説明

新規なα−グルコシダーゼとその製造法並びに用途

【課題】入手及び取扱いが容易な活性化剤により酵素活性が活性化され、かつ配糖体の製造において、目的範囲外の重合度のマルトオリゴ糖を実質的に生成しない新規なα−グルコシダーゼ、当該酵素の生成方法及び製造方法、当該酵素をコードするDNA、当該酵素を生産する微生物、並びにその用途を提供する。
【解決手段】カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン又はアンモニウムイオンから選ばれる1種又は2種以上のイオン10mmol/Lの存在下において、非存在下に対し、酵素活性が200%以上に活性化され、マルトース、p−ニトロフェニル−α−D−グルコシド、スクロースに作用しグルコースを遊離させるが、イソマルトース、ニゲ
ロース、コージビオース、トレハロース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、可溶性澱粉には実質的に作用しない性質を有する、α−グルコシダーゼ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なα−グルコシダーゼおよび当該酵素の利用法に関し、詳しくはマルトースおよびp−ニトロフェニル−α−D−グルコシド(以下、「pNPG」と表記することがある)に対する基質特異性が高くかつ特定の一価カチオンにより著しく活性が上昇する新規なα−グルコシダーゼ、当該酵素の製造方法、当該酵素を生産する微生物および当該酵素を用いた配糖体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
α−グルコシダーゼは、微生物から動植物まで広く天然界に存在する酵素で、基質の非還元性末端のα−グルコシド結合を加水分解してグルコースを生成する。また、α−グルコシダーゼは加水分解反応のみならず、糖転移反応をも触媒し、様々なオリゴ糖や配糖体の製造に用いられている。中でも、アルコール類、ビタミン類、フラボノイド類並びにフェノール誘導体類をグルコシル化した配糖体は、例えば、特許文献1に挙げられる水溶性、耐光性並びに安定性の改善効果が見られる他、エタノールの配糖体であるエチルグルコシドの美白効果(特許文献2)、グリセロールの配糖体であるグルコシルグリセロールのインスリン様成長因子−1産生促進効果(特許文献3)など、様々な生理機能が知られ、食品、化粧品並びに医薬品工業などに広く用いられている。
【0003】
これら、配糖体の工業的製造に関しては、例えばアルコール類への配糖化については、特許文献4に示されるグルコシルグリセロールまたは特許文献5に示されるエチルグルコシドのように、アスペルギルス・ニガー(Aspergellus niger)をはじめとした微生物由来のα−グルコシダーゼが用いられることが知られている。
【0004】
ヘスペリジン、ルチンおよびアスコルビン酸をはじめとするビタミン類ならびにフェノール誘導体等に対する配糖化に関しては、例えば特許文献6(ヘスペリジン)、特許文献7および特許文献8(アスコルビン酸2−グルコシド)、特許文献9(アスコルビン酸5−グルコシド)、特許文献10(アスコルビン酸6−グルコシド)、特許文献11(フェノール誘導体)の配糖化法に開示されているように、各種微生物由来のシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼまたはα−グルコシダーゼを作用させる方法が用いられることが知られている。しかしながら、従来の配糖体の製造方法においては、目的配糖体以外の、広範な重合度のオリゴ糖を副産物として生産するため、目的配糖体の収率が低く、副産物のオリゴ糖を除去する工程、それを分離する工程などを要する。
【0005】
副産物のオリゴ糖量を低減させる策として、例えば、グルコシルグリセロールの製造においては、特許文献12に示されるように反応初期のマルトオリゴ糖濃度をグリセロールに対して少量とし、ある程度反応が進んだ後に、マルトオリゴ糖を適宜追添加する方法が報告されている。しかしながら、本法によっては、副産物の生成は抑えられるが目的配糖体の収量が微量であることに加え、1バッチあたりの反応時間が長く、エネルギー消費、コスト共に生産性が高いとは言い難い。
【0006】
また、特許文献13には副産物のオリゴ糖量生成を低減させるために、マルトース、pNPGには作用するが、マルトトリオース、マルトヘキサオース、イソマルトース、トレハロース、スクロース、可溶性澱粉、メチル−α−D−グルコピラノシド、ラクトース、メリビオース、セロビオース、アミロース、シクロデキストリン、イソマルトトリオース、ニゲロース、コージビオースにはほとんど作用しないキサントモナス(Xanthomonas)属微生物由来のα−グルコシダーゼを用いた配糖体の製造方法が報告されている。しかしながら、本法では副産物の生成は抑えられるが、酵素活性が不十分であり目的
配糖体の収量が微量であるため、生産性に未だ問題がある。
【0007】
そのような問題から、酵素活性を上昇させる代表的な取り組みとして、酵素自体の比活性を上昇させる試みが検討されてきた。例えば、エラープローンPCR、DNAシャッフリング法などのあらゆる遺伝工学的手法を用い、その遺伝子を改変することで、対応するタンパク質自身を改良する手法が取られてきた。
【0008】
その他に、酵素の活性化剤を反応系に加えることにより酵素を活性化させる方法も研究されてきた。例えば、澱粉の糖化に広く用いられるα−アミラーゼの活性化法に関して言えば、酵素反応系に特定のポリマーを添加すること(特許文献14)、特定のアミラーゼに対して塩素イオンを加えること(非特許文献1)、n−ヘキサンにTween 20(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート)を添加して得られる逆相ミセル系を利用して酵素活性を高めるもの(非特許文献2)、酵素反応系に特定のアルキル鎖長を有するアルキル硫酸塩及び/又はアルキルスルホン酸塩を添加して酵素活性を高めること(特許文献15)などが報告されている。また、予め酵素を電解生成水に溶解させることにより、酵素反応の前段階で酵素を活性化させる方法(特許文献16)、酵素を発熱性無機塩に溶解することにより活性化する方法(特許文献17)などが報告されている。
【0009】
また、酵素の活性化剤として特定のイオンを添加することで酵素を活性化させる方法も報告されている。α−グルコシダーゼにおいても特定カチオンにより活性化される報告がこれまでに数例あるものの、その活性化上昇率は、最大でも150%程度であり(非特許文献3、非特許文献4、特許文献18)、活性化剤による上昇率が高いとは言えず、これまでに活性化剤の共存下でα−グルコシダーゼによる反応を行いオリゴ糖製造または配糖体製造を効率化させる例はなかった。
【0010】
このような問題から、配糖体またはオリゴ糖の製造において、少量添加で効果を発揮できる酵素の活性化剤があれば、酵素の添加量を削減可能となると考えられていた。さらに、そのような活性化剤により活性化可能な酵素が目的物質以外の広範囲の重合度の副産物を生成しないものであれば、配糖体またはオリゴ糖の製造効率が改善されることが期待でき、このような酵素が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−346792号公報
【特許文献2】特開2005−314310号公報
【特許文献3】特開2009−161475号公報
【特許文献4】特開平11−222496号公報
【特許文献5】特開2002−17395号公報
【特許文献6】特開平11−346792号公報
【特許文献7】特開2000−65098号公報
【特許文献8】特開平03−135992号公報
【特許文献9】特開平5−112594号公報
【特許文献10】特開昭48−38158号公報
【特許文献11】国際公開第01/073106号パンフレット
【特許文献12】特開2006−8703号公報
【特許文献13】特開2001−46096号公報
【特許文献14】特表平5−507615号公報
【特許文献15】特開平8−256768号公報
【特許文献16】特開2000−245453号公報
【特許文献17】特開2000−37186号公報
【特許文献18】特開2002−65254号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Clin.Biochem.,16,224−228(1983)
【非特許文献2】Biotechnol.Bioeng.,29,901−902(1987)
【非特許文献3】Appl.Environ.Microbiol.,Vol.65,No.7,p.2907−2911(1999)
【非特許文献4】Agric.Biol.Chem.,40(10)p.1929−1936(1976)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明の目的は、入手及び取扱いが容易な活性化剤により酵素活性が活性化され、かつ配糖体の製造において、目的範囲外の重合度のマルトオリゴ糖を実質的に生成しない新規なα−グルコシダーゼ、当該酵素の生成方法及び製造方法、当該酵素をコードするDNA、当該酵素を生産する微生物、並びにその用途を提供することにある。さらに詳細には、本発明におけるα−グルコシダーゼを用いて、マルトース等の糖供与体および糖受容体を含む反応系において、一価カチオンを添加することにより効率的に糖受容体へグルコシル基をα転移させ配糖体を製造する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために、様々な生物起源のα−グルコシダーゼを鋭意研究した結果、種々の重合度および結合の糖質の中でもα−1,4結合の二糖すなわちマルトースに高い特異性を有し、さらにその酵素活性が一価カチオンにより200〜3500%活性化される産業利用上注目すべき新規なα−グルコシダーゼを見出し、当該酵素を用いることで副産物の生成を抑えかつ高効率で配糖体が生産可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、例えば海洋より単離したハロモナス属に属する微生物が、マルトース等に特異的に作用しグルコースを生じることを見出し、また、マルトースと例えば糖受容体としてグリセロールを含む溶液に作用させるとグリセロールにグルコシル基を転移しグルコシルグリセロールを生じることを見出し、また、いずれの反応系においても重合度4以上のオリゴ糖は実質的に生成されず、さらにはマルトオリゴ糖が実質的に生成されないことを見出し、さらに、反応系に特定の一価カチオンを添加することにより例えばグルコシルグリセロールの生成効率が無添加のときと比較して優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち本発明は以下の通りである。
<1> 下記理化学的性質を有するα−グルコシダーゼ:
(A)酵素活性
カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン又はアンモニウムイオンから選ばれる1種又は2種以上のイオン10mmol/Lの存在下において、非存在下に対し、酵素活性が200%以上に活性化される。
(B)基質特異性
マルトース、pNPG、スクロースに作用しグルコースを遊離させるが、イソマルトース、ニゲロース、コージビオース、トレハロース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、可溶性澱粉には実質的に作用しない。
<2> さらに下記理化学的性質を有する、<1>に記載のα−グルコシダーゼ:
カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン又はアンモニウムイオンから選ばれる1種又は2種以上のイオン10mmol/Lの存在下において、非存在下に対し、酵素活性が300%以上に活性化される。
<3> さらに下記理化学的性質を有する、<1>又は<2>に記載のα−グルコシダーゼ。
(C)分子量
58000±2000(SDS−PAGEによる)
(D)pH安定性
4℃、24時間の保存において、すくなくともpH5.5〜9.5で安定である。
(E)至適pH
30℃、10分間の反応においてpH5.5〜8.5である。
(F)温度安定性
pH7.0、15分間の保存において、すくなくとも4℃〜40℃で安定である。
(G)至適温度
pH7.0、10分間の反応において15℃〜35℃であり、pH7.0、10分間、10mmol/Lアンモニウムイオン存在下の反応において15℃〜45℃である。
<4> ハロモナス(Halomonas)属細菌由来である、<1>〜<3>のいずれかに記載のα−グルコシダーゼ。
<5> ハロモナス属細菌が、ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) A8株、ハロモナス・エスピー A10株又はハロモナス・エスピー H11株である、<4>に記載のα−グルコシダーゼ。
<6> 下記のa)〜c)のいずれか1つに記載のタンパク質であるα−グルコシダーゼ:
a)配列表の配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質;
