説明

斜面緑化用客土の土留施工方法及びその施工方法に使用される斜面緑化用客土保持用具

【課題】従来技術の有する技術的利点を損うことなく、簡単な構成によって、施工性がよく使い勝手の良好な斜面緑化用客土の土留技術を提供する。
【解決手段】客土保持用具1を、複数本の横線9を備え、斜面に対して略水平に設置する山側水平枠11と、多孔状の面状部材からなり山側水平枠11の長辺側縁部に対して開閉自在に連結された谷側支持枠14とから構成する。一端部が谷側支持枠14に対して回動自在に連結され、他端部に山側水平枠11を構成する複数本の横線9に対して選択的に掛止可能な掛止部を形成した角度調整部材16を備え、当該斜面の傾斜状態に応じて角度調整部材16の他端部に形成した掛止部を山側水平枠11を構成する複数本の横線9の中から選択的に掛止することにより、山側水平枠11を略水平状態に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜面に付加される緑化用客土を保持する斜面緑化用客土の土留技術に関する。特に、斜面緑化用客土を保持するための山側の客土保持枠部分が斜面に対して略水平状態に設置される形態の斜面緑化用客土保持用具を用いる土留技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の山側の客土保持枠部分が斜面に対して略水平状態に設置される形態の斜面緑化用客土保持用具を用いる土留技術は従来から知られている(特許文献1参照)。この従来技術の場合には、山側の客土保持枠部分が斜面に対して略水平状態に設置され、この部分の緑化用客土の表面が略水平状態となることから、草木類の流下が防止され植栽に有効である。また、その山側の客土保持枠部分と谷側の客土保持枠部分と斜面との3者に囲まれた空間が形成され、その空間部の内部に収容された緑化用客土は的確に保持されることから、木本類の植栽にもきわめて有効である。さらに、当該斜面全体に設置されるそれぞれの山側の客土保持枠部分が略水平状態に統一されることから、均整がとれて景観上も有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−190432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述の従来技術の場合には、前述の技術的利点を有するものの、客土保持用具が、1枚の板状材料を折曲げたり、2枚の板状材料を溶接することによって山形の断面形状に形成されていたため、その山側の客土保持枠部分を当該斜面に対して水平状態に設置することは容易ではなく、施工性に問題があり作業性がよくなかった。
【0005】
そこで、本発明では、上記従来技術の問題点を解消し、この従来技術の有する前述の技術的利点を損うことなく、簡単な構成によって、施工性がよく使い勝手の良好な斜面緑化用客土の土留技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、複数本の横線を備えた面状部材からなり斜面に対して略水平に設置する山側水平枠と、多孔状の面状部材からなり前記山側水平枠の長辺側縁部に対して開閉自在に連結され、その山側水平枠の長辺側縁部を斜面に対して支持する谷側支持枠とから構成され、一端部が前記谷側支持枠に対して回動自在に連結され、他端部に前記山側水平枠を構成する複数本の横線に対して選択的に掛止可能な掛止部を形成した角度調整部材を備えた斜面緑化用客土保持用具を用い、該斜面緑化用客土保持用具を斜面に設置するに際して、当該斜面の傾斜状態に応じて前記角度調整部材の他端部に形成した前記掛止部を前記山側水平枠を構成する複数本の横線の中から選択的に掛止することにより、前記山側水平枠を略水平状態に設置するという技術手段を採用した。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、次の効果を得ることができる。
(1)前記角度調整部材の他端部に形成した掛止部を山側水平枠を構成する複数本の横線の中から選択的に掛止することにより、山側水平枠を略水平状態にきわめて簡便に調整できるので、その施工性が良好で作業効率を向上できる。
(2)山側水平枠を構成する複数本の横線と、一端部が谷側支持枠に対して回動自在に連結され、他端部に掛止部を形成した角度調整部材との組合わせを採用したので、簡単な構成によって、山側水平枠の略水平状態に関する調整作業の施工性を大幅に改善できる。
(3)山側水平枠は、当該斜面の傾斜状態に関わらず、簡便に略水平状態に調整されるので、この部分の緑化用客土の表面が略水平状態となることから、草木類の流下が防止され植栽に有効であるとともに、その山側水平枠の下方の空間部内に緑化用客土が的確に保持されるので、木本類の植栽にもきわめて有効である。さらに、当該斜面全体に設置されるそれぞれの山側水平枠が略水平状態に統一されるので、全体に均整がとれ、景観上も有効である。
(4)斜面緑化用客土保持用具を構成する山側水平枠と谷側支持枠とは開閉自在に連結され、また角度調整部材も一端部で回動自在に連結されているので、折畳みが可能なことから、運搬時や保管時における取扱いがきわめて簡便である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る斜面緑化用客土保持用具を適用した実施形態を例示した概略説明図である。
【図2】同実施形態の植栽後の状態を例示した斜視図である。
