説明

斜面緑化用客土保持具

【課題】保管や運搬の際に効率が良い、斜面緑化用客土保持具を提供すること。
【解決手段】縦枠2間に設けられる山側金網11と、基端側が山側金網11の下端に回動可能に連結される一方、先端側には、斜面Sの傾斜方向に沿って所定間隔を空けて設けられた複数の被掛止部を有する谷側金網12と、基端側が山側金網11の上端に回動可能に連結される一方、先端側が谷側金網12の複数の被掛止部のうち一の被掛止部に引っ掛けられ、山側金網11の上端と谷側金網12の先端とがなるべく水平に近づくように、山側金網11の下端を中心に谷側金網12を任意の起立角度に調整し支持する角度調整支持金具13とを有し、角度調整支持金具13によって連結された山側金網11と谷側金網12との間に斜面緑化用客土を保持させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜面に緑化用客土を保持させる斜面緑化用客土保持具に関する。
【背景技術】
【0002】
斜面に緑化用客土を保持させる斜面緑化用客土保持具として、例えば、金網を短手方向に折り曲げてL字状にしたものが提案されている(例えば、特許文献1,2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−138629号公報
【特許文献2】特開2004−190432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、前述の背景技術のものは、いずれも金網を短手方向に折り曲げたL字形状のまま保管し運搬して斜面に設置するため、保管や運搬の面で効率が悪い、等の課題があった。
【0005】
そこで、本発明は、保管や運搬の際に効率が良い、斜面緑化用客土保持具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明の斜面緑化用客土保持具は、斜面に沿って設けられる山側多孔面状部材と、基端側が前記山側多孔面状部材の下端に回動可能に連結される一方、先端側には、前記斜面の傾斜方向に沿って所定間隔を空けて設けられた複数の被掛止部を有する谷側多孔面状部材と、基端側が前記山側多孔面状部材の上端部に回動可能に連結される一方、前記山側多孔面状部材の上端と前記谷側多孔面状部材の先端とが水平に近づくように、先端側が前記谷側多孔面状部材の複数の被掛止部のうち一の被掛止部に引っ掛けられ、前記山側多孔面状部材の下端を中心に前記谷側多孔面状部材を任意の起立角度に調整し支持する角度調整支持部材と、を有し、前記角度調整支持部材によって前記起立角度に設定された前記山側多孔面状部材と前記谷側多孔面状部材との間に、斜面緑化用客土を保持させる、ことを特徴とする斜面緑化用客土保持具である。なお、斜面緑化用客土は、草木の種や肥料、客土等が混在しているものである。
前記課題を解決するため、本発明の別の斜面緑化用客土保持具は、斜面に沿って設けられ、上端側には、前記斜面の傾斜方向に所定間隔を空けて設けられた複数の被掛止部を有する山側多孔面状部材と、基端側が前記山側多孔面状部材の下端部に回動可能に連結された谷側多孔面状部材と、基端側が前記谷側多孔面状部材の下端部に回動可能に連結される一方、前記山側多孔面状部材の上端と前記谷側多孔面状部材の先端とが水平に近づくように、先端側が前記山側多孔面状部材の複数の被掛止部のうち一の被掛止部に引っ掛けられ、前記山側多孔面状部材の下端を中心に前記谷側多孔面状部材を任意の起立角度に調整し支持する角度調整支持部材と、を有し、前記角度調整支持部材によって前記起立角度に設定された前記山側多孔面状部材と前記谷側多孔面状部材との間に、斜面緑化用客土を保持させる、ことを特徴とする斜面緑化用客土保持具である。
ここで、前記山側多孔面状部材および前記谷側多孔面状部材は、前記斜面の傾斜方向に沿って設けられる複数の縦枠間に設けられ、前記斜面の傾斜方向とは垂直方向となる前記山側多孔面状部材の長手方向の長さを、前記谷側多孔面状部材の長手方向の長さより長く形成して、前記山側多孔面状部材の長手方向の両端が、前記谷側多孔面状部材の長手方向の両端より突出する両端突出部を形成する、ようにしても良いし、しなくても良い。
