説明

新規なポリカルボン酸系重合体

【課題】本発明は各種固形粉体系において高い分散性能を有するポリカルボン酸系重合体を提供することを課題とする。
【解決手段】重合性結合部位を有する反応性アルコール誘導体及び二塩基酸系誘導体からなるポリカルボン酸系重合体において、反応性アルコール誘導体のポリアルキレンオキサイド鎖の末端部を炭素原子数3又は4のポリアルキレンオキサイド付加とし、このとき、末端部における炭素原子数3又は4のアルキレンオキサイドをアルキレンオキサイド鎖の全モル量に対して0.1乃至30mol%の割合で有することを特徴とするポリカルボン酸系重合体を提供すること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なポリカルボン酸系重合体に関する。より詳しくは、末端に疎水基を有した不飽和アルコールアルキレンオキサイド付加物に由来する構成単位と不飽和カルボン酸カルボン酸に由来する構成単位を含みて構成されることを特徴とするポリカルボン酸系重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不飽和アルコールアルキレンオキサイド付加物系単量体と不飽和カルボン酸系単量体より構成される重合体は、種々の粒子を捕集し、また、水中への優れた分散能を有することから、界面活性剤や各種固形粉体系の分散剤等として広く使用されている。
【0003】
上述の重合体は、各種用途においてその技術が公開されている。
例えば、特許文献1には不飽和カルボン酸系成分単位(I)と不飽和アルコール系成分単位(II)より得られた水溶性共重合体の水系スラリー分散剤、セメント混和剤、スケール防止剤、洗剤用ビルダー、故紙再生用脱墨剤、綿の精練洗浄剤、石炭用分散剤等への使用が提案されている。
また、特許文献2にはα,β−不飽和カルボン酸またはその無水物と炭素数2〜18のオキシアルキレン基を有するアルケニルエーテルとの共重合体が石膏用分散剤として好適な分散性(流動性)と減水性を発揮したとする結果が示されている。
このほか、炭素数2〜18のオキシアルキレン基を有する不飽和カルボン酸系単量体及び/又は不飽和酸無水物系単量体並びに不飽和アルコール系単量体の共重合により得られ、その一部にアミノ基が導入されてなるアミノ基含有重合体からなる洗剤ビルダー(特許文献3)、エチレン性不飽和モノカルボン酸、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート及びエチレン性不飽和ジカルボン酸の共重合体の塩を含有する無機顔料用分散剤(特許文献4)などの技術が公開されている。
【0004】
上記特許文献1乃至4においては、不飽和アルコールアルキレンオキサイド付加物において2種以上のアルキレンオキサイド(例えばエチレンオキサイドとプロピレンオキサイド)の混合付加が提案されてはいるものの、実際の試験例はエチレンオキサイドの単独付加のアルコールを用いた結果にとどまり、2種以上のアルキレンオキサイドを用いた場合にその付加させる順序あるいは部位については検討がなされていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来の技術背景の下、分散剤としての性能をさらに改良すべく為されたものである。
また例えば、水硬性組成物への用途に於いては、作業性の確保を目的として高い減水性能が要求されるだけでなく、工場製品であるため硬化遅延性の改善も重視されることとなる。特に硬化遅延性は重合体に含まれる酸基の種類に影響されたり、或いは、分散剤の添加量、すなわち分散剤の減水性により左右されることが多い。また製品の製造効率向上の観点からは機械成形性も重要視され、型枠や押圧面からの剥離性に優れ、成形体の角欠けがないことが望まれる。さらに、上記組成物中の空気量の調整ができること、あるいは、用途によっては成形体の外観(例えば石膏製品(強化ボード、陶芸用石膏など)等)が着色などによって損なわれないことも重要な性能とされる。
このため、これらを十分に検討し、そして様々な性能を満足できる分散剤、さらには各種水硬性組成物用途向けの添加剤の登場が待ち望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は鋭意検討した結果、重合性結合部位を有する反応性アルコール誘導体及び二塩基酸系誘導体からなるポリカルボン酸系重合体において、反応性アルコール誘導体のポリアルキレンオキサイド鎖の末端部の一部のものを炭素原子数3又は4のポリアルキレンオキサイド付加とし、すなわち、末端部における炭素原子数3又は4のアルキレンオキサイドをアルキレンオキサイド鎖の全モル量に対して0.1乃至30mol%の割合で含有することを特徴とするポリカルボン酸系重合体が固形粉体の水性分散液において優れた分散性能を発揮し、水硬性組成物に添加した場合には減水性能及び低硬化遅延性をも発揮することを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、不飽和アルコールアルキレンオキサイド系化合物に由来する構成単位並びに不飽和カルボン酸系化合物に由来する構成単位を含みて構成されるポリカルボン酸系重合体において、該重合体の主鎖骨格に結合するグラフト鎖は主としてエチレンオキサイドから構成されるポリアルキレンオキサイド鎖を含み、さらに該ポリアルキレンオキサイド鎖の末端部は、該グラフト鎖のアルキレンオキサイドの全モル量に対して0.1乃至30mol%の割合で炭素原子数3又は4のアルキレンオキサイドを有していることを特徴とする、ポリカルボン酸系重合体に関する。
【0008】
また本発明は、前記不飽和カルボン酸系化合物由来の構成単位の一部又は全部がフマル酸及び/またはその誘導体に由来する構成単位であることを特徴とする、ポリカルボン酸系重合体に関する。
【0009】
そして本発明は、前記ポリカルボン酸系重合体が、下記の式(I)で示される構成単位(I)及び式(II)で示される構成単位(II)を含みて構成され、該構成単位(I)におけるポリアルキレンオキサイド鎖の末端部が、炭素原子数3又は4のアルキレンオキサイドを、該アルキレンオキサイド鎖の全モル量に対して0.1乃至30mol%の割合で有することを特徴とする、ポリカルボン酸系重合体に関する。
【化1】

(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素原子又は炭素原子数1乃至22の炭化水素基を表し、Xは―(CH2)bO―を表し、AOは炭素原子数2乃至4のアルキレ
ンオキサイド基を表す。aはアルキレンオキサイドの平均付加モル数で1乃至200の数を表し、bは1乃至20の整数を表す。)
【化2】

(式中、R5、R6、R7、R8はそれぞれ独立して水素原子又は炭素原子数1乃至22の炭化水素基、−COOH、−COOM、−COOYを表すか、あるいはR5とR6、若しくはR7とR8は一緒になって酸無水物を形成する。Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、アルカノールアミンを表し、Yは炭素原子数1乃至22の炭化水素基または−(AO)c−R9を表し、AOは炭素原子数2乃至4のアルキレンオキサイド基を表し
、cはアルキレンオキサイドの平均付加モル数で1乃至200の数を表し、R9は水素原
子又は炭素原子数1乃至22の炭化水素基を表す。)
さらに本発明は、前記ポリカルボン酸系重合体が、前記構成単位(I)及び構成単位(II)に加え、更に下記の式(III)で表される構成単位(III)を含みて構成されることを特徴とする、ポリカルボン酸系重合体に関する。
【化3】

