説明

新規なトリグリセリド及びそれを含む組成物

【課題】人の母乳型のトリグリセリド構造と考えられている、トリグリセリドの2位が炭素数16〜18の飽和脂肪酸であり、1及び3位に結合した不飽和脂肪酸の少なくともひとつがω6、ω9又はω3系不飽和脂肪酸である、構造が明確に特定されている新規なトリグリセリドおよびこの新規なトリグリセリドを含む組成物の提供。
【解決手段】2位に炭素数16〜18の飽和脂肪酸が結合していることが明らかになっているグリセリドを用い、1,3位のエステル結合に特異的に作用するリパーゼと、ω6、ω9又はω3系の不飽和脂肪酸または脂肪酸エステルとを作用させ、1及び3位の脂肪酸のみをエステル交換反応によって製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新しいトリグリセリドおよびそれを含む組成物に関するもので、特にトリグリセリドの2位に炭素数16〜18の飽和脂肪酸を有し、1及び3位にω6、ω9及び/又はω3系の不飽和脂肪酸を有するトリグリセリドに関する。
【背景技術】
【0002】
我々の摂取している脂質の大部分は中性脂肪であり、トリグリセリドの1, 2及び3位に種々の脂肪酸がエステル結合したトリグリセリドの混合物である。そして、脂肪酸の結合位置の違いにより、その吸収性や生理活性が異なることが指摘されており、トリグリセリドの決まった位置に特定の脂肪酸を結合させた脂質(構造脂質)が、最近、特に注目されている。
【0003】
例えば、特公平4-12920 には、トリグリセリドの2位に炭素数8〜14の脂肪酸が結合し、1及び3位に炭素数が18以上の脂肪酸が結合した消化吸収性の良いトリグリセリドが開示されている。また、2- モノグリセリドが人の生体に最も吸収され易い形態であることが知られていることから、特公平5-87497 には、2位に生理機能を有するω3又はω6系高度不飽和脂肪酸を結合させ、1及び3位に消化管の酵素により容易に加水分解される飽和脂肪酸を結合させたトリグリセリドが開示されている。しかし、これらには人の母乳中の不飽和脂肪酸及び/又は当該不飽和脂肪酸を構成脂肪酸とするトリグリセリドとの関係については開示も示唆もされていない。
【0004】
一方、脂肪酸の生理機能に目を向けると、近年、アラキドン酸及びドコサヘキサエン酸が注目されている。これら脂肪酸は、母乳中に含まれており、乳児の発育に役立つとの報告(「Advances in Polyunsaturated Fatty Acid Research 」, Elsevier Science Publishers, 1993, pp.261-264 )や、胎児の身長や脳の発育に重要であるとの報告(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90, 1073-1077 (1993), Lancet, 344, 1319-1322 (1994) )がある。
【0005】
そして、いくつかの公的機関から推奨摂取量が公表され(未熟児:アラキドン酸60、ドコサヘキサエン酸40;正常児:アラキドン酸20、ドコサヘキサエン酸20 mg/kg体重/ 日 (WHO-FAO (1994))、ヨーロッパの数カ国では既にドコサヘキサエン酸と併せて醗酵生産したアラキドン酸をトリグリセリドとして配合した未熟児用調製乳が市販されている。しかし、調製乳に加えたトリグリセリドのアラキドン酸及び/又はドコサヘキサエン酸の結合位置に関しては何ら考慮されていない。
【0006】
人の母乳中のトリグリセリド構造は、トリグリセリドの2位にパルミチン酸(16:0)が結合する割合が高く、1及び3位には高度不飽和脂肪酸あるいは中鎖脂肪酸が結合する割合が高いと推定されている(Christie, W.W. (1986) The Positional Distribution of Fatty Acids in Triglycerids. Analysis of Oils and Fats in (Hamilton, R.J., and Russell, J.B., eds.) pp. 313-339, Elsevier Applied Science, London) が、これはトリグリセリドの脂肪酸分析の結果からの類推に過ぎず、いまだ人の母乳中のトリグリセリドの単離、構造解析は行われていない。
【0007】
また、前述のように脂肪酸組成を母乳の組成に近付けるために醗酵法で生産されたアラキドン酸含有トリグリセリドが調製乳に加えられているが、このアラキドン酸含有トリグリセリドの構造は、パルミチン酸を始めとする飽和脂肪酸が1及び3位に結合し、不飽和脂肪酸は2位に結合する割合が高いもので(J.J. Myher, A. Kuksis, K. Geher, P.W. Park, and D.A Diersen-Schade, Lipids 31, 207-215 (1996))、人の母乳中のトリグリセリドの構造として推定されているものとは異なっている。
【0008】
