説明

新規なジサッカライド誘導体

【構成】 下記式に示すジサッカライド誘導体、およびその立体異性体、並びにその塩、またはそれらを有効成分として含む医薬組成物。


【効果】 上記化合物は、強いマイトジェン活性、アジュバント活性、多クローン性B細胞活性化(非特異的感染防御)活性、ナチュラルキラー活性、抗腫瘍活性、抗ウイルス活性等の多様な生物活性を持ち、従来のリピドAおよびリピドA誘導体において見られたマクロファージからの腫瘍壊死因子(TNF)やIL−1等のいわゆる炎症性サイトカインの産生を誘導する活性が殆ど見られないことから、免疫賦活剤、抗腫瘍剤、抗ウイルス剤のほか、敗血症、慢性関節リューマチ等の治療・予防用剤等としても有用である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業の利用分野】本発明は、多様な生物活性を有し、かつ致死毒性および発熱原性が非常に弱く低毒性であるという特性を有する新規なジサッカライド誘導体およびその塩に関するものである。
【0002】
【従来の技術】各種グラム陰性菌の細胞壁外膜に含まれるリポポリサッカライド(LPS)は、リピドAと呼ばれる糖脂質に各種の糖類が結合したものであり、以前から内毒素の主成分であることが知られている。LPSは生体の各種免疫機能促進活性を有することが知られており、その主たる活性発現部位はリピドAにあることが明らかにされており免疫調整作用および抗腫瘍作用の他、多様な生物活性を有することが認められている。
【0003】リピドAの化学構造は大腸菌を初め各種グラム陰性菌において明らかにされてきた("Structure of the lipopolysaccharide from an E. Coli Heptose-lessMutant", Marcha R. R., Jiunn-yann T., Israel B., and H. Gobind Khorana,The Journal of Biological Chemistry, vol. 254, No.13 p5906-5917(1979))。その中で大腸菌由来リピドAについては完全に化学合成がなされ、各種誘導体も化学合成されている。その結果一部合成されたリピドA誘導体については腫瘍壊死因子(TNF)誘導作用およびマイトジェン活性において大腸菌由来リピドAと同等または同等以上であることが認められている(特開昭59−48497号)。
【0004】しかしながら大腸菌由来リピドAおよびリピドA誘導体については発熱原性、壊死毒性活性等の好ましくない作用が認められることから、さらに広範囲に誘導体の合成研究が行われた(特開昭61−227586号)。またリピドA様活性を有する単糖構造を基本骨格とするものを初め種々の置換基による修飾、置換基導入部位の検討が詳細に行われ各種類縁体も合成され、生物活性、免疫活性および毒性について調べられたが(「リピドA類似体の生物活性」,小川裕示,木曽真,長谷川明,代謝,第26巻,No.5,p15〜27,1989、「合成リピドAとその誘導体」,本間遜,免疫薬理,第8巻,No.4,1990,p25〜32)、3位,3′位および4′位の水酸基が遊離であるような化合物に言及した例はなく、未だ医薬品として実用化しうるものは開発されていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】したがって、上記の理由からリピドA類似体のうちでより低毒性でより強い有用活性を有する化合物が強く望まれている。
【0006】本発明は、強いマイトジェン活性、アジュバント活性、非特異的感染防御活性、抗ウイルス活性、免疫賦活作用等の種々の有用な生物活性を有し、かつ発熱原性および致死毒性等の有害作用がほとんどなく、特に医薬品等として有用である新規なジサッカライド誘導体を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、ヒトの口腔内に常在しており、現在歯周病の原因と考えられている細菌の一つであるPorphyromanas(Bacteroides) gingivalisの細胞壁外膜中に含まれるLPSがマイトジェン活性等を有し、同時に致死毒性および発熱原性が非常に弱いことを見いだした。