説明

新規なトリシアノボレート

本発明は、一般式[B(CN)(XR)](ここでRはC1−6アルキル、C2−6アルケニル、C6−10アリールまたはベンジルであり、Xは酸素またはイオウであり、Catn+はnが1または2のカチオンであり、無機カチオンおよび有機カチオンからなる群より選択される)の新規なトリシアノボレート;およびそれらの調製および使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
本発明は新規なトリシアノボレート、その使用およびその製造方法に関する。
【0002】
用語「イオン液体」は通常100℃未満の温度、特に室温で液体である塩を称するために用いられる。このような液体の塩は典型的には有機カチオンおよび有機または無機アニオンを含む。
【0003】
イオン液体の有機カチオンは通常4級アンモニウムもしくはホスホニウムイオンまたは芳香族カチオン、通常窒素含有塩基であり、これらはアルキル基、ハロゲン原子またはシアノ基で置換されていてもよく、さらにヘテロ原子たとえばリン、イオウまたは酸素を含んでいてもよい。普通の有機カチオンの例はイミダゾリウム、オキサゾリム、ピラジニウム、ピラゾリウム、ピリダジニウム、ピロリジニウム、ピリジニウム、チアゾリウムおよびトリアゾリウムカチオンである。
【0004】
イオン液体における典型的なアニオンは、EP−A−1 634 867に記載されているAlCl、AsF、BF、Br、CFSO、(CFPF、(CFPF、(CFPF、(CFPF、(CF、Cl、CN、SCN、FeCl、NO、PF、ピルベート、アセテート、オキサレートまたはトリシアノメタンアニオンである。さらに、WO 2004/072089およびWO 2007/093961は一般式[BF(CN)4−n(ここで、nは0、1、2または3である)のシアノボレートアニオンを開示している。
【0005】
イオン液体は一連の興味深い特性を有する:通常、それらは熱的に安定で、比較的難燃性であり、非常に低い蒸気圧を有する。加えて、それらは多数の有機および無機物質に対して非常に良好な溶媒特性を有する。それらのイオン構造のおかげで、イオン液体は興味深い電気化学的特性、たとえばしばしば高い電気化学的安定性を伴う電気伝導性を有する。したがって、それらの使用に対するさらなる機会をもたらす、多様な特性を有する新規なイオン液体に対する根源的な要望がある。
【0006】
本発明の目的は、イオン液体としてまたはイオン液体の前駆体として用いることができる新規な安定な化合物、およびその製造方法にも関する。これらの化合物は使用後に環境親和的な仕方で処分されることが望ましい。
【0007】
この目的は、請求項1によるトリシアノボレート、請求項12によるその使用および請求項13および14によるその製造によって達成される。さらに好ましい実施形態は従属請求項の内容である。
【0008】
本発明は下記一般式の新規なトリシアノボレートに関する。
【化1】

