説明

新規なトリアリールホスフィン又はトリアリールアルシン化合物及びそれらを用いるオレフィン系重合触媒並びにオレフィン系共重合体の製造方法

【課題】触媒活性の高いα−オレフィン系重合触媒のリガンドとなるトリアリールホスフィン又はトリアリールアルシン化合物の提供。
【解決手段】下式で表される化合物(式中、Yは、リン又は砒素)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なトリアリールホスフィン又はトリアリールアルシン化合物及びそれらを用いるオレフィン系重合触媒並びにオレフィン系共重合体の製造方法に関し、特に、これらの新規な化合物を用いた、重合活性の高いオレフィン系重合触媒を使用する、分子量とコモノマー含量が共に高い、エチレンなどのα−オレフィンとメタアクリル酸系共重合体などの極性基含有コモノマーの共重合体の製造方法に係わるものである。
【背景技術】
【0002】
エチレンと、極性基含有ビニルモノマーである酢酸ビニルや(メタ)アクリル酸系オレフィンとの共重合体は、極性基を有すエチレン系重合体として産業上有用なポリマーである。従来は高圧ラジカル法を用いて製造されてきたが、高圧法以外で共重合体を工業的に得ることは困難であり、チーグラー触媒やメタロセン触媒を用いた場合には触媒失活を避けられなかった。
【0003】
その後、メタロセン触媒においては有機希土類金属錯体系メタロセン触媒により、エチレンとメチルメタアクリレートとの共重合が可能となり、1990年代以降には、後周期遷移金属錯体触媒による、極性基含有コモノマー共重合が精力的に研究されており、例えば、Brookhartらにより報告された(α−ジイミン)パラジウム錯体や、Grubbsらにより報告された(サリチルアミジナート)ニッケル触媒、更には、いわゆるSHOP系触媒と呼ばれる(フォスファニルフェノラート)ニッケル触媒が知られている。
これらの触媒では、連鎖移動の頻発を抑制するために重合温度は低めに設定されており、コポリマーの生産性は低く、分子量も低いのが一般的であった(例えば、非特許文献1を参照)。
【0004】
2002年に、Pughらは、オルソメトキシフェニル基を有するホスフィンスルホナート配位子をパラジウム化合物と組み合わせて触媒成分として用いると、高温(80
℃)でも共重合可能なことを報告した(特許文献1及び非特許文献2を参照)。この技術は、コモノマーであるアクリル酸エステルを高含量で共重合できるメリットがあったが、その触媒活性は不十分であった。
このホスフィンスルホナート配位子はキレート性又は潜在的キレート性であると予想され、野崎らは、触媒活性成分として(ホスフィンスルホナート)パラジウム(メチル)ルチジン錯体を単離し、エチレンとアクリル酸エステルの共重合触媒としての有用性を報告している(例えば、特許文献2及び非特許文献3を参照)。
また、−COH基を有するホスフィンカルボキシラート配位子の場合には、ニッケルと錯形成してキレート状金属錯体となることが報告されている(非特許文献4を参照)。
Goodallらは、ホスフィンスルホナート配位子のオルソメトキシフェニル基を改良して、ビフェニル基を有するホスフィンスルホナート配位子を開発した(例えば、特許文献3〜8及び非特許文献5を参照)。これをエチレンとアクリル酸エステルの共重合に用いることで、分子量(Mw)が十万以上のコポリマーを製造可能になったことが開示されている。
【0005】
しかしながら、本願の発明者らが、これまでに報告されたホスフィンスルホナート配位子を有する触媒を評価したところによると、何れにおいても、その触媒性能は不十分であった(例えば、本願の比較例参照)。
かかる技術状況からして、エチレンと極性基含有ビニルモノマーとの共重合においては、分子量とコモノマー含量が共に高い共重合体の製造を可能とし、触媒活性も高い重合触媒の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2002−521534号公報
【特許文献2】特開2007−46032号公報
【特許文献3】特開2007−63280号公報
【特許文献4】特開2007−77395号公報
【特許文献5】特開2007−117991号公報
【特許文献6】特開2008−214628号公報
【特許文献7】特開2008−214629号公報
【特許文献8】特開2008−214630号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S.Mecking etal.,J.Am.Chem.Soc.,1998,120,888.
【非特許文献2】E.Drent etal.,Chem.Commun.,2002,744.
【非特許文献3】K.Nozakietal.,Dalton TRANSACTIONS,2006,25.
【非特許文献4】W.Keim,Stud.Surf.Sci.Catal.1986,25,201.
【非特許文献5】J.P.Claverie etal.,Macromolecular RapidCommunications 2007,28,2033−2038.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した背景技術の状況を踏まえて、本発明は、エチレンなどのα−オレフィンと(メタ)アクリル酸系オレフィンなどの極性基含有ビニルモノマーとの共重合の分野において、分子量とコモノマー含量が共に高い共重合体の製造を可能とし、触媒活性も高い重合触媒の開発を課題とするものであり、特に、高い重合活性を可能とする ホスフィンスルホナート配位子の開発を、発明が解決すべき課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記した本発明の課題の解決を目指して、後周期遷移金属錯体触媒における配位子化合物を種々探索した結果、特定の構造を有する新規なトリアリールホスフィン及びトリアリールアルシン化合物が、上記の目的の重合触媒の成分として格別に機能することを見い出し、本発明を創作するに至った。
【0010】
その特定の構造を有するトリアリールホスフィン及びトリアリールアルシン化合物は、本発明の第一の発明を構成する新規な化合物であり、即ち、下記一般式(1)で表される新規なトリアリールホスフィン又はトリアリールアルシン化合物である。(なお、「本発明」とは、以下の第一発明から第十発明の各発明単位により成る全体の発明群を意味する。)
【0011】
【化1】

【0012】
(一般式(1)中、Yは、リン又は砒素であり、Zは、−SOH又は−COHである。
〜R11及びR13,R14 は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜20の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、又は炭素数1〜20の炭化水素基で置換されたシリル基からなる群より選ばれた置換基を示す。
12は、炭素原子、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子の、いずれかを介して芳香環と結合している、炭素数1〜20の置換基を示す。)
【0013】
本発明の第二の発明として、一般式(1)において、R12が、炭素数1〜20の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数2〜20の置換アミノ基、又は炭素数3〜20のシリル基からなる群より選ばれた置換基であることを特徴とする、新規なトリアリールホスフィン又はトリアリールアルシン化合物である。
本発明の第三の発明として、一般式(1)において、R、Rの少なくとも一つ、及び、R、Rの少なくとも一つは二級もしくは三級のアルキル基であることを特徴とする、新規なトリアリールホスフィン又はトリアリールアルシン化合物である。
本発明の第四の発明としては、第一から第三の発明の化合物のいずれかと、8〜10族の遷移金属とを反応させて得られるα−オレフィン重合触媒である。
【0014】
本発明の第五の発明としては、下記一般式(2)で表されることを特徴とする金属錯体である。
【0015】
【化2】

【0016】
(一般式(2)中、Yは、リン又は砒素であり、Zは、−SO−又は−CO−である。
〜R11及びR13,R14 は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜20の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、又は炭素数1〜20の炭化水素基で置換されたシリル基からなる群より選ばれた置換基を示す。
12は、炭素原子、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子の、いずれかを介して芳香環と結合している、炭素数1〜20の置換基を示す。
