説明

新規なフルオロアダマンタン誘導体およびその製造方法

【課題】新規なフルオロアダマンタン誘導体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】下記化合物(6)と、(RFAC(O))O、つぎにRFBCHOHを反応させる。下記化合物(31)とプロトン性求核種を反応させて下記化合物(2)を得て、つぎに該化合物(2)とR−CHOを塩基性化合物の存在下に反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフルオロアダマンタン誘導体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アダマンタンの水素原子のうち3級炭素原子に結合した水素原子がヒドロキシ基、フルオロカルボニル基またはフルオロアルキルカルボニルオキシ基に置換され、かつ残余の水素原子がフッ素原子に置換されたフルオロアダマンタン化合物が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、非特許文献1および非特許文献2には、下式(Ad−H)で表される化合物とCHLiを反応させた反応中間体から、下式(Ad−I)で表される化合物、下式(Ad−Br)で表される化合物または下式(Ad−Si)で表される化合物を得たと記載されている。
【0004】
【化1】

【0005】
【特許文献1】国際公開第2004/052832号パンフレット
【非特許文献1】J.Org.Chem.1992,57,4749
【非特許文献2】J.Org.Chem.1993,58,1999
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、アダマンタンの3級炭素原子にフルオロカルボニル基が結合したフルオロアダマンタン化合物の反応性は充分に検討されていない。また、式(Ad−H)で表される化合物中の水素原子の反応性も該水素原子とCHLiが反応すること以外は検討されていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、アダマンタンの3級炭素原子に結合した水素原子を有するフルオロアダマンタンの反応性を検討した。その結果、前記フルオロアダマンタン中の水素原子は1−ヒドロキシ炭化水素基に置換できることを見いだした。さらに新規なフルオロアダマンタン誘導体を見いだした。
【0008】
すなわち、本発明は下記の発明を提供する。
[1] 下式(6)で表される化合物と、式(RFAC(O))Oで表される化合物を反応させ、つぎに式RFBCHOHで表される化合物を反応させる下式(5)で表される化合物の製造方法。
【0009】
【化2】

【0010】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す(以下同様。)。
G:ハロゲン原子またはヒドロキシ基。
J:水素原子または式−C(O)Gで表される基であって、2個のJは同一であっても異なっていてもよい。
FA、RFB:それぞれ独立に、炭素数1〜20のエーテル性酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルキル基。
T:Jにそれぞれ対応する基であって、水素原子であるJに対応するTは水素原子、式−C(O)Gで表される基であるJに対応するTは式−C(O)OCHFBで表される基または式−OC(O)RFAで表される基。
【0011】
[2] 下式(31)で表される化合物。
【0012】
【化3】

【0013】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す(以下同様。)。
Q:−CHF−または−CF−であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。
:水素原子、フッ素原子、ヒドロキシ基またはフルオロカルボニル基であって、2個のZは同一であっても異なっていてもよい。
【0014】
[3] 下式(311)で表される化合物。
【0015】
【化4】

【0016】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
11:フッ素原子、ヒドロキシ基またはフルオロカルボニル基であって、2個のZ11は同一であっても異なっていてもよい。
【0017】
[4] 下式(31)で表される化合物とプロトン性求核種を反応させて下式(2)で表される化合物を得て、つぎに該化合物と式R−CHOで表される化合物を塩基性化合物の存在下に反応させる下式(1)で表される化合物の製造方法。
【0018】
【化5】

【0019】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す(以下同様。)。
Y:Zにそれぞれ対応する基であって、水素原子であるZに対応するYは水素原子、フッ素原子であるZに対応するYはフッ素原子、ヒドロキシ基であるZに対応するYはヒドロキシ基、フルオロカルボニル基であるZに対応するYは水素原子。
R:水素原子または炭素数1〜10の1価炭化水素基。
X:Yにそれぞれ対応する基であって、水素原子であるYに対応するXは水素原子または式−CHROHで表される基、フッ素原子であるYに対応するXはフッ素原子、ヒドロキシ基であるYに対応するXはヒドロキシ基。
【0020】
[5] 下式(11)で表される化合物。
【0021】
【化6】