【0009】
ここでRはC1−6アルキル、C2−6アルケニル、C6−10アリールまたはベンジルであり、
Xは酸素またはイオウであり、
Catn+はnが1または2のカチオンであり、無機カチオンMn+および有機カチオンQn+(nは1または2である)からなる群より選択される。
【0010】
ここでおよび以下において、表現「C1−nアルキル」は、1ないしnの炭素原子を含む直鎖または分枝アルキル基をいう。たとえば、表現「C1−6アルキル」は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、イソペンチル(3−メチルブチル)、ネオペンチル(2,2−ジメチルプロピル)、ヘキシルおよびイソヘキシル(4−メチルペンチル)のような基を含む。
【0011】
ここでおよび以下において、表現「C2−nアルケニル」は、2ないしnの炭素原子からなり、少なくとも1つの二重結合を含む炭素鎖をいい、炭素原子は水素原子によって飽和され、炭素鎖は枝分かれしていてもよい。たとえば、表現「C2−4アルケニル」は、エテニル、1−メチルエテニル、プロパ−1−エニル、プロパ−2−エニル、2−メチルプロパ−2−エニルおよびブタ−1,3−ジエニルのような基を含む。
【0012】
ここでおよび以下において、表現「C6−10アリール」は、6ないし10の炭素原子を有し、1以上のC1−4アルキルまたはC1−4アルコキシ基で置換されていてもよいアリール基をいう。たとえば、「C6−10アリール」はフェニル、ベンジル、メチルフェニル、メトキシフェニル、ジメチルフェニル、エチルメチルフェニル、ジエチルフェニルおよびナフチルを含む。
【0013】
Xが酸素である、式Iのトリシアノボレートが好ましい。
【0014】
がC1−6アルキル、好ましくはメチル、エチルまたはプロピル、より好ましくはメチルである、式Iのトリシアノボレートも好ましい。
【0015】
さらに好ましい実施形態において、カチオンCatn+はLi、Na、K、Rb、Cs、NH、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+からなる群より選択される、nが1または2の無機カチオンである。
【0016】
同様に好ましい実施形態において、カチオンCatn+は、nが1または2、好ましくはnが1の有機カチオンQn+であり、窒素、リン、イオウおよび酸素からなる群より選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む。
【0017】
特に好ましいのは、たとえば、エチレンジアンモニウムのような2価の有機カチオンQ2+を伴う式Iのトリシアノボレートである。
【0018】
さらに特に好ましいのは、下記式のカチオンからなる群より選択される1価の有機カチオンQを伴う式Iのトリシアノボレートである。
【0019】
(a)(WR、ここでWは窒素またはリンであり、
(i)ここでRないしRは、独立に、C1−20アルキルであり、RはC1−20アルキル、C3−10シクロアルキルまたはC6−10アリールであり、ここで任意にRないしRは、独立に、1以上のハロゲンを含む、または
(ii)ここでRおよびRはWとともに5員環ないし7員環を形成し、RおよびRは、独立に、C1−20アルキルであり、ここで任意にRおよびRは、独立に、1以上のハロゲンを含む、または
(iii)ここでRおよびRまたはRおよびRは各々の場合にWとともに5員環ないし7員環を形成する、または
(b)(XR、ここでXは窒素であり、RおよびRはXとともに環を形成し、Xは形式的にRおよびRへの1つの単結合および1つの二重結合を有し、RはC1−20アルキル、C3−10シクロアルキルまたはC6−10アリールであり、ここでRは任意に1以上のハロゲンを含む、または
(c)(YR1011、ここでYはイオウであり、
(i)ここでRおよびR10は、独立に、C1−20アルキルであり、R11はC1−20アルキル、C3−10シクロアルキルまたはC6−10アリールであり、ここで任意にRないしR11は、独立に、1以上のハロゲンを含む、または
(ii)ここでRおよびR10はYとともに5員環ないし7員環を形成し、R11はC1−20アルキル、C3−10シクロアルキルまたはC6−10アリールであり、ここでR11は任意に1以上のハロゲンを含む、または
(d)(ZR1213、ここでZは酸素またはイオウであり、R12およびR13はZとともに環を形成し、Zは形式的にR12およびR13への1つの単結合および1つの二重結合を有し、
ここで任意にC1−20アルキル、C1−20アルコキシ、C3−10シクロアルキル、C6−10アリール、ハロゲンおよびシアノからなる群より選択される1以上の置換基が、前記置換基RないしR13によって形成される環の各々に結合し、ここで任意に前記C1−20アルキル、前記C1−20アルコキシ、前記C3−10シクロアルキルおよび前記C6−10アリールは、独立に、1以上のハロゲンを含み、
ここで任意に前記置換基RないしR13によって形成される環の各々はさらに1つまたは2つの、置換または非置換の、窒素、イオウおよび酸素からなる群より選択されるヘテロ原子を含む、および/または他の芳香族または非芳香族の5員環ないし7員環に縮合している。ヘテロ原子の好適な置換基は、たとえば、C1−8アルキルである。
【0020】
ここでおよび以下において、表現「C3−nシクロアルキル」は、3ないしnの炭素原子を有するシクロアルキル基をいう。「C3−10シクロアルキル」は、たとえば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニルまたはシクロデシルを示す。
【0021】
ここでおよび以下において、表現「C1−nアルコキシ」は、1ないしnの炭素原子を有する、非分枝または分枝アルコキシ基をいう。「C1−20アルコキシ」は、たとえば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペンチルオキシ、1,4−ジメチルペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、1,5−ジメチルヘキシルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、4−エチル−1,5−ジメチルヘキシルオキシ、ウンデシルオキシ、ドデシルオキシ、トリデシルオキシ、テトラデシルオキシまたはエイコシルオキシを示す。
【0022】
ここでおよび以下において、表現「ハロゲン」はフッ素、塩素、臭素またはヨウ素をいう。
【0023】
特に好ましいのは、有機アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム、ピロリジニウム、ピロリニウム、ピロリウム、ピラゾリウム、イミダゾリウム、トリアゾリウム、オキサゾリム、チアゾリウム、ピペリジニウム、ピペラジニウム、モルホリニウム、ピリジニウム、ピリダジニウム、ピリミジニウム、ピラジニウム、1,3−ジオキソリウム、ピリリウムおよびチオピリリウムカチオンからなる群より選択される有機カチオンQを伴う式Iのトリシアノボレートである。
【0024】
好ましくは、有機カチオンQは下記からなる基より選択される。
【化2】

