説明

新規なフコイダン資化性微生物

【課題】フコイダンを低分子化させるのみならず脱硫酸化させる手段・方法、およびかかる手段・方法により、脱硫酸化された低分子化フコイダンを提供する。
【解決手段】フコイダンの脱硫酸化活性と低分子化活性を有するフコイダン資化性細菌、例えばFlavobacterium limicola NITE AP−674、Luteolibacter algae AP−675、AP−676等の、Flavobacterium属、またはLuteolibacter属の菌体またはその抽出物を、フコイダンに作用させる、脱硫酸化された低分子化フコイダンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規フコイダン資化性細菌、それにより得られる低分子化フコイダンに関する。本発明のフコイダン資化性細菌は、フコイダンの低分子化活性と脱硫酸化活性を併せ持つユニークなものである。
【背景技術】
【0002】
天然物質であるフコイダンは、オキナワモズク、モズク、ワカメ、昆布などの褐藻海草類に含まれる「ぬめり」成分であり、癌細胞の死滅、免疫系の調節、組織再生の促進など、様々な生物活性を有することが明らかになっている。また、フコイダンは肌を引き締める作用を有していたり、保湿作用を有していたりすることから、化粧品にも利用されている。このように、フコイダンは、健康食品、機能性食品、サプリメント、化粧品および医薬品などの原料あるいは成分として需要が増大している。
【0003】
フコイダンが有するこれらの多様な生理活性は、フコイダン分子の硫酸化度と相関性があるといわれているが、硫酸基が多いと生理活性が認められなくなる例もある。分子量で32,000の硫酸基含量が少ないフコイダンは正常リンパ球の増殖を促進するとともに、TNF−a、IL−6等のサイトカインの産生を増強するのに対し、同じ分子量で硫酸基含量が多いフコイダンはこれらの生理活性が認められないとの報告がある(非特許文献1参照)。
【0004】
このように、フコイダンの分子量と硫酸基の数はフコイダンの生理活性に大きく影響している。フコイダンの低分子化については、これまで加熱処理、酸加水分解、微生物または酵素による分解などが報告されている(特許文献1、非特許文献2〜7参照)。これらの報告において、フコイダンの低分子化に関与する酵素、遺伝子が単離されている例もある。しかし、いずれの場合も酵素的なフコイダンの脱硫酸化反応には言及していない。さらに、水熱反応を利用したフコイダンの低分子化例もあり、水熱反応による低分子化では硫酸基の脱離が認められない(特許文献2参照)。
【0005】
かかる事情から、フコイダンの低分子化方法または手段であって、しかも硫酸基を脱離させる(脱硫酸化させる)ことのできる方法または手段が開発されれば、従来の加熱、水熱、酸処理、酵素処理等の方法では調製できない硫酸化度が低いフコイダンを取得でき、フコイダンの生理活性の解明や、本来の活性とは異なる活性を有する、あるいは本来の活性が増強された、低硫酸化度かつ低分子化フコイダンの製造が可能になる。
【特許文献1】米国特許第6489155号公報
【特許文献2】特願2008−50534明細書
【非特許文献1】日本栄養・食糧学会誌、58,273−280(2005)
【非特許文献2】Marine Biotechnology, 5, 70-78 (2003)
【非特許文献3】Marine Biotechnology, 5, 536-544 (2003)
【非特許文献4】Marine Biotechnology, 6, 335-346 (2004)
【非特許文献5】Marine Biotechnology, 8, 27-39 (2006)
【非特許文献6】Glycobiology, 16, 1021-1032 (2006)
【非特許文献7】J. Microbiol. Biotechnol., 18, 616-623 (2008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、フコイダンを低分子化させるのみならず脱硫酸化させる手段・方法を開発すること、およびかかる手段・方法により低硫酸化度の低分子化フコイダンを得ることを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決せんと鋭意研究を重ね、フコイダンの脱硫酸化活性と低分子化活性を有するフコイダン資化性微生物を海水から単離することに成功し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は:
(1)フコイダンの脱硫酸化活性と低分子化活性を有するフコイダン資化性細菌Flavobacterium属の細菌の菌体またはその抽出物をフコイダンに作用させることを特徴とする、脱硫酸化された低分子化フコイダンの製造方法;
