説明

断片抗体のための精製方法

少なくとも1つの不純物もまた含む培地から断片抗体を精製するための方法を提供する。断片抗体が可溶性であるが、不純物の1以上が不溶性であるpHまで、培地のpHを減少させた後に、精製を行う。こうした精製方法を使用して、断片抗体を調製するための方法もまた提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断片抗体(fAb)の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
断片抗体(fAb)は、療法分野範囲で、ますます重要になってきている。fAbを産生する最も重要な方法の1つは、組換え技術による。こうした技術は、宿主細胞を用いて、所望のfAbを発現させ、これを次いで、産生培地から分離し、そして精製する。EP1561756は、核酸混入物からタンパク質を分離するための、酸性pHを含むある範囲のpHの使用を開示する。pH処理前にアフィニティ・クロマトグラフィーによって培地が精製されるか、または低pH処理前に、使用するタンパク質試料が先に精製され、そして混入DNAが添加される。WO2006/101441は、酢酸処理後の熱処理による、熱安定性アメリンおよびアメロゲニン・タンパク質の精製方法を開示する。WO96/33208は、培地から単離されたfAbのクロマトグラフィー精製後の低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーを含む、fAb精製のための方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】EP1561756
【特許文献2】WO2006/101441
【特許文献3】WO96/33208
【発明の概要】
【0004】
本発明の1つの側面にしたがって、少なくとも1つの不純物もまた含む培地から断片抗体を精製するための方法であって、断片抗体が可溶性であるが、不純物の1以上が不溶性であるpHまで、培地のpHを減少させた後に、精製を行う、前記方法を提供する。
【0005】
本発明の第二の側面にしたがって、断片抗体を調製するための方法であって:
a)断片抗体および少なくとも1つの不純物を含む培地を調製し;
b)培地から断片抗体を精製する、ここで、断片抗体が可溶性であるが、不純物の1以上が不溶性であるpHまで、培地のpHを減少させた後に、精製を行う
工程を含む、前記方法を提供する。
【0006】
本発明の第三の側面にしたがって、断片抗体および少なくとも1つの不純物を含む培地から不純物を分離するための方法であって、断片抗体が可溶性であるが、不純物の1以上が不溶性であるpHまで、培地のpHを減少させ、そして培地から不溶性不純物を分離する工程を含む、前記方法を提供する。
【0007】
本発明で使用する培地は、pH6より大きい、好ましくは6.5より大きいpHを有するものである。特定の例において、より高いpHの培地を使用してもよいが、典型的には、pHは8以下である。最も好ましくは、pHは、6.7〜7.5であり、特に約7である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、未処理上清の試料に対して、各試料に関して固体および上清分画両方を泳動した結果を示す、還元SDS PAGEゲルである。
【図2】図2は、すべての泳動によって、非常に精製されたドメイン断片が生じた結果を示す、SDS PAGE分析である。
【図3】図3は、未処理上清の試料に対して、各試料に関して固体および上清分画両方を泳動した結果を示す、還元SDS PAGEゲルである。
【図4】図4は、すべての泳動によって、非常に精製されたFab断片が生じた結果を示す、SDS PAGE分析である。
【図5】図5は、未処理上清の試料に対して、各試料に関して上清分画を泳動した結果を示す、還元SDS PAGEゲルである。
【図6】図6は、未処理上清の試料に対して、各試料に関して上清分画を泳動した結果を示す、還元SDS PAGEゲルである。
