説明

新規なポリウレタン分散剤

本発明は、A:平均官能価が2.0〜5のポリイソシアネート1種以上と、B:B1モノヒドロキシル化合物、及びB2モノヒドロキシ−、モノカルボン酸化合物の混合物とから、中間体を形成し、次いでこの中間体と、C:不飽和モノヒドロキシ官能アンカー基とが反応した、反応生成物を含む分散剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素を含まない不飽和アンカー基を有する化合物に基づく分散剤に関する。
【0002】
固体を液状媒体に導入するのには、強力な機械力が必要である。これは、固体の周囲媒体による湿潤性、及びこの媒体への親和性に大きく依存する。この分散する力を低減するために、混和を容易にする分散剤を使用するのが通例である。これらは、ほとんどの場合、アニオン活性又はカチオン活性及びノニオン構造を有し、界面活性剤としても公知の界面活性物質である。これらの物質を比較的少量、固体に直接適用するか、あるいは分散媒に導入することによって加える。分散に必要な労力は、このような界面活性剤によって著しく低減される。
【0003】
これらの固形分は分散工程後に再凝集する傾向があり、このため先に分散のために費やした労力の価値を低下させ、そして重大な問題を起こすことも公知である。この現象は、ロンドン/ファンデルワールス力によって説明され、これにより固体が互いに引き付けられる。これらの吸引力に打ち勝つために、固体上に吸着層を付着する必要である。これは界面活性剤を用いることにより実現される。
【0004】
しかし、分散中及び分散後、固体粒子と周囲の媒体の間で相互作用が起こり、高濃度で存在する周囲媒体による置換を伴う界面活性剤の脱着が起こる。しかし、この周囲媒体は、ほとんどの場合、同じような安定な吸着層を形成することができず、そして全ての系が壊れる。これは、液体系における粘度の上昇、ラッカー及びコーティングにおける光沢の低下と色調のシフト、顔料着色プラスチックにおける着色力の不十分な発色、及び強化プラスチックにおける機械的強度の低下から明らかである。
【0005】
欧州特許EP0438836B1(EFKA)は、A:平均官能価が2.0〜5のポリイソシアネート1種以上と、B:B1モノヒドロキシル化合物、及びB2モノヒドロキシル、モノカルボン酸化合物又はモノアミノ、モノカルボン酸化合物の混合物、並びにC:塩基性環窒素少なくとも1個及びイソシアネート反応性基を含有する化合物との反応生成物を含み、イソシアネート基の約30〜70%がBと反応し、かつ約30〜70%がCと反応する、分散剤又はその塩に関する。
【0006】
本発明の目的は、窒素を含まず、良好な分散性(dispersancy)を示し、かつ改良された色の濃さを示す分散剤を提供することである。
【0007】
不飽和のモノヒドロキシ官能成分がポリウレタン主鎖に結合された場合には、優れた分散剤を得ることができることが、今や見出された。
【0008】
したがって、本発明は、
A:平均官能価が2.0〜5のポリイソシアネート1種以上と、
B:B1モノヒドロキシル化合物、及びB2モノヒドロキシ−、モノカルボン酸化合物の混合物とから、中間体を形成し、次いでこの中間体と、
C:不飽和モノヒドロキシ官能アンカー基とが反応した
反応生成物を含む、分散剤に関する。
【0009】
成分Aは、官能価が約2〜約5、好ましくは約4のポリイソシアネートである。適切なポリイソシアネートは、商品名DESMODURでBayerから市販されているジ−及びポリイソシアネートのような市販製品である。
【0010】
モノヒドロキシ化合物B1、及びモノヒドロキシ−、モノカルボン酸化合物B2の混合物は、上で参照した特許EP438836B1に記載の通りであり、そこに以下のように開示されている。
【0011】
用いるモノヒドロキシル化合物B1は、脂肪族、脂環式及び/又はアルアリファチック(araliphatic)化合物とすることができる。このような化合物の混合物も使用できる。直鎖状及び分岐状脂肪族又はアルアリファチック化合物を用いることができる。それらは飽和でも不飽和でもよい。飽和化合物が好ましい。
【0012】
