説明

新メチレンブルー分析法

【課題】缶詰などの食品収納金属容器内にレトルト処理(高温殺菌処理)時や経時的に発生する硫化水素や硫化物イオンを定量分析する、従来のアーミー法を改良して、操作が簡易で分析データにばらつきが少ない新しい定量分析法を開発し、特殊な器具や一連の煩雑な前処理操作を必要とせずに、缶詰などの製造現場で定量分析を容易に行え、熟練技能者でなくても一日あたりの測定可能な検体数が大幅に増加できる新規な定量分析法を実現する。
【解決手段】被験体が収納された容器内に酢酸亜鉛水溶液からなる吸収液を加え、吸収液を含む収納内容物に発色剤のジメチル−p−フェニレンジアミン溶液を添加し、次いで塩化第二鉄溶液を加えて、遠心分離機により上澄み吸収液を得て、上澄み吸収液の吸光度を分光光度計により測定し、予め作成した標準検量線を用いて濃度計算をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験体が収納された容器内の硫化水素量などを分析する方法に関し、詳しくは、缶詰などの食品収納金属容器内の硫化水素量や硫化物イオン量を、メチレンブルー発色を利用する吸光度定量分析法により分析する、簡易なメチレンブルー分析法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
缶詰などの食品収納金属容器内には、従来から、食品中に含まれている含硫化合物の化学変化に由来し、主としてレトルト処理(高温殺菌処理)時に、或いは保存中に経時的に、極微量の硫化水素や硫化物イオンが発生することがあり、そのために、金属容器内の鋼材や錫メッキ層などの一部が黒褐色に変色したり、硫化水素の異臭が微かにしたり、収納食品の風味が僅かに劣化して、食品であるがために、一般に消費者は衛生感や視覚による清潔性或いは風味や香りなどを重視する傾向があるので、缶詰などの保存食品分野において重要な問題となっている。また、瓶詰ワインにおいても酸化防止剤の亜硫酸化合物などの硫化物に由来する硫化水素の発生も同様に問題視されている。
【0003】
この問題への対応には、先ず、缶詰などの飲食品収納容器内にレトルト処理時或いは経時的に発生する硫化水素量や硫化物イオン量を、定量分析してその量を把握する必要がある。
従来においては、硫化水素の分析方法として、メチレンブルー吸光光度法が種々の対象に応用され、廃ガス中の硫化水素ガスや工業廃水中の硫化物などの定量分析に利用されており(非特許文献1及び2を参照)、また、容器詰め食品中の硫化水素分析法として、メチレンブルー吸光光度法を利用する、いわゆるアーミー(Almy)法が知られている。
アーミー法は操作が煩雑で、分析データのばらつきが大きいことが問題となっており、また、硫化水素ガスを捕捉するために特殊な器具が必要であり、その器具の組み立ても煩雑で、一連の前処理操作も不可欠であって熟練技術を要し、缶詰などの製造現場では定量分析を実施し難い現状にあった。さらに、各検体毎に1サイクルに30分以上の分析時間を要し、熟練技能者でも一日一人あたりの測定可能な検体数は実績で10検体程度となっている。
【0004】
したがって、アーミー法を改良して、操作が簡易で分析データのばらつきが少ない、硫化水素類の新しい定量分析法が求められており、特殊な器具や一連の煩雑な前処理操作を必要とせずに、缶詰などの製造現場で定量分析を容易に行え、熟練技能者でなくても一日あたりの測定可能な検体数が大幅に増加できる新規な定量分析法の開発が、缶詰食品分野などにおいて強く望まれているところである。
【0005】
【非特許文献1】JIS K 0108(排ガス中の硫化水素分析方法)
