説明

新規なペプチドのホワイトニング剤およびそれを含む化粧用組成物

本発明は、以下の式[RN−CH(Ra)−CO]−(AA−(AA−X−X−X−Y−Y−Y−X−(AA−[NH−CH(Rb)−COORを有する新規なペプチド化合物に関する。本発明はまた、これらのペプチド化合物の1つまたは複数を含む化粧用および皮膚用の組成物、ならびに、ヒトの皮膚の美容上のホワイトニングにおける、および、ヒトの皮膚の色素を除去することを意図した皮膚用製剤の製造のためのそれらの使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロ四量体のアダプタータンパク質複合体(AP)により、より詳細には、チロシナーゼの輸送、ひいてはメラニン形成において鍵となる役割を有するAP3およびAP2のアダプター複合体により特異的に認識される、新規なペプチド化合物に関する。本発明はさらに、これらの化合物を含む化粧用組成物、そのような組成物をヒトの皮膚上に局所施用することを含む美容上のホワイトニング法、および、ヒトの皮膚の色素を除去することを意図した皮膚用製剤を製造するためのこの組成物の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
老人性色素斑または褐色斑など皮膚の色素沈着異常を緩和する目的、または可能な限り明るい肌色を手に入れたいと熱望する消費者を満足させる目的で、化粧用および皮膚用の組成物中で使用するための新しいホワイトニング剤を抽出または合成するために、過去何年にもわたり広範な調査が行われてきた。
【0003】
メラニン形成に対して作用する多様なホワイトニング剤が、この目的に向けて提案されてきた。しかし、その中には、わずかなメラニン形成阻害効果しか示さず十分なホワイトニング効果をもたらすことに失敗するものもあれば、より有効ではあっても、ヒトの皮膚細胞に対して毒性を有することから必ず副作用を伴うため、化粧品において使用することは相当危険であると証明されているものもある。この毒性は、こうしたホワイトニング剤が、毒素を産生しながら細胞を殺してそれを皮膚に強制排除させることによりメラニン形成の根本的な機序を妨げるという事実によるものである。
【0004】
例えば、ヒドロキノンは、メラニン形成細胞に対しとりわけ刺激性および細胞毒性のある化合物であり、これを全部または部分的に置き換えることが多くの研究者により企図されてきた。前述の欠点を克服するため、例えば、ヒドロキノンの脂肪酸エステルまたはグリコシルエーテルなどの活性化合物の誘導体を色素除去剤として使用することが提唱されてきた。残念ながら、ヒドロキノンより光安定性が高く毒性が低くても、アルブチンなどのこうした誘導体は、色素異常の側面を改善する活性がヒドロキノンより低い。
【0005】
メラニン形成の機序には関与しないが、チロシナーゼに対し、その活性化を防止することにより上流で作用し、結果としてはるかに毒性が低い他の物質が探求されてきた。チロシナーゼは、メラニン合成において鍵となる酵素とみなされ、最初の2つの反応、すなわち、L−チロシンから3,4−ジヒドロフェニルアラニン(DOPA)へのヒドロキシル化と、DOPAからDOPAキノンへの酸化とを触媒する。コウジ酸は、この酵素の活性部位中に存在する銅と複合体を形成することによりチロシナーゼ活性化を阻害する物質として、一般に使用される。残念ながら、この化合物は、アレルギー反応を引き起こすことがある(Nakagawaら、Contact Dermatitis、1995より)。加えて、この化合物は溶液中で不安定であり、そのことが、この化合物を含有する組成物の製造をいくらか複雑にしている。
【0006】
チロシナーゼ活性に対して作用する他のホワイトニング剤は植物抽出物であるが、その有効性は必ずしも満足なものではない。このような公知のホワイトニング剤の限られた有効性について可能な説明は、こうしたホワイトニング剤はメラノソーム内部のチロシナーゼに対して適切な接近手段をもたないということである。事実、メラノソーム膜は、メラニン形成中に生じる非常に毒性の強い代謝産物(キノン)から細胞を保護する、非常に不透過性の高い構造物である。
【0007】
皮膚のメラニン形成を阻害するための別のアプローチは、チロシナーゼの成熟過程に働きかけることである。例えばツニカマイシンがこの目的に向けて提案されているが、それは、この化合物は、チロシナーゼが成熟してゴルジからメラノソームへ遊走するのに必要なそのグリコシル化を妨害するからである。しかし、グリコシル化の阻害は、非特異的であり、この化合物の化粧品使用を不適当なものとするいくつかの副作用を伴う。同様に、チロシナーゼの立体配座を改変してその安定性を低下させ、チロシナーゼを分解経路(小胞体関連分解、または、エンドソーム系/リソソーム系を通るもの)に向かわせることが可能な他の作用剤が提案されてきた。しかし、このアプローチの主な欠点は、これにより他のタンパク質の成熟までも妨げられ、ひいてはメラニン形成以外のいくつかの生物学的機序が変質しかねないことである。これもまた、化粧品用としては考えられない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、公知の作用剤と同程度有効に、またはそれよりさらに良好に作用するが欠点を呈さない、すなわち、皮膚に対して非刺激性、非毒性および/または非アレルゲン性であり、組成物中で安定な、ヒトの皮膚を脱色するための作用剤に対する必要性が未だ存在する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この必要性を満たすため、本発明は、メラノソーム形成の上流で、その膜が形成される相当前に作用することから、安全性が高まるだけでなく非常に有効な、色素沈着過程を阻害するための代替的な方式を使用する。より具体的には、本発明の新規な化合物は、メラノソームへのチロシナーゼの細胞内輸送を妨げるように考えられている。したがって、活性剤のその生物学的標的への接近可能性の問題は克服される。さらに、これらの化合物は、TGN(トランスゴルジ網)からメラノソームへのチロシナーゼ輸送を阻害し、および/または減少させるので、メラニン形成に対してかなり特異的な活性を有する。したがって、この化合物は、他に生物学的過程があってもそれを妨げにくく、それにより化粧品用途に十分適したものとなる。
【0010】
