説明

新規なジアミノベンゼン誘導体、それを用いたポリイミド前駆体およびポリイミド、並びに液晶配向処理剤

液晶配向膜用樹脂の原料として特に有用な新規なジアミン、該ジアミンを使用し合成されるポリイミド前駆体またはポリイミド、さらに、該重合体を含有してなる、液晶のプレチルト角が高く、プレチルト角の熱安定性に優れ、かつプレチルト角のラビング圧力に対する依存性が小さい液晶配向膜が得られる液晶配向処理剤を提供する。
一般式[1](式中、XおよびXは環状基を表し、Xはアルキル基、アルコキシ基、フッ素含有アルキル基、フッ素含有アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびシアノ基から選ばれるものである)で表されるジアミノベンゼン誘導体、該ジアミノベンゼン誘導体を原料の一部として使用し合成されるポリイミド前駆体またはポリイミド、これら重合体のうち少なくとも一種を含有する液晶配向処理剤。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、新規なジアミノベンゼン誘導体、該化合物を原料の一部として使用し合成されるポリイミド前駆体およびポリイミド、並びにこれら重合体を含有してなる液晶配向処理剤に関するものである。
【背景技術】
従来、ポリイミドはその特徴である高い機械的強度、耐熱性、耐溶剤性のために、電気・電子分野における保護材料、絶縁材料、液晶表示素子の液晶配向膜として広く用いられている。特に液晶配向膜においては、塗膜表面の均質性と耐久性ゆえに、ポリイミドまたはポリイミド前駆体であるポリアミド酸を塗布して用いるものが殆どである。しかし、近年、電気・電子分野の発展は目覚ましく、それに対応して、用いられる材料に対してもますます高度な特性が要求されるようになってきており、ポリイミドに関しても、従来にはない新たな特性の付与が必要になってきている。
ポリイミドに新たな特性を付与する場合は、ポリイミドの原料となるテトラカルボン酸誘導体やジアミンに新たな構造を導入し、数種類の原料と組み合わせて用いる手段が簡便かつ有効である。特にジアミンは、テトラカルボン酸誘導体と比較すると、目的とする構造を導入した化合物の合成が容易なことから、新たな特性の付与を目的として、特定構造を有するジアミンをポリイミドの原料として用いることが従来から行われている。
ところで、液晶配向膜に求められる特性のひとつとして、液晶に高いプレチルト角を付与することが挙げられる。この課題に対し、長鎖アルキル基やフルオロアルキル基を側鎖部位に有するジアミンを原料に用いたポリイミド液晶配向膜において、高いプレチルト角を得られることが知られている(例えば、特開平2−282726号公報参照。)。また、芳香族基、脂肪族環基、複素環基などを側鎖部位に有するジアミンを原料に用いた場合にも、同様に高いプレチルト角が得られる事が知られている(例えば、特開平3−179323号公報参照。)。
しかしながら、液晶表示の高密度化、高性能化が図られる中で、単に高いプレチルト角が得られるだけでなく、液晶表示素子の製造プロセスに対するプレチルト角の安定性、液晶表示素子の使用環境に対するプレチルト角の安定性といったものが重要となってきている。例えば、液晶表示素子を液晶のアイソトロピック温度以上に加熱(以下アイソトロピック処理と称す)した際に、プレチルト角が低下してしまう場合があった。これは、特にプレチルト角が高い場合、あるいは液晶配向膜形成時の硬化温度が低い場合などにはプレチルト角の低下が一層顕著となる。また、液晶配向膜形成時の硬化温度が高い場合には、高いプレチルト角が得られなかったり、プレチルト角にバラツキを生じたりする場合があった。これらの課題に対して、本発明の出願人は、芳香環、脂肪族環、および複素環から選ばれる環状置換基と、脂肪族環と、長鎖アルキル基と、からなる構造を、側鎖部位に有するジアミンを原料に用いたポリイミド液晶配向膜を既に報告している(特開平9−278724号公報参照。)。
その他、液晶のプレチルト角に関連する課題としては、ラビング処理におけるプレチルト角の安定性が挙げられ、特に、ラビング圧力に対してプレチルト角の大きさの依存性が大きい場合には、液晶表示素子を安定製造する上で問題となる。ところが、従来から提案されているプレチルト角を高める為のジアミンだけでは、特性的に不十分な場合があり、同時に用いるポリイミド原料を適宜選択する必要があった。即ち、熱に対するプレチルト角の安定性だけでなく、ラビング処理条件に対する安定性も兼ね備えた、プレチルト角を高める為のジアミンの開発が望まれていた。
【発明の開示】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであって、その課題は、液晶配向膜用樹脂の原料として用いた場合に特に有用な新規なジアミンであり、詳しくはプレチルト角を高める効果が大きく、加えてプレチルト角の熱安定性に優れ、プレチルト角のラビング圧力に対する依存性が小さい液晶配向膜の原料となる新規なジアミンを提供すること、および、このジアミンを原料の一部として使用し合成されるポリイミド前駆体またはポリイミドを提供すること、並びにこれら重合体を含有してなる、液晶のプレチルト角が高く、プレチルト角の熱安定性に優れ、加えてプレチルト角のラビング圧力に対する依存性が小さい液晶配向膜を得ることができる液晶配向処理剤を提供することにある。
本発明者らは上記課題に対し鋭意検討した結果、特定構造のジアミノベンゼン誘導体を見いだした。
すなわち、上記の課題は、一般式[1]

