説明

断熱熱量計およびそれを利用したセメント、コンクリートの品質管理方法

【課題】セメントの日常的な検査に好適な、少量の試料で簡便に断熱温度上昇特性を評価できる断熱熱量計、およびそれを利用したセメント、コンクリートの品質管理方法を提供する。
【解決手段】断熱温度上昇を測定する断熱熱量計であって、断熱熱量計が、断熱容器と、断熱容器に収容され測定試料を投入するための試料容器と、測定試料の温度変化に追従して槽内温度を制御するヒーターおよび冷却装置と、を含み、試料容器の容量が10mL〜100mLであり、冷却装置が2種類以上のサーマルリレー回路を備えた断熱熱量計である。本発明の断熱熱量計を利用すれば、少量の試料量と労力で、断熱温度上昇特性を精度よく評価することができるので、セメントまたはコンクリートの品質管理を効率的に実施することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱熱量計およびそれを利用したセメントの品質管理方法に関する。特に、本発明は、コンクリート構造物の温度ひび割れを制御するうえで重要な断熱温度上昇特性について、少量の試料で簡便に評価できる断熱熱量計、およびそれを利用したセメントの温度ひび割れを制御する品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの耐久性を確保する上で、温度ひび割れの制御は重要であり、近年では、制御技術の高度化に関する研究も盛んに行われている。温度ひび割れの誘因はコンクリート内部の温度分布であり、土木学会の定めるコンクリート標準示方書[施工編](2002年)では、施工段階におけるひび割れ照査において、温度解析を行うことを規定している。その解析には、断熱温度上昇量が必要とされている。
【0003】
断熱温度上昇量を測定するには、コンクリート試料を長期間断熱状態に維持できる断熱温度上昇試験装置が必要である。この種の試験装置としては、温度の制御方法や多機能性に特色を有する様々なタイプの装置が提案されている(特許文献1〜6)。
【0004】
断熱温度上昇試験では、試料量が多いほど放熱に対する発熱量の割合が大きくなり、温度制御が容易となる。また、試料から発生した熱量は、次式に示すように、試料および試料容器の温度上昇に消費されるため、試料量が多いほど、断熱温度上昇量に及ぼす試料容器の熱容量の影響が小さくなる。
【0005】
【数1】

【0006】
ここで、H:発生した熱量(J)、msample:試料質量(g)、Csample:試料比熱(Jg−1−1)、mvessel:試料容器質量(g)、Cvessel:試料容器比熱(Jg−1−1)、およびQ:断熱温度上昇(K)である。
【0007】
このような理由により、また、実際に使用されるコンクリートの評価に主眼を置いたことにより、従来の断熱温度上昇試験装置は多量のコンクリート試料を必要とするので試料調製の労力が大きく、装置も大型となっていた。
【0008】
また、断熱温度上昇試験装置を用いずに断熱温度上昇量を評価する方法としては、伝導熱量計を用いて養生温度を変えたセメントペーストの水和熱を測定し、これと供試材料の比熱データとからコンクリートの断熱温度上昇量を推定する方法が知られている(非特許文献7、8)。この方法は測定に時間がかかるものの、試料は少量ですむから試料調製の労力が小さい点が特徴である。
【特許文献1】特公平6−50292号公報
【特許文献2】特公平7−48066号公報
【特許文献3】特公平8−7170号公報
【特許文献4】特許第2937793号公報
【特許文献5】特開2000−329719号公報
【特許文献6】特開2006−118996号公報
【非特許文献7】斉藤豊,榊原弘幸,内田清彦:セメントの水和熱と温度上昇,セメント技術年報,No.38,pp.66−69,1984
【非特許文献8】田中敏嗣ほか:水和熱による温度上昇の推定に関する基礎的研究,コンクリート工学年次論文報告集,Vol.12,No.1,pp.913−918,1990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
断熱温度上昇量の評価方法としてこのように数多くの方法が開示されているが、その一方、コンクリートを構成する材料の品質変動と断熱温度上昇量との関係は十分に解明されておらず、これが、温度ひび割れ対策が不十分であることの一因となっている。さらに、近年では、セメント産業における廃棄物利用の拡大に伴い、セメントの鉱物組成や少量成分が変動したり、使用する骨材や混和剤が多様化したりすることから、日常管理としての断熱温度上昇特性の高精度で簡便な評価が望まれている。
【0010】
