説明

新種微生物、セレン酸化合物還元製剤、セレン酸化合物の還元方法および除去方法、並びに金属セレンの製造方法

【課題】セレン酸化合物の還元能に優れる新種微生物、該微生物を有効成分とするセレン酸化合物還元製剤、並びに該微生物を用いるセレン酸化合物の還元方法および除去方法、金属セレンの製造方法を提供する。
【解決手段】アエロモナス(Aeromonas)属JPCC SEP JP−1株;クレブシエラ(Klebsiela)属JPCC SEP JP−2株;スルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP−3株;かかる微生物をセレン酸化合物共存下において共培養する工程を有するセレン酸化合物の還元方法;かかる微生物をセレン酸化合物共存下において共培養する工程と、得られた培養物を分離する工程とを有する金属セレンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新種微生物、該微生物を有効成分とするセレン酸化合物還元製剤、並びに該微生物を用いるセレン酸化合物の還元方法および除去方法、金属セレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セレンは、半導体材料や感光性材料として有用であることが知られているほか、ガラスの着色剤、脱色剤としても利用されるなど、産業界において利用価値の高い元素である。
その一方で、微量のセレンは人体にとって必須元素であるが、必要量以上に摂取すると毒性を示すことが知られている。そこで、水質汚濁および土壌汚染を防止するために、環境基準の指定項目となっている。
このような中、上記のような産業界においては、工場排水中にセレンが混入する可能性があり、また、セレンは石炭中にも微量含まれていることから、火力発電所等の排水にも混入する可能性があるため、このような排水中のセレンの除去は重要な課題となっている。
【0003】
工場排水中などで問題となるセレンは、セレン(6価)の化合物であるセレン酸(HSeO)またはその塩、セレン(4価)の化合物である亜セレン酸(HSeO)またはその塩である。通常これらセレン酸化合物は、工場排水などの水溶液中では、セレン酸イオン(SeO2−)の形態で、ごく一部は亜セレン酸(SeO2−)イオンの形態で存在していると考えられる。これらセレン酸化合物は、還元されると0価の金属セレンとなる。
【0004】
ところで、自然界の微生物には、これらセレンオキシアニオンを体内に取り込んで還元処理するものがあることが知られている。具体的には、特定の微生物をセレンオキシアニオンと栄養源の存在下で生育させると、微生物はこれらアニオンを体内に取り込み、生育と共にセレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元し、さらに亜セレン酸イオンを粒子状の金属セレンにまで還元するのである(例えば、特許文献1および非特許文献1参照)。この現象はバイオミネラリゼーションとして知られており、この現象を利用すれば、溶液中からセレンオキシアニオンを粒子化しながら除去することができる。
【0005】
また、微生物の細胞表面に存在する多糖類や脂質、液胞などの細胞外高分子には、セレンオキシアニオンを吸着し得るものがあり、この現象はバイオアドソープションとして知られている。この現象を利用することでも、溶液中からセレンオキシアニオンを除去することができると言われている。
このように微生物を利用して、セレン酸化合物を排水中から除去する方法は、環境負荷も少なく優れた方法であると言える。
【特許文献1】特開平9−248595号公報
【非特許文献1】Applied and Environmental Microbiology,Vol.63,No.8,p3079−3084.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1および非特許文献1をはじめとする、従来のバイオミネラリゼーションによるセレンオキシアニオンの除去においては、さらに高い除去能力を有する微生物が求められているのが現状である。これは、亜セレン酸イオンを金属セレンに還元する速度が遅いことが、主な理由の一つであると考えられている。例えば、特許文献1に記載のバチルス属の微生物は、これまでに報告されている微生物の中でも、セレンオキシアニオンの除去速度が最も速いものに属すると考えられているが、この微生物を用いた場合でも、セレン酸イオン1mMを金属セレンにまで完全に還元するのに100時間程度を要する。
また、バイオアドソープションを利用したセレンオキシアニオンの除去については、実用的な方法がまだ確立されていないのが現状である。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、セレン酸化合物の還元能に優れる新種微生物、該微生物を有効成分とするセレン酸化合物還元製剤、並びに該微生物を用いるセレン酸化合物の還元方法および除去方法、金属セレンの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、アエロモナス(Aeromonas)属JPCC SEP JP−1株が属する種に属する微生物、クレブシエラ(Klebsiela)属JPCC SEP JP−2株が属する種に属する微生物およびスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP−3株が属する種に属する微生物を、セレン酸化合物共存下において共培養する工程を有するセレン酸化合物の還元方法である。
請求項2に記載の発明は、アエロモナス(Aeromonas)属JPCC SEP JP−1株が属する種に属する微生物、クレブシエラ(Klebsiela)属JPCC SEP JP−2株が属する種に属する微生物およびスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP−3株が属する種に属する微生物を、セレン酸化合物共存下において共培養する工程を有するセレン酸化合物の除去方法である。
請求項3に記載の発明は、アエロモナス(Aeromonas)属JPCC SEP JP−1株が属する種に属する微生物、クレブシエラ(Klebsiela)属JPCC SEP JP−2株が属する種に属する微生物およびスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP−3株が属する種に属する微生物を、セレン酸化合物共存下において共培養する工程と、得られた培養物を分離する工程とを有する金属セレンの製造方法である。
【0009】
請求項4に記載の発明は、アエロモナス(Aeromonas)属JPCC SEP JP−1株が属する種に属する微生物である。