【非特許文献2】JIS K 0102−47.1(工場排水中の硫化水素分析方法)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の背景技術において概略を記述したように、缶詰などの食品収納金属容器内には、レトルト処理時や保存中に経時的に、食品中に含まれている含硫化合物の化学変化に由来する、極微量の硫化水素や硫化物イオンが発生する問題があり、この問題への対応には、缶詰などの食品収納金属容器内にレトルト処理時或いは経時的に発生する硫化水素量や硫化物イオン量を定量分析して、その量を把握する必要があるところ、従来のアーミー法は定量分析法として、段落0003に記載したように、種々の問題を内包しているので、本発明は、従来のアーミー法を改良し、操作が簡易で分析データのばらつきが少ない硫化水素類の新しい定量分析法を開発して、特殊な器具や一連の煩雑な前処理操作を必要とせずに、缶詰などの製造現場で定量分析を容易に行え、熟練技能者でなくても一日あたりの測定可能な検体数が大幅に増加できる新規な定量分析法を実現することを、発明が解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題の解決を図り、本願の発明者らは、従来のアーミー法の各処理操作過程を詳細に再検討し、操作の簡易化を求めて、被験体の吸収処理、硫化水素吸収液や発色剤などの使用する試薬、吸光度測定用の検量線作成操作、硫化水素吸収装置、或いは硫化水素捕捉や検体ミキシングの各操作及び遠心分離や発色操作さらには検体溶液を塩酸酸性にして硫化水素ガスを発生させ捕捉する最終操作、また、吸光度測定などについて、多岐に亘り多角的に思考を巡らし考察を続け実験的な推考と試行を重ねた。
かかる考察や試行などの過程において、アーミー法では、最終操作において、内容物を塩酸にて酸性とし、外気導入によるバブリング操作によって、硫化水素ガスを発生させ吸収液に捕捉する処理操作が特殊な器具を必要とし、その組み立てや前処理などが煩雑で熟練を要するので、捕捉する硫化水素の形態を改変してかかる最終操作を簡易化すれば、本発明が課題とするところが達成されるのではと、認識するに至った。
【0008】
かかる認識をさらに深めることにより、最終操作の硫化水素の形態を遊離の硫化水素ではなく硫化物イオンの状態で捕捉し、この状態で捕捉できるように工夫すれば、アーミー法の簡易化がなされることを見い出すに到り、その結果として本発明の新しいメチレンブルー分析法を創作することができた。
本発明は、基本的には、段落0007に記載したアーミー法の最終操作を採用せず、被検体に硫化物イオンの状態で吸収液と発色剤とを加えて混合し、遠心分離した上澄み液の吸光度を分光光度計により測定することを主要な要件となし、他の要件は大略においてアーミー法の操作を踏襲するものであり、具体的には、被験体が収納された容器内に酢酸亜鉛水溶液からなる吸収液を加え、吸収液を含む収納内容物に発色剤としてのジメチル−p−フェニレンジアミン溶液を添加し、次いで塩化第二鉄溶液を加えて、遠心分離機により上澄み吸収液を得て、上澄み吸収液の吸光度を分光光度計により測定し、予め作成した標準検量線を用いて濃度計算をすることからなる、容器中に存在する硫化水素量及び硫化物イオン量を定量分析する方法である。
また、本発明は、特に缶詰などの食品収納容器における硫化水素類の定量分析に資するものであり、食品が収納された金属容器において吸収液による前処理、吸収操作、発色剤による発色操作、遠心分離、検量線を用いた吸光度測定などの各操作の手順要件を具体的に規定するものでもある。
【0009】
本発明は、従来のアーミー法における、最終操作の硫化水素の形態を遊離の硫化水素ガスではなく硫化物イオンの状態で捕捉できるように工夫することにより、アーミー法を改良して、その操作の簡易化がなされることが実現でき、食品収納容器分野の食品品質管理において、新規な硫化水素定量分析法をもたらすものである。
なお、先行技術を鑑みても、特許文献においては(非特許文献も含めて)、メチレンブルー定量吸光分析法(アーミー法)で、かかる改良をなした新しいメチレンブルー定量吸光分析法は見い出すことができない。
【0010】
以上においては、本発明が創作される経緯と、本発明の基本的な構成要素と特徴について概観的に記述したので、ここで、本発明全体を総括して俯瞰すると、本発明は、次の発明単位群から構成されるものであって、[1]の発明を基本発明とし、それ以外の発明は、基本発明を具体化ないしは実施態様化するものである。なお、発明群全体をまとめて「本発明」という。
【0011】
[1]被験体が収納された容器内に酢酸亜鉛水溶液からなる吸収液を加え、吸収液を含む収納内容物にジメチル−p−フェニレンジアミン溶液を添加し、次いで塩化第二鉄溶液を加えて、遠心分離機により上澄み吸収液を得て、上澄み吸収液の吸光度を分光光度計により測定し、予め作成した標準検量線を用いて濃度計算をすることを特徴とする、容器中に存在する硫化水素量及び硫化物イオン量を分析する方法。