メラノソームは、色素合成に関わる酵素(例えばチロシナーゼのような)が存在する点で、リソソームとは異なる。チロシナーゼは、成熟中のメラノソーム中で活性をもつのみで、その生合成経路の他の細胞小器官中では活性をもたない。したがって、本発明者らが選択するアプローチは、細胞質ゾルのヘテロ四量体のアダプター複合体(AP)、具体的には、細胞内の局在化機構の鍵となる要素であるAP−2およびAP−3(Honingら、EMBO J.、17、n5、1304〜1314、1998およびHoningら、Mol.Cell.、2005、18、519〜531)へのチロシナーゼの結合を遮断するために短鎖ペプチドを使用することである。AP複合体の主要機能の1つは、チロシナーゼなどの膜タンパク質を、同タンパク質の細胞内末端中に位置する短鎖ペプチド配列を介して結合させることである。積荷タンパク質上に細胞質局在化シグナルを結合させることにより、AP複合体はドナー膜上の小区画に積荷を補充し、この小区画が出芽して、標的膜と融合することが意図された小胞または細管を形成する(Bonifacio and Traub、Annu.Rev.Biochem.、72、395〜447、2003)。
【0011】
より具体的には、チロシナーゼはAP−3と高い親和性相互作用を有することが実証されている。AP−3は、4つのサブユニット、すなわち、δ−アダプチン、β3A−アダプチン、中鎖μ3Aおよび小鎖σ3Aから構成されるアダプター複合体である。μ3鎖はチロシンベースの局在化シグナルと相互作用できること、また、AP−3は、メラノソームへのチロシナーゼの輸送に関与するジロイシンベースのシグナルと結合することが実証されている(DELL’ANGELICA ECら、EMBO J.、16、917〜928、1997)。したがって、AP3とチロシナーゼとの間の結合を防止することにより、メラノソームの形成、ひいてはメラニン形成におけるチロシナーゼの取込みが阻害されるはずである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の多様な化合物が、チロシンベースのシグナルを含有するTGN38ペプチドへのAP−2の結合に及ぼす阻害効果を示すヒストグラムである。
【図2】本発明の多様な化合物が、チロシンベースのシグナルを含有するLamp−1ペプチドへのAP−3の結合に及ぼす阻害効果を示すヒストグラムである。
【図3】本発明の多様な化合物が、ジロイシンベースの局在化シグナルを含有するチロシナーゼへのAP−2の結合に及ぼす阻害効果を示すヒストグラムである。
【図4】本発明の多様な化合物が、ジロイシンベースの局在化シグナルを含有するチロシナーゼへのAP−3の結合に及ぼす阻害効果を示すヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の新規な化合物は、本発明者らの知る限り、記載されたこと、または化粧品中でこれまでに使用されたことのないペプチド化合物である。
【0014】
したがって、本発明は、以下の式(I):
[RN−CH(Ra)−CO]−(AA−(AA−X−X−X−Y−Y−Y−X−(AA−[NH−CH(Rb)−COOR (I)
(式中、
、R、Rはそれぞれ独立に、
・H、
・場合によりヒドロキシル化および/または硫化されたC〜C22の直鎖状炭化水素基であり、該基は飽和でも不飽和でもよく、
・場合によりヒドロキシル化および/または硫化されたC〜C22の分枝状もしくは環状の炭化水素基であり、該基は飽和でも不飽和でもよく、または
・ビオチン基
を表し、
およびRの少なくとも一方は代替的に保護基または遮断基であってもよく、
RaおよびRbはそれぞれ独立に、H、C〜Cの直鎖状アルキル基またはC〜Cの分枝状アルキル基を表し、各アルキル基は、OH、SH、COOH、CONH、NH−S−CH、NH−C(NH)−NHから成る群から選択される1つもしくは複数の置換基で、または環状もしくは複素環状の芳香族基で場合により置換されており、
、XおよびXはそれぞれ独立に極性のアミノ酸基を表し、
は、好ましくは荷電していない、小鎖のアミノ酸基であり、
、YおよびYはそれぞれ独立に疎水性のアミノ酸基を表すが、ただしYおよびYの少なくとも一方はロイシンまたはイソロイシンであり、
AA、AAおよびAAは独立にアミノ酸基を示し、この場合、mおよびnが1を超えるときは、AAおよびAAのアミノ酸基はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、
mおよびnは独立に0から10の範囲の整数を表し、
a、bおよびcは独立に0または1であり、
全ての該アミノ酸基は独立にL、DまたはDL立体配置のものであってもよく、
ただし、Xがアルギニン(R)またはリシン(K)であるとき、Yはメチオニン(M)以外である)
を有する化合物に関する。
【0015】
「保護基または遮断基」は、例えば分子のカルボキシル基で反応が起こる際にペプチド中のアミノ基の反応性を妨げる能力のある任意の化学部分を意味することを意図したものである。例示的な保護基としては、tBoc(tert−ブチルオキシカルボニル)基、Z(ベンゾイルカルボニル)基、Fmoc(フルオレニルメチルオキシカルボニル)基およびAlloc(アリルオキシカルボニル)基が挙げられるが、これらに限定されない。ペプチド合成において有用なこれらの、および追加的な保護基および遮断基は、当技術分野では周知である。
【0016】
さらに、用語「炭化水素基」は、その構造中、例えばその主鎖中に炭素原子および水素原子を有する任意の基を意味することを意図したものである。この炭化水素基は、酸素原子および/または窒素原子など他の原子を含んでいてもよい。Rおよび/またはRの炭化水素基の非限定的な例は、アルキルカルボニル基およびアルケニルカルボニル基である。中でも、パルミトイル基など6から20個の炭素原子を有するアルキルカルボニル基が好ましい。Rの炭化水素基の非限定的な例は、1から20個の炭素原子を含むアルキル基およびアルケニル基である。
【0017】
極性のアミノ酸基の中では、以下から成る群から選択されるものを挙げることができる:アスパラギン(N)、セリン(S)、システイン(C)、グルタミン(Q)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、トレオニン(T)、リシン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)、チロシン(Y)およびトリプトファン(W)。
【0018】
小鎖のアミノ酸基の中では、以下から成る群から選択されるものを挙げることができる:プロリン(P)、アスパラギン(N)、アスパラギン酸(D)、トレオニン(T)、バリン(V)、システイン(C)、アラニン(A)、セリン(S)およびグリシン(G)。
