説明

新ポリマーと応用

本発明が提供するのは、生体活性剤、例えば、薬剤の放出を高い精度で制御できる方法で組みこむ、粒子(ミセル)、小胞、表面、膜、その他の組織を形成することができ、もしくは形成されたポリマーの表面を使い生体材の血液適合性を高めることができる、生分解性、生体適合性ポリマーを生成する方法である。本発明が提供するのは、リン酸脂質の親水性部分に基づく末端官能基を持つ生分解ポリマーを少なくとも一個を含むポリマー化合物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新しい種類のポリマー群、該ポリマーによって形成された巨大集合と、生体材の血液適合性を向上させる臨時皮膜を作る薬剤の放出制御のために該ポリマーと巨大集合を使用する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマーは、多用性が高い素材群で、他の素材と比べて数多い利点がある。ポリマー構造体はまた、様々な医用上の問題の解決を容易にするために使われてきた。ポリマーには生体適合性と(もしくは)生分解性などの注目すべき特性があるため、ポリマーが例えば、縫合と生体活性膜に使用されてきた。今後有望な応用分野として挙げられるのは、組織再生の足場(プラットフォーム)、ステント皮膜、接眼レンズ用の代替材および様々な美容外科目的などである。
【0003】
もうひとつの応用分野は、能動的薬剤送達用の新しく、精巧で高性能(スマート)素材の需要が増大していることだ。薬剤送達制御技術は、ポリマー研究で最も困難な分野であり、新しい薬剤放出システムの必要性が高い。このような薬剤送達システムは、通常の錠剤と比べて多くの利点があり、例えば薬効改善、毒性低減、患者コンプライアンスと便宜の向上などを挙げられる。このようなシステムにはしばしば合成ポリマーが薬剤キャリア(担体)として使用される。最初の臨床用薬剤放出制御システムが使用されてから25年は経ってはいないが、さらに進歩した薬剤放出システムの1997年度の米国での売り上げは、およそ140億ドルに上った。
【0004】
制御放出の方法は一般的に、時間制御と(薬剤)分布制御の2つに分類される。時間制御では、薬剤放出システムは薬剤をある一定の延長された時間帯にもしくは特定の時間に薬剤を送達することを目的としている。分布制御では、薬剤送達システムは生体内の薬効を発揮すべき正確な部位に薬剤を放出すること目的とする。2つの方法には顕著な相違があり、各状況においては薬剤送達システムの選択によって満たすことのできる一定の必要性がある。
【0005】
時間制御もしくは分布制御送達システムに適した作業足場を確立する目的にポリマーが広く使用されてきた。多くの種類のポリマーが使用されているが、その中に含まれるのはポリエステル、ポリオルトエステル、ポリアンヒドリド(ポリ酸無水物)、リン含有ポリマー、ポリアミドである。更に、界面活性特性のある疎水性および親水性のブロック共重合体の無数の事例が作られた。1つの事例としてポリ乳酸(PLA)ポリエチレングリコール(PEG)共重合体システムがあり、PLA鎖が疎水性であるが、PEG鎖が親水性の特性を付け加え、構造全体が生分解する。リンエステルと脂肪族ポリエステルを混合したもの、例えばUS−6, 166, 173を使いポリマーの分解を標的にした試みがなされた。 更に小胞を使用して代替放出方法ができ、このようなシステムの安定性が高まった、例えばWO99/65 466がある。
【0006】
放出制御薬剤においてしばしば観察された現象は「バースト・エフェクト」(噴出効果)、すなわちかなり大量な活性薬剤の放出である。ある場合にはこの効果は望ましいものかもしれない。他方、その効果が危険なものである場合がある。これはホルモン治療に特に有害である場合で、非常に厄介なもしくは毒性のある副作用のある有効成分を高濃度で使用する。このような場合は有効成分を少量で一様に徐放出できることが肝要である
このような副作用を克服する試みがなされた(例えばUS‐6, 319, 512を参照)。本特許に記載の発明は、薬理学上活性物質を少なくとも1個の制御放出用のインプラントを可能にし、該インプラントに内蔵されるのは少なくとも1個の活性剤を収納するコアと該コアを覆うシースであり、該シースはコアの周りに塗布された少なくとも1枚のポリマー皮膜からなっている。本発明の優先的実施例によれば、シースは少なくとも2枚のポリマー皮膜からなっており、1枚はコアの1部を覆い、もう1枚は残りの部分を覆う。しかしながら、これはかなり複雑な構造で、かなり複雑な製造工程を要し、製造コストの面でも不利である。
【0007】
過去20‐30年において医用制御放出システムが開発され、数多くの特許請願がなされ、認められた。このようなシステムが基づいているのは、様々の構造、例えば、ミセル、小胞、界面結合剤等である。
【0008】
この開発と平行して高まったのが新しい医用機能を持つ素材の必要性であり、ポリマーの使用が導入された新規の分野は、例えば、骨インプラント置換剤、ステント技術、組織再生医工学用足場である。
【0009】
ナカバヤシとイシカラの研究グループは新しいタイプの共重合体を開発したが、それは疎水性のポリマーが親水性のフォスファチジルコリンと組み合わせて使用されているものである。そうすることによって生適合性のある両親媒体構造が作り出された。ナカバヤシらによって開発された共重合体システムの数例を挙げれば、ポリメタクリル酸、ポリスルフォン、ポリエチレン、ポリスチレンで、フォスファチジルコリンと組み合わせて使用されている。ホモポリマーと比べて最も重要な改善点として挙げられるものは血液適合性の向上と血漿タンパク吸着率の低下である。
【0010】
