説明

断熱用塗料、該塗料を用いた断熱方法、及び該塗料を塗布したシート材

【課題】従来よりも嵩が低く、かつ、加工性に優れ、微細構造にも適用可能な断熱材を提供する。
【解決手段】多孔質または中空の低密度粉末と、水溶性高分子溶液とを、重量比で1〜7:99〜93の割合で混合し、断熱用塗料とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品に塗布されることで該物品に断熱性を付与する断熱用塗料、該塗料を用いた断熱方法、及び該塗料を塗布したシート材に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品、食品などの冷蔵製品及び冷凍製品は、輸送時の品質の劣化を防ぐため、冷蔵、冷凍条件以外の環境では、通常、断熱性を有する発泡スチロール容器や発泡ウレタン等の断熱材を付与した段ボール箱のような、断熱容器(例えば、特許文献1)に収納されて運搬される。このような断熱容器は、収納される製品と比して嵩高であるため、製品の運送コストがかさむ、という問題があった。また、製品自体とは別に断熱容器を用意し、製品を収納・梱包することが必須であり、運送手順が煩雑化する要因となっていた。
【0003】
一方、製品を高温状態で比較的長時間保つ容器が必要とされる場面も多い。このような容器は、通常、使用時に外部が高温とならず、使用者が素手で触れられることも同時に要求される場合が少なくない。このような容器としては、保温性を持たせるため、発泡スチロール等の嵩高の素材の容器や、側壁が積層構造を有する紙容器等が使用されている。側壁が積層構造を有する紙容器としては、例えば特許文献2のように、側壁の積層内部に空気の層を有するものが知られる。いずれにしても、内側の容積に比して、全体が嵩高であり、容器自体の運送時、収納時のスペースを多大に要するものであった。
【0004】
他の分野において、設備関連(建築、プラント、車体等)では、内壁を構成する基材の裏面側に熱発泡性ポリマー等の断熱材層を設けることで基材内部の断熱性を向上させる技術が知られている(例えば特許文献3)。しかし、従来の断熱材層は、より高い断熱効果を持たせるために一定以上の厚みを持たせる必要があり、内部の容積が制限される、基材の運搬コストが増大する、という問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−147577号公報
【特許文献2】特開2000−247377号公報
【特許文献3】特開平7−48881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、各分野における従来の断熱材は、多くが嵩高の形態であるため、運搬効率、収納効率を下げる要因となっていた。また、使用される素材も、ガラスウール、断熱ボード、発泡ウレタン、発泡スチロール等に限られており、その厚みと構造上の脆弱性により、微細な加工、成形が困難であり、ボックス状の断熱容器や、比較的大型の基材等、使用される対象が限られていた。
【0007】
そこで、本発明は、従来よりも嵩が低く、かつ、加工性に優れ、微細構造にも適用可能な断熱材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、鋭意検討の結果、主に水溶性接着剤として使用される、水溶性高分子溶液と低密度粉末材料とを混合したものを所望の物品に塗布することで、該物品に断熱性を付与することを見出し、本発明に至った。すなわち、本発明は、上記課題を解決する手段として、多孔質粉末及び中空粉末の少なくとも一方を含む低密度粉末材料と、水溶性高分子溶液とを、重量比1〜7:99〜93で含む、断熱用塗料を提供する。なお、本発明において「塗料」は、塗布された物品に粘着性をもたせ、他物品の付着を可能とする、接着剤をも含むものとする。
【0009】
塗料(接着剤を含む)としては、通常、溶剤系のものが多用されるが、本発明の塗料は、医薬品、住宅用建材への使用も想定され、このような用途には溶剤系塗料の使用は適さない。また、溶剤系塗料を樹脂製品等に塗布すると、製品が腐食される可能性もある。これに加え、発明者らは、溶剤系の塗料よりも、むしろ水溶系高分子溶液を使用することで、高い断熱効果を奏することを見出し、本発明に至ったものである。
【0010】
前記低密度粉末材料は、多孔質粉末及び中空粉末のうち少なくとも一方を含む。水溶性塗料中にこのような粉末が含まれることで、塗料層中に空気が含まれることとなり、この内部の空気により断熱効果が生じる。なお、ここでいう「低密度粉末」とは、粉末の状態で、25℃、1気圧の条件下で0.5g/cm未満、特に0.15g/cm未満となるものを指すものとする。
