説明

新規なエポキシ化合物

【課題】融点が低く溶剤溶解性に優れ、取り扱いが容易な高耐熱性の新規なエポキシ化合物の提供。
【解決手段】一般式(1)


(式中、R、Rは各々独立して、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、フェニル基又はハロゲン原子を表し、a、bは各々独立して0又は1〜4の整数を表し、R、R、a及びbはそれぞれ同一でも異なっていても良く、Aは炭素原子数1〜20のアルキレン基を表し、Rは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。)で表されるエポキシ化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なエポキシ化合物に関し、詳しくはビス(ヒドロキシフェニルシクロヘキセニル)アルカンのジグリシジルエーテル化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中心骨格が、剛直なp−ポリフェニル基、例えばp−ターフェニル基やp−クォーターフェニル基のような骨格を有するエポキシ化合物としては、例えば、中心骨格にシクロヘキセニル骨格を有する1−(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−4−(4−ヒドロキシフェニル)−1−シクロヘキセンのジグリシジルエーテル化合物(特許文献1)、無置換の4,4’’’−ジグリシジルオキシ−p−クォーターフェニル(非特許文献1)、中心骨格にアルキレン基を含む構造である、2,2−ビス(4−(4−ヒドロキシフェニル)フェニル)プロパンのジグリシジルエーテル化合物(特許文献2)などいくつかの化合物が知られている。このような化合物はその耐熱性や低吸水性、難燃性に優れていることから、電子材料分野の樹脂原料として有用である。しかしながら、これらのp−ポリフェニル基を有するエポキシ化合物は、融点が高く溶剤溶解性が低いなどの点で取り扱いが困難であり、その改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−206814号公報
【特許文献2】国際公開第2004/037879号パンフレット
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Proceedings of the 4th International Conference on Calorimetry in High Energy Physics, 1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明は、中心骨格にp−ポリフェニル基を有する高耐熱性エポキシ化合物の改良、特に、硬化樹脂とした場合に優れた耐熱性、低吸水性を有すると共に、エポキシ化合物としては、融点が低く溶剤溶解性に優れ、取り扱いが容易な高耐熱性エポキシ化合物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、中心骨格にアルキレン基とその両端にシクロヘキセニルフェニル基が結合した4つの環構造を含む構造である、ビス[4−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキセニル]アルカン類のジグリシジル化合物が、優れた耐熱性を有し、しかも融点が低く、溶剤溶解性に優れたエポキシ化合物であることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明によれば、一般式(1)

(式中、R、Rは各々独立して、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、フェニル基又はハロゲン原子を表し、a、bは各々独立して0又は1〜4の整数を表し、R、R、a及びbはそれぞれ同一でも異なっていても良く、Aは炭素原子数1〜20のアルキレン基を表し、Rは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。)
で表されるエポキシ化合物が提供される。
【0008】
また、一般式(2)

(式中、R、R、R、a、bは一般式(1)のそれと同じであり、R、Rは各々独立して、水素原子、又は炭素原子数1〜8のアルキル基を表し、R、Rは互いに結合して環を形成してもよい。)
で示されるエポキシ化合物は本発明の好ましい態様である。
また、前記一般式(1)又は一般式(2)において、Rがすべて水素原子であるエポキシ化合物は本発明のより好ましい態様である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のエポキシ化合物は、中心骨格にアルキレン基を介して両端に剛直な(4−オキシフェニル)シクロヘキセニル骨格が結合した4つの環構造を有する構造であって、耐熱性に優れている。更に、同じ4つの環構造を有する構造を持つ4,4’’’−ジグリシジルオキシ−p−クォーターフェニルや、2,2−ビス(4−(4−ジグリシジルオキシフェニル)フェニル)プロパンなどと比べて、低融点であり、溶剤溶解性も高く、樹脂原料として用いる際の硬化温度も下げることができるので、取り扱いが容易である。
更に本発明のエポキシ化合物から得られる樹脂は耐熱性、低吸水性、可撓性及び/又は靭性に優れていることが期待でき、従って、特に電子材料分野のエポキシ樹脂等の各種樹脂原料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の新規なエポキシ化合物は、下記一般式(1)

