Cの表面密度が高ければ、該薬剤は敷物C内部へ行き渡り難く、敷物Cの表面密度が低ければ、行き渡り易くなるのである。
【0035】
この態様の場合、敷物Cの表面密度に応じて、敷物Cの表面が高密度の場合には、ガイド部21を複数のスプレーノズル15に沿って回動支持部20bから離間させることにより、前記複数のスプレーノズル15の略L字状をなす先端部15a相互の間隔を狭くして、短い間隔で薬剤の噴霧がなされるようにし、敷物C表面の密度が低い場合は、ガイド部21を回動支持部20bに接近させることにより、前記複数のスプレーノズル15の先端部15aが放射状に拡がるように、その先端部15a相互の間隔を広くして、長い間隔で薬剤の噴霧がなされるようにするなど、敷物表面の密度に合わせて、薬剤が確実に敷物内部にまで行き渡らせることができるように調整できるようになっている。
【0036】
押圧部18は、スプレーノズル15の先端15cが前記敷物C内部に食い込むように押圧するものであり、図示の形態では、ガイド部21の上面に立設した2本のポール26と、このポールに載せる重し(荷重)27とからなり、ポール26に載せる重し(荷重)27の数を増減させることで、敷物C表面の密度に応じた荷重を調整できるようになっており、敷物C表面の密度に応じて荷重調整された荷重が前記ガイド部21を介して前記複数のスプレーノズル15の先端部15aに付加され、その先端15cが前記敷物C内部に食い込むように押圧されるようになっている。
【0037】
前述したように、敷物Cの表面にはパイルPが所望の密度で打ち込まれており、その密度は用途や使用状態に応じて様々に異なっている。複数のスプレーノズル15の先端15cを敷物Cの内部に食い込ませようとする場合においても、敷物C表面の密度が高い場合は食い込み難く、敷物C表面の密度が低い場合には食い込み易いことから、敷物Cの表面の密度に合わせて複数のスプレーノズル15の略L字状をなす先端部15aを押圧する押圧部18の荷重を調整することで、複数のスプレーノズル15の先端15cの食い込み度合を調整することができるのである。
【0038】
つまり、敷物Cの表面の密度に応じて、高密度の場合は、ガイド部21(複数のスプレーノズル15の先端15c)に大きな荷重を付加することで、前記各複数のスプレーノズル15の先端15cの敷物C内部への食い込み力を強くし、敷物C表面の密度が低密度の場合には、ガイド部21(複数のスプレーノズル15の先端15c)に付加する荷重を軽くすることにより、前記各複数のスプレーノズル15の先端15cの敷物C内部への食い込み力を弱くするなど、敷物C表面の密度に合わせて、複数のスプレーノズル15の先端15cの食い込み度合を調整し、これにより薬剤を確実に敷物内部にまで行き渡らせることができるよう調整することができるのである。
【0039】
本発明の装置における薬剤噴霧部は、図1〜図5に示すように、ノズル支持部19が、敷物Cの薬剤が噴霧される部分を覆うカバー28を備える形態を採ることもできる。この場合、カバー28で敷物Cの薬剤が噴霧される部分を覆うことで、薬剤噴霧部から噴霧された薬剤は周囲に飛散する恐れが少なくなり、より効率的に薬剤を敷物C内部に浸透させ、行き渡らせることができる。
【0040】
本発明の装置を用いて敷物に噴霧する薬剤としては、撥水剤、抗菌剤、防ダニ、防かび
など特に限定されない。図示の例では、感温点が10〜45℃である感温吸排水性ポリマーを含む吸排水性溶媒液と、フタロシアニン化合物を含む抗菌消臭溶媒液とからなるものを用いた。
【0041】
薬剤を構成する感温点が10〜45℃である感温吸排水性ポリマーを含む吸排水性溶媒液と、フタロシアニン化合物を含む抗菌消臭溶媒液とは、それぞれ別々の薬剤タンク14(14a及び14b)に収容されており、前記各薬剤タンク14(14a及び14b)から前記吸排水性溶媒液及び吸排水性溶媒液が混合状態で複数のフレキシブルチューブ16を介して複数のスプレーノズル15へと圧送されるようになっている。
【0042】
これら吸排水性溶媒液及び抗菌消臭溶媒液を組み合わせた薬剤(以下、薬剤ユニットという)を敷物に噴霧することで、簡単に優れた吸排水性及び抗菌消臭性を敷物に付与することができ、敷物中に含まれる一旦水分を吸水した排水性ポリマーが排水性を発揮するようになるまでの間、細菌の増殖、これに伴う悪臭の発生を効果的に抑制することができるという効果を得ることができる。
【0043】