【0025】
ここでRおよびR’は、独立に、C1−20アルキル、好ましくはC1−14アルキルであり、より好ましくはC1−8アルキルであり、mは0ないし4の整数である。好ましくは、置換基RおよびR’は異なる長さを有する。
【0026】
さらに好ましくは、有機カチオンQは下記からなる基より選択される。
【化3】

【0027】
さらに特に好ましい実施形態において、有機カチオンQはイミダゾリウムカチオン、特に下記一般式のイミダゾリウムカチオンである。
【化4】

【0028】
ここで、RおよびR’は、独立に、C1−20アルキル、好ましくはC1−14アルキルである。最も好ましい実施形態において、Rはメチルであり、R’はエチルである。
【0029】
特に、化合物1−エチル−3−メチルイミダゾリウム トリシアノメトキシボレートをクレームしている。
【0030】
有機カチオンを伴うトリシアノボレートは100℃未満、特に室温で通常は液体であり、したがってイオン液体と呼ばれる。イオン液体としてのこれらの特性のおかげで、これらは多くの有機および無機物質に対する溶媒として非常に好適である。
【0031】
したがって、クレームしているのは、式Iのトリシアノボレート(ここでRはC1−6アルキル、C2−6アルケニル、C6−10アリールまたはベンジルであり、Xは酸素またはイオウであり、Catn+はnが1または2、好ましくはnが1の有機カチオンQn+である)の使用であって、任意に、1以上の他のイオン液体、水または極性非プロトン性溶媒としての有機溶媒との混合物での使用である。
【0032】
イオン液体は多くの分野の使用がある:それらは、無機および有機合成における溶媒としての使用から、潤滑剤および水圧液のための薬剤および/または添加剤を放出する電解質としての使用を通じて広がる。したがって、特定の用途に好適であるためにイオン液体が満たさなければならない特定の必要条件のスペクトルはそれに応じて広い。本発明のイオン液体は、特に、無配位のアニオンによって特徴づけられる。加えて、これらはハロゲンを含まず、たとえば焼却による、安価で環境親和的な処分を可能にし、また、金属に対する低い腐食性のおかげで、これらの使用および貯蔵を簡単にする。
【0033】
本発明によるイオン液体の特性は、好適な有機カチオンおよび好適なボレートアニオンの置換基−X−Rの選択によって変化しうる。したがって、たとえば、融点、熱的および電気化学的な安定性、粘度、および水または有機溶媒への溶解性は、ボレートアニオンの置換基−X−Rの変化によってならびに有機カチオンおよびその置換基の変化によっても強く影響されうる。
【0034】
さらに、本発明は式Iの無機トリシアノボレート(ここでRはC1−6アルキル、C2−6アルケニル、C6−10アリールまたはベンジルであり、Xは酸素またはイオウであり、Catn+はnが1または2の無機カチオンMn+であり、好ましくはLi、Na、K、Rb、Cs、NH、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+からなる群より選択される)の製造方法に関し、
B(XRをシアノトリ−C1−6−アルキルシラン、特にシアノトリメチルシラン(TMSCN)と、Mn+(CNの存在下で反応させることを特徴とし、ここで、
はC1−6アルキル、C2−6アルケニル、C6−10アリールまたはベンジルであり、
Xは酸素またはイオウであり、
n+はnが1または2の無機カチオンであり、好ましくはLi、Na、K、Rb、Cs、NH、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+からなる群より選択される。
【0035】
好ましくは、B(XRおよびMn+(CNは、0.8:1.0ないし1.2:1.0のモル比、特に0.9:1.0ないし1.1:1.0のモル比で用いられる。シアノトリ−C1−6−アルキルシランは好ましくはB(XRに基づいて過剰に、たとえば1.5:1ないし10:1のモル比で、特に3:1ないし5:1のモル比で用いられる。無機トリシアノボレートの製造方法は、好ましくは0℃ないし250℃の温度で、特に50℃ないし100℃の温度で行われる。好ましくは、無機トリシアノボレートの製造方法は、副生成物として生成されるアルコキシトリ−C1−6−アルキルシランの沸点より高い温度で行われる。
【0036】
