断熱材、断熱材の施工方法、及び屋根の断熱構造
【課題】下方からの断熱材の施工を可能とする断熱材、断熱材の施工方法、及び屋根の断熱構造を提供する。
【解決手段】断熱材1は、屋根53の断熱構造に用いられる断熱材であって、設置状態では屋根53の隣接する母屋55,57同士の間に渡され、軒側母屋55の側面55aに沿うように平面に形成された軒側端面11aと、棟側母屋57の側面57bに沿うように平面に形成された棟側端面11bと、を有する板状の断熱板部11と、断熱板部11の軒側端面11aに設けられ設置状態では軒側母屋55に引っ掛かる爪部14と、を備え、爪部14は、前記軒側端面に向かって圧縮変形可能な板バネをなすことを特徴とする。
【解決手段】断熱材1は、屋根53の断熱構造に用いられる断熱材であって、設置状態では屋根53の隣接する母屋55,57同士の間に渡され、軒側母屋55の側面55aに沿うように平面に形成された軒側端面11aと、棟側母屋57の側面57bに沿うように平面に形成された棟側端面11bと、を有する板状の断熱板部11と、断熱板部11の軒側端面11aに設けられ設置状態では軒側母屋55に引っ掛かる爪部14と、を備え、爪部14は、前記軒側端面に向かって圧縮変形可能な板バネをなすことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材、断熱材の施工方法、及び屋根の断熱構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献に記載の建物の断熱構造が知られている。特許文献1の断熱構造では、母屋の棟側上角部に受材が固定される。断熱材の軒側縁は上記受材に形成された受部に嵌合され、断熱材の棟側縁は母屋の側面に沿う角度で切り落とされ母屋の側面に当接する。特許文献2の断熱構造では、母屋の間に設置される断熱材を断面平行四辺形形状とし、断熱材の両小口面をそれぞれ母屋の側面に当接させている。そして、軒側の母屋側面に取り付けられた断面への字形状の金具によって断熱材の下端が固定されている。このように、従来から、種々の断熱構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−339701号公報
【特許文献2】特開平8−260585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような断熱材の施工においては、作業性を向上し工程を削減するといった施工の合理化が望まれている。例えば、上記特許文献1,2における断熱材は、作業者が母屋の上に登って断熱材の上方から施工するので危険が伴う。従って、施工の合理化のためには、下方からの断熱材の施工を容易に可能とすることが好ましい。
【0005】
そこで、本発明は、下方からの断熱材の施工を容易に可能とする断熱材、断熱材の施工方法、及び屋根の断熱構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の断熱材は、屋根の断熱構造に用いられる断熱材であって、設置状態では屋根部の隣接する母屋同士の間に渡され、母屋のうち軒側に位置する軒側母屋の側面に沿うように形成された平面部を有する軒側端面と、母屋のうち棟側に位置する棟側母屋の側面に接触するように形成された平面部を有する棟側端面と、を有する板状の断熱板部と、断熱板部の軒側端面に設けられ設置状態で軒側母屋に引っ掛かる爪部と、を備え、爪部は、軒側端面に向かって圧縮変形可能であることを特徴とする。
【0007】
この断熱材の断熱板部は、隣接する軒側母屋と棟側母屋との間に渡され、軒側端面の平面部が軒側母屋の側面に沿い、棟側端面の平面部が棟側母屋の側面に接触するように設置される。断熱板部の軒側端面には、軒側母屋に引っ掛かる爪部が設けられているので、当該爪部が軒側母屋に引っ掛かることにより、断熱材の軒側の端部が支持される。爪部は圧縮変形可能であるので、断熱材の施工の際には、爪部を圧縮変形させ軒側端面を軒側母屋の側面に沿わせた状態で、断熱材を上方に移動させればよい。そして上方への移動に伴い、爪部の圧縮変形分の少なくとも一部が自動的に復帰して、カギ状の爪部が軒側母屋に引っ掛かることになり、断熱材の軒側が軒側母屋に支持される。そして、断熱材の軒側が軒側母屋に支持されることにより、断熱材の棟側は、少なくとも棟側母屋に寄り掛かることで当該棟側母屋に支持されることになる。このように、断熱材を下方から押し上げるといった作業によって自動的に断熱材の軒側及び棟側の支持構造が形成されるので、断熱材の下方からの施工が容易に可能になる。
【0008】
また、本発明の断熱材は、カギ状をなす先端側として形成された爪部を有するとともに、断熱板部の軒側端面に固定されたカギ状部材を備えてもよい。カギ状部材が断熱板部の軒側端面に固定され、カギ状部材の先端部の爪部が軒側母屋に引っ掛かるので、断熱板部の軒側の端部を支持することができる。
【0009】
また、この場合、カギ状の部材の基端側は、軒側端面から断熱板部の下面まで回り込むように屈曲され延在することとしてもよい。この構成によれば、断熱板部の下面の下方にカギ状の部材の基端側が存在するので、当該基端側が断熱板部の軒側を下方から支持することになる。従って、万一、カギ状の部材と断熱板部との固定が解除されてしまった場合にも、断熱板部の軒側の支持状態を維持することができる。
【0010】
本発明の断熱材の施工方法は、上述の断熱材を用いた断熱材の施工方法であって、断熱材を、爪部を変形させながら軒側母屋と棟側母屋との間に下方から押し込み、爪部が軒側母屋に引っ掛かる位置まで断熱材を上方に押し上げる断熱材設置工程を備えることを特徴とする。この断熱材設置工程では、軒側母屋と棟側母屋との間に断熱材を下方から押し込み上方に押し上げればよいので、下方からの断熱材の施工が容易に可能である。
【0011】
具体的には、本発明の断熱材の施工方法においては、軒側母屋の側面には切り欠き部が形成されており、断熱材設置工程では、切り欠き部に爪部が引っ掛かる位置まで断熱材を上方に押し上げることとしてもよい。また、本発明の断熱材の施工方法においては、断熱材設置工程では、軒側母屋の上面に爪部が引っ掛かる位置まで断熱材を上方に押し上げることとしてもよい。
【0012】
また、断熱材設置工程は、屋根部の垂木が存在する状態で行われてもよい。上記の断熱材設置工程は、下方から断熱材を押し上げることとしているので、母屋の上に垂木が存在する状態でも、好適に行うことができる。
【0013】