[2]被験体が収納された容器が食品収納金属容器であることを特徴とする[1]における、容器中に存在する硫化水素量及び硫化物イオン量を分析する方法。
[3]食品が収納された金属容器の蓋部材に、酢酸亜鉛水溶液からなる吸収液を流延し、蓋部材に金属針又は鉱物針を突き刺して孔部を設け、金属容器内を外部と遮断しながら金属容器内の減圧を利用して孔部から吸収液を金属容器内に流し込み、孔部を閉じて金属容器を振とうさせて収納食品中及び金属容器内の上部空間における硫化水素及び硫化物イオンを吸収液に吸収させ、次いで、蓋部材を取り外して吸収液を含む収納内容物にジメチル−p−フェニレンジアミン溶液を添加し、さらに塩化第二鉄溶液を加えて、遠心分離機により上澄み吸収液を得て、上澄み吸収液の吸光度を分光光度計により測定し、予め作成した標準検量線を用いて濃度計算をすることを特徴とする、容器中に存在する硫化水素量及び硫化物イオン量を分析する方法。
[4]検量線がNaS溶液の濃度を基に、硫化水素の各種の濃度の標準液を作成し、硫化水素量と吸光度の関係を測定した検量線であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかにおける、容器中に存在する硫化水素量及び硫化物イオン量を分析する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明においては、飲食品収納容器の硫化水素定量分光分析法である、従来のアーミー法を改良して、その分析操作の簡易化と分析データのばらつきの縮小がなされることが実現でき、特殊な器具や一連の煩雑な前処理操作を必要とせずに、缶詰などの製造現場で定量分析を容易に行え、熟練技能者でなくても一日あたりの測定可能な検体数が大幅に増加できる新規な定量分析法の開発をなしえた。
それにより、缶詰などの食品収納金属容器において、レトルト処理時や保存中に経時的に、食品中に含まれる含硫化合物の化学変化に由来する、極微量の硫化水素や硫化物イオンが発生して、金属容器内の錫メッキ層などの一部が黒褐色に変色したり、硫化水素の異臭が微かにしたり、収納食品の風味や香りが僅かに劣化するような問題への対処に資することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明については、課題を解決するための手段として、本発明の基本的な構成に沿って前述したが、以下においては、前述した本願の発明群の発明の実施の形態を、具体的に詳しく説明する。
【0014】
1.本発明の新メチレンブルー分析法
本発明は、基本的には、メチレンブルー分析法であるアーミー法の、硫化水素をガスとして遊離させ吸収させる最終操作を採用せず、被検体に硫化物イオンの状態で吸収液と発色剤とを加えて混合し、遠心分離した上澄み液の吸光度を分光光度計により測定することを主要な要件となし、他の要件は大略においてアーミー法の操作を踏襲するものであるから、新メチレンブルー分析法と称す。
【0015】
(1)基本的な原理
アーミー法とは、メチレンブルー吸光分光法による硫化水素定量分析方法の一つであり、硫化物イオン溶液と濃塩酸を混ぜ、発生した硫化水素を酢酸亜鉛溶液に吸収させ、発色剤の少量のp−アミノジメチルアニリン塩酸塩溶液を加え掻き混ぜて溶かした後、塩化第二鉄溶液を加えると青色のメチレンブルーが生成する現象を利用する方法で(下記の反応式として知られ、フィッシャー反応と称される)、従来の方法の中で最も鋭敏な方法として知られている。
【化1】

【0016】
(2)本発明の測定原理
硫化物イオンが塩化鉄(III価の塩化第二鉄)の存在の下でジメチル−p−フェニレンジアミンと反応して生成する、メチレンブルー[3,7−ビス(ジメチルアミノ)フェノチアジン−5−イウム]の吸光度を測定して硫化水素及び硫化物イオンを定量する。メチレンブルーは安定な色素なので高感度で確実な測定ができる。
なお、硫化水素は下式のようにpHによって形態が変化し、硫化水素イオン(HS)と硫化物イオン(S2−)に変化する。