モノヒドロキシル化合物は、少なくとも1個の−O−及び/又はCOO−基も含有することができ、それはこれらがポリエーテル、ポリエステル、又は混合ポリエーテル−ポリエステルであることを意味する。ポリエステルの例は、モノヒドロキシル出発成分を用いて、ラクトン、例えばプロピオラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン又はこれらの置換誘導体の重合により得ることができるものを含む。用いる出発成分は、モノアルコール、炭素原子数4〜30、好ましくは4〜14のもの、例えばn−ブタノールが適切であるが、比較的長鎖の、飽和及び不飽和のアルコール、例えばセチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、リノロイル(linoloyl)アルコール、オキソアルコール、シクロヘキサノール、フェニルエタノール、ネオペンチルアルコールも適切である。上述したタイプのアルコール並びに置換及び非置換アルコールは、エチレンオキシド及び/又はプロピレンオキシドを用いるアルコキシル化の公知の方法により、ポリオキシアルキレンモノアルキル−、アリール−、アラルキル−及びシクロアルキルエーテルに転化されてもよく、これらのモノヒドロキシポリエーテルは、ラクトン重合用出発成分として記載された方法で用いることができる。上述の化合物の混合物は、全ての場合、用いることができる。これらのポリエステルは、分子量が約300〜8000、好ましくは500〜5000の範囲内であるのが適切である。
【0013】
アルカノール、シクロアルカノール及びフェノールのアルコキシル化により得られるモノヒドロキシポリエーテルも使用することができる。これらのポリエーテルは、分子量が約350〜1500の範囲内であるのが適切である。
【0014】
好ましくは、B1は、C16〜C30アルコール、例えばセチルアルコール又はステアリルアルコールから始まるカプロラクトンエステルである。
【0015】
ヒドロキシル化合物の混合物はまた、モノヒドロキシ−モノカルボン酸化合物B2を少なくとも1種含有する。
【0016】
適切なモノヒドロキシ−モノカルボン酸化合物は、ジオールとジカルボン酸又は無水物との反応による、ヒドロキシカルボン酸のエステル化により得ることができる。高分子量のジオール、例えばポリエチレングリコールから出発し、それを単一のジカルボン酸又はジカルボン酸無水物と反応させることができる。高分子量のジカルボン酸と低分子量のジオールを反応させることもできる。さらに、ほぼ化学量論の量の低分子量のジオールと低分子量のジカルボン酸とを、できるだけ多くのモノヒドロキシ−モノカルボン酸が形成し、ともかくジヒドロキシル化合物が形成しないか実質的に形成しないような条件下で、互いに反応させることもできる。
【0017】
ジカルボン酸及び無水物は、市販元から入手が容易で、これらの製造方法は周知である。例は、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などである。好ましい例は、マレイン酸である。
【0018】
ジオールは、例えば、エチレングリコール及びプロピレングリコール及びこれらの混合物、又は他のグリコール、例えば1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール(octanedol)などを含むグリコールである。
【0019】
好ましくは、B2は、ジカルボン酸と、高分子量のジオール、例えばポリエチレングリコールとの反応生成物である。
【0020】
一方ではモノヒドロキシル化合物に、他方ではモノヒドロキシ−モノカルボン酸化合物に含まれるヒドロキシル基の量の比は、比較的広い範囲で、その用途に応じて変えることができる。好ましくは、モノヒドロキシ−モノカルボン酸化合物は、モノヒドロキシル化合物に対して足りなく含まれる。両方のタイプの化合物に由来するヒドロキシル基の数の比は、1:1〜10:1である。好ましくは、この比は2:1〜5:1の範囲にある。
【0021】
本発明の主な局面は、不飽和アンカー基Cである。不飽和の脂肪族もしくは脂環式のアルコール、又は芳香族置換基を有するアルコール、又はエトキシル化不飽和アルコールが適切である。不飽和の脂肪族アルコールは、例えばアリルアルコール、ブテノール、へキセノール及び2−ヒドロキシエチルアクリレートなど、又はアセチレン化合物を有するアルコール、例えばプロパルギルアルコール、ブチネノール(butynenols)などである。
