説明

斜面安定化工法

【課題】グラウンドアンカーのように維持管理に必要な緊張が不要で、また在来の鉄節挿入工における鉄節補強材の曲げ剛性を補って引き抜き抵抗と抑止力を有効に発現させることができる斜面安定化工法を提供することである。
【解決手段】斜面地盤を補強する斜面安定化工法であり、二重管削孔方式で斜面からすべり面以深の所定深度まで削孔を行なってケーシング管を打設し、ついで、前記ケーシング管より削孔機構を回収し、複数の節突起を有する鋼管21と鋼管先端から所定長だけ突出するように該鋼管内に配置した鉄筋22からなる補強材組付体20を削孔機構回収後にケーシング管内にセットし、鋼管内にグラウト材を加圧注入して鋼管先端から該グラウト材を噴出させ、かつ、前記ケーシング管を引き抜くことにより補強材組付体の周囲に地盤改良体を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は斜面安定化工法に関わり、特に、斜面地盤を補強する斜面安定化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
斜面安定工は、地すべりを抑止したり、切土・盛土法面を安定化する工法である。盛土法面とは図18に示すように元の斜面2に盛土したときの斜面1であり、切土法面とは元の斜面2を切土して新たに形成される斜面3である。この法面において、法面表層部の活動しようとする部分(滑ろうとする部分)を移動層、移動層以深を不動層あるいは支持層と定義する。すなわち、斜面は図19に示すように地盤の弱い移動層4と地盤が強固な不動層5とで構成され、移動層4は地震その他の要因で、点線で示す部分に沿って滑落あるいは崩落する可能性が高い。このため、上記の斜面安定工がなされる。斜面安定工には、(a)グラウンドアンカー工、(b)鉄筋(たとえばアンカーボルト)の挿入による補強土工が知られている。
【0003】
グラウンドアンカー工におけるグラウンドアンカー6は図20に示すように3箇所の構造部分、すなわちアンカー頭部6aと、例えば長さ11mのアンカー自由長部6b、例えば長さ4mのアンカー定着長部6cに大別できる。アンカー頭部6aはアンカー力を法面表層部に伝達する部分であり、アンカー自由長部6bは移動層4を貫く部分でアンカー頭部にプレストレス与えるための伝達部分であり、アンカー定着長部6cは不動層5に構築されたアンカー力を発揮する部分である。グラウンドアンカー6は抑止機能として、定着長部6cにより不動層5から得たアンカー力を、自由長部6bを利用して法面表層に配置されたアンカー頭部6aに伝達し、該アンカー頭部6aを構成する受圧構造物(プレキャスト受圧板・法枠・擁壁等)7-1を介して法面表層部より移動層4にプレストレスを与え、滑り面(移動層・不動層の境界部分)の粘着力や摩擦力を増大させ強制的に移動層4を抑止するものである。なお、図において、7−2は崩落した後の現況の崩落面、7−3は施工後の斜面、7−4は法面表層の風化等による剥落防止を目的とした法枠またはロックネット等の固定を行う法面工であり、7−5は切土され、7−6は盛土される部分である。
かかるグラウンドアンカー工は、不動層5に定着部6cを設けるため、深度が深くなると他人の敷地下に侵入し、他の構造物の基礎に接触する可能性があって使えない場合があるという問題がある。
【0004】
鉄筋挿入による補強土工は、図21に示すように地盤の不安定な部位に2〜5m程度の地山補強用鉄筋8を打設してこれを定着材で地山に全面(全長)定着し、地盤変形を抑止せんとするもので、構造、施工が簡単である。しかし、鉄筋挿入による補強土工では1本当たりの長さは短くなるが、全体累計長が長くなってしまい、不経済となる。即ち、鉄筋挿入工では削孔径、注入形態(多くは無圧注入)等の理由により周面摩擦力がとれない上に、鉄筋材は曲げ耐力が低いために曲げ方向の力を受けると相当程度変形し、このため、小ピッチで多数打設しなければならず、結果的に全体累計長がグランドアンカー工以上となってしまう。また、鉄筋挿入による補強土工は、現時点での性能・施工上の限界がD29異形棒鋼、L=7m程度であり、L=7mよりすべり面が深い位置にある場合や、求められる抑止力が高い場合には、地盤変形の抑止を効果的に行なうことができず、危険側に位置する工法となる。