b)配列表の配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、又は付加したアミノ酸配列を含み、かつ、α−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質;
c)配列表の配列番号2又は4に記載のタンパク質と60%以上のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ、α−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質。
<7> 下記a)〜d)のいずれか1つに記載のDNA:
a)配列表の配列番号1又は3のヌクレオチド番号1〜1617に示されるヌクレオチド配列を含むDNA;
b)上記a)に記載のDNAと70%以上のヌクレオチド配列相同性を有するヌクレオチド配列を含み、かつ、α−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;c)上記a)に記載のDNAの相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、α−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;
d)配列表の配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするDNA。
<8> ハロモナス属細菌を培養し、得られた培養物からα−グルコシダーゼを精製する工程を含む、<1>〜<6>のいずれかに記載のα−グルコシダーゼの製造方法。
<9> 糖受容体と糖供与体に、<1>〜<6>のいずれかに記載のα−グルコシダーゼを作用させる工程を含む、配糖体の製造方法。
<10> 糖供与体がマルトースである、<9>に記載の配糖体の製造方法。
<11> 糖受容体がアルコール性水酸基を有する化合物又はフェノール性水酸基を有する化合物である、<9>又は<10>に記載の配糖体の製造方法。
<12> 糖受容体が、グリセロール、エタノール、アスコルビン酸、1−プロパノール、2−プロパノール、L−メントール、プロピレングリコール又はハイドロキノンから選ばれる1種又は2種以上の化合物である、<9>〜<11>のいずれかに記載の配糖体の製造方法。
<13> ナトリウムイオン、リチウムイオン、アンモニウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン又はセシウムイオンから選ばれる1種類又は2種以上のα−グルコシダーゼ活性化剤存在下で酵素反応を行う、<9>〜<12>のいずれかに記載の配糖体の製造方法。
<14> α−グルコシダーゼ活性化剤の濃度が、0.001mmol/L〜100mmol/Lである、<13>記載の配糖体の製造方法。
<15> <1>〜<6>のいずれかに記載のα−グルコシダーゼを生産する能力を有するハロモナス属細菌。
<16> <1>〜<6>のいずれかに記載のα−グルコシダーゼを生産する能力を有するハロモナス属細菌ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) A8株(受託番号:NITE P−1096)。
<17> <1>〜<6>のいずれかに記載のα−グルコシダーゼを生産する能力を有するハロモナス属細菌ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) A10株(受託番号:NITE P−1097)。
<18> <1>〜<6>のいずれかに記載のα−グルコシダーゼを生産する能力を有するハロモナス属細菌ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) H11株(受託番号:NITE P−1098)。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、配糖体の製造において副生成物として広範な重合度のオリゴ糖を実質的に生じさせず、さらに特定一価カチオンにより配糖体の生成効率が上昇することから、従来技術と比較してより効率的に配糖体を製造することが可能となる。さらに、酵素使用量の低減、あるいは反応時間の短縮に功を奏し、得られる配糖体は複雑な精製過程を経ずに飲食物、化粧品、医薬品をはじめとする様々な分野に利用することが可能となることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) H11株由来酵素のSDS−PAGEの結果を示す図(写真)である。
【図2】ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) H11株由来酵素におけるpHの影響を示す図である。
【図3】ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) H11株由来酵素における温度の影響を示す図である。
【図4】ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) H11株由来酵素におけるアンモニウムイオン存在下における温度の影響を示す図である。
【図5】ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) H11株由来酵素におけるカチオン濃度の影響を示す図である。
【図6】ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) H11株由来組換え酵素及び対照酵素によるグルコシルグリセロール生成量におけるアンモニウムイオンの影響を示す図である。
【図7】ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) H11株由来組換え酵素及び対照酵素によるエチルグルコシド生成量におけるアンモニウムイオンの影響を示す図である。
【図8】ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) A8株由来組換え酵素のSDS−PAGEの結果を示す図(写真)である。
【図9】ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) A8株由来組換え酵素におけるpHの影響を示す図である。
【図10】ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) A8株由来組換え酵素における温度の影響を示す図である。
【図11】ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) A8株由来組換え酵素におけるアンモニウムイオン存在下における温度の影響を示す図である。
【図12】ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) A8株由来組換え酵素におけるカチオン濃度の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明における用語「実質的に基質としない」及び「実質的に作用しない」とは、マルトースに対する加水分解活性を100(%)としたときに、当該基質に対する相対的加水分解活性が10%以下であること、好ましくは7%以下、より好ましくは5%以下であることをいう。
また、用語「実質的に生成しない」とは、酵素反応溶液の最終生成物において、生成産物が反応系内の固形分全体の5%以下であること、好ましくは3%以下であること、より好ましくは1%以下であることをいう。
【0019】
本発明でいう「α−グルコシダーゼ」(酵素番号:EC.3.2.1.20)とはα−グルカンの非還元末端のα−グリコシド結合の加水分解反応を触媒し、α−グルコースを生じさせる酵素全般を意味する。また、α−グルコシダーゼには、加水分解反応とともに糖転移反応を触媒するものが存在し、本発明においては、好ましくは加水分解反応とともに糖転移反応を触媒するα−グルコシダーゼが用いられる。
【0020】
(1)本発明のα−グルコシダーゼ
本発明のα−グルコシダーゼは、下記理化学的性質を有するα−グルコシダーゼである。
(A)酵素活性
カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン又はアンモニウムイオンから選ばれる1種又は2種以上のイオン10mmol/Lの存在下において、非存在下に対し、酵素活性が200%以上に活性化される。
(B)基質特異性
マルトース、pNPG、スクロースに作用しグルコースを遊離させるが、イソマルトース、ニゲロース、コージビオース、トレハロース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、可溶性澱粉には実質的に作用しない。
【0021】
本発明の新規α−グルコシダーゼは、微生物、例えば、ハロモナス属に属する微生物から各種クロマトグラフィーなどの手段を経て分離精製することができる。この分離精製方法の具体例は後述する実施例に示す。又は、本発明において、本発明の新規α−グルコシダーゼの遺伝子配列が明らかにされたため、このような遺伝子配列にコードされるアミノ酸配列を、公知の遺伝子工学的手法により合成することにより、新規α−グルコシダーゼを得ることもできる。
【0022】
(酵素力価の測定)
本発明において、α−グルコシダーゼの酵素力価の測定は、例えば、0.2w/v%マ
ルトースを基質として、pH7、30℃、100μlの系で、特定量の酵素から生じたグルコース量を測定することにより行うことができる。
具体的には、例えば、上記系にて10分間の酵素反応後、2mol/LのTris−HCl(pH7)を200μl添加することにより酵素反応を終了させ、そこに、グルコーステストワコーC II(和光純薬製)を100μl添加し37℃で30分間インキュベートする。波長490nmの吸光度を測定することにより、生じたグルコース量を算出する。上記条件にて1分間に1μmolのマルトースを加水分解する酵素量を1Uと定義する。また、pNPGから生ずるp−ニトロフェノールの定量は、酵素反応溶液に炭酸ナトリウム溶液を添加して酵素反応を終了させ、波長405nmの吸光度を測定することにより行うことができる。
【0023】
(酵素の理化学的性質)
本発明のα−グルコシダーゼの具体例としては、例えば、以下の理化学的性質を有するものが挙げられる。
<作用> マルトースを加水分解しグルコースを生じる
<分子量> 58000±2000(SDS−PAGE)
<pH安定性> 4℃、24時間の保存において、すくなくともpH5.5〜9.5で安定(65%以上)
<至適pH> 30℃、10分間の反応において、pH5.5〜8.5
<最適温度> pH7、10分間の反応において、15〜35℃
pH7、10mmol/Lアンモニウムイオン、10分間の反応において、15〜45℃
<温度安定性> pH7、15分間の保存において、すくなくとも4〜40℃で安定である。
<基質特異性> 4mmol/Lのマルトース、イソマルトース、ニゲロース、コージビオース、トレハロース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、1w/v%の可溶性澱粉および2mmol/LのpNPGを基質とし、pH7、30℃の条件で反応させたとき、マルトースに対する加水分解活性を100%としたときのpNPGおよびスクロース以外の基質に対する加水分解活性が10%以下である。すなわち、重合度3以上のα−グルカンおよびマルトース以外のグルコ二糖を実質的に基質としない。
<イオンによる活性化>
リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンおよびアンモニウムイオンにより選ばれる1種または2種以上のイオンにより酵素活性が活性化される。
【0024】
本発明のα−グルコシダーゼは、具体的には、下記の理化学的性質を有する場合がある。
<イオンによる活性化>
カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンおよびアンモニウムイオンにより選ばれる1種または2種以上のイオン10mmol/Lの存在下において、非存在下に対し、200%以上、好ましくは200〜3500%、より好ましくは300〜3500%、さらに好ましくは300〜2000%、最も好ましくは300〜1500%に酵素活性が活性化される。
【0025】
本発明のα−グルコシダーゼは、マルトース、スクロースおよび/またはpNPGを加水分解しグルコースを生じる。一方で、実質的に基質となり得ないものとしては、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、澱粉、アミロース、アミロペクチン、グリコーゲンや、それらを分解または縮合させたアミロデキストリン、マルトデキストリン、およびその他のマルトオリゴ糖が挙げられる。さらに、α−1,4結合以外の二糖、すなわち、トレハロース、コージビオース、ニゲロースおよびイソマルトースも実質的に基質となり得ない。
【0026】