しかし、従来の断熱温度上昇試験装置を利用した場合、試料調製に多大な労力を要するため、日常的なセメントの品質管理として断熱温度上昇試験を実施することは容易ではなかった。養生温度を変えたセメントペーストの水和熱を測定する方法も、試料調製に要する労力は小さいものの、煩雑で測定に時間がかかるため、品質管理には不向きであった。このように、セメントの品質管理という観点に立脚した断熱温度上昇特性の評価方法については、試験装置も含めて十分に確立されているとは言えなかった。
【0011】
本発明は、少量の試料で簡便に断熱温度上昇特性を評価できるセメントの日常的な検査に好適な断熱熱量計、およびそれを利用したセメントの品質管理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、このような目的を達成するために、特に、10〜100mLの少量の試料でも断熱温度上昇を精度良く測定できる装置の構成要件ならびに品質管理としての利用方法を鋭意検討した結果、幅広い測定範囲に応じた断熱制御をするうえで必要な回路、適正な試料量、さらにはこの装置を利用した品質管理手法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、断熱温度上昇を測定する断熱熱量計であって、断熱熱量計が、断熱容器と、断熱容器に収容され測定試料を投入するための試料容器と、測定試料の温度変化に追従して槽内温度を制御するヒーターおよび冷却装置と、を含み、試料容器の容量が10mL〜100mLであり、冷却装置が2種類以上のサーマルリレー回路を備えた断熱熱量計である。
【0014】
本発明の断熱熱量計を利用すれば、試料作製量で少量であるため労力が少なく、それにもかかわらず、試料の断熱温度上昇特性を精度良く評価することができる。
【0015】
また、本発明の断熱熱量計は、断熱容器が、表面にアルマイト加工を施したアルミニウムであり、その内部に、試料容器を外包する発泡プラスチック系断熱材を充填したものであること、さらに、この断熱材は試料容器が内包されるように成形加工されること、が好ましい。これにより、試料容器の大きさを任意に変更でき、効率的な測定を行うことができる。
【0016】
また、本発明は、前記の断熱熱量計を用いて、セメント、水、骨材を含む試料の断熱温度上昇量を測定し、これにより断熱温度上昇特性に係る品質変動を制御することを特徴とするセメントの品質管理方法である。本発明の品質管理方法によれば、日常的な品質検査を効率的に実施することができ、以って断熱温度上昇特性の変動が小さく安定したセメントを製造することができる。
【0017】
また、本発明の品質管理方法においては、評価の対象とするコンクリートに応じた温度履歴が得られるように、セメントペーストあるいはモルタルの配合ならびに試料容器の材質を設定することを特徴とする。
【0018】
このように、対象とするコンクリートに応じた温度履歴を設定することで、より実用的な品質管理を実施することができる。また、同一試料でも試料容器を変えることで温度履歴を変更できるため、他の品質試験と試料を共有し、効率的な検査を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の断熱熱量計によれば、セメントペースト、モルタルあるいはコンクリート試料を調製する労力が少なく済み、簡便な手順で断熱温度上昇特性を評価することができる。
【0020】
また本発明のセメントの品質管理方法によれば、実用性の高い品質検査を効率良く実施することができ、以って断熱温度上昇特性の変動が小さく安定したセメントを製造することができる。さらにこれにより、コンクリート構造物の温度ひび割れの防止に貢献することが期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明を詳しく説明する。
【0022】
(断熱熱量計)
本発明の断熱熱量計は、試料容器を入れた断熱容器を試験槽内に設置し、試料の温度変化に追従してヒーターおよび冷却装置で槽内温度を制御する断熱熱量計であって、試料容器の容量が10mL〜100mLであり、冷却装置に2種類以上のサーマルリレー回路を備えている。
【0023】
ここで、試料容器は、所定量のセメントペースト、モルタルあるいはコンクリート試料を収容でき、測定中に変質や試料と反応しないものであれば、その材質は特に限定されない。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、四フッ化パーフルオロアルキルビニルエーテル等のプラスチックやその他の高分子材料、金属、例えばアルミニウム、セラミックス等の容器を使用することができる。
【0024】
また断熱容器とは、内部に試料容器を収納できるものであり、デュワー瓶のような真空断熱容器、あるいは金属やセラミック容器に断熱材を装填したものなどを利用することができる。
【0025】
