説明

新規なベンゾ[c]フルオレン誘導体及びその用途

【課題】 高い正孔輸送能力を有し、特に有機EL素子に対して高い特性を発現する新規化合物及び該化合物を用いた有機EL素子を提供する。
【解決手段】 一般式(1)で表されるベンゾ[c]フルオレン誘導体を用いる。


(式中、R及びRは水素原子、アルキル基、アリール基等を表す。なお、互いに結合して環を形成してもよい。Arはアリール基またはヘテロアリール基を表し、それらに結合している窒素原子と共に含窒素複素環を形成してもよい。Arはアリーレン基またはヘテロアリーレン基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なベンゾ[c]フルオレン誘導体、並びにその誘導体を利用した有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子に関するものである。本発明における新規なベンゾ[c]フルオレン誘導体は、感光材料、有機光導電材料として使用でき、具体的には、平面光源や表示に使用される有機EL素子若しくは電子写真感光体等の正孔輸送材料、正孔注入材料及び発光材料として非常に有用である。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、次世代の薄型平面ディスプレイとして現在盛んに研究されており、一部では携帯電話のサブディスプレイ等への実用化も始まっている。従来、有機EL素子は、液晶等の薄型平面ディスプレイと比較して、低消費電力であるとの特徴が期待されてきたが、現状、その特徴を十分引き出せているとは言い難く、さらなる低消費電力化に向けた改良検討が活発に行われている。
【0003】
一般に有機EL素子は、陽極と陰極との間に、正孔輸送材料、発光材料及び電子輸送材料を積層させた構造であるが、現在では上述した低消費電力化、さらには長寿命化を達成させるため、正孔注入材料、電子注入材料を、それぞれ陽極と正孔輸送材料、陰極と電子輸送材料の間に挿入した構造が主流となっている。
【0004】
正孔注入材料としては、例えば、4,4’,4”−トリス(N,N−フェニル−m−トリルアミノ)トリフェニルアミン[m−MTDATA]、4,4’,4”−トリス(N,N−(2−ナフチル)フェニルアミノ)トリフェニルアミン[2−TNATA]、4,4’,4”−トリス(N,N−(1−ナフチル)フェニルアミノ)トリフェニルアミン[1−TNATA]、4,4’,4”−トリス(N,N−(2−ナフチル)−m−トリルアミノ)トリフェニルアミン[2−MTNATA]等のスターバースト系アミン材料(例えば、特許文献1〜3参照)、銅フタロシアニン[CuPc]等(例えば、特許文献4参照)が広く用いられている。
【0005】
しかし、これらの材料は、低消費電力や耐久性の観点から、実用上十分満足できるものではない。例えば、m−MTDATA、1−TNATA等のスターバースト系アミン材料は、低消費電力の観点から十分ではなく、またガラス転移温度が110℃以下と低いため、素子寿命の観点からも耐久性に劣る。一方、CuPcは安価で且つ安定な材料として有用であるが、低消費電力の特性には課題がある。
【0006】
一方、ベンゾフルオレン骨格を有する有機EL素子が提案されている(例えば、特許文献5参照)。しかし、本先行文献には、ベンゾフルオレニル基にアミノ基が直接結合した化合物は開示されておらず、さらに本先行文献には、ベンゾフルオレニル基を有するポリマー材料が発光材料として有用であるとの記載はあるが、正孔注入材料への適用に関しては何ら言及されていない。
【0007】
【特許文献1】特開平4−308688号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平8−291115号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2001−335542公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開平5−234681号公報(実施例)
【特許文献5】国際公開第2004/61048号パンフレット(クレーム)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記背景に鑑み、本発明は、有機EL素子の低駆動電圧化や高電力効率化に有用な新規誘導体、並びにそれを用いた有機EL素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、一般式(1)で表される新規なベンゾ[c]フルオレン誘導体が、前記目的を満足することを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は、一般式(1)で表されるベンゾ[c]フルオレン誘導体及びその用途に関するものである。
【0010】
【化1】