【0022】
アンカー基Cは、窒素を含まない。アンカー特性は、二重結合に基づいている。
【0023】
不飽和の脂環式アルコールは、シクロへキセノール(cyclohexeneols)又はシクロオクテノールなどである。
【0024】
芳香族置換基を有するアルコールは、例えば2−チオフェンメタノール又はフルフリルアルコールなどである。
【0025】
エトキシル化アルコールの例は、商品名Korantin PMで市販されているプロパルギルアルコールアルコキシレートである。
【0026】
好ましい化合物Cは、プロパルギルアルコールである。
【0027】
イソシアネート基の反応は、公知の方法を適用することにより行う。一般に、反応を、最初の段階で、ポリイソシアネートと、モノヒドロキシル化合物及びモノヒドロキシ−モノカルボン酸化合物の混合物とを反応させるように行うのが好ましい。この反応は通常、適切な溶剤(例えば炭化水素、例えばキシレン、トルエン、エーテル、例えばジオキサン、エステル、例えば酢酸ブチル、メトキシプロピルアセタート、及びジメチルホルムアミド)中で、場合により触媒、例えばジブチルスズジラウレート、鉄アセチルアセトナト又はトリエチレンジアミンの存在下で行う。まずポリイソシアネートとモノヒドロキシル化合物を反応させ、さらに得られた反応生成物とカルボン酸化合物とを反応させることもできる。
【0028】
一般にイソシアネート基の約40〜80%が反応するこの反応の後、不飽和のモノヒドロキシ官能化合物Cとの反応を行う。これによりイソシアネート基約20〜60%の反応が導かれる。反応しなかったかもしれないイソシアネート基は、最後に低級アルコール又は同等の化合物との反応により不活性化される。特にブタノールが適切に用いられる。
【0029】
したがって、本発明はさらに、
A:平均官能価が2.0〜5のポリイソシアネート1種以上と、
B:B1モノヒドロキシル化合物、及びB2モノヒドロキシ−、モノカルボン酸化合物の混合物とを反応させて中間体を形成し、次いでこの中間体と、
C:不飽和モノヒドロキシ官能アンカー基とを反応させること
を含み、ポリイソシアネートAのイソシアネート基の40〜80%がB1及びB2と反応し、かつイソシアネート基の20〜60%がCと反応する、分散剤の製造方法に関する。
【0030】
本発明は、さらに、固体化合物、好ましくは顔料を分散させるための分散剤の使用に関する。
【0031】
実施例
ここで、本発明をいくつかの実施例によって具体的に説明する。
【0032】
実施例1:
B1の後にB2を添加する一般的な合成手順。
【0033】
温度計、冷却器及びスターラを備えた250mlの3口フラスコ中、n−酢酸ブチル25部、メトキシプロピルアセタート20部及びトルエンジイソシアネートペンタマー(BuOAc中、約50%)24部を、窒素下、75℃に加熱した。モノヒドロキシ化合物から出発するカプロラクトンエステル15部を加えた。混合物を75℃で2時間攪拌した。ヒドロキシカルボン酸4部及び2部のポリエチレングリコール1000を加え、75℃で2時間反応させた。次に、不飽和モノヒドロキシ官能成分C[量及び種類は、表1を参照]を加え、75℃で1時間攪拌した。最後の工程で、過剰なフリーNCO−基をs−ブタノール3部で捕獲し、固形分をBuOAcで40%に修正した。
【0034】
実施例1A:
B1及びB2を同時に添加する一般的な合成手順。
【0035】
温度計、冷却器及びスターラを備えた250mlの3口フラスコ中で、n−酢酸ブチル25部、メトキシプロピルアセタート20部及びトルエンジイソシアネートペンタマー(BuOAc中、約50%)24部を、窒素下、75℃に加熱した。B1:モノヒドロキシ化合物から出発するカプロラクトンエステル15部、B2:ヒドロキシカルボン酸4部及び2部のポリエチレングリコール1000を同時に加え、75℃で3時間反応させた。次に、モノヒドロキシ官能成分[量及び種類は表1を参照]を加え、75℃で1時間攪拌した。最後の工程で、過剰なフリーNCO−基をs−ブタノール3部で捕獲し、固形分をBuOAcで40%に修正した。
【0036】
【表1】