【図7】図7は、未処理上清の試料に対して、各試料に関して上清分画を泳動した結果を示す、還元SDS PAGEゲルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の方法によって精製可能な断片抗体は、免疫グロブリンドメインまたは免疫グロブリンドメインの集合を含み、そして抗原に結合可能であり、そして多くの態様において、少なくとも1つの重鎖、通常はV鎖、またはその機能する断片、あるいは軽鎖、通常はV鎖、またはその機能する断片を、少なくとも1つの他の鎖とともに含む、抗体の部分である。特定の態様において、fAbは、重鎖および軽鎖を含み、各鎖は、定常ドメインおよび可変ドメインで構成され、例えばFabである。他の態様において、fAbは、2以上のドメインを含み、典型的には重鎖または軽鎖いずれかの可変および定常ドメインいずれかの組み合わせ、2つの重鎖由来の可変ドメインの組み合わせ、2つの軽鎖由来の可変ドメインの組み合わせ、あるいは軽鎖由来の可変ドメインおよび重鎖由来の可変ドメインの組み合わせである。いくつかの態様において、fAbは、解離を防止する柔軟なポリペプチドリンカーによって連結されたVおよびVドメインを含む(一本鎖Fv、scFv)。さらにさらなる態様において、fAbは、単一ドメイン、またはその断片、典型的には可変重鎖またはその断片、あるいは可変軽鎖またはその断片のいずれかを含む。さらにさらなる態様において、fAbは多量体形式、例えばビスscFv、Fab、Fab、ミニボディ、ディアボディ、トリアボディ、テトラボディまたはtandabである。
【0010】
本発明の方法によって精製可能なfAbの例には、組み合わされた重鎖および軽鎖を含むタンパク質またはポリペプチド構築物であって、各鎖が定常ドメインおよび可変ドメインで構成され、こうした免疫グロブリン軽鎖および重鎖が単一の機能する抗原結合部位を形成するよう相互作用する前記構築物が含まれる。
【0011】
さらなる例には、ターゲットに結合可能であり、少なくとも1つの結合ドメインを含むポリペプチドであるV鎖に基づくドメイン抗体であって、結合ドメインが可変重鎖抗体の単一の可変ドメインまたはその機能する断片である、前記ドメイン抗体が含まれる。
【0012】
さらにさらなる例には、ターゲットに結合可能であり、少なくとも1つの結合ドメインを含むポリペプチドであるV鎖に基づくドメイン抗体であって、結合ドメインが可変軽鎖抗体の単一の可変ドメインまたはその機能する断片である、前記ドメイン抗体が含まれる。
【0013】
多くの態様において、本発明の方法によって精製されるfAbは、5より大きい、好ましくは5.5より大きい、そして最も好ましくは6より大きいpIを有する。
fAbを精製する方法は当該技術分野に周知であり、そしてこれには、沈降、結晶化およびクロマトグラフィーが含まれる。望ましい場合、こうした方法の組み合わせを使用してもよい。クロマトグラフィーは、精製の最も好ましい方法である。
【0014】
fAbのクロマトグラフィー精製法は、当該技術分野に周知である。こうした方法の例には、イオン交換クロマトグラフィー、特に陽イオン交換クロマトグラフィー;疎水性に基づくクロマトグラフィー、例えば疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、逆相クロマトグラフィー、疎水性電荷誘導クロマトグラフィー、および混合様式クロマトグラフィー;サイズに基づく精製、例えばサイズ排除クロマトグラフィーおよびゲルろ過;ならびにアフィニティ・クロマトグラフィーが含まれる。望ましい場合、1以上のクロマトグラフィー工程を使用してもよく、特に、2以上の異なる方法を含む2以上のクロマトグラフィーを使用してもよく、例えばアフィニティ・クロマトグラフィー後にイオン交換クロマトグラフィーを使用してもよい。
【0015】
特定の態様において、クロマトグラフィー精製は、アフィニティ・クロマトグラフィーを含む。fAb精製に使用可能なアフィニティ・クロマトグラフィー法および媒体は、当該技術分野に知られ、そしてターゲットfAbに対する選択的結合特性を有することによって選択される。こうした方法の例には、プロテインAアフィニティ・クロマトグラフィーおよびプロテインGアフィニティ・クロマトグラフィーが含まれる。特定の好ましい態様において、アフィニティ・クロマトグラフィー媒体は、式:
【0016】
【化1】

【0017】
式中、
Qは、場合によってスペーサー基を介した、固体支持体マトリックスへの付着を示し;
AおよびBは、各々独立に、水素結合可能な1以上の置換基、好ましくは−OH、−SHまたは−COH基の1以上で置換された、Y−フェニルまたはY−ナフチル基であり;
各Yは、独立に、−NR−、−O−または−S−を示し;そして
各Rは、独立に、HまたはC1−4アルキル基を示す
を有する、合成アフィニティ・リガンドを含む。
【0018】
好ましいアフィニティ・リガンドは、式:
【0019】
【化2】

【0020】