【0019】
疎水性のアミノ酸基の中では、以下から成る群から選択されるものを挙げることができる:アラニン(A)、グリシン(G)、システイン(C)、トレオニン(T)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、リシン(K)、メチオニン(M)、ヒスチジン(H)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)およびフェニルアラニン(F)。
【0020】
このペプチドのアミノ末端およびC末端の方向は、前述の化合物の阻害効果に無関係であることに注目すべきである。
【0021】
式(I)中の角括弧間の基は、本発明の化合物の溶解性、膜透過および/または検出を促進するため、または単に分解に対しペプチドを保護するために、有利に存在できる(aおよび/またはcは1である)。このような基は、AP−2および/またはAP−3アダプター複合体へのこれらのペプチドの結合を強化するためにも有用である可能性がある。
【0022】
前記の式(I)においては、
・AAおよび/またはXは極性のアミノ酸基を示し、該基は好ましくは荷電し、より好ましくは負に荷電しており、および/または
・Xは荷電した極性のアミノ酸基であり、および/または
・Xはプロリン(P)であり、および/または
・Yおよび/またはYおよび/またはYは、バリン(V)、イソロイシン(I)またはロイシン(L)など脂肪族のアミノ酸基であり、
ただし、Xがアルギニン(R)またはリシン(K)であるとき、Yはメチオニン(M)以外である
ことが好ましい。
【0023】
本発明の好ましい一実施形態によれば、
・b=1であり、AAはグルタミン酸(E)であり、
・Xはアルギニン(R)、アスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)であり、
・Xはグルタミン(Q)、グルタミン酸(E)またはアスパラギン(N)であり、
・Xはプロリン(P)であり、
・Xはアスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)であり、
・Yはロイシン(L)、メチオニン(M)またはイソロイシン(I)、好ましくはロイシン(L)であり、
・Yはロイシン(L)であり、
・Yはバリン(V)、ロイシン(L)またはメチオニン(M)であり、および/または
・n=m=a=c=0、または、n=m=c=0かつa=1のいずれかであり、
ただし、Xがアルギニン(R)またはリシン(K)であるとき、Yはメチオニン(M)以外である。
【0024】
より好ましくは、前述の条件が全て満たされる。
【0025】
本発明の最も好ましい一実施形態では、
・b=1であり、AAがグルタミン酸(E)であり、
・Xがアスパラギン酸(D)であり、
・Xがグルタミン酸(E)であり、
・Xがプロリン(P)であり、
・Xがグルタミン酸(E)であり、
・Yがロイシン(L)であり、
・Yがロイシン(L)であり、
・Yがメチオニン(M)であり、
・n=m=a=c=0、または、n=m=c=0かつa=1のいずれかである。
【0026】
より好ましくは、後者の場合は、Ra=CH、R=Hであり、R=CO−(CH14−CHである。
【0027】
最も好ましい別の実施形態では、
・b=2であり、
・AA2基のそれぞれがグルタミン酸(E)であり、
・Y1=Y2=ロイシン(L)である。
【0028】
このペプチドは、従来の化学合成により、または任意の種のタンパク質発現系中の融合タンパク質として、または酵素的合成により(Kulimanら、J.Biol.Chem、1980)、構成アミノ酸またはその誘導体から生じさせてもよい。本発明のペプチドは、さらに、バイオ技術(微生物(遺伝子工学による改変の有無を問わない)の使用)によって得ることができる。すなわち、本発明によるペプチドは、遺伝子工学により細菌の菌株(改変の有無を問わない)を発酵させて、先述の配列のペプチドおよびその断片を作製することによって得ることもできる。本発明のペプチドは、天然のタンパク質から、すなわち、動物または植物由来のタンパク質を抽出してから、制御された加水分解(平均サイズおよび小型のペプチド断片が放出されるが、ただし、放出された要素は式(I)に含まれる配列を少なくとも含有する)を行うことによって得ることもできる。関連のタンパク質を抽出してからそれを加水分解するか、または最初に未精製抽出物に対して加水分解を実施してからペプチド断片を精製するか、そのいずれかが可能であるが、必要というわけではない。当業者であれば、タンパク質およびペプチドの合成、抽出および精製について、より簡単またはより複雑な他のプロセスを考えることができる。したがって、本発明のペプチド化合物は、天然または合成由来のものであってもよい。好ましくは、本発明のペプチド化合物は、化学合成によって得る。
【0029】
本発明はさらに、生理学的に許容される媒体中に前述のとおりの少なくとも1つのペプチド化合物またはその混合物を含む化粧用または皮膚用の組成物にも関する。
【0030】
「生理学的に許容される媒体」とは、皮膚上への局所施用に適応させた担体を示すことを意図している。この媒体は、好ましくは化粧品として許容され、すなわち、ヒトの皮膚上に施用した際に実質的な刺激作用、発赤または発熱を一切引き起こさない。
【0031】
この組成物中に含まれる式(I)の化合物の量は、必要なホワイトニング効果をもたらすのに十分な任意の量であってもよい。例えば、この化合物は、組成物の総重量に対し0.001から20重量%、より好ましくは0.01から10重量%、さらにより好ましくは0.1から5重量%を占めてもよい。
【0032】
この組成物は、固体、半固体または液体であってもよい。この組成物は、例えば、粉末、軟膏、ペースト、クリーム、流体、乳液、化粧水、ローション、セラム、ゲル、泡、シートマスクなどの顔用マスク、水分の多いまたは無水のスティック等の形態をしていてもよい。好ましくは、この組成物は水を含む。より好ましくは、この組成物は、ゲルの形態、または、水中油もしくは油中水、例えばシリコン中水、エマルションの形態をしている。あるいは、この組成物は、多相エマルション、マイクロエマルション、ナノエマルションまたは分散系の形態をしていてもよい。
【0033】
本発明による組成物は、以下から選択される少なくとも1つの化合物などの多様な添加物を含有してもよい:
