説明

新規なカロテノイドヒドロキシラーゼ遺伝子及び水酸化されたカロテノイドの製造法及び新規なゲラニルゲラニルピロリン酸シンターゼ遺伝子

【課題】 β-イオノン環の3(3')位の炭素に水酸基が導入されたカロテノイドを大量に製造する手段を提供する。
【解決手段】 海洋細菌ブレバンディモナス属SD-212株から得られ、β-イオノン環の3位(3’位)の炭素に水酸基を導入する酵素をコードする新規な遺伝子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-イオノン環を有するカロテノイドの2位(2’位)の炭素に水酸基を導入する新規な酵素、それをコードする遺伝子、この遺伝子を導入した微生物に関するものである。また、この遺伝子が導入された微生物を利用した、β-イオノン環の2位の炭素が水酸化されたカロテノイドの製造法に関するものである。
【0002】
本発明はまた、β-イオノン環を有するカロテノイドの3位(3’位)の炭素に水酸基を導入する新規な酵素をコードする遺伝子、この遺伝子を導入した微生物に関するものである。また、この遺伝子が導入された微生物を利用した、β-イオノン環の3位の炭素が水酸化されたカロテノイドの製造法に関するものである。
【0003】
本発明はまた、新規なゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)シンターゼをコードする遺伝子に関するものである。
【背景技術】
【0004】
カロテノイド(carotenoid、カロチノイドとも呼ばれる)は、炭素鎖が40のイソプレン骨格からなる自然界に豊富に存在する色素の総称である。現在までに700種以上のカロテノイドが単離されている(Britton, G., Liaaen-Jensen, S., and Pfander, H., Carotenoids Handbook, Birkhauser Verlag, Basel, 2004)。最近ではカロテノイドの持つ種々の癌(がん)等の慢性病に対する予防効果が注目されており、数多くの報告がなされている(たとえば、西野輔翼, 村越倫明, 矢野昌充, Food Style 21, 4, 53-55, 2000; Nishino, H. et al, Carotenoids in cancer chemoprevention. Cancer Metastasis Rev. 21, 257-264, 2002; Mayne, S.T., β-Carotene, carotenoids, and disease prevention in humans. FASEB J., 10, 690-701, 1996参照)。
【0005】
カロテノイドは多様な種類からなるにもかかわらず、現在までに癌の予防試験(ヒト疫学・臨床試験、動物投与試験等)に使われてきたカロテノイドの種類はごく限られたものであった。それらのカロテノイドは、β-カロテン(β-carotene、β-カロチンとも呼ばれる:化学合成品)、リコペン(lycopene、リコピンとも呼ばれる:トマトから抽出)、α-カロテン(α-carotene、α-カロチンとも呼ばれる:パーム油から抽出)、ルテイン(lutein:マリーゴールドから抽出)、アスタキサンチン(astaxanthin:オキアミ、Haematococcus属藻類から抽出、または化学合成品)、フコキサンチン(fucoxanthin:食用海藻から抽出)、β-クリプトキサンチン(β-cryptoxanthin:温州ミカンより抽出)等である。これらの色素を用いた癌予防試験の結果、カロテノイドの癌予防効果は、カロテノイドの種類によって異なることが明らかとなってきた。一例として、国立がんセンター研究所の高須賀伸夫らが行ったマウスを用いた実験結果(1996年カロテノイド研究談話会報告)を示したい。肺癌(ddyマウス肺二段階発癌モデル)の発生率は、カロテノイドを投与しないコントロールマウスを100%とすると、リコペンまたはα-カロテン投与マウスが40%、ルテインまたはアスタキサンチン投与マウスが70%、β-カロテン投与マウスが139%の癌発生率であった。肝臓癌(マウス自然肝臓癌発癌モデル)の発生率は、同じくカロテノイドを投与しないコントロールマウスを100%とすると、アスタキサンチンまたはフコキサンチン投与マウスが30%、α-カロテンまたはルテイン投与マウスが50%、β-カロテン投与マウスが70%、リコペン投与マウスが100%の癌発生率であった。皮膚癌(マウス皮膚癌発癌モデル)の発生率は、同じくカロテノイドを投与しないコントロールマウスを100%とすると、フコキサンチンまたはリコペン投与マウスが10%、アスタキサンチン投与マウスが100%の癌発生率であった。これら3つの発癌モデルの結果を比較すると、肺癌や皮膚癌の抑制で効果が高かったリコペンの効果が肝臓癌の抑制には効果が無いこと、肝臓癌の抑制で効果が高かったアスタキサンチンの効果が皮膚癌の抑制には効果が無いこと等がわかる。さらに、疫学試験や臨床試験の結果、前立腺癌を予防するカロテノイドとして、食事で摂取するカロテノイドの中で、リコペンのみが確認できたという結果が報告されている(Giovannucci, E., Ascherio, A., Rimm, E. B., Stampfer, M. J., Colditz, G. A., Willet, W. C., Intake of carotenids and retinol in relation to risk of prostate cancer. J. National Cancer Institute 87, 1767-1776, 1995; Vogt, T.M. et al, Serum lycopene, other serum carotenoids, and risk of prostate cancer in US Blacks and Whites. Am. J. Epidemiol. 155, 1023-1032, 2002参照)。また最近、β-クリプトキサンチンの肺癌予防効果が高いことが明らかにされつつある(Yuan, J.M., Stram, D.O., Arakawa, K., Lee, H.P. and Yu M.C., Dietary cryptoxanthin and reduced risk of lung cancer: the Singapore Chinese Health Study. Cancer Epidemiol. Biomarkers Prev. 12, 890-898, 2003; Mannisto, S. et al, Dietary carotenoids and risk of lung cancer in a pooled analysis of seven cohort studies. Cancer Epidemiol. Biomarkers Prev. 13, 40-48, 2004参照)。さらに癌の予防効果以外にも、循環器系の慢性病、白内障や他の眼の慢性病、骨粗鬆症等の慢性病の予防に効果がある可能性が高いことが報告されている。たとえば、眼の慢性病(黄斑変性症(age-related macular degeneration)や白内障など)に効果が期待できるカロテノイドは、食事で摂取するカロテノイドの中で、ルテインとゼアキサンチンのみという結果が報告されている(Semba, R.D. and Dagnelie, G., Are lutein and zeaxanthin conditionally essential nutrients for eye health? Med. Hypotheses 61, 465-472, 2003; Mazaffarieh, M., Sacu, S. and Wedrich, A., The role of the carotenoids, lutein and zeaxanthin, in protecting against age-related macular degeneration: A review based on controversial evidence. Nutr. J., 2, 20, 2003参照)。
【0006】
以上の結果は、700種類以上あるカロテノイドの中で、実際に動物個体を用いたレベル以上の研究で、癌等の慢性病の予防効果が検討されているものは、高々10種類に満たないということ、それにもかかわらず、カロテノイドの癌等の慢性病に対する予防効果にはカロテノイドの個性が認められるということを示している。実際に検討されてきたカロテノイドの種類が少ないことの最大の原因は、多量に抽出、精製、または化学合成できるカロテノイドの種類が上記のものに限られているということであると考えられる。
【0007】
上記の問題を解決するための有力な手段として、カロテノイド生合成遺伝子を組み込んだ酵母や大腸菌等で目的とするカロテノイドを多量生産する方法が考えられる。たとえば、キリンビールの島田らは、本来カロテノイドを生合成できない食用酵母キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)に、カロテノイド生合成遺伝子群を導入・発現させて、リコペンを7.8 mg/g(乾重量)合成させるのに成功した(Shimada, H., Kondo, K., Fraser, P. D., Miura, Y., Saito, T., and Misawa, N., Increased carotenoid production by the foood yeast Candida utilis through metabolic engineering of the isoprenoid pathway. Appl. Environ. Microbiol., 64, 2676-2680, 1998)。この遺伝子組換え法によれば、種々の生合成遺伝子の組み合わせにより、これまで自然界に存在が認められていなかったか、ごく微量しか存在していなかったようなカロテノイドをも多量生産することが可能となる。たとえば、日本医科大学の高市らは、これまでナマズに微量存在しているという報告しかなかったパラシロキサンチン(parasiloxanthin)を組換え大腸菌で主要カロテノイド産物として生産した(Takaichi, S., Sandmann, G., Schnurr, G., Satomi, Y., Suzuki, A., and Misawa, N. The carotenoid 7,8-dihydro-Ψ end group can be cyclized by the lycopene cyclases from the bacterium Erwinia uredovora and the higher plant Capsicum annuum. Eur. J. Biochem., 241, 291-296, 1996)。また、今まで自然界に報告が無かった“非天然型”のカロテノイドであるアスタキサンチン-β-ジグルコシド(astaxanthin-β-diglucoside)を組換え大腸菌で合成させたという報告もある(Yokoyama, A., Shizuri, Y.,and Misawa, N., Production of new carotenoids, astaxanthin glucosides, by Escherichia coli transformants carrying carotenoid biosynthetic genes. Tetrahed. Lett., 39, 3709-3712, 1998)。
【0008】
各種のカロテノイド生産用組換え微生物の作製に最も広く利用されてきたカロテノイド生合成遺伝子は、エルウィニア(Erwinia)属細菌[エルウィニア・ウレドボラ(Erwinia uredovora)等;最近、本細菌はパントエア・アナナチス(Pantoea ananatis)と呼ばれている]由来のものである。エルウィニア属細菌から取得された遺伝子は、crtEcrtBcrtIcrtYcrtZcrtX の6遺伝子であり、これらの遺伝子がコードする生合成酵素(CrtE、CrtB、CrtI、CrtY、CrtZ、CrtX)の機能は図1に示されている(非特許文献1参照)。アスタキサンチンを生合成させたい場合は、さらに、海洋細菌であるパラコッカス(Paracoccus)属細菌[Paracoccus sp. MBIC 01143(Agrobacterium aurantiacum)等]由来のcrtW 遺伝子が必要である(図1)。パラコッカス属細菌からは、crtBcrtIcrtYcrtZcrtW の5遺伝子が単離されている(非特許文献1参照)。crtBcrtIcrtYcrtZ遺伝子の機能は両細菌で共通である。エルウィニア属細菌またはパラコッカス属細菌のcrtEcrtBcrtIcrtY遺伝子を導入・発現させた大腸菌はβ-カロテンを合成するが、これにさらに海洋細菌由来のcrtW遺伝子と、エルウィニア属細菌またはパラコッカス属細菌由来のcrtZ遺伝子を導入・発現させると、その組換え大腸菌はアスタキサンチンを合成するようになる。さらに、このアスタキサンチンを合成する大腸菌にエルウィニア属細菌のcrtX遺伝子を導入・発現させると、その組換え大腸菌は“非天然型”のアスタキサンチン-β-ジグルコシドを合成するようになる(図1)。
【0009】