試料容器の容量が10mL未満である場合、僅かな熱量で温度が変化するため、断熱制御が難しくなる。また、材料の計量誤差や水分の蒸発により、測定誤差が大きくなるため好ましくない。試料容器の容量が100mLを超える場合、使用する材料や試験後の廃棄物量が増加して準備や処理に手間がかかること、手練りでの試料調製が困難になり試験に手間がかかること、の理由から好ましくない。これに対し、容量が100mL以下であれば、試験に係る負荷が小さく作業が容易となる。
【0026】
試料容器は、容量が20mL〜60mLの範囲にあるのがより好ましい。この範囲であれば、実用上十分な断熱性能、安定した測定結果が得られ、かつ、試験の簡便性が満足できる。
【0027】
冷却装置は、冷却水パイプと冷凍機で構成される。冷凍機にサーマルリレー回路が設置されない場合、冷凍機が常時稼動することになり、高温で長時間の運転を繰り返した場合に冷凍機に多大な負荷がかかり、故障の原因となる。また、仮に40℃で冷凍機を停止するサーマルリレーを1つ設置した場合、40℃から50℃で温度上昇が収束する試料を測定した際に、試料に追従した槽内温度の制御が困難となるため、好ましくない。
【0028】
そこで、本発明では、冷凍機に2種類以上のサーマルリレーを設置し、試料に応じて使い分けることで、冷凍機に負荷をかけず、かつ、幅広い温度域での測定を可能とする。
【0029】
このように、試料量を適正化し、かつ、幅広い測定温度域に対応したサーマルリレーを複数個設置することで、様々な試料の断熱温度上昇特性を簡便かつ精度良く評価することができるようになる。
【0030】
なお、ヒーターおよび冷却装置で槽内温度を制御する具体的な方法としては、槽内温度を制御するための熱電対を試料内部と断熱容器の蓋に配置し、高感度直流増幅器とツェナーダイオードを備えた温度制御回路で差動制御するとともに、槽内の冷却水温度を制御することが断熱制御の面で好ましい。この場合、温度制御回路は、制御感度5×10−3Kを満足することが好ましい。
【0031】
熱電対は、JIS C 1602−1995「熱電対」に定められる8種類のうち、高温用であるB以外を使用することができる。特に、起電力の高さと精度の面から、E熱電対あるいはT熱電対のクラス1を用いることが望ましい。
【0032】
また、本発明の断熱熱量計は、断熱容器が発泡プラスチック系断熱材を含み、この断熱材は試料容器が内包されるように成形加工されるのが好ましい。
【0033】
発泡プラスチック系断熱材としては、ポリスチレンフォームやウレタンフォーム(ポリウレタン)、ポリエチレンフォーム、フェノールフォームなど市販の材料を使用できる。これらは熱伝導率が小さく、かつ、成形が容易であることから、断熱容器の中心に試料容器が入るよう加工することで、任意の大きさの試料容器を使用することができる。
【0034】
(セメントの品質管理方法)
本発明のセメントの品質管理方法は、本発明の断熱熱量計を用いてセメント、水、骨材を含む試料の断熱温度上昇量を測定し、これにより断熱温度上昇特性に係る品質変動を制御することを特徴とする。
【0035】
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランド等の各種ポルトランドセメントや、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントなど、従来公知のセメントを適用することができる。
【0036】
また、骨材は、JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」で定義される標準砂や、通常のコンクリートに用いられJIS A 0203−2005「コンクリート用語」で定義される細骨材および粗骨材を使用することができる。また、それらの代替として、アルカリ溶液中で安定な粒状のアルミナ、ジルコニアなども使用することができる。
【0037】
試料の構成材料としては、水、セメント、骨材のほか、高炉スラグ、フライアッシュ、石灰石微粉末、膨張材、高強度混和材などの混和材、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、増粘剤、収縮低減剤などの混和剤も適用することができる。
【0038】
本発明の断熱熱量計をセメントの品質管理に利用し、断熱温度上昇特性に係る品質変動を制御することで、断熱温度上昇量に及ぼすセメントの品質の影響が明確となり、温度ひび割れに対して安定した品質のセメントを製造することができる。
【0039】
また、本発明のセメントの品質管理方法は、断熱温度上昇量の測定において、評価の対象とするコンクリートに応じた温度履歴が得られるように、セメントペーストあるいはモルタルの配合ならびに試料容器の材質を設定する。
【0040】