基質としては、例えばマルトースを基質とするときは、マルトース純品でなくてよく、マルトース以外に、他の糖質、脂質、タンパク質等が混在するマルトース溶液でもよい。また、澱粉などにβ−アミラーゼなどを作用させ、マルトースを生じさせ、それと並行または連続して、本酵素を生じたマルトースに作用させることも可能である。
【0027】
さらに、実施例において詳述するが、本発明における酵素は、特定一価カチオンの添加により酵素活性が活性化される。したがって、本発明のα−グルコシダーゼによる配糖体の生成反応系内に、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、アンモニウムイオンを少なくとも1種類以上添加することにより、配糖体生成反応を促進することができる。すなわち、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン、アンモニウムイオンをα−グ
ルコシダーゼの活性化剤とすることができる。活性化剤の濃度は、本酵素が活性化される範囲で特に限定されず、0.001mol/L〜1000mmol/L、好ましくは0.01mol/L〜100mmol/Lのカチオンを添加して反応を行うことができる。また、配糖体の精製におけるイオン負荷ならびに資材コストを考慮すると、本酵素が十分に活性化される濃度2〜200mmol/Lが好ましく、より好ましくは5〜200mmol/Lであり、さらにより好ましくは10〜200mmol/Lである。
【0028】
本発明におけるα―グルコシダーゼの活性化剤としては、水溶液中でナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、アンモニウムイオン又はセシウムイオンを解離させうる各種カチオン塩類を用いることができる。すなわち、上記記載カチオンの塩化物、硫酸化物、ヨウ化物、臭化物等を適宜選択すればよい。なお、本明細書でいうナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、アンモニウムイオン及びセシウムイオンとは、例えば、それぞれの塩化物、硫酸化物、ヨウ化物又は臭化物等由来の遊離カチオンのことを意味する。
【0029】
(アミノ酸配列)
本発明のα−グルコシダーゼの一例として、例えば、配列表における配列番号2または配列番号4で示されるアミノ酸配列またはそれに相同的なアミノ酸配列が挙げられる。配列番号2または配列番号4に示されるアミノ酸配列に相同的なアミノ酸配列を有する変異体酵素としては、マルトース、pNPG、スクロースに作用し、その他のα結合様式の二糖および重合度3以上のα−グルカンを実質的に基質とせず、特定一価カチオンにより、カチオン非存在下に対し、200%以上活性化されるという酵素活性を保持する範囲で、配列番号2または配列番号4に示されるアミノ酸配列において1個または数個(数個とは、通常、2〜20個、好ましくは2〜10個、より好ましくは2〜5個を示す)のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加したアミノ酸配列を有するものや、配列表における配列番号2または配列番号4に示されるアミノ酸配列に対し、通常、60%以上、望ましくは70%以上、さらに望ましくは80%以上、よりさらに望ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するアミノ酸配列を有するものが挙げられる。ここで相同性とは、2つのアミノ酸配列をアラインメントしたときの全アミノ酸数に対する同一アミノ酸数の割合(同一性)を示す。
【0030】
なお、上記理化学的性質またはアミノ酸配列を有するα−グルコシダーゼはあくまで一例であって、上記と異なる理化学的性質またはアミノ酸配列を有する酵素も、本発明のα−グルコシダーゼの理化学的性質であるグルコース重合度2のα−1,4結合を有する糖に作用し、その他のα結合様式の二糖および重合度3以上のα−1,4結合のα−グルカンを実質的に基質としないという酵素活性を保持し、特定一価カチオンにより、カチオン非存在下に対し、200%以上活性化される限り本発明に包含される。例えば、配列表における配列番号2または配列番号4に示されるアミノ酸配列のうちの一部を含むものであって、α−グルコシダーゼの理化学的性質を維持するものであれば、本発明に包含される。
【0031】
(DNA配列)
本発明のDNAは、グルコース重合度2のα−1,4結合を有する糖に作用し、その他のα結合様式の二糖および重合度3以上のα−1,4結合のα−グルカンを実質的に基質とせず、特定一価カチオンにより、非存在下に対し、200%以上活性化されるという酵素活性を保持するα−グルコシダーゼをコードするものである限り、それが天然由来のものであっても、人為的に合成されたものであってもよい。
【0032】
天然の供給源としては、例えばHalomonas sp. H11株、A8株、A10株を含むハロモナス属の微生物が挙げられ、これらの微生物から本発明のDNAを含む
遺伝子DNAを得ることができる。すなわち、微生物を栄養培地に接種し、好気的条件下で半日至3日間培養後、培養物から菌体を採取し、リゾチームやβ−グルカナーゼなどの細胞膜溶解酵素や超音波で処理することにより当該DNAを含む遺伝子DNAを菌体外に溶出させる。このとき、プロテアーゼなどのタンパク質分解酵素を併用したり、SDSなどの界面活性剤を共存させたり凍結融解してもよい。斯くして得られる処理物に、例えば、フェノール抽出、アルコール沈殿、遠心分離、リボヌクレアーゼ処理などの定法を適用すれば目的の遺伝子DNAが得られる。本発明のDNAを人為的に合成するには、例えば、当該遺伝子DNAを含むDNAを鋳型として、例えば、配列表における配列番号1又は3で示されるDNA配列に基づく適当なプライマーとなる化学合成DNAを用いてPCR合成することで、本発明のDNAを人為的に合成することができる。
また、配列表における配列番号2又は4で示されるアミノ酸配列に基づいて、公知の遺伝子工学的手法により、化学合成することも有利に実施できる。
【0033】
本発明のDNAの一例としては、例えば、配列表における配列番号1または配列番号3で示される塩基配列またはそれに相同的な塩基配列が挙げられる。配列表における配列番号1または配列番号3で示される塩基配列に相同的な塩基配列を有する変異DNAとしては、コードする酵素の活性を保持する範囲で、配列番号1または配列番号3で示される塩基配列において1個または2個以上、60個以下、好ましくは30個以下、より好ましくは15個以下の塩基が欠失、置換もしくは付加した塩基配列を有するものが挙げられ、配列番号1または配列番号3で示される塩基配列に対し、通常、70%以上、さらに望ましくは80%以上、よりさらに望ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を有するものが好適である。また、遺伝子コードの縮重に基づき、そのコードする酵素のアミノ酸配列を変えることなく塩基の1個または2個以上の塩基を他の塩基に置換したものも当然、本発明のDNAに包含される。
【0034】
本発明のDNAと相同性の高い塩基配列は、例えばNCBI(ナショナルセンターフォーバイオテクノロジーインフォメーション)の提供するBLAST検索によって配列番号1または配列番号3に示した塩基配列と相同性検索を実施することで入手可能である。また、同様のBLAST検索により、本発明のα−グルコシダーゼと相同性の高いアミノ酸配列を入手することも当然可能である。このような本発明のDNAと相同性の高い塩基配列も、本発明のDNAに包含される。
【0035】
なお、本発明において「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning A Laboratory Manual, second Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)等参照)。「ストリンジェントな条件」として具体的には、50%ホルムアミド、4×SSC、50mM HEPES(pH7.0)、10×Denhardt’s solution、100μg/ml サケ精子DNAを含有する溶液中、42℃でハイブリダイズさせ、次いで室温で2×SSC、0.1%SDS溶液、50℃下で0.1×SSC、0.1%SDS溶液で洗浄する条件が挙げられる。コードするタンパク質がα−グルコシダーゼ活性を有するか否かは、下記実施例に記載の酵素活性の測定方法にしたがって判定することができる。
【0036】
本発明のDNAを、自律複製可能な適当なベクターに挿入して組換えDNAとすることも有利に実施できる。組換えDNAは、通常、DNAと自律複製可能なベクターとからなり、DNAが入手できれば、常法の組換えDNA技術により比較的容易に調製することができる。
斯かるベクターの例としては、pBR322、pUC18、Bluescript II SK(+)、pUB110、pTZ4、pC194、pHV14、TRp7、YEp7、pBS7などのプラスミドベクターやλgt・λC、λgt・λB、ρ11、φ1、
φ105などのファージベクターが挙げられる。この内、本発明のDNAを大腸菌で発現させるには、pBR322、pUC18、Bluescript II SK(+)、λgt・λC及びλgt・λBが好適であり、一方、枯草菌で発現させるには、pUB110、pTZ4、pC194、ρ11、φ1及びφ105が好適である。pHV14、TRp7、YEp7及びpBS7は、組換えDNAを二種以上の宿主内で複製させる場合に有用である。
DNAを斯かるベクターに挿入するには、斯界において通常一般の方法が採用される。具体的には、まず、DNAを含む遺伝子DNAと自律複製可能なベクターとを制限酵素及び/又は超音波により切断し、次に、生成したDNA断片とベクター断片とを連結する。遺伝子DNA及びベクターの切断にヌクレオチドに特異的に作用する制限酵素、とりわけII型の制限酵素、詳細には、Sau 3AI、Eco RI、Hind III、Bam HI、Sal I、Xba I、Sac I、Pst Iなどを使用すれば、DNA断片とベクター断片とを連結するのが容易である。必要に応じて、両者をアニーリングした後、生体内又は生体外でDNAリガーゼを作用させればよい。斯くして得られる組換えDNAは、適宜宿主に導入して形質転換体とし、これを培養することにより無限に複製可能である。
【0037】
このようにして得られる組換えDNAは、大腸菌、枯草菌、ハロモナス属細菌、放線菌、酵母をはじめとする適宜宿主微生物に導入することができる。すなわち、定法に基づき、形質転換体(組換え微生物)を得ることができる。
【0038】
本発明のα−グルコシダーゼ産生能を有する形質転換体も含めた微生物の培養に用いる培地は、微生物が生育でき、酵素を産生しうる栄養培地であればよく、合成培地および天然培地のいずれでもよい。炭素源としては、微生物が生育に利用できる物であればよく、例えば、植物由来の澱粉やフィトグリコーゲン、動物や微生物由来のグリコーゲンやプルラン、また、これらの部分分解物やグルコース、フラクトース、マルトース、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトール、糖蜜などの糖質、また、クエン酸、コハク酸などの有機酸も使用することができる。培地におけるこれらの炭素源の濃度は炭素源の種類により適宜選択できる。窒素源としては、例えば、アンモニウム塩、硝酸塩などの無機窒素化合物および、例えば、尿素、コーン・スティープ・リカー、カゼイン、ペプトン、酵母エキス、肉エキスなどの有機窒素含有物を適宜用いることができる。また、無機成分としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、リン酸塩、マンガン塩、亜鉛塩、鉄塩、銅塩、モリブデン塩、コバルト塩、ストロンチウム塩などの塩類を適宜用いることができる。更に、必要に応じて、アミノ酸、ビタミンなども適宜用いることができる。
【0039】
培養は、培養する微生物に適した条件を選択できるが、通常、温度4〜50℃でpH5〜12の範囲、好ましくは温度20〜40℃でpH6〜11の範囲から選ばれる条件で好気的に行われる。培養時間は当該微生物が増殖し得る時間であればよく、好ましくは10〜150時間である。また、培養条件における培養液の溶存酸素濃度には特に制限はなく、適宜通気量を調節したり、攪はん速度を調節したりしてよい。また、培養方式は回文培養または連続培養のいずれでもよい。また、前培養をしてもしなくても、よい。
【0040】
(2)本発明の微生物
本発明のα−グルコシダーゼはその供給源によって制限されないものの、好ましい供給源として微生物が挙げられ、Halomonas属細菌、とりわけ、本発明者らが海洋より単離した微生物Halomonas sp.H11株、Halomoans sp.A8株またはHalomoans sp.A10株が好適に用いられる。以下、本発明におけるα−グルコシダーゼの産生能を有する微生物の同定結果を示す。なお、16S rRNA塩基配列解析、形態観察および生理・生化学試験の結果から帰属分類群を推定した。
【0041】
<同定結果>
培地 : マリンブロス2216(ベクトン・ディッキンソン製)
培養温度 : 30℃
培養時間 : 24時間
【0042】
【表1】

