説明

新規なアザカリックス[3]ピリジン及びその製造方法

【課題】新規なアザカリックス[3]ピリジンの提供。
【解決手段】下記一般式(1)で示される新規なアザカリックス[3]ピリジン。


(Rは、それぞれ水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、それぞれ炭素数1〜20のジアルキルアミノ基、ピロリジニル基又はピペリジニル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアザカリックス[3]ピリジン及びその製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、有機強塩基性を示すことから、例えばマイケル付加反応、クネフェナーゲル(Knoevenagel)反応、脱ハロゲン化水素反応、ポリウレタン化反応、ポリイソシアネート化反応、エポキシ樹脂硬化反応に代表される塩基反応の際に有用性が期待される新規なアザカリックス[3]ピリジン及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アザカリックス[n]ピリジン類は、多彩な分子や金属イオンを包接するホスト分子として注目を集めている(例えば特許文献1、非特許文献1参照。)。その中でも、特にアザカリックス[3]ピリジンは、プロトンを包接するホスト分子であることから、有機塩基として作用することが知られており、その塩基性はpKBH=23.1を示すことから、有機強塩基として知られている1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン、1,8−ビス(ジメチルアミノ)ナフタレン等と同等の強さであることが報告されている(例えば非特許文献2参照。)。
【0003】
また、近年ピリジン環及びベンゼン環上にジメチルアミノ基を導入したアザカリックス[3]ピリジンが、化学計算上、既知のアザカリックス[3]ピリジンより強い塩基性を有することを期待する報告がなされている(例えば非特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−261568号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】SYNLETT、2005年、第2号、pp.263〜266
【非特許文献2】Eur. J. Org. Chem.,2006年、pp.3314〜3316
【非特許文献3】ORGANIC LETTERS,2007年,9巻,6号,pp.1101〜1104
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、アザカリックス[3]ピリジンは、強い塩基性を有しているものの、多量の触媒が必要な場合や、厳しい反応条件を必要とするほか、適用可能な基質に制約を受けるなどの課題を有するものであり、更に強い塩基性を有する新規なアザカリックス[3]ピリジンが望まれている。
【0007】
そして、非特許文献3に記載のピリジン環及びベンゼン環上にジメチルアミノ基を導入したアザカリックス[3]ピリジンの強い塩基性は、あくまで化学計算上の報告であり、現状では、実際に既知のアザカリックス[3]ピリジンに電子供与性の置換基を導入したアザカリックス[3]ピリジンの合成に関する報告例はなく、具体的な製造法や得られるアザカリックス[3]ピリジンの塩基性についても不明である。
【0008】
そこで、本発明は、有機強塩基性を示すことから、例えばマイケル付加反応、クネフェナーゲル(Knoevenagel)反応、脱ハロゲン化水素反応、ポリウレタン化反応、ポリイソシアネート化反応、エポキシ樹脂硬化反応に代表される塩基反応の際に有用性が期待される新規なアザカリックス[3]ピリジン及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、ベンゼン環及びピリジン環のそれぞれの環上に特定の置換基を有するアザカリックス[3]ピリジンを製造し、該アザカリックス[3]ピリジンが、従来にない著しく強い塩基性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で示されることを特徴とするアザカリックス[3]ピリジン及びその製造方法に関するものである。
【0011】
【化1】

【0012】
(ここで、Rは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、それぞれ独立して炭素数1〜20のジアルキルアミノ基、ピロリジニル基又はピペリジニル基を表す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明の新規なアザカリックス[3]ピリジンは、既知のアザカリックス[3]ピリジンより著しく強い塩基性を有しており、基質の適応範囲が広く、温和な反応条件下に於いても、種々の塩基反応の触媒として用いることが期待される有用な化合物である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に関し詳細に説明する。
【0015】
本発明の新規なアザカリックス[3]ピリジンは、上記一般式(1)で示される構造を有するアザカリックス[3]ピリジン類である。
【0016】
そして、Rは、ベンゼン環上の置換基を示すものであり、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表すものである。そして、該炭素数1〜10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、n−ヘキシル基、n−へプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等を挙げることができ、その中でも、原料の入手が容易であるとともに、容易に強塩基性を有するアザカリックス[3]ピリジンを得ることが出来ることから水素またはメチル基であることが好ましい。ここで、Rが炭素数10を越えるアルキル基である場合、アザカリックス[3]ピリジン類を得ること自体が困難である。
