説明

新規なアルキル3−オキソアルカノアート及びその製法

【課題】 セラミド、脂肪ヒドロキシル化アミノ酸及び脂肪アミノアルコールの容易かつ安価な調製法を提供する。
【解決手段】 新規なセラミド前駆体であるアルキル 3-オキソアルカノアート及びその製法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は新規なセラミド前駆体、その製法並びに、アミノ酸、アミノアルコール及びセラミドの合成のためのその使用に関する。
【0002】
【従来の技術】本来の状態では、セラミドは表皮の脂質層の主成分である。これらは、天然もしくは合成の形態で、化粧品、特に皮膚の乾燥を抑制するためまたは皮膚によりよい弾性を与えるための組成物、あるいはまた、髪の処理のための組成物に用いられる。
【0003】天然のセラミドは、一般的に、豚皮、ウシの脳、卵、血液細胞及び植物からの抽出によって得られる(日本国特許JP86/260008号もしくは日本国特許JP87/120308号)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】前述のタイプの供給法には欠点(脆弱性、汚染耐性、貯蔵耐性、費用等)が多いために、化学合成法が非常に早くから求められていた。しかしながら、許容される費用の限度内で行うことができ、工業的発展性のある合成法は稀であった。
【0005】脂肪ヒドロキシル化アミノ酸と脂肪アミノアルコールの工業的規模の調製は、同程度に困難である。
【0006】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】従って、出願人が、容易に合成することができ、セラミド、脂肪ヒドロキシル化アミノ酸、2-アミノ-3,4-ジオールアルカン酸、脂肪アミノアルコール及び2-アミノアルカン-1,3,4-トリオールの調製に容易に用いることができる新規な化合物を発見したのは、驚くべきことである。
【0007】本発明の主題は、下記の化学式(I)において、
【0008】
【化6】


【0009】R1が、6から28の炭素原子を含む、直鎖状もしくは分枝状のアルキル基もしくはアルケニル基、あるいはアラルキル基であって、R1はエーテル結合を含むことができ、R1は任意に一以上のヒドロキシル基を伴い、R2が、1から5の炭素原子を含む、直鎖状もしくは分枝状のアルキル基もしくはアルケニル基を表し、Xが脱離基を表す化合物に相当する新規なアルキル 3-オキソアルカノアートである。
【0010】脱離基という表現は、例えば、ジェリー・マーチ(Jerry March)による“Advanced Organic Chemistry”, Wiley Interscience, 第3版, 315頁, 表10に挙げられた基を示す。
【0011】化学式(I)の化合物は少なくとも一の下記の条件を満たすことが望ましい:・R1が、10から18の炭素原子を含む、直鎖状もしくは分枝状のアルキル基もしくはアルケニル基であって、任意に一以上のヒドロキシル基を伴うこと。
・R2が、容易に加水分解されるアルキル基、例えばメチルもしくはエチル基であること。
・Xが、塩素もしくは臭素もしくはヨウ素原子、あるいはまたスルホン酸基を示すこと。
更に好ましくは、Xは臭素原子である。
【0012】本発明の主題はまた、マロン酸誘導体をアシル化剤と反応させることを特徴とする化合物(I)の製法である。
【0013】マロン酸誘導体という表現は、マロン酸のモノエステルもしくはジエステル、例えば、メルドラムの酸(Meldrum's acid)とも呼称されるマロン酸のジイソプロピリデンエステルもしくはマロン酸エチルのカリウム塩を示す。前記マロン酸誘導体としては、メルドラムの酸を用いることが好ましい。
【0014】アシル化剤という表現は、下記の化学式(II)において、
【0015】
【化7】


【0016】R1及びXが上記と同様の意味を有し、Aがハロゲン、下記の官能基及びアルコキシ基-OZから選択され、ZがC1−C8アルキル基、パラ-ニトロフェニル基、スクシンイミジル基もしくはジシクロヘキシルカルボジイミジル基から選択される化合物に相当し、
【0017】
【化8】