S←→HS+H←→S2−+2H
反応は可逆反応であり、ルシャトリエの法則により、反応系のpHが低いと(Hが過多)平衡反応は左側に移動し、pHが高いと(Hが過少)平衡反応は右側に移動する。
アーミー法では、最終的にサンプルを塩酸で酸性にして硫化水素を遊離捕捉させているが、サンプルのpHを下げる前処理では、遊離した硫化水素ガスを捕捉する特殊な器具が必要となり操作も煩雑となる。そこで、本発明では、吸収液の酢酸亜鉛水溶液で固定された硫化物溶液に直接に、発色溶液を添加して、発色生成物(メチレンブルー)を生成させて定量する。
【0017】
(3)測定の基本要素
被験体が収納された容器内に酢酸亜鉛水溶液からなる吸収液を加え、遊離の硫化水素ガス及び硫化物イオンを固定させ、吸収液を含む収納内容物にジメチル−p−フェニレンジアミン溶液を添加し、次いで塩化第二鉄溶液を加えて、メチレンブルーにて発色させ、遠心分離機により上澄み吸収液を得て、上澄み吸収液の吸光度を分光光度計により測定し、予め作成した標準検量線を用いて濃度計算をする。その測定により、容器中に存在する硫化水素量及び硫化物イオン量を分析する。被験体が食品等の固形物を含む場合には、ジメチル−p−フェニレンジアミン溶液を添加する前に、被験体と吸収液をミキサー等で均一に撹拌するのが好ましい。
【0018】
(4)試薬
吸収液;20%酢酸亜鉛(水溶液)
ジメチル−p−フェニレンジアミン溶液;ジメチル−p−フェニレンジアミンを塩酸に溶かした溶液。
塩化鉄(III)溶液; 塩化第二鉄(六水和物)を塩酸に溶かした溶液。
硫化水素検量線用溶液;適当濃度の硫化水素溶液を調整し、この液に過剰量のI標準液を加え、澱粉指示薬を用い、IをNaにて逆滴定し、硫化水素濃度を検定する。
【0019】
(5)装置
遠心分離機;被検体を含む吸収液に発色剤を加え、遠心分離して上澄み液を得る。
分光光度計;遠心分離した上澄み液の波長665nmの吸光度を測定する。
【0020】
(6)具体的な分析手順(全ての操作は常温で行う。)
i)食品が保存収納された金属容器の蓋部材の中央部付近に、酢酸亜鉛水溶液からなる吸収液10cc程度を流延する。
ii)金属容器内の上部空間のヘッドスペース中に存在する硫化水素ガスを外部に逃がさないために、蓋部材に金属針又は鉱物針を突き刺して孔部を設け、金属容器内を外部と遮断しながら金属容器内の減圧を利用して孔部から吸収液を金属容器内に流し込む。
iii)孔部を閉じて金属容器を10秒程度振とうさせて、収納食品中及び金属容器内の上部空間における硫化水素及び硫化物イオンを吸収液に吸収させる。
iv)蓋部材を取り外して吸収液を含む収納内容物に、発色剤であるジメチル−p−フェニレンジアミン溶液を添加し、さらに塩化第二鉄溶液を加える。2時間程放置して青色に発色させる。内容物によっては、ジメチル−p−フェニレンジアミン溶液を添加する前に、被験体と吸収液をミキサー等で均一に撹拌する。
v)遠心分離機にかけて(1,000rpm・20分程度の条件)、上澄み吸収液を得て、上澄み液を濾過する。
vi)上澄み吸収液の濾液の吸光度(665nm付近の吸収ピークを測定)を分光光度計により測定し、予め作成したNaS溶液による標準検量線を用いて硫化物濃度を定量する。
vii)なお、NaS溶液による標準検量線は、予め準備した硫化物の濃度が既知のNaS溶液を用い、数種の濃度の吸光度を測定して作成する。
【0021】
2.本発明の試験方法
i) 硫化水素標準液の調製
特級NaS・9HOを1.2g秤量し精製水にて1,000mlにメスアップする。
【0022】
ii)硫化水素標準液の検定
イ.300mlの三角フラスコにメスシリンダで純水100mlを注入する。
ロ.硫化水素標準液50mlをホールピペットで採取し、イ.に注入する。
ハ.N/10ヨウ素溶液10mlをホールピペットで採取し、ロ.に注入する。
ニ.ハ.に1:1塩酸数滴を滴下し酸性とする。
ホ.ビュレットにN/10チオ硫酸ナトリウム溶液を注入し、ニ.を滴定する。
ヘ. 淡黄色に変化したら、澱粉指示薬0.5mlをホールピペットで採取、注入する。(この時、液は藍色に変化する)
ト. 滴定を再開し、藍色が消失した時点を終点とする。この時の滴定値を記録する。(三角フラスコを濾紙上に載せると色の変化が判り易い)
