説明

断熱性塗材

【課題】高い割合の中空ビーズを含有すると同時に塗装材としての機能(適切な粘度、弾性、付着力等)を維持できる、中空ビーズを含有する塗材を提供する。
【解決手段】中空ビーズと、アクリル系樹脂エマルジョンと、機能保持剤とを含む断熱性塗材であって、中空ビーズが全容量の45〜50容量%であり、かつ機能保持剤として高沸点オイル、粘性調整剤、成膜助剤及び消泡剤を含むことを特徴とする。塗布乾燥後において中空ビーズが全容量の55〜70容量%である。中空ビーズがアクリロニトリル樹脂製の真空中空ビーズであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の屋根、外壁面、内壁面等その他の設備等を塗装するための組成物であって、特に断熱層を形成するための断熱性、防水性及び遮音性を備えた塗材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建物の屋外と屋内の間の熱伝導を遮断するための断熱材としては、発泡スチロール、グラスウール等が一般的であったが、施工性、環境性及び経済性等において難点が多く、改善が急がれていた。その対応策の一つとして断熱性を有する塗膜を形成する塗材の開発が進められている。断熱性塗材により形成された塗膜は、従来の断熱材に比べて遙かに薄膜で同程度の断熱性を発揮し、冷暖房効果を高め、省エネルギーに寄与することができる。
【0003】
断熱性を有する塗膜を形成するための塗材として、無機または有機の平均粒径数十μm程度の中空微粒子(中空ビーズ、バブルまたはバルーンとも称される)を樹脂エマルジョン塗料に混合したもの等が知られている。このような塗材により形成された塗膜では、塗膜中に均一に分散した中空微粒子のもつ空気層により断熱効果が得られる。無機の中空微粒子としては、シラス、シリカ、セラミック、ガラス等があり、有機の中空微粒子として、塩化ビニリデン樹脂、アクリロニトリル樹脂等がある。また、セラミック中空微粒子及びセラミック真空中空微粒子は、製造工程及び塗装工程において破壊されない圧縮強度をもつ中空微粒子として好適であることが知られている(特許文献1〜3)。
【0004】
特許文献1には、乾燥硬化後、透明または半透明膜層を形成する合成樹脂エマルジョン組成物に所定の圧縮強度及びかさ比重をもつセラミック中空微粒子と無機質粉末を配合した断熱性塗材が開示されている。
【0005】
特許文献2には、塗膜形成後にセラミック等のバブルを稠密積層配列させる構造保持剤を含有する遮熱性塗料が開示されている。
【0006】
特許文献3には、濃彩色でありかつ反射性をもつ顔料とシラスバルーン、ポリスチレンバルーン、セラミックバルーン等の中空微粒子とを含有し、近赤外領域波長の反射特性に優れた遮熱性塗料が開示されている。
【特許文献1】特開平8−127736号公報
【特許文献2】特開平11−323197号公報
【特許文献3】特開2000−129172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
中空微粒子(以下、「中空ビーズ」と称する)を含有する塗材は、その中空ビーズの含有量が高いほど、より高い断熱効果が得られるはずである。しかしながら、高含有量の中空ビーズと相対的にその他の結合材としての成分は少なくなるために塗材全体の粘度が低下し、塗装材としての弾性や付着力が低下してくるという問題があり、中空ビーズを高含有率とすることが困難であった。例えば、外装用の塗装材として使用する場合は、所定の硬度及び耐衝撃性を備えた塗膜とする必要がある。従来は、塗装材としての機能を維持できる中空ビーズの含有量は、20〜40容量%程度までであった。
【0008】
本発明の目的は、従来に比べて高い割合の中空ビーズを含有すると同時に塗装材としての機能(適切な粘度、弾性、付着力等)を維持できる、中空ビーズを含有する断熱性塗材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するべく、本発明は以下の構成を提供する。
(1)請求項1に係る発明は、中空ビーズと、アクリル系樹脂エマルジョンと、機能保持剤とを含む断熱性塗材であって、前記中空ビーズが全容量の45〜50容量%であり、かつ前記機能保持剤として高沸点オイル、粘性調整剤、成膜助剤及び消泡剤を含む断熱性塗材である。
【0010】
(2)請求項2に係る発明は、請求項1の断熱性塗材において、前記断熱性塗材の塗布乾燥後において前記中空ビーズが全容量の55〜70容量%であることを特徴とする。
【0011】
(3)請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の断熱性塗材において、前記中空ビーズがアクリロニトリル樹脂製の真空中空ビーズであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明による断熱性塗材は、中空ビーズと、アクリル系樹脂エマルジョンと、機能保持剤とを含み、塗布前の塗材において中空ビーズが全容量の45〜50容量%と従来に比べて高含有量である。また、この塗材における中空ビーズ含有量は、塗布乾燥後においては全容量の55〜70容量%に相当する。この結果、中空ビーズのもつ断熱性及び遮音性により、塗膜の断熱効果及び遮音効果を従来よりも格段に高めることができた。また、比重の小さい中空ビーズの含有量が高いため、塗材自体の比重も小さくなり、軽量化できるため塗装作業性も向上する。断熱性が高いことから塗膜が熱の影響を受けにくく劣化が緩慢となる結果、防水性を長期に維持できるとともに耐候性にも優れた塗膜となる。