吸排水性溶媒液を構成する溶媒成分としては、水、またはメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール、或いはこれらの混合物の中から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。中でも、安全性、入手容易性及び価格などの点から、水/エタノール(重量比)=95/5〜30/70の範囲の配合割合としたエタノール水溶液が好ましい。この混合溶媒成分を使用すると、該薬剤ユニットを敷物に適用した後、短時間で乾燥し、臭気も強くないので、使用時に周辺環境に悪影響を与える恐れもないので好ましい。
【0044】
この溶媒成分に含まれる吸排水性ポリマーとしては、取り扱い性が良好であり、かつ吸排水性の制御が容易であることから、吸水性に優れると共に一旦吸水した後、温度変化に伴って吸水率が変化して排水する機能を持つ感温吸排水性ポリマーを用いている。また、感温吸排水性ポリマーとしては、感温点が10〜45℃の温度領域にあるものであれば何でもよいが、感温点が35℃のものがさらに好ましい。
【0045】
感温吸排水性ポリマーの具体例としては、N−置換(メタ)アクリルアミド及びN,N−置換(メタ)アクリルアミドのうち、少なくとも一方を重合成分として架橋剤存在下で重合してなる重合体であるであることが好ましい。これらのモノマーを用いることにより、温度変化に対して敏感に吸排水を繰り返す樹脂を得ることができる。
【0046】
N−置換(メタ)アクリルアミドの具体例としては、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソブチル(メタ)アクリルアミド、N−シクロヘキシル(メタ)アクリルアミド、N−フェニル(メタ)アクリルアミド、N−ベンジル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロポキシ(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。本発明においては、特にN−イソプロピル(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0047】
N,N−置換(メタ)アクリルアミドの具体例としては、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。本発明においては、特にN,N−ジイソプロピル(メタ)アクリルアミドが好ましい。
【0048】
吸排水性溶媒液における感温吸排水性ポリマーの含有量としては、特に限定されないが、十分な感温吸排水性と良好な分散性を確保するため、1〜30重量%が好ましい。
【0049】
抗菌消臭溶媒液に含まれるフタロシアニン化合物としては、下記化学式2で表されるものであり、式中のMは、鉄、マンガン、チタン、バナジウム、ニッケル、銅、タングステンから選択される金属である。
【化2】

【0050】
上記フタロシアニン化合物の中でも、銅の錯体を形成したものが、抗菌性、消臭性に優れる点で好ましい。抗菌消臭溶媒液におけるフタロシアニン化合物の含有量としては、特に限定されないが、十分な抗菌消臭性と良好な分散性を確保するため、1〜30重量%が好ましい。
【0051】
抗菌消臭溶媒液を構成する溶媒成分としては、上述した吸排水性溶媒液を構成する溶媒成分と同じ、水、またはメタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどの低級アルコール、或いはこれらの混合物の中から選ばれる少なくとも1種を挙げることができる。中でも、安全性、入手容易性及び価格などの点から、水/エタノール(重量比)=95/5〜30/70の範囲の配合割合としたエタノール水溶液が好ましい。この混合溶媒成分を使用すると、該ユニットを敷物に適用した後、短時間で乾燥し、臭気も強くないので、使用時に周辺環境に悪影響を与える恐れもないので好ましい。
【0052】
上記吸排水性溶媒液及び抗菌消臭溶媒液中には、それぞれバインダー成分をさらに含むこともできる。この場合、該薬剤ユニットを敷物に噴霧したときに、敷物を構成する繊維表面にバインダー成分を介して感温吸排水性ポリマーやフタロシアニン化合物が付着するので、敷物を使用に際して感温吸排水性ポリマーやフタロシアニン化合物が容易に脱落するのを防止することができ、永く感温吸排水性及び抗菌消臭性を確保できるという利点がある。
【0053】