【0018】上記式中、YはC2からC8アルキル基を示す。Aはまた、下記の官能基であってもよい。
【0019】
【化9】


【0020】
【化10】


【0021】上記式中、Xは臭素原子、Aは塩素原子を表すことが好ましい。
【0022】前述の化学式(II)に相当する化合物は、当業者にはよく知られた、酸活性化法を用いた対応する酸の活性化によって、すなわち化学式(II)でA=OHである化合物から調製することができる。化学式(II)でA=OHに相当する化合物は、市販の化合物である。
【0023】化学式(I)の化合物の製法における反応は、無水の媒体中で行われることが好ましい。この反応は、適切な溶媒、例えば、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、ピリジンもしくはtert-ブチルメチルエーテル中で行われることが好ましい。
【0024】本発明の主題はまた、セラミド、脂肪ヒドロキシル化アミノ酸及び脂肪アミノアルコールの調製のための化合物(I)の使用である。
【0025】例えば、Xは下記の化学式において、
【0026】
【化11】


【0027】R3が1から6の炭素原子を含む直鎖状または分枝状のアルキル基もしくはアルケニル基もしくはアリール基を表す官能基で置換することができ、この場合は、続いてメチレン基をオキシム化すると下記の化学式(III)において、
【0028】
【化12】


【0029】R1、R2及びR3が上述の定義と同一の化合物を得ることができる。化学式(III)の化合物から出発して、当業者にはよく知られた継続的な還元法によって、化学式(IV)に相当する2-アミノ-1,3,4-トリオール、もしくはそのアミン塩の一つを得ることができる。
【0030】
【化13】


【0031】従って、アミノアルカントリオールの合成に、例えば、ポスタニク(Posternik)(Chem. Phys. Lipids 1971, 7,135-143)、石田(J.Org. Chem. 1969, 34,3539-3544)及びイェーガー(Jager)(Agnew. Chem. Int. Ed. Engl. 1981, 20, 601-605)に利用された還元法を用いることが可能である。例えば、(III)を、触媒の存在下で加圧水素によって、もしくは、例えば酢酸等の酸の存在下で亜鉛から発生する水素によって処理することができる。
【0032】触媒の存在下での加圧水素及び、例えば酢酸等の酸の存在下での亜鉛から発生させた水素より選択される還元剤を用いて、前記と同様の方法で化学式(III)の化合物を処理することにより、ヒドロキシル化脂肪アミノ酸を調製することができる。
【0033】化学式(III)の化合物から出発し、還元及びオキシムのアシル化によってアルキル 2-ヒドロキシイミノ-3-オキソ-4-アルカノイルオキシアルカノアートをアルキル 2-アルカノイルアミド-3-オキソ-4-アルカノイルオキシアルカノアートに転化した後、例えば水素化ホウ素ナトリウムで処理することにより、エステル及びケトン官能基をアルコールに還元することからなる二段階の方法によって、直接セラミドを合成することもできる。参考文献としては、例えば、このような合成の例が記載されている、欧州特許出願EP-A-646,572号を挙げることができる。また、本発明の化合物からアルキル 2-アルカノイルアミド-3-オキソ-4-アルカノイルオキシアルカノアートを調製することを可能にする、オキシム化、オキシムの還元及びアミンのアシル化の反応について、ソウカップ(Soukup)(Helv. Chem. Acta, 70, 232-236, 1987)を参考にすることができる。
【0034】本発明により得られる化学式(IV)の化合物は、セラミド、例えば、シャピロ,D(Shapiro, D)(Chemistry of sphingolipids, Hermann, Paris, 1969, 26-34頁)に記載の合成法に用いることができる。
【0035】以下に続く実施例は、その範囲を限定することなく本発明を例示する。
【0036】
【実施例】
(実施例1:メチル 4-ブロモ-3-オキソオクタデカノアートの合成)1,2-ジクロロエタンを入れ、アルゴン雰囲気、0℃とした丸底フラスコ内で、撹拌しながら、メルドラムの酸1.8molとピリジン3.96molを混合した。ここに2-ブロモヘキサデカノイル クロライド1.98molを少量ずつ導入し、この混合物を0℃にて2時間攪拌し続けた。その後溶液を3度水洗いして乾燥させ、溶媒を蒸発させて除去し、残留物をメタノールに溶解させた。メタノール溶液を2時間還流させた後、溶媒を真空中で除去した。メチル 4-ブロモ-3-オキソオクタデカノアートをシリカカラムにて精製した。こうして、メチル 4-ブロモ-3-オキソオクタデカノアート494gが、ケト(k)40%とエノール(e)60%との混合物の形態で回収された。
【0037】NMRスペクトル:1Hスペクトル(CDCl3):d=0.87,t,CH3(k+e);d=1.25−1.6,m,-(CH2)12-(k+e);d=1.8−2.12,m,(C13H27)-CH2-CHBr(k+e);d=3.63−3.83,ab,-CH2-CO2CH3(k);d=3.74−3.76,2s,OCH3(k+e);d=4.21,m,CHBr(e);d=4.43,dd,CHBr(k);d=5.23−5.29,2s,=CH-CO2CH3(e);d=11.96−11.97,s(ブロード),OH(e).
【0038】13Cスペクトル(CDCl3);
d=14.06,CH3;d=22.66,CH3-H2;d=27.14,C12H25-H2-(k);d=27.53,C12H24-H2(e);d=28.8−29.66,-(CH2)9-;d=31.9,C2H5-H2-;d=32.97,-H2-CHBr(k);d=35.5,-H2-CHBr(e);d=45.19,-H2CO2CH3(k);d=49.91,-CHBr(e);d=51.53,OCH3(e);d=52.43,OCH3(k);d=53.3,-CHBr(k);d=89.83,OCH3(e);d=167.34,-O2CH3(k);d=172.65-173.69,=COHと-O2CH3(e);d=196.01,-CO-(k).