(式中、R及びRは各々同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリール基若しくはアリールオキシ基、またはハロゲン原子を表す。なお、R及びRは互いに結合して環を形成してもよい。Arは各々独立して、置換若しくは無置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、それらに結合している窒素原子と共に含窒素複素環を形成してもよい。Arは各々独立して、置換若しくは無置換のアリーレン基またはヘテロアリーレン基を表す。)
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明の一般式(1)で表されるベンゾ[c]フルオレン誘導体は新規化合物であり、一般式(1)において、R及びRは各々同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリール基若しくはアリールオキシ基、またはハロゲン原子を表す。
【0012】
及びRにおける炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基とは、具体的にはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ステアリル基、トリクロロメチル基、トリフロロメチル基、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、1,3−シクロヘキサジエニル基、2−シクロペンテン−1−イル基等を例示することができる。
【0013】
及びRにおける炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルコキシ基とは、具体的にはメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ステアリルオキシ基、トリフロロメトキシ基等を例示することができる。
【0014】
及びRにおける炭素数6〜24のアリール基とは、置換基を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基のことであり、具体的にはフェニル基、4−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、2−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、3−エチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−n−プロピルフェニル基、4−n−ブチルフェニル基、4−イソブチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、4−シクロペンチルフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、1−ビフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、9−フェナントリル基、9,9−ジアルキル−フルオレン−2−イル基、9,9−ジ−トリフルオロメチル−フルオレン−2−イル基等を例示することができる。
【0015】
また、R及びRにおける炭素数6〜24のアリールオキシ基とは、置換基を有していてもよい炭素数6〜24のアリールオキシ基のことであり、具体的にはフェノキシ基、p−tert−ブチルフェノキシ基、3−フルオロフェノキシ基、4−フルオロフェノキシ基等を例示することができる。
【0016】
及びRにおけるハロゲン原子としては、弗素、塩素、臭素、またはヨウ素原子が例示できる。
【0017】
なお、R及びRの具体例として上述した置換基は、互いに結合して環を形成してもよい。
【0018】
一般式(1)において、Arは各々独立して、置換若しくは無置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、それらに結合している窒素原子と共に含窒素複素環を形成してもよい基を表す。
【0019】
Arにおける置換若しくは無置換のアリール基とは、置換基を有していてもよい炭素数6〜24のアリール基のことであり、具体的にはフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−アントリル基、9−アントリル基、2−フルオレニル基、フェナントリル基、ピレニル基、クリセニル基、ペリレニル基、ピセニル基、4−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、2−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、3−エチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−n−プロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、4−n−ブチルフェニル基、4−イソブチルフェニル基、4−sec−ブチルフェニル基、2−sec−ブチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、3−tert−ブチルフェニル基、2−tert−ブチルフェニル基、4−n−ペンチルフェニル基、4−イソペンチルフェニル基、2−ネオペンチルフェニル基、4−tert−ペンチルフェニル基、4−n−ヘキシルフェニル基、4−(2’−エチルブチル)フェニル基、4−n−ヘプチルフェニル基、4−n−オクチルフェニル基、4−(2’−エチルヘキシル)フェニル基、4−tert−オクチルフェニル基、4−n−デシルフェニル基、4−n−ドデシルフェニル基、4−n−テトラデシルフェニル基、4−シクロペンチルフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、4−(4’−メチルシクロヘキシル)フェニル基、4−(4’−tert−ブチルシクロヘキシル)フェニル基、3−シクロヘキシルフェニル基、2−シクロヘキシルフェニル基、4−エチル−1−ナフチル基、6−n−ブチル−2−ナフチル基、2,4−ジメチルフェニル基、2,5−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、3,5−ジメチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2,4−ジエチルフェニル基、2,3,5−トリメチルフェニル基、2,3,6−トリメチルフェニル基、3,4,5−トリメチルフェニル基、2,6−ジエチルフェニル基、2,5−ジイソプロピルフェニル基、2,6−ジイソブチルフェニル基、2,4−ジ−tert−ブチルフェニル基、2,5−ジ−tert−ブチルフェニル基、4,6−ジ−tert−ブチル−2−メチルフェニル基、5−tert−ブチル−2−メチルフェニル基、4−tert−ブチル−2,6−ジメチルフェニル基、9−メチル−2−フルオレニル基、9−エチル−2−フルオレニル基、9−n−ヘキシル−2−フルオレニル基、9,9−ジメチル−2−フルオレニル基、9,9−ジエチル−2−フルオレニル基、9,9−ジ−n−プロピル−2−フルオレニル基、4−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−エトキシフェニル基、3−エトキシフェニル基、2−エトキシフェニル基、4−n−プロポキシフェニル基、3−n−プロポキシフェニル基、4−イソプロポキシフェニル基、2−イソプロポキシフェニル基、4