(式中、XおよびXは独立してベンゼン環、シクロヘキサン環、および複素環から選ばれる環状基を表し、これらの環状基上の任意の水素原子は、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、炭素数1〜3のフッ素含有アルキル基、炭素数1〜3のフッ素含有アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびシアノ基から選ばれるもので置換されていても良く、nは0または1の整数であり、Xは炭素数1〜32のアルキル基、炭素数1〜32のアルコキシ基、炭素数1〜32のフッ素含有アルキル基、炭素数1〜32のフッ素含有アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびシアノ基から選ばれるものである)で表されるジアミノベンゼン誘導体、一般式[1]で表されるジアミノベンゼン誘導体を原料の一部として使用し合成されるポリイミド前駆体またはポリイミド、一般式[1]で表されるジアミノベンゼン誘導体を原料の一部として使用し合成されるポリイミド前駆体またはポリイミドの少なくとも一種を含有する液晶配向処理剤、により達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のジアミノベンゼン誘導体は、一般式[1]で表される構造からなるものであり、通常の1級ジアミンと同様に、様々な高分子の原料として用いることができる。特に、液晶配向膜用樹脂の原料として用いた場合に有用な、新規なジアミンである。
一般式[1]で表される本発明のジアミノベンゼン誘導体は、主骨格を構成する3,5−ジアミノベンジルエーテル部[1a]と、側鎖を構成する−X−(X)n−Xとからなる。

上記[1a]は、ジアミノベンゼン骨格であることにより、重合体としたときの側鎖密度を高くすることができ、さらに、側鎖との結合基としてメチレンエーテル結合(−CHO−)を有し、これに対しアミノ基を3,5−の位置とすることにより、アミノ基の重合反応性を高める効果がある。また、側鎖の結合位置がアミノ基から離れることで、重合体としたときに側鎖が重合体主鎖から離れ、液晶配向膜においてはプレチルト角を高める効果が高くなる。一方、側鎖は、環状構造を有することにより、側鎖の熱安定性を高める効果がある。本発明のジアミノベンゼン誘導体で最も重要なのは、重合体の主鎖の一部となるベンゼン環と、側鎖の環状基との結合に、メチレンエーテル結合(−CHO−)を用いたことにあり、ジアミノベンジル環状基エーテル構造とすることにより、重合体を液晶配向膜として用いた際に、プレチルト角の熱安定性に加え、ラビング圧力に対する安定性も有するようになる。
一般式[1]において、XおよびXは独立してベンゼン環、シクロヘキサン環、および複素環から選ばれる環状基である。複素環の具体例としては、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピラゾール環、ピロリン環、ピロリジン環、ピリジン環、ピリミジン環などが挙げられる。これら環状基上の任意の水素原子は、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、炭素数1〜3のフッ素含有アルキル基、炭素数1〜3のフッ素含有アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびシアノ基から選ばれるもので置換されていても良い。しかし、原料の入手性、および合成反応の容易性の観点からは、無置換であるものが最も好ましく、次いでメチル基、メトキシ基、トリフルオロメチル基、トリフルオロメトキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはシアノ基が好ましい。
上記環状基のうち、原料の入手性、合成反応の容易性、および液晶配向膜用途に用いた場合の、液晶の配向性の観点から、ベンゼン環またはシクロヘキサン環が好ましい。さらには、液晶配向膜用途に用いた場合の、液晶の配向性の観点から、これらベンゼン環またはシクロヘキサン環の結合は、6員環の1および4の位置で結合されている事が好ましい。
一般式[1]において、nは0または1であるが、液晶配向膜用途に用いた場合に、プレチルト角を高める効果、およびプレチルト角の熱安定性を高める効果において、nは1であることが好ましい。ただし、後述するXが、炭素数1〜32のフッ素含有アルキル基、または炭素数1〜32のフッ素含有アルコキシ基である場合は、上記効果が、これらXにより補われるので、nが0であっても良い。
一般式[1]において、Xは、炭素数1〜32のアルキル基、炭素数1〜32のアルコキシ基、炭素数1〜32のフッ素含有アルキル基、炭素数1〜32のフッ素含有アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびシアノ基から選ばれるものである。アルキル基、アルコキシ基、フッ素含有アルキル基、およびフッ素含有アルコキシ基は、直鎖状であっても分岐構造を持つものであっても良い。
上記Xは、原料の入手性の観点からは、炭素数1〜22のアルキル基、炭素数1〜22のアルコキシ基、炭素数1〜12のフッ素含有アルキル基、炭素数1〜12のフッ素含有アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、またはシアノ基が好ましい。また、液晶配向膜用途に用いた場合に、液晶のプレチルト角を高める効果およびプレチルト角の安定性の観点からは、Xは、炭素数5〜22のアルキル基、炭素数5〜22のアルコキシ基、炭素数5〜12のフッ素含有アルキル基、または炭素数5〜12のフッ素含有アルコキシ基が好ましく、より好ましくは、炭素数5〜12のアルキル基、炭素数5〜12のアルコキシ基、炭素数5〜8のフッ素含有アルキル基、または炭素数5〜8のフッ素含有アルコキシ基である。炭素数が大きいほど、ポリイミド前駆体およびポリイミドの撥水性を高める効果が大きくなる。また、液晶配向膜用途に用いた場合に、Xは、炭素数が大きいほど、液晶のプレチルト角を高める効果が大きくなるが、炭素数が大きすぎると、プレチルト角の安定性が低下する傾向にある。
以上に述べた観点より、本発明のジアミノベンゼン誘導体の中で、より好ましい形態を下記に示す。

上記、構造[2]〜[5]において、Xは炭素数5〜12のアルキル基、炭素数5〜12のアルコキシ基、炭素数5〜8のフッ素含有アルキル基、および炭素数5〜8のフッ素含有アルコキシ基から選ばれる有機基である。
ジアミノベンゼン誘導体の合成
本発明の一般式[1]で表されるジアミノベンゼン誘導体の合成方法は、特に限定されるものではないが、例えば以下に述べる方法で合成することができる。