【0022】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
:水素原子、フッ素原子、ヒドロキシ基または式−CHROHで表される基であって、2個のXは同一であっても異なっていてもよい。
【0023】
[6] 下式(111)で表される化合物。
【0024】
【化7】

【0025】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
11:フッ素原子、ヒドロキシ基またはヒドロキシメチル基であって、2個のX11は同一であっても異なっていてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、新規なフルオロアダマンタン誘導体およびその製造方法が提供される。本発明のフルオロアダマンタン誘導体は、耐熱性、離型性、耐薬品性、透明性、耐光性、撥水性、撥油性、低屈折率性等に優れた材料である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本明細書において式(1)で表される化合物を化合物(1)と記す。他の式で表される化合物も同様に示す。また、基中の記号は特に記載しない限り前記と同義である。
【0028】
本発明は、下記化合物(6)と、式(RFAC(O))Oで表される化合物を反応させ、つぎに式RFBCHOHで表される化合物を反応させる下記化合物(5)の製造方法を提供する。
【0029】
【化8】

【0030】
化合物(6)におけるGは、ヒドロキシ基が好ましい。
【0031】
化合物(6)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0032】
【化9】

【0033】
FAおよびRFBは、それぞれ独立に、CF−、CFCF−、(CFCF−、F(CFOCF(CF)−またはF(CFOCF(CF)CFOCF(CF)−が好ましい。
【0034】
式(RFAC(O))Oで表される化合物の具体例としては、(CFC(O))Oが挙げられる。
【0035】
式RFBCHOHで表される化合物の具体例としては、CFCHOH、CFCFCHOH、(CFCFCHOH、F(CFOCF(CF)CHOH、F(CFOCF(CF)CFOCF(CF)CHOHが挙げられる。
【0036】
本発明の製造方法においては、式(RFAC(O))Oで表される化合物は、m個の式−C(O)Gで表される基を有する化合物(6)(ただし、mは1〜4の整数を示す。以下同様。)に対して、式(RFAC(O))Oで表される化合物を(2〜3)m倍モル用いるのが好ましい。
【0037】
また、式(RFAC(O))Oで表される化合物を反応させる際の温度は、−80℃〜0℃が好ましい。
前記反応は、加圧、減圧、大気圧のいずれで行ってもよい。
前記反応は、溶媒の存在下に行ってもよく、溶媒の不存在下に行ってもよく、容積効率の観点から、溶媒の不存在下に行うのが好ましい。
【0038】
本発明の製造方法においては、式RFBCHOHで表される化合物は、m個の式−C(O)Gで表される基を有する化合物(6)に対して、式RFBCHOHで表される化合物を(2〜3)m倍モル用いるのが好ましい。
また、式RFBCHOHで表される化合物を反応させる際の温度は、−80℃〜+40℃が好ましい。
前記反応は、加圧、減圧、大気圧のいずれで行ってもよい。
前記反応は、溶媒の存在下に行ってもよく、溶媒の不存在下に行ってもよく、容積効率の観点から、溶媒の不存在下に行うのが好ましい。
【0039】
本発明の製造方法において、化合物(5)が得られる理由は、必ずしも明確ではないが、化合物(6)と式(RFAC(O))Oで表される化合物の反応により生成した下記化合物(i1)が転移反応して下記化合物(i2)が生成し、つぎに化合物(i2)と式RFBCHOHで表される化合物が反応して化合物(5)が生成すると考えられる。
【0040】
【化10】

【0041】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
i1:Jにそれぞれ対応する基であって、水素原子であるJに対応するJi1は水素原子、式−C(O)Gで表される基であるJに対応するJi1は式−C(O)OC(O)RFAで表される基。
i2:Ji1にそれぞれ対応する基であって、水素原子であるJi1に対応するJi2は水素原子、式−C(O)OC(O)RFAで表される基であるJi1に対応するJi2は式−C(O)OC(O)RFAで表される基または式−OC(O)RFAで表される基。
【0042】
また、本発明の製造方法における反応生成物は、通常は、化合物(5)と下記化合物(5a)の混合物である。
【0043】
【化11】