−n−ブトキシフェニル基、4−イソブトキシフェニル基、2−sec−ブトキシフェニル基、4−n−ペンチルオキシフェニル基、4−イソペンチルオキシフェニル基、2−イソペンチルオキシフェニル基、4−ネオペンチルオキシフェニル基、2−ネオペンチルオキシフェニル基、4−n−ヘキシルオキシフェニル基、2−(2’−エチルブチル)オキシフェニル基、4−n−オクチルオキシフェニル基、4−n−デシルオキシフェニル基、4−n−ドデシルオキシフェニル基、4−n−テトラデシルオキシフェニル基、4−シクロヘキシルオキシフェニル基、2−シクロヘキシルオキシフェニル基、2−メトキシ−1−ナフチル基、4−メトキシ−1−ナフチル基、4−n−ブトキシ−1−ナフチル基、5−エトキシ−1−ナフチル基、6−メトキシ−2−ナフチル基、6−エトキシ−2−ナフチル基、6−n−ブトキシ−2−ナフチル基、6−n−ヘキシルオキシ−2−ナフチル基、7−メトキシ−2−ナフチル基、7−n−ブトキシ−2−ナフチル基、2−メチル−4−メトキシフェニル基、2−メチル−5−メトキシフェニル基、3−メチル−4−メトキシフェニル基、3−メチル−5−メトキシフェニル基、3−エチル−5−メトキシフェニル基、2−メトキシ−4−メチルフェニル基、3−メトキシ−4−メチルフェニル基、2,4−ジメトキシフェニル基、2,5−ジメトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基、3,4−ジメトキシフェニル基、3,5−ジメトキシフェニル基、3,5−ジエトキシフェニル基、3,5−ジ−n−ブトキシフェニル基、2−メトキシ−4−エトキシフェニル基、2−メトキシ−6−エトキシフェニル基、3,4,5−トリメトキシフェニル基、4−ビフェニリル基、3−ビフェニリル基、2−ビフェニリル基、4−(4’−メチルフェニル)フェニル基、4−(3’−メチルフェニル)フェニル基、4−(4’−メトキシフェニル)フェニル基、4−(4’−n−ブトキシフェニル)フェニル基、2−(2’−メトキシフェニル)フェニル基、4−(4’−クロロフェニル)フェニル基、3−メチル−4−フェニルフェニル基、3−メトキシ−4−フェニルフェニル基、ターフェニル基、3,5−ジフェニルフェニル基、10−フェニルアントリル基、10−(3,5−ジフェニルフェニル)−9−アントリル基、9−フェニル−2−フルオレニル基、4−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、2−フルオロフェニル基、4−クロロフェニル基、3−クロロフェニル基、2−クロロフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−ブロモフェニル基、4−クロロ−1−ナフチル基、4−クロロ−2−ナフチル基、6−ブロモ−2−ナフチル基、2,3−ジフルオロフェニル基、2,4−ジフルオロフェニル基、2,5−ジフルオロフェニル基、2,6−ジフルオロフェニル基、3,4−ジフルオロフェニル基、3,5−ジフルオロフェニル基、2,3−ジクロロフェニル基、2,4−ジクロロフェニル基、2,5−ジクロロフェニル基、3,4−ジクロロフェニル基、3,5−ジクロロフェニル基、2,5−ジブロモフェニル基、2,4,6−トリクロロフェニル基、2,4−ジクロロ−1−ナフチル基、1,6−ジクロロ−2−ナフチル基、2−フルオロ−4−メチルフェニル基、2−フルオロ−5−メチルフェニル基、3−フルオロ−2−メチルフェニル基、3−フルオロ−4−メチルフェニル基、2−メチル−4−フルオロフェニル基、2−メチル−5−フルオロフェニル基、3−メチル−4−フルオロフェニル基、2−クロロ−4−メチルフェニル基、2−クロロ−5−メチルフェニル基、2−クロロ−6−メチルフェニル基、2−メチル−3−クロロフェニル基、2−メチル−4−クロロフェニル基、3−クロロ−4−メチルフェニル基、3−メチル−4−クロロフェニル基、2−クロロ−4,6−ジメチルフェニル基、2−メトキシ−4−フルオロフェニル基、2−フルオロ−4−メトキシフェニル基、2−フルオロ−4−エトキシフェニル基、2−フルオロ−6−メトキシフェニル基、3−フルオロ−4−エトキシフェニル基、3−クロロ−4−メトキシフェニル基、2−メトキシ−5−クロロフェニル基、3−メトキシ−6−クロロフェニル基、5−クロロ−2,4−ジメトキシフェニル基等を例示することができる。
【0020】
Arにおける置換若しくは無置換のヘテロアリール基とは、置換基を有していてもよい炭素数6〜24の酸素原子、窒素原子及び硫黄原子のうちから少なくとも一つのヘテロ原子を含有するヘテロアリール基のことであり、具体的には4−キノリル基、4−ピリジル基、3−ピリジル基、2−ピリジル基、3−フリル基、2−フリル基、3−チエニル基、2−チエニル基、2−オキサゾリル基、2−チアゾリル基、2−ベンゾオキサゾリル基、2−ベンゾチアゾリル基、2−ベンゾイミダゾリル基などを例示することができる。
【0021】
また、一般式(1)で表されるベンゾ[c]フルオレン誘導体において、各々のArに結合している窒素原子と共に含窒素複素環を形成してもよく、置換若しくは無置換のN−カルバゾリイル基、N−フェノキサジニイル基、またはN−フェノチアジニイル基を形成してもよい。含窒素複素環は、置換基として例えば、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキル基若しくはアルコキシ基、または炭素数6〜10のアリール基が挙げられ、単置換または多置換されていてもよい。これらの中で好ましくは、無置換の、またはハロゲン原子、炭素数1〜4のアルキル基若しくはアルコキシ基、または炭素数6〜10のアリール基で単置換若しくは多置換されたN−カルバゾリイル基、N−フェノキサジニイル基、またはN−フェノチアジニイル基であり、より好ましくは、無置換のN−カルバゾリイル基、N−フェノキサジニイル基、またはN−フェノチアジニイル基である。置換されたN−カルバゾリイル基、N−フェノキサジニイル基、またはN−フェノチアジニイル基の具体例としては、例えば、2−メチル−N−カルバゾリイル基、3−メチル−N−カルバゾリイル基、4−メチル−N−カルバゾリイル基、3−n−ブチル−N−カルバゾリイル基、3−n−ヘキシル−N−カルバゾリイル基、3−n−オクチル−N−カルバゾリイル基、3−n−デシル−N−カルバゾリイル基、3,6−ジメチル−N−カルバゾリイル基、2−メトキシ−N−カルバゾリイル基、3−メトキシ−N−カルバゾリイル基、3−エトキシ−N−カルバゾリイル基、3−イソプロポキシ−N−カルバゾリイル基、3−n−ブトキシ−N−カルバゾリイル基、3−n−オクチルオキシ−N−カルバゾリイル基、3−n−デシルオキシ−N−カルバゾリイル基、3−フェニル−N−カルバゾリイル基、3−(4’−メチルフェニル)−N−カルバゾリイル基、3−(4’−tert−ブチルフェニル)−N−カルバゾリイル基、3−クロロ−N−カルバゾリイル基、2−メチル−N−フェノチアジニイル基などを例示することができる。
【0022】
Arは各々独立して、置換若しくは無置換のアリーレン基またはヘテロアリーレン基を表し、具体的には置換若しくは無置換のフェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、アントリル基、フルオレニル基、またはピリジル基を例示することができ、好ましくは、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、アントリル基である。
【0023】
なお、一般式(1)の好ましい具体例を以下に例示するが、本発明の化合物はこれらに限定されるものではない。
【0024】
【化2】