したがって、人の母乳型トリグリセリド構造と推定されている脂質、つまり、トリグリセリドの2位に炭素数16〜18の飽和脂肪酸が結合し、1及び3位に高度不飽和脂肪酸又は中鎖脂肪酸が結合した構造が明確に確認されている構造脂質の開発が強く望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って本発明は、トリグリセリドの2位が炭素数16〜18の飽和脂肪酸であり、1及び3位に不飽和脂肪酸が結合し、この不飽和脂肪酸の少なくともひとつがω6、ω9又はω3系不飽和脂肪酸である新規なトリグリセリド、又はトリグリセリドの2位が炭素数16〜18の飽和脂肪酸であり、1及び3位の一方が炭素数が4〜18の飽和脂肪酸であり、そしてもう一方がω6、ω9又はω3系不飽和脂肪酸である新規なトリグリセリドおよびこの新規なトリグリセリドを含む組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は上記の課題を解決するために鋭意研究した結果、2位に炭素数16〜18の飽和脂肪酸が結合していることが明らかになっているグリセリドを用い、1,3位のエステル結合に特異的に作用するリパーゼと、ω6、ω9又はω3系の不飽和脂肪酸または脂肪酸エステルとを作用させ、1及び3位の脂肪酸のみをエステル交換反応によってω6、ω9及び/又はω3系の不飽和脂肪酸とすることによって、目的とする人の母乳型と推定されているトリグリセリドを製造することができることを見出し、さらに得られたトリグリセリドと人の母乳から得たトリグリセリドを比較することによって、人の母乳中にはトリグリセリドの2位に炭素数16〜18の飽和脂肪酸が結合し、1及び3位に高度不飽和脂肪酸が結合した構造のトリグリセリドが間違いなく存在していることを初めて明らかにして本発明を完成した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、新規なトリグリセリドと当該トリグリセリドを用いた食品組成物、動物用飼料、治療用栄養製品、及び医薬品組成物に関する。
本発明によれば、次の一般式(I):
【0012】
【化1】

【0013】
(ここで、R1及びR2は、炭素数18〜22の不飽和脂肪酸のアシル基を表し、このアシル基は酸化されていてもよく、そしてnは14〜16の整数を表す)
で示され、R1又はR2の少なくともひとつはω6、ω9又はω3系不飽和脂肪酸であることを特徴とするトリグリセリド;又は次の一般式(II):
【0014】
【化2】

【0015】
(ここで、R3は、炭素数18〜22の不飽和脂肪酸のアシル基を表し、このアシル基は酸化されていてもよく、そしてnは14〜16の整数、mは2〜16の整数を表す)で示されるトリグリセリドが提供される。
本発明で得られるトリグリセリドの1及び3位を構成する脂肪酸はω3、ω6及び/又はω9系不飽和脂肪酸からなる。具体的には、ω3系不飽和脂肪酸としては、9,12,15-オクタデカトリエン酸 (α- リノレン酸) [18:3,ω3]、6,9,12,15-オクタデカテトラエン酸 (ステアリドン酸) [18:4,ω3]、11,14,17-エイコサトリエン酸 (ジホモ- α- リノレン酸) [20:3,ω3]、8,11,14,17-エイコサテトラエン酸[20:4,ω3]、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸[20:5,ω3]、7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸[22:5,ω3]、4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸[22:6,ω3]を挙げることができる。
【0016】
また、ω6系不飽和脂肪酸としては、9,12-オクタデカジエン酸 (リノール酸) [18:2,ω6]、6,9,12-オクタデカトリエン酸 (γ-リノレン酸) [18:3,ω6]、8,11,14-エイコサトリエン酸 (ジホモ- γ- リノレン酸) [20:3,ω6]、5,8,11,14-エイコサテトラエン酸 (アラキドン酸) [20:4,ω6]、7,10,13,16-ドコサテトラエン酸[22:4,ω6]、4,7,10,13,16-ドコサペンタエン酸[22:5,ω6]を挙げることができる。さらに、ω9系不飽和脂肪酸としては、6,9-オクタデカジエン酸[18:2,ω9]、8,11-エイコサジエン酸[20:2,ω9]、5,8,11-エイコサトリエン酸 (ミード酸) [20:3,ω9]を挙げることができる。さらに、アシル残基はヒドロキシル化、エポキシ化又はヒドロキシエポキシ化されたアシル残基であっても構わない。
【0017】
本発明の新規なトリグリセリドの2位を構成する脂肪酸は、炭素数16〜18の脂肪酸からなり、例えば、パルミチン酸 (16:0 )、ステアリン酸 (18:0 )を挙げることができる。
本発明の新規なトリグリセリドは、2位に炭素数16〜18の飽和脂肪酸が結合していることが明らかなトリグリセリドに、トリグリセリドの1,3位のエステル結合にのみ作用するリパーゼを作用させ、反応系に添加したω3、ω6又はω9系不飽和脂肪酸又は脂肪酸エステルとエステル交換することで製造することができる。
【0018】
2位に炭素数16〜18の飽和脂肪酸が結合していることが明らかなトリグリセリドとしては、例えば、トリパルミチン(1,2及び3位の全てがパルミチン酸(16:0))、トリステアリン(1, 2及び3位の全てがステアリン酸(18:0))を挙げることができるが、トリグリセリドにエステル結合する脂肪酸はすべて同じである必要はなく、トリグリセリドの2位に炭素数16〜18の飽和脂肪酸が結合していれば、1及び3位には炭素数4〜18のいかなる脂肪酸が結合していてもよく、またいかなる組み合わせでも構わない。また、飽和脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂は、その構成飽和脂肪酸の炭素数が16以上の場合は融点が高く、反応温度を高くする必要がある。
【0019】