図22はグラウンドアンカー工と鉄筋挿入工による所要数量の比較表であり、削孔径、長さ、ピッチ、段数、斜面幅10m当たりの本数、斜面幅10m当たりの総延長及び施工模式図の一例を示している。
【0005】
地盤補強効果を向上し、かつグラウンドアンカー工や鉄筋挿入工の問題を解決するために、本出願人は、鋼管材周辺部に地盤改良体を形成して地盤を補強する斜面安定化工法を提案している(特許文献1)。この提案されている斜面安定化工法では、(1)周壁にグラウト材吐出孔を複数個有すると共に、複数の節突起を有する鋼管材の内部にビットを含む削孔機構を収容し、(2)該ビットを鋼管材先端から飛び出させて斜面地盤を削孔しながら鋼管材を押して打設し、(3)打設後、前記削孔機構を回収し、削孔機構回収後、鋼管材の内部にグラウト材を加圧注入して前記グラウト材吐出孔からグラウト材を噴出させて、鋼管材周辺部に地盤改良体を形成して地盤を補強する
【0006】
図23は上記の提案されている斜面安定化施工方法の説明図であり、(1)まず、偏心拡径ビット(削孔ビット)2を利用した二重管乾式削孔方式により削孔しつつ、周壁にグラウト材吐出孔を複数個有する鋼管材1を地盤に直接打設する。(2)所定深さまで鋼管材1を打設すれば、削孔ビット2を縮径して該鋼管材1に収めた後、該削孔ビット2、インナーロッド3、ダウンザホールハンマー4などの削孔機構を引き抜き回収する。(3)ついで、注入用パッカー装置のシングルパッカー201を鋼管材1の先端近傍に配置し、グラウト注入管202よりグラウト材を加圧注入すれば、鋼管材1の先端および該鋼管材の周壁に形成したグラウト材吐出孔よりグラウト材を排出する。(4)以後、注入用パッカー装置を用いて段階加圧注入すれば、グラウト材吐出孔よりグラウト材が排出してグラウト柱体31が形成されてゆく。(5)そして、最後に注入用パッカー装置を口元に位置してグラウト材を鋼管材1内に注入すれば、グラウト材吐出孔1よりグラウト材が排出して鋼管材1周辺の全長に亘って均一なグラウト柱体(地盤改良体)31が完成する。すなわち、鋼管材1とグラウト柱体31が一体となった合成杭が完成する。
又、従来技術として図24(A)に示すようにケーシング管9bの中に二重管掘り削孔ロッドとして自穿孔ボルト9aを配置した削孔機を用い、該自穿孔ボルト9aで削孔しながらケーシング管9bを打設し、その後、図24(B)に示すように自穿孔ボルト9aの内孔9cより固化材9dを加圧注入して先端から吐出させながらケーシング管9bをある深さまで引き抜いて、小孔杭を形成する方法がある(特許文献2)。
【特許文献1】特願2007−87883
【特許文献2】特許3927842号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の提案方法は、削孔機構を収容し得る程度の径の鋼管材1を、ダウンザホールハンマーなどを利用した二重管削孔方式により、十分深くまで長尺に削孔・打設し、鋼管全長にグラウト材による地盤改良体31を形成することを前提としているために、鉄筋挿入工に比して施工に時間を要し、経済性が悪いという課題があった。
又、特許文献2の従来技術では、削孔の回転・打撃に耐え得る自穿孔ボルト9aとケーシング管(外管)9bを必要とし、ビットは捨てビットとなるため、非常に高価なものとなる。また、外管はある程度まで引き抜くが、外管と地盤との縁は切れており、地盤に定着しているのは外管以深に位置する自穿孔ボルトのみという構造となり、十分な周面摩擦力をとれない課題があった。
以上より、本発明の目的は、グラウンドアンカーほど長尺施工を行わなくとも、また、維持管理に必要な緊張が不要で、しかも鉄筋の曲げ剛性を補って引き抜き抵抗と共に抑止力を有効に発現させることができる斜面安定化工法を提供することである。
