説明

断熱材及びその製造方法

【課題】優れた断熱性能と強度とを兼ね備えた断熱材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る断熱材の製造方法は、平均粒径50nm以下のシリカ微粒子と、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、を含む乾式加圧成形体を相対湿度70%以上で養生する(S2)ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材及びその製造方法に関し、特に、断熱材の強度の向上に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱伝導性が低く、断熱性能に優れた断熱材として、低熱伝導性材料であるシリカ微粒子と無機繊維と結合剤とを混合し、プレス成形を行った後、機械加工することによって得られる断熱材があった(例えば、特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平11−513349号公報
【特許文献2】特表平10−514959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来技術においては、結合剤を使用するため、例えば、脱脂を行う必要があり、この脱脂によって断熱材の強度が低下するという問題があった。また、結合剤の使用によって環境への負荷が増大する。このように、結合剤を使用する場合には、脱脂等に伴う工程数や所要時間及びエネルギーの増大といった問題があった。
【0005】
これに対し、結合剤を使用することなく、プレス圧を調整して断熱材の密度を増加させることによって強度を高めることも可能である。しかしながら、この場合、例えば、密度の増加に伴い固体伝熱も増加するため、当該断熱材の断熱性能が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであって、優れた断熱性能と強度とを兼ね備えた断熱材及びその製造方法を提供することをその目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る断熱材の製造方法は、平均粒径50nm以下のシリカ微粒子と、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、を含む乾式加圧成形体を相対湿度70%以上で養生することを特徴とする。本発明によれば、優れた断熱性能と強度とを兼ね備えた断熱材の製造方法を提供することができる。
【0008】
また、前記乾式加圧成形体は、結合剤を含まないこととしてもよい。また、前記乾式加圧成形体は、50〜98質量%の前記シリカ微粒子と、2〜20質量%の前記ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、を含むこととしてもよい。
【0009】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る断熱材は、前記いずれかの製造方法により製造されたことを特徴とする。本発明によれば、優れた断熱性能と強度とを兼ね備えた断熱材を提供することができる。
【0010】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態に係る断熱材は、平均粒径50nm以下のシリカ微粒子とケイ酸アルカリ土類金属塩繊維とを含むことを特徴とする。本発明によれば、優れた断熱性能と強度とを兼ね備えた断熱材を提供することができる。
【0011】
また、前記断熱材は、嵩密度が190〜600kg/mであり、圧縮強度が0.4MPa以上であることとしてもよい。また、前記断熱材は、結合剤を含まないこととしてもよい。また、前記断熱材は、50〜98質量%の前記シリカ微粒子と、2〜20質量%の前記ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、を含むこととしてもよい。また、前記断熱材は、600℃における熱伝導率が0.05W/(m・K)以下であることとしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた断熱性能と強度とを兼ね備えた断熱材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る断熱材の製造方法の一例に含まれる主な工程を示す説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る断熱材の製造方法における養生によって断熱材の強度が向上する機構の一例についての説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る断熱材の製造方法における養生によって断熱材の強度が向上する機構の他の例についての説明図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る実施例の結果の一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の一実施形態について説明する。なお、本発明は、本実施形態に限られるものではない。
【0015】
まず、本実施形態に係る断熱材の製造方法(以下、「本方法」という。)について説明する。本方法は、平均粒径50nm以下のシリカ微粒子と、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、を含む乾式加圧成形体を相対湿度70%以上で養生する、断熱材の製造方法である。
【0016】
図1は、本方法の一例に含まれる主な工程を示す説明図である。図1に示す例において、本方法は、乾式加圧成形体を準備する準備工程S1と、当該乾式加圧成形体を高湿養生する養生工程S2と、養生後の当該乾式加圧成形体を乾燥させる乾燥工程S3と、を含む。
【0017】