例えばトリパルミチンを使用する場合には、反応液組成によって異なるが反応は50〜70℃で行わなければならない。そこで、これら融点の高いトリグリセリドを基質原料として用いるときには高い温度で反応すれば良いが、高温では酵素の失活とエステル交換のために添加した不飽和脂肪酸の変性が問題となるため、エステル交換で1及び/又は3位の脂肪酸を目的とする不飽和脂肪酸に交換する前に、原料トリグリセリドの1及び/又は3位に結合している脂肪酸を、例えばカプリル酸のような炭素数が8〜12個程度の中鎖脂肪酸又はオレイン酸、リノール酸などの融点の低い脂肪酸にエステル交換してトリグリセリドの融点を低下させ、45℃以下の温度で反応させる方が好ましい。
【0020】
また、2位に飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドとは、本発明の目的からして2位に炭素数16〜18の飽和脂肪酸が結合が結合していれば、1及び3位のいずれかに、ω3, ω6又はω9系不飽和脂肪酸が結合していても構わずこれらの基質を用いた場合は不飽和脂肪酸の結合していない位置にω3, ω6又はω9系不飽和脂肪酸をエステル交換によって導入することができる。
【0021】
たとえば、2位が飽和脂肪酸で1及び3位のいずれかに不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドとして、クリプテコデニウム(Crypthecodenium )属、スラウストキトリウム(Thraustochytrium)属、シゾキトリウム(Schizochytrium)属、ウルケニア(Ulkenia )属、ジャポノキトリウム(Japonochytorium )属、ハリフォトリス(Haliphthoros)属の微生物を培養して得られた油脂が利用できる。
【0022】
これらからは、例えば1,2−ジパルミトイル−3−ドコサヘキサノイルトリグリセリドを単離することができ、このトリグリセリドを基質に1, 3位特異的リパーゼを作用させ、ω3、ω6又はω9系不飽和脂肪酸もしくはその脂肪酸エステルとエステル交換させると、ドコサヘキサエン酸はエステル交換されず、1位のパルミチン酸のみが不飽和脂肪酸とエステル交換される。不飽和脂肪酸としてアラキドン酸を用いた場合には、1及び3位の一方にドコサヘキサエン酸が結合し、他方にアラキドン酸が結合し、2位にパルミチン酸が結合したトリグリセリドが製造できる。
【0023】
本発明には、トリグリセリドの1, 3位特異的リパーゼを触媒として用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、リゾプス(Rhizopus)属、リゾムコール(Rhizomucor)属、ムコール(Mucor )属、ペニシリウム(Penicillium )属、アスペルギルス(Aspergillus )属、フミコーラ(Humicola)属、フザリウム(Fusarium)属などの微生物が生産するリパーゼ、ブタ膵臓リパーゼなどが挙げられる。かかるリパーゼについては、市販のものを用いることができる。
【0024】
例えば、リゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)のリパーゼ(田辺製薬(株)製;タリパーゼ)、リゾムコール・ミイハイ(Rhizomucor miehei )のリパーゼ(ノボ・ノルディスク(株)製;リボザイムIM)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger )のリパーゼ(天野製薬(株)製;リパーゼA )、フミコーラ・ランギノーサ(Humicola lanuginosa )のリパーゼ(ノボ・ノルディスク(株)製;リポラーゼ)、ムコール・ジャバニカス(Mucor javanicus )のリパーゼ(天野製薬(株)製;リパーゼM )、フザリウム・ヘテロスポラム(Fusarium heterosporum )のリパーゼ等が挙げられる。これらのリパーゼの使用形態はそのままで用いても良く、また、セライトやイオン交換樹脂、セラミックス担体などに固定化したリパーゼを用いてもよい。
【0025】
本反応系に加える水分量は極めて重要で、水をまったく含まない場合はエステル交換が進行せず、また、水分量が多い場合は加水分解が起こり、トリグリセリドの回収率が低下したり、生成した部分グリセリドでは自発的なアシル基転移が起こり、2位の飽和脂肪酸が1位あるいは3位に転移する。従って、結合水を持たない固定化酵素を用いたとき、主反応を行う前に、まず、水を添加した基質を用いて酵素を活性化し、主反応では水を添加していない基質を用いると効果的である。バッチ反応で活性化するには、加えた酵素量の0〜1, 000% (重量% )の水を含む基質を用いて酵素を前処理し、またカラム法で活性化するには、水飽和の基質を連続的に流すとよい。
【0026】
例えば、セライト又はセラミックス担体に固定化したリゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)のリパーゼ(田辺製薬(株)製;タリパーゼ)を用いてバッチ反応で活性化する時の水分量は、加えた酵素量の10〜200% (重量% )である。しかし、エステル交換反応の活性化に必要な水分量は用いる酵素の種類により大きく左右され、例えば、リゾムコール・ミイハイ(Rhizomucor miehei )のリパーゼ(ノボ・ノルディスク(株)製;リボザイムIM)であれば、ほとんど水分を必要とせず、むしろ過剰の水を除去しなければならない。過剰水の除去は主反応を妨害しないトリグリセリドを基質として選択し、これを固定化酵素で加水分解するとよい。
【0027】