また、本発明は式Iの有機トリシアノボレート(ここでRはC1−6アルキル、C2−6アルケニル、C6−10アリールまたはベンジルであり、Xは酸素またはイオウであり、
Catn+はnが1または2のカチオンであり、好ましくはnが1の有機カチオンQn+である)の製造方法に関し、
式Iの無機トリシアノボレート(ここでRはC1−6アルキル、C2−6アルケニル、C6−10アリールまたはベンジルであり、Xは酸素またはイオウであり、Catn+はnが1または2の無機カチオンMn+であり、好ましくはLi、Na、K、Rb、Cs、NH、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+からなる群より選択される)を
式(Qn+(Yp−の塩と反応させ、ここで、
n+は有機カチオン、特に窒素、リン、イオウおよび酸素からなる群より選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む有機カチオンであり、
nは1または2であり、
p−はハロゲン化物、擬ハロゲン化物、硫酸塩および有機酸アニオンからなる群より選択されるアニオンであり、
pは1または2である。
【0037】
好ましい実施形態において、用いられる無機トリシアノボレートは、上でクレームしたようにそれらの製造のための方法に従って先に製造される。
【0038】
式(Qn+)(Yの塩のアニオンYとしてのハロゲン化物はフッ化物、塩化物、臭化物およびヨウ化物からなる群より選択することができる。特に好ましいのは塩化物である。
【0039】
塩(Qn+)(Yにおける擬ハロゲン化物アニオンYとしては、少なくとも2つの電気的陰性の原子からなり、ハロゲンと化学的に類似したアニオンを用いることができる。好ましくは、擬ハロゲン化物アニオンは、CN、OCN、SCNおよびNからなる群より選択される。さらに好ましくは、擬ハロゲン化物アニオンはCNである。
【0040】
有機酸アニオンの好適な例は、一塩基および二塩基の非芳香族および芳香族の酸、たとえばアセテート、オレエート、フマレート、マレエート、ピルベート、オキサレートおよびベンゾエートのアニオンである。特に好ましいのはアセテートおよびピルベートアニオンであ
る。
【0041】
nおよびpが1である場合、およびnおよびpが2である場合、上で定義した無機トリシアノボレートおよび式QYの塩は好ましくは0.8:1.0ないし1.2:1.0のモル比、特に0.9:1.0ないし1.1:1.0のモル比で用いられる。
【0042】
この反応は好ましくは溶媒または溶媒混合物中、たとえば水と少なくとも1つの二相有機溶媒中、たとえば水と塩化メチレンとの混合物中で行われる。代替案として、この反応は溶媒なしで、または副生物として生成される無機塩があまり溶解しないか不溶な有機溶媒中で行うこともできる。別の代替案として、この反応は予め加えたイオン交換体を用いた水溶液中で行うことも可能である。
【0043】
有機トリシアノボレートを調製する方法は好ましくは10℃ないし250℃の温度で、特に室温ないし100℃の範囲の温度で行われる。
【0044】
例:
略号:
TMSCN=シアノトリメチルシラン
TMSOMe=メトキシトリメチルシラン
EA=元素分析
CP−OES=誘導結合プラズマによる発光分光分析
br=ブロード
例1:カリウム トリシアノメトキシボレートK[B(CN)(OCH)]の合成
B(OCH(20.0g、0.19mol)およびKCN(12.5g、0.19mol)をTMSCN(66.8g、0.67mol)に溶解し、70℃の還流温度、保護ガス下で18時間加熱した。冷却後、すべての揮発成分(未反応のTMSCN、生成したTMSOMe)を蒸留除去して粉末のK[B(CN)(OCH)]を27.8g(92%)の収量で得た。
【0045】
H−NMR(400MHz、CDCN、TMS):δ[ppm]=3.22(q、JH/B=3.5Hz、3H)。
【0046】
13C−NMR(125MHz、CDCN、TMS):δ[ppm]=53.26(s);128.7(q(80%)+セプテット(20%)、q:J=69.9Hz、セプテット:J=23.0Hz)。
【0047】
11B−NMR(160.3MHz、CDCN、BF・EtO外部):δ[ppm]=−18.5(s)。
【0048】
IR(ヌジョール):ν[cm−1]=2228、2163、1201、1221br、965、926、866。
【0049】
融点:>240℃(分解)。
【表1】

