説明

新聞用紙

【課題】軽量であると共に、高耐水性で、多頻度の湿し水に対しても用紙の湿潤や伸張が抑制され、高表面強度で、紙粉によるブランケット汚れ、剣先詰まり及び色ズレがなく、適度なスベリ性を有する新聞用紙を提供すること。
【解決手段】原紙の両面に、顔料と接着剤とを主成分とする塗工剤により塗工層が形成されており、JIS P 8124に準拠して測定した坪量が35〜50g/m2であり、該顔料として無機粒子凝集体が少なくとも配合され、該接着剤としてシラノール基を有するポリビニルアルコール系共重合体が少なくとも配合され、形成された塗工層の金属−紙間のJIS P 8147に準拠して測定した静摩擦係数が0.20〜0.50であることを特徴とする、新聞用紙。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新聞用紙に関する。さらに詳しくは、軽量であると共に、高耐水性で、多頻度の湿し水に対しても用紙の湿潤や伸張が抑制され、高表面強度で、紙粉によるブランケット汚れ、剣先詰まり及び色ズレがなく、適度なスベリ性を有し、しかもインキ吸収性、色再現性、印刷面の鮮明性等にも優れ、例えば高速オフセットカラー印刷等のオフセット印刷、特に高速オフセットフルカラー印刷における高繊細印刷に好適に使用し得る新聞用紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、新聞用紙の軽量化に伴う印刷不透明度を改善するために、填料としてホワイトカーボンが多用されていた。また、炭酸カルシウムを填料として用い、光学的性質や経済性に優れ、酸性新聞用紙に匹敵する印刷適性を有する中性新聞用紙も紹介されている。
【0003】
しかしながら、紙層中への各種填料の添加は、紙層を構成するパルプ繊維間の結びつきを阻害するため、填料の増量には限界があると共に、紙粉の発生や紙質強度の低下に繋がるという問題が発生している。
【0004】
前記のごとき紙質強度の低下を防止する対策として、用紙表面に、顔料及びバインダーからなる塗工層を設け、紙質強度の低下を抑制すると共に、塗工層で不透明度を向上させ、さらには印刷適性を向上させる方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、新聞用オフセットインキのような吸収乾燥型のインキは、塗工層面で保持され易く、塗工層表面のインキが版やブランケットを汚すという問題を有している。そこで、高い吸油性を有するホワイトカーボンを用いて塗工層を形成することが考えられるが、ホワイトカーボンは紙粉や粉落ちが発生しやすく、版や湿し水等の周辺設備の汚損が発生するという問題がある。
【0006】
そこで、前記のごとき周辺設備の汚損や紙粉の発生といった問題を解決するために、ホワイトカーボンではなく他の顔料をバインダーと共に用い、表面に塗工層を設ける技術が提案されている。
【0007】
例えば特許文献1には、有機物と白色無機粒子との混合物を炭化処理、白化処理した、所定の比表面積及び白色度を有する再生顔料と、接着剤とから、原紙の少なくとも片面に塗工層を設けた印刷用塗工紙が開示されている。該印刷用塗工紙は、主な顔料としてホワイトカーボンが用いられておらず、ホワイトカーボン特有の問題点が解決され、不透明度が高く、印刷裏抜けが発生し難いものである。
【0008】
しかしながら、このような再生顔料と通常の接着剤との組み合わせでは、塗工層面で、特に新聞用オフセットインキ等のインキの吸収能に対して耐水性がバランスよく付与されず、多頻度の湿し水に対しては用紙の湿潤や伸張が生じてしまうといった問題がある。
【0009】
そこで、用紙表面の耐水性を向上させて前記湿し水に対する問題を解決するために、表面処理剤を塗布する技術が提案されている。
【0010】
例えば特許文献2には、表面処理剤が塗布、乾燥、カレンダー処理され、紙面と水との接触角が所定範囲内に調整されたオフセット印刷用新聞用紙が開示されている。該新聞用紙には、主に澱粉類成分と表面サイズ剤とを含む表面処理剤が用いられており、その表面の耐水性が良好で、オフセット印刷時の湿し水が紙に転移した後の浸透性が良好に抑制される。
【0011】
しかしながら、このような澱粉類成分と表面サイズ剤との組み合わせにより、その処理面の耐水性が向上するものの、オフセットカラー印刷における印刷光沢、印刷裏抜け、精細度等の印刷適性は、顔料塗工品と比較すると劣るものである。また新聞用紙に要求される、流通・搬送時の抗スベリ性と印刷・折加工時のスベリ性といった相反する効果が適切に発現されないという問題もある。
【特許文献1】特開2003−119695号公報
【特許文献2】特開2003−253598号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、前記背景技術に鑑みてなされたものであり、軽量であると共に、高耐水性で、多頻度の湿し水に対しても湿潤紙力を保持し、伸びが抑制され、高表面強度で、紙粉によるブランケット汚れ、剣先詰まりが生じない適度なスベリ性を有すると共に、色ズレがない新聞用紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
原紙の両面に、顔料と接着剤とを主成分とする塗工剤により塗工層が形成された新聞用紙であって、
JIS P 8124に準拠して測定した坪量が、35〜50g/m2であり、
前記顔料として、無機粒子凝集体が少なくとも配合され、
前記接着剤として、シラノール基を有するポリビニルアルコール系共重合体が少なくとも配合され、
形成された塗工層の金属−紙間の、JIS P 8147に準拠して測定した静摩擦係数が、0.20〜0.50である
ことを特徴とする、新聞用紙
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、軽量であると共に、高耐水性で、多頻度の湿し水に対しても用紙の湿潤や伸張が抑制され、高表面強度で、紙粉によるブランケット汚れ、剣先詰まり及び色ズレがなく、適度なスベリ性を有し、しかもインキ吸収性、色再現性、印刷面の鮮明性等にも優れ、例えば高速オフセットカラー印刷等のオフセット印刷、特に高速オフセットフルカラー印刷における高繊細印刷に好適に使用し得る新聞用紙が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(実施の形態)
本発明の新聞用紙は、原紙の両面に、顔料と接着剤とを主成分とする塗工剤で塗工層が形成されており、JIS P 8124に準拠して測定した坪量が35〜50g/m2で、顔料として、無機粒子凝集体が少なくとも配合され、接着剤として、シラノール基を有するポリビニルアルコール系共重合体が少なくとも配合され、形成された塗工層の金属−紙間の、JIS P 8147に準拠して測定した静摩擦係数が0.20〜0.50のものである。
【0016】
まず本実施形態に用いられる原紙について説明する。かかる原紙を構成するパルプの種類には特に限定がなく、通常の新聞用紙に用いられるパルプを適宜使用することができる。
【0017】
パルプとしては、例えばストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)等の機械パルプ;広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ;茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙、更紙古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ、離解・脱墨・漂白古紙パルプ等の古紙パルプや、これらを漂白したパルプ等があげられ、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択し、その割合を調整して用いることができる。
【0018】
本実施形態に用いる原紙は、例えば前記のごときパルプで構成されるが、かかるパルプのほかにも、例えば通常の新聞用紙に用いられる抄紙用剤を配合することができる。
【0019】