さらに、LPS中の活性発現部位を調製後精製し、構造解析を行い、鋭意研究の結果、本発明の活性化合物はグルコサミンβ(1−6)ジサッカライドの構造の1位にリン酸基がエステル結合をしたものを基本骨格とし、2位のアミノ基に3-hydroxy-15-methylhexadecanoic acidがアミド結合し、2′位のアミノ基に3-hexadecanoyloxy-15-methylhexadecanoic acidがアミド結合していることを見いだした。本発明の化合物の構造は、従来のリピドA誘導体と大きく異なり4′位にリン酸基を持たず、3位および3′位の水酸基が遊離のままである点に特徴がある。したがって本発明の化合物は式;
【化1】


で表されるような構造を有することが推定される。また本願化合物は強いマイトジェン活性、アジュバント活性、多クローン性B細胞活性化(非特異的感染防御)活性、ナチュラルキラー活性等多様な生物活性を有する一方、従来のリピドAおよびリピドA誘導体においてみられたマイクロファージからの腫瘍壊死因子(TNF)やIL−1等のいわゆる炎症性サイトカインの産生を誘導する活性が殆ど見られないことを見いだした。したがって従来、リピドAおよびリピドA誘導体において問題となっていた致死毒性および発熱原性等の有害作用を示すことなく、免疫賦活剤として有用である。さらには大腸菌のリピドAが誘導するIL−1の産生を抑え、さらにIL−1レセプターアンタゴニスト(IL−1ra)の産生を誘導することを見いだしたが、これらの活性は、強い非特異的感染防御活性を有することと併せて、大腸菌等グラム陰性菌の感染によって引き起こされる病態、特に敗血症、あるいは敗血症性ショックの予防・治療用剤として有用である。また、IL−1の産生を抑え、さらにIL−1レセプターアンタゴニスト(IL−1ra)の産生を誘導することは、IL−1自身の異常産生状態になっていると考えられるような病態、例えば慢性関節リューマチ等の治療用剤としても有用である。さらに、ナチュラルキラー細胞を活性化し、抗腫瘍活性を有することを見いだした上、抗ウイルス活性を有することも明らかになった。抗腫瘍活性からは、抗腫瘍剤としての有用性が考えられ、抗ウイルス活性と併せて強い非特異的感染防御活性を有することからは、抗ウイルス剤としての有用性がある。このような特性から、本願発明化合物である新規なジサッカライド誘導体またはその塩は、医薬用担体および/または希釈剤と配合してなる医薬組成物として特に有用であると期待される。
【0008】なお、本化合物には種々の立体異性体が存在し得るが、単離されたこれらの異性体および異性体混合物は、いずれも本発明の技術的思想に包含される。
【0009】本願発明の化合物は微生物源より調製し、精製して使用することができる。
【0010】さらに種々の化学合成法により製造することも可能である。
【0011】以下に各製造法による具体的な製造例を示す。
【0012】(1)微生物を用いた製造例本願化合物を微生物により製造する場合には、前記〔化1〕により示される本願発明の化合物を生産することができる微生物であればいずれも使用できるが、例えばPorphyromanas(Bacteroides) gingivalis(ATCCカタログ番号33277)等を使用することができる。
【0013】培養に使用される培地は液状または固状でよいが、通常は液状培地による嫌気静置培養が便利である。培地は本願発明化合物生産菌が生育して本願発明化合物を生産するものであればどのようなものでもよい。培養温度、培養期間、培養の液性等の条件は、本願発明化合物の生産量が最大となるように適宜選択、調節され得るが、好ましくは嫌気的条件下に25℃〜40℃、好ましくは37℃にて、12〜36時間、好ましくは26時間培養され、その培地のpHは6.0〜8.0、好ましくは7.3に維持される。
【0014】上記条件で培養することにより本発明化合物が生産、蓄積される。培養物を濾過または遠心分離して菌体を回収し、目的物の分離、精製を行う。菌体からのLPSの分離、精製には化合物の化学的特性に基づく種々の手段を用いることができる。例えば熱フェノール−水抽出法にて抽出し、各種酵素処理後に遠心して精製、溶媒分画、各種樹脂を用いたカラム法を使用し、これらを適当に組み合わせることによりLPSを分離、精製することができる。