(式中、Zは二塩基酸とポリアルキレンポリアミンを縮合させたポリアミドポリアミン及び/又は該ポリアミドポリアミンの活性イミノ基、アミノ基、アミド残基1当量に対して炭素原子数2乃至4のアルキレンオキサイドを0.1乃至10モル付加させたポリアミドポリアミン変性物が、アミド結合を介して主鎖の炭素原子と結合する基を表す。)
【0010】
そして本発明は、不飽和アルコールアルキレンオキサイド系化合物に由来する構成単位並びに不飽和カルボン酸系化合物に由来する構成単位を含みて構成されるポリカルボン酸系重合体において、該重合体の主鎖骨格に結合するグラフト鎖は主としてエチレンオキサイドから構成されるポリアルキレンオキサイド鎖を含み、さらに該ポリアルキレンオキサイド鎖の末端部は、該グラフト鎖のアルキレンオキサイドの全モル量に対して0.1乃至30mol%の割合で炭素原子数3又は4のアルキレンオキサイドを有しており、該不飽和カルボン酸系化合物に由来する構成単位の一部又は全部がフマル酸及び/またはその誘導体に由来する構成単位であることを特徴とする、ポリカルボン酸系重合体に関する。
【0011】
加えて本発明は、前記のポリカルボン酸系重合体に加え、二塩基酸とポリアルキレンポリアミンを縮合させたポリアミドポリアミン及び/又は該ポリアミドポリアミンの活性イミノ基、アミノ基、アミド残基1当量に対して炭素原子数2乃至4のアルキレンオキサイドを0.1乃至10モル付加させたポリアミドポリアミン変性物を含有することを特徴とする、ポリカルボン酸系重合体組成物に関する。
【0012】
そして本発明は、前記ポリカルボン酸系重合体又はポリカルボン酸系重合体組成物を含む、水硬性組成物用分散剤、石膏用添加剤、コンクリート外装板用添加剤並びに軽量コンクリート用減水剤に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、各種固形粉体の水性分散液に対して優れた分散性能を有し、さらに硬化遅延性や成形性を向上させ、空気量調整能力にも優れ、しかも得られた硬化体の外観を優れたものとすることができる、ポリカルボン酸系重合体を提供することができる。
従って本発明により、水硬性組成物用分散剤、石膏用添加剤、コンクリート外装板用添加剤、軽量コンクリート用減水剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、不飽和アルコールアルキレンオキサイド系化合物に由来する構成単位並びに不飽和カルボン酸系化合物に由来する構成単位を含みて構成されるポリカルボン酸系重合体において、該重合体の主鎖骨格に結合するグラフト鎖は主としてエチレンオキサイドから構成されるポリアルキレンオキサイド鎖を含み、さらに該ポリアルキレンオキサイド鎖の末端部は、該グラフト鎖のアルキレンオキサイドの全モル量に対して0.1乃至30mol%の割合で炭素原子数3又は4のアルキレンオキサイドを有していることを特徴とする、ポリカルボン酸系重合体に関するものである。より詳細には、該ポリカルボン酸系重合体は上記に示す構成単位(I)及び構成単位(II)より構成され、さらに該ポリカルボン酸系重合体は、該構成単位(I)及び(II)に加え、ポリアミドポリアミン及び/
又はポリアミドポリアミン変性物由来の上記構成単位(III)を含みて構成される。このように構成されたポリカルボン酸系重合体は、主鎖骨格にポリアルキレンオキサイド鎖、ポリアミドポリアミン鎖などのグラフト鎖が結合した櫛型重合体の構造を有している。
また本発明のポリカルボン酸系重合体は、さらに、ポリアミドポリアミン及び/又はポリアミドポリアミン変性物を含み、組成物の形態となることもできる。
以下に本発明を詳細に説明する。
【0015】
[構成単位(I)及び構成単位(II)]
本発明のポリカルボン酸系重合体を構成する構成単位(I)は下記式で表される。
【化4】

(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素原子又は炭素原子数1乃至22の炭化水素基を表し、Xは―(CH2)bO―を表し、AOは炭素原子数2乃至4のアルキレ
ンオキサイド基を表す。aはアルキレンオキサイドの平均付加モル数で1乃至200の数を表し、bは1乃至20の整数を表す。)
【0016】
上記ポリアルキレンオキサイド鎖−(AO)a−は好ましくは主としてエチレンオキサイドからなり、そしてその平均付加モル数は30以上であること、より好ましくは50以上であることが分散性能を改善する点で望ましい。
上記構成単位(I)において、ポリアルキレンオキサイド鎖の末端部(R4との結合位
)は、炭素原子数3のプロピレンオキサイド又は炭素原子数4のブチレンオキサイドを、該アルキレンオキサイド鎖全モル数に対して0.1乃至30mol%の範囲で含有する。さらに望ましくは0.1乃至20mol%の範囲で、より好ましくは0.1乃至10mol%又は12乃至20mol%の範囲で、最も好ましくは、0.5乃至5mol%又は15乃至20mol%の範囲で有することにより、その分散性を著しく改善する点で好ましい。
さらに、好ましくはR4は水素原子、メチル基、エチル基、ブチル基、イソブチル基、
プロピル基またはイソプロピル基より選択されることが望ましい。
【0017】
上記構成単位(I)は、例えば以下の化合物に由来する構成単位である;ポリアルキレングリコールモノアリルエーテル、ポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテル、メトキシポリアルキレングリコールモノアリルエーテル、メトキシポリアルキレングリコールモノアルケニルエーテルなどの(アルコキシ)ポリアルキレングリコールと炭素原子数3〜8のアルケニルエーテルより形成されるアルケニルエーテル類、不飽和脂肪族アルコールアルキレンオキサイド付加物である不飽和脂肪族エーテル類。これらのうち、最も好ましい化合物の具体例は、3−メチル−3−ブテン−1−オール、3−メチル−2−ブテン−1−オール、2−メチル−3−ブテン−2−オール、アリルアルコール、オレイルアルコール等の不飽和アルコールのアルキレンオキサイド付加物である。
上記構成単位(I)はこれら化合物のうち単独あるいは複数の組合せに由来する構成単位であってよい。
【0018】
本発明のポリカルボン酸系重合体を構成する構成単位(II)は下記式で表される。
【化5】