このような効果は膜、表面、粒子(ミセル)においても研究された。その研究結果により分かったことは、フォスファチジルコリンがリン脂質と相互作用し、安定した生体膜を作り出すだけでなく、両性イオン性ヘッドグループにも水を強く結合してポリマー蛋白相互作用を最小限に押さえる能力が生まれ、血液適合性向上にする。最初のデータが90年代初期に公表されてから、多くの他の研究グループが当該分野における更なる研究に貢献した。
【0011】
すでに示されたように、過去10年間のポリマー研究は複数の特性を持つ素材の設計を目指したものであった。その事実に関して着目されるべき点は2点あり、1つは新しいポリマー化技術で、もう1つは他の高度に規則的で、制御された構造体と組み合わせてポリマーを使用することである。開環置換(ROMP), アトムトランスファー型ラジカル(ATRP)、開環(ROP)重合技術の発展と平行した樹枝状、ハイパーブランチ、星形構造の開発により、分子量が予測可能で狭域多分散性を持ち、機能性のある高密度重合素材の調整が可能になった。この開発によりさまざまに異なった材料を用いた新しい建築様式が可能となった。
【0012】
これらの多くは成功したが、薬剤放出や血液適合性向上に適し、生体擬態と非血栓形成特性を持つ生分解システムはまだ開発されていない。そのような開発が成功すれば、薬剤放出能力を持つ、自己再生、付着止め界面により開発が可能になろう。更に、各種荷電のイオン群を持ち、「リン脂質のような」類似体を導入すると、非特定相互作用を防ぐ生体模擬特性ポリマーと荷電「リン脂質のような」ポリマーとの特定相互作用の結合が促進される。それらを組み合わせると、疎水性の非水溶性化合物の合体だけでなく、荷電親水性化合物の結合を促進するはずだ。更に、この状況は、例えば細胞膜結合フォスファチジルセリンが陰荷電を持つ生物環境に類似している。その上、このような分子の担体粒子から送達される薬剤が標的細胞に到達する可能性が増大し、より正確な制御送達と薬剤放出を促進する。その結果、不要な副作用と放出効果が削減されるはずである。更に、生分解により薬剤が人体で難なく新陳代謝される。このようなリン脂質の類似物により、薬剤送達に使用されるもしくは自然に発生するリン脂質と組み合わせて使用されて生体膜を作るリポソームの安定性を高めるだろう。応用範囲に入るのはまた、美容外科目的の製剤である。
【発明の開示】
【0013】
生分解され、生体適合する特性のある薬剤などの制御放出に適した新しい素材の必要があることに鑑みて、本発明の目的は、血液適合性が向上し、粒子(ミセル)、小胞、表面、膜、その他の組織を形成できる生分解性、生体適合性のあるポリマーを提供することにある。そのような組織の中に生体的活性物質、例えば、薬剤放出が高い精度で制御されるように薬剤が組み込むことができる。
【0014】
この目的は、請求項1に記載の新ポリマーによって本発明の最初の段階において達成されている。
【0015】
次の段階において、自己集合したミセル、デンドリマーもしくは請求項1に記載のポリマーに基づく膜構造の形で高分子が生成されている。
【0016】
この高分子は請求項2と3において記載されている。
【0017】
本発明の3番目の段階においては生成されているのが生体的活性物質、例えば薬剤の制御放出の担体が用意され、該担体は請求項13に記載されている。
【0018】
ミセル、小胞、膜、表面の形で該担体の優先形体は請求項13に基づく各請求項に記載されている。
【0019】
最後に提供されるのは、ポリマーとポリマー集合体を作る方法で、該方法は請求項18‐28に記載されている。この方法で、陰イオン、陽イオン、もしくは両性イオン、あるいは中性のポリマーあるいはその結合体を製造することができる。
【0020】
本発明ポリマーは、制御薬剤放出用もしくは表面に向上した血液適合性を付与するシステムに使用する上でいくつかの利点がある。1つの利点は、本発明においてポリマーに血液適合性があり、この特性は、生体模倣機能のあるフォスファチジルコリン(PC)によって分与される。該ポリマーはまた、生分解性である。更に、同素材の親水性と疎水性部分が結合し、本発明ポリマーに粒子や膜を形成するのに必要となる適当な物理的特性を付与する。更に、高度の合成制御性により機能性が制御でき、この新ポリマーの柔軟性を高める、すなわち、この素材により様々な薬剤を組み込むことが可能になる。本発明とそれに伴う環状エステルの開環ポリマー化技術により、応用次第でポリマーの長さや後の段階では粒子の大きさを調節することが可能である。粒子や膜の形成は、リニアポリマーの自己集合あるいは樹枝状手法により達成でき、「1分子‐1粒子」タイプのシステムを形成する。
【0021】
本発明のさらに続く応用範囲は下記の詳細説明により明らかになる。しかしながら、了解されるべきことは次の点である。詳細説明と具体的事例が本発明の望ましい実施例を示すものの、イラストでのみ与えられており、その理由は本発明の精神と範囲内の様々な変更や修正がこの詳細説明から分かるのはこの技術に熟練した者たちだからである。
【0022】
本発明は、下記の詳細説明とイラストのみで与えられ、本発明に限定されない添付図からより十分に理解される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
手法は、生分解ポリエステルと結合してリン脂質部分を使用し、完全に生体適合性があり生分解するポリマーシステムを生成することである。主要目的は、応用目的に応じてある特定の種類の構造を形成する高分子を設計することであった。2つの事例とは、膜とミセルである。
【0024】
本発明が提供するのは、リン脂質中の親水性部分に基づく末端官能基を持つ生分解ポリエステルを含有するポリマー化合物である。
【0025】