【0044】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
:水素原子または式−C(O)OCHFBで表される基であって、2個のTは同一であっても異なっていてもよい。
【0045】
本発明の製造方法においては、前記混合物を精製処理(蒸留法、クロマトグラフィー法による精製処理等。)して化合物(5)を単離してもよいし、前記混合物を精製処理することなく、そのまま目的とする用途に供してもよい。
【0046】
化合物(5)は、下記化合物(51)が好ましい。
【0047】
【化12】

【0048】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
:水素原子、式−C(O)OCHFBで表される基または式−OC(O)RFAで表される基であって、2個のTは同一であっても異なっていてもよい。
【0049】
化合物(5)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0050】
【化13】

【0051】
化合物(51)をフッ素化反応して下記化合物(4)を得て、つぎに該化合物(4)を熱分解反応することにより下記化合物(3)を製造できる。
【0052】
【化14】

【0053】
ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
:Tにそれぞれ対応する基であって、水素原子であるTに対応するTは水素原子またはフッ素原子、式−OC(O)RFAで表される基であるTに対応するTは式−OC(O)RFA基、式−C(O)OCHFBで表される基であるTに対応するTは式−C(O)OCFFBで表される基。
【0054】
Z:Tにそれぞれ対応する基であって、水素原子に対応するTに対応するZは水素原子またはフッ素原子、フッ素原子であるTに対応するZはフッ素原子、式−OC(O)RFAで表される基であるTに対応するZはヒドロキシ基、式−C(O)OCFFBで表される基であるTに対応するZはフルオロカルボニル基。
【0055】
フッ素化反応および熱分解反応は、国際公開第2004/052832号パンフレットに記載の方法にしたがって実施するのが好ましい。
【0056】
本発明における化合物において6個のQは、−CF−が好ましい。
【0057】
化合物(3)は、下記化合物(31)が好ましく、下記化合物(311)が特に好ましい。
【0058】
【化15】

【0059】
化合物(31)におけるZは、フッ素原子、ヒドロキシ基またはフルオロカルボニル基が好ましい。
化合物(311)における2個のZ11は、フッ素原子が好ましい。
【0060】
化合物(31)の具体例としては、下記の化合物が挙げられる。
【0061】
【化16】

【0062】
化合物(3)は、フルオロアダマンタンの3級炭素原子に結合した、フルオロカルボニル基とヒドロキシ基とを有する新規なフルオロアダマンタン誘導体である。本発明は、化合物(31)とプロトン性求核種を反応させて下記化合物(2)を得て、つぎに化合物(2)と式R−CHOで表される化合物を、塩基性化合物の存在下に反応させる下記化合物(1)の製造方法を提供する。
【0063】
【化17】

【0064】
本発明における化合物においてRは、水素原子が好ましい。
【0065】
化合物(1)において、水素原子であるYに対応するXは式−CHROHで表される基が好ましい。
【0066】
本発明におけるプロトン性求核種とは、プロトンを有し、求核反応を行う化合物をいう。プロトン性求核種は、アンモニア、硫化水素または水が好ましく、水が特に好ましい。
【0067】
本発明における式R−CHOで表される化合物は、H−CHOが好ましい。
【0068】
本発明における塩基性化合物は、アルカリ金属水酸化物(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等。)、有機金属塩基性化合物(ブチルリチウム、メチルリチウム、フェニルリチウム、メチルマグネシウムヨージド、エチルマグネシウムブロミド、フェニルマグネシウムブロミド等。)が好ましく、アルカリ金属水酸化物が特に好ましい。
【0069】
化合物(31)とプロトン性求核種の反応は、有機溶媒の存在下に行ってもよい。有機溶媒としては、ジエチルエーテル、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、キシレン、トリクロロトリフルオロエタン、ジクロロペンタフルオロプロパン、フロリナートFC−77(スリーエム社、商品名)、フルオロエーテルE2(ランカスター社、商品名)、ペルフルオロオクタン、ペルフルオロデカリン等が挙げられる。
前記反応における温度は、0〜90℃が好ましく、0〜50℃が特に好ましい。前記反応における圧力は、特に限定されない。
【0070】
また、前記反応におけるプロトン性求核種が水である場合、m個のフルオロカルボニル基を有する化合物(31)に対する水の量は、(1〜100)m倍モルが好ましく、(1〜10)m倍モルが特に好ましい。
【0071】
化合物(2)と式R−CHOで表される化合物の反応における反応温度は、塩基性化合物がアルカリ金属水酸化物である場合には、50〜120℃が好ましく、60〜100℃が特に好ましい。また、塩基性化合物が有機金属化合物である場合には、−80〜0℃が好ましく、−80〜−40℃が特に好ましい。前記反応圧力は特に限定されない。
前記反応は極性溶媒の存在下に行うのが好ましい。極性溶媒は、有機極性溶媒または水が好ましい。塩基性化合物がアルカリ金属水酸化物である場合には、メタノール、エタノール、2−プロパノール、ジメチルスルホキシド、またはN,N−ジメチルホルムアミドが好ましい。また、これらの有機溶媒と水の混合溶媒を用いてもよい。塩基性化合物が有機金属化合物である場合には、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、またはジオキサンが好ましい。
【0072】
化合物(2)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0073】
【化18】