バッチ反応におけるリパーゼの使用量は反応条件によって適宜決定すれば良く、特に制限されるものではないが、例えばセライトやセラミックス担体に固定化したリゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)のリパーゼ、あるいはリゾムコール・ミイハイ(Rhizomucor miehei )のリパーゼを用いたときには、反応混液の1〜30% (重量% )が適量である。
【0028】
バッチ反応におけるエステル交換反応は、以下の方法により行う。すなわち、2位に炭素数が16〜18の飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドに、ω3、ω6又はω9系不飽和脂肪酸あるいはその脂肪酸エステルを加える。脂肪酸エステルとしては、例えばメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステルなどを用いることができる。原料として用いるトリグリセリド/脂肪酸またはトリグリセリド/脂肪酸エステル比は1:0.5〜20が適量である。この基質に適当な量(通常5,000〜50,000U/g ;ここで、リパーゼ1Uとは、オリーブ油を基質として用い、1分間に1μmol の脂肪酸を遊離させる酵素量である)の活性化または脱水した1, 3位特異的リパーゼを加え、攪拌または振盪しながら20〜70℃で2〜100時間エステル交換反応を行えばよい。
【0029】
上記固定化酵素は繰り返し使用することができる。すなわち、反応後固定化酵素だけを反応器内に残し、反応液を新たに調製した基質と交換することにより反応を継続することができる。また、カラム法によるエステル交換反応は、酵素1g 当り、0.05〜20ml/hr で基質を連続的に流すとよい。
また、エステル交換反応を繰り返して行うことにより、目的のトリグリセリド含量を高めることができる。すなわち、ω3、ω6又はω9系不飽和脂肪酸もしくはその脂肪酸エステルの存在下に、トリグリセリドの1, 3位特異的リパーゼを作用させて、1及び3位の脂肪酸がω3、ω6及び/又はω9系不飽和脂肪酸にエステル交換された反応液を得る。
【0030】
次に、該反応溶液から後述する方法によりトリグリセリドを精製し、該精製トリグリセリドを原料として再度ω3、ω6又はω9系不飽和脂肪酸またはその脂肪酸エステルでエステル交換反応を行う。この繰り返しエステル化反応により目的のトリグリセリド含有量を飛躍的に高めることができ、繰り返し回数は2〜5回が好ましい。
【0031】
従来の固定化リパーゼを用いたエステル交換反応では、副反応として起こる加水分解反応により生成した部分グリセリドの2位に結合していた脂肪酸のアシル基転移が誘発された。しかし、本発明では、加水分解反応をほぼ完全に抑えることができ、部分グリセリドの生成量は1% 程度であり、従来の問題点を解決することができた。また、基質に含まれている水分含量が数千ppm 以下であれば、副反応として起こる加水分解を無視することができ、基質中に含まれる水分量を精密制御する必要がないという特徴を有している。
【0032】
さらに、従来の固定化酵素を用いた有機溶媒中での反応あるいは50℃以上での反応では数回の使用で酵素活性が低下したのに対して、本発明のうち有機溶媒を含まない反応系中で45℃以下で反応させる場合には酵素の失活が起こらず、バッチ反応で数十回以上、カラム反応で100日以上連続して酵素を使用することも可能である。
【0033】
本発明では、基質が単純であるために、反応により得られたトリグリセリドは数種の分子種から構成される。そこで、液体クロマトグラフィー、分子蒸留、流下膜蒸留、精密蒸留などの常法あるいはその組み合わせにより、目的のトリグリセリドを容易に単離することができる。本発明で製造する反応後のトリグリセリドは、1位及び/又は3位に不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドであり、該トリグリセリド、未反応原料、未反応の不飽和脂肪酸または脂肪酸エステル及びエステル交換されて生じた原料のトリグリセリドの1及び/又は3位に結合していた脂肪酸または該脂肪酸エステルとの混合物として存在している。
【0034】
そこで、目的の1位及び/又は3位に不飽和脂肪酸が結合し、2位に炭素数が16〜18の飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドの精製は、アルカリ脱酸、水蒸気蒸留、分子蒸留、流下膜蒸留、真空精密蒸留、カラムクロマトグラフィー、溶剤抽出、膜分離のいずれか又はこれらを組み合わせることにより、上記のエステル交換された脂肪酸及び未反応の不飽和脂肪酸を除去することによって行うことができる。
【0035】
本発明で得られる、2位にパルミチン酸が結合し、1及び3位にアラキドン酸及び/又はドコサヘキサエン酸が結合したトリグリセリドは、人の母乳中のトリグリセリドの構造であると考えられることから、未熟児用調製乳、乳児用調製乳、フォローアップ乳あるいは妊産婦・授乳婦向け調製乳等に有効に使用することができる。即ち、2位にパルミチン酸が結合し、1及び3位にアラキドン酸及び/又はドコサヘキサエン酸が結合した本発明のトリグリセリドのひとつを未熟児用調製乳、乳児用調製乳、あるいはフォローアップ乳等の調製乳の製造工程において又は製品に添加することにより、より人の母乳に近い調製乳を得ることができる。
【0036】