(式中、R5、R6、R7、R8はそれぞれ独立して水素原子又は炭素原子数1乃至22の炭化水素基、−COOH、−COOM、−COOYを表すか、あるいはR5とR6、若しくはR7とR8は一緒になって酸無水物を形成する。Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、アルカノールアミンを表し、Yは炭素原子数1乃至22の炭化水素基または−(AO)c−R9を表し、AOは炭素原子数2乃至4のアルキレンオキサイド基を表し
、cはアルキレンオキサイドの平均付加モル数で1乃至200の数を表し、R9は水素原
子又は炭素原子数1乃至22の炭化水素基を表す。)
【0019】
上記構成単位(II)は、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸などに由来する構成単位であり、最良の性能を発現するためにはフマル酸を相当な割合で、例えば重合体の総質量に対して10質量%以上含有する。
上記構成単位(II)において酸(−COOH)及び/または酸塩(−COOM)が含まれる場合、これらは酸の形態でも中和された形態でも良いが、部分中和又は完全中和された形態が製品形態として好ましい。
【0020】
また上記構成単位(II)において酸誘導体(−COOY)が含まれる場合、Yは具体的には炭素原子数1乃至22の部分エステル又は全エステル、ポリアルキレンオキサイド付加物の部分エステル又は全エステル、(アルコキシ)ポリアルキレングリコールの部分エステル又は全エステルなどが挙げられる。より具体的には、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の(アルコキシ)ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート類、メトキシポリエチレングリコールモノマレート、メトキシポリエチレングリコールジマレート、ポリエチレングリコールモノマレート、ポリエチレングリコールジマレート等の(アルコキシ)ポリアルキレングリコールマレート類、メトキシポリエチレングリコールモノフマレート、メトキシポリエチレングリコールジフマレート、ポリエチレングリコールモノフマレート、ポリエチレングリコールジフマレート等の(アルコキシ)ポリアルキレングリコールフマレート類が挙げられる。アルキレンオキサイドは単独付加又は混合付加することができ、二種以上のアルキレンオキサイドを用いる場合にはブロック付加、ランダム付加何れの形態であっても良い。フマル酸誘導体の具体例としてはメトキシポリエチレングリコールジフマレートを挙げることができる。
上記構成単位(II)において、フマル酸及び/又はフマル酸誘導体に由来する構成単位を含む場合には、全構成単位(II)の全質量において、好ましくは10乃至100質量%、更に好ましくは20乃至100質量%、特に好ましくは30乃至100質量%、最も好ましくは50乃至100質量%の割合で含むことが望ましい。
本発明のポリカルボン酸系重合体は、最も好ましくは、ポリアルキレンオキサイド鎖が、平均付加モル数50以上のエチレンオキサイド鎖の末端に、プロピレンオキサイド又はブチレンオキサイドが結合してなるポリアルキレンオキサイド鎖(該プロピレンオキサイド又はブチレンオキサイドは該アルキレンオキサイド鎖の全モル数に対して0.1乃至20mol%の割合で含有する)を有する不飽和アルコールアルキレンオキサイド系化合物に由来する構成単位(I)と、フマル酸由来の構成単位を相当な割合(重合体の総質量に対して10質量%以上)で含む構成単位(II)からなることが望ましい。
【0021】
[構成単位(III)]
また本発明のポリカルボン酸系重合体は、上記構成単位(I)及び(II)に加えポリアミドポリアミン及び/又はポリアミドポリアミン変性物に由来する構成単位(III)を含有してなる。
構成単位(III)は下記式で表される。
【化6】