以上述べてきたように、自然界に微量しか存在しない“レア”カロテノイドや存在が確認されていなかった“非天然型”のカロテノイドを大腸菌等の微生物に多量生産させるために、カロテノイド生合成遺伝子を利用することが可能であることが示されつつある。一方、現在までにクローニングされ機能解析された、この目的のために使用できるカロテノイド生合成遺伝子の種類は25種類と限られている。それらの遺伝子は、crtM(デヒドロスクアレンシンターゼ)、crtE (gps, al-3)(ゲラニルゲラニルピロリン酸シンターゼ)、 crtB (psy, al-2)(フィトエンシンターゼ)、 crtN(デヒドロスクアレンデサチュラーゼ)、crtP (pds1)(フィトエンデサチュラーゼ:2つの二重結合付加)、 crtQ (zds)(ζ-カロテンデサチュラーゼ:2つの二重結合付加反応)、crtIRhodobacter属細菌由来のもの)(フィトエンデサチュラーゼ:3つの二重結合付加反応とcis-trans異性化反応)、crtI(フィトエンデサチュラーゼ:4つの二重結合付加反応とcis-trans異性化反応)、al-1(フィトエンデサチュラーゼ:5つの二重結合付加反応とcis-trans異性化反応)、crtY (crtL-β)(リコペン β-シクラーゼ)、crtL-ε(リコペン ε-シクラーゼ)、crtYm(リコペン β-モノシクラーゼ)、crtU(β-カロテンデサチュラーゼ)、crtZ(β-カロテンヒドロキシラーゼ;β-C3-ヒドロキシラーゼ)、crtW (bkt)(β-カロテンケトラーゼ;β-C4-オキシゲナーゼ)、crtO (Synechocystis sp. PCC6803由来のもの)(β-カロテンモノケトラーゼ)、crtX(ゼアキサンチングルコシルトランスフェラーゼ)、crtC(ヒドロキシノイロスポレンシンターゼ)、crtD(メトキシノイロスポレンデサチュラーゼ)、crtF(ヒドロキシノイロスポレン o-メチルトランスフェラーゼ)、crtA(スフェロイデンモノオキシゲナーゼ)、crtEb(リコペンエロンガーゼ)、crtYe/Yf(デカプレノキサンチンシンターゼ)、zep1(ゼアキサンチンエポキシダーゼ)、及び、ccs(カプサンチン/カプソルビンシンターゼ)である(Lee, P.C. and Schmidt-Dannert, C., Metabolic engineering towards biotechnological production of carotenoids in microorganisms. Appl. Microbiol. Biotechnol. 60, 1-11, 2002; Teramoto, M., Takaichi, S., Inomata, Y., Ikenaga, H. and Misawa, N. Structural and functional analysis of a lycopene β-monocyclase gene isolated from a unique marine bacterium that produces myxol. FEBS Lett. 545, 120-126, 2003参照)。多様なカロテノイドを大腸菌等の微生物に生産させるためには、新規のカロテノイド生合成遺伝子を単離する必要がある。しかしながら、新規のカロテノイド生合成遺伝子のクローニングは遅々として進まないのが現状であった。たとえば、自然界に最も豊富に存在するカロテノイドはβ-イオノン環(β環)を有するカロテノイド(図1では、β-カロテン、ゼアキサンチン、カンタキサンチン、アスタキサンチン等)であるが、β-イオノン環を水酸化または酸素添加する酵素遺伝子は、β-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ(β-C3-hydroxylase)(CrtZ)とβ-イオノン環-4-ケトラーゼ(β-C4-ketolase;β-C4-oxygenase)(CrtW)をコードする遺伝子しか得られていない。これらの酵素遺伝子は、crtZが1990年に、crtWが1995年に早々と取得され 機能解析されている。β-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ遺伝子は、ノストキサンチン(nostoxanthin)等の、β-イオノン環における2位の炭素が水酸化されたカロテノイドの合成に必要であると考えられるが、そのようなカロテノイドの産生微生物はいくつか存在するにもかかわらず(非特許文献2参照)、酵素や遺伝子に関する知見は全く無いのが現状であった。新規のカロテノイド生合成遺伝子のクローニングが難しい理由は、大腸菌における発現クローニング法や既存のカロテノイド遺伝子との相同性(ホモロジー;homology)を利用したクローニング法により得られるカロテノイド生合成遺伝子はすでに取得されてしまっており、残りの遺伝子は、これらのクローニング法によっては得られないものばかりであるからと考えられる。
【0010】
炭素と水素からのみなるカロテノイドはカロテンと、それに水酸基やケト基などの酸素を含む官能基が導入されたカロテノイドはキサントフィルと呼ばれる。カロテンとキサントフィルとは物性が大きく異なっており、生体内における生理活性もかなり異なっている。たとえば、β-カロテンの3位の炭素に水酸基が1つ導入されたカロテノイドはβ-クリプトキサンチンであるが、これらを摂取した時の生体内の取り込み率は、後者の方が10倍高いことが知られている。また、β-クリプトキサンチンは最近、日本で特に注目を集めているカロテノイドであり、前述の肺癌予防効果以外にも、大腸癌、子宮頸部癌、食道癌、前立腺癌、リウマチ、骨粗鬆症の予防に効果があるというデータが得られつつある(矢野 昌充、2003年カロテノイド研究談話会報告、及び、前述のYuan, J.M., Stram, D.O., Arakawa, K., Lee, H.P. and Yu M.C., Cancer Epidemiol. Biomarkers Prev. 12, 890-898, 2003及びMannisto, S. et al, Cancer Epidemiol. Biomarkers Prev. 13, 40-48, 2004)。そのような効果はβ-カロテンでは認められていない。また、β-カロテンの3(3’)位の両方の炭素に水酸基が2つ導入されたカロテノイドはゼアキサンチン(図1参照)であるが、一部前述したように、ゼアキサンチンの生理活性はβ-クリプトキサンチンとは異なることも知られている。また、ゼアキサンチンの4(4’)位の両方のメチレン基が2つともケト基に変換されたカロテノイドはアスタキサンチン(図1参照)であるが、アスタキサンチンの癌予防における生理活性もβ-カロテンと大きく異なることは一部前述したとおりであり、β-クリプトキサンチンやゼアキサンチンとも異なっている。一方、ゼアキサンチンの2(2’)位の両方の炭素に水酸基がさらに2つ導入されたカロテノイドはノストキサンチンである。一般的に、ノストキサンチンのように、β-イオノン環の2(2’)位の炭素に水酸基が導入されたカロテノイドは、自然界に微量しか存在しなく、多量生産することが不可能であり、したがって、種々の癌等の慢性病予防試験の実施もできなかった。また、β-イオノン環の3(3’)位の炭素に水酸基を導入する酵素はCrtZであるが、1990年に初めて論文発表されたエルウィニア・ウレドボラのCrtZ(Misawa, N., Nakagawa, M., Kobayashi, K., Yamano, S., Izawa, Y., Nakamura, K., and Harashima, K., J. Bacteriol. 172, 6704-6712, 1990)と、49%以下の同一性(identity)を有するものは現在までに得られていないのが現状であった。現在までに機能が同一であることが確認されているCrtZの中で、最もエルウィニア・ウレドボラのCrtZとホモロジーが高いものは、パラコッカス・ゼアキサンチニファシエンス(Paracoccus zeaxanthinifaciens;旧名はFlavobacterium sp. R1534)由来のCrtZ(Pasamontes, L., Hug, D., Tessier, M., Hohmann, H. P., Schierle, J., and van Loon, A. P., Gene 185, 35-41, 1997)であり、50%の同一性であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Misawa, N., Satomi, Y., Kondo, K., Yokoyama, A., Kajiwara, S., Saito, T., Ohtani, T., and Miki, W., Structure and functional analysis of a marine bacterial carotenoid biosynthesis gene cluster and astaxanthin biosynthetic pathway proposed at the gene level. J. Bacteriol., 177, 6575-6584, 1995)
【非特許文献2】Yokoyama, A., Miki, W., Izumida, H., and Shizuri, Y., New trihydroxy-keto-carotenoids isolated from an astaxanthin-producing marine bacterium. Biosci. Biotech. Bioche., 60, 200-203, 1996)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、β-イオノン環の2位を水酸化する酵素(β-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ)をコードする遺伝子を取得することである。そして更に、この遺伝子を導入・発現させた組換え微生物を利用した、β-イオノン環の2位が水酸化されたカロテノイド(2-ヒドロキシアスタキサンチンやノストキサンチン等)の製造法を提供することである。
【0013】
本発明の課題はまた、既存のものとは相同性(ホモロジー)が低い、β-イオノン環の3位を水酸化する酵素(β-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ)等のカロテノイド生合成関連酵素をコードする遺伝子を取得することである。そして更に、β-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ遺伝子を導入・発現させた組換え微生物を利用した、β-イオノン環の3位が水酸化されたカロテノイド(アスタキサンチンやゼアキサンチン等)の製造法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、海洋細菌ブレバンディモナス属(Brevundimonas sp.)SD-212株(MBIC 03018)が、2-ヒドロキシアスタキサンチンや2-ヒドロキシアドニキサンチン等の、β-イオノン環における2位が水酸化されたカロテノイドを作ることができることに着目した。鋭意研究を重ねた結果、本海洋細菌より、β-イオノン環の2位を水酸化する酵素(β-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ)をコードする遺伝子を世界で初めて取得することに成功した。さらに、上記酵素をコードするカロテノイド生合成遺伝子群の中に、既存のものとは相同性がきわめて低い、β-イオノン環の3位を水酸化する酵素(β-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ)、及びゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)シンターゼをコードする遺伝子を発見し、それらの酵素の触媒機能を確認することができた。
【0015】
まず、ブレバンディモナス属SD-212株の染色体DNAを用いて、大腸菌におけるコスミドライブラリーを作製した。カロテノイドを産生するエルウィニア (Erwinia)属細菌[エルウィニア・ウレドボラ(Erwinia uredovora)等]の染色体DNAを用いて、大腸菌におけるコスミドライブラリーを作製する場合は、この段階で、プレート上で黄色のコロニー(カロテノイド産生大腸菌)が得られるので、簡単にカロテノイド生合成遺伝子群を取得することができる。しかしながら、ブレバンディモナス属SD-212株のコスミドライブラリーからは、色の変化した大腸菌は全く得られなかった。そこで次に、エルウィニア・ウレドボラ由来のcrtEcrtBcrtIcrtYcrtZ遺伝子(図1参照)が導入されてゼアキサンチンを作る大腸菌(黄色コロニー)を宿主として用いて、この組換え大腸菌においてブレバンディモナス属SD-212株のコスミドライブラリーを作製した。このコスミドライブラリーにおいて外見上、色が変化したものは得られなかったので、700株培養し、HPLC-PDA(フォトダイオードアレィ検出器)を用いて、コントロールのゼアキサンチンに加えて、新たなカロテノイドが生成していないかどうかの検討を行った。その結果、新たなカロテノイドを合成するものは全く得られなかった。したがって、ブレバンディモナス属SD-212株のカロテノイド生合成遺伝子の発現クローニングは不可能であると結論した。
【0016】
次に、フィトエンデサチュラーゼ(crtI)遺伝子がカロテノイド産生細菌間で2つの保存領域を有していることを見出し、PCR用プライマーを設計した。このプライマーを用いて、ブレバンディモナス属SD-212株の染色体DNAを鋳型としたPCRを行ったところ、1.1 kbのDNA断片が増幅された。この配列の塩基配列を決定したところ、crtIの部分配列であることがわかった。このcrtI部分配列断片をプローブとして、SD-212株のコスミドライブラリーを用いたコロニーハイブリダィゼーション(colony hybridization)法を行ったところ、数個の陽性コロニーが得られた。陽性コロニーからプラスミドDNAを調製し、サザンハイブリダィゼーション(Southern hybridization)法を行い、陽性の12 kbのEcoRIのDNA断片を得た。この12 kbのEcoRI断片の塩基配列を決定したところ、幸運なことに、この断片内にカロテノイド生合成遺伝子群[既存のcrt遺伝子(6個)又はidi遺伝子(1つ)とホモロジーがあるORF(オープンリーディングフレーム、open reading frame)が7つ]が存在することが明らかとなった。また、この12 kbのEcoRI断片内には、未知のORFが5つ存在していた。これら12個のORFすべてを、大腸菌ベクタ-pUC18におけるlac遺伝子のプロモータの利用とLacZのリーダ配列を利用した融合タンパク質法により大腸菌で強制発現させるためのコンストラクトを作製した。そして、エルウィニア属細菌またはパラコッカス属細菌のcrt遺伝子の利用により各種カロテノイドを産生する大腸菌を宿主として、これらの12個のORFの機能解析を行った。その結果、既存のカロテノイド生合成(crt)遺伝子とホモロジーがあった6個のORFは、相同性のあった既存の生合成遺伝子と同様の機能を有するカロテノイド生合成(crt)遺伝子であることがわかった。しかしながら驚くべきことに、これらのカロテノイド生合成遺伝子のうちの1つであるcrtZ遺伝子は、既存のCrtZ酵素のどれとも、アミノ酸配列レベルで46%以下の同一性しか有さないβ-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼをコードする遺伝子であることを見出した。さらに、これらのうちの1つであるcrtE遺伝子は、既存のCrtE酵素のどれとも、アミノ酸配列レベルで39%以下の同一性しか有さないゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)シンターゼをコードする遺伝子であることを見出した。そしてさらに、未知のORFのうちの1つ(ORF11)がβ-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼをコードする遺伝子であることをついに突き止め、本発明を完成するに至ったのである。
【0017】
本発明は以上のような知見を基に完成されたものである。
【0018】
即ち、本発明は、以下の(1)〜(17)を提供するものである。
【0019】
(1)以下の(a)、(b)、(c)、又は(d)に示すペプチド:
(a)配列番号4記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(b)配列番号4記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつβ-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチド、
(c)配列番号4記載のアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチド、