請求項5に記載の発明は、16SrDNAの塩基配列が配列番号1に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、セレン酸化合物還元能を有するアエロモナス(Aeromonas)属に属する微生物である。
請求項6に記載の発明は、アエロモナス(Aeromonas)属JPCC SEP JP−1株である。
請求項7に記載の発明は、クレブシエラ(Klebsiela)属JPCC SEP JP−2株が属する種に属する微生物である。
請求項8に記載の発明は、16SrDNAの塩基配列が配列番号2に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、セレン酸化合物還元能を有するクレブシエラ(Klebsiela)属に属する微生物である。
請求項9に記載の発明は、クレブシエラ(Klebsiela)属JPCC SEP JP−2株である。
請求項10に記載の発明は、スルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP−3株が属する種に属する微生物である。
請求項11に記載の発明は、16SrDNAの塩基配列が配列番号3に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、セレン酸化合物還元能を有するスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属に属する微生物である。
請求項12に記載の発明は、スルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP−3株である。
請求項13に記載の発明は、請求項4〜12のいずれか一項に記載の微生物を有効成分とするセレン酸化合物還元製剤である。
【0010】
請求項14に記載の発明は、請求項4〜12のいずれか一項に記載の微生物をセレン酸化合物共存下において培養する工程を有するセレン酸化合物の還元方法である。
請求項15に記載の発明は、請求項4〜12のいずれか一項に記載の微生物をセレン酸化合物共存下において培養する工程を有するセレン酸化合物の除去方法である。
請求項16に記載の発明は、請求項4〜12のいずれか一項に記載の微生物をセレン酸化合物共存下において培養する工程と、得られた培養物を分離する工程とを有する金属セレンの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、排水中などのセレン酸化合物を迅速に除去できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について詳しく説明する。以下、「アエロモナス(Aeromonas)属JPCC SEP JP−1株」のことを「アエロモナス属JPCC SEP JP−1株」または「JPCC SEP JP−1」と略記することがある。また、「クレブシエラ(Klebsiela)属JPCC SEP JP−2株」のことを「クレブシエラ属JPCC SEP JP−2株」または「JPCC SEP JP−2」と略記することがある。また、「スルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP−3株」のことを「スルフロスピリラム属JPCCY SEP−3株」または「JPCCY SEP−3」と略記することがある。
本発明においてセレン酸化合物とは、セレン酸、亜セレン酸およびこれらの塩並びにこれらのイオンを指す。
【0013】
<JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3の獲得>
本発明のJPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3は、奄美大島のマングローブ林の土壌中に見られ、この土壌中より採取したサンプルを培養および純化することで得られる。
【0014】
サンプルの培養および純化は、例えば、以下のようにして行われる。滅菌処理済みの好ましくは液体培地を用いてセレン酸化合物の存在下にサンプルの培養を行い、JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2またはJPCCY SEP−3の生育が確認された培地を選別して、さらに培養を繰り返すことで、これら微生物を獲得できる。JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3の生育の有無は、培地の赤色着色の有無で確認できる。この赤色は、これら微生物の体内中の金属セレンに由来するものである。また、JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3は、微生物の形態やセレン除去活性によっても、他の微生物との区別が可能であり、JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3自体も、後記する形態的性質、生理学的性質などの諸性質により、互いに区別が可能である。
【0015】
JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3の培養に用いる培地は、これら微生物の生育に必要な炭素源、窒素源、無機塩、微量元素、酵母エキス等を含むものであれば特に限定されない。
炭素源としては、メタノールやエタノール等のアルコール類、酢酸や乳酸などの有機酸類が例示できる。なかでも乳酸およびエタノールが好ましく、乳酸が特に好ましい。
窒素源としては、硝酸塩、アンモニウム塩が例示できる。
無機塩としては、リン酸のカリウム塩またはナトリウム塩、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウムが例示できる。
微量元素としては、鉄、コバルト、銅、亜鉛、ホウ素、ニッケル、モリブデンが例示できる。
【0016】
なかでも、好ましい培地としては、以下に示す組成の液体ME培地を例示できる。
ME培地組成;乳酸0.6g、リン酸二水素カリウム0.5g、塩化アンモニウム0.2g、システイン0.05g、酵母エキス0.2g、蒸留水1L、ミネラル液4ml
なお、ミネラル液の組成は以下の通りである。
ミネラル液組成;ニトリロ三酢酸1.8g、塩化マグネシウム六水和物2.5g、塩化マンガン(II)四水和物0.6g、塩化ナトリウム1.0g、塩化鉄(II)四水和物0.136g、塩化コバルト(II)六水和物0.1g、塩化カルシウム二水和物0.13g、硫酸銅(II)五水和物0.0146g、塩化亜鉛0.01g、ホウ酸(HBO)0.01g、塩化ニッケル(II)六水和物0.01g、モリブテン(VI)酸二ナトリウム二水和物0.01g、塩化銅(II)二水和物0.01g、蒸留水1L
【0017】
また、本発明の効果を損なわない範囲において、培地にはここに挙げたもの以外の成分を含有させても良い。
【0018】