本発明の断熱熱量計は、前述のように、試料量が少ないほど断熱温度上昇量に及ぼす試料容器の熱容量の影響が大きくなるため、コンクリートと同一の配合を測定しても、断熱温度上昇量は小さくなる。これを適正に利用し、試料および試料容器の熱容量の比を調節することで、コンクリートと同じ温度上昇特性をセメントペーストやモルタルで評価できる。
【0041】
具体的には、汎用の生コンクリートの断熱温度上昇量は40℃〜50℃、高強度コンクリートの断熱温度上昇量は60℃〜70℃というように、対象とする品質管理の温度域を定めておき、予めセメントペーストあるいはモルタルの配合ならびに試料容器の材質と試料の温度上昇との関係を把握しておき、評価の対象となるコンクリートに応じて、適宜これらの条件を設定する。これにより、より実用性の高いセメントの品質管理を実施することができる。
【0042】
なお、試料容器の容量および材質を選定する際の目安としては、試料の熱容量に対する試料容器の熱容量の比が1以下となるよう定めることが好ましく、0.3以下となるよう定めることがさらに好ましい。この比が1以下であれば、セメントペーストあるいはモルタルの配合や試料容器の材質を適宜組み合わせることで、広範囲の温度履歴を設定することができ、品質管理を効率的に行うことができる。
【0043】
また、断熱温度上昇量の測定においては、予め加温した試験体を用いて断熱制御の性能を検定し、断熱容器から逸散する熱量を基に断熱温度上昇量を補正することもできる。具体的には、加温したアルミブロックなどの試験体を試料に見立てて断熱容器に入れ、測定を数日間実施する。この結果、僅かな温度変化が観測された場合には、その微小な温度変化をニュートンの冷却則に当てはめて、断熱容器から逸散する熱量の損失速度を求め、得られた損失速度を基に断熱温度上昇量を補正する。これにより、より精度の高い温度上昇特性の評価を行うことが可能となる。
【0044】
本発明のセメントの品質管理方法は、本発明の断熱熱量計を利用し、任意の温度履歴が得られるように、セメントペーストやモルタルの配合ならびに試料容器の材質を設定するのであれば、対象試料の種類や調製方法は特に限定されない。例えば比較的熱容量の大きい試料容器を用いてセメントペースト試料を測定することも良いし、熱容量の小さい試料容器でJISモルタルを測定することも可能である。
【0045】
本発明のセメントの品質管理方法によれば、セメントペーストやモルタルの配合のみならず、試料容器の変更でも温度履歴を変えることができるため、例えば、試料容器を変えた複数の断熱熱量計を用意し、同一試料について複数のコンクリートを想定した検査を実施することも可能である。
【0046】
また、測定期間は、断熱温度上昇が収束するまで継続しても良いし、収束する1日あるいは2日前まで測定して、結果をカーブフィットすることで終局断熱温度上昇量を推定することも可能である。後者の場合は、測定期間が短縮され、効率化を図ることができる。
【0047】
本発明の断熱熱量計は、マスコンクリートや単位セメント量の多い高強度コンクリートを想定したセメントの品質管理に好適に利用できる。また、これを応用し、コンクリートで断熱温度上昇試験を行う際の予備評価実験としても活用することができる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例を挙げて本発明の内容を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0049】
[断熱熱量計の構成]
図1は、本発明の断熱熱量計の装置構成を示したものである。
熱量計は、試料容器5を入れた断熱容器4が槽内に置かれ、その下部にヒーター9や冷却水パイプ10が配置される。槽外には冷却水の温度を制御するための冷凍機14がある。
【0050】
試料容器5は、容量30mLのポリエチレン製フィルムケースである。また、断熱容器4には、表面にアルマイト加工を施したアルミニウムを使用している。内部に装填した断熱材はポリウレタンで、中心にフィルムケースが収まるように加工している。
【0051】
熱電対7および8は銅−コンスタンタン(クラス1)であり、温度制御用7が2対と試料温度計測用8が1対の計3対が使用されている。温度制御用7の一方は試料中央部、他方は断熱容器の蓋の内側中心部に貼り付けられ、温度制御回路12に通じている。両者のコンスタンタン線は接続されており、差動制御式となっている。試料温度計測用8は試料中央部に挿入され、記録計13に通じている。
【0052】
冷凍機14には、40℃および65℃の2つのサーマルリレー回路15が組み入れられており、切換スイッチ16で回路を選択することが可能である。
【0053】
[試験に使用した材料]
本発明の断熱熱量計を使用し、以下の使用材料を用いて調製したモルタルを対象に断熱温度上昇量を測定し、既存の断熱熱量計((株)東京理工製SAC−120、試料量500mL)と結果を比較した。
(1)セメント:
・普通ポルトランドセメント(宇部三菱セメント株式会社製)