(d)配列番号3記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、β-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチド。
【0020】
(2)以下の(a)、(b)、(c)、又は(d)に示すペプチドをコードする遺伝子:
(a)配列番号4記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(b)配列番号4記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつβ-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチド、
(c)配列番号4記載のアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチド、
(d)配列番号3記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、β-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチド。
【0021】
(3)(2)に記載の遺伝子を導入して得られる微生物であって、β-イオノン環の2位の炭素に水酸基を導入できる微生物。
(4)(2)に記載の遺伝子を、他のカロテノイド生合成遺伝子とともに導入して得られる微生物であって、β-イオノン環の2位の炭素に水酸基を導入できる微生物。
(5)他のカロテノイド生合成遺伝子が、ファルネシルピロリン酸からβ-イオノン環を有するカロテノイドを合成するのに必要とされる遺伝子群の全部又は一部であることを特徴とする(4)に記載の微生物。
(6)微生物が大腸菌であることを特徴とする(3)乃至(5)に記載の微生物。
(7)(3)乃至(6)に記載の微生物を、培地で培養して培養物又は菌体からβ-イオノン環の2位の炭素が水酸化されたカロテノイドを得ることを特徴とする、水酸化されたカロテノイドの製造法。
(8)β-イオノン環の2位の炭素が水酸化されたカロテノイドが、β,β-カロテン-2-オール(2-ヒドロキシ-β-カロテン)、β,β-カロテン-2,2’-ジオール(2,2’-ジヒドロキシ-β-カロテン)、カロキサンチン(2-ヒドロキシゼアキサンチン)、ノストキサンチン(2,2’-ジヒドロキシゼアキサンチン)、2-ヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2-ヒドロキシカンタキサンチン)、2,2’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2,2’-ジヒドロキシカンタキサンチン)、2-ヒドロキシアスタキサンチン、2,3,2’,3’-テトラヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2,2’-ジヒドロキシアスタキサンチン)であることを特徴とする(7)に記載の水酸化されたカロテノイドの製造法。
(9)下記の化学構造式(I)で示される新規化合物2,2’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2,2’-ジヒドロキシカンタキサンチン)。
【0022】
【化1】

(10)2,2’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2,2’-ジヒドロキシカンタキサンチン)又は2-ヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2-ヒドロキシカンタキサンチン)を有効成分として含有する抗酸化剤。
(11)以下の(e)、(f)、又は(g)に示すペプチドをコードする遺伝子:
(e)配列番号30記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(f)配列番号30記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつβ-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチド、
(g)配列番号29記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、β-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチド。
(12)(11)に記載の遺伝子を導入して得られる微生物であって、β-イオノン環の3位の炭素に水酸基を導入できる微生物。
(13)(11)に記載の遺伝子を、他のカロテノイド生合成遺伝子とともに導入して得られる微生物であって、β-イオノン環の3位の炭素に水酸基を導入できる微生物。
(14)他のカロテノイド生合成遺伝子が、ファルネシルピロリン酸からβ-イオノン環を有するカロテノイドを合成するのに必要とされる遺伝子群の全部又は一部であることを特徴とする(13)に記載の微生物。
(15)微生物が大腸菌であることを特徴とする(12)乃至(14)に記載の微生物。
(16)(12)乃至(15)に記載の微生物を、培地で培養して培養物又は菌体からβ-イオノン環の3位の炭素が水酸化されたカロテノイドを得ることを特徴とする、水酸化されたカロテノイドの製造法。
(17)以下の(h)、(i)、又は(j)に示すペプチドをコードする遺伝子:
(h)配列番号32記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(i)配列番号32記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつゲラニルゲラニルピロリン酸シンターゼ活性を有するペプチド、
(j)配列番号31記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、ゲラニルゲラニルピロリン酸シンターゼ活性を有するペプチド。
【発明の効果】
【0023】
β-イオノン環の2(2')位の炭素に水酸基が導入されたカロテノイドは、自然界に微量しか存在しないものが多いが、なかには未だ発見されていないものもある。本発明により、このようなカロテノイドを大量に製造できるようになる。さらに本発明は、β-イオノン環の3(3')位の炭素に水酸基が導入されたカロテノイドを製造できる遺伝子や、カロテノイドの前駆体であるゲラニルゲラニルピロリン酸を合成する遺伝子を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】既存のカロテノイド生合成遺伝子(酵素)の機能と生合成経路を表す図。
【図2】ブレバンディモナス属SD-212株が生産するカロテノイドの種類とそれらのカロテノイドの推定合成経路を表す図。
【図3】crtI断片をプローブとして用いたサザンハイブリダイゼーション(EcoRI消化)の結果を表す図〔M:サイズマーカー(λ/Hind III-φX174/HaeIII digest)、5-1〜10-1:コスミドクローン、SCS:コスミドベクターSuperCos1、SD212:SD-212染色体DNA〕。
【図4】crtI断片をプローブとして用いたサザンハイブリダイゼーション(BamHI及びBamHI/EcoRI消化)の結果を表す図。〔M:サイズマーカー(λ/Hind III-φX174/HaeIII digest)、5-2〜9-1:コスミドクローン、SD212:SD-212染色体DNA、SCS:コスミドベクターSuperCos1のBamHI/EcoRI消化物〕
【図5】ブレバンディモナス属SD-212株のカロテノイド生合成遺伝子群(12kb-EcoRI断片)の構造を表す図。
【図6】pACCAR16ΔcrtX(β-カロテン生産用プラスミド)導入大腸菌を宿主として利用したHPLC-PDA分析結果を表す図。a)pACCAR16ΔcrtX導入大腸菌の産生色素のHPLCクロマトグラム(470 nm)。b) pUCBre-O11及びpACCAR16ΔcrtX導入大腸菌の産生色素のHPLCクロマトグラム(470 nm)。新規な色素のピークは矢印で示されている。c) b)にゼアキサンチンを添加したHPLCクロマトグラム(470 nm)。
【図7】pACCAR25ΔcrtX(ゼアキサンチン生産用プラスミド)導入大腸菌を宿主として利用したHPLC-PDA分析結果を表す図。a) pACCAR25ΔcrtX導入大腸菌の産生色素のHPLCクロマトグラム(470 nm)。b) pUCBre-O11及びpACCAR25ΔcrtX導入大腸菌の産生色素のHPLCクロマトグラム(470 nm)。新規な色素のピークは矢印で示されている。c) b)にゼアキサンチンを添加したHPLCクロマトグラム(470 nm)。1、2はそれぞれ、ノストキサンチン、カロキサンチンと同定された。
【図8】pAC-Cantha(カンタキサンチン生産用プラスミド)導入大腸菌を宿主として利用したHPLC-PDA分析結果を表す図。a) pAC-Cantha導入大腸菌の産生色素のHPLCクロマトグラム(470 nm)。b) pUCBre-O11及びpAC-Cantha導入大腸菌の産生色素のHPLCクロマトグラム(470 nm)。新規な色素のピークは矢印で示されている。c) b)にアスタキサンチンを添加したHPLCクロマトグラム(470 nm)。3、4はそれぞれ、2,2’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン、及び、2-ヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオンであると同定された。
【図9】pAC-Asta(アスタキサンチン生産用プラスミド)導入大腸菌を宿主として利用したHPLC-PDA分析結果を表す図。a) pAC-Asta導入大腸菌の産生色素のHPLCクロマトグラム(470 nm)。b) pUCBre-O11及びpAC-Asta導入大腸菌の産生色素のHPLCクロマトグラム(470 nm)新規な色素のピークは矢印で示されている。2は2,3,2’,3’-テトラヒドロキシ-β,β-カロテン-4-オンと同定された。c) b)にアスタキサンチンを添加したHPLCクロマトグラム(470 nm)。5は2-ヒドロキシアスタキサンチンと同定された。
【図10】組換え大腸菌が生産するカロテノイドの種類とそれらのカロテノイドの推定合成経路を表す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0026】
1.遺伝子源の海洋細菌ブレバンディモナス属SD-212 株(MBIC 03018)
目的とする遺伝子の供給源となった海洋細菌ブレバンディモナス属(Brevundimonas sp.)SD-212 株(SD212;MBIC 03018)は、火山列島の海水中より単離されたα-プロテオバクテリアである。GC含量は67.1(mol)%である。本海洋細菌が作るカロテノイドは、2-ヒドロキシアスタキサンチン(2-hydroxyastaxanthin)や2-ヒドロキシアドニキサンチン(2-hydroxyadonixanthin)等の2位(2’位)に水酸基が導入されたカロテノイドであることが(株)海洋バイオテクノロジー研究所の横山らにより報告されている(非特許文献2参照)。なお、本細菌は、MBIC 03018として(株)海洋バイオテクノロジー研究所より公開・分譲されている。また、本細菌の16S rDNA配列とgyrB遺伝子配列はそれぞれ、アクセッション番号AB016849、AB014993としてGenBank/DDBJに登録されている。
【0027】
2.海洋細菌ブレバンディモナス属SD-212 株におけるカロテノイド生合成経路の推定
海洋細菌ブレバンディモナス属(Brevundimonas sp.)SD-212 株(MBIC 03018)が生産する、2位(2’位)に水酸基が導入されたカロテノイドは、横山らによって詳しく分析されている(非特許文献2参照)。それらは、2,3,2’,3’-テトラヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2,3,2’,3’-tetrahydroxy-β,β-carotene-4,4’-dione)、2,3,2’,3’-テトラヒドロキシ-β,β-カロテン-4-オン(2,3,2’,3’-tetrahydroxy-β,β-caroten-4-one)、2-ヒドロキシアスタキサンチン(2-hydroxyastaxanthin;2,3, 3’-trihydroxy-β,β-carotene-4,4’-dione)、2-ヒドロキシアドニキサンチン(2-hydroxyadonixanthin;2,3, 3’-trihydroxy-β,β-caroten-4-one)、エリスロキサンチン(erythroxanthin; 3,2’,3’-trihydroxy-β,β-caroten-4-one)である(図2参照)。また、SD-212 株には、前駆体として、アスタキサンチンやアドニキサンチン(4-ケトゼアキサンチン)が存在することも確認されている。β-イオノン環の2位に水酸基を導入する新規な酵素(β-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ;CrtVと記載)の存在を想定すると、これ以外はすべて既存のCrt酵素との組合せにより、上記のすべてのカロテノイドの生合成経路を図2のように推定することができる。
【0028】
3.β-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼをコードする遺伝子(本発明の第一の遺伝子)
本発明には、以下の(a)、(b)、(c)、又は(d)に示すペプチドが含まれる。
(a)配列番号4記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(b)配列番号4記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつβ-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチド、
(c)配列番号4記載のアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチド、
(d)配列番号3記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、β-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチド。
【0029】
また、本発明には、以下の(a)、(b)、(c)、又は(d)に示すペプチドをコードする遺伝子も含まれる。
(a)配列番号4記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(b)配列番号4記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつβ-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチド、
(c)配列番号4記載のアミノ酸配列と50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチド、
