説明

断熱熱量測定装置

【課題】より精度の高い断熱精度を可能にする断熱熱量測定装置を提供する
【解決手段】断熱熱量測定装置は、主として、測定対象となる試料10を入れる恒温槽1と、ヒータ2a〜2bと、パイプ3と、熱電対4a〜4bと、ファン5と、から構成されており、熱電対4aが検出する試料10の温度と恒温槽1内の温度との温度差を打ち消すような第1の温度制御と、熱電対4bが検出する恒温槽1内の温度と循環液との温度差を打ち消すような第2の温度制御との二重制御で温度制御がなされるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、断熱熱量測定装置に関する。さらに詳しくは、試料の温度上昇に追従して恒温槽内の温度制御を行う断熱熱量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物質が化学反応を行う時、発熱を伴い温度上昇する。この温度上昇により更に反応が促進し、温度上昇が進む。このような相乗作用により得られた温度上昇曲線を計測し、解析を行うことにより必要な知見を得ることができる。以上のような測定を高い精度で行うためには、完全断熱に近い断熱温度制御が不可欠であり、測定手段として、断熱熱量計が用いられている。
【0003】
断熱熱量計では、恒温槽内に断熱容器を格納し、その容器内で試料による温度上昇が発生したとき、容器内の温度と恒温槽内との温度差がかぎりなくゼロに接近するように温度上昇制御を行って、断熱容器内の試料の温度変化を測定し、熱量や温度上昇値などを求めることができる。
【0004】
従来の断熱熱量計では、断熱温度上昇制御は、試料の温度と恒温槽内の温度との温度差を熱電対で検出して、試料の温度と恒温槽内の温度との温度差を打ち消すような制御を一段階で行う方式が採用されている。(例えば下記非特許文献1)
【0005】
【非特許文献1】‘‘各種熱量計とその応用’’、[onlin]、[平成19年10月11日検索]、断熱熱量計の測定原理、インターネット、<URL:http://www2.ttcn.ne.jp/〜tokyo-riko/ppt/pptTOP.htm>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の断熱熱量計では、室温に対して恒温槽内の温度が高くなり、恒温槽内の温度と外部の温度との温度差が大きくなると、恒温槽内から外部に流出する熱量が大きくなってしまう。流出する熱量を補うためには、加熱用のヒータへの電力供給を大きくする必要があるが、そのためには、試料と恒温槽内との温度差が大きくなる必要がある。試料と恒温槽内との温度差が大きくなると、試料から恒温槽内に熱が流出するので、断熱精度が低下する問題が生じてしまう。
【0007】
したがって、この発明の目的は、より精度の高い断熱精度を可能にする断熱熱量測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するために、この発明は、
試料を入れる恒温槽と、
恒温槽内に配置され、恒温槽内の温度を調整する第1の加熱手段と、
恒温槽内に配置された管内を流通する循環液の温度を調整することにより、管を介して恒温槽内の温度を調整する第2の加熱手段と、
恒温槽内の温度と試料の温度との温度差を検出する第1の温度検出手段と、
循環液と恒温槽内の温度との温度差を検出する第2の温度検出手段と、
を備え、
第1の加熱手段により、第1の温度検出手段が検出する温度差を打ち消すように温度制御し、
第2の加熱手段により、第2の温度検出手段が検出する温度差を打ち消すように温度制御すること
を特徴とする断熱熱量測定装置である。
【0009】