【表1−1】

【0043】
以上の菌学的性質に基づき、公知菌との異同を検討した。その結果、A8株およびH11株は、ハロモナス・アクアマリナ(Halomonas aquamarina) DMS30161、ハロモナス・メリディアナ(Halomonas meridiana) DMS5425、およびハロモナス・アキシャレンシス(Halomonas axialensis) Althf1に近縁であるが、Halomonas属の既知種とその生理試験結果が完全に一致せず、簡易分子系統樹(アポロンDB−DA、テクノスルガ・ラボ、静岡)においても異なる分枝に属していた。よって、本同定試験結果からは、帰属種の特定が困難であった。以上より、A8株およびH11株をそれぞれ、Halomonas sp. A8株およびHalomonas sp. H11株と命名した。A10株は、ハロモナス・ヴェヌスタ(Halomonas venusta) DSM4743に類似していることが明らかとなったが、既知種のHalomonas venus
taとその生理および16S rRNA配列が若干異なっていた。よって、帰属種の特定が困難であった。以上より、A10株をHalomonas sp. A10株と命名した。
【0044】
Halomonas sp. A8株は、平成23年5月2日付けで、受託番号NITE P−1096で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されている。
Halomonas sp. A10株は、平成23年5月2日付けで、受託番号NITE P−1097で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されている。
Halomonas sp. H11株は、平成23年5月2日付けで、受託番号NITE P−1098で、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託されている。
【0045】
本発明のα−グルコシダーゼ産生能を有する微生物には、上記菌はもとより、その変異体、更には、α−グルコシダーゼ酵素産生能を有する組換え微生物およびその変異株なども包含される。
【0046】
(3)本発明のα−グルコシダーゼの製造方法
本発明のα−グルコシダーゼの製造方法は、本発明のα−グルコシダーゼ産生能を有する微生物、例えばハロモナス属細菌を培養し、得られた培養物からα−グルコシダーゼを精製する工程を含む、α−グルコシダーゼの製造方法である。
【0047】
すなわち、本発明のα−グルコシダーゼ産生能を有する天然又は組換え微生物を培養した後、酵素を含む培養物を回収する。酵素活性は、例えば培養微生物がハロモナス属微生物の場合、菌体内および菌体外に認められ、菌体、培養物の除菌液、または培養液全体を回収し粗酵素液として用いることができる。例えば、菌体を利用する場合には、菌体を回収し、溶菌剤、界面活性剤、超音波破砕またはビーズショッカーなどを用いて菌体細胞を破砕し、そのままもしくは不溶性画分を分離したものを粗酵素液とすればよい。また、粗酵素液をそのまま用いても、濃縮してから用いてもよい。濃縮法としては、硫安塩析法、アセトンおよびアルコール沈殿法、平膜、中空膜法などを採用することができる。
【0048】
さらに、本発明によるα−グルコシダーゼ活性を有する溶液およびその濃縮物を用いて、適宜方法により固定化酵素とすることもできる。例えば、イオン交換体への結合法、樹脂および膜などの共有結合法・吸着法、高分子物質を用いた包括法などを適宜採用できる。
【0049】
上記のように、本発明のα−グルコシダーゼは、粗酵素液をそのまままたは濃縮して用いることができるものの、必要に応じてカラムクロマトグラフィー等により分離・精製して利用することもできる。例えば、培養液の上清または破砕処理物を『DEAE−トヨパール650M』樹脂を用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィー、続いて、『ブチル−トヨパール650M』樹脂を用いた疎水クロマトグラフィー、続いて、『resource−Q』樹脂を用いた陰イオン交換カラムクロマトグラフィーを用いて精製することにより、本発明のα−グルコシダーゼを、電気泳動的に単一バンドを示す精製酵素として得ることができる。
【0050】
本発明におけるα−グルコシダーゼは組換え型酵素である場合には、宿主の種類によっては酵素が菌体内に蓄積したり、培養液に蓄積したりすることがある。このような場合にも、前記のように、菌体またはその培養物をそのまま使用してもよいが、必要に応じて、細胞を破砕したものを用いてもよい。
【0051】
このようにして得られる本発明のα−グルコシダーゼは、グルコース重合度2のα−1,4結合の糖に作用し、グルコース重合度3以上のα−グルカンを実質的に基質としないと推察される。
【0052】
(4)本発明のα−グルコシダーゼによる配糖体の製造方法
本発明のα−グルコシダーゼによる配糖体の製造方法は、糖受容体と糖供与体に、本発明のα−グルコシダーゼを作用させる工程を含む、配糖体の製造方法である。なお、糖受容体と糖供与体に本発明のα−グルコシダーゼを発現する微生物を作用させてもよい。
【0053】
糖供与体と糖受容体を含む溶液に本酵素を作用させることにより、糖受容体にグルコシル基がひとつ転移した配糖体を作製することができる。
糖供与体としては、本発明のα−グルコシダーゼにより加水分解され、α−グルコースを生成するものであれば、いずれでもよい。より具体的には、前述の通り好ましくはマルトース、スクロースおよびpNPGが挙げられ、より好ましくはマルトースが挙げられる。
【0054】
この際、基質濃度に特に制限はなく、マルトース等の基質濃度は1〜飽和%で、酵素が作用する範囲内で、配糖体の製造が可能であると考えられる。マルトースの結晶が析出している飽和%以上においても反応可能である。ただし、ハンドリング並びに糖転移反応効率を考慮すると、反応液中においてマルトース濃度は5〜40w/v%が好ましく、さらに好ましくは10〜40w/v%である。
【0055】
糖受容体としては、本発明のα−グルコシダーゼによりグルコシル基が転移する水酸基を有する化合物であれば、いずれでもよい。具体的には、アルコール類(例えばエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、L−メントール、1−ブタノ―ル、2−ブタノ―ル)、ポリオール類(例えばグリセロール、プロピレングリコール)、ビタミン類(例えばL−アスコルビン酸、レチノール、イノシトール、トコフェロール)、フラボノイド類(例えばケルセチン、カテキン、ルチン、ヘスペリジン)、フェノール誘導体(例えばハイドロキノン)、糖類(例えばガラクトース、マンノース)等を用いることができ、水酸基を有した化合物であれば特に限定されない。特に、後の実施例で詳述するが、本酵素は低温における活性が高いことから、温度に対し不安定な糖受容体に対して、有効に糖を転移し配糖体を作製可能であることが容易に想像できる。また、糖受容体が酸化されやすい場合は、必要に応じて還元剤を反応系に添加しておくことも有効である。
【0056】
また、本酵素の活性を保持する範囲で糖受容体の濃度を適宜選択することができ、1〜飽和%の範囲での反応が可能である。配糖体の生成効率および回収工程を考慮すると、反応液中において受容体濃度は5w/v%以上が好ましく、さらに好ましくは7w/v%以上、より一層好ましくは10w/v%以上である。
【0057】
配糖体の生成反応は、水系の液相による反応でも良く、例えば、糖受容体がL−メントールまたはレチノールのように難水溶性である場合は、油相と水相の界面における反応を適宜選択できる。また、酵素を適当な担体に固定化し、カラム方式により単管反応もしくは循環反応を行い、配糖体を得ることができる。
【0058】
配糖体の生成反応中のpHは、本発明におけるα−グルコシダーゼの活性を示す範囲で自由に選択可能であり、好ましくは、pH5〜9であり、より好ましくはpH5〜8であり、さらにより好ましくはpH6〜8である。また、温度に関しても酵素の活性を示す範囲で自由に選択可能であり、4℃〜55℃の範囲で反応が可能であり、好ましくは4℃〜50℃、より好ましくは4℃〜45℃である。なお、糖受容体の安定性や溶解度を考慮し
、反応条件を適宜選択すれば良い。反応に用いる緩衝液は特に制限されず、例えば、グッド緩衝液、リン酸緩衝液、ブリトン−ロビンソン緩衝液、McIlvaine緩衝液等が挙げられ、適宜選択すればよい。
【実施例】
【0059】
以下に実施例を挙げて本発明の詳細を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例において、各測定数値は下記のような条件で測定した値である。
【0060】
(活性測定)
まず、0.5w/v%マルトース水溶液40μlと0.1mol/LのHEPES緩衝液(pH7)40μlを含む溶液に、酵素試料20μlを添加して、30℃で10分間酵素反応させた。この反応液に2mol/LのTris−HCl溶液(pH7)を添加して
反応を停止した。前記反応液に、グルコーステストワコーC II溶液(和光純薬製)を100μl添加し、37℃で30分間インキュベートし発色させた。このうち200μlを96ウェルマイクロプレートに移液し、マイクロプレートリーダー(『Model 680』Bio Rad社製)にて波長490nmの吸光度を測定することにより生じたグルコースを定量した。グルコースの標準曲線は、0〜0.01w/v%グルコース水溶液を用いて作成した。酵素単位1Uは、前記条件で、1分間に1μmolのマルトースを分解させる酵素量と定義した。以下の実施例においても、特に示さない限り、同様である。
【0061】
(タンパク質の定量)
タンパク質の定量は、DC protein assay kit(Bio Rad社製)を使用して、添付のプロトコルに従って行った。タンパク質の標準曲線は0〜1mg/mlのbovine serum albumin(Bio Rad社製)を用いて作成した。以下の実施例においても、特に示さない限り、同様である。
【0062】
(タンパク質の純度)
タンパク質の純度は、SDS−PAGE(Sodium dodecyl sulfate Poly−Acrylamide Gel Electrophoresis)により評価した。ポリアクリルアミドゲル(12.5%)は、アトー社製の商品名『e−PAGEL』を使用した。サイズマーカーはインビトロジェン社製の『Mark12 Unstained Standard』を使用した。電気泳動は、25mAの定電流で行った。タンパク質の染色は、関東化学社製の商品名『ラピッド CBB Kanto』を使用して、添付のプロトコルに従って行った。以下の実施例においても、特に示さない限り、同様である。
【0063】
<実施例1:Halomonas sp. H11からのα−グルコシダーゼ精製>
可溶性澱粉(関東化学製)10g/L、酵母抽出物(商品名『ポリペプトン』、和光純薬製)5g/L、酵母抽出物(商品名『イーストエキストラクト』、ベクトン・ディッキンソン製)5g/L、塩化ナトリウム(和光純薬製)35g/L、リン酸二水素カリウム(関東化学製)1g/L、硫酸マグネシウム七水和物(関東化学製)0.2g/L、および水からなるpH7の液体培地2Lを5Lのバッフル付きフラスコに調製し、オートクレーブで121℃、20分間滅菌し冷却した。
【0064】
次いで、Halomonas sp. H11菌株のグリセロールストックを10μlディスポループ1エーゼ分植菌し、37℃、150rpmで24時間回転振盪培養した。培養液を冷却遠心機にて遠心分離し(4℃、5,800xg、30分間)、得られた菌体細胞を20mmol/L HEPES緩衝液(pH7)で懸濁した後、再度上記と同様の条件で遠心分離することにより菌体を洗浄した。上清を取り除き、菌体細胞を同緩衝液5
0mlに懸濁し、超音波破砕機(microsom(商標) ultrasonic cell disruptor)にて細胞を破砕した(出力:4ワット、全出力時間: 2
0分間)。細胞破砕液を遠心分離し(4℃,5,800xg,30分間)、回収した上清を菌体内粗酵素液とした。なお、全ての操作は氷上で行った。本粗酵素液について、タンパク質量とα−グルコシダーゼ活性を測定したところ、833mgのタンパク質、19.4Uの酵素活性が含まれており、比活性は0.023U/mgであった。
【0065】
前記粗酵素液50mlに1mol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)を1ml加えることによりpH5とし、20mmol/L 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)で平衡化されたイオン交換カラムに、以下の条件で供し、塩化ナトリウム濃度0.1mol/L付近に溶出された画分(部分精製酵素1)を回収した。
【0066】
(条件)
カラム : TOYOPEARL(登録商標) DEAE−650M(東ソー株式会社製)
カラムサイズ: φ15mm×170mm
ゲル量 : 30mL
溶出液 : 20mmol/L 酢酸ナトリウム(pH 5)
塩化ナトリウム濃度0mol/L〜0.5mol/Lのリニアグラジエント
流速 : 2mL/min
溶出液量 : 120mL
【0067】
部分精製酵素1には24.8mgのタンパク質と、2.2Uの酵素活性が含まれており、比活性は0.090U/mgであった。前記粗酵素液からの精製度は3.8倍であった。
【0068】
前記部分精製酵素1に、硫酸アンモニウムを少量ずつ加え、終濃度1.5mol/Lとした。これを1.5mol/L硫酸アンモニウムを含む20mmol/L HEPES緩衝液(pH7)で平衡化した疎水カラムに、以下の条件で供した。そして、硫酸アンモニウム濃度1.0mol/L付近で溶出された画分(部分精製酵素2)を回収した。
【0069】
(条件)
カラム : TOYOPEARL(登録商標) BUTHYL−650M(東ソー株式会社製)
カラムサイズ : φ15mm×200mm
ゲル量 : 35mL
溶出液 : 20mmol/L HEPES緩衝液(pH7)
硫酸アンモニウム濃度1.5mol/L〜0mol/Lのリニアグラジエント
流速 : 2mL/min
溶出液量 : 120mL
【0070】
部分精製酵素2には、7.9mgのタンパク質と、19.7Uの酵素活性が含まれており、比活性は2.5U/mgであった。
【0071】
前記部分精製酵素2を限外ろ過(Amicon Ultra−15 centrifugal Filter Unit、ろ過分子量10,000、ミリポア社製)にて脱塩・濃縮した後、溶媒を20mmol/L HEPES緩衝液(pH7)に置換した。
【0072】
脱塩・濃縮した部分精製酵素2には、6.5mgのタンパク質と、7.1Uの酵素活性が含まれており、比活性は1.1U/mgであった。脱塩・濃縮前の部分精製酵素2に比べ比活性が低下したのは、限外ろ過において、本酵素活性を活性化する一価カチオン(アンモニウムイオン等)が除去されたためと考えられる。
【0073】
当該サンプルを20mmol/L HEPES緩衝液(pH 7)で平衡化したイオン交換カラムに、以下の条件で供し、塩化ナトリウム濃度0.1mol/L付近に溶出した画分を回収(精製酵素)し、上記と同様の限外ろ過膜で脱塩・濃縮し、以後の実験に使用した。
【0074】
(条件)
カラム : resource Q(GEヘルスケア社製)
カラムサイズ : φ6.4mm×30mm
ゲル量 : 1mL
溶出液 : 20mmol/L HEPES緩衝液(pH7)
塩化ナトリウム濃度0mmol/L〜1mol/Lのリニアグラジエント
流速 : 3mL/min
溶出液量 : 30mL
【0075】
前記画分は0.92mgのタンパク質と1.1Uの酵素活性が含まれており、比活性は1.2U/mgであった。前記粗酵素液からの精製度は51倍、回収率は5.6%であった。この画分を1μg SDS−PAGEに供した。この結果を図1に示す。レーン1は分子量マーカーであり、レーン2は前記画分の結果である。図1のレーン2に示すように、1本のバンドのみが検出されたことから、前記画分において、酵素は単一に精製されていることが分かった。得られた精製酵素について、各種特性を調査した。
【0076】
下記表2に本酵素α−グルコシダーゼの精製の概要を示す。下記表2において、比活性はタンパク質1mgあたりの酵素活性(U/mg)を示し、回収率は、粗酵素液の総活性に対する酵素活性の残存率(%)を示し、精製度は、粗酵素液の比活性に対する倍率(倍)を示す(以下の実施例でも同様である)。なお、疏水カラム精製後の酵素(工程3)の比活性及び精製度が高いのは、溶出液中に含まれる硫酸アンモニウムの影響によるものと考えられる。
【0077】
【表2】

