説明

新規なシリコーン含有フッ素系共重合体から形成された塗膜

【課題】フルオロオレフィンと反応性シリコーンとを必須成分とする含フッ素共重合体に基く塗料組成物から形成される塗膜の特性、殊に撥水撥油性を改善すること。
【解決手段】フルオロオレフィンと反応性シリコーンとを必須成分とするシリコーン含有フッ素系共重合体又はそれを含む組成物を用いて基材上に硬化反応を経て形成される塗膜であって、X線光電子分光法により測定したときに塗膜表面に存在するSi原子の原子数が2〜30atomic%であるか、又は該存在Si原子に加えてF原子が2〜32atomic%であることを特徴とする、防汚性、撥水撥油性、耐薬品性、耐候性等に優れた塗膜。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、防汚性、撥水撥油性、耐薬品性、耐候性等に優れ、且つX線光電子分光法(以下、「XPS」と略称することがある。)で測定された塗膜表面に存在するSi原子の原子数が2〜30atomic%を占める塗膜、特に、塗膜表面に存在するF原子の原子数が2〜32atomic%そしてSi原子の原子数が2〜30atomic%を占めることを特徴とする塗膜に関する。また、本発明は該塗膜の製造方法にも関する。
【0002】
【従来の技術】
溶剤可溶型の塗料用フッ素樹脂としては、ヒドロキシアルキルビニルエーテル等の炭化水素系モノマーとフルオロオレフィンとを共重合して得られるものが一般的である。このような含フッ素共重合体をベースとする塗料は、有機溶剤に対する溶解性を得るために、炭化水素系モノマーを50%程度含んでいる。しかしそれ故、含フッ素共重合体中のフッ素含有量が低下し、フッ素樹脂に求められる撥水撥油性、耐汚染性等の塗膜特性が充分に発揮されにくい。一方、これら含フッ素共重合体に少量のシリコーンオイル等の有機ケイ素化合物を添加することにより、撥水撥油性を向上させ得るが、長期における撥水撥油性を維持することは難しい。また、用途によってはシリコーンオイルが塗膜表面よりブリードアウトしてしまうため、シリコーンオイルを使用できない場合もある。
【0003】
本発明者等は、特定の有機ケイ素化合物又は反応性シリコーンを含む含フッ素共重合体が、撥水撥油性、耐薬品性、耐候性に優れた塗膜を提供することを報告した(例えば、特許文献1〜3参照)。しかしながら、このような有機ケイ素化合物又は反応性シリコーンを含む含フッ素共重合体による塗膜が、なぜ上記のような優れた特性を有するかについて解明できていなかった。
【0004】
また、含フッ素共重合体中の有機ケイ素化合物の量が、特定の割合になると、一段と優れた撥水撥油性を示す塗膜を形成することを知得したが、このような効果が塗膜上のどのような特徴に起因しているかについても、不明であった。そしてこれらの現象について解明し、さらに特性を改善し、耐候性の要求される屋外用途、防汚性の要求される内装用途等にさらに適した塗膜を実現することが求められていた。
【0005】
なお、アルキッド樹脂、アミノ樹脂及び変性シリコーン樹脂を反応させて得られる、水に対する濡れ性が良い離型フィルム表面を、X線光電子分光装置を用いて測定した例が報告されている(例えば、特許文献4参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開2000−313725号公報
【特許文献2】
特開2001−247622号公報
【特許文献3】
特開2001−288216号公報
【特許文献4】
特許第3150605号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記のような問題点を解決する、防汚性、撥水撥油性、繰り返しの汚染除去性、耐薬品性、耐候性に優れる含フッ素共重合体及びその組成物により形成された塗膜、並びにそのような塗膜の製造方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意研究の結果、シリコーン含有フッ素系共重合体又はそれを含む組成物からなる塗膜であって、XPSで測定された塗膜表面に存在するSi原子の原子数及びF原子の原子数が一定割合を占める塗膜により、非常に優れた撥水撥油効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち上記課題は、基材上に塗布されたシリコーン−フッ素系共重合体を含む組成物から形成された塗膜であって、X線光電子分光法により測定された塗膜表面に存在するSi原子の原子数が2〜30atomic%を占めることを特徴とする本願発明の塗膜により解決する。該塗膜はさらに、X線光電子分光法により測定された塗膜表面に存在するF原子の原子数が2〜32atomic%を占めてもよい。
【0010】
上記の課題は、基材表面上に塗布されたシリコーン含有フッ素系共重合体を含む組成物から形成された塗膜であって、X線光電子分光法により測定された塗膜表面に存在するSi原子の原子数とF原子の原子数との比(Si/F値)が0.0625〜10.0であることを特徴とする本願発明の塗膜により解決する。
【0011】
特に、重合単位として(a)フルオロオレフィンを15〜85モル%;及び(b)式(1)、(2)及び(3)からなる群より選択される1種以上の反応性シリコーンを0.001〜30モル%;を含むことを特徴とする反応性シリコーン含有フッ素系共重合体(A)をアクリル材、木材、プラスチック、金属、グラファイト、紙、コンクリート、不燃材(石膏ボード、珪酸カルシウム板、フレキシブルボードなどのセラミックス材等)、ガラスなどの基材上に塗布し、熱又は光などで硬化させた塗膜が、防汚性、撥水撥油性、繰り返しの汚染除去性、繰り返しの汚染はじき性、耐候性及びアルカリや酸に対する耐侵食性等の塗膜特性に非常に優れていることを見出した。また、これらの基材上に他のコーティング剤を塗布した後のトップコート用塗膜としても優れている。