式中、Qは、場合によってスペーサー基を介した、固体支持体マトリックスへの付着を示し、そしてAおよびBは、各々独立に、−OH、−SHまたは−COH基の1以上で置換された−NH−フェニルまたは−NH−ナフチル基である
の化合物である。AまたはBのいずれかがフェニルを示す場合、置換基、最も好ましくは−OHは、好ましくは、−NH部分への結合に対して、メタまたはパラの位に位置する。特に好ましいアフィニティ・リガンドには、式:
【0021】
【化3】

【0022】
および
【0023】
【化4】

【0024】
式中、Qは、場合によってスペーサー基を介した、固体支持体マトリックスへの付着を示す
の化合物が含まれる。
【0025】
Qによって示されうるスペーサー基には、場合によって置換されたアミノアルキルアミノ部分、例えば、式−NH−(CHNH−Gの基、式中、nは12までの正の整数、好ましくは2〜6であり、そしてGは固体支持体である;−NH−(CHO−G、式中、nおよびGは先に定義される通りである;−O−(CHO−G、式中、nおよびGは先に定義される通りである;−O−(CHCHO−G、式中、nおよびGは先に定義される通りである;−NH−(CHO−G、式中、nおよびGは先に定義される通りである;−NH−(CHNH−(CHO−G、式中、nおよびGは先に定義される通りであり、そしてxは1〜6である、が含まれる。−CH−部分の1以上は、1以上の置換基、例えばOHまたはNH基によって置換されてもよい。
【0026】
アフィニティ・リガンドが付着してもよい固体支持体マトリックスは、アフィニティ・クロマトグラフィーの分野において周知であり、そしてこれには、合成ポリマー、例えばポリアクリルアミド、ポリビニルアルコールまたはポリスチレン、特に架橋合成ポリマー;無機支持体、例えばシリカに基づく支持体;および特に多糖支持体、例えばデンプン、セルロースまたはアガロースが含まれる。
【0027】
特定の態様において、商標名MAbsorbent A1PおよびMAbsorbent A2Pのもとで、Prometic Biosciencesより商業的に入手可能な支持アフィニティ・リガンドを用いて、優れた結果が達成されてきている。
【0028】
fAbがアフィニティ・リガンドに結合する条件下で、fAbを含有する媒体および支持アフィニティ・リガンド間の接触を達成する。多くの態様において、水溶液はfAbをほぼ中性のpH(例えば約6〜8、例えば6.5〜7.5のpH、そして特に7のpH)で含む。水溶液は、好ましくは、低イオン強度、例えば50mS/cm未満、例えば10〜40mS/cm未満、そして好ましくは30mS/cmのイオン強度を有する。好ましくは、実質的にすべてのfAbがアフィニティ・リガンドに結合するまで、接触を続ける。fAbを含む媒体中に存在しうる多くの不純物は、アフィニティ・リガンドに結合せず、そしてしたがって、媒体中に残る。
【0029】
通常、クロマトグラフィー・カラム中で支持アフィニティ・リガンドを使用し、そしてfAbを含む媒体をカラムに流す。カラムへの単回通過を使用してもよいし、または代わりに、媒体をカラムに再循環させてもよい。2以上のカラムを順番に使用してもよい。
【0030】
結合したfAbを含む支持体を、fAbが結合したままである条件下で、例えば低イオン強度、およびほぼ中性のpHの水性緩衝液を使用して、1以上の洗浄溶液で洗浄してもよい。
【0031】
次いで、fAbをリガンドから放出させる溶液と接触させることによって、例えばイオン強度を変化させることによって、fAbをアフィニティ・リガンドから分離してもよい。多くの態様において、溶出溶媒は、fAbがリガンドに付着する媒体よりも低いpHを有する水溶液、例えば2〜4の範囲のpHを有する緩衝溶液を含む。望ましい場合、溶出勾配を使用してもよい。
【0032】
好ましい態様において、クロマトグラフィー法は、イオン交換クロマトグラフィー、そして特に陽イオン交換クロマトグラフィーを含む。弱いまたは強い陽イオン交換樹脂を使用してもよい。通常、強い陽イオン交換樹脂は、pHに応じて、スルホン酸またはスルホン酸基を含む支持有機基を含む。通常、弱い陽イオン交換樹脂は、pHに応じて、カルボン酸またはカルボン酸基を含む支持有機基を含む。特定の態様において、多様式陽イオン交換樹脂は、さらなる結合機構ならびにイオン性相互作用、例えば水素結合相互作用および疎水性相互作用の1以上を取り込む。適切な陽イオン交換樹脂の例が当該技術分野に周知である。
【0033】