【0025】
【化3】

【0026】
【化4】

【0027】
【化5】

前記一般式(1)で表されるベンゾ[c]フルオレン誘導体の合成方法については特に制限されるものではないが、例えば、パラジウム触媒を用いる公知の方法(Tetrahedron Letters,39,2367(1998))により合成することができる。具体的には例えば、下記一般式(3)
【0028】
【化6】

(式中、R及びRは各々同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリール基若しくはアリールオキシ基、またはハロゲン原子を表す。なお、R及びRは互いに結合して環を形成してもよい。Xはハロゲン原子を表す。)
で表されるジハロベンゾ[c]フルオレン化合物と下記一般式(4)
【0029】
【化7】

(式中、Arは各々独立して、置換若しくは無置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、それらに結合している窒素原子と共に含窒素複素環を形成してもよい。Arは各々独立して、置換若しくは無置換のアリーレン基またはヘテロアリーレン基を表す。)
で表されるアミン化合物とを塩基及びパラジウム触媒の存在下に、反応させることにより容易に合成することができる。
【0030】
本発明において使用される塩基としては、無機塩基及び/または有機塩基から選択すればよく、特に限定されるものではないが、より好ましくは、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、リチウム−tert−ブトキシド、ナトリウム−tert−ブトキシド、カリウム−tert−ブトキシド等のようなアルカリ金属アルコキシドであり、それらを反応系にそのまま加えても、またアルカリ金属、水素化アルカリ金属及び水酸化アルカリ金属とアルコールからその場で調製したものを反応系に供してもよい。
【0031】
使用される塩基の量は、反応で生成するハロゲン化水素に対し、0.5倍モル以上使用することが好ましい。塩基の量が0.5倍モル未満では、ベンゾ[c]フルオレン誘導体の収率が低くなる場合がある。また、塩基を大過剰に加えてもベンゾ[c]フルオレン誘導体の収率に変化はないが、反応終了後の後処理操作が煩雑になることから、より好ましい塩基の量は1〜5倍モルの範囲である。
【0032】
また、本発明において使用されるパラジウム触媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物、ヘキサクロロパラジウム(IV)酸カリウム等の4価パラジウム化合物類、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウム(II)アセチルアセトナート、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(アセトニトリル)パラジウム(II)、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラアンミンパラジウム(II)、ジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II)、パラジウム(II)トリフルオロアセテート等の2価パラジウム化合物類、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)クロロホルム錯体、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)等の0価パラジウム化合物類等が挙げられる。
【0033】
パラジウム化合物の使用量は、特に限定されるものではないが、上記一般式(3)で表されるジハロベンゾ[c]フルオレン化合物1モルに対し、パラジウム換算で通常0.000001〜20モル%の範囲である。パラジウム化合物が上記範囲内であれば、高い選択率でベンゾ[c]フルオレン誘導体を合成することができるが、活性をさらに向上させたり、高価なパラジウム化合物を使用することから、より好ましいパラジウム化合物の使用量は、ジハロベンゾ[c]フルオレン化合物1モルに対し、パラジウム換算で0.0001〜5モル%の範囲である。
【0034】
本発明において使用されるパラジウム触媒に関し、三級ホスフィンを触媒配位子として併用すると、さらに効率的に反応を進行させることができる。本発明において、パラジウム触媒と組み合わせて使用される三級ホスフィンとしては、特に限定されるものではなく、例えば、トリエチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリ−iso−ブチルホスフィン、トリ−sec−ブチルホスフィン、トリ−tert−ブチルホスフィン等のトリアルキルホスフィン類が挙げられるが、これらのうちアリールアミン誘導体の選択性を向上させるために、トリ−tert−ブチルホスフィンがより好ましい。
【0035】
本発明において、三級ホスフィンは、パラジウム触媒に対して通常0.01〜10000倍モルの範囲で使用すればよい。三級ホスフィンの使用量が上記の範囲内であれば、ベンゾ[c]フルオレン誘導体の選択率に変化はないが、活性をさらに向上させたり、高価な三級ホスフィンを使用することから、より好ましい三級ホスフィンの使用量は、パラジウム触媒に対して0.1〜10倍モルの範囲である。
【0036】
本発明においては、通常、パラジウム化合物と三級ホスフィンを組み合わせたものを触媒として使用する。添加方法としては、反応系にそれぞれ単独で加えても、予め錯体の形に調製してから添加してもよい。
【0037】
本発明における反応は、通常、不活性溶媒存在下で行う。使用される溶媒としては、本反応を著しく阻害しない溶媒であればよく、特に限定されるものではないが、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒や、ジエチルエーテル、テトラハイドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系有機溶媒、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホトリアミド等を挙げることができる。これらのうちより好ましくは、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系有機溶媒である。
【0038】
本発明における反応は、常圧下、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことも、また加圧下で行うこともできる。
【0039】
本発明における反応は、反応温度20〜300℃の範囲で行われるが、より好ましくは50〜200℃の範囲である。
【0040】
本発明において反応時間は、ジハロベンゾ[c]フルオレン化合物、アミン化合物、塩基、パラジウム触媒の量及び反応温度等によって一概には言えないが、数分〜72時間の範囲から選択すればよい。
【0041】
本発明者らは、上述したベンゾ[c]フルオレン誘導体を有機EL素子に用いた場合、従来材料に比べて非常に高い特性を示す有機EL素子が得られることを見出した。具体的な特性としては、低駆動電圧や高電力効率等が挙げられる。従って本発明は、有機EL素子に関しても包含している。本発明の有機EL素子は、一対の電極間に複数の化合物を積層してなる多層構造を有している。本発明の有機EL素子においては、これら複数層のうち、少なくとも一つの層が一般式(1)で表される化合物で構成されていることを必須とする。具体的に例えば、一般式(1)で表される化合物を発光層、正孔輸送層、正孔注入層のいずれかに用いることができる。さらに、一般式(1)で表される化合物を正孔注入層に用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0042】
本発明による一般式(1)で表される新規なベンゾ[c]フルオレン誘導体を用いれば、低駆動電圧及び高電力効率が達成可能な有機EL素子が提供可能となる。さらに、本発明のベンゾ[c]フルオレン誘導体は、有機EL素子のみならず、電子写真感光体、光電変換素子、太陽電池またはイメージセンサ等の有機光伝導材料の分野への応用も期待できる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づき、さらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
【0044】
なお、本実施例で用いた分析機器及び測定方法を以下に列記する。
【0045】
[元素分析]
元素分析計:パーキンエルマー全自動元素分析装置 2400II
酸素フラスコ燃焼−IC測定法:東ソー製 イオンクロマトグラフ IC−2001
[質量分析]
質量分析装置:日立製作所製 M−80B
測定方法:FD−MS分析
[NMR測定]
NMR測定装置:VARIAN Gemini−200
[ガラス転移温度測定]
測定装置:マックサイエンス製 DSC−3100
測定方法:標準試料=Al 5.0mg、昇温速度=10℃/分(窒素雰囲気)
合成例1 中間体1aの合成
【0046】
【化8】