準備工程S1においては、シリカ微粒子とケイ酸アルカリ土類金属塩繊維とを含む断熱材原料を準備する。シリカ微粒子は、平均粒径が50nm以下のものであれば特に限られず、任意の1種を単独で又は2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。
【0018】
すなわち、シリカ微粒子としては、例えば、気相法で製造された乾式シリカ微粒子(無水シリカ微粒子)や湿式法で製造された湿式シリカ微粒子を使用することができ、中でも乾式シリカ微粒子を好ましく使用することができる。具体的に、例えば、気相法で製造されたフュームドシリカ微粒子を好ましく使用することができ、中でも親水性フュームドシリカ微粒子を好ましく使用することができる。
【0019】
シリカ微粒子の平均粒径は、より具体的には、例えば、5nm以上、50nm以下とすることができる。シリカ微粒子のシリカ(SiO)含有量は、例えば、95重量%以上であることが好ましい。シリカ微粒子の25℃における熱伝導率は、例えば、0.01W/(m・K)以下であることが好ましい。シリカ微粒子のBET法による比表面積は、例えば、50m/g以上であることが好ましく、より具体的には、例えば、50m/g以上、400m/g以下とすることができ、より好ましくは100m/g以上、300m/g以下とすることができる。
【0020】
ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維としては、肺に吸入されても体内で分解される溶解性(分解性)を有するケイ酸アルカリ土類金属塩繊維であれば特に限られず、任意の1種を単独で又は2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。
【0021】
すなわち、例えば、40℃における生理食塩水中の溶解率が1%以上であり、1000℃での8時間加熱処理後の加熱収縮率が5%以下であるケイ酸アルカリ土類金属塩繊維を好ましく使用することができる。
【0022】
具体的に、例えばCaOとMgOとの合計含有量が20〜40重量%であり、60〜80重量%のSiOを含むケイ酸アルカリ土類金属塩繊維を使用することができる。
【0023】
また、例えば、特開2002−68777号公報に記載されているような、SiO、MgO及びTiOを必須成分として含有し、且つ当該成分からなる非晶質部分を構造中に含むケイ酸アルカリ土類金属塩繊維を使用することができる。
【0024】
また、例えば、特開2003−73926号公報に記載されているような、SiO、MgO及び酸化マンガンを必須成分として含有し、且つ当該成分からなる非晶質部分を構造中に含むケイ酸アルカリ土類金属塩繊維を使用することができる。
【0025】
また、例えば、特開2007−63078号公報に記載されているような、60〜80重量%のSiO、5〜20重量%のMgO、5〜30重量%のCaO、0.5〜5重量%のAl及び0.1〜5重量%のBaOを含むケイ酸アルカリ土類金属塩繊維を使用することができる。
【0026】
また、例えば、CaOとMgOとの合計含有量が19〜25重量%であり、75〜80重量%のSiOと、1.0〜3.0重量%のAlと、を含むケイ酸アルカリ土類金属塩繊維を使用することができる。
【0027】
ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維の600℃における熱伝導率は、例えば、0.2W/(m・K)以下であることが好ましく、0.15W/(m・K)以下であることがより好ましい。ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維の繊維長は、特に制限はないが、例えば、1mm以上、200mm以下とすることが好ましく、2mm以上、50mm以下であることがより好ましく、10mm以上、50mm以下であることが特に好ましい。ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維の平均繊維径は、例えば、50μm以下とすることが好ましく、より具体的には、例えば、1.5μm以上、10μm以下とすることが好ましく、2μm以上、6μm以下とすることがより好ましい。
【0028】
なお、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維の生理食塩水の溶解率は、例えば、次のようにして測定することができる。すなわち、先ず、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維を200メッシュ以下に粉砕して調製された試料1g及び生理食塩水150mLを三角フラスコ(容積300mL)に入れ、40℃のインキュベーターに設置する。次に、三角フラスコに、毎分120回転で50時間水平振動を加え、濾過する。そして、濾液に含有されている元素をICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析装置により定量する。この定量された元素含有量と、もとの試料の組成及び重量と、に基づいて当該試料から当該濾液中に溶出した元素量の割合(溶解による試料の重量減少率)を表す溶解度を求める。
【0029】
また、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維の加熱収縮率は、JIS R 3311に準じて、例えば、次のようにして測定することができる。ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維を集積して厚さ25mmの集合体を作成する。そして、その集合体から長さ150mm、幅100mmの試験片を切り出し、試験片の所定箇所に白金ピンを埋め込んで印とし、印間の距離を測定する。次いで、その試験片を1000℃で8時間加熱処理し、常温まで冷却した後に再度印間の距離を測定する。次に、測定結果を使用し、次の式「加熱収縮率(%)=(加熱処理前の距離−加熱処理後の距離)/加熱処理前の距離×100」により加熱収縮率を得る。
【0030】