培地の滅菌処理の条件は、培地の種類に応じて適宜選択すれば良く、例えば、前記ME培地の場合には、100〜130℃で5〜15分間の蒸気滅菌が挙げられる。また、滅菌済みの培地に添加するものについては、添加前にろ過滅菌処理等を行って滅菌しておく必要がある。
【0019】
培地のpH、培地中のセレン酸化合物の濃度、培養温度、培養時間等の培養条件は、JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2またはJPCCY SEP−3が良好に生育する限り特に限定されない。
例えば、前記ME培地を用いる場合には、培地のpHは5.8〜7.2であることが好ましく、6.0〜6.5であることがより好ましい。
培地中のセレン酸化合物の濃度は5〜80ppmであることが好ましく、20〜60ppmであることがより好ましい。
培養温度は15〜38℃であることが好ましく、25〜37℃であることがより好ましく、25〜35℃であることが特に好ましい。
培養時間は生育状況に応じて適宜選択すれば良いが、20時間以上であることが好ましく、30時間以上であることがより好ましい。
また、JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3は嫌気性であり、気相部分をアルゴンガスなどで置換して培養することが好ましい。
【0020】
獲得されたJPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2またはJPCCY SEP−3は、さらに前培養および本培養を行うことが好ましい。この時用いる培地および培養条件は、前記と同様である。ただし、セレン酸化合物は必ずしも必要ではない。また、培地へのこれら微生物の植菌量は特に限定されないが、例えば、培地中における濃度が1.0×10〜1.0×10cells/ml程度となるように植菌することが好ましい。
【0021】
<JPCC SEP JP−1の同定>
JPCC SEP JP−1の同定は、株式会社テクノスルガに委託して実施した。そして取得した検体を用いて、「形態的性質」、「培養的性質」、「生理学的性質」、「糖類からの酸生成/ガス産生」および「その他の生理学的性質」を確認し、「塩基配列」の同定および系統解析を行った。「形態的性質」を表1に、「培養的性質」を表2に、「生理学的性質」を表3に、「糖類からの酸生成/ガス産生」を表4に、「その他の生理学的性質」を表5にそれぞれ示す。
【0022】
なお、表1〜5において、(1)ゼラチン液化、グラム染色性については、文献「BARROW,(G.I.) and FELTHAM,(R.K.A):Cowan and Steel’s Manual for the Identification of Medical Bacteria.3rd edition.1993,Cambridge University Press.」を参考にした。
また、(2)リトマス・ミルクでの培養条件、MRテスト、デンプンの加水分解、クエン酸の利用、無機窒素源の利用、カタラーゼ、オキシダーゼ、O−Fテスト(酸化/発酵)、糖類からの酸生成/ガス産生については、文献「坂崎利一、吉崎悦郎、三木寛二:新細菌培地学講座・下,第二版.1998,近大出版,東京」を参考にした。
また、(3)硝酸塩の還元、脱窒反応、VPテスト、インドール産生、硫化水素の生成、ウレアーゼ活性、その他の生理学的性質については、「細菌同定キットAPI20E,(bioMerieux,France)」を使用した。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【0026】
【表4】

【0027】
【表5】

【0028】
(塩基配列)
JPCC SEP JP−1の16SrDNAを、公知の方法により同定した結果、配列番号1に示す塩基配列であることが判った。
【0029】
(系統解析)
培地としてNutrient agar(Oxoid社製)を用い、30℃で24時間好気培養したJPCC SEP JP−1を用い、DNA抽出をInstaGene Matrix(BIO RAD社)のプロトコール、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)をMicroSeq 500 16s rDNA Bacterial Identification PCR Kit(Applied Biosystems社)のプロトコール、サイクルシークエンスをMicroSeq 500 16s rDNA Bacterial Identification Sequencing Kit(Applied Biosystems社)のプロトコール、シークエンスをABI PRISM 3100 Genetic Analyzer System(Applied Biosystems社)のプロトコールに従ってそれぞれ行った。
解析ソフトウェアとしてAuto Assembler(Applied Biosystems社)、アポロン(株式会社テクノスルガ)を用い、得られた16SrDNAのN末端から約500番目までの塩基配列を、アポロンDB細菌基準株データベース(株式会社テクノスルガ)、国際塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)から取得した塩基配列情報と照合して、分子系統解析を行った。その結果得られた分子系統樹を図1に示す。なお、図1中、左下の線はスケールバーを示し、株名の末尾の「T」はその種の基準株(Type strain)であることを示す。
【0030】
BLAST(ALTSCHUL,(S.F.),MADDEN,(T.F.),SCHAFFER,(A.A.),ZHANG,(J.),ZHANG,(Z.),MILLER,(W.),and LIPMAN,(D.J.),Nucleic Acids Research,1997,25:3389−3402.参照)を用いた細菌基準株データベースに対する相同性検索の結果、JPCC SEP JP−1の16SrDNAの上記部分塩基配列は、アエロモナス由来の16SrDNAの塩基配列に対し高い相同性を示し、相同率99.6%でアエロモナス パンクタタ(Aeromonas punctata)ATCC15468株の16SrDNAの塩基配列に対し最も高い相同性を示した。国際塩基配列データベースに対する相同性検索においても、アエロモナス由来の16SrDNAの塩基配列に対し高い相同性を示し、アエロモナス パンクタタATCC15468株の16SrDNAの塩基配列に対し相同率99.6%の相同性を示した。
そして分子系統解析の結果、JPCC SEP JP−1は、アエロモナス パンクタタ(Aeromonas punctata)AY987728.1、アエロモナス エスピー(Aeromonas sp.)RK217215 AY987764.1、アエロモナス エスピー(Aeromonas sp.)M10 DQ200865.1と系統枝を形成した。しかし後記するように、これら微生物とは、セレン酸化合物還元能を有するなど生理学的性質に明らかな相違が認められることから、JPCC SEP JP−1は、アエロモナス属の新種と推測された。