【0011】
前記塗料に含まれる水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、デンプン、水性ウレタン等からなる群より選択された、少なくとも1つの水溶性高分子を使用できる。また、これらの水溶性高分子は10〜55重量%水溶液として使用することが好ましい。このような条件で製造された水溶性高分子溶液は、適度な粘性を有するため、水溶性接着剤として使用することが可能である。
【0012】
前記低密度粉末材料としては、平均粒径が2〜25μmのものを使用することが好ましい。
【0013】
前記低密度粉末は、比表面積が400m/g以上のものを使用することが好ましい。このような低密度の粉末を使用することにより、塗料全体の重量を軽減化させることができる。また、多孔質粉末を使用した場合、より多孔性の高い粒子を使用することが好ましく、より比表面積の高いものを使用することが望まれる。
【0014】
本発明の塗料の粘度は、粘度が500〜100,000mPa・Sであり、塗膜の膜厚が10μmのときの室温自然乾燥時の乾燥時間が、室温自然乾燥で2時間以下であることが好ましい。このような構成とすることで、当該塗料は、接着剤としても使用可能となる。なお、本発明における「粘度」は、全て25℃での粘度を示すものとする。
【0015】
本発明は、前記の断熱用塗料は、目的とする物品に塗料層の厚さが2〜200μmとなるように塗布する断熱方法を提供する。前記の塗料は、液状の水溶液であるため、目的物が微細な構造を有する場合であっても容易に塗布でき、断熱効果を付することができる。
【0016】
本発明はまた、前記の断熱用塗料を、塗料層の厚さが2〜200μmとなるようにシート材に塗布してなる、断熱シート材を提供する。このようなシート材を包装材としたり、目的の物品に貼付したりすることで、目的の物品に対して断熱効果を付することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の塗料を用いて、所望の物品に低厚で塗布することにより、低嵩の断熱層を設けることができる。また、微細な構造を有する物品や、耐溶剤性の低い物品に対しても適用可能であり、これらの物品にも断熱効果を付することができる。
これにより、従来、別途断熱容器に収納して運送されてきた冷蔵・冷凍製品について、製品自体に断熱性を付与することが可能となる。また、断熱容器に冷蔵・冷凍製品を収納して使用する場合においても、該断熱容器の嵩を減じることが可能であり、運送効率を上げることができる。一方、保温性の包装容器として、内容物の容積に比して、従来よりも容器自体の嵩が低い断熱性包装容器を製造することが可能である。
また、例えば住宅用の壁紙裏面に本発明の断熱性塗料を塗布することにより、嵩高の断熱材を裏面に設けることなく、壁に断熱性を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】クーラーボックスの保冷機能試験の方法を示す概略断面図である。
【図2】クーラーボックスの平均温度変化を示すグラフである。
【図3】低密度粒子を各種溶媒中に投入した際の挙動を示す写真である。(A)投入直後、(B)投入6分後、(C)投入10分後。
【図4】低密度粒子を各ポリビニルアルコール(PVA)水溶液に投入した際の挙動を示す写真である。(A)投入直後、(B)投入10分後。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の塗料、該塗料を用いた断熱方法、及び該塗料を用いた断熱シート材について詳述する。
【0020】
<水溶性高分子溶液>
本発明の塗料には、溶剤系塗料ではなく、水溶性高分子溶液を使用する。目的に応じて添料を含む溶剤系塗料は、多数公知のものが存在するが、本発明の発明者らは、本発明の、断熱効果を物品に付与する、という目的においては、溶剤系塗料では、十分な効果を奏しないことを見出した。
【0021】