前記抄紙用剤としては、例えばカオリン、炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、ホワイトカーボン、尿素ホルムアルデヒド樹脂等の填料;水溶性重合体、ロジンエマルジョン等の内添サイズ剤;澱粉類、植物ガム、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド等の紙力増強剤;歩留まり向上剤;濾水性向上剤等があげられ、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択し、その配合量を調整して用いることができる。
【0020】
本実施形態に用いる原紙の製造方法には特に限定がなく、例えば前記パルプに抄紙用剤を添加した後、pH値等の条件を適宜調整し、長網抄紙機やギャップフォーマー抄紙機等の抄紙機を用いて通常の工程にて抄紙する方法を採用することができる。
【0021】
原紙の坪量に特に限定はないが、目的とする新聞用紙のJIS P 8124「紙及び板紙−坪量測定方法」に準拠して測定した坪量が35〜50g/m2であることを考慮して、原紙の坪量は、通常30〜45g/m2程度となるように調整することが好ましい。
【0022】
次に、原紙の両面に形成される塗工層について説明する。該塗工層は、顔料と接着剤とを主成分とする塗工剤にて形成されるものであり、顔料として、少なくとも無機粒子凝集体が、接着剤として、少なくともシラノール基を有するポリビニルアルコール系共重合体(以下、「シラノールPVA」という)が、それぞれ配合される。
【0023】
新聞用紙は、通常、その流通・搬送時の作業性の点から、積み上げ時に荷崩れしないようにスベリ性を低下させる(抗スベリ性を付与する)必要があると共に、該抗スベリ性に反して、その印刷・折加工時には適度なスベリ性を必要とする。例えば従来の、ホワイトカーボンを内添した用紙や、ホワイトカーボンを含む塗工層を表面に設けた用紙は、ホワイトカーボン自体が滑り止め剤として使用されていることからも明らかなように、スベリ性を低下させ過ぎるため、輪転機での折加工時に、いわゆる剣先詰まりという折不良を起こし易い。
【0024】
ところが、本実施形態に用いる無機粒子凝集体は、例えば後述するように、好適にはその粒子構成成分にカルシウム、ケイ素及びアルミニウムの3成分を含有した凝集体であり、得られる新聞用紙に適度なスベリ性を付与し、流通・搬送時に要求される抗スベリ性と印刷・折加工時に要求されるスベリ性といった相反する効果を適切に発現することができる。このように、塗工剤の主成分である顔料として、このような無機粒子凝集体が少なくとも配合されることが、本実施形態の大きな特徴の1つである。
【0025】
前記無機粒子凝集体としては、例えば、古紙処理工程から排出される脱墨フロスを主原料とし、該主原料を脱水工程、乾燥工程、焼成工程及び粉砕工程に供し、焼成工程において、その粒子構成成分中にカルシウム、ケイ素及びアルミニウムの3成分が含有されるように焼成凝集させたものがあげられる。
【0026】
例えばこのような無機粒子凝集体は、脱墨フロスを焼成して得られる循環使用が可能なものであるので、廃棄物としての埋立等の処分が不要であり、環境負荷の低減と、省資源化に大きく貢献するものである。また、主原料が古紙処理工程で生じる脱墨フロスであるので、安価であり、新たな天然無機鉱物の使用量を抑えることができ、製造コストが充分に削減されるという利点がある。さらにこのような無機粒子凝集体を用いることで、抄紙時の灰分歩留りが高く、例えば一般的な炭酸カルシウムとは異なり、ワイヤー摩耗等の抄紙設備の摩耗劣化を来たすことがなく、さらに樹脂成分が微細な状態下で無機粒子凝集体に吸着することで、樹脂分の凝集によるピッチトラブルを防ぎ、抄紙設備汚れを殆ど起こさず、低コストかつ高い操業性で新聞用紙を製造することができる。
【0027】
なお、前記無機粒子凝集体を製造する際には、後述するように、脱墨フロスの造粒工程、各工程間に設けられる分級工程等を経てもよい。また無機粒子凝集体の製造設備には、各種センサーを設け、被処理物や設備の状態、処理速度のコントロール等を行うことが望ましい。以下の具体的説明で示す移送流路、給送流路、配送流路、循環流路、返送流路等の各種流路は、例えば管、ダクト等で構成することができる。
【0028】
前記無機粒子凝集体の主原料は、例えば古紙から脱墨古紙パルプを製造する脱墨処理工程のフローテーション工程で発生する脱墨フロスである。特に古紙のリサイクル工程で排出される脱墨フロスが、製紙原料由来の材料からなり、鉄分やその他重金属等の不純物の混入が少ないので、好適である。そして、古紙再生工程では、あらかじめ古紙自体の選別を行うので、脱墨フロスは、その無機物の組成が経時的に安定したものであり、得られる無機粒子凝集体の組成も安定したものとなる。これら脱墨フロスには、無機物として例えば炭酸カルシウム、カオリン、タルク、二酸化チタン、シリカ、アルミナ等が含有される。なお、本発明においては、かかる脱墨フロスを無機粒子凝集体の主原料とすることが望ましく、全原料における脱墨フロスの割合は、固形分として50質量%以上、さらには60質量%以上とすることが好ましい。
【0029】
通常脱墨フロスは、例えばスクリーン等の脱水手段によって水分率が90〜97質量%程度となるように脱水し、さらにスクリュープレス等の脱水手段にて、水分率が50質量%以下、さらには25〜45質量%、特に30〜40質量%となるまで脱水することが好ましい。水分率が50質量%を超えると、次の乾燥工程での乾燥エネルギーコストが大きくなったり、乾燥後の粒度にバラツキが生じる原因となり、結果として均一な焼成が困難になる恐れがあるほか、一次焼成炉における処理温度の低下を招き、加熱時のエネルギーロスが多大になるとともに、原料の焼成ムラが生じ易くなり、均一な焼成を進め難くなる恐れがある。さらに、排ガス中の水分が多くなり、ダイオキシン対策における再燃焼処理効率の低下と、排ガス処理設備の負荷が大きくなる場合がある。逆に水分率が25質量%未満となるまで脱水すると、脱水設備が大型化するとともに、脱水エネルギーコストが大きくなる恐れがある。
【0030】
得られた脱水脱墨フロス(脱水物)は、あらかじめ乾燥される。乾燥手段としては、熱風乾燥等の公知の手段が使用可能であるが、脱墨フロスを乾燥させながらほぐすことが可能であり、さらに比重分級も可能な熱風乾燥手段を最も好適に使用することができる。
【0031】
好適に使用することが可能な熱風乾燥手段を具体的に例示すると、脱水物を、インペラ等のほぐし設備にて、4000μm以下、さらには300〜3000μm、特に500〜2000μmの体積平均粒子径となるようにほぐしながら、インペラ設備下方に設けた熱風吹出し手段にて熱風を吹き込み、熱風乾燥を行う。ほぐされ、乾燥された脱墨フロスのうち、比重の軽い脱墨フロスを、熱風乾燥手段の上部に設けた取出し口から排出させることで、乾燥と分級とを行うことができる。なお、乾燥脱墨フロスの分級には、好適な手段として、サイクロンによる分級手段を採用することもできる。
【0032】
また乾燥・文級された脱墨フロス(乾燥物)の粒揃えは、粒子径の体積分布において5000μm以下の粒子が70質量%以上、さらには72質量%以上、特に80質量%以上となるように調整することが特に好ましい。このように、乾燥物を、粒子径が5000μm以下の粒子が70質量%以上となるように製造すると、得られる無機粒子凝集体の品質がより均一になり、実用化の可能性をさらに高めることができる。
【0033】
前記熱風乾燥手段を採用する際の熱風の温度は、乾燥工程に供する脱水物の水分率や、目的とする乾燥物の水分率を考慮して適宜調整することが好ましいが、例えば100〜200℃程度とすることが好ましい。
【0034】
かくして乾燥工程を経た乾燥物の水分率は、2〜20質量%程度、さらには5〜15質量%程度に調整されていることが好ましい。乾燥物の水分率が2質量%よりも低いと、次の焼成工程で過焼する恐れがあり、逆に20質量%よりも高いと、乾燥不足により、焼成を確実に行うことが困難となる恐れがある。
【0035】
