説明

新規なイソキノリン誘導体及びこれを含有する医薬

【課題】 本発明は、高い創傷治癒効果を有する化合物、及びそれを含有する医薬を提供することを目的とする。
【解決手段】 次の一般式(1)


〔式中R1はアルキル基を示し、R2は水素原子、又はヒドロキシ基を示し、環Aはスルホニル基に結合した窒素原子の他に、環を構成するヘテロ原子として窒素原子、又は酸素原子を1個有しても良く、置換基としてアルキル基を有しても良い5〜7員のへテロ環式基を示す。〕
で表される化合物、その酸付加塩又はそれらの溶媒和物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なイソキノリン誘導体及びこれを含有する医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚潰瘍や褥瘡の治療においては、壊死組織を除去し、抗菌剤により細菌の増殖を抑制しつつ、肉芽形成や表皮再生を促進する物質が臨床の場で使われている。近年になって、創傷治癒に関する基礎的研究の進歩と共に、種々の細胞増殖因子などが創傷治療剤として開発されている。例えば、糖尿病などの各種疾患の患者や高齢者においては、潰瘍や褥瘡が発生し易く、治り難いという問題がある。そこで、精製された細胞増殖因子や遺伝子組み換えの細胞増殖因子などの投与が考案され、例えば、遺伝子組み換え型の塩基性線維芽細胞増殖因子などが開発されている。
【0003】
皮膚の創傷治癒は、ケラチノサイト、線維芽細胞、血管内皮細胞および炎症細胞間の相互作用を伴い、正常な創傷治癒においては、急性炎症期、細胞外マトリックス及びコラーゲン合成期、並びに再形成期(例えば、非特許文献1参照)の3つの過程を経ることが報告されている。すなわち、急性炎症期では、創周囲に炎症が起こり、毛細血管やリンパ管の透過性亢進、白血球やマクロファージの遊走が起こり、細菌や壊死物質が貪食除去されるとともにフィブリン沈着が始まる。細胞外マトリックス及びコラーゲン合成期では、線維芽細胞の遊走・増殖及びコラーゲンなどの細胞外マトリックスの合成・沈着により、肉芽新生及び血管が新生する。再形成期では、再上皮形成及びタイプIIIコラーゲンからタイプIコラーゲンへの再構築が起こる(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
コラーゲンは血管や皮膚、骨に多く存在し、細胞の足場としてこれら組織の形成、構築に重要な役割を果しており、生体内蛋白質の約1/3を占めている。また、インビトロにおける各種細胞の基質などに用いられ、熱傷などにおいて、表皮細胞が残っている浅い熱傷の治療用に、コラーゲン膜などの各種創傷被膜材が開発されている。このように、正常組織だけではなく、創傷治癒過程でもコラーゲンは重要な役割を果している。コラーゲンは線維芽細胞により産生されており、TGFβが産生を促進することが知られている。しかしながら、現在までに、線維芽細胞のコラーゲン産生を促進し創傷治癒効果を示し創傷治癒促進剤として開発された低分子化合物はない。
【非特許文献1】Peacock,E.E.,Jr.,Wound Repair,第2版,WB Saunders,Philadelphia(1984)
【非特許文献2】Clark,R.A.F.,J.Am.Acak.Dermatol 13:701(1985)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、高い創傷治癒促進効果を有する化合物、及びこれを含有する医薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究した結果、下記一般式(1)で表される化合物、その酸付加塩及びそれらの溶媒和物が、強い線維芽細胞のコラーゲン産生促進作用を有し、更に、創傷部位における強い肉芽新生促進作用を有し、創傷治癒促進効果を有することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)
【0008】
【化1】