乾式加圧成形体は、上述したようなシリカ微粒子とケイ酸アルカリ土類金属塩繊維とを乾式で混合することにより乾式混合物を作製し、次いで、当該乾式混合物を乾式で加圧成形することにより作製することができる。
【0031】
具体的に、例えば、シリカ微粒子の乾燥粉体とケイ酸アルカリ土類金属塩繊維の乾燥粉体とを含む断熱材原料を、所定の混合装置を使用して乾式混合し、次いで、得られた乾式混合物を所定の成形型に充填し乾式プレス成形することにより、乾式加圧成形体を作製する。なお、混合及び成形を乾式で行うことにより、湿式の場合に比べて、原料や成形体の管理が容易であり、また、製造に要する時間を効果的に短縮することができる。
【0032】
乾式加圧成形体は、例えば、50〜98質量%のシリカ微粒子と、2〜20質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、を含むことができ、好ましくは65〜80質量%のシリカ微粒子と、2〜18質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、を含むことができる。
【0033】
また、乾式加圧成形体は、シリカ微粒子及びケイ酸アルカリ土類金属塩繊維のみを含む場合には、例えば、80〜98質量%のシリカ微粒子と2〜20質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維とを合計が100質量%となるように含むことができ、好ましくは82〜98質量%のシリカ微粒子と2〜18質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維とを合計が100質量%となるように含むことができ、より好ましくは85〜97質量%のシリカ微粒子と3〜15質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維とを合計が100質量%となるように含むことができる。
【0034】
ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維の含有量が2質量%未満の場合には、本断熱材の強度が不足することがある。ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維の含有量が20質量%を超える場合には、成形時の粉体流動性が損なわれて成形性が低下すると共に、密度ムラにより加工性が低下することがある。
【0035】
また、乾式加圧成形体は、結合剤を含まないものとすることができる。すなわち、本方法においては、後述する養生処理によって断熱材の強度を効果的に向上させることができるため、結合剤を使用する必要がない。この場合、乾式加圧成形体は、水ガラス接着剤等の無機結合剤や、樹脂等の有機結合剤といった、従来使用されていた結合剤を実質的に含有しない。したがって、結合剤の使用に伴う従来の問題を確実に回避することができる。また、この場合、乾式加圧成形は、特に制限はないが、例えば、5℃以上、60℃以下の温度で行うことができる。
【0036】
また、乾式加圧成形体は、さらに他の成分を含むこともできる。すなわち、乾式加圧成形体は、例えば、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維以外の補強繊維をさらに含むことができる。補強繊維は、断熱材を補強できるものであれば特に限られず、無機繊維及び有機繊維の一方又は両方を使用することができる。
【0037】
他の補強繊維として使用する無機繊維は、補強繊維として使用できるものであれば特に限られず、任意の1種を単独で又は2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。具体的に、例えば、シリカ−アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ガラス繊維、ロックウール、バサルト繊維からなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0038】
無機繊維の400℃における熱伝導率は、例えば、0.08W/(m・K)以下であることが好ましく、0.04W/(m・K)以下であることがより好ましい。このような低熱伝導性の無機繊維としては、例えば、シリカ−アルミナ繊維やシリカ繊維等のシリカ系繊維を好ましく使用することができる。
【0039】
無機繊維の繊維長は、例えば、1mm以上、10mm以下であることが好ましく、1mm以上、7mm以下であることがより好ましく、3mm以上、5mm以下であることが特に好ましい。繊維長が1mm未満である場合には、無機繊維を適切に配向させることができないことがあり、その結果、断熱材の機械的強度が不足することがある。繊維長が10mmを超える場合には、成形時の粉体流動性が損なわれて成形性が低下すると共に、密度ムラにより加工性が低下することがある。
【0040】
無機繊維の平均繊維径は、例えば、15μm以下であることが好ましく、より具体的には、例えば、5μm以上、15μm以下であることが好ましい。平均繊維径が15μmを超える場合には、無機繊維が折れやすくなることがあり、その結果、断熱材の強度が不足することがある。したがって、無機繊維としては、例えば、繊維長が1mm以上、10mm以下であって、且つ平均繊維径が15μm以下であるものを好ましく使用することができる。
【0041】
他の補強繊維として使用する有機繊維は、補強繊維として使用できるものであれば特に限られず、任意の1種を単独で又は2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。具体的に、例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリオレフィン繊維からなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0042】