【0031】
<JPCC SEP JP−2の同定>
JPCC SEP JP−2の同定は、前記JPCC SEP JP−1と同様に、株式会社テクノスルガに委託して、同様の方法で実施した。JPCC SEP JP−2の「形態的性質」を表6に、「培養的性質」を表7に、「生理学的性質」を表8に、「糖類からの酸生成/ガス産生」を表9に、「その他の生理学的性質」を表10にそれぞれ示す。
【0032】
【表6】

【0033】
【表7】

【0034】
【表8】

【0035】
【表9】

【0036】
【表10】

【0037】
(塩基配列)
JPCC SEP JP−2の16SrDNAを、公知の方法により同定した結果、配列番号2に示す塩基配列であることが判った。
【0038】
(系統解析)
前記JPCC SEP JP−1の場合と同様に、JPCC SEP JP−2の分子系統解析を行った。その結果得られた分子系統樹を図1に示す。
【0039】
BLAST(ALTSCHUL,(S.F.),MADDEN,(T.F.),SCHAFFER,(A.A.),ZHANG,(J.),ZHANG,(Z.),MILLER,(W.),and LIPMAN,(D.J.),Nucleic Acids Research,1997,25:3389−3402.参照)を用いた微生物基準株データベースに対する相同性検索の結果、JPCC SEP JP−2の16SrDNAの部分塩基配列は、クレブシエラ由来の16SrDNAの塩基配列に対し高い相同性を示し、相同率99.8%でクレブシエラ ヴァリイコラ(Klebsiela variicola)F2R9 AJ783916.1の16SrDNAの塩基配列に対し最も高い相同性を示した。また、クレブシエラ プネウモニアエ(Klebsiela pneumoniae)由来の16SrDNAの塩基配列に対しても、相同率99.0%の相同性を示した。国際塩基配列データベースに対する相同性検索においても、クレブシエラ プネウモニアエ由来の16SrDNAの塩基配列に対し高い相同性を示した。
そして分子系統解析の結果、JPCC SEP JP−2は、クレブシエラ ヴァリイコラF2R9 AJ783916.1とクレブシエラ エスピー(Klebsiela sp.)P2 AB114634.1が形成する系統枝、およびクレブシエラ エスピー(Klebsiela sp.)strain zmmo U31075.1とクレブシエラ エスピー(Klebsiela sp.)strain zmvsy U31076.1が形成する系統枝のいずれも外側に単独で系統枝を形成し、公知のクレブシエラ属の微生物とは、セレン酸化合物還元能を有するなど生理学的性質に明らかな相違が認められることから、JPCC SEP JP−2は、クレブシエラ属の新種と判断された。
【0040】
<JPCCY SEP−3の同定>
JPCCY SEP−3の同定は、株式会社テクノスルガに委託して実施した。そして取得した検体を用いて、「形態的性質」、「培養的性質」、「生理学的性質」および「糖類からの酸生成/ガス産生」を確認した。その結果を表11に示す。そして、「塩基配列」の同定および系統解析を行った。
【0041】
なお、表11において、(4)カタラーゼ反応、オキシダーゼ反応、グルコースからの酸生成/ガス産生については、文献「BARROW,(G.I.) and FELTHAM,(R.K.A):Cowan and Steel’s Manual for the Identification of Medical Bacteria.3rd edition.1993,Cambridge University Press.」を参考にした。
また、(5)グラム染色には、フェイバーG「ニッスイ」(日水製薬株式会社)を使用した。
また、形態観察には、光学顕微鏡BX50F4(オリンパス株式会社)を使用した。
【0042】
【表11】

【0043】
寒天培地1;前記液体ME培地において、乳酸に代わりグルコースを使用し、さらに寒天15gを添加したpH6.5〜7.0の培地。
【0044】
(塩基配列)
JPCCY SEP−3の16SrDNAを、公知の方法により同定した結果、配列番号3に示す塩基配列であることが判った。
【0045】
(系統解析)
解析ソフトウェアとしてアポロン2.0(株式会社テクノスルガ・ラボ)を用い、得られた16SrDNA塩基配列を、アポロンDB−BA3.0(株式会社テクノスルガ・ラボ)、国際塩基配列データベース(GenBank/DDBJ/EMBL)から取得した塩基配列情報と照合して、分子系統解析を行った。その結果得られた分子系統樹を図2に示す。なお、図2中、左下の線はスケールバーを示し、株名の末尾の「T」はその種の基準株(Type strain)であることを示し、枝の分枝付近の数字はブートストラップ値を示す。
【0046】
BLAST(ALTSCHUL,(S.F.),MADDEN,(T.F.),SCHAFFER,(A.A.),ZHANG,(J.),ZHANG,(Z.),MILLER,(W.),and LIPMAN,(D.J.),Nucleic Acids Research,1997,25:3389−3402.参照)を用いたアポロンDB−BA3.0に対する相同性検索の結果、JPCCY SEP−3の16SrDNAの塩基配列は、スルフロスピリラム由来の16SrDNAの塩基配列に対し高い相同性を示し、相同率96.4%でスルフロスピリラム デレイイアナム スピリラム(Sulfurospirillum deleyianum Spirillum)5175株(VALIDATION LIST No44.Int.j.Syst.Bacteriol.,1993,43,188−189.参照)の16SrDNAの塩基配列に対し最も高い相同性を示した。また、国際塩基配列データベースに対する相同性検索においても、スルフロスピリラム由来の16SrDNAの塩基配列に対し高い相同性を示し、相同率98.6%でスルフロスピリラム カヴォレイ(Sulfurospirillum cavolei)Phe91株(KODAMA(Y.),HA(L.T.) and WATANABE(K.), Int.j.Syst.Evol.Microbiol.,2007,57,827−831.参照)の16SrDNAの塩基配列に対し最も高い相同性を示した。これらの結果から、JPCCY SEP−3は、スルフロスピリラムに帰属する可能性が高いと考えられた。そこで、スルフロスピリラムに帰属する全7種の基準株を中心に、スルフロスピリラムに比較的近縁であるカンピロバクター(Campylobacter)やアクロバクテリウム(Acrobacterium)等の各属より基準株と、基準株由来の16SrDNAを取得し、分枝系統樹を作成した。