【0050】
例2:1−エチル−3−イミダゾリウム トリシアノエトキシボレート(イオン液体)の合成
【化5】

【0051】
1−エチル−3−メチルイミダゾリウム クロライドの水溶液(5.0g、34mmol)、K[B(CN)(OCH)](5.4g、34mmol)および水(25.1g)を塩化メチレン(67g)と混合して室温で1時間攪拌した。水相と有機相との分離後、有機相を10mlの水で洗い、ロータリーエバポレーターで蒸発させ、5.81g(74%)の1−エチル−3−メチルイミダゾリウム トリシアノメトキシボレートを無色、低粘度の液体として得た。これは−10℃でも固化しなかった。
【0052】
H−NMR(400MHz、CDCN、TMS):δ[ppm]=1.62(br t、J=7.0Hz、3H)、3.33(q、JH/B=3.5Hz、3H)、4.01(s、3H)、4.30(br q、J=7,0Hz、2H)、7.36(s、1H)、7.39(s、1H)、8.67(s、1H)。
【0053】
13C−NMR(125MHz、CDCN、TMS):δ[ppm]=15.1(s)、36.8(br)、45.7(s)、53.3(s)、122.3(br)、124.0(br)、128.3(q(80%)+セプテット(20%)、q:J=69.9Hz、セプテット:J=23.0Hz)。
【0054】
融点:0℃未満。
【0055】
例3:1−エチル−3−メチルイミダゾリウム トリシアノメトキシボレート(イオン液体)の合成
1−エチル−3−メチルイミダゾリウム クロライド(5.0g、34mmol)を水(25ml)に入れた水溶液とK[B(CN)(OCH)](5.4g、34mmol)を塩化メチレン(67g)と混合して室温で3時間攪拌した。水相と有機相との分離後、後者を10mlの水で洗い、炭酸カルシウム上で乾燥し、最後にロータリーエバポレーターで蒸発させ、3.78g(48%)の1−エチル−3−メチルイミダゾリウム トリシアノメトキシボレートを低粘度液体として得た。
【0056】
H−NMR(400MHz、CDCN、TMS):δ[ppm]=1.62(br t、J=7.0Hz、3H)、3.33(q、JH/B=3.5Hz、3H)、4.01(s、3H)、4.30(br q、J=7,0Hz、2H)、7.36(s、1H)、7.39(s、1H)、8.67(s、1H)。
【0057】
13C−NMR(125MHz、CDCN、TMS):δ[ppm]=15.1(q)、36.8(br)、45.7(br)、53.3(q)、122.3(br)、124.0(br)、128.3(q(80%)+セプテット(20%)、q:J=69.9Hz、セプテット:J=23.2Hz)、135.7(d)。
【0058】
融点:0℃未満。
【0059】
例4:N−n−ブチル−2−ピコリニウム トリシアノメトキシボレート(イオン液体)の合成
【化6】

【0060】
N−n−ブチル−2−ピコリニウム クロライド(5.0g、27mmol)を水(20ml)に入れた水溶液とK[B(CN)(OCH)](4.3g、27mmol)を塩化メチレン(53g)と混合して室温で5時間攪拌した。水相と有機相との分離後、後者を10mlの水で洗い、炭酸カルシウム上で乾燥し、最後にロータリーエバポレーターで蒸発させ、4.0g(55%)のN−n−ブチル−2−ピコリニウム トリシアノメトキシボレートを低粘度液体として得た。
【0061】
H−NMR(500MHz、CDCN、TMS):δ[ppm]=0.92(t、J=7.3Hz、3H)、1.35−1.43(m、2H)、1.79−1.83(m、2H)、2.74(s、3H)、3.15(q、JH/B=3.9Hz、3H)、4.39(br t、J=8Hz、2H)、7.76−7.82(m、2H)、8.26−8.30(m、1H)、8.52−8.54(m、1H)。
【0062】
13C−NMR(125MHz、CDCN、TMS):δ[ppm]=12.9(q)、19.4(q)、19.7(t)、31.7(t)、52.5(q)、58.0(t)、126.0(d)、128.0(q(80%)+セプテット(20%)、q:J=69.9Hz、セプテット:J=20.7Hz)、130.5(d)、145.1(d)、145.3(d)、155.61(s)。
【0063】
融点:0℃未満。
【0064】
例5:テトラエチルアンモニウム トリシアノメトキシボレート(イオン液体)の合成
【化7】