本発明の屋根の断熱構造は、上述の断熱材を用いた屋根の断熱構造であって、軒側母屋の側面には切り欠き部が形成されており、断熱材の爪部が切り欠き部に引っ掛かることで断熱材の軒側が軒側母屋に支持されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の屋根の断熱構造は、上述の断熱材を用いた屋根の断熱構造であって、 断熱材の爪部が軒側母屋の上面に引っ掛かることで断熱材の軒側が軒側母屋に支持されていることを特徴とする。
【0015】
これらの断熱構造では、断熱材の断熱板部は、軒側母屋と棟側母屋との間に渡され、軒側端面の平面部が軒側母屋の側面に沿い、棟側端面の平面部が棟側母屋の側面に接触するように設置される。断熱板部の軒側端面には、軒側母屋に引っ掛かる爪部が設けられているので、当該爪部が軒側母屋に引っ掛かることにより、断熱材の軒側の端部が支持される。爪部は圧縮変形可能であるので、断熱材の施工の際には、爪部を圧縮変形させ軒側端面を軒側母屋の側面に沿わせた状態で、断熱材を上方に移動させればよい。そして上方への移動に伴い、爪部の圧縮変形分の少なくとも一部が自動的に復帰して、カギ状の爪部が軒側母屋に引っ掛かることになり、断熱材の軒側が軒側母屋に支持される。そして、断熱材の軒側が軒側母屋に支持されることにより、断熱材の棟側は、少なくとも棟側母屋に寄り掛かることにより当該棟側母屋に支持されることになる。このように、当該断熱構造によれば、断熱材の施工時には、断熱材を下方から押し上げるといった作業によって自動的に断熱材の軒側及び棟側の支持構造が形成されるので、断熱材の下方からの施工が容易に可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の断熱材、断熱材の施工方法、及び屋根の断熱構造によれば、下方からの断熱材の施工が容易に可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る断熱材の第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1の断熱材の側面図である。
【図3】図1の断熱材の正面図である。
【図4】図1の断熱材が適用される屋根の斜視図である。
【図5】図1の断熱材の設置状態を示す屋根の断面図である。
【図6】図1の断熱材を設置する断熱材設置工程を示す側面図である。
【図7】本発明に係る断熱材の第2実施形態を示す斜視図である。
【図8】図7の断熱材の側面図である。
【図9】図7の断熱材の正面図である。
【図10】図7の断熱材の設置状態を示す屋根の断面図である。
【図11】本発明に係る断熱材の第3実施形態を示す斜視図である。
【図12】図11の断熱材の側面図である。
【図13】本発明に係る断熱材の第4実施形態を示す斜視図である。
【図14】図13の断熱材の設置状態を示す屋根の断面図である。
【図15】本発明に係る断熱材の第5実施形態を示す斜視図である。
【図16】図15の断熱材の設置状態を示す屋根の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る断熱材、断熱材の施工方法、及び屋根の断熱構造の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1〜図3に示す断熱材1は、建物の屋根の断熱構造に適用される断熱材である。図4及び図5に示されるように、断熱材1は、建物51の屋根53で隣接する母屋同士の間に設置され、当該建物51の断熱に寄与するものである。以下、屋根への設置状態において、断熱材1の軒側に接する母屋を軒側母屋55と称し、断熱材1の棟側に接する母屋を棟側母屋57と称するものとする。また、断熱材1の説明において、「上」、「下」なる語を用いる場合には、設置状態における上下に対応させるものとする。
【0020】
断熱材1は、断熱材料からなる板状の断熱板部11と、断熱板部11の一端面に取り付けられた硬質プラスチック製(例えば、PET樹脂製)のカギ状部材13とを備えている。断熱板部11は、例えば、発泡させたフェノール樹脂を材料とする板状の断熱材であり「フェノールフォーム」などと呼ばれるものである。
【0021】
図4及び図5に示されるように、断熱板部11は、高低差がある軒側母屋55と棟側母屋57との間に傾斜して渡される。また軒側母屋55の延在方向に測った断熱板部11の幅は、屋根53の垂木61の配列ピッチよりも大きい。断熱板部11は、軒側母屋55の棟側の側面55aに接する軒側端面11aと、棟側母屋57の軒側の側面57bに接する棟側端面11bとを備えている。軒側端面11aは、軒側母屋55の棟側の側面55aに沿うような平面をなし、棟側端面11bは、棟側母屋57の軒側の側面57bに沿うような平面をなしている。設置状態では、軒側端面11aは側面55aに対しカギ状部材13を挟んでほぼ密着し、棟側端面11bは側面57bにほぼ密着する。また、設置状態では、軒側端面11aと棟側端面11bとは共に鉛直面をなすので、図2に示されるように、断熱板部11は側方から見て平行四辺形をなす。
【0022】
カギ状部材13は、断熱板部11の軒側端面11aに取り付けられており、軒側端面11aのほぼ全幅に亘って延在している。カギ状部材13は、硬質プラスチック製の薄板状部材である。カギ状部材13は、基端側が軒側端面11aに接着され、カギ状部材13の先端側には、外側下方に向かって逆さU字状に曲げられたカギ状(フック状)の爪部14が設けられている。爪部14の先端は軒側端面11aから離れており、爪部14が軒側端面11aに向かう方向の圧縮力を受けた場合には、先端が軒側端面11aに近づくような形状に爪部14が弾性変形する。すなわち、爪部14は、軒側端面11aに向かって圧縮変形可能な板バネとして機能する。
【0023】
また、カギ状部材13の基端側は、軒側端面11aから断熱板部11の下面まで回り込むように略L字形状(或いは略V字形状)に屈曲されることで、カギ状部材13の基端側には、断熱板部11の下面11cを下方から支持する軒側支持部15が設けられている。なお、カギ状部材13は、断熱板部11の重量に比較して十分な剛性を有しており、上記屈曲部の屈曲形状は断熱板部11の自重程度では、ほとんど変形しない。
【0024】
カギ状部材13は、側方から見て、断熱板部11の上面位置からはみ出さないように取り付けられている。また、カギ状部材13の軒側支持部15は、断熱板部11の下面11cに沿って存在している。この構成により、断熱材1を積み重ねた場合にもカギ状部材13が障害になることがなく、断熱材1は輸送の便に優れる。
【0025】