Mは、8〜10族の遷移金属からなる群より選択された金属原子を示し、Aは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜30の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数1〜30の炭化水素基、アリーロキシ基で置換された炭素数1〜30の炭化水素基、炭素数1〜30のアルコキシ基、又は炭素数1〜30のアリールオキシ基からなる群より選ばれた置換基を示す。
Bは、Mに配位した任意のリガンドを示す。また、AとBは互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0017】
本発明の第六の発明としては、一般式(2)において、R12が、炭素数1〜20の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数2〜20の置換アミノ基、又は炭素数3〜20のシリル基からなる群より選ばれた置換基であることを特徴とする、新規な金属錯体である。
本発明の第七の発明としては、一般式(2)において、R、Rの少なくとも一つ、及び、R、Rは二級もしくは三級のアルキル基であることを特徴とする、新規な金属錯体である。
【0018】
本発明の第八の発明としては、第五から第七のいずれかの発明の金属錯体を含むα−オレフィン重合触媒である。
【0019】
本発明の第九の発明としては、第四又は第八の発明の、α−オレフィン重合触媒の存在下に、α−オレフィンと、極性基含有コモノマーとを共重合することを特徴とする、オレフィン系共重合体の製造方法である。
本発明の第十の発明としては、第四又は第八の発明の、α−オレフィン重合触媒の存在下に、α−オレフィンと、(メタ)アクリル酸系オレフィンとを共重合することを特徴とする、α−オレフィン・(メタ)アクリル酸系オレフィン共重合体の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る重合触媒を用いることにより、エチレンなどのα−オレフィンと(メタ)アクリル酸系オレフィンなどの極性基含有ビニルモノマーとの共重合において、分子量とコモノマー含量が共に高い共重合体の製造を可能とし、触媒活性も高い重合触媒を提供することができる。
なお、かかる顕著な効果は、後述する本発明の各実施例のデータ及び各実施例と各比較例との対照により、実証されている。
そして、この高性能の共重合触媒を用いて得られる、α−オレフィンと(メタ)アクリル酸又はエステルなどとの共重合体は、機械的かつ熱的な物性に優れ、有用な各種の成形体として応用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、特定の構造を有する新規なトリアリールホスフィン及びトリアリールアルシン化合物、それらの新規な化合物が特定の金属元素に配位した触媒、並びに、それらを使用した、α−オレフィン・(メタ)アクリル酸系オレフィンなどの極性基含有ビニルモノマー共重合体の製造に係るものである。
以下において、それらの新規化合物、重合触媒、重合体の構成成分(モノマー成分)、及び重合方法などについて詳細に説明する。
【0022】
1.トリアリールホスフィン及びトリアリールアルシン化合物
本発明の重合触媒において、特定の金属元素に対する配位子となる新規なトリアリールホスフィン又はトリアリールアルシン化合物は、下記の一般式(1)で示される。
【0023】
【化3】

【0024】
(一般式(1)中、Yは、リン又は砒素であり、Zは、−SOH又は−COHであり、好ましくは−SOHである。
〜R11及びR13,R14 は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜20の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、又は炭素数1〜20の炭化水素基で置換されたシリル基からなる群より選ばれた置換基を示す。これらの置換基は同一でも異なってもよい。
12は、炭素原子、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子の、いずれかを介して芳香環と結合している、炭素数1〜20の置換基を示す。 )
【0025】
本発明の新規なトリアリールホスフィン及びトリアリールアルシン化合物は、R〜Rにおいても特異的である。すなわち、R〜Rは、15族原子(Y;リン又は砒素)からみてオルト位であり、錯化した際に中心金属のアキシャル方向に位置すると予想される。この立体効果が触媒性能の向上に影響しているものと考えられる。したがって、R、Rの少なくとも一つ、又は、R、Rの少なくとも一つが水素原子以外に置換されていることが好ましい。更に好ましくは、R、Rの少なくとも一つが水素原子以外であり、且つ、R、Rの少なくとも一つが水素原子以外のものである。更に好ましくは、R、Rの片方が水素原子、もう片方が水素原子以外であり、且つ、R、Rの片方が水素原子、もう片方が水素原子以外のものである。
【0026】
〜Rであるハロゲン原子としは、好ましくはフッ素、塩素、臭素が挙げられる。
【0027】
〜Rである炭素数1〜20の炭化水素基は、好ましくは炭素数1〜13の炭化水素基であり、アルキル基、シクロアルキル基或るいはアリール基である。
好ましい具体例は、メチル基、エチル基、1−プロピル基、1−ブチル基、1−ペンチル基、1−ヘキシル基、1−ヘプチル基、1−オクチル基、1−ノニル基、1−デシル基、t−ブチル基、トリシクロヘキシルメチル基、1,1−ジメチル−2−フェニルエチル基、イソプロピル基、1−ジメチルプロピル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1,1−ジエチルプロピル基、1−フェニル−2−プロピル基、イソブチル基、1,1−ジメチルブチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−ヘプチル基、3−ヘプチル基、4−ヘプチル基、2−プロピルヘプチル基、2−オクチル基、3−ノニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、エキソ−ノルボルニル基、エンド−ノルボニル基、2−ビシクロ[2.2.2]オクチル基、ノピニル基、デカヒドロナフチル基、メンチル基、ネオメンチル基、ネオペンチル基、5−デシル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フルオレニル基、トリル基、キシリル基、及びp−エチルフェニル基などが挙げられる。
これらの中で、更に好ましい置換基としては、イソプロピル基、イソブチル基、シクロヘキシル基であり、特に好ましくは、イソプロピル基である。
【0028】
〜Rであるハロゲン原子で置換された炭素数1〜20の炭化水素基は、好ましくは、前述の炭素数1〜20の炭化水素基をフッ素、塩素、又は臭素で置換した置換基であり、具体的に好ましい例として、トリフルオロメチル基、又はペンタフルオロフェニル基が挙げられる。
【0029】
〜Rであるアルコキシ基で置換された炭素数2〜30の炭化水素基は、好ましくは、前述の炭素数1〜20の炭化水素基をメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1−プロポキシ基、1−ブトキシ基、又はt−ブトキシ基で置換した置換基である。更に好ましくはメトキシ基又はエトキシ基で置換された炭素数2〜6の炭化水素基であり、具体的には、1−(メトキシメチル)エチル基、1−(エトキシメチル)エチル基、1−(フェノキシメチル)エチル基、1−(メトキシエチル)エチル基、1−(エトキシエチル)エチル基、ジ(メトキシメチル)メチル基、ジ(エトキシメチル)メチル基、ジ(フェノキシメチル)メチル基が挙げられる。特に好ましくは、1−(メトキシメチル)エチル基、1−(エトキシメチル)エチル基である。
〜Rである炭素数1〜20のアルコキシ基は、好ましくは炭素数1〜6のアルコキシ基であり、好ましい具体例は、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1−プロポキシ基、1−ブトキシ基、及びt−ブトキシ基などである。これらの中で、更に好ましい置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、又はイソプロポキシ基であり、特に好ましくは、メトキシ基である。
【0030】
〜Rである炭素数6〜20のアリールオキシ基は、好ましくは炭素数6〜12のアリールオキシ基であり、好ましい具体例は、フェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、2,6−ジメチルフェノキシ基、及び2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ基が挙げられる。これらの中で、更に好ましい置換基としては、フェノキシ基、又は2,6−ジメチルフェノキシ基であり、特に好ましくは、フェノキシ基である。
【0031】