(2)フコイダンの脱硫酸化活性と低分子化活性を有するフコイダン資化性細菌Luteolibacter属の細菌の菌体またはその抽出物をフコイダンに作用させることを特徴とする、脱硫酸化された低分子化フコイダンの製造方法;
(3)細菌が、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受領番号NITE AP−674として寄託されたFlavobacterium limicola F31株である(1)記載の方法;
(4)細菌が、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受領番号NITE AP−675として寄託されたLuteolibacter algae H18株である(2)記載の方法;
(5)細菌が、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受領番号NITE AP−676として寄託されたLuteolibacter algae SWi−1−Y株である(2)記載の方法;
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の方法により得られる脱硫酸化された低分子化フコイダン;
(7)(5)記載の方法により得られる、分子量14万以下である脱硫酸化された低分子化フコイダン;
(8)独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受領番号NITE AP−674として寄託された、フコイダンの脱硫酸化活性と低分子化活性を有するフコイダン資化性細菌Flavobacterium limicola F31株;
(9)独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受領番号NITE AP−675として寄託された、フコイダンの脱硫酸化活性と低分子化活性を有するフコイダン資化性細菌Luteolibacter algae H18株;
(10)独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受領番号NITE AP−676として寄託された、フコイダンの脱硫酸化活性と低分子化活性を有するフコイダン資化性細菌Luteolibacter algae SWi−1−Y株
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、フコイダンの脱硫酸化活性と低分子化活性を有するフコイダン資化性細菌による、脱硫酸化された低分子化フコイダンの製造方法が提供される。本発明の製造方法を用いて、様々な分子量の硫酸化度の異なる低分子化フコイダンを調製することができ、それらの生理活性を検討することにより、フコイダンの構造と機能の相関性を明らかにすることができる。そして、本発明により得られた低分子化フコイダンは、本来の活性とは異なる活性を有する、あるいは本来の活性が増強された、脱硫酸化された低分子化フコイダンとして用い得る。さらに本発明によれば、本発明の脱硫酸化された低分子化フコイダンの製造方法に適した細菌株も提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、1の態様において、フコイダンの脱硫酸化活性と低分子化活性を有するフコイダン資化性細菌の菌体またはその抽出物をフコイダンに作用させることを特徴とする、脱硫酸化された低分子化フコイダンの製造方法を提供するものである。本発明の脱硫酸化された低分子化フコイダンの製造方法に用いる微生物の菌体またはその抽出物は、フコイダンの脱硫酸化活性と低分子化活性を有するフコイダン資化性微生物のものであれば、いずれの微生物のものであってもよいが、好ましくは細菌、より好ましくはFlavobacterium属の細菌(さらに好ましくはFlavobacterium limicola種)、あるいはLuteolibacter属の細菌(さらに好ましくはLuteolibacter algae種)の菌体またはその抽出物を用いることができる。
【0010】
したがって、本発明は、フコイダンの脱硫酸化活性と低分子化活性を有するフコイダン資化性細菌Flavobacterium属の細菌の菌体またはその抽出物をフコイダンに作用させることを特徴とする、脱硫酸化された低分子化フコイダンの製造方法を提供する。さらに本発明は、もう1つの態様において、フコイダンの脱硫酸化活性と低分子化活性を有するフコイダン資化性細菌Luteolibacter属の細菌の菌体またはその抽出物をフコイダンに作用させることを特徴とする、脱硫酸化された低分子化フコイダンの製造方法を提供する。