(第一工程:1a−1の合成)
攪拌装置を備えた3Lフラスコ中に、o−ブロモ安息香酸エチル[アルドリッチ] 66.6g(0.29mol)、1−ナフチルボロン酸[アルドリッチ] 50.0g(0.29mol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム[Pd(PPh;和光純薬] 3.3g(2.9mmol)、THF[和光純薬] 1000mL、炭酸ナトリウム[東京化成] 148.4g(1.40mol)、蒸留水 600.0gを仕込み、65℃で10時間攪拌した。反応終了後、反応液を室温まで戻して静置した後、副生塩及び過剰塩基を含んだ水層を分離した。得られた有機層を水、次いで飽和食塩水で洗浄分液した後、減圧濃縮に付してTHF溶媒を留去した。その結果、80.1gの残渣(1a−1;収率=100%)を得た。なお、本残渣は精製することなく、次工程に用いた。
【0047】
(第二工程:1a−2の合成)
窒素雰囲気下、攪拌装置を備えた2Lフラスコ中に、上記操作で得られた1a−1 80.0g(0.29mol)、THF[和光純薬] 300mLを仕込んだ。その後、MeMgBr[1.4M−THF溶液;関東化学] 490mL(0.69mol)を反応液温が20℃を超えないように、3時間かけて滴下した。その後、室温で1時間攪拌した。反応終了後、10%塩化アンモニウム水溶液 400g及びトルエン 300mLを添加し、室温にて1時間攪拌して静置した後、副生塩を含んだ水層を分離した。さらに、10%塩化アンモニウム水溶液で洗浄分液した後、減圧濃縮に付してTHF及びトルエン溶媒を留去した。その結果、72.0gの残渣(1a−2;収率=87%)を得た。なお、本残渣は精製することなく、次工程に用いた。
【0048】
(第三工程:1a−3の合成)
窒素雰囲気下、攪拌装置を備えた2Lフラスコ中に、上記操作で得られた1a−2 72.0g(0.27mol)、クロロホルム[キシダ化学] 1000mLを仕込んだ。その後、三フッ化ホウ素−エーテル錯体[アルドリッチ] 97.0mL(0.37mol)をクロロホルム 100mLに溶解させた液を反応液温が20℃を超えないように、2時間かけて滴下した。その後、室温で2時間攪拌した。反応終了後、蒸留水 300mLを添加し、室温にて1時間攪拌して静置した後、水層を分離した。その後、減圧濃縮に付してクロロホルム溶媒を留去した。その結果、48.0gの残渣(1a−3;収率=68%)を得た。さらに、本残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、精製した1a−3 45.0g(純度 99.5%)を得た。H−NMR測定により、1a−3(7,7−ジメチルベンゾ[c]フルオレン)を同定した。
【0049】
H−NMR(CDCl):8.76(d,1H), 8.34(d,1H), 7.95(d,1H), 7.86(d,1H), 7.36−7.67(m,6H), 1.55(s,6H)[ppm]
(第四工程:1aの合成)
攪拌装置を備えた1Lフラスコ中に、上記操作で得られた1a−3 23.4g(96mmol)、三臭化ベンジルトリメチルアンモニウム[関東化学] 82.4g(211mmol)、酢酸[関東化学] 150mL、ジクロロメタン[和光純薬] 150mLを仕込んだ。その後、塩化亜鉛[関東化学] 33.0g(242mmol)を反応液温が30℃を超えないように、1時間かけて添加した。その後、室温で1時間攪拌した。反応終了後、5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液 50mLを添加し、室温にて1時間攪拌して静置した後、水層を分離した。さらに、5%炭酸カリウム水溶液で洗浄分液した後、減圧濃縮に付して酢酸及びジクロロメタン溶媒を留去した。その結果、31.0gの残渣(1a;収率=75%)を得た。さらに、本残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、精製した1a 27.0gを得た(純度 99.6%)。H−NMR測定、質量分析及び元素分析の結果により、1aを同定した。
【0050】
H−NMR(CDCl):8.64(d,1H), 8.38(d,1H), 8.14(d,1H), 7.90(s,1H), 7.53−7.72(m,4H), 1.53(s,6H)[ppm]
質量分析(FDMS):402
元素分析(計算値):C=56.8, H=3.5, Br=39.7
元素分析(実測値):C=56.7, H=3.4, Br=39.8
合成例2 中間体1bの合成
【0051】
【化9】

