説明

新規なプリムラ属植物及びその作出方法

【課題】 小輪の花と多数の花茎を有することにより、従来のプリムラ属植物より観賞価値を向上させた新規なプリムラ属植物とその育種法の開発。
【解決手段】 プリムラ・ポリアンサ(Primula×polyantha)に、野生種であるプリムラ・ベリス(Primula veris)を交雑し、交雑後代から小輪の花と多数の花茎を有する植物を選抜する。また、前記の選抜した植物又はその後代とプリムラ属に属する他の植物とを交雑し、交雑後代から小輪の花と多数の花茎を有する植物を選抜することでも得ることができる。小輪の花と多数の花茎を有する当該植物は、従来のプリムラ・ポリアンサより観賞価値に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリムラ・ポリアンサ(Primula×polyantha)と野生種であるプリムラ・ベリス(Primula veris)の交雑後代から得られた新規なプリムラ(Primula)属植物と、その前記の植物を使用し作出された新規なプリムラ属植物、さらにその作出方法に関する。また、本発明は当該植物の花粉、種子、穂木等の各種の細胞、組織、若しくは器官に関する。
【背景技術】
【0002】
プリムラ・ポリアンサは、鉢ものや花壇苗として利用されている園芸種であり、秋から春に観賞することができる。太い花茎の先に多数の花を散形花序に着生するものは一般的にポリアンサタイプと呼ばれている。また、花茎が伸びずに株の中心部から花を束生するものはアコーリスタイプと呼ばれている。一般的に園芸において多く利用されているのはアコーリスタイプである。
【0003】
プリムラ・ポリアンサは鉢花としては優れた種であるが、花壇苗としては観賞期間が短い。雨に当たると花が傷みやすいためである。雨に当たり花が傷んでいるプリムラ・ポリアンサの様子を図1に示す。そのような欠点があるにも関わらず花壇苗として利用されているのは、プリムラ・ポリアンサのもつ鮮明な花色に人気があるためである。
【発明の開示】
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、小輪の花と多数の花茎を有することにより、従来のプリムラ属植物より観賞価値を向上させた新規なプリムラ属植物を育種することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者は、前記の課題を解決するため鋭意検討を行った結果、プリムラ・ポリアンサに、野生種であるプリムラ・ベリスを交雑し、交雑後代から小輪の花と多数の花茎を有する新規な植物を見つけ、選抜と集団交配を繰り返すことにより、前記の目的の形質を固定した系統を得ることに成功し、これに基づき本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の新規なプリムラ属植物は、小輪の花と多数の花茎を持つポリアンサタイプの植物である。当該植物の小輪の花は、従来のプリムラ・ポリアンサの花より花の傷みが目立ちにくいという特徴を持つ。また、当該植物の多数の花茎を持つという特徴は、一植物当たりの花数を豊富にすることで観賞価値を高めている。また、当該植物はポリアンサタイプであるため、アコーリスタイプのように雨等により葉の上に乗った水滴に触れることによって花が傷むことはないため、花が傷みにくくなっている。
【0008】
すなわち本発明は以下の発明を包含する。
【0009】
(1) プリムラ・ポリアンサ(Primula×polyantha)と野生種であるプリムラ・ベリス(Primula veris)の交雑後代から得られた新規なプリムラ(Primula)属植物。
(2) 小輪の花と多数の花茎を有する(1)記載の植物。
(3) 10.5cmポットで栽培した場合、花径が4.0cm以下の花と一個体当り8本以上の花茎を有する(1)記載の植物。
【0010】
(4) 下記の工程を含むことを特徴とする新規なプリムラ属植物の作出方法。
(ア)(1)乃至(3)記載の植物とプリムラ属に属する他の植物とを交配する。
(イ)雑種第一代(F1)を集団交配、又は自家受粉させる。
(ウ)雑種第二代(F2)の中から小輪の花と多数の花茎を有する個体を選抜する。
(5) 下記の工程を含むことを特徴とする新規なプリムラ属植物の作出方法。
(ア)(1)乃至(3)記載の植物とプリムラ属に属する他の植物とを交配する。
(イ)雑種第一代(F1)を集団交配、又は自家受粉させる。