本発明の方法において、培地のpHは、好ましくは6.0未満、通常5.5未満、最も好ましくは5未満のpHに減少している。多くの態様において、2.5より大きい、最も一般的には3.0以上、典型的には3.5以上、そして好ましくは4より大きいpHを使用する。多くの好ましい態様において、pHは、3〜5、通常、4〜5、例えば4〜4.5の範囲のpHに減少する。
【0034】
fAbが培地のpH未満のpI、特に5.5未満のpIを有する態様において、培地pHを好適に、fAbのpIと0.5pH単位より大きく異なる、そして好ましくはpIと少なくとも1pH単位異なるpHに減少させる。fAbのpIが低い場合、例えば3.0以下である場合、pHを好ましくはpIより少なくとも0.5pH単位大きいpHに減少させる。fAbのpIが比較的高い場合、例えば5〜5.5である場合、pHを好ましくはpIより少なくとも0.5pH単位低いpHに減少させる。
【0035】
本発明の特定の好ましい態様において、pH減少には、培地のイオン強度の減少が付随する。通常、イオン強度は5mScm−1以下の伝導率に減少する。
本発明の他の好ましい態様において、特にfAbが、培地pHを減少させるpHに近いpIを有する場合、例えばこうしたpHの0.5pH単位以内のpIを有する場合、イオン強度を減少させず、そして好適に増加させてもよい。こうした態様において、20mScm−1以上、例えば25mScm−1、例えば27〜50mScm−1を好適に使用してもよい。
【0036】
必要なpHが達成されるまで酸を添加することによって、培地pHを減少させてもよい。多くの態様において、酸は緩衝溶液を含む。特定の特に好ましい態様において、透析またはダイアフィルトレーションによって、所望のpHを有する緩衝液と培地を接触させる。透析またはダイアフィルトレーションの使用によって、培地のpHおよびイオン強度を同時に減少させることが可能になる。
【0037】
fAbを含む培地は、通常、fAbをコードする組換え宿主細胞の発現によって得られる。宿主細胞は原核または真核であってもよい。原核細胞の例には、細菌細胞、例えば、大腸菌(E. coli)、ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)、セラチア・マルセセンス(Serratia marsescens)および緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)を含むグラム陰性細菌細胞、ならびに枯草菌(Bacillus subtilis)を含むグラム陽性細菌細胞が含まれる。真核細胞の例には、酵母、例えばピキア・パストリス(Pichia pastoris)、サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クロイベロミセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)が含まれる。使用可能な哺乳動物宿主細胞の例には、ヒト細胞株、例えばヒト胚性腎臓およびPERC.6細胞;ネズミ細胞株、例えばNS0細胞;ならびに特にハムスター細胞株、例えばベビーハムスター腎臓細胞および特にチャイニーズハムスター卵巣細胞が含まれる。他の真核宿主細胞、例えば糸状菌、植物、昆虫、両生類細胞または卵巣(ovarian)種のものもまた使用可能である。好ましい宿主細胞は、細菌、特に腸内細菌科(enterobacteriacae)、好ましくは大腸菌、そして特にそのBまたはK12株である。
【0038】
関心対象の細胞に関して、当該技術分野で知られる方法を用いて宿主細胞を培養する。fAbが宿主細胞から分泌されてもよく、または細胞内に留まってもよく、あるいは両方の組み合わせであってもよいことが認識されるであろう。宿主細胞内に保持されるfAbを、当該技術分野に知られる方法、例えば物理的分解、例えば高剪断混合または高圧ホモジナイゼーション、および化学的方法、例えばアルカリ界面活性剤を用いた、例えばSDSでの処理による、細胞溶解また破壊によって得てもよい。
【0039】
ターゲットタンパク質に加えて、培地は、通常、不純物、例えば損なわれていない(intact)細胞、部分的に分解された細胞、細胞壁構成要素、細胞断片、核酸および天然宿主細胞タンパク質の1以上を含む。
【0040】