【0078】
<実施例2:SDS−PAGEによる分子量測定>
実施例1の方法で得た精製α−グルコシダーゼをSDS−PAGEに供し、サイズマーカーと比較して分子量を測定したところ、本発明のα−グルコシダーゼは分子量58,000±2000ダルトンであった(図1)。
【0079】
<実施例3:至適pHおよびpH安定性評価>
実施例1の方法で得た精製α−グルコシダーゼを用いて、酵素活性および酵素安定性におよぼすpHの影響を調べた。本酵素の活性測定時に用いる反応緩衝液を40mmol/Lのブリトン・ロビンソン緩衝液(pH3〜12)に置き換えることにより、至適pHを求めた。最も高い活性を示したpHにおける活性を100(%)とし、各pHにおける相対活性を算出した。pH安定性は、10mmol/Lのブリトン・ロビンソン緩衝液(pH3〜12)および0.36mg/mlの精製酵素からなる溶液を4℃にて24時間インキュベートした後、活性測定を行った。最も高い活性を示したpHにおける活性を100(%)とし、各処理pHにおける残存活性(%)を算出した。
【0080】
これらの結果を図2に示した。図2において、横軸はpHであり、左側の縦軸は相対活性(%)、右側の縦軸は残存活性(%)であり、黒丸(●)は相対活性(至適pH)の結果、白丸(○)は残存活性(pH安定性)の結果を示す。図2に示すように、本発明におけるHalomonas sp. H11株由来のα−グルコシダーゼの至適pHは6〜8の範囲であった。また、pH5.5〜12の範囲で、残存活性65%以上であった。
【0081】
<実施例4:至適温度および温度安定性評価>
実施例1で得た精製α−グルコシダーゼを用いて至適温度および温度安定性を調べた。温度安定性は、酵素溶液を4〜60℃の各温度に15分間保持した後、活性測定を行うことにより求めた。最も高い活性を示した温度における活性を100(%)とし、各保管温度における残存活性(%)を算出した。至適温度は、4〜60℃の各温度で活性測定を行うことにより求めた。最も高い活性を示した温度における活性を100(%)とし、各温度における相対活性を算出した。
【0082】
これらの結果を図3に示した。図3において、横軸は温度であり、左側の縦軸は相対活性(%)、右側の縦軸は残存活性(%)であり、黒丸(●)は相対活性(至適温度)の結果、白丸(○)は残存活性(温度安定性)の結果を示す。図3に示すように、本発明におけるHalomonas sp. H11株由来のα−グルコシダーゼの至適温度は、20℃〜35℃であり、温度安定性は4℃〜45℃であることがわかった。
【0083】
さらに、アンモニウムイオン10mmol/L存在下で至適温度を調べた。その結果を図4に示した。図4から明らかなように、本発明のα−グルコシダーゼは、硫酸アンモニウム10mmol/L存在下で、至適温度が25〜45℃になることが判明した。
【0084】
<実施例5:基質特異性評価>
各基質溶液(4mmol/L)としてα−結合からなる各種グルコオリゴ糖(マルトース、イソマルトース(東京化成工業製)、トレハロース(日本食品化工製)、ニゲロース(和光純薬工業製)、コージビオース(和光純薬製)、マルトトリオース(日本食品化工製)、マルトテトラオース(生化学工業製)、マルトペンタオース(生化学工業製)およびマルトヘキサオース(生化学工業製))、スクロース(関東化学製)、メチル−α−D−グルコシド(田岡化学製)、pNPG(シグマ社製)及び可溶化澱粉(ナカライテスク製)を基質とし、酵素添加量0.72μgにて通常の活性測定法と同様に活性測定を行っ
た。ただし、可溶化澱粉に関しては基質濃度を1w/v%とし、pNPGに関しては基質濃度を2mmol/Lとし、1mol/Lの炭酸ナトリウム水溶液を反応容量の2倍量添加することにより反応を停止した。マイクロプレートリーダーにて波長405nmの吸光度を測定することにより遊離のp−ニトロフェノール濃度を求め、1分間に1μmolのpNPGを加水分解する活性を1Uとした。標準曲線の作成には、p−ニトロフェノール(和光純薬製)0〜0.2mmol/Lを使用した。
【0085】
表3に、マルトースに対する加水分解活性を100%としたときのその他の基質に対す
る分解活性を相対値(%)で示した。表3から明らかなように、本発明におけるα−グルコシダーゼは、イソマルトース、トレハロース、ニゲロース、コージビオース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、メチルグルコシドおよび可溶性澱粉を実質的に加水分解しないことが判明した。
一方、スクロースに対して約33%、pNPGに対して約77%の相対活性を示した。
【0086】
【表3】

【0087】
<実施例6:酵素活性におよぼす各種イオンの影響>
実施例1の方法で得た精製α−グルコシダーゼを用いて、酵素活性におよぼす各種イオンの影響を調べた。LiCl、NaCl、MgCl・6H2O、KCl、CaCl2、MnCl2・2H2O、FeCl2・4H2O、CoCl2・6H2O、CuCl、ZnCl2、R
bCl、AgNO2、CsClおよびNH4Clまたは(NH42SO4(全て関東化学製
)をカチオン濃度として200mmol/Lとなるよう純水に溶解し、各種カチオン水溶液を調製した。各種カチオン水溶液を酵素反応液中のカチオン濃度が10mmol/Lとなるよう添加し、pH7、30℃において酵素活性を測定した。カチオン無添加における酵素活性を100(%)とし、各種カチオン10mmol/L存在時の相対酵素活性(%)を算出した。結果を表4に示す。
【0088】
【表4】