【0017】
また、Rは、ピリジン環上の置換基を示すものであり、それぞれ独立して炭素数1〜20のジアルキルアミノ基、ピロリジニル基又はピペリジニル基であり、炭素数1〜20のジアルキルアミノ基としては、例えばジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ(n−プロピル)アミノ基、ジ(イソプロピル)アミノ基、ジ(n−ブチル)アミノ基、ジ(イソブチル)アミノ基、ジ(2−ブチル)アミノ基、ジ(n−ペンチル)アミノ基、ジ(n−ヘキシル)アミノ基、ジ(n−ヘプチル)アミノ基、ジ(n−オクチル)アミノ基、ジ(n−ノニル)アミノ基、ジ(n−デシル)アミノ基などを挙げることができる。そして、原料の入手が容易であるとともに、容易に強塩基性を有するアザカリックス[3]ピリジンを得ることが出来ることからジメチルアミノ基、ピロリジニル基、ピペリジニル基であることが好ましい。ここで、Rが炭素数20を越えるジアルキルアミノ基である場合、アザカリックス[3]ピリジン類を合成すること自体が困難である。
【0018】
そして、本発明の新規なアザカリックス[3]ピリジンとしては、例えばN,N’,N”−トリス(フェニル)アザカリックス[3](2,6)(4−ジメチルアミノピリジン)、N,N’,N”−トリス(フェニル)アザカリックス[3](2,6)(4−ジエチルアミノピリジン)、N,N’,N”−トリス(フェニル)アザカリックス[3](2,6)[4−ジ(n−プロピル)アミノピリジン]、N,N’,N”−トリス(フェニル)アザカリックス[3](2,6)(4−ジイソプロピルアミノピリジン)、N,N’,N”−トリス(フェニル)アザカリックス[3](2,6)[4−ジ(n−ブチル)アミノピリジン]、N,N’,N”−トリス(フェニル)アザカリックス[3](2,6)(4−ジイソブチルアミノピリジン)、N,N’,N”−トリス(フェニル)アザカリックス[3](2,6)[4−ジ(n−ペンチル)アミノピリジン]、N,N’,N”−トリス(フェニル)アザカリックス[3](2,6)[4−ジ(n−ヘキシル)アミノピリジン]、N,N’,N”−トリス(フェニル)アザカリックス[3](2,6)[4−ジ(n−ヘプチル)アミノピリジン]、N,N’,N”−トリス(フェニル)アザカリックス[3](2,6)[4−ジ(n−オクチル)アミノピリジン]、N,N’,N”−トリス(フェニル)アザカリックス[3](2,6)[4−ジ(n−ノニル)アミノピリジン]、N,N’,N”−トリス(フェニル)アザカリックス[3](2,6)[4−ジ(n−デシル)アミノピリジン]、N,N’,N”−トリス(フェニル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)、N,N’,N”−トリス(フェニル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピペリジニルピリジン)、N,N’,N”−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ジメチルアミノピリジン)、N,N’,N”−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ジエチルアミノピリジン)、N,N’,N”−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)[4−ジ(n−プロピル)アミノピリジン]、N,N’,N”−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ジイソプロピルアミノピリジン)、N,N’,N”−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)[4−ジ(n−ブチル)アミノピリジン]、N,N’,N”−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)[4−ジ(n−ペンチル)アミノピリジン]、N,N’,N”−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)[4−ジ(n−ヘキシル)アミノピリジン]、N,N’,N”−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)[4−ジ(n−ヘプチル)アミノピリジン]、N,N’,N”−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)[4−ジ(n−オクチル)アミノピリジン]、N,N’,N”−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)[4−ジ(n−ノニル)アミノピリジン]、N,N’,N”−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)[4−ジ(n−デシル)アミノピリジン]、N,N’,N”−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)、N,N’,N”−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピペリジニルピリジン)等を挙げることができ、その中でも特に有機強塩基性を有するアザカリックス[3]ピリジンとなることからN,N’,N”−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ジメチルアミノピリジン)、N,N’,N”−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)、N,N’,N”−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピペリジニルピリジン)が好ましく、更にN,N’,N”−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)が好ましい。