【0065】
テトラエチルアンモニウム クロライド(5.0g、30mmol)を水(22ml)に入れた溶液とK[B(CN)(OCH)](4.8g、30mmol)を塩化メチレン(59g)と混合して室温で5時間攪拌した。水相と有機相との分離後、後者を10mlの水で洗い、炭酸カルシウム上で乾燥し、最後にロータリーエバポレーターで蒸発させ、4.0g(53%)のテトラエチルアンモニウム トリシアノメトキシボレートを低粘度液体として得た。
【0066】
H−NMR(500MHz、CDCN、TMS):δ[ppm]=1.16(tt、J=7.3、JH/N=1.9Hz、12H)、3.12(q、J=7.3Hz、8H)、3.16(JH/B=3.4Hz、3H).
13C−NMR(125MHz、CDCN、TMS):δ[ppm]=6.8(q)、52.3(dt、JC/N=3.2Hz)、54.5(q)、128.0(q(80%)+セプテット(20%)、q:J=70Hz、セプテット:J=23.5Hz).
溶融範囲(DSC):1ないし26℃。
【0067】
例6:テトラブチルホスホニウム トリシアノメトキシボレート(イオン液体)の合成
【化8】

【0068】
テトラブチルホスホニウム メタンスルホネート(5.0g、14mmol)を水(10.4ml)に入れた溶液とK[B(CN)(OCH)](2.2g、14mmol)を塩化メチレン(27.6g)と混合して室温で5時間攪拌した。水相と有機相との分離後、後者を10mlの水で洗い、炭酸カルシウム上で乾燥し、最後にロータリーエバポレーターで蒸発させ、3.4g(64%)のテトラブチルホスホニウム トリシアノメトキシボレートを低粘度液体として得た。
【0069】
H−NMR(500MHz、CDCN、TMS):δ[ppm]=0.95(t、J=7.3Hz、12H)、1.44−1.53(m、16H)、2.04−2.10(m、8H)、3.21(JH/B=3.4Hz、3H)。
【0070】
13C−NMR(125MHz、CDCN、TMS):δ[ppm]=13.76(br q)、19.2(td、JP/C=48.3Hz)、24.1(td、JP/C=4.6Hz)、24.7(td、JP/C=15.6)、53.4(q)、128.0(q+m、q:J=70Hz)。
【0071】
融点:0℃未満。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式のトリシアノボレート。
【化1】