そして分子系統解析の結果、JPCCY SEP−3は、スルフロスピリラムが形成するクラスター内に含まれ、スルフロスピリラム カヴォレイと系統枝を形成した。JPCCY SEP−3の系統枝(分岐)の信頼性を示すブートストラップ値は、100%を示し、周囲に形成されるスルフロスピリラムの各種の系統枝も比較的高いブートストラップ値を示していることから、系統枝の安定性は高いと考えられた。これらの結果から、JPCCY SEP−3はスルフロスピリラムに含まれ、既知種ではスルフロスピリラム カヴォレイに最も近縁と考えられた。しかし、両者の16SrDNAの塩基配列は、完全には一致しておらず、系統枝からは両者が同種である可能性は低いと推察されたことから、JPCCY SEP−3は、スルフロスピリラム属の新種と判断された。
【0047】
本発明のJPCC SEP JP−1は、平成19年4月9日付けで受託番号NITE P−345として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託されている。
また、本発明のJPCC SEP JP−2は、平成19年4月9日付けで受託番号NITE P−346として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受託されている。
また、本発明のJPCCY SEP−3は、平成20年6月4日付けで受領番号NITE AP−582として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受領されており、寄託手続き中である。
【0048】
<新種微生物>
本発明の第一の微生物は、アエロモナス属JPCC SEP JP−1株である。そして、本発明は、アエロモナス属JPCC SEP JP−1株が属する種に属する微生物、および16SrDNAの塩基配列が配列番号1に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、セレン酸化合物還元能を有するアエロモナス属に属する微生物を包含する。このような微生物は、アエロモナス属JPCC SEP JP−1株と同種の微生物であると考えられる。以下、このような微生物とアエロモナス属JPCC SEP JP−1株とをあわせて、第一の微生物群と言うことがある。
アエロモナス属の微生物では、亜セレン酸イオンを金属セレンへ還元する能力を有するアエロモナス サルモニシダ(Aeromonas salmonicida)が知られている。しかし、その他には、アエロモナス属JPCC SEP JP−1株の近縁種はもとより、セレン酸化合物還元能を有するアエロモナス属の微生物はこれまで知られていなかった。そして、本発明の第一の微生物群は、特に亜セレン酸イオンを金属セレンへ還元する能力が高い。
【0049】
また、本発明の第二の微生物は、クレブシエラ属JPCC SEP JP−2株である。そして、本発明は、クレブシエラ属JPCC SEP JP−2株が属する種に属する微生物、および16SrDNAの塩基配列が配列番号2に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、セレン酸化合物還元能を有するクレブシエラ属に属する微生物を包含する。このような微生物は、クレブシエラ属JPCC SEP JP−2株と同種の微生物であると考えられる。以下、このような微生物とクレブシエラ属JPCC SEP JP−2株とをあわせて、第二の微生物群と言うことがある。
クレブシエラ属の微生物では、セレン酸化合物還元能を有するものはこれまで知られていない。そして、本発明の第二の微生物群は、セレン酸イオンおよび亜セレン酸イオンのいずれをも金属セレンへ還元する能力を有し、セレン酸イオンを金属セレンへ還元する能力が、通常前記第一の微生物群よりも高い。
【0050】
本発明の第三の微生物は、スルフロスピリラム属JPCCY SEP−3株である。そして、本発明は、スルフロスピリラム属JPCCY SEP−3株が属する種に属する微生物、および16SrDNAの塩基配列が配列番号3に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、セレン酸化合物還元能を有するスルフロスピリラム属に属する微生物を包含する。このような微生物は、スルフロスピリラム属JPCCY SEP−3株と同種の微生物であると考えられる。以下、このような微生物とスルフロスピリラム属JPCCY SEP−3株とをあわせて、第三の微生物群と言うことがある。
スルフロスピリラム属の微生物では、セレン酸化合物還元能を有するものとしてスルフロスピリラム バルネシイ(Sulfurospirillum barnesii)が知られている。しかし、その他には、スルフロスピリラム属JPCCY SEP−3株の近縁種はもとより、セレン酸化合物還元能を有するスルフロスピリラム属の微生物はこれまで知られていなかった。そして、本発明の第三の微生物群は、特にセレン酸イオンを金属セレンへ還元する能力が高く、通常前記第一および第二の微生物群よりも、その能力が高い。
【0051】
<セレン酸化合物還元製剤>
本発明のセレン酸化合物還元製剤は、前記第一の微生物群、第二の微生物群および第三の微生物群からなる群から選択される一種以上の微生物を有効成分として含有するものである。なかでも、第一の微生物群から選択される一種以上の微生物、第二の微生物群から選択される一種以上の微生物および第三の微生物群から選択される一種以上の微生物を共に含有するものが好ましく、JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3を含有するものが特に好ましい。
セレン酸化合物還元製剤は、本発明の微生物を一種単独で含有するものや、同一の微生物群の微生物を複数種類含有するものよりも、異なる微生物群の微生物を複数種類含有するものの方が、セレン酸化合物還元能が高い。
前記還元製剤が、異なる微生物群の微生物を複数種類含有する場合、これら微生物(例えば、第一の微生物群の微生物、第二の微生物群の微生物および第三の微生物群の微生物)の含有比率は、目的に応じて適宜選択できる。
【0052】
セレン酸化合物還元製剤としては、例えば、本発明の微生物を培養して得られた培養液をろ過して得られるろ過物をそのまま用いても良いし、または該ろ過物を乾燥して用いても良い。あるいは、培養後の本発明の微生物を精製処理したものを用いても良い。そして、これらセレン酸化合物還元製剤には、必要に応じて本発明の効果を妨げない範囲で、各種添加剤を添加しても良い。さらに本発明の微生物を、例えば、寒天、ゲランガムなどの天然物高分子ゲル;アクリルアミド;紫外線硬化樹脂などの高分子樹脂;炭素繊維、中空子膜、不織布などの繊維;などに固定化して用いても良い。固定化は内包、表面固定のいずれでも良い。
【0053】