次に、断熱材1を含んで構成される屋根の断熱構造について、図5を参照し説明する。 軒側母屋55の棟側の側面55aの上部には、断面矩形の切り欠き部55sが形成されており、軒側母屋55は断面L字形をなす。断熱板部11は、軒側端面11aを側面55aに当接させ、棟側端面11bを側面57bに当接させた状態で、軒側母屋55と棟側母屋57との間に傾斜して渡されている。爪部14は、切り欠き部55s内に収納されると共に、切り欠き部55sに形成された水平面55tに引っ掛かっている。なお、棟側母屋57も、更に上段に設置される断熱材との関係では軒側の母屋として機能しうるので、棟側母屋57も軒側母屋55と同様の断面L字形をなしている。
【0026】
爪部14が水平面55tに引っ掛かることにより、断熱材1の軒側の端部は軒側母屋55によって支持されている。またこの場合、側方から見た断熱板部11の対角線の長さが、軒側母屋55と棟側母屋57との距離よりも長いことから、軒側の端部を中心とした断熱材1の回転(断熱材1の棟側が下方に落下するような回転)が棟側母屋57によって阻止される。従って、断熱材1の棟側の端部が側面57bに寄り掛かった状態で、断熱材1の棟側の端部は棟側母屋57によって支持される。このように、両端が支持された断熱材1は、軒側母屋55と棟側母屋57との間で安定的に固定されている。
【0027】
更に、カギ状部材13と軒側端面11bとの接着が仮に剥がれた場合を考えると、この場合、カギ状部材13の軒側支持部15の存在により、断熱板部11の軒側の支持状態が維持される。従って、万一、カギ状部材13と軒側端面11bとの接着が剥がれたとしても、断熱板部11の軒側の支持状態が維持され、断熱板部11が落下することが避けられる。
【0028】
続いて、上述した断熱材1の施工方法を説明する。
【0029】
(断熱材作製工程)
当該施工方法に用いられる断熱材1は、事前に工場で作製される。具体的には、板状の断熱材材料の両端が所定の形状に切り落とされて軒側端面11a及び棟側端面11bが形成され、軒側端面11aにカギ状部材13が接着される。軒側端面11aとカギ状部材13との接着には、例えばホットメルト接着剤や有機系接着剤が用いられる。こうして作製された断熱材1が、施工現場に輸送される。
【0030】
(断熱材設置工程)
施工現場では、図6に示すように、軒側母屋55と棟側母屋57との間に、下方から断熱材1を押し込む。このとき、軒側端面11aを側面55aに沿わせ、棟側端面11bを側面57bに沿わせるようにする。爪部14は、軒側端面11aと側面55aとに挟まれて圧縮変形する。更に断熱材1を上方に押し上げ、爪部14の先端が切り欠き部55sの下端の位置に到達すると、爪部14に作用していた圧縮力が解除(又は低減)される。そして、爪部14は、元の形状に復帰して切り欠き部55s内に嵌り込み、水平面55tに引っ掛かる。そうすると、前述した図5の状態となり、その結果、断熱材1は、両端が支持され軒側母屋55と棟側母屋57との間で安定的に固定される。以上の手順で各所の断熱材1を設置した後、断熱板部11と母屋55,57との取り合い部や断熱板部11同士の間に、気密テープ等を貼付する処理を施して、断熱構造が完成する。
【0031】
上述した断熱材1、断熱材1の施工方法、及び屋根の断熱構造による作用効果は、次のとおりである。前述のとおり、断熱材1を下方から押し上げることで自動的に断熱材1の軒側及び棟側の支持構造が形成されるので、断熱材1の下方からの施工を容易に行うことができる。よって、工期の短縮を図ることができる。また、断熱材1を下方から押し上げるといった単純な動作で断熱材1が固定されるので、断熱材設置工程は1人でも容易に実行可能であり、人工数の削減を図ることができる。
【0032】
また、上記の断熱材設置工程では断熱材1を下方から挿入するので、垂木61が既に存在している状態でも、断熱材1を設置することが可能である。更には、野地面材63や屋根材65まで存在している場合にも、断熱材設置工程は実行可能である。従って、新築建物の施工においては、垂木61、野地面材63、屋根材65の施工後に断熱材設置工程を行うことができ、この場合には雨天時にも作業が可能となる。また、リフォーム時においても、垂木61、野地面材63、屋根材65の存在下で、断熱材1を下方から押し込み、容易に断熱材1を施工することができる。
【0033】
(第2実施形態)
建物の新築時であれば母屋を断面L字形とすることも比較的容易であるが、リフォーム時においては母屋は既に断面矩形とされていることが多い。従って、本実施形態では、断面矩形の通常の母屋を有する屋根に適用可能な断熱材について説明する。本実施形態において、前述の第1実施形態と同一又は同等な構成部分には図面に同一符号を付し重複する説明を省略する。
【0034】
図7〜図10に示す断熱材101は、断熱材1におけるカギ状部材13(図1〜図3参照)に代えて、カギ状部材113を備えている。カギ状部材113は、カギ状部材13と同様に、硬質プラスチック製(例えば、PET樹脂製)の薄板状部材である。カギ状部材113の先端側には、外側下方に向かって逆さU字状に曲げられたカギ状(フック状)の爪部114が設けられている。爪部114の先端は、爪部14の先端に比べて軒側端面11aから離れた位置にある。また、爪部114は、その上端が断熱板部11の上面よりも上方にはみ出すように湾曲している。爪部114が軒側端面11aに向かう方向の圧縮力を受けた場合には、先端が軒側端面11aに近づくような形状に爪部114が弾性変形する。すなわち、爪部114は、軒側端面11aに向かって圧縮変形可能な板バネとして機能する。
【0035】
断熱材101が適用される屋根の断熱構造を図10に示す。図に示すように、この屋根の断熱構造では、軒側母屋155及び棟側母屋157が矩形断面をなしている。そして、断熱材101の爪部114は軒側母屋155の上面155cに引っ掛かっている。爪部114が上面155cに引っ掛かることにより、断熱材101の軒側の端部は軒側母屋155によって支持されている。またこの場合、側方から見た断熱板部11の対角長さが、軒側母屋155と棟側母屋157との距離よりも長いことから、軒側の端部を中心とした断熱材101の回転(断熱材101の棟側が下方に落下するような回転)が棟側母屋157によって阻止される。従って、断熱材101の棟側の端部が側面157bに寄り掛かった状態となり、断熱材101の棟側の端部は棟側母屋157によって支持される。このように、両端が支持された断熱材101は、軒側母屋155と棟側母屋157との間で安定的に固定されている。
【0036】