【0009】
〔式中R1はアルキル基を示し、R2は水素原子、又はヒドロキシ基を示し、環Aはスルホニル基に結合した窒素原子の他に、環を構成するヘテロ原子として窒素原子、又は酸素原子を1個有しても良く、置換基としてアルキル基を有しても良い5〜7員のへテロ環式基を示す。〕
で表される化合物、その酸付加塩又はそれらの溶媒和物を提供するものである。
【0010】
また本発明は、上記化合物、その酸付加塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する医薬を提供するものである。
【0011】
更に本発明は、創傷治癒促進剤である上記医薬、及び皮膚潰瘍又は褥瘡の治療のための医薬である上記医薬を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
一般式(1)で表される本発明の化合物、その酸付加塩及びそれらの溶媒和物は、強い線維芽細胞のコラーゲン産生促進作用を有し、更に、創傷部位において強い肉芽新生促進作用を有することから、医薬の有効成分として有用であり、特に創傷治癒促進剤の有効成分として、又は皮膚潰瘍、若しくは褥瘡の治療のための医薬の有効成分として好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
一般式(1)中、R1で示されるアルキル基としては、C1−C6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基が挙げられ、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。このうちメチル基、iso−プロピル基が好ましい。
【0014】
一般式(1)中、環Aは、窒素原子によりスルホニル基に結合する。環Aは、環を構成するヘテロ原子として、スルホニル基に結合した窒素原子の他に、窒素原子、又は酸素原子を1個有しても良く、置換基としてアルキル基を有しても良い5〜7員のへテロ環式基を示し、このようなヘテロ環式基は、飽和のものであっても不飽和のものであってもよいが、飽和のものが好ましい。ここで5〜7員のへテロ環式基としては、例えばピロリジニル基、ピラゾリジニル基、イミダゾリジニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、モルホリニル基、ホモピペラジニル基等が挙げられ、本発明においては、ピロリジニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、モルホリニル基、ホモピペラジニル基が好ましく、線維芽細胞のコラーゲン産生促進作用の程度が優れ、また、創傷部位における肉芽新生促進作用の程度が優れる点から、ホモピペラジニル基が特に好ましい。ヘテロ環式基上に有してもよいアルキル基としては、C1−C6アルキル基が挙げられ、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基等が挙げられ、そのヘテロ環上への結合位置は任意である。本発明化合物においてアルキル基を有する5〜7員のヘテロ環式基としては、メチルホモピペラジニル基、エチルピペラジニル基等が挙げられ、メチルホモピペラジニル基が好ましく、2−メチルホモピペラジニル基が特に好ましい。
【0015】
本発明化合物において好ましい環Aとしては、ピロリジニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、モルホリニル基、ホモピペラジニル基、及びメチルホモピペラジニル基が挙げられる。
【0016】
本発明化合物(1)の酸付加塩としては、薬学上許容される塩であれば特に制限されないが、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩のような鉱酸の酸付加塩;安息香酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、シュウ酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、酢酸塩のような有機酸の酸付加塩を挙げることができる。
【0017】
また、本発明化合物(1)は、水和物に代表される溶媒和物の形態で存在し得るが、当該溶媒和物も本発明に包含される。
【0018】
本発明化合物(1)は、次に示す方法に従って製造することができる。
【0019】
【化2】