(ウ)雑種第二代(F2)の中から、10.5cmポットで栽培した場合、花径が4.0cm以下の花と一個体当り8本以上の花茎を有する個体を選抜する。
【0011】
(6) (4)又は(5)記載の方法を含む方法により作出される、小輪の花と多数の花茎を有することを特徴とする新規なプリムラ属植物。
(7) (4)又は(5)記載の方法を含む方法により作出される、10.5cmポットで栽培した場合、花径が4.0cm以下の花と一個体当り8本以上の花茎を有することを特徴とする新規なプリムラ属植物。
(8) (1)乃至(3)記載の植物の細胞、組織、または器官。
(9) (6)又は(7)記載の植物の細胞、組織、または器官。
【発明の効果】
【0012】
本発明で得られた新規なプリムラ属植物は、小輪の花と多数の花茎を持つポリアンサタイプであるという特徴を持つため、花壇苗としての観賞期間が従来のプリムラ・ポリアンサに比べて長期となっている。そのため、花壇苗として利用されることが増え、その結果としてプリムラの市場拡大が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明にかかる「新規なプリムラ属植物」は、プリムラ・ポリアンサに野生種であるプリムラ・ベリスを交雑し、交雑後代から得られた小輪の花と多数の花茎を有するプリムラ属植物と、その前記の植物を使用し作出された小輪の花と多数の花茎を有するプリムラ属植物である。
【0014】
好ましくは、本発明にかかる「新規なプリムラ属植物」は、10.5cmポットで栽培した場合、花茎が一個体当り8本以上であり、花径が4.0cm以下である特性を有する。本発明の「新規なプリムラ属植物」の代表例として、SK5−474系統、SK5−490系統、SK5−498系統、SK3−399系統、SK3−413R系統を例示できる。SK5−474系統、SK5−490系統、SK5−498系統、SK3−399系統、SK3−413R系統の種子は、本出願人が所持しており、特許法施行規則第27条の3に規定する分譲は出願人が保証する。
【0015】
本発明の範囲には、本発明の「新規なプリムラ属植物」の一部、すなわち、その細胞、組織、器官も含まれる。前記細胞、組織、器官は、植物のあらゆる分化過程における全ての細胞、組織、器官を含む。すなわち、前記細胞は単一であっても集合体(細胞塊)であってもよく、プロトプラスト、スフィロプラストも含まれる。前記組織も単一であっても集合体であってもよく、表皮組織、柔組織、師管・師部繊維等の師部組織、導管・仮導管・木部繊維等の木部組織など、あらゆる組織が含まれる。また前記器官には、茎、葉、根、穂木、蕾、花、花弁、雌ずい、雄ずい、葯、花粉、子房、果実、さや、種子、胚珠、胚などあらゆる器官が含まれる。
【0016】
本発明の「新規なプリムラ属植物」は、プリムラ・ポリアンサと野生種であるプリムラ・ベリスとを交配し、雑種第一代(F1)を集団交配、又は自家受粉させ、雑種第二代(F2)の中から小輪の花と多数の花茎を有する個体を選抜することにより作出できる。また、前記の方法で得られた新規なプリムラ属植物又はその後代とプリムラ属に属する他の植物とを交配し、雑種第一代(F1)を集団交配、又は自家受粉させ、雑種第二代(F2)の中から小輪の花と多数の花茎を有する個体を選抜することによっても作出できる。本発明において、プリムラ属に属する他の植物とはプリムラ・ポリアンサに属する植物を意味するが、これに限定されるわけではない。
【実施例】
【0017】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
プリムラ・ポリアンサ(市販品を利用、品種名:ロメオ)に、野生種であるプリムラ・ベリス(R.H.Sより分譲を受けた)を交雑した。雑種第一代(F1)を集団交配させ、雑種第二代(F2)の中から小輪の花と多数の花茎を有する個体を見つけ、その個体を選抜した。その後、選抜と集団交配を繰り返すことにより、前記の目的の形質を固定した系統を得ることに成功した。前記の目的の形質を持つ系統の数を増やすために、前記の系統と様々なプリムラ・ポリアンサの品種を交雑した。雑種第一代(F1)を集団交配させ、雑種第二代(F2)の中から小輪の花と多数の花茎を有する個体を選抜し、選抜と集団交配を繰り返すことにより、前記の目的の形質を固定した系統を増やすことに成功した。これらの系統を両親として使用し、F1系統であるSK5−474系統、SK5−490系統、SK5−498系統、SK3−399系統、SK3−413R系統を育種した。