【0012】

(ここで、R1は、CH2=C(CH3)COO(CH2r1−、CH2=CHCOO(CH2r1−、又はCH2=CH−を示す。R2は、炭素数1〜12のアルキル基、CH2=C(CH3)COO(CH2r2−、CH2=CHCOO(CH2r2−、又はCH2=CH−を示す。nは20〜150の整数、r1は1〜6の整数、r2は1〜6の整数を示す。)
2−Si[OSi(CH333 (2)
CH2=C(R3)Si(R4)(R5)(R6) (3)
ここで、R3は水素原子、又はメチル基を表す。R4、R5、及びR6は、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、sec−ブチル基、フェニル基、置換フェニル基、−CF3、−C24CF3、又は−OSi(CH33を示す。R4、R5、R6は、それぞれ同一又は異なっていてもよい。)
さらに上記課題は、
重合単位として(a)フルオロオレフィンを15〜85モル%;(b)式(1)、(2)及び(3)から選択される1種以上の反応性シリコーンを0.001〜30モル%;及び(c)水酸基含有不飽和単量体を1〜50モル%;より構成される、水酸基を含有した反応性シリコーン含有フッ素系共重合体(C);と
不飽和イソシアネート(d)
との反応により生成されたシリコーン含有フッ素系共重合体(D)を用いて形成された本発明の塗膜により解決する。
【0013】
さらに上記課題は、シリコーン含有フッ素系共重合体(A)、(A’)、及び(D)からなる群より選択される1種以上のフッ素系共重合体と;アクリル系樹脂(B)、反応性希釈剤(E)、及び光硬化性(メタ)アクリレート樹脂(F)からなる群より選択される1種以上の成分と;を含む樹脂組成物を用いて形成された本発明の塗膜により解決する。
【0014】
さらに、本発明の塗膜は:シリコーン含有フッ素系共重合体(A)、(A’)、及び(D)からなる群より選択される1種以上の共重合体を含む組成物を塗布し;該組成物を硬化させ;X線光電子分光法により測定された塗膜表面に存在するSi原子の割合を2〜30atomic%とし、F原子の割合を2〜32atomic%とする;製造方法により製造される。
【0015】
そして本願発明の優れた塗膜特性は、塗膜表面に存在するSi原子の原子数とF原子の原子数とに起因していることを、XPSによる測定で突き止めることができた。即ち、上記のシリコーン含有フッ素系共重合体は、塗膜化した際、Si原子が塗膜表面に選択的に局在するものであることがわかった。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をより詳細に説明する。
本発明における塗膜表面組成は、XPSにより測定される。本願における組成は、実施例1記載の装置、条件により測定した値を使用した。
【0017】
油性マジックはじき性、油性マジック繰り返し除去性、撥水性も、実施例1記載の方法、条件で測定した値を用いた。
塗膜表面のSi原子の原子数は、2atomic%以上、特には3atomic%以上を占めることが好ましい。また、その上限は50atomic%、好ましくは30atomic%、さらに好ましくは20atomic%である。上記範囲未満では油性マジックの除去性やはじき性が悪く、撥水性も劣る。また上記範囲より大では反応性シリコーンの分子量が大きくなり、製造上の取扱いが難しくなる。
【0018】
塗膜表面のF原子は1atomic%以上、好ましくは2atomic%以上を占める。また、50atomic%以下、好ましくは32atomic%以下、さらに好ましくは25atomic%以下である。上記範囲未満ではフッ素樹脂としての特性が発揮されず、上記範囲より大では繰り返し油性マジック除去性やはじき性が悪くなる。
【0019】
Si原子又はF原子の表面組成の何れか一方のみが上記の範囲にあってもよいが、両者が上記の範囲にあることが好ましい。
Si原子の原子数とF原子の原子数との比(Si/F値)としては、0.0625〜15.0、特に0.0625〜10.0が好ましい。Si原子、F原子の表面組成が上記範囲にある場合において、さらにSi/F値が0.0625〜15.0、好ましくは0.0625〜10.0、より好ましくは0.12〜10.0、さらに好ましくは0.14〜10.0であることが望ましい。
【0020】
塗膜の撥水性の点から、水との接触角は98〜120度であり、好ましくは98〜110度である。
塗膜の厚みは0.00005mm以上、好ましくは0.0001mm以上、さらに好ましくは0.0002mm以上である。また、2mm以下、好ましくは0.5mm以下、さらに好ましくは0.3mm以下である。塗膜が薄すぎると完全に被覆できない領域が生じ、厚すぎても効果に大きな差異が生じず、経済的でない。
【0021】
本発明の塗膜に用いられる基材に特に制限はなく、有機材料も無機材料も用いることができる。例えば、使用できる基材の材料として、木材、プラスチック(アクリル材、PET等)、金属、グラファイト、紙、コンクリート、不燃材(石膏ボード、珪酸カルシウム板、フレキシブルボードなどのセラミックス材等)、ガラス等が挙げられる。透明な材質としては、アクリル材又はPETが好ましい。
【0022】
基材の形状に特に制限はなく、平面状であっても凹凸があってもよい。本発明の塗膜を有する物品は、各種の内装用途、屋外用途に用いることができる。