【0020】
〔式中R1、R2、環Aは前記と同じ意味を示し、Xは塩素原子等のハロゲン原子を示す。なお、環Aが窒素原子を環上に2個有する場合においては、スルホニル基と反応させない窒素原子をベンジルオキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、9−フルオレニルメトキシカルボニル基、ホルミル基、トリフルオロアセチル基、トリチル基等の適当な保護基で適宜保護する。〕
【0021】
出発物質である4−置換ベンズアルデヒド(2)を、公知の方法、例えば特表平10−511693号公報に記載されているような方法でイソキノリン誘導体(3)へと変換する。この化合物(3)を公知の方法でニトロ化することにより5−位ニトロ体(4)が容易に得られ、このものはパラジウム炭素存在下の接触還元あるいは塩化スズによる還元等、公知の方法で5−位アミノ体(5)へと変換される。化合物(5)を公知の方法によりジアゾ化したものは、公知の方法により容易にハロゲン化スルホニル体(6)に誘導可能であり、この化合物(6)はアミンとのカップリングにより化合物(7)へと導かれる。化合物(7)は、環Aに保護基がない場合には、R2が水素原子である本発明化合物(1)に相当する。環Aに保護基がある場合は、さらに化合物(7)を公知の方法で脱保護することにより本発明化合物(1)とすることができる。また、R2がヒドロキシ基である本発明化合物(1)は、化合物(7)をm−クロロ過安息香酸等の公知の試薬を用いることによりN−オキシド体(8)へと変換し、しかる後に公知の方法でイソキノリンの1−位にヒドロキシ基を導入することにより得ることができる。
【0022】
本発明化合物(1)は、上記の方法によって得られるが、さらに必用に応じて再結晶法、カラムクロマトグラフィーなどの通常の精製手段を用いて精製することができる。また必用に応じて、常法によって前記した所望の塩、又は溶媒和物にすることもできる。
【0023】
本発明の医薬は、一般式(1)の本発明の化合物、その酸付加塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とするものである。後記実施例に示すとおり、本発明の化合物、その酸付加塩及びそれらの溶媒和物は、強い線維芽細胞のコラーゲン産生促進作用を有し、更に、創傷部位において強い肉芽新生促進作用を有することから、本発明の医薬は、創傷治癒促進剤、特に、皮膚潰瘍、褥瘡などの治療のための医薬として好適に使用できる。
【0024】
本発明の医薬の投与形態は、特に限定されず治療目的に応じて適宜選択できる。例えば、創傷治癒促進剤として使用する場合において、外用剤として使用する場合には、液剤、クリーム剤、貼付剤、ゲル剤などに製剤化し、創傷部位に直接適用することが望ましい。これらの製剤は、公知の技術を用いて調製され、許容される通常の担体、賦形剤、結合剤、安定剤等を含有することができる。また、経口投与のための形態としては、例えば、錠剤、カプセル剤、丸剤、顆粒剤、散剤、液剤、シロップ剤または懸濁剤などが挙げられる。さらに、注射剤形で用いる場合には許容される緩衝剤、溶解補助剤、等張剤等を添加することもできる。
【0025】
本発明の医薬の有効成分の投与量は、治療対象、患者の年齢、性別、体重、症状、投与形態、投与回数等によって異なるが、例えば創傷治癒促進剤として、又は皮膚潰瘍、若しくは褥瘡の治療のための医薬として外用剤の形態で使用する場合には、1日0.001〜300mg、好ましくは0.1〜100mgを1回又は数回に分けて投与するのが好ましい。
【実施例】
【0026】
本発明に包含される化合物の具体例としては、以下に示す化合物が挙げられる。ただし、これらの化合物の具体例としては、例示のためのものであって、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0027】
[製造例1]
6−メチルイソキノリンの合成:
【0028】
【化3】

【0029】
p−トルアルデヒド(3.36g)とアミノアセトアルデヒドジメチルアセタール(3.12g)とをトルエン(40mL)に溶解し、140℃にて一夜還流した。混合物を減圧濃縮し、残渣をテトラヒドロフラン(10mL)に溶解しクロル炭酸エチル(3.04g)を加えた。室温で1時間撹拌後、亜リン酸トリメチル(4.44g)を加え、さらに室温で20分撹拌した。混合物を減圧濃縮し、残渣をジクロロメタン(10mL)に溶解し、塩化チタン(31.9g)を加えて65℃で42時間撹拌した。反応液に水酸化カリウム水溶液を加えて中和し、析出物をろ去した。ろ液に濃塩酸を加えて酸性とした後、クロロホルムで洗浄し、水酸化カリウムを用いて水層のpHを再びアルカリ性としてクロロホルムで抽出した。有機層を水で洗浄、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮により標記化合物を結晶性粉末として得た。
収量:1.93g(48%)
【0030】
[製造例2]
6−メチル−5−ニトロイソキノリンの合成:
【0031】
【化4】

【0032】
6−メチルイソキノリン(1.72g)を氷冷下濃硫酸(30mL)に加え、続いて硝酸カリウム(2.3g)を加えた。0℃で70分間撹拌し、水中にあけた。濃水酸化カリウムでアルカリ性とし、析出した沈殿をろ取した。
収量:2.32g(100%)
【0033】
[製造例3]
5−アミノ−6−メチルイソキノリンの合成:
【0034】
【化5】

【0035】
6−メチル−5−ニトロイソキノリン(2.31g)を濃塩酸(25mL)と酢酸(50mL)の混合溶媒に溶解し、塩化スズ(II)(23.1g)を加えた。混合物を室温で一夜撹拌し析出物をろ取し、水(100mL)に溶解した。水酸化カリウム水溶液にてアルカリ性としてクロロホルムで抽出、減圧濃縮し、標記化合物を淡黄褐色結晶として得た。
収量:1.51g(78%)
【0036】
[製造例4]
5−クロロスルホニル−6−メチルイソキノリンの合成:
【0037】
【化6】