この発明では、第1の加熱手段により、第1の温度検出手段が検出する恒温槽内の温度と試料の温度との温度差を打ち消すように温度制御し、第2の加熱手段により、第2の温度検出手段が検出する循環液と恒温槽内の温度との温度差を打ち消すように温度制御する。これにより、試料の温度上昇に追従する温度制御を行うと同時に、恒温槽内の温度に追従した循環液を恒温槽内に流通させ、恒温槽内から流出する熱量を補うようにすることで、より精度の高い断熱精度を実現可能とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、より高い断熱精度を有する断熱熱量測定装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、この発明の一実施形態による断熱熱量測定装置の構成を表す全体構成図である。この断熱熱量測定装置は、例えば、マスコンクリートの断熱温度上昇測定などに用いられるものである。
【0012】
図1に示すように、この発明の一実施形態による断熱熱量測定装置は、主として、測定対象となる試料10を入れる恒温槽1と、ヒータ2a〜2bと、パイプ3と、熱電対4a〜4bと、ファン5とから構成されており、熱電対4aが検出する試料10の温度と恒温槽1内の温度との温度差を打ち消すような温度制御と、熱電対4bが検出する恒温槽1内の温度と循環液との温度差を打ち消すような温度制御との二重制御で温度制御がなされるものである。
【0013】
恒温槽1は、断熱材6よりなる筐体であり、外部と熱的に遮断された空間を有する。断熱材6は、測定温度範囲に応じて材料および材質が選ばれ、一般に形状が複雑な部分や、重量による圧力が掛からない部分には、例えば柔軟性のあるセラミックスファイバなどを用いることができる。断熱と電気絶縁を兼ねて一旦固定したら動かないことを目的とする部分には、例えばセラミックフェルトウェットなどを用いることができる。その他、形状が単純で重量や圧力が掛かる部分には、例えば高温耐火断熱レンガなどを用いることができる。恒温槽1内には、測定対象となる試料10が配置されている。試料10は、例えば図示しない試料容器に入れられている。試料容器としては、特に限定されないが、例えばポリプロピレン製のボトルなどを用いることができる。
【0014】
ヒータ2aは、恒温槽1内を加熱して、恒温槽1内の温度を試料10の温度上昇に追従してコントロールするためのものである。ヒータ2bは、循環液を加熱して、循環液の温度を恒温槽1内の温度上昇に追従してコントロールするためのものである。ヒータ2a〜2bとしては、例えば、熱容量が小さく応答性の良いシースヒータなどを用いることができる。
【0015】
パイプ3は、その内部に、例えば不凍液などの循環液が流通する管であり、恒温槽1内のヒータ2aの下側に、捲回された状態で配置され、恒温槽1の外部に配置された循環液温度調整部16に連通している。
【0016】
液体循環ポンプ15により、循環液を流動させ、循環液をパイプ3(恒温槽1内)→パイプ3(恒温槽1外)→循環液温度調整部16→パイプ3(恒温槽1外)→パイプ3(恒温槽1内)の順に循環する。
【0017】
循環液の温度を調整することで、パイプ3を介して、恒温槽1内の温度を制御することができる。例えば、循環液の温度を試料10の温度上昇に追従するようにして、恒温槽1内の温度を補完的に制御したり、試料10の測定開始温度を室温以下に設定する場合に、室温より低い循環液を循環させるようにして、恒温槽1内を室温以下に制御したりする。
【0018】
循環液温度調整部16は、ヒータ2bと、ヒータ2bの周囲を巻回するパイプ9とを有し、ヒータ2bとパイプ9とによって、循環液の温度調整を行う。ヒータ2bは、循環液を加熱するためのものでり、パイプ9は、循環液を冷却するためのものである。パイプ9の内部には、冷凍機8に冷却された冷媒が循環しており、この冷媒によって、パイプ9を介して循環液を冷却する。
【0019】
熱電対4aは、試料10を基準にして恒温槽1内の温度を限りなく試料と同一温度に制御するために、試料10と恒温槽1内との温度差を検出するものであり、応答性に優れていて、電気的には、絶縁されている。試料10側の熱電対4aは、試料10内に挿入されていて、恒温槽1側の熱電対4aは、恒温槽1内の所定位置に配置されている。
【0020】