(式中、R、Rは各々独立して、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、フェニル基又はハロゲン原子を表し、a、bは各々独立して0又は1〜4の整数を表し、R、R、a及びbはそれぞれ同一でも異なっていても良く、Aは炭素原子数1〜20のアルキレン基を表し、Rは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。)
で表される。
【0011】
式中、R、Rは各々独立して、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、フェニル基またはハロゲン原子を表す。好ましくはアルキル基である。炭素原子数1〜8のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、また、炭素原子数3以上のアルキル基は直鎖状、分岐鎖状また環状であってもよく、例えばn−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。好ましくは炭素原子数1〜4の直鎖状、分岐鎖状のアルキル基、炭素原子数5〜8の環状のアルキル基である。これらのアルキル基には芳香族炭化水素基が置換していてもよく、例えば、ベンジル基、フェネチル基、α−メチルベンジル基などが挙げられる。
【0012】
炭素原子数1〜8のアルコキシ基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基また、炭素原子数3以上のアルコキシ基は直鎖状、分岐鎖状また環状であってもよく、例えばn−プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、t−ブトキシ基、シクロペンチロキシ基、シクロヘキシロキシ基などが挙げられる。好ましくは炭素原子数1〜4の直鎖状、分岐鎖状のアルコキシ基である。アルコキシ基には芳香族炭化水素基が置換していてもよい。
フェニル基としては、フェニル基または4−メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、メトキシフェニル基などのアルキル基、又はアルコキシル基置換フェニル基などが挙げられる。ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子などが挙げられる。
【0013】
また、a、bは各々独立して0又は1〜4の整数を示し、Rが同一又は異なるフェニレン基上で2つ以上ある場合、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよく、Rが同一又は異なるシクロヘキセン基上で2つ以上ある場合、Rはそれぞれ同一でも異なっていても良く、それぞれシクロヘキセン環上の異なる炭素原子に置換しているのが好ましい。
また、異なるシクロヘキセン基のbは同一であることが好ましく、より好ましくは、共に0又は1である。bが共に1である場合、Rの置換位置はA基との結合位置に対して3位であることが好ましい。bが1又は2である場合、Rの置換位置はA基との結合位置に対して、3位及び/又は5位であることが好ましい。
また、Rは共にアルキル基であることが好ましく、なかでもメチル基が好ましい。
【0014】
また、異なるフェニレン基のaは同一であることが好ましく、より好ましくは共に0、1又は2である。aが1又は2である場合、Rの置換位置はグリシジルエーテル基に対してオルソ位であることが好ましい。
また、Rは各々独立して水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を表わし、炭素原子数1〜4のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、また、炭素原子数3以上のアルキル基は直鎖状、分岐鎖状であってもよく、例えばn−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などが挙げられる。好ましくは水素原子又はメチル基であり、より好ましくは水素原子である。
【0015】
上記一般式(1)において、Aは炭素原子数1〜20のアルキレン基を表し、炭素原子数1〜20のアルキレン基としては、直鎖状、分岐鎖状または環状のアルキレン基が挙げられ、好ましい炭素原子数は1〜8であり、より好ましくは炭素原子数1〜4である。
【0016】
また、好ましい構造のアルキレン基としては具体的には、下記一般式(3)で表される。

