説明

斜板式コンプレッサ

【課題】 焼付き防止性および耐久性に優れる「斜板式コンプレッサ」を提供する。
【解決手段】 クランク室(3)を挿通し回転可能に軸架されたシャフト(1)に連結された斜板(2)と、当該斜板(2)が内部で摺動し得るようにスライディングシュー(4,5)を介して連結される連結部(9,10)が形成されたピストン(6)とを有し、前記斜板(2)は、前記スライディングシュー(4,5)と摺動自在に接触して挟持される平板部(2b)が形成されており、当該平板部(2b)は、二硫化モリブデンが塗布含浸されたホワイトメタル溶射被膜を有している。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、斜板式コンプレッサに関し、特に、斜板式コンプレッサの斜板部分の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車用空気調和装置のコンプレッサとして、シャフトに対する傾斜角度が可変である斜板を有し、軽量化および高速回転が可能である片頭式の容量可変斜板式コンプレッサが主流になりつつある。
【0003】この容量可変斜板式コンプレッサは、図3に示すように、シャフト1により回転される斜板2を、クランク室3内に傾斜角度可変に設け、スライディングシュー4,5を介してピストン6に連結している。
【0004】ピストン6は、シリンダ室7内を往復動するピストンヘッド8と、斜板2と係合する断面略U字状の連結部9,10とからなり、連結部9,10の両側内面の対向する位置に形成された2つの球面凹部9s,10sに略半球状のスライディングシュー4,5が嵌装され、これら両スライディングシュー4,5により斜板2の表裏両平坦面が挟持されている。
【0005】つまり、斜板2の平板部2bの両側面は、スライディングスライディングシュー4,5の円形平面部4a,5aが摺動接触している。一方、ピストンの連結部9には、球面凹部9s,10sが形成され、スライディングシュー4,5の球面凸部4b,5bが摺動接触している。
【0006】したがって、この斜板2を、シャフト1の周りで、いわゆるみそすり回転運動を行なわせることにより、ピストンヘッド8を、シリンダ室7内で往復直線動させることが可能となる。そして、斜板2の傾斜角を変化させると、ピストン6のストローク量が調節されるため、吐出冷媒量が変化することとなる。
【0007】一方、連結部9,10は、斜板2の最もシリンダ室側に近い位置の外縁部と摺接する上死点位置(図4の上側のピストン位置)と、最もシリンダ室側から遠い位置の外縁部と摺接する下死点位置(図4の下側のピストン位置)との間で、往復直線動することとなる。
【0008】したがって、スライディングシュー4,5が、ピストン6の連結部9,10から脱落することなく、良好な係合状態を維持するために、図4に示すように、スライディングシュー4,5の球面凸部4b,5bが、同一の球の球面の一部をなすように構成する必要がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】しかし、図5に明白に示すように、ピストン6が上死点位置にある斜板2の最大傾斜時には、連結部10の球面凹部10sとスライディングシュー5との掛かり代S、および下死点位置にあるときの連結部9の球面凹部9sとスライディングシュー4との掛かり代Sがきわめて小さくなる。
【0010】したがって、急起動時のように潤滑不足である場合、摩擦熱による過剰な温度上昇を起こし、斜板2とスライディングシュー4,5との間で焼付きが発生し、スライディングシュー4,5が、図中矢印方向に押し出されて、掛かり代Sの小さい方の球面凹部9s,10sのシャフト1側の端部近傍に乗り上げ、スライディングシューの噛込みや脱落が発生する問題を有している。
【0011】また、過剰な摩擦熱が、スライディングシュー4,5を経由してピストン6に伝導し、付加的な焼付きが、スライディングシュー4,5とピストン6との間で発生する可能性も有している。
【0012】一方、斜板2の表面に、熱伝導度が大きく焼付き防止性に優れる銅をメッキし、焼付きを抑制することも可能だが、付着力が弱いため耐久性に問題を有する。
【0013】本発明は、上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、焼付き防止性および耐久性に優れる斜板式コンプレッサを提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するための本発明は、請求項毎に次のように構成される。
