説明

斜面安定化工法

【課題】トンネル掘削に際し、崩落の懸念のある斜面をトンネル内から安定化させる。
【解決手段】トンネルT内より切羽の前方上部地盤に対して鋼管先受工10を施工して該鋼管先受工10の先端部を崩落が想定される滑り土塊S中に定着することにより、該鋼管先受工10によって滑り土塊Sの崩落を防止する。切羽前方の地盤に生じる緩み領域Aが滑り土塊Sに達する以前に鋼管先受工10を施工する。鋼管先受工10の先端部を滑り土塊Sの圧縮領域に対して定着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトンネル工法に関わり、特にトンネル掘削方向前方の上方に崩落の可能性がある斜面が存在する場合の斜面安定化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルを貫通させるに際して坑口周辺の斜面が地滑りを生じて崩落することが想定される場合には、その防止対策として坑口周辺の斜面に対して予めグラウンドアンカーや垂直縫地の施工を行うことが従来一般的である。
たとえば図5〜図6に示すようなトンネルTの施工に際して坑口1の周辺の斜面が矢印のように地滑りを生じることが想定される場合には、想定される滑り土塊Sに対して坑外の地表部から予めグラウンドアンカー2を打ち込んで滑り抵抗力を改善し、しかる後に図6に示すようにトンネルTを貫通させて坑口1を施工することが一般的である。
【0003】
このような場合におけるグラウンドアンカー2の施工手法としては、たとえば特許文献1に示される地盤の補強構造および補強方法が採用可能であると考えられる。
なお、図6に示しているように坑口1付近のトンネル天端を安定させる目的でいわゆるAGF工法(注入式長尺先受工法)による鋼管先受工3を施工することも一般的である。
【特許文献1】特開2007−40028号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように斜面崩落防止を目的として坑外の地表部からグラウンドアンカー2や垂直縫地を施工することでは、坑口周辺にそのための用地や作業ヤード、進入路を確保する必要があるから、そのためにかなりの工期や工費を必要とすることはもとより、立地条件によっては十分な作業環境を整備し得ない場合や、周辺の環境保全に充分な考慮を必要とする場合もあり、したがってトンネル工事全体の工期や工費に大きく影響する場合もある。
なお、以上のような斜面崩落はトンネル貫通時における坑口周辺において生じるのみならず、たとえば図7に示すようにトンネルが谷部の下方を通過するために土被りが小さくなるような場合においては谷部斜面が崩落する場合もあり、その対策として谷部斜面に対してグラウンドアンカーや垂直縫地を行う場合にも上記と同様の問題を生じる。
【0005】
そのため、トンネル掘削に際して崩落の懸念のある斜面をグラウンドアンカーや垂直縫地によることなくより容易にかつ確実に安定化させ得る有効適切な工法の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明はトンネルを掘削するに当たり、トンネル掘削方向前方の上方に崩落の可能性がある斜面が存在する場合の斜面安定化工法であって、トンネル内より切羽の前方上部地盤に対して鋼管先受工を施工して該鋼管先受工の先端部を前記斜面の崩落が想定される滑り土塊中に定着することにより、該鋼管先受工によって前記滑り土塊の崩落を防止することを特徴とする。
本発明においては、切羽前方の地盤に生じる緩み領域が滑り土塊に達する以前に鋼管先受工を施工することが好ましい。
また、鋼管先受工の先端部を滑り土塊の圧縮領域に対して定着することが好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、崩落の懸念のある斜面に対する安定化を坑外の地表部からではなくトンネル内から鋼管先受工を施工することで行うので、従来のようにそのための用地や作業ヤード、進入路を坑外に確保する必要はなく、したがってそのために必要であった工期や工費を軽減することができるし、周辺の環境保全の上でも有利である。
特に、トンネル天端を安定させる目的でAGF工法による鋼管先受工を施工する場合には、その鋼管先受工を斜面安定化を目的として施工してその鋼管先受工を滑り土塊に達するように設けて先端部を滑り土塊に対して定着すれば良く、それにより本来はトンネル天端を安定させるために設けられる鋼管先受工が自ずと斜面安定化手段としても機能し、したがって格別の工程や施工機械を必要とせずに斜面の安定化を実現でき、極めて合理的であって全体工期の短縮や工費削減に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施形態を図1〜図3を参照して説明する。