本発明の一般式[1]で表されるジアミン化合物は、対応する一般式[6]で示すジニトロ体を合成し、さらにニトロ基を還元してアミノ基に変換することで得られる。ジニトロ化合物を還元する方法には、特に制限はなく、通常、パラジウム−炭素、酸化白金、ラネーニッケル、白金黒、ロジウム−アルミナ、硫化白金炭素などを触媒として用い、酢酸エチル、トルエン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アルコール系などの溶媒中、水素ガス、ヒドラジン、塩化水素などを用いた反応によって行う方法がある。
一般式[6]で示すジニトロ体は、置換基XおよびXに置換基Xを結合させ、その後にジニトロ部を連結部メチレンエーテル基(−CHO−)を介して結合させ、合成することができる。
連結部メチレンエーテル基(−CHO−)は通常の有機合成的手法で形成させることができる。具体的には、対応するジニトロ基含有ベンジルハロゲン誘導体と置換基Xを含む置換基XおよびXの水酸基置換誘導体をアルカリ存在下で反応させるか、または、対応するジニトロ基含有ベンジルアルコール誘導体と置換基Xを含む置換基XおよびXのハロゲン置換誘導体をアルカリ存在下で反応させる方法が一般的である。
上述のジニトロ基含有ベンジルハロゲン誘導体またはジニトロ基含有ベンジルアルコール誘導体には、3,5−ジニトロベンジルクロリド、3,5−ジニトロベンジルブロミド、3,5−ジニトロベンジルアルコールなどがある。原料の入手性、反応の点からこれらの組み合わせは目的に応じ適宜選択される。なお、ここに示した化合物は一例である。
とXとの結合は単結合であり、これを形成する方法は種々あるが、グリニヤ反応、芳香環のフリーデルクラフツアシル化法などの一般的有機合成手法を用いることで適宜連結することが可能である。
にXを結合させる方法は特に限定されるものではない。具体的には、Xがアルキル基またはフッ素含有アルキル基の場合、グリニヤ反応、芳香環のフリーデルクラフツアシル化法、キシュナー還元法などの一般的有機合成手法を用いることで得ることが可能である。また、Xがアルコキシ基またはフッ素含有アルコキシ基の場合、Xのハロゲン誘導体とXの水酸基置換誘導体をアルカリ存在下で反応させるか、または、Xの水酸基置換誘導体とXのハロンゲン誘導体をアルカリ存在下で反応させる方法が一般的である。
ポリイミド前駆体およびポリイミド
本発明のポリイミド前駆体およびポリイミドは、一般式[1]で表されるジアミノベンゼン誘導体を原料の一部として使用し、合成されたポリイミド前駆体またはポリイミド(以下、特定重合体とする)である。この特定重合体は、撥水性等の表面特性を有する塗膜用の樹脂材料として用いることができ、特に高いプレチルト角を必要とする液晶表示素子の液晶配向膜用樹脂として用いた場合に有用である。
本発明の特定重合体を合成する方法は特に限定されないが、一般的なポリイミド前駆体またはポリイミドの合成方法と同様に、ジアミン成分と、テトラカルボン酸またはテトラカルボン酸ジハライド、テトラカルボン酸二無水物などのテトラカルボン酸誘導体とを反応させる方法を用いることができる。このジアミン成分として一般式[1]で表されるジアミノベンゼン誘導体を用いることにより、本発明の特定重合体を合成することができる。
本発明の特定重合体を得るために使用されるテトラカルボン酸およびその誘導体は特に限定されない。あえて、その具体例を挙げると、ピロメリット酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸、1,2,5,6−アントラセンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3,3’,4−ビフェニルテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、3,3’4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジフェニルシラン、2,3,4,5−ピリジンテトラカルボン酸、2,6−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ピリジンなどの芳香族テトラカルボン酸若しくはこれらの二無水物、またはこれらのジカルボン酸ジ酸ハロゲン化物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸などの脂環式テトラカルボン酸およびこれらの二無水物並びにこれらのジカルボン酸ジ酸ハロゲン化物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸などの脂肪族テトラカルボン酸若しくはこれらの二無水物、またはこれらのジカルボン酸ジ酸ハロゲン化物などが挙げられる。
液晶配向膜用途としては、塗膜の透明性の点から脂環式テトラカルボン酸若しくはこれらの二無水物、またはこれらのジカルボン酸ジ酸ハロゲン化物が好ましく、特に1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物、ビシクロ[3,3,0]−オクタン−テトラカルボン酸、または3,5,6−トリカルボキシノルボルナン−2:3,5:6二無水物が好ましい。また、これらのテトラカルボン酸若しくはその誘導体の1種類または2種類以上を混合して使用することもできる。
本発明の特定重合体は、ジアミン成分として、一般式[1]で表されるジアミノベンゼン誘導体(以下、ジアミン[1]とする)と、それ以外の一般のジアミン(以下、一般ジアミンとする)とを用いた共重合体であっても良い。
この際用いられる一般ジアミンは、ポリイミド前駆体またはポリイミドの合成に使用される一般的な1級ジアミンであって、特に限定されるものではない。あえて、その具体例を挙げれば、p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,5−ジアミノトルエン、2,6−ジアミノトルエン、4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニルジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジアミノジフェニルプロパン、ビス(3,5−ジエチル−4−アミノフェニル)メタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノベンゾフェノン、ジアミノナフタレン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、9,10−ビス(4−アミノフェニル)アントラセン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパンなどの芳香族ジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタンなどの脂環式ジアミンおよびテトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどの脂肪族ジアミン、さらには、