【0038】
5−アミノ−6−メチルイソキノリン(0.80g)を濃塩酸(10mL)に溶解し、亜硝酸ナトリウム(0.52g)を水(2mL)に溶解したものを滴下した。混合物を氷冷下50分撹拌し、塩化銅二水和物(0.28g)、水(1.4mL)、64%亜硫酸酢酸溶液(6.3g)の混合液中に滴下した。反応液を5℃で80分撹拌した後、水酸化カリウム水溶液でpHを3に調節し、クロロホルムを加えた。さらに水酸化カリウム溶液を加え、pHが5になったところでクロロホルム抽出を3度行った。有機層を合わせて無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮により標記化合物を褐色結晶性粉末として得た。
収量:0.12g(10%)
【0039】
[実施例1]
6−メチル−5−(1−ピロリジンスルホニル)イソキノリン塩酸塩の合成:
【0040】
【化7】

【0041】
ピロリジン(150mg)とトリエチルアミン(210mg)のテトラヒドロフラン(10mL)溶液に5−クロロスルホニル−6−メチルイソキノリン(100mg)を加えた。混合物を室温で一夜撹拌し、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル=4:1→ヘキサン−酢酸エチル=3:1)で精製した後、減圧濃縮した。得られた油状物をメタノールに溶解し、4M塩酸の酢酸エチル溶液を加えて塩酸塩とし、標記化合物を淡橙桃色結晶として得た。
収量:110mg(85%)
M/Z:276[M+
【0042】
[実施例2]
6−メチル−5−(1−ピペリジンスルホニル)イソキノリン塩酸塩の合成:
【0043】
【化8】

【0044】
5−クロロスルホニル−6−メチルイソキノリン(100mg)とピペリジン(180mg)とを実施例1と同様に反応させ、標記化合物を淡褐色結晶として得た。
収量:70ng(52%)
M/Z:290[M+
【0045】
[実施例3]
6−メチル−5−(4−モルホリンスルホニル)イソキノリン塩酸塩の合成:
【0046】
【化9】

【0047】
5−クロロスルホニル−6−メチルイソキノリン(150mg)とモルホリン(275mg)とを実施例1と同様に反応させ、標記化合物を淡褐色結晶として得た。
収量:30mg(15%)
M/Z:292[M+
【0048】
[製造例5]
5−[1−(4−(tert−ブトキシカルボニル)ホモピペラジン)スルホニル]−6−メチルイソキノリンの合成:
【0049】
【化10】

【0050】
5−クロロスルホニル−6−メチルイソキノリン(0.11g)と1−(tert−ブトキシカルボニル)ホモピペラジン(0.30g)とを実施例1と同様に反応させた。その後後処理を行い、塩酸塩にすることなく、標記化合物を淡黄色油状物として得た。
収量:0.20g(34%)
【0051】
[実施例4]
6−メチル−5−(1−ホモピペラジンスルホニル)イソキノリン二塩酸塩の合成:
【0052】
【化11】

【0053】
5−[1−(4−(tert−ブトキシカルボニル)ホモピペラジン)スルホニル]−6−メチルイソキノリン(190mg)をジオキサン(2.5mL)に溶解し、4M 塩酸のジオキサン溶液(2.5mL)を加えた。反応終了後減圧濃縮し、残渣を水に溶解した。炭酸水素ナトリウム水溶液で中和後クロロホルムで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥後減圧濃縮した。得られた油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム→クロロホルム−メタノール=50:1→クロロホルム−メタノール=25:1→クロロホルム−メタノール=10:1)で精製し、4M 塩酸の酢酸エチル溶液を加えて塩酸塩とし、標記化合物を無色針状晶として得た。
収量:138mg(79%)
M/Z:305[M+
【0054】
[製造例6]
(S)−2−[(ベンジルオキシカルボニル)アミノ]−N−(3−ヒドロキシプロピル)プロピルアミンの合成:
【0055】
【化12】