断熱材101の施工方法は次の通りである。断熱材設置工程では、軒側母屋155と棟側母屋157との間に、下方から断熱材101を押し込む。このとき、軒側端面11aを側面155aに沿わせ、棟側端面11bを側面157bに沿わせるようにする。このとき、爪部114は、軒側端面11aと側面155aとに挟まれて圧縮変形する。この状態から更に断熱材1を上方に押し上げ、爪部114の先端が軒側母屋155の上面155cの位置に到達すると、軒側端面11aによる圧縮力が解除される。そして、爪部114は、元の形状に復帰して上面155cに引っ掛かり、図10の状態となる。その結果、断熱材101は、断熱材1と同様に、両端が支持され軒側母屋155と棟側母屋157との間で安定的に固定される。
【0037】
以上説明した本実施形態の断熱材101、断熱材101の施工方法、及び断熱構造によれば、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0038】
(第3実施形態)
本実施形態において、前述の第1実施形態と同一又は同等な構成部分には図面に同一符号を付し重複する説明を省略する。図11〜図12に示す断熱材201は、断熱材1におけるカギ状部材13(図1〜図3参照)に代えて、カギ状部材213を備えている。カギ状部材213は、カギ状部材13と同様に、硬質プラスチック製(例えば、PET樹脂製)の薄板状部材である。カギ状部材213の先端側は、外側下方に向かって逆さU字状に折り曲げられており、さらにその両端において、折り返し部分が重ね合わせられステープル213aにより止め付けられている。この構造に基づき、ステープル213aによる止め付けがされていない中央部が、比較的軒側端面11aから離れて位置することになり、軒側母屋155に引っ掛かると共に板バネとして機能する爪部214を構成する。
【0039】
この断熱材201によれば、断熱材1と同様の施工方法により同様の断熱構造を構築することができるので、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0040】
(第4実施形態)
図13に示す断熱材301のように、カギ状部材13に代えて軒側支持部15を省略したカギ状部材313を軒側端面11aに接着してもよい。このような断熱材301の構成によっても、断熱材1と同様の施工方法によって、図15に示すように同様の断熱構造を構築し、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0041】
(第5実施形態)
図14に示す断熱材401のように、カギ状部材113に代えて軒側支持部15を省略したカギ状部材413を軒側端面11aに接着してもよい。このような断熱材401の構成によっても、断熱材1と同様の施工方法により、図16に示すように同様の断熱構造を構築し、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0042】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。上述の各実施形態では、断熱板部11の軒側端面11aのみに爪部14,114,214,314,414を設けているが、棟側端面11bにも棟側母屋に引っ掛かるための同様の爪部を設けてもよい。また、棟側端面11bに爪部14又は314を設ける場合には、これに対応して棟側母屋57の側面57bの上部に断面矩形の切り欠きを設ければよい。
【0043】
また、各実施形態では、フェノールフォームなど自立可能な材料からなる断熱板材により本発明の断熱板部を構成しているが、自立不可能な断熱材料を自立可能なフレーム内に充填して板状となすことで本発明における断熱板部を構成してもよい。
【符号の説明】
【0044】
1,101,201,301,401…断熱材、11…断熱板部、11a…軒側端面、11b…棟側端面、13,113,213,313,413…カギ状部材、15…軒側支持部(カギ状の部材の基端側)、14,114,214…爪部、51…建物、53…屋根、55…軒側母屋、55a…軒側母屋の側面、55s…切り欠き部、57…棟側母屋、57b…棟側母屋の側面、61…垂木、155…軒側母屋、155c…軒側母屋の上面、157…棟側母屋。
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材、断熱材の施工方法、及び屋根の断熱構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、このような分野の技術として、下記特許文献に記載の建物の断熱構造が知られている。特許文献1の断熱構造では、母屋の棟側上角部に受材が固定される。断熱材の軒側縁は上記受材に形成された受部に嵌合され、断熱材の棟側縁は母屋の側面に沿う角度で切り落とされ母屋の側面に当接する。特許文献2の断熱構造では、母屋の間に設置される断熱材を断面平行四辺形形状とし、断熱材の両小口面をそれぞれ母屋の側面に当接させている。そして、軒側の母屋側面に取り付けられた断面への字形状の金具によって断熱材の下端が固定されている。このように、従来から、種々の断熱構造が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−339701号公報
【特許文献2】特開平8−260585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような断熱材の施工においては、作業性を向上し工程を削減するといった施工の合理化が望まれている。例えば、上記特許文献1,2における断熱材は、作業者が母屋の上に登って断熱材の上方から施工するので危険が伴う。従って、施工の合理化のためには、下方からの断熱材の施工を容易に可能とすることが好ましい。
【0005】
そこで、本発明は、下方からの断熱材の施工を容易に可能とする断熱材、断熱材の施工方法、及び屋根の断熱構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の断熱材は、屋根の断熱構造に用いられる断熱材であって、設置状態では屋根部の隣接する母屋同士の間に渡され、母屋のうち軒側に位置する軒側母屋の側面に沿うように形成された平面部を有する軒側端面と、母屋のうち棟側に位置する棟側母屋の側面に接触するように形成された平面部を有する棟側端面と、を有する板状の断熱板部と、断熱板部の軒側端面に設けられ設置状態で軒側母屋に引っ掛かる爪部と、を備え、爪部は、軒側端面に向かって圧縮変形可能であることを特徴とする。
【0007】