【0011】
本発明の脱硫酸化された低分子化フコイダンの製造方法に用いる、最も好ましい微生物の菌体またはその抽出物は、下記の3株の細菌の菌体またはその抽出物である:
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受領番号NITE AP−674として寄託されたFlavobacterium limicola F31株、
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受領番号NITE AP−675として寄託されたLuteolibacter algae H18株、あるいは
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受領番号NITE AP−676として寄託された、フコイダンの脱硫酸化活性と低分子化活性を有するフコイダン資化性細菌Luteolibacter algae SWi−1−Y株。
【0012】
本発明に用いるフコイダン資化性微生物は、フコイダンの低分子化活性と脱硫酸化活性を併せ持つ点で、従来のものとは異なる。本発明のフコイダン資化性細菌を用いることにより、硫酸基を脱離させつつフコイダンを低分子化させることができる。しかも、これらの細菌のフコイダンの脱硫酸化パターンとフコイダンの低分子化パターンが異なるので、これらの細菌を適宜用いることによって、フコイダンの分子量および脱硫酸化度を調節することができる。本明細書において、フコイダンの低分子化活性とは、フコイダンの糖鎖を切断して低分子化させる能力をいい、フコイダンの脱硫酸化活性とは、フコイダンの糖残基に結合した硫酸基を遊離させる能力をいう。脱硫酸化とはフコイダンの硫酸基の全部が脱離している場合のみならず、一部が脱離した状態も包含する。さらに、本明細書で用いる他の用語は、当業者に通常理解されている意味を有するものである。
【0013】
上記の最も好ましい3株の本発明のフコイダン資化性細菌は、鳥取市白兎海岸にて採取した海水、海草および土壌中の微生物を、フコイダンを単一炭素源とする培地、ならびに単一炭素源および単一硫黄源とする培地にて培養、スクリーニングすることにより、得られたものである。分離菌株からDNAを抽出し、各菌株の16s rRNA遺伝子をPCR増幅させ、塩基配列を決定することにより、Flavobacterium limicola F31株、Luteolibacter algae H18株、Luteolibacter algae SWi−1−Y株と同定、命名した。これらの菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託され、それぞれ、受領番号NITE AP−674、NITE AP−675、NITE AP−676を付与された(受領日はいずれも2008年11月14日)。以下において、Flavobacterium limicolaをF. limicolaと、Luteolibacter algaeをL. algaeと略称することがある。
【0014】
本発明のフコイダン資化性細菌またはその抽出物を用いてフコイダンを脱硫酸化および低分子化させることができる。本発明の脱硫酸化された低分子化フコイダンの製造方法に供するフコイダンは精製品であってもよく、粗精製品または部分精製品であってもよく、蛋白類、脂質類、他の糖類などの夾雑物質を含むものであってもよい。例えば、もずく、こんぶ、わかめ、ひじきなどの海草類をそのまま、あるいはそれらの粗抽出物をフコイダンとして本発明の方法に使用してもよい。好ましくは、フコイダンは水溶液として処理される。微生物またはその酵素の特性を考慮して、かかる水溶液に塩類、バッファーなどの物質を添加してもよい。
【0015】
本発明のフコイダン資化性微生物の菌体をフコイダンに直接作用させてもよい。この場合、試験管やフラスコ等の器具を用いて通常どおり培養を行ってもよい。スケールアップを図るにはバイオリアクターやタンクを用いて培養を行ってもよい。本発明の細菌は好気的に培養することが好ましく、振盪培養または通気培養が適している。培地にはフコイダンのほか、微生物の成育および酵素活性を促進あるいは制御するために、例えば、塩類、バッファー、ビタミン、フコイダン以外の栄養源などを適宜添加してもよい。本発明のフコイダン資化性細菌の培養温度は通常約15℃〜約40℃、好ましくは約20℃〜約37℃、さらに好ましくは約25℃〜約33℃であり、培養のpHは通常約6〜約10、好ましくは約7〜約9、さらに好ましくは海水のpHの範囲、例えばpH約7.5〜約8.5である。これらの条件は当業者が簡単な試験を行うことにより適宜定めうる。菌体量とフコイダン量の割合も適宜定め得る。フコイダンに作用させる本発明の菌体は1種類であってもよく、2種類またはそれ以上の種類であってもよい。