【0056】
(s)−2−[(ベンジルオキシカルボニル)アミノ]−1−プロパノール(4.96g)とトリエチルアミン(5.0mL)とをクロロホルム(50mL)に溶解し、氷冷下メタンスルホニルクロリド(2.7mL)を滴下した。反応液を室温に戻して30分間攪拌し、水を加えて有機層を分離した。水層をさらにクロロホルムで抽出し、有機層を合わせて飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮した。残渣をテトラヒドロフラン(50mL)に溶解し、3−アミノ−1−プロパノール(8.90g)を加え、一夜還流した。混合物を減圧濃縮後、水とクロロホルムを加えて有機層を分離した。水層をさらにクロロホルムで抽出し、有機層を合わせて飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム−メタノール=9:1→クロロホルム−アンモニア飽和メタノール=9:1)で精製し、目的物を無色油状物として得た。
収量:3.76g(60%)
【0057】
[製造例7]
(S)−2−[(ベンジルオキシカルボニル)アミノ]−N−(tert−ブトキシカルボニル)−N−(3−ヒドロキシプロピル)プロピルアミンの合成:
【0058】
【化13】

【0059】
(S)−2−[(ベンジルオキシカルボニル)アミノ]−N−(3−ヒドロキシプロピル)プロピルアミン(3.76)とトリエチルアミン(2.4mL)をクロロホルム(20mL)に溶解し、ジ−tert−ブチル ジカルボネート(3.70g)を加えて室温で攪拌した。反応終了後、混合物を減圧濃縮し、残渣に酢酸エチルと水を加え、有機層を分離した。水層にさらに酢酸エチルを加えて抽出し、有機層を合わせて飽和食塩水で洗浄、無水硫酸ナトリウムで乾燥し減圧濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル=10:1→ヘキサン−酢酸エチル=1:1)で精製し、目的物を無色油状物として得た。
収量:4.38g(85%)
【0060】
[製造例8]
(S)−2−アミノ−N−(tert−ブトキシカルボニル)−N−(3−ヒドロキシプロピル)プロピルアミンの合成:
【0061】
【化14】

【0062】
(S)−2−[(ベンジルオキシカルボニル)アミノ]−N−(tert−ブトキシカルボニル)−N−(3−ヒドロキシプロピル)プロピルアミン(4.38g)をメタノール(20mL)に溶解し、10%パラジウム−活性炭(440mg)存在下水素気流中で接触還元を行った。反応終了後、触媒を除去してろ液を減圧濃縮し、目的物を無色油状物として得た。
収量:2.77g(100%)
【0063】
[製造例9]
(S)−N−(tert−ブトキシカルボニル)−N−(3−ヒドロキシプロピル)−2−[(2−ニトロベンゼンスルホニル)アミノ]プロピルアミンの合成:
【0064】
【化15】

【0065】
(S)−2−アミノ−N−(tert−ブトキシカルボニル)−N−(3−ヒドロキシプロピル)プロピルアミン(1.53g)とトリエチルアミン(923μL)をクロロホルム(10mL)に溶解し、2−ニトロベンゼンスルホニルクロリド(1.46g)を加えた。混合物を1時間撹拌後水とクロロホルムを加えて抽出し、有機層を水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥、減圧濃縮した。得られた油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル=1:1→酢酸エチル)で精製し、標記化合物を無色油状物として得た。
収量:1.89g(69%)
【0066】
[製造例10]
(S)−1−(2−ニトロベンゼンスルホニル)−4−(tert−ブトキシカルボニル)−2−メチルホモピペラジンの合成:
【0067】
【化16】

【0068】
(S)−N−(tert−ブトキシカルボニル)−N−(3−ヒドロキシプロピル)−2−[(2−ニトロベンゼンスルホニル)アミノ]プロピルアミン(1.87g)とトリフェニルホスフィン(1.78g)を無水テトラヒドロフラン(50mL)に溶解し、ジエチルアゾカルボネートの40%トルエン溶液(2.96g)を滴下した。混合物をアルゴン雰囲気下で一夜撹拌し、減圧濃縮した。残渣を酢酸エチルに溶解し水で洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮した。このものを精製することなく、次の反応へ進んだ。
収量:2.59g
【0069】
[製造例11]
(S)−1−(tert−ブトキシカルボニル)−3−メチルホモピペラジンの合成:
【0070】
【化17】