発明者らは、後述の多孔質または中空の低密度粉末と有機溶剤とを混合する際に、低密度粉末の種類によっては、溶剤中で粉末の存在が視認できなくなり、いわゆる溶解したような状態(透明)となる、という現象を発見した。図3に示すように、メチルシリケートの臨界乾燥ゲルを、シンナー(a)、無水メタノール(b)、精製水(c)各5mLにそれぞれ0.25g(体積5mL)投入し、投入直後(図3(A))、6分後(図3(B))、10分後(図3(C))に観察したところ、メチルシリケートはシンナーへの投入直後から気泡を発して、10分後までには溶解したような状態となった。また、無水メタノールに投入したメチルシリケートは、10分後までには液中に懸濁した状態となった。一方で、精製水に投入したメチルシリケートは液面上部に保持されたままであり、この状態は1週間以上保たれることが確認された。溶媒へのメチルシリケートの溶解様の挙動の原因は明らかではないが、低密度粉末の立体構造の孔に溶剤の浸潤等が生じ、その影響により粉末の立体構造が崩壊したのと推察される。実際、後述のように、有機溶媒に低密度粒子を懸濁して生成した塗料においては、十分な断熱効果が見られなかった。
【0022】
一方、水溶性高分子溶液の使用時には、このような溶解様の現象はみられなかった。図4に示すように、メチルシリケートを、20重量%ポリビニルアルコール(PVA)水溶液(a)、15重量%PVA水溶液(b)、10重量%PVA水溶液(c)、5重量%水溶液(d)各5mLにそれぞれ0.25g(体積5mL)投入し、投入直後(図4(A))、10分後(図4(B))に観察を行った。いずれの試料においても、メチルシリケートの溶解、懸濁等は生じなかった。なお、この状態は1週間以上持続することが確認された。水溶性高分子を使用することによって、低密度粒子の立体構造の崩壊等により断熱効果の低減が生じにくいことが明らかにされた。なお、溶剤、水、PVA水溶液における同様の現象は、シリカの臨界乾燥ゲルにおいてもみられた。
【0023】
また、低密度粉末としてゼオライトまたは炭酸カルシウムを使用して有機溶剤と混合した場合、溶剤が粉末中に浸潤しやすく、塗料として調製するためには、粉末含有量を減じなければならないことが判明した。この原因は明らかではないが、溶剤が、表面張力の低さ等の要因により、粉体の孔に入り込みやすいためと推察される。塗料中の低密度粒子の量を減じることとなれば、その断熱効果を十分に奏することは困難となってしまう。一方、PVA水溶液(5〜20重量%)においてはこのような現象は見られず、ゼオライトまたは炭酸カルシウムの十分量との混合が可能であり、したがって、十分な断熱効果を奏することが可能である。
【0024】
上記の事象より、本発明は、低密度粉末を含有する断熱用塗料としての性能を十分に奏するためには、有機溶剤ではなく、水性溶液(特に後述の水溶性高分子溶液)の使用が特に適していることを見出したものである。
【0025】
上記の性能面に加えて、本発明の塗料は、食品、医薬品の包装や、住宅用建材としての要とも想定されるため、人体への悪影響が懸念される溶剤系塗料の使用は好ましくない。したがって、本発明は、公知の溶剤系塗料と比して、安全面、環境面でも有利な塗料を提供するものである。
【0026】
本発明の塗料に使用する水溶性高分子としては、PVA、ポリ酢酸ビニル、デンプン、水性ウレタンが挙げられる。特に、PVAが、後述する紙、布、不織布等のシート材に対して広く親和性が高く、塗布が容易であること、塗布後の乾燥時間が比較的短いことから、好適に使用可能である。水溶性高分子としてPVAを使用する場合、その分子量が10,000〜200,000、特に50,000〜150,000のものを使用することが好ましい。分子量が低すぎれば、安定した塗膜が形成しづらく、また、分子量が高すぎれば、所望の水溶液を調製することが困難となる。
【0027】
水溶性高分子の水溶液の濃度は、10〜55重量%、特に20〜50重量%、とすることが、塗料を塗布に適した粘度(後述)とするため、好ましい。なお、PVA使用時には、10〜25重量%、ポリ酢酸ビニル使用時には50〜55重量%、デンプン使用時には30〜38重量%、水性ウレタン使用時には45〜50重量%とすると、さらに好ましい。
【0028】
<低密度粉末>
本発明に使用する低密度粉末の素材としては、シリカ、メチルシリケート、アルミナ、シリカ・アルミナ、セラミック、ゼオライト、炭酸カルシウム、ジルコニア等の公知の多孔質または中空の粉末を使用できる。多孔率の程度にかかわらず、素材自体の熱伝導率が0.15W/(m・K)以下、特に、0.1W/(m・K)以下、さらには0.06〜0.018W/(m・K)のものを使用することが好ましい。特に、メチルシリケートモノマーを常圧乾燥または臨界乾燥でエアロゲル化したものが、低密度での製造が容易であること、ナノレベルでの多孔構造または中空構造を比較的容易に形成し得ること、水溶液中で崩壊しにくいこと、などから、好適に使用可能である。