この断熱材の断熱板部は、隣接する軒側母屋と棟側母屋との間に渡され、軒側端面の平面部が軒側母屋の側面に沿い、棟側端面の平面部が棟側母屋の側面に接触するように設置される。断熱板部の軒側端面には、軒側母屋に引っ掛かる爪部が設けられているので、当該爪部が軒側母屋に引っ掛かることにより、断熱材の軒側の端部が支持される。爪部は圧縮変形可能であるので、断熱材の施工の際には、爪部を圧縮変形させ軒側端面を軒側母屋の側面に沿わせた状態で、断熱材を上方に移動させればよい。そして上方への移動に伴い、爪部の圧縮変形分の少なくとも一部が自動的に復帰して、カギ状の爪部が軒側母屋に引っ掛かることになり、断熱材の軒側が軒側母屋に支持される。そして、断熱材の軒側が軒側母屋に支持されることにより、断熱材の棟側は、少なくとも棟側母屋に寄り掛かることで当該棟側母屋に支持されることになる。このように、断熱材を下方から押し上げるといった作業によって自動的に断熱材の軒側及び棟側の支持構造が形成されるので、断熱材の下方からの施工が容易に可能になる。
【0008】
また、本発明の断熱材は、カギ状をなす先端側として形成された爪部を有するとともに、断熱板部の軒側端面に固定されたカギ状部材を備えてもよい。カギ状部材が断熱板部の軒側端面に固定され、カギ状部材の先端部の爪部が軒側母屋に引っ掛かるので、断熱板部の軒側の端部を支持することができる。
【0009】
また、この場合、カギ状の部材の基端側は、軒側端面から断熱板部の下面まで回り込むように屈曲され延在することとしてもよい。この構成によれば、断熱板部の下面の下方にカギ状の部材の基端側が存在するので、当該基端側が断熱板部の軒側を下方から支持することになる。従って、万一、カギ状の部材と断熱板部との固定が解除されてしまった場合にも、断熱板部の軒側の支持状態を維持することができる。
【0010】
本発明の断熱材の施工方法は、上述の断熱材を用いた断熱材の施工方法であって、断熱材を、爪部を変形させながら軒側母屋と棟側母屋との間に下方から押し込み、爪部が軒側母屋に引っ掛かる位置まで断熱材を上方に押し上げる断熱材設置工程を備えることを特徴とする。この断熱材設置工程では、軒側母屋と棟側母屋との間に断熱材を下方から押し込み上方に押し上げればよいので、下方からの断熱材の施工が容易に可能である。
【0011】
具体的には、本発明の断熱材の施工方法においては、軒側母屋の側面には切り欠き部が形成されており、断熱材設置工程では、切り欠き部に爪部が引っ掛かる位置まで断熱材を上方に押し上げることとしてもよい。また、本発明の断熱材の施工方法においては、断熱材設置工程では、軒側母屋の上面に爪部が引っ掛かる位置まで断熱材を上方に押し上げることとしてもよい。
【0012】
また、断熱材設置工程は、屋根部の垂木が存在する状態で行われてもよい。上記の断熱材設置工程は、下方から断熱材を押し上げることとしているので、母屋の上に垂木が存在する状態でも、好適に行うことができる。
【0013】
本発明の屋根の断熱構造は、上述の断熱材を用いた屋根の断熱構造であって、軒側母屋の側面には切り欠き部が形成されており、断熱材の爪部が切り欠き部に引っ掛かることで断熱材の軒側が軒側母屋に支持されていることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の屋根の断熱構造は、上述の断熱材を用いた屋根の断熱構造であって、 断熱材の爪部が軒側母屋の上面に引っ掛かることで断熱材の軒側が軒側母屋に支持されていることを特徴とする。
【0015】
これらの断熱構造では、断熱材の断熱板部は、軒側母屋と棟側母屋との間に渡され、軒側端面の平面部が軒側母屋の側面に沿い、棟側端面の平面部が棟側母屋の側面に接触するように設置される。断熱板部の軒側端面には、軒側母屋に引っ掛かる爪部が設けられているので、当該爪部が軒側母屋に引っ掛かることにより、断熱材の軒側の端部が支持される。爪部は圧縮変形可能であるので、断熱材の施工の際には、爪部を圧縮変形させ軒側端面を軒側母屋の側面に沿わせた状態で、断熱材を上方に移動させればよい。そして上方への移動に伴い、爪部の圧縮変形分の少なくとも一部が自動的に復帰して、カギ状の爪部が軒側母屋に引っ掛かることになり、断熱材の軒側が軒側母屋に支持される。そして、断熱材の軒側が軒側母屋に支持されることにより、断熱材の棟側は、少なくとも棟側母屋に寄り掛かることにより当該棟側母屋に支持されることになる。このように、当該断熱構造によれば、断熱材の施工時には、断熱材を下方から押し上げるといった作業によって自動的に断熱材の軒側及び棟側の支持構造が形成されるので、断熱材の下方からの施工が容易に可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の断熱材、断熱材の施工方法、及び屋根の断熱構造によれば、下方からの断熱材の施工が容易に可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る断熱材の第1実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1の断熱材の側面図である。
【図3】図1の断熱材の正面図である。
【図4】図1の断熱材が適用される屋根の斜視図である。
【図5】図1の断熱材の設置状態を示す屋根の断面図である。
【図6】図1の断熱材を設置する断熱材設置工程を示す側面図である。
【図7】本発明に係る断熱材の第2実施形態を示す斜視図である。
【図8】図7の断熱材の側面図である。
【図9】図7の断熱材の正面図である。
【図10】図7の断熱材の設置状態を示す屋根の断面図である。
【図11】本発明に係る断熱材の第3実施形態を示す斜視図である。
【図12】図11の断熱材の側面図である。
【図13】本発明に係る断熱材の第4実施形態を示す斜視図である。
【図14】図13の断熱材の設置状態を示す屋根の断面図である。
【図15】本発明に係る断熱材の第5実施形態を示す斜視図である。
【図16】図15の断熱材の設置状態を示す屋根の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る断熱材、断熱材の施工方法、及び屋根の断熱構造の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
(第1実施形態)
図1〜図3に示す断熱材1は、建物の屋根の断熱構造に適用される断熱材である。図4及び図5に示されるように、断熱材1は、建物51の屋根53で隣接する母屋同士の間に設置され、当該建物51の断熱に寄与するものである。以下、屋根への設置状態において、断熱材1の軒側に接する母屋を軒側母屋55と称し、断熱材1の棟側に接する母屋を棟側母屋57と称するものとする。また、断熱材1の説明において、「上」、「下」なる語を用いる場合には、設置状態における上下に対応させるものとする。
【0020】