本発明の別の目的は、十分大きな周面摩擦力をとれるようにして、より効果的な補強が可能で、結果的に施工総延長を短くすることができ、経済性が良い斜面安定化工法を提供することである。
本発明の別の目的は、ケーシング管を引き抜く際に補強材組付体がケーシング管と一緒に引き抜かれない(共上がりしない)ようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は斜面地盤を補強する斜面安定化工法である。
本発明の第1の斜面安定化工法は、二重管削孔方式で斜面からすべり面以深の所定深度まで削孔を行なってケーシング管を打設するステップ、打設完了後に前記ケーシング管より削孔機構を回収するステップ、複数の節突起を有する鋼管と鋼管先端から所定長だけ突出するように該鋼管内に配置した鉄筋からなる補強材組付体を前記削孔機構回収後にケーシング管内にセットするステップ、前記鋼管内にグラウト材を加圧注入して鋼管先端から該グラウト材を噴出させ、かつ、前記ケーシング管を引き抜くことにより前記補強材組付体の周囲に地盤改良体を形成するステップを備えている。
本発明の第1の斜面安定化工法は、更に、前記補強材組付体の先端に前記ケーシング管と共に引き抜かれるのを防止する共上がり防止手段を設け、前記ケーシング管の引き抜き時、前記共上がり防止手段を拡径させて削孔壁と接触させ、前記補強材組付体の共上がりを防止するステップを備えている。
【0009】
本発明の第2の斜面安定化工法は、周壁にグラウト材吐出孔を複数個有すると共に複数の節突起を有する鋼管内に第1の削孔機構をセットして、斜面からすべり面以深の所定深度まで削孔しながら該鋼管を打設するステップ、打設完了後、前記鋼管内径より小さい掘削径で削孔する第2の削孔機構を鋼管内にセットするステップ、該第2の削孔機構により前記打設された鋼管先端以深を更に掘り下げて削孔するステップ、該削孔完了後、鋼管内を貫通して前記掘り下げられた削孔内に鉄筋を打設するステップ、前記鋼管内にグラウト材を加圧注入して該鋼管先端及び該鋼管周壁の前記グラウト材吐出孔からグラウト材を噴出させて、前記鉄筋および鋼管周辺部に地盤改良体を形成するステップを備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、全体の施工総延長を短くしながら、効果的な補強を行うことができる。即ち、本発明によれば、不動層側の引き抜き抵抗として、異形棒鋼等による鉄筋を用いることが出来、鋼管部の大きな削孔径と相まって、大きな周面摩擦力をとることが可能となり、しかも、鉄筋の曲げ耐力の不足を鋼管によって補うことができる。
本発明によれば、従来の鉄筋挿入工では不可能であった大径の鉄筋を用いることができるため、施工1本当たり負担すべき抑止力を増大させることが出来、それに伴って打設本数を減らすことができる。
また、鋼管(及び鋼管接続用カップラー)は高価であり、しかも、これが長尺になると削孔・打設に時間がかかるが、本発明によれば、鋼管を短尺に抑えることが出来、施工時間の短縮・経済性向上を図ることが出来る。
又、本発明によれば、補強材組付体の先端にケーシング管と共に引き抜かれるのを防止する共上がり防止手段を設けたから、ケーシング管の引き抜き時、補強材組付体の共上がりを防止することができる。又、これにより、設計上の鉄筋長さ管理及び鋼管の設置位置管理をより正確かつ確実に施工に反映させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(A)概略
図1は本発明の斜面安定化工法の概略説明図であり、補強材組付体を斜面に施工した後の状態を示している。図において、11は移動層、12は不動層、13は滑り面(移動層・不動層の境界部分)、14は崩落した後の現況の崩落面、15は施工後の斜面、16は法面表層の風化等による剥落防止を目的とした法枠またはロックネット等の固定を行う法枠工、17は切土された部分、18は盛土された部分であり、20は補強材組付体である。
