説明

文字印刷付き加飾プラスチック部材及び加飾プラスチック部材の文字印刷方法

【課題】文字印刷付き加飾プラスチック部材において環境の変化による印刷の劣化や損傷を回避する。
【解決手段】文字印刷付き加飾プラスチック部材1は、電子機器の外装用プラスチック部材3と、この外装用プラスチック部材3の表面に密着性を高めるために設けたベースコート層5と、このベースコート層5の表面に蒸着又は印刷で加飾した加飾層7と、この加飾層7の表面に文字を印刷した印刷文字部9と、この印刷文字部9を印刷した加飾層の表面を被覆したトップコート層11と、で構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、特にデジタルカメラやカムコーダなどの電子機器に用いられる加飾されたプラスチック部材に文字やマークなどを印刷した文字印刷付き加飾プラスチック部材及び加飾プラスチック部材の文字印刷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやカムコーダなどの電子機器に用いられる外装用プラスチック部材には、スタートボタンやシャッタボタンなどの視認の目的を主として、前記ボタンの近傍にしかるべき文字印刷が施されている。すなわち、加飾されたプラスチック部材に文字やマークなどを印刷した文字印刷付き加飾プラスチック部材が製作されている。
【0003】
図5を参照するに、従来の文字印刷付き加飾プラスチック部材101は、例えば、電子機器の筐体などのプラスチック成形生地からなる外装用プラスチック部材103と、この外装用プラスチック部材103の表面に密着性を高めるためのベースコート層105と、このベースコート層105の表面に蒸着又は印刷で加飾した加飾層107と、この加飾層107の表面を被覆したトップコート層109と、このトップコート層109の表面に文字を印刷した印刷文字部111と、で構成されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、上述した文字印刷付き加飾プラスチック部材101に該当する発光パネルの部材構成としては、上述した外装用プラスチック部材に該当する表示板の表面に、微細な凹凸加工を施した微細凹凸層と、この凹凸層の上にアルミニウムなどの金属蒸着層(加飾層107に該当)を形成し、さらに前記金属蒸着層の上に透明着色印刷層を形成している。
【0005】
特許文献2では、シリコーンゴムを成形してなる透光性キーキャップの基体と、この基体上にスプレー塗装あるいは印刷された透光性インク層と、この透光性インク層の上を被覆する第1保護層と、この第1保護層の上に真空蒸着した蒸着金属をレーザーによりエッチングすることで、文字或いは図案を設けた金属めっき膜と、この金属めっき膜の上を被覆する第2保護膜層と、で構成されている。
【0006】
特許文献3では、蓄光性を持つ樹脂製品について記載されたものであり、透明な樹脂プレートの裏面に、10〜40%の光を透過させるような金属蒸着によるハーフ蒸着と、蓄光塗料を設けた層構成である。
【特許文献1】特開平11−133896号公報
【特許文献2】特開平11−110103号公報
【特許文献3】特開平10−29268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、文字印刷付き加飾プラスチック部材101は、様々な天候などの環境下に置かれるだけでなく、人が指で直接触れる部分であるので、各メーカーのスペックとして過酷な環境試験をパスしなければならないのが一般的である。
【0008】
これらのメーカーのスペックの要求を満足させるために、部品メーカーは独自に環境試験及び耐久試験をスペックに準じて行うが、開発段階でパスしても、量産工程で、あるいは市場へ出荷後に、印刷文字の擦れや消失などのトラブルが発生することも少なくない。このようなトラブルが発生する場合、部品メーカーは原因追求、再現実験、恒久対策などを行う義務を負い、仕様の変更を余儀なくされる。そのため、生産中のランニングチェンジなどを行う必要があるので、生産体制自体が不安定となり、それに伴って損傷なども発生するという問題点があった。したがって、上述したような加飾及び印刷の不良は最も警戒すべき不具合である。
【0009】
また、特許文献1では、発光パネルの部材構成としては、金属蒸着層の上に印刷が施されているが、あくまでも表示方法に関する手法であり、印刷の劣化防止に関しては記載されていない。
【0010】
特許文献2では、基体と、加飾層107に該当する金属めっき膜と、この金属めっき膜を保護する保護膜(第2保護膜)といった層構成は記載されているが、前記保護膜(第2保護膜)は、印刷文字や印刷図案に対するものではなく、エッチングして文字や図案を形成した金属めっき膜を被覆するものである。すなわち、印刷の劣化防止を目的としていない。
【0011】
特許文献3では、印刷の劣化防止に関しては記載されていない。
【0012】
この発明は、文字印刷付き加飾プラスチック部材において環境の変化による印刷の劣化や損傷を回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、この発明の文字印刷付き加飾プラスチック部材は、電子機器の外装用プラスチック部材と、この外装用プラスチック部材の表面に蒸着又は印刷で加飾した加飾層と、この加飾層の表面に文字を印刷した印刷文字部と、この印刷文字部を印刷した加飾層の表面を被覆したトップコート層と、で構成されていることを特徴とするものである。