6未満のpHに減少させる前に、物理的分離、例えばろ過または遠心分離によって、培地中の不溶性構成要素を除去してもよい。pH減少に続いて、培地中の不溶性構成要素は、好ましくは、物理的手段、最も好ましくはろ過または遠心分離によって除去される。好ましくは、pH減少工程前に、不溶性構成要素を除去するための物理的分離は行わない。ろ過を使用する場合、正常流または接線流法のいずれかを使用してもよい。こうした方法で有用なフィルター媒体が当該技術分野に周知である。pH減少後の不溶性構成要素の除去に続いて、fAbの続く精製の前に、pHを、例えばほぼ中性のpHに、例えば6〜8に、好ましくは6.5〜7.5に増加させてもよい。
【0041】
本発明は、以下の例によって限定なしに例示される。
【実施例】
【0042】
実施例1
組換え大腸菌株における周辺質発現によってドメイン抗体断片(抗TNFαドメイン)を産生した。断片ドメインは12kDaの総分子量を有し、そして細胞周辺質内に分泌され、そして続いて発酵増殖培地内に分泌される。発酵終了時には、存在する抗TNFα断片ドメインのレベルはほぼ2.3g/Lであった。
【0043】
抗TNFα断片ドメインの最初の単離には、細胞物質を除去する遠心分離が伴い、0.45/0.2ミクロンフィルターを通じたろ過が続いた。生じた透明の溶液は、29mS/cmの伝導率および6.8のpHを有した。
【0044】
遠心分離しそしてろ過したこの上清の3つのアリコットを、3つの異なる緩衝液に対して16時間透析した。
1. 25mM酢酸ナトリウム、pH4.0
2. 25mM酢酸ナトリウム、pH5.0
3. 25mMリン酸カリウム、pH6.0
透析後、各試料を遠心分離し、そして固体および上清を別々に収集した。透析溶液の伝導率は、2.5〜4mS/cmの範囲であった。
【0045】
還元SDS PAGEゲルで、未処理上清の試料に対して、各試料に関して固体および上清分画両方を泳動し、結果を図1に示す。
緩衝液の変化とともに、pHを低下させた影響の結果、除去される宿主細胞タンパク質量が増加し、一方で、固体(ペレット)分画中に存在するドメイン断片の量が無視しうる量であることによってわかるように、すべての条件で、ドメイン断片は溶液中に残った。宿主細胞不純物からの最高の精製の傾向は、pH4>pH5>pH6であった。
【0046】
25mM酢酸ナトリウム、pH5に透析し、次いで遠心分離して沈殿固体を取り除くことにより、この方式で処理した物質を、3つの異なる陽イオン交換媒体(Capto MMC、Capto SおよびSP XL Sepharose(すべてGE Healthcare))を用いて精製した。10cmベッド高のカラムを用い、そして同一プロトコルを用いて、ドメイン断片の精製を行った。およそ17gドメイン断片/媒体mlまで、各カラム上に物質を装填した。カラムを25mM酢酸ナトリウム、pH5.0で平衡化し、そして25mM酢酸ナトリウム、1M NaCl、pH5.0まで、15カラム体積に渡って、直線勾配で溶出させた。直線流速は120cm/時間であった。
【0047】
SDS PAGE分析によってわかるように、すべての泳動によって、非常に精製されたドメイン断片が生じ、この結果を図2に示す。
実施例2
組換え大腸菌株における周辺質発現によって、Fab(モノクローナル抗リゾチーム抗体D1.3由来)を産生した。総分子量47.4kDaのFab(2つの鎖を含む−一方の鎖は定常ドメインが付着した可変軽鎖ドメインで構成され、そして第二の鎖は定常ドメインが付着した可変重鎖ドメインで構成される)が細胞周辺質内に、そして続いて発酵増殖培地内に分泌された。発酵終了時には、発酵槽上清中に存在するD1.3のレベルはほぼ100mg/Lであった。
【0048】
Fab D1.3の最初の単離には、細胞物質を除去する遠心分離が伴い、0.45/0.2ミクロンフィルターを通じたろ過が続いた。生じた透明の溶液は、29.3mS/cmの伝導率および6.7のpHを有した。
【0049】
遠心分離しそしてろ過したこの上清の3つのアリコットを、3つの異なる緩衝液に対して16時間透析した。
1. 25mM酢酸ナトリウム、pH4.0
2. 25mM酢酸ナトリウム、pH5.0
3. 25mMリン酸カリウム、pH6.0
透析後、各試料を遠心分離し、そして固体および上清を別々に収集した。透析溶液の伝導率は、2.5〜4mS/cmの範囲であった。
【0050】
還元SDS PAGEゲルで、未処理上清の試料に対して、各試料に関して固体および上清分画両方を泳動し、結果を図3に示す。
緩衝液の変化とともに、pHを低下させた影響の結果、除去される宿主細胞タンパク質量が増加し、一方で、固体(ペレット)分画中に存在するFab断片の量が無視しうる量であることによってわかるように、すべての条件で、ドメイン断片は溶液中に残った。宿主細胞不純物からの最高の精製の傾向は、pH4>pH5>pH6であった。