補強材組付体20は、複数の節突起を有する比較的短い長さL1(例えば4〜6m程度)の鋼管21と、鋼管先端から所定長だけ突出するように該鋼管内に配置した長さL2(例えば長さ7〜12m程度)の異形棒鋼、ねじふし鉄筋等の鉄筋22を有している。
施工法は、(1)二重管削孔方式(ケーシング削孔方式)で斜面からすべり面13より深く所定深度まで削孔を行なってケーシング管(図示せず)を打設し、(2)打設完了後に該ケーシング管より削孔機構を回収し、(3)しかる後、補強材組付体20をケーシング管内にセットし、(4) 補強材組付体20のセット完了後に鋼管内にグラウト材を加圧注入して鋼管21の先端から該グラウト材を噴出させ、かつ、ケーシング管を引き抜くことにより補強材組付体20の周囲に地盤改良体を形成する。
【0012】
(B)第1実施例
図2は第1実施例の斜面安定化方法により補強材組付体を斜面に施工した場合の施工状態説明図であり、図1と同一部分には同一符号を付している。切土、盛土して形成した斜面19にはF200〜F500程度の法面工16が組み付けられている。この法面工16は、網目状の捨型枠、鉄筋を格子状に組んだ法枠を斜面19にセットし、しかる後、コンクリートを吹き付けることにより斜面19に固定される。法面工16の適所には補強材組付体20を施工するための施工部16aがVU管、ボイド管により位置決めされて形成されている。
補強材組付体20は、パイプ状の鋼管21と、鋼管先端から所定長だけ突出するように該鋼管内に配置した鉄筋22を有している。鋼管21の長さは比較的短くL1(例えば4〜6m程度)、図示例のものでは厚さは8.6mm、口径は114.3mmで、外周には円形の複数の節突起23が等間隔で形成されている。節突起23は図3の(A)、(B)に示すようにビード溶接加工により突起高さが2.5mm以上となるように形成されている。なお、図3の(A)は鋼管21の下半分断面拡大図、(B)は節突起部分の断面図である。
【0013】
鉄筋22は、図示例のものでは直径29mm、長さL2(例えば長さ7〜12m程度)の異形棒鋼、ねじふし鉄筋等(ねじふし鉄筋とする)であり、鋼管21の両端から所定長だけ突出するように鋼管21に取り付けられている。図4は補強材組付体の先端部分の構成図であり、(A)は補強材組付体20の一部破断図、(B)は補強材組付体20の先端図である。4つの補助鉄筋24は鉄筋22を取り囲むように、90度間隔で鋼管21に溶接により取り付けられ、先端にコーン状の先端金具29が装着されている。鉄筋リング25は4つの補助鉄筋24を相互に連結して所定の位置関係を維持するように機能し、これら補助鉄筋24と鉄筋リング25間は溶接により結合されている。鉄筋22、補助鉄筋24、鉄筋リング25により先端鉄筋システムが形成されている。
口元側では補強材組付体20を打設後、支圧板26をねじふし鉄筋22に嵌め込むと共に、ナット27を支圧板26の上からねじふし鉄筋22の雄ねじ部に螺合して締め付けて該支圧板26を法枠工16に押し当てる。なお、点線で囲んだ部分28は後述する削孔機で開けた削孔である。
【0014】
図5は第1実施例の施工方法説明図である。施工の概略は、すべり面13以深まで長さL1(4〜6m程度)の節突起付きの鋼管21を配置し、それより深い位置までは長さL2(7〜12m程度)の鉄筋22を配置し、グラウト材を鋼管21から噴出して地盤改良体を形成する。
すなわち、まず、削孔機(全油圧型ロータリーパーカッションドリル等)31を使用し、ケーシング管32(削孔中に崩れてこないようにビットと共に孔に進入させていく管)を用いて二重管削孔方式で鉄筋建て込み深度まで削孔する(図5(A)の(1))。すなわち、例えば打設鋼管外形φ114.3mmの場合、ケーシング削孔により径φ146mm程度の孔を掘削しながら同時にケーシング管32を打設する。
打設完了後にケーシング管32より削孔機構を回収し、代わりに複数の節突起を有する鋼管21と鋼管先端から所定長だけ突出するように該鋼管内に配置した鉄筋22からなる補強材組付体20をケーシング管内にセットする(図5(A)の(2))。