・油:とりわけ、ジメチルポリシロキサン(ジメチコン)、ポリアルキルシクロシロキサン(シクロメチコン)およびポリアルクリ(polyalkly)フェニルシロキサン(フェニルジメチコン)など、揮発性または不揮発性の、直鎖状または環状のシリコーン油;フッ化油、安息香酸アルキルおよび分枝状炭化水素(ポリブテンなど)などの合成油;植物油、および、とりわけ大豆またはホホバの油;ならびに、パラフィン油などの鉱油から選択できる、
・蝋:オゾケライト、ポリエチレン蝋、蜜蝋またはカルナウバ蝋など、
・シリコーンエラストマー:とりわけ、触媒の存在下で、少なくとも1つの反応基(とりわけ、水素またはビニル)を有し少なくとも1つの末端および/または側鎖のアルキル基(とりわけメチル基)またはフェニル基をもつポリシロキサンを、有機水素ポリシロキサンなどの有機ケイ素と反応させることにより得られるもの、
・界面活性剤:好ましくは乳化剤であり、非イオン性、陰イオン性、陽イオン性または両性のいずれであってもよく、ならびに、とりわけ、脂肪酸とポリオールとのエステル(脂肪酸とグリセロールとのエステル、脂肪酸とソルビタンとのエステル、脂肪酸とポリエチレングリコールとのエステルなど);脂肪酸とショ糖とのエステル;脂肪アルコールとポリエチレングリコールとのエステル;アルキルポリグルコシド;改変されたポリシロキサンポリエーテル;ベタインおよびその誘導体;ポリクオタニウム;エトキシル化された脂肪アルコールの硫酸塩;スルホスクシネート;サルコシネート;アルキルリン酸およびジアルキルリン酸およびそれらの塩;ならびに脂肪酸の石鹸、
・共界面活性剤:直鎖状脂肪アルコール、ならびに、とりわけ、ヘキサデシルアルコールおよびステアリルアルコールなど、
・増粘剤および/またはゲル化剤、ならびに、とりわけ、アクリルアミドエチルプロパンスルホン酸(AMPS)および/またはアクリルアミドおよび/またはアクリル酸および/またはアクリル酸の塩もしくはエステルの、親水性または両親媒性で架橋型または非架橋型のホモポリマーおよびコポリマー;キサンタンゴムまたはグアーゴム;セルロース誘導体;ならびにシリコーンゴム(ジメチコノール)、
・湿潤剤:ギルセリン(gylcerin)、プロピレングリコールおよび糖を包含するポリオール、ならびに、ヒアルロン酸などのムコ多糖類ならびにその塩およびエステルなど、
・経皮吸収を促進するための作用剤:アルコール、脂肪アルコールおよび脂肪酸、ならびにそのエステルまたはエーテル誘導体、ピロリドン、テルペン、精油およびα−ヒドロキシ酸など、
・着色料、
・保存料、
・光学的調整剤またはソフトフォーカス剤:無着色および着色された、有機および無機材料など。使用してもよい材料の中には、有機色素、無機色素、ポリマーおよび充填剤が含まれる。本発明品中に存在してもよい粒子は、天然、合成または半合成のものであってもよい。これらの光学的調整剤は、小板形状、球状、細長いもしくは針状の形状、または不規則な形状で、表面はコーティングされていてもいなくてもよく、多孔質または非多孔質、荷電または非荷電のものであってもよい。本発明において有用なそのような粒子としては以下が挙げられるが、これらに限定されない:雲母、ゼオライト、カオリン、シリカ、窒化ホウ素、ラウロイルリシン、ナイロン、ポリエチレン、タルク、スチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン/アクリル酸コポリマー、酸化アルミニウム、シリコーン樹脂、炭酸カルシウム、酢酸セルロース、PTFE、ポリメタクリル酸メチル、デンプン。この粒子は、EMD Chemicals,Inc.によりTIMIRON(登録商標)、COLORONA(登録商標)の商品名で供給されているもの、および、Engelhard Co.によりFLAMENCO(登録商標)、TIMICA(登録商標)の商品名で供給されているものなど、パール光沢付きの干渉色素であってもよい。さらに、この粒子は、タルク/二酸化チタン/アルミナ/シリカ複合材料粉末などの複合材料粉末、例えば、Coverleaf AR−80(登録商標)の商品名でCatalyst&Chemicals社により販売されているものなどであってもよい。当然ながら、この調合物は、それぞれが特定の視覚的利益の特徴を有する光学的調整剤の混合物を含有することで視覚効果の組合せを創出してもよい、
・金属イオン封鎖剤:EDTA塩など、
・香料、
・ならびにその混合物。なお、このリストは限定的なものではない。
【0034】
そのような添加物の他の例は、とりわけCTFA Dictionary(International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook、Cosmetic,Toiletry and Fragrance Association刊、第10版、2004)中に挙げられている。
【0035】
さらに、本発明の局所用組成物は、多様な活性剤を適切に含有してもよく、こうした活性剤は、以下から成る群から選択してもよい:
・抗酸化物質:アスコルビン酸およびその誘導体(パルミチン酸アスコルビル、テトライソパルミチン酸アスコルビル、アスコルビルグルコシド、アスコルビルリン酸マグネシウム、アスコルビルリン酸ナトリウムおよびソルビン酸アスコルビルなど);トコフェロールおよびその誘導体(酢酸トコフェリル、ソルビン酸トコフェリル、ならびに、トコフェロールの他のエステルなど);BHTおよびBHA;ならびに植物抽出物(例えば、コンドラス・クリプサス(Chondrus cripsus)、イワベンケイ属、高度好熱菌(Thermus thermophilus)、マテ茶葉、オークウッド、カユラペットバーク(kayu rapet bark)、桜の葉およびイランイランの葉由来のもの)など、
・抗加齢剤:アシルアミノ酸(例えば、SEDERMA製のMaxilip、Matrixyl3000もしくはBiopeptide CLまたはSEPPIC製のSepilift)、エンドウ(Pisum sativum)抽出物、加水分解大豆タンパク質、メチルシラノール誘導体(マンヌロン酸メチルシラノールなど)、加水分解ペポカボチャ(cucurbita pepo)種子油粕、セネデスムス(Scenedesmus)抽出物など、
・抗汚染剤:ワサビノキ(Moringa pterygosperma)の種子抽出物など、
