説明

斜張吊り架構の斜材架設構造

【課題】定着部位における斜張ケーブルの干渉を防止でき、定着位置を下げたり、主塔の高さを低くすることなく、引上げ効率を高め、架設作業も容易に行え、コストの低下を図る。
【解決手段】左右の橋脚1,1間に跨る主桁2を、各橋脚1上に立設した主塔3に架設した複数本の斜張ケーブル4により吊支してなる斜張吊り架構の斜材架設構造において、各斜張ケーブル4を、主塔3の上部範囲Aと下部範囲Bとに分離して架設し、主塔3の上部範囲Aに架設される各上段斜張ケーブル4Aを左右にクロスさせて定着し、主塔3の下部範囲Bに架設される左右の各下段斜張ケーブル4Bを、主塔3の左右に跨って貫通するように連続させて定着するとともに、主塔3の高さHを、隣接する橋脚1,1間における支間長Lの長さの1/9〜1/4とし、主塔3に対する斜張ケーブル4の最上段における架設角度αを、15°〜30°に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば斜張橋やエクストラドーズド橋などにおける斜張吊り架構の斜材架設構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、斜張橋やエクストラドーズド橋などにおいては、斜材(斜張ケーブルという)により主桁を架設する方法として、主桁の長さ方向における左右の斜張ケーブルを、主塔に対して交差させて定着するクロス方式(例えば、特許文献1参照)と、主塔の左右に貫通させて斜張ケーブルを連続的に架設するサドル方式(例えば、特許文献2参照)とが提案されている。
【特許文献1】特開昭64−36806号公報
【特許文献2】特開2000−54321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記従来のクロス方式の場合、図4に示すように、左右の橋脚10間に跨る主桁11を、各橋脚10上に立設した主塔12に架設される複数本の斜張ケーブル13により吊支する際に、図5に示すように、主塔12に左右の斜張ケーブル13,13を交差させて定着しているため、作業に手間が掛かる。さらに、このような方式では、主塔12の高さH1が、隣接する橋脚10,10間の支間長Lの長さの1/5〜1/3であるため、主塔12がより高い構成とされている。また、主塔12に対する斜張ケーブル13の最上段における架設角度α1が、45°〜25°の適用範囲であり、しかも主塔12に対する斜張ケーブル13の架設角度α1が比較的大きいため、図6に示すように、上段の斜張ケーブル13と下段の斜張ケーブル13との定着部位が干渉し易く、下段の斜張ケーブル13における定着位置を下げる必要がある。これにより、斜張ケーブル13による引上げ効率が低下する。
【0004】
また、上記したクロス方式に代えて、図7に示すように、主塔12の左右に、左右の斜張ケーブル13,13をそれぞれ分離させて定着する分離方式が提案されている。この方式では、主桁11を、主塔12の左右に分離した斜張ケーブル13,13により一本ずつ吊支しているため、大型の斜張橋には有効である。しかしながら、このような方式では、左右両定着間に大きな引張力Xが働くため、上下の定着位置の間隔を大きくしなければ支えきれなくなる。このため、主塔12の高さを高くする必要あり、しかも、主塔12の内部には、作業スペースが必要になるため、大掛かりな補強を要し、定着作業も面倒で、コスト高になる。
【0005】
一方、上記したサドル方式では、図8に示すように、上段の斜張ケーブル13と下段の斜張ケーブル13との間における貫通部位の干渉が回避され、しかも、貫通部位を主塔12の上方に上げて、主塔12に対する斜張ケーブル13の架設角度α2を大きくすることにより、斜張ケーブル13による引上げ効率を高めることができる。しかしながら、このような方式では、主塔12の高さH2が、隣接する橋脚10,10間の支間長L2の長さの1/15〜1/8で、主塔12に対する斜張ケーブル13の最上段における架設角度α2が、25°程度の適用範囲であり、主塔12の高さH2が低く、大型の斜張橋には対応できない。しかも、左右の斜張ケーブル13,13の張力差を、主塔12の内部における斜張ケーブル13,13同士の貫通部位の付着力で定着させていることから、その付着力を働かせる距離に応じて、図9に示すように、主塔12の断面幅が大きくなるように、主塔12の上部を、上方に向け拡大する拡幅部14に形成する必要がある。このため、作業も面倒で、コスト高になるという問題があった。
【0006】
本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、各斜材による引き上げ効率を向上させることが可能な斜張吊り架構の斜材架設構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を有利に解決するために、本発明では、主桁を主塔に架設された斜材により吊支してなる斜張吊り架構の斜材架設構造において、上記各斜材を主塔の上部範囲と下部範囲とに分離して架設してなるとともに、主塔の上部範囲に架設される各上段斜材を左右にクロスさせて定着し、主塔の下部範囲に架設される下段斜材を、主塔の左右に跨って貫通するように連続させて定着することを特徴とする。
このとき、主塔の高さを隣接する橋脚間における支間長の長さの1/9〜1/4とし、主塔に対する斜材の最上段における架設角度を15°〜30°に設定するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、各斜材を、主塔の上部と下部とに分離して架設し、主塔の上部に架設される各上部斜材を左右にクロスさせて定着して、クロス方式とし、主塔の下部に架設される左右の各下部斜材を、主塔の左右に跨って貫通するように連続させて定着して、サドル方式とするとともに、主塔の高さを、隣接する橋脚間における支間長の長さの1/9〜1/4とし、主塔に対する斜材の最上段における架設角度を、15°〜30°に設定したことから、各斜材による引上げ効率を高めることができるという効果が得られる。