有機繊維の繊維長は、例えば、1mm以上、10mm以下であることが好ましく、2mm以上、7mm以下であることがより好ましく、3mm以上、5mm以下であることが特に好ましい。繊維長が1mm未満である場合には、有機繊維を適切に配向させることができないことがあり、その結果、断熱材の機械的強度が不足することがある。繊維長が10mmを超える場合には、成形時の粉体流動性が損なわれて成形性が低下すると共に、密度ムラにより加工性が低下することがある。
【0043】
有機繊維の平均繊維径は、例えば、15μm以下であることが好ましく、より具体的には、例えば、5μm以上、15μm以下であることが好ましい。平均繊維径が15μmを超える場合には、有機繊維が折れやすくなることがあり、その結果、断熱材の強度が不足することがある。したがって、有機繊維としては、例えば、繊維長が1mm以上、10mm以下であって、且つ平均繊維径が15μm以下であるものを好ましく使用することができる。
【0044】
他の補強繊維を使用する場合、乾式加圧成形体は、例えば、50〜98質量%のシリカ微粒子と、0.5〜19.5質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、0.5〜19.5質量%の他の補強繊維と、を含むことができ、好ましくは65〜80質量%のシリカ微粒子と、1〜18質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、1〜18質量%の他の補強繊維と、を含むことができる。
【0045】
また、乾式加圧成形体は、例えば、輻射散乱材を含むこともできる。輻射散乱材は、輻射による伝熱を低減することのできるものであれば特に限られず、任意の1種を単独で又は2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。
【0046】
具体的に、輻射散乱材としては、例えば、炭化珪素、ジルコニア及びチタニアからなる群より選択される1種以上を使用することができる。また、輻射散乱材は、例えば、平均粒径が50μm以下、より具体的には1〜50μmであることが好ましく、また、1μm以上の波長の光に対する比屈折率が1.25以上であることが好ましい。
【0047】
輻射散乱材を使用する場合、乾式加圧成形体は、例えば、50〜93質量%のシリカ微粒子と、2〜20質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、5〜40質量%の輻射散乱材と、を含むことができ、好ましくは65〜80質量%のシリカ微粒子と、5〜18質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、15〜30質量%の輻射散乱材と、を含むことができる。
【0048】
また、他の補強繊維及び輻射散乱材を使用する場合、乾式加圧成形体は、例えば、50〜93質量%のシリカ微粒子と、0.5〜9.5質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、0.5〜9.5質量%の他の補強繊維と、5〜40質量%の輻射散乱材と、を含むことができ、好ましくは65〜80質量%のシリカ微粒子と、2〜8質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、2〜8質量%の他の補強繊維と、15〜30質量%の輻射散乱材と、を含むことができる。
【0049】
続く養生工程S2においては、準備工程S1で準備された乾式加圧成形体を、相対湿度70%以上という高湿度で養生する。養生における相対湿度は、例えば、75%以上とすることができ、80%以上とすることができ、85%以上とすることもできる。さらに、養生は、85%より高い相対湿度で行うこともできる。
【0050】
養生は、乾式加圧成形体を上述のような高湿度の環境下で所定時間保持することにより行う。具体的に、例えば、温度及び湿度が所定値に設定された恒温恒湿器の内部や、到達温度が所定値に設定されたオートクレーブの内部に乾式加圧成形体を載置し、所定時間放置することにより、当該乾式加圧成形体を高湿養生することができる。
【0051】
養生を行う温度は、当該養生の効果が得られる範囲で任意に設定することができる。具体的に、養生温度は、例えば、40℃以上とすることができ、60℃以上とすることが好ましく、80℃以上とすることがより好ましく、90℃以上とすることが特に好ましい。養生温度を高めることによって、効果が得られるまでの養生時間を短縮することができる。養生温度の上限は特に限られないが、例えば、95℃以下とすることができる。なお、養生温度は、100℃以下又は100℃未満とすることが好ましいことがある。
【0052】
また、養生は、加圧条件下で行うこともできる。この場合、養生温度は、養生の効果が得られる範囲で任意に設定することができる。具体的に、加圧条件下での養生温度は、例えば、100〜200℃とすることができ、120〜170℃とすることもできる。こうした加圧条件下で養生を行うことにより、効果が得られるまでの養生時間を短縮することが期待される。
【0053】
養生を行う時間は、当該養生の効果が得られる範囲で任意に設定することができる。具体的に、養生時間は、例えば、2時間以上とすることができ、6時間以上とすることが好ましい。養生時間を長くすることによって、養生の効果を高めることができる。
【0054】
なお、養生の条件は、上述の例に限られず、当該養生の効果が得られる範囲で任意に設定することができる。すなわち、養生条件は、例えば、本方法により製造される断熱材の強度(例えば、圧縮強度)や熱伝導率が、後述するような所定の範囲となるよう適宜調節することができる。
【0055】
続く乾燥工程S3においては、養生工程S2において養生された乾式加圧成形体を乾燥させる。すなわち、乾燥工程S3においては、養生時に乾式加圧成形体に浸み込んだ、蒸気に由来する水分を除去する。乾燥の方法は、乾式加圧成形体から不要な水分を除去できる方法であれば特に限られない。すなわち、例えば、乾式加圧成形体を100℃以上の温度で保持することにより、当該乾式加圧成形体を効率よく乾燥させることができる。
【0056】