(d)配列番号3記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、β-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチド。
【0030】
(a)のペプチドは、ブレバンディモナス属SD-212株から得られたβ-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ活性を有する257個のアミノ酸配列からなるペプチド(CrtVとも呼ぶ)である。
【0031】
(b)のペプチドは、(a)のペプチドに、β-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ活性を失わせない程度の変異が導入されたペプチドである。このような変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異をも含む。人為的変異を生じさせる手段としては、部位特異的変異誘発法(Nucleic Acids Res. 10, 6487-6500, 1982)などを挙げることができるが、これに限定されるわけではない。変異したアミノ酸の数は、β-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ活性を失わせない限り、その個数は制限されないが、通常は、30アミノ酸以内であり、好ましくは20アミノ酸以内であり、更に好ましくは10アミノ酸以内であり、最も好ましくは5アミノ酸以内である。
【0032】
(c)のペプチドは、(a)のペプチドと全領域間において50%以上の同一性(identity;同一のアミノ酸配列の比率)を有するアミノ酸配列からなり、かつβ-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ活性を有しているペプチドである。「50%以上の同一性」の根拠は以下の理由による。すなわち、「背景技術」の最後でも述べたように、14年前にエルウィニア・ウレドボラのβ-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ(CrtZ)をコードする遺伝子が初めて明らかにされて以来、種々のCrtZの構造が明らかにされたが、現在までに酵素の触媒機能が同一であることが確認されているCrtZの中で、最もこのCrtZとホモロジーが低いものは、パラコッカス・ゼアキサンチニファシエンス(Paracoccus zeaxanthinifaciens;旧名はFlavobacterium sp. R1534)由来のCrtZとの50%の同一性である。また、後述するように、ブレバンディモナス属SD-212株から得られたβ-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ活性を有する161個のアミノ酸配列からなるペプチド(CrtZ)は、DDBJやGenBank等のデータベースを検索しても、50%以上の同一性を有するものはなく、最も高いものでも、エルウィニア・ハービコラ[Erwinia herbicola;最近は、パントエア・アグロメランス(Pantoea agglomerans)と呼ばれている]由来のCrtZ(JJBJ/GenBank accession no. M87280)との46%の同一性であり、しかも両者の酵素の触媒機能は同じであることが本発明により明らかにされた。β-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ(CrtV)とβ-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ(CrtZ)は互いによく似た性質の酵素であるということを考え合わせると、(a)のペプチドと50%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、かつβ-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ活性(同一の触媒機能)を有している酵素が、β-イオノン環の2位が水酸化されたカロテノイドを産生する微生物から今後、見つかることは確実であると言ってよい。たとえば、β-イオノン環の2位が水酸化されたカロテノイドを産生する細菌[たとえば、エリスロバクター(Erthrobacter)属細菌PC6株(MBIC 02351)]のゲノム解析を行うことにより見つかるであろう。さらには、このようにして自然界から見つかった同酵素のアミノ酸配列を前述の方法により、変異させることも可能である。
【0033】
(d)のペプチドは、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる細菌由来のβ-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチドである。(c)のペプチドにおける「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件は、通常、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度であり、好ましくは「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度であり、更に好ましくは「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」程度である。ハイブリダイゼーションにより得られるDNAは、配列番号3記載の塩基配列により表されるDNAと通常高い相同性を有する。高い相同性とは、60%以上の相同性、好ましくは75%以上の相同性、更に好ましくは90%以上の相同性を指す。
【0034】
本発明の遺伝子は、例えば、以下のようにして得ることができる。まず、海洋細菌ブレバンディモナス属SD-212株のコスミドライブラリーを大腸菌において作製する。次に、実施例7に示したようなカロテノイド生合成遺伝子の相同配列を利用したコロニーハイブリダイゼーション法やPCRクローニング法により得ることができる。
【0035】
なお、本発明の遺伝子であるβ-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ(crtV)遺伝子を含むブレバンディモナス属SD-212株のカロテノイド生合成遺伝子群を含む12 kb EcoRI DNA断片が大腸菌ベクターpBluescript II KS-に挿入されたプラスミドp5Bre2-15を有する大腸菌は受託番号P-19580として独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託されている。
【0036】
4.β-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼをコードする遺伝子(本発明の第二の遺伝子)
本発明には、以下の(e)、(f)、又は(g)に示すペプチドをコードする遺伝子も含まれる。
(e)配列番号30記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(f)配列番号30記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつβ-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチド、
(g)配列番号29記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、β-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチド。
(e)のペプチドは、ブレバンディモナス属SD-212株から得られたβ-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ活性を有する161個のアミノ酸配列からなるペプチド(CrtZとも呼ぶ)である。
(f)のペプチドは、(e)のペプチドに、β-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ活性を失わせない程度の変異が導入されたペプチドである。このような変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異をも含む。人為的変異を生じさせる手段は前述したとおりである。
(g)のペプチドは、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる細菌由来のβ-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチドである。(g)のペプチドにおける「ストリンジェントな条件」は前述した通りである。
【0037】
5.ゲラニルゲルニルピロリン酸シンターゼをコードする遺伝子(本発明の第三の遺伝子)
本発明には、以下の(h)、(i)、又は(j)に示すペプチドをコードする遺伝子も含まれる。
(h)配列番号32記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(i)配列番号32記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつゲラニルゲラニルピロリン酸シンターゼ活性を有するペプチド、
(j)配列番号31記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、ゲラニルゲラニルピロリン酸シンターゼ活性を有するペプチド。
(h)のペプチドは、ブレバンディモナス属SD-212株から得られたゲラニルゲラニルピロリン酸活性を有する298個のアミノ酸配列からなるペプチド(CrtEとも呼ぶ)である。
(i)のペプチドは、(h)のペプチドに、ゲラニルゲラニルピロリン酸活性を失わせない程度の変異が導入されたペプチドである。このような変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異をも含む。人為的変異を生じさせる手段は前述したとおりである。
(j)のペプチドは、DNA同士のハイブリダイゼーションを利用することにより得られる細菌由来のゲラニルゲラニルピロリン酸活性を有するペプチドである。(j)のペプチドにおける「ストリンジェントな条件」は前述した通りである。
【0038】
6.βイオノン環の2位(2’位)または3位(3’位)の炭素に水酸基を導入できる微生物
本発明には、3に記載のβ-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ遺伝子を導入して得られる微生物であって、β-イオノン環の2位の炭素に水酸基を導入できる微生物も含まれる。
【0039】
本発明にはまた、4に記載のβ-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ遺伝子を導入して得られる微生物であって、β-イオノン環の3位の炭素に水酸基を導入できる微生物も含まれる。
【0040】
微生物には、本発明の遺伝子だけでなく、他のカロテノイド生合成遺伝子も導入する場合が多いが、微生物がもともと他のカロテノイド生合成遺伝子を含むものである場合には、他のカロテノイド生合成遺伝子を導入する必要はないか、或いは一部のみ導入すればよい。
【0041】
宿主とする微生物は、大腸菌を例示できるが、これ以外の微生物であってもよい。
【0042】
他のカロテノイド生合成遺伝子は、ファルネシルピロリン酸(FPP)からβ-イオノン環を有するカロテノイドを合成するのに必要とされる遺伝子群の全部または一部を含む。このような遺伝子群の具体例としては、FPPからゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)を合成する酵素遺伝子crtE、2分子のGGPPからフィトエン(phytoene)を合成する遺伝子crtB、フィトエンからリコペン(lycopene)を合成する遺伝子crtI、リコペンからβ-カロテン(β-carotene)を合成する遺伝子crtY(通常、エルウィニア属細菌由来のもの)、β-イオノン環-4-ケトラーゼをコードする遺伝子crtW(通常、パラコッカス属細菌由来のもの)等を例示できる。
【0043】
これらの遺伝子群のすべて又は一部を適当な発現ベクターに導入し、発現させたい微生物に導入すれば、その組換え微生物はβ-イオノン環を有するカロテノイドを作るようになる(基質のFPPはすべての微生物が作ることができる。GGPPも微生物によっては合成量が少ないものもあるが、すべての微生物が作ることができる)。そのβ-イオノン環を有するカロテノイド産生微生物に、本発明の第一の遺伝子(β-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼをコードする遺伝子、crtV)をさらに導入・発現させれば、その微生物は2位(2’位)に水酸基が導入されたカロテノイドを作るようになる。また、β-イオノン環を有するカロテノイド産生微生物に、本発明の第二の遺伝子(β-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼをコードする遺伝子、crtZ)をさらに導入・発現させれば、その微生物は3位(3’位)に水酸基が導入されたカロテノイドを作るようになる。
【0044】
大腸菌や酵母等の種々の微生物のベクターの情報や外来遺伝子の導入・発現法は、多くの実験書に記載されているので(たとえば、Sambrook, J., Russel,D. W., Molecular Cloning A Laboratory Manual, 3rd Edition, CSHL Press, 2001)、それらに従ってベクターの選択、遺伝子の導入、発現を行うことができる。
【0045】
7.2位(2’位)または3位(3’位)に水酸基が導入されたカロテノイドの製造法
本発明には、上記に記載の微生物を、培地で培養して培養物又は菌体からβ-イオノン環の2位または3位の炭素が水酸化されたカロテノイドを得ることを特徴とする、水酸化されたカロテノイドの製造法も含まれる。
【0046】
β-イオノン環の2位の炭素が水酸化されたカロテノイドとしては、β,β-カロテン-2-オール(2-ヒドロキシ-β-カロテン)、β,β-カロテン-2,2’-ジオール(2,2’-ジヒドロキシ-β-カロテン)、カロキサンチン(2-ヒドロキシゼアキサンチン)、ノストキサンチン(2,2’-ジヒドロキシゼアキサンチン)、2-ヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2-ヒドロキシカンタキサンチン)、2,2’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2,2’-ジヒドロキシカンタキサンチン)、2-ヒドロキシアスタキサンチン、2,3,2’,3’-テトラヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2,2’-ジヒドロキシアスタキサンチン)などを例示できるが、これらに限定されるわけではない。上記の中で、2-ヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2-ヒドロキシカンタキサンチン)及び2,2’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2,2’-ジヒドロキシカンタキサンチン)(特に後者)は、脂質の過酸化に対して強い抑制効果を持つことがin vitro実験の結果、示された。