チ.上記滴定を再度行い、合計2回実施する。
リ. 標準液1ml中の硫化水素濃度A(μg/ml)を下式にて計算する。
2回の滴定値の平均:xml
N/10ヨウ素溶液のファクタ:Fi
N/10チオ硫酸ナトリウム溶液のファクタ:Ft
A(μg/ml)=(10×Fi−x×Ft)×1.7032×(1000/50)
【0023】
なお、本検定は、“逆滴定”という手法を採用している。硫化水素はヨウ素溶液によって完全に消費され、余剰のヨウ素溶液をチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定することで、硫化水素濃度を定量するという原理である。従って、長期保存などによって標準液中の硫化水素の消失が進行している場合、余剰のヨウ素は多くなるので、チオ硫酸ナトリウム溶液の滴定量は多くなる。化学反応式は下記のとおりである。
S + I→ 2HI + S
(余剰のヨウ素)+ 2NaO → 2NaI + Na
逆滴定の概念図を次に掲示する。

【0024】
iii)検量線用標準液の調製
イ.下式の計算値B(ml)の量を50mlメスフラスコに注入し、2%酢酸亜鉛溶液でメスアップして濃度10μg/mlの検量線用標準液を調製する。(通常Bは3ml前後となる)
B(ml)=(50×10/A)
ロ.50又は25ml共栓付き試験管5本を準備する。試験管を1本天秤に載せてゼロ合わせをする。
ハ.上記において調製した10μg/ml標準液を0.2ml注入し、2%酢酸亜鉛溶液で全体として20gとなるよう精秤する。
ニ.ハ.と同様に試験管のゼロ合わせと調製を順次繰り返す。10μg/ml標準液の注入量は、0,0.2,0.4,1,2mlとする。注入にあたってはホール又はメスピペットを使用する。これにより、検量線用標準液の濃度は、0,2,4,10,20・μg/20gとなる。
ホ.ニ.に塩酸ジメチル−p−フェニレンジアミン溶液2mlをホールピペットにて添加し、混合する。
ヘ.ホ.に塩化鉄溶液1mlをホールピペットにて添加し、混合する。
ト.安定した呈色が得られるまで、2時間以上室温放置する。
【0025】
iv)測定試料の調製
[サンプル測定用缶詰]
イ. 缶詰の総質量を測定する。
ロ. ミキサーを電子天秤上に置き、ゼロ合わせをする。
ハ. 缶詰の蓋部材の表面に20%酢酸亜鉛溶液10mlをスポイトで注ぐ。
ニ. バキュームゲージで真空度を測定し、同時に缶詰の負圧を利用して、突き刺した針により形成された孔を通じて、液を缶内に流し込む。液が入りきらない場合は、表面に残った液をミキサに移す。
ホ.注入口を指で押さえ、よく振り、液と内容物を混ぜ合わせる。
ヘ. 缶切りで開缶し、内容物を全てミキサに移す。この時の内容物質量を測定する。
ト. 内壁に付着した反応生成物を純水で洗い落とし、内容物中に含まれる液汁の量から判断して適量の純水を加える。この時の希釈倍率と希釈後の内容物質量を記録する。(通常3倍に希釈)
チ. ミキサーにて1分間撹拌し、均一となった内容液を必要に応じてビーカに移す。
【0026】
[ブランク測定用缶詰]
イ.缶詰の総質量を測定する。
ロ.ミキサを電子天秤上に置き、ゼロ合わせをする。
ハ.バキュームゲージで真空度を測定する。
ニ.缶切りで開缶し、内容物を全てミキサに移す。
ホ.1:1塩酸10mlをミキサに添加する。このときの内容物質量を測定する。
ヘ. 内容物中に含まれる液汁の量から判断して適量の純水を加える。このとき
の希釈倍率と希釈後の内容物質量を記録する。(通常3倍に希釈)
ト.ミキサにて1分間撹拌する。
チ. 均一となったら、ミキサ中の内容物を50〜100g程度残し、残りを廃
棄して再度5分間撹拌する。撹拌後、必要に応じてビーカに移す。
【0027】
[サンプル及びブランク測定用缶詰]
リ.撹拌後の液を遠心分離用沈澱管に20g精秤する。液中の固形物は撹拌後
速やかに沈降するので、秤量前は必ず撹拌する。
ヌ.リ.に塩酸ジメチル−p−フェニレンジアミン溶液2mlをホールピペッ
トにて添加し混合する。
ル.ヌ.に塩化鉄溶液1mlをホールピペットにて添加し混合する。
ヲ.ル.で 安定した呈色が得られるまで、2時間以上室温放置する。
ワ.1,000回転・20分間遠心分離を行う。