【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記の化学式(I)で表されるアルキル 3-オキソアルカノアート誘導体であって、
【化1】


式中、R1が、6から28の炭素原子を含む直鎖状もしくは分枝状のアルキル基もしくはアルケニル基、あるいはアラルキル基であって、R2が、1から5の炭素原子を含む、直鎖状もしくは分枝状のアルキル基もしくはアルケニル基を表し、Xが脱離基を表すことを特徴とするアルキル 3-オキソアルカノアート誘導体。
【請求項2】 R1が、エーテル結合を含むことを特徴とする請求項1に記載の誘導体。
【請求項3】 R1が、一以上のヒドロキシル基を伴うことを特徴とする請求項1または2に記載の誘導体。
【請求項4】 R1が、10から18の炭素原子を含む直鎖状もしくは分枝状のアルキル基もしくはアルケニル基であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の誘導体。
【請求項5】 R2が、メチルもしくはエチル基を表すことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の誘導体。
【請求項6】 Xが、塩素もしくは臭素もしくはヨウ素原子、あるいはスルホン酸基を表すことを特徴とし、好ましくはXが臭素原子を表すことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の誘導体。
【請求項7】 Xが、臭素原子を表すことを特徴とする請求項6に記載の誘導体。
【請求項8】 マロン酸誘導体にアシル化剤を反応させることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の誘導体の製法。
【請求項9】 マロン酸誘導体が、マロン酸のモノエステルもしくはジエステルであることを特徴とする請求項8に記載の製法。
【請求項10】 マロン酸誘導体が、マロン酸のイソプロピリデンエステルもしくはマロン酸エチルのカリウム塩であることを特徴とする請求項9に記載の製法。
【請求項11】 マロン酸誘導体が、マロン酸のイソプロピリデンエステルであることを特徴とする請求項10に記載の製法。
【請求項12】 アシル化剤が、下記の化学式(II)で表される化合物であって、
【化2】


式中、R1及びXが請求項1に記載のものであり、Aが、ハロゲン、アルコキシ基-OZであって、ZがC1−C8アルキル基、パラ-ニトロフェニル基、スクシンイミジル基及びジシクロヘキシルカルボジイミジル基から選択される基、及び下記式の官能基であって、YがC2からC8のアルキル基である基
【化3】


【化4】


【化5】


から選択される化合物に相当することを特徴とする請求項8から11のいずれか一項に記載の製法。
【請求項13】 Xが臭素原子を、Aが塩素原子を表すことを特徴とする請求項12に記載の製法。
【請求項14】 無水の媒体中で反応を行なうことを特徴とする請求項8から13のいずれか一項に記載の製法。
【請求項15】 テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、ピリジン及びtert-ブチルメチルエーテルより選択される溶媒中で反応を行うことを特徴とする請求項8から14のいずれか一項に記載の製法。
【請求項16】 セラミド、ヒドロキシル化脂肪アミノ酸及び2-アミノアルカン-1,3,4-トリオールの調製のための、請求項1から7のいずれか一項に記載の誘導体の使用。