(式中、R、Rは一般式(2)のそれと同じである。)
【0017】
一般式(3)で表されるアルキレン基において、R、Rは、各々独立して水素原子または炭素原子数1〜8のアルキル基を表し、R、Rは互いに結合して環を形成してもよいが、環を形成しない場合には、R、Rの少なくとも一方または両方が水素原子、1級アルキル基または2級アルキル基であることが好ましい。炭素原子数1〜8のアルキル基としては直鎖状または分岐鎖状が好ましく、1級アルキル基または2級アルキル基であることが好ましい。より好ましくは炭素原子数1〜4の直鎖状、分岐鎖状の、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基等の1級アルキル基または2級アルキル基である。従って、一般式(3)で表されるアルキレン基としては具体的には、メチレン基、1−メチルメチリデン基、1−エチルメチリデン基、1−イソプロピルメチリデン基、2,2−プロピリデン基などを挙げることができる。R、Rが互いに結合して環を形成する場合には、R+Rの合計炭素原子数は16以下であり、4〜10が好ましい。従って、R、Rが互いに結合して環を形成する場合の一般式(3)で表されるアルキレン基としては具体的には、1,1−シクロペンチリデン基、1,1−シクロヘキシリデン基、4−メチル−1,1−シクロヘキシリデン基、3,3,5−トリメチル−1,1−シクロヘキシリデン基などを挙げることができる。好ましくは、1,1−シクロヘキシリデン基である。
【0018】
従って、上記一般式(1)において、Aが一般式(3)で表されるアルキレン基である場合、一般式(1)は、一般式(2)で表される。

(式中、R、R、R、a、bは一般式(1)のそれと同じであり、R、Rは各々独立して、水素原子、又は炭素原子数1〜8のアルキル基を表し、R、Rは互いに結合して環を形成してもよい。)
【0019】
かかる一般式(2)で表されるエポキシ化合物において、中でも、R、Rが炭素原子数1〜4の直鎖状、分岐鎖状のアルキル基又は炭素原子数5〜8の環状のアルキル基であり、a、bは共に0又は1であり、Rはすべて水素原子であり、R、Rは水素原子、炭素原子数1〜4の直鎖状、分岐鎖状の1級アルキル基または2級アルキル基であるエポキシ化合物が特に好ましい。
【0020】
このような一般式(1)又は一般式(2)で表されるエポキシ化合物としては、具体的には例えば、
2,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、

2,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、

2,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシ−3−フェニルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、

2,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシ−2−メチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシ−3−エチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシ−3−イソプロピルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシ−3−t−ブチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシ−3−シクロヘキシルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシ−3−メトキシフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシ−3−クロロフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシフェニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
ビス[4−(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]メタン、
1,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]エタン、
3−メチル−2,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]ペンタン、
1,1−ビス[4−(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]シクロヘキサン、
2−[4−(4−グリシジルオキシフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]−2−[4−(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
などが挙げられる。
【0021】
このような本発明の一般式(1)で表されるエポキシ化合物の製造方法については、特に制限はなく、公知の方法を用いて製造することができる。具体的には、例えば、本発明の一般式(1)のエポキシ化合物に対応する一般式(4)で表されるビス{4,4−ジ(ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル}アルカン(以下、ジオール化合物とも称呼する。)

(式中、R、R、a、b、およびAは一般式(1)のそれと同じである。)
を直接原料とし、これを溶媒中、一般式(5)

(式中、Rは一般式(1)のそれと同じであり、Xはハロゲン原子を表す。)
で示されるハロヒドリン化合物とを塩基触媒の存在下に反応させることにより得ることができる。
【0022】
或いはまた、一般式(4)で表されるジオール化合物と、例えばアリルクロリド、アリルブロミド等のハロゲン化ビニル化合物とを溶媒中で塩基の存在下に反応させ、次いで、反応終了後、そのままm−クロロ過安息香酸等の炭素−炭素二重結合をエポキシ基に酸化可能な酸化剤を作用させるか、又は、例えば反応液と水を混合し、反応生成物を取り出した後、該反応生成物に前記酸化剤を作用させるかした後、例えば、必要に応じて残存する酸化剤を分解処理し、次いで濃縮処理することにより、エポキシ化合物を得ることができる。
【0023】
本発明のエポキシ化合物の製造方法においては、一般式(4)で表されるジオール化合物と一般式(5)で表されるハロヒドリン化合物を塩基の存在下に反応させる製造方法が好ましい。ここで、一般式(4)で表されるジオール化合物と一般式(5)で表されるハロヒドリン化合物を塩基の存在下に反応させる製造方法について反応式で示すと、例えば反応式(1)