・角質溶解剤:α−ヒドロキシ酸(例えば、グリコール酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、マンデル酸または酒石酸)およびβ−ヒドロキシ酸(例えばサリチル酸)ならびにそのエステル(C12〜13の乳酸アルキルなど)、および、これらのヒドロキシ酸を含有する植物抽出物(ハイビスカス・サブドリファ(Hibiscus sabdriffa)抽出物など)など、
・収斂剤:マンサク抽出物など、
・保湿剤:植物抽出物(西洋栗(Castanea sativa)抽出物、加水分解ヘーゼルナッツタンパク質、チュベローズ(Polyanthes tuberosa)の多糖、アルガン(Argania spinosa)の核油など)、および、特にMaruzen(日本)社によりPearl Extract(登録商標)の商品名で販売されている、コンキオリンを含有する真珠抽出物;2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンのホモポリマーおよびコポリマー(NOF製のLipidure HMおよびLipidure PBMなど);糖類(グルコース、フルクトース、マンノースまたはトレハロースなど);グリコサミノグリカンおよびその誘導体(ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウムおよびアセチル化ヒアルロン酸など);パンテノール;アラントイン;アロエベラ;遊離アミノ酸およびその誘導体;グルコサミン;クエン酸;尿素およびその誘導体ならびにセラミドなど、
・皮膚軟化剤:ポリメタクリル酸グリセリルなど;抗炎症剤:ビサボロール、アラントイン、トラネキサム酸、酸化亜鉛、イオウ酸化物およびその誘導体、硫酸コンドロイチン、グリチルリチン酸およびその誘導体(グリチルリチネートなど)など、
・ならびにその混合物。
【0036】
この局所用組成物は、有機および/または無機の日焼止め剤を含んでもよい。有機日焼止め剤の中でも、ブチルメトキシジベンゾイルメタン(HOFFMANN LA ROCHE製のParsol1789)などのジベンゾイルメタン誘導体、エチルヘキシルメトキシシンナメート(HOFFMANN LA ROCHE製のParsol MCX)などのケイ皮酸誘導体、サリチレート、パラアミノ安息香酸、β−β’−ジフェニルアクリレート誘導体、ベンゾフェノン誘導体、テレフタリリデンジカンフルスルホン酸などのベンジリデンカンフル誘導体、フェニルベンズイミダゾール誘導体、トリアジン誘導体、フェニルベンゾトリアゾール誘導体、アントラニル酸誘導体を挙げることができるが、その全ては、コーティングされているか、またはカプセルに封入されていてもよい。無機光防護剤の中でも、コーティングされているか、またはされていない金属酸化物から形成される色素または代替的にナノ色素(例えば、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムまたは酸化セリウムのナノ色素など)を挙げることができるが、これらは全てそれ自体が周知の紫外線防護剤である。
【0037】
加えて、本発明の局所用組成物のpHは、好ましくは4から8の範囲内、好ましくは4.5から7である。
【0038】
本発明による化粧用組成物は、メラニン形成(ステージI)の機序に関与する構造タンパク質の合成を遮断することが可能な少なくとも1つのホワイトニング剤(メラニン形成細胞に特異的な糖タンパク質Pmel17など)を含有してもよい。そのような活性剤は、Nikko Chemicals(日本)により販売されているトラネキサム酸セチルエステル(トランス4(アミノメチル)シクロヘキサンカルボン酸ヘキサデシルエステルヒドロクロリド)またはBASFによりCytovector(登録商標)の商品名で販売されているフェルラ酸Cytovector(水、グリコール、レシチン、フェルラ酸、ヒドロキシエチルセルロース)であってもよい。
【0039】
変形として、または加えて、本発明による組成物は、メラニン合成に対する阻害効果および/またはMITF発現に対する阻害効果および/または抗チロシナーゼ活性および/またはエンドセリン1合成に対する阻害効果を有するホワイトニング剤(特に、Maruzen社によりLicorice extract(登録商標)の商品名で販売されている甘草抽出物(甘草(glycyrrhiza glabra)抽出物)など)を含んでもよい。
【0040】
変形として、または加えて、本発明による組成物は、ビタミンC化合物など抗酸化効果も有するホワイトニング剤を含んでもよく、そうしたホワイトニング剤としては、アスコルビン酸塩、脂肪酸またはソルビン酸のアスコルビルエステルおよび他のアスコルビン酸誘導体、例えば、リン酸アスコルビル(リン酸アスコルビルマグネシウムおよびリン酸アスコルビルナトリウムなど)またはアスコルビン酸の糖エステル(これには、例えば、アスコルビル−2−グルコシド、2−O−α−D−グルコピラノシルL−アスコルベート、または6−O−β−D−ガラクトピラノシルL−アスコルベートが含まれる)が挙げられる。このタイプの活性剤は、特に、DKSH社によりAscorbyl glucoside(登録商標)の商品名で販売されている。
【0041】
本発明による組成物中には、他のホワイトニング剤が含まれていてもよい。フサザキスイセン(Narcissus tazetta)抽出物などの植物抽出物;アルブチン;コウジ酸;エラグ酸;システイン;4−チオレゾルシン;レゾルシノールまたはルシノールまたはその誘導体;グリチルリチン酸およびヒドロキノン−β−グルコシドなどの色素除去剤を挙げることができる。
【0042】
本発明によるこれらの組成物は、以下のような後天性の色素沈着過剰による不規則な色素沈着斑の症例において、ヒトの皮膚の色素を除去するために使用してもよい:肝斑(褐色斑);炎症後の黒皮症;日光性色素斑;加齢斑(レンティゴセナイル(lentigo senile));多くの場合、経口避妊薬もしくは他のホルモン薬などの薬物使用中、または香水を付けた後、または妊娠期間中に日光を浴びた際に皮膚上に現れる色素沈着斑;化学剥皮および皮膚切除により生じるか、レーザーによる表面再生の前後またはレーザー除毛の前後に生じる変色;外傷後の有色の角化症もしくは色素脱失(瘢痕)など。さらに、これらの組成物は、肌色または前述の色素沈着過剰および色素脱失の形態を薄く/明るくするために使用してもよい。
【0043】
したがって、本発明は、前記のような化粧用組成物をヒトの皮膚上に局所施用することを含む、ヒトの皮膚をホワイトニング、脱色または薄色化するための美容法にも関する。
【0044】
本発明はさらに、ヒトの皮膚の色素を除去することを意図した皮膚用製剤を製造するための、前述の組成物の使用にも関する。