【0016】
培養時間の経過に伴ってフコイダンの低分子化と脱硫酸化が見られる。フコイダンの分子量、フコイダンの硫酸化度(脱硫酸化度)は公知の方法にて測定することができる。フコイダンの分子量は、例えばゲルろ過HPLC(高速液体クロマトグラフィー)を用いて測定することができ、硫酸化度を測定するには、例えば硫酸バリウム沈殿法により硫酸基を定量すればよい。
【0017】
本発明のフコイダンの脱硫酸化および低分子化方法において、本発明のフコイダン資化性細菌の菌体の抽出物をフコイダンに作用させてもよい。フコイダン資化性細菌の抽出物は公知の方法により得ることができる。例えば、菌体を超音波または破砕機を用いて破砕したものをそのまま抽出物として用いることができる。あるいは、前記破砕物の上清を抽出物として用いることもできる。さらに、本発明のフコイダン資化性細菌の抽出物を公知の方法により精製して、脱硫酸化活性、低分子化活性の強いフラクションを得て、これを抽出物として使用してもよい。このように、抽出物は粗酵素であってもよく、あるいは単一にまで精製された酵素であってもよい。このような精製は公知の方法にて行うことができ、例えば硫安分画、あるいはイオン交換クロマトグラフィーやゲルろ過クロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィーなどを用いることができる。これらの抽出物、粗酵素、精製フラクションの形状は特に限定されず、液体であってもよく、凍結乾燥物のような粉末または固体であってもよい。
【0018】
上記のごとく得られた抽出物を、フコイダン、好ましくはフコイダン水溶液に添加して、脱硫酸化と低分子化を行うことができる。反応を促進あるいは制御するためにバッファー、塩類などを適宜反応系に添加してもよい。反応温度は通常約15℃〜約40℃、好ましくは約20℃〜約37℃、さらに好ましくは約25℃〜約33℃であり、反応のpHは通常約6〜約10、好ましくは約7〜約9、さらに好ましくは約7.5〜約8.5である。反応は撹拌しながら行うことが好ましい。これらの条件は当業者が簡単な試験を行うことにより適宜定めうる。抽出物量とフコイダン量の割合も適宜定めうる。培養時間の経過に伴ってフコイダンの低分子化と脱硫酸化が見られる。フコイダンの分子量、フコイダンの硫酸化度(脱硫酸化度)は公知の方法にて測定することができる(上記参照)。フコイダンに作用させる本発明の菌体の抽出物は1種類であってもよく、2種類または3種類であってもよい。
【0019】
上述のごとく、本発明のフコイダン資化性細菌はいずれもフコイダンの低分子化活性と脱硫酸化活性を併せ持っているが、脱硫酸化パターンと低分子化パターンにはこれらの株において相違が見られる。F. limicola F31株の抽出物による硫酸基の遊離はフコイダンの分子量が2万程度になってから始まるのに対し、L. algae SWi−1−Y株の抽出物を用いた場合はフコイダンの分子量約14万の段階で硫酸基の遊離が見られる。L. algae H18株の場合はF. limicola F31株の場合の似た結果が得られる。
【0020】
したがって、F. limicola F31株またはL. algae H18株の菌体またはその抽出物を用いた場合には、脱硫酸化された比較的低分子のフコイダンを得ることができ、L. algae SWi−1−Y株の菌体またはその抽出物を用いた場合には、脱硫酸化された比較的高分子のフコイダンを得ることができる。また、L. algae SWi−1−Y株の菌体またはその抽出物は他の2株に比べて脱硫酸化活性が高い。
【0021】
本発明の微生物またはその抽出物を用いて、様々な分子量の硫酸化度の異なる低分子化フコイダンを調製することができる。それらはフコイダンの構造と機能の相関性を調べるための材料として用いることができる。そして、本発明により得られた低分子化フコイダンは、本来の活性とは異なる活性を有する、あるいは本来の活性が増強された、低硫酸化度かつ低分子化フコイダンとして用い得る。ここにフコイダンの本来の活性とは、免疫賦活、抗腫瘍、コレステロールや中性脂肪の低下、胃粘膜の保護、肝機能改善、抗酸化活性などが例示されるが、これらに限定されない。したがって、本発明により得られた低分子化フコイダンは、健康食品、機能性食品、サプリメント、化粧品および医薬品などの原料あるいは成分として用いることができる。
【0022】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的かつ詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0023】
菌株の単離と同定