【0074】
化合物(1)は、フルオロアダマンタンの3級炭素原子に結合した、1−ヒドロキシ炭化水素基とヒドロキシ基とを有する新規なフルオロアダマンタン誘導体である。化合物(1)は、下記化合物(11)が好ましく、下記化合物(111)が特に好ましい。
【0075】
【化19】

【0076】
化合物(11)におけるXは、フッ素原子、ヒドロキシ基または式−CHROHで表される基が好ましい。
化合物(111)における2個のX11は、フッ素原子が好ましい。
【0077】
化合物(11)の具体例としては、下記化合物が挙げられる。
【0078】
【化20】

【0079】
化合物(11)と、ヒドロキシ基と反応しうる官能基(カルボキシル基、イソシアナート基等。)および重合性基(ビニルオキシ基、(メタ)アクリロイルオキシ基等。)を有する化合物とを反応させることにより、重合性のフルオロアダマンタンを製造できる。該フルオロアダマンタンは、耐熱性、離型性、耐薬品性、透明性、耐久耐光性、低屈折率性等の物性に優れた重合体を製造するための単量体として有用な化合物である。
【実施例】
【0080】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、これらによって本発明は限定されない。
【0081】
以下において、ガスクロマトグラフィー分析をGCと、ガスクロマトグラフィ質量分析をGC−MSと、赤外吸収スペクトル分析をIRと、テトラメチルシランをTMSと、CClF2CF2CHClFをR225、CCl2FCClF2をR113と、記す。また、それぞれのNMRデータはみかけの化学シフト範囲として示し積分値は比率で表記する。
【0082】
[例1]化合物(5−1)の製造例
フラスコに、下記化合物(6−1)(450g)を入れ、フラスコ内を冷却しながら(CFC(O))O(927g)を10分間かけて滴下した。滴下終了後、25℃にてフラスコ内を4時間撹拌した後に、フラスコを氷水で冷却しながらフラスコにCFCHOH(442g)を2時間かけて滴下した。滴下終了後、25℃にてフラスコ内を3日間撹拌した。
【0083】
フラスコ内容液を減圧濃縮して、粗生成物(777g、薄茶色液体)を得た。粗生成物をGC、NMRおよびIRにより分析した結果、下記化合物(5−1)(反応収率14.25%)、下記化合物(5a−1)(反応収率83.7%)および下記化合物(5b−1)(反応収率1.6%)の生成を確認した。
【0084】
【化21】