該シリコーン含有フッ素系共重合体の重合単位である(a)フルオロオレフィンに特に制限はないが、CH2=CHF、CH2=CF2、CHF=CHF、CHF=CF2、CF2=CF2、CF2=CFCl、及びCF2=CF(CF3)を好ましく用いることができ、CF2=CF2、及び/又はCH2=CF2が特に好ましい。複数のフルオロオレフィンの混合物を使用することもできる。
【0023】
(b)反応性シリコーンとしては、

(ここで、R1はR21(CH2r1−(R21は不飽和カルボキシル基を表す)又はアルケニル基、好ましくはCH2=CHCOO(CH2r1−、CH2=C(CH3)COO(CH2r1−、又はCH2=CH−を示す。r1は1〜6の整数を表し、好ましくはr1=3である。R2は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルケニル基、又はR21(CH2r1−(R21は不飽和カルボキシル基を表す)を表し、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基、CH2=C(CH3)COO(CH2r2−、CH2=CHCOO(CH2r2−、又はCH2=CH−を示す。r2は1〜6の整数を表し、好ましくはr2=3である。nは20〜150の整数を示す。)
2−Si[OSi(CH333 (2)
CH2=C(R3)Si(R4)(R5)(R6) (3)
(ここで、R3は水素原子、C1−C4のアルキル基を表し、好ましくは水素原子、メチル基を表す。R4、R5、及びR6は、それぞれC1−C6のアルキル基、C1−C6のアルケニル基、アリール基、置換アリール基、複素環基、フルオロアルキル基、トリアルキルシロキシ基を表し、好ましくは、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、sec−ブチル基、フェニル基、置換フェニル基、−CF3、−C24CF3、−OSi(CH33を示す。R4、R5、R6は、それぞれ同一又は異なっていてもよい。)
式(1)〜(3)からなる群より選択される反応性シリコーンとしては、片末端がメタクリル変性、アクリル変性、又はビニル変性されたポリジメチルシロキサン、両末端がアクリル変性、アクリル変性、又はビニル変性されたポリジメチルシロキサン等が好適である。好ましくは、該反応性シリコーンは下記の式(4)〜(8)のいずれかで表される。
【0024】
CH2=C(CH3)COOC36−Si(CH32−O−[Si(CH32−O]p−Si(CH32−R7 (4)
(ここで、R7は炭素数1〜12のアルキル基又はCH2=CH−を示す。pは25〜150の整数を示す。)
CH2=CHCOOC36−Si(CH32−O−[Si(CH32−O]s−Si(CH32−R8 (5)
(ここで、R8は炭素数1〜12のアルキル基又はCH2=CH−を示す。sは25〜150の整数を示す。)

(ここでR9は、CH2=C(CH3)COO(CH23−又はCH2=CHCOO(CH23−を示す。qは20〜150の整数を示す。)
CH2=CH−Si(CH32−O−[Si(CH32−O]y−Si(CH32−R10 (7)
(ここで、R10は炭素数1〜12のアルキル基又はCH2=CH−を示す。yは25〜150の整数を示す。)
CH2=C(CH3)COOC36−Si[OSi(CH333 (8)
これらの反応性シリコーンはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。これらの反応性シリコーンの数平均分子量は、200〜30,000が好ましい。
【0025】
塗膜表面における上記のSi原子及び/又はF原子の割合を充足するため、反応性シリコーンの量は、0.001モル%以上、好ましくは0.002モル%以上、より好ましくは0.01モル%以上であり、50モル%以下、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%、さらに好ましくは10モル%以下である。
【0026】
(c)水酸基含有不飽和単量体としては、式(9)の単量体が挙げられる。
CR1112=CHR13 (9)
(R11、R12及びR13は同一であっても異なってもよいが、少なくとも1つが水酸基を含有する。具体的には:水素原子、水酸基、C1−C6のアルキル基、C1−C6のアルケニル基、C1−C6のヒドロキシアルキル基、C1−C6のヒドロキシアルケニル基、C1−C6のアルコキシル基、アリール基及び置換アリール基からなる群より選択することができる。)
例えば、ヒドロキシブチルビニル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシブチルを用いることもできる。それらの中でも、ヒドロキシブチルビニルエーテルが好ましい。複数の水酸基含有不飽和単量体の混合物を用いることもできる。
【0027】
水酸基含有含フッ素共重合体(C)中の(c)水酸基含有不飽和単量体の量は、1モル%以上、好ましくは5モル%以上であり、50モル%以下、好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは25モル%以下である。(c)水酸基含有不飽和単量体が少なすぎると常温又は加熱硬化が起こりにくくなり、多すぎると塗膜中のF量が減り、フッ素樹脂としての効果が得られにくい。
【0028】
該シリコーン含有フッ素系共重合体は、上記の(a)、(b)、及び(c)以外の単量体を含むこともできる。例えば、式(10)においてR11、R12及びR13が何れも水酸基を含有しない単量体を用いることができる。(c)をヒドロキシブチルビニルエーテルとする場合には、ブチルビニルエーテル等を用いることもできる。
【0029】
本発明の塗膜の製造には、既知の硬化方法の何れを用いてもよい。硬化方法としては、常温硬化、加熱硬化、紫外線硬化、電子線硬化が挙げられる。