で示される。
【0024】
ここで、一般式(4)で表されるジオール化合物としては、具体的には、例えば、
2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、

2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、

2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、

2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシ−3−エチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシ−3−イソプロピルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシ−3−t−ブチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシ−3−シクロヘキシルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシ−2,3,5−トリメチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
ビス[4−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]メタン、
1,2−ビス[4−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]エタン、
3−メチル−2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]ペンタン、
1,1−ビス[4−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]シクロヘキサン、
2−[4−(4−ヒドロキシフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]−2−[4−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン、
等を挙げることができる。
【0025】
また、一般式(5)で表されるハロヒドリン化合物において、ハロゲン原子としては塩素原子、臭素原子などが挙げられる。従って一般式(5)で表されるハロヒドリン化合物としては、具体的には、例えば、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、β−メチルエピクロロヒドリン、β−メチルエピクロロヒドリン、2−クロロメチル−3−メチルオキシラン、2−クロロメチル−2−メチル−3−メチルオキシラン等を挙げることができる。
一般式(4)で表されるジオール化合物と一般式(5)で表されるハロヒドリン化合物の反応において、ハロヒドリン化合物の使用量としては、一般式(4)で表されるジオール化合物1モルに対して少なくとも2モル倍以上であり、ハロヒドリン化合物を反応溶媒としても使用する場合には、更に多く用いる。従って、通常2〜100モル倍の範囲、好ましくは2〜50モル倍の範囲である。
【0026】
反応に際し用いられる、塩基触媒としては、具体的には、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩又は炭酸水素塩のような無機塩基、ピリジン、トリエチルアミン等の有機塩基、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラエチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムブロミド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロリド等のアンモニウム塩等が挙げられる。好ましくはテトラブチルアンモニウムブロミドである。
塩基触媒は反応途中で追加添加してもよく、特に原料ジオール化合物が消失したところで追加する場合には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩基が好ましい。塩基の使用量としては、無機塩基の場合は、一般式(4)で表されるジオール化合物1モルに対して 通常、2〜5モル倍の範囲、有機塩基又はアンモニウム塩の場合は通常、0.01〜10モル倍の範囲、好ましくは0.05〜1モル倍の範囲である。
【0027】
用いられる溶媒としては、反応に不活性な溶媒であれば特に制限されない。また、反応原料である一般式(5)で表されるハロヒドリンを同時に反応溶媒として用いてもよい。溶媒としては、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系溶媒、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノン、メチルペンチルケトン、2−オクタノン、2−トリデカノン等のケトン類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、プソイドクメン等の芳香族炭化水素、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。このような溶媒は、1種類でも、また、2種類以上混合して用いてもよい。また、溶媒の量については、特に限定はないが、容積効率等の関係より、原料の一般式(4)で表されるジオール化合物1重量部に対して、通常、0.1〜50重量部の範囲、好ましくは1〜20重量部の範囲である。
【0028】
反応は常圧条件下で行ってもよいし、減圧条件下で行ってもよい。反応温度は、通常20〜100℃の範囲、好ましくは30〜70℃の範囲である。このような反応条件において、反応は、通常、5〜30時間で完結する。これらのエポキシ化反応の反応物を、更に加水分解性ハロゲンの少ないエポキシ化合物とするために、常法に従い、トルエン、メチルイソブチルケトンなどに溶解させてから必要に応じアルカリ金属水酸化物を追加添加し、更に反応を行い、閉環を確実にすることも出来る。
反応終了後、得られた反応終了混合液から目的物を精製する方法は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、反応終了混合液に蒸留水および必要に応じて前記した溶媒を加え、撹拌した後、必要ならば中和及び/又は油層の水洗等を行い、得られた油層から目的物を晶析することにより析出した結晶を濾別して得ることが出来る。結晶の純度が低い等、必要ならば、このような晶析または沈殿を1回〜複数回行っても良い。
また、原料である一般式(4)で表されるジオール化合物は、例えば、特開2005−247809号公報等記載の公知の方法に準じて製造することができる。
【0029】
具体的には、例えば、反応式(2)に示すように、一般式(4)のジオール化合物に対応する下記一般式(6)で表されるビス{4,4−ジ(ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル}アルカンを直接原料とし、これを溶媒中、好ましくはアルカリの存在下に熱分解することにより得ることができる。
反応式(2)