次に、乾燥・分級された脱墨フロスは、焼成工程に送られる。焼成は、例えばロータリーキルン、流動床炉、浮遊炉、ストーカ炉等、通常用いられている焼却炉を用いて行うことができ、中でも、熱風炉や電気炉による間接加熱による方法が、焼成温度コントロール、焼成度合いの微調整が容易であるという点から特に好適である。例えばロータリーキルンを用いた焼成においては、直接加熱による焼成や間接加熱による燃焼を、単独で、又は組み合わせて行うことができる。例えば、一次焼成炉による一次焼成を直接加熱キルン炉、特に内熱キルン炉で、二次焼成炉による二次焼成を間接加熱キルン炉、特に焼成温度の調整が容易に可能な外熱キルン炉で、各々行う方法を採用することができる。
【0036】
焼成工程は、一段階焼成とすることもできるが、少なくとも二段階焼成とすることが好ましく、連続する設備により少なくとも二段階焼成とすることがより好ましい。焼成工程が少なくとも二段階であると、有機物の燃焼による焼成において焼成ムラが生じにくく、満遍なく焼成を進めることが可能になる。特に焼成工程における物理的手段を相違させることで、偏った焼成を避け、焼成速度の向上を図ることが可能である。
【0037】
焼成温度は、脱墨フロス中のカーボンブラック等のインキ顔料や、繊維、ポリマー等の有機系化合物を燃焼し、その粒子中に、カルシウム、ケイ素及びアルミニウムの3成分が含有されるように、かかる焼成工程において凝集された無機粒子凝集体が形成されるのに充分かつ安定した温度であればよく、特に限定されるものではない。
【0038】
脱墨フロス中にシリカが含まれる場合には、シリカがカルシウム及びアルミニウムと反応し、硬度の高いケイ酸アルミニウムカルシウム等が生成する恐れがある。このような硬度の高い物質の生成を防止するために、例えば、500℃以下の温度で焼成することが検討されるが、このような条件では、有機化合物を完全燃焼させることが難しく、顔料として有用なレベルの白色度を有する無機粒子凝集体を得ることが困難となる恐れがある。
【0039】
一方、焼成温度が1000℃を超えると、脱墨フロス中に含まれる炭酸カルシウム、カオリン、タルク、二酸化チタン、シリカ、アルミナ等の無機物の分解及び焼結が進み、高硬度化するため、得られた無機粒子凝集体を所望の粒子径にまで粉砕するのに多大のエネルギーや時間を要する恐れがある。
【0040】
このように、焼成温度は、製造される無機粒子凝集体の白色度、硬度に大きな影響力を有するので、焼成条件としては、一次焼成が500〜650℃で、二次焼成が550〜750℃で行われることが好ましく、一次焼成が530〜630℃で、二次焼成が600〜730℃で行われることがより好ましい。一次焼成温度が500℃未満である場合には、未燃物の残量が多く、無機粒子の凝集体形成が不充分であり、例えば得られる無機粒子凝集体の白色度が充分に向上しない恐れがある。逆に一次焼成温度が650℃を超える場合には、脱墨フロスに含まれる炭酸カルシウムの多くが熱分解し、再資源としての使用が難しい、酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム等の高pH化要因物質が多く生じる恐れがあり、また得られる無機粒子凝集体に熱溶融が生じ、極めて硬くワイヤー摩耗性が低下する恐れがある。一方、二次焼成温度が550℃未満である場合には、有機物の燃焼が不充分になったり、焼成ムラが生じ、得られる無機粒子凝集体の白色度が向上しない恐れがある。逆に二次焼成温度が750℃を超える場合には、焼成されて凝集した無機粒子凝集体の表面が高温に晒され、溶融が生じて極めて硬い溶融物を形成する恐れや、無機粒子の表面の高温化による燃焼のため、酸素が無機粒子芯部にまで行き届き難く、焼成ムラや未焼成部位の発生が懸念されることがある。また、二次焼成温度を一次焼成温度よりも50〜120℃高くすることで、無機粒子凝集体の表面の過焼を防止しながら、未燃物を燃焼させることができる。
【0041】
なお、勿論、二次焼成温度を一次焼成温度と同温度とすることもできる。二次焼成温度を一次焼成温度と同温度とする場合は、例えば530〜730℃とすると、緩慢に焼成が進行し、未燃物を減少させることができ、充分な白色度を有する無機粒子凝集体を得ることができる。なお、本実施形態において、一次焼成温度と二次焼成温度との温度差は、焼成炉内上端部の温度を基準とする。
【0042】
焼成工程は、この工程内に空気を送風する手段及びこの工程内から空気を排気する手段の少なくともいずれか一方によって、焼成工程内酸素濃度が0.05%以上に、さらには0.1%以上に調節されることが好ましく、また20%以下に調節されることが好ましい。特に、この焼成工程内酸素濃度は、一次焼成炉内上端部で0.2〜20%に、さらに好ましくは1〜15%に、特に好ましくは5〜12%に調節されることが望ましく、二次焼成炉のバーナー近傍で5〜20%に、さらに好ましくは10〜20%に、特に好ましくは15〜18%に調節されることが望ましい。一次焼成炉内上端部での酸素濃度が0.2%未満であると、焼成が進まず、ムラのある焼成が進むだけでなく、焼成に膨大な時間とエネルギーコストとが必要になる恐れがある。他方、二次焼成炉のバーナー近傍での酸素濃度が20%を超えると、過焼しやすく、過焼ムラにより無機粒子凝集体が黄変化するととともに、無機粒子凝集体の溶融が多発して分解や酸化が進み、顔料としての活用が困難になる場合がある。また、本実施形態においては、焼成工程に供給される、乾燥・分級された脱墨フロス(乾燥物)の水分率が、好ましくは2〜20質量%程度、より好ましくは5〜15質量%程度に調整されているため、焼成工程内酸素濃度を0.05〜20%とすると、極めて効率よく焼成を進行させることができ、焼成を90分間以内で行うことが可能になり、極めて高い生産性を得ることができる。例えば、乾燥物の水分率を10質量%とすることで、焼成を約60分間で行うことができる。
【0043】
なお、焼成工程内の酸素は、焼成させるためのバーナー等によって消費され、焼成工程内酸素濃度が低下するが、空気等の酸素含有ガスを送風し、あるいは排気することで、酸素濃度を維持、調節することが可能であり、さらに酸素含有ガスを送風し、あるいは排気することで、焼成工程内の温度を細かく調節することが可能になり、無機粒子凝集体をムラなく万遍に焼成することができる。
【0044】
焼成工程における滞留時間には特に限定がなく、前記焼成温度や焼成工程内酸素濃度等の条件に応じて、充分に焼成が行われるように調整すればよいが、例えば一次焼成炉内での滞留時間が30〜90分間、さらには40〜80分間、特に50〜70分間となるように、また二次焼成炉内での滞留時間が10〜60分間、さらには15〜45分間、特に20〜40分間となるように調整することが好ましい。
【0045】
なお、一次焼成炉での焼成は、未燃率が5〜30質量%、さらには8〜25質量%、特に10〜20質量%となるように行うことが好ましい。一次焼成後の未燃率が5質量%未満では、焼成における粒子表面の過焼が生じ、表面が硬くなるとともに、内部の酸素不足が生じ、無機粒子凝集体の白色度が低下する恐れがある。他方、一次焼成後の未燃率が30質量%を超えると、後の燃焼焼成後においても未燃分が残ったり、未燃分の自燃による過焼成により粒子が硬化したり、未燃分が残るのを防止するために粒子表面が過焼するまで燃焼焼成してしまい、無機粒子凝集体表面が硬くなる恐れがある。
【0046】
前記焼成後の粒子は、粉砕工程にて適宜必要な粒径に微細粒化し、該粉砕工程後に微細粒子を凝集させることなく、顔料として使用可能な無機粒子凝集体とすることができる。
【0047】
例えば、焼成して得られた粒子を、ジェットミルや高速回転式ミル等の乾式粉砕機、又はアトライター、サンドグラインダー、ボールミル等の湿式粉砕機を用いて粉砕し、目的とする無機粒子凝集体とすることができる。顔料としては、粒径が均一化、微細化されていることが好ましく、粒子径の体積分布において20μm以下である凝集体の割合が70質量%以上であることが好ましい。
【0048】