ここで
はC1−6アルキル、C2−6アルケニル、C6−10アリールまたはベンジルであり、
Xは酸素またはイオウであり、
Catn+はnが1または2のカチオンであり、無機カチオンおよび有機カチオンからなる群より選択される。
【請求項2】
前記Xは酸素である、請求項1のトリシアノボレート。
【請求項3】
はメチル、エチルまたはプロピルである、請求項1または2のトリシアノボレート。
【請求項4】
はメチルである、請求項3のトリシアノボレート。
【請求項5】
Catn+はLi、Na、K、Rb、Cs、NH、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+からなる群より選択される無機カチオンである、請求項1ないし4のいずれか1項のトリシアノボレート。
【請求項6】
Catn+は窒素、リン、イオウおよび酸素からなる群より選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む有機カチオンである、請求項1ないし4のいずれか1項のトリシアノボレート。
【請求項7】
前記有機カチオンは下記式のカチオンからなる群より選択される請求項6のトリシアノボレート。
(a)(WR、ここでWは窒素またはリンであり、
(i)ここでRないしRは、独立に、C1−20アルキルであり、RはC1−20アルキル、C3−10シクロアルキルまたはC6−10アリールであり、ここで任意にRないしRは、独立に、1以上のハロゲンを含む、または
(ii)ここでRおよびRはWとともに5員環ないし7員環を形成し、RおよびRは、独立に、C1−20アルキルであり、ここで任意にRおよびRは、独立に、1以上のハロゲンを含む、または
(iii)ここでRおよびRまたはRおよびRは各々の場合にWとともに5員環ないし7員環を形成する、または
(b)(XR、ここでXは窒素であり、RおよびRはXとともに環を形成し、Xは形式的にRおよびRへの1つの単結合および1つの二重結合を有し、RはC1−20アルキル、C3−10シクロアルキルまたはC6−10アリールであり、ここでRは任意に1以上のハロゲンを含む、または
(c)(YR1011、ここでYはイオウであり、
(i)ここでRおよびR10は、独立に、C1−20アルキルであり、R11はC1−20アルキル、C3−10シクロアルキルまたはC6−10アリールであり、ここで任意にRないしR11は、独立に、1以上のハロゲンを含む、または
(ii)ここでRおよびR10はYとともに5員環ないし7員環を形成し、R11はC1−20アルキル、C3−10シクロアルキルまたはC6−10アリールであり、ここでR11は任意に1以上のハロゲンを含む、または
(d)(ZR1213、ここでZは酸素またはイオウであり、R12およびR13はZとともに環を形成し、Zは形式的にR12およびR13への1つの単結合および1つの二重結合を有し、
ここで任意にC1−20アルキル、C1−20アルコキシ、C3−10シクロアルキル、C6−10アリール、ハロゲンおよびシアノからなる群より選択される1以上の置換基が、前記置換基RないしR13によって形成される環の各々に結合し、ここで任意に前記C1−20アルキル、前記C1−20アルコキシ、前記C3−10シクロアルキルおよび前記C6−10アリールは、独立に、1以上のハロゲンを含み、
ここで任意に前記置換基RないしR13によって形成される環の各々はさらに1つまたは2つの、置換または非置換の、窒素、イオウおよび酸素からなる群より選択されるヘテロ原子を含む、および/または他の芳香族または非芳香族の5員環ないし7員環に縮合している。
【請求項8】
前記有機カチオンは、有機アンモニウム、ホスホニウム、スルホニウム、ピロリジニウム、ピロリニウム、ピロリウム、ピラゾリウム、イミダゾリウム、トリアゾリウム、オキサゾリム、チアゾリウム、ピペリジニウム、ピペラジニウム、モルホリニウム、ピリジニウム、ピリダジニウム、ピリミジニウム、ピラジニウム、1,3−ジオキソリウム、ピリリウムおよびチオピリリウムカチオンからなる群より選択される請求項6または7のトリシアノボレート。
【請求項9】
前記有機カチオンは下記からなる基より選択される請求項6ないし8のいずれか1項のトリシアノボレート。
【化2】

ここでRおよびR’は、独立に、C1−20アルキル、好ましくはC1−14アルキルであり、mは0ないし4の整数である。
【請求項10】
前記有機カチオンは下記式のものである、請求項9のトリシアノボレート。
【化3】

ここで、RおよびR’は、独立に、C1−20アルキル、好ましくはC1−14アルキルである。
【請求項11】
Rがメチルであり、R’がエチルである、請求項10のトリシアノボレート。
【請求項12】
請求項6ないし10のいずれか1項に記載のトリシアノボレートの使用であって、任意に、1以上の他のイオン液体、水または極性非プロトン性溶媒としての有機溶媒との混合物での使用。
【請求項13】
請求項5に記載のトリシアノボレートの製造方法であって、B(XRをシアノトリ−C1−6−アルキルシランと、Mn+(CNの存在下で反応させることを特徴とする方法。
ここで
はC1−6アルキル、C2−6アルケニル、C6−10アリールまたはベンジルであり、
Xは酸素またはイオウであり、
n+はnが1または2の無機カチオンであり、Li、Na、K、Rb、Cs、NH、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+およびBa2+からなる群より選択される。
【請求項14】
請求項6ないし11のいずれか1項に記載のトリシアノボレートの製造方法であって、請求項5に記載のトリシアノボレートを式(Qn+(Yp−の塩と反応させる方法。
ここで
n+は請求項6ないし11のいずれか1項に記載の有機カチオンであり、
nは1または2であり、
p−はハロゲン化物、擬ハロゲン化物、イオウおよび有機酸アニオンからなる群より選択され、
pは1または2である。
【請求項15】
用いられる前記トリシアノボレートを請求項13に記載の方法に従って先に調製する、請求項14の方法。

【公表番号】特表2012−516832(P2012−516832A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546699(P2011−546699)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/000426
【国際公開番号】WO2010/086131
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(391003864)ロンザ リミテッド (36)
【氏名又は名称原語表記】LONZA LIMITED
【Fターム(参考)】