カ. 沈澱管の上澄み液を極力固形物が混入しないようスポイトで吸い取り0.45μmフィルタを装着したシリンジに注入し、加圧濾過する。濾液を5〜10ml程度捕集する。これを測定液とする。
【0028】
v) 測定
イ.検量線用標準液、サンプル及びブランクの各測定液を分光光度計を用いて665nmの波長にて吸光度を測定する。測定は、発色後2〜24時間の間に実施する。
(分光器で665nmでの測定が不可の場合は、665nmに最も近い波長で測定する)
ロ.検量線を作成し、サンプル及びブランクの吸光度から試料液20gあたりの濃度を計算する。
【0029】
vi)濃度計算
以下の式から缶詰中の硫化水素濃度(単位:μg%)を計算する。
発色生成物に由来する濃度(μg/20g)=サンプル濃度−ブランク濃度
缶詰中の硫化水素濃度(μg%)=発色生成物に由来する濃度×希釈倍率×5
【0030】
3.本発明におけるフローチャート
以上において詳細に記述した本発明の新メチレンブルー分析法における分析手順を、フローチャートにまとめて掲示する。
段落0021〜0029において詳述した、本発明の新メチレンブルー分析法における分析手順に沿って、硫化水素標準液の調製、標準液の検定、検量線用標準液の調製、試料の調製、吸光度測定についての一連の手順の具体例を、フローチャートとして説明している。


【実施例】
【0031】
以下において、実施例によって、比較例を対照しながら、本発明を具体的に示すが、実施例は本発明の各構成要素の有意性と合理性を実証するためのものである。
【0032】
[実施例と比較例]
本発明の新メチレンブルー定量分析法の実施例、及び従来技術のアーミー(Almy)法を比較例として、各種の食品内容物において、硫化水素濃度を定量し、定量値の標準偏差を表1にまとめて掲示する。
【0033】
【表1】

表1の結果は、本発明の新メチレンブルー定量分析法が、従来技術のアーミー法と比較して、定量分析のデータのばらつきが少ないことを示している。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体が収納された容器内に酢酸亜鉛水溶液からなる吸収液を加え、吸収液を含む収納内容物にジメチル−p−フェニレンジアミン溶液を添加し、次いで塩化第二鉄溶液を加えて、遠心分離機により上澄み吸収液を得て、上澄み吸収液の吸光度を分光光度計により測定し、予め作成した標準検量線を用いて濃度計算をすることを特徴とする、容器中に存在する硫化水素量及び硫化物イオン量を分析する方法。
【請求項2】
被験体が収納された容器が食品収納金属容器であることを特徴とする請求項1に記載された、容器中に存在する硫化水素量及び硫化物イオン量を分析する方法。
【請求項3】
食品が収納された金属容器の蓋部材に、酢酸亜鉛水溶液からなる吸収液を流延し、蓋部材に金属針又は鉱物針を突き刺して孔部を設け、金属容器内を外部と遮断しながら金属容器内の減圧を利用して孔部から吸収液を金属容器内に流し込み、孔部を閉じて金属容器を振とうさせて収納食品中及び金属容器内の上部空間における硫化水素及び硫化物イオンを吸収液に吸収させ、次いで、蓋部材を取り外して吸収液を含む収納内容物にジメチル−p−フェニレンジアミン溶液を添加し、さらに塩化第二鉄溶液を加えて、遠心分離機により上澄み吸収液を得て、上澄み吸収液の吸光度を分光光度計により測定し、予め作成した標準検量線を用いて濃度計算をすることを特徴とする、容器中に存在する硫化水素量及び硫化物イオン量を分析する方法。
【請求項4】
検量線がNaS溶液の濃度を基に、硫化水素の各種の濃度の標準液を作成し、硫化水素量と吸光度の関係を測定した検量線であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載された、容器中に存在する硫化水素量及び硫化物イオン量を分析する方法。


【公開番号】特開2007−292565(P2007−292565A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119938(P2006−119938)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)
【Fターム(参考)】