【0009】
また、クロス方式における定着部に使用する定着具の個数を少なくすることができるとともに、主塔の下部に架設される各下部斜材にサドル方式を採用しているため、主塔の断面を大きくする必要がなく、コストの低減化を図ることができるという効果が得られる。
【0010】
さらに、本発明によると、クロス方式とサドル方式との併用により、特に、主塔に対して左右の斜材に張力差がある場合に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明に係る斜張吊り架構の斜材架設構造の一実施形態を概略的に示す正面図であり、図2は、主塔への斜材の架設状態を要部拡大して示す概略的正面図である。
【0013】
本実施形態においては、図1に示すように、左右の橋脚1,1間に跨る主桁2が、各橋脚1上に立設した主塔3の左右に架設された複数本の斜張ケーブル4により、左右均等の張力でもって吊支してなる構成を有するとともに、主塔3に対する各斜張ケーブル4の架設部位が、上部範囲Aと下部範囲Bとに分離して架設されている。
【0014】
そして、主塔3の上部範囲Aに架設される各上段斜張ケーブル4Aの定着部側には、図2に示すように、主塔3内に設置した図示しない受け架台に支持されるケーシング管5がそれぞれ被管されており、これらのケーシング管5を介して、各上段斜張ケーブル4Aが主塔3内で左右にクロスさせて定着されている。
【0015】
また、主塔3の下部範囲Bに架設される左右の各下段斜張ケーブル4Bは、主塔3の左右に跨って貫通するように連続させて架設してなるとともに、主塔3内における各下段斜張ケーブル4Bの定着部位には、サドル金具7で支持されて、グラウトが施されるようになっている。
【0016】
ところで、本実施形態では、図1に示すように、主塔3の高さHが、隣接する橋脚1,1間の支間長Lの長さの1/9〜1/4とし、主塔3に対する斜張ケーブル4の最上段における架設角度αが、15°〜30°に設定されている。
【0017】
上述した構成では、各斜張ケーブル4を、主塔3の上部範囲Aに架設される各上段斜張ケーブル4Aと、下部範囲Bに架設される各下斜張ケーブル4Bとに分離し、主塔3の上部範囲Aに架設される各上段斜張ケーブル4Aを左右にクロスさせて定着して、クロス方式としている。一方、主塔3の下部範囲Bに架設される左右の各段斜張ケーブル4Bを、主塔3の左右に跨って貫通するように連続させて定着して、サドル方式とする。そして、主塔3の高さHは、隣接する橋脚1,1間における支間長Lの長さの1/9〜1/4とし、主塔3に対する斜張ケーブル4の最上段における架設角度αを、15°〜30°に設定する。これにより、上段斜張ケーブル4Aと下段斜張ケーブル4Bとの定着部位における干渉が防止でき、下段斜張ケーブル4Bにおける定着位置を下げたり、主塔3の高さを低くすることなく、各斜張ケーブルによる引上げ効率を高めることができ、大型の斜張橋にも対応できる。また、主塔3の断面幅を大きくする必要もなく、架設作業も容易に行え、コストの低下を図ることができる。
【0018】
なお、上記実施形態においては、主塔3に架設した斜張ケーブル4の張力が、左右均等の場合を例に説明したが、図3に示すように、主塔3に架設した斜張ケーブル4の左右の張力Ta、Tbが異なる場合においても有効である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る斜張吊り架構の斜材架設構造の一実施形態を概略的に示す正面図である。
【図2】同じく主塔への各斜材の定着状態を示す要部拡大図である。
【図3】主塔に対する左右の斜材に張力差がある場合における斜張吊り架構の架設状態の他の形態を示す正面図である。
【図4】従来の斜張吊り架構を概略的に示す正面図である。
【図5】同じく主塔への各斜材の定着状態を示す説明図である。
【図6】同じく主塔への各斜材の定着状態を示す要部拡大図である。
【図7】他の主塔への各斜材の定着状態を示す要部拡大図である。
【図8】従来の他の斜張吊り架構を概略的に示す正面図である。
【図9】同じく主塔への各斜材の定着状態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0020】
1 橋脚
2 主桁
3 主塔
4 斜張ケーブル(斜材)
4A 上段斜張ケーブル(斜材)
4B 下段斜張ケーブル(斜材)
5 ケーシング管
6 サドル金具
A 上部範囲
B 下部範囲
H 主塔の高さ
L 支間長
α 架設角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主桁を主塔に架設された斜材により吊支してなる斜張吊り架構の斜材架設構造において、
上記各斜材を主塔の上部範囲と下部範囲とに分離して架設してなるとともに、主塔の上部範囲に架設される各上段斜材を左右にクロスさせて定着し、主塔の下部範囲に架設される下段斜材を、主塔の左右に跨って貫通するように連続させて定着することを特徴とする斜張吊り架構の斜材架設構造。
【請求項2】
主塔の高さを隣接する橋脚間における支間長の長さの1/9〜1/4とし、主塔に対する斜材の最上段における架設角度を15°〜30°に設定したことを特徴とする請求項1記載の斜張吊り架構の斜材架設構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−262795(P2007−262795A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91323(P2006−91323)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000103769)オリエンタル建設株式会社 (136)
【Fターム(参考)】