(式中、mは1〜10の整数を表す)
で示されるようなジアミノシロキサン等が挙げられる。また、これらのジアミンは1種類または2種類以上を混合して使用することもできる。
本発明の特定重合体を合成する際に、使用するジアミンの総モル数に対するジアミン[1]のモル数の割合は任意に調節することができ、ジアミン[1]の含有割合に応じて、得られた特定重合体の表面特性(例えば撥水性など)を改質できる。特に、特定重合体を液晶配向膜として用いる場合には、液晶との塗れ性を変化させたり、液晶のプレチルト角を高めることが可能である。この際、使用するジアミンの総モル数に対するジアミン[1]のモル数の割合は1モル%以上である。ジアミン[1]が1モル%未満であると、表面特性の改質効果はあまり期待できない。
また、液晶配向膜として用いる場合、ジアミン[1]の含有割合が多いほど液晶のプレチルト角は高くなり、必要とされるプレチルト角に応じて、ジアミン[1]の含有割合を調節すれば良い。側鎖構造の選択により、プレチルト角を高める効果が異なるので一概には言えないが、例えば、必要とするプレチルト角が数度から数十度程度であれば、ジアミン[1]の含有割合は1モル%〜49モル%の範囲が好ましく、また、垂直配向を必要とするならば、ジアミン[1]の含有割合は25モル%〜100モル%が好ましい。
テトラカルボン酸またはその誘導体とジアミン成分との反応により、本発明の特定重合体を得るにあたっては、公知の合成手法を用いることができる。一般的な合成方法は、テトラカルボン酸の誘導体としてテトラカルボン酸二無水物を用い、有機溶媒中でジアミン成分と反応させて、ポリイミド前駆体であるポリアミド酸を得る方法、及び、このポリアミド酸を脱水閉環させてポリイミドを得る方法である。テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応は、有機溶媒中で比較的容易に進行し、かつ副生成物が発生しない点で有利であり、また得られたポリアミド酸は、ポリイミドに転化させる際の副生成物が水なので環境安全面で有利である。よって、本発明のポリイミド前駆体もポリアミド酸が好ましい。
テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分との反応に用いる有機溶媒としては、生成したポリアミド酸が溶解するものであれば特に限定されない。あえてその具体例を挙げるならば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等を挙げることができる。これらは単独でも、また混合して使用してもよい。さらに、ポリアミド酸を溶解させない溶媒であっても、生成したポリアミド酸が析出しない範囲で、上記溶媒に混合して使用してもよい。また、有機溶媒中の水分は重合反応を阻害し、さらには生成したポリアミド酸を加水分解させる原因となるので、有機溶媒はなるべく脱水乾燥させたものを用いることが好ましい。
テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分とを有機溶媒中で反応させる方法としては、ジアミン成分を有機溶媒に分散あるいは溶解させた溶液を攪拌させ、テトラカルボン酸二無水物をそのまま、または有機溶媒に分散あるいは溶解させて添加する方法、逆にテトラカルボン酸二無水物を有機溶媒に分散あるいは溶解させた溶液にジアミン成分を添加する方法、テトラカルボン酸二無水物とジアミン成分とを交互に添加する方法などが挙げられ、これらのいずれの方法であっても良い。また、テトラカルボン酸二無水物またはジアミン成分が複数種の化合物からなる場合は、あらかじめ混合した状態で反応させても良く、個別に順次反応させても良く、個別に反応させた低分子量体を混合反応させ高分子量体としても良い。
上記のポリアミド酸合成時の温度は−20〜150℃の任意の温度を選択することができるが、好ましくは−5〜100℃の範囲である。また、反応は任意の濃度で行うことができるが、濃度が低すぎると高分子量の重合体を得ることが難しくなり、濃度が高すぎると反応液の粘性が高くなり過ぎて均一な攪拌が困難となるので、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%である。反応初期は高濃度で行い、その後、有機溶媒を追加しても構わない。
ポリアミド酸の合成反応において、テトラカルボン酸二無水物のモル数に対する、ジアミン成分のモル数(ジアミン[1]と一般ジアミンの総モル数)の比は0.8〜1.2であることが好ましい。通常の重縮合反応同様、このモル比が1.0に近いほど生成するポリアミド酸の分子量は大きくなる。
本発明において特定重合体の分子量が小さすぎると、そこから得られる塗膜の強度が不十分となる場合があり、逆に特定重合体の分子量が大きすぎると、塗膜形成時の作業性、塗膜の均一性が悪くなる場合がある。従って、本発明における特定重合体の分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography)法で測定した重量平均分子量で1万〜100万とするのが好ましい。
ポリアミド酸を脱水閉環させてポリイミドを得る方法としては、ポリアミド酸の溶液をそのまま加熱する熱イミド化、またはポリアミド酸の溶液に触媒を添加する触媒イミド化が一般的である。比較的低温でイミド化反応が進行する触媒イミド化の方が、得られるポリイミドの分子量低下が起こりにくく好ましい。
ポリアミド酸を溶液中で熱イミド化させる場合の温度は、100〜400℃、好ましくは120〜250℃であり、脱水閉環反応により生成する水を、系外に除きながら行う方が好ましい。
ポリアミド酸の触媒イミド化は、ポリアミド酸の溶液に、ピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等の塩基性触媒と、無水酢酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等の酸無水物とを添加し、−20〜250℃、好ましくは0〜180℃で攪拌することにより行うことができる。塩基性触媒の量はアミド酸基の0.5〜30モル倍、好ましくは2〜20モル倍であり、酸無水物の量はアミド酸基の1〜50モル倍、好ましくは3〜30モル倍である。塩基性触媒や酸無水物の量が少ないと反応が十分に進行せず、また多すぎると反応終了後に完全に除去することが困難となる。塩基性触媒中でもピリジンは反応を進行させるのに適度な塩基性を持つので好ましく、また、酸無水物の中でも無水酢酸を用いると反応終了後の精製が容易となるので好ましい。触媒イミド化によるイミド化率は、触媒量と反応温度、反応時間を調節することにより制御することができる。
本発明の特定重合体の反応溶液から、特定重合体を回収するには、反応液を貧溶媒に投入して沈殿させれば良い。特定重合体の沈殿回収に用いる貧溶媒としては特に限定されないが、メタノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼンなどを挙げることができる。貧溶媒に投入して沈殿させた特定重合体は濾過して回収した後、常圧あるいは減圧下で、常温あるいは加熱乾燥して粉末とすることが出来る。また、沈殿回収した特定重合体を、有機溶媒に再溶解させ、再沈殿回収する操作を2〜10回繰り返すと、特定重合体中の不純物を少なくすることができる。この際の貧溶媒として例えばアルコール類、ケトン類、炭化水素など3種類以上の貧溶媒を用いると、より一層精製の効率が上がるので好ましい。
液晶配向処理剤
本発明の液晶配向処理剤は、液晶配向膜を形成するための組成物であり、前述した特定重合体(即ち、一般式[1]で表されるジアミノベンゼン誘導体を原料の一部として使用し合成されるポリイミド前駆体またはポリイミド)の、少なくとも一種を含有することを特徴とする。また、その形態は特に限定されないが、液晶配向膜として使用するに際して、基板上に0.01〜1.0μmの均一な薄膜を形成する必要があることから、特定重合体を有機溶媒に溶解させた塗布液であることが好ましい。