〜Rである炭素数1〜20の炭化水素基で置換されたシリル基は、好ましくは炭素数3〜18のシリル基であり、好ましい具体例は、トリメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルフェニルシリル基、トリフェニルシリル基である。
【0032】
これらのR〜Rとして好ましい群のうち、更に好ましくは、炭素数1〜20の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基であり、特に好ましい具体例は、イソプロピル基、シクロヘキシル基、1−(メトキシメチル)エチル基、メトキシ基が挙げられる。
最も好ましくは、炭素数1〜20のアルキル基であり、R、Rの少なくとも一つ、及び、R、Rの少なくとも一つは、二級もしくは三級のアルキル基である。
【0033】
〜R11及びR13,R14 であるハロゲン原子は、好ましくはフッ素、塩素、臭素が挙げられる。
【0034】
〜R11及びR13,R14 である炭素数1〜20の炭化水素基としては、好ましくはアルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基が挙げられる。
ここで、アルキル基、シクロアルキル基の例は、メチル基、エチル基、1−プロピル基、1−ブチル基、1−ペンチル基、1−ヘキシル基、1−ヘプチル基、1−オクチル基、1−ノニル基、1−デシル基、t−ブチル基、トリシクロヘキシルメチル基、1,1−ジメチル−2−フェニルエチル基、イソプロピル基、1−ジメチルプロピル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1,1−ジエチルプロピル基、1−フェニル−2−プロピル基、イソブチル基、1,1−ジメチルブチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−ヘプチル基、3−ヘプチル基、4−ヘプチル基、2−プロピルヘプチル基、2−オクチル基、3−ノニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、エキソ−ノルボルニル基、エンド−ノルボニル基、2−ビシクロ[2.2.2]オクチル基、ノピニル基、デカヒドロナフチル基、メンチル基、ネオメンチル基、ネオペンチル基、及び5−デシル基などである。
これらの中で、好ましい置換基としては、イソプロピル基、イソブチル基、シクロヘキシル基である。
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、シンナミル基、スチリル基が挙げられる。
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フルオレニル基が挙げられ、これらのアリール基の芳香環に存在させうる置換基の例としては、アルキル基、アリール基、融合アリール基、フェニルシクロヘキシル基、フェニルブテニル基、トリル基、キシリル基、p−エチルフェニル基などである。これらの中で、好ましい置換基としては、フェニル基である。
【0035】
〜R11及びR13,R14 であるハロゲン原子で置換された炭素数1〜20の炭化水素基は、好ましくは、前述の炭素数1〜20の炭化水素基にフッ素、塩素、臭素などのハロゲン原子で置換された置換基である。
【0036】
〜R11及びR13,R14 であるアルコキシ基で置換された炭素数2〜30の炭化水素基は、好ましくは、前述の炭素数1〜20の炭化水素基をメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1−プロポキシ基、1−ブトキシ基、又はt−ブトキシ基で置換した置換基である。更に好ましくはメトキシ基又はエトキシ基で置換された炭素数1〜6の炭化水素基であり、具体的には、1−(メトキシメチル)エチル基、1−(エトキシメチル)エチル基、1−(フェノキシメチル)エチル基、1−(メトキシエチル)エチル基、1−(エトキシエチル)エチル基、ジ(メトキシメチル)メチル基、ジ(エトキシメチル)メチル基、ジ(フェノキシメチル)メチル基が挙げられる。
更に好ましくは、1−(メトキシメチル)エチル基、1−(エトキシメチル)エチル基である。一層好ましくは炭素数1〜6のアルコキシ基であり、具体例は、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1−プロポキシ基、1−ブトキシ基、及びt−ブトキシ基などである。これらの中で、より好ましい置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、又はイソプロポキシ基であり、特別に好ましくは、メトキシ基である。
【0037】
〜R11及びR13,R14 である炭素数6〜20のアリールオキシ基は、好ましくは炭素数6〜12のアリールオキシ基であり、好ましい具体例は、フェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、2,6−ジメチルフェノキシ基、及び2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ基が挙げられる。これらの中で、更に好ましい置換基としては、フェノキシ基、又は2,6−ジメチルフェノキシ基であり、特に好ましくは、フェノキシ基である。
【0038】
〜R11及びR13,R14 である炭素数1〜20の炭化水素基で置換されたシリル基は、好ましくは炭素数3〜18のシリル基であり、好ましい具体例は、トリメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルフェニルシリル基、トリフェニルシリル基である。
【0039】
これらのR〜R11及びR13,R14 として好ましい群のうち、更に好ましくは、水素原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基であり、特に好ましい具体例は、水素原子、メチル基、メトキシ基が挙げられる。
【0040】
本発明の新規なトリアリールホスフィン及びトリアリールアルシン化合物は、置換基R12おいて最も特異的であり、それにより、α−オレフィンと(メタ)アクリル酸又はエステルの共重合において、分子量とコモノマー含量が共に高い共重合体の製造を可能とする、高活性な重合触媒を開発できた。
置換基R12が触媒性能に及ぼす効果は大きく、特に共重合活性の向上に有効である。この原因としては、置換基R12が、架橋配位子であるホスフィンスルホナート配位子に及ぼす、電子的効果に起因していると予想される。なかでも、置換基R12として電子ドナー性置換基を導入することは、中心金属のルイス酸性を下げることで副反応を抑制できると期待され、触媒性能向上に有効である。
なお、本発明のR12は、芳香環の置換基として、−SOH又は−COHに対して対照位置(パラ位)に存在する電子供与性基である場合に、本発明の効果、特に触媒活性の向上を顕著に顕現できる。パラ位以外では、触媒性能の顕現が異なる。
【0041】
12は、炭素原子、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子の、いずれかを介して芳香環と結合している、炭素数1〜20の置換基を示す。
12として好ましくは、炭素数1〜20の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数2〜20の置換アミノ基、又は炭素数3〜20のシリル基からなる群より選ばれた置換基である。
【0042】
12である炭素数1〜20の炭化水素基は、好ましくは、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基が挙げられる。
ここで、アルキル基、シクロアルキル基の例は、メチル基、エチル基、1−プロピル基、1−ブチル基、1−ペンチル基、1−ヘキシル基、1−ヘプチル基、1−オクチル基、1−ノニル基、1−デシル基、t−ブチル基、トリシクロヘキシルメチル基、1,1−ジメチル−2−フェニルエチル基、イソプロピル基、1−ジメチルプロピル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1,1−ジエチルプロピル基、1−フェニル−2−プロピル基、イソブチル基、1,1−ジメチルブチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、2−ヘキシル基、3−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、2−ヘプチル基、3−ヘプチル基、4−ヘプチル基、2−プロピルヘプチル基、2−オクチル基、3−ノニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、エキソ−ノルボルニル基、エンド−ノルボニル基、2−ビシクロ[2.2.2]オクチル基、ノピニル基、デカヒドロナフチル基、メンチル基、ネオメンチル基、ネオペンチル基、及び5−デシル基などが挙げられる。
これらの中で、好ましい置換基としては、メチル基、イソプロピル基、イソブチル基、シクロヘキシル基である。
アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、ブテニル基、シクロヘキセニル基、シンナミル基、スチリル基が挙げられ、好ましくは、アリル基、シクロヘキセニル基である。
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フルオレニル基が挙げられ、これらのアリール基の芳香環に存在させうる置換基の例としては、アルキル基、アリール基、融合アリール基、フェニルシクロヘキシル基、フェニルブテニル基、トリル基、キシリル基、p−エチルフェニル基が挙げられる。これらの中で、好ましい置換基としては、フェニル基である。
【0043】
12であるアルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基は、好ましくは前述の炭素数1〜20の炭化水素基をメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1−プロポキシ基、1−ブトキシ基、又はt−ブトキシ基で置換した置換基であり、更に好ましくはメトキシ基又はエトキシ基で置換された炭素数1〜6の炭化水素基である。
【0044】
具体的には、1−(メトキシメチル)エチル基、1−(エトキシメチル)エチル基、1−(フェノキシメチル)エチル基、1−(メトキシエチル)エチル基、1−(エトキシエチル)エチル基、ジ(メトキシメチル)メチル基、ジ(エトキシメチル)メチル基、ジ(フェノキシメチル)メチル基が挙げられる。特に好ましくは、1−(メトキシメチル)エチル基、1−(エトキシメチル)エチル基である。
【0045】
12である炭素数1〜20のアルコキシ基は、好ましくは炭素数1〜6のアルコキシ基であり、好ましい具体例は、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1−プロポキシ基、1−ブトキシ基、及びt−ブトキシ基などである。これらの中で、更に好ましい置換基としては、メトキシ基、エトキシ基、又はイソプロポキシ基であり、特に好ましくは、メトキシ基が挙げられる。
【0046】
12である炭素数6〜20のアリーロキシ基は、好ましくは炭素数6〜12のアリーロキシ基である。好ましい具体例は、フェノキシ基、4−メチルフェノキシ基、4−メトキシフェノキシ基、2,6−ジメチルフェノキシ基、及び2,6−ジ−t−ブチルフェノキシ基である。これらの中で、更に好ましくは、フェノキシ基、又は2,6−ジメチルフェノキシ基であり、特に好ましくは、フェノキシ基である。
【0047】
12である炭素数2〜20の置換アミノ基は、好ましくは炭素数2〜12の置換アミノ基である。好ましい具体例は、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、アセチルアミノ基、アセチル(メチル)アミノ基である。これらの中で、更に好ましくは、ジエチルアミノ基、又はアセチルアミノ基であり、特に好ましくは、アセチルアミノ基である。
【0048】
12である炭素数3〜20のシリル基は、好ましくは炭素数3〜18のシリル基であり、好ましい具体例は、トリメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルフェニルシリル基、トリフェニルシリル基、ジメチルエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリプロピルシリル基、ジメチルイソプロピルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリブチルシリル基、トリヘキシルシリル基、シクロヘキシルジメチルシリル基、トリベンジルシリル基が挙げられる。これらの中で、更に好ましくは、トリメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基、トリフェニルシリル基であり、特に好ましくは、トリメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルフェニルシリル基である。
【0049】
これらのR12として好ましい置換基群のうち、更に好ましくは、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数3〜20のシリル基である。好ましい具体例は、メチル基、イソプロピル基、アリル基、シクロヘキセニル基、フェニル基、メトキシ基、トリメチルシリル基、ジメチルフェニルシリル基、ジフェニルメチルシリル基であり、特に好ましくは、フェニル基、シクロヘキセニル基、メトキシ基、トリメチルシリル基である。
【0050】
2.トリアリールホスフィン及びトリアリールアルシン化合物の合成
第一の発明としての、新規なトリアリールホスフィン化合物の合成は、具体的には以下の経路により行われる。
まず、原料である三塩化リンと、二当量のアリール基のリチオ体(アリールリチウム塩)を−78℃で反応させる。生成したジ(アリール)ホスフィンクロライドは、精製してから次の反応に用いても、そのまま用いてもよい。次に、ジ(アリール)ホスフィンクロライドのテトラヒドロフラン溶液に、ベンゼンスルホン酸誘導体のリチオ体(アリールリチウム塩)を−78℃でゆっくりと滴下した後、室温で12〜24時間反応させる。反応後は、酸性条件で抽出した後、洗浄することで目的物を得ることができる。
【0051】
トリアリールホスフィン化合物の合成経路は、上記記載の経路以外にもいくつか知られており、他の経路でも合成可能である。また、トリアリールアルシン化合物の合成も同様になされる。
具体的な合成条件は、実施例における配位子の各合成例として、詳細に記述されている。
【0052】
3.重合触媒の合成
本発明の重合触媒は、一般式(1)で表される新規なトリアリールホスフィン又はトリアリールアルシン化合物と、8〜10族(後周期型;Fe、Co,Ni、Pdなど)の遷移金属化合物とを反応させて得られるα−オレフィン重合触媒である。
触媒組成物の合成は、一般に、8〜10族の遷移金属化合物と新規なトリアリールホスフィン又はトリアリールアルシン化合物(以下、配位子と称すことがある。)とを溶液又はスラリー中で接触して行うことができる。
【0053】
遷移金属化合物として好ましくは、10族の遷移金属化合物であり、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、硫酸パラジウム、酢酸パラジウム、ビス(アリルパラジウムクロライド)、塩化パラジウム、臭化パラジウム、(シクロオクタジエン)パラジウム(メチル)クロライド、ジメチル(テトラメチルエチレンジアミン)パラジウム、ビス(シクロオクタジエン)ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、(テトラメチルエチレンジアミン)ニッケル(メチル)クロライド、ジメチル(テトラメチルエチレンジアミン)ニッケル、(シクロオクタジエン)ニッケル(メチル)クロライドなどを使用して合成する。
【0054】
錯形成反応は、α−オレフィンとの共重合に使用する反応器中で行ってもよいし、該反応器とは別の容器中で行ってもよい。錯形成後に、金属錯体を単離抽出して触媒に用いてもよいし、単離せずに触媒に用いてもよい。更に、後述する多孔質担体の存在下に実施することも可能である。
また、本発明の触媒組成物は、一種類を単独で用いてもよいし、複数種の触媒組成物を併用してもよい。特に、分子量分布やコモノマー含量分布を広げる目的には、こうした複数種の触媒組成物の併用が有用である。
【0055】
一般式(1)で表されるトリアリールホスフィン又はトリアリールアルシン化合物と、第8〜10族の遷移金属化合物を反応させてなる重合触媒は、下記一般式(2)で表される金属錯体であってよい。
【0056】
【化4】

【0057】
(一般式(2)中、Yは、リン又は砒素であり、Zは、−SO−又は−CO−である。
〜R11及びR13,R14 は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜20の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、又は炭素数1〜20の炭化水素基で置換されたシリル基からなる群より選ばれた置換基を示す。
12は、炭素原子、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子の、いずれかを介して芳香環と結合している、炭素数1〜20の置換基を示す。
Mは、8〜10族の遷移金属からなる群より選択された金属原子を示し、Aは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜30の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数1〜30の炭化水素基、アリーロキシ基で置換された炭素数1〜30の炭化水素基、炭素数1〜30のアルコキシ基、又は炭素数1〜30のアリールオキシ基からなる群より選ばれた置換基を示す。