【0047】
β-イオノン環の3位の炭素が水酸化されたカロテノイドとしては、β-クリプトキサンチン、ゼアキサンチン、カロキサンチン(2-ヒドロキシゼアキサンチン)、ノストキサンチン(2,2’-ジヒドロキシゼアキサンチン)、2-ヒドロキシアスタキサンチン、2,3,2’,3’-テトラヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2,2’-ジヒドロキシアスタキサンチン)などを例示できるが、これらに限定されるわけではない。
【0048】
8.抗酸化剤
2-ヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン及び2,2’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオンは、上述のように脂質の過酸化に対して強い抑制効果を持つので、脂質の抗過酸化剤、更には、脂質に限定されない物質一般に対する抗酸化剤として利用できる。
【0049】
本発明の抗酸化剤は、有効成分となる前記2種のカロテノイドを単に水で希釈することによっても調製できるが、乳液状製剤として調製することが好ましい。乳液状製剤の調製は、水溶性成分と油溶性成分とを常法により混合乳化すればよい。ここで用いる水溶性成分としては、没食子酸、アスコルビン酸、ガム質、ビタミンP(フラボノイド類)等を挙げることができ、油溶成分としては、グリセリン脂肪酸エステルや菜種油、大豆油、コーン油等の油脂等を挙げることができる。抗酸化剤中に含まれる前記2種のカロテノイドの含量は、添加対象とする商品に応じて任意に設定することができるが、0.05〜5%とするのが好ましい。
【0050】
本発明の抗酸化剤は、その安全性や酸化抑制能力により主に食品、化粧品、及び医薬品における抗酸化成分として有用である。前記2種のカロテノイドの抗酸化剤としての使用量は、添加する対象商品により異なるが、例えば、食品、化粧品に対してはそれぞれ0.1g/食品kg、0.05g/化粧品kg程度である。
【0051】
本発明の抗酸化剤は、対象商品に単独で使用する場合でも十分な効果を得られるが、従来の天然抗酸化剤、例えば、トコフェールを有効成分とする抗酸化剤等と併用することも可能である。
【0052】
本明細書の配列表の配列番号は、以下の配列を表す。
配列番号1:ブレバンディモナス属SD-212株のcrtI遺伝子の部分配列。
配列番号2:EcoRIでpCos5-2から切り出された12 kbの断片の配列。
配列番号3:上記EcoRI断片に含まれるORF11(β-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ遺伝子と推定される)の配列。
配列番号4:ORF11がコードするアミノ酸配列。
配列番号5:ORF1の増幅用のプライマー(フォワード)
配列番号6:ORF1の増幅用のプライマー(リバース)
配列番号7:crtWの増幅用のプライマー(フォワード)
配列番号8:crtWの増幅用のプライマー(リバース)
配列番号9:crtYの増幅用のプライマー(フォワード)
配列番号10:crtYの増幅用のプライマー(リバース)
配列番号11:crtIの増幅用のプライマー(フォワード)
配列番号12:crtIの増幅用のプライマー(リバース)
配列番号13:crtBの増幅用のプライマー(フォワード)
配列番号14:crtBの増幅用のプライマー(リバース)
配列番号15:ORF6の増幅用のプライマー(フォワード)
配列番号16:ORF6の増幅用のプライマー(リバース)
配列番号17:ORF7の増幅用のプライマー(フォワード)
配列番号18:ORF7の増幅用のプライマー(リバース)
配列番号19:crtEの増幅用のプライマー(フォワード)
配列番号20:crtEの増幅用のプライマー(リバース)
配列番号21:idiの増幅用のプライマー(フォワード)
配列番号22:idiの増幅用のプライマー(リバース)
配列番号23:crtZの増幅用のプライマー(フォワード)
配列番号24:crtZの増幅用のプライマー(リバース)
配列番号25:ORF11の増幅用のプライマー(フォワード)
配列番号26:ORF11の増幅用のプライマー(リバース)
配列番号27:ORF12の増幅用のプライマー(フォワード)
配列番号28:ORF12の増幅用のプライマー(リバース)
配列番号29:上記EcoRI断片に含まれるcrtZ(β-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ遺伝子と推定される)の配列。
配列番号30:crtZがコードするアミノ酸配列。
配列番号31:上記EcoRI断片に含まれるcrtE(ゲラニルゲラニルピロリン酸シンターゼ遺伝子と推定される)の配列。
配列番号32:crtEがコードするアミノ酸配列。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明について具体的に説明する。もっとも、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0054】
〔実施例1〕 菌株、プラスミド、生育条件
本発明に用いられた菌株とプラスミドを表1に示す。菌株の培養は30℃でLB(Luria-Bertani)培地または、2×YT培地(Sambrook et al., 1989)を用いて行った。必要に応じて、アンピシリン(ampicillin;Ap ,100μg/ml)または、クロラムフェニコール(chloramphenicol;Cm,20 μg/ml)を培地に添加した。
【0055】
カンタキサンチン産生用プラスミドpAC-Cantha、及びアスタキサンチン、アドニキサンチン(4-ケトゼアキサンチン)産生用プラスミドpAC-Astaは以下のようにして作製した。
【0056】
パラコッカス属MBIC 01143(Agrobacterium aurantiacum)由来のcrtW 遺伝子を、酵母キャンディダ・ユーティリス(Candida utilis)のGAP遺伝子のコドン使用に合わせて全合成した。コードされるアミノ酸配列は元のCrtWと同じにしてある。この作製法は文献(Miura et al., 1998)に示されている。この全合成されたcrtW配列を鋳型にして、H1437[AvaI部位(下線)、SD配列(H1437の10-15番目の配列)を含む]とH1438[NotI部位(下線)を含む]プライマーを用いてPCRを行い、得られたPCR産物をAvaIとNotIで切断して、0.76 kb AvaI-crtW-NotI断片を得た。
【0057】
H1437:5'-GTCCCGAGAAGGAGGCTAGATATGTCCGCTCACGCTTTGC-3'
H1438:5'-CGGCGGCCGCCCGGGACTAAGCGGTGTCACCCTTGGTTCT-3’
プラスミドpCAR16(Misawa et al., 1990)を鋳型にして、H1431 [NotI部位(下線)、SD配列(H1431の16-21番目の配列)を含む]とH1432[SalI部位(下線)を含む]プライマーを用いてPCRを行い、得られたPCR産物をNotIとSalIで切断して、1.1 kb NotI-crtE-SalI断片を得た。
【0058】
H1431:5'-ATGCGGCCGCTTATAAGGACAGCCCGAATG-3'
H1432:5'-CAGTCGACATCCTTAACTGACGGCAGCGAG-3'
上記の0.76 kb AvaI-crtW-NotI断片と1.1 kb NotI-crtE-SalI断片をNotI部位を介して転結し、pACCAR16ΔcrtXをAvaI/SalI消化して得られた、crtYcrtIcrtBを有する大断片と連結することにより、プラスミドpAC-Canthaを得た。
【0059】
さらに、同様に上記の0.76 kb AvaI-crtW-NotI断片と1.1 kb NotI-crtE-SalI断片をNotI部位を介して転結し、pACCAR25ΔcrtXをAvaI/SalI消化して得られた、crtYcrtIcrtBcrtZを有する大断片と連結することにより、プラスミドpAC-Astaを得た。
【0060】
【表1】

Miura, Y., Kondo, K., Saito, T., Shimada, H., Fraser, P. D., Misawa, Production of the carotenoids lycopene, β-carotene, and astaxanthin in the food yeast Candida utilis. N., Appl. Environ. Microbiol., 64, 1226-1229, 1998
Misawa, N., Nakagawa, M., Kobayashi, K., Yamano, S., Izawa, Y. Nakamura, K., and Harashima, K., Elucidation of the Erwinia uredovora carotenoid biosynthetic pathway by the functional analysis of gene products expressed in Escherichia coli. J. Bacteriol., 172, 6704-6712, 1990
Sambrook, J., Fritsch, E. F., and Maniatis T. 1989. Molecular cloning: a laboratory manual. 2nd ed. Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.
Yokoyama, A., Miki, W., Izumida, H., Shizuri, Y. 1996. New Trihydroxy-keto- carotenoids isolated from an astaxanthin-producing marine bacterium. Biosci. Biotechnol. Biochem. 60, 200-203, 1996 (非特許文献2)
Misawa, N., Satomi, Y., Kondo, K., Yokoyama, A., Kajiwara, S., Saito, T., Ohtani, T., and Miki, W., Structure and functional analysis of a marine bacterial carotenoid biosynthesis gene cluster and astaxanthin biosynthetic pathway proposed at the gene level. J. Bacteriol. 177, 6575-6585, 1995 (非特許文献1)
【0061】
〔実施例2〕 遺伝子操作実験
プラスミドの調製、制限酵素処理、ライゲーション反応、形質転換などの通常の遺伝子操作実験は、前述のSambrookら(1989)のMolecular Cloning(前述の文献)に示された方法により行った。
【0062】
〔実施例3〕 ブレバンディモナス属SD-212株からの染色体DNAの調製
ブレバンディモナス属(Brevundimonas sp.)SD-212 株(SD212;MBIC 03018)を300 mlのMarine Broth (MB)培地(Difco)で25℃、3日間培養した。菌体を集菌後、STE緩衝液(100 mM NaCl, 10 mM Tris・HCl, 1 mM EDTA, pH 8.0)で二回洗浄し、68℃で15分間熱処理をした後、5 mg/ml のリゾチーム(Sigma)と100 μg/mlのRNase A (Sigma)を含むI液 (50 mM グルコース、25 mM Tris・HCl, 10 mM EDTA, pH 8.0)に懸濁した。37℃で一時間インキュベートした後、250 μg/mlになるようにProtenase K (Sigma)を加え、37℃で10分間インキュベートした。さらに最終濃度が1% になるようにN-Lauroylsarcosin・Naを添加し、転倒混和により穏やかに完全に混合した後37℃で3時間インキュベートした。さらにフェノール/クロロホルム抽出を数回行った後、2倍量のエタノールをゆっくりと添加しながら、析出してきた染色体DNAをガラス棒で巻きつけ、70% エタノールでリンスした後、2 mlのTE緩衝液(10 mM Tris・HCl, 1 mM EDTA, pH 8.0)に溶解して、染色体DNA溶液とした。
【0063】
〔実施例4〕 PCR法によるフィトエンデサチュラーゼ遺伝子(crtI)の部分断片の増幅
カロテノイド産生細菌間のフィトエンデサチュラーゼ(phytoene desaturase;フィトエン脱水素酵素)遺伝子(crtI)の相同性を利用して得られたcrtI-Foプライマー(5’-TTY GAY GCI GGI CCI ACI GT -3’)、crtI-Reプライマー(5’-CCI GGR TGI GTI CCI GCI CC-3’)を合成し、前出した方法により得られた、ブレバンディモナス属SD-212株の染色体DNAを鋳型として用い、PCR法により増幅した。耐熱性DNAポリメラーゼはLa-Taq (TaKaRa)を用い、96℃で5分間熱変性後、98℃で20秒、58℃で30秒、72℃で1分の条件で35サイクルの増幅を行った。増幅産物は、1% アガロースゲル電気泳動で確認後、1.1 kbの長さのDNAをアガロースゲルから切り出し、精製(Qiagene Gel Extraction kit、QIAGENE、もしくはGene Clean II Kit、BIO101)を行った。精製されたDNA断片は、pGEM-T Easyに連結し、大腸菌(DH5α)を形質転換した。このプラスミドをpCRTI-SD212と名づけ、アンピシリンを添加した2 mlのLB液体培地で37℃、一晩培養後、プラスミドを抽出した。抽出されたプラスミドは Big Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit ver.2 (Perkin-Elmer)とmodel 3700 DNA sequencer (Perkin-Elmer)を用い付属のプロトコールに従って塩基配列(部分配列)の決定を行った。決定されたDNA配列(配列番号1)はBlast (Altschul and Lipman, 1990)を用いホモロジー検索を行いフィトエンデサチュラーゼ(phytoene desaturase)遺伝子(crtI)とホモロジーを持つDNA断片であることを確認した。また、PCR後、精製されたDNA断片の一部は実施例7、8に示すコロニーハイブリダイゼーション、サザンハイブリダイゼーションのプローブとして用いた。
Altschul, S. F. and Lipman, D. J., Protein database search for multiple alignments. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 5509-5513, 1990.