また、前記山側多孔面状部材および前記谷側多孔面状部材は、前記斜面の傾斜方向に延びる複数本の縦線と、前記斜面の傾斜方向とは垂直方向に延びる複数本の横線とを交差させた金網から構成し、前記複数の被掛止部は、前記複数本の横線を、前記斜面の傾斜方向に沿って所定間隔を空けて設けることにより構成し、前記複数の被掛止部を構成する前記複数本の横線間の間隔は、前記複数の被掛止部以外における前記横線間の間隔より大きくする、ようにしても良いし、しなくても良い。
【発明の効果】
【0007】
本発明の斜面緑化用客土保持具によれば、保管時や運搬時には山側多孔面状部材と谷側多孔面状部材とを折り畳んでおく一方、施工時には山側多孔面状部材を斜面に沿って設ける一方、山側多孔面状部材の上端と谷側多孔面状部材の先端とが水平に近づくように、角度調整支持部材によって山側多孔面状部材に対し谷側多孔面状部材を任意の起立角度に設定し起こして支持し、その起立角度に設定された山側多孔面状部材と谷側多孔面状部材との間に斜面緑化用客土を保持させるようにしたため、例えば、次のような効果が得られる。
(1)山側多孔面状部材と谷側多孔面状部材とを折り畳んで保管や運搬することが可能となるので、保管の際のスペース効率や、運搬の際の作業効率等を向上させることができる。
(2)山側多孔面状部材の上端と谷側多孔面状部材の先端とが水平に近づくように起立角度を設定可能なので、斜面緑化用客土保持具に盛った斜面緑化用客土や、斜面緑化用客土から生えた草木類の流出を防止することができ、植栽を損失少なく生育することができる。
(3)また、斜面全体に設置される山側多孔面状部材の上端と谷側多孔面状部材の先端とがほぼ水平に統一されるので、全体に均整がとれ、景観上も良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施形態1の斜面緑化用客土保持具を斜面に設置し一定期間経過後の斜面における緑化状態の一例を示す斜視図である。
【図2】実施形態1の斜面緑化用客土保持具の設置状態を拡大して示す拡大斜視図である。
【図3】実施形態1の斜面緑化用客土保持具を断面矩形縦枠タイプの緑化用法枠構造物に適用した状態を示す正面図である。
【図4】(a),(b)は、それぞれ、図3に示す実施の形態1の斜面緑化用客土保持具を使用して構成した緑化用法枠構造物のA−A線断面図、B−B線断面図である。
【図5】(a),(b)は、それぞれ、図3に示す実施の形態1の斜面緑化用客土保持具を使用して構成した緑化用法枠構造物のC−C線断面図、D−D線断面図である。
【図6】実施の形態1の斜面緑化用客土保持具を構成する山側金網と谷側金網とを連結して広げた状態を示す全体図である。
【図7】図6に示す斜面緑化用客土保持具を構成する山側金網の平面図である。
【図8】図6に示す斜面緑化用客土保持具を構成する谷側金網の平面図である。
【図9】図6に示す斜面緑化用客土保持具を構成する山側金網と谷側金網とを閉じた状態を示す全体図である。
【図10】実施の形態1の斜面緑化用客土保持具を構成する角度調整支持金具の側面を示す側面図である。
【図11】実施の形態1の斜面緑化用客土保持具を構成する角度調整支持金具を用いて山側金網と谷側金網とを連結した状態を示す断面図である。
【図12】斜面に実施の形態1の斜面緑化用客土保持具を設置した後、緑化用客土(植生基材)を吹き付ける状態を示す図である。
【図13】斜面緑化用客土保持具等を使用して施工現場の斜面に設置した実施形態2の緑化用法枠構造物の状態を示す正面図である。
【図14】(a),(b)は、それぞれ、断面矩形縦枠タイプの緑化用法枠構造物のE−E線断面図、F−F線断面図である。
【図15】実施の形態2の斜面緑化用客土保持具を構成する山側金網と谷側金網とを連結して広げた状態を示す全体図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る斜面緑化用客土保持具の実施の形態1,2について説明する。なお、本発明における斜面とは、自然に形成された自然斜面や、人工的に形成された切土斜面すなわち法面等を対象とする。また、緑化用法枠構造物には、後述する縦枠が断面欠円形縦枠タイプと、断面矩形縦枠タイプとがあるので、まずは、前者の断面欠円形縦枠タイプについて実施の形態1の斜面緑化用客土保持具を適用した場合について説明し、後者の断面矩形縦枠タイプについては前者の断面欠円形縦枠タイプとの違いのみ説明する。
【0010】
実施の形態1.