【0051】
25mM酢酸ナトリウム、pH6に透析し、次いで遠心分離して沈殿固体を取り除くことにより、この方式で処理した物質を、陽イオン交換媒体(SP Sepharose; GE Healthcare)を用いて精製した。2cmベッド高のカラムを用い、そしてFab断片の精製を行った。カラムを25mM酢酸ナトリウム、pH6.0で平衡化し、そして25mM酢酸ナトリウム、1M NaCl、pH6.0まで、10カラム体積に渡って、直線勾配で溶出させた。直線流速は120cm/時間であった。
【0052】
SDS PAGE分析によってわかるように、すべての泳動によって、非常に精製されたFab断片が生じ、この結果を図4に示す。
実施例3
組換え大腸菌株における周辺質発現によって、Vに基づくドメイン断片(抗ニワトリ卵白リゾチームドメインHEL4−Jespersら J Mol Biol(2004)337 893−903)を産生した。12.8kDaの分子量のドメインは、細胞周辺質内に分泌され、そして続いて発酵増殖培地内に分泌される。発酵終了時には、発酵槽上清中に存在するHEL4ドメインのレベルはほぼ1.5g/Lであった。
【0053】
HEL4の最初の単離には、細胞物質を除去する遠心分離が伴い、0.45/0.2ミクロンフィルターを通じたろ過が続いた。生じた透明の溶液は、およそ31mS/cmの伝導率および6.9のpHを有した。
【0054】
遠心分離しそしてろ過したこの上清の3つのアリコットを、異なる緩衝液マトリックスに対して16時間透析した。
【0055】
【表1】

【0056】
透析後、各試料を遠心分離し、そして固体および上清を別々に収集した。
還元SDS PAGEゲルで、未処理上清の試料に対して、各試料に関して上清分画を泳動し、結果を図5に示す。
【0057】
pHを低下させた影響の結果、研究範囲に渡る伝導率には主に独立に、宿主細胞タンパク質の減少が生じる。HEL4抗体断片を、宿主細胞タンパク質に対して抗体断片の精製を提供する、より低い溶液pHで溶液中に維持する。このデータによって、ある条件(pH5)の元では、HEL4抗体断片の多くは、溶液中に保持されず、そして宿主細胞タンパク質とともに沈殿することが示される。これは、タンパク質のpI(およそ4.8)によって生じる。より低いpHでは、抗体断片は溶液中に残る一方、宿主細胞タンパク質は沈殿する。
【0058】
実施例4
組換え大腸菌株における周辺質発現によって、タンデム抗体断片由来の多価抗体断片(4つのドメインを各々含有する2つの鎖で構成されるtandab(国際特許出願WO2007/088371の実施例15に記載されるような、形式(Vの2つのVおよび2つのVドメイン))を産生した。およそ100kDaの全体分子量のtantabは、細胞周辺質内に分泌され、そして続いて発酵増殖培地内に分泌される。発酵終了時には、発酵槽上清中に存在するtantabのレベルはおよそ100mg/Lと概算された。
【0059】
tantabの最初の単離には、細胞物質を除去する遠心分離が伴い、0.45/0.2ミクロンフィルターを通じたろ過が続いた。生じた透明の溶液は、およそ31mS/cmの伝導率および6.9のpHを有した。
【0060】
遠心分離しそしてろ過したこの上清の3つのアリコットを、異なる緩衝液マトリックスに対して16時間透析した。
【0061】
【表2】

【0062】
透析後、各試料を遠心分離し、そして固体および上清を別々に収集した。
還元SDS PAGEゲルで、未処理上清の試料に対して、各試料に関して上清分画を泳動し、結果を図6に示す。
【0063】
図6でわかるように、pHを低下させた影響の結果、研究範囲に渡る伝導率には主に独立に、宿主細胞タンパク質の減少が生じる。pH3での宿主細胞タンパク質に対して抗体断片の精製を提供するイオン強度範囲に渡って、ELISAによって、tantab抗体断片は、pH7およびpH3の両方で、溶液中、類似の濃度で検出された。
【0064】
実施例5
組換え大腸菌株における周辺質発現によって、fAb(モノクローナル抗リゾチーム抗体D1.3由来)を産生した。総分子量47.4kDaのfAb(2つの鎖−定常(contestant)ドメインが付着した可変軽鎖ドメインを含む重鎖、および定常(constant)ドメインが付着した可変軽鎖ドメインを含む重鎖)が細胞周辺質内に、そして続いて発酵増殖培地内に分泌された。発酵終了時には、発酵槽上清中に存在するD1.3のレベルはほぼ100mg/Lであった。
【0065】