熱電対4bは、恒温槽1内の温度を基準にして、循環液の温度を限りなく恒温槽1内と同一温度に制御するために、循環液と恒温槽1との温度差を検出するものであり、応答性に優れていて、電気的には、絶縁されている。恒温槽1側の熱電対4bは、恒温槽1内の所定位置に配置されている。循環液側の熱電対4bは、恒温槽1外のパイプ3内の所定位置に配置されている。熱電対4a〜4bとしては、例えば、銅−コンスタンタン熱電対などを用いることができる。
【0021】
ファン5は、恒温槽1内の温度が試料10の温度と異なったり、恒温槽1内に温度分布が生じたりすると、長期間の測定を行うとき精度に影響を及ぼすため、恒温槽1内の空気を攪拌するために設けられるものである。モータ7は、ファン5を駆動するためのものである。モータ7は、恒温槽1外に取り付けてあり、モータ7の発熱が恒温槽1内に影響を及ぼさないように断熱されている。
【0022】
恒温槽1は、図2に示すように、恒温槽1内の4隅に風道21を有する構造とされ、中段には、試料容器をのせる台22が取り付けられている。台22の中心部は、開口されており、その下にはファン5が設けられている。ヒータ2aは、ファン5の回転による風が満遍に当たる位置に固定されている。
【0023】
この構造を有する恒温槽1では、矢印Wで示した風の流れのように、ファン5の回転によって、台22の中心の開口部から吸い込まれた風が、ヒータ2aを経由して4隅の風道21を昇り、試料容器の全面を経由して再びファン5に戻る捩れを加えた立体攪拌が行われる。したがって、このような恒温槽1の構造では、恒温槽1内に温度分布が生じない。
【0024】
熱電対4aと、アンプ11aと、電力制御器12aと、ヒータ2aとから構成される回路では、図3に示すように、熱電対4aで差動検出した信号を直流増幅し、ツェナーダイオード14を経由してヒータ2aにフィードバックする。アンプ11aは、熱電対4aにより検出した信号を増幅するものである。電力制御器12aは、アンプ11aにより増幅された信号が入力され、入力された信号に応じて、ヒータ2bに供給する電力を制御するものである。また、熱電対4bと、電力制御器12bと、ヒータ2bとから構成される回路についても、上記と同様である。
【0025】
また、恒温槽1内に設けられた白金測温抵抗体17などの測温抵抗体と、ヒータ2bと、温度調節器13とから構成される回路によって、例えば、所定の測定開始温度を設定するための制御が行われる。
【0026】
次に、断熱熱量測定装置の動作について説明する。まず、メインスイッチをONにすると、循環液を冷媒により冷却する冷凍機8、恒温槽1内を攪拌するモータ7などが駆動して、ファン5により、恒温槽1内の攪拌が開始される。
【0027】
スイッチS2AをP1側、スイッチS2BをP2側に切り替え、温度調節器13を目的の温度(例えば、20℃)に選び、温度制御を開始すると、ヒータ2bが駆動し、冷凍機8で冷却された低温の循環液が、ヒータ2bにより加熱される。そして、加熱された循環液がパイプ3(恒温槽1内)を流通することによって、恒温槽1内が所定の一定温度(例えば、20℃)に制御される。
【0028】
恒温槽1内が一定温度になった後、恒温槽1内に、測定対象となる試料10を配置する。試料10を配置した後、スイッチS2AをM1側、スイッチS2BをM2側に切り替え、スイッチS1をONにすると、二重断熱温度制御を開始する。
【0029】
スイッチS1をONにすると、アンプ11aおよび電力制御器12aの作動により、試料10と恒温槽1内とに配置された熱電対4aが検出した温度差を打ち消すように、ヒータ2bに対してフィードバック制御が行われ、試料10の温度を基準とした断熱制御を開始する。
【0030】
スイッチS2AをM1側に切り替え、スイッチS2BをM2側に切り替えると、アンプ11bおよび電力制御器12bの作動により、恒温槽1内と循環液が流動するパイプ3内とに配置された熱電対4bが検出した温度差を打ち消すようにヒータ2bに対してフィードバック制御が行われ、循環液の温度制御を開始する。
【0031】