バインダー成分としては特に限定されないが、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸ハーフエステル、無水マレイン酸、無水イタコン酸及び2−メタクリロイルプロピオンの中から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0054】
上記吸排水性溶媒液及び抗菌消臭溶媒液中に含まれるバインダー成分の含有量としては、特に限定されないが、その含有量が余りに多いと、バインダー成分によって感温吸排水性ポリマーやフタロシアニン化合物が覆われてしまい、十分な感温吸排水性及び抗菌消臭性を得ることができなくなる。一方、バインダー成分の含有量が少ないと、敷物を構成する繊維表面にへのバインダー成分を介しての感温吸排水性ポリマーやフタロシアニン化合物の付着力が弱くなる。バインダー成分の含有量としては、1〜30重量%が好ましい。
【0055】
尚、薬剤ユニットを構成する吸排水性溶媒液及び抗菌消臭溶媒液中には、色素、増粘剤等を所望により配合してもよく、さらに別の防腐・防黴剤、殺菌剤等を配合することもできる。
【0056】
また、ユニットを構成する吸排水性溶媒液及び抗菌消臭溶媒液のそれぞれは、本発明の装置を用いて噴霧できるように、エマルジョン、懸濁、エアゾールの形態に調製され得る。
【0057】
次に、本発明の装置の別形態について説明する。図6〜図8に示す装置30も、図1〜図5に示す形態と同様に、押圧部として機能するハンドル33と、前記装置本体31上に取り外し可能に取り付けられる薬剤を収容する薬剤タンク34と、薬剤を噴射させる敷物C表面に噴射させる複数のスプレーノズル35と、薬剤タンク34内の薬剤を前記複数のスプレーノズル35に供給する複数のフレキシブルチューブ36と、薬剤タンク34内の薬剤を前記複数のフレキシブルチューブ36を介して前記複数のスプレーノズル35へと圧送する空気圧ポンプ(図示しない)とを備えている。
【0058】
柱状をなす装置本体31のほぼ中央に取付られている薬剤タンク34の下部には、空気圧ポンプ(図示しない)からの圧縮空気と混合して薬剤Mを霧状にして圧送する混合部34aが設けられており、この混合部34aには複数のフレキシブルチューブ36が取り付けられ、前記各複数のフレキシブルチューブ36を介して複数のスプレーノズル35へと薬剤が圧送されるようになっている。
【0059】
また、フレキシブルチューブ36の端部に繋がる薬剤タンク34の混合部34aにはバルブ(図示しない)が配されており、前記バルブ(図示しない)の開閉操作を行う操作レバー37が装置本体31を操作するハンドル33に設けられており、作業者は、ハンドル33を操作して該装置本体31を前後左右に走行させると共に、ハンドル33に設けたレバー37を操作することで、ワイヤ37aを介してバルブ(図示しない)の開閉操作を行うことで薬剤の噴霧の開始、停止を手元で操作できるようになっている。
【0060】
装置本体31の下部には平板状のノズル支持部38が設けられ、このノズル支持部38によって複数のスプレーノズル15の針状をなす先端部15aが間隔を置いて前記装置本体31の裏面側から略垂直状に突出しており、作業者は、敷物Cの表面の密度に合わせてハンドル33に体重を掛けることで、複数のスプレーノズル15の先端35cの食い込み度合を調整し、これにより薬剤を確実に敷物内部にまで行き渡らせることができるよう調整するようになっている。
【0061】
尚、薬剤噴霧部を構成するノズル支持部38の形状や大きさ、並びに同じく薬剤噴霧部を構成するスプレーノズル15の数や間隔は任意であり、敷物Cの大きさや敷物C表面の密度に応じて適宜変更することができる。
【0062】
また本発明の装置における薬剤噴霧部は、図6〜図8に示すようにノズル支持部38に敷物Cの薬剤が噴霧される部分を覆うカバー40を取り付けた形態を採ることもできる。この場合、カバー40が敷物Cの薬剤が噴霧される部分を覆うので、薬剤噴霧部から噴霧された薬剤は周囲に飛散する恐れが少なくなり、より効率的に薬剤を敷物C内部に浸透させ、行き渡らせることができる。
【0063】
尚、本発明は、上記例に限定されず、例えば上記図示の例では、複数のスプレーノズル15の先端15cに薬剤の噴霧口が設けているが、薬剤の噴霧口を先端部15aの15c近傍の周面に設けることで、薬剤を敷物Cの奥行き方向ではなく、平面方向に噴霧されるようにし、パイル高さが低い敷物に薬剤がより効果的に浸透するようにするなど、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で自由に変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0064】