【0029】
低密度粉末材料としては、多孔質粉末及び中空粉末の少なくとも一方を使用する。多孔質の低密度粉末を使用する場合、その多孔率は50.0〜99.8%、特に70〜99.8%、さらに86〜99.8%とすることが好ましい。
【0030】
また、粉末の構造にかかわらず、粉末の平均粒径は、2〜25μm、特に5〜23μm、さらには8〜17μmとすることが好ましい。塗料に含まれる低密度粉末の粒径が25μm超であれば、塗布時の塗料層の厚みが増すため、低嵩で断熱効果を付与する、という本願の目的を達成できない。また、2μm未満であると、塗料層に包含される空気の量が少なくなるため、十分な断熱効果が得られにくい。
【0031】
低密度粉末は、比表面積が400m/g以上、特に500〜1000m/g、さらに600〜1000m/gのものを使用することが好ましい。比表面積を上げることで、多孔質粉末を使用する場合には多孔率を高くすることができ、中空粒子を使用する場合は粒子内に内包される空気量を多くすることができる。また、接着剤全体の重量を軽減することもできるからである。
【0032】
<断熱用塗料>
本発明の断熱用塗料は、上記の低密度粉末と、水溶性高分子溶液とを、重量比で1〜7:99〜93の割合、好ましくは3〜7:97〜93の割合、より好ましくは4〜5:96〜95の割合で混合することで製造することができる。低密度粉末の配合量が高すぎれば、流動性が悪く、塗料として目的の物品に付与しづらくなり、また、低すぎれば、本発明の目的である断熱効果が十分に得られなくなってしまう。
【0033】
断熱性塗料は、目的の物品に厚さ2〜200μm、特に5〜50μm、さらに5〜25μmで付与するのに適した状態とすることが好ましい。具体的には、断熱性塗料の粘度は、500〜100,000mPa・S、特に10,000〜30,000mPa・Sとすることが好ましい。粘度が高すぎても低すぎても、上記の厚さの塗料層を形成することが困難となるためである。
【0034】
また、断熱性塗料は、厚さ10μmとなるように塗布した際に、室温自然乾燥で乾燥時間が2時間以下、特に5分間〜2時間となるように構成することが好ましい。乾燥時間が長すぎれば、加工性が劣るためである。
【0035】
なお、本発明の断熱性塗料は、粘着性を有するものであり、これにより、接着剤として使用することも可能である。特に、本発明の断熱性塗料は水溶性高分子溶液からなるため、水濡れによる影響を受けやすいが、塗料層の上に、撥水剤を塗布した紙、ポリエチレンシート等の防水シートを貼付し、水分が直接塗料層に触れない構成としてもよい。
【0036】
また、シートに限らず、接着剤を要する部分に本発明の塗料(接着剤)を使用し、同時に断熱効果を付与する構成としてもよい。
【0037】
<断熱用塗料による断熱方法>
本発明の断熱用塗料を塗布する対象物品は、特に限定されず、紙、プラスチック、板材、金属等何れにも使用可能である。また、液状であるため、微細な構造を有する部分にも適用可能であり、特に物品の形状が限定されるものでもない。断熱用塗料を対象物品に塗布する際には、塗料層の厚さが、2〜200μm、特に5〜50μm、さらに5〜25μmとなるように塗布することが好ましい。塗料層の厚さが厚ければ断熱効果は高まるが、対象物品の嵩を大幅に増すことなく断熱効果を得る、という発明の目的を達成することが困難となり得る。
【0038】
<断熱シート材>
本発明の断熱用塗料は、上記のように水溶性であるため、最外層として塗布されるより、上に防水シート等を付着させる接着剤として使用することが好ましい。また、防水シート等に接着剤を塗布した断熱シート材を、目的の物品に塗布する構成としてもよい。なお、防水シート等を使用する場合、シート上に内部物品の表示や、デザイン画等を付与して、視覚的な美粧性を高めることも可能である。
【0039】
断熱シート材は、シート材に上記断熱用塗料を、塗料層の厚さが2〜200μm、特に5〜50μm、さらに5〜25μmとなるように塗布して製造することが好ましい。塗料層の厚さが厚ければ断熱効果は高まるが、シートが有する可撓性、柔軟性等の特性が失われるおそれがある。当該シート材を用いて、目的の物品を包装する、目的の物品に貼付する、等、断熱効果を奏することが可能である。
【実施例】
【0040】
<1.塗料の調製>
下記の通り、実施例として本願発明に係る塗料を調製した。実施例の塗料は、いずれも粘度が10,000〜15,000mPa・Sとなるように調製した。
〔実施例1〕