【0064】
〔実施例5〕 コスミドライブラリーの作製
ブレバンディモナス属SD-212株の染色体DNAの調製液からファージ粒子を得るところまでの実験方法はStratagene社のSuperCos 1 Cosmid Vector Kitの取扱説明書に従って行った。すなわちブレバンディモナス属SD-212株から得られた染色体DNAをSau3AIで部分消化を行いコスミドベクターのBamHI部位に連結し、LAMBDA INN (Nippon Gene)を用いてファージ粒子にパッケージングした。そして、大腸菌(Escherichia coli)XL1-Blue MR株、及び、プラスミドpACCAR25ΔcrtXを含み ゼアキサンチンを作る大腸菌XL1-Blue MR株に、そのファージを感染させ、抗生物質Ap耐性、及びAp、Cm耐性のコロニーを、Ap、及びAp、Cmを含むLBプレート上に各々、約1,000個ずつ得た。得られたコロニーは滅菌した楊枝を用いて、新たに抗生物質を含むLBプレート上に植え継いだ。なお、この段階で色の変化したコロニーは全く得られなかった。
【0065】
このコスミドベクターSuperCos 1(Stratagene)は7.9 kbのベクターで30〜45 kbのDNA断片を挿入することができる。また、cos領域が二つあるので、パッケージングの効率がよく、コスミドコンカテマーのパッケージングを防ぐための脱リン酸化操作が不要であり、挿入したい染色体DNAの方を脱リン酸化できるために、染色体DNA断片の再結合断片の混入の心配が無く、サイズ分画も不要であるという利点がある。
【0066】
〔実施例6〕 発現クローニングの試み
実施例5で作製したプラスミドpACCAR25ΔcrtXを含み ゼアキサンチンを作る大腸菌を宿主として作製したコスミドライブラリー700コロニーを用いて、各々2 mlずつ培養し、アセトンでカロテノイド色素を抽出した後、HPLC-PDA(フォトダイオードアレィ検出器)分析により、カロテノイドの分析を行った。方法は、実施例11に示されている。コントロールのゼアキサンチンに加えて、新たなカロテノイドが生成していないかどうかの検討を行った。その結果、新たなカロテノイドを合成するものは全く得られなかった。したがって、ブレバンディモナス属SD-212株のカロテノイド生合成遺伝子の発現クローニングは不可能であると結論した。
【0067】
〔実施例7〕 コロニーハイブリダイゼーション
実施例5で作製した大腸菌XL1-Blue MRを宿主として作製したコスミドライブラリー500コロニーを用いて、実施例4で示したPCR法により増幅したフィトエンデサチュラーゼ遺伝子(crtI)の部分断片をプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション(colony hybridization)法を行い、crtI遺伝子を含むクローンのスクリーニングを行った。まず、大腸菌をプレートに植え37℃で培養した。このとき、大腸菌は一枚のプレートあたり、48コロニーずつ植え付けた。一晩培養後、直径82 mmのHybond-N+メンブレン(Amersham Pharmacia)をプレートに乗せ、注射針で目印をつけた。メンブレンをはがし、菌体が付着した面を上に向け、10% SDS溶液を含んだ3 mmろ紙(Whattman)で5分間インキュベート後、さらに変性溶液(1.5 M NaCl, 0.5 M NaOH)を含んだ3 mmろ紙で5分間インキュベートを行い、その後メンブレンを中和液(1.5 M NaCl, 0.5M Tris・HCl)に5分間つけた(2回)。さらに2×SSCで2回洗浄した。このとき、細胞の破片を残さないようにキムタオルでメンブレンを強くこすった。処理後、メンブレンは、キムタオル、キムワイプ上で30分間風乾後、80℃で2時間ベーキング(baking)を行い、メンブレンにDNAを固定した。プローブDNAは、Alkphos Direct Labeling and Detection System (Amersham Pharmacia)を用い、添付のプロトコールに従って作製し、コロニーハイブリダイゼーションを行った。その結果、500株のクローンから、フィトエンデサチュラーゼ遺伝子(crtI)の部分断片をプローブDNAとして用いたコロニーハイブリダイゼーション法により6個のポジティブクローンが得られた。6個のポジティブクローンに存在するプラスミドを、pCos5-1、pCos5-2、pCos7-1、pCos8-1、pCos9-1、pCos10-1と名づけた。
【0068】
〔実施例8〕 サザンハイブリダイゼーション
実施例7で選抜された、6つのポジティブクローンを、Apを添加した2 mlのLB液体培地で37℃、一晩培養した後、プラスミドDNAを抽出した。抽出後のプラスミドDNAは、EcoRIで37℃、数時間インキュベートし、完全消化した後、電気泳動を行った。コントロールとして、ベクターのSuperCos 1、ブレバンディモナス属SD-212の染色体DNAを同様に消化したものを用いた。電気泳動には、小型のサブマリン型の電気泳動漕Mupid(コスモバイオ)を用い1%アガロースゲルを用いて50 Vで約70分電気泳動を行った。なお、電気泳動バッファーには1×TBEバッファーを用いた。ゲルは電気泳動後、エチジウムブロマイドで染色し、超純水で脱色後、UV照射下で写真撮影をした(図3)。その後0.4M NaOH溶液を用いてキャピラリーブロッティングを行うことによりナイロンメンブレン(Hybond N+)にトランスファーした。処理後、メンブレンを80℃で2時間、ベーキング(baking)を行い、メンブレンにDNAを固定した。その後、Alkphos Direct Labeling and Detection System (Amersham Pharmacia)を用い、添付のプロトコールに従って、サザンハイブリダイゼーションを行った。また、プローブDNAには、前述したフィトエンデサチュラーゼ遺伝子(crtI)の部分断片を用いた。その結果、6つのポジティブクローンのうちpCos5-2、pCos7-1、pCos9-1の3つのクローンにおいて、12 kbのEcoRI断片にポジティブシグナルが認められた(図3)。コントロールのSD-212染色体DNAは、電気泳動で確認したところ、高分子側でスミアなバンドが認められ、ほとんど消化されていなかった。僅かながらも、高分子側で陽性のシグナルが認められた。ほとんど消化されない原因としては、染色体DNAが部分的にメチル化されEcoRIによる分解が阻害されたことなどが考えられる。さらに、3つのポジティブクローンのプラスミドとSuperCos 1、ブレバンディモナス属SD-212株の染色体DNAをBamHIもしくはBamHI-EcoRIで消化し、同様の実験を行った(図4)。その結果BamHIによる消化を行ったものでは、9 kbのDNA断片にポジティブシグナルが認められ、BamHI-EcoRIによる消化を行ったものでは、8.2 kbのポジティブシグナルが認められた。ブレバンディモナス属SD-212株の染色体DNAの消化物にも、同様のサイズのバンドでポジティブシグナルが薄いながらも認められた。
【0069】
〔実施例9〕 カロテノイド遺伝子クラスターの解析
実施例8で選抜された3つの陽性クローン(pCos5-2、pCos7-1、pCos9-1)のうちpCos5-2を用い、12 kbの挿入断片をEcoRIで切り出し、プラスミドベクターpBluescript II KS-のEcoRI部位に連結し、大腸菌(E. coli)DH5α株を形質転換した。このプラスミドをp5Bre2-15と名づけた。この大腸菌を、Apを添加した2 mlのLB液体培地で37℃、一晩培養後、プラスミドを抽出した。抽出されたプラスミドはBig Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit ver.2 (Perkin-Elmer)とmodel 3700 DNA sequencer (Perkin-Elmer)を用い付属のプロトコールに従って塩基配列の決定を行った。決定されたDNA配列(配列番号2)はGeneMark.hmm(Lukashin A. and Borodovsky M.)用い遺伝子コード領域を推定し、SD様配列の確認などを行い、12 kbの断片中に12個のORF(open reading frame)を発見した(図5)。Blast を用い、各ORFのアミノ酸配列レベルでのホモロジー検索を行い、12個のうち7個は、既知のカロテノイド生合成遺伝子(crtW, crtY, crtI, crtB, crtE, crtZ, idi)と相同性を示すことがわかった(表2)。残りの5個の遺伝子(ORF)は、既存のどんな遺伝子とも全体的な相同性は有さない未知遺伝子であった。ブレバンディモナス属SD-212株由来の既知のカロテノイド生合成酵素とホモロジーがあった7個のCrt酵素(1個のIdiを含む)と、他生物由来の相当酵素との同一性(identity;同一のアミノ酸配列の比率)の検索は、正確を期すために以下のようにして行った。すなわち、Blastプログラム(ver. 2)(Altschul, S. F., Madden, T. L., Schaffer, A. A., Zhang, J., Zhang, Z., Miller, W., and Lipmann, D. J., Nucleic Acids Res. 25, 3389-3402, 1997)を用い、GenBank/DDBJのデータベースからホモロジー検索(tBlastn)を行った。次に、ヒットしたアミノ酸配列を用い、各Crtタンパク質について、Clustal Wプログラム(ver. 1.8)(Higgins, D. G., Thompson, J. D., and Gibson, T. J., Methods Enzymol. 266, 383-402, 1996)、及び、GeneDocプログラム(Nicholas, K. B., Nicholas H. B. Jr., and Deerfield, D. W. II., Embnew. News 4, 14, 1997)による解析を行い、各タンパク質における全領域間の同一性(identity)を求めた。表2には、ブレバンディモナス属SD-212株由来の各Crtタンパク質(1個のIdiを含む)と最もホモロジーが高かった他細菌由来のCrtタンパク質との同一性が示されている。本解析の結果、ブレバンディモナス属SD-212株由来の7個のCrtタンパク質(1個のIdiを含む)は、既知の他生物由来の相当タンパク質とは中程度以下のホモロジーしか示さないことが明らかとなった。表2からわかるように、最も高いホモロジーを示したSD-212株由来のCrtIでも72%の同一性であった。さらに驚くべきことには、SD-212株由来のCrtZとCrtEの場合は、50%を超える同一性を示す既知の他生物由来の相当タンパク質は見出されなく、最も高いものでも、それぞれ、46%及び39%の同一性であった。SD-212株のcrtZ遺伝子は、配列番号2に示された12 kb(11,991 kb)のEcoRI断片の相補鎖における塩基番号1,319から1,804にコードされる遺伝子で、その塩基配列は配列番号29に、コードされるアミノ酸配列(CrtZ)は配列番号30に示されている。SD-212株のcrtE遺伝子は、配列番号2に示された12 kb(11,991 kb)のEcoRI断片の相補鎖における塩基番号2,963から3,859にコードされる遺伝子で、その塩基配列は配列番号31に、コードされるアミノ酸配列(CrtE)は配列番号32に示されている。
【0070】
また、各crt遺伝子の配置を調べてみると、crtWcrtZ遺伝子の位置やその他の遺伝子の向きなど、かつて報告された水酸基をβ-イオノン(β-ionone)環に有するカロテノイド類を生産する細菌のカロテノイド生合成遺伝子群(Misawa et al., 1990 & 1995; Hannibal et al., 2000)と大きく異なる構造を有することがわかった(図5)。IPPイソメラーゼ遺伝子(idi)が、カロテノイド生合成遺伝子群内に存在するというのも初めてである。なお、上記の12個のORF(7個のcrt遺伝子を含む)すべてを含むプラスミドp5Bre2-15を有する大腸菌は、カロテノイドを全く生産できなかった。したがって、ブレバンディモナス属(Brevundimonas sp.)SD-212 株のカロテノイド生合成遺伝子群は、このままの状態では大腸菌で機能発現しないことが明らかとなった。
【0071】
【表2】

Lukashin A. and Borodovsky M., 1998, GeneMark.hmm: new solutions for gene finding, NAR, Vol. 26, No. 4, pp. 1107-1115.