10、30・・・装置
11、31・・・装置本体
13、33・・・ハンドル
14(14a、14b)、34・・・薬剤タンク
15、35・・・複数のスプレーノズル
16、36・・・フレキシブルチューブ
17、37・・・操作レバー
19、38・・・ノズル支持部
28、40・・・カバー
C・・・敷物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
敷物へ薬剤を噴霧する装置であって、
薬剤を収容する薬剤タンクを備えた装置本体と、前記装置本体に取り付けられた薬剤噴霧部とを備えており、
前記薬剤噴霧部が、前記薬剤タンクからの薬剤を敷物に噴霧するスプレーノズルと、前記スプレーノズルの先端が前記敷物内部に食い込むように押圧する押圧部とを有していることを特徴とする薬剤噴霧装置。
【請求項2】
薬剤噴霧部が、薬剤タンクからの薬剤を敷物に噴霧する先端部が略L字状に折れ曲がる複数のスプレーノズルを有しており、
前記複数のスプレーノズルが間隔をおいて並設されており、敷物表面の密度の高低に応じて前記複数のスプレーノズル相互の間隔を拡開閉塞動させるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の薬剤噴霧装置。
【請求項3】
薬剤噴霧部が、複数のスプレーノズルを支持するノズル支持部を備えており、前記ノズル支持部が、複数のスプレーノズルの基端部を回動可能に支持する基端部支持部と、前記複数のスプレーノズルが貫通し、その先端が放射状に拡がるようにガイドする多数のガイド孔を有するガイド部とからなり、前記ガイド部を前記複数のスプレーノズルに沿って前記基端部支持部に接近離間させることで、前記複数のスプレーノズルの先端相互の間隔を拡開閉塞動させるようにしたことを特徴とする請求項2に記載の薬剤噴霧装置。
【請求項4】
押圧部が、敷物表面の密度の高低に応じて荷重を増減して荷重調整が可能に設けられており、該押圧部によって荷重調整された荷重がスプレーノズルの先端に付加され、その先端が前記敷物内部に食い込むように押圧されることを特徴とする請求項1に記載の薬剤噴霧装置。
【請求項5】
薬剤噴霧部が、敷物の薬剤が噴霧される部分を覆うカバーを備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の薬剤噴霧装置。
【請求項6】
薬剤噴霧部が、装置本体側に折り畳み可能に取り付けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の薬剤噴霧装置。
【請求項7】
装置本体に車輪を取り付けて走行可能としたことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の薬剤噴霧装置。
【請求項8】
敷物へ噴霧する薬剤が、感温点が10〜45℃である感温吸排水性ポリマーを含む吸排水性溶媒液と、下記化学式1で表されるフタロシアニン化合物を含む抗菌消臭溶媒液とからなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の薬剤噴霧装置。
【化1】

【請求項9】
感温点が10〜45℃である感温吸排水性ポリマーを含む吸排水性溶媒液と、フタロシアニン化合物を含む抗菌消臭溶媒液とが、それぞれ別々の薬剤タンクに収容されており、前記各薬剤タンクから前記吸排水性溶媒液及び吸排水性溶媒液が混合状態で複数のフレキシブルチューブを介してスプレーノズルへと圧送されるようにしたことを特徴とする請求項8に記載の薬剤噴霧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−161782(P2012−161782A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53867(P2011−53867)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000149664)株式会社大和 (35)
【出願人】(592083993)株式会社八千代 (34)
【出願人】(592084004)株式会社祥永 (34)
【Fターム(参考)】