断熱材1は、断熱材料からなる板状の断熱板部11と、断熱板部11の一端面に取り付けられた硬質プラスチック製(例えば、PET樹脂製)のカギ状部材13とを備えている。断熱板部11は、例えば、発泡させたフェノール樹脂を材料とする板状の断熱材であり「フェノールフォーム」などと呼ばれるものである。
【0021】
図4及び図5に示されるように、断熱板部11は、高低差がある軒側母屋55と棟側母屋57との間に傾斜して渡される。また軒側母屋55の延在方向に測った断熱板部11の幅は、屋根53の垂木61の配列ピッチよりも大きい。断熱板部11は、軒側母屋55の棟側の側面55aに接する軒側端面11aと、棟側母屋57の軒側の側面57bに接する棟側端面11bとを備えている。軒側端面11aは、軒側母屋55の棟側の側面55aに沿うような平面をなし、棟側端面11bは、棟側母屋57の軒側の側面57bに沿うような平面をなしている。設置状態では、軒側端面11aは側面55aに対しカギ状部材13を挟んでほぼ密着し、棟側端面11bは側面57bにほぼ密着する。また、設置状態では、軒側端面11aと棟側端面11bとは共に鉛直面をなすので、図2に示されるように、断熱板部11は側方から見て平行四辺形をなす。
【0022】
カギ状部材13は、断熱板部11の軒側端面11aに取り付けられており、軒側端面11aのほぼ全幅に亘って延在している。カギ状部材13は、硬質プラスチック製の薄板状部材である。カギ状部材13は、基端側が軒側端面11aに接着され、カギ状部材13の先端側には、外側下方に向かって逆さU字状に曲げられたカギ状(フック状)の爪部14が設けられている。爪部14の先端は軒側端面11aから離れており、爪部14が軒側端面11aに向かう方向の圧縮力を受けた場合には、先端が軒側端面11aに近づくような形状に爪部14が弾性変形する。すなわち、爪部14は、軒側端面11aに向かって圧縮変形可能な板バネとして機能する。
【0023】
また、カギ状部材13の基端側は、軒側端面11aから断熱板部11の下面まで回り込むように略L字形状(或いは略V字形状)に屈曲されることで、カギ状部材13の基端側には、断熱板部11の下面11cを下方から支持する軒側支持部15が設けられている。なお、カギ状部材13は、断熱板部11の重量に比較して十分な剛性を有しており、上記屈曲部の屈曲形状は断熱板部11の自重程度では、ほとんど変形しない。
【0024】
カギ状部材13は、側方から見て、断熱板部11の上面位置からはみ出さないように取り付けられている。また、カギ状部材13の軒側支持部15は、断熱板部11の下面11cに沿って存在している。この構成により、断熱材1を積み重ねた場合にもカギ状部材13が障害になることがなく、断熱材1は輸送の便に優れる。
【0025】
次に、断熱材1を含んで構成される屋根の断熱構造について、図5を参照し説明する。 軒側母屋55の棟側の側面55aの上部には、断面矩形の切り欠き部55sが形成されており、軒側母屋55は断面L字形をなす。断熱板部11は、軒側端面11aを側面55aに当接させ、棟側端面11bを側面57bに当接させた状態で、軒側母屋55と棟側母屋57との間に傾斜して渡されている。爪部14は、切り欠き部55s内に収納されると共に、切り欠き部55sに形成された水平面55tに引っ掛かっている。なお、棟側母屋57も、更に上段に設置される断熱材との関係では軒側の母屋として機能しうるので、棟側母屋57も軒側母屋55と同様の断面L字形をなしている。
【0026】
爪部14が水平面55tに引っ掛かることにより、断熱材1の軒側の端部は軒側母屋55によって支持されている。またこの場合、側方から見た断熱板部11の対角線の長さが、軒側母屋55と棟側母屋57との距離よりも長いことから、軒側の端部を中心とした断熱材1の回転(断熱材1の棟側が下方に落下するような回転)が棟側母屋57によって阻止される。従って、断熱材1の棟側の端部が側面57bに寄り掛かった状態で、断熱材1の棟側の端部は棟側母屋57によって支持される。このように、両端が支持された断熱材1は、軒側母屋55と棟側母屋57との間で安定的に固定されている。
【0027】
更に、カギ状部材13と軒側端面11bとの接着が仮に剥がれた場合を考えると、この場合、カギ状部材13の軒側支持部15の存在により、断熱板部11の軒側の支持状態が維持される。従って、万一、カギ状部材13と軒側端面11bとの接着が剥がれたとしても、断熱板部11の軒側の支持状態が維持され、断熱板部11が落下することが避けられる。
【0028】
続いて、上述した断熱材1の施工方法を説明する。
【0029】
(断熱材作製工程)
当該施工方法に用いられる断熱材1は、事前に工場で作製される。具体的には、板状の断熱材材料の両端が所定の形状に切り落とされて軒側端面11a及び棟側端面11bが形成され、軒側端面11aにカギ状部材13が接着される。軒側端面11aとカギ状部材13との接着には、例えばホットメルト接着剤や有機系接着剤が用いられる。こうして作製された断熱材1が、施工現場に輸送される。
【0030】
(断熱材設置工程)
施工現場では、図6に示すように、軒側母屋55と棟側母屋57との間に、下方から断熱材1を押し込む。このとき、軒側端面11aを側面55aに沿わせ、棟側端面11bを側面57bに沿わせるようにする。爪部14は、軒側端面11aと側面55aとに挟まれて圧縮変形する。更に断熱材1を上方に押し上げ、爪部14の先端が切り欠き部55sの下端の位置に到達すると、爪部14に作用していた圧縮力が解除(又は低減)される。そして、爪部14は、元の形状に復帰して切り欠き部55s内に嵌り込み、水平面55tに引っ掛かる。そうすると、前述した図5の状態となり、その結果、断熱材1は、両端が支持され軒側母屋55と棟側母屋57との間で安定的に固定される。以上の手順で各所の断熱材1を設置した後、断熱板部11と母屋55,57との取り合い部や断熱板部11同士の間に、気密テープ等を貼付する処理を施して、断熱構造が完成する。
【0031】
上述した断熱材1、断熱材1の施工方法、及び屋根の断熱構造による作用効果は、次のとおりである。前述のとおり、断熱材1を下方から押し上げることで自動的に断熱材1の軒側及び棟側の支持構造が形成されるので、断熱材1の下方からの施工を容易に行うことができる。よって、工期の短縮を図ることができる。また、断熱材1を下方から押し上げるといった単純な動作で断熱材1が固定されるので、断熱材設置工程は1人でも容易に実行可能であり、人工数の削減を図ることができる。
【0032】