【0019】
本発明の新規なアザカリックス[3]ピリジンは、既知のアザカリックス[3]ピリジンと比較して強い塩基性を有しており、広く塩基反応に使用することが可能である。そして、そのような塩基反応としては、例えば、マイケル付加反応、クネフェナーゲル(Knoevenagel)反応、脱ハロゲン化水素反応、ポリウレタン化反応、ポリイソシアヌレート化反応、エポキシ樹脂の硬化反応などを挙げることができる。
【0020】
本発明の新規なアザカリックス[3]ピリジンの製造方法としては、上記一般式(1)で示されるアザカリックス[3]ピリジンが得られればいかなる方法により製造しても良く、特に容易に効率よく本発明の新規なアザカリックス[3]ピリジンを製造することができることから以下の製造方法によることが好ましい。
【0021】
本発明の新規なアザカリックス[3]ピリジンは、下記一般式(2)で示されるジアミン化合物と下記一般式(3)で示されるジハロゲン化物とを、溶媒中、銅触媒及びアルカリ金属塩の存在下、200℃以上の条件下で環化反応を行い、該環化反応の後、pH13.5以上の塩基性水溶液により洗浄することにより製造することが可能である。
【0022】
【化2】

【0023】
(ここで、R及びRは、前記定義に同じ。)
【0024】
【化3】

【0025】
(ここで、R及びRは、前記定義に同じであり、Xは塩素、臭素又はヨウ素を表す。)
ここで、上記一般式(2)で示されるジアミン化合物は、非特許文献1に記載の方法に従い、下記一般式(4)で示される2,6−ジハロゲノ−4−置換ピリジンと一般式(5)で表されるアニリン誘導体とをパラジウム触媒によるC−Nカップリング反応を用い得ることができる。
【0026】
【化4】

【0027】
(ここで、R及びXは前記定義に同じ。)
【0028】
【化5】

【0029】
(ここで、Rは前記定義に同じ。)
また、上記一般式(4)で表されるジハロゲン化物は、J.Med.Chem.,2003年,46巻,pp.1273〜1276に記載の方法に従って合成することができる。即ち、2,6−ジブロモピリジンを開始物質として合成した2,6−ジブロモ−4−ニトロピリジンと種々のアミン化合物とアルカリ金属水素化物から合成したアルカリ金属アミドを反応させて、4位のニトロ基をアミノ基に置換することにより、ピリジン環上の4位に種々のアミノ基を導入することができる。
【0030】
該ジアミン化合物と該ジハロゲン化物の環化反応に用いる溶媒としては、該ジアミン化合物及び該ジハロゲン化物に対して不活性であり、常圧下において沸点が150℃以上のものであることが好ましく、例えばメシチレン、ジエチルベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン,ニトロベンゼンなどの芳香族炭化水素溶媒;ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン等の飽和脂肪族炭化水素溶媒;α−テルピネン、β−テルピネン、γ−テルピネン、テルピノレン等の不飽和脂肪族炭化水素溶媒;ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテルなどのグリコールエーテル溶媒;その他N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトンなど挙げることができ、その中でも、ジアミン化合物及びジハロゲン化物の溶解性や反応速度が速くなり、効率的に環化反応が進行することからニトロベンゼンが好ましい。
【0031】
また、該環化反応の際に使用する溶媒の量は、環化反応が効率よく進行することから該ジハロゲン化物1モルに対して、1リットル〜1000リットル、特に20リットル〜200リットルの範囲であることが好ましい。
【0032】
該ジアミン化合物と該ジハロゲン化物の環化反応に用いる銅触媒としては、一般的に銅触媒とされる範疇に属するものであれば如何なるものでもよく、例えば銅粉、塩化第一銅、塩化第二銅、臭化第一銅、臭化第二銅、よう化銅、酸化第一銅、酸化第二銅、硫酸銅、炭酸銅、水酸化第二銅、酢酸第二銅等を挙げることができ、その中でもより効率よく環化反応が進行することから塩化第一銅、臭化第一銅、よう化銅であることが好ましい。また、その際の銅触媒の量としては、より効率よく環化反応が進行することからジハロゲン化物1モルに対し、0.5モル〜5モル、特に1モル〜3モルの範囲であることが好ましい。
【0033】
該ジアミン化合物と該ジハロゲン化物の環化反応に用いるアルカリ金属塩としては、一般的にアルカリ金属塩とされる範疇に属するものであれば如何なるものでもよく、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩;燐酸三リチウム、燐酸三ナトリウム、燐酸三カリウム等のアルカリ金属燐酸塩;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、リチウム−t−ブトキシド、ナトリウム−t−ブトキシド、カリウム−t−ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド等を挙げることができ、その中でも、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等の金属水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩が好ましい。そして、その際のアルカリ金属塩の量としては、より効率よく環化反応が進行することからジハロゲン化物1モルに対し、1モル〜10モル、特に2モル〜6モルの範囲であることが好ましい。