本発明によるポリマー化合物は集合可能で、ミセル、小胞、膜の形をする。ポリマー化合物は、デンドリマーを形成するよう中核から放射するよう設計できる。デンドリマー型のポリマー化合物は本質的に球形粒子を形成し、該官能基は同球形粒子の表層を形成するかもしくは表面に集中し、小胞の表面を模倣している。
【0026】
本発明によるポリマー化合物によって形成されたミセルもしくは球形粒子の溶液は調剤液として使用でき、その中でミセルもしくは粒子が薬剤を内包する。
【0027】
本発明によるポリマー化合物はさらに対象、例えば担体を被覆するのに使用でき、そのようにしてできた皮膜に(生体的)活性剤、例えば、薬剤を添加できる。皮膜は厚さ0.1‐100μmの層を構成し、該官能基は同皮膜の外層を形成する。
【0028】
被膜した対象は、生体もしくは医薬応用物に使用でき、それらに含まれるのは医用装置、埋め込み用医用装置、ステント、整形手術用人工用具、脊髄インプラント、関節インプラント、結合具、骨くぎ、骨ねじ、もしくは骨補強板などである。
【0029】
本発明によるポリマー化合物に使用される生分解ポリエステルは、ε‐カプロラクトーン、ラクチド、グリコリド、β‐ブチロラクトーン,プロピオンラクトーン、 トリメチレンカルボネートとその結合体を含む環状エステルとカルボネートのグループから選択された環状モノマーよりポリマー化される。
【0030】
本発明によるポリマー化合物の末端官能基は陽もしく陰イオン荷電し、もしくは両性イオン荷電し、もしくは電気的に中性である。
【0031】
末端官能基を選ぶ対象は次のものであるが、それらに限定されるものではない:フォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルセリン、アンモニウム塩、カルボン酸もしくはカルボキシレート、リン酸、リン酸エステル、リン酸塩、スルホン酸エステル、スルホン酸、ペプチド、ヌクレオチド、カルボハイドレート。
【0032】
本発明によるポリマー化合物の分子量は、1000‐200 000g/molの範囲でありえるが, 望ましくは20 000g/molである。本発明がまた提供するのは、リン脂質に基づく末端官能基を持つ生体分解, 生体適合ポリエステルを製造する方法であり、次の手順が含まれる。触媒/イニシェータを加えて環状エステルモノマーとアルコールを反応させ、−OH末端を持つ開環ポリマーを生成;同生成されたポリマーの−OH末端をリン含有化合物と反応させ、リン酸エステル分岐ポリマーを持つポリマーを生成;該ポリマーの該リン酸エステル分岐末端を反応させ、官能化末端を持つポリマーを得る。
【0033】
該方法のリン含有化合物は、エチレンクロロリン酸エステルからなるグループから選ぶのが望ましい。該方法において官能ポリマーを生成する手順に含まれるのは、分岐末端をトリメチルアミンと反応させることである。生じるポリマーは望ましいことにε‐カプロラクトーンーフォスファチジルコリンである。
【0034】
本発明によりさらに提供されるのは、荷電分岐官能基を持つ生分解、生体適合ポリエステル両親媒性体をフォスファチジルコリンと結合して生成する方法である。その方法には次の手順が含まれる:触媒/イニシエータを加えて環状エステルモノマーとアルコールを反応させ、−OH末端を持つ開環ポリマーを生成;該得られたポリマーの−OH分岐末端をω‐halo酸ハロゲン化物と反応させ、ハロゲン化アルキルを生成;該ポリマー/ポリマーの複数を反応させ、末端官能を持つポリマーを生成。
【0035】
該方法において機能化したポリマーを生成する手順には、分岐末端をトリメチルアミンと反応させることが含まれる。好ましいことに生じるポリエステルはポリε‐カプロラクトーンーアンモニア塩である。
【0036】
本発明によりさらに提供されるのは、荷電分岐官能末端を持つ生分解、生体適合ポリエステル両親媒性体をフォスファチジルコリンと結合して生成する方法である。その方法には次の手順が含まれる:触媒/イニシェータを加えて環状エステルモノマーとアルコールを反応させ、−OH分岐末端を持つポリマーを生成;同生成された開環ポリマーの−OH分岐末端をコハク酸無水物と反応させ、官能カルボキシル酸かカルボキシレート分岐ポリマーを生成。
【0037】
該方法において官能ポリマーの生成する手順に含まれるのは、分岐末端をカルボン酸誘導体もしくはその無水物と反応させることである。生じるポリエステルは望ましいことにポリε‐カプロラクトーンーカルボン酸もしくはε‐カプロラクトーンーカルボキシレートである。
【0038】
これから説明するのは一般的実験方法である。
【0039】
錫(II)トリフルオロメタンスルホン酸エステル(Sn(OTf)2)はアルドリッヒ社から購入され、使用に先立ってトルエンと共沸蒸留された。ε‐カプロラクトーン(ε‐CL)とトリエチルアミンはアルドリッヒ社から購入され、使用に先立って水素化カルシウムを用いて蒸留された。クロロフォルムとジクロメタン(VWR)は、塩基性の酸化アルミニウム(Al23)管で洗浄され、使用に先立って水素化カルシムを用いて蒸留された。コハク酸無水物(アルドリッヒ社)はドライクロロフォルムから再結晶化され、使用に先立ってグラブボックスの中に保管された。塩化4‐クロロブチリル(アルドリッヒ社)は受領された通りに使用された。アセトニトリルはランカスター社から購入され、使用に先立って硫酸マグネシウムから蒸留された。
【0040】
エチレンクロロリン酸エステルはンカスター社から購入され、蒸留され、使用に先立ってフリーザに保管された。ベンジルアルコールはアルドリッヒ社から購入され、使用に先立って水素化カルシウムを用いて蒸留された。1H‐NMRと31P‐NMRはJEOL400MHzで実施された。SECはウオターズ社製機器で実施された。
【0041】