無機粒子凝集体について、さらなる品質の安定化を求める場合には、無機粒子凝集体の粒度を各工程で均一に揃えるための分級を行うことが好ましく、粗大粒子や微小粒子を前工程にフィードバックすることが望ましい。
【0049】
また、乾燥工程の前段階において、脱水処理を行った脱墨フロスを造粒することが好ましく、さらには造粒物の粒度を均一に揃えるための分級を行うことがより好ましく、粗大造粒粒子や微小造粒粒子を前工程にフィードバックすることで、より品質の安定化を図ることができる。なお造粒には、通常の造粒設備を使用することができ、例えば回転式、攪拌式、押出式等の設備が好適である。
【0050】
さらに、無機粒子凝集体以外の異物を除去することが好ましく、例えば脱墨古紙パルプの製造工程において、脱墨工程の前段階のパルパーやスクリーン、クリーナー等で、砂、プラスチック異物、金属等を除去することが、除去効率の面で好ましい。特に鉄分は、酸化することによって無機粒子凝集体の白色度を低下させる恐れがあるので、鉄分の混入を避け、選択的に取り除くことが好ましい。各工程における設備を鉄以外の素材で設計又はライニングし、摩滅等により鉄分が系内に混入することを防止するとともに、乾燥・分級設備内等に磁石等の高磁性体を設置し選択的に鉄分を除去することが好ましい。
【0051】
なお、前記乾燥工程や焼成工程、及び必要に応じて分級工程において、粉砕工程前にあらかじめ、粒子径が40μm以下の粒子が80質量%以上、さらには90質量%以上となるように処理しておくことが好ましい。これにより、通常行われている乾式粉砕による粗大粒子の粉砕及び湿式粉砕による微粒子化といった複数段の粉砕処理を行うことなく、湿式粉砕による一段粉砕処理も可能となる。またこれにより、レーザー粒径分布測定装置(レーザー回折式粒度分布測定装置 SALD−2200型、標準屈折率(1)にて測定、(株)島津製作所製)による粒度分布の微分曲線における平均粒子径のピーク高さを30%以上とすることができる。さらには主原料である脱墨フロス中のカルシウム、ケイ素及びアルミニウムを、あらかじめ、例えば後述する質量割合に調整することで、無機粒子凝集体の細孔容積を0.15〜0.60ml/g、細孔表面積を10〜25m2/g、細孔半径を30〜100nmとすることもでき、無機粒子凝集体の分散性や新聞用紙の白紙不透明度を向上させることができる。
【0052】
さらに本発明においては、顔料である無機粒子凝集体として、前記のごとき工程を経て得られた無機粒子凝集体の表面をシリカで被覆した、シリカ被覆無機粒子凝集体も好適に用いることができる。
【0053】
表面をシリカで被覆したシリカ被覆無機粒子凝集体は、その表面が高い多孔性を有し、比表面積が飛躍的に高くなっているので、後述するように、接着剤であるシラノールPVAとの結合力がさらに向上すると共に、例えば新聞用オフセットインキの吸収乾燥性をさらに向上させ、印刷濃度の向上をより充分に図ることができると共に、印刷不透明度をさらに向上させることができる。
【0054】
なお、本実施形態に用いられる古紙処理工程にて生じる脱墨フロスは、近年の中性抄紙化に伴い、炭酸カルシウムの含有量が増加傾向にあり、得られる無機粒子凝集体中のカルシウムの割合も高くなる傾向がある。このようにカルシウムの割合が高い無機粒子凝集体を顔料として用いると、得られる新聞用紙の白紙不透明度がやや低下する場合があるが、表面にシリカを析出させたシリカ被覆無機粒子凝集体は、製紙用途の無機粒子としての機能が非常に高く、該シリカ被覆無機粒子凝集体を顔料として用いた新聞用紙は、その白紙不透明度及び吸油性が充分に向上する。
【0055】
無機粒子凝集体の表面を被覆するシリカについては、天然に産出するシリカではなく、何らかの化学反応による合成シリカであれば特に制限なく使用することが可能である。具体的には、例えばコロイダルシリカ、シリカゲル、無水シリカ等があげられる。これらの合成シリカは、高比表面積、ガス吸着能の高さ、微細性、細孔への浸透力や吸着力の大きさ、付着性の高さ、高吸油性等の優れた特性を活かして、幅広い分野で利用されているものである。これらのうち、コロイダルシリカは、ケイ酸化合物から不純分を除去して無水ケイ酸ゾルとし、pH及び濃度を調整してゾルを安定化させた、球状、連鎖状、不定形等の形状を有する非晶質シリカである。シリカゲルは、ケイ酸ナトリウムを無機酸で分解することによって得られる含水ケイ酸である。また無水シリカは、四塩化ケイ素の加水分解によって得られるものである。
【0056】
無機粒子凝集体の表面にシリカを析出させ、シリカ被覆無機粒子凝集体を得る方法には特に限定がないが、例えば以下の方法を好適に採用することができる。
【0057】
まず、無機粒子凝集体をケイ酸アルカリ溶液に添加、分散させ、スラリーを調製した後に加熱攪拌しながら、液温を60〜100℃程度、より好ましくは密閉容器内で所定の圧力に保持して酸を添加し、シリカゾルを生成させる。次いで最終反応液のpHを中性〜弱アルカリ性の範囲に調整することにより、無機粒子凝集体の表面にシリカを析出させることができる。このようにして無機粒子凝集体の表面に析出されるシリカは、ケイ酸アルカリ(例えばケイ酸ナトリウム:水ガラス)を原料として、硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸の希釈液と高温下で反応し、加水分解反応とケイ酸の重合化により得られる、粒子径が10〜20nm程度のシリカゾル粒子である。
【0058】
また、ケイ酸ナトリウム溶液等のケイ酸アルカリ溶液に希硫酸等の酸を添加することによって生成する、粒子径が数nm程度のシリカゾル微粒子を、無機粒子凝集体の多孔性を有する表面全体を被覆するように付着させ、該シリカゾル微粒子の結晶成長に伴う、無機微粒子表面上のシリカゾル微粒子と無機粒子凝集体に包含されるケイ素やカルシウム、アルミニウムとの間で生じる結合により、無機粒子の表面にシリカを析出させることもできる。この場合、ケイ酸アルカリ溶液に酸を添加する際のpHも、中性〜弱アルカリ性の範囲とし、好ましくはpHを8〜11の範囲に調整する。これは、pHが7未満の酸性条件になるまで酸を添加してしまうと、シリカゾル粒子ではなくホワイトカーボンが生成する恐れが生じるからである。
【0059】
なお、前記ケイ酸アルカリ溶液の種類には特に限定がないが、入手が容易である点からケイ酸ナトリウム溶液(3号水ガラス)が特に望ましい。かかるケイ酸アルカリ溶液の濃度としては、無機粒子凝集体中のシリカ成分が低下し、無機粒子凝集体の表面にシリカが析出し難くならないようにするには、溶液中のケイ酸分(SiO2換算)が3質量%以上であることが好ましく、無機粒子凝集体の表面に析出されるシリカが、シリカゾルの形態からホワイトカーボンになり、無機粒子凝集体の多孔性が阻害され、不透明度や印刷適性の向上効果が不充分になる恐れをなくすには、かかるケイ酸分が10質量%以下であることが好ましい。
【0060】
このように、本実施形態に好適に用いられる無機粒子凝集体は、好ましくは、その粒子構成成分中に、カルシウム、ケイ素及びアルミニウムの3成分を含有している。X線マイクロアナライザー(型番:E−MAX・S−2150、(株)日立製作所/(株)堀場製作所製)による元素分析において、該無機粒子凝集体の粒子構成成分には、酸化物換算で、カルシウムとケイ素とアルミニウムとが、30〜82:9〜35:9〜35、さらには40〜82:9〜30:9〜30、特に60〜82:9〜20:9〜20の質量割合で含有されていることが好ましい。
【0061】
また、特に無機粒子凝集体がシリカ被覆無機粒子凝集体である場合には、前記X線マイクロアナライザーによる元素分析において、該シリカ被覆無機粒子凝集体の粒子構成成分には、酸化物換算で、カルシウムとケイ素とアルミニウムとが、10〜80:10〜80:5〜29、さらには15〜80:15〜80:5〜25の質量割合で含有されていることが好ましい。
【0062】
なお、前記無機粒子凝集体(以下、シリカ被覆無機粒子凝集体を含む概念として記載する)において、酸化物換算のカルシウムとケイ素とアルミニウムとの合計含有割合は、無機粒子凝集体の粒子構成成分中の85質量%以上、さらには90質量%以上であることが好ましい。
【0063】