≪断面欠円形縦枠タイプの緑化用法枠構造物≫
まずは、実施形態1の斜面緑化用客土保持具1を、断面欠円形縦枠タイプの緑化用法枠構造物について適用した場合について説明する。
【0011】
図1は、実施形態1の斜面緑化用客土保持具を斜面Sに設置し一定期間経過後の斜面における緑化状態の一例を示す斜視図、図2は、縦枠2間に設けた一列分の実施形態1の斜面緑化用客土保持具1を拡大して示す斜視図、図3は、実施形態1の斜面緑化用客土保持具1を、断面欠円形縦枠タイプの緑化用法枠構造物に適用した状態を示す正面図である。
【0012】
図1〜図3に示すように、実施形態1の斜面緑化用客土保持具1は、自然に形成された自然斜面や、人工的に形成された切土斜面すなわち法面等の斜面Sに設けられるもので、斜面Sの傾斜方向に沿って設けられた縦枠2間に、しかもその傾斜方向に所定間隔を空けて設けられる。なお、図1に示す例では、横枠が設けられていないが、図3に示す例では、各縦枠2の上下の端部を連結するように横枠3を設けた例を示しており、横枠3を縦枠2の上下の位置あるいは中間の所々などに設置するか否かは任意である。
【0013】
図2に示すように、実施形態1の斜面緑化用客土保持具1は、斜面Sに沿って設けられる山側多孔面状部材である山側金網11と、基端側が山側多孔面状部材11の下端に回動可能に連結される一方、先端側には後述する図6や図8等に示すように斜面Sの傾斜方向に沿って所定間隔を空けて設けられた複数(本実施の形態1では、便宜上、3つとする。)の被掛止部121a〜121cを有する谷側多孔面状部材である谷側金網12と、山側金網11の上端と谷側金網12の先端とがなるべく水平に近づくように連結する角度調整支持金具13と、を有する。
【0014】
そして、後述するように山側金網11上端に回動可能に連結された角度調整支持金具13先端のフック部132を、谷側金網12先端側の被掛止部121a〜121cのうちの一の被掛止部に連結することにより、植栽棚10を構築する。
【0015】
なお、図1〜図3において、51は、実施形態1の斜面緑化用客土保持具1により形成された植栽棚10内の斜面緑化用客土、52は、植栽棚10外の斜面S上に盛られた斜面緑化用客土である。また、図3において、21は、縦枠2の中を通る縦枠鉄筋、31は、横枠3の中を通る横枠鉄筋である。
【0016】
図4(a),(b)、図5(a),(b)は、それぞれ、図3に示す実施の形態1の斜面緑化用客土保持具1を使用して構成した緑化用法枠構造物のA−A線断面図、B−B線断面図、C−C線断面図、D−D線断面図である。
【0017】
つまり、図4(a),(b)に示すように、緑化用法枠構造物は、斜面S上に菱形金網(ラス金網)4を敷設した後、吹き付け枠である縦枠2を形成し、実施の形態1の斜面緑化用客土保持具1を使用して植栽棚10を複数構成している。
【0018】
ここで、縦枠2は、菱形金網(ラス金網)4を介し主アンカー32を斜面Sに打ち込むことにより、斜面Sに固定される。一方、実施の形態1の斜面緑化用客土保持具1を使用して構成した緑化用法枠構造物は、山側金網11の上端等を、菱形金網(ラス金網)4を介し頭部がL字状の植栽棚止めアンカー14を斜面Sに打ち込むことにより、斜面Sに固定される。なお、山側金網11を斜面Sに固定できるものであれば、植栽棚止めアンカー14は、頭部がL字状でなくても勿論かまわない。
【0019】
そして、図5(a)に示すように、後述するように山側金網11の上端に回動可能に連結された角度調整支持金具13先端のフック部132を、谷側金網12の複数の被掛止部121a〜121cのうち一つに引っ掛けて植栽棚10を構成する。
【0020】
なお、図5(b)に示すように、断面欠円形縦枠タイプの緑化用法枠構造物は、縦枠2の形成に型枠を使用しないタイプで、モルタル等のセメント系固化材を吹き付けて形成した縦枠2が断面半円状となる。
【0021】