(式中、Zは二塩基酸とポリアルキレンポリアミンを縮合させたポリアミドポリアミン及び/又は該ポリアミドポリアミンの活性イミノ基、アミノ基、アミド残基1当量に対して炭素原子数2乃至4のアルキレンオキサイドを0.1乃至10モル付加させたポリアミドポリアミン変性物がアミド結合を介して主鎖の炭素原子と結合する基を表す。)
【0022】
上記構成単位(III)中、Zを構成する上記二塩基酸としては総炭素原子数が2乃至10の脂肪族飽和二塩基酸、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等が挙げられ、ポリアルキレンポリアミンとしてはエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、あるいはエチレン単位と窒素原子を多く含む混合体である高分子ポリエチレンポリアミンの混合物等を挙げることができる。
【0023】
上記構成単位(III)は、これら二塩基酸とポリアルキレンポリアミンの縮合物であるポリアミドポリアミン及び/又は、該ポリアミドポリアミンの活性イミノ基、アミノ基、アミド残基1当量に対して、炭素原子数2乃至4のアルキレンオキサイドを0.1乃至10モル付加させたポリアミドポリアミン変性物が、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸とアミド結合を介し、結合してなる構成単位である。
これらポリアミドポリアミン又はポリアルキレンオキサイド変性ポリアミドポリアミンは水溶液で塩基性を示す性質を有するものもある為、ポリカルボン酸系重合体の中和剤として作用することもある。
【0024】
[各構成単位の構成割合]
上述の構成単位(I)及び構成単位(II)からなるポリカルボン酸系重合体において、それらの構成割合は構成単位(I):構成単位(II)=95乃至60質量%:5乃40質量%、好ましくは構成単位(I):構成単位(II)=90乃至70質量%:10乃至30質量%、より好ましくは構成単位(I):構成単位(II)=90乃至80質量%:10乃至20質量%の範囲にあることが望ましい。また、構成単位(I)乃至構成単位(III)からなるポリカルボン酸系重合体においては、構成単位(I):構成単位(II):構成単位(III)=90乃至50質量%:8乃至40質量%:2乃至10質量%、好ましくは構成単位(I):構成単位(II):構成単位(III)=90乃至60質量%:8乃至30質量%:2乃至7質量の範囲にあることが望ましい。(但し、構成単位(I)及び構成単位(II)、又は、構成単位(I)乃至構成単位(III)の合計は何れも100質量%である。)
【0025】
[その他含有し得る構成単位(IV)]
上述のポリカルボン酸系重合体において、これら構成単位(I)乃至(III)以外に、構成単位(IV)を含有することができる。
上記その他含有しうる構成単位(IV)の由来となる化合物としては、(メタ)アクリル酸(塩)、(メタ)アクリル酸ポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル、(メ
タ)アリルスルホン酸(塩)、スチレンスルホン酸(塩)、(メタ)アクリル酸アルキル、スチレン、(メタ)アクリルアミド等の化合物であり、上記構成単位(I)乃至(III)と重合体を形成可能な化合物であればその種類は特に限定されない。
例えば、上記ポリカルボン酸系重合体を水硬性組成物等に添加する際に分散性を改良するためにアルカリ加水分解性の化合物に由来する構成単位を組み込むことは、特許第3780465号公報等との組合せで容易に想到できる手段の一つである。
上記構成単位(IV)の構成割合は、前記ポリカルボン酸系重合体等(構成単位(I)乃至(III)):構成単位(IV)=100乃至70質量%:0乃至30質量%の範囲(但し合計100質量%)の範囲にあることが好ましい。
【0026】
[ポリアミドポリアミン及び/またはポリアミドポリアミン変性物]
本発明のポリカルボン酸系重合体組成物は、上記ポリカルボン酸系重合体に加え、二塩基酸とポリアルキレンポリアミンを縮合させたポリアミドポリアミン及び/又は該ポリアミドポリアミンの活性イミノ基、アミノ基、アミド残基1当量に対して炭素原子数2乃至4のアルキレンオキサイドを0.1乃至10モル付加させたポリアミドポリアミン変性物を含有することができる
これらポリアミドポリアミン及び/またはポリアミドポリアミン変性物の含有比率は、上記ポリカルボン酸系重合体:ポリアミドポリアミン及び/またはポリアミドポリアミン変性物=98乃至90質量%:2乃至10質量%の範囲にあることが好ましい。
【0027】
上記ポリアミドポリアミンを構成するポリアルキレンポリアミンとしては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ヘキサエチレンヘプタミン、あるいはエチレン単位と窒素原子を多く含む混合体である高分子ポリエチレンポリアミンの混合物等や、ポリエチレンイミン、ポリプロピレンイミン、ポリ−3−メチルプロピルイミン、ポリ−2−エチルプロピルイミン等の環状イミンの重合体、ポリビニルアミン、ポリアリルアミンの如き不飽和アミンの重合体等が挙げられる。更にポリアルキレンポリアミンは、エチレンイミン、プロピレンイミン、3−メチルプロピルイミン、2−エチルプロピルイミン等の環状イミン、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルフタルイミド等の不飽和アミド、不飽和イミドと、これらと共重合可能な不飽和化合物との共重合体であってもよい。環状イミン、不飽和アミド、不飽和イミド等と共重合可能な不飽和化合物としては、例えばジメチルアクリルアミド、スチレン、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸やこれらの塩、エチレンスルフィドやプロピレンスルフィド等の環状スルフィド化合物、オキセタン、モノ又はビスアルキルオキセタン、モノ又はビスアルキルクロロメチルオキセタン、テトラヒドロフラン、モノ又はビスアルキルテトラフロロフラン等の環状エーテル類、1,2−ジオキソフラン、トリオキソフラン等の環状ホルマール類、N−メチルエチレンイミン等のN置換アルキルイミン等が挙げられる。
【0028】
上記ポリアミドポリアミンを構成する二塩基酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等の総炭素原子数が2乃至10の脂肪族飽和二塩基酸が挙げられる。
二塩基酸としてその誘導体も使用可能であり、例えば二塩基酸無水物(例えば上記二塩基酸の無水物)、二塩基酸エステル(例えば上記二塩基酸のモノメチルエステル、モノエチルエステル、モノブチルエステル、モノプロピルエステル、ジメチルエステル、ジエチルエステル、ジブチルエステル、ジプロピルエステル等)、又は二塩基酸ジハライド(前記二塩基酸の二塩化物、二臭素化物、二ヨウ化物等)を挙げることができる。
【0029】
また上記ポリアミドポリアミン変性物とは、上記ポリアミドポリアミンの活性イミノ基、アミノ基、アミド残基1当量に対し炭素原子数2乃至4のアルキレンオキサイドを0.
1乃至10モル付加せしめた化合物を示す。すなわち、このアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等が挙げられ、これらは単独もしくは混合して用いることができ、2種以上のアルキレンオキサイドを用いる場合にはブロック状に重合していてもランダムに重合していても良い。
【0030】
[各構成単位及びポリカルボン酸系重合体の製造方法]
本発明のポリカルボン酸系重合体を得るにあたり、構成単位(I)の由来となる不飽和アルコールアルキレンオキサイド付加物の製造方法、及びポリカルボン酸系重合体を得る重合方法は特に限定されない。
ただし、上記不飽和アルコールアルキレンオキサイド付加物製造時のアルキレンオキサイド付加反応においては、重合活性基(不飽和基)がその重合活性を失わない、重合活性基の位置を転移させない、及び、副生するジオール分を低減することなどに留意して製造される必要がある。なお、これら重合活性基を有するアルコールのポリアルキレンオキサイド付加物は、製造後に精製過程の有無に係わらず重合用原料とし使用することができる。
ポリカルボン酸系重合体の製造方法に於いては、溶剤重合、水溶液重合、連続式、バッチ式の何れの方法においても同様の重合物を得ることができるが、一般的に水溶液重合で行われることが多い。
【0031】
構成単位(III)の製造方法は、通常のアマイド化法に従い、二塩基酸とポリアミドポリアミンを縮合させ、更にマレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸とのアマイド基を形成し、必要に応じアルキレンオキサイドを付加する方法、二塩基酸とポリアミドポリアミンとの縮合物或いはアルキレンオキサイドを付加したアルキレンオキサイド変性ポリアミドポリアミンを形成させポリカルボン酸系重合体にグラフト化させる方法、ポリアミドポリアミンを形成後ポリカルボン酸系重合体にグラフト化させたポリマー水溶液にアルキレンオキサイドを付加する方法等を挙げることができる。
【0032】
最終的に得られる本発明のポリカルボン酸系重合体は、重量平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(以下「GPC法」と呼ぶ)、ポリエチレングリコール換算)で10,000〜500,000の範囲が適当であり、より好ましくは、重量平均分子量が10,000〜100,000の範囲であることが、優れた分散性能を発現するため望ましい。また水溶液重合においてラジカル重合開始剤等の種類及び/又は使用量を調整することにより、分子量を制御することが可能であるが、連鎖移動剤等を併用すれば分子量分布の制御を行うことも可能である。
なお本発明において、「ポリカルボン酸系重合体」とは、重合体のみからなるものでもよいが、一般に、各々の重合工程、アルキレンオキサイド付加工程等で発生した未反応成分、副反応物も含めた成分も包含されている。
【0033】
[ポリカルボン酸系重合体の用途]
本発明のポリカルボン酸系重合体及び重合体組成物は、各種用途に応じ酸基の中和率の調整やポリアミドポリアミンの含有量の調整等を行うことによって、各種固形粉体の水性分散液における分散剤として広くその性能を発揮することができる。また、本発明のポリカルボン酸系重合体は、そのまま(何も添加することなく)上述の分散剤として用いることができ、また、各種用途に応じて、公知公用の添加剤を適宜採用して組合せた混和剤の形態にて用いることもできる。
【0034】
本発明のポリカルボン酸系重合体の用途の具体例としては、無機化合物の分散技術を利用して、無機分散剤、顔料分散剤、整髪剤、化粧品基材・添加剤、塗料、顔料塗工用添加剤、歩留向上剤、濾水性向上剤、掘削土処理剤、粘度調節剤、セラミックバインダー、農薬用添加剤、水硬性組成物用添加剤などがあり、同様に無機材料用途として凝集剤、補修
剤、汚泥処理剤、鉱石用造粒助剤などにも好適に用いられる。またピッチ分散剤、紙力増強剤、顔料塗工用バインダー、抄紙用分散剤、脱墨剤、洗剤添加剤、粉末洗剤用ビルダー、液体洗剤用ビルダーにも好適に使用される。
その他、本発明のポリカルボン酸系重合体の界面活性作用を利用して、帯電防止剤、フィルム・繊維用潤滑剤、保水剤、繊維処理剤、染色改良剤、繊維柔軟剤、界面活性剤、乳化剤、解乳化剤、気泡調整剤、スケール防止剤等にも使用でき、幅広い用途へ好適に使用できる。
【0035】
上記用途の一例として水硬性組成物用添加剤を挙げると、詳細には、例えば各種コンクリート製品用添加剤、グラウト用添加剤、コンクリート補修材料用添加剤、石膏ボード用添加剤、水硬性セルフレベリング用添加剤、セメント石膏複合材料用添加剤に用いることができる。
そして、本発明のポリカルボン酸系重合体を石膏ボード用添加剤として使用する場合、公知の添加剤を添加し、石膏用分散剤組成物と為すことができる。上記添加剤としては、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩等の泡剤類、また整泡剤、消泡剤類、撥水剤、接着剤等を挙げることができる。これらは一種を単独で用いても、二種以上を併用してもよい。
上記石膏ボード用添加剤は、原料石膏に対し0.01乃至5質量%(添加剤固形分質量比)を添加し使用されうる。上記石膏ボード用添加剤の添加方法は種々あるが石膏と練り混ぜる前の水に希釈し添加して石膏スラリーを作製する方法が一般的である。石膏は無水石膏、半水石膏、二水石膏などがある。
また、上記石膏ボード用添加剤と共に使用される添加剤としては汎用減水剤、泡剤、消泡剤、整泡剤、硬化調整剤などがあり、更に強化繊維としてガラス繊維、炭素繊維、古紙、バージンパルプ等を添加する、或いは、軽量骨材であるパーライト、発泡スチール等とともに石膏ボードを作製することも行なわれる。
【0036】
本発明のポリカルボン酸系重合体及び重合体組成物は、上述の用途の中でも特に好適である水硬性組成物用分散剤、石膏用添加剤、コンクリート外装板用添加剤、軽量コンクリート用減水剤と為すことができる。
また、各種用途に応じて、公知公用の添加剤を適宜採用して組合せた混和剤の形態にて用いることもできる。
【0037】
本発明者らは数多くの重合体の研究を重ねた結果、特定のアルキレンオキサイドを特定の位置及び割合で付加させた不飽和アルコールアルキレンオキサイド付加物からなる構成単位及び不飽和カルボン酸からなる構成単位を含みて構成されたポリカルボン酸系重合体、およびこのポリカルボン酸系重合体とポリアミドポリアミン及び/またはポリアルキレンオキサイド変性ポリアミンを構成単位に含んだポリカルボン酸系重合体が、他の類似化合物よりも優れた分散性を奏することを見出すにいたった。
如何にして上述の優れた効果が得られるのかは未だ解明に至っていないが、上記不飽和アルコールアルキレンオキサイド付加物において、付加させるアルキレンオキサイドとしてエチレンオキサイドとプロピレンオキサイド又はブチレンオキサイドの2種を用いたこと、該アルキレンオキサイド鎖の末端にプロピレンオキサイド又はブチレンオキサイドを一定量配置させたこと、そして、該アルキレンオキサイド鎖の鎖長が長く、ポリカルボン酸系重合体が櫛型重合体の構造を有していることなどにより、各種固形粉体の水性分散液に適用した場合、粉体粒子の捕集、分散能が向上したものとみている。
さらには、上記不飽和カルボン酸においてフマル酸及び/又はフマル酸誘導体を用いたことにより、ポリマー中の酸基の配列状態の変化が起こって、各種固形粉体の水性分散液の分散性能の改善効果につながったのとみている。ただし、上記以外にも様々な機構が存在し、たとえばフマル酸系化合物の使用により、ポリカルボン酸系重合体の重合率が増加したことによる未反応モノマーの減少や、該重合体の分子量制御が容易になったことなど
もあわせ、これらによる相乗効果によって分散性能の改善効果につながったものとみている。
【実施例】
【0038】
次に実施例に基づいて本発明をより詳しく説明する。本発明は前記製造方法により得られるものであり、この実施例に限定されるものではない。
なお、特に記載のない限り、以下に記す%及び部は質量%及び質量部を表す。
【0039】
[製造例A1(EO付加ポリアミドポリアミンの製造)]
窒素導入管、温度計、コンデンサー付き検水管を備えた攪拌機付き反応容器にポリアルキレンポリアミン(東ソー(株)製 品名:ポリエイト)199g及びアジピン酸68g
を仕込み、窒素を導入しながら攪拌し、次いで温度を160℃になるまで昇温した。反応を8時間継続し、酸価が10となった時点で反応を終了した。反応脱水量は17gであった。次いで水245gを加えて水溶液として60℃まで冷却後、エチレンオキサイド89gを同温度で4時間かけて付加させ、その後1時間の熟成を行いEO付加ポリアミドポリアミンA1の水溶液584g(固形分濃度:58%)を得た。
【0040】
[製造例A2(ポリアミドポリアミンの製造)]
窒素導入管、温度計、コンデンサー付き検水管を備えた攪拌機付き反応容器にポリアルキレンポリアミン(東ソー(株)製 品名:ポリエイト)199g及びアジピン酸68g
を仕込み、窒素を導入しながら攪拌し、次いで温度を160℃になるまで昇温した。反応を8時間継続し、酸価が10となった時点で反応を終了した。反応脱水量は17gであった。次いで水250gを加えて水溶液として60℃まで冷却し、ポリアミドポリアミンA2の水溶液500g(固形分濃度:50%)を得た。
【0041】
[製造例B1(ポリカルボン酸系重合体の製造)]
窒素導入管、攪拌機、温度計付きステンレス製オートクレーブに3−メチル−3−ブテン−1−オール50EO2PO付加物402g(ブロック付加物)、イオン交換水286g、無水マレイン酸6.62g、フマル酸59.6gを攪拌しながら仕込んだ。充分に窒素置換を行い、60℃まで昇温させた後、過硫酸ナトリウム14%水溶液22.2gを仕込み、同温度を維持しながら6時間反応させた。反応終了後80℃まで昇温し、1時間攪拌を継続した。次いでポリアミドポリアミンA1水溶液26.7g、イオン交換水170gを添加し、更に1時間攪拌した。重合液を50℃まで冷却し、48%苛性ソーダ水溶液25.0gを用いて中和し、ポリカルボン酸系重合体B1の水溶液998g(固形分濃度:50%、重量平均分子量:26,000)を得た。
【0042】
[製造例B2(ポリカルボン酸系重合体の製造)]
窒素導入管、攪拌機、温度計付きステンレス製オートクレーブに3−メチル−3−ブテン−1−オール50EO2PO付加物402g(ブロック付加物)、イオン交換水286g、無水マレイン酸33.1g、フマル酸33.1gを攪拌しながら仕込んだ。充分に窒素置換を行い、60℃まで昇温させた後、過硫酸ナトリウム14%水溶液22.2gを仕込み、同温度を維持しながら6時間反応させた。反応終了後80℃まで昇温し、1時間攪拌を継続した。次いでポリアミドポリアミンA1水溶液26.7g、イオン交換水170gを添加し、更に1時間攪拌した。重合液を50℃まで冷却し、48%苛性ソーダ水溶液25.0gを用いて中和し、ポリカルボン酸系重合体B2の水溶液998g(固形分濃度:50%、重量平均分子量:29,000)を得た。
【0043】
[製造例B3(ポリカルボン酸系重合体の製造)]
窒素導入管、攪拌機、温度計付きステンレス製オートクレーブに3−メチル−3−ブテン−1−オール50EO5PO付加物402g(ブロック付加物)、イオン交換水286
g、無水マレイン酸6.62g、フマル酸59.6gを攪拌しながら仕込んだ。充分に窒素置換を行い、60℃まで昇温させた後、過硫酸ナトリウム14%水溶液22.2gを仕込み、同温度を維持しながら6時間反応させた。反応終了後80℃まで昇温し、1時間攪拌を継続した。次いでポリアミドポリアミンA2水溶液30.4g、イオン交換水166gを添加し、更に1時間攪拌した。重合液を50℃まで冷却し、48%苛性ソーダ水溶液25.0gを用いて中和し、ポリカルボン酸系重合体B3の水溶液998g(固形分濃度:50%、重量平均分子量:31,000)を得た。
【0044】
[製造例B4(ポリカルボン酸系重合体の製造)]
窒素導入管、攪拌機、温度計付きステンレス製オートクレーブに3−メチル−3−ブテン−1−オール50EO2PO付加物402g(ブロック付加物)、イオン交換水286g、無水マレイン酸59.6g、フマル酸6.62gを攪拌しながら仕込む。充分に窒素置換を行い、60℃まで昇温させた後、過硫酸ナトリウム14%水溶液22.2gを仕込み、同温度を維持しながら6時間反応させた。反応終了後80℃まで昇温し、1時間攪拌を継続した。次いでポリアミドポリアミンA1水溶液26.7g、イオン交換水170gを添加し、更に1時間攪拌した。重合液を50℃まで冷却し、48%苛性ソーダ水溶液25.0gを用いて中和し、ポリカルボン酸系重合体B4の水溶液998g(固形分濃度:50%、重量平均分子量:30,000)を得た。
【0045】
[製造例B5(ポリカルボン酸系重合体の製造)]
窒素導入管、攪拌機、温度計付きステンレス製オートクレーブに3−メチル−3−ブテン−1−オール50EO0.5PO付加物402g(ブロック付加物)、イオン交換水286g、無水マレイン酸33.1g、フマル酸33.1gを攪拌しながら仕込んだ。充分に窒素置換を行い、60℃まで昇温させた後、過硫酸ナトリウム14%水溶液22.2gを仕込み、同温度を維持しながら6時間反応させた。反応終了後80℃まで昇温、し1時間攪拌を継続した。次いでポリアミドポリアミンA2水溶液30.4g、イオン交換水166gを添加し、更に1時間攪拌した。重合液を50℃まで冷却し、その後エチレンオキサイドの4gを重合液に対し付加し、同温度で1時間熟成後、48%苛性ソーダ水溶液25.0gを用いて中和し、ポリカルボン酸系重合体B5の水溶液1,002g(固形分濃度:50%、重量平均分子量:29,000)を得た。
【0046】
[製造例B6(ポリカルボン酸系重合体の製造)]
窒素導入管、攪拌機、温度計付きステンレス製オートクレーブに3−メチル−3−ブテン−1−オール50EO2PO付加物402g(ブロック付加物)、イオン交換水286g、フマル酸6.62、無水マレイン酸59.6gを攪拌しながら仕込んだ。充分に窒素置換を行い、60℃まで昇温させた後、過硫酸ナトリウム14%水溶液22.2gを仕込み、同温度を維持しながら6時間反応させた。反応終了後80℃まで昇温し、1時間攪拌を継続した。50℃まで冷却後、48%苛性ソーダ水溶液25.0g、イオン交換水164gを添加し、更に1時間攪拌した。ポリカルボン酸系重合体B6の水溶液965g(濃度50%、重量平均分子量:37,000)を得た。
【0047】
[製造例B7(ポリカルボン酸系重合体の製造)]
窒素導入管、攪拌機、温度計付きステンレス製オートクレーブに3−メチル−3−ブテン−1−オール50EO2PO付加物402g(ブロック付加物)、イオン交換水286g、無水マレイン酸6.62g、フマル酸59.6gを攪拌しながら仕込んだ。充分に窒素置換を行い、60℃まで昇温させた後、過硫酸ナトリウム14%水溶液22.2gを仕込み、同温度を維持しながら6時間反応させた。反応終了後80℃まで昇温し、1時間攪拌を継続した。50℃まで冷却し、48%苛性ソーダ水溶液25.0g、イオン交換水164gを添加し、更に1時間攪拌した。ポリカルボン酸系重合体B7の水溶液965g(固形分濃度:50%、重量平均分子量:24,000)を得た。
【0048】
[製造例C1(ポリカルボン酸系重合体の製造)]
窒素導入管、攪拌機、温度計付きステンレス製オートクレーブに3−メチル−3−ブテン−1−オール2PO50EO付加物402g(ブロック付加物)、イオン交換水286g、無水マレイン酸66.2gを攪拌しながら仕込んだ。充分に窒素置換を行い、60℃まで昇温させた後、過硫酸ナトリウム14%水溶液22.2gを仕込み、同温度を維持しながら6時間反応させた。反応終了後80℃まで昇温し、1時間攪拌を継続した。50℃まで冷却後、イオン交換水165g、48%苛性ソーダ水溶液25.0gを添加し、更に1時間攪拌した。で中和して、ポリカルボン酸系重合体C1の水溶液966g(固形分濃度:50%、重量平均分子量:29,000)を得た。
【0049】
[製造例C2(ポリカルボン酸系重合体の製造)
温度計、撹拌機、滴下ロ−ト、窒素導入管、及び還流冷却器付き四つ口フラスコに、水395gを仕込み撹拌しながらフラスコ内を窒素置換し、窒素雰囲気中で80℃まで加熱した。次いでメトキシポリエチレングリコ−ルメタクリレ−ト(エチレンオキサイド平均
付加モル数5モル)250g、メタクリル酸62.5gの混合物とチオグリコ−ル酸10
%水溶液9.4g、過硫酸ソーダ10%液9.4gを120分要し滴下した後、同温度で4時間撹拌を行い、重合反応を完結させた。反応液を50℃まで冷却した後、48%苛性ソーダでpH7となるまで中和して、ポリカルボン酸系重合体C2の水溶液837g(固形分濃度:40%、重量平均分子量:26,000)を得た。
【0050】
【表1】