本発明の塗膜に含まれるシリコーン含有フッ素系共重合体(A、A’、C及びD)は、不飽和二重結合を有してもよい。不飽和二重結合を有すると、硬化剤を用いなくても架橋反応を起こせるという利点がある。また他の成分が共存する場合には、その成分との反応が起こりやすいという利点がある。
【0030】
上記シリコーン含有フッ素系共重合体(A、A’、C及びD)を常温硬化させる場合は、多価イソシアネート類を用いて効率よく常温で硬化させることができる。該多価イソシアネート類としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどの無黄変性ジイソシアネートやその付加物、イソシアヌレート類を有する多価イソシアネートが好ましく挙げられるが、これらの中でイソシアヌレート類を有する多価イソシアネートが特に有効である。イソシアネート類を用いて常温硬化を行わせる場合には、ジブチル錫ジラウレート等の公知触媒の添加によって硬化を促進させることができる。
【0031】
上記シリコーン含有フッ素系共重合体(A、A’、C及びD)を、加熱硬化させることもできる。硬化剤としては、メラミン硬化剤、尿素樹脂硬化剤、多塩基酸硬化剤などが挙げられる。該メラミン硬化剤としては、例えばブチル化メラミン、メチル化メラミン、エポキシ変性メラミン等が挙げられ、用途に応じて各種変性度のものが適宜用いられ、また自己縮合度も適宜選ぶことができる。尿素樹脂硬化剤としては、例えばメチル化尿素樹脂やブチル化尿素樹脂等が挙げられ、多塩基酸硬化剤としては、例えば長鎖脂肪族ジカルボン酸、芳香族多価カルボン酸類及びこれらの酸無水物等が挙げられる。
【0032】
さらに、ブロック化多価イソシアネート類も硬化剤として好適に用いる事ができる。またメラミン硬化剤又は尿素樹脂硬化剤の使用に際しては、酸性触媒の添加によって硬化を促進させることができる。
【0033】
熱重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート等が用いられる。
【0034】
上記シリコーン含有フッ素系共重合体(A、A’、C及びD)を、紫外線硬化させることもできる。紫外線硬化の場合に使用する光重合開始剤としては、ベンゾインエーテル、ベンゾフェノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モンフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフェリノフェニル)−ブタノン−1、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン等が用いられる。
【0035】
紫外線硬化は、従来公知の方法により行うことができる。例えば、高圧水銀ランプを使用するときは、100〜1000mJ/cm2の条件等で硬化可能である。
【0036】
上記シリコーン含有フッ素系共重合体(A、A’、C及びD)を、電子線硬化させることもできる。電子線硬化の場合には、重合開始剤を混合しなくとも硬化させることができる。硬化条件としては、例えば110kVで30kGy又は200kVで30kGyの条件等が挙げられる。
【0037】
上記シリコーン含有フッ素系共重合体とその他の成分とを含む組成物も、本発明の塗膜に用いることができる。該組成物を、前述の方法により硬化させることもできる。
【0038】
上記組成物中のシリコーン含有フッ素系共重合体以外の成分として、アクリル系樹脂(B)、反応性希釈剤(E)、光硬化性(メタ)アクリレート樹脂(F)等が挙げられる。シリコーン含有フッ素系共重合体以外の上記成分の何れか1種を使用することもでき、組み合わせて使用することもできる。該フッ素共重合体として1種のみを用いてもよく、複数を組み合わせて用いてもよい。例えば、シリコーン含有フッ素系共重合体(A)、(A’)、(C)及び(D)から選択される少なくとも1種のシリコーン含有フッ素系共重合体とアクリル樹脂(B)とからなる組成物を用いることもできる。また、シリコーン含有フッ素系共重合体(A)、(A’)、(C)及び(D)から選択される少なくとも1種のシリコーン含有フッ素系共重合体と;反応性希釈剤(E)及び/又は光硬化性(メタ)アクリレート樹脂(F)と;からなる組成物を用いることもできる。硬化方法に応じて、上記組成物に硬化剤、光重合開始剤、熱重合開始剤等を添加することもできる。
【0039】
アクリル系樹脂(B)の具体例としては、一般的にアクリル樹脂と称されているメチル(メタ)アクリレート共重合体、エチル(メタ)アクリレート共重合体、ブチル(メタ)アクリレート共重合体、スチレンを含有する(メタ)アクリレート共重合体、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート共重合体、などが挙げられる。これらアクリル系樹脂は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合せてもよい。
【0040】
市販されているアクリル系樹脂としては、アクリディックA−814、アクリディックA−810−45(大日本インキ工業(株)製)、テストロイド4211−46、テストロイド4212−46(日立化成ポリマー(株)製)、ダイヤナールLR−620、ダイヤナールLR−199、ダイヤナールLR−2516、ダイヤナールSS−792(三菱レイヨン(株)製)、ヒタロイド3046C、ヒタロイド3018(日立化成工業(株)製)などがあり、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合せてもよい。
【0041】