【0015】請求項1に記載された本発明は、クランク室を挿通し回転可能に軸架されたシャフトと、前記クランク室に配置され前記シャフトに連結された斜板と、前記シャフトの回転を前記斜板に伝達するヒンジ機構と、前記斜板が内部で摺動し得るようにスライディングシューを介して連結される連結部が形成されシリンダ室の内部を軸方向に往復動される複数のピストンとを有する斜板式コンプレッサにおいて、前記斜板は、前記スライディングシューと摺動自在に接触して挟持される平板部が形成されており、当該平板部は、熱伝導度が大きい金属を溶射し形成された溶射被膜を有しており、当該溶射被膜の表面に、潤滑剤が塗布含浸されていることを特徴とする。
【0016】このように特定された発明にあっては、斜板の表面に形成した被膜に潤滑剤を塗布含浸して潤滑作用を改善する一方、被膜を形成する金属の熱伝導度を大きくしているため摩擦熱による局所的な温度上昇を引き起こし難くい。また、溶射により被膜を形成しているため、斜板と被膜とは、強固な付着力を有する。
【0017】請求項2に記載の発明は、上記請求項1に記載の斜板式コンプレッサにおいて、前記金属は、銅合金であることを特徴とする。このように特定された発明にあっては、アンティフリクション性を向上させることができる。
【0018】請求項3に記載の発明は、上記請求項2に記載の斜板式コンプレッサにおいて、前記銅合金は、銅を主成分とし、錫を含有することを特徴とする。このように特定された発明にあっては、高荷重高速回転でのアンティフリクション性を向上させることができる。
【0019】請求項4に記載の発明は、上記請求項1〜3のいずれか1項に記載の斜板式コンプレッサにおいて、前記潤滑剤は、層状構造を有する固体潤滑剤であることを特徴とする。このように特定された発明にあっては、潤滑剤が剪断されやすいため潤滑作用を向上させることができる。
【0020】請求項5に記載の発明は、上記請求項4に記載の斜板式コンプレッサにおいて、前記固体潤滑剤は、二硫化モリブデンであることを特徴とする。このように特定された発明にあっては、摩擦係数が低いため、潤滑作用を向上させることができる。
【0021】
【発明の実施の形態】以下、発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0022】図1は、本発明に係る容量可変斜板式コンプレッサの実施の形態を示す概略断面図、図2は、図1の要部拡大図であり、図3〜図5に示す部材と共通する部材には同一符号を付している。
【0023】本発明に係る容量可変斜板式コンプレッサの実施の形態は、図1に示すように、片頭式であり、シリンダブロック21と、このシリンダブロック21の右端側に位置するリヤハウジング20rと、左端側に位置するフロントハウジング20fとを有している。また、両ハウジング20r,20fは、ボルトVにより連結されている。
【0024】フロントハウジング20fの中央部には、シャフト1を挿入するための貫通孔23が穿設されている。この貫通孔23には、シャフト1を回転可能に支持するラジアル軸受24が圧入され、近傍にはオイルシール25も配置されている。また、フロントハウジング20fの内壁に包囲されシリンダブロック21に相対しているスペースは、クランク室3であり、シャフト1の回転を斜板2に伝達するヒンジ機構Kが設けられている。
【0025】ヒンジ機構Kは、基端がシャフト1に嵌着され、先端部26aに長孔26bが開設された回転アーム26と、斜板11のジャーナル部2aの背面より回転アーム26の先端部26aに向って突出され、長孔26bに対応する孔が開設された従動アーム29と、長孔26bを挿通するピン30とから構成されている。
【0026】シャフト1には、ばねB1,B2により弾撥された球面ブッシュ28が、シャフト軸方向に滑動可能に設けられている。球面ブッシュ28の球面は、斜板2のジャーナル部2aの中心に開設された中心孔Oの内周面と対向している。このジャーナル部2aと球面ブッシュ28とは、ジャーナル部2aから球面ブッシュ28の中心軸線に沿って突出された一対のピン31により、連結されているため、斜板2は、シャフト1により回転されつつ、ピン31を中心として回動し得るようになっている。つまり、ピン31を支点として傾斜し、傾斜角(シャフト1の軸線に直交する面に対する傾斜角をいう)を調節することができるように構成される。
【0027】なお、フロントハウジング20fの内壁面と回転アーム26との間にはスラスト軸受31tが設けられている。
【0028】シャフト1の他端は、シリンダブロック21まで突出され、ラジアル軸受31rにより回転可能に支持され、さらにシャフト1の端面には、スラスト軸受32が設けられている。