<セレン酸化合物の還元方法>
本発明のセレン酸化合物の還元方法は、前記第一の微生物群、第二の微生物群および第三の微生物群からなる群から選択される一種以上の微生物を、セレン酸化合物共存下において培養する工程を有するものである。なかでも、第一の微生物群から選択される一種以上の微生物、第二の微生物群から選択される一種以上の微生物および第三の微生物群から選択される一種以上の微生物を共培養することが好ましく、JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3を共培養することが特に好ましい。本発明の微生物を一種単独で培養する場合や、同一の微生物群の微生物を複数種類培養する場合よりも、異なる微生物群の微生物を複数種類共培養する方が、セレン酸化合物還元効率が高い。
異なる微生物群の微生物を複数種類共培養する場合、これら微生物(例えば、第一の微生物群の微生物、第二の微生物群の微生物および第三の微生物群の微生物)の含有比率は、前記セレン酸化合物還元製剤の場合と同様である。
【0054】
例えば、JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3を共培養することにより、従来のセレン酸化合物還元能を有する微生物を単独でまたは複数種類を共培養する場合よりも、セレン酸を金属セレンにまで速く還元できる。例えば、これまでに報告されている微生物の中でも、セレン酸化合物の還元速度が最も速いものに属すると考えられているバチルス属の微生物(特開平9−248595号公報参照)を培養した場合でも、セレン酸イオンを金属セレンにまで完全に還元するのに100時間程度を要する。これは、亜セレン酸イオンを金属セレンに還元する速度が遅いことが主な理由の一つである。これに対して、JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3を共培養した場合では、セレン酸イオンを金属セレンにまで完全に還元するのに24時間程度の時間しか要しない。これは、セレン酸イオンを亜セレン酸イオンに還元する速度、および亜セレン酸イオンを金属セレンに還元する速度のいずれもが従来よりも速いからである。
【0055】
セレン酸化合物を還元する際に用いる本発明の微生物の量は、還元を行う環境によって種々異なるが、本発明の効果を妨げない範囲で微生物の密度を高くする方が、セレン酸化合物還元活性が高くなるので好ましい。
セレン酸化合物を還元する際の、本発明の微生物の培養条件は特に限定されず、例えば、先に述べた微生物獲得時の培養条件を参考に培養すると良い。また、排水、土壌、汚泥、地下水、貯水池の水等の対象中に含まれるセレン酸化合物を還元する場合には、これら対象に、本発明の微生物の生育に必要な前記成分を適宜添加したものを培地とし、それ以外は先に述べた微生物獲得時の培養条件を参考に培養すると良い。
【0056】
本発明の微生物の植菌は、前記セレン酸化合物還元製剤を添加するか、本発明の微生物の前培養物を添加することで行うと良い。添加量は、前記還元製剤や前培養物中の本発明の微生物含有量を考慮して決めれば良い。
【0057】
<セレン酸化合物の除去方法>
本発明のセレン酸化合物の除去方法は、前記第一の微生物群、第二の微生物群および第三の微生物群からな群から選択される一種以上の微生物を、セレン酸化合物共存下において培養する工程を有するものである。
本発明の微生物の植菌や培養は、セレン酸化合物の還元方法で述べたのと同様の条件で良い。
そして、セレン酸化合物除去の対象を含有する培地に本発明の微生物を適当量植菌し培養することで、該微生物中にセレン酸化合物が取り込まれつつ取り込まれたセレン酸化合物が金属セレンに還元されるので、これを例えば、ろ過等の公知の手法で除くことで、効果的に除去対象からセレン酸化合物を除去できる。
【0058】
<金属セレンの製造方法>
本発明の金属セレンの製造方法は、前記第一の微生物群、第二の微生物群および第三の微生物群からな群から選択される一種以上の微生物を、セレン酸化合物共存下において培養する工程と、得られた培養物を分離する工程とを有するものである。
微生物をセレン酸化合物共存下において培養する工程は、例えば、前記セレン酸化合物の除去方法で述べた方法で行えば良い。そして、セレン酸化合物の還元効率が高い方法を選択すれば、金属セレンの収率も高くできる。
【0059】
得られた培養物を分離する工程では、分離方法は特に限定されず、例えば、セレン酸化合物除去対象の種類に応じて適宜選択すれば良い。具体的には、フィルターを用いてろ過しても良いし、遠心機を用いて固液分離しても良い。分離されたろ過物中には、金属セレンを菌体内に有する本発明の微生物が含まれるので、菌体内からこの金属セレンを回収できる。回収方法は、金属セレンが反応しない方法であれば、菌体の破壊を伴う公知のいずれの方法でも良い。例えば、菌体の熱分解による金属セレンの回収が挙げられる。有機物から構成される菌体に熱を加えることで、有機物をCOにまで分解し、得られた残渣中から金属セレンを回収できる。
【0060】
本発明の微生物は、セレンと同属の金属元素であるテルルの化合物、具体的にはテルル酸(HTeO)、亜テルル酸(HTeO)およびこれらの塩並びにこれらのイオン(TeO2−、TeO2−)等のテルル酸化合物に対しても同様の効果を示す。すなわち、これらを取り込んで金属テルルにまで還元できる。
【実施例】
【0061】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0062】
[実施例1]
(JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3の獲得)
前記ME培地(pH6.5〜7.0)を121℃で10分間蒸気滅菌処理を行った。次いで、クリーンベンチ内において、180℃で20分間乾熱滅菌処理を行った容量30mlのバイアル瓶に、蒸気滅菌済みの前記ME培地を20ml加えた後、孔径0.22μmのフィルターを用いて濾過滅菌処理を行った10000ppmのセレン酸を50ppmの濃度となるように添加した。
次いで、奄美大島のマングローブ林の砂泥を添加し、ブチルゴム栓およびアルミキャップで蓋をして密閉した。密閉後、孔径0.22μmのフィルターで濾過滅菌処理したアルゴンガスを培地中に通気し、培地を脱気した
次いで、25℃で培養し、2〜7日の間で培養液が赤色に着色したバイアル瓶を選別した。選別したバイアル瓶から培養液を100μl抜き取り、前記滅菌済みME培地で100倍、1000倍、10000倍希釈し、上記のセレン酸を含むME培地の寒天プレートに塗布して微生物の培養を行った。
そして、最も生育の早いコロニーを選別し、ME培地の寒天プレート上で純化を行なった結果、JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3が同時に得られた。