本発明に用いられる無機粒子凝集体は、ケイ素を含むところ、ケイ素からなるシリカの粒子は微細なので、光学的屈折率が高い。したがって、例えばケイ素が酸化物換算で前記質量割合以上含有されている無機粒子凝集体が顔料として表面に塗工された新聞用紙は、白紙不透明度が特に高い。
【0064】
また、例えばカルシウムが酸化物換算で前記質量割合以上含有された無機粒子凝集体が顔料として表面に塗工された場合には、特に得られる新聞用紙の白色度を向上させることができる。
【0065】
無機粒子凝集体の粒子構成成分中のカルシウムとケイ素とアルミニウムとの質量割合を、酸化物換算で前記範囲内に調整するには、本来、脱墨フロスにおける原料構成を調整することが好ましいが、乾燥工程や焼成工程、さらには必要に応じて分級工程において、由来が明確な塗工フロスや調整工程フロスをスプレー等で含有させる方法や、焼却炉スクラバー石灰を含有させる方法を採用することも可能である。
【0066】
例えば、無機粒子凝集体中のカルシウムの調整には中性抄紙系の排水スラッジや、塗工紙製造工程の排水スラッジを、ケイ素の調整には不透明度向上剤として多量添加されている塗工紙製造系の排水スラッジを、アルミニウムの調整には酸性抄紙系等の硫酸バンドが使用された抄紙系の排水スラッジや、クレーの使用量が多い上質紙抄造工程の排水スラッジを適宜用いることができる。
【0067】
また無機粒子凝集体において、カルシウムとケイ素とアルミニウムとの合計含有割合を酸化物換算で85質量%以上に調整するには、例えば排水スラッジの凝集処理に鉄分を含有しない凝集剤を使用する手段、製造設備工程を鉄以外の素材で設計又はライニングし、摩滅等により鉄分が系内に混入するのを防止したり、さらには乾燥・分級設備内に磁石等の高い磁性体を設置して鉄分を除去する手段等を採用することが可能である。特に鉄分は、酸化により白色度を低下させる起因物質になるため、選択的に除去することが好ましい。
【0068】
また無機粒子凝集体にはケイ素が含まれるが、該ケイ素からなるシリカの1次粒子は微細であるので、光学的屈折率が高い。したがって、例えばケイ素が酸化物換算で前記質量割合以上含有された無機粒子凝集体を顔料として表面に塗工した場合には、特に得られる新聞用紙の白紙不透明度を向上させることができる。
【0069】
本発明に好適に用いられる無機粒子凝集体の粒子径は、例えば高速オフセット印刷等の印刷における紙粉の発生を充分に防止し、かつ適度なスベリ性を容易に付与するという点から、体積平均粒子径が5μm以上、さらには6μm以上であることが好ましく、また精細な印刷面や、より迅速なインキ吸収乾燥性及び用紙表面でのインキ定着性を得るという点から、体積平均粒子径が15μm以下、さらには13μm以下であることが好ましい。
【0070】
また前記無機粒子凝集体は、多孔性を有する凝集体であり、例えば新聞用オフセットインキを、用紙表面でより迅速に吸収乾燥することができるという点から、後述するようにして原紙の両面に形成された塗工層表面に、該無機粒子凝集体由来の突出が存在することが好ましい。このような無機粒子凝集体由来の突出が塗工層表面に存在した場合には、印刷時に、無機粒子凝集体のクッション性によって版との密着性を阻害することなく、版の印字を用紙面にさらに緻密に再現することができる。
【0071】
さらに本発明に好適に用いられる無機粒子凝集体は、粒子径の体積分布において20μm以下である凝集体の割合が70質量%以上に、かつ該粒子径の体積分布において18μmを越える凝集体の割合が0.5質量%以下に調整されていることがより好ましい。
【0072】
なお本明細書において、無機粒子凝集体の体積平均粒子径及び体積分布は、レーザー粒径分布測定装置(レーザー回折式粒度分布測定装置 SALD−2200型、標準屈折率(1)にて測定、(株)島津製作所製)にて測定した値(レーザー解析に基づく値)をいう。
【0073】
さらに前記無機粒子凝集体は、JIS K 5101−13−1に記載の「顔料試験方法−第13部:吸油量−第1節:精製あまに油法」に準拠した吸油量が、80ml/100g以上、さらには90ml/100g以上であることが好ましく、また200ml/100g以下、さらには145ml/100g以下であることが好ましい。該無機粒子凝集体の吸油量が80ml/100g未満では、白紙不透明度と印刷不透明度との差が少なく、印刷の裏抜けが生じたり、ネッパリが生じる恐れがあり、200ml/100gを超えると、紙面pHが高めに推移する傾向があり、インキ濃度が低下する恐れがある。
【0074】
本実施形態において、新聞用紙により適度なスベリ性が付与され、高い不透明度やインキ吸収乾燥性が確保されるようにするには、無機粒子凝集体の量が、顔料全量の70質量%以上となるように調整することが好ましい。
【0075】
なお、顔料として前記無機粒子凝集体が少なくとも配合されるが、これ以外にも、本発明の目的を阻害しない範囲で、例えばカオリン、エンジニアードカオリン、クレー、デラミネーテッドクレー、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、ゼオライト、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ケイ酸、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、サチンホワイト等の無機顔料や有機顔料を、単独で又は2種類以上を同時に配合することができる。
【0076】
次に、前記顔料と共に塗工剤の主成分である接着剤について説明する。本実施形態において、前記接着剤としては、少なくともシラノールPVAが配合される。
【0077】
オフセット印刷用新聞用紙には、従来より一般に、澱粉類、ポリビニルアルコール(以下、「PVA」という)、ポリアクリルアミド(以下、「PAM」という)等の高分子材料を含む外添塗布剤が原紙の表面に塗布されている。このような外添塗布剤は、紙粉の発生を抑制する効果はあるが、塗布量を多くすると、多色(カラー)印刷におけるインキ吸収ムラや印刷時のブランケットへの貼り付きといった問題が生じる。
【0078】
そこで、本実施形態では、塗工剤の主成分である接着剤として、少なくともシラノールPVAが配合され、このことが本実施形態の大きな特徴の1つである。該シラノールPVAとは、ケイ素含有ビニル系単量体と酢酸ビニルとを共重合させた後にケン化することにより、酢酸ビニル単位がビニルアルコールに、ケイ素含有単位がシラノール基に、それぞれ転換されて得られるものであり、0.1〜1モル%程度の少量のケイ素含有ビニル系単量体が共重合されたものである。
【0079】
前記シラノールPVAは、おそらく、シリカ基を有する無機微粒子に対して極めて高い結合能力を有しており、一般のPVAと比較して、新聞用紙に通常使用されるホワイトカーボンやタルク等の無機顔料と特異的に結合する性質を有していると考えられる。また、澱粉類やPAMといった他の外添塗布剤と比較して、耐水性が高く、オフセット印刷時の湿し水によって、用紙からブランケットへの外添塗布剤の溶出が起こり難いものと推定される。
【0080】
ところが、例えば通常顔料として多用されるホワイトカーボンと、該シラノールPVAとを組み合わせたとしても、ホワイトカーボンの有する極めて高い吸油性により、印刷時にインキが塗工層面で飽和状態になり、紙面やブランケットの汚れが生じたり、印刷後に裏移りが発生する問題を解決することはできない。
【0081】
しかしながら、本実施形態では、顔料として前記無機粒子凝集体が少なくとも配合されており、該無機粒子凝集体が、シラノールPVAと強力に結合しながら、適度なインキ吸収能を発現するので、例えばホワイトカーボンを使用する場合とは比較にならないほど、耐水性が高く、多頻度の湿し水に対しても用紙の湿潤や伸張が抑制され、高表面強度で、紙粉によるブランケット汚れ、剣先詰まり及び色ズレがなく、適度なスベリ性を有し、しかもインキ吸収性、色再現性、印刷面の鮮明性等にも優れた新聞用紙を得ることができる。
【0082】