つまり、この縦枠2は、斜面の傾斜方向である長手方向に2本の縦枠鉄筋21を配し、その縦枠鉄筋21の長手方向に所定間隔毎に、複数の金網(格子)状の縦枠形成用補助部材であるスペーサー22を立設させて、骨組みを形成している。ここで、スペーサー22のみでは、斜面Sに対し自立しない場合には、スペーサー22の下側に、アンカーピンを打ち込むなどして斜面Sに固定する。そして、この断面欠円形縦枠タイプの縦枠2の場合、型枠を使用しないため、スペーサー22を目印としてモルタル等のセメント系固化材を半円形状に吹き付けることにより、縦枠2を形成する。
【0022】
図6は、実施の形態1の斜面緑化用客土保持具1を構成する山側金網11と谷側金網12とを連結して広げた状態を示す全体図、図7は、図6に示す斜面緑化用客土保持具1を構成する山側金網11の平面図、図8は、図6に示す斜面緑化用客土保持具1を構成する谷側金網12の平面図、図9は、図6に示す斜面緑化用客土保持具1を構成する山側金網11と谷側金網12とを閉じた状態を示す全体図である。
【0023】
また、図10は、実施の形態1の斜面緑化用客土保持具1を構成する角度調整支持金具13の側面を示す側面図、図11は、実施の形態1の斜面緑化用客土保持具1を構成する支持金具13を用いて山側金網11と谷側金網12とを連結した状態を示す断面図である。
【0024】
図6〜図9に示すように、実施の形態1の斜面緑化用客土保持具1を構成する山側金網11および谷側金網12は、それぞれ、直径2.6mm程の細めの亜鉛めっき鉄線からなる複数の縦線112,122および横線111,121を、縦・横に編みこんだクリンプ金網等から構成されている。なお、山側金網11および谷側金網12は、クリンプ金網に限定されるものでなく、溶接金網や、エキスパンドメタル、ラス金網等の網状部材や、パンチングメタルなどの多数の開口部を有する多孔状の面状部材から構成されていれば良い。
【0025】
また、図10に示すように、角度調整支持金具13は、基端側に山側金網11の上端に回動可能に連結されるリング部131が設けられている一方、先端側に谷側金網12先端側の3つの被掛止部121a〜121cのうち一の被掛止部に掛止めされるフック部132が設けられている。なお、図10に示すリング部131は、山側金網11上端部に回動可能に連結される前の状態を示しており、まだU字状であり、山側金網11上端部に回動可能に連結された後は、山側金網11から抜けないように、リング状に潰される。また、フック部132は、施工現場の状況に応じて、谷側金網12の被掛止部121a〜121cのうち一の被掛止部に選択的に引っ掛けることが可能となるように、着脱自在ながらも抜けにくい、いわゆるひょうたん形状に形成されている。なお、これらの形状は、任意であり、要は、設置状態において山側金網11上端と谷側金網12先端とがなるべく水平に近づくような角度で連結できるものであれば特にこだわらない。
【0026】
そして、山側金網11と谷側金網12とは、図6等に示すように、山側金網11の下端と、谷側金網12の基端である上端とが、複数箇所(図6では、便宜上、7箇所としている。)において、それぞれ連結リング15等により、回動可能に連結されている。なお、図6に示す状態は、山側金網11と谷側金網12とが、連結リング15を介し広げた状態を示しており、山側金網11と谷側金網12とを連結リング15を介し閉じると、図9に示すような連結リング15を介し折り重なる状態になり、保管や運搬の際にスペース効率が向上する。なお、本実施の形態では、山側金網11と谷側金網12とを連結リング15を介し回動可能に連結しているが、本発明では、これに限らず、連結リング15を使用せずに、山側金網11と谷側金網12とを直接回動可能に連結するようにしても勿論よい。
【0027】
また、図6において、113は、角度調整支持金具13のリング部131が回動可能に連結される位置を示しており、ここでは、4箇所としている。
【0028】
ここで、図6および図9に示すように、山側金網11の長手方向、すなわち斜面Sに設置した際、斜面Sの傾斜方向とは垂直方向となる横方向の長さを、谷側金網12の長手方向の長さより長く形成し、山側金網11の長手方向の両端が、谷側金網12の長手方向の両端より突出する両端突出部11a,11bを形成している。これは山側金網11の両端突出部11a,11bを、両側の縦枠2の縦枠鉄筋21やスペーサー22等に交差ないしは連結させて位置決めや固定等するすると共に、谷側金網12が両側の縦枠2に干渉せずに起立できるようにするためである。なお、ここでは、山側金網11の長手方向の長さは約1700mmでほぼ縦枠鉄筋21間の距離、谷側金網12の長手方向の長さは約1400mmでほぼ成型後の縦枠2内側間の距離としている。