【0089】
表3から明らかなように、カチオン非存在下と比較しK+、Rb+、NH4+、Cs+、L
+およびNa+の存在下にて相対活性が上昇し、それぞれ592%、564%、503%、319%、151%および116%となった。反対に、Mg2+、Ca2+、Co2+およびZn2+においてはそれぞれ30、20、1および0%に低下した。以上より、本発明におけるα−グルコシダーゼは、一価のアルカリ金属イオンおよびアンモニウムイオンにより活性化されることが判明した。
【0090】
カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンおよびアンモニウムイオン0.001〜100mmol/L存在下において、それぞれ活性測定を行い、カチオン濃度の酵素比活性に及ぼす影響を調べた。結果を図5に示す。
【0091】
図5から明らかなように、各カチオン濃度10mmol/Lにおいてそれぞれの活性化効果はほぼ飽和に達し、それ以上の濃度においても酵素の比活性は殆ど変化しなかった。また、カチオン0.001mmol/Lの存在下においても活性化が認められた。以上のことから、本酵素を十分に活性化するためにはカチオン濃度10mmol/L以上が好ましいが、0.001mmol/L程度でも効果があることが明らかとなった。
【0092】
<実施例7:N末端アミノ酸配列>
実施例1の方法で得た精製α−グルコシダーゼを用いて、本酵素のN末端アミノ酸配列を、プロテインシーケンサーモデルProcise 492cLC(アプライドバイオシステムズ製)により解析したところ、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ酸番号1〜20、すなわち、MQDNMMWWRGGVIYQIYPRSであることが判明した。
【0093】
<実施例8:遺伝子配列の同定>
(ゲノムの調製)
実施例1で示した培地10mLに、Halomonas sp.H11株のグリセロールストックを接種し、37℃、150rpmで16時間培養した。培養液を1.5mL容エッペンドルフチューブに1mLずつ分注し遠心分離(4℃、14,000rpm、2分間)し上清を取り除いた。5mg/mLのリゾチーム(生化学工業製)、TE(pH8)溶液をチューブ1本当たり350μL添加し、37℃にて1時間保持した。10%SDS溶液を50μL添加し転倒混和し37℃にて30分間保持した。TE飽和フェノールを400μL添加し穏やかに転倒混和した後遠心分離(室温、14,000rpm、5分間)した。上層を新たなエッペンドルフチューブに移した後、フェノールクロロホルム溶液を400μL添加し穏やかに転倒混和し、上記と同様に遠心分離した。それぞれの上層を一つのエッペンドルフチューブに移し、3mol/L酢酸ナトリウム水溶液および95(v/v%)冷エタノールを、それぞれ溶液の1/10容量および2倍容量添加し遠心分離(4℃、14,000rpm、15分間)した。得られた沈殿物を70%エタノールにてリンス洗浄し風乾した。0.2mg/mlのRNase/TE溶液を400μL添加し、35℃にて30分間保持した。フェノールクロロホルム抽出およびエタノール沈殿法を上記と同様に行い、乾燥させた沈殿物をTE100μLに溶解し、ゲノム溶液とした。
【0094】
(N末端配列にもとづいたDNAプライマーの合成)
実施例7において示された本発明のα−グルコシダーゼにおけるN末端アミノ酸配列に基づき、第1から8番目のアミノ酸残基に対応する、5´−ATGCARGAYAAYATGATGTGGTGG−3´(以下、「PFG−F1A−8G」と表記する)(配列番号5)、および第5番目から11番目のアミノ酸に対応する5´−ATGATGTGGTGGCGNGGNGG−3´(以下、「PFG−5A−11G(CGN)」と表記する)(配列番号6)で表される塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを化学合成した。なお、塩基配列におけるNはA,T,G,Cの混合塩基を示す。以下同じ。
【0095】
(カセットPCRによる配列決定)
Takara LA PCRTM in vitro Cloning Kit(タカラバイオ製)を使用し、遺伝子配列を決定した。前記で調製したゲノムを、SalIおよびPstI(いずれもタカラバイオ製)で処理し、キット付属のカセットDNAに連結させた。
【0096】
1st PCRのプライマーとして、表5に示したPFG−F1A−8Gとcassette primer C1sのセット、PFG−F´1とcassette primer C1sのセット、およびPFG−R´3とcassette primer C1sのセットを使用した。この際、DNAポリメラーゼとしてKOD plus ver.
2(東洋紡製)またはEx Taq(タカラバイオ製)を用いたこと以外は添付説明書に従い行った。2nd PCRでは、各1st PCRの反応液を水で10倍希釈したもの1μLを鋳型とし、プライマーとしてそれぞれPFG−5A−11G(CGN)とcassette primer C2sのセット、PFG−F´2とcassette primer C2sのセット、およびPFG−R´2とcassette primer
C2sのセットを使用した。この際、DNAポリメラーゼとしてEx Taqを使用したこと以外は添付説明書に従った。
【0097】
2nd PCRで増幅の認められた各断片を市販のキット(GEヘルスケア製、商品名『illustra GFXTM PCR DNA and Gel Band Purification Kit』、以後、「GFX」と表記する)にて精製した。精製した増幅断片を市販のライゲーションキット(タカラバイオ製、商品名『DNA Ligation Kit(Mighty Mix)』)を用いてTベクター(プロメガ製、『pGE
M T easy vector』)に連結させた。上記ライゲーション反応液で通常のコンピテントセルDH5αをヒートショック法により形質転換した。それを50μg/mlアンピシリン、0.1mmol/L IPTG(イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド)および2μg/mL X−gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドシル−β−D−ガラクトシド)を含むLBプレートに塗布し37℃で静置培養した。得られた白色コロニーを無作為につまようじで一掻きし、減菌水30μLに懸濁し、そのうち1μLをコロニーPCRの鋳型とした。コロニーPCRは、表4に示したプライマーpGEM−up−FおよびpGEM−dn−Rのセットを使用し、DNAポリメラーゼとしてEx Taqを使用し20μLの系で行った。94℃に2分間保持し、94℃に30秒間、55℃に30秒間、72℃に2分間からなるプログラムを30回繰り返し、最後に72℃に3分間保持した。増幅バンドが認められたものに関してPCR反応液を上記と同様にGFXにて精製した。
これを鋳型として表5に示したシーケンシング用プライマー(PFG−F´3〜F´6、PFG−R´1、R´3)で適宜シーケンス反応させ配列解析に供した。シーケンス反応はDTCS with Quick Start Kit(ベックマン・コールター製)を用い、操作は添付のプロトコルに従った。
【0098】
【表5】

【0099】
上記カセットPCRにおいては、SalI−カセットを鋳型とした2nd PCRにおいて、約500bpの増幅断片が認められた。この断片を上記記載の方法にてTベクターに連結させ、大腸菌を形質転換した後、定法に従いプラスミドを調製した。これを鋳型として、表5記載のオリゴヌクレオチドpGEM−up−FおよびpGEM−dn−Rにてシーケンス解析したところ、5´−ATGATGTGGTGGCGNGGNGG−3´(配列番号6)を含む塩基配列が含まれていた。また、含まれていた配列をアミノ酸に翻訳したところ、実施例7において明らかとなった、本発明のHalomonas sp. H11株のα−グルコシダーゼのN末端アミノ酸配列中の4番目から20番目のアミノ酸
配列(配列番号2の4〜20番目のアミノ酸配列)であるMMWWRGGVIYQIYPRSと一致した。このことから、本塩基配列が、本発明のα−グルコシダーゼに対応する遺伝子の一部であることが明らかとなった。その塩基配列を基に、表5に示すオリゴヌクレオチドPFG−F´1、PFR−F´2、PFG−F´3、PFG−R´1、PFR−R´2およびPFG−R´3を合成した。
【0100】
PstI−カセットを鋳型として、PFG−F´1とcassette primer
C1sのセットおよびPFG−R´3とcassette primer C1sのセットで1st PCRを行った。そのPCR産物を鋳型として、それぞれPFG−F´2とcassette primer C2sのセットおよびPFG−R´2とcassette primer C2sのセットで2nd PCRを行ったところ、それぞれ約2.5kbpおよび約1.5kbpの増幅断片が認められた。上記方法に従い、これらのDNA断片のシーケンス解析を行ったところ、本発明におけるα−グルコシダーゼ遺伝子のDNA配列は、配列番号1に示す配列であることが明らかとなった。配列番号1に示すDNA配列がコードするアミノ酸配列は、配列番号2に示す配列である。
【0101】
<実施例9:形質転換体の作製>
実施例8で調製したHalomonas sp. H11株のゲノムDNAを鋳型として、表6に記載のクローニング用オリゴヌクレオチド、PFG−F−NdeIおよびPFG−R−XhoIを用いてα−グルコシダーゼをクローニングした。すなわち、鋳型100ng、10×KOD ver.2 buffer 5μL、2mmol/L dNTPs 5μL、25mmol/L MgSO4 3μL、20mmol/Lのプライマー溶液
各1mL、KOD plus polymerase 1μLを混合し、水で50μLにメスアップした。PCR条件は以下の通りである。94℃に2分間保持した後、94℃に30秒間、55℃に30秒間、72℃に2分間からなるサイクルを30回繰り返し、最後に72℃に3分間保持した。このうち4μlを電気泳動に供し、約1.5 kbの増幅断
片を確認した。当該断片をGFXにて精製した。これを、NdeIおよびXhoI(いずれもタカラバイオ製)で酵素処理し、GFXにて精製した。本DNA断片を、上記と同様にNdeIおよびXhoIで制限酵素処理したpET22b(ノバジェン製)に、通常のライゲーション反応にて連結させ発現用プラスミドを作製した。プラスミドの調製には、DH5αを使用し、表6に示したシーケンス解析用オリゴヌクレオチドにてクローニングが正しく行われていることを確認した。以上のようにして作製したプラスミドを『pET22b−PFG』と命名した。
【0102】
【表6】

【0103】
<実施例10:形質転換体によるα−グルコシダーゼの産生>
上記pET22b−PFGで、BL21(DE3) Codon Plus RIL(ノバジェン製)を形質転換した。
50μg/mlアンピシリンを含むLB培地3mLに、上記形質転換体を接種し、37℃で一晩前培養した。このうち1mLを600mLの同培地に接種し、37℃で3時間培養した。それを氷冷し、0.1mol/LのIPTGを600μL添加した。これを16℃で24時間回転振盪培養した。得られた培養物を、定法に従い、遠心分離して菌体を回収した。菌体を20mmol/L HEPES(pH7)約40mLに懸濁して、実施例1に示した方法にて超音波破砕した。これを遠心分離した上清を粗酵素液とした。
【0104】
粗酵素液のα−グルコシダーゼ活性を、通常の活性測定法および系内に20mmol/Lの硫酸アンモニウムを含んだ活性測定法により測定した。その結果、前者および後者において、それぞれ1.67U/mlおよび16.2U/mlのα−グルコシダーゼ活性が認められた。このことから、アンモニウムイオンにより活性化される特徴を有した、本発明におけるα−グルコシダーゼが形質転換体により産生されていることが明らかとなった。
【0105】
上記で得た粗酵素液を、さらに実施例1に示した方法に準じて、DEAEトヨパール650Mゲル、ブチルトヨパール650Mゲルを用いたカラムクロマトグラフィーに供して精製し、さらにこの精製酵素をSDS−PAGEに供したところ、分子量58,000±2,000ダルトンの単一バンドが認められた。本組換え酵素の理化学的性質は実質的に実施例1で精製された野生株由来の精製酵素と同一であった。なお、アンモニウムイオンによる活性化率が野生株由来の精製酵素と若干異なったことは、酵素失活および緩衝液の構成成分からなるナトリウムイオンの影響であるものと考えられた。本精製酵素を以後、精製rPfGと表記することがある。
【0106】
<実施例11:粗酵素によるグリセロールの配糖化>
20w/v%マルトース、20w/v%グリセロール、5mmol/L硫酸アンモニウムおよび20mmol/L HEPES緩衝液(pH7)を含む溶液において、α−グル
コシダーゼ活性として1.5U/gマルトースとなるように、実施例1の方法にて調製した粗酵素液を添加し反応液量1mLとした。40℃にてインキュベートし、2週間後にサンプリングした。また、対照として、特許文献4(特開平11−222496号公報)に記載された方法に準じてAspergellus niger由来のα−グルコシダーゼを用いた反応を行った。すなわち、30w/v%マルトース、30w/v%グリセロール、20mmol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)を含む溶液に2.5U/gマルトースとなるようにトランスグルコシダーゼアマノ(アマノエンザイム製、以下、「TGアマノ」と表記することがある)を添加し40℃にて2週間反応させた。各反応溶液を熱失活させ、5w/v%程度に希釈し、イオン交換樹脂(アンバーライト MB4、オルガノ製)により脱塩、フィルター(Millex HP φ13mm、膜孔0.45μm、ミリポア製)でろ過した後、以下のHPLC条件にて測定した。なお、得られたHPLCピーク面積比をそのサンプル中の固形分重量比とみなした。
【0107】
(HPLC分析条件)
カラム : Ultron PS−80N.L (φ8.0×500 mm)、信和化工製
溶媒 : 純水
流速 : 0.9 ml/min
カラム温度 : 50℃
注入量 : 10μL
検出器 : 示差屈折計
【0108】
その結果、本発明におけるα−グルコシダーゼの粗酵素における反応溶液において、反応前には見られなかった溶出時間11.1分付近の生成物(生成物X)が32.9%含まれていた。本生成物Xは、特許文献4で示される方法(本実施列の対照実験)で生成したα−D−グルコピラノシル−グリセロール(以下、「グルコシルグリセロール」と表記する)と同溶出時間の物質であった。
【0109】
そこで、上記と同様のHPLC条件にて5w/v%の各サンプルを99μL注入し、注入後10〜12分間に検出器の出力ラインから20秒毎に溶離液を分取した。それを3〜5セット繰り返し、分取した画分の糖組成を同条件にて分析した。溶出時間11.1分の物質純度が90%以上の画分を回収しスピードバック遠心濃縮機にてBrix10程度まで濃縮した。当該サンプル5μLにTMSI−C(GLサイエンス製)を500μL添加し、60℃にて10分間保持したものを試料として、特許文献4記載の方法と同様の条件でガスクロマトグラフ(GC)分析した。
【0110】
その結果、物質Xは、GC分析においても対照実験で調製したグルコシルグリセロールと同溶出時間に検出され、対照と同様の、3つの異性体ピークが検出された。以上より、物質Xは、トランスグルコシダーゼアマノにより生成されるものと同様のグルコシルグリセロールであることが明らかとなった。また、本発明のα−グルコシダーゼにより生成したグルコシルグリセロールの異性体割合を、GCによるピーク面積比より算出したところ、2−O−α−D-グルコシルグリセロール:(2R)−1−O−α−D−グルコシルグ
リセロール:(2S)−1−O−α−D−グルコシルグリセロールは10:52:38であった。
【0111】
一方、上記HPLC条件において、反応液の固形分組成を分析したところ、表7に示すように、全固形分に占めるグルコシルグリセロールの割合は32.9%であり、副生成物のグルコース(G1)および重合度3のオリゴ糖(G3)がそれぞれ26.3%および0.7%であった。トランスグルコシダーゼアマノにおける反応溶液においては、上記成分の割合はそれぞれ、24.9%、25.4%および7.2%であった。なお、以下の高純
度化の実験結果から、これらの重合度2のオリゴ糖(G2)およびG3には分岐糖(イソマルトース、パノースおよびイソマルトトリオース)が含まれていることが示唆された。
【0112】
このことから、本発明におけるα−グルコシダーゼを用いた配糖化反応においては、重合度3のオリゴ糖を実質的に生成しないことがわかった。また、グルコシルグリセロールの生成効率を表すグルコシルグリセロール/グルコース値は、1.25であった。本数値は、トランスグルコシダーゼアマノを使用したときの0.98よりも、優れていた。粗酵素液を使用した反応溶液の、その他の占める成分は粗酵素液に含まれる残渣であった。したがって、本発明におけるα−グルコシダーゼは、既知酵素よりもグリセロールを効率的に配糖化可能であることに加え、目的の配糖体の収量が多く、さらには粗酵素液中に含まれる夾雑タンパク質は配糖化反応に全く悪影響を及ぼさないことが示され、粗酵素であっても配糖化反応に使用可能であることが明らかとなった。
【0113】
表7中におけるG1はグルコース、Glc−Glyはグルコシルグリセロール、G2はマルトースおよびイソマルトースの総量、G3はマルトトリオース、パノースおよびイソマルトトリオースの総量のことを言う。
【0114】
【表7】