低密度粉末4gと、20重量%のPVA水溶液96gとを混合して断熱用塗料を調製した(配合比率4:96)。低密度粉末としては、平均粒径5μm、比表面積750m/gのメチルシリケートの臨界乾燥疎水ゲル粉末(キャボット社製、Aerogel Enova)を使用した。調製した断熱用塗料の粘度は10,000mPa・Sであった。これを、コピー用紙(リコー社製、タイプ6000(58W)、厚さ87μm、坪量68g/m、5cm×10cm)に塗料層の厚みが10μmとなるように塗布し、その上にもう1枚のコピー用紙を重ねて接着乾燥させた。塗布時の乾燥時間は30分〜2時間であった。
【0041】
〔比較例1〕
低密度粉末を含まない20重量%PVA水溶液を、コピー用紙に塗料層の厚みが10μmとなるように塗布し、その上にもう1枚のコピー用紙を重ねて接着乾燥させた。塗布時の乾燥時間は30分〜1時間であった。
【0042】
〔実施例2,3及び比較例2,3〕
実施例1のPVA水溶液と粉末の配合重量比を表1に示すように、それぞれ2:98、7:93、0.5:99.5、10:90に変更した以外は、実施例1と同様に実施例2,3及び比較例2,3の塗料を調製した。各塗料をコピー用紙に塗布し、その上にもう1枚のコピー用紙を重ねて接着乾燥させた。なお、表1に示す通り、比較例2の塗料は調製が困難であり、比較例3は粉末量が多すぎて接着性を有しなかったため、いずれも接着乾燥実験は不可能であった。塗料層の厚み、及び乾燥時間は、表1に示す通りであった。
【0043】
〔実施例4〜10〕
実施例1の水溶性高分子水溶液を、表1に示すようにそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様に実施例4〜10の塗料を調製し、各塗料をコピー用紙に塗布し、その上にもう1枚のコピー用紙を重ねて接着乾燥させた。塗料層の厚み、及び乾燥時間は、表1に示す通りであった。
【0044】
〔実施例11,12〕
実施例1の低密度粉末の平均粒径を、それぞれ2μm、10μmに変更した以外は、実施例1と同様の条件で実施例11,12を調製し、各塗料をコピー用紙に塗布し、その上にもう1枚のコピー用紙を重ねて接着乾燥させた。塗料層の厚み、及び乾燥時間は、表1に示す通りであった。
【0045】
〔実施例13〕
実施例1の低密度粉末を、シリカ粉末(英徳市埃力生亜太電子有限会社製、品名:エアロゲル、平均粒径5μm、比表面積650m/g)に変更した以外は、実施例1と同様に実施例13の塗料を調製し、コピー用紙に塗布し、その上にもう1枚のコピー用紙を重ねて接着乾燥させた。塗料層の厚み、及び乾燥時間は、表1に示す通りであった。
【0046】
〔実施例14〕
実施例1の低密度粉末として、メチルシリケート常圧乾燥疎水ゲル(平均粒径5μm、比表面積750m/g)を使用した以外は、実施例1と同様に実施例14の塗料を調製し、コピー用紙に塗布し、その上にもう1枚のコピー用紙を重ねて接着乾燥させた。塗料層の厚み、及び乾燥時間は、表1に示す通りであった。
【0047】
〔実施例15〕
実施例1に使用した塗料を、塗料層の厚さが20μmとなるように塗布した。乾燥時間は、表1に示す通りであった。
【0048】
〔実施例16〕
実施例1に使用した塗料を。塗料層の厚さが5μmとなるように塗布した。乾燥時間は、表1に示す通りであった。
【0049】
〔比較例4〕
実施例1の水溶性高分子溶液の代わりに、有機溶剤(アセトン・エタノール等)で3倍に希釈した溶剤系接着剤(セメダイン社製、品番CA-114)を使用した以外は、実施例1と同様に比較例4の塗料を調製し、コピー用紙に塗布し、その上にもう1枚のコピー用紙を重ねて接着乾燥させた。塗料層の厚み、及び乾燥時間は、表1に示す通りであった。
【0050】
〔比較例5〕
実施例1の水溶性高分子溶液の代わりに、有機溶剤(シクロヘキサン・n−ヘキサン)で2.3倍に希釈した溶剤系接着剤(ボンド、コニシ株式会社製、品番♯13023)を使用した以外は、実施例1と同様に比較例5の塗料を調製し、コピー用紙に塗布し、その上にもう1枚のコピー用紙を重ねて接着乾燥させた。塗料層の厚み、及び乾燥時間は、表1に示す通りであった。
【0051】
<2.熱伝導率測定>
実施例1〜16及び比較例1,4,5の試料について、プローブ法を用いた熱定数測定装置(京都電子工業社製、品番QTM-D3)を用いて、熱伝導率測定を行った。各試料の熱伝導率の測定値は、表1に示す通りであった。なお、コピー用紙2枚を接着せずに重ねた場合の熱伝導率は0.1W/(m・K)であった。
【0052】
【表1】

【0053】
<3.クーラーボックスの保冷効果試験>