フコイダンを単一炭素源として生育できる微生物の単離には下記のF培地を用いた。F培地は蒸留水1L当たり、フコイダン((株)海産物のきむらや製)2.5g、リン酸水素二カリウム4.0g、リン酸二水素カリウム0.5g、硫酸アンモニウム2.0g、硫酸マグネシウム七水和物0.41g、金属混合液−F 10ml、ビタミン混合液−F 1mlを含み、pHを7.4に調整したものである。金属混合液−Fは蒸留水1L当たり、塩化ナトリウム1g、塩化カルシウム2g、硫酸鉄(II)0.5g、硫酸亜鉛0.5g、塩化マンガン四水和物0.5g、硫酸銅(II)0.05g、モリブデン酸ナトリウム二水和物0.1g、タングステン酸ナトリウム二水和物0.05gを含む溶液である。ビタミン混合液−Fは蒸留水1L当たり、ビオチン100mg、チアミン塩酸塩100mg、リボフラビン100mg、パントテン酸カルシウム100mg、ピリドキサールリン酸100mg、ニコチンアミド100mg、パラ安息香酸ナトリウム20mg、シアノコバラミン10mg、リポ酸10mgを含む溶液である。
【0024】
フコイダンを単一炭素源および単一硫黄源として生育できる微生物の単離には下記のAF培地を用いた。AF培地は蒸留水1L当たり、フコイダン((株)海産物のきむらや製)2.5g、リン酸水素二カリウム4.0g、リン酸二水素カリウム0.5g、塩化アンモニウム1.0g、塩化マグネシウム0.2g、金属混合液−AF 10ml、ビタミン混合液−AF 1mlを含み、pHを7.4に調整したものである。金属混合液−AFは蒸留水1L当たり、塩化ナトリウム1g、塩化カルシウム2g、塩化鉄(II)0.5g、塩化亜鉛0.5g、塩化マンガン四水和物0.5g、塩化銅(II)0.05g、モリブデン酸ナトリウム二水和物0.1g、タングステン酸ナトリウム二水和物0.05gを含む溶液である。ビタミン混合液−AFは蒸留水1L当たり、パントテン酸カルシウム400mg、イノシトール200mg、ピリドキサールリン酸200mg、ニコチンアミド400mg、パラ安息香酸ナトリウム200mg、シアノコバラミン0.5mgを含む溶液である。
【0025】
土壌、モズク藻体、海水濃縮物などのサンプルを、オートクレーブしたF培地、AF培地に懸濁し、30℃で振とうし、培地の濁度上昇が認められたサンプルを新たな培地に植え継いだ。この操作を10回以上繰り返しても濁度上昇が認められるサンプルを、液体培地と同一組成で寒天を1.5%含む平板培地に塗布し、単一コロニーが得られれば、再びそのコロニーから液体培地へ植菌した。これらの操作を繰り返すことにより、フコイダン資化性微生物を純化し、F培地を用いた系からF31株、H18株と名付けた2株、AF培地を用いた系からSWi−1−Yと名付けた1株の目的微生物を単離した。F31株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託され、平成20年11月14日付けで受領番号NITE AP−674を付与された。H18株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託され、平成20年11月14日付けで受領番号NITE AP−675を付与された。SWi−1−Y株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託され、平成20年11月14日付けで受領番号NITE AP−676を付与された。
【0026】
分離菌株から定法に従いDNAを抽出し、それぞれの菌株の16s rRNA遺伝子をPCR増幅させ、塩基配列を決定した。その結果、F31株、H18株についてはFlavobacterium limicola、Luteolibacter algaeの16s rRNA遺伝子とどちらも97%の相同性を有していたことより、これらの菌株をFlavobacterium limicola F31株、Luteolibacter algae H18株と同定、命名した。また、SWi−1−Y株についても同じ実験を行い、Luteolibacter algae SWi−1−Y株と同定、命名した。
【実施例2】
【0027】
粗酵素の調製と酵素反応
(1)粗酵素の調製方法および酵素反応方法
上記菌株をスクリーニングに用いた培地500mlで培養し、増殖が停止する時点で遠心分離により菌体を集めた。生理食塩水で菌体を洗った後、20mMトリス塩酸バッファー(pH8.0)に菌体を懸濁し、超音波処理により菌体の破砕を行い、その遠心上清を粗酵素とした。
【0028】
酵素反応は、0.25%フコイダン、100mMトリス塩酸バッファー(pH8.0)を含む反応液に粗酵素を蛋白質濃度が2mg/mlとなるように添加し、30℃で行った。熱処理(80℃、5分)により酵素を失活させて反応を停止させた後、反応液中のフコイダンの分子量と遊離硫酸基の定量を行った。