図1に示すように坑口1の施工予定位置の周辺斜面に地滑りが想定される場合、本発明では上述した従来工法のように地表からグラウンドアンカー2を設けることに代えて、トンネルT内からの作業により滑り土塊Sに向けて鋼管先受工10を施工し、その鋼管先受工10の先端部を滑り土塊S中に定着することによって斜面崩落を防止することを主眼とする。
【0009】
具体的には、トンネル貫通に近づいた時点でトンネルT内から切羽の前方上部地盤に対して鋼管先受工10を施工し、その鋼管先受工10の先端部を滑り土塊S中に定着することにより、鋼管先受工10を従来のグラウンドアンカー2のように機能させて滑り土塊Sの滑り抵抗を増大せしめ、以てその崩落を防止するようにしている。
鋼管先受工10の構造やその施工法としては滑り土塊Sの崩落を有効に防止できるものであれば特に限定されないが、従来よりトンネル天端を安定させるための工法として広く採用されているAGF工法(注入式長尺先受工法)が好適に採用可能であり、それによる鋼管先受工10をたとえば図示例のように3段ないしそれ以上の範囲にわたって設ければ良い。
【0010】
いずれにしても鋼管先受工10により滑り土塊Sの崩落を確実に防止するためには、事前の地盤調査と解析により滑り土塊Sの範囲やその地質を予め充分に把握したうえで、施工するべき鋼管先受工10の配置設計(設置範囲や設置段数、トンネル軸線に対する傾斜角、鋼管長、グラウトの注入圧や注入範囲等)および施工管理を3次元CADを活用して実施することが好ましい。
【0011】
特に、鋼管先受工10の先端部は滑り土塊Sに対して確実に定着する必要があり、そのためには鋼管先受工10の先端が可及的に地表面の近傍に達するように設けることが好ましいが、鋼管が地表面にまで貫通してしまうと鋼管内に注入されるグラウトが地表にリークしてしまうから通常はそうならない程度に鋼管先受工10の先端と地表面との間にある程度の距離(たとえば1.5m程度)を土被りとして確保するような設計、施工とすると良く、そのためには地形情報も考慮した3次元CADによる設計および施工管理が不可欠である。
なお、グラウト注入の際に鋼管先端部にパッカーを装着する等してグラウトのリークを防止できる場合には鋼管先受工10を表面の直下に達するように設けることでも良い。但し、地表部での作業が必要となることは好ましくないのでそれは避けるべきである。
【0012】
また、鋼管先受工10は可及的に滑り土塊Sの全体に対して広範囲に設けることが好ましいが、少なくとも滑り土塊Sの圧縮領域(一般には滑り土塊全体のうちの下半部分で、滑り土塊S全体を支えている領域)に対して設けることが有効であり、そのためには事前調査により圧縮歪みが発生している領域や発生することが想定される領域を把握してその領域に対して鋼管先受工10を重点配置することが有効である。
【0013】
なお、図6に示したようにトンネル天端安定のために設けられる通常の鋼管先受工3はトンネル軸線に対する傾斜角が5〜10°程度とされることが通常であるが、本実施形態において斜面安定化のために設ける鋼管先受工10は斜面安定化のために最も有利となるようにトンネル軸線に対する傾斜角を最適に設定すれば良く、必要であれば図示例のように20°程度の急角度としても良い。
但し、AGF工法において傾斜角をあまり大きくした場合には鋼管の基端部からその最先端部にまでグラウトを確実に注入することは必ずしも容易ではないので、たとえばパッカーにより先端側から0.5〜3.0m程度ずつ区間を区切って段階的に注入していくステップ注入を行うことが好ましい。
【0014】
さらに、一般にトンネル掘削に際しては掘進に伴って切羽前方に多少なりとも地盤の緩み領域A(図1参照。通常は坑径Dに対して切羽前方の1D程度までの範囲と、その上方の範囲)が生じることが不可避であるが、本実施形態ではそのような地盤の緩み領域Aが滑り土塊Sに達する以前の段階で鋼管先受工10を施工すべきである。
すなわち、鋼管先受工10を施工する以前に緩み領域Aが滑り土塊Sに達してしまうと滑り土塊Sがより滑り易くなる懸念が増大するが、図1に示すように緩み領域Aが滑り土塊Sに達する以前に鋼管先受工10を施工してしまえばそのような懸念なく鋼管先受工10を支障なく施工できるし、鋼管先受工10を施工してしまえばそれ以降に緩み領域Aが滑り土塊Sに達しても滑り土塊Sを安定に支持し得てその崩落を確実に防止できるものとなる。