fAbD1.3の最初の単離には、細胞物質を除去する遠心分離が伴い、0.45/0.2ミクロンフィルターを通じたろ過が続いた。生じた透明の溶液は、およそ29.3mS/cmの伝導率および6.7のpHを有した。
【0066】
遠心分離しそしてろ過したこの上清の3つのアリコットを、異なる緩衝液マトリックスに対して16時間透析した。
【0067】
【表3】

【0068】
透析後、各試料を遠心分離し、そして固体および上清を別々に収集した。
還元SDS PAGEゲルで、未処理上清の試料に対して、各試料に関して上清分画を泳動し、結果を図7に示す。
【0069】
pHを低下させた影響の結果、研究範囲に渡る伝導率には主に独立に、宿主細胞タンパク質の減少が生じる。宿主細胞タンパク質に対して抗体断片の精製を提供するpHおよびイオン強度範囲に渡って、プロテインG hplcによって測定した際、D1.3抗体断片は溶液中に維持された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの不純物もまた含む培地から断片抗体を精製するための方法であって、断片抗体が可溶性であるが、不純物の1以上が不溶性であるpHまで、培地のpHを減少させた後に、精製を行う、前記方法。
【請求項2】
断片抗体を調製するための方法であって:
a)断片抗体および少なくとも1つの不純物を含む培地を調製し;
b)培地から断片抗体を精製する、ここで、断片抗体が可溶性であるが、不純物の1以上が不溶性であるpHまで、培地のpHを減少させた後に、精製を行う
工程を含む、前記方法。
【請求項3】
断片抗体および少なくとも1つの不純物を含む培地から不純物を分離するための方法であって、断片抗体が可溶性であるが、不純物の1以上が不溶性であるpHまで、培地のpHを減少させ、そして培地から不溶性不純物を分離する工程を含む、前記方法。
【請求項4】
培地pHが6〜8である、先行する請求項いずれか記載の方法。
【請求項5】
培地pHが6.7〜7.5である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
培地pHを6.0未満のpHに減少させる、先行する請求項いずれか記載の方法。
【請求項7】
培地pHを3〜5の範囲のpHに減少させる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
pHの減少に、培地のイオン強度の減少が付随する、先行する請求項いずれか記載の方法。
【請求項9】
イオン強度を5mScm−1以下の伝導率に減少させる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、疎水性電荷誘導クロマトグラフィー、混合様式クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィーおよびゲルろ過またはアフィニティ・クロマトグラフィーを含む精製方法によって、断片抗体を精製する、先行する請求項いずれか記載の方法。
【請求項11】
精製方法が陽イオン交換クロマトグラフィーを含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
断片抗体が、Fab断片;ScFv断片または単一ドメイン抗体、あるいはその断片である、先行する請求項いずれか記載の方法。
【請求項13】
断片抗体をコードする組換え宿主細胞の発現によって培地を得る、先行する請求項いずれか記載の方法。
【請求項14】
宿主細胞が大腸菌(E coli)である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
大腸菌がそのBまたはK12株である、請求項14記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−504586(P2012−504586A)
【公表日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529619(P2011−529619)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【国際出願番号】PCT/GB2009/002363
【国際公開番号】WO2010/040988
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(508236033)フジフィルム・ダイオシンス・バイオテクノロジーズ ・ユーケイ・リミテッド (8)
【Fターム(参考)】