本実施形態において、前記シラノールPVAとしては、通常水溶性で、例えば平均重合度が500〜4000のものが好適に使用される。該平均重合度が500未満では、充分な表面強度の確保が困難となる傾向があり、逆に4000を超えると、粘度の上昇を招き塗工ムラや操業性が低下する傾向がある。また、シラノールPVAの粘度は、5質量%濃度で、0.03〜1Pa・sのものが特に好ましく用いられる。該粘度が0.03Pa・s未満では、塗工剤が紙層内部に浸透してしまい、用紙の表層で紙粉の発生を抑制する効果が低下する傾向があり、逆に1Pa・sを超えると、用紙表面のバリヤー性が強くなり過ぎ、印刷インキの浸透ムラ等が誘発され易く、印刷ムラが生じる傾向がある。さらに、シラノールPVAのケン化度は、通常90モル%以上であることが、粘着性が低く、ネッパリによるトラブルを起こし難いので好ましい。
【0083】
前記シラノールPVAの具体例としては、例えば、Rポリマー(試供品(品番):R−F、R−G1;一般市販品(品番):R−1130、R−2105、R−2130等、(株)クラレ製)が例示される。これらは、造膜性に優れ、各種無機物との化学的結合体の形成能高いことが特徴である。
【0084】
本実施形態において、前記無機粒子凝集体との結合能力が充分に発現されるようにするには、シラノールPVAの量が、接着剤全量の5質量%以上、さらには10質量%以上となるように調整することが好ましく、また無機粒子凝集体の配合量に対して過剰量配合しても、両者を組み合わせることによる効果は期待できないので、該無機粒子凝集体の配合量とのバランスを考慮しながら、例えば接着剤全量の50質量%以下、さらには40質量%以下となるように調整することが好ましい。
【0085】
本実施形態では、シラノールPVAの他に、その効果を妨げない範囲で適宜他の接着剤を併用することができる。他の接着剤としては、例えば、酸化澱粉、カチオン化澱粉等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等の水溶性セルロース化合物;スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−メタクリル酸エステル共重合体ラテックス等の合成ラテックス類;シラノールPVA以外の通常のPVA類やPAM類、カゼイン等があげられ、これらは単独で又は2種類以上を同時に配合することができる。
【0086】
塗工剤中の顔料と接着剤との割合には特に限定がないが、接着剤の量が少なすぎて、塗工層の形成性が低下しないようにするには、固形分比で、顔料100質量部に対して接着剤が10質量部以上、さらには15質量部以上となるように調整することが好ましく、逆に顔料の量が少なすぎて、得られる新聞用紙に適度なスベリ性、色再現性、印刷面の鮮明性を付与する効果が充分に発現されない恐れをなくすには、固形分比で、顔料100質量部に対して接着剤が30質量部以下、さらには25質量部以下となるように調整することが好ましい。
【0087】
また、本実施形態に用いる塗工剤中には、前記顔料及び接着剤の他にも、例えば表面サイズ剤、消泡剤、防腐剤等の、製紙分野で通常使用される添加剤を適宜配合することができる。
【0088】
塗工剤を調製する方法には特に限定がなく、顔料及び接着剤、必要に応じて各種添加剤等の配合割合を適宜調整し、適切な温度にて均一な組成となるように撹拌混合し、例えば固形分濃度が1〜10質量%程度となるようにすればよい。
【0089】
前記塗工剤を原紙の両面に塗工して塗工層を形成する。塗工に用いられる塗工装置には特に限定がなく、例えば2ロールサイズプレス、ブレードメタリングサイズプレス、ロッドメタリングサイズプレス、ゲートロールコーター、ブレードコーターバーコーター、ロッドブレードコーター、エアーナイフコーターなどを適宜使用することができる。これらのなかでは、ゲートロールコーターを特に好適に用いることができる。
【0090】
塗工層を形成する際の塗工剤の塗工量は、塗工層に充分な表面強度を付与するためには、原紙の片面あたり、固形分で0.2g/m2以上、さらには0.5g/m2以上であることが好ましく、またネッパリ性が高くなり、ブランケットへの貼り付き、断紙などのトラブルが生じないようにするためには、原紙の片面あたり、固形分で10g/m2以下、さらには8g/m2以下、特に2g/m2以下であることが好ましい。
【0091】
なお、前記塗工剤中、シラノールPVAとしての塗工量は、塗工層に充分な表面強度を付与するためには、原紙の片面あたり、固形分で0.002g/m2以上であることが好ましく、またネッパリ性が高くならないようにするためには、原紙の片面あたり、固形分で0.084g/m2以下であることが好ましい。
【0092】
また塗工剤を原紙に塗工する際の塗工速度は、原紙の両面に所望の塗工層が形成される限り特に限定がなく、通常の新聞用紙を製造する際の抄紙速度程度であればよい。
【0093】
本実施形態において、例えば前記塗工装置を用い、原紙の両面に前記塗工量で塗工剤を塗工した後、乾燥させて塗工層を形成させるが、必要に応じて、その表面に平坦化処理を施して仕上げを行うことができる。かかる平坦化処理の際には、例えばスーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトカレンダー等のカレンダー設備を用いることができる。
【0094】
かくして得られる本発明の新聞用紙は、配達や運送における軽量化、高速輪転印刷における紙質強度の確保、印刷不透明性の確保という点から、JIS P 8124「紙及び板紙−坪量測定方法」に記載の方法に準拠して測定した坪量が、35g/m2以上、好ましくは38g/m2以上であり、またその軽量化の点から、かかる坪量が、50g/m2以下、好ましくは48g/m2以下である。
【0095】
本発明の新聞用紙に形成された塗工層には、前記したように、顔料として無機粒子凝集体が少なくとも配合されており、該無機粒子凝集体により、新聞用紙では、流通・搬送時に要求される抗スベリ性と印刷・折加工時に要求されるスベリ性との相反する効果が適切に発現される。かかる効果は、形成された塗工層の金属−紙間の静摩擦係数で評価され、該静摩擦係数は0.20以上、好ましくは0.22以上であり、0.50以下、好ましくは0.48以下である。
【0096】
本明細書において、塗工層の金属−紙間の静摩擦係数とは、JIS P 8147「紙及び板紙の摩擦係数試験方法」に記載の方法に準拠して、定速伸張引張試験機(型番:AGS−500B、(株)島津製作所製)により、各試料の測定面に垂直に掛かる引張りに抵抗する力を測定した値であり、具体的には以下のような試験を行って得られる。
【0097】
すなわち、本体及び錘からなる測定装置で、錘として長方形の平らな底面を持つ金属製のブロックを用いた。このような測定装置の本体水平板及び錘に、それぞれ測定面を外側にして試験片を取り付け、一定速度で錘を引張り、錘が滑り始める瞬間の最大の張力から得られる値が静摩擦係数であるが、特別に、金属−紙間の静摩擦係数を得るために、本体水平板に表面平均粗さRaが0.4±0.02の滑らかな金属を取り付け、錘のみに試験片を設置して測定した。表裏面の測定値の平均を求め、この平均値を、本明細書における金属−紙間の静摩擦係数とした。
【0098】
また新聞用紙の印刷不透明度は、88%以上、さらには90〜95%程度であることが好ましい。かかる印刷不透明度が88%未満であると、例えばオフセット印刷後の印刷物の見映えが低下する恐れがある。
【0099】
次に、本発明の新聞用紙を以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0100】
参考例1〜12(無機粒子凝集体又は無機粒子の製造)
原料として脱墨フロス(脱墨古紙パルプを製造する古紙処理工程のフローテーション工程から排出された脱墨フロス、固形分で100質量%)又は製紙スラッジを用い、表1に示す条件にて脱水工程、乾燥工程及び焼成工程を順次行い、焼成工程にて粒子を凝集させた後(参考例1〜9のみ)、湿式粉砕処理を施し、無機粒子凝集体1〜9又は無機粒子10〜12を得た。
【0101】