樹脂組成物中にアクリル樹脂(B)が用いられる場合、シリコーン含有フッ素系共重合体は樹脂組成物の5〜95重量%、好ましくは20〜80重量%、さらに好ましくは40〜60重量%を占める。アクリル樹脂(B)は、95〜5重量%、好ましくは80〜20重量%、さらに好ましくは60〜40重量%を占める。アクリル系樹脂を使用することにより、塗膜の寿命や硬度等が改善される場合がある。
【0042】
反応性希釈剤(E)は、単官能性のもの、二官能性のもの及び多官能性のものがある。分子中に不飽和二重結合等を含有していることが好ましい。例えば、単官能アクリレート又はメタアクリレート((メタ)アクリレートと表記することがある)、二官能(メタ)アクリレート、3官能(メタ)アクリレート、4官能以上の(メタ)アクリレートを用いることができる。これらの分子はそれ自体が架橋反応をすることができるため、架橋により塗膜成分となる。また同時に、シリコーン含有フッ素系共重合体を溶液の状態にすることもでき、溶媒と同様の働きをすることができる。従って、溶媒に代えて反応性希釈剤を用いることもできる。この様な使用態様により、有機溶媒を使用する場合に比べ大気中に排出される有機溶媒量を減量させることが出来るという利点がある。さらに、反応性希釈剤(E)は低粘度であるため、シリコーン含有フッ素系共重合体組成物の粘度を下げることが可能であり、作業性も改善することが出来る。この様な特性により、反応性希釈剤(E)は何れの硬化方法においても使用することができる。
【0043】
この様な反応性希釈剤としては、具体的には、次のようなアクリレート化合物、メタクリレート化合物及びエーテル類からなる群より選択される1種以上のものが挙げられる。
【0044】
単官能性アクリレートとしては、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、エチルカルビトール(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシプロピルフタレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2−アクリロイルオキシエチルハイドロゲンフタレート、2−アクリロイルオキシプロピルハイドロゲンフタレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、オキシエチル化フェノールアクリレート、フェノールEO変性(メタ)アクリレート、パラクミルフェノールEO変性(メタ)アクリレート、ノニルフェノールEO変性(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0045】
また、二官能性アクリレートとしては、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングルコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA EO変性ジ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸EO変性ジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0046】
三官能(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては、ペンタエリスルトールトリアクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエトキシトリアクリレート、トリメチロールプロパンEO変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンPO変性トリアクリレート、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート等が挙げられる。
【0047】
四官能以上の(メタ)アクリレートの具体例としては、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスルトールヘキサアクリレート等が挙げられる。
【0048】
光硬化性(メタ)アクリレート樹脂(F)は、紫外線硬化等の光硬化を行う場合に好ましい。例えば、従来より公知の脂肪族/芳香族ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0049】
具体例として、Ebecryl 210、Ebecryl 8402、Ebecryl 1290K(3品種ともダイセル・ユーシービー製)等の芳香族及び脂肪族ウレタンアクリレート、KAYARAD EAM−2300、KAYARAD R−190(2品種とも日本化薬製)、Ebecryl 600(ダイセル・ユーシービー製)等のエポキシアクリレート、Ebecryl 80、Ebecryl 800、Ebecryl 810(3品種ともダイセル・ユーシービー製)アロニックスM−7100(東亜合成製)等のポリエステルアクリレートが挙げられる。これらの光架橋性(メタ)アクリレート樹脂は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合せてもよい。
【0050】
上記(メタ)アクリレートモノマー、芳香族又は脂肪族ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、及びポリエステルアクリレートのモノマー若しくはオリゴマーは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合せてもよい。しかしながら、これらを選択するときには、取り扱い上、皮膚刺激性(P.P.I.値)が低い化合物が好ましい。
【0051】