【0115】
さらに、上記反応物を、グルコアミラーゼ処理工程を経ずに、高純度化可能かを検討した。すなわち、上記反応物を水でBrix20に希釈し、固形分1gあたり1gとなるように酵母(ダイヤイーストYST,協和発酵フーズ製)を添加した。これを30℃で15時間インキュベートした。煮沸して酵母を死滅させ、発酵により生じたエタノールをエバポレーターにより除去した後、通常の分析と同様に脱イオンおよびフィルターろ過して上記と同様のHPLC分析に供した。なお、この際に使用する酵母は、特に制限されず、一般的なパン酵母、醸造用酵母ならびに実験用酵母等、グルコースを資化するものであれば何を用いてもよい。
【0116】
その固形分分析結果を表8に示す。表8から明らかなように、両反応液において、酵母がグルコースを消費し、本発明におけるα−グルコシダーゼおよびトランスグルコシダーゼアマノの反応液においてグルコース含量がそれぞれ0.8%および0.5%に減少した。一方、酵母の発酵によりグリセロールが生じたため、反応前(表7)と比較してグリセロール含量が増加した。一方、G2およびG3含量は、本発明におけるα−グルコシダーゼを用いた場合はそれぞれ1.2%および0.6%と低いのに対して、トランスグルコシダーゼアマノの場合は、生じた副産物の分岐糖が酵母により資化されないため、それぞれ5.6%および10.0%と高い値を示した。目的生成物のグルコシルグリセロールは、前者においては後者の1.4倍であった。このことから、本発明におけるα−グルコシダーゼを使用することにより、副産物のオリゴ糖を除去するグルコアミラーゼ処理を要さず、さらには、酵母または適当方法によりグルコースおよびG2を除去することにより目的
配糖体がより容易に高純度化可能であることがわかった。それぞれのその他に占める成分は、酵素溶液および酵母由来の高分子であった。
【0117】
【表8】

【0118】
本発明におけるα−グルコシダーゼを用いて配糖化反応を行い、続いて、例えば上記のように酵母処理を施した反応液には、従来、例えばオリゴ糖の分離に一般的に用いられるNaまたはCaフォーム等のクロマト分離用陽イオン交換クロマトグラフィーや、膜分画等で目的配糖体との分離が困難であるとされるG1、G2およびG3が実質的に含まれていないために、然る分離手段を選択することにより、従来法よりも容易に高純度化可能であることが期待できる。さらには、G1、G2およびG3が実質的に含まれていないゆえに目的配糖体の含量が多い。
【0119】
実施例1と同様の方法にて調製したHalomonas sp.A8株およびHalomonas sp.A10株の粗酵素においても、本実施例に示される方法によりグリセロールの配糖化を試みた。Halomonas A8株およびA10株の粗酵素添加量をマルトース1gに対してそれぞれ0.07Uおよび0.1Uとした以外の反応条件は上記と同様である。反応4日後の糖組成を表9に示す。
【0120】
表9から明らかなように、いずれの粗酵素においてもGlc−Glyが生成し、G3が実質的に生成されていなかった。なお、これらA8及びA10株においてマルトース(G2)が消費されきれなかったのは、粗酵素中の酵素活性が低かったことから、反応が十分に進まなかったことが原因であると考えられた。酵素量と反応時間には密接な関係があることから、適切に反応させることによりHalomonas sp.H11株の粗酵素のものと同等の反応を行うことが可能であると考えられる。なお、A8及びA10株の反応溶液共に、その他の占める成分は粗酵素液に含まれる残渣であった。
【0121】
【表9】

【0122】
さらに、グリセロールは、グルコシルグリセロールと全く異なる分子量であることから
、上記のような分離手段を用いれば容易に目的配糖体と分離可能である。したがって、本実施例に示したような、グルコシルグリセロールの製造においては、グリセロールを含む画分を回収して、糖転移反応の受容体として繰り返し使用することが可能である。
【0123】
<実施例12:各種α−グルコシダーゼによるグリセロールの配糖化能比較>
各種α−グルコシダーゼによるグリセロールの配糖化能を比較した。20w/v%マルトース、20w/v%グリセロール、0または5mmol/L硫酸アンモニウム(硫安)および40mmol/L HEPES緩衝液(pH7)を含む溶液において、α−グルコ
シダーゼ活性として1U/gマルトースとなるように、実施例10の方法にて調製した精製組換え酵素(精製rPfG)を添加し反応液量1mLとした。対照として、トランスグルコシダーゼアマノおよびテイスターゼの反応では上記と同様の基質濃度、0mmol/L硫酸アンモニウムおよび40mmol/Lの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)とし、アクレオニウム・エスピー(Acremonium sp.)由来のα−グルコシダーゼ(テイスターゼ、キリン製)の反応では緩衝液をHEPES(pH7)としたこと以外は上記と同様である。これらを40℃にてインキュベートし、実施例11と同様にHPLC条件で糖組成を分析した。
【0124】
反応17時間目における各反応溶液の糖組成を表10に示す。表中の数値はHPLC分析における面積(%)を表し、−は検出限界以下であることを表す。
【0125】
【表10】

【0126】
上記表10から明らかなように、精製rPfGによる反応においては、反応17時間後においてトランスグルコシダーゼアマノまたはテイスターゼよりもGlc−Glyの生成量が多いことが明らかとなった。さらに、硫酸アンモニウムを5mmol/L(0.675g/L)となるように添加した反応系においては、無添加のときと比較してGlc−Glyの生成量が多いことが明らかとなった。また、反応48時間までの糖組成の経時変化をとったところ、硫酸アンモニウムの添加によりGlc−Glyの生成反応が促進されることが明らかとなった(図6)。
【0127】
<実施例13:エタノールの配糖化>
20w/v%マルトース、10v/v%エタノール、5mmol/L硫酸アンモニウムおよび20mmol/L HEPES緩衝液(pH7)を含む溶液において、α−グルコ
シダーゼ活性として1.0U/gマルトースとなるように、実施例10の方法にて調製した精製rPfGを添加し、純水で反応液量1mLとした。40℃にてインキュベートし、1週間後にサンプリングした。また、対照として、特許文献5(特開2002−1739
5号公報)に記載された方法に準じてAspergellus niger由来のα−グルコシダーゼを用いた反応を行った。すなわち、上記と同様のマルトースおよびエタノール濃度で、20mmol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)を含む溶液に1.0U/g
マルトースとなるようにトランスグルコシダーゼアマノ(アマノエンザイム製)を添加し40℃にてインキュベートした。上記と同様に、1週間後にサンプリングした。各反応溶
液を熱失活させ、水で10倍希釈し、イオン交換樹脂(アンバーライト MB4、オルガノ製)により脱塩、フィルター(Millex HP φ13mm、膜孔0.45μm、ミリポア製)でろ過した後、以下のHPLC条件にて分析した。標品として1w/v%のエチル−α−D−グルコシド(和光純薬製、以下、「エチルグルコシド」と表記する)を同様に分析した。
【0128】
(HPLC分析条件)
カラム : Aminex HPX−42A (φ7.8×300 mm)、Bio−Rad製
溶媒 : 純水
流速 : 0.5ml/min
カラム温度 : 75℃
注入量 : 10μL
検出器 : 示差屈折計
【0129】
反応液のHPLC分析結果を表11に示した。表中の数値はHPLC分析における面積(%)を表し、−は検出限界以下を表す。
【0130】
【表11】

【0131】
本発明におけるα−グルコシダーゼの精製rPfGにおける反応溶液において、反応前には見られなかった溶出時間21分付近の生成物が15.0%含まれていた。本生成物は、標品のエチルグルコシドと同溶出時間であり、エタノールの水酸基はひとつであることから、本生成物はエチルグルコシドであると判断した。また、本反応において、副生したG3は0.7%であり、実質的に生成されていないことが明らかとなった。
一方、トランスグルコシダーゼアマノによる本実施列の対照実験においては、エチルグルコシドのピークは目視において認められたものの、機器の検出限界以下であった。また、G2およびG3(面積(%))は、それぞれ26.8%および29.8%と高かった。
【0132】
以上より、本発明におけるα−グルコシダーゼを用いてエタノールを配糖化することによれば、既存技術よりもエチルグルコシドを効率的に調製可能であり、さらに、オリゴ糖を分解する工程を経ることなく、実施例11に示したような方法または特許文献5で示さ
れるようなグルコースオキシダーゼによりG1を除去し、エタノールを適当な蒸留装置により除去することにより、エチルグルコシドをより高純度化可能であることが期待できる。この際、エタノールを含む成分を冷却し回収すれば、それをリサイクルすることが可能である。
【0133】
さらに、前記実施例11に記載した方法のように、エタノールを除去した後、さらに適当な分画操作を経ることにより、より高度に目的成分を高純度化することが可能である。
【0134】
<実施例14:各種α−グルコシダーゼによるエタノールの配糖化>
各種α−グルコシダーゼによるエタノールの配糖化能を比較した。20w/v%マルトース、10v/v%エタノール、0または5mmol/L硫酸アンモニウムおよび40mmol/L HEPES緩衝液(pH7)を含む溶液において、α−グルコシダーゼ活性
として1U/gマルトースとなるように、実施例10の方法にて調製した精製rPfGを添加し反応液量1mLとした。対照として、トランスグルコシダーゼアマノおよびテイスターゼの反応では上記と同様の基質濃度、0mmol/L硫酸アンモニウムおよび40mmol/Lの酢酸ナトリウム緩衝液(pH5)とし、Acremonium sp.由来のα−グルコシダーゼ(テイスターゼ、キリン製)の反応では緩衝液をHEPES(pH7)としたこと以外は上記と同様である。これらを40℃にてインキュベートし、実施例13と同様にHPLC条件で糖組成を分析した。
48時間後の糖組成を表12に示す。表中の数値はHPLC分析における面積(%)を表し、−は検出限界以下であることを表す。
【0135】
【表12】