(第一工程:1b−2の合成)
窒素雰囲気下、攪拌装置を備えた2Lフラスコ中に、合成例1と同様の操作で得られた1a−1 80.0g(0.29mol)、THF[和光純薬] 200mLを仕込んだ。その後、PhMgBr[2.0M−THF溶液;東京化成] 400mL(0.80mol)を反応液温が20℃を超えないように、3時間かけて滴下した。その後、室温で1時間攪拌した。反応終了後、5%塩酸水溶液 600g及びトルエン 300mLを添加し、室温にて1時間攪拌して静置した後、副生塩を含んだ水層を分離した。さらに、5%塩酸水溶液及び水で洗浄分液した後、減圧濃縮に付してTHF及びトルエン溶媒を留去した。その結果、84.1gの残渣(1b−2;収率=75%)を得た。なお、本残渣は精製することなく、次工程に用いた。
【0052】
(第二工程:1b−3の合成)
窒素雰囲気下、攪拌装置を備えた2Lフラスコ中に、上記操作で得られた1b−2 84.0g(0.27mol)、酢酸[キシダ化学] 300mL、濃硫酸[関東化学] 3.0g(0.03mol)を仕込み、室温で2時間攪拌した。反応終了後、トルエン 400mL及び蒸留水 300mLを添加し、室温にて1時間攪拌して静置した後、水層を分離した。その後、減圧濃縮に付して酢酸及びトルエン溶媒を留去した。その結果、60.1gの残渣(1b−3;収率=60%)を得た。さらに、本残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、精製した1b−3 59.6g(純度 99.3%)を得た。H−NMR測定により、1b−3(7,7−ジフェニルベンゾ[c]フルオレン)を同定した。
【0053】
H−NMR(CDCl):8.80(d,1H), 8.38(d,1H), 7.46−7.89(m,7H), 7.21−7.33(m,11H)[ppm]
(第三工程:1bの合成)
攪拌装置を備えた1Lフラスコ中に、上記操作で得られた1b−3 36.8g(100mmol)、三臭化ベンジルトリメチルアンモニウム[関東化学] 82.0g(210mmol)、酢酸[関東化学] 150mL、ジクロロメタン[和光純薬] 150mLを仕込んだ。その後、塩化亜鉛[関東化学] 33.0g(242mmol)を反応液温が30℃を超えないように、1時間かけて添加した。その後、室温で1時間攪拌した。反応終了後、5%亜硫酸水素ナトリウム水溶液 50mLを添加し、室温にて1時間攪拌して静置した後、水層を分離した。さらに、5%炭酸カリウム水溶液で洗浄分液した後、減圧濃縮に付して酢酸及びジクロロメタン溶媒を留去した。その結果、32.2gの残渣(1b;収率=58%)を得た。さらに、本残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、精製した1b 30.5gを得た(純度 99.5%)。H−NMR測定、質量分析及び元素分析の結果により、1bを同定した。
【0054】
H−NMR(CDCl):8.72(d,1H), 8.39(d,1H), 7.52−7.94(m,5H), 7.28−7.45(m,11H)[ppm]
質量分析(FDMS):526
元素分析(計算値):C=66.2, H=3.5, Br=30.3
元素分析(実測値):C=66.0, H=3.6, Br=30.4
合成例3 中間体CTPAの合成
【0055】
【化10】

窒素雰囲気下、攪拌装置を備えた1Lフラスコ中に、p−ブロモクロロベンゼン[キシダ化学] 67.1g(0.35mol)、ジフェニルアミン[和光純薬] 59.3g(0.35mol)、ナトリウム−t−ブトキシド[関東化学] 40.4g(0.42mol)、o−キシレン[キシダ化学] 500.0g、酢酸パラジウム[アルドリッチ] 44.0mg(0.19mmol)、トリ−t−ブチルホスフィン[アルドリッチ] 0.14g(0.67mmol)を添加し、130℃で2時間攪拌した。反応終了後、蒸留水 200mLを添加し、室温にて0.5時間攪拌して静置した後、水層を分離した。さらに、飽和塩化ナトリウム水溶液、次いで飽和食塩水で洗浄分液した後、減圧濃縮に付してo−キシレン溶媒を留去した。さらに、得られた残渣を熱イソプロピルアルコールを用いて再結晶に付し、目的とするCPTA 93.2gを得た(収率=95.2%、純度 99.4%)。質量分析及び元素分析の結果により、CPTAを同定した。
【0056】
質量分析(FDMS):279
元素分析(計算値):C=77.3, H=5.0, Cl=12.7, N=5.0
元素分析(実測値):C=77.1, H=5.1, Cl=12.6, N=5.2
合成例4 中間体PTPAの合成
【0057】
【化11】

窒素雰囲気下、攪拌装置を備えた300mLフラスコ中に、上記合成例3で合成したCPTA 28.0g(0.10mol)、アニリン[和光純薬] 10.2g(0.11mol)、ナトリウム−t−ブトキシド[関東化学] 11.5g(0.12mol)、o−キシレン[キシダ化学] 60.0g、酢酸パラジウム[アルドリッチ] 22.0mg(0.10mmol)、トリ−t−ブチルホスフィン[アルドリッチ] 81.0mg(0.40mmol)を添加し、130℃で2時間攪拌した。反応終了後、蒸留水 100mLを添加し、室温にて0.5時間攪拌して静置した後、水層を分離した。さらに、飽和塩化ナトリウム水溶液、次いで飽和食塩水で洗浄分液した後、減圧濃縮に付してo−キシレン溶媒を留去した。さらに、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマログラフィーに付した後、熱トルエンを用いて再結晶に付し、目的とするPTPA 28.9gを得た(収率=86.0%、純度 99.8%)。質量分析及び元素分析の結果により、PTPAを同定した。
【0058】
質量分析(FDMS):336
元素分析(計算値):C=85.7, H=6.0, N=8.3
元素分析(実測値):C=85.7, H=6.1, N=8.2
合成例5 中間体NTPAの合成
【0059】
【化12】