下記は図1に基づくもので、図1は分岐ポリε‐カプロラクトーン‐フォスファチジルコリンの合成経路を図解する。
【0042】
ポリε‐カプロラクトーン、PCL(図1の手順1)の合成
50mlツーネックフラスコ1個に攪拌棒を付け加え、フラスコを隔壁でシールした。そのように備えられたフラスコを注意深く真空で火炎乾燥し、窒素で清浄した。ポリマー化のためにε‐カプロラクトーンモノマー(10.0g, 87.6mmol)とSn(OTf)2触媒 (0.063g, 0.11mmol)が、5molパーセントをイニシェータに使い、グラブボックスに添加された。フラスコを取り除いた後イニシェータベンジルアルコール(0.23g, 2.2mmolのポリマー化度40)が防護ガスを使い、フラスコに注入された。混合物は強く攪拌され、110度まで早く熱せられた。反応(T=60分)終了後ポリカプロラクトーン(PCL)混合物はTHFに溶かされ、コールドメタノール500mlの中に凝結された。
【0043】
凝結物は濾過され、メタノールで繰り返し洗浄され、一定重量に達するまで真空において40度で乾燥された。
【0044】
エチレンクロロリン酸エステルと結合したポリカプロラクトーン(PCL)の合成(図1の手順II)
リン酸化のためにポリマー40度(DP)のPCLの4.0g(0.86mmol)は予備乾燥した窒素フラスコの中で秤量され、ドライジクロロメタン(CH2Cl2)20mlに溶解された。その後ドライピリジン(0.11ml, 1.29mmol)の1.5倍相当量の窒素を使用して添加した。フラスコを予備乾燥済み滴下漏斗と窒素注入口に接続し、その後マイナス5℃に冷却した。5mlのドライジクロロメタン(CH2Cl2)とエチレンクロロリン酸エステル(0.14g, 1.028mmol)の2倍相当量が滴下漏斗に添加された。溶液はゆっくりと滴状添加され, およそ2時間攪拌され、その後ゆっくりと冷まされ周囲温度に達し、その後さらに4時間攪拌された。反応完了後溶液に50mlのドライジクロロメタン(CH2Cl2)が新たに添加され、蒸留水(50ml)で2度、1M NaHCO (50ml)溶液で2度抽出され、反応液からピリジニウム塩と過剰エチレンクロロリン酸エステル試薬が除去された。その後有機位相が、硫化ソーダを使い30分攪拌して水から分離、乾燥された。50mlのトルエンが添加され、有機位相と極微量のピリジンが、周囲気温で回転蒸発により除去された。
【0045】
フォスファチジルコリン分岐ポリカプロラクトーン(PCL)を生成するためにエチレンリン酸エステルを開環する合成(図1の手順III)
フォスファチジルコリン(PC)分岐ポリカプロラクトーン(PCL)を生成するために1.0g(0.21mmol)の2が50mlの予備乾燥済み丸底フラスコで秤量され、10mlのドライアセトニトリルの中に溶解された。溶液は、窒素で清浄され、密封された2個の止め栓のある圧力チューブに移され、その後マイナス10℃まで冷却された。PCLポリマーに対してトリメチルアミン(g)2相当量分(0.42mmol, 39μl)が注意深く圧力チューブの中に凝結され、その後徐々に60度まで加熱された。圧力チューブは攪拌した状態で45時間置かれ、さらに放置され周囲気温まで下げられ、反応生成物はコールドメタノールの中で沈降した。沈降物は収集され、一定重量に達するまで乾燥された。
【0046】
コハク酸無水物と結合したポリカプロラクトーン(PCL)の合成
合成のため2.0g(0.44mmol)の1と88mg (0.88mmol)のコハク酸無水物は、攪拌棒を備え窒素で清浄され、50ml事前乾燥済みツーネック丸底フラスコに添加された。化合物は15mlのドライクロロフォルムで溶解され、滴下漏斗が接続され、溶液は0℃まで冷却された。86mg(0.88mmol)のトリエチルアミンが5mlのドライクロロフォルムに添加され、漏斗の中で荷電され、冷却済み溶液に30分で徐々に滴状に添加された。
【0047】
溶剤は、周囲気温まで下がるまで放置され、さらに3時間攪拌された。転換が終了後ポリマーはコールドメタノールの中で沈殿され、濾過され、一定重量に達するまで乾燥された。
【0048】
末端4級アンモニウムを持つポリカプロラクトーン(PCL)の合成
2.0g(0.44mmol) の1と87mg (1.10mmol)のピリジンが攪拌棒を備え窒素で清浄され、50ml事前乾燥済みツーネック丸底フラスコに添加された。化合物は15mlのドライクロロフォルムで溶解され、滴下漏斗が接続され、溶液はマイナス10℃まで冷却された。116mg(1.10mmol)の塩化4−クロロブチリルが5mlのドライクロロフォルムに添加され、漏斗の中で荷電され、冷却済み溶液に30分で徐々に滴状に添加された。溶剤は、周囲気温まで下がるまで放置され、さらに3時間攪拌された。転換が終了後ポリマーはコールドメタノールの中で沈殿され、濾過され、一定重量に達するまで乾燥された。
【0049】
沈殿物は10mlのドライアセトニトリルの中に溶解された。溶液は、窒素で清浄され、密封された2個の止め栓のある圧力チューブに移され、マイナス10℃まで冷却された。ポリカプロラクトーン(PCL)ポリマーに対してトリメチルアミンの二相当量(0.42mmol, 39μl)が注意深く圧力チューブの中に凝結され、その後徐々に60℃まで加熱された。圧力チューブは攪拌した状態で45時間置かれ、さらに周囲気温まで下がるまで放置され、反応生成物はコールドメタノールの中で沈降した。沈降物は収集され、一定重量に達するまで乾燥された。
【0050】
結果