また、上記の断熱材設置工程では断熱材1を下方から挿入するので、垂木61が既に存在している状態でも、断熱材1を設置することが可能である。更には、野地面材63や屋根材65まで存在している場合にも、断熱材設置工程は実行可能である。従って、新築建物の施工においては、垂木61、野地面材63、屋根材65の施工後に断熱材設置工程を行うことができ、この場合には雨天時にも作業が可能となる。また、リフォーム時においても、垂木61、野地面材63、屋根材65の存在下で、断熱材1を下方から押し込み、容易に断熱材1を施工することができる。
【0033】
(第2実施形態)
建物の新築時であれば母屋を断面L字形とすることも比較的容易であるが、リフォーム時においては母屋は既に断面矩形とされていることが多い。従って、本実施形態では、断面矩形の通常の母屋を有する屋根に適用可能な断熱材について説明する。本実施形態において、前述の第1実施形態と同一又は同等な構成部分には図面に同一符号を付し重複する説明を省略する。
【0034】
図7〜図10に示す断熱材101は、断熱材1におけるカギ状部材13(図1〜図3参照)に代えて、カギ状部材113を備えている。カギ状部材113は、カギ状部材13と同様に、硬質プラスチック製(例えば、PET樹脂製)の薄板状部材である。カギ状部材113の先端側には、外側下方に向かって逆さU字状に曲げられたカギ状(フック状)の爪部114が設けられている。爪部114の先端は、爪部14の先端に比べて軒側端面11aから離れた位置にある。また、爪部114は、その上端が断熱板部11の上面よりも上方にはみ出すように湾曲している。爪部114が軒側端面11aに向かう方向の圧縮力を受けた場合には、先端が軒側端面11aに近づくような形状に爪部114が弾性変形する。すなわち、爪部114は、軒側端面11aに向かって圧縮変形可能な板バネとして機能する。
【0035】
断熱材101が適用される屋根の断熱構造を図10に示す。図に示すように、この屋根の断熱構造では、軒側母屋155及び棟側母屋157が矩形断面をなしている。そして、断熱材101の爪部114は軒側母屋155の上面155cに引っ掛かっている。爪部114が上面155cに引っ掛かることにより、断熱材101の軒側の端部は軒側母屋155によって支持されている。またこの場合、側方から見た断熱板部11の対角長さが、軒側母屋155と棟側母屋157との距離よりも長いことから、軒側の端部を中心とした断熱材101の回転(断熱材101の棟側が下方に落下するような回転)が棟側母屋157によって阻止される。従って、断熱材101の棟側の端部が側面157bに寄り掛かった状態となり、断熱材101の棟側の端部は棟側母屋157によって支持される。このように、両端が支持された断熱材101は、軒側母屋155と棟側母屋157との間で安定的に固定されている。
【0036】
断熱材101の施工方法は次の通りである。断熱材設置工程では、軒側母屋155と棟側母屋157との間に、下方から断熱材101を押し込む。このとき、軒側端面11aを側面155aに沿わせ、棟側端面11bを側面157bに沿わせるようにする。このとき、爪部114は、軒側端面11aと側面155aとに挟まれて圧縮変形する。この状態から更に断熱材1を上方に押し上げ、爪部114の先端が軒側母屋155の上面155cの位置に到達すると、軒側端面11aによる圧縮力が解除される。そして、爪部114は、元の形状に復帰して上面155cに引っ掛かり、図10の状態となる。その結果、断熱材101は、断熱材1と同様に、両端が支持され軒側母屋155と棟側母屋157との間で安定的に固定される。
【0037】
以上説明した本実施形態の断熱材101、断熱材101の施工方法、及び断熱構造によれば、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0038】
(第3実施形態)
本実施形態において、前述の第1実施形態と同一又は同等な構成部分には図面に同一符号を付し重複する説明を省略する。図11〜図12に示す断熱材201は、断熱材1におけるカギ状部材13(図1〜図3参照)に代えて、カギ状部材213を備えている。カギ状部材213は、カギ状部材13と同様に、硬質プラスチック製(例えば、PET樹脂製)の薄板状部材である。カギ状部材213の先端側は、外側下方に向かって逆さU字状に折り曲げられており、さらにその両端において、折り返し部分が重ね合わせられステープル213aにより止め付けられている。この構造に基づき、ステープル213aによる止め付けがされていない中央部が、比較的軒側端面11aから離れて位置することになり、軒側母屋155に引っ掛かると共に板バネとして機能する爪部214を構成する。
【0039】
この断熱材201によれば、断熱材1と同様の施工方法により同様の断熱構造を構築することができるので、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0040】
(第4実施形態)
図13に示す断熱材301のように、カギ状部材13に代えて軒側支持部15を省略したカギ状部材313を軒側端面11aに接着してもよい。このような断熱材301の構成によっても、断熱材1と同様の施工方法によって、図15に示すように同様の断熱構造を構築し、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0041】
(第5実施形態)
図14に示す断熱材401のように、カギ状部材113に代えて軒側支持部15を省略したカギ状部材413を軒側端面11aに接着してもよい。このような断熱材401の構成によっても、断熱材1と同様の施工方法により、図16に示すように同様の断熱構造を構築し、第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0042】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。上述の各実施形態では、断熱板部11の軒側端面11aのみに爪部14,114,214,314,414を設けているが、棟側端面11bにも棟側母屋に引っ掛かるための同様の爪部を設けてもよい。また、棟側端面11bに爪部14又は314を設ける場合には、これに対応して棟側母屋57の側面57bの上部に断面矩形の切り欠きを設ければよい。
【0043】
また、各実施形態では、フェノールフォームなど自立可能な材料からなる断熱板材により本発明の断熱板部を構成しているが、自立不可能な断熱材料を自立可能なフレーム内に充填して板状となすことで本発明における断熱板部を構成してもよい。
【符号の説明】
【0044】