【0034】
該ジアミン化合物と該ジハロゲン化物の環化反応は、通常は常圧下で実施すればよく、また、減圧条件下または加圧条件下での実施をおこなうことも可能である。該環化反応の際の雰囲気に特に制限はなく、通常、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行う事が好ましく、特に常圧下、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で実施することが好ましい。
【0035】
該ジアミン化合物と該ジハロゲン化物の環化反応の際の反応温度は、200℃以上であり、短い反応時間で効率よく環化反応が進行することから200℃〜250℃、特に200℃〜230℃の範囲で実施することが好ましい。ここで、反応温度が200℃未満である場合、ジハロゲン化物およびジアミン化合物の転化率が低下し、反応時間が長くなるばかりでなく、低収率となる。また、反応時間については、該ジハロゲン化物、該ジアミン化合物、銅触媒、塩基、溶媒の量及び反応温度によって適宜選択すればよく、効率よく環化反応が進行することから0.5〜48時間、特に3〜12時間の範囲であることが好ましい。
【0036】
そして、該ジアミン化合物と該ジハロゲン化物の環化反応の後、環化生成物を含む反応物をpHが13.5以上の塩基性水溶液を用いて洗浄することにより、高純度を有する新規なアザカリックス[3]ピリジンを得ることができる。ここで、塩基性水溶液による洗浄を行わない場合、又は、pHが13.5未満の塩基性水溶液による洗浄である場合、新規なアザカリックス[3]ピリジンを得ることが出来ない。
【0037】
pHが13.5以上の塩基性水溶液を調製する際の無機塩基としては、pHが13.5以上となるものであれば特に限定されるものではなく、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物;炭酸ルビジウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属炭酸塩等を挙げることができる。また、該塩基性水溶液中の塩基濃度は、純度良く、効率的に新規なアザカリックス[3]ピリジンが得られることから、2wt%〜70wt%、2.5wt%〜60wt%の範囲であることが好ましい。そして、特にpH13.5以上の塩基性水溶液としては、3〜25wt%水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
【0038】
該ジアミン化合物と該ジハロゲン化物の環化反応により、新規なアザカリックス[3]ピリジンを製造する際には、環化反応生成物を再結晶、またはカラムクロマトグラフィーにより精製し、アルカリ洗浄することにより、高純度なアザカリックス[3]ピリジンを得ることができる。そして、例えば、カラムクロマトグラフィーによる精製において使用する溶出液としては、ヘキサン、酢酸エチル、クロロホルム、テトラヒドロフラン、アセトニトリル等の低沸点の有機溶媒であれば良く、分離能に優れることからクロロホルム、アセトニトリルが好ましい。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
以下に、実施例において用いた評価・測定方法を示す。
【0041】
〜NMRスペクトル測定〜
核磁気共鳴スペクトル測定装置(270MHz−NMR:日本電子製、(商品名)EX−270,600MHz−NMR:Bruker製、(商品名)AVANCE−600)を用い、重溶媒にCDCl(Acros Organics製),CDCN(MERCK製),DMSO−d6(MERCK製)を用い測定した。
【0042】
〜質量分析〜
質量分析装置(ESI−MS、Positive:Applied Biosystems製、(商品名)QStar Pulsar i)を用いて測定を行った。
【0043】
〜有機元素分析〜
元素分析装置(Perkin−Elmer製、(商品名)2400 CHN Elemental Analyzer)を用いて測定を行った。
【0044】
〜pH測定〜
pH測定装置(Toko Chemical Laboratories Co.,Ltd.製、(商品名)TPX−999)を用いて測定を行った。
【0045】
〜塩基性度(pKBH)の評価〜
アザカリックス[3]ピリジンのHPF塩と有機塩基を重アセトニトリル溶媒中で1:1.5及び1:3のモル比で混合した後、H−NMRを測定し、アザカリックス[3]ピリジン及びそのHPF塩それぞれのピリジン環上の3位、5位のプロトンの積分値を基に下記式に従って算出した。
K=[アザカリックス[3]ピリジン][有機塩基のHPF塩]/[アザカリックス[3]ピリジンのHPF塩][有機塩基]([ ]内は各成分のモル数を表す。)
pKBH(アザカリックスピリジン)=pKBH(有機塩基)−logK
【0046】
合成例1(2,6−ジブロモ−4−ピロリジニルピリジンの合成)
J.Med.Chem.,2003年,46巻,pp.1273〜1276に記載の方法に従い、2,6−ジブロモピリジン1.3g(5.5mmol)から3ステップで2,6−ジブロモ−4−ニトロピリジン1.5g(5.1mmol、収率93%)を白色固体として得た。
【0047】
磁気回転子を付した25mlのシュレンク管に、水素化ナトリウム0.12g(5mmol)と脱水DMF3.5mlを仕込んだ。得られた混合液は淡青色を示した。この溶液にピロリジン0.42g(5mmol)を添加した後、合成した2,6−ジブロモ−4−ニトロピリジン1.41g(5mmol)を加えて、室温で2時間撹拌しながら反応を行った。反応終了後、水を加えて反応をクエンチした後、酢酸エチルにより抽出した。有機相を硫酸ナトリウムにより乾燥後、減圧条件下で濃縮した。濃縮残渣をヘキサン/酢酸エチル=10/1から5/1を展開溶媒としてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより単離した。純度99%以上の白色固体1.1g(収率73%)を得た。