【0085】
フラスコに粗生成物(709g)を入れ、(CFC(O))O(70g)を徐々に滴下した後に、25℃にて1時間撹拌した。フラスコ内容液を減圧濃縮して反応生成物を得た。反応生成物をGC分析した結果、化合物(5b−1)の含有量は0.5%以下であった。
【0086】
化合物(5−1)のNMRデータを以下に示す。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.8〜2.4(m,14H),4.46(q,2H)
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−74.1(t,6F)。
【0087】
化合物(5a−1)のNMRデータを以下に示す。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.73(s,2H),1.9(dd,8H),2.1(s,2H)2.2(s,2H),4.47(q,4H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−74.4(t,6F)。
【0088】
化合物(5b−1)のNMRデータを以下に示す。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.6〜1.8(m,12H),2.3(s,2H),4.46(q,2H)
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−74.2(t,3F)。
化合物(5b−1)の13C−NMRデータを以下に示す。
13C−NMR(75.1MHz、溶媒:CDCl、基準:CDCl)δ(ppm):30.1(s),34.8(s),37.4(s),44.1(s),44.2(s),45.9(s),60.2(d),68.2(s),123(q),174.6(s)。
化合物(5b−1)のIRデータを以下に示す。
IR(cm−1):3370(br),2910,1740,1290,1160。
【0089】
[例2]化合物(4−1)の製造例
オートクレーブ(ニッケル製、内容積500mL)を用意し、オートクレーブのガス出口には、NaFペレット充填層を設置した。オートクレーブにR113(312g)を加え、25℃に保持しながら撹拌した。そのまま、オートクレーブに、窒素ガスを1時間吹き込んでから、窒素ガスで20%体積に希釈したフッ素ガス(以下、20%フッ素ガスと記す。)を吹き込んだ。例1で得た反応生成物(2g)をR113(40g)に溶解した溶液をオートクレーブに導入して、そのまま20%フッ素ガスを吹き込んだ。
【0090】
つぎに、オートクレーブ内に窒素ガスを吹き込んでから内容物を回収して、NMRで分析した結果、下記化合物(4−1)と下記化合物(4a−1)の生成を確認した。
【0091】
【化22】

【0092】
化合物(4−1)のNMRデータを以下に示す。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−76.0(3F)、−86.0(3F)、−91.0(2F)、−102.0〜104.0(2F)、−111.0〜114.0(8F)、−121.0(2F)、−217.5(2F)。
【0093】
化合物(4a−1)のNMRデータを以下に示す。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−86.0(6F)、−91.0(4F)、−98.0(2F)、−110.0(8F)、−121.0(2F)、−217.5(2F)。
【0094】
[例3]化合物(3−1)の製造例
窒素ガス雰囲気下のフラスコに、例2と同様にして得た、化合物(4−1)と化合物(4a−1)の混合物(256.9g)とKF(1.46g)とを入れて、フラスコ内温80〜90℃にてフラスコ内を20時間加熱した。
【0095】
フラスコを放冷した後に、フラスコ内容物を回収して固形物(157.6g)を得た。固形物をGCと19F−NMRで分析した結果、下記化合物(3a−1)と化合物(3−1)の生成を確認した。
【0096】
【化23】

【0097】
化合物(3−1)のNMRデータを以下に示す。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):55.2(s,1F),−102.4(m,6F),−113.6(m,6F),−217.5(s,2F)。
【0098】
化合物(3a−1)のNMRデータを以下に示す。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):55.6(s,2F),−97.9(s,2F),−109.9(s,8F),−120.6(s,2F),−217.7(s,2F)。
【0099】
[例4]化合物(2−1)の製造例
例3で得られた固形物(42g)をアセトン(207g)に溶かし、NaF(20g)と氷(8g)を加えた後に25℃にて12時間撹拌した。得られた生成物を濾過して得られた濾液を濃縮して茶色固液の混合物(34.5g)を得た。該混合物のNMRとGC−MS分析により、下記化合物(2−1)と下記化合物(2a−1)の生成を確認した。該混合物(34.5g)をカラムクロマトグラフィー精製して、高純度の化合物(2−1)(6.76g、無色液体)を得た。
【0100】
【化24】