【0029】シリンダブロック21内には、シリンダ室7が円周方向等間隔に複数個開設され、これら各シリンダ室7にはそれぞれピストン6が設置されている。このピストン6は、シリンダブロック21や両ハウジング20r,20fと同様なアルミニウム合金からなり、ピストン往復動時の摺動性を向上させるため表面にコーティング層(例えばフッ素樹脂等から構成される)が形成されている。
【0030】また、ピストン6と斜板2とを連結するスライディングシュー4,5は、斜板2の平板部2b上を摺動するように平滑に仕上げられた平坦面4a,5aと、連結部9,10の球面凹部9s,10sと凹凸嵌合する球状凸面4b,5bとを有しており、斜板2のみそすり回転運動をピストンの往復直線動に変換するようになっている。なお、球面凹部9s,10sは、一つの球面を形成するように加工されており、これにより斜板2の傾斜角度にかかわらず、ガタがないように連結されている。
【0031】シリシダ室7の一端面には、冷媒を吸入するための吸入ポート35と、冷媒を吐出するための吐出ポート36と、吸入ポート35および吐出ポート36への冷媒の流通を制御する吸入弁および吐出弁が複数形成された弁形成プレート37,38を備えたバルブプレート39とが設けられている。
【0032】エバポレータからの帰環冷媒は、吸入室40を通過し、吸入ポート35を経由し、バルブプレート37の図中左側にある弁形成プレート37に形成された吸入弁の弾性的閉鎖力に抗して、吸入工程にあるシリンダ室7に流入するようになっている。一方、ピストンにより圧縮された冷媒は、吐出ポート36を経由し、バルブプレート37の図中右側にある弁形成プレート38に形成された吐出弁の弾性的閉鎖力に抗して吐出され、吐出室41に導かれるようになっている。
【0033】さらに、リヤハウジング20r内には、クランク室3内の圧力状態を調整し、斜板2の傾斜角を調節するコントロールバルブCvが設置されている。このコントロールバルブCvは、帰還する冷媒の吸込圧に応じてクランク室3内の圧力を調整することにより、斜板2の角度を変化させ、コンプレッサから吐出される冷媒量を調節し、コンプレッサの吸入圧が一定になるようにコントロールするものである。
【0034】したがって、斜板2には、圧縮行程にあるピストン6から冷媒圧縮に伴う反力が加わり、ヒンジ機構Kの回りにモーメントM1が作用する。このモーメントM1は、斜板2のピン30より遠い位置のピストン6の方が大きいため、図1における時計方向回りに作用する。また、ばねB1の弾撥力により、モーメントM2が反時計方向に作用する。なお、クランク室3と吸入室40の圧力差によって生じるモーメントM3は、吸入室40の圧力とクランク室3の圧力がほぼ等しくなっているため、無視できる。
【0035】一方、ばねB1の弾撥力によるモーメントM2は、冷媒圧縮に伴う反力によるモーメントM1を下回るように設定されているので、斜板2は、ヒンジ機構Kを中心として時計方向に作用するモーメントにより、傾斜角が大きくなる。その結果、ヒンジ機構Kのピン30が、長孔26bの上端に当接し、ピストン6のストロークが大きくなる。したがって、吐出冷媒量が増大し、冷房サイクル内を循環する冷媒流量も増加し、熱負荷に応じた適正な冷媒流量が吐出され、コンプレッサの吸入圧が次第に下降し、最終的には一定の吸入圧に保たれることになる。
【0036】次に、斜板2の構成について説明する。
【0037】斜板2は、鋳鉄製のジャーナル部2aと高いヤング率の鋼製の平板部2bとを別体に形成し、この両者をねじ部Nにより連結して構成されている。つまり、この斜板2の平板部2bを、大きな圧縮反力に対抗しうる高いヤング率の材料、つまり、引張強度、曲げ剛性等の機械的強度が高い材料、具体的には、炭素鋼、合金鋼等の鋼により構成し、比較的力が加わらないジャーナル部2aを構成する材料を鋳鉄製のものとしている。
【0038】また、図2に示すように、スライディングシュー4,5と摺動自在に接触して挟持される平板部2bには、溶射被膜L1が形成されている。この被膜L1を形成する溶射金属は、アンティフリクション性が良好でかつ熱伝導度が大きい銅合金からなる。この銅合金は、高荷重高速回転での軸受性能の面から、主成分として銅を80%以上含み、錫を含有する合金としている。例えば、亜鉛および錫を含有するホワイトメタル系を使用することも可能である。また、溶射により被膜を形成しているため、斜板と被膜とは、メッキと異なり、強固な付着力を有するため耐久性に優れている。