【0063】
[実施例2]
(JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3を共培養した場合のセレン酸イオン除去活性の評価1)
実施例1と同様にして、乾熱滅菌処理済みの容量30mlのバイアル瓶中に、セレン酸50ppmを含む滅菌処理済みME培地を密閉し、孔径0.22μmのフィルターで濾過滅菌処理したアルゴンガスを培地中に通気して、培地を脱気した。
次いで、実施例1で得られたJPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3の混合菌体を、γ線滅菌処理済みの注射針付シリンジを用いて、脱気済みの培地に対して2容量%(0.4ml)植菌した。
次いで、バイアル瓶の気相部分を、孔径0.22μmのフィルターで濾過滅菌処理したアルゴンガスで置換し、嫌気性条件下において28℃で48時間培養することで、前培養液を得た。
【0064】
クリーンベンチ内で、殺菌灯滅菌処理を10分間行った容量200mlのガラス容器に、121℃で10分間蒸気滅菌処理を行ったME培地を170ml加えた。次いで、孔径0.22μmのフィルターを用いて濾過滅菌処理を行った10000ppmのセレン酸を1mM(約42ppm)の濃度となるように前記ME培地に添加した。そしてさらに、前記前培養液を3容量%(5ml)植菌した。
植菌後、ガラス容器に天板で蓋をして、容器の気相部分を、孔径0.22μmのフィルターで濾過滅菌処理したアルゴンガスを用いて流量100ml/分で5分間置換し、嫌気性条件下において28℃で本培養を行った。
そして、原子吸光により、経時的に培地中の6価および4価のセレンの濃度を測定し、セレン酸除去活性を評価した。結果を図3に示す。図3の縦軸は、培地中の6価および4価のセレンの合計濃度を示し、横軸は、本培養の時間を示す。
【0065】
図3に示すように、6価および4価のセレンは、本培養開始から約24時間でほぼ完全に培地中から除去されたことが判った。
なお参考までに、文献「Kashiwa M,Ike M,Mihara H,Esaki N,Fujita M.Removal of soluble selenium by a selenate−reducing bacterium Bacillus sp.SF−1.Biofactors.2001;14(1−4):261−5.」に記載の、バチルス属の微生物(対照株)の6価および4価のセレン除去活性データを、本実施例データとあわせて、図4に示す。図4のグラフは、これら微生物の6価および4価のセレン除去活性を示すグラフを、軸スケールを揃えて記載したものであり、縦軸は培地中の6価および4価のセレンの合計残存率を示し、横軸は本培養の時間を示す。
前記混合菌体および前記対照株は、同一条件下で培養を行うことが困難なので、同一条件下での6価および4価のセレン除去活性を比較することはできないが、図4のグラフはそれぞれの最良な除去活性を比較するのに十分である。図4から明らかなように、本発明の微生物からなる混合菌体は、前記対照株の1/4以下の時間で6価および4価のセレンを完全に除去できることが判る。
【0066】
[実施例3]
(JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3を共培養した場合のセレン酸イオン除去活性の評価2)
実施例1と同様にして、乾熱滅菌処理済みの容量30mlのバイアル瓶中に、セレン酸30ppm、さらにJPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3を1×10cells/mlの濃度で含む滅菌処理済みME培地を30ml密閉し、培地のpHを5.0、5.5、6.2、7.0、7.6、8.2、9.0の7通りに調整し、これら培地を用いて25℃にて48時間培養を行った。そして、原子吸光により、経時的に培地中の6価および4価のセレンの濃度を測定し、セレン酸除去活性を評価した。結果を図5に示す。図5の縦軸は、培地中の6価および4価のセレンの合計除去率を示し、横軸は、培養時間を示す。
図5に示すように、pH6.2、7.0、7.6の場合に、除去率がほぼ100%となり、pH6.2、7.0の場合に除去速度が速く、特にpH6.2の場合に最も迅速に6価および4価のセレンを除去できることが確認された。
【0067】
[実施例4]
(JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3を共培養した場合のセレン酸イオン除去活性の評価3)
培地のpHを6.2とし、培養温度を23、28、32、37、40、45、60℃の7通りとしたこと以外は、実施例3と同様にセレン酸除去活性を評価した。結果を図6に示す。
図6に示すように、28、32、37℃の場合に、除去率がほぼ100%となり、28、32℃の場合に除去速度が速く、特に28℃の場合に最も迅速に6価および4価のセレンを除去できることが確認された。
【0068】
[実施例5]
(JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3を共培養した場合のセレン酸イオン除去活性の評価4)
炭素源として、ME培地中の乳酸に代わり、エタノール、メタノール、エタノール+メタノール、酢酸を添加した培地を用い、培地のpHを6.2、培養温度を28℃としたこと以外は、実施例3と同様にセレン酸除去活性を評価した。評価は、ME培地を用いた場合も同時に行った。結果を図7に示す。
図7に示すように、炭素源として乳酸、エタノールを用いた場合に、除去率が有意に高く、特に乳酸を用いた場合に最も高率で6価および4価のセレンを除去できることが確認された。
【0069】
[実施例6]
(JPCC SEP JP−1による金属セレンの製造)
pH6.2に調整した滅菌処理済みの前記ME培地30mlを、実施例1と同様にして乾熱滅菌処理済みの30ml容量のバイアル瓶に加え、JPCC SEP JP−1を植菌し、24時間純粋培養することで前培養を行った。
次いで、前記ME培地30mlを、滅菌処理済みの30ml容量のバイアル瓶に加え、さらにセレン酸イオン(6価のセレン)および亜セレン酸イオン(4価のセレン)の濃度が共に50ppmとなるようにこれらを加え、前記前培養液を2容量%植菌し、本培養を行った(n=3)。そして、本培養開始から48時間後のサンプルを、孔径0.22μmのフィルターでろ過し、フィルター上に回収されたものの内、6価および4価のセレンを原子吸光分光光度計により定量し、培養液中の6価および4価のセレンの濃度(平均値)を求め、下記式から金属セレンの回収率を算出した。結果を表12に示す。
(金属セレン回収率(%))=100−(培養液中のセレン濃度(ppm))/50(ppm)×100
【0070】
[実施例7]
(JPCC SEP JP−2による金属セレンの製造)