また、試料10の温度上昇が所定温度(例えば45℃)に到達すると、サーマルスイッチTS1の作動により、冷凍機8は停止する。この目的は、45℃になると循環液を冷却する必要が無くなることおよび冷凍機8を保護するためである。冷凍機8の停止後は、ヒータ2bの加熱のみで、循環液の温度制御が継続してなされる。
【0032】
以上の動作による温度制御がなされると、恒温槽1内および試料温度、並びに循環液の温度は、図4に示すような温度上昇曲線を示す。図4において、線d1は、恒温槽1内および試料10の温度上昇曲線を示す。線d2は、循環液の温度上昇曲線を示す。時間t=(a)は、温度測定開始時であり、t=(b)は、試料温度の上昇開始時であり、t=(c)は、冷凍機8停止時である。
【0033】
この断熱熱量測定装置では、温度上昇曲線d1、d2が示すように、試料10の温度上昇開始の時点から温度上昇終了まで、恒温槽1内の温度上昇に対して循環液の温度上昇は、0.5℃〜1℃の温度差で追従する。したがって、温度上昇開始から終了まで、ヒータ2aに供給される電力が極小になり、極めて高精度の断熱制御が可能である。
【0034】
以上説明したように、この発明の一実施形態による断熱熱量測定装置は、試料10の温度上昇に追従する温度制御を行うと同時に、恒温槽1内の温度に追従した液体を恒温槽1内に流通させ恒温槽1内から流失する熱量を補う二重断熱制御により、より精度の高い断熱温度上昇を実現できる。
【0035】
この発明は、上述したこの発明の実施形態に限定されるものでは無く、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。例えば、測定開始温度を室温以上とする場合には、冷凍機8およびパイプ9を削除した構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】この発明の一実施形態による断熱熱量測定装置の構成を表す全体構成図である。
【図2】恒温槽の構成を示す略線図である。
【図3】温度制御回路を説明するためのブロック図である。
【図4】温度上昇曲線をプロットしたグラフである。
【符号の説明】
【0037】
1・・・恒温槽
2a、2b・・・ヒータ
3・・・パイプ
4a、4b・・・熱電対
5・・・ファン
6・・・断熱材
7・・・モータ
8・・・冷凍機
9・・・パイプ
10・・・試料
11a、11b・・・アンプ
12a、12b・・・電力制御器
13・・・温度調節器
14・・・ツェナーダイオード
15・・・液体循環ポンプ
16・・・循環液温度調整部
17・・・白金測温抵抗体
21・・・風道
22・・・台
S1、S2A、S2B・・・スイッチ
TS1・・・サーマルスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を入れる恒温槽と、
上記恒温槽内に配置され、上記恒温槽内の温度を調整する第1の加熱手段と、
上記恒温槽内に配置された管内を流通する循環液の温度を調整することにより、上記管を介して上記恒温槽内の温度を調整する第2の加熱手段と、
上記恒温槽内の温度と上記試料の温度との温度差を検出する第1の温度検出手段と、
上記循環液と上記恒温槽内の温度との温度差を検出する第2の温度検出手段と、
を備え、
上記第1の加熱手段により、上記第1の温度検出手段が検出する温度差を打ち消すように温度制御し、
上記第2の加熱手段により、上記第2の温度検出手段が検出する温度差を打ち消すように温度制御すること
を特徴とする断熱熱量測定装置。
【請求項2】
上記第1の加熱手段および上記第2の加熱手段は、ヒータであること
を特徴とする請求項1記載の断熱熱量測定装置。
【請求項3】
上記第1の温度検出手段および上記第2の温度検出手段は、熱電対であること
を特徴とする請求項1記載の断熱熱量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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