【0048】
得られた化合物は分析の結果、2,6−ジブロモ−4−ピロリジニルピリジンであった。
【0049】
270MHz H−NMRの測定結果;δ(CDCl):2.04(t,4H)、3.27(t,4H)、6.48(s,2H)
【0050】
合成例2(N,N−ビス(6−ブロモ−4−ピロリジニルピリジル)トルイジンの合成)
磁気回転子を付した200mlのシュレンク管に、p−トルイジン107mg(1mmol)、2,6−ジアミノピリジン910mg(3mmol)、ターシャリーブトキシナトリウム291mg(3mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム47mg(0.05mmol)、4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)9,9−ジメチルキサンテン(XANTPHOS)87mg(0.15mmol)を加え、この混合物を窒素雰囲気とした。その後、トルエン40mlを加え、オイルバスで昇温し内温を100℃とした。100℃で加熱攪拌して18時間反応を継続した。反応終了後、オイルバスを外し室温(23℃)まで放冷した。生成物をろ過し触媒残渣を除去し、少量のトルエンで洗浄した。トルエンをエバポレーターにより減圧除去し、得られた残渣をカラムクロマトグラフィー(プロピルアミン修飾シリカゲル、溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=6/1)で分離精製し、白色の固体251mgを得た(収率45%)。
【0051】
この白色固体は分析の結果、N,N−ビス(6−ブロモ−4−ピロリジニルピリジル)トルイジンであった。
【0052】
270MHz H−NMRの測定結果;δ(CDCl):1.95(t,8H)、2.33(s,3H)、3.16(t,8H)、5.99(s,2H)、6.26(s,2H)、7.04〜7.11(m,4H)
【0053】
合成例3(N,N’−ジ(p−トリル)−2,6−ジアミノ−4−ピロリジニルピリジンの合成)
磁気回転子を付した25mlのシュレンク管に、p−トルイジン535mg(5mmol)、合成例1により得られた2,6−ジブロモ−4−ピロリジニルピリジン306mg(1mmol)、ターシャリーブトキシナトリウム29mg(3mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム46mg(0.05mmol)、4,5−ビス(ジフェニルホスフィノ)9,9−ジメチルキサンテン(XANTPHOS)87mg(0.15mmol)を加え、この混合物を窒素雰囲気とした。その後、トルエン15mlを加え、オイルバスで昇温し内温を100℃とした。100℃で加熱攪拌して18時間反応を継続した。反応終了後、オイルバスを外し室温(23℃)まで放冷した。生成物を濾別し、濾過残渣をトルエンで洗浄した。トルエンを減圧下で除去した後、濃縮残渣を減圧下で乾燥後、カラムクロマトグラフィー(プロピルアミン修飾シリカゲル、溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=7/3)で分離精製し、薄黄白色の固体を247mg(収率69%)得た。
【0054】
この薄黄白色の固体は分析の結果、N,N’−ジ(p−トリル)−2,6−ジアミノ−4−ピロリジニルピリジンであった。
【0055】
270MHz H−NMRの測定結果;δ(CDCl):1.93(t,4H)、2.31(s,6H)、3.22(t,4H)、5.56(s,2H)、6.10(s,2H)、7.10(d,4H)、7.19(d,4H)
【0056】
合成例4(N,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)ピリジンの合成)
SYNLETT、2005年、第2号、pp.263〜266に従い、トルイジンと2,6−ジブロモピリジンから合成したN,N−ビス(6−ブロモピリジル)トルイジンと、2,6−ジアミノピリジンとブロモトルエンから合成したN,N’−ジ(p−トルイル)−2,6−ジアミノピリジンとを用い、環化反応によりN,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)ピリジンを合成した。環化反応の詳細な操作を以下に示す。
【0057】
まず、磁気回転子、ジムロート、温度計を付した500mlの四つ口フラスコに、ヨウ化銅(0.84g)、炭酸カリウム1.66g(12.0mmol)、N,N−ビス(6−ブロモピリジル)トルイジン1.26g(3.0mmol)、N,N’−ジ(p−トルイル)−2,6−ジアミノピリジン0.86g(3.0mmol)、ニトロベンゼン200mlを加えた。この混合物を窒素雰囲気とした後、オイルバスで昇温し210℃とした。210℃で加熱攪拌して3時間反応を継続した。反応終了後、ガスクロマトグラフィーにより算出したN,N’−ジ(p−トルイル)−2,6−ジアミノピリジンの転化率は、99%以上であった。その後、オイルバスを外し室温(23℃)まで放冷した。生成物をろ過し、触媒残渣を除去した後、1トールの減圧下40〜80℃の範囲でニトロベンゼンを除去した。得られた生成物を分液ロートに移液し、アンモニア水でpH=9〜11に調整した5wt%エチレンジアミン四酢酸−ジカリウム水溶液、続いて10wt%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄した後、クロロホルム抽出した。得られた有機相を無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、溶媒をエバポレーターにより減圧除去した。得られた黒茶色の粘性液体をカラムクロマトグラフィー(プロピルアミン修飾シリカゲル、溶出液:クロロホルムおよびテトラヒドロフラン)で分離精製し、薄黄色の固体を1.34g(収率82%)得た。