Misawa,N., Nakagawa,M., Kobayashi,K., Yamano,S., Izawa,Y.,Nakamura,K. and Harashima,K., Elucidation of the Erwinia uredovora carotenoid biosynthetic pathway by functional analysis of gene products expressed in Escherichia coli. J. Bacteriol. 172, 6704-6712, 1990
Misawa, N., Satomi, Y., Kondo, K., Yokoyama, A., Kajiwara, S., Saito, T., Ohtani, T., and Miki, W., Structure and functional analysis of a marine bacterial carotenoid biosynthesis gene cluster and astaxanthin biosynthetic pathway proposed at the gene level. J. Bacteriol. 177, 6575-6585, 1995 (非特許文献1)
Hannibal, L., Lorquin, J., D'Ortoli, N.A., Garcia, N., Chaintreuil, C., Masson-Boivin, C., Dreyfus, B. and Giraud, E., Isolation and characterization of canthaxanthin biosynthesis genes from the photosynthetic bacterium Bradyrhizobium sp. strain ORS278. J. Bacteriol. 182, 3850-3853, 2000
Larsen, R.A., Wilson, M.M., Guss, A.M. and Metcalf, W.W., Genetic analysis of pigment biosynthesis in Xanthobacter autotrophicus Py2 using a new, highly efficient transposon mutagenesis system that is functional in a wide variety of bacteria Arch. Microbiol. 178, 193-201, 2002
〔実施例10〕 β-ガラクトシダーゼ融合タンパク質発現用プラスミドの構築
各種ORFの機能を明らかにするため、大腸菌ベクターpUC18(TOYOBO)のコードするβ-ガラクトシダーゼ遺伝子(lacZ)のリード配列との融合タンパク質となるように各ORFを、プラスミドp5Bre2-15のDNAを鋳型としてPCRで増幅し、β-ガラクトシダーゼ融合タンパク質発現用の各種プラスミドの構築を行った。この方法により大腸菌で機能発現されることを期待したからである。具体的には、各ORFを5’末端側にEcoRI部位を、3’末端側にBamHIもしくはXbaI部位を持つ増幅産物が得られるように設計した配列番号(5〜28)のプライマーを用いてPCRにて増幅した。耐熱性DNAポリメラーゼはLa-Taq (TaKaRa)を用い、各々96℃で5分間熱変性後、98℃で20秒、56℃で30秒、72℃で1分の条件で35サイクルの増幅を行った。増幅産物の一部は、1%アガロースゲル電気泳動で確認した。残りの増幅産物はエタノール沈殿後、EcoRIによる消化と、BamHIもしくはXbaIによる消化を行い。1%アガロースゲル電気泳動を行った。次に目的の長さのDNAをアガロースゲルから切り出し、精製(Qiagene Gel Extraction kit、QIAGENE、もしくはGene Clean II Kit、BIO101)を行った。切り出されたDNAはpUC18のEcoRIと、BamHIもしくはXbaI部位に連結し、大腸菌DH5αに形質転換した。このβ-ガラクトシダーゼ融合タンパク質発現用プラスミドでは、各ORFの本来の開始のアミノ酸配列Metの前に、β-ガラクトシダーゼの7個のアミノ酸からなるリーダ配列MetThrMetIleThrAsnSerが付加されるようにデザインされている。
【0072】
〔実施例11〕 β-ガラクトシダーゼ-各種Crt融合タンパク質遺伝子の発現と色素生産の解析
実施例10で示したプラスミドのうち、crtE, crtB, crtI, crtY, crtZ, crtW遺伝子を含むプラスミドを有する大腸菌を、Apを添加した2 mlのLB液体培地で37℃、一晩培養後、プラスミドを抽出した。抽出されたプラスミドはBig Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit ver.2 (Perkin-Elmer)とmodel 3700 DNA sequencer (Perkin-Elmer)を用い付属のプロトコールに従って塩基配列の確認を行った。各プラスミドの名前をそれぞれpUCBre-E (lacZ::crtE)、pUCBre-B (lacZ::crtB)、pUCBre-I (lacZ::crtI)、pUCBre-Y (lacZ ::crtY)、pUCBre-Z (lacZ::crtZ)、pUCBre-W (lacZ ::crtW)と名づけた。
【0073】
その後、表3の左に示す各種カロテノイド生産性プラスミド(chloramphenicol、Cm耐性)を有する大腸菌にこれらのプラスミドを導入し、Ap、Cmを添加した2 mlのLB液体培地で1 mMのIPTG添加による誘導下で30℃、48培養後、遠心分離により集菌し、菌体をSTEで二回洗浄後、200 μlのアセトンを添加し、ボルテックすることにより色素を菌体からアセトンへ移した。その後、遠心分離を行い、上清をろ過し、HPLC-PDAシステム(Waters Alliance 2695および2996フォトダイオードアレィ検出器)で色素の分析を行った。カラムにはTSK gel ODS-80Ts (TOSOH)を用い、送液条件は、A液(95%メタノール)、B液[メタノール:テトラヒドロフラン (tetrahydrofuran; THF), 7 : 3]で5分間A液100%を送液し、5分から10分の間でA液 100 %からをB液 100 % に直線グラジエントを行い、その後B液を8分間送液した。なお、検出はフォトダイオードアレィ検出器で行い、付属のEmpowerソフトウェアで解析を行った。標品としては、各種カロテノイド合成能を有する大腸菌(表3左)から抽出した色素または合成品を標品として用い、470 nmでの保持時間と吸収波形の比較により予想通りの各種カロテノイドが生産されることを確認した(表3右)。これらの結果より、ブレバンディモナス属SD-212株の各種融合crt遺伝子が大腸菌内で機能し、既存のcrt遺伝子(crtE, crtB, crtI, crtY, crtZ, crtW)と同様の機能を有することが明らかとなった。ただし、pUCBre-I (lacZ::crtI)とpUCBre-Y (lacZ ::crtY)の発現は、大腸菌ではかなり弱かった。既知の他生物由来のCrtタンパク質と50%以下の同一性しか示さない、SD-212株由来のCrtEとCrtZについては、本実験により、大腸菌内で強い触媒活性があることが確認された。CrtEの場合は、エルウィニア・ウレドボラ(Erwinia uredovora; Pantoea ananatis)由来のCrtEと同じ触媒活性を有すること、すなわち、ファルネシルピロリン酸(FPP)からゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)を作るGGPPシンターゼであることが明らかとなった。CrtZの場合は、β-カロテンからゼアキサンチンを、カンタキサンチンからアスタキサンチンを作る活性を有するβ-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ(β-C3-hydroxylase;3,3’-β-hydroxylase)であることが明らかとなった。なお、図2はブレバンディモナス属SD-212株が生産するカロテノイドであるが、図2中におけるβ-イオノン環の3位が水酸化されたカロテノイドのすべて(たとえば、2-ヒドロキシアスタキサンチンや2-ヒドロキシアドニキサンチン等)の合成に、SD-212株由来のCrtZが関与していることは明らかである。
【0074】
【表3】

〔実施例12〕β-ガラクトシダーゼ- ORF11融合タンパク質の発現と色素生産の解析
実施例10で示したプラスミドのうち、機能の推定ができないORF1, ORF6, ORF7, ORF11, ORF12を含むプラスミドを有する大腸菌を、Apを添加した2 mlのLB液体培地で37℃、一晩培養後、プラスミドを抽出した。抽出されたプラスミドはBig Dye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit ver.2 (Perkin-Elmer)とmodel 3700 DNA sequencer (Perkin-Elmer)を用い付属のプロトコールに従って塩基配列の確認を行った。各プラスミドの名前をそれぞれpUCBre-O1(lacZ::SD212-ORF1)、pUCBre-O6(lacZ::SD212-ORF6)、pUCBre-O7(lacZ::SD212-ORF7)、pUCBre-O11(lacZ::SD212-ORF11)、pUCBre-O12(lacZ::SD212-ORF12)と名づけた。その後、表3の左に示す各種カロテノイド生産性プラスミド(Cm耐性)を有する大腸菌にこれらのプラスミドを導入し、Ap、Cmを添加した2 mlのLB液体培地で1 mMのIPTG添加による誘導下で30℃、48培養後、遠心分離により集菌し、菌体をSTEで二回洗浄後、200 μlのアセトンを添加し、ボルテックすることにより色素を菌体からアセトンへ移した。その後、遠心分離を行い、上清をろ過し、HPLC-PDAシステムにより、実施例11と同様方法により色素の分析を行った。
【0075】
上記の実験を行った結果として、プラスミドpUCBre-O11を導入した大腸菌のみがポジティブな結果が得られた(ORF11の塩基配列は配列番号3に、コードされるアミノ酸配列は配列番号4に示されている)。すなわち、ORF11の融合発現用プラスミドpUCBre-O11(lacZ::SD212-ORF11)を、pACCAR16ΔcrtXを有するβ-カロテン産生大腸菌(DH5α)に導入した株の色素抽出液では、保持時間16分のところにβ-カロテン(451 nm、478 nm)の存在が認められ、高極性側の11分のところに451.0 nm、478.8 nmの吸収極大を持つ物質が認められ、さらに、13分のところに452.2 nm、477.6 nmの吸収極大を持つ物質が認められた(図6、矢印で示されている)。ただし、変換産物の量は少なかった。これらはゼアキサンチンである可能性もあるため、pACCRT25ΔcrtX由来のゼアキサンチンを主成分とするアセトン抽出物と混合し、co-HPLCを行った。その結果、これら2つのピークはゼアキサンチン(保持時間:10.6分)のピークとは重ならなかったので(図6c)、これらの2つの変換産物は、ゼアキサンチンと異なる物質であることがわかった。保持時間11分と13分のカロテノイドは、それぞれ、β,β-カロテン-2,2’-ジオール(β,β-carotene-2,2’-diol;2,2’-ジヒドロキシ-β-カロテン)、及び、β,β-カロテン-2-オール(β,β-caroten-2-ol;2-ヒドロキシ-β-カロテン)であると考察された(図10参照)。
【0076】
ORF11の融合発現用プラスミドpUCBre-O11(lacZ::SD212-ORF11)を、pACCAR25ΔcrtXを有するゼアキサンチン産生大腸菌(DH5α)に導入した株の色素抽出液では、10.6分の保持時間にゼアキサンチン (451 nm、480 nm)の存在が認められ、それ以外に新たなピークとして、9.1分のところに451.0 nm、478.8 nmの吸収極大を持つ物質1が認められ、また、9.9分に452.2 nm、477.6 nmの吸収を持つ物質2のピークが観察された(図7、矢印で示されている)。カロテノイド1及び2はそれぞれ、ノストキサンチン(2,2’-ジヒドロキシゼアキサンチン)、及び、カロキサンチン(2-ヒドロキシゼアキサンチン)であると同定された(図10、実施例13参照)。以上の結果は、ORF11がコードする遺伝子産物はβ-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼ(β-C2-hydroxylase;2,2’-β- hydroxylase)であり、β-カロテンやゼアキサンチンにおけるβ-イオノン環上の2位の炭素に水酸基を導入できる酵素であることを示している。
【0077】
次に、β-イオノン環の4位にケト基を導入する酵素遺伝子を保持するプラスミドpAC-Cantha を有するカンタキサンチン産生大腸菌(DH5α)にプラスミドpUCBre-O11(lacZ::SD212-ORF11)を導入し、実施例11で示した方法で色素分析を行った。その結果、保持時間10.7分にカンタキサンチンのピークが認められ、高極性側に保持時間4.7分の物質3、保持時間8.7分の物質4の2つのピークが認められた(図8、矢印で示されている)。それぞれの極大吸収波長はそれぞれ、478 nm、474 nmであり、それらの波形はβ-イオノン環の共役系にケト基を有するカロテノイドに見られる典型的な一山形の波形を示す物質の存在が示された。また、アスタキサンチン(保持時間6.6分前後)とのco-HPLCの結果によりこれらのピークはアスタキサンチンでないことが確認された(図8c)。カロテノイド3及び4はそれぞれ、2,2’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2,2’-ジヒドロキシカンタキサンチン)、及び、2-ヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2-ヒドロキシカンタキサンチン)であると同定された(図10、実施例13参照)。
【0078】
最後に、プラスミドpAC-Asta を有するアスタキサンチンやアドニキサンチン産生大腸菌(DH5α)にプラスミドpUCBre-O11(lacZ::SD212-ORF11)を導入し、実施例11で示した方法で色素分析を行った(図9)。その結果、保持時間6.4〜6.7分にアスタキサンチンのピークがまた、保持時間8.4〜8.6分のところにアドニキサンチンのピークが観察された。また、保持時間5.1〜5.2分のアスタキサンチンより高極性側に475 nmの吸収極大を示す、β-イオノン環の共役系にケト基を有するカロテノイドに見られる典型的な一山形の波形を示す物質5の存在が示された(図9、矢印で示されている)。カロテノイド5は、2-ヒドロキシアスタキサンチンであると同定された(図2、実施例13参照)。また、以上の結果より、ORF11のコードする遺伝子産物β-イオノン環-2-ヒドロキシラーゼは、他のカロテノイド生合成酵素のように基質特異性が低い(広い)ことが明らかとなった。
【0079】
〔実施例13〕ORF11による変換された色素の同定(既知物質)
pUCBre-O11及びpACCAR25ΔcrtXを導入した大腸菌を2 L(リットル)の2xYT培地で培養し、8,000 rpmで10分間遠心することにより、菌体を集めた。菌体をSTE緩衝液(実施例3参照)で懸濁し、8,000 rpmで10分間遠心することにより、再度、菌体を集めた。菌体にアセトン−メタノール(1:1)400 mlを加えて1時間撹拌した。濾過後、濾液を減圧濃縮し、267 mgの抽出物を得た。これをシリカゲル-60(15 g)カラムクロマトグラフィーで分離した。溶媒はヘキサン−酢酸エチル(8:2)(7:3)(6:4)および(1:1)各100 mlで順次溶出し、着色した3フラクションを得た。1つはゼアキサンチンであったので、残りの2フラクションの同定を行った。同定はHPLC-PDA-MS分析、1H-NMR分析により行った。HPLC-PDA-MS分析は、PDA(フォトダイオードアレィ)検出器付きセミミクロHPLCシステムとして資生堂製Nano Space SI-2を用い、これにサーモクエスト(ThermoQuest)社製イオントラップ型質量分析装置LCQ advantageシステムを接続した機器を用いて行った。カラムはC30 カラムである野村化学社製Deverosil C30-UG-3(1.0 mm i.d. × 150 mm)を用い、プレカラムとしてDeverosil C30-UG-Sを用いた。溶出条件として、0.1 ml/min の流速で、96%メタノール(A)で12分、Aからtert-メチルブチルエーテル(TMBE)(B)へのグラジエント(B: 0-60%、12〜72分)、そのままの状態で72〜82分溶出した。MSは大気圧化学イオン化法(APCI)により検出した。1H-NMRはバリアン社製INOVA750システムを用いて重クロロホルム中で測定した。