重要な点は、制御薬剤放出の将来の担体として、もしくは血液適合性向上あるいは他の医用目的のための一時的な皮膜として、フォスファチジルコリンと結合させて完全に生分解可能ポリマーを合成することにあった。強い希望を含んだ目的としては、この分野ですでに達成済みの成果を念頭においてポリマー研究の新規分野にリン脂質の使用を導入することであった。生分解ポリエステルの合成のポリマー化技術の発展によりこれが今日になって初めて可能になった。
【0051】
例えばラクチドとε‐カプロラクトーン(ε‐CL)の制御開環ポリマー化により制御された分子量と狭域多分散性を持つポリエステルを設計することが今や可能である。指摘すべきことは、食品薬品局(FDA)の承認によりポリカプロラクトーン(PCL)とポリ乳酸(PLA)の両方とも生体適合ポリマーとして分類され、人体の新陳代謝で受け入れ可能な分子に分解される。
【0052】
合成
我々の最初の結果では各種分子量のある一連の各種リニアポリカプロラクトーン(PCL)が作られたが、その主たる目的はこの合成方法での制御がどれだけ高水準に達しているかを示し、様々な特性を生む粒子や膜を持つ最初の両親媒性物を創生することにあった。下記の表に再現されているのは最初のデータの一部である。


【0053】

表1から分かるように、ポリカプロラクトーン(PCL)の分子量が上記で説明した通り、イニシェータ対モノマーの比率で制御できる。H‐NMR解析を使用してPCLの特色は完全に明らかにされており、αとω-ENDグループの双方とも同定された。
【0054】
次の化学シフトがベンジルアルコールから誘導されたポリカプロラクトーン(PCL)分子において観察された: H‐NMR(CDCl) δ = 1.35 (m, 2H,−CH−, ポリ), 1.65(m, 2H,−CH−, ポリ), 1.65 (m, 2H,−CH−, ポリ), 2.30(t, 2H,−CH−, ポリ), 3.63 (q, 2H,−CH−, ω‐末端基),4.04 (t, 2H,−CH−,ポリ ), 5.10 (s, 2H, −CH−, α-末端基), 7.34 (m, 5H, −ArH, α‐末端基)
H‐NMR解析を使用してモニターできるのは、ハイドロキシルがエチレンリン酸エステルへの転換である。その転換が起きるのは、3.62ppmでのハイドロキシルグループに隣接したプロトングループが、縮小する一方リン酸エステルのエチレンプロトンからの共鳴の増大が4.32ppmであると認知される際である。さらに31P‐NMR解析により可能になったのは、エチレンリン酸エステル分岐PCLの生成を追跡する2次分光分析であった。その生成が起きるのは、開始物質の31P‐NMRシグナルがエチレンリン酸エステルの場合、23.1ppmから18.0ppmに変わる時である。
【0055】
H‐NMR(CDCl) δ = 1.35 (m, 2H,−CH−, ポリ), 1.63(m, 2H,−CH−, ポリ), 1.63 (m, 2H, −CH−, ポリ), 2.30(t、 2H, −CH−, ポリ), 4.04 (t, 2H, −CH−, ポリ), 4.32−4.48 (m,4H,−CH−CH,ω‐末端基),5.10(s,2H,−CH,α‐末端基),7.34(m, 5H,−ArH, α‐末端基)
最後開環手順において最終ポリカプロラクトーンフォスファチジルコリンの分子量はまたH‐NMRで特性分析された。3.42ppm時においてもコリン単位のメチレン信号から明確な単一線を確認することができた。フォスファチジル単位のエチレンプロトンは3.75ppmと 4.20ppmで分離された。31P−NMR解析により、18.0ppm中間リン信号に比較してPCグループからマイナス1.1ppmというリン信号が現れた。H−と31P‐NMRの解析結果から明らかなように、合成方法が機能していることが分かる。重要なのは、各手順間で完全な転換が行われ、高産出率、典型的にはポリカプロラクトーンーフォスファチジルコリン(PCL‐PC)の90パーセント前後で合成が実行できることである。 「リン脂質のような」ポリカプロラクトーン‐フォスファチジルコリン(PCL‐PC)ポリマーの合成方法が確立され、合成の範囲が広がり、純粋な陰イオンもしくは陽イオン荷電を持つ荷電「リン脂質のような」ポリマーを含むようになった。純粋な陰イオン荷電を持つリン脂質類似体を生成するには、末端ハイドロキシル基を持つPCLを、トリエチルアミンを用いてコハク酸無水物と反応させ、指定の末端コハク酸を生成する。 モノエステル:H‐NMR解析を用いて、転換とコハク酸プロトンの増大を観察した。すなわち、2個の3重項が2.65ppmで形成される一方、ハイドロ末端キシル基の周辺でエチレンプロトンが 4.12ppmに転換した。 H‐NMR(CDCl) δ = 1.35 (m, 2H,−CH−, ポリ), 1.65(m, 2H,−CH−, ポリ), 1.65 (m, 2H,−CH−, ポリ), 2.30(t、 2H,−CH−, ポリ),2.62 (t, 2H,−CH−, ω‐末端基,)2,62(t,2H,−CH−,ω‐末端基),4.04(t,2H,−CH,ポリ),5.10(s,2H,−CH, α‐末端基),7.34(m, 5H,−ArH, α‐末端基)
陽イオン荷電リン脂質類似体を生成する合成方法は多少より複雑であり、2つの別々の手順からなる。最初の手順では塩化4‐クロロブチリルをポリマーの末端ハイドロキシル基と反応させた。清浄後中間体がアセトニトリルの中に再溶解され、60度でMeNと反応させ、塩化イオンを対イオンとして持つ4級アンモニウム塩を生成した。H‐NMR解析を使用して得られた生成物の特性を調べたところ、4級アンモニウム塩のメチル共鳴が3.43ppmで観察された。更に4級アンモニウム塩の周辺でプロトングループが3.72ppmで観察された。
【0056】