【0014】
また、この発明の文字印刷付き加飾プラスチック部材は、前記文字印刷付き加飾プラスチック部材において、前記外装用プラスチック部材と前記加飾層との間に、密着性を高めるベースコート層を介設することが好ましい。
【0015】
また、この発明の文字印刷付き加飾プラスチック部材は、前記文字印刷付き加飾プラスチック部材において、前記加飾層が、前記外装用プラスチック部材と密着性の良いインクで構成されていることが好ましい。
【0016】
また、この発明の文字印刷付き加飾プラスチック部材は、前記文字印刷付き加飾プラスチック部材において、前記トップコート層が、透明又は半透明性の着色層であることが好ましい。
【0017】
この発明の加飾プラスチック部材の文字印刷方法は、電子機器の外装用プラスチック部材の表面に、加飾層を蒸着又は印刷し、この加飾層の表面に文字を印刷した後に、前記文字を印刷した加飾層の表面をトップコート層で被覆することを特徴とするものである。
【0018】
また、この発明の加飾プラスチック部材の文字印刷方法は、前記加飾プラスチック部材の文字印刷方法において、前記加飾層は、密着性を高めるベースコート層を外装用プラスチック部材の表面に設けた後に、前記ベースコート層の表面に蒸着又は印刷することが好ましい。
【0019】
また、この発明の加飾プラスチック部材の文字印刷方法は、前記加飾プラスチック部材の文字印刷方法において、前記加飾層には、前記外装用プラスチック部材と密着性の良いインクを用いることが好ましい。
【0020】
また、この発明の加飾プラスチック部材の文字印刷方法は、前記加飾プラスチック部材の文字印刷方法において、前記トップコート層を、透明又は半透明性の着色層とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
以上のごとき課題を解決するための手段から理解されるように、この発明の文字印刷付き加飾プラスチック部材及び加飾プラスチック部材の文字印刷方法によれば、印刷文字部はトップコート層で被覆されて保護されるので外乱を直接受けることは無くなり、環境の変化による印刷文字部の劣化や損傷も回避できるので、不良発生に伴う市場クレーム、検証・対策実験、損金の発生などの問題を回避できる。また、生産性の安定と向上を達成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0023】
図1を参照するに、この実施の形態に係る文字印刷付き加飾プラスチック部材1は、デジタルカメラやカムコーダなどの電子機器の筐体などのプラスチック成形生地からなる外装用プラスチック部材3と、この外装用プラスチック部材3の表面に密着性を高めるためのベースコート層5と、このベースコート層5の表面に蒸着又は印刷で加飾した加飾層7と、この加飾層7の表面に文字を印刷した印刷文字部9と、この印刷文字部9を印刷した加飾層7の表面を被覆したトップコート層11と、で構成されている。
【0024】
なお、上記のベースコート層5は、外装用プラスチック部材3に対する加飾層7の密着性を高めるものであるが、図2に示されているように、必ずしも設けなくても良い。この場合、加飾層7を形成する印刷用のインクが外装用プラスチック部材3と密着性の良いものであることが望ましい。そのための加飾層7の印刷用のインクとしては、例えば、SGI社 GX−4975 METALLIC GOLDがある。また、上記のトップコート層11は、透明又は半透明性の着色層とすることができる。これは、トップコート層11のそれ自体を着色することや、トップコート層11の表面に着色を施すことが適用される。
【0025】
次に、前述した実施の形態の文字印刷付き加飾プラスチック部材1を製造する際の文字印刷方法について説明する。
【0026】
この加飾プラスチック部材の文字印刷方法は、前述した外装用プラスチック部材3の表面に、密着性を高めるためのベースコート層5を設け、このベースコート層5の表面に加飾層7を蒸着又は印刷する。次いで、前記加飾層7の表面に文字を印刷して印刷文字部9を形成する。その後に、前記印刷文字部9を印刷した加飾層7の表面をトップコート層11で被覆するものである。
【0027】
なお、加飾プラスチック部材の文字印刷方法においては、その他の例として、前述した文字印刷付き加飾プラスチック部材1で説明したのと同様に、ベースコート層5を設けなくても良く、加飾層7を形成する際に外装用プラスチック部材3と密着性の良い印刷用のインクを用いても良く、さらには、トップコート層11を透明又は半透明性の着色層とすることもできる。
【0028】
次に、上記の実施の形態の文字印刷付き加飾プラスチック部材1の効果を調べるために、この実施の形態の構成に基づいた図1の実施例を作成し、さらに、この実施例と比較するために図5の従来の文字印刷付き加飾プラスチック部材101を比較例として作成した。
【0029】
なお、実施例と比較例は、それぞれ、下記に示す材料を用いて実施例及び比較例の製造方法で文字印刷付き加飾プラスチック部材1、101を作製した。