Bは、Mに配位した任意のリガンドを示す。また、AとBは互いに結合して環を形成していてもよい。)
【0058】
Mは、第8〜10族の遷移金属を示すが、Fe、Co、Ni、Pd、Pt及びランタニドが好ましく、より好ましくは、Ni、Pdである。
Aとして好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基であり、特に好ましくは、水素原子、炭素数1〜30の炭化水素基が挙げられる。好ましい具体例は、水素原子、メチル基、エチル基、フェニル基、トリル基、ベンジル基、アリル基であり、特に好ましい置換基としては、水素原子、メチル基とフェニル基である。
【0059】
Bは、Mに配位した任意のリガンドである。また、AとBは互いに結合して環を形成していてもよい。具体的なリガンドとしては、アリル誘導体、ホスフィン類、ピリジン誘導体、ピペリジン誘導体、アルキルエーテル誘導体、アリールエーテル誘導体、アルキルアリールエーテル誘導体、ケトン類、環状エーテル類、アルキルニトリル誘導体、アリールニトリル誘導体、アルコール類、アミド類、脂肪族エステル類、芳香族エステル類、アミン類などを挙げることができ、好ましくは、アリル誘導体、ホスフィン類、ケトン類、環状エーテル類、ピリジン誘導体であり、特に好ましくは、ヒドロキシアリル、シロキシアリル、アセトン、テトラヒドロフラン、ピリジン、ルチジン、トリフェニルホスフィンである。
【0060】
4.重合触媒の使用態様
本発明の重合触媒は、単独で用いてもよく、また担体に担持して用いることもできる。使用可能な担体としては、本発明の主旨を損なわない限りにおいて、任意の担体を用いることができる。
一般に、無機酸化物やポリマー担体が好適に使用できる。具体的には、SiO、Al、MgO、ZrO、TiO、B、CaO、ZnO、BaO、ThOなど又はこれらの混合物が挙げられ、SiO−Al、SiO−V、SiO−TiO、SiO−MgO、SiO−Crなどの混合酸化物も使用することができ、無機ケイ酸塩、ポリエチレン担体、ポリプロピレン担体、ポリスチレン担体、ポリアクリル酸担体、ポリメタクリル酸担体、ポリアクリル酸エステル担体、ポリエステル担体、ポリアミド担体、ポリイミド担体などが使用可能である。
これらの担体については、粒径、粒径分布、細孔容積、比表面積などに特に制限はなく、任意のものが使用可能である。
【0061】
触媒成分は、重合槽内で、或は重合槽外でオレフィンの存在下で予備重合を行ってもよい。オレフィンとは炭素間二重結合を少なくとも1個含む炭化水素をいい、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセン、3−メチルブテン−1、スチレン、ジビニルベンゼンなどが例示されるが、特に種類に制限はなく、これらと他のオレフィンとの混合物を用いてもよい。好ましくは炭素数2又は3のオレフィンである。オレフィンの供給方法は、オレフィンを反応槽に定速的にあるいは定圧状態になるように維持する供給方法やその組み合わせ、段階的な変化をさせるなど、任意の方法が可能である。
【0062】
5.重合用モノマー
本発明において、共重合体の製造に用いられるモノマ−としては、以下に説明する、(a)α−オレフィン、(b)極性基含有モノマーが挙げられる。
それぞれの原料のモノマー成分は、単独で使用してもよいし、複数を併用してもよい。
【0063】
(5−1)α−オレフィン(a)
本発明に用いられるモノマ−の一つは、一般式CH=CH(R15)で表されるα−オレフィン(以下、「(a)成分」と称することがある。)である。ここで、R15は、水素又は炭素数1〜20のアルキル基である。
なかでも、好ましい(a)成分として、炭素数1〜10のR15を有するα−オレフィンが挙げられる。更に好ましい(a)成分としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテンが挙げられ、特に好ましい(a)成分としては、エチレンが挙げられる。
【0064】
(5−2)極性基含有モノマー(以下、「(b)成分」と称することがある)
(5−2−1)(メタ)アクリル酸又はエステル
本発明に用いられる(b)成分の一つは、一般式CH=C(R16)CO(R17)で表される、(メタ)アクリル酸、又は(メタ)アクリル酸エステルである。
ここで、R16は、水素又は炭素数1〜10の炭化水素基であり、分岐、環、及び/又は不飽和結合を有していてもよい。R17は、水素又は炭素数1〜30のアルキル基である。更に、R17内の任意の位置にヘテロ原子を含有していてもよい。
【0065】
好ましくは、炭素数1〜5のR16を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸が挙げられる。より好ましくは、R16がメチル基であるメタクリル酸エステル又はR16が水素であるアクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸が挙げられる。
好ましい具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸トルイル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸などが挙げられる。特に好ましい具体例としては、アクリル酸メチルが挙げられる。
【0066】
(5−2−2)スチレン系モノマー
本発明に用いてもよい(b)成分の一つは、スチレンの骨格に、水酸基、アルコキサイド基、カルボン酸基、エステル基、アルデヒド基を含有するモノマーである。
好ましい具体例としては、メトキシスチレン、エトキシスチレン、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸、ビニル安息香酸メチル、ビニルベンジルアセテート、ヒドロキシスチレンが挙げられる。特に好ましい具体例としては、メトキシスチレンが挙げられる。
【0067】
(5−2−3)環状オレフィンモノマー
本発明に用いてもよい(b)成分の一つは、シクロペンテン、シクロヘキセン、ノルボルネン、エチリデンノルボルネンなどの環状オレフィンの骨格に、水酸基、アルコキサイド基、カルボン酸基、エステル基、アルデヒド基を含有するモノマーである。
【0068】
ノルボルネン系オレフィンは、シクロペンタジエンを使用するディールスアルダー反応([4+2]シクロ付加)で製造することができる。使用するジエノフィルは例えば、ジエチルアゾジカルボキシレート、アルデヒド、マレイン酸無水物、ジヒドロフラン、ビニルピリジン、アルキルアクリレート又は上記の置換オレフィンである(T.L.Gilchrist,”Heterocyclic Chemistry”,1985,4.3.3章を参照)。
好ましい具体例は、式(5a)〜(5f)で表すことができる。ここで、R18は、炭素数1〜30の炭化水素基であり、分岐、環、又は不飽和結合を有していてもよい。
【0069】
【化5】

【0070】
6.共重合反応
本発明における共重合反応は、プロパン、n−ブタン、イソブタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの炭化水素溶媒や液化α−オレフィンなどの液体、また、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、安息香酸メチル、アセトン、メチルエチルケトン、ホルミルアミド、アセトニトリル、メタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールなどのような極性溶媒の存在下或いは非存在下に行われる。また、ここで記載した液体化合物の混合物を溶媒として使用してもよい。なお、高い重合活性や高い分子量を得るうえでは、上述の炭化水素溶媒がより好ましい。
【0071】
本発明における共重合に際して、公知の添加剤の存在下又は非存在下で共重合を行うことができる。添加剤としては、ラジカル重合禁止剤や、生成共重合体を安定化する作用を有する添加剤が好ましい。例えば、キノン誘導体やヒンダードフェノール誘導体などが好ましい添加剤の例として挙げられる。
具体的には、モノメチルエーテルハイドロキノンや、2,6−ジ−t−ブチル4−メチルフェノール(BHT)、トリメチルアルミニウムとBHTとの反応生成物、4価チタンのアルコキサイドとBHTとの反応生成物などが使用可能である。
また、添加剤として、無機及び又は有機フィラーを使用し、これらのフィラーの存在下で重合を行ってもよい。
【0072】
本発明において、重合形式に特に制限はない。媒体中で少なくとも一部の生成重合体がスラリーとなるスラリー重合、液化したモノマー自身を媒体とするバルク重合、気化したモノマー中で行う気相重合、又は、高温高圧で液化したモノマーに生成重合体の少なくとも一部が溶解する高圧イオン重合などが好ましく用いられる。
また、重合様式としては、バッチ重合、セミバッチ重合、連続重合のいずれの様式でもよい。
【0073】