【0030】
一般式(6)において、式中、R、R、a、b、Aは一般式(4)のそれと同じである。
このような一般式(6)で表されるビス(4,4−ジヒドロキシフェニルシクロヘキシル)アルカンとしては、具体的には、例えば、
2,2−ビス[4,4−ジ(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル]プロパン、
2,2−ビス[4,4−ジ(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキシル]プロパン、
2,2−ビス[4,4−ジ(4−ヒドロキシ−3−フェニルフェニル)シクロヘキシル]プロパン、
2,2−ビス[4,4−ジ(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)シクロヘキシル]プロパン、
2,2−ビス[4,4−ジ(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3−メチルシクロヘキシル]プロパン、
2,2−ビス[4,4−ジ(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキシル]メタン、
1,1−ビス[4,4−ジ(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル]シクロヘキサン、
2−[4,4−ジ(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル]−2−[4,4−ジ(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキシル]プロパン、
等を挙げることができる。
【0031】
このような一般式(6)で表される原料ビス{4,4−ジ(ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル}アルカンの熱分解は、好ましくは、アルカリ触媒の存在下に行われる。アルカリ触媒としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩、ナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシド等のアルカリ金属フェノキシド、水酸化マグネシウム又は水酸化バリウム等のアルカリ土類金属水酸化物等を挙げることができる。これらの中では、特に、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが好ましく用いられる。
【0032】
アルカリ触媒は、ビス{4,4−ジ(ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル}アルカン100重量部に対して、通常、0.01〜30重量部の範囲で用いられる。上記ビス{4,4−ジ(ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル}アルカンの熱分解は、反応に際し、出発原料であるビス{4,4−ジ(ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル}アルカン類及び、目的物であるビスシクロヘキセニルアルカン類の融点が高いので、通常、溶媒を使用する。
このような溶媒としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール等のポリエチレングリコール類、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール類、グリセリン等の多価アルコール類が用いられる。
また、市販の有機熱媒体である「サームエス」(新日鉄化学株式会社製)又は「SK−OIL」(綜研化学株式会社製)等も用いることができる。
【0033】
このような溶媒は、ビス{4,4−ジ(ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル}アルカン類100重量部に対して、通常、20〜2000重量部の範囲で用いられる。
ビス(4,4−ジヒドロキシフェニルシクロヘキシル)アルカン類の熱分解は、熱分解温度が低すぎると反応速度が遅くなり、熱分解温度が高すぎる時は望ましくない副反応が多くなるので、通常、150〜300℃の範囲の温度で行われる。
また、熱分解の反応圧力は、特に限定されるものではないが、熱分解反応を行いながら、生成するフェノール類を留出させることができる圧力が好ましく、通常、常圧ないし減圧下の範囲であり、例えば、1〜101kPa(ゲージ圧)の範囲である。
このような反応条件において、ビス{4,4−ジ(ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル}アルカン類の熱分解は、通常、1〜6時間程度で終了する。熱分解反応は、例えば、分解反応によって生成するフェノール類の溜出がなくなった時点をその終点とすることができる。
【0034】
好ましい態様によれば、例えば、反応容器にビス{4,4−ジ(ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル}アルカン類、テトラエチレングリコール等の溶媒及び水酸化ナトリウムを仕込み、温度190〜220℃、圧力10〜40kPa(ゲージ圧)で3〜6時間程度、分解反応によって生成したフェノール類を溜去しながら、撹拌することによって行われる。反応終了後、得られた反応終了液から、目的物を取り出す方法は、公知の方法で行うことがでる。例えば、反応終了液を必要に応じて中和し、蒸留水および必要に応じて溶媒を加え、水洗した後、必要ならば濃縮し、析出してくる結晶または非結晶状態の固体をろ別して回収する。得られた結晶や固体の純度が低い場合、必要に応じて、このような晶析または沈殿濾過をさらに1回〜複数回行っても良い。
このようにして、対応する構造の一般式(6)で表されるビス{4,4−ジ(ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル}アルカン類を熱分解することによって、一般式(4)で表される本発明のエポキシ化合物の直接原料であるジオール化合物を、収率よく、高純度で得ることができる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
〔参考例1〕
2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパンの合成