本発明では、1位及び3位にω6系、ω9系またはω3系の同一の不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリドが得られ、これらは人の母乳中のトリグリセリドの構造であると考えられることから、それぞれω6系、ω9系およびω3系の不飽和脂肪酸の供給源として十分に有用であるが、さらに本発明では、1位と3位にω6系、ω9系またはω3系の異なった不飽和脂肪酸が結合したトリグリセリド、例えば1位にω6系のアラキドン酸が結合し3位にω3系のドコサヘキサエン酸が結合したトリグリセリドが得られることで更に有用性が著しく増大する。即ち、例示した1位にω6系のアラキドン酸が結合し3位にω3系のドコサヘキサエン酸が結合したトリグリセリドであれば、一つのトリグリセリドでアラキドン酸(ω6系)とドコサヘキサエン酸(ω3系)の2種類の不飽和脂肪酸を同時に供給することが可能となる。
【0037】
本発明のトリグリセリドの利用として、未熟児・乳児を対象にした調製乳以外にも、例えば、牛乳、豆乳などの乳製品や、油脂を使った食品への添加が考えられる。油脂を使った食品としては、例えば、肉、魚、ナッツ等の油脂を含む天然食品、中華料理、ラーメン、スープ等の調理時に油脂を加える食品、天ぷら、フライ、油揚げ、チャーハン、ドーナッツ、カリン糖等の熱媒体として油脂を用いた食品、バター、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング、チョコレート、即席ラーメン、キャラメル、ビスケット、アイスクリーム等の油脂食品又は加工時に油脂を加えた食品、おかき、ハードビスケット、あんパン等の加工仕上げ時に油脂を噴霧又は塗布した食品等をあげることができる。
【0038】
この他、例えばパン、めん類、ごはん、菓子類、豆腐およびその加工食品などの農産食品、清酒、薬用酒などの醗酵食品、みりん、食酢、醤油、味噌、ドレッシング、ヨーグルト、ハム、ベーコン、ソーゼージ、マヨネーズなどの畜産食品、かまぼこ、揚げ天、はんぺんなどの水産食品、果汁飲料、清涼飲料、スポーツ飲料、アルコール飲料、茶などの飲料等も挙げることができる。
【0039】
また、健康食品、機能性食品として用いる場合は、その形態は、下記医薬製剤や上記飲食品の形態でもよいが、例えば蛋白質(蛋白質源としてはアミノ酸バランスのとれた栄養価の高い乳蛋白質、大豆蛋白質、卵アルブミン等の蛋白質が最も広く使用されるが、これらの分解物、卵白のオリゴペプチド、大豆加水分解物等の他、アミノ酸単体の混合物も使用される)、糖類、脂肪、微量元素、ビタミン類、乳化剤、香料等が配合された自然流動食、半消化態栄養食および成分栄養食や、ドリンク剤等の加工形態であってもよい。
【0040】
本発明の飲食品は、本発明のトリグリセリドを所要量加えて、一般の製造法により加工製造することができる。その配合量は剤形、食品の形態、性状により異なり、一般的には0. 001〜50% が好ましいが、特に限定されるものではない。また健康食品、機能性食品としての摂取は、本発明のトリグリセリドの1, 3位に結合した高度不飽和脂肪酸の生理機能並びに力価に基づき、医師の食事箋による栄養士の管理の下に、病院給食の調理の際に、本発明の新規トリグリセリドを加え、その場で調製した機能性食品の形態で患者に与えることもできる。
【0041】
本発明のトリグリセリドを医薬品として用いる場合、投与形態は経口投与または非経口投与が都合よく行われるものであればどのような形態であってもよく、例えば注射液、輸液、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、腸溶剤、トローチ、内用液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、外用液剤、湿布剤、点鼻剤、点耳剤、点眼剤、吸入剤、軟膏剤、ローション剤、坐剤等を挙げることができ、これらを症状に応じてそれぞれ単独で、または組み合わせて使用することができる。
【0042】
これら各種製剤は、常法に従って目的に応じて主薬に賦刑剤、結合剤、防腐剤、安定剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤などの医薬の製剤技術分野において通常使用しうる既知の補助剤を用いて製剤化することができる。またその投与量は、投与の目的、トリグリセリドの1, 3位に結合させた脂肪酸(生理活性、力価等)や、投与対象者の状況(性別、年齢、体重等)によって異なるが、通常、成人に対して経口投与の場合、本発明の構造脂質の総量として、1日あたり0.01mg〜10g 、好ましくは0.1mg〜2g 、さらに好ましくは1mg〜200mgの範囲で、また非経口投与の場合、本発明の構造脂質の総量として、1日あたり0.001mg〜1g 、好ましくは0.01mg〜200mg、さらに好ましくは0.1mg〜100mgの範囲で適宜調節して投与することができる。
さらに、本発明のトリグリセリドは、今まで単離あるいは合成されていなかったトリグリセリドであり、分析用標準物質として使用することができる。
【実施例】
【0043】
次に、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
なお、本実施例では、便宜的に脂肪酸およびトリグリセリドを次のような略号で示す。まず、脂肪酸を表わす一文字略号には次のものを用いる。8:カプリル酸、P:パルミチン酸、A:アラキドン酸、M:ミード酸、D:ドコサヘキサエン酸。次に、トリグリセリドを、1位に結合している脂肪酸を表わす一文字略号、2位に結合している脂肪酸を表わす一文字略号、3位に結合している脂肪酸を表わす一文字略号により三文字で表記する。従って、トリグリセリドの構造は例えば次の例のように表記される。例:8P8(1位にカプリル酸、2位にパルミチン酸、3位にカプリル酸が結合したトリグリセリド)
【0044】
実施例1.