【図3】図2の一部を拡大して示した部分拡大図である。
【図4】本発明に係る斜面緑化用客土保持用具の実施例を拡大して示した斜視図である。
【図5】同実施例における山側水平枠の水平状態に関する調整原理を示した概略説明図である。
【図6】同実施例の他の調整状態を示した概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る斜面緑化用客土の土留技術は、斜面に対して付加される客土の滑落を防止するものであれば、更に他の緑化基材を合わせて付加する場合にも適用し得ることはいうまでもない。本発明の適用形態は、地山などの自然のままの斜面でも、造成された斜面でも、予めコンクリートやモルタル等によって被覆された斜面でも、それらの表面に客土を付加して緑化を図る場合に適用することが可能である。本発明に係る斜面緑化用客土保持用具を構成する山側水平枠は、少なくとも複数本の横線を備えた面状部材からなり、それらの横線は所要数の縦線等により支持され、矩形状の枠状に形成される。なお、横線の設置数に関しては、当該斜面の傾斜角やその傾斜角に関する変化の範囲などに応じて増減することができる。一方、前記斜面緑化用客土保持用具を構成する谷側支持枠は、前記山側水平枠の長辺側縁部に対して開閉自在に連結され、その山側水平枠の長辺側縁部を斜面に対して支持し得る剛性を有するものであれば、溶接金網、クリンプ金網、エキスパンドメタル、ラス網等の網状部材や、パンチングメタルなどの多数の開孔部を備えた適宜の多孔状の面状部材から構成することができる。さらに、前記角度調整部材の設置数に関しては、客土保持用具の水平方向の長さなどに応じて、前記山側水平枠と谷側支持枠との間の角度を的確に保持できるように、適宜設定することになる。また、その角度調整部材の他端部に形成される掛止部は、前記山側水平枠を構成する複数本の横線に対して選択的に掛止可能なものであればよく、フック状に折曲げ形成した掛止部などが好適である。
【実施例】
【0010】
図1は本発明に係る斜面緑化用客土保持用具を適用した実施形態を例示した概略説明図である。図1に示したように、本発明に係る客土保持用具1は、斜面2に対して適宜の配列で多数設置される。しかる後、その斜面2の表面に対して吹付け工法などにより客土3が付加され、緑化などが図られることになる。なお、図中4はアンカーピンを示したものである。
【0011】
図2は植栽後の状態を例示した斜視図であり、図3はその一部を拡大して示した部分拡大図である。図2に示したように、本実施形態では、大きめの木本類5を客土保持用具1によって形成される水平部分に植栽し、その下方の空間部内に的確に保持される客土3に対して根を張ることにより確実に成育できるようにしている。また、その他の客土の部分には、小さめの草木類6を植栽している。図中7は断面が半円状の縦枠を示したものであり、この縦枠7の内部には、図3中の破断部分に示したように鉄筋8が埋設されている。そして、この鉄筋8を客土保持用具1の両側部分に貫通させるなどして、客土保持用具1の両側を鉄筋8に連結することにより、所期の位置に固定されるように構成されている。また、鉄筋8には前記アンカーピン4がその上端部に形成された掛止部などを介して連結されるように構成されており、図1に示したように、所定の間隔で設置された多数のアンカーピン4によって、それぞれの鉄筋8が斜面2に対して固定されるように構成されている。すなわち、本実施例では、斜面2に設置する多数のアンカーピン4によりそれぞれの鉄筋8を斜面2に固定し、それらの鉄筋8に対して客土保持用具1の両側部分を連結支持することにより、各客土保持用具1を斜面2に対して固定するという固定手段を採用している。因みに、この場合の施工手順に関しては、客土保持用具1を先に設置し、その両側部分を連結支持するように鉄筋8を後から設置してアンカーピン4で固定するようにしてもよいし、逆に鉄筋8を先に設置し、その鉄筋8に対して後から客土保持用具1の両側部分を連結支持するようにしてもよい。
【0012】
次に、図4〜図6に基づいて、本発明の特徴に関して説明する。図4は本発明に係る斜面緑化用の客土保持用具に関する実施例を拡大して示した斜視図である。図示のように、本実施例に係る客土保持用具1は、複数本の横線9を備え、それらの横線9に直交する縦線10とにより形成された面状部材からなり前記斜面2に対して略水平に設置される山側水平枠11と、横線12と縦線13により前記客土3を土留めできるように小さめの網目に形成された面状部材からなり前記山側水平枠11の長辺側縁部に対して開閉自在に連結された谷側支持枠14とから構成される。図中15は山側水平枠11と谷側支持枠14とを開閉自在に連結するための連結リングを示したものである。因みに、この連結リング15に代え、縦線10又は縦線13の端部を折曲げて他方の枠を構成する横線12又は横線9に巻付けることにより、山側水平枠11と谷側支持枠14とを開閉自在に連結することも可能である。
【0013】
さらに、前記谷側支持枠14の横線12と縦線13との交点部分には、図示のように、角度調整部材16の一端部が回動自在に連結されている。すなわち、本実施例における角度調整部材16では、一端部を折曲げて谷側支持枠14の横線12と縦線13との交点部分に回動自在に巻付けることにより可回動連結部を形成するとともに、他端部をフック状に折曲げて掛止部を形成し、この掛止部を前記山側水平枠11を構成する複数本の横線9に対して選択的に掛止して、山側水平枠11と谷側支持枠14との間の角度αを調整することにより、山側水平枠11を水平状態に調整し得るように構成されている。因みに、本実施例では、角度調整部材16の一端部を谷側支持枠14の横線12と縦線13との交点部分に回動自在に巻付ける形態を例示したが、縦線相互間の横線12に対して巻付けるようにしてもよい。