【0051】
[ポリカルボン酸系重合体の性能試験]
<石膏分散性>
上記製造例のポリカルボン酸系重合体B1乃至B7並びにC1及びC2、さらに比較例3としてメラミンスルホン酸ソーダホルマリン縮合物(MSFF)を固形分基準で必要量正秤し、水を加え総量で65gになるように練り水を調整した。これに桜印焼石膏A級(吉野石膏(株)製)100gを加え(水石膏比65%)、小型ジューサーミキサーで20秒間練り混ぜを行った。ウレタン製ボード(35cm×35cm)中央にφ50mm×H50mm円筒形中空筒を事前に準備し、練り混ぜを行った石膏スラリーを容器が一杯になるまで流し込んだ。その後中空筒をウレタンボードと垂直な方向に引き上げ、石膏スラリーの広がりを測定した。広がりの最大とみられる径とそれと垂直な径を測定し、その平均
値を分散性の指標とした。
【0052】
<石膏硬化遅延性>
分散性試験と同様に、ポリカルボン酸系重合体B1乃至B7、C1及びC2、並びにメラミンスルホン酸ソーダホルマリン縮合物(MSFF)を固形分基準で必要量正秤し、練り水を添加し合計で162gになるように調整した。これに桜印焼石膏A級(吉野石膏(株)製)250gを加え(水石膏比65%)、小型ジューサーミキサーで10秒間練り混ぜを行った。練り混ぜ後、出来上がった石膏スラリーを直ちに紙コップに移し変え、ここにデジタル温度計を差し込み、石膏の硬化に伴う発熱温度を1分単位で測定し、最大温度に到達した時間を、昇温ピーク時間とし、硬化遅延性の指標とした。
以上、得られた結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に示した実施例1乃至7の結果より、本発明のポリカルボン酸系重合体を石膏スラリーに添加した場合、比較例と比べて優れた分散性を示した。また、硬化遅延性に関しても、比較例と比べて良好な結果が得られた。
一方、アルキレンオキサイド鎖末端にPO基がブロック付加していない比較例1は分散性、硬化遅延性いずれも実施例と比較して劣るとする結果となり、また、従来のポリカルボン酸系重合体に相当する比較例2は、分散性においては比較的優れた結果を示したものの、硬化遅延を生ずるとする結果が得られた。
さらに、ホルムアルデヒドを含む従来の分散剤に相当する比較例3は、硬化は早いものの、分散性が劣るとする結果が得られた。
【0055】
<石膏着色性>
前述の製造例のポリカルボン酸系重合体B1、B6及びB7並びに比較例4として(メタ)アクリル酸−メトPEG(メタ)アクリレート系重合物(PC)及び比較例5としてナフタレンスルホン酸ソーダ(NSF)を固形分基準で必要量正秤し、水を加え総量で165gになるように練り水を調整した。これに桜印焼石膏A級(吉野石膏(株)製)300gを加え(水石膏比55%)、小型ジューサーミキサーで30秒間練り混ぜを行った。
出来上がった石膏スラリーをアルミカップ(直径54mm、深さ23mm)に流し入れ、80℃で24時間放置した。24時間後の固化した石膏塊表面の色を目視にて確認し、着色性を評価した。
得られた結果を表3に示す。
【0056】
【表3】