【0058】
この薄黄色の固体は分析の結果、N,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)ピリジンであった。
【0059】
270MHz H−NMRの測定結果;δ(CDCl):2.42(s,9H)、6.08(d,6H)、7.17(t,3H)、7.28〜7.36(m,12H)
FAB−MS:547(M)
【0060】
実施例1
磁気回転子を付した25mlのシュレンク管に、炭酸カリウム1.66g(2.44mmol)、ヨウ化銅48mg(0.25mmol)、合成例3により得られたN,N−ビス(6−ブロモ−4−ピロリジニルピリジル)トルイジン114mg(0.2mmol)、合成例2により得られたN,N’−ジ(p−トリル)−2,6−ジアミノ−4−ピロリジニルピリジン72mg(0.2mmol)を加え、この混合物を窒素雰囲気とした。ニトロベンゼン20mlを加え、還流管をセットした。還流管内も窒素雰囲気とした後、オイルバスを昇温し240℃とした。240℃で加熱攪拌して3時間反応を継続した。3時間後、薄層クロマトグラフィーにより原料のジアミン化合物及びジブロミド化物の消失を確認した。その後、オイルバスを外し室温(23℃)まで放冷した。1トールの減圧下60〜90℃の範囲でニトロベンゼンを除去した。得られた黒茶色の粘性液体をカラムクロマトグラフィー(プロピルアミン修飾シリカゲル、溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=7/3、クロロホルム、アセトニトリルの順で使用)で分離精製後、溶媒除去により得られた粉体をジエチルエーテルで洗浄し、薄黄色の固体を104mg(収率69%)を得た。
【0061】
得られた薄黄色の固体は、N,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)のプロトン付加体(カウンターアニオンがBrアニオンとIアニオンの混合物)であることを確認した。
【0062】
得られたN,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)のプロトン付加体30mg(0.035mmol)をクロロホルム5mlに溶解した溶液を分液ロートに移液し、ヘキサフルオロリン酸アンモニウム1.15mg(7.05mmol)水溶液3mlで5回洗浄した後、分液し、得られた有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒をエバポレーターにより減圧除去し、濃茶色の固体を得た。この濃茶色の固体は分析の結果、一般式(1)においてRがメチル基、Rがピロリジニル基であるN,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)のプロトン付加体(カウンターアニオンPF)であった。
【0063】
270MHz H−NMRの測定結果;δ(CDCl);1.84(s,9H)、2.50(s,12H)、2.89(s,12H)、4.89(s,6H)、7.25(d,6H)、7.41(d,6H)、21.03(s,1H)
ESI−MS;Positive:754(m/z)
磁気回転子を付した二口ナスフラスコに、得られたN,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)のプロトン付加体(カウンターアニオンPF)3mgを加え、窒素雰囲気とした。クロロホルム3mlと2.5wt%水酸化ナトリウム水溶液(pH:13.8)5mlを加え、室温で反応させた。その後、水層を取り除き、再び2.5wt%水酸化ナトリウム水溶液5mlを加えて反応させる操作を5回繰り返した。最後に水層を取り除いた後、クロロホルム溶液を1トールの減圧下で除去した。その結果、赤褐色の固体を得た。
【0064】
この赤褐色の固体は分析の結果、脱プロトン化したN,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)であることを確認した。
【0065】
270MHz H−NMRの測定結果;δ(DMSO):1.80(s,9H)、2.27(s,12H)、2.98(s,9H)、5.66(s,6H)、7.05(d,6H)、7.125(d,6H)
そして、有機塩基としてpKBHが28.4のホスファゼン塩基P1(Aldrich製、(商品名)Phosphazene Base P1−tBu−tris (tetramethylene))を用いて、得られたN,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)(上記一般式(1)におけるRがメチル基、Rがピロリジニル基であるアザカリックス[3]ピリジンに相当)の塩基性度を評価した。
【0066】
得られたN,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)の塩基性度(pKBH)は28.1であり、合成例4で得た既知のアザカリックス[3]ピリジンであるN,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)ピリジンの塩基性度(pKBH)23.1より10の5乗倍塩基性が強いものであった。
【0067】
実施例2