未反応モノマーや媒体は、生成共重合体から分離し、リサイクルして使用してもよい。リサイクルの際、これらのモノマーや媒体は、精製して再使用してもよいし、精製せずに再使用してもよい。生成共重合体と未反応モノマー及び媒体との分離には、従来の公知の方法が使用できる。例えば、濾過、遠心分離、溶媒抽出、貧溶媒を使用した再沈などの方法が使用できる。
【0074】
共重合温度、共重合圧力及び共重合時間に特に制限はないが、通常は、以下の範囲から生産性やプロセスの能力を考慮して、最適な設定を行うことができる。
即ち、共重合温度は、通常−20℃から290℃、好ましくは0℃から250℃、共重合圧力は、0.1MPaから100MPa、好ましくは、0.3MPaから90MPa、共重合時間は、0.1分から10時間、好ましくは、0.5分から7時間、更に好ましくは1分から6時間の範囲から選ぶことができる。
本発明において、共重合は、一般に不活性ガス雰囲気下で行われる。例えば、窒素、アルゴン雰囲気が使用でき、窒素雰囲気が好ましく使用される。なお、少量の酸素や空気の混入があってもよい。
【0075】
共重合反応器への触媒とモノマーの供給に関しても特に制限はなく、目的に応じて様々な供給法をとることができる。例えばバッチ重合の場合、予め所定量のモノマーを共重合反応器に供給しておき、そこに触媒を供給する手法をとることが可能である。この場合、追加のモノマーや追加の触媒を共重合反応器に供給してもよい。また、連続重合の場合、所定量のモノマーと触媒を共重合反応器に連続的に、又は間歇的に供給し、共重合反応を連続的に行う手法をとることができる。
【0076】
共重合体の組成の制御に関しては、複数のモノマーを反応器に供給し、その供給比率を変えることによって制御する方法を一般に用いることができる。その他、触媒の構造の違いによるモノマー反応性比の違いを利用して共重合組成を制御する方法や、モノマー反応性比の重合温度依存性を利用して共重合組成を制御する方法が挙げられる。
【0077】
共重合体の分子量制御には、従来公知の方法を使用することができる。即ち、重合温度を制御して分子量を制御する方法、モノマー濃度を制御して分子量を制御する方法、連鎖移動剤を使用して分子量を制御する方法、遷移金属錯体中の配位子構造の制御により分子量を制御するなどが挙げられる。
連鎖移動剤を使用する場合には、従来公知の連鎖移動剤を用いることができる。例えば、水素、メタルアルキルなどを使用することができる。また、(b)成分自身が一種の連鎖移動剤となる場合には、(b)成分の濃度や、(a)成分に対する比率を制御することによっても分子量調節が可能である。
遷移金属錯体中の配位子構造を制御して分子量調節を行う場合には、金属Mの周りに嵩高い置換基を配置したり、金属Mにアリール基やヘテロ原子含有置換基などの電子供与性基が相互作用可能となるように配置したり、前記したR16〜R17中にヘテロ原子を導入することにより、一般に分子量が向上する傾向を利用することができる。
【実施例】
【0078】
以下において、本発明を実施例によって具体的に説明し、本発明の構成の合理性と有意性及び従来技術に対する卓越性を実証する。なお、実施例で用いた配位子構造を以下に示した。
【0079】
【化6】

【0080】
また、実施例では、以下の略号を使用した。 Pd(dba)2:ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム Ni(cod)2:ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル MA:メチルアクリレート tBA:ターシャリーブチルアクリレート
【0081】
1.評価方法
(1)分子量及び分子量分布(Mw、Mn、Q値)
(測定条件)使用機種:ウォーターズ社製150C 検出器:FOXBORO社
製MIRAN1A・IR検出器(測定波長:3.42μm) 測定温度:140℃
溶媒:オルトジクロロベンゼン(ODCB) カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本) 流速:1.0mL/分 注入量:0.2mL
(試料の調製)試料はODCB(0.5mg/mLのBHT(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール)を含む)を用いて1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して溶解させた。
(分子量の算出)標準ポリスチレン法により行い、保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレンによる検量線を用いて行った。使用する標準ポリスチレンは何れも東ソー社製の銘柄であり、F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000、である。
各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して較正曲線を作成した。較正曲線は最小二乗法で近似して得られる三次式を用いた。分子量への換算に使用する粘度式[η]=K×Mαは以下の数値を用いた。
PS:K=1.38×10−4、α=0.7
PE:K=3.92×10−4、α=0.733
PP:K=1.03×10−4、α=0.78
【0082】
(2)融点(Tm)
セイコーインスツルメンツ社製DSC6200示差走査熱量測定装置を使用して、シート状にしたサンプル片を5mgアルミパンに詰め、室温から一旦200℃まで昇温速度100℃/分で昇温し、5分間保持した後に、10℃/分で20℃まで降温して結晶化させた後に、10℃/分で200℃まで昇温することにより融解曲線を得た。
融解曲線を得るために行った最後の昇温段階における主吸熱ピークのピークトップ温度を融点Tmとし、該ピークのピーク面積をΔHmとした。
【0083】
(3)コモノマー含量
コモノマー含量の定量は、約0.5mmのプレス板を作製し、島津製作所FTIR−8300型を用いて、赤外吸収スペクトルにより行った。
コモノマー含量は、3,450cm−1付近のカルボニル基の倍音吸収と、4,250cm−1付近のオレフィン吸収の赤外吸収強度比をもとに算出した。なお、算出に当たっては、13C・NMR測定により作成した検量線を使用した。
【0084】
2.配位子合成
下記合成例で得られたトリアリールホスフィン化合物を配位子として用いた。なお、以下の合成例で特に断りのない限り、操作は精製窒素雰囲気下で行い、溶媒は脱水・脱酸素したものを用いた。
【0085】
(合成例1)配位子(I)の合成
1−ブロモ−2−イソプロピルベンゼン(1.79g,9.0mmol)のジエチルエーテル(10mL)溶液に、ノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(2.5M,3.6mL,9.0mmol)を0℃でゆっくりと滴下し、室温まで温度を上昇させながら2時間撹拌した。反応液を、三塩化リン(0.4g,4.5mmol)のテトラヒドロフラン溶液に−78℃で滴下し、そのままの温度で2時間撹拌した(反応液A1)。
1−ブロモ−2−スルホン酸イソプロピルエステル−5−メトキシベンゼン(1.39g,4.5mmol)のテトラヒドロフラン(10mL)溶液に、t−ブチルリチウムヘキサン溶液(1.6M,5.6mL,9.0mmol)を−78℃でゆっくりと滴下し、2時間撹拌した。この溶液を、先ほどの反応液A1に−78℃で滴下し、室温で24時間撹拌した。水(20mL)を加えた後、減圧下で溶媒を留去した。生成物を塩化メチレンで抽出し(300mL×3)、塩化ナトリウム水溶液にて洗浄した。硫酸ナトリウムにより乾燥した後、溶媒を留去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ペンタン/酢酸エチル=50/1)により精製し、白色の生成物A2を0.3g得た。
積算により得た生成物A2(4.2g)、水酸化ナトリウム(1.7g,42.8mmol)、メタノール(40mL)、テトラヒドロフラン(40mL)、水(5mL)の溶液を一晩還流した。反応液を減圧下で濃縮した後、塩酸を加えて酸性にした(PH2)。塩化メチレンで抽出し(300mL×3)、硫酸ナトリウムにより乾燥した後、溶媒を留去することにより、白色の目的物を得た(収量3.5g)。
1H NMR (CDCl3, ppm): 8.33 (dd, J = 6.0, 8.4 Hz, 1 H), 7.71 (dd, J = 7.2, 7.6 Hz, 2 H), 7.59 (dd, J = 5.6, 7.2 Hz, 2 H), 7.32 (t, J = 7.2 Hz, 2 H), 7.25 (m, 1 H), 7.03 (dd, J = 7.6, 14.8 Hz, 2 H), 6.56 (dd, J = 2.0, 15.6 Hz, 1 H), 3.75 (s, 3 H), 3.05 (br, 2 H), 1.2 (m, 12 H).31P NMR (CDCl3, ppm): -9.5.