【0045】
前述のプロセスおよび使用を実施してもよい皮膚領域は、顔の皮膚、胸部の皮膚、手および腕の皮膚または脚の皮膚など、好ましくは頭皮を除くヒトの皮膚の任意の領域であってもよい。
【0046】
本発明は、添付の図面と併せて以下の非限定的な実施例を参照することにより、さらによく理解されるであろう。
【実施例】
【0047】
以下の実施例は、本発明の範囲内の実施形態をさらに例示するものである。この実施例は、単に例示の目的で示すものであり、本発明を制限するものではないと解釈されたく、その理由は、本発明の範囲から逸脱しなくても本発明の多くの変形が可能だからである。
【0048】
[実施例1]
結合テスト:本発明による化合物の、AP−2およびAP−3アダプター複合体との相互作用の試験
合成:
Fmoc[(N−(9−フルオレニル)メトキシカルボニル)で保護されベンゾトリアゾール−1−イル−オキシトリピロリジノホスホニウムヘキサフルオロホスフェートで活性化されたアミノ酸とペプチド合成機とを用いて、本発明に従うペプチド化合物を5種合成した。樹脂および保護基からの切断後、Delta Pac C−18カラム(Millipore)および0.1%トリフルオロ酢酸、水中の0〜50%アセトニトリルの50分間の溶出を用いた逆相HPLCにより、ペプチドを精製した。全てのペプチドの純度は90%以上であり、HPLC、紫外線分光法および質量分析によりこれを確認した。全てのペプチドを凍結乾燥させて、使用するまで−20℃で保管した。バイオセンサー実験に先立ち、全てのペプチドをHPLC−純HO中で溶解させてストック濃度5mMとした。凍結/解凍の繰返しを避けるため、このストックの一定分量を凍結させた。
【0049】
このようにして作製した化合物は、以下のペプチド配列にあった:
化合物1:DERQPLLVE
化合物2:EERQPMLLD
化合物3:AEDEPLLME
化合物4:AEDEPLLVD
化合物5:MVEENPILME
【0050】
これらのペプチドのいずれも、いかなる公知のヒトタンパク質中にも見出されない。これらの化合物を、メラニン形成過程において鍵となる要素であるアダプター複合体(AP−2およびAP−3など)のヒトチロシナーゼ末端への結合を遮断する能力についてテストした。
【0051】
テストプロトコール:
AP−2およびAP−3などのアダプターが局在化シグナル含有ペプチドと結合することは、十分確立されている。中でも、TGN38のチロシンベースのシグナルは、これまでに知られている最も効率的なAP−2結合配列であり、これに対し、Lamp−1由来の同タイプのシグナルは、AP−1およびAP−3と結合することから、本発明者らの実験においてAP−3結合についての対照として使える。
【0052】
ヒトチロシナーゼは、その細胞質末端の配列中にチロシン残基も含有するが、この残基は、アダプター結合については関係がない。その代わり、この末端は、AP−2およびAP−3などのアダプターによって結合するジロイシンベースの局在化シグナルを含有する。
【0053】
アダプターとチロシナーゼ末端ペプチドとの間の結合は、表面プラズモン共鳴に基づくBIAcore3000バイオセンサー(GEHealthcare)を用いてリアルタイムで記録した。チオールカップリングを用いてCM5センサー表面の表面上にチロシナーゼ末端ペプチド(配列:−CRHKRKQLPEEKQPLLMEKEDYHSLYQSHL)を固定化した結果、≦300RUのペプチドが固定化された。手短に言えば、CM5の表面を、EDC/NHSを用いて流速10μl/分で2分間活性化させてから、PDEAを用いてさらに2分間改変させた。次いで、ペプチドを、pH4.5の10mM酢酸ナトリウム中に5μg/mlの濃度で流速5μl/分にて1分間注入した。次に、流速を20μl/分に調節し、50mMシステイン、1M NaClの注入により、残っている活性基を遮断した。ペプチド固定化に次いで、緩衝液A(50mM Tris pH8.0、250mM NaCl、0,005%Tween−20)を用いて流速30μl/分で表面を洗浄した。次に、精製したアダプターを緩衝液A中の100〜1000nMの範囲の濃度で2分間注入してから、2分間解離させた。50mM NaOHおよび10mM NaOH、0,5%SDSを用いて20秒のパルス注入を2回行うことにより表面を再生させた。AP−2およびAP−3アダプターの配列特異的な結合についての対照として、チロシンベースの局在化シグナルペプチドであるTGN38(配列−CRPKASDYQRL)およびLamp−1(配列−CRKRSHAGYQTI)を、チロシナーゼペプチドについて記載したのと全く同じようにセンサー表面に固定化した。
【0054】
競合実験については、注入に先立ち10分間、200nMのアダプターを、10〜1000倍モル過剰の、化合物ペプチド5種のうち1種と共にインキュベートした。固定化されたチロシナーゼ末端に結合するアダプターの比較のために、注入(結合期間)の終了時点および解離期間後のRU値を評価した。
【0055】
結果:
この実験の結果を添付の図面上に示す。
【0056】
図1に示すように、本発明の化合物5種は、AP−2ヘテロ四量体のμ2鎖に結合することが知られているペプチドであることから陽性対照として使用したRPKASDYQRLと比較して、TGN38へのAP−2の結合を有意には阻害しなかった。したがって、このテスト化合物はAP−2のμ2鎖に結合しないと推論できる。
【0057】
さらに、図2に示すように、本発明の化合物5種は、AP−3ヘテロ四量体のμ3鎖に結合することが知られているペプチドであることから陽性対照として使用したRKRSHAGYQTIと比較して、Lamp−1へのAP−3の結合を有意には阻害しなかった。したがって、このテスト化合物はAP−3のμ3鎖に結合しないと推論できる。
【0058】
[実施例2]
結合テスト:本発明による化合物が、AP−2およびAP−3へのチロシナーゼ結合に及ぼす阻害効果の試験
実施例1で合成した化合物5種がAP−2およびAP−3へのチロシナーゼの結合に及ぼす効果を定量するために、実施例1に記載したものと同様のテストを行った。阻害のために使用したアダプターおよび可溶性ペプチドのモル量は、実施例1に概要を説明したものと全く同じであった。
【0059】
陰性対照としては、実施例1で使用したものと同じ対照配列を使用したが、それは、チロシナーゼはAP−2およびAP−3のμ2およびμ3鎖にそれぞれ結合しないことがわかっているからである。さらに、陽性対照としてはEEKQPLLMEを使用したが、それは、この配列は、AP−2およびAP−3に結合することがわかっているヒトチロシナーゼの一部を内にもっているからである。