なお、参考例5〜9においては、無機粒子凝集体をケイ酸ナトリウム溶液(水ガラス)に添加、分散させてスラリーを調製した後、加熱攪拌しながら、以下に示す液温に保持して希硫酸を添加し、シリカゾルを生成させた。次いで最終反応液を以下に示すpHに調整し、無機粒子凝集体の表面にシリカを析出させてシリカ被覆無機粒子凝集体を得た。
液温(℃) :90℃
最終反応液(pH):9
【0102】
得られた無機粒子凝集体(及びシリカ被覆無機粒子凝集体)又は無機粒子について、その粒子構成成分中のカルシウム、ケイ素及びアルミニウムの含有量(酸化物換算)、カルシウム、ケイ素及びアルミニウムの合計含有割合(酸化物換算)、体積平均粒子径、粒子径の体積分布において20μm以下である凝集体の割合、吸油量、外観、ワイヤー摩耗度、生産性及び品質安定性について調べた。これらの結果を表2及び表3に示す。
【0103】
なお、表1〜表3に示す各種測定値は、以下の方法にて測定した。
【0104】
(ア)脱水物及び乾燥物の水分率
試料を採取し、JIS P 8127に記載の「紙及び板紙−水分試験方法−乾燥器による方法」に準拠して測定した。
【0105】
(イ)一次焼成工程入口での乾燥物の体積平均粒子径及び粒子径の体積分布
X線マイクロアナライザー(型番:EMAX2770、(株)日立製作所/(株)堀場製作所製)を加速電圧15kVで用い、白黒ポラロイドフィルム(ポラロイド社製、8.5cm×10.8cm)にて、X線マイクロアナライザーディスプレーのX線像を20枚撮影して実測した。
【0106】
(ウ)一次焼成後の未燃率
電気マッフル炉をあらかじめ600℃に昇温後、ルツボに試料を入れて約3時間で完全燃焼させ、燃焼前後の重量変化から未燃分を算出した。
【0107】
(エ)一次焼成炉内上端部及び二次焼成炉のバーナー近傍での酸素濃度
ガス分析装置(型番:PG250型、(株)堀場製作所製)にて測定した。
【0108】
(オ)無機粒子凝集体中のカルシウム、ケイ素及びアルミニウムの含有量(酸化物換算)
以下に示す実施例のとおりに原紙の表裏面に塗工層を形成した後、該塗工層表面に散見する無機粒子凝集体を無作為に100個抽出し、個々の凝集体についてX線マイクロアナライザー(型番:E−MAX・S−2150、(株)日立製作所/(株)堀場製作所製)にて粒子構成成分の元素分析を行い、平均値を求めた。また、これらカルシウム、ケイ素及びアルミニウム各々の含有量から、無機粒子凝集体の粒子構成成分中の、カルシウムとケイ素とアルミニウムとの合計含有割合(酸化物換算)を算出した。
【0109】
(カ)無機粒子凝集体の体積平均粒子径及び体積分布
無機粒子凝集体のサンプル10mgを超音波分散機(出力:80W)で3分間分散させた。これを用い、レーザー粒径分布測定装置(レーザー回折式粒度分布測定装置 SALD−2200型、標準屈折率(1)にて測定、(株)島津製作所製)にて、平均粒子径及び20μm以下である凝集体の割合を測定した。
【0110】
(キ)吸油量
試料を採取し、JIS K 5101−13−1に記載の「顔料試験方法−第13部:吸油量−第1節:精製あまに油法」に準拠して測定した。
【0111】
(ク)外観
目視にて無機粒子凝集体の色を観察し、白色と灰色とに区分した。
【0112】
(ケ)ワイヤー摩耗度
摩耗度試験装置(日本フィルコン(株)製)を用い、スラリー濃度2質量%にて3時間、プラスチックワイヤー摩耗度を測定した。
【0113】
(コ)生産性
原料の脱水効率、生産性及び粉砕に必要な電力を各々5段階評価し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:いずれも高い評価でバランスが最もよかった。
○:平均してよい評価であった。
△:脱水効率、生産性及び粉砕に必要な電力のいずれかに問題があった。
×:実操業が困難であった。
【0114】
(サ)品質安定性
白色度、粒子径、一定時間間隔における生産量の各項目について、変動程度を測定し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:いずれの項目も全く変動がなかった。
○:いずれの項目も殆ど変動がなかった。
△:いずれかの項目に変動が認められた。
×:いずれの項目にも変動が認められた。
【0115】
【表1】

【表2】

【表3】

【0116】
表3に示された結果から、参考例1〜9の無機粒子凝集体は、いずれも白色度が高く、ワイヤー摩耗度が低く、生産性及び品質安定性にも優れたものであることがわかる。これに対して、参考例10〜12の無機粒子は、いずれもワイヤー摩耗度が高く、生産性及び品質安定性にも劣るものである。
【0117】
製造例1(原紙の作製)
原料パルプとして、新聞古紙から製造した脱墨古紙パルプ(DIP)を65質量%、サーモメカニカルパルプ(TMP)を30質量%、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を5質量%混合し、これをリファイナで離解した後、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)を約100〜200mlに調整してパルプスラリーを得た。このパルプスラリーに、パルプ固形分100質量部に対して、サイズ剤(品名:CS−1700、星光PMC(株)製)を固形分で0.05質量部添加し、長網抄紙機を使用して抄紙し、原紙を得た。
【0118】
調製例1〜9及び比較調製例1〜13(塗工剤の調製)
表4に示す顔料及び接着剤を均一な組成となるまで室温にて撹拌混合した後、精製水にて希釈し、表4に示す固形分濃度の塗工剤1〜9及び比較塗工剤1〜13を調製した。
【0119】
なお、表4に示す顔料及び接着剤は以下のとおりである。
(顔料)
WC1:ホワイトカーボン(2次粒子径:5.2μm、吸油量:92ml/100g)
WC2:ホワイトカーボン(2次粒子径:15.5μm、吸油量:203ml/100g

WC3:ホワイトカーボン(2次粒子径:11.2μm、吸油量:144ml/100g

WC4:ホワイトカーボン(2次粒子径:2.9μm、吸油量:52ml/100g)
WC5:ホワイトカーボン(2次粒子径:15.6μm、吸油量:210ml/100g

WC6:ホワイトカーボン(2次粒子径:4.0μm、吸油量:60ml/100g)
WC7:ホワイトカーボン(2次粒子径:8.0μm、吸油量:160ml/100g)
炭カル:重質炭酸カルシウム
(接着剤)
SiPVA:シラノール変性PVA(品番:R−1130、(株)クラレ製)
PVA:完全ケン化PVA(品番:PVA117、(株)クラレ製)
エステル化澱粉:タピオカ澱粉のエステル変性澱粉
【0120】
【表4】

【0121】
実施例1〜9及び比較例1〜13(新聞用紙の製造)
原紙の表裏面に、表5に示す塗工方式で、原紙片面あたりの塗工量(固形分)が表5に示す量となるように塗工剤を塗工した後、乾燥させ、さらにソフトカレンダーにて表面処理を施し、塗工層を形成させて新聞用紙を得た。なお、表5中には、シラノールPVAとしての原紙片面あたりの塗工量(固形分)も併せて示す。また、表裏面の塗工量は同一に調整した。
【0122】
なお、実施例1〜9で得られた新聞用紙については、前記参考例1〜9において無機粒子凝集体中のカルシウム、ケイ素及びアルミニウムの含有量(酸化物換算)を測定した際に、その塗工層表面に該無機粒子凝集体由来の突出が存在していることが確認されている。
【0123】
【表5】

【0124】
得られた新聞用紙について、以下の方法にて各物性を測定した。これらの結果を表6に示す。
【0125】
(a)坪量
JIS P 8124に記載の「坪量測定方法」に準拠して測定した。
【0126】
(b)金属−紙間の静摩擦係数
JIS P 8147「紙及び板紙の摩擦係数試験方法」に記載の方法に準拠して、定速伸張引張試験機(型番:AGS−500B、(株)島津製作所製)を用い、該試験機の本体水平板には表面平均粗さRaが0.4±0.02の滑らかな金属を取り付け、錘のみに測定面を外側にして試験片を取り付け、一定速度で錘を引張り、錘が滑り始める瞬間の最大の張力から得られる値を測定した。表裏面の測定値の平均を求め、この平均値を金属−紙間の静摩擦係数とした。