H‐NMR(CDCl) δ = 1.35 (m, 2H,−CH−, ポリ), 1.65(m, 2H,−CH−, ポリ), 1.65 (m, 2H,−CH−, ポリ), 2.10(m, 2H,−CH−,ω‐末端基), 2.30 (t, 2H,−CH−, ポリ),2.50 (t, 2H,−CH−,ω‐末端基), 3.43 (s, 9H,−CH−,ω‐末端基), 3.72 (t, 2H, −CH−,ω‐末端基),4.04(t,2H,−CH−,ポリ),5.10(s,2H,−CH−,α‐末端基),7.34(m,5H,−ArH, α‐末端基)
粒子形成:合成後2つの粒子形成実験が実施され、主たる目的はそれらの構造体がどのように行動するのかを調べることであった。2つの方法を使う粒子形成が実施された。
【0057】
最初の方法を使い、フォスファチジルコリン分岐ポリカプロラクトーン(PCL)(DP=16)をクロロフォルム(CHCl)に溶解した。その後溶解された化合物を滴状に水に添加した。溶液の成分が明確化された(2段階システム)。添加後攪拌棒を加えおよそ30分攪拌したところ、細かく分散した粒子液が生成された。初期の段階で、攪拌を停止した後、フロキュレーション(綿状沈殿)が観察された。しかしながら、30分間の攪拌後は安定した粒子だけが残った。「安定」とは目視できるフロキュレーションが一切起きず、安定した粒子だけを示したことを意味する。環境走査型電子顕微鏡解析(E−SEM)は直径1‐10μmの粒子を示した。
【0058】
クロロフォルムの蒸発により粒子が固形化した。
【0059】
第2の方法を使い、ポリカプロラクトーン(PCL)‐フォスファチジルコリンが1つの溶媒には完全に溶解できる溶媒組み合わせの1相だけを許す1つの溶媒混合体を選んだ。アセトン‐水混合体(5ml/95ml)と少量(10mg)のポリカプロラクトーン(PCL)(DP=16)フォスファチジルコリンを選らんだ。最初、化合物をアセトンに溶解し、その後滴状にて水に添加した。
【0060】
添加後溶液は完全に透明になり、粒子がナノメートルのサイズであることが示唆された。
【0061】
2つの実験から判明したことは、粒子形成が可能であり、システムが界面活性化していることである。所期の結果は図2に示し、示されているのは両親媒性分子のミセル形成である。
【0062】
図2において環は親水性フォスファチジルコリンを表し、ジグザグ線が表すのは疎水性ポリカプロラクトーン(PCL)鎖である。図は概略的に水性媒体においてそれらの分子の自己集積を示す(環がフォスファチジルコリン(PC)ではなく、すなわちフォスファチジルコリンと組み合わさって陰イオンもしくは陽イオンである末端基であることを観察してほしい)。
【0063】
薄膜特性:非分解性フォスファチジルコリン機能ポリマーへの低蛋白吸着と細胞接着を説明するメカニズムに関係しているのは、フォスファチジルコリン単位の表面濃縮とリン脂質がその表面に引き付けられ生体膜状の構造を形成する特性である。したがって考えられることは、生分解性両親媒性ポリカプロラクトーンーフォスファチジルコリン(PCL−PC)が、生分解性である上に同じように機能することである。
【0064】
上記ポリカプロラクトーンーフォスファチジルコリン(PCL‐PC)オリゴマーの薄膜は水中では安定しなかった。PCL(M〜80000g/mol)がPCL‐PCと混合したものは良い薄膜を形成し、均質膜が生成できる。PCL/PCL‐PC(DP=45)の生成薄膜(キャストフィルム)の表面構造は、リンや窒素の形跡の一切ない73/27というC/O比を持つXPSにより示される純粋PCと酷似していた。PCL/PC生成(キャスト)薄膜の接触角度は65度で、純粋PCLで測定した69度より少々低いだけである。
【0065】
この事実はフォスファチジルコリンの末端基の低含有度とポリカプロラクトーン(PCL)の疎水性を考えてみれば、驚くことではない。システムが自己の界面エネルギーを最小限に抑えようとするので、フォスファチジルコリン鎖末端は純粋PCLをポリマー/空気界面に曝すバルクに埋没してしまう。
【0066】
しかしながら、水中では、親水性フォスファチジルコリンがポリマー/空気界面で濃縮されると界面自由エネルギーが最小限に抑えられる。それゆえ、ポリカプロラクトーン(PCL)/ ポリカプロラクトーン(PCL)‐フォスファチジルコリン(PC)混合薄膜は90度(PCLの溶解温度を超える)で熱水に速く浸漬し、分子に移動性が生まれた。フィルムははじめ、結晶化したPCLの溶解により透明になった。
【0067】
冷却の前に薄膜は90度のバルクの中のフォスファチジルコリンのミセル領域による水の取り込みにより不透明になった。冷却中、ポリマーが再結晶化する時に新たな不透明化が発生した。
【0068】
PCL−PC‐オリゴマーの表面への移動は接触角度測定により確認された。接触角度(進入)は40度に低下したが、それは表面の極性基が水に向かって濃縮されたことを示す。
【0069】
図5に示されたエスカ(ESCA)スペクトルが明らかにしていることは、極性、表面指向性のあるフォスファチジルコリンから窒素、N1 2.4パーセントとリン、P2 1.5パーセントが現れたことである。純粋ポリカプロラクトーン‐フォスファチジルコリン(PCL‐PC)(DP=45)の理論上の濃度は0.3パーセントにすぎない。
【0070】
試料をエスカと接触角度測定の前に乾燥するとある表面再配列が、無定形最上層でまだ起きることはありえる。
【0071】
それゆえ表面力学特性は、動的接触角度を使い更に調べる必要がある。全般的メカニズムは図5に要約され、同図ではポリカプロラクトーン(PCL)が空気界面に指向しており、フォスファチジルコリン(PC)がキャストフィルムのバルクの中でミセル領域を形成している、
しかしながら、水中で加熱すると、表面は再配列しフォスファチジルコリン(PC)をポリマー/空気界面へと押しやる。