【0039】さらに、溶射被膜L1の上部には、固体潤滑剤が分散している薄膜からなる潤滑性薄膜L2を形成し、潤滑作用を向上させている。この固体潤滑剤は、潤滑性に優れた剪断されやすい層状構造を有する物質からなり、例えば黒鉛も使用可能だが、摩擦係数の面から二硫化モリブデンとしている。また、潤滑性薄膜L2は、例えば、固体潤滑剤を溶媒に分散し、直接塗布した後、例えば、自然乾燥あるいは焼成して溶媒を除去することにより、溶射被膜の表面に、固体潤滑剤を塗布含浸して形成することが可能である。
【0040】次に、コンプレッサの作動について説明する。
【0041】図外の電磁クラッチがオンされ、ベルトおよびプーリを介してエンジン(いずれも図示せず)により、シャフト1が回転する。これに伴って回転アーム26が回転し、ヒンジ機構Kを介して、斜板2の回転を引き起こす。この際、斜板2がシャフト1に対して傾斜状態にあれば、斜板2はみそすり運動的に回動し、ピストン6の往復動を引き起こし、吸入ポート35からシリンダ室7内に吸入された冷媒は、圧縮されて吐出ポート36より吐出室41に吐出される。
【0042】なお、スライディングシュー4,5は、斜板2が回転しても斜板2の平板部2a上を摺動するのみであるので、ピストン6に回転力が伝達することはない。また、冷房サイクルにおける熱負荷が、予め定められた設定温度よりも高い場合には、冷媒の吸入圧力が高くなるが、コントロールバルブCvの作用により、クランク室14に比較的高圧の吸入圧が導入されるため、内部圧は、吸入圧にほぼ等しくなる。
【0043】したがって、吸入工程にあるピストン6は、前後の圧力差がほとんどなく、シリンダ室7内でスムーズに後退することが可能となり、ストロークが増大する。また、この状態で圧縮が行なわれると、吐出冷媒量が増大し、冷房サイクル内を循環する冷媒流量も増加し、再度熱負荷に応じた適正な冷媒流量が吐出されることになるため、コンプレッサの吸入圧が次第に下降し、最終的には一定の吸入圧に保たれる。
【0044】一方、冷房サイクルにおける熱負荷が小さくなるか、あるいはコンプレッサが高速回転することにより冷媒が過剰になると、帰還冷媒の圧力は、十分なスーパーヒート量が得られず、低圧で帰還することになり、吸入室40の圧力が低くなる。この場合には、コントロールバルブCvの作用により、ピストン6によって圧縮されて吐出ポート36に導かれた高圧冷媒が、クランク室3に導入されることにより、クランク室3の内部圧力が高められる。
【0045】そのため、ピストン6に加わる力のモーメントに差が生じ、ある時点で、ばねB1の弾撥力によるモーメントM2と、クランク室3と吸入室40の圧力差によって生じるモーメントM3との合計が、冷媒圧縮に伴った反力によるモーメントM1を上回り、ヒンジ機構Kを中心として反時計方向に作用するモーメントが発生し、斜板2の傾斜角を小さくする。その結果、ピストン6のストロークが小さくなり、吐出冷媒量は減少するところで、冷媒の吸入、圧縮および吐出は、上述したように、シャフト1に対して傾斜した斜板2と、シリンダ室7により摺動方向が規制されているピストン6とを、スライディングシュー4,5を介して摺動接触させて、斜板2のみそすり回転運動を、ピストン6の往復運動に変換することによりなされる。
【0046】この場合に、潤滑が不十分であっても、斜板2には、溶射被膜L1および潤滑性薄膜L2が形成されているため、斜板2とスライディングシュー4,5との間に焼付きが発生しない。したがって、ピストン6が上死点位置または下死点位置にある場合でも、スライディングシュー4,5が球面凹部9s,10sのシャフト1側の端部近傍に乗り上げるようなことがなく、ましてや、スライディングシュー4,5が噛み込んでロックしたり、さらにはスライディングシュー4,5が脱落したりする事態を回避することができる。
【0047】また、溶射被膜L1の表面の凹部あるいは被膜内部に形成される孔部に存在する潤滑剤は、斜板2とスライディングシュー4,5との摺動接触により、剥離除去されることはないため、長期に渡り潤滑作用を一定に保持することが可能であり、耐久性に優れている。
【0048】本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変することができる。
【0049】例えば、上述した実施の形態では、容量可変斜板式コンプレッサを例に挙げてこれまで説明したが、本願内容は、容量可変式のコンプレッサのみならず、固定容量の斜板式のコンプレッサにも適用できることはもちろんである。また、ピストンは、斜板との連結部の軸方向両側にそれぞれ頭部を有するいわゆる両頭式のものにも適用可能である。