【0086】
(合成例2)配位子(II)の合成
1−ブロモ−2−イソプロピルベンゼン(8.60g,43.4mmol)のジエチルエーテル(100mL)溶液に、ノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(2.5M,17.3mL,43.4mmol)を−30℃でゆっくりと滴下し、室温まで温度を上昇させながら1時間撹拌した。反応液に、三塩化リン(1.89g,21.7mmol)を−78℃で滴下し、室温で1時間撹拌した(反応液B1)。
1−スルホン酸イソプロピルエステル−4−メトキシベンゼン(5.0g,21.7mmol)のテトラヒドロフラン(10mL)溶液に、ノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(2.5M,8.68mL,21.7mmol)を−78℃でゆっくりと滴下し、2.5時間撹拌した。この溶液に、先ほどの反応液B1を−78℃で滴下し、室温で12時間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液(50mL)を加えた後、酢酸エチルで抽出し(100mL×3)、塩化ナトリウム水溶液にて洗浄した。硫酸ナトリウムにより乾燥した後、溶媒を留去することで、黄色オイル状の生成物B2を(9.6g)得た。
この生成物B2(9.6g)と、水酸化ナトリウム(1N,50mL,50mmol)、メタノール(100mL)の溶液を3時間還流した。反応液を減圧下で濃縮した後、塩酸を加えて酸性にした(PH2)。塩化メチレンで抽出し(100mL×3)、硫酸ナトリウムにより乾燥した後、溶媒を留去した。酢酸エチルで洗浄することにより、白色粉末B3を得た(4.5g)。
生成物B3(4.5g)のテトラヒドロフラン(40mL)溶液に、ノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(2.5M,16mL,40mmol)を0℃でゆっくりと滴下し、室温で2時間撹拌した。この反応液に、トリメチルシリルクロライド(4.5g42.0
mmol)を0℃で滴下し、室温で16時間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液を加えてクエンチした後、塩化メチレンで抽出し(50mL×3)、硫酸ナトリウムにより乾燥した。濃縮後にシリカゲルクロマトグラフィー(塩化メチレン/メタノール=100/1)にて精製することにより、白色の目的物を2.8g得た。
1H NMR (CDCl3, ppm): 7.67 (t, J = 7.6 Hz, 2 H), 7.56 (dd, J = 6.0, 7.2 Hz, 2 H), 7.51 (d, J = 1.6 Hz, 1 H), 7.30 (dd, J = 6.4, 7.6 Hz, 2 H), 6.54 (dd, J = 2.4, 16.0 Hz, 1 H), 3.70 (s, 3 H), 3.10 (br, 2 H), 1.19 (br, 12 H), 0.50 (s, 9 H). 31P NMR (CDCl3, ppm): -8.2.
【0087】
(合成例3)配位子(III)の合成
生成物B3(6.9g)のテトラヒドロフラン(120mL)溶液に、ノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(2.5M,13.3mL,33.3mmol)を−78℃でゆっくりと滴下し、室温で2.5時間撹拌した。この反応液に、ジフェニルメチルシリルクロライド(7.75g,33mmol)を−78℃で滴下し、室温で16時間撹拌した。氷水(10mL)を加えてクエンチした後、、酢酸エチルで抽出し(100mL×2)、硫酸ナトリウムにより乾燥した。濃縮後に、再結晶(酢酸エチル)により、白色の目的物を3.1g得た。
1H NMR (CDCl3, ppm): 7.67 (t. J = 7.6 Hz, 2 H), 7.56 (dd. J = 6.0, 7.2 Hz, 2 H), 7.46 (m, 4 H), 7.30 (m, 7 H), 7.01 (br, 3 H), 6.56 (dd, J = 2.8, 16.0 Hz, 1 H), 3.32 (s, 3 H), 3.1 (br, 2 H), 1.2 (br, 15 H). 31P NMR (CDCl3, ppm): -8.2.
【0088】
(合成例4)配位子(IV)の合成
無水ベンゼンスルホン酸(400mg,2.5mmol)のテトラヒドロフラン(20mL)溶液に、ノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(2.5M,2mL,5mmol)を0℃でゆっくりと滴下し、室温まで温度を上昇させながら1時間撹拌した。反応液を−70℃まで冷却し、三塩化リン(340mg,2.5mmol)を加え、室温まで温度を上昇させながら2時間撹拌した(反応液D)。
1−ブロモ−2−イソプロピルベンゼン(1g,5mmol)のジエチルエーテル(20mL)溶液に、ノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(2.5M,2mL,5mmol)を−30℃でゆっくりと滴下し、室温まで温度を上昇させながら3時間撹拌した。この溶液を、先ほどの反応液Dに室温で滴下し、一晩撹拌した。反応後、水(20mL)を加え、エーテル抽出し(20mL×2)、1N塩酸(20mL×2)で洗浄した後、溶媒を留去した。メタノール(5mL)で洗浄し、白色の目的物を100mg得た。
1H NMR (CDCl3, ppm): 8.35 (ddd, J = 0.8, 4.8, 7.6 Hz, 1 H), 7.74 (tt, J = 1.4,7.6 Hz, 1 H), 7.65 (t, J = 7.6 Hz, 2 H), 7.53 (t, J = 6.4 Hz, 2 H), 7.42 (ddt, J = 1.2, 2.8, 7.6 Hz, 1 H), 7.26 (ddt, J = 0.8, 4.8, 8.0 Hz, 2 H), 7.05 (dd, J = 0.8, 7.6 Hz, 1 H), 6.98 (dd, J = 0.8, 5.2 Hz, 2 H), 3.00 (m, 2 H), 1.15 (d, J = 6.8 Hz, 6 H), 1.09 (d, J = 6.0 Hz, 6 H). 31P NMR (CDCl3, ppm): 9.5.
【0089】
(合成例5)配位子(V)の合成
[ジ(2−イソプロピルフェニル)](2−スルホニルフェニル)ホスフィン(8.0g,18.8mmol)の無水テトラヒドロフラン(80mL)溶液に、ノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(2.6M,18mL,47mmol)を0℃で滴下し、室温で2時間撹拌した。反応液は茶色に変化した。反応液を0℃に冷却し、トリメチルシリルクロライド(20g,27.6mmol)を加え、室温で24時間撹拌した。反応後、水(50mL)を加えた後、減圧下で濃縮し、塩化メチレンで抽出した(100mL×3)。硫酸ナトリウムで乾燥し、溶媒を留去後に、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン/メタノール=40/1)により精製し、白色の目的物を3.5g得た。
1H NMR (CDCl3, ppm): 8.05 (d, J = 7.6 Hz, 1 H), 7.67 (d, J = 7.6 Hz, 2 H), 7.56 (dd, J = 5.6, 7.6 Hz, 2 H), 7.40 (ddd, J = 2.8, 7.6, 7.6 Hz, 1 H), 7.20 (dd, J = 7.6, 7.6 Hz, 2 H), 7.10 (dd, J = 7.6, 14.8 Hz, 1 H), 7.01 (d, J = 7.6, 14.4 Hz, 2 H), 3.11 (m, 2 H), 1.20 (br, 12 H), 0.49 (s, 9 H). 31P NMR (CDCl3, ppm): -23.7.
【0090】
(合成例6)配位子(VI)の合成
無水ベンゼンスルホン酸(5.2g,32.9mmol)のテトラヒドロフラン(60mL)溶液に、ノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(2.5M,25mL,62mmol)を0℃でゆっくりと滴下し、室温まで温度を上昇させながら20時間撹拌した。この反応液に、ビス(2−メトキシフェニル)メトキシホスフィン(9.1g,32.9mmol)のテトラヒドロフラン(20mL)溶液を滴下し、16時間撹拌した。塩化アンモニウム(3.4g,62mmol)を加えた後、溶媒を留去し、水(100mL)を加えた。MTBE(40mL×2)で洗浄した後、塩酸を加えて酸性にした(PH<3)。塩化メチレンで抽出し(60mL×2)、硫酸ナトリウムにより乾燥した後、−35℃で再結晶化し、白色の目的物を3.7g得た。
1H NMR (C2D2Cl4, ppm): 6.7-8.2 (m, 12H), 3.79 (s, 6H). 31P NMR (C2D2Cl4, ppm): -9.8.