【0029】
その一方、図6〜図9に示すように、山側金網11の短手方向、すなわち斜面Sに設置した際、斜面Sの傾斜方向となる縦方向の長さを、谷側金網12の短手方向の長さと同じにしている。ここでは、両者の長さを、共通の約250mmとしている。
【0030】
また、図6や図7等に示すように、山側金網11の長手方向である横線111の本数を、谷側金網12の長手方向の横線121の本数より少なくしている。これは、山側金網11は、斜面S上に直接またはラス金網(菱形金網)を介して設置されるため、隙間が大きくても、緑化用客土51の落下や脱落を防止できると共に、凸凹した斜面Sに沿って設けるため、なるべく山側金網11が凸凹した斜面Sに沿って設置されるように曲がり易くする必要等があるからである。
【0031】
その一方、谷側金網12は、図6や図8等に示すように、長手方向の横線121の本数を多くしないと、緑化用客土51が落下や脱落等するからである。なお、山側金網11および谷側金網12の縦線112,122および横線111,121の本数や太さ等、さらには、長さなどは、任意である。
【0032】
また、本実施の形態1の斜面緑化用客土保持具1では、図6や図8等に示すように、谷側金網12の先端側には、その長手方向に伸びる横線121を利用して、角度調整支持金具13先端のフック部132が挿入できるように、フック部132の高さより大きい、斜面Sの傾斜方向に沿って所定間隔(ここでは、例えば、210mm程度としている。)を空け、斜面Sの勾配αが変化しても、谷側金網12の先端と山側金網11の上端とがなるべく水平に近づくように、長手方向に伸びる横線121を利用して、複数(ここでは、便宜上、3つとする。)の被掛止部121a〜121cを設けている。その結果、複数の被掛止部121a〜121cの間隔を、その被掛止部121a〜121c以外の横線121間の間隔より大きくしている。なお、被掛止部121a〜121cは、3つでなくても勿論よく、2つでも、4つ以上でも良いし、さらには、横線121を利用せずに独立して設けるようにしても勿論良い。
【0033】
ここで、角度調整支持金具13先端のフック部132を、谷側金網12先端側の3つの被掛止部121a〜121cのうち基端側の被掛止部121aに掛け止めると、斜面Sの勾配αが約51度の8分勾配、中央の被掛止部121bに掛け止めると、斜面Sの勾配αが約63度の5分勾配、先端側の被掛止部121cに掛け止めると、斜面Sの勾配αが約73度の3分勾配に対応することになる。
【0034】
なお、図11では、斜面Sの勾配αが約63度の5分勾配近くあるため、角度調整支持金具13先端のフック部132を谷側金網12の中央の被掛止部121bに掛け止めることにより、山側金網11の上端と谷側金網12の先端とがほぼ水平になるように連結している。
【0035】
これにより、斜面Sの勾配αが変化しても、角度調整支持金具13先端のフック部132を、谷側金網12の複数の被掛止部121a〜121cのうち一の被掛止部に引っ掛けることにより、山側金網11の下端を中心に谷側金網12を、約51度や、約63度、約73度の任意の起立角度に起こして、とができるので、施工性および作業効率を向上させることができる。
【0036】
その結果、斜面Sの勾配にかかわらず、簡便に山側金網11の上端と谷側金網12の先端とがほぼ水平に設定することができるので、斜面緑化用客土保持具1により形成した植栽棚10に盛った斜面緑化用客土51や、斜面緑化用客土51から生えた草木類の流出を防止することができ、植栽を損失少なく生育することができると共に、斜面S全体に設置される斜面緑化用客土保持具1の山側金網11の上端と谷側金網12の先端とがほぼ水平に統一されるので、全体に均整がとれ、景観上も良好となる。
【0037】
図12は、斜面Sに実施の形態1の斜面緑化用客土保持具1を設置した後、緑化用客土(植生基材)を吹き付ける状態を示す図である。