【0050】また、上述した実施の形態では、フロントハウジング20fの内周面に形成された凹状部83は、各ピストン6の回り止め部82ごとに対向して、異なる中心軸を中心とした円弧凹面83aが形成されているが、この円弧凹面83aを、フロントハウジング20fの内周面に沿って全周にわたって形成される円筒内面の全部または一部を構成し、中心軸をシャフト1の中心軸と一致させることも可能である。
【0051】さらに、上述した実施の形態では、固体潤滑剤を例に挙げてこれまで説明したが、摺動条件に応じて潤滑油を適用できることはもちろんであり、潤滑油に固体潤滑剤を添加して用いることも可能である。また、固体潤滑剤を分散する溶媒に、適当な樹脂を結合剤として含有させて、溶射被膜の表面に固定することも可能である。
【0052】
【発明の効果】以上述べたように本発明によれば、それぞれの請求項に記載された構成によって、次のような効果が得られることになる。
【0053】請求項1に記載されている構成にあっては、斜板の表面に形成した被膜に潤滑剤を塗布含浸して潤滑作用を改善する一方、被膜を形成する金属の熱伝導度を大きくし摩擦熱による局所的な温度上昇を引き起こし難くしているため、焼付き防止性を改善させることができる。また、斜板と強固な付着力を有する溶射被膜を形成しているため、耐久性に優れている。
【0054】請求項2に記載の発明は、アンティフリクション性が良好でかつ熱伝導度が大きい銅合金を、溶射用の金属として使用しているため、焼付き防止性を向上させることができる。
【0055】請求項3に記載の発明は、高荷重高速回転でのアンティフリクション性が良好でかつ熱伝導度が大きい、銅を主成分とし、錫を含有する合金を、溶射用の金属として使用しているため、焼付き防止性をさらに向上させることができる。
【0056】請求項4に記載の発明は、剪断されやすい層状構造を有する固体潤滑剤を、溶射被膜の表面に塗布含浸して潤滑作用を向上させているため、焼付き防止性をさらに向上させることができる。
【0057】請求項5に記載の発明は、摩擦係数が低くかつ剪断されやすい層状構造を有する固体潤滑剤である二硫化モリブデンを、溶射被膜の表面に塗布含浸して潤滑作用を向上させているため、焼付き防止性をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る容量可変斜板式コンプレッサの実施の形態を示す概略断面図である。
【図2】 図1の要部拡大説明図である。
【図3】 従来の容量可変斜板式コンプレッサの概略断面図である。
【図4】 図3の要部拡大図である。
【図5】 図4の要部拡大説明図である。
【符号の説明】
1…シャフト、
2…斜板、
2a…ジャーナル部
2b…平板部、
3…クランク室、
4,5…スライディングシュー、
4a,5b…円形平面部、
6…ピストン、
7…シリンダ室、
9,10…連結部、
9s,10s…球面凹部、
L1…溶射被膜、
L2…潤滑性薄膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 クランク室(3)を挿通し回転可能に軸架されたシャフト(1)と、前記クランク室(3)に配置され前記シャフト(1)に連結された斜板(2)と、前記シャフト(1)の回転を前記斜板(2)に伝達するヒンジ機構(K)と、前記斜板(2)が内部で摺動し得るようにスライディングシュー(4,5)を介して連結される連結部(9,10)が形成されシリンダ室(7)の内部を軸方向に往復動される複数のピストン(6)とを有する斜板式コンプレッサにおいて、前記斜板(2)は、前記スライディングシュー(4,5)と摺動自在に接触して挟持される平板部(2b)が形成されており、当該平板部(2b)は、熱伝導度が大きい金属を溶射し形成された溶射被膜(L1)を有しており、当該溶射被膜(L1)の表面に、潤滑剤が塗布含浸されていることを特徴とする斜板式コンプレッサ。
【請求項2】 前記金属は、銅合金であることを特徴とする請求項1に記載の斜板式コンプレッサ。
【請求項3】 前記銅合金は、銅を主成分とし、錫を含有することを特徴とする請求項2に記載の斜板式コンプレッサ。
【請求項4】 前記潤滑剤は、層状構造を有する固体潤滑剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の斜板式コンプレッサ。
【請求項5】 前記固体潤滑剤は、二硫化モリブデンであることを特徴とする請求項4に記載の斜板式コンプレッサ。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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