【0071】
(S)−1−(2−ニトロベンゼンスルホニル)−4−(tert−ブトキシカルボニル)−2−メチルホモピペラジン(1.33g)をアセトニトリル(15mL)に溶解し、炭酸カリウム(0.92g)とチオフェノール(0.69mL)を加えた。混合物を室温で5時間撹拌し、減圧濃縮した。残渣に水とクロロホルムを加えクロロホルム層をさらに水で洗浄後、無水硫酸マグネシウムで乾燥し、減圧濃縮した。得られた油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム→クロロホルム-メタノール=30:1→クロロホルム-メタノール=10:1)で精製し、標記化合物を無色油状物として得た。
収量:0.41g(58%)
【0072】
[製造例12]
(S)−6−メチル−5−[1−(4−(tert−ブトキシカルボニル)−2−メチルホモピペラジン)スルホニル]イソキノリンの合成:
【0073】
【化18】

【0074】
5−クロロスルホニル−6−メチルイソキノリン(135mg)と(S)−1−(tert−ブトキシカルボニル)−3−メチルホモピペラジン(180mg)とを実施例1と同様に反応させた。その後後処理を行い、塩酸塩にすることなく、標記化合物を淡黄色油状物として得た。
収量:70mg(30%)
【0075】
[実施例5]
(S)−6−メチル−5−[1−(2−メチルホモピペラジン)スルホニル]イソキノリン二塩酸塩の合成:
【0076】
【化19】

【0077】
(S)−6−メチル−5−[1−(4−(tert−ブトキシカルボニル)−2−メチルホモピペラジン)スルホニル]イソキノリン(70mg)を実施例4と同様に処理し、標記化合物を白色結晶性粉末として得た。
収量:31mg(46%)
M/Z:319[M+
【0078】
[製造例13]
6−イソプロピルイソキノリンの合成:
【0079】
【化20】

【0080】
4−イソプロピルベンズアルデヒド(20.9g)を製造例1と同様に処理し、標記化合物を褐色結晶性粉末として得た。
収量:16.2g(67%)
【0081】
[製造例14]
6−イソプロピル−5−ニトロイソキノリンの合成:
【0082】
【化21】

【0083】
6−イソプロピルイソキノリン(5.14g)を製造例2と同様に処理し、標記化合物を得た。
収量:4.79g(74%)
【0084】
[製造例15]
5−アミノ−6−イソプロピルイソキノリンの合成:
【0085】
【化22】

【0086】
6−イソプロピル−5−ニトロイソキノリン(2.0g)を製造例3と同様に処理し、標記化合物を淡褐色油状物として得た。
収量:0.74g(43%)
【0087】
[製造例16]
5−クロロスルホニル−6−イソプロピルイソキノリンの合成:
【0088】
【化23】

【0089】
5−アミノ−6−イソプロピルイソキノリン(0.72g)を製造例4と同様に処理し、標記化合物を淡褐色結晶性粉末として得た。
収量:0.65g(62%)
【0090】
[製造例17]
5−[1−(4−(tert−ブトキシカルボニル)ホモピペラジン)スルホニル]−6−イソプロピルイソキノリンの合成:
【0091】
【化24】

【0092】
5−クロロスルホニル−6−イソプロピルイソキノリン(0.20g)と1−(tert−ブトキシカルボニル)ホモピペラジン(0.45g)とを製造例5と同様に反応させ、標記化合物を淡黄色油状物として得た。
収量:0.12g(37%)
【0093】
[実施例6]
6−イソプロピル−5−(1−ホモピペラジンスルホニル)イソキノリン二塩酸塩の合成:
【0094】
【化25】

【0095】
5−[1−(4−(tert−ブトキシカルボニル)ホモピペラジン)スルホニル]−6−イソプロピルイソキノリン(0.12g)を実施例4と同様に処理し、標記化合物を淡黄色結晶性粉末として得た。
収量:60mg(54%)
MZ:333[M+
【0096】
[製造例18]
5−[1−(4−(tert−ブトキシカルボニル)ホモピペラジン)スルホニル]−6−イソプロピル−2−オキソイソキノリンの合成:
【0097】
【化26】