トリパルミチン(PPP)とカプリル酸の1:2(wt/wt )混液を基質原料として使用し、基質混液10.5g と固定化リゾムコール・ミイハイ(Rhizomucor miehei )リパーゼ(ノボ・ノルディスク(株)製;リボザイムIM60)1.2g からなる反応液をねじ蓋付きバイアル瓶に入れ、50℃で48時間振盪(140回/分)しながらインキュベートした。反応後、固定化酵素だけを残して反応液を新しい基質混液と交換し、同じ条件下で反応を行った。固定化酵素を繰り返し使用しながら4回反応を行い、それぞれの反応液を回収した。
【0045】
各反応液(10.5g)に70mlの0.5N KOH 溶液(20% エタノール溶液)を加え、100mlのヘキサンでグリセリド画分を抽出後、エバポレーターにより溶剤を除去してグリセリドを回収した。イヤトロスキャン(ヤトロン(株)社製)でグリセリド組成を調べた結果、1回目のグリセリド中には8% のジグリセリドが含まれていたが、2回目以降のグリセリド中の部分グリセリド含量は1% 以下であった。2〜4回目のグリセリド画分の脂肪酸組成(モル% )はカプリル酸45.1% 及びパルミチン酸54.9% であった。
【0046】
カプリル酸の交換率を高めるため、2〜4回目のグリセリド画分を原料として再度エステル交換した。上記の反応に使用したリボザイム IM60(1.2g )に、調製したグリセリド3.5g とカプリル酸7g を加え、30℃で48時間振盪しながら反応を行った(5回目)。反応後、反応液を新しい基質と交換して同じ条件下で反応を行った(6回目)。5、6回目の反応液からグリセリド画分をヘキサン抽出により回収した(合計4.8g )。得られたグリセリドの脂肪酸組成(モル% )はカプリル酸64.2% 、パルミチン酸35.8% であった。このグリセリド中に含まれる部分グリセリドは1% 以下であり、アセトン/アセトニトリル(1:1, vol/vol )を溶出溶媒としてODSカラム(Wakosil-II 3C18, 4.6 x 150mm, 2本)で分析した結果、8P8の純度は93% であった。
【0047】
得られた8P8(3.5g )とアラキドン酸(純度90% )7g を原料とし、上記の反応に用いたリボザイム IM60 で30℃で48時間エステル交換反応を行い(7回目)、反応後の反応液をアルカリ条件下でヘキサン抽出し、グリセリド画分(4.8g )を得た。グリセリドの脂肪酸組成を分析したところ、カプリル酸、パルミチン酸、γ- リノレン酸及びアラキドン酸はそれぞれ38.5、23.1、2.4及び34.0モル% であった。このグリセリドをアセトン/アセトニトリル(1:1, vol/vol )を溶出溶媒としてODSカラム(SH-345-5, 20 x 500mm, YMC (社)製)を用いた高速液体クロマトグラフィーにより分画した結果、8PAとAPAがそれぞれ0.72、0.44g 得られた。
【0048】
実施例2.
実施例1に記載した方法の100倍の規模で反応を行って8P8を調製し、原料として使用した。
リゾプス・デレマー(Rhizopus delemar)のリパーゼ(田辺製薬(株)製;タリパーゼ)をJ. Ferment. Bioeng., 81, 299-303 (1996) に従ってセラミックス担体 SM-10(日本ガイシ(株)製)に固定化した。固定化酵素10g (31,000U/g )をカラムに充填した後、水飽和の大豆油:カプリル酸1:2(wt/wt )混合液を30℃、流速3ml/hr で100ml流し固定化酵素を活性化した。
【0049】
次いで水を加えていない大豆油50mlを流して過剰水を除去した後、8P8とアラキドン酸エチルエステル(純度90% )の1:4(wt/wt)混液を同じ条件で流しながらエステル交換反応を行った。反応液100g を高真空下で蒸留してグリセリド画分を残査として回収した後、実施例1に従ってアルカリ条件下でヘキサン抽出した。エバポレーターにより溶媒を除去し、ヘキサン抽出物35.7g を得た。このヘキサン抽出物に含まれているトリグリセリドと脂肪酸エステルの組成比をイヤトロスキャンで分析したところ91:9であった。また、脂肪酸組成を分析した結果、カプリル酸、パルミチン酸、γ-リノレン酸、ジホモ-γ-リノレン酸及びアラキドン酸は、それぞれ24.4、34.5、1.5、2.6及び37.0モル% であった。
【0050】
実施例3.