【0136】
上記表12から明らかなように、精製rPfGによる反応においては、反応48時間後においてトランスグルコシダーゼアマノまたはテイスターゼよりもエチルグルコシドの生成量が多いことが明らかとなった。さらに、硫酸アンモニウムを5mmol/L(0.675g/L)となるように添加した反応系においては、無添加のときと比較してエチルグルコシドの生成量が多いことが明らかとなった。以上より、硫酸アンモニウムの添加によりエチルグルコシドの生成反応が促進されることが明らかとなった(図7)。
【0137】
<実施例15:各種糖受容体に対する配糖化>
本発明におけるα−グルコシダーゼが、ハイドロキノン、L−メントール、プロピレングリコール、1−プロパノール、2−プロパノールおよびアスコルビン酸に対して糖転移可能か否かを調べた。すなわち、上記各受容体1〜5w/v%、マルトース10w/v%
、50mmol/L HEPES緩衝液(pH7)および5mmol/L硫酸アンモニウムの系に、実施例10で精製したrPfGを1U/gマルトースとなるよう添加した。コントロールとして、酵素の代わりに水を添加したものを調製した。30〜40℃にて24〜72時間反応させ、アスコルビン酸以外の生成物に関してはTLCにて確認した。TLCは、ハイドロキノンの反応液には1−ブタノール:エタノール:水=5:3:2(v/v)、L−メントールの反応液にはクロロホルム:メタノール:水=6:4:1(v/v)、その他の反応液には1−ブタノール:2−プロパノール:水=2:2:1(v/v)を展開溶媒として使用した。10w/v%硫酸/メタノール溶液を噴霧しオーブンで加熱することにより、糖組成を確認した。アスコルビン酸の生成物は以下のHPLC条件において確認した。
【0138】
(HPLC分析条件)
カラム : Wakopak−WT−B−30 (φ10mm×300 mm)、和光純薬製
溶媒 : 70ppm硝酸/水
流速 : 0.5ml/min
カラム温度 : 30℃
検出器 : 示差屈折計およびUV検出器(検出波長238nm)
【0139】
その結果、ハイドロキノン、L−メントール、プロピレングリコール、1−プロパノール、2−プロパノールの反応溶液において、反応前溶液およびコントロールには見られないスポット、すなわち生成物が確認された。また、アスコルビン酸の反応溶液においては、L−アスコルビン酸とは異なる溶出時間に波長238nmに吸光ピークを有する生成物が現れた。なお、L−アスコルビン酸は、波長238nmに吸光ピークを有する。このことから、本発明におけるα−グルコシダーゼは、ハイドロキノン、L−メントール、プロピレングリコール、1−プロパノール、2−プロパノールおよびアスコルビン酸に対しても糖転移反応を起こすことが明らかとなった。本結果および実施例11〜14の結果に基づき、本発明のα―グルコシダーゼにより配糖化可能な糖受容体を表13に纏めた。表中の白丸(○)は生成物が認められたことを意味する。
【0140】
【表13】

【0141】
上記結果より、本発明におけるα−グルコシダーゼは少なくともグリセロール、エタノール、ハイドロキノン、L−メントール、プロピレングリコール、1−プロパノール、2−プロパノールおよびアスコルビン酸の配糖体製造に利用可能であることが明らかとなった。
【0142】
<実施例16:Halomonas sp. A8株由来α−グルコシダーゼの精製および組換え酵素の調製>
実施例1と同様の方法にて、Halomonas sp.A8株からα−グルコシダーゼを精製し、実施例7と同様の方法にて精製酵素のN末端アミノ酸配列を決定したところ、Halomonas sp.H11株と同様の配列、すなわち、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列のアミノ酸番号1〜20、MQDNMMWWRGGVIYQIYPRSであることが判明した。そこで、さらに、実施例8と同様の方法により、α−グルコシダーゼをコードする遺伝子配列を同定したところ、配列表の配列番号3に示すDNA配列であることが明らかとなった。配列番号3に示すDNA配列がコードするアミノ酸配列は、配列番号4に示す配列である。
【0143】
<実施例17:Halomonas sp. A8株由来α−グルコシダーゼの諸性質の検討>
実施例9の方法と同様に組換え酵素を大腸菌により調製し、精製した。以後、本精製酵素を用いて、Halomonas sp. A8株のα−グルコシダーゼの諸性質を調べた。
【0144】
実施例2〜6と同様の方法で、実施例16で精製した組換え酵素の諸性質を調べた。SDS−PAGEの結果、本酵素の分子量は58000±2000であった(図8:レーン1は分子量マーカー、レーン2は本酵素の結果)。至適pHは5〜8.5であった(図9:白丸(○))。pH5.5〜9.5で安定であった(図9:白三角(△))。
至適温度は、カチオン無添加においては15〜30℃であり(図10:白丸(○))、5mmol/L硫酸アンモニウム存在下においては15〜35℃であった(図11:白三角(△))。また、40℃以下で安定であった(図10:白三角(△))。
【0145】
基質特異性の結果を表14に示した。表14から明らかなように、本酵素はマルトース、スクロースおよびpNPG以外を実質的に基質としないことが明らかとなった。
【0146】
【表14】

【0147】
実施例16で精製した組換え酵素を用いて各種カチオン(リチウムイオン(○)、ナトリウムイオン(△)、カリウムイオン(◆)、ルビジウムイオン(□)、セシウムイオン(黒三角)、アンモニウムイオン(●))濃度を0〜100mMとしたときの活性を測定した。カチオン非存在下のときの活性を100(%)としたときの相対活性を図12に示す。カリウムイオン100mMのときの相対活性は、3150%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記理化学的性質を有するα−グルコシダーゼ:
(A)酵素活性
カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン又はアンモニウムイオンから選ばれる1種又は2種以上のイオン10mmol/Lの存在下において、非存在下に対し、酵素活性が200%以上に活性化される。
(B)基質特異性
マルトース、p−ニトロフェニル−α−D−グルコシド、スクロースに作用しグルコースを遊離させるが、イソマルトース、ニゲロース、コージビオース、トレハロース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオース、可溶性澱粉には実質的に作用しない。
【請求項2】
さらに下記理化学的性質を有する、請求項1に記載のα−グルコシダーゼ:
カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオン又はアンモニウムイオンから選ばれる1種又は2種以上のイオン10mmol/Lの存在下において、非存在下に対し、酵素活性が300%以上に活性化される。
【請求項3】
さらに下記理化学的性質を有する、請求項1又は2に記載のα−グルコシダーゼ。
(C)分子量
58000±2000(SDS−PAGEによる)
(D)pH安定性
4℃、24時間の保存において、すくなくともpH5.5〜9.5で安定である。
(E)至適pH
30℃、10分間の反応においてpH5.5〜8.5である。
(F)温度安定性
pH7.0、15分間の保存において、すくなくとも4℃〜40℃で安定である。
(G)至適温度
pH7.0、10分間の反応において15℃〜35℃であり、pH7.0、10分間、10mmol/Lアンモニウムイオン存在下の反応において15℃〜45℃である。
【請求項4】
ハロモナス(Halomonas)属細菌由来である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のα−グルコシダーゼ。
【請求項5】
ハロモナス属細菌が、ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) A8株、ハロモナス・エスピー A10株又はハロモナス・エスピー H11株である、請求項4に記載のα−グルコシダーゼ。
【請求項6】
下記のa)〜c)のいずれか1つに記載のタンパク質であるα−グルコシダーゼ:a)配列表の配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列を含むタンパク質;b)配列表の配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、又は付加したアミノ酸配列からなり、かつ、α−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質;c)配列表の配列番号2又は4に記載のタンパク質と60%以上のアミノ酸配列相同性を有するアミノ酸配列からなり、かつ、α−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質。
【請求項7】
下記a)〜d)のいずれか1つに記載のDNA:a)配列表の配列番号1又は3のヌクレオチド番号1〜1617に示されるヌクレオチド配列を含むDNA;b)上記a)に記載のDNAと70%以上のヌクレオチド配列相同性を有するヌクレオチド配列を含み、かつ、α−グルコシダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;c)上記a)に記載のDNAの相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、α−グルコ
シダーゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA;d)配列表の配列番号2又は4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA。
【請求項8】
ハロモナス属細菌を培養し、得られた培養物からα−グルコシダーゼを精製する工程を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のα−グルコシダーゼの製造方法。
【請求項9】
糖受容体と糖供与体に、請求項1〜6のいずれか1項に記載のα−グルコシダーゼを作用させる工程を含む、配糖体の製造方法。
【請求項10】
糖供与体がマルトースである、請求項9に記載の配糖体の製造方法。
【請求項11】
糖受容体がアルコール性水酸基を有する化合物又はフェノール性水酸基を有する化合物である、請求項9又は10に記載の配糖体の製造方法。
【請求項12】
糖受容体が、グリセロール、エタノール、アスコルビン酸、1−プロパノール、2−プロパノール、L−メントール、プロピレングリコール又はハイドロキノンから選ばれる1種又は2種以上の化合物である、請求項9〜11のいずれか1項に記載の配糖体の製造方法。
【請求項13】
ナトリウムイオン、リチウムイオン、アンモニウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン又はセシウムイオンから選ばれる1種類又は2種以上のα−グルコシダーゼ活性化剤存在下で酵素反応を行う、請求項9〜12のいずれか1項に記載の配糖体の製造方法。
【請求項14】
α−グルコシダーゼ活性化剤の濃度が、0.001mmol/L〜1000mmol/Lである、請求項13記載の配糖体の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のα−グルコシダーゼを生産する能力を有するハロモナス属細菌。
【請求項16】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のα−グルコシダーゼを生産する能力を有するハロモナス属細菌ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) A8株(受託番号:NITE P−1096)。
【請求項17】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のα−グルコシダーゼを生産する能力を有するハロモナス属細菌ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) A10株(受託番号:NITE P−1097)。
【請求項18】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のα−グルコシダーゼを生産する能力を有するハロモナス属細菌ハロモナス・エスピー(Halomonas sp.) H11株(受託番号:NITE P−1098)。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図1】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−5793(P2013−5793A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−93302(P2012−93302)
【出願日】平成24年4月16日(2012.4.16)
【出願人】(000231453)日本食品化工株式会社 (68)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】