本発明のシリコーン含有フッ素系共重合体の少なくとも1種と、アクリル系樹脂(B)、反応性希釈剤(E)、及び光硬化性(メタ)アクリレート樹脂(F)からなる群より選択される少なくとも1種との混合は、ボールミル、ペイントシェーカー、サンドミル、三本ロールミル、ニーダーなどの通常の塗料化に用いられる種々の機器を用いて行うことが出来る。この際、必要に応じて顔料、分散安定剤、粘度調節剤、レベリング剤等を添加して混合することもできる。
【0052】
本発明のシリコーン含有フッ素系共重合体を主成分とする硬化性フッ素樹脂塗料を製造する場合には、種々の溶媒が使用可能であり、例えば、キシレン、トルエン等の芳香族炭化水素類、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、エチルセロソルブ等のグリコールエーテル類、ブタノール等のアルコール類、市販の各種シンナー類等が挙げられるが、特に好ましい溶媒としては、酢酸ブチル、酢酸エチル、トルエン、キシレン、芳香族炭化水素混合物、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、エタノール及びソルベッソ(登録商標)が挙げられる。これらの溶媒は、単独で、又は2種以上の組み合わせで使用できる。
【0053】
【実施例】
次に、本発明を実施例により及び比較実施例との対比によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0054】
〔実施例1〕
内容積1Lのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ(耐圧10MPa)に、脱気した後、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヒドロキシブチルビニルエーテル/ブチルビニルエーテル/反応性シリコーンオイルI(Mw=約4700)を30/40/15/14.97/0.03モル%の組成比で仕込み、重合溶媒に酢酸ブチル、重合開始剤にt−ブチルパーオキシピバレートを使用し、これらを同オートクレーブに仕込み、攪拌しながら内温度を60℃に昇温した。その後、攪拌しながら反応を続け、20時間後反応を終了し、シリコーン含有フッ素系重合体を製造した。該共重合体の硬化塗膜を作成し、塗膜特性を次の方法で調べた。結果を表1に示す。
反応性シリコーンオイルI:CH2=C(CH3)COOC36−Si(CH32−O−[Si(CH32−O]64−Si(CH32−C49
【0055】
【表1】

【0056】
〔硬化塗膜作成条件〕 該シリコーン含有フッ素系重合体の水酸基/NCO基比が1/1となるようにコロネートHX〔日本ポリウレタン工業(株)製〕を加え、コロナ放電処理済みのPETフィルムに#10バーコーターを用いて塗布し、80℃で24時間加熱処理した。
【0057】
〔塗膜表面組成測定〕 使用したXPS装置は、Kratos Analytical Inc.(英国)製の島津/KRATOS AXIS−HSであった。
[測定条件] 測定X線源:単色化AlKα線(60W)、分析面積:2×4mm、測定元素:Si,F,C,O、
[サーベイスキャン測定(定性分析)] 測定エネルギー範囲:0〜1100eV、Pass Energy:160eV、step:1.0eV、Dwell:300ms、帯電中和装置フィラメント:電流2A、電位−1.0V、バイアス電圧−2.7V、take off angle(取り出し角)90°
[マルチスキャン測定(定量・状態分析)] 各元素の測定エネルギー範囲:Si2p 87〜107eV、F1s 678〜698eV、C1s 278〜298eV、O1s 521〜541eV、Pass energy:40eV、step:0.1eV、Dwell:298ms、帯電中和装置フィラメント:電流2A、電位−1.0V、バイアス電圧−2.7V、take off angle(取り出し角)90°
原子組成比(atomic%)は、上記装置のシステムにより求められる。
【0058】
Si(atomic%)=Si/(Si+F+C+O) × 100
F(atomic%) =F/(Si+F+C+O) × 100
によってそれぞれ計算した。
【0059】
表2に、上記組成式に基づいて計算したシリコーン含有フッ素系共重合体塗膜の平均Si量、XPSによる塗膜表面上Si量の実測値、及びXPSによる塗膜表面上F量の実測値を示す。バルクの平均Si量と比較して表面の実測値は高く、表面付近にSi部位が局在していることがわかる。
【0060】
【表2】

【0061】
〔油性マジックはじき性〕 油性マジック(黒・赤マジックインキ:登録商標)により塗膜表面を塗りつぶし、はじき性を評価する(初期)。更にこの塗膜を室温で1時間放置後、乾拭きにより除去する。この操作を20回繰り返した後の塗膜表面のはじき性を5段階評価する。
【0062】
5(良くはじく)〜1(全くはじかない)。
〔油性マジック繰り返し除去性〕 油性マジック(黒・赤マジックインキ:登録商標)により塗膜表面を塗りつぶし、室温で1時間放置後乾拭きにより除去し、その除去性を評価する(初期)。更にこれを20回繰り返した後の塗膜表面の除去性を、5段階評価する。
【0063】
5(完全に除去できる)〜1(全く除去できない)。
〔撥水性〕 水の接触角(単位:度)で評価した。
〔実施例2〜4〕
実施例1で使用の反応性シリコーンオイルIの量を0.1モル%、0.2モル%、0.4モル%に変え、実施例1の操作に準拠して重合体を製造し、それらの重合体を用いて得た塗膜の特性を同様に調べた。結果を表1に示す。
【0064】
〔実施例5〕