上記実施例1〜3、比較例1,4,5の塗料を、それぞれ10μmの厚さになるように塗布したボール紙(今村紙工社製、品番 IT-05)を用いて、塗布面が外側になるように、10cm立方体のボックスを作成した。併せて、2cm厚の発泡スチロールで内部の一辺が10cmの立方体のボックスを作成し、既存のクーラーボックスを想定した試料とした。なお、箱はそれぞれの試料に対し、5個ずつ作成した。また、何も塗布していないボックスも5個作成した。図1の断面概略図に示すように、箱1に、温度計測用プローブ4を、その先端が、箱の上面(底面)中央から直径1cm以内、箱上面からの距離aが3〜4cmとなるように設置した。箱1の内部底面の中央部に30gの保冷剤を入れた9号のアルミカップ2を置いた後、各片をセロハンテープで密閉した。立方体の各片の継ぎ目は、隙間を生じないよう、1cm幅のセロハンテープを貼付して封止した。氷を置いてから箱を封止するまでの時間は30秒以内とし、封止完了時を開始時間として、箱内部の気温の変化を30分間観察した。
【0054】
実施例1〜3、比較例1,4,5の塗料を塗布した箱、及び発泡スチロールボックスの内部気温について、5分〜30分後に5分毎に計測した。計測した温度の平均値を表2に、平均温度の変化を図2に示す。発泡スチロールボックスにおける箱内部の温度は、5分後から30分後まで6.5〜7.5℃で安定していたのに対し、ボール紙のみの箱内部の温度は、30分後に13.5℃まで上昇した。比較例1,4,5の塗料を塗布した箱においては、箱内部の温度が30分後にそれぞれ13.0℃、13.5℃、12.0℃となり、塗料なしの箱とほとんど変化がないことが分かった。実施例1,2,3の塗料を塗布した箱において、箱内部の30分後の温度はそれぞれ10.5℃、11.0℃、9.5℃となり、塗料なしの箱と比して温度上昇が有意に抑えられていることが分かった。また、<2.熱伝導率測定>において低い熱伝導率を示す塗料ほど、温度上昇が抑えられていることが分かった。
【0055】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る塗料、該塗料を用いた断熱方法、及び該塗料を塗布した断熱シートは、医薬品、食品、建築、等の安全・環境面での配慮を要する分野に限られず、断熱材の使用を要する分野で広く利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1…クーラーボックス、2…アルミカップ、3…保冷剤、4…温度計測用プローブ。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質粉末及び中空粉末の少なくとも一方を含む低密度粉末材料と、水溶性高分子溶液とを、重量比1〜7:99〜93の割合で含む、断熱用塗料。
【請求項2】
前記水溶性高分子溶液が、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、デンプン、水性ウレタンからなる群より選択された、少なくとも1つの水溶性高分子の10〜55重量%水溶液である、請求項1記載の断熱用塗料。
【請求項3】
前記低密度粉末材料の平均粒径が2〜25μmであり、かつ、比表面積が400m/g以上である、請求項1または2に記載の断熱用塗料。
【請求項4】
粘度が500〜100,000mPa・Sであり、塗膜の膜厚が10μmのときの乾燥時間が室温自然乾燥で2時間以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の断熱用塗料。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗料を、目的とする物品に塗料層の厚さが2〜200μmとなるように塗布する、断熱方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の塗料が、塗料層の厚さが2〜200μmとなるように塗布された、断熱シート材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−100406(P2013−100406A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244866(P2011−244866)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(510163396)オゾンセーブ株式会社 (1)
【Fターム(参考)】