本方法においては、こうして、最終的に、養生及び乾燥後の乾式加圧成形体を、断熱材として得る。本方法によれば、優れた断熱性能と強度とを兼ね備えた断熱材を製造することができる。すなわち、本方法によれば、密度を高めることなく、断熱材の強度を効果的に向上させることができる。また、本方法によれば、結合剤を使用することなく、十分な強度を備えた断熱材を製造することができる。
【0057】
図2は、本方法における高湿養生によって断熱材の強度が向上する機構の一例についての説明図である。ここでは、図2に示すように、乾式加圧成形体に含まれるシリカ微粒子のうち、隣接する2つのシリカ微粒子P1,P2に着目して説明する。高湿養生によって断熱材の強度が向上する機構としては、次のようなことが考えられる。
【0058】
すなわち、まず、養生前の乾式加圧成形体に含まれるシリカ微粒子P1,P2間には、図2Aに示すように、極めて微細な空隙V(例えば、数nm程度の超微細孔)が形成されている。次に、この乾式加圧成形体を高湿度雰囲気下に保持する養生を開始すると、図2Bに示すように、水蒸気の毛管凝縮によって、シリカ微粒子P1,P2間に凝縮した水を主成分とする液体からなる架橋構造Bが形成される。
【0059】
さらに、乾式加圧成形体を高湿度雰囲気下で保持し続けると、図2Cに矢印で示すように、シリカ微粒子P1,P2からシリカが溶出し、当該シリカ微粒子P1,P2間に当該溶出したシリカを含む架橋構造Bが形成される。なお、シリカの溶出反応としては、次のような珪酸塩反応が考えられる:「SiO+2HO→HSiO→H+HSiO」。
【0060】
また、乾式加圧成形体がケイ酸アルカリ土類金属塩繊維を含有することにより、当該乾式加圧成形体内部において、シリカ微粒子P1,P2からのシリカ溶出を効果的に促進することができる。シリカ微粒子P1,P2間に形成される架橋構造Bは、シリカに加えて、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維に由来するアルカリ土類金属を含有することもできる。
【0061】
そして、養生後の乾式加圧成形体を乾燥させることにより、シリカ微粒子P1,P2間に形成された架橋構造Bが硬化される。このような架橋構造の形成によって断熱材の強度を効果的に高めることができる。なお、シリカ微粒子とケイ酸アルカリ土類金属塩繊維との間にも同様の架橋構造が形成される。
【0062】
図3は、本方法における高湿養生によって断熱材の強度が向上する機構の他の例についての説明図である。ここでは、図3に示すように、乾式加圧成形体に含まれるケイ酸アルカリ土類金属塩繊維のうち、隣接する2つのケイ酸アルカリ土類金属塩繊維F1,F2に着目して説明する。高湿養生によって断熱材の強度が向上する機構としては、次のようなことが考えられる。
【0063】
すなわち、まず、養生前の乾式加圧成形体に含まれるケイ酸アルカリ土類金属塩繊維F1,F2間には、図3Aに示すように、微細な空隙V1,V2が形成されている。次に、この乾式加圧成形体を高湿度雰囲気下に保持する養生を開始すると、図3Bに示すように、水蒸気の毛管凝縮によって、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維F1,F2間に凝縮した水を主成分とする液体からなる架橋構造B1,B2が形成される。
【0064】
さらに、乾式加圧成形体を高湿度雰囲気下で保持し続けると、図3Cに矢印で示すように、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維F1,F2から成分が溶出し、当該ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維F1,F2の接点に、当該溶出した成分を含む架橋構造B1,B2が形成される。この架橋構造B1,B2は、例えば、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維に由来するアルカリ土類金属を含有することができる。
【0065】
そして、養生後の乾式加圧成形体を乾燥させることにより、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維F1,F2の接点に形成された架橋構造B1,B2が硬化される。このような架橋構造の形成によって断熱材の強度を効果的に高めることができる。
【0066】
本実施形態に係る断熱材(以下、「本断熱材」という。)は、このような本方法により好ましく製造することができる。本断熱材は、比較的低い密度で、十分な強度を備えることができる。すなわち、本断熱材は、例えば、平均粒径50nm以下のシリカ微粒子とケイ酸アルカリ土類金属塩繊維とを含む断熱材とすることができる。
【0067】
また、本断熱材は、嵩密度が190〜600kg/mであり、圧縮強度が0.4MPa以上である断熱材とすることもできる。この場合、本断熱材の嵩密度は、例えば、190〜450kg/mとすることもでき、190〜300kg/mとすることもできる。本断熱材の圧縮強度は、例えば、0.5MPa以上とすることもでき、0.55MPa以上とすることもできる。なお、圧縮強度は、所定の圧縮試験装置、例えば、市販の万能試験装置(テンシロン RTC−1150A、株式会社オリエンテック)を用いて測定することができる。具体的に、例えば、寸法30mm×30mm×15mmに加工した試験片のプレス面(30mm×30mm)に対して垂直方向に荷重を負荷し、当該試験片が破壊したときの荷重(MPa)を圧縮強度として得る。この圧縮強度は、本断熱材が板状である場合、その厚さ方向における圧縮強度(すなわち、長手方向に延びる面積の最も大きな一対の面を圧縮した時の破断強度)として評価することができる。
【0068】
本断熱材は、例えば、50〜98質量%のシリカ微粒子と、2〜20質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、を含むことができ、好ましくは65〜80質量%のシリカ微粒子と、2〜18質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、を含むことができる。