【0015】次に精製を繰り返したLPSまたは粗LPSを弱酸加水分解する。弱酸加水分解は、本願発明化合物が遊離する方法であればどのような方法でもよく、好ましくは0.05〜0.2規定の酢酸を用い、90℃〜110℃、2〜3時間の反応でよい。反応物から目的物の分離、精製には本願発明化合物の化学的特性に基づく種々の手段が採用できる。すなわち、溶媒分画法、各種樹脂を使用したカラム法等が用いられ、これらを適当に組み合わせることにより本願発明に係わる物質を分離、精製することができる。
【0016】(2)化学合成法を用いた製造例適当な保護基で適当な位置を保護したN−グルコサミン誘導体を配糖体結合形成反応によってジサッカライド誘導体とし、これを脂肪酸によるN−アシル化、還元末端1位のリン酸化後、脱保護する。または所望の脂肪酸によってN−アシル化された保護N−グルコサミン誘導体を配糖体結合形成反応によってジサッカライド誘導体とし、これをリン酸化後、脱保護基を行うことによっても合成することができる。
【0017】上記の説明にしたがって得られた本発明化合物は、リン酸基部分で塩を形成しうる化合物であり、公知の方法により容易に塩に変換することができる。そのような塩の例としては、例えばナトリウムまたはカリウムのようなアルカリ金属の塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩、アンモニウム塩および薬学的に許容されるアミン塩、等が含まれる。非毒性アミン類の塩としては、テトラメチルアンモニウムのようなテトラアルキルアンモニウムの塩、およびメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、シクロペンチルアミン塩、ベンジルアミン塩、ピリジン塩、ピペリジン塩、ジエタノールアミン塩、リジン塩、アルギニン塩のような有機アミン塩等が例として挙げられる。このようにして得られた本発明化合物であるジサッカライド誘導体またはその塩は、治療または予防の目的で用いる医薬組成物として通常全身的あるいは局所的に経口または非経口で投与される。投与量としては、年齢、体重、症状、投与方法等により異なるが、通常成人ひとり当たり1回につき0.01mg〜100mgの範囲で1日1回から数回、経口あるいは非経口で投与される。勿論投与量は種々の条件で異なるので、上記投与量より少ない範囲で充分効果のある場合もあるし、逆にこれらの範囲を超えて投与する必要のある場合もある。本発明による経口投与のための固形医薬組成物には、錠剤、散剤、顆粒剤等が含まれる。このような固形組成物においては、少なくともひとつの不活性な希釈剤、例えば乳糖、ブトウ糖、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等と混合される。組成物は、さらに不活性な希釈剤以外の添加剤、例えば、ステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤や、繊維素グルコン酸カルシウムのような崩壊剤を含有していてもよい。錠剤または丸剤は、必要により白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース等の胃溶解性あるいは腸溶解性物質のフィルムで被覆してもよいし、また2以上の層で被覆してもよい。さらにゼラチンのように吸収されうる物質のカプセルであってもよい。経口投与のための液体医薬組成物は、薬学的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤等を含み、一般的に用いられる不活性な希釈剤としては、例えば精製水、エタノール等を含む。不活性な希釈剤以外に、補助剤として湿潤剤、懸濁剤等、さらに甘味剤、風味剤、芳香剤、防腐剤等を含有していてもよい。また、経口投与のための組成物には、常法により処方されるスプレー剤も含まれる。本発明による非経口投与のための注射剤組成物としては、無菌の水性または非水性の溶液剤、懸濁剤、乳濁剤等が含まれる。水性の溶液剤、懸濁剤としては、例えば注射用蒸留水および生理食塩水が含まれる。非水性の溶液剤、懸濁剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、エタノール等のアルコール類、ポリソルベート80(登録商標)等がある。このような組成物は、さらに防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤のような補助剤を含んでもよい。これらは、特定の濾過や、殺菌剤の配合または照射によって無菌化される。これらはまた、無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水または無菌の注射用溶媒に溶解して使用することもできる。非経口投与のための組成物としては、このほか公知の方法により処方される外用液剤、軟膏のような塗布剤、および座剤、ペッサリー等も含まれる。