【0080】
HPLC-PDA-MS分析(保持時間(RT)13.48分、λmax 449, 475 nm、m/z 601 [M+H]+、583[M+H-H2O] +、565[M+H-2H2O] +、及び、RT 17.75分、λmax 450, 476 nm、m/z 585[M+H]+、567[M+H-H2O] +)、1H-NMR分析の結果、上記の2つのフラクションに存在するカロテノイドはそれぞれ、ノストキサンチン(nostoxanthin;2,2’-ジヒドロキシゼアキサンチン)、及び、カロキサンチン(caloxanthin;2-ヒドロキシゼアキサンチン)であると同定された(Buchecker, R., Liaaen-Jensen, S., Borch, G., Siegelman, H. W., Carotenoids of blue-green algae. Part 9. Carotenoids of Anacystis nidulans, structures of caloxanthin and nostoxanthin. Phytochemistry 15, 1015-1018, 1976)(図10参照)。
【0081】
以下に、1H-NMRデータ(δ ppm、かっこ内は水素数、多重度、結合定数)を示す。ノストキサンチン: 1.01(6H, s), 1.14(6H, s), 1.72(6H, s), 1.98-1.99(12H, s), 2.15(2H, dd, J=17.4, 10.0Hz), 2.49(2H, dd, J=17.4, 6.7Hz), 3.33(2H, d, J=10.0Hz), 3.84(2H, dt, J=6.7, 10.0Hz,), 6.0-6.7(14H, m)、カロキサンチン: 1.01(3H, s), 1.08(6H, s), 1.14(3H, s), 1.49(1H, t, J=12.0Hz), 1.72(3H, s), 1.75(3H, s), 1.80(1H, m), 1.98-1.99(12H, s), 2.05(1H, dd, J=17.4, 10.5Hz), 2.15(1H, dd, J=17.4, 10.0Hz), 2.40(1H, dd, J=17.4, 6.3 Hz), 2.49(1H, dd, J=17.4, 6.7Hz), 3.33(1H, d, J=10.0 Hz), 3.84(1H, dt, J=6.7, 10.0 Hz), 4.01(1H, m), 6.0-6.7(14H, m)。
【0082】
pUCBre-O11及びpAC-Astaを導入した大腸菌を2 Lの2xYT培地で培養し、8,000 rpmで10分間遠心することにより、菌体を集めた。菌体をSTE緩衝液(実施例3参照)で懸濁し、8,000 rpmで10分間遠心することにより、再度、菌体を集めた。菌体にアセトン−メタノール(1:1)400 mlを加えて1時間撹拌した。濾過後、濾液を減圧濃縮し、27 mgの抽出物を得た。これをシリカゲル−60(15 g)カラムクロマトグラフィーで分離。溶媒はヘキサン−酢酸エチル(7:3)(6:4)および(1:1)各100 mlで順次溶出し、着色した3フラクションを得た。2つはアスタキサンチン及びアドニキサンチンであったので、残り1フラクションの同定を行った。HPLC-PDA-MS分析(RT 11.98 分、λmax 473 nm、m/z 613 [M+H]+)、1H-NMR分析により、これは、2-ヒドロキシアスタキサンチン(2-hydroxyastaxanthin)であると同定された(非特許文献2)(図2参照)。以下に1H-NMRデータを示す。1.22(3H, s), 1.27(3H, s), 1.30(3H, s), 1.33(3H, s), 1.82(1H, m), 1.96(6H, s), 1.98-2.01(12H, s), 2.17(1H, bm), 3.53(1H, m), 4.19(1H, m), 4.33(1H, m), 6.2-6.7(14H, m)。今回は2,3,2’,3’-テトラヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2,3,2’,3’-tetrahydroxy-β,β-carotene-4,4’-dione; 2,2’-ジヒドロキシアスタキサンチン)の確認には至らなかったが、培養条件の工夫等により、これを得ることも可能であるはずである。
【0083】
〔実施例14〕ORF11による変換された色素の同定(新規物質)
pUCBre-O11及びpAC-Canthaを導入した大腸菌を2リットルの2xYT培地で培養し、8,000 rpmで10分間遠心することにより、菌体を集めた。菌体をSTE緩衝液(実施例3参照)で懸濁し、8,000 rpmで10分間遠心することにより、再度、菌体を集めた。菌体にアセトン-メタノール(1:1)400 mlを加えて1時間撹拌した。濾過後、濾液を減圧濃縮し、85 mgの抽出物を得た。これをシリカゲル-60(15 g)カラムクロマトグラフィーで分離した。溶媒はヘキサン−酢酸エチル(8:2)(7:3)および(1:1)各100 mlで順次溶出し、着色した3フラクションを得た。1つはカンタキサンチンであったので、残りの2フラクションの同定を行った。HPLC-PDA-MS分析(RT 9.30分、λmax 472 nm、m/z 597.2 [M+H]+、及び、RT 17.62 分、λmax 474 nm、m/z 581.2 [M+H]+)、高分解(HR)FABMS分析、1Hならびに各種二次元NMR分析により、これらは、2,2’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2,2’-dihydroxy-β,β-carotene-4,4’-dione;2,2’-ジヒドロキシカンタキサンチン、新規化合物(I))、及び、2-ヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2-hydroxy-β,β-carotene-4,4’-dione;2-ヒドロキシカンタキサンチン)であると同定された(図10参照)。
【0084】
【化2】

以下に、HRFABMS分析データと1H-NMRデータを示す。2,2’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン: HRFABMS (m/z, [M]+)、 計算値 596.3866(C40H32O4)、実測値 596.3863、1H NMR(750MHz、重クロロホルム中、δ ppm)、1.22(6H, s), 1.26(6H, s), 1.89(6H, s), 2.00-2.02(12H, s), 2.62(2H, dd, J=17.4, 9.0Hz), 2.80(2H, dd, J=17.4, 4.5Hz), 3.90(2H, dd, J=9.0, 4.5Hz), 6.2-6.7(14H, m)。2-ヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン: HRFABMS(m/z, [M]+)、 計算値580.3916(C40H32O3), 実測値 580.3900、 1H NMR、1.21(6H, s), 1.22(3H, s), 1.26(3H, s), 1.85(2H, t, J=7.0Hz), 1.89(3H, s), 1.90(3H, s), 2.00-2.02(12H, s), 2.51(2H, t), 2.62(1H, dd, J=17.4, 9.0Hz), 2.8(1H, dd, J=17.4, 4.5Hz), 3.90(1H, dd, J=9.0, 4.5Hz), 6.2-6.7(14H, m)。
【0085】
カンタキサンチンの2(2’)位の両方の炭素に水酸基が導入された2,2’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオンは上述のとおり自然界で未だ発見されていない新規化合物であるが、片方にのみ水酸基が導入された2-ヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオンも甲殻類の一種であるDaphinia magnaから単離されたという報告があるのみで、微生物により生産されたものはこれが初めてである(Partali, V., Olsen, Y., Foss, P., Liaaen-Jensen, L., Carotenoids in food chain studies-I. Zooplankton (Daphnia magna) response to a unialgal (Scenedesmus acutus) carotenoid diet, to spinach, and to yeast diets supplemented with individual carotenoids. Comp. Biochem. Physiol., 82B(4), 767-772, 1985; Foss, P., Partali, V., Olsen, Y., Borch, G., Liaaen-Jensen, S., Animal carotnoids 29. New (2R)-2-hydroxy-4-keto-β-type carotenoids from Daphnia magna (Crustaceae). Acta Chemica Scandinavica B40,157-162, 1986)。
【0086】
〔実施例15〕in vitro抗過酸化活性の測定
各種カロテノイドにおける種々の生理活性作用は多様であるが、活性酸素による生体内脂質の過酸化を抑制する活性がその基本であると考えられる。したがって、実施例14で合成された2つのカロテノイドを用いて、フリーラジカルにより引き起こされる脂質過酸化のin vitro抑制効果を、ラット脳ホモジネートを用いて調べた。このアッセイは、基本的にKuboらの方法に準拠して行った (Kubo, K., Yoshitake, Y., Kumada, K., Shuto K., Nakamizo, N. Radical scavenging action of flunarizine in rat brain in vitro. Arch. Int. Pharmacodyn. Ther. 272, 283-295, 1984)。100 mMリン酸緩衝液(pH7.4)0.6 ml中に、被検試料のメタノール溶液0.05 ml、1 mMアスコルビン酸0.1 ml(最終濃度100 μM)、及びH2O 0.05 mlを添加し、37℃で5分間のプレインキュベーションを行った後、2.5%(w/v)ラット脳ホモジネートを0.2 ml添加することで反応を開始させ、37℃で1時間、振盪しながらインキュベートを行った。20%(w/v)トリクロロ酢酸、0.5%(w/v)2-チオバルビツール酸、及び0.2 N塩酸を含む混合液1 mlを上記反応液に添加することで反応を停止した。これを100℃で30分間煮沸処理して発色させ、冷却後、3000 rpmで5分間遠心分離した。遠心分離上清の532 nmでの吸光度(A532)を測定した。被検試料添加群のA532が、被検試料無添加群のA532と比べ半分低下するのに必要な被検試料濃度をIC50として算出し、これをラット脳ホモジネートにおける脂質過酸化抑制作用とした。本実験結果を表4に示す。表4から明らかなように、2-ヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2-ヒドロキシカンタキサンチン)及び2,2’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2,2’-ジヒドロキシカンタキサンチン)は、脂質の過酸化に対して強い抑制効果を持つことが示された。特に後者の新規物質は、強力な脂質の過酸化の抑制作用を示した。
【0087】
【表4】

本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願(特願2003-388165号及び特願2004-165919号)の明細書および/または図面に記載されている内容を包含する。また、本発明で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(e)、(f)、又は(g)に示すペプチドをコードする遺伝子:
(e)配列番号30記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(f)配列番号30記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつβ-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチド、
(g)配列番号29記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、β-イオノン環-3-ヒドロキシラーゼ活性を有するペプチド。
【請求項2】
請求項1に記載の遺伝子を導入して得られる微生物であって、β-イオノン環の3位の炭素に水酸基を導入できる微生物。
【請求項3】
請求項1に記載の遺伝子を、他のカロテノイド生合成遺伝子とともに導入して得られる微生物であって、β-イオノン環の3位の炭素に水酸基を導入できる微生物。
【請求項4】
他のカロテノイド生合成遺伝子が、ファルネシルピロリン酸からβ-イオノン環を有するカロテノイドを合成するのに必要とされる遺伝子群の全部又は一部であることを特徴とする請求項3に記載の微生物。
【請求項5】
微生物が大腸菌であることを特徴とする請求項2乃至4のいずれかに記載の微生物。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれかに記載の微生物を、培地で培養して培養物又は菌体からβ-イオノン環の3位の炭素が水酸化されたカロテノイドを得ることを特徴とする、水酸化されたカロテノイドの製造法。
【請求項7】
下記の化学構造式(I)で示される2,2’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2,2’-ジヒドロキシカンタキサンチン)。
【化1】

【請求項8】
2,2’-ジヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2,2’-ジヒドロキシカンタキサンチン)又は2-ヒドロキシ-β,β-カロテン-4,4’-ジオン(2-ヒドロキシカンタキサンチン)を有効成分として含有する抗酸化剤。
【請求項9】
以下の(h)、(i)、又は(j)に示すペプチドをコードする遺伝子:
(h)配列番号32記載のアミノ酸配列からなるペプチド、
(i)配列番号32記載のアミノ酸配列において1もしくは複数個のアミノ酸が付加、欠失もしくは置換されたアミノ酸配列からなり、かつゲラニルゲラニルピロリン酸シンターゼ活性を有するペプチド、
(j)配列番号31記載の塩基配列からなるDNA又はそれと相補的なDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAがコードする細菌由来のペプチドであって、ゲラニルゲラニルピロリン酸シンターゼ活性を有するペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−171984(P2009−171984A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−111718(P2009−111718)
【出願日】平成21年5月1日(2009.5.1)
【分割の表示】特願2005−515575(P2005−515575)の分割
【原出願日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】