【0038】
図12に示すように、斜面Sに実施の形態1の斜面緑化用客土保持具1を設置した後、植生基材圧送用ホース6等を作業者が保持して、各種緑化用植物の種や肥料などが混入された緑化用客土(植生基材)51,52を、実施の形態1の斜面緑化用客土保持具1により構成した植栽棚10の内部や、植栽棚10と縦枠2間の斜面Sに吹き付ける。その際、例えば、植栽棚10内に吹き付ける緑化用客土(植生基材)51には、背が高くなる大き目の樹木の種や苗等が含まれるようにすると、植栽棚10を介し斜面Sに根を張り成長するので、都合が良い。また、植栽棚10以外の斜面Sに吹き付ける緑化用客土(植生基材)52には、背の低い草木類の種や苗等で良い。なお、植栽棚10の谷側金網12側の面の緑化を図るために、不織布や緑化シートをその面に設けてもよい。また、客土の水分保持を目的として、保水材を客土中に混入するようにしても良い。
【0039】
≪断面矩形縦枠タイプの緑化用法枠構造物≫
次に、実施形態1の斜面緑化用客土保持具1を、断面矩形縦枠タイプの緑化用法枠構造物に適用した場合について説明する。
【0040】
図13は、斜面緑化用客土保持具1等を使用して施工現場の斜面に設置した断面矩形縦枠タイプの緑化用法枠構造物の状態を示す正面図、図14(a),(b)は、それぞれ、同緑化用法枠構造物のE−E線断面図、F−F線断面図である。
【0041】
図13,図14から明らかなように、断面矩形縦枠タイプの緑化用法枠構造物は、モルタル等のセメント系固化材を吹き付けて構成される縦枠2’を、断面矩形形状に形成したもので、縦枠2’の形成に型枠を使用するタイプであり、それ以外の構成は、図1〜図12にて示した断面欠円形状縦枠タイプの緑化用法枠構造物と同様である。
【0042】
つまり、図14(b)に示すように、断面矩形縦枠タイプの緑化用法枠構造物の縦枠2’は、井桁状のセパレータ22’とその両側に設けられたクリンプ金網23’等からなる金網型枠24’に対して4本の縦枠鉄筋21’をセパレータ22’の交差部に固定し、、これに向けてモルタル等のセメント系固化材を吹き付けて構成される。
【0043】
従って、本実施の形態1の斜面緑化用客土保持具1によれば、保管時や運搬時には山側金網11と谷側金網12とを折り畳んでおく一方、施工時には山側金網11を斜面に沿って設ける一方、谷側金網12を山側金網11上端と谷側穴網12先端とが水平に近づくように、角度調整支持金具13によって任意の起立角度に設定して支持し、その起立角度に設定された山側金網11と谷側金網12との間に斜面緑化用客土51を保持させるようにしたため、例えば、次のような効果が得られる。
(1)山側金網11と谷側穴網12とを折り畳んで保管や運搬することが可能となるので、保管の際のスペース効率や、運搬の際の作業効率等を向上させることができる。
(2)山側金網11の上端と谷側穴網12の先端とが水平に近づくように起立角度を設定可能なので、斜面緑化用客土保持具1により形成した植栽棚10に盛った斜面緑化用客土51や、斜面緑化用客土51から生えた草木類の流出を防止することができ、斜面緑化用客土51の損失を少なく植栽を生育することができる。
(3)また、斜面S全体に設置される斜面緑化用客土保持具1の山側金網11の上端と谷側穴網12の先端とがほぼ水平に統一されるので、図1等に示すように広い緑化用法枠構造物の施工現場全体に均整がとれ、景観上も良好となる。
【0044】
また、本実施の形態1の斜面緑化用客土保持具1では、斜面Sの傾斜方向とは垂直方向となる山側金網11の長手方向の長さを、谷側金網12の長手方向の長さより長く形成して、山側金網11の長手方向の両端が、谷側金網12の長手方向の両端より突出する両端突出部11a,11bを形成したので、山側金網11の両端突出部11a,11bをそれぞれ左右の縦枠2に連結して固定することができ、斜面緑化用客土保持具1を確実に位置決めや固定することができ、作業性が向上することができると共に、谷側金網12の両端が縦枠2や縦枠2を構成する縦枠鉄筋21,21’や、スペーサー22または金網型枠24’等に干渉し難くなるので、容易に谷側金網12を引き起こすことが可能となり、この点でも作業性が向上する。なお、このような構成を採用するか否かは任意である。