実施例1で用いた固定化リゾムコール・ミイハイ(Rhizomucor miehei )リパーゼ(ノボ・ノルディスク(株)製;リボザイムIM60)に含まれている過剰の水を除去するために、該固定化酵素12g 、SUNTGA-25(サントリー(株)製)60g からなる反応混液を100mlのねじ蓋付きバイアル瓶に入れ、30℃で48時間振盪しながら反応させた(1回目)。固定化酵素だけを反応器に残し、実施例2で作成した8P8(12g)とミード酸エチルエステル(純度90% )48g を加えて十分窒素置換した後、30℃で72時間振盪しながらエステル交換反応を行った(2、3回目)。
【0051】
反応後、2回目と3回目の反応混液を合わせ、そのうち100g を実施例2と同様に、高真空下で蒸留してグリセリド画分を残査として回収した。次いで、実施例1に従ってアルカリ条件下でヘキサン抽出した後、エバポレーターによりヘキサンを除去し、24.1g のグリセリド画分を得た。この中に含まれているトリグリセリドと脂肪酸エステルの組成比をイヤトロスキャンで分析したところ92:8であった。実施例1に従って高速液体クロマトグラフィーを行い示差屈折計のピーク面積から脂肪酸エステルと各トリグリセリド成分を定量したところ、MPMは12.0%であった。
【0052】
またこの画分の脂肪酸組成は、カプリル酸、パルミチン酸、ミード酸がそれぞれ31.2、35.7及び33.1モル%であった。
エステル交換率を高めるために、得られたエステル交換トリグリセリドを再度ミード酸エチルエステルでエステル交換した。上記の固定化酵素にエステル交換トリグリセリド12g とミード酸エチルエステル48g を加えて30℃で72時間振盪しながら反応を行った(4回目)。反応後、反応液55g を上述した方法で蒸留し、12.3g のグリセリド画分を得た。この画分の脂肪酸組成は、カプリル酸、パルミチン酸及びミード酸がそれぞれ5.2、38.6及び56.1モル%であった。
【0053】
実施例4.
実施例1で用いた固定化リゾムコール・ミイハイ(Rhizomucor miehei )リパーゼ(ノボ・ノルディスク(株)製;リボザイムIM60)に含まれている過剰の水を除去するために、該固定化酵素2g 、SUNTGA-25(サントリー(株)製)10g からなる反応混液を20mlのねじ蓋付きバイアル瓶に入れ、30℃で48時間振盪しながら反応させた(1回目)。固定化酵素だけを反応器に残し、実施例2で作成した8P8(12g)とSUNTGA-25を加水分解して得られた脂肪酸混液8g を加えて十分窒素置換した後、30℃で48時間振盪しながらエステル交換反応を行った(2〜5回目)。反応後、2〜5回目の反応混液からヘキサン抽出したグリセリドを合わせ、再度のエステル交換反応の基質とした。
【0054】
上記の固定化酵素の入った反応器にエステル交換トリグリセリド2g とSUNTGA-25由来の脂肪酸混液10g を加え、30℃で48時間振盪しながら反応させた(6、7回目)。6、7回目の反応混液からグリセリド画分を抽出し、再々度のエステル交換反応の基質とし、同様に反応を行った(8回目)。エステル交換反応を3回繰り返すことにより得られたトリグリセリドを構成する脂肪酸組成、トリグリセリドの1,3位および2位の各脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーにより分析した。この結果を表1に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
実施例5.
実施例1で得たAPAを標準物質として、人母乳中の全トリグリセリドに占めるAPAの割合を高速液体クロマトグラフィーにより分析した。検出器には蒸発光散乱検出器 (DDL31 、EUROSEP Instruments 製) を使用し、ODSカラム(COSMOSIL, 4.6 x 250mm, ナカライテスク社製)を用い、溶離液には、アセトン/アセトニトリル(1:1, vol/vol )からアセトン100%までのグラジエントを使用した。この結果、APAは人母乳中にその全トリグリセリドに占める割合が0.1〜0.6重量%で存在していることが確認された。人の母乳中のアラキドン酸の含有量(母乳中の油脂中の重量比で約0.5〜1.0%)から、母乳中のアラキドン酸の10〜50%がAPAとして存在していると考えられた。
【0057】
実施例6.
粉ミルク100g に、実施例1で得られた新規構造脂質(APAまたは8PA)0.3g を混合することによりヒト母乳型トリグリセリド含有調製乳を調製した。この調製乳の全脂肪酸に対するアラキドン酸の割合は、APAを混合した場合には0.8% となり、8PAを混合した場合には0.4% となった。
【0058】
実施例7.
実施例4と同様の手法により大量に調製し、油脂精製を施した新規構造脂質400g 、精製卵黄レシチン48g 、オレイン酸20g 、濃グリセリン100g 及び0.1N-苛性ソーダ40mlを加え、ホモジナイザーで分散させたのち、注射用蒸留水を加え全液量を4リットルとする。これを高圧噴霧式乳化機にて乳化し、脂質乳液を調製した。該脂質乳液を200mlずつプラスチック製バッグに分注したのち、121℃、20分間、高圧蒸気滅菌処理して脂肪輸液剤とする。
【0059】
実施例8.
実施例3で得られた新規構造脂質を、常法に従って乳濁性注射剤として調製した。乳濁性注射液中の新規構造脂質の含量は10% (W/V )であり、乳化剤として卵黄レシチン1.2% (W/V )を加え、更に血液と等張となるようにグリセリンにて浸透圧を調整した。
【0060】
実施例9.