【0072】
全血測定:生体材の運命は、凝固システムのような血漿カスケードシステムの活性化に左右されるので、トロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT)の形成がスライドチャンバーモデルで研究された。スライドチャンバー方法では、全血と接触した状態で生体材の生体外分析が容易になる。ポリマー化45度のポリカプロラクトーンーフォスファチジルコリン(PCL‐PC)とポリカプロラクトーンとポリ塩化ビニール(PVC)からなる二つの参考表面が使用された。TATの形成を示す図形が図6に示される。その結果が示すように、PCL−PCシステムは非トロンビン特性を持ち、トロンビン・アンチトロンビン複合体の形成は、よく知られた生体材であるPCLとPVCに比べてかなり縮小されている。この効果を説明できるのは、極性表面にPC基の濃縮である。極性表面は蛋白の付着を少なくする特性がある。その上、血小板の数が、PVC参考分子変異よりもPCL−PCと接触した全血の場合大きかった。この合成方法の使用を拡大して非リニアタイプの分子を含めることができる。完全に分岐したシステムでは、例えば、ポリオルまたはマクロイニシエータから誘導されたものでは、「1分子1粒子」システムを得ることができ、その中で多くの分子からの自己集積が、制御されたサイズの「1分子1粒子」形成システムに変ることができる。樹枝状構造体の合成は、例えば、ベンジリデンでプロテクトされたビス(ハイドロキシメチル)プロピオン酸(bis‐MPA)をベンジルでプロテクトされたbis‐MPAと選択的プロテクト解除して第1世代デンドリマーを得たものと結合させて可能になる。別の合成方法は、ベンジリデンでプロテクトされたグリセロールと2‐ブロモプロピオン酸を調整して樹枝状構造体を作ることである。開環ポリマー化と組み合わせて分岐点を加えると無制限の構造上の可能性が生まれ、共通項は、表面上の官能性はリニア構造体よりかなり高い点である。疎水性単位は依然として生分解ポリエステルであり、フォスファチジルコリン単位が親水性を分与する。生じる1つの変化は、分子の構造、すなわち、表面により高い官能性を持つ分子を生成する分岐点である。しかしながら、末端官能性は必ずしもフォスファチジルコリンである必要はない。他の官能性もしくは官能性の複合を選び、特定の相互作用や、例えば、受容体リガンドを加えることもできる。
【0073】
この合成方法で構造、大きさ、官能性を制御できる。
【0074】
このような構造の目視できる例として、図3に示されるように分岐多機能1粒子分子を挙げることができる(観察してほしいのは、環がフォスファチジルコリンではない末端基を意味することである)
上記に説明した合成方法に使用されたモノマーはすべての場合ε‐カプロラクトーン(ε‐CL)である。今日では、環状エステルの制御開環ポリマー化は研究され、今では他のエステルの分子量も目的に合わせて調整できるようになった。他の環状エステルとカルボネートは、上記合成において別々にあるいは組み合わせて使用できるが、その要約は図4に示す。すべての場合において、得られたポリエステルは生分解性である。
【0075】
本発明によって完全な生分解性ポリエステルフォスファチジルコリン化合物が高度に発達したポリマー化技術を使い合成された。この分子は、ポリカプロラクトーン(PCL)鎖からの疎水性の特性とフォスファチジルコリン単位の親水性の特性により両親媒性の行動をする。PCLは生分解ポリエステルの一例であるが、本発明によってラクチドのような他のモノマーも使用して同様な構造体を生成できる。本発明合成方法ではリニアタイプの分子だけが創生されたが、表面により高度な官能性を持つ分岐・樹枝状タイプの構造物を生成することが可能である。本発明によるポリマーは生分解性と医用目的、例えば、膜と薬剤送達ベクトルとして使用するのに適している。
【0076】
本発明が上記されたように、同じものが多種多様に変化することはありえる。このような変異を本発明の精神と範囲から逸脱しているとみなしてはならないし、そのような技術に熟達した者に分かるようなすべての修正変更も意図するのは、下記の請求項の範囲内に含めることである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明による末端ポリεカプロラクトーン‐フォスファチジルコリン(PCL‐PC)の合成経路を図解する。
【図2】本発明による両親媒性分子のミセル形成を図解する。
【図3】本発明による分岐した多機能性一粒子分子であるデンドリマーの事例を示す。
【図4】ε‐カプロトーンに加えて本発明によるポリマーを合成するのに使用できる他の環状エステルを図解する。
【図5】キャストフィルム(左)の形をした、また水中での熱処理後(右)の末端ポリεカプロラクトーン‐フォスファチジルコリン(PCL‐PC)混合液の中での可能な分子配置の概略図を示す。
【図6】全血と接触する状態で末端ポリεカプロラクトーン‐フォスファチジルコリン(PCL‐PC)剤を使う際タット・ トロンビン・アンチトロンビン複合体(TAT complex)の生成を説明する図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸脂質の親水性部分に基づく末端官能基を持つ生分解性ポリエステルを少なくとも1個を含むポリマー化合物。
【請求項2】
デンドリマーを生成するため中央核から誘導された複数の生分解ポリマーから構成され、請求項1に記載のポリマー化合物。
【請求項3】
ミセル、小胞、膜の形をし、請求項1に記載のポリマー集合体。
【請求項4】
該ポリエステルが環状モノマーからポリマー化され、請求項1−3のどれかに記載のポリマー化合物。