【0045】
また、本実施の形態1の斜面緑化用客土保持具1では、谷側金網12は、斜面Sの傾斜方向に延びる複数本の縦線122と、斜面Sの傾斜方向とは垂直方向に延びる複数本の横線121とを交差させたクリンプ金網等から構成し、複数の被掛止部121a〜121cは、複数本の横線121を、斜面Sの傾斜方向に沿って所定間隔を空けて設けることにより構成し、複数の被掛止部121a〜121cの間隔は、その被掛止部121a〜121c以外の横線121間の間隔より大きくしたので、支持金具13先端のフック部132を挿入して、被掛止部121a〜121cに簡単に引っ掛けることができ、この点でも作業性を向上させることができる。なお、このような構成を採用するか否かは任意である。
【0046】
実施の形態2.
次に、実施の形態2の斜面緑化用客土保持具1’について説明する。
【0047】
図15は、実施の形態2の斜面緑化用客土保持具1’を構成する山側金網11’と谷側金網12’とを連結して広げた状態を示す全体図である。
【0048】
図6に示す実施の形態1の斜面緑化用客土保持具1を構成する山側金網11と谷側金網12と比較すると明らかであるが、実施の形態1の斜面緑化用客土保持具1では、谷側金網12の先端側に、斜面Sの傾斜方向に沿って所定間隔を空けて設けられた複数の被掛止部121a〜121cを設け、角度調整支持金具13のリング部131を山側金網11の上端に回動可能に連結する一方、角度調整支持金具13先端のフック部132を谷側金網12の複数の被掛止部121a〜121cのうちの一に引っ掛けるように構成した。
【0049】
これに対し、実施の形態2の斜面緑化用客土保持具1’では、山側金網11’の上端側に、斜面Sの傾斜方向に沿って所定間隔を空けて設けられた複数の被掛止部111a’〜111c ’を設け、角度調整支持金具13のリング部131を谷側金網12’の先端部に回動可能に連結する一方、角度調整支持金具13先端のフック部132を山側金網11’の複数の被掛止部111a’〜111c ’のうちの一に引っ掛けるように構成した点が異なるだけである。
【0050】
このように、実施の形態2の斜面緑化用客土保持具1’を構成しても、前述の実施の形態1の斜面緑化用客土保持具1と同様に、保管時や運搬時は山側金網11’と谷側金網12’とを折り畳み重ねることが可能となり、保管の際のスペース効率や、運搬の際の作業効率等を向上させることができると共に、斜面Sの傾斜に応じて、斜面Sの勾配αが変化しても、角度調整支持金具13先端のフック部132が引っ掛ける山側金網11’の複数の被掛止部111a’〜111c ’を変えることにより、山側金網11’の上端と谷側金網12’の先端とがほぼ水平に設定する保持することができるので、前述の実施の形態1の斜面緑化用客土保持具1と同様の効果が得られる。
【0051】
なお、前記実施の形態1,2では、本発明の谷側多孔面状部材や、山側多孔面状部材、角度調整支持部材等を、金属製の山側金網11や、谷側金網12、角度調整支持金具13等により構成して説明したが、本発明では、これに限定されるものではなく、金属製以外のプラスチック製等の他の部材によりこれらの部材を構成するようにしても勿論よい。
【0052】
また、本発明に係る斜面緑化用客土保持具は、斜面Sに対し吹き付けられる斜面緑化用客土の滑落を防止するものであれば、各種基材が混入されていても勿論よい。また、本発明係る斜面緑化用客土保持具の適用形態は、地山などの自然のままの斜面Sでも、造成された斜面Sでも、予めコンクリートやモルタルなどによって被覆された斜面Sでも、それらの表面に斜面緑化用客土を吹き付けて緑化を図る場合には適用することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1,1’ 斜面緑化用客土保持具
10 植栽棚
11,11’ 山側金網(山側多孔面状部材)
11a,11b 両端突出部
111,111’ 横線
111a’〜111’c 被掛止部
112,112’ 縦線
12,12’ 谷側金網(谷側多孔面状部材)