窒素雰囲気下、攪拌装置を備えた300mLフラスコ中に、上記合成例3で合成したCPTA 28.0g(0.10mol)、1−アミノナフタレン[アルドリッチ] 15.8g(0.11mol)、ナトリウム−t−ブトキシド[関東化学] 11.5g(0.12mol)、o−キシレン[キシダ化学] 60.0g、酢酸パラジウム[アルドリッチ] 22.0mg(0.10mmol)、トリ−t−ブチルホスフィン[アルドリッチ] 81.0mg(0.40mmol)を添加し、130℃で2時間攪拌した。反応終了後、蒸留水 100mLを添加し、室温にて0.5時間攪拌して静置した後、水層を分離した。さらに、飽和塩化ナトリウム水溶液、次いで飽和食塩水で洗浄分液した後、減圧濃縮に付してo−キシレン溶媒を留去した。さらに、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマログラフィーに付した後、熱トルエンを用いて再結晶に付し、目的とするNTPA 30.5gを得た(収率=77.7%、純度 99.9%)。質量分析及び元素分析の結果により、NTPAを同定した。
【0060】
質量分析(FDMS):386
元素分析(計算値):C=87.0, H=5.7, N=7.3
元素分析(実測値):C=87.1, H=5.8, N=7.1
実施例1 化合物A−1の合成
【0061】
【化13】

窒素雰囲気下、攪拌装置を備えた300mLフラスコ中に、上記合成例1で合成した1a 4.0g(10.0mmol)、上記合成例4で合成したPTPA 7.4g(21.0mmol)、ナトリウム−t−ブトキシド[関東化学] 2.0g(21.0mmol)、o−キシレン[キシダ化学] 100.0g、酢酸パラジウム[アルドリッチ] 47.0mg(0.21mmol)、トリ−t−ブチルホスフィン[アルドリッチ] 170.0mg(0.84mmol)を添加し、130℃で2時間攪拌した。反応終了後、蒸留水 50mLを添加し、室温にて0.5時間攪拌して静置した後、水層を分離した。さらに、飽和塩化ナトリウム水溶液、次いで飽和食塩水で洗浄分液した後、減圧濃縮に付してo−キシレン溶媒を留去した。さらに、得られた残渣をシリカゲルカラムクロマログラフィーに付し、目的とするA−1 7.6gを得た(収率=83.2%、純度 99.7%)。H−NMR測定、質量分析及び元素分析の結果により、A−1を同定した。
【0062】
H−NMR(CDCl):8.76(d,1H), 8.20(dd,1H), 7.07−65(m,44H), 1.50(s,6H)[ppm]
質量分析(FDMS):913
元素分析(計算値):C=88.1, H=5.7, N=6.2
元素分析(実測値):C=88.1, H=5.9, N=6.0
ガラス転移温度:135℃
実施例2 化合物A−2の合成
【0063】
【化14】

上記合成例4で合成したPTPA 7.4g(21.0mmol)の代わりに、上記合成例5で合成したNTPA 8.1g(21.0mmol)を用いた以外は、実施例1の方法に準じて反応を行い、目的とするA−2 8.0gを得た(収率=79.0%、純度 99.6%)。H−NMR測定、質量分析及び元素分析の結果により、A−1を同定した。
【0064】
H−NMR(CDCl):8.71(d,1H), 6.65−8.24(m,49H), 1.34(s,6H)[ppm]
質量分析(FDMS):1013
元素分析(計算値):C=88.9, H=5.6, N=5.5
元素分析(実測値):C=88.8, H=5.8, N=5.4
ガラス転移温度:143℃
実施例3 化合物C−1の合成
【0065】
【化15】

上記合成例1で合成した1a 4.0g(10.0mmol)の代わりに、上記合成例2で合成した1b 5.3g(10.0mmol)を用いた以外は、実施例1の方法に準じて反応を行い、目的とするC−1 7.7gを得た(収率=74.2%、純度 99.9%)。H−NMR測定、質量分析及び元素分析の結果により、C−1を同定した。
【0066】
H−NMR(CDCl):8.74(d,1H), 8.18(dd,1H), 7.01−8.12(m,54H)[ppm]
質量分析(FDMS):1037
元素分析(計算値):C=89.2, H=5.4, N=5.4
元素分析(実測値):C=89.2, H=5.3, N=5.5
ガラス転移温度:148℃
実施例4 化合物C−2の合成
【0067】
【化16】