【0029】
フコイダンの分子量はゲルろ過HPLCにおけるピークトップのリテンションタイムを基に算出した。プルランを分子量スタンダードとして使用した。HPLC条件は、カラム:TSK−Gel GMPWXL(φ 7.8mm x 300mm)(TOSOH)、検出法:RI、移動相:0.1M NaNO(pH4.9)、流速:0.6ml/minで行った。
【0030】
硫酸基の定量は、Dodgsonの方法(Biochem.J.,84,350−356(1962))に従い、塩化バリウム−ゼラチン溶液を加えることにより生じる硫酸バリウムの沈殿量を、500nmにおける濁度を測定することにより行った。
また、酵素反応の進行によって生成する糖の還元末端を定量することによっても酵素活性を測定した。酵素反応液にフェリシアン化カリウム溶液を加え、15分加熱した後の420nmの吸光度を測定することにより還元末端量を定量した。
【0031】
(2)F. limicola F31株の粗酵素を用いたフコイダンの低分子化と脱硫酸化
F. limicola F31株の粗酵素によるフコイダンの低分子化・脱硫酸化反応は図1のように進行した。この反応によりフコイダンの低分子化に伴い糖の還元末端の遊離が認められた。脱硫酸化反応はフコイダンの分子量が2万程度になってから始まることがわかった。
【0032】
3種類の分離菌株の粗酵素を用いて、24時間まで酵素反応を実施したところ、フコイダンの分子量と遊離硫酸基量は表1、図2のように推移した。F.limicola F31株の粗酵素による硫酸基の遊離はフコイダンの分子量が2万程度になってから始まるのに対し、L. algae SWi−1−Y株の粗酵素を用いた場合はフコイダンの分子量約14万の段階で硫酸基の遊離が見られた。そしてL. algae SWi−1−Y株の粗酵素を用いた場合は、他の2株の粗酵素を用いた場合に比べて硫酸基の遊離量が多い傾向が見られた。L. algae H18株の場合はF.limicola F31株の場合の結果と似ていた。また、L. algae SWi−1−Y株の粗酵素は他の2株の粗酵素に比べて脱硫酸化活性が高かった。
【表1】


上の四角で囲ったデータは脱硫酸化反応が確認された時点のデータ、下の四角で囲ったデータは反応24時間後のデータであることを示す。
【0033】
(3)F. limicola F31株の粗酵素を用いた低分子化・脱硫酸化フコイダンの取得
フコイダンを400mg((株)海産物のきむらや製、分子量20万、硫酸基含有率19%)、F. limicola F31株の粗酵素を蛋白質重量として320mgを含む100mM Tris−HClバッファー(pH8.0)を酵素反応液として、30℃で3.5時間、攪拌子で混合しながら酵素反応を行った。
【0034】
80℃、15分の熱処理により酵素反応を停止させた後、その遠心上清から分画分子量50,000と10,000の限外ろ過膜により高分子化合物と塩を分離し、分子量8,500の低分子化されたフコイダンを得た。この溶液を凍結乾燥させ、84mgの粉末サンプルを得た。このサンプルを1.7M塩酸存在下で100℃、5時間熱処理することにより、硫酸基の脱離を行い、遊離されてきた硫酸基を定量したところ、得られた低分子化フコイダンの硫酸基含有率は16%と求められた。
【0035】
(4)L. algae SWi−1−Y株の粗酵素を用いた低分子化・脱硫酸化フコイダンの取得
フコイダンを500mg((株)海産物のきむらや製、分子量20万、硫酸基含有率19%)、L. algae SWi−1−Y株の粗酵素を蛋白質重量として400mg含む100mM Tris−HClバッファー(pH8.0)を酵素反応液として、30℃で28時間、攪拌子で混合しながら酵素反応を行った。
【0036】
80℃、15分の熱処理により酵素反応を停止させた後、その遠心上清から分画分子量50,000の限外ろ過膜により高分子化合物を分離した。さらにSepharose CL−4Bゲルろ過クロマトグラフィー(φ 2cm x 90cm、移動相は蒸留水)により脱塩を行い、分子量4,000の低分子化されたフコイダンを得た。この溶液を凍結乾燥させ、32mgの粉末サンプルを得た。このサンプルを1.7M塩酸存在下で100℃、5時間熱処理することにより、硫酸基の脱離を行い、遊離されてきた硫酸基を定量したところ、得られた低分子化フコイダンの硫酸基含有率は8.3%と求められた。
【0037】