本発明の液晶配向処理剤である塗布液を得るには、特定重合体の反応溶液を有機溶媒で希釈する方法、沈殿回収した特定重合体を有機溶媒に溶解させる方法などが挙げられる。塗布液の固形分濃度は、得ようとする液晶配向膜の膜厚によって適宜変更することができるが、1〜10重量%とすることが好ましい。1重量%未満では均一で欠陥のない塗膜を形成させることが困難となり、10重量%よりも多いと1μm以下の薄膜を形成することが困難になる場合がある。
本発明の液晶配向処理剤には、特定重合体の反応溶液をそのまま用いても、沈殿回収したものを用いても構わないが、触媒イミド化をさせたポリイミド溶液の場合には、溶液中に残存する塩基性触媒や酸無水物が液晶表示素子に悪影響を及ぼす場合があるので、沈殿回収してから用いる方が好ましい。
特定重合体を溶解させる有機溶媒としては、特定重合体が溶解するものであれば特に限定されない。その具体例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、2−ピロリドン、N−エチルピロリドン、N−ビニルピロリドン、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ピリジン、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン等を挙げることができ、これらは1種類でも複数種類を混合して用いても良い。また、これらの有機溶媒は、塗布液の希釈にも用いることができる。
本発明の液晶配向処理剤は、特定重合体及び特定重合体を溶解させる溶媒の他、塗膜形成時の膜厚均一性を向上させる溶媒や化合物、塗膜と基板との密着性を向上させる化合物などを適宜含有させることが好ましい。これらの成分は、あらかじめ準備した特定重合体の溶液に、後から添加すれば良い。
塗膜形成時の膜厚均一性を向上させる溶媒の具体例としては、次のものが挙げられる。エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、プロピレングリコール−1−モノエチルエーテル−2−アセテート、ジプロピレングリコール、2−(2−エトキシプロポキシ)プロパノール、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n−プロピルエステル、乳酸n−ブチルエステル、乳酸イソアミルエステルなどの低表面張力を有する溶媒。これらの溶媒は1種類でも複数種類を混合して用いても良い。上記のような溶媒を含有させる場合は、その溶媒の合計量が全溶媒中の5〜80重量%であることが好ましく、より好ましくは20〜60重量%である。5重量%未満では効果があまり期待できず、また、これらの溶媒は一般的に特定重合体を溶解する能力が低いので、80重量%よりも多くなると特定重合体が析出する場合がある。
塗膜と基板との密着性を向上させる化合物の具体例としては、次に示すものが挙げられる。3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−アミノプロピルトリメトキシシラン、2−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−エトキシカルボニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−トリエトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、N−トリメトキシシリルプロピルトリエチレントリアミン、10−トリメトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、10−トリエトキシシリル−1,4,7−トリアザデカン、9−トリメトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、9−トリエトキシシリル−3,6−ジアザノニルアセテート、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ベンジル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−ビス(オキシエチレン)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,3,5,6−テトラグリシジル−2,4−ヘキサンジオール、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−4,4’−ジアミノジフェニルメタンなどの官能性シラン含有化合物やエポキシ基含有化合物。これら化合物を添加する場合は、全ポリマー重量に対して0.1〜30重量%であることが好ましく、より好ましくは1〜20重量%である。0.1重量%未満であると密着性向上の効果は期待できず、30重量%よりも多くなると液晶の配向性が悪くなる場合がある。
本発明の液晶配向処理剤には、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、特定重合体以外の重合体成分や化合物が含有されていても構わない。また、液晶配向膜の誘電率や導電性などの電気特性を変化させる目的で、誘電体や導電物質などを添加しても構わない。
本発明の液晶配向処理剤は、基板上に塗布、焼成した後、ラビング処理や光照射などで配向処理をして、または垂直配向用途などでは配向処理無しで液晶配向膜として用いることができ、特にラビングして液晶配向膜とする用途において有用である。
本発明の液晶配向処理剤の塗布方法は特に限定されないが、液晶配向膜の場合、膜厚、塗膜の寸法精度、表面の均一性が特に重要となることから、工業的には、液晶配向処理剤の塗布液を用いて、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷等の印刷機により行う方法が一般的である。その他、塗布液を用いる方法としては、ディップ、ロールコーター、スピンナーなどがあり、目的に応じてこれらを用いてもよい。これらの方法により基板上に塗布した後、ホットプレートなどの加熱手段により50〜150℃、好ましくは80〜120℃で溶媒を蒸発させて、塗膜を形成させることができる。
本発明の液晶配向処理剤に含有される特定重合体が、ポリイミド前駆体である場合は、基板上に塗膜を形成した後、焼成することによりポリイミド塗膜とすることができる。この焼成は、100〜350℃の任意の温度で行うことができるが、好ましくは150〜300℃であり、さらに好ましくは200〜250℃である。この焼成温度が高いほど、ポリイミドへの変化率は高くなるが、液晶配向膜として用いる際に、必ずしも完全なポリイミドである必要はなく、ポリイミド前駆体とポリイミドが混在するの状態でも構わない。ただし、その後の液晶セル製造行程で必要とされる熱処理温度よりも、10℃以上高い温度で焼成することが好ましい。また、本発明の液晶配向処理剤に含有される特定重合体が、ポリイミドである場合は、必ずしも焼成工程は必要とされない。ただし、その後の液晶セル製造行程で必要とされる熱処理温度よりも、10℃以上高い温度で焼成することが好ましい。
本発明の液晶配向処理剤から得られた液晶配向膜は、公知の方法で液晶セルを作成し、液晶表示素子とすることができる。液晶セル作成の一例を挙げるならば、液晶配向膜の形成された1対の基板を、1〜30μm、好ましくは2〜10μmのスペーサーを挟んで、配向処理方向が0〜270°の任意の角度となるように設置して周囲をシール剤で固定し、液晶を注入して封止する方法が一般的である。液晶封入の方法については特に制限されず、作製した液晶セル内を減圧にした後液晶を注入する真空法、液晶を滴下した後封止を行う滴下法などが例示できる。
このようにして、本発明の液晶配向処理剤を用いて作製した液晶表示素子は、高くて安定した液晶のプレチルト角が得られるので、高いプレチルト角を必要とする液晶表示素子に好適に用いられる。
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【実施例1】
ジアミン{3}の合成