121,121’ 横線
121a〜121c 被掛止部
122,122’ 縦線
13 角度調整支持金具(角度調整支持部材)
14 植栽棚止めアンカー
15 連結リング
2,2’ 縦枠
21,21’ 縦枠鉄筋
22 スペーサー(縦枠形成用補助部材)
22’ セパレータ(縦枠形成用補助部材)
23’ クリンプ金網(縦枠形成用補助部材)
24’ 金網型枠(縦枠形成用補助部材)
3 横枠
31,31’ 横枠鉄筋
32 主アンカー
4 菱形金網(ラス金網)
51,52 斜面緑化用客土

【特許請求の範囲】
【請求項1】
斜面に沿って設けられる山側多孔面状部材と、
基端側が前記山側多孔面状部材の下端に回動可能に連結される一方、先端側には、前記斜面の傾斜方向に沿って所定間隔を空けて設けられた複数の被掛止部を有する谷側多孔面状部材と、
基端側が前記山側多孔面状部材の上端部に回動可能に連結される一方、前記山側多孔面状部材の上端と前記谷側多孔面状部材の先端とが水平に近づくように、先端側が前記谷側多孔面状部材の複数の被掛止部のうち一の被掛止部に引っ掛けられ、前記山側多孔面状部材の下端を中心に前記谷側多孔面状部材を任意の起立角度に調整し支持する角度調整支持部材と、を有し、
前記角度調整支持部材によって前記起立角度に設定された前記山側多孔面状部材と前記谷側多孔面状部材との間に、斜面緑化用客土を保持させる、
ことを特徴とする斜面緑化用客土保持具。
【請求項2】
斜面に沿って設けられ、上端側には、前記斜面の傾斜方向に所定間隔を空けて設けられた複数の被掛止部を有する山側多孔面状部材と、
基端側が前記山側多孔面状部材の下端部に回動可能に連結された谷側多孔面状部材と、
基端側が前記谷側多孔面状部材の下端部に回動可能に連結される一方、前記山側多孔面状部材の上端と前記谷側多孔面状部材の先端とが水平に近づくように、先端側が前記山側多孔面状部材の複数の被掛止部のうち一の被掛止部に引っ掛けられ、前記山側多孔面状部材の下端を中心に前記谷側多孔面状部材を任意の起立角度に調整し支持する角度調整支持部材と、を有し、
前記角度調整支持部材によって前記起立角度に設定された前記山側多孔面状部材と前記谷側多孔面状部材との間に、斜面緑化用客土を保持させる、
ことを特徴とする斜面緑化用客土保持具。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の斜面緑化用客土保持具において、
前記山側多孔面状部材および前記谷側多孔面状部材は、
前記斜面の傾斜方向に沿って設けられる複数の縦枠間に設けられ、
前記斜面の傾斜方向とは垂直方向となる前記山側多孔面状部材の長手方向の長さを、前記谷側多孔面状部材の長手方向の長さより長く形成して、前記山側多孔面状部材の長手方向の両端が、前記谷側多孔面状部材の長手方向の両端より突出する両端突出部を形成する、
ことを特徴とする斜面緑化用客土保持具。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一の請求項に記載の斜面緑化用客土保持具において、
前記山側多孔面状部材および前記谷側多孔面状部材は、
前記斜面の傾斜方向に延びる複数本の縦線と、前記斜面の傾斜方向とは垂直方向に延びる複数本の横線とを交差させた金網から構成し、
前記複数の被掛止部は、
前記複数本の横線を、前記斜面の傾斜方向に沿って所定間隔を空けて設けることにより構成し、前記複数の被掛止部を構成する前記複数本の横線間の間隔は、前記複数の被掛止部以外における前記横線間の間隔より大きくする、
ことを特徴とする斜面緑化用客土保持具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−97509(P2012−97509A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247592(P2010−247592)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【出願人】(000112886)フリー工業株式会社 (35)
【出願人】(390019323)小岩金網株式会社 (32)
【Fターム(参考)】