【請求項5】
該環状モノマーマが環状エステルとカルボネートのグループから選択され、請求項4に記載のポリマー化合物。
【請求項6】
該環状エステルとカルボネートがε‐カプロラクトーン、ラクチド、グリコリド、β‐ブチロラクトーン、プロピオラクトーン、トリメチレンカルボネート、その混合体からなるグループから選択され、請求項5に記載のポリマー化合物。
【請求項7】
末端官能基がフォスファチジルコリン、フォスファチジルエタノールアミン、フォスファチジルセリン、アンモニウム塩、カルボキシル酸もしくはカルボキシレート、リン酸、リン酸エステル、リン酸塩、スルホン酸エステル、スルホン酸、ペプチド、ヌクレオチド、カルボハイドレートで、該請求項のどれかに記載のポリマー化合物。
【請求項8】
末端官能基が陽性荷電し、請求項1‐7のどれかに記載のポリマー化合物。
【請求項9】
末端官能基が陰性荷電し、請求項1‐7のどれかに記載のポリマー化合物。
【請求項10】
末端官能基が両性イオンもしくは電気的に中性で、請求項1‐7のどれかに記載のポリマー化合物。
【請求項11】
分子量が1000‐200 000 g/mol の範囲で、好ましくは20 000 g/molで、請求項1‐10に記載のポリマー化合物。
【請求項12】
該官能基が本質的に球状の粒子の表層をなす該粒子を構成する、請求項2に記載のデンドリマータイプのポリマー化合物。
【請求項13】
請求項1に記載のポリマー化合物が厚さ0.1‐100μmの層を形成し、該官能基が、該ポリマー化合物からなる被覆の外層を形成し、該皮覆のある対象。
【請求項14】
該皮覆が(生体的)活性剤を添加され、請求項13に記載の対象。
【請求項15】
対象が生物学的、医学的目的で使用される対象で、請求項13もしくは14記載の対象。
【請求項16】
対象が医用用具、インプラント用医用用具、ステント、整形外科用人工用具、骨髄インプラント、関節インプラント、アタッチメントエレメント、骨クギ、骨補強板である、請求項15に記載の対象。
【請求項17】
請求項1に記載で、ミセルや粒子が薬剤を内包するポリマー化合物によって形成されるミセルもしくは球状粒子の溶液を含む製剤。
【請求項18】
触媒/イニシエータを用いて環状エステルモノマーとアルコールを反応させ、−OH分岐末端を持つ開環ポリマーを生成し;得られたポリマーの−OH分岐末端をリン含有化合物と反応させ、リン酸エステル分岐ポリマーを持つポリマーを生成し;該ポリマーの剤リン酸エステル分岐末端を反応させ、官能末端を持つポリマーを生成する手順を含む方法で、リン酸脂質に基づく末端官能基を持つ生分解性、生体適合性ポリエステルを生成する方法。
【請求項19】
該リン含有化合物がエチレンクロロリン酸エステルからなるグループから選ばれる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
官能ポリマーの生成する方法に含まれるのが分岐端末をMe3Nと反応させることで、請求項18もしくは19に記載の方法。
【請求項21】
結果生じるポリエステルがポリε‐カプロラクトーンーフォスファチジルコリンで、請求項18‐20のどれかに記載の方法。
【請求項22】
ポリε‐カプロラクトーン‐フォスファチジルコリンの生成率が少なくとも90パーセントで、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
触媒/イニシエータを用いて環状エステルモノマーとアルコールを反応させ、−OH分岐末端を持つ開環ポリマーを生成し;得られたポリマーの−OH分岐末端をω‐halo酸ハロゲン化合物と反応させ、ハロゲン化アルキルを生成し;該ポリマー(もしくは複数)を反応させ、末端機能化したポリマーを生成する手順を含む、陽イオン末端官能基を持つ生分解性、生体適合性ポリエステルリン脂質類似体を生成する方法。
【請求項24】
Me3Nの分岐末端反応を含む官能ポリマーを生成する手順で、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
得られるポリエステルがポリε‐カプロラクトーンーアンモニア塩で、請求項23もしくは24に記載の方法。
【請求項26】
触媒/イニシエータを用いて環状エステルモノマーとアルコールを反応させ、−OH分岐末端を持つポリマーを生成し;得られた開環ポリマーの−OH分岐末端をコハク酸無水物と反応させ、官能(カルボキシル酸)、もしくはカルボキシレート分岐ポリマーを生成する手順を含む方法で、陰イオン官能基を持つ生分解、生体適合ポリエステルリン酸脂質の類似体を生成する方法。
【請求項27】
官能ポリマーを生成する方法に含まれるのが分岐端末をカルボキシル酸もしくはその無水物の誘導体の誘導体との反応で、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
生成されるポリエステルがポリε‐カプロラクトーンーカルボキシル酸もしくはポリε‐カプロラクトーンーカルボキシルレートで、請求項26もしくは27に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−503932(P2006−503932A)
【公表日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−533951(P2004−533951)
【出願日】平成15年9月5日(2003.9.5)
【国際出願番号】PCT/SE2003/001395
【国際公開番号】WO2004/021976
【国際公開日】平成16年3月18日(2004.3.18)
【出願人】(505081238)
【出願人】(505081249)
【出願人】(505081250)
【Fターム(参考)】