【0060】
図3でわかるように、本発明の化合物5種は、チロシナーゼへのAP−2の結合を強力に阻害し、化合物4が最も活性が高かった。
【0061】
さらに、図4で示されるように、これらの化合物はチロシナーゼへのAP−3の結合も非常に効率的に阻害し、この場合も化合物4が最も活性が高かった。
【0062】
したがって、これらの実施例から、本発明による化合物はチロシナーゼへのAP−2およびAP−3の結合を有効に遮断することが実証される。よって、こうした化合物は、メラノソームへのチロシナーゼの正しい細胞内局在化、ひいてはメラニン合成を遮断することになると考えられる。
【0063】
[実施例3]
本発明によるペプチドのメラニン形成細胞の細胞内透過の試験
テストプロトコール:
1g/lのグルコースを含有しフェノールレッドを含有しないDMEM(Invitrogen、参照番号11880028)に3g/lのグルコース(Sigma、参照番号G7021)を添加したもの、2mMのL−グルタミン、50UI/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトアビジン(Invitrogen、参照番号15070063)および10%のウシ胎仔血清(Invitrogen、10270098)が入った96ウェルのマイクロプレート中で、37℃、5%のCOの条件でB16メラノーマ細胞を培養した。24時間後、この培養培地を、α−MSHの安定な誘導体、すなわちNDP−MSH(NLE−4−D−PHE−7−Aメラニン形成細胞刺激ホルモン、Sigma、参照番号M−8764)を含有するかまたはしない(対照)および本発明によるペプチド(実施例1の化合物3またはそのN−パルミトイル誘導体)を含有するかまたはしないDMEM培地に置き換えた。ペプチドの透過を促進するために使用する作用剤であるリポフェクタミン(Invitrogen、参照番号1538−100)を用いた場合と用いない場合とで各ペプチドをテストした。次に、メラニン形成細胞を、37℃、5%のCOの条件で72時間インキュベートした。
【0064】
インキュベーション期間の終了時点で培地を取り除き、PBS溶液(リン酸緩衝生理食塩水)で細胞をすすいだ。対物20倍での顕微鏡検査(Cell Analyser(登録商標)100、GE Healthcareにおいて)、または、トリプシンでの酵素処理により細胞を剥がした後のフラックスサイトメトリー(Flux Cytometry)(Flux FACSarray、Becton Dickinson)により、各ペプチドの透過を分析した。
【0065】
結果:
以下の表1は、異なるペプチド濃度(4、20、100および500μg/ml)での、B16メラニン形成細胞中へのペプチド+FITC(イソチオシアン酸フルオレセイン)の透過量の測定値を示すものである。
【0066】
【表1】

【0067】
蛍光顕微鏡検査における観察から、ペプチドは細胞中に透過すること、および、この透過量はリポフェクタミンを加えると増えることが明確に実証される。これらの結果は、蛍光強度はペプチド濃度に直接依存することを示したフラックスサイトメトリーにより確認された。
【0068】
[実施例4]
実施例1の化合物3のN−パルミトイル誘導体がメラニン形成に及ぼす効果
テストプロトコール:
使用したプロトコールは、実施例3に記載のものと同じである。メラニン形成細胞を、37℃、5%のCOの条件で96時間インキュベートした。陽性対照としてコウジ酸を使用した。
【0069】
インキュベーション期間の終了時点で、各試料について405nmでの吸光度を測定することにより、メラニンの量を評価した。
【0070】
結果:
以下の表2は、実施例1の化合物3のN−パルミトイル誘導体が、0.5、1、2.5、5および10μg/mlでメラニンの合成に及ぼす効果を示すものである。
【0071】
【表2】

【0072】
NDP−MSHが存在するということは、メラニンが形成されることを明確に意味した。このメラニン合成誘導は、36から80μg/mlの間でテストしたコウジ酸により明確に阻害された。この結果により、テストの有効性が確認される。
【0073】
リポフェクタミンの存在は、NDP−MSHと共にインキュベートしたB16メラニン形成細胞によるメラニンの合成に変化を及ぼさなかった。
【0074】
リポフェクタミンの不在下で実施例1の化合物3のN−パルミトイル誘導体を用いて処理(1から10μg/mlの間でテストした)すると、NDP−MSHにより高まったメラニン形成を明確に阻害できた(阻害率は9から20%)。この阻害率は、リポフェクタミンが存在する場合に増加した(1から10μg/mlの間での阻害率は5から29%)。
【0075】
したがって、この試験から、実施例1の化合物3のN−パルミトイル誘導体など本発明によるペプチドは、メラニン形成細胞によるメラニンの合成を阻害することが確認される。
【0076】
[実施例5]
化粧用組成物
これ以降に記載の組成物は、以下の成分から従来の方法により調製できる。含有量は組成物の総重量に対する重量比で表す。
【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
[RN−CH(Ra)−CO]−(AA−(AA−X−X−X−Y−Y−Y−X−(AA−[NH−CH(Rb)−COOR (I)
(式中、
、R、Rはそれぞれ独立に、
・H、
・場合によりヒドロキシル化および/または硫化されたC〜C22の直鎖状炭化水素基であり、前記基は飽和でも不飽和でもよく、
・場合によりヒドロキシル化および/または硫化されたC〜C22の分枝状もしくは環状の炭化水素基であり、前記基は飽和でも不飽和でもよく、または
・ビオチン基
を表し、
およびRの少なくとも一方は代替的に保護基または遮断基であってもよく、
RaおよびRbはそれぞれ独立に、H、C〜Cの直鎖状アルキル基またはC〜Cの分枝状アルキル基を表し、各アルキル基は、OH、SH、COOH、CONH、NH−S−CH、NH−C(NH)−NHから成る群から選択される1つもしくは複数の置換基で、または環状もしくは複素環状の芳香族基で場合により置換されており、
、XおよびXはそれぞれ独立に極性のアミノ酸基を表し、
は、好ましくは荷電していない、小鎖のアミノ酸基であり、
、YおよびYはそれぞれ独立に疎水性のアミノ酸基を表すが、ただしYおよびYの少なくとも一方はロイシンまたはイソロイシンであり、