・早強ポルトランドセメント(宇部三菱セメント株式会社製)
・中庸熱ポルトランドセメント(宇部三菱セメント株式会社製)
(2)細骨材:標準砂(JIS R 5201)
(3)練混ぜ水:イオン交換水
【0054】
[モルタルの調製]
モルタルは水セメント比を0.5の一定とし、砂セメント比を2から5まで変化させて手練りで調製した。モルタルの練上がり量を50mLとして所定量の水およびセメントを2分間練り混ぜた後、標準砂を加えて3分間練り混ぜた。調製は、20℃に設定した実験室内で行った。調製後のモルタル30mLを試料容器に入れ、穿孔した蓋に試料温度測定用および温度制御用の熱電対を挿入した。熱電対の挿入部周囲には、水の蒸発を防止するためシリコーングリースを塗布した。
【0055】
[断熱温度上昇量の測定]
試料容器を断熱容器に設置し、予め20℃に保持した試験槽内に入れ、断熱温度上昇を測定した。測定時間は、温度上昇が概ね収束する2日間以上とした。本発明の断熱熱量計と既存の断熱熱量計について、断熱温度上昇量が同程度である場合の断熱温度上昇曲線を図2および図3に示す。
【0056】
図2および図3に示す結果より、本発明の断熱熱量計で測定した実施例の断熱温度上昇曲線は、既存の断熱熱量計で測定した比較例のもの(試料量500mL)と同等の形状を示した。このことから、試料の量が本発明のように30mLと少量であっても、断熱温度上昇特性は正常に測定できることが分かった。
【0057】
また、本発明の断熱熱量計について、砂セメント比や使用セメント種類を変えた場合の断熱温度上昇曲線を図4および図5に示す。
【0058】
図4および図5に示す結果より、本発明の断熱熱量計で測定した断熱温度上昇曲線は、試料ごとの断熱温度上昇量の相違を明確に評価できることが示された。
【0059】
このように、本発明の断熱熱量計は、僅かな試料量と労力であるにも関わらず、日常の品質管理に好適な断熱温度上昇特性の評価方法として、十分な性能を有することがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の断熱熱量計の装置構成を示す図である。
【図2】本発明の断熱熱量計で測定した断熱温度上昇曲線を示す図である。
【図3】既存の断熱熱量計で測定した断熱温度上昇曲線を示す図である。
【図4】本発明の断熱熱量計で測定した断熱温度上昇曲線(配合を変えた場合)を示す図である。
【図5】本発明の断熱熱量計で測定した断熱温度上昇曲線(使用セメントを変えた場合)を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1…装置本体蓋、2…風道、3…断熱容器の蓋、4…断熱容器、5…試料容器、6…試料、7…温度制御用熱電対、8…試料温度計測用熱電対、9…ヒーター、10…冷却水パイプ、11…ファン、12…温度制御回路、13…記録計、14…冷凍機、15…サーマルリレー、16…切換スイッチ、17…温度調節器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱温度上昇を測定する断熱熱量計であって、
断熱熱量計が、断熱容器と、断熱容器に収容され測定試料を投入するための試料容器と、測定試料の温度変化に追従して槽内温度を制御するヒーターおよび冷却装置と、を含み、
試料容器の容量が10mL〜100mLであり、冷却装置が2種類以上のサーマルリレー回路を備えたことを特徴とする断熱熱量計。
【請求項2】
断熱容器が、表面にアルマイト加工を施したアルミニウムであり、その内部に、試料容器を外包する発泡プラスチック系断熱材を充填したものである、請求項1記載の断熱熱量計。
【請求項3】
請求項1または2記載の断熱熱量計を用いて、セメント、水、骨材を含む試料の断熱温度上昇量を測定し、これにより断熱温度上昇特性に係る品質変動を制御することを特徴とするセメントまたはコンクリートの品質管理方法。
【請求項4】
断熱温度上昇量の測定において、評価の対象とするセメントまたはコンクリートに応じた温度履歴が得られるように、セメントペーストあるいはモルタルの配合ならびに試料容器の材質を設定する、請求項3記載のセメントまたはコンクリートの品質管理方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−241520(P2008−241520A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83835(P2007−83835)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(597133569)株式会社東京理工 (3)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】