1,101,201,301,401…断熱材、11…断熱板部、11a…軒側端面、11b…棟側端面、13,113,213,313,413…カギ状部材、15…軒側支持部(カギ状の部材の基端側)、14,114,214…爪部、51…建物、53…屋根、55…軒側母屋、55a…軒側母屋の側面、55s…切り欠き部、57…棟側母屋、57b…棟側母屋の側面、61…垂木、155…軒側母屋、155c…軒側母屋の上面、157…棟側母屋。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋根の断熱構造に用いられる断熱材であって、
設置状態では屋根部の隣接する母屋同士の間に渡され、前記母屋のうち軒側に位置する軒側母屋の側面に沿うように形成された平面部を有する軒側端面と、前記母屋のうち棟側に位置する棟側母屋の側面に接触するように形成された平面部を有する棟側端面と、を有する板状の断熱板部と、
前記断熱板部の前記軒側端面に設けられ設置状態で前記軒側母屋に引っ掛かる爪部と、を備え、
前記爪部は、前記軒側端面に向かって圧縮変形可能であることを特徴とする断熱材。
【請求項2】
カギ状をなす先端側として形成された前記爪部を有するとともに、前記断熱板部の前記軒側端面に固定されたカギ状部材を備えたことを特徴とする請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
前記カギ状の部材の基端側は、前記軒側端面から前記断熱板部の下面まで回り込むように屈曲され延在することを特徴とする請求項2に記載の断熱材。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の断熱材を用いた断熱材の施工方法であって、
前記断熱材を、前記爪部を変形させながら前記軒側母屋と前記棟側母屋との間に下方から押し込み、前記爪部が前記軒側母屋に引っ掛かる位置まで前記断熱材を上方に押し上げる断熱材設置工程を備えることを特徴とする断熱材の施工方法。
【請求項5】
前記軒側母屋の前記側面には切り欠き部が形成されており、
前記断熱材設置工程では、前記切り欠き部に前記爪部が引っ掛かる位置まで前記断熱材を上方に押し上げることを特徴とする請求項4に記載の断熱材の施工方法。
【請求項6】
前記断熱材設置工程では、前記軒側母屋の上面に前記爪部が引っ掛かる位置まで前記断熱材を上方に押し上げることを特徴とする請求項4に記載の断熱材の施工方法。
【請求項7】
前記断熱材設置工程は、前記屋根部の垂木が存在する状態で行われることを特徴とする請求項4〜6の何れか1項に記載の断熱材の施工方法。
【請求項8】
請求項1〜3の何れか1項に記載の断熱材を用いた屋根の断熱構造であって、
前記軒側母屋の前記側面には切り欠き部が形成されており、
前記断熱材の前記爪部が前記切り欠き部に引っ掛かることで前記断熱材の軒側が前記軒側母屋に支持されていることを特徴とする屋根の断熱構造。
【請求項9】
請求項1〜3の何れか1項に記載の断熱材を用いた屋根の断熱構造であって、
前記断熱材の前記爪部が前記軒側母屋の上面に引っ掛かることで前記断熱材の軒側が前記軒側母屋に支持されていることを特徴とする屋根の断熱構造。
【請求項1】
屋根の断熱構造に用いられる断熱材であって、
設置状態では屋根部の隣接する母屋同士の間に渡され、前記母屋のうち軒側に位置する軒側母屋の側面に沿うように形成された平面部を有する軒側端面と、前記母屋のうち棟側に位置する棟側母屋の側面に接触するように形成された平面部を有する棟側端面と、を有する板状の断熱板部と、
前記断熱板部の前記軒側端面に設けられ設置状態で前記軒側母屋に引っ掛かる爪部と、を備え、
前記爪部は、前記軒側端面に向かって圧縮変形可能であることを特徴とする断熱材。
【請求項2】
カギ状をなす先端側として形成された前記爪部を有するとともに、前記断熱板部の前記軒側端面に固定されたカギ状部材を備えたことを特徴とする請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
前記カギ状の部材の基端側は、前記軒側端面から前記断熱板部の下面まで回り込むように屈曲され延在することを特徴とする請求項2に記載の断熱材。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の断熱材を用いた断熱材の施工方法であって、
前記断熱材を、前記爪部を変形させながら前記軒側母屋と前記棟側母屋との間に下方から押し込み、前記爪部が前記軒側母屋に引っ掛かる位置まで前記断熱材を上方に押し上げる断熱材設置工程を備えることを特徴とする断熱材の施工方法。
【請求項5】
前記軒側母屋の前記側面には切り欠き部が形成されており、
前記断熱材設置工程では、前記切り欠き部に前記爪部が引っ掛かる位置まで前記断熱材を上方に押し上げることを特徴とする請求項4に記載の断熱材の施工方法。
【請求項6】
前記断熱材設置工程では、前記軒側母屋の上面に前記爪部が引っ掛かる位置まで前記断熱材を上方に押し上げることを特徴とする請求項4に記載の断熱材の施工方法。
【請求項7】
前記断熱材設置工程は、前記屋根部の垂木が存在する状態で行われることを特徴とする請求項4〜6の何れか1項に記載の断熱材の施工方法。
【請求項8】
請求項1〜3の何れか1項に記載の断熱材を用いた屋根の断熱構造であって、
前記軒側母屋の前記側面には切り欠き部が形成されており、
前記断熱材の前記爪部が前記切り欠き部に引っ掛かることで前記断熱材の軒側が前記軒側母屋に支持されていることを特徴とする屋根の断熱構造。
【請求項9】
請求項1〜3の何れか1項に記載の断熱材を用いた屋根の断熱構造であって、
前記断熱材の前記爪部が前記軒側母屋の上面に引っ掛かることで前記断熱材の軒側が前記軒側母屋に支持されていることを特徴とする屋根の断熱構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−41771(P2012−41771A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185424(P2010−185424)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【出願人】(595102248)住建システム株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(390018717)旭化成建材株式会社 (249)
【出願人】(595102248)住建システム株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
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