ついで、鋼管21内にグラウト材33を加圧注入して鋼管先端から該グラウト材を噴出させ、鋼管内と孔底へグラウト材33を注入し(ベースグラウチング)、同時にケーシング管32の引き上げを開始する(図5(B)の(3)参照)。
以後、グラウト材33を加圧注入しながらケーシング管32を引き抜くことにより鉄筋22及び鋼管21の周囲へグラウト材33を注入し(スキングラウチング)、補強材組付体20の周囲に地盤改良体を形成する(図5(B)の(4)参照)。
【0015】
鋼管21の外周に形成した節突起23により地盤と補強材組付体20の荷重伝達性能が大幅に向上し、しかも、節突起23により、ケーシング管31の引き上げ時に補強材組付体20の共上がりを抑止することができる。又、鋼管を設計上の所定の深度に設置すると共に、この鋼管から突出した鉄筋長が所定の長さとなるよう、確実な施工を行なうことができる。
第1実施例によれば、全体の施工総延長を短くしながら、効果的な補強を行うことができる。即ち、第1実施例によれば、不動層側の引き抜き抵抗として、ねじふし鉄筋や異形棒鋼等による鉄筋を用いることが出来、鋼管部の大きな削孔径と相まって、大きな周面摩擦力をとることが可能となり、しかも、鉄筋の曲げ耐力の不足を鋼管によって補うことができる。
また、第1実施例によれば、従来の鉄筋挿入工では不可能であった大径の鉄筋を用いることができるため、施工1本当たり負担すべき抑止力を増大させることが出来、それに伴って打設本数を減らすことができる。更に、鋼管(及び鋼管接続用カップラー)は高価であり、しかも、これが長尺になると削孔・打設に時間がかかるが、本発明によれば、鋼管を短尺に抑えることが出来、施工時間の短縮・経済性向上を図ることが出来る。なお、カップラーは、1個だけ使えば鋼管長として12mまで施工可能であり、この工法で抑止可能な全てのすべりを抑止することができるので、カップラーは無しか、あるいは1個程度の使用が望ましい。
【0016】
・第1変形例
図6は第1変形例の説明図であり、図2の第1実施例と同一部分には同一符号を付している。第1の異なる点は、短尺の錆処理を施された異形ねじふし棒鋼をカップラー41によりカップリングして長尺のねじふし鉄筋22を形成して鋼管21に取り付けている点である。第2の異なる点は、鋼管21とねじふし鉄筋22間が所定の配置状態となるよう、ねじふし鉄筋22にセンタライザー42を取り付けている点である。
図7(A),(B)は防錆加工されたカップラー41の下半分断面図及び側面図、図8(A),(B)はセンタライザー42の正面図及び側面図、図9(A),(B)はナット27の下半分断面図及び側面図である。図10(A),(B)は防錆処理を施された支圧板26の平面図及び断側面図である。
【0017】
・第2変形例
図11は第2変形例の説明図であり、補強材組付体の先端部のみ示しており、図4の第1実施例の先端部と同一部分には同一符号を付している。異なる点は先端鉄筋システムを構成する補助鉄筋24が先端へ行くほど撓って、鋼管21の外径より大きく開くようになっている点である。第1実施例の鋼管21は節突起23を有しているため、ケーシング管32の回収時(図5参照)の共上がりはある程度抑止されているが、第2変形例では、共上がりを確実に防止するために鋼管の先端部に、上記ケーシング管の引き抜き動作に伴って、補強材組付体20が一緒に引き抜かれるのを防止する共上がり防止手段を講じている。
第2変形例の先端鉄筋システムは、鋼管21の先端に溶接された4本の補助鉄筋24とこれら補助鉄筋を相互に連結して所定の位置関係を維持する鉄筋リング25を備え、補助鉄筋24は、放射方向外側に撓るように付勢されている。補助鉄筋24の先端には、コーン状の先端金具29が設けられており、この先端金具29は補助鉄筋24の外側への付勢と相まって、施工時におけるケーシング管32(図5参照)の引き抜き動作に伴って削孔壁に引っ掛かり、補強材組付体全体が浮き上がらないように機能する。また、補助鉄筋24と鉄筋リング25は、補強材組付体20を挿入したときにこれが孔底に沈み込まないようにする効果もある。