【0069】
また、本断熱材は、シリカ微粒子及びケイ酸アルカリ土類金属塩繊維のみを含む場合には、例えば、80〜98質量%のシリカ微粒子と2〜20質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維とを合計が100質量%となるように含むことができ、好ましくは82〜98質量%のシリカ微粒子と2〜18質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維とを合計が100質量%となるように含むことができ、より好ましくは85〜97質量%のシリカ微粒子と3〜15質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維とを合計が100質量%となるように含むことができる。
【0070】
ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維の含有量が2質量%未満の場合には、本断熱材の強度が不足することがある。ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維の含有量が20質量%を超える場合には、成形時の粉体流動性が損なわれて成形性が低下すると共に、密度ムラにより加工性が低下することがある。
【0071】
また、本断熱材は、結合剤を含まないものとすることができる。すなわち、本断熱材は、上述のとおり、養生によって十分な強度を達成できるため、結合剤を使用する必要がない。この場合、本断熱材は、水ガラス接着剤等の無機結合剤や、樹脂等の有機結合剤といった、従来使用されていた結合剤を実質的に含有しない。したがって、結合剤の使用に伴う従来の問題を確実に回避することができる。
【0072】
また、本断熱材は、さらに他の成分を含むこともできる。すなわち、本断熱材は、例えば、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維以外の補強繊維をさらに含むことができる。補強繊維は、断熱材を補強できるものであれば特に限られず、無機繊維及び有機繊維の一方又は両方を使用することができる。
【0073】
他の補強繊維として使用する無機繊維は、補強繊維として使用できるものであれば特に限られず、任意の1種を単独で又は2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。具体的に、例えば、シリカ−アルミナ繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ガラス繊維、ロックウール、バサルト繊維からなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0074】
無機繊維の400℃における熱伝導率は、例えば、0.08W/(m・K)以下であることが好ましく、0.04W/(m・K)以下であることがより好ましい。このような低熱伝導性の無機繊維としては、例えば、シリカ−アルミナ繊維やシリカ繊維等のシリカ系繊維を好ましく使用することができる。
【0075】
無機繊維の繊維長は、例えば、1mm以上、10mm以下であることが好ましく、1mm以上、7mm以下であることがより好ましく、3mm以上、5mm以下であることが特に好ましい。繊維長が1mm未満である場合には、無機繊維を適切に配向させることができないことがあり、その結果、断熱材の機械的強度が不足することがある。繊維長が10mmを超える場合には、成形時の粉体流動性が損なわれて成形性が低下すると共に、密度ムラにより加工性が低下することがある。
【0076】
無機繊維の平均繊維径は、例えば、15μm以下であることが好ましく、より具体的には、例えば、5μm以上、15μm以下であることが好ましい。平均繊維径が15μmを超える場合には、無機繊維が折れやすくなることがあり、その結果、断熱材の強度が不足することがある。したがって、無機繊維としては、例えば、繊維長が1mm以上、10mm以下であって、且つ平均繊維径が15μm以下であるものを好ましく使用することができる。
【0077】
他の補強繊維として使用する有機繊維は、補強繊維として使用できるものであれば特に限られず、任意の1種を単独で又は2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。具体的に、例えば、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリオレフィン繊維からなる群より選択される1種以上を使用することができる。
【0078】
有機繊維の繊維長は、例えば、1mm以上、10mm以下であることが好ましく、2mm以上、7mm以下であることがより好ましく、3mm以上、5mm以下であることが特に好ましい。繊維長が1mm未満である場合には、有機繊維を適切に配向させることができないことがあり、その結果、断熱材の機械的強度が不足することがある。繊維長が10mmを超える場合には、成形時の粉体流動性が損なわれて成形性が低下すると共に、密度ムラにより加工性が低下することがある。
【0079】
有機繊維の平均繊維径は、例えば、15μm以下であることが好ましく、より具体的には、例えば、5μm以上、15μm以下であることが好ましい。平均繊維径が15μmを超える場合には、有機繊維が折れやすくなることがあり、その結果、断熱材の強度が不足することがある。したがって、有機繊維としては、例えば、繊維長が1mm以上、10mm以下であって、且つ平均繊維径が15μm以下であるものを好ましく使用することができる。
【0080】
他の補強繊維を使用する場合、本断熱材は、例えば、50〜98質量%のシリカ微粒子と、0.5〜19.5質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、0.5〜19.5質量%の他の補強繊維と、を含むことができ、好ましくは65〜80質量%のシリカ微粒子と、1〜18質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、1〜18質量%の他の補強繊維と、を含むことができる。