【0018】また本願化合物は強いマイトジェン活性、アジュバント活性、多クローン性B細胞活性化(非特異的感染防御)活性、ナチュラルキラー活性等多様な生物活性を有する一方、従来のリピドAおよびリピドA誘導体においてみられたマイクロファージからの腫瘍壊死因子(TNF)やIL−1等のいわゆる炎症性サイトカインの産生を誘導する活性が殆ど見られないことを見いだした。したがって従来、リピドAおよびリピドA誘導体において問題となっていた致死毒性および発熱原性等の有害作用を示すことなく、免疫賦活剤として有用である。さらには大腸菌のリピドAが誘導するIL−1の産生を抑え、さらにIL−1レセプターアンタゴニスト(IL−1ra)の産生を誘導することを見いだしたが、これらの活性は、強い非特異的感染防御活性を有することと併せて、大腸菌等グラム陰性菌の感染によって引き起こされる病態、特に敗血症、あるいは敗血症性ショックの予防・治療用剤として有用である。また、IL−1の産生を抑え、さらにIL−1レセプターアンタゴニスト(IL−1ra)の産生を誘導することは、IL−1自身の異常産生状態になっていると考えられるような病態、例えば慢性関節リューマチ等の治療用剤としても有用である。さらに、ナチュラルキラー細胞を活性化し、抗腫瘍活性を有することを見いだした上、抗ウイルス活性を有することも明らかになった。抗腫瘍活性からは、抗腫瘍剤としての有用性が考えられ、抗ウイルス活性と併せて強い非特異的感染防御活性を有することからは、抗ウイルス剤としての有用性がある。
【0019】このような特性から、本願発明化合物である新規なジサッカライド誘導体またはその塩は、医薬用担体および/または希釈剤と配合してなる医薬組成物として特に有用であると期待される。
【0020】以下、本願発明に関する化合物について実施例に基づき詳細に説明するが、本発明を以下に記載する特別な態様に限定することを意図するものではない。
【0021】
【実施例】
実施例1微生物源からの製造Porphyromanas(Bacteroides) gingivalisを160リットルのGAMブイヨン(日水製薬株式会社製)培地(pH7.3)で嫌気的に37℃で26時間培養した。培養完了後培養液の遠心を行い菌体を回収し、凍結乾燥により乾燥菌体100gを得た。この乾燥菌体を熱フェノール−水抽出法にて抽出処理して粗LPSを得た。すなわち100gの乾燥菌体に3.5リットルの蒸留水を加え68℃に加熱し、別に68℃に加熱した90%フェノールを加え68℃にて20分間撹拌し、氷冷後遠心して水層を分取後、再度3.5リットルの蒸留水を加え抽出操作を繰り返した。得られた水層を合わせ、蒸留水に対して十分透析後、濃縮し凍結乾燥を行い粗抽出物12.47gを得た。
【0022】粗抽出物10gを1リットルの蒸留水に懸濁し超遠心沈渣をヌクレアーゼP1(ヤマサ醤油株式会社製)およびプロナーゼ(カルビオケミカル製;米国)酵素処理を二度づつ繰り返し、蒸留水で超遠心沈渣の洗浄を二度繰り返し、凍結乾燥を行い粗LPS画分250mgを得た。粗LPS画分250mgを50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.4)に懸濁後、セファロース4Bカラムクロクトグラフィー(内径1.5cm、長さ90cm)に供し、排除体積画分を分取後、エタノール沈殿を行い、蒸留水で二度洗浄後凍結乾燥を行った。LPS画分110mgを得た。LPS画分を0.1規定の酢酸で105℃、2.5時間弱酸加水分解を行い、反応物を遠心後、遠心沈渣を得た。この画分をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム/メタノール/水/トリエチルアミン=30/12/1.5/0.1)で精製を行い、4.5mgの本発明化合物を得た。