【実施例2】
【0019】
前記の実施例1で得られたSK5−474系統、SK5−490系統、SK5−498系統、SK3−399系統、SK3−413R系統と、プリムラ・ポリアンサのポリアンサタイプの品種であるスーパーノバレッド、スーパーノバピンク、スーパーノバイエロー、スーパーノバホワイト、パシフィックジャイアンツスカーレットレッドシェード、パシフィックジャイアンツピンクシェード、パシフィックジャイアンツイエローシェード、パシフィックジャイアンツホワイトシェードを(株)サカタのタネ掛川総合研究センターにて10.5cmポットを使用して栽培し、特性の比較試験を実施した。その結果、SK5−474系統、SK5−490系統、SK5−498系統、SK3−399系統、SK3−413R系統は全て、全ての比較品種より花茎が多く、花が小輪であり、葉が小さい特性を示した。各系統の任意の5個体ずつ(比較品種は任意の4個体ずつ)に係る特性データの平均値を表1、表2に示す。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【実施例3】
【0022】
SK3−399系統、SK3−413R系統とスーパーノバミックス、パシフィックジャイアンツミックスを(株)サカタのタネ掛川総合研究センターにて栽培し、任意の個体をプランターに定植した。そのSK3−399系統の様子を図2、SK3−413R系統の様子を図3、スーパーノバミックスの様子を図4、パシフィックジャイアンツミックスの様子を図5にそれぞれ示す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、雨に当たり花が傷んでいるプリムラ・ポリアンサ(品種は、上:ロマン 中:ダノーバ 下:プリメーラ)の様子を示す写真である。
【図2】図2は、SK3−399系統の様子を示す写真である。
【図3】図3は、SK3−413R系統の様子を示す写真である。
【図4】図4は、スーパーノバミックスの様子を示す写真である。
【図5】図5は、パシフィックジャイアンツミックスの様子を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プリムラ・ポリアンサ(Primula×polyantha)と野生種であるプリムラ・ベリス(Primula veris)の交雑後代から得られた新規なプリムラ(Primula)属植物。
【請求項2】
小輪の花と多数の花茎を有する請求項1記載の植物。
【請求項3】
10.5cmポットで栽培した場合、花径が4.0cm以下の花と一個体当り8本以上の花茎を有する請求項1記載の植物。
【請求項4】
下記の工程を含むことを特徴とする新規なプリムラ属植物の作出方法。
(1)請求項1乃至請求項3記載の植物とプリムラ属に属する他の植物とを交配する。
(2)雑種第一代(F1)を集団交配、又は自家受粉させる。
(3)雑種第二代(F2)の中から小輪の花と多数の花茎を有する個体を選抜する。
【請求項5】
下記の工程を含むことを特徴とする新規なプリムラ属植物の作出方法。
(1)請求項1乃至請求項3記載の植物とプリムラ属に属する他の植物とを交配する。
(2)雑種第一代(F1)を集団交配、又は自家受粉させる。
(3)雑種第二代(F2)の中から、10.5cmポットで栽培した場合、花径が4.0cm以下の花と一個体当り8本以上の花茎を有する個体を選抜する。
【請求項6】
請求項4又は請求項5記載の方法を含む方法により作出される、小輪の花と多数の花茎を有することを特徴とする新規なプリムラ属植物。
【請求項7】
請求項4又は請求項5記載の方法を含む方法により作出される、10.5cmポットで栽培した場合、花径が4.0cm以下の花と一個体当り8本以上の花茎を有することを特徴とする新規なプリムラ属植物。
【請求項8】
請求項1乃至請求項3記載の植物の細胞、組織、または器官。
【請求項9】
請求項6又は請求項7記載の植物の細胞、組織、または器官。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−283950(P2008−283950A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−156860(P2007−156860)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(591042403)株式会社サカタのタネ (10)
【Fターム(参考)】