【0098】
5−[1−(4−(tert−ブトキシカルボニル)ホモピペラジン)スルホニル]−6−イソプロピルイソキノリン(169mg)をクロロホルム(5mL)に溶解し、m−クロロ過安息香酸(200mg)を加えて一夜撹拌した。10%チオ硫酸ナトリウム水溶液(4mL)を加えて室温で1時間撹拌後、クロロホルムで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウムと飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ減圧濃縮した。得られた残渣をプレパラティブTLC(展開溶媒;クロロホルム−メタノール=15:1)で精製し、標記化合物を淡褐色油状物として得た。
収量:129mg(88%)
【0099】
[製造例19]
5−[1−(4−(tert−ブトキシカルボニル)ホモピペラジン)スルホニル]−1−ヒドロキシ−6−イソプロピルイソキノリンの合成:
【0100】
【化27】

【0101】
5−[1−(4−(tert−ブトキシカルボニル)ホモピペラジン)スルホニル]−6−イソプロピル−2−オキソイソキノリン(108mg)のクロロホルム(3mL)溶液にn−ブチルアンモニウムクロリド(135mg)と酢酸カリウム(71mg)の水(3mL)溶液を加え、撹拌下、室温でベンゾイルクロリド(61mg)のクロロホルム(1mL)溶液を加えた。混合物を室温で1時間撹拌し、クロロホルムと水を加えた。有機層を飽和食塩水で洗い、無水硫酸マグネシウムで乾燥させ、減圧濃縮した。得られた油状物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム→クロロホルム−メタノール=20:1)で精製し、標記化合物を淡黄色油状物として得た。
収量:84mg(78%)
【0102】
[実施例7]
1−ヒドロキシ−6−イソプロピル−5−(1−ホモピペラジンスルホニル)イソキノリン塩酸塩の合成:
【0103】
【化28】

【0104】
5−[1−(4−(tert−ブトキシカルボニル)ホモピペラジン)スルホニル]−1−ヒドロキシ−6−イソプロピルイソキノリン(90mg)を実施例4と同様に処理し、標記化合物を無色針状晶として得た。
収量:46mg(60%)
M/Z:349[M+
【0105】
[製造例20]
5−[1−(4−(tert−ブトキシカルボニル)ピペラジン)スルホニル]−6−イソプロピルイソキノリンの合成:
【0106】
【化29】

【0107】
5−クロロスルホニル−6−イソプロピルイソキノリン(165mg)と1−(tert−ブトキシカルボニル)ピペラジン(136mg)とを製造例5と同様に反応させ、標記化合物を淡黄色油状物として得た。
収量:183mg(73%)
【0108】
[実施例8]
6−イソプロピル−5−(1−ピペラジンスルホニル)イソキノリン二塩酸塩の合成:
【0109】
【化30】

【0110】
5−[1−(4−(tert−ブトキシカルボニル)ピペラジン)スルホニル]−6−イソプロピルイソキノリン(183mg)を実施例4と同様に処理し、標記化合物を淡黄色結晶性粉末として得た。
収量:132mg(77%)
M/Z:319[M+
【0111】
[実施例9]
6−イソプロピル−5−(4−モルホリンスルホニル)イソキノリン塩酸塩の合成:
【0112】
【化31】

【0113】
5−クロロスルホニル−6−イソプロピルイソキノリン(0.20g)とモルホリン(0.33g)とを実施例1と同様に反応させ、標記化合物を無色針状晶として得た。
収量:52mg(85%)
M/Z:320[M+
【0114】
[試験例1]
3H−Proline取り込みによる実施例化合物のコラーゲン産生に対する影響評価)
正常ヒト皮膚線維芽細胞を6000cells/100μL/well(96well−plate)で播種し、37℃で一昼夜培養した。その後、被検物質として実施例の化合物を1μM、又は10μMの濃度で含む培地100μLに交換し、さらに培地に溶解した1.5μCiの3H−Proline(Amersham Bioscience)50μLを添加し、37℃で48時間培養を行った。培養後に冷1M酢酸に1mg/mLで溶解したPepsin(Sigma)溶液100μLを添加し、4℃で一昼夜静置した。その後0.5M酢酸に100μL/mLで溶解した中性可溶性コラーゲン(KOKEN)800μLを添加して混合し、4℃、13,000g、15分間遠心分離を行い、上清を回収した。この上清に25% NaClの0.5M酢酸溶液250μLを添加した後、室温で2時間静置した後、4℃、13,000g、15分間遠心分離を行い沈殿を得た。得られた沈殿を0.15M NaCl−50mM Tris−HCl(pH7.5)溶液150μLで溶解し、さらに4.5M NaCl 50mM Tris−HCl(pH7.5)溶液を添加した後混合し、室温で2時間静置した。その後、4℃、13,000g、15分間遠心分離を行って沈殿(コラーゲン画分)を得、沈殿を20% エタノール1mLを添加して4℃、13,000g、15分間遠心分離を行うことで洗浄した。洗浄したコラーゲン画分を0.5M 酢酸250μLで溶解し、液体シンチレーター5mLを添加した後、液体シンチレーションカウンターで取り込まれた3H−Proline由来の放射能量を測定した。得られた値は、以下の計算式にて計算を行い、被検物質の評価を行った。なお、細胞培養時において被検物質を含まないものに対して実験操作を行ったものをコントロールとして、細胞および被検物質を含まないものに対して実験操作を行ったものをバックグラウンドとして扱った。結果を表1に示す。
(被検物質添加サンプル値−バックグラウンド値)/(コントロール値−バックグラウンド値)×100 (%)
【0115】
【表1】