JPCC SEP JP−1に代わりJPCC SEP JP−2を用いたこと以外は、実施例6と同様に金属セレンの回収率を算出した。結果を表12に示す。
【0071】
[実施例8]
(JPCCY SEP−3による金属セレンの製造)
JPCC SEP JP−1に代わりJPCCY SEP−3を用いたこと以外は、実施例6と同様に金属セレンの回収率を算出した。結果を表12に示す。
【0072】
[実施例9]
(JPCC SEP JP−1およびJPCC SEP JP−2による金属セレンの製造)
JPCC SEP JP−1の前培養液を2容量%植菌する代わりに、JPCC SEP JP−1の前培養液およびJPCC SEP JP−2の前培養液をそれぞれ1容量%ずつ植菌したこと以外は、実施例6と同様に金属セレンの回収率を算出した。結果を表12に示す。
【0073】
[実施例10]
(JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3による金属セレンの製造)
JPCC SEP JP−1の前培養液を2容量%植菌する代わりに、JPCC SEP JP−1の前培養液、JPCC SEP JP−2の前培養液およびJPCCY SEP−3の前培養液を合計2容量%植菌したこと以外は、実施例6と同様に金属セレンの回収率を算出した。結果を表12に示す。
【0074】
【表12】

【0075】
JPCC SEP JP−1、JPCC SEP JP−2およびJPCCY SEP−3は、いずれもセレン酸化合物の還元能を有し、これら三種の微生物を併用した場合には、6価および4価のセレンの還元能が著しく高いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、排水、土壌および汚泥中などのセレン酸化合物の除去に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】JPCC SEP JP−1およびJPCC SEP JP−2の16SrDNAの分子系統解析の結果を示す分子系統樹である。
【図2】JPCCY SEP−3の16SrDNAの分子系統解析の結果を示す分子系統樹である。
【図3】実施例2における6価および4価のセレン除去活性を示すグラフである。
【図4】JPCC SEP JP−1およびJPCC SEP JP−2の混合菌体、並びにバチルス属の微生物(対照株)の、6価および4価のセレン除去活性を併載したグラフである。
【図5】実施例3における6価および4価のセレン除去活性を示すグラフである。
【図6】実施例4における6価および4価のセレン除去活性を示すグラフである。
【図7】実施例5における6価および4価のセレン除去活性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アエロモナス(Aeromonas)属JPCC SEP JP−1株が属する種に属する微生物、クレブシエラ(Klebsiela)属JPCC SEP JP−2株が属する種に属する微生物およびスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP−3株が属する種に属する微生物を、セレン酸化合物共存下において共培養する工程を有するセレン酸化合物の還元方法。
【請求項2】
アエロモナス(Aeromonas)属JPCC SEP JP−1株が属する種に属する微生物、クレブシエラ(Klebsiela)属JPCC SEP JP−2株が属する種に属する微生物およびスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP−3株が属する種に属する微生物を、セレン酸化合物共存下において共培養する工程を有するセレン酸化合物の除去方法。
【請求項3】
アエロモナス(Aeromonas)属JPCC SEP JP−1株が属する種に属する微生物、クレブシエラ(Klebsiela)属JPCC SEP JP−2株が属する種に属する微生物およびスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP−3株が属する種に属する微生物を、セレン酸化合物共存下において共培養する工程と、得られた培養物を分離する工程とを有する金属セレンの製造方法。
【請求項4】
アエロモナス(Aeromonas)属JPCC SEP JP−1株が属する種に属する微生物。
【請求項5】
16SrDNAの塩基配列が配列番号1に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、セレン酸化合物還元能を有するアエロモナス(Aeromonas)属に属する微生物。
【請求項6】
アエロモナス(Aeromonas)属JPCC SEP JP−1株。
【請求項7】
クレブシエラ(Klebsiela)属JPCC SEP JP−2株が属する種に属する微生物。
【請求項8】
16SrDNAの塩基配列が配列番号2に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、セレン酸化合物還元能を有するクレブシエラ(Klebsiela)属に属する微生物。
【請求項9】
クレブシエラ(Klebsiela)属JPCC SEP JP−2株。
【請求項10】
スルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP−3株が属する種に属する微生物。
【請求項11】
16SrDNAの塩基配列が配列番号3に示す塩基配列と96%以上の相同性を有し、セレン酸化合物還元能を有するスルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属に属する微生物。
【請求項12】
スルフロスピリラム(Sulfurospirillum)属JPCCY SEP−3株。
【請求項13】
請求項4〜12のいずれか一項に記載の微生物を有効成分とするセレン酸化合物還元製剤。
【請求項14】
請求項4〜12のいずれか一項に記載の微生物をセレン酸化合物共存下において培養する工程を有するセレン酸化合物の還元方法。
【請求項15】
請求項4〜12のいずれか一項に記載の微生物をセレン酸化合物共存下において培養する工程を有するセレン酸化合物の除去方法。
【請求項16】
請求項4〜12のいずれか一項に記載の微生物をセレン酸化合物共存下において培養する工程と、得られた培養物を分離する工程とを有する金属セレンの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−34099(P2009−34099A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−159224(P2008−159224)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【Fターム(参考)】