【0091】
(合成例7)配位子(VII)の合成
無水ベンゼンスルホン酸(0.74g,4.7mmol)のテトラヒドロフラン(20mL)溶液に、ノルマルブチルリチウムヘキサン溶液(2.5M,3.8mL,9.4mmol)を0℃でゆっくりと滴下し、室温まで温度を上昇させながら2時間撹拌した。反応液を−78℃まで冷却し、三塩化リン(0.41mL,4.7mmol)を加え、室温で2時間撹拌した(反応液G)。
1−ブロモ−2−(2´,6´−ジメトキシフェニル)ベンゼン(2.8g,9.4mmol)のテトラヒドロフラン(25mL)溶液に、t−ブチルリチウムヘキサン溶液(1.5M,12.5mL,18.8mmol)を0℃でゆっくりと滴下し、30分間撹拌した。この溶液を、先ほどの反応液Gに−50℃で滴下し、室温で一晩撹拌した。溶媒を留去した後、水(200mL)を加え、塩酸を加えて酸性にした(PH<3)。MTBE抽出し(100mL×3)、硫酸ナトリウムにより乾燥した後、溶媒を留去した。THF(5mL)で洗浄し、白色の目的物を得た。0.5g。
1H NMR (CDCl3, ppm): 8.08 (m, 1 H), 7.61 (m, 3 H), 7.42-7.12 (m, 10 H), 6.68-6.22 (br, 4 H), 3.84-3.31 (br, 9 H), 2.96 (br, 3 H). 31P NMR (CDCl3, ppm): -2.4.
【0092】
3.重合
3−1.(実施例1)(比較例1)
充分に窒素置換した30mLフラスコに、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウムとホスフィンスルホナート配位子をそれぞれ100マイクロモル秤量し、脱水トルエン(10mL)を加えた後、これを超音波振動機にて10分間処理することで、触媒スラリーを調製した。
次に、内容積1Lの誘導撹拌式ステンレス製オートクレーブ内を精製窒素で置換し、精製トルエン(618mL)、メチルアクリレート(72mL,重合時の濃度が1mol/Lになるように調整)を精製窒素雰囲気下にオートクレーブ内に導入した。先に調製した触媒溶液を添加し、室温下、エチレン圧を3MPaとして重合を開始した。反応中は温度を80℃に保ち、エチレンの分圧が3MPaに保持されるように連続的にエチレンを供給した。
重合終了後、エチレンをパージし、オートクレーブを室温まで冷却し、濾過によりポリマーと溶媒を分離した。更に、アセトン(1L)を用いてポリマーを再沈させ、沈殿したポリマーを濾過した。更に、得られた固形ポリマーをアセトン(1L)に分散させ、ここに1N−塩酸(20ml)を加えて60分撹拌し、ポリマーを濾過した。得られた固形ポリマーを少量のアセトンで洗浄し、60℃で3時間減圧乾燥することで、最終的にポリマーを回収した。それぞれの重合結果を表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
3−2.(実施例2)(比較例2)
(ビスジベンジリデンアセトン)パラジウムとホスフィンスルホナート配位子配位子のスラリーを別々に用意し、超音波振動器にて処理した後、混合して室温で15分間撹拌することで、0.0025〜0.002mol/Lの触媒スラリーを調製した。内容積10mLの誘導撹拌式ステンレス製オートクレーブ内を精製窒素で置換し、精製トルエン、所定量のコモノマーを導入した。昇温後、エチレンで加圧して2MPaとした後、先に調製した触媒スラリーを所定量添加して、重合を開始した。なお、重合時の液総量は5mLになるように調製した。反応中は温度を一定に保ち、エチレンの分圧が2MPaに保持されるように連続的にエチレンを供給した。60分後に、未反応のエチレンをパージ後、オートクレーブを室温まで冷却し、得られたポリマーを濾過により回収し、40℃で6時間減圧乾燥した。重合結果を表2に示す。
【0095】
【表2】

【0096】
4.実施例と比較例の結果の考察
実施例1及び2では、公知技術である配位子(IV〜VII)を用いた比較例1及び2に対して、本発明によるホスフィンスルホナート配位子(I〜III)を用いることで、高い触媒活性を発現することを明らかにした。また、実施例1及び2では、比較例1及び2に比して、分子量と共重合モノマー含量がバランス良く高くなっている。
よって、本実施例により、R12への置換基導入が、触媒性能向上に有用であることが理解された。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明に係る重合触媒を用いることにより、α−オレフィンと(メタ)アクリル酸又はエステルの共重合における触媒性能を向上できた。
かくして、性能の高められた重合触媒の実現により、α−オレフィンと極性基含有モノマー、特に、α−オレフィンと(メタ)アクリル酸又はエステルの共重合反応が工業的に実施し得ることになり、ポリオレフィン共重合体の産業分野において格別に有用となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式で表されるトリアリールホスフィン又はトリアリールアルシン化合物。
【化1】

(一般式(1)中、Yは、リン又は砒素であり、Zは、−SOH又は−COHである。
〜R11及びR13、R14 は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜20の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、又は炭素数1〜20の炭化水素基で置換されたシリル基からなる群より選ばれた置換基を示す。
12は、炭素原子、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子の、いずれかを介して芳香環と結合している、炭素数1〜20の置換基を示す。 )
【請求項2】
一般式(1)において、R12が、炭素数1〜20の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数2〜20の置換アミノ基、又は炭素数3〜20のシリル基からなる群より選ばれた置換基であることを特徴とする、請求項1に記載のトリアリールホスフィン又はトリアリールアルシン化合物。
【請求項3】
一般式(1)において、R、Rの少なくとも一つ、及び、R、Rの少なくとも一つは二級もしくは三級のアルキル基であることを特徴とする 、請求項1に記載のトリアリールホスフィン又はトリアリールアルシン化合物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の化合物と、8〜10族の遷移金属化合物とを反応させて得られるα−オレフィン重合触媒。
【請求項5】
下記一般式(2)で表されることを特徴とする金属錯体。
【化2】

(一般式(2)中、Yは、リン又は砒素であり、Zは、−SO−又は−CO−である。
〜R11及びR13,R14 は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜20の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、又は炭素数1〜20の炭化水素基で置換されたシリル基からなる群より選ばれた置換基を示す。
12は、炭素原子、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子の、いずれかを介して芳香環と結合している、炭素数1〜20の置換基を示す。
Mは、8〜10族の遷移金属からなる群より選択された金属原子を示し、Aは、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素数1〜30の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数1〜30の炭化水素基、アリーロキシ基で置換された炭素数1〜30の炭化水素基、炭素数1〜30のアルコキシ基、又は炭素数1〜30のアリールオキシ基からなる群より選ばれた置換基を示す。
Bは、Mに配位した任意のリガンドを示す。また、AとBは互いに結合して環を形成していてもよい。)
【請求項6】
一般式(2)において、R12が、炭素数1〜20の炭化水素基、アルコキシ基で置換された炭素数2〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数2〜20の置換アミノ基、又は炭素数3〜20のシリル基からなる群より選ばれた置換基であることを特徴とする、請求項5に記載の金属錯体。
【請求項7】
一般式(2)において、R、Rの少なくとも一つ、及び、R、Rの少なくとも一つは二級もしくは三級のアルキル基であることを特徴とする、請求項5に記載の金属錯体。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の金属錯体を含むα−オレフィン重合触媒。
【請求項9】
請求項4又は請求項8に記載のα−オレフィン重合触媒の存在下に、α−オレフィンと、極性基含有コモノマーとを共重合することを特徴とする、オレフィン共重合体の製造方法。
【請求項10】
請求項4又は請求項8に記載のα−オレフィン重合触媒の存在下に、α−オレフィンと、(メタ)アクリル酸又はエステルとを共重合することを特徴とする、オレフィン系共重合体の製造方法。



【公開番号】特開2012−229190(P2012−229190A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−100225(P2011−100225)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(303060664)日本ポリエチレン株式会社 (233)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】