【0057】
表3に示した実施例8乃至10の結果より、本発明のポリカルボン酸系重合体を石膏スラリーに添加し硬化させたとき、0.4%添加の場合には添加剤なしの場合と同等の白色を示し、0.8%添加の場合も僅かに着色したものがあったものの、比較例4及び5と比べて明らかに非着色性に優れるとする結果が得られた。
従って本発明のポリカルボン酸系重合体は、石膏地肌が露出される石膏製品(強化ボード、陶芸用石膏等)の作製に用いた場合において、着色による製品価値の下落を防ぐという付随効果をも有する。
【0058】
<コンクリート外装板用添加剤としての押出成形性>
前述の製造例のポリカルボン酸系重合体B1、B3及びB5並びにナフタレンスルホン酸ソーダ(NSF)を用い、下記表4に示す配合にて、コンクリート外装板用添加剤として押出成形性試験を行った。
コンクリート外装板用練混物の練混ぜはホバートミキサを使用し、セメント、ケイ砂、パルプ、メチルセルロースに、各々のポリカルボン酸系重合体またはナフタレンスルホン酸ソーダを予め加え調製した水を加えて、180秒間練混ぜた。
その後、押出しにより成形板(幅100mm、厚さ15mm)を作製し、このときの押出速度より押出成形板としての押出成形性を評価した。
得られた結果を表5に示す。
【0059】
【表4】