温度計、撹拌器、蒸留装置を備えた200mL容量の四つ口フラスコに、2,2−ビス[4,4−ジ(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキシル]プロパン20gとテトラエチレングリコール35gと水酸化ナトリウム0.6gを仕込み、系内を窒素ガス置換した後、撹拌下に、内温200℃、10kPaでo−クレゾールを留出させながら4時間反応を行った。反応終了後、得られた反応液を45℃まで冷却した後、酢酸0.9gを加えて中和し、メチルイソブチルケトン80g、蒸留水40gを順に加えて撹拌した後、静置して水層を分離、除去した。得られた油層に水を加えて撹拌した後、静置して水層を除去した。
さらに、同様の操作を2回行い、油層を水洗した。得られた油層を減圧下に濃縮し、残った液にトルエン40gを加え、晶析を行った。析出した結晶をろ別して回収し、得られた結晶を減圧下、150℃で乾燥させ、目的物の2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン7.4gを純度98%(高速液体クロマトグラフィー分析による)の薄茶色結晶として得た。
原料の2,2−ビス[4,4−ジ(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)シクロヘキシル]プロパンに対する収率は56モル%であった。
融点;185.9℃(示差走査熱量測定(DSC))
分子量;415(M−H)
H−NMR(400MHz、溶媒:DMSO−d6)測定
【表1】

【0037】
〔実施例1〕
2,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパンの合成

撹拌装置を備えた100mLの四つ口フラスコに参考例1で得られた2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン(以下4H−OCBPAと称呼する。)4.2gとテトラブチルアンモニウムブロミド0.6g、エピクロロヒドリン28.0gを仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、50℃で12時間撹拌した。その反応液に水酸化ナトリウム1.2gを加えた後、50℃に保持したまま更に3時間撹拌した。その後、過剰量存在するエピクロロヒドリンを減圧濃縮で回収し、そこにメチルイソブチルケトン20gと蒸留水20gを加えて撹拌した後、水層を除去した。水層のpHが7付近になるまで水洗を繰り返して行い、得られた油層を蒸留により濃縮した後、残液にメタノール5.0gを加えて晶析を行い、析出した結晶をろ別した。得られた結晶を50℃で減圧乾燥して、純度96%(高速液体クロマトグラフィー分析による)の白色粉末状の2,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシ−3−メチルフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン4.4gを得た。原料の4H−OCBPAに対する収率は82.4モル%であった。
融点:103℃(示差走査熱量測定法による)
プロトンNMR測定結果(400MHz、CDCl):
0.84(t,6H),1.28−1.39(m,2H),1.64−1.73(m,2H),1.94−2.04(m,4H),2.17−2.24(m,8H),2.35−2.51(m,4H),2.77(dd,2H),2.89(t,2H),3.33−3.37(m,2H),3.97(dd,2H),4.20(dd,2H),6.03(s,2H),6.74(d,2H),7.13−7.19(m,4H)
【0038】
〔参考例2〕