【0013】
加えて、本発明による断熱性塗材は、機能保持剤として高沸点オイル、粘性調整剤、成膜助剤及び消泡剤を少なくとも含むことによって、中空ビーズの含有量が高いにも拘わらず塗装材としての適切な粘度、弾性、付着力等を維持できる。例えば、製造工程における中空ビーズとその他の成分との混和性を向上させ、中空ビーズを塗材全体に均一に分散させる。また、塗装工程においては、塗装性すなわち施工性を向上させると共に、形成された塗膜においては、所望する機械的特性、熱的特性並びに良好な耐候性を実現できる。
【0014】
さらに、中空ビーズをアクリロニトリル樹脂製とすることにより、セラミック製の中空ビーズに比べて塗材を軽量とすることができる。また、アクリロニトリル樹脂は、他の樹脂に比べて耐熱性に優れる点で好ましい。特に、真空中空ビーズ(ここでの「真空」とは、常圧より低圧の状態を全て含むものとする)とすることにより、空気充填されたものに比べて熱の遮断効果が大きい。従って、夏季には外気の熱の屋内への侵入を遮断し、冬季には屋内の暖気の室外流出を遮断できる。また、真空中空ビーズは、音波が中空部分で吸収されるため高い遮音性を発揮でき、遮音・防音効果を奏する。
【0015】
以上の通り、本発明による断熱性塗材は、中空ビーズを高含有量で含むことにより良好な断熱性及び遮音/防音性を備えると同時に、塗料としての機械的特性及び化学的特性を維持できる。よって、製造時における混和性、製造後の貯蔵安定性、使用時の塗装性、塗膜形成後の硬度及び耐衝撃性、基材への付着性等を確保できる。
【0016】
本発明は、建物への適用に限られず、車両、船舶、電化製品等の断熱/遮音、貯水池/プールの保温、倉庫の結露防止等、多様な用途に利用でき、いずれにおいても良好な効果を奏することができる。
【0017】
また、従来のグラスウール等の断熱材に比べて材料が安価であり、施工も塗布によるものであるから断熱工事の作業負担も低減され、工事価格を低コストとすることができる。本発明を適用することで、消費電力の節減、水道料の節減等、ランニングコストの大幅節減に寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明による断熱性塗材は、中空ビーズと、アクリル系樹脂エマルジョンと、機能保持剤とを含み、中空ビーズが全容量の45〜50容量%であり、かつ機能保持剤として高沸点オイル、粘性調整剤、成膜助剤及び消泡剤を含むものである。以下、各成分について詳細に説明する。
【0019】
中空ビーズは、球形の殻であるシェルの内部が空洞となっており、シェルが多孔のものと密閉されたものがあるが、本発明では、断熱性を高めるため及び強度を確保するために密閉されたものを用いる。また、空洞内に空気等の気体が充填されたものは圧縮等の負荷に対する強度は強くなるが、断熱性及び遮音性に関しては空洞内を真空または減圧したものが好適である。シェル材料としては、樹脂、ガラス、セラミック等がある。いずれの材質の中空ビーズも本発明の断熱性塗材に適用できる。
【0020】
セラミック製の中空ビーズとしては、酸化チタン、シリカ等がある。樹脂製の中空ビーズとしては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等があり、セラミック製に比べて軽量である。特に、耐熱性と強度に優れたアクリロニトリル系樹脂の中空ビーズが好適である。アクリロニトリル系樹脂中空ビーズとしては、例えば商品名「ZEEOSPHERES TYPE W-210(商標:米国、3M社製)」がある。中空ビーズの平均粒径は、約5〜15μmである。比重は、アクリロニトリル系樹脂の場合、約0.23である。
【0021】
本発明の断熱性塗材では、製造工程完了後の塗装前の状態において、中空ビーズが塗材の全容量の45〜50容量%となるように混合し、均一に分散させる。塗装後には、水分等が徐々に気化し、エマルジョン中のアクリル樹脂のラテックス粒子同士が接近して融着し、均一なアクリル樹脂の塗膜となり、中空ビーズはその塗膜中に均一に分散し充填された形態となる。塗装され塗膜形成された場合、水及び/または揮発成分の気化により、塗膜に対する中空ビーズの割合は変動するが、その状態で中空ビーズが全容量の55〜70容量%となるように当初の組成物の配分量を決定する。
【0022】
塗装材としてのビヒクルの役割を果たすアクリル系樹脂エマルジョンは、樹脂ラテックス粒子を主成分とする水性エマルジョン系塗料の一つであり、通常、水を40〜50%程度含む。水性エマルジョン系塗料は、従来の溶剤系塗料に比べて環境配慮型の塗料として好ましい。常温乾燥型の場合、ラテックス粒子周りの水分が気化することによりラテックス粒子同士が融着して塗膜を形成する。なお、アクリル系樹脂には、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート等のアクリル酸エステル若しくはメタクリル酸エステル、またはアクリル酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の酸モノマーの共重合体がある。例えば、スチレン・アクリル共重合体樹脂系、酢酸ビニル・アクリル共重合体樹脂系がある。