【0030】
使用材料としては、外装用プラスチック部材3、103は、その材質がABSK−095である。また、ベースコート層5、105は、藤倉化成3025Uを使用している。また、加飾層7、107は蒸着金属であり、Sn不導電蒸着で形成されている。また、印刷文字部9、111は、印刷文字インクとしてセイコーアドバンス(VIC PAN8401Cシルバー)が用いられている。また、トップコート層11、109は、藤倉化成9269Uで形成されている。
【0031】
以上の実施例と比較例の文字印刷付き加飾プラスチック部材1、101に対して印字の消しゴム試験を実施した。なお、消しゴム試験は消しゴムで50回の往復の摩擦を行い、印刷文字部9,111のダメージ状態で合格、不合格の判定をするものである。
【0032】
その結果、実施例では、トップコート層11が剥がれるまで印刷文字部9はダメージを受けないので、図3に示されているように消しゴムの50回の往復後も大きな文字剥がれなく、合格した。印刷文字部9ははっきりと識別できる状態である。
【0033】
一方、比較例では、試験初期段階から直接印刷文字部111がダメージを受けていたため、試験終盤では図4に示されているように大きな文字剥がれが生じ、不合格となった。印刷文字部111はかすれており、識別できない状態である。
【0034】
以上のことから、この実施の形態の文字印刷付き加飾プラスチック部材1は、印刷文字部9がトップコート層11で被覆されて保護されるので外乱を直接受けることは無くなり、環境の変化による印刷文字部9の劣化や損傷も回避できるので、不良発生に伴う市場クレーム、検証・対策実験、損金の発生などの問題を回避することができる。また、生産性の安定と向上を達成することができる。
【0035】
なお、この実施の形態の文字印刷付き加飾プラスチック部材1及び加飾プラスチック部材の文字印刷方法は、プラスチック製加飾部品への印刷品全般に用いることができる。例えば、デジタルスチルカメラの筐体の印刷文字や、デジタルビデオカメラの筐体の印刷文字や、携帯電話の筐体の文字印刷などに利用することができる。さらには、家庭用機器の筐体やボタン類の印刷部品にも応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明の実施の形態の文字印刷付き加飾プラスチック部材の要部断面図である。
【図2】図1の他の例を示す文字印刷付き加飾プラスチック部材の要部断面図である。
【図3】実施例の消しゴム試験の結果を示す概略的な説明図である。
【図4】比較例の消しゴム試験の結果を示す概略的な説明図である。
【図5】従来の文字印刷付き加飾プラスチック部材の要部断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 文字印刷付き加飾プラスチック部材
3 外装用プラスチック部材
5 ベースコート層
7 加飾層
9 印刷文字部
11 トップコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器の外装用プラスチック部材と、この外装用プラスチック部材の表面に蒸着又は印刷で加飾した加飾層と、この加飾層の表面に文字を印刷した印刷文字部と、この印刷文字部を印刷した加飾層の表面を被覆したトップコート層と、で構成されていることを特徴とする文字印刷付き加飾プラスチック部材。
【請求項2】
前記外装用プラスチック部材と前記加飾層との間に、密着性を高めるベースコート層を介設したことを特徴とする請求項1記載の文字印刷付き加飾プラスチック部材。
【請求項3】
前記加飾層が、前記外装用プラスチック部材と密着性の良いインクで構成されていることを特徴とする請求項1記載の文字印刷付き加飾プラスチック部材。
【請求項4】
前記トップコート層が、透明又は半透明性の着色層であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の文字印刷付き加飾プラスチック部材。
【請求項5】
電子機器の外装用プラスチック部材の表面に、加飾層を蒸着又は印刷し、この加飾層の表面に文字を印刷した後に、前記文字を印刷した加飾層の表面をトップコート層で被覆することを特徴とする加飾プラスチック部材の文字印刷方法。
【請求項6】
前記加飾層は、密着性を高めるベースコート層を外装用プラスチック部材の表面に設けた後に、前記ベースコート層の表面に蒸着又は印刷することを特徴とする請求項5記載の加飾プラスチック部材の文字印刷方法。
【請求項7】
前記加飾層には、前記外装用プラスチック部材と密着性の良いインクを用いることを特徴とする請求項5記載の加飾プラスチック部材の文字印刷方法。
【請求項8】
前記トップコート層を、透明又は半透明性の着色層とすることを特徴とする請求項5、6又は7記載の加飾プラスチック部材の文字印刷方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−76369(P2010−76369A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250193(P2008−250193)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】