AA、AAおよびAAは独立にアミノ酸基を示し、この場合、mおよびnが1を超えるときは、AAおよびAAのアミノ酸基はそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、
mおよびnは独立に0から10の範囲の整数を表し、
a、bおよびcは独立に0または1であり、
全ての前記アミノ酸基は独立にL、DまたはDL立体配置のものであってもよく、
ただし、Xがアルギニン(R)またはリシン(K)であるとき、Yはメチオニン(M)以外である)
を有する化合物。
【請求項2】
前記極性のアミノ酸基が、アスパラギン(N)、セリン(S)、システイン(C)、グルタミン(Q)、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、トレオニン(T)、リシン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)、チロシン(Y)およびトリプトファン(W)から成る群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記小鎖のアミノ酸基が、プロリン(P)、アスパラギン(N)、アスパラギン酸(D)、トレオニン(T)、バリン(V)、システイン(C)、アラニン(A)、セリン(S)およびグリシン(G)から成る群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
前記疎水性のアミノ酸基が、アラニン(A)、グリシン(G)、システイン(C)、トレオニン(T)、バリン(V)、イソロイシン(I)、ロイシン(L)、リシン(K)、メチオニン(M)、ヒスチジン(H)、チロシン(Y)、トリプトファン(W)およびフェニルアラニン(F)から成る群から選択されることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の化合物。
【請求項5】
前記Rおよび/またはRの炭化水素基が、パルミトイル基など、6から20個の炭素原子を有するアルキルカルボニル基であることを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
・AAおよび/またはXは極性のアミノ酸基を示し、前記基は好ましくは荷電し、より好ましくは負に荷電しており、および/または
・Xは荷電した極性のアミノ酸基であり、および/または
・Xはプロリン(P)であり、および/または
・Yおよび/またはYおよび/またはYは、バリン(V)、イソロイシン(I)またはロイシン(L)など脂肪族のアミノ酸基であり、
ただし、Xがアルギニン(R)またはリシン(K)であるとき、Yはメチオニン(M)以外である
ことを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の化合物。
【請求項7】
・b=1であり、AAはグルタミン酸(E)であり、
・Xはアルギニン(R)、アスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)であり、
・Xはグルタミン(Q)、グルタミン酸(E)またはアスパラギン(N)であり、
・Xはプロリン(P)であり、
・Xはアスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)であり、
・Yはロイシン(L)、メチオニン(M)またはイソロイシン(I)、好ましくはロイシン(L)であり、
・Yはロイシン(L)であり、
・Yはバリン(V)、ロイシン(L)またはメチオニン(M)であり、および/または
・n=m=a=c=0、または、n=m=c=0かつa=1のいずれかであり、
ただし、Xがアルギニン(R)またはリシン(K)であるとき、Yはメチオニン(M)以外である
ことを特徴とする、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
前記請求項に記載の全ての条件が満たされることを特徴とする、請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
・b=1であり、AAがグルタミン酸(E)であり、
・Xがアスパラギン酸(D)であり、
・Xがグルタミン酸(E)であり、
・Xがプロリン(P)であり、
・Xがグルタミン酸(E)であり、
・Yがロイシン(L)であり、
・Yがロイシン(L)であり、
・Yがメチオニン(M)であり、
・n=m=a=c=0、または、n=m=c=0かつa=1のいずれかである
ことを特徴とする、請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
・b=2であり、
・AA2基のそれぞれがグルタミン酸(E)であり、
・Y1=Y2=ロイシン(L)である
ことを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の化合物。
【請求項11】
生理学的に許容される媒体中に請求項1から10のいずれかに記載の少なくとも1つのペプチド化合物またはその混合物を含む化粧用または皮膚用の組成物。
【請求項12】
前記ペプチド化合物が、前記組成物の総重重量に対し0.001から20重量%、より好ましくは0.01から10重量%、さらにより好ましくは0.1から5重量%を占めることを特徴とする、請求項11に記載の化粧用または皮膚用の組成物。
【請求項13】
請求項11または12に記載の化粧用組成物をヒトの皮膚上に局所施用することを含む、ヒトの皮膚をホワイトニング、脱色または薄色化するための美容法。
【請求項14】
ヒトの皮膚の色素を除去することを意図した皮膚用製剤を製造するための、請求項11または12に記載の組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−533135(P2010−533135A)
【公表日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515448(P2010−515448)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【国際出願番号】PCT/EP2008/057558
【国際公開番号】WO2009/010356
【国際公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(508283406)シャネル パフュームズ ビューテ (23)
【Fターム(参考)】