そして、そのためには図1に示しているように切羽から滑り土塊Sまでの距離(滑り土塊Sに対する鋼管の打設位置までの距離)が少なくとも1D以上である段階で鋼管先受工10を施工すれば良い。具体的には、坑径D=10mの場合には上記の距離が10m以上である時点で鋼管先受工10を施工すれば良い。勿論、通常のAGF工法では15〜30m程度の鋼管先受工の施工が可能であるので、本実施形態においてそのような長尺の鋼管先受工10を施工することは何ら困難ではない。
【0015】
以上のようにして鋼管先受工10を施工して滑り土塊Sの崩落を防止した後、図3に示すようにさらに掘進してトンネルTを貫通させて坑口1を施工すれば良い。その際、トンネル天端の安定性を確保する必要があれば従来と同様にトンネル天端に対しても鋼管先受工3を施工すれば良い。
【0016】
以上の工法によれば、貫通に先立つ坑口周辺斜面に対する安定化を坑外の地表部からではなくトンネルT内から鋼管先受工10を施工することで行うので、従来のようにグラウンドアンカー2や垂直縫地を施工するための用地や作業ヤード、進入路を坑外に確保する必要はなく、したがってそのために必要であった工期や工費を軽減することができるし、坑口周辺の環境保全の上でも有利である。
【0017】
特に、トンネル天端を安定させるためにAGF工法による鋼管先受工3を施工する場合には、貫通の前段階でそのAGF工法により滑り土塊Sに達するような鋼管先受工10を設けることのみで、格別の工程や施工機械を必要とせずに坑口斜面を安定化できることになる。
勿論、トンネル天端安定のためのAGF工法を実施しない場合においても、斜面安定化のための工法としてAGF工法やそれと同等ないし類似の工法により鋼管先受工10を実施すれば良く、いずれにしてもトンネル天端の安定化手法として多くの実績のある鋼管先受工10をほぼそのまま斜面安定化に利用することで坑口斜面を確実かつ容易に安定化することができる。
【0018】
なお、上記の鋼管先受工10をトンネル貫通時の仮設的な施設として施工する場合には鋼管先受工10の耐久性や長期間にわたる信頼性は特に問題とならないが、トンネル完成後も斜面安定のための恒久施設としてそのまま利用する場合には充分な耐久性や信頼性が必要とされるので、その場合には防錆性能に優れるメッキ鋼管を採用する等の耐久性を考慮した仕様とすることが好ましい。
【0019】
また、上記実施形態はトンネル貫通に先立つ坑口周辺斜面の崩落を防止する場合の適用例であるが、本発明はそのような場合に限らず、たとえば図4に示すようにトンネルが谷部を通過するような場合においてトンネル上部の谷部斜面の崩落が懸念される場合にはその対策として同様に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態を示すもので、トンネル貫通に先立ち坑口周辺斜面を安定化させるための鋼管先受工を施工した状態を示す図である。
【図2】同、平面図である。
【図3】同、トンネルを貫通させた状態を示す図である。
【図4】同、谷部斜面を安定化させる場合の適用例である。
【図5】従来工法の一例を示すもので、トンネル貫通に先立ち坑口周辺斜面を安定化させるためのグラウンドアンカーを施工した状態を示す図である。
【図6】同、トンネルを貫通させた状態を示す図である。
【図7】同、谷部斜面を安定化させる場合の適用例である。
【符号の説明】
【0021】
T トンネル
S 滑り土塊
A 緩み領域
1 坑口
3 鋼管先受工(トンネル天端安定化用)
10 鋼管先受工(斜面安定化用)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルを掘削するに当たり、トンネル掘削方向前方の上方に崩落の可能性がある斜面が存在する場合の斜面安定化工法であって、
トンネル内より切羽の前方上部地盤に対して鋼管先受工を施工して該鋼管先受工の先端部を前記斜面の崩落が想定される滑り土塊中に定着することにより、該鋼管先受工によって前記滑り土塊の崩落を防止することを特徴とする斜面安定化工法。
【請求項2】
請求項1記載の斜面安定化工法であって、
切羽前方の地盤に生じる緩み領域が前記滑り土塊に達する以前に前記鋼管先受工を施工することを特徴とする斜面安定化工法。
【請求項3】
請求項1または2記載の斜面安定化工法であって、
前記鋼管先受工の先端部を前記滑り土塊の圧縮領域に対して定着することを特徴とする斜面安定化工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−126938(P2010−126938A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−300861(P2008−300861)
【出願日】平成20年11月26日(2008.11.26)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】