【0037】
実施例2:応用例
【0038】
【表2】


EFKA 4047は、市販されているポリウレタン分散剤である。
EFKA 6745は、市販されているフタロシアニン顔料用の分散剤である。
Laropal(登録商標)A 81は、BASFから市販されている、尿素及び脂肪族アルデヒドの縮合物である。
Ircogel 905(Lubrizol)は、チキソトロープ剤である。
【0039】
生成物を、カーボンブラック分散性及びHeliogen blue分散性についてHaakeレオロジー試験を用いて試験した。粘度を、Rheometer Haake RS 600で測定した。特に、Pa.sで示される分散系の粘度は、種々の剪断勾配(shear gradient)(1/sで示される)で測定した。これらの測定の結果は表3及び4に見られる。
【0040】
【表3】

【0041】
【表4】

【0042】
表3及び4から、分散性は良好であり、市販されている分散剤EFKA 4047(ポリウレタン分散剤)と同等であることが分かる。
【0043】
表5:種々の顔料コンセントレートを用いる2液型PUコーティング
混和:低剪断(手練り)
ドローダウン:75μm
ポリエステルフィルム
【表5】

【0044】
表6:光沢、シーディング(seeding)、透明度、ラブ・アウト(rub-out)、均質性、及び色の点からの2液型PUコーティング塗布結果
シーン・トリグロスメータ(sheen triglossmaster)で測定した光沢
【表6】


結果の説明:
s=シーディング
T=透明度
r=ラブ・アウト
c=色
h=均質性
シーディング:
1=ぶつなし
8=多数のぶつ
透明度:
1=透明
8=不透明
ラブ・アウト:
1=フローティング(floating)なし
8=多数のフローティング
均質性:
1=均質
8=不均質
色:
R=対照
1=対照より良好な色の濃さ
4=対照と同じ色の濃さ
8=対照より劣る色の濃さ
【0045】
上の表から、プロパルギルアンカー基を有する分散剤について色の濃さが改良されたことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A:平均官能価が2.0〜5のポリイソシアネート1種以上と、
B:B1モノヒドロキシル化合物、及びB2モノヒドロキシ−、モノカルボン酸化合物の混合物とから、中間体を形成し、次いでこの中間体と、
C:不飽和モノヒドロキシ官能アンカー基とが反応した
反応生成物を含む、分散剤。
【請求項2】
ポリイソシアネートAのイソシアネート基の40〜80%がB1及びB2と反応し、かつイソシアネート基の20〜60%がCと反応する、請求項1記載の分散剤。
【請求項3】
B1がC16〜C30アルコールから始まるカプロラクトンエステルであり、B2がジカルボン酸とジオールとの反応生成物であり、Cが不飽和の脂肪族もしくは脂環式のアルコール、又は芳香族置換基を有するアルコール、又はエトキシル化不飽和アルコールである、請求項1記載の分散剤。
【請求項4】
B2がジカルボン酸とポリエチレングリコールとの反応生成物であり、かつCがプロパルギルアルコールである、請求項3記載の分散剤。
【請求項5】
A:平均官能価が2.0〜5のポリイソシアネート1種以上と、
B:B1モノヒドロキシル化合物、及びB2モノヒドロキシ−、モノカルボン酸化合物の混合物とを反応させて中間体を形成し、次いでこの中間体と、
C:不飽和モノヒドロキシ官能アンカー基とを反応させること
を含み、ポリイソシアネートAのイソシアネート基の40〜80%がB1及びB2と反応し、かつイソシアネート基の20〜60%がCと反応する、請求項1〜4記載の分散剤の製造方法。
【請求項6】
固体化合物、好ましくは顔料を分散させるための、請求項1〜4記載の分散剤の使用。

【公表番号】特表2009−527609(P2009−527609A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555756(P2008−555756)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051459
【国際公開番号】WO2007/096290
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(508120547)チバ ホールディング インコーポレーテッド (81)
【氏名又は名称原語表記】CIBA HOLDING INC.
【Fターム(参考)】