【0081】
また、本断熱材は、例えば、輻射散乱材を含むこともできる。輻射散乱材は、輻射による伝熱を低減することのできるものであれば特に限られず、任意の1種を単独で又は2種以上を任意に組み合わせて使用することができる。
【0082】
具体的に、輻射散乱材としては、例えば、炭化珪素、ジルコニア及びチタニアからなる群より選択される1種以上を使用することができる。また、輻射散乱材は、例えば、平均粒径が50μm以下、より具体的には1〜50μmであることが好ましく、また、1μm以上の波長の光に対する比屈折率が1.25以上であることが好ましい。
【0083】
輻射散乱材を使用する場合、本断熱材は、例えば、50〜93質量%のシリカ微粒子と、2〜20質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、5〜40質量%の輻射散乱材と、を含むことができ、好ましくは65〜80質量%のシリカ微粒子と、5〜18質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、15〜30質量%の輻射散乱材と、を含むことができる。
【0084】
また、他の補強繊維及び輻射散乱材を使用する場合、本断熱材は、例えば、50〜93質量%のシリカ微粒子と、0.5〜9.5質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、0.5〜9.5質量%の他の補強繊維と、5〜40質量%の輻射散乱材と、を含むことができ、好ましくは65〜80質量%のシリカ微粒子と、2〜8質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、2〜8質量%の他の補強繊維と、15〜30質量%の輻射散乱材と、を含むことができる。
【0085】
また、本断熱材は、優れた断熱性能を備えることができる。すなわち、本断熱材は、従来のように密度を高めることなく十分な強度を達成しているため、固体伝熱の増加による断熱性能の低下を効果的に回避することができている。具体的に、本断熱材は、600℃における熱伝導率が0.05W/(m・K)以下である断熱材とすることができる。本断熱材の600℃における熱伝導率は、好ましくは0.04W/(m・K)以下とすることもできる。
【0086】
なお、本断熱材は、平均粒径50nm以下のシリカ微粒子の一次粒子が、分子間力等により会合して二次粒子を形成し、当該二次粒子がケイ酸アルカリ土類金属塩繊維に散在した構造を有している。そして、本断熱材は、シリカ微粒子の使用によって、その内部に、空気分子の平均自由行程よりも小さいナノポア構造を保持することで、低温域から高温域までの幅広い温度範囲で優れた断熱性能を発揮することができる。
【0087】
また、本断熱材は、高湿養生で形成された特有の構造を有するものとすることができる。すなわち、本断熱材は、例えば、平均粒径50nm以下のシリカ微粒子とケイ酸アルカリ土類金属塩繊維とを含み、当該シリカ微粒子間にシリカを含む架橋構造が形成されている断熱材とすることができる。この架橋構造は、上述したように、水蒸気の毛管凝縮により形成され、シリカ微粒子から溶出したシリカを含むものである。この架橋構造は、アルカリ土類金属を含むこともできる。すなわち、この場合、架橋構造は、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維に由来するアルカリ土類金属を含む。
【0088】
このように、本断熱材は、比較的低い密度で、優れた断熱性能と高い強度を兼ね備えることができる。したがって、本断熱材は、例えば、加工を要する一般工業炉用断熱材や、燃料電池の改質器用の断熱材として好ましく利用することができる。
【0089】
次に、本実施形態に係る具体的な実施例について説明する。
【実施例】
【0090】
[断熱材の製造]実施例1〜7として、7種類の断熱材を製造した。すなわち、まず、平均1次粒子径が約13nmで、熱伝導率(25℃)が0.01W/(m・K)の無水シリカ微粒子(親水性フュームドシリカ微粒子)と、生体溶解性のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維(ファインフレックス−E、ニチアス株式会社)と、を含む乾式加圧成形体を作製した。なお、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維について、40℃における生理食塩水中の溶解率は3%であり、1000℃での8時間加熱処理後の加熱収縮率は0.1%であった。
【0091】
具体的に、68〜77質量%のシリカ微粒子と、3〜12質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、20質量%の平均粒子径3μmの炭化珪素と、を混合装置に投入し、乾式混合することにより、当該シリカ微粒子、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維及び炭化珪素を含有する乾式混合物を得た。
【0092】
また、70又は72質量%のシリカ微粒子と、5質量%のケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、20質量%の炭化珪素と、3又は5質量%の耐熱性ガラス繊維(平均繊維径10μm、平均繊維長3mm)と、を混合装置に投入し、乾式混合することにより、当該シリカ微粒子、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維、炭化珪素及びガラス繊維を含有する乾式混合物を得た。
【0093】
得られた乾式混合粉体から、乾式プレス成形により、100mm×150mm×厚さ15mmの板状の乾式成形体を作製した。乾式プレス成形においては、乾式成形体の嵩密度が250kg/mとなるようにプレス圧を調節した。
【0094】