【0023】
また、本発明による断熱性塗材を接着剤として用いる場合には、アクリル系樹脂エマルジョンの主成分樹脂として接着性を発揮する反応性官能基をもつものを採用する。本発明による断熱性塗材は、その具体的用途に応じた機能をアクリル系樹脂エマルジョンに付与することができる。
【0024】
本発明の断熱性塗材は、上記の通り、従来に比べて高含有量の中空ビーズを含むため、塗装材としての機械的特性及び化学的特性による機能を維持するための機能維持剤を含有する。これらによって、塗膜の粘度、弾性及び付着力等を適性なレベルに保持する。また、製造工程においては中空ビーズの混和性を向上させ、均一な分散状態を実現する。さらに、塗装時の塗装作業性並びに塗装乾燥後の塗膜の機械的強度及び耐候性を確保する。機能維持剤としては、少なくとも高沸点オイル、粘性調整剤、成膜助剤及び消泡剤を用いる。
【0025】
高沸点オイルは、油性媒体として中空ビーズとアクリル系樹脂エマルジョンとの混和性を向上させるために用いられる。例えば、リン酸エステル、フタル酸エステル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、 その他のカルボン酸エステル等の一般的に高沸点オイルと称される有機物から選択できる。
【0026】
粘性調整剤は、塗装の作業性(例えばスプレー性等)を確保すると共に、塗布乾燥後の塗膜厚さの保持及び機械的強度、並びに基材への濡れ性及び付着性を確保するために用いられる。例えば、炭酸カルシウム、クレイ、珪藻土、ゼオライト、炭酸マグネシウム等がある。粘性調整剤と同様の目的で増粘剤を含めてもよい。増粘剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等がある。
【0027】
成膜助剤は、塗装後に一定の時間をかけて水分が徐々に気化し、エマルジョン中のラテックス粒子が融着して造膜することを確保する。一般的な水性エマルジョン系塗料においても乾燥過程において割れが発生しやすいことが知られているが、本発明のように高含有量の中空ビーズを含む場合は特に、成膜助剤により乾燥工程における粘性の推移が適切に行われることが重要となる。成膜助剤としては、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(テキサノール)、(ポリ)エチレングリコールまたは(ポリ)エチレングリコールモノアルキルエーテル、(ポリ)エチレングリコールエステルまたは(ポリ)エチレングリコールエーテルエステル、(ポリ)プロピレングリコールまたは(ポリ)プロピレングリコールモノアルキルエーテル、(ポリ)プロピレングリコールエステルまたは(ポリ)プロピレングリコールエーテルエステル、等がある。
【0028】
消泡剤は、エマルジョンの攪拌時に生じ易い泡を生じ難くし、泡の発生を少なくするとともに、発生した泡を消し易くする。水性エマルジョンにおいては界面活性剤を含むことが多いため特に泡が発生しやすい傾向がある。消泡剤としては、例えば、ジメチルポリシロキサンやポリエ−テル変性ジメチルポリシロキサン等のシリコン系エマルジョン又は同水性樹脂がある。
【0029】
上記の機能維持剤に加えて、断熱性塗材の使用目的に応じて、通常塗料において用いられている、二酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン等の白色顔料、カーボンブラック、ベンガラ、シアニンブルーなどの有色系顔料などの顔料、可塑剤、溶剤、分散剤、防腐剤などのその他の添加剤を配合してもよい。
【実施例】
【0030】
表1は、本発明による断熱性塗材の一実施例の成分配合を示す。表中の材料を撹拌混合機に投入し、均一となるまで撹拌混合を行った。
【0031】
【表1】

【0032】
上記で得られた断熱性塗材を塗装して塗膜(0.6mm厚)を形成し、この塗膜について熱伝導率を測定した結果、0.16W/mKとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空ビーズと、アクリル系樹脂エマルジョンと、機能保持剤とを含む断熱性塗材であって、前記中空ビーズが全容量の45〜50容量%であり、かつ前記機能保持剤として高沸点オイル、粘性調整剤、成膜助剤及び消泡剤を含むことを特徴とする断熱性塗材。
【請求項2】
前記断熱性塗材の塗布乾燥後において前記中空ビーズが全容量の55〜70容量%であることを特徴とする請求項1に記載の断熱性塗材。
【請求項3】
前記中空ビーズがアクリロニトリル樹脂製の真空中空ビーズであることを特徴とする請求項1または2に記載の断熱性塗材。

【公開番号】特開2008−95031(P2008−95031A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−280924(P2006−280924)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(506347023)株式会社オーテックス (1)
【Fターム(参考)】