【0014】
次に、図5、図6に基づいて、本実施例に係る前記客土保持用具1における山側水平枠11の水平状態に関する調整原理について説明する。これらの図5、図6に例示した調整状態は、傾斜角の異なる斜面2に対して山側水平枠11が略水平状態になるように調整した場合の要部を概略的に示したものである。先ず、図5の調整状態に関して説明すると、この調整状態は、斜面2の傾斜角度がθaの場合に対応して山側水平枠11が略水平状態になるように調整した状態を例示したものである。図示のように、この場合には、山側水平枠11と谷側支持枠14との間の角度αを変化させながら山側水平枠11が略水平になるように調整するとともに、角度調整部材16をその一端部に形成した可回動連結部17を中心に回動して、その角度調整部材16の他端部に形成した掛止部18を山側水平枠11を構成する横線9aに掛止させることにより、山側水平枠11の水平状態が保持されることになる。
【0015】
図6に示した調整状態は、斜面2の傾斜角度がθbの場合に対応して山側水平枠11が略水平状態になるように調整した状態を例示したものである。図示のように、この場合には、山側水平枠11と谷側支持枠14との間の角度αを変化させながら山側水平枠11が略水平になるように調整するとともに、角度調整部材16をその一端部に形成した可回動連結部17を中心に回動して、その角度調整部材16の他端部に形成した掛止部18を山側水平枠11を構成する横線9bに掛止させることにより、山側水平枠11の水平状態が保持されることになる。
【0016】
以上に述べたように、本発明に係る客土保持用具1によれば、当該斜面2の傾斜角θに応じて、山側水平枠11と谷側支持枠14との間の角度αを変化させながら山側水平枠11が略水平になるように調整し、その山側水平枠11の水平状態を、角度調整部材16を可回動連結部17を中心に回動して他端部に形成した掛止部18を山側水平枠11を構成する複数の横線9に対して選択的に掛止させることにより保持することが可能である。なお、以上の説明では、山側水平枠11の水平状態に関する調整原理について概略的に説明したが、山側水平枠11を構成する横線9の設置数を増減したり、角度調整部材16の可回動連結部17の位置を変えることにより、当該斜面2の傾斜角度θの変化に対するきめ細かい対応も可能である。
【符号の説明】
【0017】
1:客土保持用具、2:斜面、3:客土、4:アンカーピン、5:木本類、6:草木類、7:縦枠、8:鉄筋、9:横線、10:縦線、11:山側水平枠、12:横線、13:縦線、14:谷側支持枠、15:連結リング、16:角度調整部材、17:可回動連結部、18:掛止部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面に付加される緑化用客土を保持する斜面緑化用客土の土留施工方法であって、複数本の横線を備えた面状部材からなり斜面に対して略水平に設置する山側水平枠と、多孔状の面状部材からなり前記山側水平枠の長辺側縁部に対して開閉自在に連結され、その山側水平枠の長辺側縁部を斜面に対して支持する谷側支持枠とから構成され、一端部が前記谷側支持枠に対して回動自在に連結され、他端部に前記山側水平枠を構成する複数本の横線に対して選択的に掛止可能な掛止部を形成した角度調整部材を備えた斜面緑化用客土保持用具を用い、該斜面緑化用客土保持用具を斜面に設置するに際して、当該斜面の傾斜状態に応じて前記角度調整部材の他端部に形成した前記掛止部を前記山側水平枠を構成する複数本の横線の中から選択的に掛止することにより、前記山側水平枠を略水平状態に設置することを特徴とする斜面緑化用客土の土留施工方法。
【請求項2】
複数本の横線を備えた面状部材からなり斜面に対して略水平に設置される山側水平枠と、多孔状の面状部材からなり前記山側水平枠の長辺側縁部に対して開閉自在に連結され、その山側水平枠の長辺側縁部を斜面に対して支持する谷側支持枠とから構成され、一端部が前記谷側支持枠に対して回動自在に連結され、他端部に前記山側水平枠を構成する複数本の横線に対して選択的に掛止可能な掛止部を形成した角度調整部材を備え、当該斜面の傾斜状態に応じて前記角度調整部材の他端部に形成した前記掛止部を前記山側水平枠を構成する複数本の横線の中から選択的に掛止することにより、前記山側水平枠を略水平状態に調整し得るように構成したことを特徴とする斜面緑化用客土保持用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−122382(P2011−122382A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282245(P2009−282245)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【出願人】(000112886)フリー工業株式会社 (35)
【出願人】(390019323)小岩金網株式会社 (32)
【Fターム(参考)】