上記合成例1で合成した1a 4.0g(10.0mmol)の代わりに、上記合成例2で合成した1b 5.3g(10.0mmol)を用い、また上記合成例4で合成したPTPA 7.4g(21.0mmol)の代わりに、上記合成例5で合成したNTPA 8.1g(21.0mmol)を用いた以外は、実施例1の方法に準じて反応を行い、目的とするC−2 7.5gを得た(収率=66.0%、純度 99.8%)。H−NMR測定、質量分析及び元素分析の結果により、C−2を同定した。
【0068】
H−NMR(CDCl):8.75(d,1H), 6.60−8.30(m,59H)[ppm]
質量分析(FDMS):1137
元素分析(計算値):C=89.8, H=5.3, N=4.9
元素分析(実測値):C=89.8, H=5.4, N=4.8
ガラス転移温度:150℃
実施例5 有機EL素子の作成
厚さ110nmのITO透明電極を有するガラス基板をアセトン、イソプロピルアルコールで順次超音波洗浄し、次いでイソプロピルアルコールで煮沸洗浄した後、乾燥した。さらに、本基板をUV/オゾン処理したものを透明導電性支持基板として使用した。本ITO透明電極上に、実施例1で合成した化合物A−1を真空蒸着法により30nmの膜厚で成膜し、正孔注入層を形成した。次に、α−NPDを真空蒸着法により20nmの膜厚で成膜し、正孔輸送層を形成した。次に、アルミニウムトリスキノリノール錯体(以下、Alqと略記する)を真空蒸着法により50nmの膜厚で成膜し、発光層兼電子輸送層を形成した。次に、陰極としてMgAgを100nm、Agを10nm成膜して金属電極を形成した。
【0069】
さらに、窒素雰囲気下、保護用ガラス基板を重ね、UV硬化樹脂で封止した。このようにして得られた素子に、ITO電極を正極、MgAg−Ag電極を負極にして、5.9Vの直流電圧を印加すると、7.5mA/cmの電流密度が得られ、458cd/mの輝度で緑色の発光が得られた。電力効率は1.8lm/Wであった。結果を表1に示す。
【0070】
実施例6 有機EL素子の作成
正孔注入層として、実施例1で合成した化合物A−1の代わりに、実施例3で合成した化合物C−1を用いた以外は、実施例5に準じて同様に有機EL素子を作成した。電流密度7.5mA/cm時における駆動電圧、輝度、電力効率の値を表1に併せて示す。
【0071】
比較例1〜2 有機EL素子の作成
正孔注入層として、実施例1で合成した化合物A−1の代わりに、MTDATAまたはCuPcを用いた以外は、実施例5に準じて同様に有機EL素子を作成した。電流密度7.5mA/cm時における駆動電圧、輝度、電力効率の値を表1に併せて示す。
【0072】
【表1】

実施例7 有機EL素子の作成
厚さ110nmのITO透明電極を有するガラス基板をアセトン、イソプロピルアルコールで順次超音波洗浄し、次いでイソプロピルアルコールで煮沸洗浄した後、乾燥した。さらに、本基板をUV/オゾン処理したものを透明導電性支持基板として使用した。本ITO透明電極上に、実施例2で合成した化合物A−2を真空蒸着法により55nmの膜厚で成膜し、正孔注入層を形成した。次に、α−NPDを真空蒸着法により20nmの膜厚で成膜し、正孔輸送層を形成した。次に、TBADNをホスト材、TBPeをドーパント材として、重量比=99:1で共蒸着し、40nmの膜厚で成膜し、発光層を形成した。次に、Alqを真空蒸着法により20nmの膜厚で成膜し、電子輸送層を形成した。次に、陰極としてLiFを0.5nm、Alを100nm成膜して金属電極を形成した。
【0073】
【化17】

さらに、窒素雰囲気下、保護用ガラス基板を重ね、UV硬化樹脂で封止した。このようにして得られた素子に、ITO電極を正極、LiF−Al電極を負極にして、7.5Vの直流電圧を印加すると、20mA/cmの電流密度が得られ、571cd/mの輝度で緑色の発光が得られた。電力効率は1.3lm/Wであった。結果を表2に示す。
【0074】
実施例8 有機EL素子の作成
正孔注入層として、実施例2で合成した化合物A−2の代わりに、実施例4で合成した化合物C−2を用いた以外は、実施例7に準じて同様に有機EL素子を作成した。電流密度20mA/cm時における駆動電圧、輝度、電力効率の値を表2に併せて示す。
【0075】
比較例3 有機EL素子の作成
正孔注入層として、実施例2で合成した化合物A−2の代わりに、CuPcを用いた以外は、実施例7に準じて同様に有機EL素子を作成した。電流密度20mA/cm時における駆動電圧、輝度、電力効率の値を表2に併せて示す。
【0076】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるベンゾ[c]フルオレン誘導体。
【化1】

(式中、R及びRは各々同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリール基若しくはアリールオキシ基、またはハロゲン原子を表す。なお、R及びRは互いに結合して環を形成してもよい。Arは各々独立して、置換若しくは無置換のアリール基またはヘテロアリール基を表し、それらに結合している窒素原子と共に含窒素複素環を形成してもよい。Arは各々独立して、置換若しくは無置換のアリーレン基またはヘテロアリーレン基を表す。)
【請求項2】
一般式(1)において、Arは各々独立して、置換若しくは無置換のフェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、アントリル基、フルオレニル基、またはピリジル基よりなる群より選ばれる置換基であることを特徴とする、請求項1に記載のベンゾ[c]フルオレン誘導体。
【請求項3】
一般式(1)において、Arは各々独立して、置換若しくは無置換のフェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基、ターフェニリレン基、アントリレン基、フルオレニレン基、またはピリジレン基よりなる群より選ばれる置換基であることを特徴とする、請求項1に記載のベンゾ[c]フルオレン誘導体。
【請求項4】
一般式(2)で表されるベンゾ[c]フルオレン誘導体。
【化2】

(式中、R及びRは各々同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリール基若しくはアリールオキシ基、またはハロゲン原子を表す。なお、R及びRは互いに結合して環を形成してもよい。R〜R10は各々同一または異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルキル基、炭素数1〜18の直鎖,分岐若しくは環状のアルコキシ基、炭素数6〜24のアリール基若しくはアリールオキシ基、またはハロゲン原子を表す。なお、アリール基やアリールオキシ基同士が結合して縮合環を形成してもよい。)
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のベンゾ[c]フルオレン誘導体を、いずれか一層以上に用いることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載のベンゾ[c]フルオレン誘導体を、発光層、正孔輸送層、または正孔注入層のいずれかに用いることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。

【公開番号】特開2008−214271(P2008−214271A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−53980(P2007−53980)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】