【0023】実施例2構造解析上記、実施例1で得られた化合物の物理化学的性質を検討したところ、以下の結果が得られた。
【0024】(1)糖分析および脂肪酸分析;
ア.グルコサミンβ(1−6)ジサッカライド構造の1位にリン酸基がエステル結合したものを基本骨格とし、イ.2位のアミノ基に3-hydroxy-15-methylhexadecanoic acidがアミド結合し、ウ.2′位のアミノ基に3-hexadecanoyloxy-15-methylhexadecanoic acidがアミド結合し、エ.4′位にリン酸基を持たず、オ.3位,3′位および4′位の水酸基が遊離のままである。
【0025】(2)分子式;C62119172 P(3)呈色反応;硫酸反応に陽性、ディットマー・レスター反応に陽性、ニンヒドリン反応に陰性、TTC反応に陰性である。
【0026】(4)物質の色、形状;白色粉末(5)質量スペクトル;ネガティブFAB−MS−MS、M/Z 1193(M−H),937(M−2H−C1531COO)
(6)NMRスペクトル; 1H−NMR(300MHz,CDCl3 +MeOD+D2O)δ:0.81(12H,d)、0.82(3H,t)、1.1-1.6(72H,m,CH2 ,CH)、2.2-2.5 (6H,m,CO−CH2 )、3.1-4.3(13H,m)、4.46(1H,d)、5.15(1H,m)、5.45(1H,m)
以上の結果より、本発明化合物の構造は〔化1〕で表されるものと推定された。
【0027】実施例3活性測定次に本願発明の化合物について試験した生理活性の結果を示す。
【0028】(1)マイトジェン活性マイトジェン活性は、例えば単離されたマウスリンパ系培養細胞中に取り込まれた 3H−チミジンの量を測定することにより行った。すなわちBALB/cマウスの脾臓を擂り潰し、5×105 個/well(200μl)に調製した脾細胞に所定濃度の本願発明化合物、あるいは比較化合物を添加、または培地のみを添加して培養した。培養終了6時間前に37kBq/well(10μl)の 3H−チミジンを加え、培養終了後細胞に取り込まれた 3H−チミジンの量(放射線量)を定量した。結果は下式で示すStimulation Index で表した。
【0029】Stimulation Index=化合物の添加群(cpm)/培地のみ添加群(cpm)
本発明化合物は、表1に示されるようにマイトジェン活性を有することを示した。比較化合物としては、合成リピドAである506を用いた。506は、6−O−〔2−デオキシ−2−(3−ドテカノイルオキシテトラデカノイルアミノ)−3−O−(3−テトラデカノイルオキシテトラデカノイル)−4−O−ホスホノ−β−D−グルコピラノシル〕−2−デオキシ−2−(3−ヒドロキシテトラデカノイルアミノ)−3−O−テトラデカノイル−1−O−ホスホノ−α−D−グルコピラノースである。
【0030】
【表1】


【0031】(2)NK(ナチュラルキラー)活性本試験は以下の方法により検討した。すなわち、BALB/cマウスを用い100μgの本発明化合物、あるいは比較化合物を0日目および7日目に静脈内に注射し、14日目に脾細胞を採取した。調製した脾細胞(1×106 個/0.1ml)に51Crで標識した標的細胞(Moloneyウイルス誘発リンパ種YAC−1:2×104 個/0.1ml)を加え、4時間培養した。なお、最小遊離対照群には脾細胞を含まない培養液のみを加え、最大遊離対照群には0.1N NaOHを加えた。培養終了後、培養上清0.1mlを採取し、標的細胞が障害を受けることにより遊離した51Crの量(放射線量)を測定した。活性は各価を以下の式に代入し、NK Activity(%)を求めた。
【0032】NK Activity(%)={(実験群−最小遊離対照群)(cpm)/(最大遊離対照群−最小遊離対照群)(cpm)}×100本発明化合物は、上式で算出した結果50.1のNK Activity(%)という値を示し、合成リピドAである506と同等の活性を有することが明らかとなった。