次に、乾式成形体を、温度80℃、相対湿度90%の恒温恒湿器内で24時間保持することにより高湿養生を行った。そして、養生後の乾式成形体を105℃で乾燥し、7種類の断熱材を得た。
【0095】
また、上述の実施例1〜7と同様に、比較例1〜6として、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維を含有しない6種類の断熱材を製造した。すなわち、68〜80質量%のシリカ微粒子と、20質量%の炭化珪素と、0〜12質量%のガラス繊維と、を混合装置に投入し、乾式混合した。
【0096】
得られた乾式混合粉体から、乾式プレス成形により、100mm×150mm×厚さ15mmの板状の乾式成形体を作製した。乾式プレス成形においては、乾式成形体の嵩密度が250kg/mとなるようにプレス圧を調節した。そして、養生することなく、得られた6種類の乾式成形体を比較例1〜6に係る断熱材とした。
【0097】
[断熱材の性能評価]各断熱材の圧縮強度を、万能試験装置(テンシロン RTC−1150A、株式会社オリエンテック)を用いて測定した。すなわち、寸法30mm×30mm×15mmに加工した試験片のプレス面(30mm×30mm)に対して垂直方向に荷重を負荷し、当該試験片が破壊したときの荷重を圧縮強度(MPa)とした。
【0098】
また、各断熱材の600℃における熱伝導率を周期加熱法にて測定した。すなわち、試験体内に温度波を伝播させ、その伝播時間から熱拡散率を測定した。そして、この熱拡散率と、別途測定した比熱及び密度と、から熱伝導率を算出した。なお、温度波としては、温度振幅が約4℃、周期が約1時間である温度の波を使用した。また、試験体内の二つの地点を温度波が通過するのに要する時間を伝播時間とした。また、ハンドリング性、熱伝導率のバランスを考慮した評価基準に基づいて、断熱材としての有用性を総合的に評価した。
【0099】
図4には、各断熱材の組成、嵩密度、圧縮強度、熱伝導率、加工性及び総合評価の結果を対応させて示す。図4の「総合評価」欄において、記号「◎」は、圧縮強度が0.8MPa以上且つ熱伝導率が0.04W/(m・K)以下であり、実用に好適に使用できる断熱材であると評価されたことを示し、記号「○」は、圧縮強度が0.6MPa以上且つ熱伝導率が0.04W/(m・K)以下であり、実用上に問題なく使用できる断熱材であると評価されたことを示し、記号「△」は、圧縮強度が0.4MPa以上且つ熱伝導率が0.04W/(m・K)以下であり、実用上多少問題があるが使用できる断熱材であると評価されたことを示し、記号「×」は、圧縮強度が0.4MPa以下且つ熱伝導率が0.04W/(m・K)以下であり、実用上利用できない断熱材であると評価されたことを示す。
【0100】
図4に示すように、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維及びガラス繊維のいずれも含まない断熱材(比較例1)は、乾式加圧成形することができなかった。また、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維を含まず、ガラス繊維を含む断熱材(比較例2〜6)は、いずれも圧縮強度が低く、実用上問題のあるものであった。
【0101】
これらに対し、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維を含み、高湿養生することにより製造された断熱材(実施例1〜7)は、その圧縮強度が顕著に増加した。すなわち、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維に加えてガラス繊維を含まない断熱材(実施例1〜5)及びガラス繊維を含む断熱材(実施例6,7)のいずれについても、密度及び熱伝導率を低く維持したまま、圧縮強度を向上させることができた。これらの断熱材(実施例1〜7)は、加工性にも優れ、総合評価においても、実用上問題なく、又は好適に使用することができると評価された。
【符号の説明】
【0102】
S1 準備工程、S2 養生工程、S3 乾燥工程。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径50nm以下のシリカ微粒子と、ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、を含む乾式加圧成形体を相対湿度70%以上で養生する
ことを特徴とする断熱材の製造方法。
【請求項2】
前記乾式加圧成形体は、結合剤を含まない
ことを特徴とする請求項1に記載された断熱材の製造方法。
【請求項3】
前記乾式加圧成形体は、50〜98質量%の前記シリカ微粒子と、2〜20質量%の前記ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、を含む
ことを特徴とする請求項1又は2に記載された断熱材の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載された製造方法により製造された
ことを特徴とする断熱材。
【請求項5】
平均粒径50nm以下のシリカ微粒子とケイ酸アルカリ土類金属塩繊維とを含む
ことを特徴とする断熱材。
【請求項6】
嵩密度が190〜600kg/mであり、
圧縮強度が0.4MPa以上である
ことを特徴とする請求項5に記載された断熱材。
【請求項7】
結合剤を含まない
ことを特徴とする請求項5又は6に記載された断熱材。
【請求項8】
50〜98質量%の前記シリカ微粒子と、2〜20質量%の前記ケイ酸アルカリ土類金属塩繊維と、を含む
ことを特徴とする請求項5乃至7のいずれかに記載された断熱材。
【請求項9】
600℃における熱伝導率が0.05W/(m・K)以下である
ことを特徴とする請求項5乃至8のいずれかに記載された断熱材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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