【0018】
図12は第2変形例の施工方法説明図であり、先端部のみ示している。
まず、削孔機(全油圧型ロータリーパーカッションドリル等)を使用し、ケーシング管32に収容した削孔機構により二重管削孔方式で鉄筋建て込み深度まで削孔すると共にケーシング管32 を打設する(図12(A))。削孔は、削孔ビット33をケーシング管32の先端から飛び出させ、削孔ロッド34を介して削孔ビットを回転して行う。
ケーシング管32の打設完了後に該ケーシング管32より削孔機構を回収し、複数の節突起を有する鋼管21と鋼管先端から所定長だけ突出するように該鋼管内に配置した鉄筋22からなる補強材組付体20をケーシング管内にセットする(図12(B))。この状態では、補助鉄筋24の外方への付勢力はケーシング管32により押さえ込まれている。
ついで、鋼管21内にグラウト材を加圧注入して鋼管先端から該グラウト材を噴出させ、鋼管内と孔底へグラウト材を注入し、同時にケーシング管32の引き上げを開始する。以後、グラウト材を加圧注入しながらケーシング管32を引き抜くことにより鉄筋22及び鋼管21の周囲へグラウト材を注入し、補強材組付体の周囲に地盤改良体を形成する。ケーシング管32 が引き抜かれてゆくと図12(C)に示すように、補助鉄筋24は外方への付勢力により鋼管21の外径より大きく広がる。この結果、ケーシング管32の引き抜き動作に伴って先端金具29が削孔壁に引っ掛かり、補強材組付体全体が浮き上がらないように機能する。すなわち、ケーシング管32の引き抜き動作に伴って、補強材組付体20が一緒に引き抜かれる共上がりが防止される。
【0019】
(C)第2実施例
図13は第2実施例の斜面安定化方法により補強材組付体を斜面に施工した場合の施工状態説明図であり、図2の第1実施例と同一部分には同一符号を付している。第2実施例は第1実施例より大きな抑止力が求められる場合に有効である。異なる点は、
(1)第1実施例の鋼管より大径のφ165.2mm以上、長さL1(=4〜12m程度)の鋼管21を用いる点、
(2)該鋼管21の外周には第1のピッチで円形の節突起23が形成されると共に、周壁に第2のピッチで逆止弁機構付きグラウト材吐出孔51が形成されている点、
(3)施工に際して、ダウンザホールハンマーを用いて鋼管21をケーシング管の代わりとして用いながら打設する形で掘削し、次に、打設された鋼管先端前方をその鋼管内径より小さい掘削径(φ140mm程度)で削孔して、半径29mm〜51mm、長さL2(=7〜12m)のねじふし鉄筋22を建て込みする点、
である。
図14(A)は鋼管21の下半分断面拡大図、(B)は逆止弁機構付きグラウト材吐出孔51の周辺における鋼管21の長手方向一部破断図である。節突起23は第1実施例と同様に図14(A)に示すようにビード溶接加工により突起高さが2.5mm以上となるように第1のピッチで形成され、また、逆止弁機構付きグラウト材吐出孔51は第2のピッチで図14(B)に示すように、バルブ加工により形成され、吐出孔51aと逆止弁51bで構成され、グラウトの加圧注入時に逆止弁51bが開いてグラウトが吐き出されるようになっている。
【0020】
図15は第2実施例の施工方法説明図である。
ダウンザホールハンマー50用いた二重管乾式削孔方式により削孔しつつ鋼管21を地盤に直接打設する(図15(A)の(1))。ダウンザホールハンマーを用いた二重管乾式削孔方式では、中空の鋼管21の内部に削孔ビット56、インナーロッド52、ダウンザホールハンマー53等の削孔機構を収容し、該削孔ビットを鋼管材先端から飛び出させて打撃と回転作用により削孔を行う。
所定深さまで鋼管21を打設すれば、削孔ビット56、インナーロッド52、ダウンザホールハンマー53等の削孔機構を回収する。鋼管の打設完了後、鋼管21の内径より小さい掘削径で削孔するための先端にビットを備えた別の削孔機構61を鋼管内にセットし、該鋼管先端以深を更に掘り下げて削孔する(図15(A)の(2))。