(3)抗腫瘍活性本試験はメチルコラントレン誘発線維肉腫(Meth A)に対する増殖抑制活性により検討した。すなわち、BALB/cマウスより取り出した脾細胞より付着細胞(マクロファージ)を採取した。調製したマクロファージ(2×105個/0.1ml)と標的細胞(Meth A:2×104 個/0.1ml)に所定濃度の本発明化合物あるいは比較化合物を加え、18時間培養した後、14.8kBq/well(10μl)の 3H−チミジンを加えてさらに6時間培養した。培養終了後細胞に取り込まれた 3H−チミジンの量(放射線量)を定量した。結果は得られた値を次式に代入して 3H−チミジンの取り込み抑制率を計算し、マクロファージの腫瘍細胞増殖抑制活性として表した。
Cytostatic Activity(%)={1−(マクロファージおよび標的細胞−マクロファージのみ)(cpm)/標的細胞のみ(cpm)}×100本発明化合物は表2で示されるような値を示し、合成リピドAである506とほぼ同等の腫瘍増殖抑制活性を示した。
【0034】
【表2】


【0035】(4)アジュバント活性本試験は1群6匹の雄性BALB/cマウスを用い、0日目と28日目に牛血清アルブミン(BSA)100μgに本発明化合物あるいは比較化合物100μgを添加あるいは無添加にて、フロイントの不完全アジュバント(FIA)を用いて油中水型乳剤として皮下注射し、追加免疫後5日目に血清中に産生した抗BSAIgG抗体量をELISA法により測定した。結果は、次式で示すStimulation Index で表した。
【0036】Stimulation Index =FIAに化合物とBSAの添加群(μg/ml)/FIAにBSAのみの添加群(μg/ml)
本発明化合物は、表3に示されるように合成リピドAである506より強いアジュバント活性を有することが明らかとなった。
【0037】
【表3】


【0038】(5)抗ウイルス活性本試験は、水疱性口内炎ウイルス(VSV;Vesicular stomatitis virus)のマウス線維芽細胞株L929に対する作用の抑制を指標にした。すなわち、各ウェルにL929細胞を4×104 個/0.1mlに入れ24時間培養後、本発明化合物あるいは比較化合物(1mg/ml)の希釈系列より各希釈試料液を0.1mlずつ加えさらに24時間培養した。培養上清除去後、100TCID50/0.1mlに調製したVSVを加え24時間培養後、培養液を除去し、5%ホルムアルデヒド溶液により20分間固定し、続いて0.5%クリスタルバイオレット染色液にて20分間染色した。水洗後乾燥し、吸光度600nmで測定を行った。活性はL929細胞が50%生存する試料液の元の試料濃度(1mg/ml)に対する希釈倍数の逆数で表した。本発明化合物は表4に示すように合成リピドAである506より強い抗ウイルス活性を有することが明らかとなった。
【0039】
【表4】


【0040】(6)多クローン性B細胞活性化活性本試験はエリスポット(Enzyme-Linked Immunospot; ELISPOT)法を用いて検討した。BALB/cマウスの脾細胞(2.5×106 個)に所定量の本発明化合物あるいは比較化合物の添加あるいは無添加の条件下で5%の牛胎児血清(FBS)を含むRPMI1640培地にて、37℃、72時間培養した。洗浄後、抗体産生細胞はELISPOT法にて測定した。
【0041】すなわち、ヤギ抗マウスイムノグロブリンをコートし、5%FBS処理したプレートの各ウェルに上述した脾細胞を加え4時間培養した。細胞を洗浄除去後、プレートをビオチン標識したヤギ抗マウスμ鎖特異抗血清と25℃で一晩反応し、生理緩衝食塩水(PBS)で洗浄後、ペルオキシダーゼ標識ストレプトアビジンにて処理した。活性は抗体産生細胞により生じるスポット数(細胞数)を実体顕微鏡下で計測し、供試化合物添加の細胞数に対する供試化合物無添加の細胞数をコントロールしたときのStimulation Index にて表した。なお、供試化合物の用量は、細胞2.5×106 個当たりのμgで表した。本発明化合物は、表5に示されるように合成リピドAである506と同等もしくはそれ以上の多クローン性B細胞活性化活性を有することが明らかとなり、従って強い非特異的感染防御活性を有するものと考えられる。
【0042】
【表5】