【0127】
(c)印刷不透明度
オフセット輪転印刷機(型番:RI−2型、石川島産業機械(株)製)で、オフセット輪転印刷用インキ(商品名:ニューズゼットナチュラリス(墨)、大日本インキ化学工業(株)製)のインキ量を変えて印刷し、印刷面反射率が9%のときの、印刷前の裏面反射率に対する印刷後の裏面反射率の比率:
(印刷後の裏面反射率/印刷前の裏面反射率)×100(%)
を求めた。なお、これら反射率の測定には、分光白色度測色機(スガ試験機(株)製)を用いた。
(d)湿潤引張強度
JIS P 8135「紙及び板紙−湿潤引張強さ試験方法」に記載の方法に準拠して、紙の縦方向について測定した。なお、浸せき時間は10分間とした。
(e)湿潤伸び
前記湿潤引張強度測定において、試験片が破断するまでに測定された試験片の伸びの、試験前の試験片の長さに対する比率:
{試験片の伸び(mm)/試験前の試験片の長さ(mm)}×100(%)
を求めた。
【0128】
次に、各新聞用紙について、以下の試験例1〜6に基づいて各特性を調べた。その結果を表6に示す。
【0129】
試験例1(インキ吸収ムラ)
オフセットカラー印刷機(型番:SYSTEM C−20、(株)小森コーポレーション製)を使用し、16万部/時の印刷速度で、藍、赤、黄、墨の順に4色カラー印刷を行った。藍/赤の重色部分のインキ濃度ムラを目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:インキ濃度ムラが全く認められず、均一で鮮明な画像である。
○:インキ濃度ムラが殆ど認められず、均一な画像である。
△:インキ濃度ムラが認められ、やや不均一な画像である。
×:インキ濃度ムラが明らかであり、不均一な画像である。
なお、前記評価基準のうち、◎及び○の場合を実使用可能と判断する。
【0130】
試験例2(ブランケットへの紙粉堆積)
前記試験例1と同じオフセットカラー印刷機を使用し、同じ印刷速度で藍、赤、黄、墨の順に4色カラー印刷を行った。5000部の印刷を行った後、ブランケット非画線部への紙粉の堆積度合いを目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:紙粉の発生が認められない。
○:紙粉の発生が僅かに認められるが、実用上問題がない。
△:紙粉の発生が明確に認められる。
×:ブランケット上に紙粉が多く堆積し、ブランケットが白くなっている。
なお、前記評価基準のうち、◎及び○の場合を実使用可能と判断する。
【0131】
試験例3(地汚れ)
前記試験例1と同じオフセットカラー印刷機を使用し、同じ印刷速度で藍、赤、黄、墨の順に4色カラー印刷を行った。5000部の印刷を行った後、不特定の30部を抜き取り、地汚れ度合いを目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:ふち汚れの発生が全く認められない。
○:30枚中1〜2枚でふち汚れが発生するが、汚れの程度はごく小さく目立たない。
△:小さなふち汚れが、30枚中3〜5枚で発生する。
×:大きな目立つふち汚れが、30枚中2枚以上で発生する。
なお、前記評価基準のうち、◎及び○の場合を実使用可能と判断する。
【0132】
試験例4(カラー印刷適性)
オフセット輪転機(型番:DIAMONDSTAR、三菱重工業(株)製)を使用し、15万部/時の印刷速度で、藍、赤、黄、墨の順に4色カラー印刷を行った。4色目の墨単色部の印刷面濃度及び濃度ムラについて、また4色を重ね合わせた重色部の印刷画像の均一性について目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:墨単色部の印刷面濃度が非常に高く、濃度ムラもない。また重色部で非常に均一な画
像が得られている。
○:墨単色部の印刷面濃度が高く、濃度ムラも殆どない。また重色部で均一な画像が得ら
れている。
△:墨単色部の印刷面濃度がやや低く、濃度ムラも認められる。また重色部で、不均一で
鮮明さがやや悪い画像が得られている。
×:墨単色部の印刷面濃度が低く、濃度ムラも明確に認められる。また重色部で、不均一
で鮮明さに欠けた画像が得られている。
なお、前記評価基準のうち、◎及び○の場合を実使用可能と判断する。
【0133】
試験例5(剣先詰まり回数)
新聞オフセット輪転機(型番:DIAMONDSTAR、三菱重工業(株)製)を用い、両出し15万部/時の印刷速度で印刷を行い、6時間の間に、折り部で剣先詰まりが発生する回数を測定した。
なお、剣先詰まりの発生回数が2回以下の場合を実使用可能と判断する。
【0134】
試験例6(表面強度)
JIS K 5701−1に記載の「平版インキ−第1部:試験方法」に準拠し、転色試験機(型番:RI−1型、石川島産業機械(株)製)を使用し、インキタック18の1回刷りの条件で印刷した。新聞用紙表面の取られを目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
(評価基準)
◎:新聞用紙表面全体に全く取られがない。
○:新聞用紙表面の一部に僅かに取られが生じているが、実用上問題がない。
△:新聞用紙表面全体に取られが認められる。
×:新聞用紙表面全体に取られが著しい。
なお、前記評価基準のうち、◎及び○の場合を実使用可能と判断する。
【0135】
【表6】

【0136】
実施例1〜9の新聞用紙はいずれも、顔料として無機粒子凝集体が用いられ、かつ接着剤としてシラノールPVAを含む塗工剤にて塗工層が形成され、この塗工層は、金属−紙間の静摩擦係数が所望の範囲内である。したがって、実施例1〜9の新聞用紙はいずれも、軽量であると共に、インキ吸収ムラ、ブランケットへの紙粉の堆積、地汚れ、剣先詰まりが全く乃至殆どなく、適度なスベリ性を有し、カラー印刷適性に優れ、湿潤引張強度が高く、湿潤伸びが抑制されていることから高耐水性を示し、さらに高表面強度も有し、例えば高速オフセットカラー印刷等のオフセット印刷に非常に適した特性を具備していることがわかる。
【0137】
これに対して比較例1〜13の新聞用紙はいずれも、顔料として無機粒子凝集体が用いられておらず、インキ吸収ムラ、ブランケットへの紙粉の堆積、地汚れ、剣先詰まりが著しかったり、カラー印刷適性や耐水性に劣ったり、湿潤引張強度が低く、湿潤伸びが抑制されなかったり、表面強度が低い等、例えば高速オフセットカラー印刷等のオフセット印刷に必要な特性を具備していないことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の新聞用紙は、例えば17〜20万部/時間といった高速でのオフセットカラー印刷等のオフセット印刷、特に高速オフセットフルカラー印刷における高繊細印刷等に好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙の両面に、顔料と接着剤とを主成分とする塗工剤により塗工層が形成された新聞用紙であって、
JIS P 8124に準拠して測定した坪量が、35〜50g/m2であり、
前記顔料として、無機粒子凝集体が少なくとも配合され、
前記接着剤として、シラノール基を有するポリビニルアルコール系共重合体が少なくとも配合され、
形成された塗工層の金属−紙間の、JIS P 8147に準拠して測定した静摩擦係数が、0.20〜0.50である
ことを特徴とする、新聞用紙。
【請求項2】
前記無機粒子凝集体が、レーザー解析に基づく体積平均粒子径5〜15μmを有するものであり、前記塗工層表面に、該無機粒子凝集体由来の突出を有する、請求項1に記載の新聞用紙。
【請求項3】
前記無機粒子凝集体が、シリカによって被覆されたシリカ被覆無機粒子凝集体である、請求項1又は2に記載の新聞用紙。

【公開番号】特開2009−35844(P2009−35844A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−203192(P2007−203192)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】