【0116】
(結果)
表1に示すとおり、実施例4、実施例6、実施例7の化合物はいずれもコラーゲン産生促進作用を有し、本発明化合物は創傷治癒促進剤の有効成分として、及び皮膚潰瘍、又は褥瘡の治療のための医薬の有効成分として好適に使用できることがわかった。
【0117】
[試験例2]
(ウサギ耳介皮膚欠損創モデルを用いた動物実験)
雄性日本白色ウサギ(体重2.0kg)の耳介内側に麻酔下、軟骨上に作製した4個の直径6mmの欠損創に、毎日4日間実施例6の化合物をリン酸緩衝液に溶解した0.01、0.1、1.0% 被検薬を10μL塗布した。欠損創は防水フィルムで覆ったのち、耳介内に丸めたガーゼを挟み、伸縮性粘着テープで耳介を固定した。一群あたり14の欠損創を使用し、未処置のものをコントロールとした。また、対照に用いたbFGFの濃度は100μg/mLに設定した。5日後に、麻酔死させ、耳介を摘出しホルマリン固定した。その後、パラフィン包埋し欠損創の中心を含む切片を作製した。ヘマトキシリン・エオジン染色後、顕微鏡下画像をコンピュータに取り込み、肉芽面積を測定した。結果を図1に示す。
【0118】
(結果)
図1に示すとおり、実施例6の化合物を有効成分として含有する被検薬は創傷部位において強い肉芽新生促進作用を示すことがわかり、本発明化合物は創傷治癒促進剤の有効成分として、及び皮膚潰瘍、又は褥瘡の治療のための医薬の有効成分として好適に使用できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】試験例2における被験薬の肉芽新生促進作用の強度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)
【化1】

〔式中R1はアルキル基を示し、R2は水素原子、又はヒドロキシ基を示し、環Aはスルホニル基に結合した窒素原子の他に、環を構成するヘテロ原子として窒素原子、又は酸素原子を1個有しても良く、置換基としてアルキル基を有しても良い5〜7員のへテロ環式基を示す。〕
で表される化合物、その酸付加塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項2】
一般式(1)において、R1がC1−C6の直鎖又は分岐鎖のアルキル基であり、環Aで示されるヘテロ環式基が、飽和のへテロ環式基である請求項1記載の化合物、その酸付加塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項3】
一般式(1)において、R1がメチル基、又はiso−プロピル基であり、環Aがピロリジニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、モルホリニル基、ホモピペラジニル基、又はメチルホモピペラジニル基である請求項1又は2記載の化合物、その酸付加塩又はそれらの溶媒和物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物、その酸付加塩又はそれらの溶媒和物を有効成分として含有する医薬。
【請求項5】
創傷治癒促進剤である請求項4記載の医薬。
【請求項6】
皮膚潰瘍、又は褥瘡の治療のための医薬である請求項4記載の医薬。

【図1】
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【公開番号】特開2007−238458(P2007−238458A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58867(P2006−58867)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(599118539)株式会社デ・ウエスタン・セラピテクス研究所 (8)
【Fターム(参考)】