磁気回転子を付した200mlの四つ口フラスコに、炭酸カリウム8.3g(10.2mmol)、臭化第一銅180mg(12.5mmol)、合成例3により得られたN,N−ビス(6−ブロモ−4−ピロリジニルピリジル)トルイジン557mg(1.0mmol)、合成例2により得られたN,N’−ジ(p−トルイル)−2,6−ジアミノ−4−ピロリジニルピリジン358mg(1.0mmol)を加え、この混合物を窒素雰囲気とした。ニトロベンゼン100mlを加え、還流管をセットした。還流管内も窒素雰囲気とした後、オイルバスを昇温し240℃とした。240℃で加熱攪拌して3時間反応を継続した。3時間後、薄層クロマトグラフィーにより原料のジアミン化合物及びジブロミド化物の消失を確認した。その後、オイルバスを外し室温(23℃)まで放冷した。1トールの減圧下60〜90℃の範囲でニトロベンゼンを除去した。得られた黒茶色の粘性液体をカラムクロマトグラフィー(プロピルアミン修飾シリカゲル、溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=7/3、クロロホルム、アセトニトリルの順で使用)で分離精製後、溶媒除去により得られた粉体をジエチルエーテルで洗浄し、薄黄色の固体を442mg(収率53%)得た。
【0068】
得られた薄黄色の固体は、NMR測定の結果、N,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)のプロトン付加体(カウンターアニオンはBrアニオン)であることを確認した。
【0069】
磁気回転子を付した二口ナスフラスコに、環化反応にて得られたN,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)のプロトン付加体442mgを加え、窒素雰囲気とした。クロロホルム100mlと2.5wt%水酸化ナトリウム水溶液(pH:13.8)150mlを加え、室温で反応させた。その後、水層を取り除き、再び2.5wt%水酸化ナトリウム水溶液150mlを加えて反応させる操作を5回繰り返した。最後に水層を取り除いた後、クロロホルム溶液を1トールの減圧下で除去した。得られた赤褐色の固体はNMR分析の結果、脱プロトン化したN,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)であることを確認した。
【0070】
実施例3
磁気回転子を付した500mlの四つ口フラスコに、炭酸カリウム16.6g(24.4mmol)、ヨウ化銅480mg(2.5mmol)、合成例3により得られたN,N−ビス(6−ブロモ−4−ピロリジニルピリジル)トルイジン1.14g(2.0mmol)、合成例2により得られたN,N’−ジ(p−トルイル)−2,6−ジアミノ−4−ピロリジニルピリジン720mg(2.0mmol)を加え、この混合物を窒素雰囲気とした。ニトロベンゼン200mlを加え、還流管をセットした。還流管内も窒素雰囲気とした後、オイルバスを昇温し、220℃とした。220℃で加熱攪拌して3時間反応を継続した。3時間後、薄層クロマトグラフィーにより原料のジアミン化合物及びジブロミド化物の消失を確認した。その後、オイルバスを外し室温(23℃)まで放冷した。1トールの減圧下60〜90℃の範囲でニトロベンゼンを除去した。得られた黒茶色の粘性液体をカラムクロマトグラフィー(プロピルアミン修飾シリカゲル、溶出液:ヘキサン/酢酸エチル=7/3、クロロホルム、アセトニトリルの順で使用)で分離精製後、溶媒除去により得られた粉体をジエチルエーテルで洗浄し、薄黄色の固体を1.14g(収率75%)得た。
【0071】
得られた薄黄色の固体は、NMR分析の結果、N,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)のプロトン付加体(カウンターアニオンはBrアニオンとIアニオンの混合物)であることを確認した。
【0072】
磁気回転子を付した二口ナスフラスコに、環化反応にて得られたN,N’,N’’−トリストリルアザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)のプロトン付加体1.14gを加え、窒素雰囲気とした。クロロホルム100mlと2.5wt%水酸化ナトリウム水溶液(pH:13.8)150mlを加え、室温で反応させた。その後、水層を取り除き、再び2.5wt%水酸化ナトリウム水溶液150mlを加えて反応させる操作を5回繰り返した。最後に水層を取り除いた後、クロロホルム溶液を1トールの減圧下で除去した。得られた赤褐色の固体はNMR分析の結果、脱プロトン化したN,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)であることを確認した。
【0073】
比較例1
磁気回転子を付した25mlのシュレンク管に、炭酸カリウム1.66g(2.44mmol)、ヨウ化銅48mg(0.25mmol)、合成例3により得られたN,N−ビス(6−ブロモ−4−ピロリジニルピリジル)トルイジン114mg(0.2mmol)、合成例2により得られたN,N’−ジ(p−トリル)−2,6−ジアミノ−4−ピロリジニルピリジン72mg(0.2mmol)を加え、この混合物を窒素雰囲気とした。ニトロベンゼン20mlを加え、還流管をセットした。還流管内も窒素雰囲気とした後、オイルバスで昇温し190℃とした。190℃で加熱攪拌して3時間反応を継続した。3時間後、薄層クロマトグラフィーにより原料のジアミン化合物が残存していることを確認した。その後、オイルバスを外し室温(23℃)まで放冷した。1トールの減圧下60〜90℃の範囲でニトロベンゼンを除去した。
【0074】
この濃茶色の固体をH−NMRで分析した結果、反応が途中までしか進行しておらず、目的のN,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)のプロトン付加体は得られなかった。
【0075】
実施例4
実施例1のアルカリ洗浄においてアルカリ性水溶液をpH=13.8の2.5wt%水酸化ナトリウム水溶液の代わりにpH=14.6の飽和炭酸セシウム水溶液を用いた以外は同様の操作を行い、褐色の固体を得た。 この褐色の固体はH−NMRスペクトルによる分析の結果、目的とするN,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)であった。