1000mlの4つ口フラスコにビフェノール(100.00g,0.538mol)、1−ブロモオクタン(103.90g,0.538mol)、炭酸カリウム(111.54g,0.807mol)、およびN,N’−ジメチルアセトアミド(DMAc)(400ml)を入れ、反応温度110℃で10時間攪拌した。反応終了後、濾過により炭酸カリウムを除いた。濾液を減圧留去し、残渣に1N−水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を加え、析出した固体を濾過により取り出した。得られた固体をメタノールで再結晶したところ、無色結晶{1}(76.55g,48%,mp:149−154℃)を得た。
1H−NMR(CDCl3,δppm):7.41−7.46(4H,m),6.94(2H,d),6.88(2H,d),4.73(1H,s),3.98(2H,t),1.80(2H,m),1.47(2H,m),1.30(8H,m),0.89(3H,t).
300mlの4つ口フラスコに3,5−ジニトロベンジルクロリド(13.04g,60.21mmol)、{1}(18.08g,60.56mmol)、およびテトラヒドロフラン(THF)(200ml)を入れ、室温で溶液が均一になるまで攪拌した。その後、NaOH水溶液(NaOH(0.27g)/HO(50ml))をゆっくり滴下した。滴下後、13時間緩やかに還流した。反応溶液を減圧留去し残渣に水を加え、固体を濾別した。得られた固体をメタノールで洗浄し、その後エタノールで再結晶したところ、黄色結晶{2}(21.55g,75%,mp:111−112℃)を得た。
1H−NMR(CDCl3,δppm):9.01(1H,S),8.67(2H,S),7.51(2H,d),7.46(2H,d),7.04(2H,d),6.95(2H,d),5.28(2H,S),3.99(2H,t),1.80(2H,m),1.47(2H,m),1.32(8H,m),0.89(3H,t).
500mlの4つ口フラスコに{2}(10.00g,20.90mmol)、およびジオキサン(300ml)を入れ、反応容器を窒素置換した後、酸化白金(IV)(PtO)(1.00g)を入れた。反応容器中を水素雰囲気下にし、60℃で7時間、室温で14時間攪拌した。反応終了後、濾過によりPtOを除き、濾液を減圧留去した。残渣をメタノールで洗浄したところ、薄肌色結晶であるジアミン{3}(6.33g,72%,mp:192−196℃)を得た。
1H−NMR(CDCl3,δppm):7.45(4H,m),7.00(2H,d),6.94(2H,d),4.92(2H,s),3.98(2H,t),3.61(4H,s),1.80(2H,m),1.47(2H,m),1.32(8H,m),0.89(3H,t).
【実施例2】
ジアミン{5}の合成