実施例1で使用の反応性シリコーンオイルIを、Mw=約2100の反応性シリコーンオイルII(0.03モル%)に変え、実施例1の操作に準拠して重合体を製造し、その重合体を用いて得た塗膜の特性を同様に調べた。結果を表1に示す。
反応性シリコーンオイルII:CH2=C(CH3)COOC36−Si(CH32−O−[Si(CH32−O]25−Si(CH33
〔実施例6〜8〕
実施例5で使用の反応性シリコーンオイルIIの量を0.001モル%、0.002モル%、0.01モル%に変え、実施例5と同様に重合体を製造し、それらの重合体を用いて得た塗膜の特性を同様に調べた。結果を表1に示す。
【0065】
〔実施例9〕
実施例3で使用の反応性シリコーンオイルIを、Mw=約11400の反応性シリコーンオイルIII(0.2モル%)に変え、実施例3と同様に重合体を製造し、その重合体を用いて得た塗膜の特性を同様に調べた。結果を表1に示す。反応性シリコーンオイルIII:CH2=C(CH3)COOC36−Si(CH32−O−[Si(CH32−O]140−Si(CH32−C49
〔実施例10〕
実施例1で得られたシリコーン含有フッ素系共重合体とダイヤナールLR−199(三菱レーヨン(株)製)を固形分換算で5/5となるように混合し、シリコーン含有フッ素系共重合体組成物を作成した。これらの特性を同様に調べた。結果を表1に示す。
【0066】
〔実施例11〕
内容積1Lのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ(耐圧10MPa)に、脱気した後、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヒドロキシブチルビニルエーテル/ブチルビニルエーテル/反応性シリコーンオイルI(Mw=約4700)を30/40/15/14.97/0.03モル%の組成比で仕込み、重合溶媒に酢酸ブチル、重合開始剤にt−ブチルパーオキシピバレートを使用し、これらを同オートクレーブに仕込み、攪拌しながら内温度を60℃に昇温した。その後、攪拌しながら反応を続け、20時間後反応を終了し、水酸基含有共重合体を製造した。続いて、該水酸基含有共重合体の水酸基と2−イソシアネートエチルメタクリレートのイソシアネート基が当量になるように加え反応を行い、不飽和二重結合を含むシリコーン含有フッ素系共重合体を製造した。該重合体の硬化塗膜を下記の条件で作成し、塗膜特性を実施例1と同様に調べた。結果を表1に示す。
【0067】
〔硬化塗膜作成条件〕 上記重合体の50%酢酸ブチル溶液をコロナ放電処理済みのPETフィルムに#10バーコーターを用いて塗布し、80℃で1分間乾燥した後、酸素濃度200ppmの雰囲気下で岩崎電気製電子線照射装置EC250/15/180Lにて加速電圧200kV、線量30kGyの条件にて電子線を照射した。
【0068】
〔実施例12〕
実施例11で得られた不飽和二重結合を含むシリコーン含有フッ素系共重合体の上記50%酢酸ブチル溶液100gと、Ebecryl 80(ダイセル・ユーシービー製ポリエステルアクリレート)30gと、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート20gと、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モンフォリノプロパノン−1−オン(チバガイギー(株)製)5gとを混合してシリコーン含有フッ素系共重合体組成物を作成した。該組成物の硬化塗膜を下記の条件で作成し、塗膜特性を実施例1と同様に調べた。結果を表1に示す。
【0069】
〔硬化塗膜作成条件〕 上記共重合体組成物酢酸ブチル溶液をコロナ放電処理済みのPETフィルムに#10バーコーターを用いて塗布し、80℃で1分間乾燥した後、空気中で250mJ/cm2の紫外線を照射した。
【0070】
〔比較実施例1〕
実施例1の仕込み組成の反応性シリコーンオイルIを除いた仕込み組成で、実施例1と同様に重合体の製造を行い、その塗膜特性を同様に調べた。結果を表1に示す。
【0071】
〔比較実施例2〕
実施例11の仕込み組成の反応性シリコーンオイルIを除いた仕込み組成で、実施例11と同様に重合体の製造を行い、その塗膜特性を実施例11と同様に調べた。結果を表1に示す。
【0072】
〔比較実施例3〕
実施例5で使用の反応性シリコーンオイルIIを0.0008モル%に変え、実施例5と同様に重合体の製造を行い、その塗膜特性を同様に調べた。結果を表1に示す。
【0073】
【発明の効果】
本発明は、防汚性、撥水撥油性、耐薬品性、耐候性等に優れ、且つXPSで測定された塗膜表面に存在するSi原子の原子数が2〜30atomic%を占める塗膜、特に、塗膜表面に存在するSi原子の原子数が2〜30atomic%、F原子の原子数が2〜32atomic%を占めることを特徴とする塗膜に関するものであり、その塗膜表面にSiユニットが偏在するため(すなわち、シリコーン含有フッ素系共重合体中のSi部位が塗膜表面方向へ偏在した状態となるため)、少量の反応性シリコーンオイルの使用で優れた特性を示す塗膜表面を得ることができる。また他樹脂、他モノマーと混合する場合にも本発明の該シリコーン含有フッ素系共重合体中の Siユニットが表面付近に高濃度で局在するため、少量の該共重合体の混合で優れた塗膜表面を得ることができる。
【0074】
本発明のシリコーン含有フッ素系共重合体及び組成物の硬化塗膜は、優れた特性(防汚性、撥水撥油性、耐薬品性、耐候性等)を有するため、内装用途(壁、床、家具等)のような防汚性の要求される分野、離型フィルム用途、屋外用途(外壁、フィルム等)のような耐候性の要求される分野、落書き防止用途等に好適である。また大型建造物、運輸車両、船舶等の内外塗装用に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に塗布されたシリコーン含有フッ素系共重合体を含む組成物から形成された塗膜であって、X線光電子分光法により測定された塗膜表面に存在するSi原子の原子数が2〜30atomic%を占めることを特徴とする塗膜。