【0076】
比較例2
実施例1のアルカリ洗浄においてアルカリ性水溶液をpH=13.8の2.5wt%水酸化ナトリウム水溶液から、pH=13.2の飽和炭酸カリウム水溶液とした以外は同様の操作を行い、褐色の固体を得た。 この褐色の固体はH−NMRスペクトルによる分析の結果、目的とするN,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)−(4−ピロリジニルピリジン)は全く得られなかった。
【0077】
比較例3
実施例1のアルカリ洗浄においてアルカリ性水溶液をpH=13.8の2.5wt%水酸化ナトリウム水溶液から、pH=13.3の28%アンモニア水溶液とした以外は同様の操作を行い、褐色の固体を得た。 この褐色の固体はH−NMRスペクトルによる分析の結果、目的とするN,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)は全く得られなかった。
【0078】
本特許記載のN,N’,N’’−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)の塩基触媒としての有効性を確認するため、塩基触媒反応であるクネフェナーゲル反応において既知のN,N’,N''−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)ピリジンとの反応性を比較した。
【0079】
参考例1
窒素雰囲気下の磁気回転子を付した二口ナスフラスコに実施例1により得られたN,N’,N''−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)2.6mg(3.5μmol)、ベンズアルデヒド8.1μl(0.08mmol)、シアノ酢酸エチル8.8μl(0.07mmol)のジメチルスルホキシド溶液0.75mlを加え溶解させた。得られた混合溶液を窒素雰囲気下でNMRバイアルに移し、室温における反応の進行をH−NMR(270MHz)により追跡した。原料のシアノ酢酸エチルのメチレンピーク3.93ppm(s,2H)の消失と、目的物であるエチルシアノ(2,4,6−シクロヘプタトリエニリデン)アセテートのピーク8.47ppm(s,1H)の出現により反応の進行を確認した。反応時間1時間での転化率は95.3%、収率は94.9%であった。
【0080】
比較参考例1
N,N’,N''−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)3.5μmolの代わりに合成例4で得たN,N’,N''−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)ピリジン1.9mg(3.5μmol)を用いた以外は参考例1と同様に操作を行った。室温下で反応時間1時間での転化率は3%、収率は僅か1%であった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の新規なアザカリックス[3]ピリジンは既知のアザカリックス[3]ピリジンより著しく強い塩基性を有しており、例えばマイケル付加反応、クネフェナーゲル(Knoevenagel)反応、脱ハロゲン化水素反応、ポリウレタン化反応、ポリイソシアネート化反応、エポキシ樹脂硬化反応に代表される塩基反応の際に有用性が期待されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されることを特徴とするアザカリックス[3]ピリジン。
【化1】

(ここで、Rは、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rは、それぞれ独立して炭素数1〜20のジアルキルアミノ基、ピロリジニル基又はピペリジニル基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)におけるRが、それぞれ独立して水素原子又はメチル基であり、Rがそれぞれ独立してジメチルアミノ基、ピロリジニル基又はピペリジニル基であることを特徴とする請求項1に記載のアザカリックス[3]ピリジン。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるRはメチル基であり、Rがピロリジニル基であることを特徴とする請求項1又は2に記載のアザカリックス[3]ピリジン。
【請求項4】
下記一般式(2)で示されるジアミン化合物と下記一般式(3)で示されるジハロゲン化物とを、溶媒中、銅触媒及びアルカリ金属塩の存在下、200℃以上の条件下で環化反応を行い、該環化反応の後、pH13.5以上の塩基性水溶液により洗浄することを特徴とする請求項1に記載の一般式(1)で示されるアザカリックス[3]ピリジンの製造方法。
【化2】

(ここで、R及びRは前記定義に同じ。)
【化3】

(ここで、R及びRは前記定義に同じであり、Xは塩素、臭素又はヨウ素を表す。)
【請求項5】
前記一般式(2)で示されるジアミン化合物が、N,N’−ジ(p−トルイル)−2,6−ジアミノ−4−ピロリジニルピリジンであり、前記一般式(3)で示されるジハロゲン化物がN,N−ビス(6−ブロモ−4−ピロリジニルピリジル)トルイジンであり、前記一般式(1)で示されるアザカリックス[3]ピリジンが、N,N’,N”−トリス(p−トリル)アザカリックス[3](2,6)(4−ピロリジニルピリジン)であることを特徴とする請求項4に記載のアザカリックス[3]ピリジンの製造方法。

【公開番号】特開2011−184339(P2011−184339A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−50051(P2010−50051)
【出願日】平成22年3月8日(2010.3.8)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】