上記実験例が示すように、本発明の新規微生物が有する酵素を用いることにより硫酸化度が異なる低分子化フコイダンを生成させることができた。L. algae SWi−1−Y株を用いた場合には、比較的高分子のフコイダンであっても脱硫酸化反応が認められたので、他の2株を用いた場合よりも高分子量の脱硫酸化フコイダンが得られることがわかった。微生物量または抽出物(酵素)量、反応時間、その他の反応条件を適宜選択することにより、フコイダンの分子量および硫酸化度をコントロールできることもわかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、フコイダンの活性と分子量と硫酸化度との関係を調べるための研究材料を提供する。さらに本発明により得られる低分子化フコイダンは健康食品、機能性食品、サプリメント、化粧品および医薬品などの原料あるいは成分として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】F. limicola F31株の粗酵素によるフコイダンの低分子化(フコイダン分子量)、脱硫酸化反応(遊離硫酸基量)および還元末端量の経時的変化を示すグラフである。
【図2】L. algae SWi−1−Y株、L. algae F31株およびL. algae H18株の粗酵素によるフコイダンの低分子化(フコイダン分子量)および脱硫酸化反応(遊離硫酸基量)の経時的変化を示すグラフである。上段のグラフにおける3時間までの反応の進行を、下段のグラフに示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコイダンの脱硫酸化活性と低分子化活性を有するフコイダン資化性細菌Flavobacterium属の細菌の菌体またはその抽出物をフコイダンに作用させることを特徴とする、脱硫酸化された低分子化フコイダンの製造方法。
【請求項2】
フコイダンの脱硫酸化活性と低分子化活性を有するフコイダン資化性細菌Luteolibacter属の細菌の菌体またはその抽出物をフコイダンに作用させることを特徴とする、脱硫酸化された低分子化フコイダンの製造方法。
【請求項3】
細菌が、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受領番号NITE AP−674として寄託されたFlavobacterium limicola F31株である請求項1記載の方法。
【請求項4】
細菌が、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受領番号NITE AP−675として寄託されたLuteolibacter algae H18株である請求項2記載の方法。
【請求項5】
細菌が、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受領番号NITE AP−676として寄託されたLuteolibacter algae SWi−1−Y株である請求項2記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の方法により得られる脱硫酸化された低分子化フコイダン。
【請求項7】
請求項5記載の方法により得られる、分子量14万以下である脱硫酸化された低分子化フコイダン。
【請求項8】
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受領番号NITE AP−674として寄託された、フコイダンの脱硫酸化活性と低分子化活性を有するフコイダン資化性細菌Flavobacterium limicola F31株。
【請求項9】
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受領番号NITE AP−675として寄託された、フコイダンの脱硫酸化活性と低分子化活性を有するフコイダン資化性細菌Luteolibacter algae H18株。
【請求項10】
独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに受領番号NITE AP−676として寄託された、フコイダンの脱硫酸化活性と低分子化活性を有するフコイダン資化性細菌Luteolibacter algae SWi−1−Y株。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−119352(P2010−119352A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296993(P2008−296993)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、文部科学省都市エリア産学官連携促進事業に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【出願人】(390016953)株式会社海産物のきむらや (9)
【Fターム(参考)】