1000mlの4つ口フラスコに、フェニルシクロヘキシル誘導体(50.00g,0.182mol)、およびTHF(300ml)を入れ、均一になるまで攪拌した。反応溶液を室温まで放置した後、3,5−ジニトロベンジルクロリド(41.39g,0.191mol)を加えた。その後、NaOH水溶液(NaOH(29.12g)/HO(200ml))をゆっくり滴下した。滴下後、8時間緩やかに還流した。反応終了後、反応溶液を減圧留去した。濾過を行ない、濾さいを水、メタノール、アセトニトリルで洗浄した。その後、アセトニトリルで再結晶したところ、黄色結晶{4}54.32g,66%,mp:113−114℃)を得た。
1H−NMR(d−DMSO,δppm):8.99(1H,s),8.65(2H,d),7.17(2H,d),6.91(2H,d),5.23(2H,s),2.43(1H,t),1.21−1.43(16H,m),1.06(2H,m),0.89(3H,t).
1000mlの4つ口フラスコに{4}40.00g,88.00mmol)、およびジオキサン(500ml)を入れ、反応容器を窒素置換した後、PtO(4.00g)を入れた。反応容器中を水素雰囲気下にし、室温で24時間攪拌した。反応終了後、濾過によりPtOを除いた。濾液を減圧留去し、残渣にメタノールを加えたところ、薄黄色固体が析出した。濾過を行い薄黄色固体であるジアミン{5}(26.55g,76%,mp:153−157℃)を得た。
1H−NMR(CDCl3,δppm):7.09(2H,d),6.88(2H,d),5.84(2H,s),5.74(1H,s),4.74(4H,s),3.33(2H,S),2.36(1H,t),1.77(4H,m),1.17−1.41(16H,m),1.01(2H,m),0.88(3H,t).
【実施例3】
ポリイミド前駆体[A]の合成
実施例1で得られたジアミン{3}(1.64g,5.21mmol)、1,4−ジアミノベンゼン(2.25g,20.81mmol)、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物(7.81g,26.01mmol)、およびN−メチル−2−ピロリドン(NMP)(46.80g)を用い、室温で攪拌し重縮合反応を行い、固形分濃度20wt%のポリイミド前駆体溶液[A]を得た。この溶液の粘度は3481mPa・s(25℃:E型粘度計)であり、GPC(Gel Permeation Chromatography)法により測定した重量平均分子量は134600であった。
【実施例4】
ポリイミド前駆体[B]の合成
実施例2で得られたジアミン{5}(3.39g,8.59mmol)、1,4−ジアミミノベンゼン(3.72g,34.41mmol)、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物(12.91g,42.99mmol)、およびNMP(80.08g)を用い、室温で攪拌し重縮合反応を行い、固形分濃度20wt%のポリイミド前駆体溶液[B]を得た。この溶液の粘度は3532mPa・s(25℃:E型粘度計)であり、GPC法により測定した重量平均分子量は145000であった。
【実施例5】
ポリイミド前駆体[C]の合成
実施例2で得られたジアミン{5}(1.70g,4.30mmol)、1,4−ジアミミノベンゼン(4.18g,38.70mmol)、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物(12.91g,42.99mmol)、およびNMP(80.08g)を用い、室温で攪拌し重縮合反応を行い、固形分濃度20wt%のポリイミド前駆体溶液[C]を得た。この溶液の粘度は4120mPa・s(25℃:E型粘度計)であり、GPC法により測定した重量平均分子量は185000であった。
<実施例6,7,8>
液晶配向処理剤の製造
実施例3、4,5で得られたポリイミド前駆体溶液([A],[B],[C])を、それぞれNMPおよびブチロセルロルブで希釈し、樹脂濃度5wt%、ブチルセロソルブ20wt%、NMP75wt%である液晶配向処理剤を得た。
液晶セルの作成
上記の液晶配向処理剤をITO電極付ガラス基板のITO面にスピンコートし、80℃で5分、220℃で1時間加熱処理して、膜厚0.1μmのポリイミド塗膜を形成させた。塗膜面をレーヨン布のラビング装置にて、回転数300rpm、移動速度20mm/sec、押し込み量0.3mmの条件でラビング処理した。
その後、この基板2枚を一組とし、6μmのスペーサーを散布後、膜面を内側にし、ラビング方向をほぼ直行させて張り合わせ、ネマチック液晶(メルク社製:MLC−2003)を注入して90度ツイスト液晶セルとした。この液晶セルの配向状態を観察したところ欠陥のない均一な配向をしていることが確認された。
プレチルト角の測定
これらのセルについて、セル作成直後(25℃)、95℃5分加熱処理後、さらに120℃1時間加熱処理したものについて、結晶回転法でプレチルト角を測定した。また、ラビング押し込み量をそれぞれ、0.3mm、0.5mm、0.7mmにした際の,セル作成直後(25℃)のプレチルト角の測定も行った。
結果は後述する表1、表2に示す。
<比較例1>
プレチルト角の熱安定性評価の比較のために以下に示すジアミン{6}を用いた。