【0101】
化合物(2−1)のNMRデータを以下に示す。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):3.79(m,1H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−107.6(m,6F),−118.9〜−121.2(m,6F),−218.2(s,2F)。
化合物(2−1)のMS分子イオンピーク:404。
【0102】
化合物(2a−1)のNMRデータを以下に示す。
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):3.78(s,2H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−107.6(m,6F),−118.9〜−121.2(m,6F),−218.2(s,2F)。
化合物(2a−1)のMS分子イオンピーク:388。
【0103】
[例5]化合物(1−1)の製造例
フラスコに、例4で得た化合物(2−1)(96mg)、ジメチルスルホキシド(5g)、および10質量%のKOH水溶液を入れ、さらにホルマリン水溶液(1.2g)を入れた後に、フラスコ内温70℃にてフラスコ内を10時間加熱した。つぎに、水(50mL)をフラスコに入れ、さらに1mol/LのHCl水溶液を入れてフラスコ内溶液のpHを4に調製した後に、フラスコ内溶液をR225(30mL×2)で抽出した。得られた抽出液を水で洗浄し無水硫酸マグネシウムで乾燥した後に濃縮して、下記化合物(1−1)(50mg)を得た。
【0104】
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):4.57(s,2H)。
19F−NMR(282.7MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−113.5〜−114.1(m,6F),−121(m,6F),−219.2(s,2F)。
【0105】
【化25】

【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の製造方法によれば、耐熱性、離型性、耐薬品性、透明性、耐久耐光性、低屈折率性等に優れる新規なフルオロアダマンタン誘導体およびその製造方法が提供される。本発明のフルオロアダマンタン誘導体は、光ファイバー材料、ペリクル材料、レンズ材料、ディスプレイの表面保護膜等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(6)で表される化合物と、式(RFAC(O))Oで表される化合物を反応させ、つぎに式RFBCHOHで表される化合物を反応させる下式(5)で表される化合物の製造方法。
【化1】

ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
G:ハロゲン原子またはヒドロキシ基。
J:水素原子または式−C(O)Gで表される基であって、2個のJは同一であっても異なっていてもよい。
FA、RFB:それぞれ独立に、炭素数1〜20のエーテル性酸素原子を含んでいてもよいペルフルオロアルキル基。
T:Jにそれぞれ対応する基であって、水素原子であるJに対応するTは水素原子、式−C(O)Gで表される基であるJに対応するTは式−C(O)OCHFBで表される基または式−OC(O)RFAで表される基。
【請求項2】
下式(31)で表される化合物。
【化2】

ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
Q:−CHF−または−CF−であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。
:水素原子、フッ素原子、ヒドロキシ基またはフルオロカルボニル基であって、2個のZは同一であっても異なっていてもよい。
【請求項3】
下式(311)で表される化合物。
【化3】

ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
11:フッ素原子、ヒドロキシ基またはフルオロカルボニル基であって、2個のZ11は同一であっても異なっていてもよい。
【請求項4】
下式(31)で表される化合物とプロトン性求核種を反応させて下式(2)で表される化合物を得て、つぎに該化合物と式R−CHOで表される化合物を塩基性化合物の存在下に反応させる下式(1)で表される化合物の製造方法。
【化4】

ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
Q:−CHF−または−CF−であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。
:水素原子、フッ素原子、ヒドロキシ基またはフルオロカルボニル基であって、2個のZは同一であっても異なっていてもよい。
Y:Zにそれぞれ対応する基であって、水素原子であるZに対応するYは水素原子、フッ素原子であるZに対応するYはフッ素原子、ヒドロキシ基であるZに対応するYはヒドロキシ基、フルオロカルボニル基であるZに対応するYは水素原子。
R:水素原子または炭素数1〜10の1価炭化水素基。
X:Yにそれぞれ対応する基であって、水素原子であるYに対応するXは水素原子または式−CHROHで表される基、フッ素原子であるYに対応するXはフッ素原子、ヒドロキシ基であるYに対応するXはヒドロキシ基。
【請求項5】
下式(11)で表される化合物。
【化5】

ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
Q:−CHF−または−CF−であって、6個のQは同一であっても異なっていてもよい。
R:水素原子または炭素数1〜10の1価炭化水素基。
:水素原子、フッ素原子、ヒドロキシ基または式−CHROHで表される基であって、2個のXは同一であっても異なっていてもよい。
【請求項6】
下式(111)で表される化合物。
【化6】

ただし、式中の記号は下記の意味を示す。
11:フッ素原子、ヒドロキシ基またはヒドロキシメチル基であって、2個のX11は同一であっても異なっていてもよい。

【公開番号】特開2007−332068(P2007−332068A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164865(P2006−164865)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】