新生の雄豚(体重 > 1 kg )を1群6匹として無作為に4群に分けた(なお、同腹仔は別の群とした)。いずれの群も調製乳で飼育し、アラキドン酸含有トリグリセリドを調製乳に添加しない群(調製乳群)、アラキドン酸含有トリグリセリドとしてSUNTGA-25(サントリー(株)製)を調製乳に1g/Lの濃度で添加した群(SUN群)、実施例1の方法で得られたAPAを調製乳に0.4g/Lの濃度で添加した群(APA群)、実施例1の方法で得られた8PAを調製乳に0.82g/L の濃度で添加した群(8PA群)の4群とした。SUN群、APA群、8PA群では調製乳中のアラキドン酸量がほぼ同じになるように調製した。表2にSUNTGA-25(表中ではSUNと略記する)、APA、8PAの全脂肪酸の組成並びにトリグリセリドの2位の位置の脂肪酸組成を示す。
【0061】
【表2】

【0062】
投与18日目に10〜12時間絶食後、採血し、肝臓および肺を摘出した(分析までは-80 ℃で保存した)。血漿、肝臓中の脂肪酸組成は、調製乳中に存在する脂肪酸の影響を受け、調製乳群と比較して、SUN群、APA群、8PA群の各群のアラキドン酸の含有率は高くなったものの、SUN群、APA群、8PA群の各群間で有意な差は認められなかった。これは、食事性の脂肪酸の影響を直接受ける組織であるからと考えられる。そこで、次に、肺のリン脂質の脂肪酸組成を分析した。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】

【0064】
肺のリン脂質の脂肪酸組成では、アラキドン酸の割合に有意な差が認められた。調製乳群と比べてSUN群の肺リン脂質中に占めるアラキドン酸の割合が高くなることは予想できる。しかし、同じアラキドン酸量が含まれているにもかかわらず、APA群並びに8PA群の肺リン脂質中に占めるアラキドン酸の割合は、SUN群と比較しても有意に上昇した。この結果は、本発明の構造脂質のトリグリセリドの位置特性によるものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(I):
【化1】

(ここで、R1及びR2は、炭素数18〜22の不飽和脂肪酸のアシル基を表し、このアシル基は酸化されていてもよく、そしてnは14〜16の整数を表す)
で示され、R1又はR2の少なくともひとつはω6、ω9又はω3系不飽和脂肪酸であることを特徴とするトリグリセリド。
【請求項2】
酸化されたアシル基がヒドロキシル化、エポキシ化又はヒドロキシエポキシド化されたアシル基であることを特徴とする請求項1記載のトリグリセリド。
【請求項3】
炭素数18〜22の不飽和脂肪酸が、
9,12-オクタデカジエン酸(リノール酸) 18:2,ω6
6,9,12-オクタデカトリエン酸 (γ- リノレン酸) 18:3,ω6
8,11,14-エイコサトリエン酸 (ジホモ- γ- リノレン酸) 20:3,ω6
5,8,11,14-エイコサテトラエン酸 (アラキドン酸) 20:4,ω6
7,10,13,16-ドコサテトラエン酸 22:4,ω6
4,7,10,13,16-ドコサペンタエン酸 22:5,ω6
6,9-オクタデカジエン酸 18:2,ω9
8,11-エイコサジエン酸 20:2,ω9
5,8,11-エイコサトリエン酸 (ミード酸) 20:3,ω9
9,12,15-オクタデカトリエン酸 (α- リノレン酸) 18:3,ω3
6,9,12,15-オクタデカテトラエン酸 (ステアリドン酸) 18:4,ω3
11,14,17-エイコサトリエン酸 (ジホモ- α- リノレン酸) 20:3,ω3
8,11,14,17-エイコサテトラエン酸 20:4,ω3
5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸 20:5,ω3
7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸 22:5,ω3
4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸22:6,ω3
からなる群から選ばれる不飽和脂肪酸である、請求項1記載のトリグリセリド。
【請求項4】
次のいずれかのトリグリセリド:
1,3−ジアラキドニル−2−パルミトイルトリグリセリド、
1−アラキドニル−3−ドコサヘキサノイル−2−パルミトイルトリグリセリド、
1,3−ジドコサヘキサノイル−2−パルミトイルトリグリセリド、
1−(ジホモ−γ−リノレノイル)−3−ドコサヘキサノイル−2−パルミトイルトリグリセリド、
1−アラキドニル−3−(ジホモ−γ−リノレノイル)−2−パルミトイルトリグリセリド、
1,3−ビス(ジホモ−γ−リノレノイル)−2−パルミトイルトリグリセリド、
1−アラキドニル−3−(5,8,11−エイコサトリエノイル)−2−パルミトイルトリグリセリド、又は
1−ドコサヘキサノイル−3−(5,8,11−エイコサトリエノイル)−2−パルミトイルトリグリセリド。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のトリグリセリドを特別の栄養需要に応じて配合してなる食品組成物。
【請求項6】
前記食品組成物が、機能性食品、栄養補助食品、未熟児用調製乳、乳児用調製乳、乳児用食品、妊産婦用食品又は老人用食品であることを特徴とする請求項5記載の食品組成物。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のトリグリセリドを配合してなる動物用飼料。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のトリグリセリドの少なくとも1種を含有し、場合により経口、腸内又は非経口投与に適した中性の担体を混合した治療用栄養製品。
【請求項9】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のトリグリセリドからなる分析用標準試薬。

【公開番号】特開2008−56677(P2008−56677A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−228288(P2007−228288)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【分割の表示】特願平10−173017の分割
【原出願日】平成10年6月19日(1998.6.19)
【出願人】(000001904)サントリー株式会社 (319)
【Fターム(参考)】