そして、削孔完了後、削孔機構61を回収し、しかる後、鋼管21の先端より鉄筋部削孔へグラウト材33を注入して(図15(B)の(3))ベースグライチングとし、さらに、鋼管21内から鋼管周壁に設けたグラウト材吐出孔51を介してグラウト材を噴出させる形で(ジェットグラウト)注入してスキングラウチングとする(図15(B)の(4))。次に、先にグラウト材を注入した鉄筋部削孔へ鋼管21内を貫通して鉄筋22を建て込む。これにより、グラウト材が注入された地盤と鉄筋22および鋼管21による地盤改良体が形成される。なお、地盤条件として、すべり面以深は軟岩以上が想定されるので、すべり面以深の鋼管長は1〜3mでよい。
鋼管(及び鋼管接続用カップラー)は高価であり、しかも、これが長尺になると削孔・打設に時間がかかるが、第2実施例によれば、鋼管を短尺に抑えることが出来、施工時間の短縮・経済性向上を図ることが出来る。また、第2実施例によれば、従来の鉄筋挿入工では不可能であった大径の鉄筋を用いることができるため、施工1本当たり負担すべき抑止力を増大させることが出来、それに伴って打設本数を減らすことができる。
【0021】
・第1変形例
図16は第1変形例の説明図であり、図13の第2実施例と同一部分には同一符号を付している。第1の異なる点は、短尺の錆処理を施された異形ねじふし棒鋼をカップラー41によりカップリングして長尺のねじふし鉄筋22を形成して鋼管21に取り付けている点である。第2の異なる点は、鋼管21とねじふし鉄筋22間が所定の配置状態となるよう、センタライザー42をねじふし鉄筋22に取り付けている点である。
【0022】
(D)従来例との比較
図17は従来例と本発明方法の所要数量比較図表であり、削孔径、長さ、ピッチ、段数、斜面幅10m当たりの本数、斜面幅10m当たりの総延長及び施工模式図を示している。また、同一斜面に対して必要な補強として、(a)グラウンドアンカー工、(b)鉄筋挿入による補強土工、(c)本発明の工法を比較した。斜面安定化に際して、グラウンドアンカー工が最も経済的ではあるが、この工法では、グラウンドアンカーが隣接する他の敷地の地下に入り込むことになる。本発明の工法は、所要の長さで削孔・打設を容易に行なえ、しかも、鉄筋挿入工に比して打設本数、総延長を格段に短くしながら、確実な補強効果を得ることが可能となる。
本発明によれば、特許文献1の斜面安定化工法よりも経済的、且つ、内部に挿入している鉄筋分だけ、曲げ耐力も増強され、周面摩擦力もとれるため、より効果的な補強工法となる。
本発明によれば、鉄筋補強土をグレードアップでき、従来の鉄筋挿入工では不可能であった大径・長尺の鉄筋を利用することが出来るため、グラウンドアンカーの問題点を解消し、かつ、十分に該グラウンドアンカー工の代替として適用することができる。
本発明によれば、不動層側の引き抜き抵抗として、異形棒鋼等の鉄筋を用いることができ、同時に大きな周面摩擦力をとることも出来る。
節付き鋼管及びカップラーは高価であるが、本発明によれば、鋼管長を(すべり面が発生する深度+所定長)に抑えることができ、経済施工が可能である。
また、本発明によれば、設計手法として、引張り補強に関しては、公知の技術である鉄筋挿入工法における設計を適用することが出来、しかも、曲げ補強に関しては、頭部自由端の骨組み解析を行って変形量と鋼管応力度のチェックを実施することができる。つまり、斜面安定化に際して、必要とされる抑止力や地盤の硬軟に応じてすべり面下の長さも変化するが、本発明によれば、鋼管と鉄筋の径や長さを計算して容易に変化させることができるので、極めて経済的且つ効率的な施工が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の斜面安定化工法の概略説明図である。
【図2】第1実施例の斜面安定化方法により補強材組付体を斜面に施工した場合の施工状態説明図である。