【0060】
【表5】

【0061】
表5に示した実施例11乃至13の結果より明らかなように、本発明のポリカルボン酸系重合体を用いた場合、NSF(ナフタレンスルホン酸ソーダ)を用いた場合と比べて押出速度が約2倍程度速くなり、すなわち、押出成形性が向上するという結果が得られた。
【0062】
<軽量コンクリート(ALC)用減水剤としての硬化性及び気泡抱き込み性>
前述の製造例のポリカルボン酸系重合体B1、B3及びB5、並びに(メタ)アクリル酸−メトPEG(メタ)アクリレート系重合物(PC)及びナフタレンスルホン酸ソーダ(NSF)を用い、下記表6に示す配合にて、モルタルスラリーの硬化性及び気泡抱き込み性を評価した。
モルタルスラリーは簡易な撹拌羽根を備え付けた混合機を使用し、セメント、珪石、生石灰、石膏、アルミニウムに、各々のポリカルボン酸系重合体、PC又はNSFを予め加え調製した水を加えて、180秒間練混ぜた。
その後、幅600mm、長さ600mm、高さ600mmの型枠に流し込み、所定時間(90分)後に脱型可能であるか評価した。その後、硬化したモルタル断面をピアノ線にて切断し、気泡の抱き込み性を目視にて評価した。
得られた結果を表7に示す。
【0063】
【表6】