ジアミン{6}を用いて、ポリイミド前駆体[D]の合成を行った。
ジアミン{6}(9.79g,25.99mmol)、1,4−ジアミノベンゼン(11.25g,104.03mmol)、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物(39.04g,130.02mmol)、およびNMP(240.32g)を用い、室温で攪拌し重縮合反応を行い、固形分濃度20wt%のポリイミド前駆体溶液[D]を得た。この溶液の粘度は730mPa・s(25℃:E型粘度計)であり、GPC法により測定した重量平均分子量は66000であった。
得られたポリイミド前駆体溶液[D]を用いて、実施例6,7,8と同様の製造方法により液晶配向処理剤を製造し、液晶セルを作成した際のプレチルト角の測定を行った。結果は後述する表1に示す。
<比較例2>
プレチルト角のラビング圧力依存性評価の比較のために以下に示すジアミン{7}を用いた。

ジアミン{7}を以下の経路で合成した。

1000mlの4つ口フラスコに2,4−ジニトロフルオロベンゼン(42.06g,0.226mol)、{1}(56.20g,0.188mol)、炭酸カリウム(52.00g,0.376mol)、およびN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(400ml)を入れ、反応温度110℃で6時間攪拌した。反応終了後、濾過により炭酸カリウムを除いた。濾液を減圧留去し、残渣にメタノールを加えたところ黄色固体が析出した。得られた固体をTHFで再結晶したところ、薄黄色結晶{8}(65.33g,75%,mp:127−129℃)を得た。
1H−NMR(CDCl3,δppm):8.84(1H,s),8.31(1H,d),7.63(2H,d),7.50(2H,d),7.17(2H,d),7.10(1H,d),6.98(2H,d),4.00(2H,t),1.81(2H,m),1.48(2H,m),1.31(8H,m),0.89(3H,t).
1000mlの4つ口フラスコに{8}(35.45g,75.35mmol)、ジオキサン(400ml)を入れ、反応容器を窒素置換した後、Pd−C(3.55g)を入れた。反応容器中を水素雰囲気下に、60℃で50時間、室温で120時間攪拌した。反応終了後、濾過によりPd−Cを除き、濾液を減圧留去した。残渣をアセトニトリルで再結晶したところ薄赤茶色結晶であるジアミン{7}(23.55g,77%,mp:196−198℃)を得た。
1H−NMR(CDCl3,δppm):7.41−7.45(4H,m),6.96(2H,d),6.93(2H,d),6.77(1H,d),6.18(1H,s),6.10(1H,d),3.98(2H,t),3.54−3.70(4H,broad),1.79(2H,m),1.46(2H,m),1.31(8H,m),0.89(3H,t).
ジアミン{7}を用いて、ポリイミド前駆体[E]の合成を行った。
ジアミン{7}(2.53g,6.25mmol)、1,4−ジアミノベンゼン(2.03g,18.77mmol)、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物(7.51g,25.01mmol)、及びNMP(48.28g)を用い、室温で攪拌し重縮合反応を行い、固形分濃度20wt%のポリイミド前駆体溶液[E]を得た。この溶液の粘度は435mPa・s(25℃:E型粘度計)であり、GPC法により測定した重量平均分子量は44800であった。
得られたポリイミド前駆体溶液[E]を用いて、実施例6,7,8と同様の製造方法により液晶配向処理剤を製造し、液晶セルを作成した際のプレチルト角の測定を行った。結果は後述する表2に示す。
評価結果


ジアミン{3}および{5}はプレチルト角を高める効果に優れ、さらに、ジアミン{6}のプレチルト角の熱安定性評価との比較から、本発明のジアミン{3}および{5}はプレチルト角の熱安定性に優れ、加えて、ジアミン{7}のラビング圧力依存性評価との比較から、本発明のジアミン{3}および{5}はラビング圧力依存性が小さくなることがわかった。
【産業上の利用可能性】
本発明のジアミノベンゼン誘導体は、公知の反応経路で容易に合成することができ、反応性が高いので、様々な高分子の原料として用いることができる。特に、液晶配向膜樹脂の原料として用いた場合に、液晶のプレチルト角を高める効果が大きく、液晶に高くて安定したプレチルト角を付与することができる。
本発明のポリイミド前駆体またはポリイミドは、撥水性等の表面特性を有する塗膜用の樹脂材料として用いることができる。特に液晶配向膜として用いた場合に、液晶に高くて安定したプレチルト角を付与することができる。
本発明の液晶配向処理剤は、液晶のプレチルト角が高く、プレチルト角の熱安定性に優れ、加えてプレチルト角のラビング圧力に対する依存性が小さい液晶配向膜を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記、一般式[1]で表されるジアミノベンゼン誘導体。

(式中、XおよびXは独立してベンゼン環、シクロヘキサン環、および複素環から選ばれる環状基を表し、これらの環状基上の任意の水素原子は、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数1〜3のアルコキシ基、炭素数1〜3のフッ素含有アルキル基、炭素数1〜3のフッ素含有アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびシアノ基から選ばれるもので置換されていても良く、nは0または1の整数であり、Xは炭素数1〜32のアルキル基、炭素数1〜32のアルコキシ基、炭素数1〜32のフッ素含有アルキル基、炭素数1〜32のフッ素含有アルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびシアノ基から選ばれるものである)
【請求項2】
一般式[1]中のXがベンゼン環またはシクロヘキサン環であり、Xがベンゼン環またはシクロヘキサン環であり、nが1である請求項1に記載のジアミノベンゼン誘導体。
【請求項3】
一般式[1]中のXがベンゼン環またはシクロヘキサン環であり、Xがベンゼン環であり、nが1である請求項1に記載のジアミノベンゼン誘導体。
【請求項4】
一般式[1]中のXがベンゼン環またはシクロヘキサン環であり、Xがシクロヘキサン環であり、nが1である請求項1に記載のジアミノベンゼン誘導体。
【請求項5】
が、炭素数5〜12のアルキル基、炭素数5〜12のアルコキシ基、炭素数5〜8のフッ素含有アルキル基、および炭素数5〜8のフッ素含有アルコキシ基から選ばれる有機基である請求項2、3または4に記載のジアミノベンゼン誘導体。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のジアミノベンゼン誘導体を原料の一部として使用し合成されるポリイミド前駆体またはポリイミド。
【請求項7】
請求項6に記載のポリイミド前駆体またはポリイミドのうち、少なくともどちらか一方を含有する液晶配向処理剤。

【国際公開番号】WO2004/052962
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【発行日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−558459(P2004−558459)
【国際出願番号】PCT/JP2003/015800
【国際出願日】平成15年12月10日(2003.12.10)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】