【0043】(7)サイトカイン産生誘導活性サイトカイン産生誘導活性試験は、TNF−α測定用ELISAシステム(アマーシャム・ジャパン株式会社製)およびIL−1β測定用ELISAシステム(大塚製薬株式会社製)を用いて検討した。すなわち、ヒト末梢血単球(5×105 個)に所定濃度の本発明化合物あるいは比較化合物を加え、24時間培養後、培養上清中のサイトカイン量をELISA法により定量した。
【0044】その結果、ヒト末梢血単球からのTNF−αやIL−1βの産生を誘導する活性は、本発明化合物には殆ど認められなかった。さらに、合成リピドAである化合物506あるいは大腸菌由来のLPSと本発明化合物(50倍量)を同時に加えて培養することによって、化合物506あるいは大腸菌由来のLPSによって誘導されるIL−1βの産生を抑制することが明らかとなった。さらに、IL−1レセプターアンタゴニスト(IL−1ra)測定用ELISAシステム(R&D社製)により、本発明化合物はヒト末梢血単球の培養上清中にIL−lraを合成リピドAである化合物506より多量に産生することも明らかとなった。
【0045】(8)ガラクトサミン負荷致死毒性ガラクトサミン負荷致死毒性は以下の実験系を用いて求めた。
【0046】C57BLマウス(雄性、8週齢)に、16mgのD−ガラクトサミン/HClを腹腔内投与し、その直後に本願発明化合物を静脈注射し、24時間後に状態観察を行った。
【0047】本願発明化合物は、以下の表6に示されるような活性を示し、低毒性であることが明らかになった。
【0048】
【表6】


【0049】(9)その他の毒性■局所シュワルツマン反応本試験は以下の方法により検討した。即ち雄のウサギの皮内に0.2mlの生理食塩水で所定濃度に調製した供試化合物を注射し、24時間後、100μg/ml/kgのサルモネラミネソタ9700LPS−W(ディフコ社製)を静脈より惹起注射して4時間後の皮内の出血反応を観察した。その結果、本発明化合物は100μg/siteで出血反応は見られなかった。
【0050】■発熱原性試験本試験はウサギを用い、供試化合物を5ml/kgの生理食塩水に所定濃度に調製したものを静脈注射し、直腸温度の測定を実施した。注射後4時間の間に、0.6℃以上の体温上昇が認められたものについて発熱作用ありと判定した。その結果、合成リピドAである506は0.01μgで発熱作用が認められるのに対して、本発明化合物は10μg/kgの用量においても発熱作用が認められなかった。
【0051】■リムルス試験本試験はエンドトキシン測定試薬であるプレゲル(生化学工業株式会社製)を使用して検定した。即ち日本産カブトガニのライセートより調製した凍結乾燥品を用いて、ゲル形成能の有無を判定した。その結果、本発明化合物の最小有効量は、合成リピドAである506の1000倍であり、非常に低毒性であった。
【0052】本願発明化合物は、リムルス活性、局所シュワルツマン反応および発熱性等の諸試験において低毒性であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (1)呈色反応として、硫酸反応に陽性、ディットマー・レスター反応に陽性、ニンヒドリン反応に陰性、TTC反応に陰性であって、(2)NMRスペクトルとして、 1H−NMR(300MHz,CDCl3 +MeOD+D2 O)δ:0.81(12H,d)、0.82(3H,t)、1.1-1.6(72H,m,CH2,CH)、2.2-2.5 (6H,m,CO−CH2 )、3.1-4.3(13H,m)、4.46(1H,d)、5.15(1H,m)、5.45(1H,m)の物性値をもち、(3)質量スペクトルとして、ネガティブFAB−MS−MS、M/Z 1193(M−H)、937(M−2H−C1531COO)の物性値を持つ、新規ジサッカライド誘導体、またはその塩。
【請求項2】 (1)グルコサミンβ(1−6)ジサッカライド構造の1位にリン酸基がエステル結合したものを基本骨格とし、(2)2位のアミノ基に3-hydroxy-15-methylhexadecanoic acidがアミド結合し、(3)2′位のアミノ基に3-hexadecanoyl-15-methylhexadecanoic acid がアミド結合し、(4)4′位にリン酸基を持たず、(5)3位,3′位が遊離のままである、新規ジサッカライド誘導体またはその塩。
【請求項3】 請求項1または2に記載の化合物またはその薬学的に許容される塩を、医薬用担体および/または希釈剤と配合してなる医薬組成物。