【0064】
【表7】

【0065】
表7に示した実施例14乃至16の結果より、本発明のポリカルボン酸系重合体を用いた場合、所定時間内に硬化して脱型可能であり、また、気泡の抱き込みが起こらないとする試験結果が得られた。
すなわち、本発明のポリカルボン酸系重合体は、硬化性及び気泡抱き込み性のいずれをも満足することから、ALC用減水剤として有用であることがわかった。
【0066】
一方、汎用のポリカルボン酸系重合物を配合した比較例7においては硬化遅延により所定時間内での脱型が行えず、また、ナフタレンスルホン酸ソーダを配合した比較例8にお
いては硬化性には優れるものの、減水性が低いことから粘度が大きくなり、粗大気泡が抜けないとする結果となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0067】
【特許文献1】特開昭62−68806号公報
【特許文献2】特開平11−314953号公報
【特許文献3】特開2003−192722号公報
【特許文献4】特開2005−46781号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和アルコールアルキレンオキサイド系化合物に由来する構成単位並びに不飽和カルボン酸系化合物に由来する構成単位を含みて構成されるポリカルボン酸系重合体において、該重合体の主鎖骨格に結合するグラフト鎖は主としてエチレンオキサイドから構成されるポリアルキレンオキサイド鎖を含み、さらに該ポリアルキレンオキサイド鎖の末端部は、該グラフト鎖のアルキレンオキサイドの全モル量に対して0.5乃至5mol%の割合で炭素原子数3又は4のアルキレンオキサイドを有していることを特徴とする、ポリカルボン酸系重合体。
【請求項2】
前記不飽和カルボン酸系化合物に由来する構成単位の一部又は全部がフマル酸及び/またはその誘導体に由来する構成単位であることを特徴とする、請求項1記載のポリカルボン酸系重合体。
【請求項3】
前記ポリカルボン酸系重合体が、下記の式(I)で示される構成単位(I)及び式(II)で示される構成単位(II)を含みて構成され、該構成単位(I)におけるポリアルキレンオキサイド鎖の末端部が、炭素原子数3又は4のアルキレンオキサイドを、該アルキレンオキサイド鎖の全モル量に対して0.5乃至5mol%の割合で有することを特徴とする、請求項1又は請求項2記載のポリカルボン酸系重合体。
【化1】

(式中、R1、R2、R3、R4はそれぞれ独立して水素原子又は炭素原子数1乃至22の炭化水素基を表し、Xは―(CH2)bO―を表し、AOは炭素原子数2乃至4のアルキレ
ンオキサイド基を表す。aはアルキレンオキサイドの平均付加モル数で1乃至200の数を表し、bは1乃至20の整数を表す。)
【化2】

(式中、R5、R6、R7、R8はそれぞれ独立して水素原子又は炭素原子数1乃至22の炭化水素基、−COOH、−COOM、−COOYを表すか、あるいはR5とR6、若しくはR7とR8は一緒になって酸無水物を形成する。Mはアルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、アルカノールアミンを表し、Yは炭素原子数1乃至22の炭化水素基または−(AO)c−R9を表し、AOは炭素原子数2乃至4のアルキレンオキサイド基を表し
、cはアルキレンオキサイドの平均付加モル数で1乃至200の数を表し、R9は水素原
子又は炭素原子数1乃至22の炭化水素基を表す。)
【請求項4】
前記ポリカルボン酸系重合体が、前記構成単位(I)及び構成単位(II)に加え、更に下記の式(III)で表される構成単位(III)を含みて構成されることを特徴とする、請求項3に記載のポリカルボン酸系重合体。
【化3】

(式中、Zは二塩基酸とポリアルキレンポリアミンを縮合させたポリアミドポリアミン及び/又は該ポリアミドポリアミンの活性イミノ基、アミノ基、アミド残基1当量に対して炭素原子数2乃至4のアルキレンオキサイドを0.1乃至10モル付加させたポリアミドポリアミン変性物が、アミド結合を介して主鎖の炭素原子と結合する基を表す。)
【請求項5】
不飽和アルコールアルキレンオキサイド系化合物に由来する構成単位並びに不飽和カルボン酸系化合物に由来する構成単位を含みて構成されるポリカルボン酸系重合体において、該重合体の主鎖骨格に結合するグラフト鎖は主としてエチレンオキサイドから構成されるポリアルキレンオキサイド鎖を含み、さらに該ポリアルキレンオキサイド鎖の末端部は、該グラフト鎖のアルキレンオキサイドの全モル量に対して0.1乃至30mol%の割合で炭素原子数3又は4のアルキレンオキサイドを有しており、該不飽和カルボン酸系化合物に由来する構成単位の一部又は全部がフマル酸及び/またはその誘導体に由来する構成単位であることを特徴とする、ポリカルボン酸系重合体。
【請求項6】
請求項1乃至5のうち何れか一項に記載のポリカルボン酸系重合体に加え、二塩基酸とポリアルキレンポリアミンを縮合させたポリアミドポリアミン及び/又は該ポリアミドポリアミンの活性イミノ基、アミノ基、アミド残基1当量に対して炭素原子数2乃至4のアルキレンオキサイドを0.1乃至10モル付加させたポリアミドポリアミン変性物を含有することを特徴とする、ポリカルボン酸系重合体組成物。
【請求項7】
請求項1乃至5のうち何れか一項に記載のポリカルボン酸系重合体又は請求項6記載のポリカルボン酸系重合体組成物を含有する、水硬性組成物用分散剤。
【請求項8】
請求項1乃至5のうち何れか一項に記載のポリカルボン酸系重合体又は請求項6記載のポリカルボン酸系重合体組成物を含有する、石膏用添加剤。
【請求項9】
請求項1乃至5のうち何れか一項に記載のポリカルボン酸系重合体又は請求項6記載のポリカルボン酸系重合体組成物を含有する、軽量コンクリート用減水剤。

【公開番号】特開2012−132017(P2012−132017A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−35494(P2012−35494)
【出願日】平成24年2月21日(2012.2.21)
【分割の表示】特願2008−534393(P2008−534393)の分割
【原出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000221797)東邦化学工業株式会社 (188)
【Fターム(参考)】