【請求項2】
X線光電子分光法により測定された塗膜表面に存在するF原子の原子数が2〜32atomic%を占めることを特徴とする請求項1の塗膜。
【請求項3】
基材表面上に塗布されたシリコーン含有フッ素系共重合体を含む組成物から形成された塗膜であって、X線光電子分光法により測定された塗膜表面に存在するSi原子の原子数とF原子の原子数との比(Si/F値)が0.0625〜10.0であることを特徴とする上記塗膜。
【請求項4】
水との接触角が98〜110度を示す請求項1〜3のいずれの撥水性塗膜。
【請求項5】
塗膜の厚みが0.0001〜0.5mmである請求項1〜4のいずれかの塗膜。
【請求項6】
基材がアクリル材、木材、プラスチック、金属、グラファイト、紙、コンクリート、不燃材、ガラスから選択される請求項1〜5のいずれかの塗膜。
【請求項7】
重合単位として、(a)フルオロオレフィンを15〜85モル%;及び(b)式(1)、(2)及び(3)からなる群より選択される1種以上の反応性シリコーンを0.001〜30モル%;を含むことを特徴とする反応性シリコーン含有フッ素系共重合体(A)を用いて形成された請求項1〜6のいずれかの塗膜。

(ここで、R1は、CH2=C(CH3)COO(CH2r1−、CH2=CHCOO(CH2r1−、又はCH2=CH−を示す。R2は、炭素数1〜12のアルキル基、CH2=C(CH3)COO(CH2r2−、CH2=CHCOO(CH2r2−、又はCH2=CH−を示す。nは20〜150の整数、r1は1〜6の整数、r2は1〜6の整数を示す。)
2−Si[OSi(CH333 (2)
CH2=C(R3)Si(R4)(R5)(R6) (3)
(ここで、R3は水素原子又はメチル基を表す。R4、R5、及びR6は、それぞれ水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、sec−ブチル基、フェニル基、置換フェニル基、−CF3、−C24CF3、−OSi(CH33を示す。R4、R5、R6は、それぞれ同一又は異なっていてもよい。)
【請求項8】
重合単位として、(a)フルオロオレフィンを15〜85モル%;及び(b)式(4)〜(8)からなる群より選択される1種以上の反応性シリコーンを0.001〜30モル%;を含むことを特徴とする反応性シリコーン含有フッ素系共重合体(A’)を用いて形成された請求項1〜6のいずれかの塗膜。
CH2=C(CH3)COOC36−Si(CH32−O−[Si(CH32−O]p−Si(CH32−R7 (4)
(ここで、R7は炭素数1〜12のアルキル基又はCH2=CH−を示す。pは25〜150の整数を示す。)
CH2=CHCOOC36−Si(CH32−O−[Si(CH32−O]s−Si(CH32−R8 (5)
(ここで、R8は炭素数1〜12のアルキル基又はCH2=CH−を示す。sは25〜150の整数を示す。)

(ここで、R9は、CH2=C(CH3)COO(CH23−又はCH2=CHCOO(CH23−を示す。qは20〜150の整数を示す。)
CH2=CH−Si(CH32−O−[Si(CH32−O]y−Si(CH32−R10 (7)
(ここで、R10は炭素数1〜12のアルキル基又はCH2=CH−を示す。yは25〜150の整数を示す。)
CH2=C(CH3)COOC36−Si[OSi(CH333 (8)
【請求項9】
重合単位として(a)フルオロオレフィンを15〜85モル%;(b)式(1)、(2)及び(3)から選択される1種以上の反応性シリコーンを0.001〜30モル%;及び(c)水酸基含有不飽和単量体を1〜50モル%;より構成される、水酸基を含有した反応性シリコーン含有フッ素系共重合体(C);と
不飽和イソシアネート(d)
との反応により生成されたシリコーン含有フッ素系共重合体(D)を用いて形成された請求項1〜6のいずれかの塗膜。
【請求項10】
シリコーン含有フッ素系共重合体(A)、(A’)、及び(D)からなる群より選択される1種以上のフッ素系共重合体と;アクリル系樹脂(B)、反応性希釈剤(E)、及び光硬化性(メタ)アクリレート樹脂(F)からなる群より選択される1種以上の成分と;を含む樹脂組成物を用いて形成された請求項1〜6のいずれかの塗膜。
【請求項11】
樹脂組成物が、シリコーン含有フッ素系共重合体5〜95重量%と、アクリル系樹脂(B)95〜5重量%とを含む請求項10記載の塗膜。
【請求項12】
樹脂組成物が、反応性希釈剤(E)及び光硬化性(メタ)アクリレート樹脂(F)の少なくとも1種を含む請求項10又は11の塗膜。
【請求項13】
シリコーン含有フッ素系共重合体が不飽和二重結合を含有する請求項7〜12のいずれかの塗膜。
【請求項14】
シリコーン含有フッ素系共重合体(A)、(A’)、及び(D)からなる群より選択される1種以上の共重合体を含む組成物を塗布し;該組成物を硬化させ;X線光電子分光法により測定された塗膜表面に存在するSi原子の割合を2〜30atomic%とし、F原子の割合を2〜32atomic%とする;塗膜製造方法。

【公開番号】特開2006−167490(P2006−167490A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2002−329711(P2002−329711)
【出願日】平成14年11月13日(2002.11.13)
【出願人】(000157119)関東電化工業株式会社 (68)
【Fターム(参考)】