【図3】第1実施例の鋼管説明図である。
【図4】補強材組付体の先端部分の構成図である。
【図5】第1実施例の施工方法説明図である。
【図6】第1変形例の説明図である。
【図7】第1変形例の防錆加工されたカップラーの説明図である。
【図8】第1変形例のセンタライザーの説明図である。
【図9】第1変形例のナットの説明図である。
【図10】第1変形例の防錆処理を施された支圧板の説明図である。
【図11】第2変形例の説明図である。
【図12】第2変形例の施工方法説明図である。
【図13】第2実施例の斜面安定化方法により補強材組付体を斜面に施工した場合の施工状態説明図である。
【図14】第2実施例の鋼管の説明図である。
【図15】第2実施例の施工方法説明図である。
【図16】第1変形例の説明図である。
【図17】従来例と本発明方法の所要数量比較図表である。
【図18】切土・盛土法面説明図である。
【図19】斜面地盤層説明図である。
【図20】グラウンドアンカー工の説明図である。
【図21】鉄筋挿入による補強土工(鉄筋挿入工)の説明図である。
【図22】グラウンドアンカー工と鉄筋挿入による補強土工(鉄筋挿入工)所要数量の比較表である。
【図23】提案されている斜面安定化施工方法の説明図である。
【図24】従来技術説明図である。
【符号の説明】
【0024】
11 移動層
12 不動層
13 滑り面(移動層・不動層の境界部分)
14 現況の崩落面
15 施工後の斜面
16 法面工
17 切土された部分
18 盛土された部分
20 補強材組付体
21 鋼管
22 鉄筋(例えばねじふし鉄筋)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面地盤を補強する斜面安定化工法において、
二重管削孔方式で斜面からすべり面以深の所定深度まで削孔を行なってケーシング管を打設し、
打設完了後に前記ケーシング管より削孔機構を回収し、
複数の節突起を有する鋼管と鋼管先端から所定長だけ突出するように該鋼管内に配置した鉄筋からなる補強材組付体を前記削孔機構回収後にケーシング管内にセットし、
前記鋼管内にグラウト材を加圧注入して鋼管先端から該グラウト材を噴出させ、かつ、前記ケーシング管を引き抜くことにより前記補強材組付体の周囲に地盤改良体を形成する、
ことを特徴とする斜面安定化工法。
【請求項2】
前記補強材組付体の先端に前記ケーシング管と共に引き抜かれるのを防止する共上がり防止手段を設け、
前記ケーシング管の引き抜き時、前記共上がり防止手段を拡径させて削孔壁と接触させ、前記補強材組付体の共上がりを防止する、
ことを特徴とする請求項1記載の斜面安定化工法。
【請求項3】
斜面地盤を補強する斜面安定化工法において、
周壁にグラウト材吐出孔を複数個有すると共に複数の節突起を有する鋼管内に第1の削孔機構をセットして、斜面からすべり面以深の所定深度まで削孔しながら該鋼管を打設し、
打設完了後、前記鋼管内径より小さい掘削径で削孔する第2の削孔機構を鋼管内にセットし、
該第2の削孔機構により前記打設された鋼管先端以深を更に掘り下げて削孔し、
該削孔完了後、前記掘り下げられた削孔内にグラウト材を加圧注入し、また、鋼管周壁の前記グラウト材吐出孔からグラウト材を噴出させる形で注入し、
該グラウト材が注入された削孔内に前記鋼管内を貫通して鉄筋を建て込み、
グラウト材が注入された地盤と前記鉄筋と前記鋼管とによる地盤改良体を形成する、
ことを特徴とする斜面安定化工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2009−221684(P2009−221684A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−65061(P2008−65061)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000129758)株式会社ケー・エフ・シー (120)
【Fターム(参考)】