2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパンの合成
温度計、撹拌器、蒸留装置を備えた200mL容量の四つ口フラスコに、2,2−ビス[4,4−ジ(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル]プロパン20gとエチレングリコール50gと水酸化ナトリウム0.6gを仕込み、系内を窒素ガス置換した後、撹拌下に内温189℃、30kPaを保ち、フェノールを留出させながら5時間反応を行った。反応終了後、得られた反応液を90℃まで冷却した後、酢酸0.9gを加えて中和し、メチルイソブチルケトン80g、蒸留水40gを順に加えて撹拌した後、静置して水層を分離、除去した。得られた油層に水を加えて撹拌した後、静置して水層を除去した。
さらに、同様の操作を行い、油層を水洗した。得られた油層を減圧下に濃縮し、残った液にトルエン40gを加え、晶析を行った。析出した結晶をろ別して回収し、得られた結晶を減圧下、150℃で乾燥させ、目的物の2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン8.6gを純度97%(高速液体クロマトグラフィー分析による)の薄茶色結晶として得た。
原料の2,2−ビス[4,4−ジ(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキシル]プロパンに対する収率は64モル%であった。
融点:243.5℃(示差走査熱量測定(DSC))
分子量:387(M−H)
H−NMR(400MHz、溶媒:DMSO−d6)測定
【表2】

【0039】
〔実施例2〕
2,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパンの合成

撹拌装置を備えた100mLの四つ口フラスコに参考例2で得られた2,2−ビス[4−(4−ヒドロキシフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン(以下4H−PHBPAと称呼する。)3.9gとテトラブチルアンモニウムブロミド0.6g、エピクロロヒドリン27.8gを仕込み、系内を窒素ガスで置換した後、50℃で9時間撹拌した。その反応液に水酸化ナトリウム1.2gを加えた後、50℃に保持したまま更に3時間撹拌した。
その後、過剰量存在するエピクロロヒドリンを減圧濃縮で回収し、そこにメチルイソブチルケトン78.0gと蒸留水2.0gを加えて70℃に昇温し、1時間撹拌して反応を完結させた。蒸留水を加えて水層のpHが7付近になるまで水洗を繰り返して行い、得られた油層を蒸留により濃縮した後、析出した結晶をろ別した。得られた結晶を50℃で減圧乾燥して、純度94.8%(高速液体クロマトグラフィー分析による)の白色粉末状の2,2−ビス[4−(4−グリシジルオキシフェニル)−3−シクロヘキセン−1−イル]プロパン3.5gを得た。原料の4H−PHBPAに対する収率は69.9モル%であった。
融点:178℃(示差走査熱量測定法による)
H−NMR(400MHz、CDCl)測定
0.85(t,6H),1.32−1.37(m,2H),1.68−1.71(m,2H),1.95−2.05(m,4H),2.16−2.24(m,2H),2.40−2.52(m,4H),2.75(dd,2H),2.89(t,2H),3.32−3.36(m,2H),3.96(dd,2H),4.20(dd,2H),6.05(s,2H),6.86(d,4H),7.32(d,4H)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)

(式中、R、Rは各々独立して、炭素原子数1〜8のアルキル基、炭素原子数1〜8のアルコキシ基、フェニル基又はハロゲン原子を表し、a、bは各々独立して0又は1〜4の整数を表し、R、R、a及びbはそれぞれ同一でも異なっていても良く、Aは炭素原子数1〜20のアルキレン基を表し、Rは水素原子又は炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、それぞれ同一でも異なっていても良い。)
で表されるエポキシ化合物。
【請求項2】
前記一般式(1)で示されるエポキシ化合物が、一般式(2)

(式中、R、R、R、a、bは一般式(1)のそれと同じであり、R、Rは各々独立して、水素原子、又は炭素原子数1〜8のアルキル基を表し、R、Rは互いに結合して環を形成してもよい。)
で示される請求項1に記載のエポキシ化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)又は一般式(2)において、Rがすべて水素原子である請求項1又は2に記載のエポキシ化合物。

【公開番号】特開2011−46623(P2011−46623A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194465(P2009−194465)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【出願人】(000243272)本州化学工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】